説明

積層樹脂板およびその製造方法

【課題】高透明性、高耐熱性を維持しつつ、良好な成形加工性および持続性の高い帯電防止性能を有する積層樹脂板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂(A)と、帯電防止性樹脂混合物とを共押出成形により積層一体化してなる積層樹脂板であって、(I)帯電防止性樹脂混合物が、ポリオレフィンのブロックと親水性ポリマーのブロックとが結合した構造を有するブロック共重合体5〜40重量%およびアクリル樹脂(B)60〜95重量%の混合物であり、(II)37.3N荷重で測定した230℃におけるアクリル樹脂(A)のメルトフローレート(M1)と、37.3N荷重で測定した230℃における帯電防止性樹脂混合物のメルトフローレート(M2)との差の絶対値(|M1−M2|)が、0≦|M1−M2|≦5.0(単位:g/10分)である積層樹脂板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明材料、看板、表示板、ディスプレイ、建築材料などに好適に用いられる積層樹脂板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
照明材料、看板、表示板、ディスプレイ、建築材料などに好適に用いられているアクリル樹脂シートは、透明性および耐熱性に優れるという利点がある反面、それ自体が帯電しやすく、例えば、使用中に静電気により周辺のゴミや埃などが付着して外観を損ねるといった、品質上の問題を生じやすい。このため、アクリル樹脂特有の透明性、耐熱性を維持しつつ、成形加工性が良好であり、効果的な帯電防止能を有する積層樹脂板が強く要望されている。
【0003】
帯電防止性能を有する積層樹脂板として、特許文献1には、ポリエーテルエステルとアクリル系樹脂とを所定割合で含有した特定の帯電防止性樹脂組成物を、アクリル樹脂板と積層したアクリル系積層樹脂板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−286917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の積層樹脂板では、高透明性、高耐熱性を維持しつつ、良好な成形加工性を有し、帯電防止性能を持続させることが困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の積層樹脂板およびその製造方法は、以下の構成からなる。
(1)アクリル樹脂(A)と、帯電防止性樹脂混合物とを共押出成形により積層一体化してなる積層樹脂板であって、下記(I)および(II)を満たすことを特徴とする積層樹脂板。
(I)帯電防止性樹脂混合物が、ポリオレフィンのブロックと親水性ポリマーのブロックとが結合した構造を有するブロック共重合体5〜40重量%およびアクリル樹脂(B)60〜95重量%の混合物であること
(II)37.3N荷重で測定した230℃におけるアクリル樹脂(A)のメルトフローレート(M1)と、37.3N荷重で測定した230℃における帯電防止性樹脂混合物のメルトフローレート(M2)との差の絶対値(|M1−M2|)が、0≦|M1−M2|≦5.0(単位:g/10分)であること
(2)37.3N荷重で測定した230℃におけるアクリル樹脂(A)のメルトフローレート(M1)が0.5〜12.0g/10分であり、かつ37.3N荷重で測定した230℃における帯電防止性樹脂混合物のメルトフローレート(M2)が0.5〜12.0g/10分である前記(1)に記載の積層樹脂板。
(3)37.3N荷重で測定した230℃におけるアクリル樹脂(B)のメルトフローレートが0.5〜8.0g/10分である前記(1)または(2)に記載の積層樹脂板。
(4)厚みが0.8〜8mmである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の積層樹脂板。
(5)アクリル樹脂(A)を中間層とし、帯電防止性樹脂混合物を前記中間層の両表面層とする3層構造である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の積層樹脂板。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の積層樹脂板の製造方法であって、アクリル樹脂(A)および帯電防止性樹脂混合物は、共押出成形により成形されるとともに、積層一体化されることを特徴とする、積層樹脂板の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記ブロック共重合体からなる特定の高分子型帯電防止剤とアクリル樹脂(B)とを混合した帯電防止性樹脂混合物を用いることにより、アクリル樹脂(A)と共押出成形により積層一体化させて得られる積層樹脂板は、高透明性、高耐熱性を維持しつつ、良好な成形加工性、持続性の高い帯電防止性能を同時に発現することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の積層樹脂板は、アクリル樹脂(A)と、帯電防止性樹脂混合物とが共押出成形により積層一体化されたものであって、帯電防止性樹脂混合物は、帯電性を有する特定のブロック共重合体と、アクリル樹脂(B)とが所定割合で混合された混合物である。
【0010】
<アクリル樹脂(A)>
本発明におけるアクリル樹脂(A)は、メタクリル酸エステルを主体とする重合体であり、メタクリル酸エステルの単独重合体であってもよいし、メタクリル酸エステル50重量%以上とこれ以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。ここで、メタクリル酸エステルとしては、通常、メタクリル酸のアルキルエステルが用いられる。
【0011】
アクリル樹脂(A)の好ましい単量体組成は、全単量体の合計100重量%を基準として、メタクリル酸アルキルが50〜100重量%、アクリル酸アルキルが0〜50重量%、これら以外の単量体が0〜50重量%であり、より好ましくは、メタクリル酸アルキルが50〜99.9重量%、アクリル酸アルキルが0.1〜50重量%、これら以外の単量体が0〜49.9重量%である。
【0012】
ここで、メタクリル酸アルキルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられ、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0013】
また、アクリル酸アルキルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられ、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。
【0014】
また、メタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキル以外の単量体は、単官能単量体、すなわち分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を1個有する化合物であってもよいし、多官能単量体、すなわち分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有する化合物であってもよいが、単官能単量体が好ましく用いられる。
この単官能単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族アルケニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのアルケニルシアン化合物;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸;無水マレイン酸;N−置換マレイミドなどが挙げられる。
【0015】
さらに、メタクリル酸メチルとアクリル酸やメタクリル酸との共重合体を環化反応させることにより得られるグルタル酸無水物構造〔式(1)〕を有する重合体や、グルタルイミド構造〔式(2)〕を有する重合体も、アクリル樹脂(A)として用いることができる。
【0016】
【化1】

【0017】
式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は水素原子またはメチル基を表す。式(2)中、R3は水素原子またはメチル基を表し、R4は水素原子またはメチル基を表し、R5は水素原子または置換基を表し、この置換基としては、例えば、メチル基、エチル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基などのアリール基;ベンジル基などのアラルキル基などが挙げられ、その炭素数は通常1〜20である。
【0018】
また、多官能単量体としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの多価アルコールのポリ不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルなどの不飽和カルボン酸のアルケニルエステル;フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの多塩基酸のポリアルケニルエステル;ジビニルベンゼンなどの芳香族ポリアルケニル化合物などが挙げられる。
【0019】
なお、上記のメタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、およびこれら以外の単量体は、それぞれ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0020】
アクリル樹脂(A)は、耐熱性の点から、そのガラス転移温度が60℃以上であるのが好ましく、80℃以上であるのがより好ましい。このガラス転移温度は、単量体の種類やその割合を調整することにより、適宜設定することができる。
【0021】
アクリル樹脂(A)は、その単量体成分を、懸濁重合、乳化重合、塊状重合などの方法により重合させることにより、調製することができる。その際、好適なガラス転移温度を得るため、または好適な樹脂基板への成形性を示す粘度を得るため、重合時に連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤の量は、単量体の種類やその割合などに応じて、適宜決定すればよい。
【0022】
アクリル樹脂(A)には、配合成分を含有させてもよい。
この配合成分としては、例えば、ゴム粒子、染料や顔料などの着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光拡散剤、艶消剤、光安定剤、離型剤、難燃剤、帯電防止剤が挙げられる。特にアクリル樹脂(A)にゴム粒子を配合すると、得られる積層樹脂板の耐衝撃性や柔軟性が向上し、割れ難くなって、好ましい。
【0023】
ゴム粒子としては、例えば、アクリル系、ブタジエン系、スチレン−ブタジエン系などの各種ゴム粒子を用いることができるが、中でも、耐侯性の点から、アクリル系ゴム粒子が好ましく用いられる。
アクリル系ゴム粒子としては、例えば、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルを主体とする弾性重合体からなる単層構造のもの;メタクリル酸メチルを主体とする硬質重合体からなる内層の周りに、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルを主体とする弾性重合体からなる外層を設けた多層構造のものなどが挙げられる。なお、上記弾性重合体には、一般に多官能単量体が少量共重合している。
【0024】
また、上記弾性重合体の周りにメタクリル酸メチルを主体とする硬質重合体からなる最外層を設けた多層構造のものも、有利に使用することができ、その具体例としては、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルを主体とする弾性重合体からなる内層の周りに、メタクリル酸メチルを主体とする硬質重合体からなる外層を設けた二層構造のものや、メタクリル酸メチルを主体とする硬質重合体からなる内層の周りに、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルを主体とする弾性重合体からなる中間層を設け、さらにその周りに、メタクリル酸メチルを主体とする硬質重合体からなる外層を設けた三層構造のものなどが挙げられる。
このような多層構造のゴム粒子は、例えば、特公昭55−27576号公報に開示されている。特に、上記した三層構造のものが好ましく、特公昭55−27576号公報の実施例3に記載のものは、好ましい組成の一つである。
【0025】
ゴム粒子の平均粒子径は、得られる積層樹脂板の表面硬度や耐衝撃性、表面平滑性の観点から、0.05〜0.4μmであるものが好ましく用いられる。ゴム粒子の平均粒子径があまり小さいと、得られる積層樹脂板の表面硬度が十分でなかったり、得られる積層樹脂板が脆くなったりする。一方、ゴム粒子の平均粒子径があまり大きいと、得られる積層樹脂板の表面平滑性を損なう傾向にある。
ゴム粒子は、一般的には乳化重合により製造することができ、その際、乳化剤の添加量や単量体の仕込み量などを調節することによって、平均粒子径を所望の値にコントロールすることができる。
【0026】
アクリル樹脂(A)にゴム粒子を配合する場合、両者の割合は、アクリル樹脂(A)を50〜95重量部、ゴム粒子を5〜50重量部とするのが好ましい。ゴム粒子の量があまり少ないと、得られる積層樹脂板の耐衝撃性や柔軟性が十分に向上せず、あまり多いと、得られる積層樹脂板の表面硬度や剛性が不十分となるので好ましくない。
【0027】
アクリル樹脂(A)は、単層のものであってもよいし、多層構造のものであってもよい。アクリル樹脂(A)を多層構造とする場合、少なくとも1つの層がメタクリル樹脂層であるのが好ましく、その例としては、ゴム粒子を含むメタクリル樹脂層とゴム粒子を含まないメタクリル樹脂層との多層構造、ガラス転移温度の異なるメタクリル樹脂層の多層構造、メタクリル樹脂層とポリカーボネート樹脂層との多層構造、メタクリル樹脂層とスチレン系樹脂層との多層構造などが挙げられる。
【0028】
<帯電防止性樹脂混合物>
本発明における帯電防止性樹脂混合物は、ポリオレフィン(a)のブロックと親水性ポリマー(b)のブロックとが結合した構造を有するブロック共重合体5〜40重量%およびアクリル樹脂(B)60〜95重量%で混合された混合物である。
【0029】
ブロック共重合体としては、ポリオレフィン(a)のブロックと、親水基を有する親水性ポリマー(b)のブロックとが繰り返し交互に結合した構造を有するブロック共重合ポリマーであって、(b)の体積固有抵抗値が104〜1011(Ω・cm)であることが好ましく、(b)には分岐構造のポリオキシアルキレン基を有するものがさらに好ましい。
【0030】
ポリオレフィン(a)のブロックとしては、例えば、ポリマーの両末端に、カルボニル基、水酸基およびアミノ基からなる群から選ばれる1種の官能基を有するポリオレフィン(a1);ポリマーの片末端に、カルボニル基、水酸基およびアミノ基からなる群から選ばれる1種の官能基を有するポリオレフィン(a2)などが挙げられる。
【0031】
ポリマーとしては、例えば、炭素数2〜30のオレフィンの1種または2種以上の混合物の重合によって得られるポリオレフィンなどが挙げられ、なかでも、好ましくは炭素数2〜12のオレフィン、特に好ましくはエチレンおよび/またはプロピレンの重合によって得られるポリオレフィンが好ましい。
【0032】
ポリオレフィン(a1)の具体例としては、ポリマーの末端を不飽和カルボン酸および/またはその無水物で変性したカルボニル基を有するポリオレフィン(a1−1);ポリオレフィン(a1−1)をヒドロキシルアミンで変性したヒドロキシル基を有するポリオレフィン;ポリオレフィン(a1−1)をジアミンで変性したアミノ基を有するポリオレフィンなどが挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
不飽和カルボン酸および/またはその無水物としては、例えば、(メタ)アクリル酸などのモノカルボン酸、マレイン酸および/またはその無水物、フマル酸、イタコン酸および/またはその無水物、シトラコン酸および/またはその無水物などが挙げられる。
ヒドロキシルアミンとしては、例えば、炭素数2〜10のヒドロキシルアミンが挙げられ、その具体例としては、2−アミノエタノール、3−アミノプロパノール、1−アミノ−2−プロパノール、4−アミノブタノール、5−アミノペンタノール、6−アミノヘキサノール、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサノールなどが挙げられる。
ジアミンとしては、例えば、炭素数2〜12のジアミンが挙げられ、その具体例として、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;1,4−シクロヘキサンジアミンなどの脂環式ジアミン;o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンなどが挙げられる。
【0034】
ポリオレフィン(a1)のゲルパーミエイションクロマトグラフィーによる数平均分子量(以下、Mnという場合がある)は、好ましくは800〜25,000であり、さらに好ましくは1,000〜20,000であり、特に好ましくは2,500〜10,000である。Mnが800〜25,000の範囲であると、耐熱性の点および親水性ポリマー(b)との反応性の点で好ましい。
また、ポリオレフィン(a1)において、ポリオレフィンの両末端がカルボニル基である場合の酸価、ポリオレフィンの両末端が水酸基である場合の水酸基価またはポリオレフィンの両末端がアミノ基である場合のアミン価は、好ましくは4〜280(mgKOH/g)であり、さらに好ましくは4〜100(mgKOH/g)であり、特に好ましくは5〜50(mgKOH/g)である。酸価、水酸基価またはアミン価が、上記範囲内であると、後述する親水性ポリマー(b)との反応性の点で好ましい。
【0035】
ポリオレフィン(a2)の具体例としては、ポリマーの末端を不飽和カルボン酸および/または無水物で変性したカルボニル基を有するポリオレフィン(a2−1);ポリオレフィン(a2−1)をヒドロキシルアミンで変性したポリオレフィン;ポリオレフィン(a2−1)をジアミンで変性したポリオレフィンなどが挙げられ、これらは単独で用いでも、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、不飽和カルボン酸および/またはその無水物、ヒドロキシルアミン並びにジアミンは、上述したポリオレフィン(a1)の製造に用いられるものと同様のものを用いることができる。
【0036】
ポリオレフィン(a2)のMnは、好ましくは800〜50,000であり、さらに好ましくは1,000〜30,000であり、特に好ましくは2,000〜20,000である。Mnが800〜50,000の範囲であると、耐熱性の点および親水性ポリマー(b)との反応性の点で好ましい。
また、ポリオレフィン(a2)におけて、ポリオレフィンの片末端がカルボニル基である場合の酸価、ポリオレフィンの片末端が水酸基である場合の水酸基価またはポリオレフィンの片末端がアミノ基である場合のアミン価は、好ましくは1〜70であり、特に好ましくは2〜50である。酸価がこの範囲であると、後述する親水性ポリマー(b)との反応性の点で好ましい。
【0037】
親水基を有する親水性ポリマー(b)としては、例えば、一般式:H−(OX)p−O−Y−O−(XO)q−Hで示されるポリエーテル(b1)、特開2001−278985号公報に記載の親水性ポリマー(b)などが挙げられる。
上記一般式中、Yは2価の水酸基含有化合物から水酸基を除いた残基、Xは少なくとも一部が後述する一般式(b0)で表される置換アルキレン基であり、残りは炭素数2〜4のアルキレン基であってもよい基である。
pおよびqは、1〜300またはそれ以上の整数であり、好ましくは1〜300であり、さらに好ましくは2〜250であり、特に好ましくは10〜100である。なお、pとqとは、同一でも異なっていてもよい。また、p個の(OX)とq個の(XO)とは同一でも異なっていてもよい。
【0038】
上述した一般式(b0)は−CH(Ra)−CH(Rb)−で示される。一般式(b0)中、RaおよびRbの一方は、一般式(b00):−CH2O(ZO)S(Rc)で表される基、他方はHであり、一般式(b00)中、Sは1〜10の整数であり、好ましくは2〜4である。
Rcとしては、例えば、H;メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基などの炭素数1〜10のアルキル基;フェニル基などの炭素数1〜10のアリール基;エチルフェニル基などの炭素数1〜10のアルキルアリール基;ベンジル基などの炭素数1〜10のアリールアルキル基;アセチル基及びベンゾイル基などの炭素数1〜10のアシル基などが挙げられ、なかでも、炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
Zは炭素数2〜4のアルキレン基であり、エチレン、プロピレン、1,2−、1,4−、2,3−及び1,3−ブチレン基及びこれらの2種以上が挙げられ、なかでも、帯電防止性の観点からエチレン基が好ましい。Zが2種以上のアルキレン基で構成される場合のオキシアルキレン基の結合形式は、ブロックまたはランダムもしくはこれらの組合せのいずれでもよい。
【0039】
2価の水酸基含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,12−ドデカンジオールなどの炭素数2〜12のアルキレングリコール;ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、ウルシオールなどの炭素数6〜18の2価フェノール;炭素数3〜18の3級アミノ基含有ジオールなどが挙げられる。前記3級アミノ基含有ジオールとしては、1級モノアミンのビスヒドロキシアルキル化物が挙げられ、該1級モノアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、1−プロピルアミン、2−プロピルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、ヘキシルアミン、1,3−ジメチルブチルアミン、3,3−ジメチルブチルアミン、2−アミノヘプタン、3−アミノヘプタン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミンなどが挙げられる。
【0040】
ポリエーテルのMnは、耐熱性の観点から、好ましくは300以上であり、特に好ましくは1,000以上であり、反応性の点から、20,000以下、特に15,000以下が好ましい。
【0041】
ブロック共重合体の製造方法としては、例えば、ポリオレフィン(a1−1)に上記一般式で示したポリエーテルを、ポリオレフィン(a1−1)とポリエーテルとの総重量に対して20〜90重量%加えて減圧下、200〜250℃で酢酸ジルコニアなどの触媒を用いて重合反応を行なう方法;特開2001−278985号公報;特開2003−48990号公報などに記載の製造方法などが挙げられる。
【0042】
このようにして得られたブロック共重合体のMnは、帯電防止性の観点から、好ましくは2,000〜60,000であり、さらに好ましくは5,000〜40,000であり、特に好ましくは8,000〜30,000である。
また、ポリオレフィン(a)のブロックと、親水性ポリマー(b)のブロックとの繰り返し単位の平均繰り返し数は、通常2〜50であり、好ましくは2.3〜30であり、さらに好ましくは2.7〜20であり、特に好ましくは3〜10である。平均繰り返し数が上記範囲であると、帯電防止性の観点から好ましい。
【0043】
また、ブロック共重合体は、例えば、三洋化成工業(株)製の商品名『ペレスタット300シリーズ』の「ペレスタット 300」、「ペレスタット 303」;『ペレスタット200シリーズ』の「ペレスタット 230」、「ペレスタット VH230」などとして入手できる。
【0044】
アクリル樹脂(B)としては、前述したアクリル樹脂(A)と同様のものを用いることができ、メルトフローレートが後述する範囲内であるのが好ましい。
【0045】
帯電防止性樹脂混合物の製造方法は、上述したブロック共重合体とアクリル樹脂(B)とを後述する割合で混合すればよい。
ブロック共重合体とアクリル樹脂(B)との混合方法は、特に限定されず、例えば、混合方法としては、スーパーミキサー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、タンブラーなどの混合機を用いた方法が挙げられ、なかでも、生産性の観点から、スーパーミキサーが好適に用いられる。
【0046】
帯電防止性樹脂混合物において、ブロック共重合体と、アクリル樹脂(B)との割合は、両者の合計量100重量部を基準として、通常、ブロック共重合体が5〜40重量部、アクリル樹脂(B)が60〜95重量部であり、好ましくは、ブロック共重合体が10〜25重量部、アクリル樹脂(B)が75〜90重量部である。ブロック共重合体の割合が、5重量部未満であると、充分な帯電防止性能を発揮しないおそれがあり、40重量部を越えると、最終的に得られる積層樹脂板の透明性、耐熱性、表面硬度が損なわれるおそれがある。
【0047】
(メルトフローレート)
本発明では、37.3N荷重で測定した230℃におけるアクリル樹脂(A)のメルトフローレート(M1)と、37.3N荷重で測定した230℃における帯電防止性樹脂混合物のメルトフローレート(M2)との差の絶対値(|M1−M2|)が、0≦|M1−M2|≦5.0(単位:g/10分、以下同じ)、好ましくは、0≦|M1−M2|≦3.5であり、さらに好ましくは、0≦|M1−M2|≦2.0であるのがよい。|M1−M2|>5.0であると、アクリル樹脂(A)と帯電防止性樹脂混合物とを共押出成形により積層一体化させる際に、フローマークと呼ばれる外観不良が発生するおそれがある。
なお、メルトフローレート(MFR)の上記測定条件はJIS K7210−1999の規定に基づくものである(以下、MFRは同じ測定条件で測定するものである)。
【0048】
さらに、本発明では、共押出成形を容易にする観点から、アクリル樹脂(A)のMFR(M1)が0.5〜12.0であり、かつ帯電防止性樹脂混合物のMFR(M2)が0.5〜12.0であるのが好ましく、さらにM1が1.0〜5.0であり、かつM2が2.0〜7.0であるのが好ましい。すなわち、上記|M1−M2|の範囲を満たすように、M1およびM2が上記範囲内のアクリル樹脂(A)および帯電防止性樹脂混合物を選択するのが好ましい。
【0049】
アクリル樹脂(B)のMFRは、|M1−M2|が上述した範囲内であれば特に限定されず、共押出成形時に適正な溶融粘度を維持するという観点から0.5〜8.0g/10分であるのが好ましく、1.0〜5.0g/10分であることがさらに好ましい。
また、アクリル樹脂(A)およびアクリル樹脂(B)のMFRを調整するには、単量体組成や、重合温度や、連鎖移動剤の量を調整すればよい。帯電防止性樹脂混合物のMFRを調整するには、例えば、ブロック重合体とアクリル樹脂(B)の含有割合を調整したり、各樹脂の重合度を調整すればよい。
【0050】
<積層樹脂板の製造方法>
本発明の積層樹脂板の製造方法は、例えば、上述したアクリル樹脂(A)および帯電防止性樹脂混合物を共押出成形により成形するとともに、積層一体化する工程を含む方法などが挙げられる。
【0051】
積層樹脂板の製造方法の具体例としては、アクリル樹脂(A)および帯電防止性樹脂混合物をそれぞれ異なる溶融押出機に別々に投入して溶融混錬し、それぞれフィードブロックに供給し、所望の層構成となるように分配した後、マルチマニホールドダイ(Tダイ)内にて積層することで、マルチマニホールドダイ先端からシート状物となった積層シートを得、得られた積層シートを後述する所望の厚さの積層樹脂板になるように成形すればよい。
【0052】
その際、例えば、2種3層または2種2層分配型であるフィードブロックを用いることで、アクリル樹脂(A)の両面に帯電防止性樹脂混合物が配されるように、またはアクリル樹脂(A)の一方の面に帯電防止性樹脂混合物が配されるように分配することができ、マルチマニホールドダイの中で積層し、3層構造または2層構造に積層一体化した積層シートを得ることができる。
【0053】
積層シートを成形する方法としては、特に限定されず、例えば、積層シートの少なくとも片面をロールまたはベルトに接触させる方法、積層シートの両面をロール表面またはベルト表面に接触させる方法などが挙げられる。
ロールおよびベルトの材質やその表面温度などの条件は、特に限定されないが、積層シート表面への平滑性付与のために、ロールまたはベルトは、金属製のものが好ましく、また、その表面が鏡面となっているものが好ましい。
【0054】
積層シートを成形する際、得られる積層樹脂板の厚みが、0.8〜8mmとなるように、さらに好ましくは1.0〜5.0mmとなるように調整するのがよい。
【0055】
<積層樹脂板>
上記のようして得られた積層樹脂板は、高透明性、高耐熱性を維持しつつ、良好な成形加工性および持続性の高い帯電防止性能を有する。
すなわち、積層樹脂板における帯電防止性樹脂の表面抵抗率は、概ね1×1013(Ω/sq)以下であるのが好ましく、積層樹脂板は良好な帯電防止性を有する観点から、更に好ましくは1×1012(Ω/sq)以下であるのがよい。表面抵抗率が1×1013(Ω/sq)より高いと、使用中に帯電し、積層樹脂板の表面にゴミや埃などが付着しやすくなるおそれがある。
【0056】
本発明の積層樹脂板は、照明材料、看板、表示板、ディスプレイ、建築材料などに好適に使用され、特に、持続性の高い帯電防止性性能を活かして、ゴミや埃などが付着しやすい屋外用途に好適に使用される。
【0057】
なお、本発明の積層樹脂板の構造は、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂(A)の層の一方の面に帯電防止性樹脂混合物の層が形成された2層構造であってもよいし、アクリル樹脂(A)を中間層とし、帯電防止性樹脂混合物を中間層の両表面層とする3層構造であってもよいが、積層樹脂板の帯電防止の観点から、3層構造であるのが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
以下の実施例、比較例における各物性の測定および得られた樹脂組成物の評価は、以下の方法により行った。
【0059】
<メルトフローレート>
JIS K7210−1999に準拠して、試験温度:230℃、試験荷重:37.3Nの条件でMFRを測定した。
<表面抵抗率>
日置電機(株)製「SME−8311」および東亜ディーケーケー(株)製「ULTRA MEGOHMMETER SM-8220」を用いて、積層樹脂板の表面抵抗率(初期表面抵抗率)を測定した。
表面抵抗率が、概ね1×1013(Ω/sq)以下であれば、積層樹脂板は良好な帯電防止性があるとされ、更に好ましくは1×1012(Ω/sq)以下とされる。
<帯電防止持続性>
積層樹脂板を流水に1時間さらした後の表面抵抗率(流水さらし後の表面抵抗率)を上記と同様の日置電機(株)製「SME−8311」および東亜ディーケーケー(株)製「ULTRA MEGOHMMETER SM-8220」を用いて測定し、(初期表面抵抗率/流水さらし後の表面抵抗率)の値から、下記の評価を行った。
○: 0.9以上
△: 0.9未満0.8以上
×: 0.8未満
<透明性>
得られた積層樹脂板について、JIS K7361−1に準拠して、全光線透過率(Tt)を測定し、得られたTtから下記の評価を行った。
○ : 90%以上
△ : 85%以上90%未満
× : 85%未満
<耐熱性>
JIS K7191に準拠して、得られた積層樹脂板の荷重たわみ温度(DTUL)(℃)を測定し、得られたDTULから下記の評価を行った。
○ : 90℃以上
△ : 85℃以上90℃未満
× : 85℃未満
<成形加工性>
積層樹脂板の成形時に、樹脂流動によるフローマーク、縞状の外観不良(タックマーク)などの外観不良を目視により観察し、下記の評価を行った。
○ : フローマーク、タックマークなどの不良が見られなかった。
△ : フローマーク、タックマークなどの不良が僅かに見られた。
× : フローマーク、タックマークなどの不良が顕著に見られ、かつその改善が困難であった。
【0060】
(実施例1)
表1に示すアクリル樹脂(B1)のペレット(住友化学(株)製 「スミペックス EX」)と、ブロック共重合体(C1)(「ペレスタット 300」(三洋化成工業(株)製))とを、表1に示す割合でスーパーミキサーで混合し、二軸押出機にて溶融混錬してアクリル系の帯電防止性樹脂混合物(I)のペレットを調製した。アクリル樹脂(B1)およびアクリル系の帯電防止性樹脂混合物(I)のMFRを表1に示した。
【0061】
表2に示すMFRを有するアクリル樹脂(A1)のペレット(住友化学(株)製 「スミペックス EX」)を東芝機械(株)製の65mmφ一軸押出機で、上記で得られた帯電防止性樹脂混合物(I)のペレットを東芝機械(株)製の45mmφ一軸押出機でそれぞれ溶融させ、2種3層分配型のフィードブロックを用いたフィードブロック法にて設定温度275℃のT型ダイスを介して押し出すことにより、アクリル樹脂(A1)からなる層の両面に帯電防止性樹脂混合物(I)が配置されるように、溶融積層一体化させ、積層シートを作製した。なお、溶融積層一体化は、アクリル樹脂(A1)からなる層の両面に積層された帯電防止性樹脂混合物(I)からなる層がそれぞれ同一の厚みとなるように積層し、かつ、積層シートの全厚に対して、該積層シートにおける帯電防止性樹脂混合物(I)からなる層の合計厚みが1/10となるように行った。
得られた積層シートを、一対の表面が平滑な金属製のロールの間に挟み込んで成形し、全厚2mmの3層構成の積層樹脂板(帯電防止性樹脂混合物(I)からなる表面層の1層当たりの厚み:0.1mm)を製造した。
【0062】
(実施例2〜5、比較例1〜3)
表1に示すアクリル樹脂(B)およびブロック共重合体を同表に示す添加量で混合して帯電防止性樹脂混合物(II)〜(VIII)を調製し、これを表2に示すアクリル樹脂(A)と、実施例1と同様にして共押出成形して、積層樹脂板を得た。得られた積層樹脂板の全厚と帯電防止性樹脂混合物からなる表面層の1層当たりの厚みを表2に示す。なお、積層樹脂板の全厚が3mm、表面層の1層当たりの厚みが0.1mmである場合は、溶融積層一体化は、積層シートの全厚に対して、該積層シートにおける帯電防止性樹脂混合物からなる層の合計厚みが1/15となるように行った。
実施例1〜5および比較例1〜3における、|M1−M2|の値、得られた積層樹脂板の表面抵抗率、帯電防止持続性、透明性、耐熱性および成形加工性についての評価結果を表2に示した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂(A)と、帯電防止性樹脂混合物とを共押出成形により積層一体化してなる積層樹脂板であって、下記(I)および(II)を満たすことを特徴とする積層樹脂板。
(I)帯電防止性樹脂混合物が、ポリオレフィンのブロックと親水性ポリマーのブロックとが結合した構造を有するブロック共重合体5〜40重量%およびアクリル樹脂(B)60〜95重量%の混合物であること
(II)37.3N荷重で測定した230℃におけるアクリル樹脂(A)のメルトフローレート(M1)と、37.3N荷重で測定した230℃における帯電防止性樹脂混合物のメルトフローレート(M2)との差の絶対値(|M1−M2|)が、0≦|M1−M2|≦5.0(単位:g/10分)であること
【請求項2】
37.3N荷重で測定した230℃におけるアクリル樹脂(A)のメルトフローレート(M1)が0.5〜12.0g/10分であり、かつ37.3N荷重で測定した230℃における帯電防止性樹脂混合物のメルトフローレート(M2)が0.5〜12.0g/10分である請求項1に記載の積層樹脂板。
【請求項3】
37.3N荷重で測定した230℃におけるアクリル樹脂(B)のメルトフローレートが0.5〜8.0g/10分である請求項1または2に記載の積層樹脂板。
【請求項4】
厚みが0.8〜8mmである請求項1〜3のいずれかに記載の積層樹脂板。
【請求項5】
アクリル樹脂(A)を中間層とし、帯電防止性樹脂混合物を前記中間層の両表面層とする3層構造である請求項1〜4のいずれかに記載の積層樹脂板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の積層樹脂板の製造方法であって、
アクリル樹脂(A)および帯電防止性樹脂混合物は、共押出成形により成形されるとともに、積層一体化されることを特徴とする、積層樹脂板の製造方法。

【公開番号】特開2012−179774(P2012−179774A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43535(P2011−43535)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】