説明

空気入りラジアルタイヤの製造方法

【課題】操縦安定性能や耐久性能を確保しながら転がり抵抗を低減できる空気入りラジアルタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】有機繊維コードがタイヤ周方向に対して傾斜するように配置された内側ベルトプライ5を円筒状に成形し、その円筒状に成形した内側ベルトプライ5の径寸法を拡張する。続いて、カーカスプライ4を構成する一対の分割プライ片4a,4bを配設し、内側ベルトプライ5の両端領域を一対の分割プライ片4a,4bの端部で覆いつつ、内側ベルトプライ5の中央領域を開放する。次に、スチールコードがタイヤ周方向に対して傾斜するように且つ前記有機繊維コードとは逆向きに配置された外側ベルトプライ6を円筒状に成形し、分割プライ片4a,4bの端部を内側ベルトプライ5と外側ベルトプライ6とで挟み込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部の中央領域でカーカスプライをタイヤ幅方向に分割している空気入りラジアルタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1,2に開示されているように、トレッド部の中央領域でカーカスプライをタイヤ幅方向に分割した、いわゆる中抜き構造を有する空気入りラジアルタイヤが知られている。かかる中抜き構造では、カーカスプライが左右一対の分割プライ片により構成され、トレッド部の中央領域にカーカスプライが欠落した中抜き部が形成されることから、乗心地性能を向上して、背反する操縦安定性能との両立を図りうるという利点がある。
【0003】
ところが、中抜き構造を有するタイヤでは、トレッド部に配置される分割プライ片の端部を起点としてセパレーションを起こしやすく、それによりインナーライナーゴムが損傷する恐れがあった。これは、走行時のタイヤ転動に伴って繰り返し入力される荷重によって、分割プライ片の端部が変位しやすいことが原因であり、この端部の変位を抑えて耐久性能を確保するための方策が必要であった。
【0004】
これに対し、特許文献1では、二枚のカーカスプライのうち、少なくともタイヤ径方向外側のカーカスプライを中抜き構造としつつ、トレッド部に配置される一対の分割プライ片の端部を複数枚のベルトプライの間で挟持する構造が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、ベルト層を構成する二枚のベルトプライとは別個に、タイヤ径方向内側に補強層を配置し、分割プライ片の端部をベルトプライと補強層とで挟持する構造が提案されている。この補強層は、カレンダー状に配列された繊維材(コード材)で構成され、当該文献では、繊維材を略タイヤ周方向に向けて延在させることにより、タイヤの耐久性能を良好に向上できると位置付けている。
【0006】
特許文献1,2では、ベルトプライを構成するコード材として、スチールコードや有機繊維コードが挙げられている。しかし、スチールコードからなるベルトプライでは、タイヤの重量増を引き起こし、転がり抵抗を増大させる傾向にある。一方、有機繊維コードからなるベルトプライでは、スチールコードを採用した場合よりも転がり抵抗を低減しうるものの、その反面にベルト剛性が低下し、操縦安定性能が悪化する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−081873号公報
【特許文献2】特開2007−283962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、操縦安定性能や耐久性能を確保しながら転がり抵抗を低減できる空気入りラジアルタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る空気入りラジアルタイヤの製造方法は、トレッド部の中央領域でカーカスプライをタイヤ幅方向に分割している空気入りラジアルタイヤの製造方法において、有機繊維コードがタイヤ周方向に対して傾斜するように配置された内側ベルトプライを円筒状に成形し、その円筒状に成形した前記内側ベルトプライの径寸法を拡張する工程と、前記カーカスプライを構成する一対の分割プライ片を配設し、前記内側ベルトプライの両端領域を前記一対の分割プライ片の端部で覆いつつ、前記内側ベルトプライの中央領域を開放する工程と、スチールコードがタイヤ周方向に対して傾斜するように且つ前記有機繊維コードとは逆向きに配置された外側ベルトプライを円筒状に成形し、前記内側ベルトプライの両端領域を覆う前記分割プライ片の端部を前記内側ベルトプライと前記外側ベルトプライとで挟み込む工程と、を備えるものである。
【0010】
本発明では、内側ベルトプライが有機繊維コードからなるため、スチールコードを採用した場合に比べて軽量となり、転がり抵抗の低減効果が得られる。しかも、円筒状に成形した内側ベルトプライの径寸法を拡張し、次いでスチールコードからなる外側ベルトプライを設けるため、内側ベルトプライの有機繊維コードに張力が付与され、ベルト剛性を高めて操縦安定性能を確保できる。それでいて、一対の分割プライ片の端部を内側ベルトプライと外側ベルトプライとで挟み込むことにより、その分割プライ片の端部の変位を抑えて耐久性能を確保できる。
【0011】
上述のように、本発明は、円筒状に成形した内側ベルトプライの径寸法を拡張し、有機繊維コードに張力を付与することで、ベルト剛性の向上を図るものである。それ故、スチールコードよりも引張モジュラスが低い有機繊維コードを内側ベルトプライに採用するとともに、その有機繊維コードをタイヤ周方向に対して傾斜させ、内側ベルトプライの拡張後に外側ベルトプライを配設することで、内側ベルトプライが径変化に対応できるようにしている。
【0012】
これに対し、内側ベルトプライをスチールコードで構成した場合には、引張モジュラスが高くなり過ぎるために、また、内側ベルトプライのコードをタイヤ周方向に配置した場合には、その周方向長さが確定してしまうために、更に、内側ベルトプライの拡張前に外側ベルトプライを配設した場合には、外側ベルトプライによる拘束力が作用するために、それぞれ内側ベルトプライが径変化に対応できず、コードに張力を付与することが困難になる。
【0013】
本発明では、円筒状に成形した前記内側ベルトプライの径寸法を拡張する前の状態で、前記有機繊維コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度が20〜45°の範囲内であるものが好ましい。これにより、円筒状に成形した内側ベルトプライの径寸法を拡張する際に、内側ベルトプライが径変化に対応しやすくなり、有機繊維コードに張力を適切に付与して、ベルト剛性を効果的に高めることができる。
【0014】
本発明では、円筒状に成形した前記内側ベルトプライの径寸法を拡張するに際し、その内側ベルトプライの拡張率を3〜15%とするものが好ましい。内側ベルトプライの拡張率を上記の範囲内にすることにより、作業性の悪化を伴うことなく、有機繊維コードに張力を適切に付与し、ベルト剛性を高めて操縦安定性能を確保することができる。
【0015】
本発明では、前記内側ベルトプライのコードの引張モジュラスが25000N/mm以上であるものが好ましい。この場合、内側ベルトプライにおける引張モジュラスをある程度確保して、ベルト剛性を有効に高めることができる。尚、この「引張モジュラス」は、JISL1017に準拠して、コードの伸張変化に対する荷重変化の最大点から初期引張抵抗度を求め、下記の式にて見掛けヤング率を求めた値を指す。
E’=100 × ρ × Rd
E’:見掛けヤング率(N/mm
ρ :繊維の密度(g/cm
Rd:初期引張抵抗度(cN/dtex)
【0016】
本発明では、前記一対の分割プライ片が、それぞれビードコアの周りを外側から内側に巻き返されているものが好ましい。これにより、ベルト端からビード部までのカーカスプライ内面の曲率変化を抑え、内圧による張力を均一化してコーナリング特性をリニアにできるため、操縦安定性能が向上する。また、加硫成形時にカーカスプライ外側のゴム流れ不具合が抑制されるため、その部位のゴム薄肉化による軽量化が可能となり、転がり抵抗の更なる低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明により製造される空気入りラジアルタイヤの一例を示すタイヤ子午線半断面図
【図2】トレッド部におけるプライを模式的に示す断面図
【図3】トレッド部におけるプライを示す平面図
【図4】本発明に係る空気入りラジアルタイヤの製造方法を説明する概略断面図
【図5】本発明の別実施形態に係る空気入りラジアルタイヤの製造方法を説明する概略断面図
【図6】本発明の別実施形態に係る空気入りラジアルタイヤの製造方法を説明する概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明により製造される空気入りラジアルタイヤを概略的に示すタイヤ子午線半断面図である。図2は、そのタイヤのトレッド部3におけるプライを模式的に示す断面図である。図3は、それらプライを示す平面図であるが、図中のコードを概念的に描いており、実際の配列ピッチはもっと密なものとなる。
【0019】
この空気入りラジアルタイヤTは、タイヤ赤道CLに関して左右対称な構造を有しており、一対のビード部1と、そのビード部1からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備える。一対のビード部1には、それぞれ環状のビードコア1aと、そのビードコア1aのタイヤ径方向外側に配された硬質ゴムからなるビードフィラー1bとが設けられている。
【0020】
トレッド部3には、有機繊維コード5Cがタイヤ周方向CDに対して傾斜するように配置された内側ベルトプライ5と、スチールコード6Cがタイヤ周方向CDに対して傾斜するように且つ有機繊維コード5Cとは逆向きに配置された外側ベルトプライ6とが埋設されている。コード5,6のタイヤ周方向CDに対する傾斜角度θ5,θ6としては、それぞれ18〜42°が例示される。有機繊維コード5Cの素材には、アラミドが好ましく用いられるが、ポリエステルやレーヨン、ナイロンなどでもよい。
【0021】
カーカスプライ4は、全体としてトロイド状に設けられているが、トレッド部3の中央領域ではタイヤ幅方向に分割されており、いわゆる中抜き構造になっている。カーカスプライ4は、一対の分割プライ片4a,4bにより構成され、その各々がビード部1からサイドウォール部2を経由してベルトプライ5,6の端部に到達している。トレッド部3に配置された分割プライ片4a,4bの端部は、互いにタイヤ幅方向に分離しており、それらの間にカーカスプライ4が欠落した中抜き部が形成されている。
【0022】
カーカスプライ4は、タイヤ周方向CDと略直交するように配置されたカーカスコード4Cからなる。カーカスコード4Cとしては、有機繊維コードが好ましく用いられる。カーカスプライ4を構成する一対の分割プライ片4a,4bは、それぞれビードコア1aの周りを外側から内側に巻き返した、いわゆるダウン構造になっており、その端部をビード部1で係止させている。
【0023】
カーカスプライ4の内側には、タイヤTの内面を構成するインナーライナーゴム7が設けられている。インナーライナーゴム7は、タイヤ内に充填された気体の透過を阻止する機能を有する。また、サイドウォール部2では、カーカスプライ4の外側に、タイヤTの外壁面を構成するサイドウォールゴム8が設けられており、トレッド部3では、タイヤTの踏面を構成するトレッドゴム9が設けられている。トレッドゴム9の表面には、加硫成形を施した際に、トレッドパターンが形成される。
【0024】
この空気入りラジアルタイヤTを製造する方法について、図4を用いて説明する。本発明に係る空気入りラジアルタイヤの製造方法は、ベルトプライとカーカスプライに関する工程以外は、従来のタイヤ製造工程と同様にして行うことができるため、以下ではベルトプライ5,6及びカーカスプライ4の配設工程を中心に説明する。
【0025】
まず、有機繊維コード5Cの配列体をゴム被覆してなる帯状プライを用意し、それを図4(a)のように剛性中子11の外周へ環状に貼り付け、有機繊維コード5Cがタイヤ周方向に対して傾斜するように配置された内側ベルトプライ5を円筒状に成形する。剛性中子11は、拡径可能に構成されたドラム状部材であり、内側ベルトプライ5を貼り付ける面がタイヤ幅方向に沿って緩やかに湾曲している。続いて、図4(b)のように、剛性中子11を拡径させて、円筒状に成形した内側ベルトプライ5の径寸法を拡張する。これにより、内側ベルトプライ5の有機繊維コード5Cに張力が付与される。
【0026】
次に、図4(c)に示すように、カーカスプライ4を構成する一対の分割プライ片4a,4bを配設し、内側ベルトプライ5の両端領域を分割プライ片4a,4bの端部で覆いつつ、内側ベルトプライ5の中央領域を開放する。この段階では、インナーライナーゴム7やサイドウォールゴム8、ビードコア1a、ビードフィラー1bといったタイヤ構成部材も配設されており、分割プライ片4a,4bの端部がビードコア1aの周りで巻き返されているが、それらの図示は省略する。
【0027】
その後、スチールコード6Cの配列体をゴム被覆してなる帯状プライを用意し、それを図4(d)のように内側ベルトプライ5の外周へ環状に貼り付け、スチールコード6Cがタイヤ周方向に対して傾斜するように且つ有機繊維コード5Cとは逆向きに配置された外側ベルトプライ6を円筒状に成形する。このとき、内側ベルトプライ5の両端領域を覆う分割プライ片4a,4bの端部を、内側ベルトプライ5と外側ベルトプライ6とで挟み込む。
【0028】
そして、図示は省略するが、外側ベルトプライ6の外周にトレッドゴム9を設けて、図1のようなグリーンタイヤを成形する。外側ベルトプライ6とトレッドゴム9を組み合わせた円筒状部材を予め成形しておき、その円筒状部材を内側ベルトプライ5の外周に圧着するようにしても構わない。成形したグリーンタイヤは、剛性中子11から取り外された後、加硫成形が施される。
【0029】
製造されたタイヤTでは、内側ベルトプライ5が有機繊維コードからなることにより、タイヤ重量の低減に伴う転がり抵抗の低減効果が得られるとともに、ベルト面外曲げ剛性の低減による乗心地性能の向上効果も得られる。しかも、内側ベルトプライ5の有機繊維コード5Cに張力が付与されるため、ベルト剛性を高めて操縦安定性能(特にコーナリング特性)を確保できる。それでいて、分割プライ片4a,4bの端部を内側ベルトプライ5と外側ベルトプライ6とで挟み込むことにより、その分割プライ片4a,4bの端部の変位を抑えて耐久性能を確保することができる。
【0030】
分割プライ片4a,4bの端部の変位を堅固に抑えて耐久性能を確保する観点から、分割プライ片4a,4bの端部と幅狭ベルトプライとの重なり代L(図2参照)は、10mm以上が好ましい。幅狭ベルトプライは、内側ベルトプライ5及び外側ベルトプライ6のうち幅狭となる方を指し、本実施形態では内側ベルトプライ5が該当する。本発明では、内側ベルトプライ5と外側ベルトプライ6とでコード材質が異なるため、どちらを幅狭にしても構わない。内側ベルトプライ5の端部と外側ベルトプライ6の端部とのステップS(タイヤ幅方向の間隔)は、4〜12mmが好ましい。
【0031】
中抜き部の幅EW(分割プライ片4a,4bの端部の間隔)は、幅狭ベルトプライ(本実施形態では内側ベルトプライ5)の幅BWの70〜90%が好ましい。中抜き部では、有機繊維コード5Cとスチールコード6Cとがプライ間で互いに逆向きに交差するように積層されるため、この割合を70%以上にすることで、ベルトとしての機能を十分に発揮せしめて、操縦安定性能(特にコーナリング特性)を良好に確保できる。一方、この割合を90%以下にすることで、十分な重なり代Lを確保しやすくできる。
【0032】
図4(a)に示した状態で、即ち円筒状に成形した内側ベルトプライ5の径寸法を拡張する前の状態で、有機繊維コード5Cのタイヤ周方向に対する傾斜角度を20〜45°の範囲内にすることが好ましい。これにより、円筒状の内側ベルトプライ5の径寸法を拡張する際に、内側ベルトプライ5が径変化に対応しやすくなり、有機繊維コード5Cに張力を適切に付与して、ベルト剛性を効果的に高めることができる。
【0033】
図4(b)のように円筒状の内側ベルトプライ5の径寸法を拡張するに際しては、その内側ベルトプライ5の拡張率を3〜15%とすることが好ましい。これにより、作業性の悪化を伴うことなく、有機繊維コード5Cに張力を適切に付与し、ベルト剛性を高めて操縦安定性能を確保することができる。この拡張率は、タイヤ赤道での内側ベルトプライ5の内径(または剛性中子11の外径)を基準として、(拡張後の径寸法−拡張前の径寸法)/拡張前の径寸法の式により算出される。
【0034】
内側ベルトプライ5は、コードの引張モジュラスが25000N/mm以上であることが好ましい。これにより、内側ベルトプライ5における引張モジュラスをある程度確保し、ベルト剛性を有効に高めることができる。スチールコード6Cからなる外側ベルトプライ6のコードの引張モジュラスは、概ね160000〜170000N/mmであるのに対し、内側ベルトプライ5のコードの引張モジュラスはそれよりも低く、せいぜい40000N/mmである。
【0035】
本実施形態のタイヤTでは、転がり抵抗の低減効果を高められるよう、外側ベルトプライ6の外周には、他のベルトプライを配設することなく、トレッドゴム9を直接に載せて、更なる軽量化を図っている。但し、高速耐久性能を高めるべく、必要に応じて、コードがタイヤ周方向に略平行に配置されたベルト補強層を設けることも可能である。また、カーカスプライ4は、複数を積層したものでも構わないが、タイヤ重量を低減して転がり抵抗を低減するうえでは、本実施形態のように一層で構成することが望ましい。
【0036】
本発明の別実施形態に係る空気入りラジアルタイヤTの製造方法について、図5,6を用いて説明する。尚、以下に説明する事柄の他は、図4の実施形態と同様であるため、共通する点は省略し、主に相違点について説明する。
【0037】
図5の例は、剛性中子11に代えてブラダー12を使用していること以外は、図4の方法と同じである。ブラダー12は、膨縮自在のゴムバッグであって、拡径可能に構成されたドラム状部材に相当する。まずは、図5(a)のように、ブラダー12の外周において、有機繊維コード5Cがタイヤ周方向に対して傾斜するように配置された内側ベルトプライ5を円筒状に成形する。続いて、図5(b)のように、ブラダー12を拡径させて内側ベルトプライ5の径寸法を拡張し、有機繊維コード5Cに張力を付与する。
【0038】
次に、図5(c)のように、カーカスプライ4を構成する一対の分割プライ片4a,4bを配設し、内側ベルトプライ5の両端領域を分割プライ片4a,4bの端部で覆いつつ、内側ベルトプライ5の中央領域を開放する。その後、図5(d)のように外側ベルトプライ6を円筒状に成形し、内側ベルトプライ5の両端領域を覆う分割プライ片4a,4bの端部を、内側ベルトプライ5と外側ベルトプライ6とで挟み込む。そして、外側ベルトプライ6の外周にトレッドゴム9を設けて、図1のようなグリーンタイヤを成形する。
【0039】
図6の例では、成形ドラム13を使用しているが、上記したブラダー12も利用可能である。成形ドラム13は、後述するように段階的な拡径動作が可能であって、拡径可能に構成されたドラム状部材に相当する。まずは、図6(a)のように、ブラダー12の外周にカーカスプライ4を構成する一対の分割プライ片4a,4bを配設する。この段階では、分割プライ片4a,4bを貼り付ける面がタイヤ幅方向に沿って平坦であるが、これが湾曲していても構わない。
【0040】
次に、図6(b)のように、成形ドラム13を拡径し、分割プライ片4a,4bの端部を捲り上げて、そこに、有機繊維コード5Cがタイヤ周方向に対して傾斜するように配置された内側ベルトプライ5を円筒状に成形する。続いて、図6(c)のように、成形ドラム13を更に拡径し、内側ベルトプライ5の径寸法を拡張して有機繊維コード5Cに張力を付与する。その後、捲り上げていた分割プライ片4a,4bの端部を元に戻し、内側ベルトプライ5の両端領域を分割プライ片4a,4bの端部で覆いつつ、内側ベルトプライ5の中央領域を開放する。
【0041】
次に、図6(d)のように、スチールコード6Cがタイヤ周方向に対して傾斜するように且つ有機繊維コード5Cとは逆向きに配置された外側ベルトプライ6を円筒状に成形し、内側ベルトプライ5の両端領域を覆う分割プライ片4a,4bの端部を、内側ベルトプライ5と外側ベルトプライ6とで挟み込む。そして、外側ベルトプライ6の外周にトレッドゴム9を設けて、図1のようなグリーンタイヤを成形する。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。なお、タイヤの各性能評価は、次のようにして行った。
【0043】
(1)操縦安定性能
タイヤを15X6−JJのリムに組み付けて内圧を220kPaとし、1800ccの試験車両に装着して、ドライバーの官能評価により評価した。結果は、比較例1を100としたときの指数で表し、数値が大きいほど性能が良好であることを示す。
【0044】
(2)転がり抵抗
タイヤを15X6−JJのリムに組み付けて内圧を210kPaとし、転がり抵抗測定用の1軸ドラム試験機を使用して、負荷荷重4.8kN、速度80km/hの条件で転がり抵抗を測定し、その逆数を評価した。結果は、比較例1を100としたときの指数で表し、数値が大きいほど性能が良好であることを示す。
【0045】
(3)耐久性能
タイヤを15X6−JJのリムに組み付けて内圧を200kPaとし、負荷荷重4.2kN、速度80km/hの条件で走行させ、トレッド部に損傷が発生した時の走行距離を評価した。結果は、比較例1を100としたときの指数で表し、数値が大きいほど性能が良好であることを示す。
【0046】
比較例1〜4及び実施例1〜3
サイズが195/65R15のタイヤにおいて、表1に示した構造を有するものを、それぞれ比較例1〜4、実施例1〜3とした。比較例1におけるアップ構造とは、カーカスプライをビードコアの周りで内側から外側に巻き返したものである。比較例1,2では、中抜き構造を採用しておらず、カーカスプライはトレッド部において内側ベルトプライの内側に配置されている。実施例1〜3は、いずれも図4で示した方法により製造したものである。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、実施例1〜3では、操縦安定性能や耐久性能を確保しながらも、比較例1〜4に比べて転がり抵抗を低減できている。即ち、本発明により製造したタイヤでは、有機繊維コードからなる内側ベルトプライを採用しながらも、操縦安定性能や耐久性能に関してスチールコードを用いた場合と遜色がなく、また有機繊維コードを用いたことにより、転がり抵抗を低減できている。
【符号の説明】
【0049】
1a ビードコア
3 トレッド部
4 カーカスプライ
4a 分割プライ片
4b 分割プライ片
5 内側ベルトプライ
5C 有機繊維コード
6 外側ベルトプライ
6C スチールコード
11 剛性中子
12 ブラダー
13 成形ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部の中央領域でカーカスプライをタイヤ幅方向に分割している空気入りラジアルタイヤの製造方法において、
有機繊維コードがタイヤ周方向に対して傾斜するように配置された内側ベルトプライを円筒状に成形し、その円筒状に成形した前記内側ベルトプライの径寸法を拡張する工程と、
前記カーカスプライを構成する一対の分割プライ片を配設し、前記内側ベルトプライの両端領域を前記一対の分割プライ片の端部で覆いつつ、前記内側ベルトプライの中央領域を開放する工程と、
スチールコードがタイヤ周方向に対して傾斜するように且つ前記有機繊維コードとは逆向きに配置された外側ベルトプライを円筒状に成形し、前記内側ベルトプライの両端領域を覆う前記分割プライ片の端部を前記内側ベルトプライと前記外側ベルトプライとで挟み込む工程と、を備えることを特徴とする空気入りラジアルタイヤの製造方法。
【請求項2】
円筒状に成形した前記内側ベルトプライの径寸法を拡張する前の状態で、前記有機繊維コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度が20〜45°の範囲内である請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤの製造方法。
【請求項3】
円筒状に成形した前記内側ベルトプライの径寸法を拡張するに際し、その内側ベルトプライの拡張率を3〜15%とする請求項1又は2に記載の空気入りラジアルタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記内側ベルトプライのコードの引張モジュラスが25000N/mm以上である請求項1〜3いずれか1項に記載の空気入りラジアルタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記一対の分割プライ片が、それぞれビードコアの周りを外側から内側に巻き返されている請求項1〜4いずれか1項に記載の空気入りラジアルタイヤの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−240373(P2012−240373A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114940(P2011−114940)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】