説明

積層フィルムの製造方法及び光学フィルム

【課題】
連続で走行する長尺かつ幅広な透明基材フィルムを支持体とした場合、透明基材フィルムと機能層、又は機能層と該機能層に積層される他の機能層との間の密着性を向上させ、より簡略化された設備で行うこと。
【解決手段】 透明基材フィルムを支持体とし、該支持体表面に機能層を設け、さらに該機能層表面に組成の異なる他の機能層を、塗布又は貼り合せによって1種又は2種以上積層する積層フィルムにおいて、積層される機能層表面に大気圧下でのプラズマ処理、次いで大気圧下での紫外線処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基材フィルムと機能層、又は機能層と組成の異なる他の機能層との間の密着性を向上させる積層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明基材フィルムを支持体とし、その表面に機能層を設けたり、該機能層の表面にさらに他の機能層を積層したりすることで作製される、いわゆる光学フィルムの製造において、該支持体に機能層を設ける際、または、機能層に他の機能層を積層する際、互いの組成が大きく異なると、得てして充分な密着性が得られないことが多い。
【0003】
例えば、液晶ディスプレイに代表される各種ディスプレイの表面には、透明基材フィルム上に耐擦傷性機能を有するハードコート層が設けられ、外光の反射によるコントラスト低下や像の映り込みを防止するための反射防止層をハードコート層に積層する。この場合、ハードコート層と反射防止層で組成が大きく異なる場合、充分な密着性が得られない。
【0004】
また、偏光板用の保護フィルムに、ヨウ素や染料を吸着配向させたポリビニルアルコールフィルムを貼り合わせた偏光板の場合、保護フィルムとポリビニルアルコールフィルムとの密着性の向上が問題となる。
【0005】
そのため、従来から積層又は密着させる面を強アルカリ液に浸漬させ、鹸化処理することで表面を親水化させ、密着性を向上させることが図られてきた。例えば、特許文献1のように、三酢酸セルロース上に光学異方性層を積層する際、密着性を改良するために、三酢酸セルロースを鹸化することが効果的であることが知られている。
【0006】
また、密着性を向上させる手法として、コロナ処理面あるいはUVオゾン処理がある。例えば、特許文献2のように、偏光子保護フィルムと偏光子フィルムとの密着性を向上させるために、コロナ処理あるいはUVオゾン処理を施すことが知られている。
【0007】
さらに、特許文献3のように、フッ素樹脂表面を低温プラズマ処理した後、エキシマレーザー光又はArFエキシマレーザー光照射処理に付すことを特徴とする表面改質法が知られている。
【0008】
【特許文献1】特開平8−94838号公報
【特許文献2】特開2002−328224号公報
【特許文献3】特開平6−220228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、アルカリ処理に関しては、廃液等の環境負荷や高濃度のアルカリ溶液を使用することによる安全面での問題がある。また、独立した大型の設備が必要となるため、工程が複雑化するという欠点がある。
【0010】
また、UVオゾン処理あるいはコロナ処理による表面処理は、アルカリ処理のような環境・安全面での問題や工程の複雑化といった問題は比較的少ない。しかしながら、UVオゾン処理に関しては処理時間が遅く、コロナ処理に関しては、高速走行処理は可能だが、効果が弱いという欠点がある。
【0011】
また、低温プラズマ処理した後エキシマレーザー光、又は、ArFエキシマレーザー光照射処理減圧下での処理をする場合、低温プラズマ処理については真空雰囲気下で行うため大きい装置が必要となり、レーザー光による処理は、均一処理が難しい。また、どちらも連続して走行する長尺かつ幅広なフィルムを均一に処理するには不向きである。
【0012】
従って、本発明は、連続で走行する長尺かつ幅広な透明基材フィルムと機能層、又は機能層と該機能層に積層する他の機能層との間の密着性の向上を図ることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記課題を鑑みてなされたものであって、走行する長尺かつ幅広な透明基材フィルムと機能層、又は機能層と組成の異なる他の機能層との間の密着性を向上させるために、より簡略化された設備で、かつ連続して均一な表面改質を高速で行うことを目的とするものである。
【0014】
請求項1記載の発明は、透明基材フィルムを支持体とし、該支持体表面に機能層を設ける積層フィルムの製造方法において、
該支持体表面に大気圧下でのプラズマ処理、次いで大気圧下での紫外線処理を施した後、該支持体表面に機能層を塗布又は貼り合せることを特徴とする積層フィルムの製造方法である。
【0015】
請求項2記載の発明は、透明基材フィルムを支持体とし、該支持体表面に機能層2を設け、さらに該機能層2表面に組成の異なる他の機能層3を、1種又は2種以上積層する積層フィルムの製造方法において、
該機能層2表面に大気圧下でのプラズマ処理、次いで大気圧下での紫外線処理を施した後、該機能層2表面に組成の異なる他の機能層3を、塗布又は貼り合せによって1種又は2種以上積層することを特徴とする積層フィルムの製造方法である。
【0016】
請求項3記載の発明は、前記プラズマ処理において、プラズマ放電によって生じる活性種が持つエネルギーが紫外線の照射エネルギーより大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の積層フィルムの製造方法である。
【0017】
請求項4記載の発明は、前記大気圧下でのプラズマ処理として、グロー放電、コロナ放電を施すことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法である。
【0018】
請求項5記載の発明は、前記大気圧下でのプラズマ処理において、窒素又は不活性ガスのうち1種又は2種以上のガスに、酸素、空気、オゾン、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、過酸化水素のうち1種又は2種以上を添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法である。
【0019】
請求項6記載の発明は、前記大気圧下での紫外線処理として、波長172nmのエキシマ紫外線を照射させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法である。
【0020】
請求項7記載の発明は、前記大気圧下での紫外線処理において、窒素、不活性ガス、酸素、オゾン、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、過酸化水素のうち1種又は2種以上のガスを添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法である。
【0021】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載された積層フィルムの製造方法により製造された光学フィルムである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法を用いることにより、走行する長尺かつ幅広な透明基材フィルムと機能層、又は機能層と組成の異なる他の機能層との間の密着性を、より簡略化された設備で、かつ連続して均一な表面改質を高速で行うことで向上させるという効果を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
走行する長尺かつ幅広な透明基材フィルムと機能層、又は機能層と該機能層に積層される他の機能層との間の密着性を向上させるために、次のような順序で表面処理を行うのがよい。
【0024】
第一にグロー放電又はコロナ放電のようなプラズマ処理を施すのがよい。グロー放電又はコロナ放電により生じたラジカル、イオン、電子などの活性種により、処理面上の洗浄効果とともに、処理表面の主鎖の結合が切断されることで、表面に凹凸を形成することが可能である。
【0025】
より密着性を向上させるために、プラズマガスに酸素、オゾン、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、過酸化水素のうち1種又は2種以上を添加することが望ましい。これにより、結合が切断されると同時に、処理表面の酸素含有率を高め、より多くのヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基などの親水基を導入できる。
【0026】
第二に紫外線処理を施すのがよい。紫外線を照射することにより、大気中の酸素からオゾンが生成し、そのオゾンから分離した酸素ラジカルが処理表面の主鎖に導入される。ここで、紫外線処理の前にプラズマ処理ないしはコロナ処理を施し、処理面の洗浄や処理表面の主鎖の結合が切断されているため、効率的に処理表面の酸素含有率を高めることが可能となる。
【0027】
処理の順序に関しては、第一に高エネルギー処理であるプラズマ処理、第二に高効率で表面分子に酸素を導入できる紫外線処理を施すのがよい。逆に第一に紫外線処理、第二にプラズマ処理を行うと、充分な密着性が得られない場合がある。ここで、プラズマ放電によって生じる活性種の持つエネルギーが紫外線の照射エネルギーより大きい方がよい。表面改質スピードが高速化する効果がある。
【0028】
より効率的に酸素原子を処理表面に導入するために、エキシマ紫外線を用いるとよい。エキシマ紫外線の波長は172nmであり、酸素から効率よく酸素ラジカルを生成するため、効率的に処理表面の酸素含有率を高めることが可能となる。
【0029】
さらに効率よく酸素ラジカルを生成させるために、窒素、不活性ガス、酸素、オゾン、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、過酸化水素のうち1種又は2種以上のガスを入れるとよい。好ましくは、紫外線吸収の少ない窒素と、改質効果の高い酸素を含んだ雰囲気がよい。
【0030】
プラズマ処理及び紫外線処理は大気圧下で行うため、減圧装置が不要であり、設備の簡素化に寄与できる。また、連続処理が可能であるため、長尺かつ幅広なフィルムを処理するのには適している。
【0031】
図1は、光学フィルムの一例を示したものである。
透明基材フィルム1は、アセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系フィルム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
積層される機能層(前記機能層2又は3も含む)は、例えば、高硬度、反射防止、防眩、偏光などの機能を有し、組成としては、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アミド系、ポリビニルアルコール系、エポキシ系、シリコーン系等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、該機能層には、シリカ、二酸化チタン等の微粒子や、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質、フッ素系材料が添加されているものを含んでいてもよい。
【0033】
ここで、透明基材フィルム表面に機能層を積層する方法としては、塗布または貼り合せによる方法が挙げられる。同様に、透明基材フィルム表面に機能層2を設け、さらに該機能層2表面に組成の異なる他の機能層3を積層する方法として、塗布または貼り合せによる方法が挙げられる。
塗布方法は、カーテン塗布、グラビア塗布、スロット塗布、ロッド塗布などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、貼り合せには、必要に応じて接着剤などを介してもよい。
【0034】
光学フィルム4とは、透明基材フィルム1に機能層を1種又は2種以上積層することで、例えば、高硬度、反射防止、防眩、偏光などの機能を発現するフィルムである。
【実施例1】
【0035】
透明基材フィルムに厚さ80μmのトリアセチルセルロースを用い、紫外線硬化型アクリル系樹脂が主成分のハードコート用塗布液を塗布し、70℃で1分間乾燥させた後、紫外線硬化させることで、ハードコート層を形成した。
【0036】
フィルム上に形成したハードコート層表面に、はじめにグロー放電によるプラズマ処理を施し、次いでエキシマ紫外線を照射させた。
【0037】
上記処理を施した後ハードコート層表面に、テトラエトキシシランを主成分とし1.0N−HClを触媒とした低屈折率塗布液を塗布し、120℃で5分間乾燥させることで、反射防止層を形成した。
【0038】
グロー放電によるプラズマ処理は、ADMASTER−350b(株式会社イー・スクエア社製)を用い、大気圧下でプラズマガス(窒素とクリーンドライエア、比率4000:3)を流した。また、フィルムの搬送速度を1.5m/minとした。
【0039】
エキシマ紫外線処理は、UEEX503(岩崎電気株式会社製)を用い、大気中でランプ照射面とフィルムとの距離を3mmに設定した。また、フィルムの搬送速度を1.5m/minとした。
【0040】
<比較例1>
フィルム上に形成したハードコート層表面に、はじめにエキシマ紫外線を照射させ、次いでグロー放電によるプラズマ処理を施した他は、実施例1と同様である。
【0041】
<比較例2>
フィルム上に形成したハードコート層表面に、グロー放電によるプラズマ処理のみを施した他は、実施例1と同様である。
【0042】
<比較例3>
フィルム上に形成したハードコート層表面に、エキシマ紫外線を照射のみを施した他は、実施例1と同様である。
【0043】
<比較例4>
フィルム上に形成したハードコート層表面に、アルカリ処理を施した他は、実施例1と同様である。
【0044】
アルカリ処理は、40℃の1.5N−NaOH溶液にフィルムを5分間浸漬し、その後、水洗し乾燥させた。
【0045】
実施例1、比較例1、比較例2、比較例3及び比較例4で作製した光学フィルムにおける、ハードコート層表面の物性と該ハードコート層と反射防止層との密着性の評価は、以下の方法を用いた。
【0046】
上記処理を施したハードコート層表面について、接触角計(協和界面科学株式会社製)で水滴接触角を測定し、ハードコート表面の親水性を評価した。
【0047】
密着性に関しては、スチールウール(#0000)により、加重250gで10往復擦り、傷のつき方を目視評価した。傷のつき方は、以下の4段階で評価した。◎:傷を確認することが出来ない、○:数本の傷を確認できる、△:十数本の傷を確認できる、×:多数の傷を確認できる。
【0048】
【表1】

【0049】
以上の結果から、機能層を積層する表面に、第一に大気圧下でのプラズマ処理、第二にエキシマ紫外線処理を行うことで、該機能層に積層する他の機能層との密着性が向上することを見出した。また、アルカリ処理と同程度の密着性を得られることから、アルカリ処理のもつ環境負荷や安全面での問題を解消でき、より簡略化された設備でかつ連続して均一な表面改質を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】光学フィルムの一例である。
【符号の説明】
【0051】
1 透明基材フィルム
2 機能層
3 2と組成の異なる機能層
4 光学フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムを支持体とし、該支持体表面に機能層を設ける積層フィルムの製造方法において、
該支持体表面に大気圧下でのプラズマ処理、次いで大気圧下での紫外線処理を施した後、該支持体表面に機能層を塗布又は貼り合せることを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
透明基材フィルムを支持体とし、該支持体表面に機能層2を設け、さらに該機能層2表面に組成の異なる他の機能層3を、1種又は2種以上積層する積層フィルムの製造方法において、
該機能層2表面に大気圧下でのプラズマ処理、次いで大気圧下での紫外線処理を施した後、該機能層2表面に組成の異なる他の機能層3を、塗布又は貼り合せによって1種又は2種以上積層することを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記プラズマ処理において、プラズマ放電によって生じる活性種が持つエネルギーが紫外線の照射エネルギーより大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記大気圧下でのプラズマ処理として、グロー放電、コロナ放電を施すことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記大気圧下でのプラズマ処理において、窒素又は不活性ガスのうち1種又は2種以上のガスに、酸素、空気、オゾン、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、過酸化水素のうち1種又は2種以上を添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記大気圧下での紫外線処理として、波長172nmのエキシマ紫外線を照射させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記大気圧下での紫外線処理において、窒素、不活性ガス、酸素、オゾン、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、過酸化水素のうち1種又は2種以上のガスを添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載された積層フィルムの製造方法により製造された光学フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2007−245454(P2007−245454A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70466(P2006−70466)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】