説明

積層成形品の成形方法、射出ノズルおよび積層成形品の成形装置

【課題】格別に大型の金型と型締装置を使用することなく、高い成形効率かつ低コストで積層成形品を成形できる成形方法を提供する。
【解決手段】第1、2の射出機(2、3)と、これらとノズル取付体(5)を介して接続されている1個の射出ノズル(6)とを使用して射出成形する。第1、2の射出機(2、3)の第1、2のスクリュ(9、16)を駆動して、粘性係数の等しい第1、2の溶融樹脂を同時に射出する。このとき、前記第1、2の溶融樹脂が層流を保ってスプル(61)とランナ(64)内を流れるような速度で第1、2のスクリュ(9、16)を駆動する。そうすると、前記第1、2の溶融樹脂は分離した状態で金型のキャビティに充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱シリンダと該加熱シリンダ内で回転方向と軸方向に駆動可能なスクリュを備えた第1、2の射出機と、これらにノズル取付体を介して接続されている1個の射出ノズルとを使用して積層成形品を得る成形方法、この成形方法の実施に使用される射出ノズルおよび積層成形品の成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2種類以上の樹脂材料から成形される成形品は、多色成形品あるいは積層成形品と呼ばれており、このような積層成形品として、例えば小魚の形状をした釣用の疑似餌すなわちルアーを挙げることができる。小魚は、背びれ側の半分は黒色を帯びた色、腹側の半分は銀白色になっており、鳥や水底に潜む大型の肉食魚から識別されにくいようになっている。従って、小魚の形状をしたルアーも、小魚を摸して、背びれ側は黒色を帯びた樹脂から、腹側は銀白色の樹脂から形成されている。このような積層成形品であるルアーは、固定側金型とスライド金型とを使用して、いわゆるダイ・スライド・インジェクション法によって一対の金型内で成形することができる。スライド金型は、固定側金型に対して型締されると共に、固定側金型と平行にスライドされる金型であり、そのパーティング面には、背びれ側成形用の凹部が形成されている。そして、固定側金型には所定の大きさの平らなパーティング面と、腹側成形用の凹部が形成され、平らなパーティング面には第1のゲートが、腹側成形用の凹部には第2のゲートがそれぞれ開口している。最初に、所定の位置にしてスライド側金型を型締する。そうすると、背びれ側成形用の凹部と平らなパーティング面によって背びれ側半成形品の成形用のキャビティが構成される。1次射出成形によって第1のゲートから黒色を帯びた樹脂を射出して背びれ側半成形品を成形する。スライド側金型に半成形品を残して型開し、スライド側金型をスライドして背びれ側半成形品と腹側成形用の凹部を対向させ、型締する。形成されているキャビティに2次射出成形によって第2のゲートから銀白色の樹脂を射出する。樹脂の冷却固化を待って型開する。そうすると、異なる2種類の樹脂からなるルアーが得られる。従って、従来のダイ・スライド・インジェクション法によれば、2回の射出工程を経て1個のルアーが得られることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−52377号公報
【特許文献2】特開2001−162650号公報
【0004】
ダイ・スライド・インジェクション法の一種であり本出願人の提案に係る成形方法が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の成形方法は、2個のスライド側凹部が設けられているスライド金型と、2個の固定側コアと1個の固定側凹部が設けられている固定側金型とを使用して、積層成形品を成形する成形方法である。このスライド金型はスライド位置を2位置採ることができ、いずれのスライド位置において型締しても、1個のスライド側凹部と1個の固定側コアとから1次成形用キャビティが1個形成され、他の1個のスライド側凹部と固定側凹部とから2次成形用キャビティが1個形成されるようになっている。一方のスライド側凹部に、前回の1次射出成形によって得られた半成形品が残された状態で、半成形品と固定側凹部が対向する位置にスライド金型をスライドして型締する。そうすると、半成形品が残った2次成形用キャビティが1個と、1次成形用キャビティが1個構成される。実質的に同時に1次射出成形と2次射出成形を実施する。そうすると、1個の積層成形品と1個の半成形品が得られる。この半成形品は次回の射出工程のためにスライド側凹部に残される成形品である。このようにして成形されるので、特許文献1に記載の成形方法においては、1回の射出工程で1個の積層成形品が得られることになる。
【0005】
2種類の樹脂を実質的に同時に射出して、コアとスキン層が異なる樹脂から形成された成形品を得る、いわゆるサンドイッチ成形法は周知である。サンドイッチ成形法は、所定のノズル取付体によって結合されている2頭の射出機と、ノズル取付体の先端に設けられている共通の1個の射出ノズルとを使用して射出成形する成形方法であり、特許文献としては、例えば本出願人によって出願されている特許文献2を挙げることができる。サンドイッチ成形法は、一方の射出機によって第1の樹脂を所定量だけキャビティに射出し、その直後に他方の射出機によって第2の樹脂を射出する。溶融樹脂はキャビティの壁面に沿って流れるので、最初に射出された流動性の高い第1の樹脂がキャビティの壁面近傍に流れてスキン層が形成され、直後に射出される第2の樹脂が第1の樹脂の内側に充填されてコアが形成される。従って、サンドイッチ成形法によると、実質的に1回の射出工程で、異なる樹脂材料からなる成形品を得ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来周知のダイ・スライド・インジェクション法あるいはその一種である特許文献1に記載の成形方法によっても、ルアー等の積層成形品を得ることはできる。しかしながら、改良すべき点も見受けられる。例えば、金型が大型化してしまうという問題がある。特許文献1に記載の成形方法も同様であるが、いわゆるダイ・スライド・インジェクション法においては、金型に1次成形用のキャビティと2次成形用のキャビティを必要とする。従って、1個の積層成形品に対して2個のキャビティが必要になり金型が大型化してしまう。そうすると、大型の型締装置が必要になりコスト高になる。また、積層成形品を得るためには2回の射出工程を実施する必要があり、成形効率が十分に高いとは言えずコスト高になってしまう問題もある。特許文献1に記載の成形方法においては、1回の射出工程で1個の積層成形品が得られるが、半成形品が成形されるので、実際には2回の射出工程が必要になり問題は変わらない。すなわち、成形効率は十分に高いとは言えない。
【0007】
特許文献2に記載のようなサンドイッチ成形法を応用する方法も考えられる。すなわち、射出ノズルから第1の溶融樹脂を射出してキャビティに半分だけ充填する。その直後に同じ射出ノズルから第2の溶融樹脂を射出して、最初にキャビティ内に充填された第1の溶融樹脂を押し出して、キャビティの奥の方に押し込むようにする。もし、第2の溶融樹脂によって第1の溶融樹脂を適切に押し出すことができれば、第1、2の樹脂からなる積層成形品が得られると考えられる。しかしながら、最初にキャビティ内に充填された第1の溶融樹脂は、キャビティの内壁面で冷却されて内壁面に付着するので、第2の溶融樹脂によって適切に押し出されることを期待することはできないし、第1の溶融樹脂がキャビティ内の所望の部分に押し込まれる保障もない。そうすると、サンドイッチ成形法を応用するだけでは積層成形品を成形することはできないと考えるべきである。
【0008】
本発明は、上記したような問題点を解決した積層成形品の成形方法、射出ノズルおよび積層成形装置を提供することを目的としており、具体的には、格別に大型の金型を必要とせず、従って大型の型締装置を使用することなく、実質的に1回の射出工程によって積層成形品を効率よく低コストで得ることができる積層成形品の成形方法、およびこのような成形方法を実施するために使用される射出ノズル、および積層成形装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、第1、2の射出機と、これらの射出機とノズル取付体を介して接続されている1個の射出ノズルとを使用して射出成形するように構成される。第1、2の射出機から、粘性係数の等しい第1、2の溶融樹脂を実質的に同時に射出する。このとき、前記第1、2の溶融樹脂が層流を保ってスプルとランナを圧送されるようにする。そうすると、前記第1、2の溶融樹脂が分離した状態で金型のキャビティに充填され、積層成形品を成形することができる。このような成形方法に使用される射出ノズルには、前記第1、2の溶融樹脂が圧送される第1、2のノズル内流路が内部に設けられる。そして、第1、2のノズル内流路が射出ノズル先端部近傍で合流するようにして、前記第1、2の溶融樹脂が射出ノズルから射出されるとき、層流状態で射出されるように構成される。
【0010】
かくして、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、加熱シリンダと該加熱シリンダ内で回転方向と軸方向に駆動されるスクリュとを備えた第1、2の射出機と、これらにノズル取付体を介して接続されている1個の射出ノズルとを使用して積層成形品を得る成形方法であって、前記第1、2の射出機のそれぞれの前記スクリュを軸方向に実質的に同時に駆動して、粘性係数が実質的に等しい第1、2の溶融樹脂を前記射出ノズルから実質的に同時に射出して、スプルおよびランナを経由してキャビティ内に射出充填するとき、前記第1、2の射出機の前記スクリュの駆動速度を調整して、前記第1、2の溶融樹脂を層流状態で前記射出ノズル内と前記スプルと前記ランナ内を圧送し、それによって前記第1、2の溶融樹脂が分離した状態で前記キャビティに充填されるように構成される。
【0011】
請求項2に記載の発明は、第1、2の射出機にノズル取付体を介して取り付けられている射出ノズルであって、前記ノズル取付体には、前記第1、2の射出機から射出される粘性係数が実質的に等しい第1、2の溶融樹脂を導く、第1、2のノズル取付体内流路がそれぞれ設けられ、前記射出ノズルには、前記第1、2のノズル取付体内流路のそれぞれに連通する第1、2のノズル内流路が設けられ、前記第1、2のノズル内流路は、前記射出ノズル先端部近傍で合流しており、前記第1、2の射出機から前記第1、2の溶融樹脂が実質的に同時に射出されると、前記射出ノズルから前記第1、2の溶融樹脂が層流状態で射出されるようになっている。請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の射出ノズルにおいて、前記射出ノズルは、前記ノズル取付体に対して軸方向に回転させることができるようになっており、前記射出ノズルには、第3、4のノズル内流路がさらに設けられ、前記第3、4のノズル内流路は、前記射出ノズル先端部近傍で前記第1、2のノズル内流路と合流しており、前記射出ノズルが第1の回転位置を採ると、前記第1、2のノズル取付体内流路のそれぞれと前記第1、2のノズル内流路が連通し、第2の回転位置を採ると、前記第1のノズル取付体内流路と前記第3のノズル内流路のみが連通し、第3の回転位置を採ると前記第2のノズル取付体内流路と前記第4のノズル内流路のみが連通して、前記第1、2の溶融樹脂の両方またはいずれか一方を選択的に射出することができるようになっている。
【0012】
請求項4に記載の発明は、粘性係数が実質的に等しい第1、2の溶融樹脂を射出する第1、2の射出機と、前記第1、2の射出機が接続されているノズル取付体と、前記ノズル取付体に取り付けられている請求項2または3に記載の射出ノズルとからなるように構成されている。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によると、第1、2の射出機と、これらに所定のノズル取付体を介して接続されている1個の射出ノズルとを使用して、第1、2の射出機のそれぞれのスクリュを軸方向に実質的に同時に駆動して積層成形品を得るので、すなわち1回の射出工程で積層成形品が得られるので、成形効率が高い。従って、低コストで成形品を得ることができる。また、1回の射出工程で積層成形品が得られるので、金型に形成されるキャビティの個数は少なくて済み、大型の金型を必要としない。従って、格別に大型の型締装置も必要としない。そして、本成形方法においては、粘性係数が実質的に等しい第1、2の溶融樹脂を射出ノズルから実質的に同時に射出するので、スプルおよびランナ内を圧送される第1、2の溶融樹脂の管内抵抗が実質的に同じになる。これは、スプルおよびランナ内を同時に流れる第1、2の溶融樹脂が、層流状態を維持できるための必要条件になっている。そして、スプルおよびランナを経由してキャビティ内に射出充填するとき、第1、2の射出機のスクリュの駆動速度を調整して、第1、2の溶融樹脂が層流状態で射出ノズル内とスプルとランナ内を圧送され、それによって第1、2の溶融樹脂を分離した状態でキャビティに到達させて充填するように構成されているので、第1、2の溶融樹脂が混ざり合わないことを保障することができる。つまり、品質の高い積層成形品を得ることができる。
【0014】
また、射出ノズルに関する発明によると、射出ノズルは、第1、2の射出機にノズル取付体を介して設けられ、該射出ノズル内には、第1、2の溶融樹脂が圧送される第1、2のノズル内流路が設けられ、これらは射出ノズル先端部近傍で合流しているので、実質的に同時に第1、2の溶融樹脂を射出することができる。そして、射出ノズルから第1、2の溶融樹脂が層流状態で射出されるように構成されているので、第1、2の溶融樹脂が混ざり合わないで射出ノズルから射出されることが保障されている。つまり、本発明の射出ノズルを使用すると積層成形品を1回の射出工程で得ることが可能になる。そして、射出ノズルに関する他の発明によると、射出ノズルは軸回転できると共に、射出ノズル内には第1〜4のノズル内流路が設けられており、回転位置に応じて、第1、2の溶融樹脂の両方または、いずれか一方だけを射出することができるので、積層成形品を得る成形方法にも使用できるし、単一の溶融樹脂を射出する従来の成形方法にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る積層成形用射出装置を示す図で、その(ア)は射出装置の正面断面図、その(イ)は、その(ア)においてX−Xで切断したノズル取付体の断面図、その(ウ)は、その(ア)においてY−Yで切断した射出ノズルの断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る金型を模式的に示す図で、その(ア)はパーティング面において左右に開いて示す固定側金型と可動側金型の斜視図、その(イ)は型締された固定側金型と可動側金型のパーティング面に形成されているランナの断面図、その(ウ)は溶融樹脂が流れている状態におけるスプルおよびランナの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る射出装置1は、図1の(ア)に示されているように、第1、2の射出機2、3の2頭の射出ユニットと、これらが接続されているノズル取付体5と、ノズル取付体5の先端に設けられている射出ノズル6とから構成されている。第1の射出機2は、所定の径からなる第1の加熱シリンダ8、第1の加熱シリンダ8内で回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられている第1のスクリュ9、第1の加熱シリンダ8の先端にボルトによって固定されている第1のシリンダヘッド11等から構成され、第1のシリンダヘッド11の先端には、第1の射出機2をノズル取付体5に接続するための中間ノズル13、14が接続されている。そして、第1の加熱シリンダ8と第1のシリンダヘッド11と中間ノズル13のそれぞれの外周面には、個々に発熱温度が制御される複数枚のバンドヒータH、H、…が巻かれており、これらのヒータにより第1の加熱シリンダ8等は所定の温度に加熱されるようになっている。同様に、第2の射出機3は、所定の径からなる第2の加熱シリンダ15、第2の加熱シリンダ15内で回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられている第2のスクリュ16、第2の加熱シリンダ15の先端にボルトによって固定されている第2のシリンダヘッド17等から構成され、第2の加熱シリンダ15や第2のシリンダヘッド17の外周面にも、複数枚のバンドヒータH、H、…が巻かれて、これらが所定の温度に同様に加熱されるようになっている。
【0017】
ノズル取付体5は、第1、2の射出機2、3と射出ノズル6とを接続する接続用のブロックであり、図1の(ア)には1個のブロックから形成されているように示されているが、実際には複数個のブロックから一体的に結合されている。ノズル取付体5は、所定太さで所定長さの胴部19と、胴部19の側部に所定の高さに立ち上がっている連結部21とから概略構成されている。このような胴部19の一方の端面に第2の射出機3が、他方の端面に射出ノズル6がそれぞれ取り付けられるようになっており、連結部21の所定の部分に第1の射出機2が取り付けられるようになっている。胴部19には、軸方向に貫通する所定の内径の案内体格納孔22が明けられており、この孔22内に所定の形状の案内体24が挿入されるようになっている。また、ノズル取付体5の連結部21には、第1の射出機2から射出される溶融樹脂を導く連結部樹脂流路25が明けられ、この連結部樹脂流路25は案内体格納孔22の内周面の所定の位置に開口している。
【0018】
案内体24は概略的に円柱状を呈しており、その外径は案内体格納孔22の内径よりわずかに小さい。従って、案内体24は案内体格納孔22に実質的に隙間無く挿入することができる。案内体24の外周面には、図1の(イ)に示されているように、断面形状が半円形の軸方向の溝すなわち第1、2の凹溝26、27が、軸心を挟んで互いに反対側に位置するように形成されている。第1の凹溝26は、案内体24の一方の端面から連結部樹脂流路25に達するように形成されているが、第2の凹溝27は案内体24の全長にわたって形成されている。そして、案内体24の他方の端面は、符号28で示されているように、第2の凹溝27に向かって斜めに切り落とされている。このような案内体24が第1の凹溝26が上に、第2の凹溝27が下になるようにして案内体格納孔22に挿入されている。このように組み立てられているので、案内体格納孔22の内周面と案内体24の第1、2の凹溝26、27とから、溶融樹脂が流れる第1、2のノズル取付体内流路30、31が形成されることになる。
【0019】
胴部19の一方の端面すなわち射出ノズル6が接続される端面には、案内体格納孔22と同心円状に、所定幅で所定深さの射出ノズル案内溝32が形成されている。射出ノズル案内溝32の内周面には雌ネジが形成されており、射出ノズル6の取付部に形成されている雄ネジが螺合するようになっている。
【0020】
このように構成されているノズル取付体5に第1、2の射出機2、3が取り付けられている。すなわち、連結部21には中間ノズル13、14を介して第1の射出機2が取り付けられ、胴部19の端面には、第2の射出機3が取り付けられている。従って、第1の射出機2の第1の加熱シリンダ8内は、第1のシリンダヘッド11、中間ノズル13、14内のそれぞれに設けられている樹脂流路、連結部21に設けられている連結部樹脂流路25を経由して第1のノズル取付体内流路30に連通し、第2の射出機3の第2の加熱シリンダ15内は、第2のシリンダヘッド17内に設けられている樹脂流路を経由して第2のノズル取付体内流路31に連通している。
【0021】
本実施の形態に係る射出ノズル6は、外観上は従来の射出ノズルと略同様に形成されているが、内部には4本の樹脂流路が設けられている。すなわち、射出ノズル6には、図1の(ウ)に示されているように、軸心Gを挟んで上下に第1、2のノズル内流路34、35が、第1のノズル内流路34から反時計針方向に90度回転した位置に第3のノズル内流路36が、第2のノズル内流路35から反時計針方向に135度回転した位置に第4のノズル内流路37が、それぞれ設けられている。これらの第1〜4のノズル内流路34〜37は、ノズル先端部39近傍において合流している。この射出ノズル6のノズル取付体5側には、軸方向に所定長さの円環状の取付部41が形成されている。この取付部41の外周面には、射出ノズル案内溝32の雌ネジに螺合する雄ネジが形成されている。
【0022】
射出ノズル6は、次のようにしてノズル取付体5に取り付けられている。はじめに、取付部41の雄ネジに、円環状のロックナット42を螺合し、ロックナット42を必要な回転数だけ回転して取付部41の所定の位置で止める。次いで、耐熱性および可撓性の材料、例えばシリコン樹脂等からなり、所定の孔が明けられたシールド44を間に挟んで、射出ノズル6の取付部41をノズル取付体5の射出ノズル案内溝32に入れる。取付部41の雄ネジを案内溝32の雌ネジに螺合させる。射出ノズル6を必要な回転数だけ回転すると、シールド44が射出ノズル6とノズル取付体5に挟まれて、液密的に射出ノズル6がノズル取付体5に取り付けられる。このとき、射出ノズル6の取付部41の先端部は射出ノズル案内溝32の底に到達しないで、所定の隙間あるいは遊び45が形成される。シールド44は可撓性を備えているので弾性的に変形することができる。従って、射出ノズル6は、液密性を損なうことなく所定の範囲で回転させることができる。
【0023】
本実施の形態に係る射出ノズル6は、その回転位置に応じて、樹脂流路の連通状態を切り替えることができる。すなわち、射出ノズル6を第1の回転位置に回転すると、第1のノズル取付体内流路30と第1のノズル内流路34および第2のノズル取付体内流路31と第2のノズル内流路35のそれぞれが連通する。従って、第1、2の射出機2、3から同時に射出することができる。第1の回転位置から、図1の(ウ)において時計回りに90度回転した第2の回転位置に回転すると、第1のノズル取付体内流路30と第3のノズル内流路36とが連通するが、第2のノズル取付体内流路31は遮断される。従って、第1の射出機2からのみ射出することができる。第1の回転位置から、時計回りに135度回転した第3の回転位置に回転すると、第2のノズル取付体内流路31と第4のノズル内流路37とが連通するが、第1のノズル取付体内流路30は遮断される。従って、第2の射出機3からのみ射出することができる。ロックナット42を回転して締めつけると、任意の回転位置で射出ノズル6を固定することができる。
【0024】
本実施の形態に係る金型について説明する。図2の(ア)には、固定側金型47と可動側金型48が示されているが、金型の構造を理解し易いように、パーティングラインPLにおいて左右に開かれた状態で示されている。本実施の形態に係る金型47、48は、小魚型ルアーを成形するための金型であり、1回の射出工程で4個のルアーを同時に成形することができる。固定側金型47のパーティング面には、所定の配置で第1〜4の固定側凹部51〜54が形成されており、可動側金型48のパーティング面にも、所定の配置で第1〜4の可動側凹部56〜59が形成されている。従って、金型47、48を型締すると、第1〜4の固定側凹部51〜54のそれぞれと、第1〜4の可動側凹部56〜59のそれぞれとから小魚形状の4個のキャビティが形成されることになる。固定型金型47に設けられているスプル61と所定のランナを経由して、これらの4個のキャビティに溶融樹脂が射出充填されるようになっている。
【0025】
本実施の形態に係る積層成形品の成形方法においては、色の異なる第1、2の溶融樹脂を同一の射出ノズル6から射出して、第1、2の溶融樹脂が混合しないように、すなわち層流状態が維持された状態にして、スプル61とランナを通して、キャビティに充填する。このように、層流状態が維持されるようにするために、本実施の形態に係る金型においては、スプル61とランナには特徴がある。すなわち、スプル61は、固定側金型47の背面側からパーティング面側に導かれ、そしてパーティング面上に形成されているランナに連なるとき、曲率半径が大きくなるように全体的に緩やかにカーブしている。特に、符号62で示されているランナに連なっている部分は、曲率半径が大きくなるように形成され、乱流が発生しないようになっている。また、ランナ64は、図2の(イ)に示されているように、その断面形状が円形になっており、固定側金型47と可動側金型48のパーティング面上に形成されている。つまり、固定側金型47と可動側金型48のそれぞれには、断面形状が半円の凹溝65、66が形成されており、金型が型締されると、これらの凹溝65、66によりランナ64が形成されるようになっている。このようにスプル61とランナ64が共に断面形状が円形に形成されているので、溶融樹脂の流れは、いわゆるハーゲン・ポアズイユ流れになって層流が維持されやすい。また、本実施の形態においては、スプル61とランナ64は、比較的内径が大きい。内径が大きいと、層流と乱流に影響する指標である、いわゆるレイノルズ数が大きくなる。レイノルズ数は内径に比例するからである。しかしながら、内径が大きいと断面積はその2乗で大きくなるので、結果的に溶融樹脂の流速を大きく低下させることができる。そうすると、流速に比例するレイノルズ数は実際には小さくなる。すなわち、層流が維持されやすい。
【0026】
本実施の形態に係る積層成形品を成形する成形方法に使用される樹脂材料について説明する。本実施の形態に係る成形方法においては、黒色を帯びた第1の樹脂と、白銀色の第2の樹脂が使用されるが、これらが溶融して第1の溶融樹脂と第2の溶融樹脂になるとき、実質的に同じ粘性係数になるような樹脂材料が選定されている。これは、第1、2の溶融樹脂が互いに界面で接しながらスプル61やランナ64内を流れるときに、第1、2の溶融樹脂の粘性係数が相違していると、層流が維持されなくなるからである。また、第1、2の溶融樹脂は、レイノルズ数を低下させるために、比較的粘性係数が高い材料が選定されている。もしくは、粘性係数が高くなるように比較的低温で溶融される。
【0027】
本実施の形態に係る射出装置1と、金型47、48とを使用して積層成形品を得る成形方法を説明する。図には示されていないが、所定の型締装置に固定側金型47と可動側金型48を取り付ける。射出ノズル6を第1の回転位置にして、ロックナット42を締めつける。固定側金型47と可動側金型48を型締する。射出装置1の射出ノズル6をスプル61に当接させる。第1の加熱シリンダ8に第1の樹脂を、第2の加熱シリンダ15に第2の樹脂を投入して、第1、2の加熱シリンダ8、15をバンドヒータH、H、…で加熱しながら、第1、2のスクリュ9、16を回転する。そうすると、バンドヒータH、H、…による熱と、第1、2のスクリュ9、16の回転による摩擦熱によって、第1、2の樹脂が溶融され、第1、2の加熱シリンダ8、15の先端部に第1、2の溶融樹脂が計量される。所定量だけ計量されたら、第1、2のスクリュ9、16の回転を停止する。第1、2のスクリュ9、16を、実質的に同時に軸方向に駆動する。このとき、スクリュ9、16の駆動速度が十分に低速になるようにする。そうすると、第1の溶融樹脂は、第1のシリンダヘッド11、中間ノズル13、14内の樹脂流路、連結部樹脂流路25を経由して第1のノズル取付体内流路30に達する。同様に第2の溶融樹脂は、第2のシリンダヘッド17内の樹脂流路を経由して第2のノズル取付体内流路31に達する。引き続き第1、2のスクリュ9、16を低速で駆動すると、第1、2の溶融樹脂は、実質的に同時に第1、2のノズル内流路を流れてノズル先端部39において合流する。合流した第1、2の溶融樹脂は、図2の(ウ)において、符号68、69で示されているようにスプル61とランナ64を流れる。このとき、第1、2の溶融樹脂は、互いに界面70で接しながら層流状態を維持して流れることになる。第1、2の溶融樹脂は4個のキャビティに充填される。このとき、キャビティ内においても第1、2の溶融樹脂は混合されない。4個のキャビティへの溶融樹脂の充填が完了したら、第1、2のスクリュ9、16を停止する。冷却固化を待って金型47、48を開くと、背びれ側が第1の樹脂から、腹側が第2の樹脂から成形された4個の小魚型のルアー、すなわち積層成形品が得られる。以下同様に成形する。
【0028】
射出ノズル6を第2の回転位置に回転すると第1の射出機2のみから溶融樹脂を射出することができる。また、射出ノズル6を第3の回転位置に回転すると、第2の射出機3のみから溶融樹脂を射出することができる。
【0029】
本実施の形態に係る成形方法は、ルアーの成形に限定されない。例えば、異なる種類の樹脂から形成されているスーパーボール、玩具等の積層成形品も成形することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 射出装置 2 第1の射出機
3 第2の射出機 5 ノズル取付体
6 射出ノズル
30 第1のノズル取付体内流路
31 第2のノズル取付体内流路
34 第1のノズル内流路 35 第2のノズル内流路
36 第3のノズル内流路 37 第4のノズル内流路
39 ノズル先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱シリンダと該加熱シリンダ内で回転方向と軸方向に駆動されるスクリュとを備えた第1、2の射出機と、これらにノズル取付体を介して接続されている1個の射出ノズルとを使用して積層成形品を得る成形方法であって、
前記第1、2の射出機のそれぞれの前記スクリュを軸方向に実質的に同時に駆動して、粘性係数が実質的に等しい第1、2の溶融樹脂を前記射出ノズルから実質的に同時に射出して、スプルおよびランナを経由してキャビティ内に射出充填するとき、
前記第1、2の射出機の前記スクリュの駆動速度を調整して、前記第1、2の溶融樹脂を層流状態で前記射出ノズル内と前記スプルと前記ランナ内を圧送し、それによって前記第1、2の溶融樹脂が分離した状態で前記キャビティに充填されることを特徴とする、積層成形品の成形方法。
【請求項2】
第1、2の射出機にノズル取付体を介して取り付けられている射出ノズルであって、
前記ノズル取付体には、前記第1、2の射出機から射出される粘性係数が実質的に等しい第1、2の溶融樹脂を導く、第1、2のノズル取付体内流路がそれぞれ設けられ、
前記射出ノズルには、前記第1、2のノズル取付体内流路のそれぞれに連通する第1、2のノズル内流路が設けられ、前記第1、2のノズル内流路は、前記射出ノズル先端部近傍で合流しており、前記第1、2の射出機から前記第1、2の溶融樹脂が実質的に同時に射出されると、前記射出ノズルから前記第1、2の溶融樹脂が層流状態で射出されるようになっていることを特徴とする、積層成形品の成形用射出ノズル。
【請求項3】
請求項2に記載の射出ノズルにおいて、前記射出ノズルは、前記ノズル取付体に対して軸方向に回転させることができるようになっており、
前記射出ノズルには、第3、4のノズル内流路がさらに設けられ、前記第3、4のノズル内流路は、前記射出ノズル先端部近傍で前記第1、2のノズル内流路と合流しており、
前記射出ノズルが第1の回転位置を採ると、前記第1、2のノズル取付体内流路のそれぞれと前記第1、2のノズル内流路が連通し、第2の回転位置を採ると、前記第1のノズル取付体内流路と前記第3のノズル内流路のみが連通し、第3の回転位置を採ると前記第2のノズル取付体内流路と前記第4のノズル内流路のみが連通して、前記第1、2の溶融樹脂の両方またはいずれか一方を選択的に射出することができるようになっていることを特徴とする積層成形品の成形用射出ノズル。
【請求項4】
粘性係数が実質的に等しい第1、2の溶融樹脂を射出する第1、2の射出機と、前記第1、2の射出機が接続されているノズル取付体と、前記ノズル取付体に取り付けられている請求項2または3に記載の射出ノズルとからなる、積層成形品の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−116087(P2011−116087A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277959(P2009−277959)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】