説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】分割構造のインナーライナーゴムを使用するラジアルタイヤにおいて、エアー残りの発生を充分に抑制することができ、その結果、軽量化された優れた性能のタイヤを提供する。
【解決手段】インナーライナー、プライ材料、ゴム材料の各層が、最内層側から順に設けられた空気入りラジアルタイヤであって、インナーライナーが、ブチルゴム系のゴム組成物からなる第1のインナーライナーと、第1のインナーライナーの外面に設けられ、NR系のゴム組成物からなる第2のインナーライナーとにより構成されており、第2のインナーライナーは、中央部が分割除去されていると共に、プライ材料貼り付け面には、幅方向の全長に亘りスリット加工が施されており、さらに、プライ材料には、プリッキング加工が施されている空気入りラジアルタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りラジアルタイヤに関し、詳しくは、分割構造のインナーライナーを用い、軽量化を図った空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りラジアルタイヤにおいては、一般に、タイヤに充填された空気の透過を抑制する目的で、最内層にインナーライナーが配されており、このインナーライナーの上に、カーカスプライやベルトプライ(ブレーカー)などのプライ材料が貼り付けられ、さらに、ゴム材料などが設けられて、タイヤが形成されている。
【0003】
上記のインナーライナーはゴム組成物からなり、通常、フォーマー側で左右のチェファーの間に配された第1のインナーライナーと、チェファーを跨いで第1のインナーライナーの上に配された第2のインナーライナーとの2層構造となっている。
【0004】
このインナーライナーの2層構造につき、図3を用いて説明する。図3は、インナーライナーの2層構造を説明する図であり、図3において、52はチェファー、53は第1のインナーライナー、54は第2のインナーライナーである。
【0005】
図3(a)は、約10年前まで採用されていたインナーライナーの構造を示しており、第1のインナーライナー53、第2のインナーライナー54のいずれにもNR(天然ゴム)系のゴム組成物が用いられている。そして、第1のインナーライナー53は中央部が分割除去されている(分割インナー構造)。
【0006】
しかし、その後、インナーライナーのゴム材料として、気体透過性が低いブチルゴムの使用が検討され、現在では、図3(b)に示すように、第1のインナーライナー53としてブチルゴム系のゴム組成物を用い、空気の透過を抑制してタイヤの空気圧を充分に保持させている。一方、ブチルゴム系のゴム組成物は、インナーライナーの上に貼り付けられるプライ材料との接着性に劣るため、プライ材料との接着性に優れたNR系のゴム組成物を第2のインナーライナー54として用いて、タイガム層として機能させている。
【0007】
しかし、近年、タイヤの軽量化に対する要求が益々強くなっており、この要求に応えるために、インナーライナーにおいても軽量化を図ることが検討されている。
【0008】
軽量化の手段として、第2のインナーライナー54の中央部を分割除去して、図3(c)に示すような分割インナー構造とすることが考えられる。
【0009】
しかし、このような分割インナー構造の場合、第2のインナーライナー54の分割箇所が空間となるため、その後のプライ材料の貼り付け工程において、第1のインナーライナー53とプライ材料55との間に、図3(d)に示すようなエアー溜まり56が形成されて、エアー残りが発生する恐れがある。このエアー残りの発生は、加硫成形時、ディフェクト発生の要因となるため好ましくない。
【0010】
エアー残り発生の抑制に関しては、種々の技術が提案されているが、未だ充分な技術が提案されているとは言えない(例えば、特許文献1〜2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−238654号公報
【特許文献2】特開2008−302860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、上記の構造のラジアルタイヤにおいて、エアー残りの発生を充分に抑制することができ、その結果、軽量化された優れた性能のタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、
インナーライナー、プライ材料、ゴム材料の各層が、最内層側から順に設けられた空気入りラジアルタイヤであって、
前記インナーライナーが、ブチルゴム系のゴム組成物からなる第1のインナーライナーと、前記第1のインナーライナーの外面に設けられ、NR系のゴム組成物からなる第2のインナーライナーとにより構成されており、
前記第2のインナーライナーは、中央部が分割除去されていると共に、プライ材料貼り付け面には、幅方向の全長に亘りスリット加工が施されており、
さらに、前記プライ材料には、プリッキング加工が施されている
ことを特徴とする空気入りラジアルタイヤである。
【0014】
請求項2に記載の発明は、
前記プリッキング加工が、30〜100mmの間隔で施されていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤである。
【0015】
請求項3に記載の発明は、
前記スリット加工が、幅0.2〜2.0mm、深さ0.2〜0.8mmのスリットが、30〜100mmのスリット間隔で施されるスリット加工であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気入りラジアルタイヤである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、プライ貼り付け工程において、確実にエアーを抜くことができ、エアー残りの発生を充分に抑制することができる。その結果、ディフェクトの発生が低減され、安定した品質で軽量化された空気入りラジアルタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】分割インナーライナーにスリット加工が施された状態を模式的に示す図である。
【図2】プライ材料にプリッキング加工が施された状態を示す斜視図である。
【図3】インナーライナーの2層構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施の形態に基づいて、図面を用いて説明する。
【0019】
1.分割インナーライナー
図1は、分割インナーライナーにスリット加工が施された状態を模式的に示す図であり、(a)は全体の斜視図、(b)はスリット部の断面図である。図1において、1はブチルゴム系のゴム組成物からなる第1のインナーライナー、2はNR系のゴム組成物からなる第2のインナーライナー(タイガム層)である。
【0020】
図1(a)に示すように、第2のインナーライナー2は、中央部が分割除去された状態で、第1のインナーライナー1と積層されている。そして、第2のインナーライナー2の表面(第1のインナーライナー1との積層面とは反対側の面)には、所定の間隔Dで幅方向の全長に亘りスリット加工が施されて、スリット部21が設けられている。
【0021】
このように、本実施の形態においては、第2のインナーライナー2の中央部が分割除去されているため、インナーライナーを軽量化することができ、さらには、タイヤを軽量化することができる。
【0022】
そして、第2のインナーライナー2の表面にはスリット21が設けられているため、カーカスプライやベルトプライ(ブレーカー)などのプライ材料を貼り付ける際や、貼り付け後のカバーのシェーピングの際、スリットに沿ってエアーが抜けていき、エアー残りの発生を抑制することができる。その結果、エアー残りに起因するディフェクトの発生を充分に抑制することができ、優れた性能のタイヤを提供することができる。
【0023】
スリット間隔Dとしては、30〜100mmが好ましい。30mm未満であると、スリット数が多すぎるため、タイガム層としての機能を充分に発揮させることが出来ない。一方、100mmを超えると、エアー抜きが充分にできず、エアー残りが発生する恐れがある。50mm程度であるとより好ましい。
【0024】
スリット21は、図1(b)に示すように、深さB、幅Cの断面三角形の溝状に形成されており、この溝を伝わって、エアーが抜けていく。
【0025】
深さBとしては、0.2〜0.8mmが好ましい。0.2mm未満であると、浅すぎてプライ材料との距離がほとんどないため、エアーが充分に抜けない恐れがある。一方、0.8mmを超えると、深すぎるため、スリット部にエアーが溜まる恐れがある。0.5mm程度であるとより好ましい。
【0026】
また、幅Cとしては、0.2〜2.0mmが好ましい。0.2mm未満であると、スリット幅が細すぎるため、エアーが充分に抜けない恐れがある。一方、2.0mmを超えると、スリット幅が広すぎるため、スリット部にエアーが溜まる恐れがある。1mm程度であるとより好ましい。
【0027】
2.プライ材料
前記の分割インナーライナーの上には、カーカスプライやベルトプライ(ブレーカー)などの図2に示すプライ材料が貼り合わされる。図2は、プライ材料にプリッキング加工が施された状態を示す斜視図であり、3はプライ材料、31はプリッキング孔である。図2に示すように、プライ材料3には、所定の間隔Aでプリッキング加工が施されて、プリッキング孔31が設けられている。
【0028】
このように、プリッキング孔31を設けることにより、分割インナーライナーとの貼り合せ時やカバーのシェーピング時、エアー残りの発生をより確実に抑制することができる。その結果、エアー残りに起因するディフェクトの発生を充分に抑制することができる。
【0029】
プリッキングの間隔Aとしては、30〜100mmが好ましい。30mm未満であると、プリッキング数が多すぎるため、プライ材料としての機能を充分に発揮させることができない。一方、100mmを超えると、エアー抜きが充分にできず、エアー残りが発生する恐れがある。50mm程度であるとより好ましい。
【実施例】
【0030】
本実施例は、前記した構造の分割インナーライナーおよびプライ材料を用いて、現行のラジアルタイヤと同じサイズのラジアルタイヤ(195/65R15サイズ)を作製して、軽量化の程度とディフェクトの発生率を測定した例である。
【0031】
(現行−比較例1)
現行のラジアルタイヤを比較例1とした。比較例1においては、インナーライナーとして、図3(b)に示す2層構造のインナーライナーが使用されている。また、プライ材料には、プリッキング加工は施されていない。
【0032】
(実施例1〜7、比較例2)
インナーライナーとして、比較例1の第2のインナーライナーの中央部の80mmが分割除去されている分割インナーライナーを作製した(比較例2)。
【0033】
この分割インナーライナーを用いて、表1に示すスリット加工を施した。また、プライ材料に対して表1に示すプリッキング加工を施した(実施例1〜7)。
【0034】
上記の条件で作製した分割インナーライナーおよびプライ材料を用いてラジアルタイヤを作製した。
【0035】
(測定)
上記比較例および実施例により作製されたラジアルタイヤ各200本について、それぞれ、タイヤの重量を測定すると共に、ディフェクトの発生状況を観測した。
測定結果を表1に示す。なお、表1においては、現行品のタイヤ(比較例1)の重量を100としたときの重量比で軽量化の指数としている。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示す結果より、現行のインナーライナーから分割インナーライナーに変更することにより、現行品(比較例1)に比べて、タイヤを2%軽量化できることが分かる。そして、分割インナーライナーを採用した場合、スリット加工やプリッキング加工を施さない場合(比較例2)、ディフェクト発生率は、5%と現行品(比較例1)に比べて大きくなるが、スリット加工やプリッキング加工を施すことにより(実施例1〜7)、低減できることが分かる。
【0038】
なお、実施例3のタイヤの場合、他の性能に影響を与えていることが分かったが、これは、プリッキングの間隔Aが30mmと狭く、プリッキング数が多くなったためと推測される。また、実施例5のタイヤの場合、成形中にインナーが切れる事故が発生したが、スリット深さBが0.8mmと深いために、貼り付け加工の際切れたものと推測される。
【0039】
以上、本実施例によれば、スリット加工が施された分割インナーライナーおよびプリッキング加工が施されたプライ材料を採用することにより、エアー残りの発生を充分に抑制することができ、その結果、安定した品質で軽量化された空気入りラジアルタイヤを提供することができることが分かる。
【0040】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1、53 第1のインナーライナー
2、54 第2のインナーライナー
21 スリット
3、55 プライ材料
31 プリッキング孔
52 チェファー
56 エアー溜まり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーライナー、プライ材料、ゴム材料の各層が、最内層側から順に設けられた空気入りラジアルタイヤであって、
前記インナーライナーが、ブチルゴム系のゴム組成物からなる第1のインナーライナーと、前記第1のインナーライナーの外面に設けられ、NR系のゴム組成物からなる第2のインナーライナーとにより構成されており、
前記第2のインナーライナーは、中央部が分割除去されていると共に、プライ材料貼り付け面には、幅方向の全長に亘りスリット加工が施されており、
さらに、前記プライ材料には、プリッキング加工が施されている
ことを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記プリッキング加工が、30〜100mmの間隔で施されていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記スリット加工が、幅0.2〜2.0mm、深さ0.2〜0.8mmのスリットが、30〜100mmのスリット間隔で施されるスリット加工であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−166712(P2012−166712A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29828(P2011−29828)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】