説明

積層体

【課題】塗膜の硬度が高く、傷つきにくい表面層であり、かつプラスチック基材との密着性に優れた積層体を提供することにある。
【解決手段】
耐熱アクリル樹脂を主成分として含む基材の表面に、ケトン系溶剤と側鎖にラジカル重合(アニオン重合)可能な二重結合を有する(メタ)アクリロイル基ペンダント型重合体を含有する樹脂組成物を塗布して得られる層が形成された積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐擦傷性、高硬度の表面層を有する積層体に関する。より詳しくは高い耐熱性と優れた光学特性を有するアクリル系樹脂基材表面に、基材密着性に優れ、かつ、耐擦傷性、高硬度の耐擦傷性層を有する積層体、およびそれを使って得られた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置やプラズマディスプレイ、有機EL表示装置等の画像表示装置は画面の大型化に伴う重量増加の抑制が大きな課題となっている。特に画像表示装置部材では、従来ガラスが使用されていた部品の透明樹脂への置き換えが軽量化、生産性の向上に有効と考えられている。透明樹脂の中でも特にポリメチルメタクリレート(以下「PMMA」と表す)に代表されるアクリル系樹脂は、光学性能に優れ、高い光線透過率や低複屈折率、低位相差の光学等方材料として従来より注目されてきたが、一般的にアクリル系樹脂は耐熱性に乏しく、高い耐熱性が要求されない用途に使用が限られていた。近年では透明樹脂材料の耐熱性に対する要請が高まっており、アクリル系樹脂に対しても、高い耐熱性が要求されるようになってきている。
【0003】
耐熱性を有するアクリル系樹脂(以下「耐熱アクリル系樹脂」と称する)としては、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体をラクトン環化縮合反応させることによって得られるラクトン環含有重合体(例えば、特許文献1、2、3、4参照)や、マレイミド類を共重合したマレイミド系共重合体(例えば、特許文献5参照)が知られている。しかしながら耐熱アクリル系樹脂では、耐熱性は十分になりつつあるが、ガラスよりも硬度が低く傷つきやすいため、画像表示装置の最外層など耐擦傷性や硬度が必要な部材には使用できない場合があった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−230016号公報
【特許文献2】特開2001−151814号公報
【特許文献3】特開2002−120326号公報
【特許文献4】特開2002−254544号公報
【特許文献5】特開平09−324016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、耐熱性、光学特性に優れたアクリル系樹脂基材表面に、基材密着性に優れ、かつ、耐擦傷性、高硬度の耐擦傷性層を有する積層体、およびそれを使って得られた画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は耐熱アクリル系樹脂基材表面に耐擦傷性を付与する目的で耐擦傷性硬化層(以下ハードコート層と称する)を形成した積層体が上記課題の解決方法の1つになると考え、検討を行なった。しかし、例えば特許文献6、7に開示されているウレタンアクリレート系材料を用いる方法では表面硬度は向上するものの、耐熱アクリル系樹脂基材との密着性が悪く剥離が発生することが判明した。
【0007】
【特許文献6】特開2005−162908号公報
【特許文献7】特開2006−282909号公報 本発明者は耐熱アクリル系樹脂基材とハードコート層組成物の組合せに着目し、さらに鋭意検討を重ねた。その結果、特定構造を有する耐熱アクリル系樹脂基材に、ケトン系溶剤およびビニル系化合物を含有する硬化性樹脂組成物を塗布し硬化させて得られた積層体が上記課題を一気に解決し、画像表示装置部材に適した積層体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、耐熱アクリル樹脂を主成分として含む基材の表面に、ケトン系溶剤とビニル系化合物を含有する樹脂組成物を塗布して得られる層が形成された積層体である。
さらに溶剤として、ケトン系溶剤の含有比率が50質量%以上である上記樹脂組成物を用いる積層体である。
さらに下記式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、Rは炭素数2〜8のアルキレン基、Rは水素原子またはメチル基、mは正の整数である]
で示される繰り返し単位を有するビニル系重合体を含有する上記記載の積層体である。
さらに上記記載の積層体を使って得られた、画像表示装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐熱アクリル樹脂基材の透明性や光学特性を維持し、かつ表面硬度が高く、傷つきにくい硬化層を有する積層体が得られる。また、該積層体を製造する際の耐熱アクリル樹脂基材の反りやカールなどが生じにくく、かつ耐熱アクリル樹脂基材との密着性に優れ、良好な成形性を有する。本発明の積層体は画像表示装置での使用に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
≪耐熱アクリル基材≫
本発明は耐熱アクリル樹脂基材との積層体である。以下に詳述する。
(1.耐熱アクリル系樹脂)
本発明において用いられる耐熱アクリル系樹脂は、主成分として、アクリル酸、メタクリル酸およびその誘導体を重合して得られる樹脂およびその誘導体であり、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知のメタクリル酸系熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、一般式(3)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を示す。有機残基とは、具体的には、炭素数1〜20の直鎖状、枝分かれ鎖状、若しくは環状のアルキル基を示す。)
で表される構造を有する化合物(単量体)、アクリル酸、メタクリル酸およびその誘導体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシエキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられる。これらのうち1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。中でも、熱安定性に優れる点で(メタ)アクリル酸メチルが最も好ましい。
【0015】
また、メタクリル系熱可塑性樹脂は、耐熱性の観点より、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドおよびメチルマレイミドなどのN−置換マレイミドが共重合されていてもよいし、分子鎖中(重合体中の主骨格中または主鎖中ともいう)にラクトン環構造、グルタル酸無水物構造およびグルタルイミド構造などが導入されていてもよい。
【0016】
中でも、プラスチック基材の着色(黄変)し難さの点で、窒素原子が含まれない構造が好ましい。また、正の複屈折率(正の位相差)を発現させやすい点で、主鎖にラクトン環構造を有するものが好ましい。主鎖中のラクトン環構造に関しては、4〜8員環でもよいが、構造の安定性から5〜6員環の方がより好ましく、特に6員環が好ましい。このように、主鎖中のラクトン環構造が6員環である場合としては、後述する一般式(4)や、特開2004−168882号公報において表される構造などが挙げられるが、主鎖にラクトン環構造を導入する前の重合体を合成するうえにおいて、重合収率が高い点や、ラクトン環構造の含有割合の高い重合体を高い重合収率で得易い点や、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステルとの共重合性が良い点で、一般式(4)で表される構造であることが好ましい。
【0017】
また、これらのアクリル系樹脂は、耐熱性を損なわない範囲で共重合可能なその他の単量体成分を共重合した単位を有していても良い。共重合可能なその他の単量体成分としては、具体的にはスチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル等のニトリル系単量体、酢酸ビニル等のビニルエステル類等があげられる。
【0018】
以上のアクリル系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは1,000以上2,000,000以下の範囲内、より好ましくは5,000以上1,000,000以下の範囲内、さらに好ましくは10,000以上500,000以下の範囲内、特に好ましくは50,000以上500,000以下の範囲内である。
【0019】
上記アクリル系樹脂を製造する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いて(メタ)アクリル酸エステルを含有する単量体組成物を重合すればよい。
【0020】
重合温度、重合時間は、使用する単量体(単量体組成物)の種類、使用比率等によって異なるが、好ましくは、重合温度が0℃以上150℃以下の範囲内、重合時間が0.5時間以上20時間以下の範囲内であり、より好ましくは、重合温度が80℃以上140℃以下の範囲内、重合時間が1時間以上10時間以下の範囲内である。
【0021】
溶剤を用いた重合形態の場合、重合溶剤は特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。後述するラクトン環含有重合体を製造する場合は、使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50℃以上200℃以下の範囲内のものが好ましい。
【0022】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、用いる単量体の組み合わせや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0023】
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑止するために、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50重量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50重量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50重量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中の生成した重合体の濃度は、より好ましくは45重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。なお、重合反応混合物中の重合体の濃度があまりに低すぎると生産性が低下するため、重合反応混合物中の重合体の濃度は、10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましい。
【0024】
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されず、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中の生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより十分に抑止することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中の水酸基およびエステル基の割合を高めた場合であってもゲル化を十分に抑制できる。
【0025】
添加する重合溶剤としては、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの溶剤であってもよいし、2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0026】
上記重合反応を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれている。上記重合体を、以下に詳述するラクトン環含有重合体とする場合では、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、その後に続くラクトン環化縮合工程を行うことが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
【0027】
重合反応によって得られたアクリル系樹脂の色相は特に問わないが、透明であり黄変度が小さい方がアクリル系樹脂の本来の特徴を損なわない為、好適である。上記アクリル系樹脂は例えば3mm厚の成形体とした場合のヘイズ値が3以下、更に好ましくは2以下、最も好ましくは1以下である。また該成形体のYI(イエローインデックス)値が、10以下、好ましくは5以下である。
(2.ラクトン環含有重合体)
上記アクリル系樹脂としては、透明性、耐熱性、光学等方性がいずれも高く、各種光学用途に応じた特性を十分に発揮できるため、(メタ)アクリル酸エステルの共重合体に、分子内環化反応によりラクトン環構造を導入した、いわゆるラクトン環含有重合体を含むことが好ましく、主成分とすることが特に好ましい。「主成分」とはアクリル系樹脂の総重量に対して50重量%以上含有しているという意味である。ラクトン環含有重合体としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、下記一般式(4)で表されるラクトン環構造を有する。
【0028】
【化3】

【0029】
(式中、R3、R4、R5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいても良い。)
ラクトン環含有重合体構造中の、一般式(4)で表されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5重量%以上90重量%以下、より好ましくは10重量%以上70重量%以下、さらに好ましくは10重量%以上60重量%以下、特に好ましくは10重量%以上50重量%以下である。上記含有割合が5重量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になることがあり、好ましくない。また、上記含有割合が90重量%よりも多いと、成形加工性に乏しくなることがあり、好ましくない。
【0030】
ラクトン環含有重合体は、一般式(4)で表されるラクトン環構造以外の構造を有していてもよい。一般式(4)で表されるラクトン環構造以外の構造としては、特に限定されないが、例えば(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記一般式(5)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0031】
【化4】

【0032】
(式中、R6は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R7基、または−C−O−R8基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R7およびR8は水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。)
ラクトン環含有重合体において、一般式(4)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステルを重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10重量%以上95重量%以下の範囲内、より好ましくは10重量%以上90重量%以下の範囲内、さらに好ましくは40重量%以上90重量%以下の範囲内、特に好ましくは50重量%以上90重量%以下の範囲内である。
【0033】
また、水酸基含有単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、一般式(4)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、好ましくは0重量%以上30重量%以下の範囲内、より好ましくは0重量%以上20重量%以下の範囲内、さらに好ましくは0重量%以上15重量%以下の範囲内、特に好ましくは0重量%以上10重量%以下の範囲内である。
【0034】
また、不飽和カルボン酸を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、一般式(4)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、好ましくは0重量%以上30重量%以下の範囲内、より好ましくは0重量%以上20重量%以下の範囲内、さらに好ましくは0重量%以上15重量%以下の範囲内、特に好ましくは0重量%以上10重量%以下の範囲内である。
【0035】
また、一般式(5)で表される単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、一般式(4)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、好ましくは0重量%以上30重量%以下の範囲内、より好ましくは0重量%以上20重量%以下の範囲内、さらに好ましくは0重量%以上15重量%以下の範囲内、特に好ましくは0重量%以上10重量%以下の範囲内である。
【0036】
ラクトン環含有重合体の製造方法は特に限定されるものではないが、好ましくは、重合工程によって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得た後に、当該重合体を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環縮合反応を行うことによって得ることができる。
【0037】
ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、重合体に高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不十分であると、耐熱性が十分に向上しなかったり、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在する恐れがあるため好ましくない。
【0038】
上記重合体をラクトン環縮合反応を行うために加熱処理する方法については、特に限定されず、公知の方法が利用できる。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。また、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。また、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を持つ加熱炉や反応装置、脱揮装置のある押出機等を用いて加熱処理を行うこともできる。
【0039】
環化縮合反応を行う際に、上記重合体に加えて、他のアクリル系樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸等の有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に示されている様に、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを用いてもよい。
【0040】
環化縮合反応を行う際には、有機リン化合物を触媒として用いることが好ましい。触媒として有機リン化合物を用いることにより、環化縮合反応率を向上させることができるとともに、得られるラクトン環含有重合体の着色を大幅に低減することができる。さらに、有機リン化合物を触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができる。
【0041】
環化縮合反応の際に触媒として用いることができる有機リン化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸等のアルキル(アリール)亜ホスホン酸(但し、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのジエステルあるいはモノエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸等のジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのジエステルあるいはモノエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸等のアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸ジエステルあるいはモノエステルあるいはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸ジエステルあるいはモノエステルあるいはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のモノ、ジ若しくはトリアルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィン等のアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィン等の酸化モノ、ジ若しくはトリアルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム等のハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。これらの中でも、触媒活性が高くて低着色性のため、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステルあるいはモノエステル、リン酸ジエステルあるいはモノエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステルあるいはモノエステル、リン酸ジエステルあるいはモノエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸ジエステルあるいはモノエステルが特に好ましい。これら有機リン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されないが、上記重合体に対して、好ましくは0.001〜5重量%の範囲内、より好ましくは0.01〜2.5重量%の範囲内、さらに好ましくは0.01〜1重量%の範囲内、特に好ましくは0.05〜0.5重量%の範囲内である。触媒の使用量が0.001重量%未満であると、環化縮合反応の反応率の向上が十分に図れないおそれがあり、一方、5重量%を超えると、着色の原因となったり、重合体の架橋により溶融賦形しにくくなることがあるため、好ましくない。
【0043】
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。
【0044】
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、且つ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
【0045】
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体等の揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要により減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。この除去処理が不十分であると、生成した樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質等によって着色したり、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こったりする問題等が生じる。
【0046】
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、使用する装置については特に限定されないが、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、前記脱揮装置と前記押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置またはベント付き押出機を用いることがより好ましい。
【0047】
前記熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。反応処理温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
【0048】
前記熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜66.5hPa(600〜50mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
【0049】
前記ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
【0050】
前記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。上記温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなるおそれがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こるおそれがある。
【0051】
前記ベント付き押出機を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜13.3hPa(600〜10mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
【0052】
なお、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が悪化するおそれがあるので、好ましくは、上述した脱アルコール反応の触媒を使用し、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機等を用いて行うことが好ましい。
【0053】
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体を溶剤とともに環化縮合反応装置系に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機等の上記反応装置系に通してもよい。
【0054】
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
【0055】
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体を、2軸押出機を用いて、250℃近い、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解等が生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が悪くなるおそれがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の悪化を抑制できるので好ましい。
【0056】
特に好ましい形態としては、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基をあらかじめ環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型の反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置のついた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機等で、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特にこの形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
【0057】
上述のように、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、ラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、環化縮合反応率もより高まり、ガラス転移温度がより高く、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、実施例に示すダイナッミクTG測定における、150〜300℃間での重量減少率が2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
【0058】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は特に限定されないが、好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置等が挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用できる。より好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器である。しかしながら、ベント付き押出機等の反応器を使用するときでも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュウ形状、スクリュウ運転条件等を調整することで、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
【0059】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、好ましくは、重合工程で得られた重合体と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、および、前記(i)または(ii)を加圧下で行う方法が挙げられる。
【0060】
なお、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま使用してもよいし、一旦溶剤を除去したのちに環化縮合反応に適した溶剤を再添加してもよいことを意味する。
【0061】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;クロロホルム、DMSO、テトラヒドロフランなどでもよいが、好ましくは、重合工程で用いることができる溶剤と同じ種類の溶剤である。
【0062】
上記方法(i)で添加する触媒としては、一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒またはエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などが挙げられるが、本発明においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。
【0063】
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。添加する触媒の量は特に限定されないが、重合体の重量に対し、好ましくは0.001〜5重量%の範囲内、より好ましくは0.01〜2.5重量%の範囲内、さらに好ましくは0.01〜0.1重量%の範囲内、特に好ましくは0.05〜0.5重量%の範囲内である。方法(i)の加熱温度と加熱時間とは特に限定されないが、加熱温度としては、好ましくは室温以上、より好ましくは50℃以上であり、加熱時間としては、好ましくは1〜20時間の範囲内、より好ましくは2〜10時間の範囲内である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
【0064】
上記方法(ii)としては、例えば、耐圧性の釜などを用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱する方法等が挙げられる。加熱温度としては、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。加熱時間としては、好ましくは1〜20時間の範囲内、より好ましくは2〜10時間の範囲内である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
【0065】
上記方法(i)、(ii)ともに、条件によっては加圧下となっても何ら問題はない。また、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
【0066】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の間での重量減少率は、2%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。重量減少率が2%より高いと、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が十分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が低下するおそれがある。なお、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
【0067】
他の熱可塑性樹脂としては、ラクトン環含有重合体と熱力学的に相溶する熱可塑性樹脂が好ましい。例えば、シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位とを含む共重合体、具体的にはアクリロニトリル−スチレン系共重合体やポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル酸エステル類を50重量%以上含有する重合体が挙げられる。
【0068】
それらの中でもアクリロニトリル−スチレン系共重合体が最も相溶性に優れ、耐熱性を損なわずに透明な成形体を得る事ができる。なお、ラクトン環含有重合体とその他の熱可塑性樹脂とが熱力学的に相溶することは、これらを混合して得られた熱可塑性樹脂組成物のガラス転移点を測定することによって確認することができる。具体的には、示差走査熱量測定器により測定されるガラス転移点がラクトン環含有重合体とその他の熱可塑性樹脂との混合物について1点のみ観測されることによって、熱力学的に相溶していると言える。
【0069】
その他の熱可塑性樹脂としてアクリロニトリル−スチレン系共重合体を用いる場合、ラクトン環含有重合体とアクリロニトリル−スチレン系共重合体とを重合する方法としては、乳化重合法や懸濁重合法、溶液重合法、バルク重合法等を用いることが可能であるが、得られるフィルムの透明性や光学性能の観点から溶液重合法かバルク重合法で得られたものであることが好ましい。
【0070】
重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤とを分離することなく、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行ってもよい。また、必要に応じて、前記重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を分離してから溶剤を再添加する等のその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても構わない。
【0071】
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することのみには限定されず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
【0072】
ラクトン環含有重合体は、前述したように、環化縮合反応の際に触媒を使用することが好ましいが、当該触媒が樹脂中に残存していると、樹脂が加熱された際に、未反応の環形成性ユニット(すなわち、未だ環を形成していないユニット)の水酸基、あるいは系中に少量存在する水などの活性水素と、アルキルエステル基とのエステル交換によりアルコールが発生して、発泡現象が起こることがある。この発泡現象を防ぐために、失活剤を配合することが好ましい。
【0073】
一般に、環化縮合反応に使用した触媒が酸性物質である場合、反応後に残存する触媒を失活させるためには、塩基性物質を使用して中和すればよい。それゆえ、環化縮合反応に使用した触媒が酸性物質である場合は、失活剤としては塩基性物質が好ましく用いられる。塩基性物質としては、熱加工時に樹脂組成物の物性を阻害する物質等を発生しない限り、特に限定されるものではない。例えば、金属カルボン酸塩、金属錯体、金属酸化物等を挙げることができる。
【0074】
<失活剤>
例えば、メタクリル酸系樹脂として、ラクトン環含有重合体を使用した場合、前述したように、ラクトン環化縮合工程では、重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とが環化縮合して、エステル交換の一種である脱アルコール反応を起こすことにより、重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)にラクトン環構造が形成される。一般にエステル交換に使用した触媒が酸性物質である場合、反応後に残存する触媒を失活させるには、塩基性物質を用いて中和すればよい。
【0075】
それゆえ、この場合に用いられる失活剤としては、塩基性物質であって、熱加工時に樹脂組成物を阻害する物質などを発生しない限り、特に限定されるものではないが、例えば、金属塩、金属錯体および金属酸化物などの金属化合物が挙げられる。
【0076】
ここで、金属化合物を構成する金属としては、樹脂組成物の物性などを阻害せず、廃棄時に環境汚染を招くことがない限り、特に限定されるものではないが、例えば、リチウム、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムなどのアルカリ土類金属;亜鉛、アルミニウム、スズ、鉛などの両性物質;ジルコニウム;などが挙げられる。
【0077】
これらの金属のうち、樹脂の着色が少ないことから、典型金属元素が好ましく、アルカリ土類金属や両性金属が特に好ましく、カルシウム、マグネシウムおよび亜鉛が最も好ましい。金属塩としては、樹脂への分散性や溶剤への溶解性より、好ましくは有機酸の金属塩であり、特に好ましくは有機カルボン酸、有機リン酸化合物および酸性有機イオウ化合物の金属塩である。有機カルボン酸の金属塩を構成する有機カルボン酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ペヘン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸などが挙げられる。
【0078】
有機リン酸の金属塩を構成する有機リン化合物としては、メチル亜スルホン酸、エチル亜スルホン酸、フェニル亜スルホン酸などのアルキル(アリール)亜スルホン酸(ただし、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエステルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸などのジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸などのアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸などのアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチルなどの亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィンなどのアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィンなどの酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムなどのハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。
【0079】
酸性有機イオウ化合物の金属塩を構成する酸性有機イオウ化合物としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などが挙げられる。金属錯体における有機成分としては、特に限定されるものではないが、アセチルアセトンなどが挙げられる。
【0080】
他方、エステル交換に使用した触媒が塩基性物質である場合には、例えば、有機リン酸化合物などの酸性物質を用いて、反応後に残存する触媒を失活させればよい。いずれの場合にも、これらの失活剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、失活剤は、固形物、粉末、粒状体、分散体、懸濁液、水溶液など、いずれの形態で添加してもよく、特に限定されるものではない。
【0081】
他方、エステル交換に使用した触媒が塩基性物質である場合には、例えば、有機リン化合物等の酸性物質を用いて、反応後に残存する触媒を失活させればよい。いずれの場合にも、これらの失活剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、失活剤は、固形物、粉末、粒状体、分散体、懸濁液、水溶液等、いずれの形態で添加してもよく、形態は特に限定されるものではない。
【0082】
失活剤の配合量は、環化縮合反応に使用した触媒の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではない。例えば、ラクトン環含有重合体の質量を基準として、好ましくは10ppm以上10,000ppm以下、より好ましくは50ppm以上5000ppm以下、さらに好ましくは100ppm以上3000ppm以下である。上記配合量が10ppm未満であると、失活剤の作用が不十分となり、加熱時に泡が発生することがあるため好ましくない。上記配合量が10,000ppmを超えると、失活剤の作用が飽和するとともに、必要以上に失活剤を使用することになり、製造コストが上昇することがあるため好ましくない。
【0083】
上記失活剤は、ラクトン環構造が形成された後であれば、いつ添加してもよい。例えば、ラクトン環含有重合体の製造中に所定の段階で添加し、ラクトン環含有重合体を得た後で、ラクトン環含有重合体、失活剤、その他の成分などを同時に加熱溶融させて混練する方法;ラクトン環含有重合体を製造した後、失活剤を添加し、ラクトン環含有重合体、失活剤、その他の成分などを同時に加熱溶融させて混練する方法;ラクトン環含有重合体その他の成分などを加熱溶融させておき、そこに失活剤、その他の成分などを添加して混練する方法;などが挙げられる。
【0084】
ラクトン環含有重合体は、重量平均分子量が、好ましくは1,000以上2,000,000以下、より好ましくは5,000以上1,000,000以下、さらに好ましくは10,000以上500,000以下、特に好ましくは50,000以上500,000以下である。
【0085】
ラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150以上300℃以下の間での重量減少率が1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。
【0086】
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後の成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。さらに、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に十分に導入されるため、得られたラクトン環含有重合体は十分に高い耐熱性を有している。
【0087】
ラクトン環含有重合体は、熱重量分析(TG)における5%重量減少温度が、280℃以上であることが好ましく、より好ましくは290℃以上、さらに好ましくは300℃以上である。熱重量分析(TG)における5%重量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが280℃未満であると、十分な熱安定性を発揮できないおそれがある。
【0088】
ラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは5000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下である。残存揮発分の総量が5000ppmよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良の原因となる。
【0089】
ラクトン環含有重合体は、射出成形により得られる成形品の、ASTM−D−1003に準じた方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないおそれがある。
【0090】
(3.積層体基材の物性等)
本発明の積層体に使用される基材の形状は特に限定はされないが、一例としてフィルムについて説明する。なお、積層体基材の形状はレンズ、梱体、ファイバーなども挙げられる。本発明の積層体基材フィルムは、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下であるとともに、剪断速度が100(1/s)である場合における樹脂温度270℃での粘度が250Pa・s以上1000Pa・s以下であるアクリル系樹脂を備えることが好ましい。
【0091】
ガラスになりうる物質は一般に、低温のガラス状態にあるときと高温の過冷却液体状態にあるときとで、物質に固有な狭い温度域を境にして、熱膨張係数や電気伝導度、粘度などの温度係数その他の物理量が急激に変化する。ガラス転移温度とは、この境の温度域をいい、高分子がミクロブラウン運動を始める温度のことである。
【0092】
ガラス転移温度には各種の測定方法があるが、本明細書においては示差走査熱量計(DSC)によってASTM−D−3418に従って中点法で求めた温度と定義する。本発明の積層体基材は、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下のアクリル系樹脂を備えているが、当該アクリル系樹脂は、一般に当該業者の間では耐熱アクリル系樹脂として認められる。
【0093】
ガラス転移温度が200℃より高いと、溶融樹脂の流動性が悪くなるため、フィルムの成形が困難である。ガラス転移温度は、好ましくは115℃以上180℃以下であり、より好ましくは120℃以上160℃以下である。
【0094】
上記アクリル系樹脂は、剪断速度が100(1/s)である場合における樹脂温度270℃での粘度が250Pa・s以上1000Pa・s以下であることを要する。なお、剪断速度とは、流体の流れが壁に沿っている場合に、壁面に垂直な方向の位置の違いに基づく流速変化をいう。剪断速度は、通常、壁面で最大値をとり、壁面から離れるほど小さくなる。なお、100(1/s)の剪断速度は、押出機で通常作用する速度の中心値である。
【0095】
また、上記アクリル系樹脂は、剪断速度が100(1/s)である場合において、樹脂温度が250℃である場合、粘度が300Pa・s以上2000Pa・s以下であることが好ましい。
【0096】
また、上記粘度を測定する方法としては特に限定されるものではなく、従来公知のレオメーター等を用いて測定することができる。
【0097】
本発明にかかるフィルムは、上記アクリル系樹脂を備える。上記アクリル系樹脂以外に含みうる成分としては、アクリル系樹脂以外の重合体(その他の重合体)や、その他の添加剤等を挙げることができる。
【0098】
その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体;等が挙げられる。
【0099】
フィルムにおける上記その他の重合体の含有割合は、好ましくは0重量%以上50重量%以下、より好ましくは0重量%以上40重量%以下、さらに好ましくは0重量%以上30重量%以下、特に好ましくは0重量%以上20重量%以下である。
【0100】
上記その他の添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、りん系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;フェエニルサリチレート、(2,2´−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒロドキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
【0101】
フィルムにおける上記その他の添加剤の含有割合は、好ましくは0重量%以上5重量%以下、より好ましくは0重量%以上2重量%以下、さらに好ましくは0重量%以上0.5重量%以下である。
【0102】
上記その他の重合体や添加剤は、フィルム形成前に予めアクリル系樹脂と溶融混練しておくことが好ましい。
【0103】
≪樹脂組成物≫
本発明に使用される樹脂組成物は、ケトン系溶剤とビニル系化合物を含有する。
【0104】
<ケトン系溶剤>
ケトン系溶剤としては例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルターシャリーブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられるが、特にメチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンが好ましい。
【0105】
本発明の樹脂組成物における、ケトン系溶剤の沸点は200℃以下が好ましく、さらに好ましくは150℃以下、特に好ましくは130℃以下である。また40℃以上であることが好ましい。沸点が高すぎる場合には組成物を風乾する場合、乾燥に時間がかかり生産性が悪くなる場合がある。また沸点が低すぎる場合には作業環境の溶剤汚染の恐れがあり、好ましくない。なお、本願ではケトン系溶剤としてケトン基を有する反応性希釈剤も含むこととする。
【0106】
樹脂組成物中のケトン系溶剤は50%以上が好ましく、より好ましくは75%以上である。50%より少ない場合には基材密着性が悪くなる場合がある。また上限は95%以下が好ましく、90%以下がより好ましい。ケトン系溶剤が95%より多い場合には相対的にビニル系化合物の量が少なくなり好ましくない。
【0107】
<ビニル系化合物(A)>
本発明におけるビニル系化合物は従来公知の重合性不飽和基を有する化合物であれば、特に限定はされない。
【0108】
好ましくは下記式(1):
【0109】
【化5】

【0110】
[式中、Rは炭素数2〜8のアルキレン基、Rは水素原子またはメチル基、mは正の整数である]
で示される繰り返し単位を有するビニル系重合体(A)を含有する場合である。
【0111】
本発明の樹脂組成物において、上記式(1)で示されるビニル系重合体の配合量は、組成物の合計量に対して、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは20〜90質量%、さらに好ましくは20〜80質量%である。ビニル系重合体の配合量が10質量%未満であると、架橋密度が低下するので硬化速度の低下や硬化物の塗膜強度が不充分になることがある。
【0112】
上記式(1)で示されるビニル系重合体は、低分子量成分が増加すると硬化膜層の強度や硬度が低下することがある。ビニル系重合体の数平均分子量(Mn)は、好ましくは3000〜50,000、より好ましくは4000〜30,000、さらに好ましくは5000〜20,000の範囲内である。ビニル系重合体の数平均分子量(Mn)が3000未満であると、硬化速度の低下や硬化物の強度低下を生じることがある。また50,000(数値変更しました)を超えると基材との濡れ性が低下することや、粘度が高くなるため、例えば樹脂組成物を調整する際に混合時間が長くなったり、塗工性等の作業性が低下する場合がある。
【0113】
上記式(1)で示されるビニル系重合体は、固体状の単量体含有量が多い重合体の場合を除き、液状粘性体として得ることができる。液状粘性体であれば、有機溶剤や(メタ)アクリレート系単量体との溶解性が良いので、樹脂組成物を調整する際に作業効率の向上化が図れる。粘度が低いと作業性が良く、また、積層体を作成する際に、基材との濡れ性は向上する。
【0114】
上記式(1)において、Rで表される炭素数2〜8のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、シクロヘキシレン基、1,4−ジメチルシクロヘキサン−α,α’−ジイル基、1,3−ジメチルシクロヘキサン−α,α’−ジイル基、1,2−ジメチルシクロヘキサン−α,α’−ジイル基、1,4−ジメチルフェニル−α,α’−ジイル基、1,3−ジメチルフェニル−α,α’−ジイル基、1,2−ジメチルフェニル−α,α’−ジイル基などが挙げられる。Rで表される置換基は、上記式(1)中にm個存在するが、同一であっても異なっていてもよい。
【0115】
上記式(1)において、mは正の整数、好ましくは1〜20の整数、より好ましくは1〜10の整数、さらに好ましくは1〜5の整数であり、nは正の整数、好ましくは50〜400の整数、より好ましくは100〜300の整数、さらに好ましくは150〜250の整数である。
【0116】
<ビニル系重合体の調製>
上記式(1)で示されるビニル系重合体は、下記式(2):
【0117】
【化6】

【0118】
[式中、R、Rおよびmは上記式(1)と同意義である]
で示される異種重合性単量体を、従来から知られているカチオン重合により調整することが可能であり、又、特開2006−241189号明細書に記載された方法でリビングカチオン重合することにより、容易に調製することもできる。このとき、上記式(2)で示される異種重合性単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。後者の場合、得られる共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体またはその組合せのいずれであってもよい。また、グラフト共重合体であってもよい。
【0119】
上記式(2)で示される異種重合性単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1−ジメチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−{2−(2−ビニロキシエトキシ)エトキシ}エチル、(メタ)アクリル酸2−{2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)エトキシ}エチル、(メタ)アクリル酸2−{2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)イソプロポキシ}エチル、(メタ)アクリル酸2−{2−(2−ビニロキシエトキシ)エトキシ}プロピル、(メタ)アクリル酸2−{2−(2−ビニロキシエトキシ)イソプロポキシ}プロピル、(メタ)アクリル酸2−{2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)エトキシ}プロピル、(メタ)アクリル酸2−{2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)イソプロポキシ}プロピル、(メタ)アクリル酸2−{2−(2−ビニロキシエトキシ)エトキシ}イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−{2−(2−ビニロキシエトキシ)イソプロポキシ}イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−{2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)エトキシ}イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−{2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)イソプロポキシ}イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−[2−{2−(2−ビニロキシエトキシ)エトキシ}エトキシ]エチル、(メタ)アクリル酸2−[2−{2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)エトキシ}エトキシ]エチル、(メタ)アクリル酸2−(2−[2−{2−(2−ビニロキシエトキシ)エトキシ}エトキシ]エトキシ)エチル;などが挙げられる。これらの異種重合性単量体のうち、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−{2−(2−ビニロキシエトキシ)エトキシ}エチルが好適である。
【0120】
上記式(2)で示される異種重合性単量体は、従来公知の方法を用いて、製造することができる。例えば、上記式(2)において、Rがエチレン基、mが1である場合、(メタ)アクリル酸の金属塩と、2−ハロゲノエチルビニルエーテルとを縮合させるか、(メタ)アクリル酸メチルと、2−ヒドロキシエチルビニルエーテルとをエステル交換させるか、あるいは、(メタ)アクリル酸ハライドと、2−ヒドロキシエチルビニルエーテルとを縮合させることにより、製造することができる。また、上記式(2)において、Rがエチレン基、mが2である場合、(メタ)アクリル酸の金属塩と、2−(2−ハロゲノエトキシ)エチルビニルエーテルとを縮合させるか、(メタ)アクリル酸メチルと、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルビニルエーテルとをエステル交換させるか、あるいは、(メタ)アクリル酸ハライドと、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルビニルエーテルとを縮合させることにより、製造することができる。
【0121】
上記式(1)で示されるビニル系重合体がカチオン重合可能な単量体に由来する構造単位を有する共重合体である場合、かかる共重合体は、上記式(2)で示される異種重合性単量体と、カチオン重合可能な単量体とを、カチオン重合あるいはリビングカチオン重合することにより、容易に調製することができる。このとき、上記式(2)で示される異種重合性単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。得られる共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体またはその組合せのいずれであってもよい。また、グラフト共重合体であってもよい。
【0122】
カチオン重合可能な単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジヒドロフランなどのビニルエーテル化合物;スチレン、4−メチルスチレン、3−メチルスチレン、2−メチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、4−メトキシスチレン、4−クロロメチルスチレンなどのスチレン誘導体;N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニル化合物;イソプロペニルスチレン、ケイ皮酸2−ビニロキシエチル、ソルビン酸2−ビニロキシエチルなどのジビニル化合物やトリビニル化合物;などが挙げられる。これらのカチオン重合可能な単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのカチオン重合可能な単量体のうち、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ジヒドロフランなどのビニルエーテル化合物が好適である。
【0123】
上記式(2)で示される異種重合性単量体は、ラジカル重合性またはアニオン重合性の(メタ)アクリロイル基と、カチオン重合性のビニルエーテル基とを同時に有するので、重合方法を選択することにより、(メタ)アクリロイル基またはビニルエーテル基をペンダント基として有する重合体が得られる。本発明では、上記式(2)で示される異種重合性単量体のビニルエーテル基を、単独で、あるいは、カチオン重合可能な単量体と共に、カチオン重合あるいはリビングカチオン重合させることにより、(メタ)アクリルロイル基をペンダント基として有する上記式(1)で示されるビニル系重合体が得られる。
【0124】
上記式(2)で示される異種重合性単量体と、カチオン重合可能な単量体とをカチオン重合あるいはリビングカチオン重合する場合、単量体のモル比(カチオン重合可能な単量体/上記式(2)で示される異種重合性単量体)は、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.5〜8、さらに好ましくは0.8〜5の範囲内である。
【0125】
<ビニル系重合体の二級アミンによる変性>
上記式(1)で示されるビニル系重合体が有する炭素−炭素二重結合の一部に、二級アミンを付加させて、アミン変性ビニル系重合体としてもよい。二級アミンを付加させることにより、上記式(1)で示される繰り返し構造単位を有するビニル系重合体の極性を高めることができる。
上記式(1)で示される繰り返し構造単位を有するビニル系重合体へ付加される前記二級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、メチルオクチルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミンなどのアルキルアミンやジアルキルアミン;N−メチルアニリンなどのアリールアミン;ジフェニルアミンなどのジアリールアミン;N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどの水酸基含有アミン;ビス(2−クロロエチル)アミン、2−クロロエチル(プロピル)アミンなどのハロゲン化アルキルアミン;ピペリジン、4−メチルピペリジン、1−メチルピペラジン、モルホリン、などの二級環状アミンなどが挙げられる。これらの中でも、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミンなどのジアルキルアミン;ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどの水酸基含有ジアルキルアミンが好適である。
【0126】
<ビニル系重合体以外の成分>
本発明に使用される樹脂組成物には、前記ビニル系重合体に加えて、重合性単量体重合及びまたは開始剤を含んでもよい。重合性単量体を含む場合には、硬化させて得られる硬化物の物性を調節することができるという効果を奏する。
【0127】
重合性単量体としては、上記式(1)で示されるビニル系重合体と共硬化可能なものである限り、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、スチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、4−クロロスチレン、4−メチルスチレン、4−クロロメチルスチレン、ジビニルベンゼンなどのスチレン系単量体;フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリルなどのアリルエステル系単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、等の1官能(メタ)アクリレート化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ペンタシクロペンタデカンジメタノールルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリル酸付加物、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ノルボルナンジメタノールジ(メタ)アクリレート、p−メンタンー1,8−ジオールジ(メタ)アクリレート、p−メンタン−2,8−ジオールジ(メタ)アクリレート、p−メンタン−3,8−ジオールジ(メタ)アクリレート、ビシクロ[2.2.2]−オクタン−1−メチル−4−イソプロピル−5,6−ジメチロールジ(メタ)アクリレート、等の2官能(メタ)アクリレート化合物;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の(メタ)アクリレート化合物、などの(メタ)アクリル酸系誘導体;メトキシエチル(メタ)アクリレート、2ーメトキシー2ーメチルエチル(メタ)アクリレート、2ーメトキシー1ーメチルエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、2ーエトキシー2ーメチルエチル(メタ)アクリレート、2ーエトキシー1ーメチルエチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシプロピル(メタ)アクリレート、イソプロポキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのエチレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレートなどのエーテル構造を有する(メタ)アクリル系誘導体;トリエチレングリコールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテルなどのビニルエーテル系単量体;トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メチロールメラミンのアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテルのアジピン酸エステル、アリルアセタール、メチロールグリオキザールウレインのアリルエーテルなどのアリルエーテル系単量体;マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのマレイン酸エステル系単量体;フマル酸ジブチル、フマル酸ジオクチルなどのフマル酸エステル系単量体;4−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン、4−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2−メチル−2−イソブチル−1,3−ジオキソラン、4−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2−シクロヘキシル−1,3−ジオキソラン、4−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、などの1,3−ジオキソラン系単量体;(メタ)アクリロイルモルホリン;N−ビニルホルムアミド;N−ビニルピロリドン;などが挙げられる。これらの重合性単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの重合性単量体のうち、(メタ)アクリル系エステル化合物が好適で、さらに脂環構造置換基を有する(メタ)アクリル系エステル化合物、エーテル構造を有する(メタ)アクリル系誘導体が好適である。
【0128】
重合性単量体の配合量は、組成物の合計量に対して、好ましくは0〜80質量%、より好ましくは0〜60質量%である。重合性単量体の配合量が80質量%を超えると、硬化収縮が大きくなり、内部歪や硬化物の反りが大きくなることがある。
【0129】
重合開始剤としては、上記式(1)で示されるビニル系重合体がラジカル重合性の(メタ)アクリロイル基を有するので、例えば、加熱により重合開始ラジカルを発生する熱重合開始剤;紫外線の照射により重合開始ラジカルを発生する光重合開始剤;などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、熱重合促進剤、光増感剤、光重合促進剤などをさらに添加することも好ましい。
【0130】
熱重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド、メチルアセトアセテートペルオキシド、アセチルアセテートペルオキシド、1,1−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)−シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、p−メンタンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ヘキシルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、イソブチリルペルオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ステアロイルペルオキシド、スクシン酸ペルオキシド、m−トルオイルベンゾイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルペルオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシヘキシルペルオキシジカーボネート、ジ−3−メトキシブチルペルオキシジカーボネート、ジ−s−ブチルペルオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)ペルオキシジカーボネート、α,α’−ビス(ネオデカノイルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルペルオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルペルオキシネオデカノエート、t−ヘキシルペルオキシネオデカノエート、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、t−ヘキシルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシソブチレート、t−ブチルペルオキシマレート、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウレート、t−ブチルペルオキシソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシ−m−トルイルベンゾエート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルペルオキシ)イソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルイルペルオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシアリルモノカーボネート、t−ブチルトリメチルシリルペルオキシド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンなどの有機過酸化物系開始剤;2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン)]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(4−ヒドロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン)]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−プロペニル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン)]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(4,5、6,7−テトラヒドロ−1H−1,3−ジアゼピン−2−イル)プロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(5−ヒドロキシ−3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2−アゾビス(2−メチルプロピオン酸)ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]などのアゾ系開始剤;などが挙げられる。これらの熱重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの熱重合開始剤のうち、メチルエチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルペルオキシベンゾエート、ベンゾイルペルオキシドなどの金属石鹸および/またはアミン化合物などの触媒作用により効率的にラジカルを発生させることができる化合物や2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好適である。
【0131】
光重合開始剤としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジルー2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマーなどのアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン類;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドなどのベンゾフェノン類;2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロリドなどのチオキサントン類;などが挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの光重合開始剤のうち、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、アシルホスフィンオキシド類が好適であり、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが特に好適である。
【0132】
重合開始剤の配合量は、組成物の合計量に対して、好ましくは0.05〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%、さらに好ましくは0.2〜10質量%である。重合開始剤の配合量が0.05質量%未満であると、樹脂組成物が充分に硬化しないことがある。逆に、重合開始剤の配合量が20質量%を超えると、硬化物に臭気があったり、着色したりすることがある。
【0133】
重合開始剤として、熱重合開始剤を用いる場合には、熱重合開始剤の分解温度を低下させるために、熱重合開始剤の分解を促進して有効にラジカルを発生させることができる熱重合促進剤を用いることができる。熱重合促進剤としては、例えば、コバルト、銅、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ジルコニウム、クロム、バナジウム、カルシウム、カリウムなどの金属石鹸、1級、2級、3級のアミン化合物、4級アンモニウム塩、チオ尿素化合物、ケトン化合物などが挙げられる。これらの熱重合促進剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの熱重合促進剤のうち、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、オクチル酸銅、ナフテン酸銅、オクチル酸マンガン、ナフテン酸マンガン、ジメチルアニリン、トリエタールアミン、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、ジ(2−ヒドロキシエチル)p−トルイジン、エチレンチオ尿素、アセチルアセトン、アセト酢酸メチルが好適である。
【0134】
熱重合促進剤の配合量は、組成物の合計量に対して、好ましくは0.001〜20質量%、より好ましくは0.01〜10質量%以上、さらに好ましくは0.05〜5質量%の範囲内である。熱重合促進剤の配合量がこのような範囲内であれば、組成物の硬化性、硬化物の物性、経済性の点で好ましい。
【0135】
重合開始剤として、光重合開始剤を用いる場合には、光励起により生じた励起状態から光重合開始剤に励起エネルギーを移し、光重合開始剤の分解を促進して有効にラジカルを発生させることができる光増感剤を用いることができる。光増感剤としては、例えば、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなどを挙げることができる。これらの光増感剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0136】
光増感剤の配合量は、組成物の合計量に対して、好ましくは0.05〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%、さらに好ましくは0.2〜10質量%の範囲内である。光増感剤の配合量がこのような範囲内であれば、組成物の硬化性、硬化物の物性、経済性の点で好ましい。
【0137】
重合開始剤として、光重合開始剤を用いる場合には、光重合開始剤の分解を促進して有効にラジカルを発生させることができる光重合促進剤を用いることができる。光重合促進剤としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4−ジメチルアミノ安息香酸−2−n−ブトキシエチル、安息香酸2−ジメチルアミノエチル、N,N−ジメチルパラトルイジン、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノンなどを挙げることができる。これらの光重合促進剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの光重合促進剤のうち、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンが好適である。
【0138】
光重合促進剤の配合量は、組成物の合計量に対して、好ましくは0.05〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%、さらに好ましくは0.2〜10質量%の範囲内である。光重合促進剤の配合量がこのような範囲内であれば、組成物の硬化性、硬化物の物性、経済性の点で好ましい。
【0139】
熱重合開始剤、光重合開始剤、熱重合促進剤、光増感剤、光重合促進剤などを組み合わせて配合する場合、その配合量の合計量は、樹脂組成物の合計量に対して、好ましくは0.05〜20質量、より好ましくは0.1〜15質量%、さらに好ましくは0.2〜10質量の範囲内である。重合開始剤などの組合せ配合量の合計量がこのような範囲内であれば、樹脂組成物の硬化性、硬化物の物性、経済性の点で好ましい。
【0140】
本発明に使用される樹脂組成物には、ケトン系溶剤以外の有機溶剤を使用しても良い。有機溶剤を含有する場合、硬化膜層とプラスチック基材との密着性を向上させたり、後述する金属酸化物や添加剤などを溶解したり、分散したりしやすくできることが可能になる。
【0141】
使用する有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼンなどの芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族または脂環式炭化水素;四塩化炭素、クロロホルム、二塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物;ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸アミルなどのエステル類;ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;などを使用することができる。
【0142】
ケトン系溶剤以外の有機溶媒の配合量は、有機溶媒の合計量に対して、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0〜25質量%である。ケトン系溶剤以外の溶媒配合量が50質量%を超えると、硬化物層の基材密着性が低下したり、樹脂組成物中から溶媒を留去させる場合に時間を要したり、硬化物に残存したりすることがある。
【0143】
本発明に使用される樹脂組成物には、好ましくは、前記ビニル系重合体に加えて、金属酸化物からなる微粒子を含有してもよい。金属酸化物からなる微粒子を含有する場合には、硬化後の塗膜の硬度が向上し、より傷つきにくく、低反射性のコーティングが得られるという効果を奏する。
【0144】
微粒子を構成する金属酸化物は、より好ましくは、Si、Ti、Zr、Zn、Sn、In、LaおよびYよりなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含む。微粒子を構成する金属酸化物は、これらの元素を含む単独の酸化物であってもよいし、これらの元素を含む複合酸化物であってもよい。微粒子を構成する金属酸化物の具体例としては、例えば、SiO、SiO、TiO、ZrO、ZnO、SnO、In、La、Y、SiO−Al、SiO−Zr、SiO−Ti、Al−ZrO、TiO−ZrOなどが挙げられる。これらの金属酸化物からなる微粒子は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの金属酸化物からなる微粒子のうち、SiO、TiO、ZrO、ZnOが好適である。
【0145】
金属酸化物からなる微粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜300nm、より好ましくは1〜50nmである。微粒子の平均粒子径が300nmを超えると、硬化物の透明性が損なわれることがある。なお、微粒子の平均粒子径とは、動的光散乱式粒径分布測定装置を用いて測定することにより求められる体積平均粒子径を意味する。
【0146】
金属酸化物からなる微粒子の配合量は、組成物の合計量に対して、好ましくは0〜80質量%、より好ましくは0〜50質量%である。微粒子の配合量が80質量%を超えると、硬化物が脆くなることがある。
【0147】
本発明に使用される樹脂組成物には、さらに必要に応じて、添加物として、無機充填剤、非反応性樹脂及び又は反応性樹脂(例えば、アクリル系樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂など)、着色顔料、可塑剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃化剤、艶消し剤、染料、消泡剤、レベリング剤、帯電防止剤、分散剤、スリップ剤、表面改質剤、揺変化剤、揺変助剤などを添加することができる。これらの添加物の存在は、特に本発明の効果に影響を及ぼすものではない。これらの添加物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0148】
添加物の配合量は、添加物の種類や使用目的、樹脂組成物の用途や使用方法などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、無機充填剤の配合量は、樹脂組成物の合計量に対して、好ましくは1〜80質量%、より好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは20〜50質量%の範囲内である。非反応性樹脂、着色顔料、可塑剤または援変化剤の配合量は、組成物の合計量に対して、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%、さらに好ましくは10〜25質量%の範囲内である。重合禁止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、艶消し剤、染料、消泡剤、レベリング剤、帯電防止剤、分散剤、スリップ剤、表面改質剤または援変助剤の配合量は、組成物の合計量に対して、好ましくは0.0001〜5質量%、より好ましくは0.001〜3質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%の範囲内である。
【0149】
≪樹脂組成物の製造および積層体≫
本発明に使用される樹脂組成物には、上記式(1)で示されるビニル系重合体、必要に応じて、重合性単量体と重合開始剤、熱重合促進剤、光増感剤、光重合促進剤など、さらには有機溶剤、金属酸化物からなる微粒子、各種の添加物などとを配合し、混合・攪拌することにより得ることができる。
【0150】
本発明に使用される樹脂組成物には、重合開始剤を配合しない場合には、電子線を照射することにより、熱重合開始剤を配合した場合には、加熱により、また、光重合開始剤を配合した場合には、紫外線を照射することにより、硬化させることができる。本発明の硬化物は、樹脂組成物を硬化させて得られる。ここで、「硬化物」とは、流動性の無い物質を意味する。
【0151】
例えば、加熱による硬化の場合、赤外線、遠赤外線、熱風、高周波加熱などを用いればよい。加熱温度は、基材の種類などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは80〜200℃、より好ましくは90〜180℃、さらに好ましくは100〜170℃の範囲内である。加熱時間は、塗布面積などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは1分間〜24時間、より好ましくは10分間〜12時間、さらに好ましくは30分間〜6時間の範囲内である。
【0152】
例えば、紫外線による硬化の場合、波長150〜450nmの範囲内の光を含む光源を用いればよい。このような光源としては、例えば、太陽光線、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライド灯、ガリウム灯、キセノン灯、フラッシュ型キセノン灯、カーボンアーク灯などが挙げられる。これらの光源と共に、赤外線、遠赤外線、熱風、高周波加熱などによる熱の併用も可能である。照射積算光量は、好ましくは0.1〜5J/cm、より好ましくは0.15〜3J/cm、さらに好ましくは0.15〜1J/cmの範囲内である。
【0153】
例えば、電子線による硬化の場合、加速電圧が好ましくは10〜500kV、より好ましくは20〜300kV、さらに好ましくは30〜200kVの範囲内である電子線を用いればよい。また、照射量は、好ましくは2〜500kGy、より好ましくは3〜300kGy、さらに好ましくは4〜200kGyの範囲内である。電子線と共に、赤外線、遠赤外線、熱風、高周波加熱などによる熱の併用も可能である。
【0154】
本発明に使用される樹脂組成物を基材に塗布し硬化させて積層体を得る場合の塗布方法としては、グラビア印刷等の各種印刷法、バーコーター法、スピンコーター法、刷毛塗りなどの手塗り、スプレー塗装、浸漬法など、従来公知の方法を使用目的に応じて選択すればよい。塗布量としては、好ましくは0.2〜100g/m、より好ましくは0.5〜70g/mの範囲内である。また、塗布厚みとしては、好ましくは1〜500μm、より好ましくは2〜200μmの範囲内である。
【0155】
また本発明で使用される樹脂組成物を使って硬化膜層を形成する方法として、樹脂組成物を含有する加飾用フィルムを用いた成形同時加飾法がある。この方法は、少なくともフィルムと加飾層とから構成される加飾用フィルムを射出成形用の金型内に入れて、型閉め後、成形樹脂をキャビティに射出し、成形樹脂を固化した樹脂成形品の表面に加飾用シートを一体化接着させて成形同時加飾成形品を得るものである。
【0156】
上記積層体には、目的に応じて、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、ひずみ緩和層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリアー性等の種々の機能性コーティング層を各々積層塗工したりしてもよい。なお、本ハードコート層と各層の積層順序は特に限定されるものではなく、積層方法も特に限定されない。
【0157】
本発明の積層体は、光記録ディスク、プラスチックフィルム、OA機器、携帯電話等の通信機器、家庭用電化製品、自動車用内・外装部品、家具用外装部材、プラスチックレンズ、化粧品容器、飲料用容器、有機ELディスプレイ等のディスプレイ、家電製品等のタッチパネル、流し台、洗面台、さらにはショーウインドウ、窓ガラス等、などの用途分野に好適に使用される。光記録ディスク、プラスチックフィルムに特に好適に用いることができる。

【実施例】
【0158】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0159】
<密着性評価>
JIS K5400に準じ、積層体の硬化物表面に碁盤目の切り込み(1m m×1mm、100桝)を入れ、セロハン粘着テープによる剥離試験を実施した。数値は残存数で示した。
【0160】
○:100(剥離無し)
△:99〜95
×:94〜1
××:0(全て剥離)
<耐スクラッチ性>
積層体の硬化物表面に対して、耐摩耗試験機(型式IMC−154A型、株式会社井元製作所製)を用いて、所定の荷重の下、スチールウール#0000番を、往復速度30mm/秒、往復距離25mmで10回往復させた後、傷つき度合いを目視により観察し、以下の基準で評価した。
【0161】
○:荷重200g/cm変化なし(傷が認められない)
×:荷重200g/cmで数本の傷が認められる
<鉛筆硬度>
積層体の硬化物表面に対して、鉛筆引っかき硬度試験機(株式会社安田精機製作所製)を用いて、JIS−K5400に準拠して測定した。なお荷重は1,000gであった。
【0162】
<反り量>
15cm×15cmに切り出した積層体を、温度25℃の条件下で水平台に塗布面を上面側に置いた後、四隅の水平台からの浮き高さの平均値を測定し、以下の基準で評価した。
【0163】
◎:3mm未満
○:3mm以上8mm未満
△:8mm以上15mm未満
×:15mm以上
<分子量>
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、THFを移動相とし、温度40℃、流速0.3mL/minの条件下で、東ソー株式会社製のカラム TSK−gel SuperHM−H 2本、TSK−gel SuperH2000 1本を用い、東ソー株式会社製のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置 HLC−8220GPCにより求め、標準ポリスチレン換算した値である。なお、ビニル系重合体及び基材の耐熱アクリル樹脂ともに同法にて分析した。
【0164】
<重合反応率、重合体組成分析>
重合反応時の反応率および重合体中の特定単量体単位の含有率は、得られた重合反応混合物中の未反応単量体の量をガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、装置名:GC17A)を用いて測定して求めた。
【0165】
<ダイナミックTG>
重合体(もしくは重合体溶液あるいはペレット)を一旦テトラヒドロフランに溶解もしくは希釈し、過剰のヘキサンもしくはメタノールへ投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分などを除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析した。
【0166】
測定装置:Thermo Plus2 TG−8120 Dynamic TG((株)リガク社製)
測定条件:試料量 5〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー 200ml/min
方法:階段状等温制御法(60℃〜500℃の間で重量減少速度値0.005%/sec以下で制御)
<脱アルコール反応率とラクトン環構造の占める割合>
まず重合で得られた重合体組成から、全ての水酸基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる重量減少量を基準にし、ダイナミックTG測定において重量減少が始まる前の150℃から重合体の分解が始める前の300℃までの脱アルコール反応による重量減少から、脱アルコール反応率を求めた。
【0167】
すなわち、ラクトン環構造を有した重合体のダイナミックTG測定において、150℃から300℃までの間の重量減少率の測定を行い、得られた実測重量減少率を(X)とする。他方、当該重合体の組成から、その重合体組成に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成に関与するためアルコールになり、脱アルコールすると仮定した時の理論重量減少率(すなわち、その組成上において100%脱アルコール反応が起きたと仮定して算出した重量減少率)を(Y)とする。なお、理論重量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール反応に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体のモル比、すなわち、当該重合体組成における前記原料単量体の含有率から算出することができる。これらの値(X,Y)を脱アルコール計算式:
1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))
に代入してその値を求め、%で表記すると脱アルコール反応率が得られる。
【0168】
例として、後述の製造例1で得られるペレットにおいて、ラクトン環構造の占める割合を計算する。この重合体の理論重量減少率(Y)を求めてみると、メタノールの分子量は32であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの分子量は116であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの重合体中の含有率(重量比)は組成上20重量%であるから、(32/116)×20≒5.52%となる。
【0169】
他方、ダイナミックTG測定による実測重量減少率(X)は0.15重量%であった。これらの値を上記の脱アルコール計算式に当てはめると、1−(0.15/5.52)≒0.973となるので、脱アルコール反応率は98.3%である。
【0170】
そして、この脱アルコール反応率の分だけ所定のラクトン環化が行われたものとして、ラクトン環化に関する構造(ヒドロキシ基)を有する原料単量体の当該共重合組成における含有率(重量比)に、脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環単位の構造の含有割合を算出することができる。
【0171】
製造例1の場合、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの当該共重合体における含有率が15.0重量%、算出した脱アルコール反応率が97.3重量%、分子量が116の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがメタクリル酸メチルと縮合した場合に生成するラクトン環化構造単位の式量が170であることから、当該共重合体中におけるラクトン環の含有割合は28.5(20.0×0.973×170/116)重量%となる。
【0172】
<樹脂の熱分析>
アクリル系樹脂の熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、DSC((株)リガク社製、装置名:DSC−8230)を用いて行った。なお、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に従い、中点法で求めた。
【0173】
<メルトフローレート>
メルトフローレートは、JIS−K7210に基づき、試験温度240℃、荷重10kgで測定した。
【0174】
<溶融粘度>
十分に乾燥したアクリル系樹脂のペレットの溶融粘度を、ボーリンインストルメンツ社製キャピラリーレオメーターRH10を用いて測定した。
【0175】
<フィルム中のMMA残揮成分の定量>
フィルムをジメチルアセトアミドに溶解して10質量%溶液を作成し、炭酸ジフェニルを内標としてガスクロマトグラフィーにて定量した。
【0176】
<b値>
光学用フィルムのb値を、(日本電色社製色差計ND−1001DP)を用いて測定した。
【0177】
b値とは、JIS Z8729に基づく色相の表示でb*の値を示すものであり、光学用フィルムを標準白色板に重ねることによって測定した10箇所の平均値として求めた。
【0178】
<延伸>
フィルムの延伸は、株式会社東洋精機製作所製、コーナーストレッチ式二軸延伸試験装置X6−Sを用いた。
【0179】
<フィルムの方向>
フィルムを押出機で成形し、ロール状の未延伸フィルムのサンプルを取得した。フィルムの方向の呼称は、ロールの幅方向をTD方向、長い方向(長手方向)をMD方向とした。
【0180】
<光学特性>
波長589nmにおける、フィルム厚さ100μmあたりのフィルム面内の位相差値および厚さ方向位相差は、王子計測器社製KOBRA−WRを用いて測定したフィルム面内位相差値(Re)および厚さ方向位相差値(Rth)の値から算出した。
【0181】
アッベ屈折率計で測定したフィルムの平均屈折率、膜厚d、傾斜中心軸として遅相軸、入射角を40°と入力し、面内位相差値(Re)及び厚さ方向位相差値(Rth)、遅相軸を傾斜軸として40°傾斜させて測定した位相差値(Re(40°))、三次元屈折率nx、ny、nzの値を得た。
【0182】
全光線透過率およびヘイズは、日本電色工業社製NDH−1001DPを用いて測定した。屈折率は、JIS K 7142に準拠して、測定波長589nmに対する、23℃での値を屈折計((株)アタゴ社製、装置名:デジタルアッベ屈折計DR−M2)を用いて測定した。
【0183】
<フィルムの厚さ>
デジマチックマイクロメーター((株)ミツトヨ製)を用いて測定した。
<可とう性>
フィルムの可とう性は、フィルムを延伸した方向および延伸した方向と垂直の方向の二方向でそれぞれ試験を行った。二軸延伸したフィルムの場合は、直交する二つの延伸方向で試験を行なった。25℃、65%RHの雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて180°折り曲げた際、二方向ともクラックを生じない状態を「○」、一方向のみクラックを生じる状態を「△」、二方向両方でクラックが生じる状態を「×」として評価した。
【0184】
<製造例1>
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した1m2の反応釜に、136kgのメタクリル酸メチル(MMA)、34kgの2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、166kgのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として187gのターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルパゾール570)を添加すると同時に、374gの重合開始剤と3.6kgのトルエンからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0185】
得られた重合体溶液に、170gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学製、商品名:Phoslex A−18)を加え、還流下(約90〜110℃)で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度250℃、回転数150rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で13kg/時間の処理速度で導入し、該押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押出すことにより、透明なペレットを得た。
【0186】
得られたペレットをダイナミックTGで測定したところ0.15質量%の質量減少を検知した。また、このラクトン環含有重合体は重量平均分子量が147,000、メルトフローレートが11.0g/10min、ガラス転移温度が130℃、また270℃、せん断速度100(1/s)における粘度は470Pa・sであった。
【0187】
次いでφ50mm、多条フライト構造のミキシング部を有するフルフライト型スクリューからなるL/D=36の単軸押出し機を用い、耐熱アクリル樹脂ペレット90部、AS樹脂(旭化成ケミカルズ社製スタイラックAS783)10部および酢酸亜鉛0.04部をシリンダ設定温度270℃にて50kg/hの処理速度で溶融押出しをおこない、ペレット(1A)を作成した。
【0188】
ペレット(1A)を、φ65mm、L/D=32、バリアフライト型スクリューを有するベント付き単軸押出機に仕込んだ。ペレット(1A)の温度は、ホッパーに加温した除湿空気を送風することにより、60℃前後にした。また、ホッパー下部に窒素導入管を設けて、押出機内に窒素ガスを導入した。ベント口から13hPa(10mmHg)にて吸引を行いながら、バリアフライト型スクリューにて溶融混練した。溶融混練後、ペレット(1A)は、ギアポンプを用いて、ろ過面積0.75m2、ろ過精度5μmのリーフディスクフィルターに通し、幅700mmのTダイより、90℃の冷却ロール上にフィルム(1B)を成形した。シリンダ、ギアポンプ、フィルター、Tダイの温度は、265℃に設定した。得られたフィルム(1B)の膜厚は90μmであった。単位時間当たりの押出量は33kg/hrとし、3時間連続して成形したが、Tダイのリップにいわゆる目ヤニは見られなかった。
【0189】
得られたフィルムに含まれるMMAは530ppmであった。原料であるアクリル系樹脂組成物中に含まれるMMAは500ppmであり、フィルム成形においてほとんど増加は見られなかった。したがって、フィルムの製造中に分解劣化は起こっていないことがわかる。また、フィルムの外観も良好であった。具体的には、b値が0.70であり、きょう雑物の含有量が4個/m2であった。

【0190】
得られた未延伸フィルム(1B)を、縦横共に127mmの正方形に切り出し、MD方向が延伸方向となるように延伸機のチャックにセットした。チャックの内側の距離は縦横共に110mmとした。155℃で3分間予熱後、5秒間で倍率1.8倍になるように1段目の1軸延伸を行った。横方向は収縮しないようにした。延伸終了後、速やかにサンプルを取り出して冷却した。このフィルムを縦横ともに97mmの正方形に切り出し、2段目の延伸を行った。延伸方向は1段目の延伸方向と直交する方向とした。チャックの内側の距離は縦横共に80mmとした。138℃で3分間予熱後、2分30秒で2.5倍になるように2段目の1軸延伸を行った。横方向は収縮しないようにした。得られた逐次2軸延伸フィルムからサンプルを切り出し、光学特性を測定したところ、面内位相差値は46nm(100μmあたりでは115nm)、厚さ方向位相差値は57nm(100μmあたりでは143nm)、全光線透過率は93%であった。また、測定したフィルムの厚さは40μm、ガラス転移温度は134℃、可とう性の判定結果は○であった。
【0191】
<製造例2>
重合反応は、充分に乾燥した三方コック付きガラス容器を用いて、乾燥した窒素雰囲気下で行った。まず、室温で、このガラス容器に、充分に乾燥および精製したトルエン159mLおよび酢酸エチル25mL、1−イソブトキシエチルアセテート0.2モル/Lのトルエン溶液5mLを加えた。さらに、エチルアルミニウムジクロリド0.1モル/Lのトルエン溶液25mLを加えて混合した後、30分間放置して反応開始種を生成させた。次いで、系内を0℃に冷却した後、0℃に予冷したアクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル(VEEA)0.2モルを加え、さらに、0℃に予冷した四塩化スズ0.05モル/Lのトルエン溶液25mLを加えて反応を開始した。14分間重合を行った後、メタノールを加えて反応を停止させた。反応を終えた混合液中にクロロホルムを加え、水洗により重合開始剤の残渣を除去した。次いで、エバポレーターで濃縮した後、真空乾燥させて、ビニル系重合体(PVEEA)を得た。単量体の反応率は、反応停止後の混合液をガスクロマトグラフィー(GC)で分析することにより、98%であることが判明した。また、得られたビニル系重合体の数平均分子量(Mn)は14,200、分子量分布(Mw/Mn)は1.10であった。さらに、得られたビニル系重合体のH−NMR測定(測定溶媒:重水素化クロロホルム、測定機器:Varian社製の400MHz H−NMR UNITYplus400)を行ったところ、アクリロイル基が残存し、選択的にビニルエーテル基が重合しており、側鎖にラジカル重合可能な二重結合を有するアクリロイル基ペンダント型重合体であることが確認された。

<実施例1>
製造例2で得られたビニル系重合体(PVEEA)100質量部、メチルエチルケトン(MEK)100部、光重合開始剤1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(商品名「イルガキュア184」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)3質量部、表面調整剤ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(商品名「BYK306」、ビックケミー・ジャパン株式会社製)0.1部を混合・攪拌して塗工液を調整した。
【0192】
製造例1で得られたラクトン環を含有する(メタ)アクリル樹脂フィルム上に、バーコーター#5を用いて、塗工液を塗布した。その後、80℃で2分間加熱乾燥してMEKを蒸発させ、樹脂層(ハードコート層)を形成した。このフィルムを高圧水銀ランプを用い、照度150mW/cm2、照射積算光量300mJ/cmの条件で紫外線硬化させ、ハードコート層付きフィルム(積層体)を得た。ハードコート層の厚さを測定したところ、3μmであった。
【0193】
またバーコーター#14を使用する以外は同様にして、ハードコート層の厚さ10μmを有する積層体を得た。積層体の評価を表1に示す。

<実施例2〜10、比較例11〜14、参考例15>
実施例1と同様の装置を用い、表2に示す組成物混合比率、および原料にて、積層体を作成した。評価結果について表1に示す。
【0194】
【表1】

【0195】

なお、表中の略称は下記の通りである。
【0196】
U−15HA、Uー6LPA:新中村化学製 硬質ウレタンアクリレート
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート
3000M:共栄社化学製 硬質エポキシアクリレート
光重合開始剤:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(商品名「イルガキュア184」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)
表面調整剤:ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(商品名「BYK306」、ビックケミー・ジャパン株式会社製)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱アクリル樹脂を主成分として含む基材の表面に、ケトン系溶剤とビニル系化合物を含有する樹脂組成物を塗布して得られる層が形成された積層体。
【請求項2】
溶剤として、ケトン系溶剤の含有比率が50質量%以上である請求項1記載の積層体。
【請求項3】
ビニル系化合物として
下記式(1):
【化1】


[式中、Rは炭素数2〜8のアルキレン基、Rは水素原子またはメチル基、mは正の整数である]
で示される繰り返し単位を有するビニル系重合体を含有する請求項1または2いずれかに記載の積層体。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の積層体を使って得られた画像表示装置。

【公開番号】特開2009−72990(P2009−72990A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243141(P2007−243141)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】