説明

積層成形体の製造方法

【課題】金型と芯材の接触面積を小さくして、連続押出成形の安定性を容易にコントロールすることが可能にする積層成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】金型12を型締めして形成された芯材通路10に熱可塑性樹脂シートの芯材1を一方向Tに送りながら、金型12に形成された供給口7から芯材1の一面1aに熱可塑性樹脂2を供給して積層させることにより積層成形体3を製造する方法において、芯材通路10を形成し、芯材1の他面1bが接触して芯材1を滑動させる金型12の滑動面11aを凹凸状にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形によって芯材に熱可塑性樹脂を積層して積層成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雨樋等の建築部材の材料として、耐水性、難燃性、機械的特性に優れ、且つ価格が比較的安価であるため、塩化ビニル系樹脂が多用されているが、例えば、塩化ビニル系樹脂を用いて製造した雨樋は、塩化ビニル系樹脂の線膨張係数が7.0×10(1/℃)と大きいため、雨樋の設置時に伸縮を吸収しうる継手で接続したり、端部を自由端にする必要があった。
【0003】
このため、線膨張係数が低いポリエステル系樹脂シート(熱可塑性樹脂シート)を芯材とし、この芯材に塩化ビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂を押出成形によって一体に積層して雨樋などの積層成形体を製造することが提案、実用化されている(例えば、特許文献1参照)。また、PETシートなどのポリエステル系樹脂シートをある程度加熱しながら一定方向に引っ張って延伸すると、延伸方向に分子配列が生じて機械的強度を向上させることができることから、引抜延伸したポリエステル系樹脂シートを芯材として用いるようにしている。
【0004】
さらに、図4に示すように、引抜延伸したポリエステル系樹脂シートなどの熱可塑性樹脂シートを芯材1とし、この芯材1に熱可塑性樹脂2を積層して雨樋などの積層成形体3を製造する際には、例えば、良く磨かれ、あるいはメッキコーティングが施された平滑面(滑動面4a)を有する内型4と、ポリエステル系、ポリオレフィン系等の接着剤5を供給する第1供給口6、熱可塑性樹脂2を供給する第2供給口7などの複数の供給口を有する外型8とからなる金型9を使用する。
【0005】
また、このような金型9を外型8の供給口6、7と内型4の平滑面4aを対向させて型締めすると、外型8と内型4の間に芯材通路10が形成され、この芯材通路10に、内型4の平滑面4a上を滑動させながら芯材1を一方向(送り方向T)に送る。そして、芯材1を芯材通路10に送りながら、第1供給口6から接着剤5を供給して芯材1の積層面(一面)1aに積層させ、さらに第2供給口7から熱可塑性樹脂2を供給して接着剤5上に積層させ、雨樋などの積層成形体3を連続成形するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−105368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ポリエステル系樹脂シート、特にPETシートなどの熱可塑性樹脂シートを芯材1とし、加熱溶融した熱可塑性樹脂2を外型8の供給口7から供給して積層する場合には、外型8から内型4、さらに内型4の平滑面4aに接触する芯材1の接触面(他面)1b側から芯材1に高温の熱が伝わり、芯材1が軟化(芯材1の粘性が増加)する。そして、例えば、送り方向Tの第1供給口6から第2供給口7までの接着剤5を積層した部分H1と、第2供給口7から熱可塑性樹脂2を積層した部分H2とにおける芯材1の接触面1bと内型4の平滑面4aの間の摩擦力に差が生じ(摩擦差が発生し)、この摩擦差に起因して連続成形の安定性がコントロールできなくなる場合があった。
【0008】
なお、PETシートなど、加熱されて軟化すると金属(金型9)に付着しやすくなるポリエステル系樹脂シートを芯材1に用いた場合に、大きな摩擦差が発生する傾向にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の積層成形体の製造方法は、金型を型締めして形成された芯材通路に熱可塑性樹脂シートの芯材を一方向に送りながら、前記金型に形成された供給口から前記芯材の一面に熱可塑性樹脂を供給して積層させることにより積層成形体を製造する方法であって、前記芯材通路を形成し、前記芯材の他面が接触して前記芯材を滑動させる前記金型の滑動面を凹凸状にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の積層成形体の製造方法においては、芯材通路を形成し、芯材の他面が接触して芯材を滑動させる金型の滑動面を凹凸状にしたことで、芯材と金型(芯材の他面と金型の滑動面)の接触面積を小さくすることができる。これにより、供給口から熱可塑性樹脂を供給して芯材の一面に積層する際に、金型から芯材に熱が伝わりにくくなり、芯材の軟化あるいは粘性の増加を低減することが可能になる。
【0011】
このため、芯材と金型の摩擦抵抗が小さくなり、芯材ひいては積層成形体にアバレが発生することがなく、連続成形の安定性を確保することができる。よって、熱可塑性樹脂の供給や、金型の温度をコントロールすることなく、予め金型の滑動面の形状を凹凸状にしておくことで、連続成形の安定性を容易にコントロールすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る積層成形体の製造方法(金型)を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る金型(内型)を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る金型(内型)の変形例を示す斜視図である。
【図4】従来の積層成形体の製造方法(金型)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1から図3を参照し、本発明の一実施形態に係る積層成形体の製造方法について説明する。
【0014】
本実施形態の積層成形体3は、図1に示すように、引抜延伸したポリエステル系樹脂シートの芯材1に、接着剤5を積層し、さらに熱可塑性樹脂2を積層して形成されている。
【0015】
そして、この積層成形体3は、芯材1のポリエステル系樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート/乳酸、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレート等が用いられる。
【0016】
また、接着剤5として、ホットメルト型接着剤や反応性接着剤が用いられ、ホットメルト型接着剤としては、例えば、ウレタン系ホットメルト型接着剤、ポリエステル系ホットメルト型接着剤、ゴム系ホットメルト型接着剤、オレフィン系ホットメルト型接着剤、アクリル系ホットメルト型接着剤、アミド系ホットメルト接着剤等が挙げられる。また、反応性接着剤としては、例えば、シリコーン系接着剤、変成シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤等が挙げられる。
【0017】
熱可塑性樹脂2としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、スチレン樹脂、AS樹脂、メチルメタクリレート樹脂、エチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。
【0018】
そして、本実施形態の積層成形体3は、雨樋であり、引抜延伸したポリエステル系樹脂シートの芯材1を断面コ字状に成形し、この芯材1を外型8と内型11の間に形成された芯材通路10に一方向(送り方向T)に送りながら積層面(一面)1aに順次接着剤5、熱可塑性樹脂2を積層して形成される。
【0019】
このとき、本実施形態の金型12は、図1に示すように、3つのブロック状の金型片8a、8b、8cからなる外型8と、1つのブロック状の内型11とで構成され、外型8は、3つの金型片8a、8b、8cを組み付けて型締めすることにより、接着剤5を供給するための第1供給口(第1供給流路)6と、熱可塑性樹脂2を供給するための第2供給口(第2供給流路)7が形成される。そして、この金型12は、外型8と内型11を型締めすることにより、外型8と内型11の間に芯材1を一方向Tに送るための芯材通路10が形成され、芯材1の送り方向T上流側に第1供給口6が、下流側に第2供給口7がそれぞれ形成される。
【0020】
一方、本実施形態の金型12においては、図2(及び図1)に示すように、外型8側を向き、芯材1の接触面(他面)1bが接触して芯材1を送り方向Tに滑動させる内型11の滑動面11aが、図4に示した従来の内型4のように良く研磨したり、メッキコーティングを施して平滑面4aとして形成されているのではなく、凹凸状に形成されている。また、本実施形態では、この内型11の滑動面11aが送り方向Tに沿う複数のスリット13を設けて凹凸状に形成されている。さらに、このように複数のスリット13を設けて滑動面11aを形成する場合には、凸部14とスリット(凹部)13の幅L1、L2を同等にしたり、スリット13の深さBを芯材(ポリエチレン系樹脂シート)1の厚さt1よりも大きくすることが望ましい。
【0021】
なお、本実施形態では、断面方形状のスリット13を設けるようにしているが、断面三角形状のスリット13を設けてもよく、特にスリット13(ひいては凸部14)の断面形状を限定する必要はない。また、凸部14の先端面(滑動面11a)とスリット13の内面が交差する角部15を面取りし、曲面状に形成するなどして滑らかに繋がるようにすることが望ましい。
【0022】
さらに、内型11の滑動面11aは、図3に示すように、放電加工やブラスト加工を施し、シボ(凹凸)によって凹凸状に形成してもよく、また、スリット13とシボを組み合わせて凹凸状に形成してもよい。そして、シボによって凹凸状にする場合には、15μm以上のシボ(凸部)が形成されるようにすることが望ましい。また、表面を凹凸状に加工後、メッキコーティングするのもよい。
【0023】
そして、このように内型11の滑動面11aを凹凸状にすることによって、芯材通路10を一方向Tに送られる芯材1の接触面1bと内型11の滑動面11aの接触面積が小さくなる。これにより、図1に示すように、第1供給口6から芯材1の積層面1aに接着剤5が、第2供給口7から熱可塑性樹脂2がそれぞれ積層される際に、外型8から内型11、内型11から芯材1に熱が伝わりにくくなり、芯材1の軟化あるいは粘性の増加が低減される。このため、送り方向Tの第1供給口6から第2供給口7までの接着剤5を積層した部分H1と、第2供給口7から熱可塑性樹脂2を積層した部分H2とにおける芯材1の接触面1bと内型11の滑動面11aの間の摩擦差が小さくなり(芯材1と内型11の摩擦抵抗が小さくなり)、連続成形の安定性が確保され、芯材1ひいては積層成形体3にアバレが発生することがなく、コントロールが容易になる。
【0024】
さらに、このとき、スリット13の深さBを芯材1の厚さt1よりも大きくしておくことで、軟化した芯材1の接触面1bがスリット13の底面に接触することがなく、この点からも芯材1と内型11の摩擦抵抗が小さく維持され、連続成形の安定性が確保される。
【0025】
したがって、本実施形態の積層成形体の製造方法によれば、芯材通路10を形成し、芯材1の接触面(他面)1bが接触して芯材1を滑動させる金型12の滑動面11aを凹凸状にしたことで、芯材1と金型12(芯材1の接触面1bと金型12の滑動面11a)の接触面積を小さくすることができる。これにより、供給口6、7から接着剤5や熱可塑性樹脂2を供給して芯材1の積層面(一面)1aに積層する際に、金型12から芯材1に熱が伝わりにくくなり、芯材1の軟化あるいは粘性の増加を低減することが可能になる。
【0026】
このため、芯材1と金型12の摩擦抵抗が小さくなり、芯材1ひいては積層成形体3にアバレが発生することがなく、連続成形の安定性を確保することができる。よって、熱可塑性樹脂5の供給や、金型12の温度をコントロールすることなく、予め金型12の滑動面11aの形状を凹凸状にしておくことで、連続成形の安定性を容易にコントロールすることが可能になる。
【0027】
以上、本発明に係る積層成形体の製造方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、積層成形体3が雨樋であるものとして説明を行ったが、本発明に係る積層成形体は雨樋に限定しなくてもよく、本発明を他の積層成形体に適用しても本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0028】
また、本実施形態では、芯材1に接着剤5と熱可塑性樹脂2を1層ずつ積層して積層成形体3を製造するようにしているが、熱可塑性樹脂2を複数層芯材1に積層して積層成形体3を製造する場合であっても、本発明を適用し、本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 芯材
1a 積層面(一面)
1b 接触面(他面)
2 熱可塑性樹脂
3 積層成形体
4 従来の内型
4a 滑動面(平滑面)
5 接着剤
6 第1供給口(供給口)
7 第2供給口(供給口)
8 外型
8a 金型片
8b 金型片
8c 金型片
9 従来の金型
10 芯材通路
11 内型
12 金型
13 スリット(凹部)
14 凸部
15 角部
B スリットの深さ
H1 第1供給口から第2供給口までの部分
H2 第2供給口から熱可塑性樹脂を積層した部分
L1 内型の凸部の幅
L2 内型の凹部(スリット)の幅
T 送り方向(一方向)
t1 芯材の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型を型締めして形成された芯材通路に熱可塑性樹脂シートの芯材を一方向に送りながら、前記金型に形成された供給口から前記芯材の一面に熱可塑性樹脂を供給して積層させることにより積層成形体を製造する方法であって、
前記芯材通路を形成し、前記芯材の他面が接触して前記芯材を滑動させる前記金型の滑動面を凹凸状にしたことを特徴とする積層成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−240655(P2011−240655A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116389(P2010−116389)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】