説明

積層構造体の製造方法、積層構造体、光学用部材及び塗工膜の形成方法

【課題】簡易な手段である一液型塗工方法によって、光学用及び建材用等として有用な、例えば帯電防止膜等の機能膜が設けられた積層構造体であって、層間の密着性が良い積層構造体を製造する方法、該製造方法で得られた積層構造体及び該積層構造体を有する光学用部材、並びに層分離構造を有する塗工膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】1液型塗工液による積層構造体の製造方法であって、下記工程1〜3をこの順に有する、イオン液体層とハードコート層を有する積層構造体の製造方法。
工程1:(A1)活性エネルギー線硬化性のハードコート層形成成分、(A2)ハードコート層形成成分用溶剤、(B1)イオン液体、(B2)イオン液体用マトリクスポリマー、及び(C)前記(A2)成分及び(B2)成分の両者と相溶性を有する、前記(A2)成分より沸点の低い媒介溶剤を混合し、1液型塗工液を得る工程。
工程2:工程1で得られた1液型塗工液を基材に塗布した後、前記(C)成分を揮発させることにより層分離構造を有する塗工膜を形成する工程。
工程3:工程2の後、塗工膜中の前記(A2)成分を揮発させる工程と、塗工膜へ活性エネルギー線を照射する工程とを有する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体の製造方法、該製造方法により得られる積層構造体、該積層構造体を有する光学用部材及び塗工膜の形成方法に関する。さらに詳しくは、層分離を利用した簡易な一液型塗工方法によって、光学用や建材用等として有用な、例えば帯電防止膜等の機能膜が設けられた積層構造体であって、層間の密着性が良い積層構造体を製造する方法、該製造方法により得られる積層構造体及び該積層構造体を有する光学用部材、並びに層分離構造を有する塗工膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、積層構造体を形成するために、種々の多層塗工膜の形成方法が開発されてきた。多層塗工膜の形成方法としては、(1)複数の塗工液を用いて、塗布と乾燥処理を繰り返すタンデム塗工方式、(2)複数の塗工液を用いて、同時に多層塗布する方法(例えば、特許文献1及び2参照。)、及び(3)複数の塗工液を傾斜したスライド面上で予め多層化し、該多層塗工膜を基材上に転移させて多層塗工膜を形成する方法(例えば、特許文献3参照。)等が知られている。
一方、積層構造体として、スピノーダル分解により相分離構造を形成し、表面に凹凸を設けてなる防眩性フィルムが知られている。例えば、1つのポリマーと1つの硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む液相から、前記溶媒の蒸発に伴うスピノーダル分解により、相分離構造を形成し、前記樹脂前駆体を硬化させ、防眩層を形成した防眩性フィルムが開示されている(例えば、特許文献4参照。)。また、スピノーダル分解による相分離を利用した技術として、(A)活性エネルギー線硬化型重合性化合物、(B)熱可塑性樹脂、(C)前記(A)成分と前記(B)成分に対する良溶媒、及び(D)前記(B)成分に対する貧溶媒を含み、かつ前記(A)成分と前記(B)成分の含有比率[(A):(B)]と、前記(C)成分と前記(D)成分の含有比率[(C):(D)]が特定範囲である防眩性ハードコート層形成用材料、及び基材フィルム上に該材料を用いて形成された、活性エネルギー線硬化樹脂層からなる防眩性ハードコート層を有する防眩性ハードコートフィルムが開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭62−51670号公報
【特許文献2】特公平2−22711号公報
【特許文献3】特開2003−62517号公報
【特許文献4】特開2004−126495号公報
【特許文献5】特開2006−137835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記(1)の方法は、複数の塗工液を別々に準備しなければならない上、複数回の塗布、乾燥処理が必要である等、操作が煩雑で生産性に劣るという問題がある。特許文献1〜3に記載の上記(2)や(3)の方法は、塗工方法が改善され、上記(1)の方法に比べて生産性が改善されているが、やはり複数の塗工液を別々に準備しなければならないという問題は残る。
さらに、前記(1)〜(3)の方法においては、複数の塗工液の種類によっては、層間の密着性が必ずしも充分ではないという問題がある。
また、特許文献4及び5に記載のスピノーダル分解による相分離技術は、表面に不規則な凹凸を形成させる技術であって、多層塗工膜を形成させる技術には応用し難い。
【0005】
ところで、ディスプレイ分野で用いられる各種光学用部材、例えば反射防止フィルム、防眩フィルム、ハードコートフィルム等の保護フィルムや、建材分野等で用いられる各種部材においては、帯電を防止するための帯電防止膜、塵や埃、指紋等の付着を防止するための防汚膜等の機能膜を光学部材や化粧板等の表面に設けることが要求される。ところが、高性能の帯電防止材料は、通常、溶剤溶解性や、ハードコート材料等の他成分との相溶性に乏しいため、タンデム塗工方式等を利用した場合には層間の密着性が不充分になるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような状況下になされたものであり、簡易な手段である一液型塗工方法によって、光学用及び建材用等として有用な、例えば帯電防止膜等の機能膜が設けられた積層構造体であって、層間の密着性が良い積層構造体を製造する方法、該製造方法で得られた積層構造体及び該積層構造体を有する光学用部材、並びに層分離構造を有する塗工膜の形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、イオン液体がハードコート層形成成分との相溶性が低いことに着目し、ハードコート層形成成分及びイオン液体の両者を溶解し得る媒介溶剤を用いることにより、一液型塗工方法によって積層構造体を製造することが可能となり、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、下記[1]〜[7]に関する。
[1]1液型塗工液による積層構造体の製造方法であって、下記工程1〜3をこの順に有する、イオン液体層とハードコート層を有する積層構造体の製造方法。
工程1:(A1)活性エネルギー線硬化性のハードコート層形成成分、(A2)ハードコート層形成成分用溶剤、(B1)イオン液体、(B2)イオン液体用マトリクスポリマー、及び(C)前記(A2)成分及び(B2)成分の両者と相溶性を有する、前記(A2)成分より沸点の低い媒介溶剤を混合し、1液型塗工液を得る工程。
工程2:工程1で得られた1液型塗工液を基材に塗布した後、前記(C)成分を揮発させることにより層分離構造を有する塗工膜を形成する工程。
工程3:工程2の後、塗工膜中の前記(A2)成分を揮発させる工程と、塗工膜へ活性エネルギー線を照射する工程とを有する工程。
[2](B1)成分が、イミダゾリウム系カチオン性物質、ピリジニウム系カチオン性物質、ピロリジニウム系カチオン性物質、第4級アンモニウム系カチオン性物質、第4級ホスホニウム系カチオン性物質からなる群から選択されるいずれかのカチオン性物質と、ハライド、シアニド(CN-)、トリフラート(CF3SO3-)、テトラフルオロボラート(BF4-)、ヘキサフルオロホスファート(PF6-)、スルホニルアミド(SO2NH2-)、メチルサルフェート(CH2SO4-)、エチルサルフェート(C24SO4-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[(CF3SO22-]、ビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミド[(C223SO22-]からなる群から選択されるいずれかのアニオンとが結合した塩である、上記[1]に記載の積層構造体の製造方法。
[3](C)成分がアセトン、テトラヒドロフラン及びジクロロメタンからなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]又は[2]に記載の積層構造体の製造方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法により得られる積層構造体。
[5]上記[4]に記載の積層構造体を有する光学用部材。
[6]帯電防止性ハードコートフィルムである、上記[5]に記載の光学用部材。
[7]1液型塗工液を用いた塗工膜の形成方法であって、
(A1)活性エネルギー線硬化性のハードコート層形成成分、
(A2)ハードコート層形成成分用溶剤、
(B1)イオン液体、
(B2)イオン液体用マトリクスポリマー、並びに
(C)前記(A2)成分及び(B2)成分の両者と相溶性を有する、前記(A2)成分より沸点の低い媒介溶剤
を混合し、1液型塗工液を得、得られた1液型塗工液を基材に塗布した後、前記(C)成分を揮発させることによる、層分離構造を有する塗工膜の形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な一液型塗工方法によって、光学用や建材用等として有用な、例えば表面に帯電防止層等の機能層が設けられた積層構造体であって、層間の密着性が良い積層構造体を製造する方法を提供することができる。本発明の製造方法では、ハードコート層形成成分用の溶剤への溶解性が低く、通常は層間の密着性が低くなる帯電防止材料を用いながらも良好な密着性を有する積層構造体を得ることが可能となり、高い帯電防止機能を有する光学用部材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、1液型塗工液による積層構造体の製造方法であって、下記工程1〜3をこの順に有する、イオン液体層とハードコート層を有する積層構造体の製造方法である。
工程1:(A1)活性エネルギー線硬化性のハードコート層形成成分、(A2)ハードコート層形成成分用溶剤、(B1)イオン液体、(B2)イオン液体用マトリクスポリマー、及び(C)前記(A2)成分及び(B2)成分の両者と相溶性を有する、前記(A2)成分より沸点の低い媒介溶剤を混合し、1液型塗工液を得る工程。
工程2:工程1で得られた1液型塗工液を基材に塗布した後、前記(C)成分を揮発させることにより層分離構造を有する塗工膜を形成する工程。
工程3:工程2の後、塗工膜中の前記(A2)成分を揮発させる工程と、塗工膜へ活性エネルギー線を照射する工程とを有する工程。
以下、工程1〜3について順に説明する。
【0011】
[工程1]
工程1は、1液型の塗工液を得る工程である。本発明では、塗工液の成分として、(A1)活性エネルギー線硬化性のハードコート層形成成分、(A2)ハードコート層形成成分用溶剤、(B1)イオン液体、(B2)イオン液体用マトリクスポリマー及び(C)前記(A2)成分及び(B2)成分の両者と相溶性を有する、前記(A2)成分より沸点の低い媒介溶剤を用い、これらを混合して1液型の塗工液を得る。
上記混合温度は、(A2)成分、(B2)成分及び(C)成分のいずれの沸点をも超えない温度であれば特に制限は無いが、操作の簡便性の観点及び各成分の揮発抑制の観点から、通常、室温(15〜30℃を指し、以下同様である。)にて混合することが好ましい。
以下、塗工液の各成分について説明する。
【0012】
((A1)活性エネルギー線硬化性のハードコート層形成成分)
(A1)成分は、積層構造体にハードコート性能を付与するためのものであり、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線等の活性エネルギー線を照射することにより、架橋、硬化する化合物を含有する。この活性エネルギー線硬化性の化合物としては、活性エネルギー線硬化型オリゴマー及び/又は活性エネルギー線硬化型モノマーを用いることができる。
【0013】
活性エネルギー線硬化型オリゴマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ポリエーテルアクリレート系オリゴマー、ポリブタジエンアクリレート系オリゴマー、シリコーンアクリレート系オリゴマー等が挙げられる。
ここで、ポリエステルアクリレート系オリゴマーとしては、例えば多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
エポキシアクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応させてエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシアクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシアクリレートオリゴマーも用いることができる。
ウレタンアクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアナートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができ、ポリオールアクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
活性エネルギー線硬化型オリゴマーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法で測定した標準ポリスチレン換算の値で、好ましくは500〜100,000、より好ましくは1,000〜70,000、さらに好ましくは3,000〜40,000である。
活性エネルギー線硬化型オリゴマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
活性エネルギー線硬化型モノマーとしては、例えばジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオールエステル、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコールアジペートエステル、ジ(メタ)アクリル酸ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、ジ(メタ)アクリル酸カプロラクトン変性ジシクロペンテニル、ジ(メタ)アクリル酸エチレンオキシド変性リン酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸アリル化シクロヘキシル、ジ(メタ)アクリル酸イソシアヌレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパンエステル、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸プロピオンオキシド変性トリメチロールプロパンエステル、イソシアヌル酸トリス(アクリロキシエチル)、ペンタ(メタ)アクリル酸プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(メタ)アクリル酸カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールエステル等が挙げられる。活性エネルギー線硬化型モノマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
(A1)成分は、光重合開始剤や、表面調整剤(レベリング剤)、防眩剤、老化防止剤等を含有していてもよい。
光重合開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p−ジメチルアミン安息香酸エステル、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−プロペニル)フェニル]プロパノン)等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。光重合開始剤の使用量は、用いる活性エネルギー線硬化性の化合物の種類に応じて適宜選定すればよい。
レベリング剤としては、公知のものを使用でき、例えばシリコーン系、フッ素系、ポリエーテル系、アクリル系、チタネート系等の各種界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、フッ素系界面活性剤が好ましく、パーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤[例えば、商品名「MCF−350−5」(DIC株式会社製)等。]がより好ましい。
防眩剤としては、公知のものを使用でき、シリカ粒子等が挙げられる。
老化防止剤としては、公知のものを使用でき、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物が挙げられる。
【0016】
((A2)ハードコート層形成成分用溶剤)
(A2)成分の溶剤は、(A1)成分を溶解し得る溶剤であり、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族系有機溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶剤;塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール系有機溶剤;メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤;エチルセロソルブ等のセロソルブ系有機溶剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。操作の簡便性の観点から、(A1)成分を室温で溶解し得る溶剤であることが好ましい。また、これらの中でも、後述する(C)成分の優先的揮発の観点から、沸点100℃を超える溶媒が好ましく、沸点110℃を超える溶媒がより好ましい。
(A2)成分の使用量に特に制限は無いが、通常、(A1)成分100質量部に対して好ましくは20〜100質量部であり、より好ましくは30〜80質量部であり、さらに好ましくは30〜60質量部である。この範囲であれば、十分に(A1)成分を十分に溶解し、且つ積層構造体に十分なハードコート性を付与することができる。
【0017】
((B1)イオン液体)
(B1)成分は、積層構造体に高い帯電防止性を付与し得るイオン液体である。
「イオン液体」とは、一般的に、常温下、比較的低温領域下において液体状態を示すもののことを言う。また、該イオン液体は、通常、高いイオン伝導性、高い熱安定性、比較的低粘性等を示し、蒸気圧が殆どなく、引火性及び可燃性を示さず、並びに液体温度範囲が広範囲であるという特徴を有する。
イオン液体は、カチオン性の物質が好ましい。該カチオン性の物質は、通常、カウンターイオンであるアニオンとの塩で存在する。イオン液体の具体例としては、イミダゾリウム系カチオン性物質、ピリジニウム系カチオン性物質、ピロリジニウム系カチオン性物質、第4級アンモニウム系カチオン性物質、第4級ホスホニウム系カチオン性物質からなる群から選択されるいずれかのカチオン性物質と、ハライド、シアニド(CN-)、トリフラート(CF3SO3-)、テトラフルオロボラート(BF4-)、ヘキサフルオロホスファート(PF6-)、スルホニルアミド(SO2NH2-)、メチルサルフェート(CH2SO4-)、エチルサルフェート(C24SO4-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[(CF3SO22-]、ビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミド[(C223SO22-]からなる群から選択されるいずれかのアニオンとが結合した塩が挙げられる。
上記ハライドとしては、クロリド(Cl-)、ブロミド(Br-)、ヨージド(I-)等が挙げられる。
【0018】
イミダゾリウム系カチオン性物質とアニオンとの塩の具体例(例示物質のカギ括弧中はカウンターイオンを示す)としては、1,3−ジメチルイミダゾリウム「クロリド」、1,3−ジメチルイミダゾリウム「ジメチルホスファート」、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム「クロリド」、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム「ブロミド」、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム「ヨージド」、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム「トリフルオロメタンスルホナート」、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム「p−トルエンスルホナート」、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム「エチルサルフェート」、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム「2−メチル(2―メトキシエトキシ)エチルサルフェート」、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム「テトラフルオロボラート」、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム「ヘキサフルオロホスファート」、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム「ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド」、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム「ヨージド」、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム「クロリド」、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム「ブロミド」、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム「ヨージド」、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム「トリフルオロメタンスルホナート」、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム「テトラフルオロボラート」、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム「ヘキサフルオロホスファート」、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム「ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド」、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム「クロリド」、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム「ヘキサフルオロホスファート」、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム「テトラフルオロボラート」、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム「クロリド」、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム「テトラフルオロボラート」、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム「ヘキサフルオロホスファート」等が挙げられる。
【0019】
ピリジニウム系カチオン性物質とアニオンとの塩の具体例(例示物質のカギ括弧中はカウンターイオンを示す)としては、1−エチルピリジニウム「クロリド」、1−エチルピリジニウム「ブロミド」、1−ブチルピリジニウム「クロリド」、)、1−ブチルピリジニウム「ブロミド」、1−ブチルピリジニウム「ヘキサフルオロホスファート」、1−ブチル−4−メチルピリジニウム「ブロミド」、1−ブチル−4−メチルピリジニウム「ヘキサフルオロホスファート」、1−エチル−3−メチルピリジニウム「エチルサルフェート」、1−エチル−3−(ヒドロキシメチル)ピリジニウム「エチルサルフェート」等が挙げられる。
ピロリジニウム系カチオン性物質とアニオンとの塩の具体例(例示物質のカギ括弧中はカウンターイオンを示す)としては、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム「ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド」等が挙げられる。
第4級アンモニウム系カチオン性物質とアニオンとの塩の具体例(例示物質のカギ括弧中はカウンターイオンを示す)としては、N,N−ジメチル−N−エチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム「テトラフルオロボラート」、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム「テトラフルオロボラート」、N,N−ジメチル−N−エチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム「ビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミド」、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム「ビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミド」等が挙げられる。
第4級ホスホニウム系カチオン性物質とアニオンとの塩の具体例(例示物質のカギ括弧中はカウンターイオンを示す)としては、テトラエチルホスホニウム「テトラフルオロボラート」、テトラフェニルホスホニウム「クロリド」等が挙げられる。
以上の中でも、(B1)成分としては、第4級アンモニウム系カチオン性物質とアニオンとの塩であることが好ましく、N,N−ジメチル−N−エチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムとアニオンとの塩であることがより好ましい。特に、この組み合わせの場合のアニオンとしては、テトラフルオロボラート、ビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミドが好ましい。
【0020】
イオン液体は、前記(A2)成分との相溶性が低いため、イオン液体を帯電防止材料として用いる場合、従来の方法では効率良く積層構造体を形成することができないが、本発明の製造方法によれば、層間の密着性(以下、単に密着性と称する。)の高い積層構造体を効率良く製造することができる。
(B1)成分の使用量は、(A1)成分100質量部に対して、通常、好ましくは2〜40質量部、より好ましくは5〜30質量部、さらに好ましくは10〜25質量部である。この範囲であれば、積層構造体に十分な帯電防止性を付与しつつ、ハードコート性を損なわない。
【0021】
((B2)イオン液体用マトリクスポリマー)
前記(B1)成分は、(B2)成分であるイオン液体用マトリクスポリマーと混合されてイオノゲルとなり、積層構造体において、高い導電性を有する高性能帯電防止層として機能する。
(B2)成分としては、イオン液体に対して高い相溶性を有し、イオン伝導性を阻害しない成膜性の高分子材料であれば特に制限は無く、公知のイオン液体用マトリクスポリマーから、(B1)成分として選択したイオン液体との相溶性が良いものを適宜選択すればよい。(B2)成分の具体例としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルピロリドン、セルロース、酢酸セルロース、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリオルガノシロキサンや、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム及びポリエチレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸系ポリマー等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、(B1)成分として第4級アンモニウム系カチオン性物質とアニオンとの塩を使用する場合には、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、スルホン酸系ポリマーが好ましく、ポリエチレンオキシドがより好ましい。
(B2)成分の重量平均分子量は、(B1)成分との相溶性及び(A2)成分との非相溶性の観点から、通常、500〜1,000,000が好ましく、1,000〜700,000がより好ましく、2,000〜500,000がさらに好ましい。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の値である。
(B2)成分の使用量に特に制限は無いが、通常、(B1)成分100質量部に対して好ましくは70〜200質量部であり、より好ましくは80〜150質量部であり、さらに好ましくは90〜130質量部である。この範囲であれば、(B1)成分と十分に相溶し、積層構造体に高い帯電防止性を付与することができる。
【0022】
((C)媒介溶剤)
(C)成分は、前記(A2)成分及び(B2)成分の両者と相溶性を有する、前記(A2)成分より沸点の低い媒介溶剤であり、「1液型」の塗工液を得るために必須の成分である。
また、(C)成分は、1液型の塗工液から優先的に揮発することにより、相溶性に乏しい又は相溶性の無い2層、つまり(A1)成分を含有する(A2)成分層[ハードコート層]と(B1)成分を含有する(B2)成分層[イオン液体層]とに層分離させることが可能であるため、層分離構造を有する積層構造体の形成に重要な役割を担う媒介溶剤である。
上記の通り、該(C)成分は前記(A2)成分より沸点が低い溶剤であるが、層分離構造をより容易に形成する観点から、(A2)成分の沸点よりも好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上低い沸点を有する溶剤である。
以上のような(C)成分としては、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)等のケトン系媒介溶剤;ジクロロメタン等のハロゲン系媒介溶剤等が挙げられ、沸点100℃以下の溶剤が好ましく、沸点80℃以下の溶剤がより好ましく、沸点70℃以下の溶剤がさらに好ましい。これらの中でも、密着性の高い積層構造体を効率良く形成する観点及び(A2)成分との沸点差の観点から、アセトン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタンが好ましく、アセトン、テトラヒドロフランがより好ましい。
(C)成分の使用量に特に制限は無いが、均一な1液型塗工液を得る観点及び密着性の高い積層構造体を効率良く形成する観点から、前記(A2)成分及び(B2)成分の合計量100質量部に対して、通常、好ましくは100〜600質量部、より好ましくは150〜500質量部、より好ましくは200〜400質量部、さらに好ましくは250〜350質量部である。
【0023】
[工程2]
工程2は、工程1で得られた1液型塗工液を基材に塗布した後、前記(C)成分を揮発させることにより、(A1)成分を含有する(A2)成分層[ハードコート層]と(B1)成分を含有する(B2)成分層[イオン液体層]との層分離構造を有する塗工膜を形成する工程である。
本発明者らの検討によると、工程2では、全ての成分を均一にする効果を有する(C)成分が優先的に揮発することにより、残りの相溶性が無い又は相溶性に乏しい成分が次第に層分離していくものと考えられ、これにより層分離構造を形成することができた。(C)成分を揮発させる方法に特に制限は無いが、(C)成分の沸点以上且つ(A2)成分の沸点未満で加熱する方法が簡便であり好ましい。加熱は、オーブン等の、1液型塗工液を均一に加熱できる手段を用いることが好ましい。また、加熱時間に、(C)成分が十分に揮発される程度であれば特に制限は無いが、通常、好ましくは20秒〜5分、より好ましくは30秒〜4分、さらに好ましくは40秒〜2分である。
【0024】
(基材)
上記基材に特に制限はなく、例えば光学用部材や建材用部材等によって適宜選択すればよい。光学用部材の場合は、光学用フィルムの基材として公知であるプラスチックフィルムの中から適宜選択して用いることができる。
このようなプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等が挙げられる。
これらの基材は、透明、半透明のいずれであってもよく、また、着色されていてもよいし、無着色のものでもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば液晶表示体の保護用として用いる場合には、無色透明のフィルムが好適である。
基材の厚さに特に制限はなく、状況に応じて適宜選定すればよいが、通常、好ましくは15〜250μm、より好ましくは30〜200μmである。
【0025】
また、基材は、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法等によって表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般には効果及び操作性等の面から、コロナ放電処理法が好ましく用いられる。
1液型塗工液を基材に塗布する方法に特に制限は無く、従来公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を用いてコーティングする方法が挙げられる。
【0026】
以上の工程1及び工程2により、1液型塗工液を用いた塗工膜の形成方法であって、(A1)活性エネルギー線硬化性のハードコート層形成成分、(A2)ハードコート層形成成分用溶剤、(B1)イオン液体、(B2)イオン液体用マトリクスポリマー、並びに(C)前記(A2)成分及び(B2)成分の両者と相溶性を有する、前記(A2)成分より沸点の低い媒介溶剤を混合し、1液型塗工液を得、得られた1液型塗工液を基材に塗布した後、前記(C)成分を揮発させることによる、層分離構造を有する塗工膜の形成方法を提供できる。
【0027】
[工程3]
工程3は、工程2によって得られた層分離構造を有する塗工膜から(A2)成分を揮発させる工程と、塗工膜に活性エネルギー線を照射することによって層分離構造中の(A1)成分を硬化させる工程とを有する工程である。
該工程3においては、塗工膜から(A2)成分を揮発させる工程は、活性エネルギー線照射の前後のいずれに有していてもよいが、活性エネルギー線の照射「前」に有している方が簡便であり好ましい。
活性エネルギー線としては、例えば紫外線や電子線等が挙げられる。紫外線は、高圧水銀ランプ、ヒュージョンHランプ、キセノンランプ等で得られる。一方、電子線は、電子線加速器等によって得られる。この活性エネルギー線の中では、特に紫外線が好適である。なお、電子線を使用する場合は、前記光重合開始剤を用いることなく、硬化膜を得ることができる。
(A2)成分を揮発させる方法に特に制限は無いが、例えば70〜120℃程度で加熱する方法等が挙げられる。加熱は、オーブン等の、塗工膜を均一に加熱できる手段を用いることが好ましい。
このようにして形成された塗工膜の厚さは、通常、0.5〜20μm程度、好ましくは1〜10μmである。
なお、塗工膜中の層分離構造の有無は、例えばスラブ型光導波路分光法を利用した界面紫外可視分光測定装置を用いて確認することができる。また、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡によっても確認することができる。
以上のようにして得られた積層構造体を有する光学用部材は、高い帯電防止機能を有しており、特に帯電防止性ハードコートフィルムとして有用である。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、各例で得られた塗工膜の層分離構造の有無の調査、並びに各例で得られた積層構造体の表面抵抗率及び密着性の測定を、以下に示す方法に従って行った。
【0029】
(1)層分離構造の有無
石英製光導波路基板(システムインスツルメンツ社製)に、塗工膜の塗工面側及びその裏面側をそれぞれ完全に密着させ、スラブ型光導波路分光法を利用した界面紫外可視分光測定装置「SIS−50型」(システムインスツルメンツ社製)を用いてエバネッセント波吸収特性を調査した。
塗工面側と裏面(基材側)のエバネッセント波吸収特性に大きな差が得られた場合に、効果的に層分離構造が形成されたと判断した。
(2)帯電防止性
(2−1)高抵抗率計「ハイレスタ(登録商標)UP」(三菱化学株式会社製)を用い、印加電圧100V、10秒にて表面抵抗率(Ω/□)の測定を行い、帯電防止性の指標とした。光学部材や建材において、帯電防止機能としては、表面抵抗率1010Ω/□以下が要求され、これを超えると不良である。
(2−2)各積層構造体を、90℃のオーブン中に250時間静置した後、上記(2−1)と同様の方法により、表面抵抗値を測定し、高温環境下に置かれた場合における帯電防止性(以下、高温帯電防止性と称する。)の指標とした。
(3)密着性
JIS K5600−5−6に準拠し、イオン液体層とハードコート層との密着性を評価した。なお、剥離後の残りをパーセンテージで表した。剥離後の残りが100%に近いほど、イオン液体層とハードコート層との密着性が良好である。
【0030】
<製造例1>塗工液1
室温にて、下記表1に示すとおりに全成分を混合し、塗工液1を調製した。
【表1】

【0031】
<製造例2>塗工液2
製造例1において、(B1)成分のN,N−ジメチル−N−エチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム テトラフルオロボラートを、N,N−ジメチル−N−エチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミド(関東化学株式会社製)に代え、(C)成分のアセトンをテトラヒドロフランに代えたこと以外は同様にして全成分を混合し、塗工液2を得た。
【0032】
<製造例3及び4>順次形成用塗工液
製造例1における表1中の(A1)成分と(A2)成分とを、表1に記載の配合量で室温にて混合して塗工液3とし、別途(B1)成分と(B2)成分とを、表1に記載の配合量で室温にて混合して塗工液4とした。
【0033】
<製造例5>
製造例1において、(C)成分を用いなかったこと以外は同様にして全成分を混合したところ、プロピレングリコールモノメチルエーテル層(上層)とイオン液体層(下層)に分離し、1液にて均質に塗布できるような塗工液を得ることはできなかった。
【0034】
<実施例1>
基材(東洋紡績株式会社製PETフィルム、製品名「A−4100」、厚み100μm)上に、製造例1で得た塗工液1をバーコーティングにより塗布した後、内温60℃のオーブン中で1分間保持し、(C)成分を揮発させた。ここで、前記方法により、塗工膜は層分離構造[(A1)・(A2)層/(B1)・(B2)層]を有していることを確認した。次いで、内温80℃のオーブン中で30秒間保持することにより、塗工膜中の(A2)成分を揮発させた。その後、紫外線を照射(積算光量:100mJ/cm2)して塗工膜を硬化させ、厚み1μmの積層構造体1を得た。
得られた積層構造体1の帯電防止性、高温帯電防止性及び密着性の測定を行った結果を表2に示す。
【0035】
<実施例2>
実施例1において、塗工液1の代わりに製造例2で得た塗工液2を用いたこと以外は同様にして実験を行い、積層構造体2を得た。なお、実施例2においても、(C)成分を揮発させて得た塗工膜は、層分離構造を有していた。
得られた積層構造体2の帯電防止性、高温帯電防止性及び密着性の測定を行った結果を表2に示す。
【0036】
<比較例1>タンデム塗工方式
基材(東洋紡績社製PETフィルム、製品名「A−4100」厚み100μm)上に、製造例4で得た塗工液4をバーコーティングにより塗布し、続いてバーコーティングにより製造例3で得た塗工液3を塗工液4上に塗布した後、内温80℃のオーブン中で30秒間乾燥させ、次いで紫外線を積算光量が100mJ/cm2になるように照射して塗工膜を硬化させ、厚み3μmの積層構造体3を得た。
得られた積層構造体3の帯電防止性、高温帯電防止性及び密着性の測定を行った結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2より、本発明の方法(実施例1及び2)で得られた積層構造体は、同じ材料を用いて従来のタンデム塗工方式により作製した積層構造体(比較例1)に比べて、密着性が高いことがわかる。さらに、同じイオン液体を使用しているにも関らず、初期帯電防止性及び高温環境下に置かれた場合の帯電防止性までもが向上したことが分かる。ゆえに、本発明の方法に従うと、簡易な1液型塗工方法によって、より信頼性及び性能の高い帯電防止性ハードコートフィルムを製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の製造方法は、光学用や建材用等として有用な、例えば帯電防止膜等の機能膜が設けられた積層構造体の製造方法として利用できる。本発明により得られる積層構造体は、例えばディスプレイ分野において用いられる反射防止フィルム、防眩フィルム、ハードコートフィルム等の保護フィルム等の光学用部材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1液型塗工液による積層構造体の製造方法であって、下記工程1〜3をこの順に有する、イオン液体層とハードコート層を有する積層構造体の製造方法。
工程1:(A1)活性エネルギー線硬化性のハードコート層形成成分、(A2)ハードコート層形成成分用溶剤、(B1)イオン液体、(B2)イオン液体用マトリクスポリマー、及び(C)前記(A2)成分及び(B2)成分の両者と相溶性を有する、前記(A2)成分より沸点の低い媒介溶剤を混合し、1液型塗工液を得る工程。
工程2:工程1で得られた1液型塗工液を基材に塗布した後、前記(C)成分を揮発させることにより層分離構造を有する塗工膜を形成する工程。
工程3:工程2の後、塗工膜中の前記(A2)成分を揮発させる工程と、塗工膜へ活性エネルギー線を照射する工程とを有する工程。
【請求項2】
(B1)成分が、イミダゾリウム系カチオン性物質、ピリジニウム系カチオン性物質、ピロリジニウム系カチオン性物質、第4級アンモニウム系カチオン性物質、第4級ホスホニウム系カチオン性物質からなる群から選択されるいずれかのカチオン性物質と、ハライド、シアニド(CN-)、トリフラート(CF3SO3-)、テトラフルオロボラート(BF4-)、ヘキサフルオロホスファート(PF6-)、スルホニルアミド(SO2NH2-)、メチルサルフェート(CH2SO4-)、エチルサルフェート(C24SO4-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[(CF3SO22-]、ビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミド[(C223SO22-]からなる群から選択されるいずれかのアニオンとが結合した塩である、請求項1に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項3】
(C)成分がアセトン、テトラヒドロフラン及びジクロロメタンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られる積層構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の積層構造体を有する光学用部材。
【請求項6】
帯電防止性ハードコートフィルムである、請求項5に記載の光学用部材。
【請求項7】
1液型塗工液を用いた塗工膜の形成方法であって、
(A1)活性エネルギー線硬化性のハードコート層形成成分、
(A2)ハードコート層形成成分用溶剤、
(B1)イオン液体、
(B2)イオン液体用マトリクスポリマー、並びに
(C)前記(A2)成分及び(B2)成分の両者と相溶性を有する、前記(A2)成分より沸点の低い媒介溶剤
を混合し、1液型塗工液を得、得られた1液型塗工液を基材に塗布した後、前記(C)成分を揮発させることによる、層分離構造を有する塗工膜の形成方法。

【公開番号】特開2011−72878(P2011−72878A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225454(P2009−225454)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】