説明

空気清浄用濾材及び車室内浄化用空気清浄フィルタ

【課題】除塵性能、抗菌抗アレルゲン性能に優れ、濾材からの臭気の発生や薬剤の脱落がなく、さらに通気抵抗の低い空気浄化用濾材及びフィルタを提供する。
【解決手段】プロアントシアニジン含有物又はブドウ抽出物が担持された不織布からなる上流側部材とエレクトレット不織布からなる下流側部材とが積層されている空気清浄用濾材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気清浄用濾材 及び該空気清浄用濾材を濾材部構成材料とする車室内浄化用空気清浄フィルタに関し、さらに詳しくは低い通気抵抗を維持しながら微細塵捕集性能、抗アレルゲン性能 及び抗菌性能が付与された用空気清浄濾材 及び車室内浄化用空気清浄フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車室内への砂塵、花粉、排ガス粒子、排気ガス等の流入の抑制のため、並びに車室内で発生するか、あるいは車室外から侵入した粒子状物質や臭気物質を除去するために、自動車エアコン内や、車室内空気清浄機に空気清浄フィルタ(キャビンフィルタ)が使用されてきた。
【0003】
近年、上述のフィルタに求められる機能は集塵や脱臭にとどまらず、抗菌、抗ウイルス、抗アレルゲンなどの付加機能を有した機能性部材としての役割を求められるようになってきている。フィルタに求められる抗アレルゲン機能は、外部から進入するスギ、ヒノキ、ブタクサ等に代表される花粉粒子及び車室内由来のダニ虫体やその排泄物、場合によってはペットの体毛等を除去ないし不活性化することも目的としている。
【0004】
係る抗アレルゲン機能を有するフィルタとしては、例えばタンニン酸化合物の蛋白結合作用を利用し、環境中に存在するアレルゲンを不活性化する抗アレルゲン剤ならびにその利用法や、上記成分を含有する茶抽出物を塗布することにより、アレルゲン不活化性能を有したフィルタ等が公知である(例えば特許文献1〜3)。
【0005】
しかしながら、茶抽出物は揮発成分による独特の臭気を有するとともに、没食子酸やカテキンは、対象とするアレルゲンへの結合活性が十分とは言えないという問題を有していた。従って、このような物質を不織布などの基材に担持させて十分な効果を抗アレルゲン機能を有するフィルタを得ようとすると、その担持量を多くせざるを得ず、その結果フィルタの通気抵抗が高くなり、また臭気成分の散逸量が多くなるとの問題を有していた。
【0006】
また、自動車の車室内空気浄化用にカテキンを担持した消臭フィルタが公知である(特許文献4)。しかし、特許文献4開示の消臭フィルタの製造においては、カテキンとバインダー成分との混合担持が必要であり、そのためフィルタの通気抵抗が高く、またバインダーの使用によりカテキン自身の活性がマスキングされ、性能が十分ではない。
【0007】
抗アレルゲン機能を有する、カテキンとは別の化合物としてプロアントシアニジンが公知であり、該プロアントシアニジンを用いたフィルタとして、クロロゲン酸等と混合したポリフェノールを付着加工したフィルタが知られている(例えば特許文献5、6)。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−44821号公報
【特許文献2】特開平06−279273号公報
【特許文献3】特開2000−5531号公報
【特許文献4】特開2003−210559号広報(段落[0009])
【特許文献5】特開2000−334230号広報
【特許文献6】特開2002−95916号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記特許文献5及び6においては、薬剤単体の消臭作用や抗酸化作用のみが考慮されている他、特許文献5においては、帯電繊維製の不織布(エレクトレット不織布)に該ポリフェノールが含浸加工されているために帯電繊維製の不織布の電荷が消失し、フィルタの捕集効率が十分ではなく、特許文献6においては、該ポリフェノールがネット状物に付着・接着・塗布等により担持された部材使用されているため、やはり捕集効率の点でもフィルタとしての性能が十分とは言えない。また特許文献5及び6においては、プロアントシアニジンの他にクロロゲン酸やフラボノール類が50%程度混合使用されており、アレルゲン蛋白に対する活性という機能が十分とはいえず、さらにフィルタから特有の臭気が発生するという問題を有するものである。また所望の活性を得るための薬剤必要量について記載されておらず、該ポリフェノール組成にて十分な性能を得る薬剤量を担持させると、特に不織布の場合にはフィルタ通気抵抗が高くなるという問題が発生する。
【0010】
本発明は上記の従来技術の課題を背景になされたものであり、除塵性能、抗菌抗アレルゲン性能に優れ、濾材からの臭気の発生や薬剤の脱落がなく、さらに通気抵抗の低い空気浄化用濾材及びフィルタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究した結果、プロアントシアニジン含有物、とりわけブドウ抽出物を担持させた濾材が高い抗アレルゲン性と抗菌性を有しながらも臭気成分の発生や有効薬剤の脱落が無く、さらには該濾材とエレクトレットフィルタとの積層によって優れたフィルタ性能を発現させることが可能となること見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明は、以下に関する。
(1)プロアントシアニジン含有物が担持された不織布からなる上流側部材とエレクトレット不織布からなる下流側部材とが積層されていることを特徴とする空気清浄用濾材。
(2)前記プロアントシアニジン含有物がブドウ抽出物であることを特徴とする上記(1)記載の空気清浄用濾材。
(3)前記プロアントシアニジン含有物は、プロアントシアニジン含有量が80質量%以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の空気清浄用濾材。
(4)前記上流側部材の前記プロアントシアニジン含有物の担持量が、0.1〜10.0g/mであることを特徴とする上記(1)〜(3)いずれかに記載の空気清浄用濾材。
(5)前記下流側部材は、さらに活性炭含有層が積層されたものであることを特徴とする上記(1)〜(4)いずれかに記載の空気清浄用濾材。
(6)前記上流側部材を構成する前記不織布は、ポリエステル不織布であることを特徴とする上記(1)〜(5)いずれかに記載の空気清浄用濾材。
(7)前記プロアントシアニジン含有物に含有されるプロアントシアニジンは、分子量が3000以上であることを特徴とする上記(1)〜(6)いずれかに記載の空気清浄用濾材。
(8)プリーツ形状に形成された上記(1)〜(7)のいずれかに記載の空気清浄用濾材を濾材部とすることを特徴とする車室内浄化用空気清浄フィルタ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低い通気抵抗で除塵性能、抗菌抗アレルゲン性能に優れ、臭気発生や薬剤脱落がない空気清浄用濾材及び車室内浄化用空気清浄フィルタが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の空気清浄用濾材は、プロアントシアニジン含有物が担持された不織布からなる上流側部材とエレクトレット不織布からなる下流側部材とが積層されていることを特徴とする。
【0015】
下流側部材を構成するエレクトレット不織布は、静電気の作用により1μm以下の微細な粉塵も捕集できるため、自動車排ガス粒子や砂塵、カーボンブラックの他、アレルゲン物質の担体となる10μm以下の花粉物質、ダニの排泄物や死骸、猫や犬のフケ、カビの胞子等、種々の微粒子を捕捉することが可能である。
【0016】
上流側部材に担持されるプロアントシアニジン含有物は、アレルゲン蛋白との強い結合作用によりアレルゲン物質を不活性化する作用を有し、さらに強力な抗菌作用を有する。該プロアントシアニジン含有物を不織布に担持させ、フィルタにおける空気の流れに関してエレクレット不織布の上流側に配設、積層することによりブドウ抽出物が担持された不織布上に捕集されたアレルゲン物質の不活性化、菌の繁殖の防止効果が得られる。該上流側部材は、さらに隣接するエレクトレット不織布上に捕集されたアレルゲン物質の不活化や菌の繁殖を抑制でき、濾材下流側への微細塵物質、アレルゲン物質、菌類の初期流出、及び再飛散を効果的に防止する作用を有する。
【0017】
プロアントシアニジンとは、フラバン−3−オールまたはフラバン−3,4−ジオールを構成単位として、4−6位又は4−8位で縮合もしくは重合により結合した化合物群をいう。プロアントシアニジンは、化学合成又は半合成により得ることができるし、ブドウ、カキ、リンゴ、マツ、落花生、くり、アズキ、クランベリー等の植物原料を、水や有機溶媒で抽出することにより得ることもできる。
【0018】
本発明でいうプロアントシアニジン含有物とは、プロアントシアニジンのみからなるものであってもよいし、アレルゲン物質の不活性化作用や抗菌作用等の本発明の効果を発揮する限り、プロアントシアニジン及び他の成分を含む組成物であってもよい。他の成分とは、例えば、プロアントシアニジンの抽出に用いた植物原料由来の物質、プロアントシアニジンの安定化剤や変質防止剤、上流側部材にプロアントシアニジンを担持させるための結着剤や乳化剤等である。
【0019】
精製度の調節や入手が容易である点から、本発明のプロアントシアニジン含有物としては、プロアントシアニジンを含有する植物、例えば、ブドウ、カキ、リンゴ、マツ、落花生、くり、アズキ、クランベリー等の抽出物が好適に使用できる。植物抽出物は、例えば、以下の方法で得られる。すなわち、樹皮、果実、果皮、種子等の組織を、水や有機溶媒で抽出し、次いで得られた抽出物を減圧留去、スプレードライ、凍結乾燥等に供することにより溶媒を除去して、調製することがプロアントシアニジン含量を高めることができる。また、カラムクロマトグラフ、セルロース膜等を用いた膜分離、酢酸エチル−水等を用いた液液分離、酵母等の微生物の添加による不純物の分解など精製・分離操作を行うことにより、植物抽出物中のプロアントシアニジン含量を更に高めることができる。
【0020】
ブドウ抽出物は、アレルゲン不活化作用及び抗菌性に大変優れており、かつ安全であることから、本発明の植物抽出物として特に好適である。従来広く利用されているカテキン、タンニン、アントシアニン、クロロゲン酸、没食子酸などのポリフェノール類が単量体であって活性点が少なく、臭気揮散性が高いのに対して、ブドウ抽出物には多量体であるプロアントシアニジンが多量に含まれており、この多量体がアレルゲン蛋白や菌類と三次元的に多点で結合できる機能を有するために、抗アレルゲン性や抗菌性に大変すぐれた性能を発現すると考えられる。よって従来薬剤に対して、少量の使用で効果的な性能を有するので、濾材への担持量が少なくて済み、通気抵抗の低減化が可能となるばかりか、従来のポリフェノール類特有の臭気も抑制できる。プロアントシアニジンは、種々の分子量(重合度)のプロアントシアニジンの混合物として使用できるが、特に分子量3000以上であることが、抗アレルゲン効果が高く、また低分子量の揮散が少なくて発生臭気が少なく、下流側に好ましく設けられる活性炭含有層の活性炭の寿命低下を起こさないので好ましい。
【0021】
分子量3000以上のプロアントシアニジンを得る方法としては、例えばブドウ果実の搾汁粕又は種子を原料とし、水−エタノールの混合溶媒を用いて抽出することにより得ることができる。また、このようにして得たプロアントシアニジンを、例えば、HP20等の合成樹脂を用いたクロマトグラフ法[J. Sci. FoodAgric., 251537〜1545 (1974)]、酢酸エチル等の有機溶媒にて不要な分画を除く溶媒抽出除去法(特開平11−335369)、分子量分画膜を用いた膜分離法(特公平6−31208)等を用いることにより、分子量3000以上、好ましくは分子量10000以下の分画を多く含むプロアントシアニジンを得ることができる。
【0022】
ブドウ抽出物の原料となるブドウの種類は特に限定されず、白ブドウ、赤ブドウ、黒ブドウ等のいずれでもよく、例えばシャルドネ種、リースリング種、ミラトルガウ種、ナイアガラ種、ネオ・マスカット種、甲州種、白羽種(リカチテリ種)、巨峰種、デラウェア種、セレサ種、マスカットベリーA種等が挙げられる。
【0023】
ブドウ抽出物は、ブドウの果皮、果肉、種子の少なくともいずれかからの抽出物であって、プロアントシアニジンを含有するものであれば限定なく使用できるが、ブドウの種子抽出物であることがより好ましく、プロアントシアニジンの含有量が80質量%以上であることがより好ましく、プロアントシアニジンの含有量が80質量%以上のブドウ種子抽出物であることがさらに好ましい。抗菌抗アレルゲン性の有効成分であるプロアントシアニジンは、ブドウの果皮や果肉より種子に大部分が存在するからである。ブドウ抽出物中のプロアントシアニジンの含有量は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。プロアントシアニジンの含有量が80質量%より少ないと抗菌抗アレルゲン性が十分でない場合もあり、臭気の発生や不織布への添着加工性が低下する場合もある。また純度の高いプロアントシアニジンは結晶化して繊維より脱落しやすい。ブドウ原料から含有率が80質量%以上のプロアントシアニジン抽出物を得る方法は、例えば特開平11−080148号公報に開示されており、公知である。プロアントシアニジン含有率が80質量%以上のブドウ抽出物は、グラヴィノールSL(キッコーマン株式会社製)等の市販品を使用することもできる。
【0024】
プロアントシアニジン含有物、とりわけブドウ抽出物を担持させて上流側部材を構成する不織布としては、公知の不織布を使用することができる。具体的にはポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維などのポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール系繊維、レーヨン、ポリノジック等が例示される。これらの中でも、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維又はレーヨン繊維を使用し、水溶液に含浸添着して上流側部材とするとバインダーを使用することなく担持することができ、とりわけ好ましい。その詳細機構は不明であるが、ブドウ抽出物中の高分子量構造を有するプロアントシアニジンないしその他の抽出成分が繊維に対して優れた結合力、接着性を有し、バインダーを用いなくとも脱落することなく繊維に担持されるものと推測される。バインダーを使用しない結果、有効薬剤であるブドウ抽出物がバインダーによる被覆、遮蔽を受けないために、本発明の上流側部材においては、プロアントシアニジン含有物が本来の特性を発揮することができる。通気性が不織布と同程度であり、プロアントシアニジン含有物の担持量を同程度に調整できる範囲においては、不織布以外の織布、ネット等の繊維材料を使用してもよい。
【0025】
上流側部材を構成する繊維材料としては、エレクトレット不織布を使用しないことが好ましい。エレクトレット繊維にプロアントシアニジン含有物を直接担持させると、プロアントシアニジン含有物構成成分により電荷の中和あるいは遮蔽が起こり、捕集効率が低下するので好ましくなく、プロアントシアニジン含有物の溶液をエレクトレット繊維に噴霧あるいは浸漬して乾燥すると、エレクトレットの電荷の消失が起こる。
【0026】
上流側部材形成におけるプロアントシアニジン含有物の担持方法は特に限定されないが、ブドウ抽出物等のプロアントシアニジン含有物の水溶液を作成し、含浸法、スプレー法、コーティング法等により塗布、乾燥することにより担持することができる。また該プロアントシアニジン含有物の水溶液には、必要に応じて適宜少量のバインダーや、抗菌剤、防カビ剤などの機能性薬剤を添加してもよい。
【0027】
上流側部材におけるプロアントシアニジン含有物の担持量は、0.1〜10.0g/mが好ましく、より好ましくは0.5〜8.0g/m、さらに好ましくは1.0〜5.0g/mである。0.1g/mより少ないと抗菌抗アレルゲン性能が低下し、10.0g/mを超えると濾材通気抵抗が増大する。
【0028】
本発明の上流側部材にて広範囲のアレルゲンを除去できるが、具体的にはイヌ、ネコ、鳥の体毛など家畜(ペット)由来、スギ、ブタクサ等の植物由来、ダニ、ゴキブリ本体もしくはその排泄物などの動植物蛋白質を例示することができる。
【0029】
下流側部材であるエレクトレット不織布とプロアントシアニジン含有物担持不織布の積層方法は特に限定されないが、ニードルパンチ、ウオーターパンチなどによる機械的交絡法、粉末状、液体状あるいは繊維状接着樹脂、接着性シートなどを用いた接着剤による積層法、エンボス加工、カレンダー加工による熱融着法等を広く利用できるが、ニードルパンチによる機械的交絡法がエレクトレット不織布の密度を維持あるいは減少させ、空隙を高める効果があるため、特にキャビンフィルタのような粉塵保持が必要な用途では、目詰まりを抑制し、長寿命化効果があるので好ましい。
【0030】
エレクトレット不織布を得る方法は、特に限定されず、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の誘電体材料からなる不織布にコロナ荷電処理を施すシートエレクトレット化法、エレクトレット化されたフィルムを割裁繊維化して不織布にするフィルムスプリット法、帯電列の異なる繊維を混繊摩擦して不織布化する摩擦帯電法などの方法が広く使用できる。粉塵堆積による目詰まり抑制、長寿命化用途では、低密度化が可能なフィルムスプリット法や摩擦帯電法によるエレクトレット不織布がより好ましい。
【0031】
本発明において、下流側部材であるエレクトレット不織布は、活性炭含有層を有するものであることが好ましい。活性炭含有層は、エレクトレット不織布の上流側、下流側のいずれに配設されてもよいが、下流側であることがより好ましい。係る構成によれば、排気ガス、タバコ臭、VOC,家畜臭、体臭などの臭気成分や有害成分を除去できる他、プロアントシアニジン含有物担持不織布あるいはエレクトレット不織布で捕集した粒子成分から発する臭気を除去できるので好ましい。活性炭含有層は、塵埃、油分、ミストが活性炭細孔に付着することによる吸着性能の低下を防止するためにも、エレクトレット不織布の下流側に配置する必要がある。活性炭含有層は、粒子状、粉末状、繊維状の活性炭を既知の方法で成型、シート化して作成することができる。
【0032】
本発明の空気浄化濾材は、濾材単板の状態で所望の大きさに切り取り使用することもできるが、プリーツ加工を施すことにより同じ開口面積内で濾材を多量に充填することができるため、捕集効率、抗菌性能、抗アレルゲン性能を大幅に向上できる他、粉塵負荷時の目詰まりを抑制でき長寿命化に対して効果的である。特に車室内浄化用空気清浄フィルタは、外気より多量の粉塵が濾材に供給されるため、プリーツ形状が好ましい使用形態である。また、車両中での使用環境は住宅用フィルタと比較して高温高湿状態となるが、本発明の濾材 及びフィルタは80℃の高温化でも安定した抗アレルゲン性能を発現するので、車室内浄化用には好適である。
【実施例】
【0033】
以下本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に沿って設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0034】
(測定方法)
<通気抵抗>
通過線速10cm/sにて濾材に通風し、濾材の上流と下流の差圧を測定した。
【0035】
<1.0μm除塵効率>
濾材線速10cm/sにて濾材に大気塵粒子を通風し、濾材上流と下流において1.0〜2.0μm粒子の数をパーティクルカウンター(リオン社製KC01B)で測定し、下記計算式により算出した。
1.0μm除塵効率[%]=〔(上流粒子数―下流粒子数)/上流粒子数〕×100
【0036】
<脱臭効率>
トルエンガスを用いて線速30cm/sにおいてフィルタ上下流の濃度をそれぞれガステック製検知管で測定し、上流側のガス濃度から下流側のガス濃度を減じた値を上流側のガス濃度で除した値の百分率で示した。なお、上流側濃度は80±5ppm、温度25±3℃、相対湿度50±5%とし、ガス導入開始から1分後の除去率のデータを実施例に記載した。
脱臭効率[%]=〔(上流側濃度−下流側濃度)/上流側濃度〕×100
【0037】
<アレルゲン減少率(ELISA法)>
活性炭によるアレルゲン物質の吸着の影響を考慮し、濾材中の活性炭部を除外したブドウ抽出物含有部位のみを1cm×4cmサイズにカットし、エッペンチューブに50ng/mlの抗原溶液(精製ダニ抗原Der fII/アサヒフードアンドヘルスケア株式会社)を200μl入れ、24時間接触させる。96wellプレートに1次抗体溶液(Der f2:抗−精製ダニ抗原(Der fII); Ab−Der fII(15E11)(mo)(M)、Affin/アサヒフードアンドヘルスケア株式会社)を50μl/well分注し、室温にて3時間静置する。プレートを3回洗浄後、ブロッキング液を300μl/well分注し、4℃にて一晩静置。プレートを3回洗浄後、抗原溶液を50μl/well分注し、室温にて2時間静置。プレートを3回洗浄後、2次抗体溶液(Der f2: 抗-精製ダニ抗原(Der fII)−HRP; Ab−Der fII (13A4)(mo)(M),Affin.−HRP/アサヒフードアンドヘルスケア株式会社)を50μl/well分注し、室温にて2時間静置。プレートを3回洗浄後、TMB試薬を100μl/well加え、酵素反応を開始。次に1M塩酸を100μl/well加え、酵素反応を停止し、プレートリーダにて、415nmの吸光度を測定する。別途、標準液にて吸光度−アレルゲン濃度の検量線を作成し、アレルゲン濃度を算出し、以下の式にてアレルゲン減少率を算出した。
アレルゲン減少率[%]=〔(50−アレルゲン濃度)/50〕×100
【0038】
<抗菌性>
JIS L 1902 繊維製品の抗菌性試験方法・抗菌効果(定量試験)に従って実施した。
【0039】
(実施例1)
ブドウ種子抽出物(キッコーマン株式会社製グラヴィノールSL;プロアントシアニジン量84%)を水に溶解し、ポリエステル製12g/mスパンボンド不織布(三井化学株式会社製R004)にブドウ種子抽出物量が3g/mとなるよう含浸後、80℃にて30分間乾燥して、ブドウ種子抽出物担持シートである上流側部材(担持基材:ポリエステル、担持物質:ブドウ抽出物)を作成した。
【0040】
エレクトレット不織布として、ポリプロピレン短繊維(宇部日東化成株式会社製 NC2.2T×51mm)とポリエステル短繊維(東洋紡績株式会社製ハイム 1.7T×44mm)の混繊不織布を摩擦帯電法により荷電し、下流側部材となるエレクトレット不織布25g/mを作成した。
【0041】
上記ブドウ種子抽出物担持シートである上流側部材とエレクトレット不織布からなる下流側部材の間に霧状合成ゴム系ホットメルト樹脂を2g/m散布して積層ラミネートし、空気浄化用濾材(E1)を得た。
【0042】
(実施例2)
活性炭含有不織布として、粒径300μmの粒状ヤシ殻系活性炭を70重量部、8デニール×繊維長8mmのレーヨン繊維を10重量部、シースコア構造のポリエステル複合繊維を8重量部、1デニール×繊維長3mmのポリビニルアルコール繊維を6重量部、さらに粉末状ポリビニルアルコールを6重量部用いて、湿式抄紙法にて目付120g/mの活性炭含有不織布を作成した。実施例1にて作成した濾材のエレクトレット不織布側に該活性炭含有不織布を実施例1と同様に霧状合成ゴム系ホットメルト樹脂(2g/m)にて積層ラミネートし、空気浄化用濾材(E2)を得た。
【0043】
(比較例1)
実施例1中のエレクトレット不織布に変えて、ポリプロピレン短繊維(2.2T×51mm)のエレクトレット化されていないスパンレース不織布を下流側部材として用いた以外は、実施例1と同様にして空気浄化用濾材(R1)を得た。
【0044】
(比較例2)
実施例1中のエレクトレット不織布に変えて、ポリプロピレン短繊維(2.2T×51mm)のエレクトレット化されていないスパンレース不織布を用い、さらにブドウ種子抽出物を担持させる不織布(担持基材)に、ポリプロピレン製12g/mスパンボンド(三井化学株式会社製 シンテックス)を用いる以外は、実施例1と同様にして空気浄化用濾材(R2)を作成した。
【0045】
(比較例3)
実施例1のブドウ種子抽出物に変えて、茶抽出物(白井松新薬株式会社 カテキン30g)を用いた以外は、実施例1と同様にして空気浄化用濾材(R3)を作成した。
【0046】
(比較例4)
実施例1のブドウ種子抽出物担持シートに変えて、上流側部材としてポリエステル製12g/mスパンボンド不織布(三井化学株式会社製 R004)を用いた以外は、実施例1と同様にしてエレクトレット不織布との積層体を作成し、これと実施例2で作成した活性炭含有不織布とを霧状合成ゴム系ホットメルト樹脂(2g/m)にて積層ラミネートし、空気浄化用濾材(R4)を得た。
【0047】
実施例1(濾材E1)及び比較例1〜3(濾材R1〜R3)の評価結果を表1に、また活性炭含有層を積層した実施例2(濾材E2)と比較例4(濾材R4)については、脱臭効率も評価した評価結果を表2に示した。濾材としての特性の他、製造上、取り扱い上で問題となる濾材に担持されている抽出物の脱落性、及び濾材の臭気についても評価した。脱落性は、抽出物担持シート単独で、白色シート上に数回叩きつけ、粉状物の脱落が目視できるかどうかで判定した。また臭いは、濾材を積層した状態での濾材自体の臭気を官能試験によって判定し、臭気の有無を評価した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1から明らかなように、実施例に示したブドウ種子抽出物が担持された上流側部材とエレクトレット不織布からなる下流側部材とが積層された濾材を使用したフィルタは、アレルゲン物質相当の微細な粒子に対して捕集効率に優れ、かつアレルゲン減少率が99%以上と優れたアレルゲン物質に対する濾過機能と減少効果を有していることがわかる。実施例のフィルタに使用した上流側部材は抗菌性に優れており、ブドウ種子物質の脱落もなく、部材自体の臭いも無いことから、菌繁殖によって発生する臭気や部材自体の臭気は防止され、使用時の下流側部材の臭気成分除去性能が長期にわたって維持できる。実施例2のように、さらに活性炭含有層と組み合わせることによって、トルエンを代表例とする自動車排ガス、煤煙臭気、室内VOCなどを浄化できるので、下流側部材のさらなる臭気の低減、有害物質の除去に有効である。
【0051】
一方、比較例1の濾材においては、エレクトレット不織布の下流側部材が存在しないために、微細塵が捕集できず微細なアレルゲン物質は捕集されることなく濾材下流側へ漏洩してしまう。比較例2の濾材は、微細塵が捕集できないばかりか、プロアントシアニジン含有物が脱落してしまい、製造時、使用時に担持量を安定に維持できず、また脱落物が下流側に飛散してしまうという問題を有するものであった。比較例3の濾材は、微細塵捕集効率は有するものの、アレルゲン減少効果 及び抗菌性が不十分であり、さらに濾材自体に茶様臭があるため、濾材下流側にも臭気が発生し、空気浄化の観点で好ましくないものであった。比較例4の濾材は、アレルゲン減少率、抗菌性共に不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のフィルタは、空気中の塵埃、ディーゼル排ガス、花粉、ほこり等を高効率で除去可能で、さらに濾材上において効果的なアレルゲン物質の減少効果と、菌の繁殖を抑制する抗菌効果を有し、臭気発生も無い。このため、空調機器、織布、不織布等の繊維製品、マスク、車両用空気浄化フィルタ、家電製品用空気浄化フィルタ、ビル・工場用空気浄化フィルタ、事務機器用空気浄化フィルタ等、粒子状物質、アレルゲン物質、菌や臭いが問題となる分野において広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロアントシアニジン含有物が担持された不織布からなる上流側部材とエレクトレット不織布からなる下流側部材とが積層されていることを特徴とする空気清浄用濾材。
【請求項2】
前記プロアントシアニジン含有物が、ブドウ抽出物であることを特徴とする請求項1記載の空気清浄用濾材。
【請求項3】
前記プロアントシアニジン含有物は、プロアントシアニジン含有量が80質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気清浄用濾材。
【請求項4】
前記上流側部材の前記プロアントシアニジン含有物の担持量が、0.1〜10.0g/mであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の空気清浄用濾材。
【請求項5】
前記下流側部材は、さらに活性炭含有層が積層されたものであることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の空気清浄用濾材。
【請求項6】
前記上流側部材を構成する前記不織布は、ポリエステル不織布であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の空気清浄用濾材。
【請求項7】
前記プロアントシアニジン含有物に含有されるプロアントシアニジンは、分子量が3000以上であることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の空気清浄用濾材。
【請求項8】
プリーツ形状に形成された請求項1〜7のいずれかに記載の空気清浄用濾材を濾材部とすることを特徴とする車室内浄化用空気清浄フィルタ。

【公開番号】特開2008−132405(P2008−132405A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318681(P2006−318681)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】