説明

積層電気絶縁部分

本発明は、2枚の不織シート間に配置され、近接して取り付けられた熱可塑性フィルムを含む電気装置のための積層電気絶縁部分に関する。不織シートはそれぞれ、少なくとも第1のポリマーと第2のポリマーとを含む多成分ポリマー繊維からなり、第1のポリマーは、第2のポリマーの融点および熱可塑性フィルムの融点の両方より少なくとも15℃低く、フィルムは、不織シート中の第1のポリマーにより不織シートに取り付けられている。電気絶縁部分の破壊電圧は少なくとも3キロボルトであり、表面の動的摩擦係数は0.25以下である。本発明はまた、積層電気絶縁部分を含む電気装置構成要素にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電ワイヤのコイルを受ける複数のスロットを備えたコア等の構成要素を有する電気装置の積層電気絶縁部分に関する。かかる積層電気絶縁部分としては、例えば、不織シートをフィルムにサーマルボンドするだけによる、誘電ポリマーフィルムと、誘電ポリマーフィルムの各側に取り付けられた、少なくとも1枚の不織シートとを含むスロットライナ、クロージャ、ウェッジまたはスティックが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
Mikiらによる特開平11[1999]−170467号公報には、ポリエステル主繊維と、主繊維の融点より5〜50℃低い融点を有する熱溶融バインダー繊維でできたポリエステル不織布を、ポリエステルフィルムの一表面または両表面にサーマルボンドすることにより作製されたことを特徴とする高耐熱性絶縁材料として用いることのできるポリエステル複合材料が開示されている。不織布における主繊維対バインダー繊維の比率は、70:30〜40:60、好ましくは63:35〜45:55の範囲である。従って、不織表面の繊維の約半分が、不織シートをフィルムに取り付けるのに利用可能なバインダー繊維である。この公報には、バインダー繊維の比率が60重量パーセントを超えて増えると、ポリエステル複合材料の耐熱性が下がるとさらに述べられている。従って、不織シートのフィルムへの接着力を増大するために、追加のバインダー繊維を、不織シートに加えることは、現実的な選択ではない。
【0003】
積層構造の完全性は、電気積層絶縁部分にとって重要な特性である。これらの積層部分が適切な剛性または硬さを有し、低表面摩擦係数を有し、スロットライナを電気装置構成要素のスロットに挿入したり、設置中に導体またはワイヤがスロットライナと接触するとき等に、容易に剥離しないことは重要である。従って、フィルムの両側が、近接する不織シートに完全に均一に結合して(すなわち、フィルムの全表面を覆って)いるのが望ましい。さらに、剛性または硬さがこれらの部分には重要であるため、通常、高結晶化フィルム、例えば、二軸延伸PETフィルムが用いられる。この剛性がまた、フィルムを不織シートに接合するのをさらに困難にしている。
【0004】
これらの問題および要件のために、たいていのラミネート電気絶縁部分は、不織シートをポリマーフィルムに接合するのに溶媒系熱硬化性接着剤を用いている。しかしながら、追加の溶媒系接着剤の商業的使用には、通常、連続した溶媒系プロセスを必要とし、揮発性有機物の取り扱い(溶媒の換気、回収等)に関する技術的および安全上の難しさがある。接着剤が溶媒を含まない場合でも、低蒸気圧、揮発性かつ/または健康上有害であるため、モノマーの安全面にも、通常、同様の難しさがある。また、接着積層体の貯蔵寿命が短い、すなわち、電気装置に装着する前にわずか数カ月しか貯蔵できないことが業界において認識されている。さらに、使用中、例えば、設置中に、部品が不適切に曲がったり、積層体作製時に接着結合が不適切になされたりすると、接着的に取り付けられた積層体でできた部品は、徐々に、漸次、剥離するという認識もある。さらに、接着剤を添加すると、さらに他の材料が積層部分に提供され、熱膨張係数の違いにより、その部分が高温と低温を繰り返すため、剥離の問題が生じやすくなるという認識もある。
【0005】
従って、フィルムに取り付けられた不織シートを含む積層電気絶縁部分であって、接着剤、溶媒またはその他環境に優しくない物質は用いずに、不織シートは、不織シートとフィルム間の全界面に均一な接着およびその他望ましい属性を与えるものが必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、2枚の不織シート間に配置され、近接して取り付けられた熱可塑性フィルムを含む電気装置のための積層電気絶縁部分に関する。不織シートは、それぞれ、少なくとも第1のポリマーと第2のポリマーとを含む多成分ポリマー繊維からなり、第1のポリマーは、第2のポリマーの融点および熱可塑性フィルムの融点の両方より少なくとも15℃低く、熱可塑性フィルムは、不織シート中の第1のポリマーにより不織シートに取り付けられている。電気絶縁部分の破壊電圧は少なくとも3キロボルト、表面の動的摩擦係数は0.25以下である。本発明はまた、積層電気絶縁部分を含む電気装置構成要素にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】電気装置の絶縁スロットの図である。
【図2】電気装置の絶縁スロットの図である。
【図3】ステータとして知られる電気装置の図である。
【図4】ステータと共に絶縁部分および電気導体を示すステータの図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、電気モータや発電機等の通電ワイヤのコイルを受ける複数のスロットを備えた構成要素を有する電気装置の積層電気絶縁部分に関する。積層電気絶縁部分は、2枚の不織シート間に配置され、近接して取り付けられた熱可塑性フィルムを含む。
【0009】
積層電気絶縁部分は、多成分繊維でできた不織シートを用いる。多成分繊維とは、繊維が2種類以上のポリマーで構成されていることを意味する。好ましい一実施形態において、繊維は二成分であり、すなわち、シース−コア配列か並列配列のいずれかの2種類の熱可塑性ポリマーでメルトスパンされている。「2種類以上のポリマー」という言い回しには、異なる化学構造を有するポリマーだけでなく、同様の構造だが、異なる融点を有するポリマーも含まれる。例えば、好ましい一実施形態は、シースがポリエステルコポリマーまたはターポリマーで、コアがポリエステルホモポリマーであるシース/コア繊維でできた不織シートである。多成分繊維中のポリマーの1つの融点が、繊維中の他のポリマーとフィルムの融点の両方より少なくとも15℃低いのであれば、いかなる組み合わせのポリマーを用いてもよい。さらに、一実施形態において、低融点ポリマーが繊維の表面に存在していれば、ポリマーは任意の方法で多成分繊維に配列することができる。好ましい実施形態において、低融点ポリマーがシース/コア繊維のシースを形成し、高融点ポリマーがコアを形成する。
【0010】
ステープル形態で、多成分繊維のみからシートを形成する方法をはじめとする、多成分繊維を有する不織シートを形成する任意の不織方法を用いることができる。かかるステープル繊維不織布は、繊維の梳綿、ガーネッティング、エアレイまたはウェットレイをはじめとする当該技術分野において公知の数多くの方法により作製することができる。ステープル繊維の1フィラメント当たりのデニールは約0.5〜6.0、繊維長は約0.6cm〜10cmであるのが好ましい。
【0011】
ある実施形態において、不織シート中の繊維は、通常、フィラメントの意図的な切断は全くせずに、シートへと直接紡糸された連続フィラメントである。ある好ましい実施形態において、不織シートは、スパンボンディングおよびメルトブローン等、当該技術分野に公知の連続フィラメント熱可塑性ウェブの紡糸および固定化に用いる方法から作製される。積層部分を作製するのに好適な多成分スパンボンドウェブは、例えば、Bansalらによる米国特許第6,548,431号明細書に記載されたような当該技術分野に公知の方法を用いて作製することができる。好ましい一実施形態において、Rudisillらによる米国特許第5,885,909号明細書に開示されたように、多数の孔を有する紡糸ビームから、繊維を可動水平ベルト上にメルトスピニングすることにより、多成分繊維は不織シートに組み込まれる。ある実施形態において、不織布を作製するのに好適な連続フィラメントウェブは、好ましくは、1フィラメント当たりのデニールが約0.5〜20の連続フィラメントを含み、ある実施形態においては、1フィラメント当たりの好ましいデニール範囲は約1〜5である。
【0012】
積層体に用いる不織シートの好ましい形態は、軽くサーマルボンドされたシートである。かかる軽くサーマルボンドされたシートは、例えば、低ニップ圧(100〜300N/cm)、低溶融ポリマーの融点よりはるかに低い温度を用いて、エンボスロールとアンビルロールとの間のニップにおけるスパンシートのサーマルボンドにより、作製することができる。かかる技術は、Bansalらによる米国特許出願公開第2005/013545号明細書、Bansalら、に記載されている。得られるシート構造は、十分なバルクおよび最終製品に十分な結合強度で積層される形成性を保持しつつ、後の処理にとって十分な機械的完全性を有する。
【0013】
不織シートの多成分繊維は、繊維中の最低融点繊維ポリマーと最高融点ポリマーの差が少なくとも15℃で、最低融点のポリマーの融点が、フィルムの融点より少なくとも15℃低ければ、異なるポリエステルおよびコ−ポリエステル、ポリ(フェニレンスルフィド)およびポリエステルの組み合わせ等を含むことができる。これによって、最終不織布が、最終積層構造に良好な引き裂き特性を与えるのに貢献する。ある実施形態において、ポリマーの融点の差は、約15℃〜100℃、他の実施形態において、ポリマーの融点の差は、約15℃〜50℃である。
【0014】
ある実施形態において、低融点ポリマーは、個々の多成分フィラメントに約10〜50重量パーセントで存在する。10重量パーセント未満の低融点ポリマーが多成分繊維中に存在する場合、これは、不織布をフィルムに完全かつ均一に結合するのに十分な量のポリマーではないと考えられる。50重量パーセントを超える量だと、最終積層構造の引き裂き特性、および電気装置に挿入されながら、ワニスまたはマトリックス樹脂で含浸される能力に悪影響を及ぼすと考えられる。多成分繊維中の低融点ポリマーの実際のパーセンテージに関わらず、好ましい実施形態において、この低融点ポリマーは、多成分繊維の軸に沿って均一に分配されて、不織シート表面にある不織シートの繊維はいずれも、フィルムとの結合に利用できる低融点ポリマーを有するようにする。
【0015】
単層不織構造が好ましい実施形態であるが、フィルムと接触している多層不織布の層が、前述した多成分繊維でできているのであれば、多層不織布を用いることができる。不織シートの坪量および厚さは重要でなく、最終積層体の最終用途に応じて異なる。ある好ましい実施形態において、坪量は1平方メートル当たり60〜100グラムであり、積層構造中の不織シートの最終厚さは75〜125マイクロメートルである。多成分繊維を形成するポリマー成分は、染料、顔料、酸化防止剤、紫外線安定剤、スピン仕上げ等従来の添加剤を含むことができる。
【0016】
熱可塑性フィルムは、ポリエステル、ポリアミド、ポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)および/またはその他熱可塑性材料から作製することができる。熱可塑性フィルムは、均一な材料とする、または異なる層に異なる熱可塑材のある積層構造とすることができる。ある実施形態において、好ましいポリエステルとしては、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)および液晶ポリエステルが挙げられる。
【0017】
ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)は、様々なコモノマーを含み、例えば、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリ(エチレングリコール)、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、イソフタル酸等が挙げられる。これらのコモノマーに加えて、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、トリメチロールオエタンおよびペンタエリスリトール等の分岐剤を用いることができる。ポリ(エチレンテレフタレート)は、テレフタル酸、その低級アルキルエステル(例えば、ジメチルテレフタレート)およびエチレングリコール、これらのブレンドまたは混合物のいずれかから公知の重合技術により得ることができる。ポリ(エチレンナフタレート)(PEN)は、2,6−ナフタレンジカルボン酸およびエチレングリコールから公知の重合技術により得ることができる。ある有用なPEN繊維は、帝人株式会社よりTeonex(登録商標)という商品名で販売されている。市販のPETおよびPENフィルムとしては、DuPont−Teijin Filmsより販売されているMYLAR(登録商標)およびTEONEX(登録商標)フィルムがそれぞれ例示される。
【0018】
「液晶ポリエステル」(LCP)とは、米国特許第4,118,372号明細書に記載されているとおり、TOT試験またはその任意の適正な修正版を用いて試験したとき異方性であるポリエステルを意味する。液晶ポリエステルのある好ましい形態は、「全芳香族」、すなわち、ポリマー主鎖中の基の全てが芳香族(エステル基等の結合基以外)で、芳香族でない側鎖が存在している。フィルムおよびフィルム種類について可能なLCPの組み合わせは、例えば、Jesterらによる米国特許第5,248,530号明細書に記載されている。PPSフィルムの市販の一例を挙げると、Toray Companyより販売されているTOREILINA(登録商標)フィルムである。
【0019】
その他の材料、特に、熱可塑性組成物によくあるものや用いられるものが、フィルムに存在していてもよい。これらの材料は、好ましくは、化学的に不活性で、使用中の操作環境で適切に熱的に安定でなければならない。かかる材料としては、例えば、フィラー、強化剤、顔料および核剤のうち1つ以上が挙げられる。その他のポリマーが存在していて、ポリマーブレンドを形成してもよい。ある実施形態において、組成物は、約1〜約55重量パーセントのフィラーおよび/または補強剤、より好ましくは約5〜約40重量パーセントのこれらの材料を含むことができる。
【0020】
一実施形態において、熱可塑性フィルムはまた、熱硬化性材料の内側層も含むことができる。例えば、Dupontより販売されているKAPTON(登録商標)EKJフィルムは、熱可塑性ポリイミド外側層と、構造の内側に熱硬化性ポリイミド層を有している。
【0021】
電気絶縁部分に使用するには、熱可塑性フィルムは、適正な結晶化度、相当な剛性およびその他機械的特性、そして、積層電気絶縁部分に必要とされる熱安定性を有さない、単に、不織シート上のポリマーコーティングまたは押出し物でない、本当のフィルムである必要がある。ある好ましい実施形態において、フィルムは二軸延伸フィルムである。かかるフィルムは、好ましい配向を有する必要はなく、全方向にほぼ同じ剛性を有し、さらに、引き裂きに対して弱い方向がない。熱可塑性フィルムの融点は、不織構造中の最低溶融ポリマーの融点より少なくとも15℃高くなければならない。これによって、熱積層プロセス中適切な温度差が与えられて、良好な結合が形成され、フィルムの大幅な収縮や反りは全く生じず、その内部構造ならびに対応の物理および機械的特性は妨げられない。熱可塑性フィルムの初期係数は少なくとも0.8Paであり、フィルムの厚さに沿って、部分の剛性(曲げ能力)が決まる。好ましい一実施形態において、フィルムの初期係数は、少なくとも2GPaである。
【0022】
熱可塑性フィルムは、積層電気絶縁部分において、2枚の不織シート間に配置され、近接して取り付けられている。すなわち、熱可塑性フィルムは、2枚の不織シート間に挟まれている。これによって、積層電気絶縁部分は、電気装置に設置される前か、または装置に設置された後のいずれかに、マトリックス樹脂で含浸される。熱可塑性フィルムは、不織シート中の低融点ポリマーによってのみ繊維状シートに取り付けられている。フィルムに直接近接する不織シート層は、多成分フィラメントからなり、低融点ポリマーが、これらのフィラメント表面で、熱および任意で圧力を加えることにより、結合に利用可能であるため、フィルムと接触している表面繊維の実質的に全てがフィルムと結合して、不織シートの引き裂き抵抗および堅固性を維持しながら、不織シートとフィルム間に優れた、より均一な完全なサーマルボンドとなると思われるものが形成される。接着剤および/または有機溶媒は必要ない。
【0023】
好ましい一実施形態において、両方の不織シートをフィルムに同じ程度に取り付ける。これは、フィルムのいずれかの側に、実質的に同一の不織シートを用いて、両側に同様の熱および圧力を加えることによりなされる。あるいは、不織シートを異なる程度でフィルムに取り付けることもできるが、実際は、どちらの側の結合が強いか把握しておく必要があり、通常望ましくない。
【0024】
最適な温度および圧力を、不織シートとフィルムの間の接触表面に加えることにより、熱積層プロセスは、連続プロセスで実施できる。あるいは、必要に応じて、プラテンプレスまたは同様の種類の装置を用いて、バッチプロセスを用いることができる。
【0025】
不織シートは、両側から1工程でフィルムに結合する、または2工程で、まず片側に結合した後、反対側から結合することができる。ある好ましい実施形態において、カレンダ加工の好ましい種類は、ソフトニップカレンダ加工であり、各ニップが、1本の硬質金属ロールと1本のコンポジットロールの2本のロールにより形成される。コンポジットロールの典型的な材料としては、脂肪族および芳香族ポリアミドおよび綿(必要な温度および硬度に応じて異なる)が挙げられる。
【0026】
積層電気絶縁部分は、多くの異なる形態で電気装置に用いることができる。これらの積層電気部分は、電気絶縁体として機能し、スロットにおけるワイヤ挿入、スロットにおける配線の固定および配線の機械的保護を支援する。スロットを備えた最も一般的な2つの電気装置構成要素はロータとステータである。図1は、スロット2を有するかかる装置1の図である。この電気装置構成要素が、電気装置に固定されている場合には、ステータと呼ばれ、この電気装置構成要素が回転すると、ロータと呼ばれる。
【0027】
これらの部分には、スロットライナ、ウェッジおよび/またはスティック、スロットライナカバーおよび積層体からダイカットされるその他部品が含まれる。部分は、任意の電気装置に用いることができるが、多くの実施形態において、それらは、電気モータおよび発電機に有用であり、図2および3に、電気装置のスロットに用いられる積層電気絶縁部分の典型的な実施形態が開示されている。図2は、複数の巻線7と、スロットライナ8と呼ばれる電気絶縁層をスロットに有するスロット6に単層巻線5の図である。スロットライナは、電気絶縁部分であり、ロータまたはステータスロットを並べるのに用いられて、ロータまたはステータ巻き線をステータまたはロータ金属自身または他の構造部品から絶縁する。スロットの開口端は、スロットカバーまたはカバーリング9として知られている他の電気絶縁体で閉じられており、組立体は、スロットのリップ11と係合するウェッジ10(スティックまたはトップスティックとしても知られている)により適所に機械的に保持されている。ウェッジを用いて、スロット内にコイル線を圧縮し含ませる。図3は、2組の巻線13および14と、2組のワイヤを分離するスロット分離器15(ミッドスティックまたは中央ウェッジとしても知られている)に他の絶縁層を有する2層巻線12の図である。このタイプの巻線において、スロット分離器を用いて、2本の巻線をスロットにおいて互いに分離し絶縁する。図4は、スロット18にあるいくつかの巻線17を示す電気装置構成要素16の図であり、スロットをカバーするスロットカバーとウェッジ19の組み合わせも示されている。
【0028】
積層電気絶縁部分は、公知の技術により製造することができる。例えば、スロット封入部は、必要な長さに切断されて、パンチおよびダイにより、チャネル形断面へと形成された細片ラミネートから作製することができる。積層体のテープの端部余白を内側に曲げて、テープの端部に折り返し部を形成し、折り返し端部に対して垂直に曲げて、電気装置構成要素のスロットへ挿入するのに好適な構成とする前に、適切なサイズのスタンピングダイにより、折り返し部のテープを適切なサイズまで切断することによって、スロットライナを製造することができる。
【0029】
積層電気装置部分は、少なくとも3キロボルトの破壊電圧を有する。積層部品の破壊電圧は、主に、フィルムの種類およびその厚さの選択に応じて異なる。これらの部品は、0.25以下の動的摩擦係数の表面を有する。低動的摩擦性能が、スロットライナのスロットへの安全(損傷のない)挿入、スロットライナの上部のスロットへの巻線の挿入および充填したスロット上部へのスロットカバー、ウェッジまたはスティックの挿入にとって重要である。動的摩擦係数が大きすぎると、積層電気絶縁部分は、製造中、スロットか配線のいずれかにより摩耗して、電気装置の性能を損なう恐れがある。ある好ましい実施形態において、スロットライナ、そしてかなりの程度、ウェッジおよびスティックには、全く問題なくスロットに挿入される剛性が必要であるため、これらの積層電気絶縁部分の正規化曲げ指数は少なくとも30である。
【0030】
積層電気絶縁部分は、電気絶縁部分と樹脂の総重量に基づいて、10〜50重量パーセントの量で存在するマトリックス樹脂をさらに含むことができる。通常、これは、その部分から空気を排除するために行われ、改善された熱および誘電特性を絶縁体に与える。さらに、かかる処理後、曲げに対する剛性もやや増大する。樹脂をその部分に塗布することができ、硬化または部分硬化してから、電気装置構成要素のスロットに設置することができる。あるいは、その部分を、電気装置構成要素に設置し、配線と共に巻いてから、その部分を有する巻いた電気装置構成要素を適切な樹脂で浸漬するかもしくは与えて、その部分をマトリックス樹脂で実質的に完全に含浸して、必要に応じて、電気装置構成要素を封入する。あるいは、その部分は、樹脂で部分的に含浸し、電気装置構成要素に設置してから、後の工程において、同じまたは異なる樹脂によりさらに含浸することができる。含浸したら、その部分または装置を熱的に硬化して、マトリックス樹脂を架橋および硬化することができる。有用な樹脂としては、エポキシ、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエステルイミド等が挙げられる。
【0031】
試験方法
融点は、ASTM法D3418により測定した。融点は、融解吸熱の最大とみなされ、10℃/分の加熱速度での第2の熱で測定される。
【0032】
本発明の積層構造の引っ張り特性は、幅2.54cm、ゲージ長18cmの試験試料を用いて、ASTM D828−93に従って、Instronタイプの試験機で測定した。
【0033】
本発明の積層体の厚さおよび坪量は、それぞれ、ASTM D374−99およびASTM D646−96に従って、試験積層体の試料の面積の厚さおよび重量を測定することにより求めた。
【0034】
積層体の初期引き裂き強度(ITS)は、ASTM D1004−07に基づいて、グリップ距離7.6cmで測定した。
【0035】
フィルムと不織シートとの間の結合強度またはプライ接着力は、ASTM F904−98に基づいて、幅2.54cmのストリップで、12.7cm/分の速度で測定した。
【0036】
積層体の曲げに対する剛性は、ASTM D747に基づいて測定し、幅2.54cmの積層体のストリップを60度の曲げ角度まで曲げて、オルセン剛性指数(OSI)を求めた。指数は、
OSI=(A/100×B)/(0.125D)
で計算した。
式中、A=下部目盛り=60のときの平均上部目盛り読取り値、
B=合計トルク、インチ−ポンド、
D=試料幅−インチ。
【0037】
正規化剛性指数(NSI)は、3度の積層体厚さにより除算したオルセン剛性指数と定義された。
NSI=OSI/(TH^3)、
式中、TH=mmでの試料厚さ。
【0038】
積層体表面の摩擦係数は、ASTM D−1894に従って、最大粗さ深さが37マイクロインチ(0.9マイクロメートル)の研磨ステンレス鋼摩擦テーブルを備えたインストロン摩擦係数固定具を用いて測定した。
【0039】
積層体の破壊電圧は、ASTM D149−97a、方法A(短時間試験)に従って、端部が6.4mmまで丸められた直径51mm、厚さ25mmの平面電極を用いて測定した。
【0040】
実施例1
それぞれ坪量が61g/m2で、コア/シース構造を有する連続繊維でできた軽くサーマルボンドされた2層のスパンボンド不織シートを、米国特許出願公開第2005/013545号明細書(Bansalら)に記載されたとおりにして作製した。ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)を繊維コアに用い、変性ジ−メチルイソフタレートPETコポリマーを繊維シースに用いた。コア部分は繊維構造の70重量パーセントであり、シース部分は繊維構造の30重量パーセントであった。コアポリマーとシースポリマーの融点は、それぞれ、265℃と216℃であった。初期係数が約4GPaおよび融点が255℃の厚さ75ミクロンのPETフィルム(DuPont−Teijin Filmsより販売のMYLAR(登録商標)ELフィルム)を、177℃まで赤外オーブンで予熱し、2層の不織シート間に挿入し、単一操作で、結合した層をまず、下部を、次に、上部を、ロール直径45.7cmのPerkinsカレンダの2つのソフトニップに通してカレンダ加工した。各カレンダニップは、加熱金属ロールとナイロン複合体バックアップロールを有していた。速度は15m/分であり、ニップ線圧は3800N/cmであり、加熱金属ロール温度は199℃であった。最終積層構造の特性を表1に示す。積層体の試料を、Teflon(登録商標)含浸ガラス布に配置し、オーブンに200℃で1時間、230℃で1時間入れた。オーブンから取り出した後、試料を検査したところ、反りや剥離は観察されなかった。スロットライナ、ウェッジまたはスティック等の電気絶縁部分を公知の方法を用いて積層体から作製し、必要な長さに切断して、パンチおよびダイを用いて、部品を形成することができる。
【0041】
実施例2
積層構造を、速度を30.5m/分とした以外は実施例1と同様にして作製した。最終積層構造の特性を表1に示す。積層体を片へと切断し、電気絶縁部分(スロットライナおよびウェッジ)を作製した。
【0042】
実施例3
実施例1の不織シートの2層を、積層を10.7m/分の速度で実施し、ニップ線圧が3500N/cmであり、金属ロール温度が220Cであった以外は、実施例1と同様にして、初期係数が約4GPa、融点が255℃の厚さ125ミクロンのPETフィルム(DuPont−Teijin Filmsより販売のMYLAR(登録商標)ELフィルム)により、積層した。生成した積層体の坪量は302g/m2、厚さ0.319mm、破壊電圧13kV、フィルムと上下不織シートとの間の平均結合/剥離力はそれぞれ1.50および1.45N/cmであり、両表面の動的摩擦係数は0.21であった。スロットライナ、ウェッジまたはスティック等の電気絶縁部分を公知の方法を用いて積層体から作製し、必要な長さに切断して、パンチおよびダイを用いて、部品を形成することができる。
【0043】
実施例4
以下の例外を除き、実施例1のプロセスを繰り返すことができる。軽くサーマルボンドされたスパンボンド不織シートを、ポリ(フェニレンスルフィド)をコアに、変性ジ−メチルイソフタレートPETコポリマーをシースに、コア部分を繊維構造の80重量パーセントとし、シース部分を繊維構造の20重量パーセントとして、繊維から作製する。コアおよびシースのポリマーの融点はそれぞれ285℃と216℃である。不織シートの坪量はそれぞれ86g/m2であり、融点が270℃、初期係数が約4.5GPaの厚さ75ミクロンのポリ(エチレンナフタレート)フィルム(DuPont−Teijin Filmsより販売のTEONEX(登録商標)フィルムタイプQ51)で積層する。スロットライナ、ウェッジまたはスティック等の電気絶縁部分を公知の方法を用いて積層体から作製し、必要な長さに切断して、パンチおよびダイを用いて、部品を形成することができる。
【0044】
比較として、表1に、標準の接着接合ポリエステル不織−ポリエステルフィルム積層体の特性も含めてある。標準的な指定で、「D」はDACRON(登録商標)を表わし、「M」はMYLAR(登録商標)を表わす。「70」は、積層体をさらに含浸または飽和しなかったことを意味し、「100」は、積層体をさらに樹脂で含浸または飽和したことを意味する。表からわかるとおり、接着剤なしで作製した積層電気絶縁部分は、接着接合積層体の特性と等価またはそれより優れた特性を有している。接着剤のない積層体の剛性は、DMD70積層体より高く、良好な接合強度が積層プロセス中に得られる場合は、DMD100積層体よりも高くすることができる。これは、特に、スティックおよびウェッジにとっては非常に有用である。同表から、本発明の積層体の初期引き裂き強度が、ほぼ同じまたは多い坪量の接着接合ラミネートの初期引き裂き強度より高いことが分かる。
【0045】
同じく、表に示されているとおり、フィルムの上下表面は、同程度に不織シートに取り付けられている。すなわち、積層電気絶縁部分の接合強度は、A側からB側まで非常に近く、違いは30相対パーセント以下である。これは、積層構造のどちら側が後にワイヤに対向するか設置者が考慮する必要がないという点で、電気部品製造にとって重要である。フィルムと不織布との間の接合の全体のレベルは、実施例1および2の処理条件の変化を比べて示したとおり、積層プロセス条件の調整により調整し、特定の用途のための特定の部品の要件に適合させることができる。
【0046】
表1 積層電気絶縁部分の特性

(表1続き)

* Fabrico Atlanta (Kennesaw, GA)より販売

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の不織シート間に配置され、近接して取り付けられた熱可塑性フィルムを含み、前記不織シートがそれぞれ、
少なくとも第1のポリマーと第2のポリマーとを含む多成分ポリマー繊維からなり、前記第1のポリマーは、前記第2のポリマーの融点および前記熱可塑性フィルムの融点の両方より少なくとも15℃低く、前記熱可塑性フィルムは、前記不織シート中の前記第1のポリマーにより前記不織シートに取り付けられており、
前記電気絶縁部分の破壊電圧が少なくとも3キロボルトであり、表面の動的摩擦係数が0.25以下である、電気装置のための積層電気絶縁部分。
【請求項2】
正規化剛性指数が少なくとも30である請求項1に記載の積層電気絶縁部分。
【請求項3】
前記熱可塑性フィルムが、2枚の不織シートのそれぞれに同程度で取り付けられている請求項1に記載の積層電気絶縁部分。
【請求項4】
スロットライナの形態にある請求項1に記載の積層電気絶縁部分。
【請求項5】
クロージャ、ウェッジまたはスティックの形態にある請求項1に記載の積層電気絶縁部分。
【請求項6】
前記電気絶縁部分および樹脂の総重量に基づいて、10〜50重量パーセントの量で存在しているマトリックス樹脂をさらに含む請求項1に記載の積層電気絶縁部分。
【請求項7】
前記熱可塑性フィルムがポリエステルフィルムである請求項1に記載の積層電気絶縁部分。
【請求項8】
前記熱可塑性フィルムの初期係数が少なくとも0.8GPaである請求項1に記載の積層電気絶縁部分。
【請求項9】
前記第1または第2のポリマーがポリエステルである請求項1に記載の積層電気絶縁部分。
【請求項10】
前記第1のポリマーがコポリマーまたはターポリマーであり、前記第2のポリマーがホモポリマーである請求項1に記載の積層電気絶縁部分。
【請求項11】
前記多成分ポリマー繊維がシース/コア構造を有し、前記シースが前記第1のポリマーを含み、前記コアが前記第2のポリマーを含む請求項1に記載の積層電気絶縁部分。
【請求項12】
前記多成分ポリマー繊維が並列構造を有し、片側が前記第1のポリマーを含み、反対側が前記第2のポリマーを含む請求項1に記載の積層電気絶縁部分。
【請求項13】
前記多成分ポリマー繊維が連続フィラメントである請求項1に記載の積層電気絶縁部分。
【請求項14】
請求項1に記載の前記積層電気絶縁部分を含む電気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−527808(P2010−527808A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508423(P2010−508423)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/006220
【国際公開番号】WO2008/143924
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】