説明

空港用気象レーダ装置とその運用方法

【課題】 航空機の安全を考慮した最適なシーケンスで観測高度を切り替える運用を実現する。
【解決手段】 通信部1において、空港監視レーダから航空機位置情報を取得し、取得した位置情報から着陸機の情報のみを抽出して、着陸時間帯予測部12にて、その航空機位置情報から着陸行動時間帯を予測する。レーダ制御部13では、予測した着陸行動時間帯から着陸態勢に入る直前に低仰角走査モードとなるようにアンテナ走査の最適シーケンスを決定し、この最適シーケンスで気象ドップラーレーダ部14を制御する。観測結果判定部15では、レーダ部14の観測情報を取得して異常気象を判定する。この判定において、ダウンバーストのような危険な異常気象を判別した場合には、着陸態勢に入る航空機に対して警告を発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空港面内の気象現象を観測するための空港用気象レーダ装置とその運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気象レーダ装置には、空港において航空機の離発着の安全のために運用される気象ドップラーレーダがある。この空港用気象レーダ装置は特にダウンバーストを観測することが強く求められる。ダウンバーストとは、下向きの強風を伴う気象現象であり、着陸時の航空機がこれに遭遇すると墜落の危険がある。そのため、空港用気象レーダ装置は高い頻度で地上付近を観測しなければならない。しかしながら、気象現象の把握のためには上空までを含めた三次元的な観測をすることも必要であり、この2つの観測を両立することが大きな課題となっている。
【0003】
現在の空港用気象レーダ装置では、雨域が空港の周辺に観測される場合は、地上付近を1分強に1回ずつ観測しつつ、それ以外の時間は上空を観測するという予め定められたアンテナ走査のシーケンスに従って運用している。これは地上付近を頻繁に観測したいというニーズと上空も観測したいというニーズのトレードオフの結果である。このシーケンスは、ある程度の効果は得られているが、航空機の離着陸に全く関係なく観測高度を切り替えており、運用目的のための最適なシーケンスだとはいえない。
【0004】
尚、上記の運用は、空港付近が降雨域に入っている場合であるが、上記気象ドップラーレーダにより晴天時でも風観測が可能となってきており(例えば特許文献1参照)、この降雨時観測モードと晴天時観測モードを選択的に利用することで全天候観測での運用を実現可能である。
【特許文献1】特開2002−031681公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、空港用気象レーダ装置は、空港において航空機の離発着の安全のために運用されるものであるが、従来では航空機の離着陸に全く関係なく観測高度を切り替えており、運用目的のための最適なシーケンスが実現されているとはいえない。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、航空機の安全を考慮した最適なシーケンスで観測高度を切り替える運用を実現する空港用気象レーダ装置その運用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、本発明に係る空港用気象レーダ装置は、空港面内の気象現象を観測するために、地上付近の低仰角をアンテナ走査する低仰角走査モードと複数の仰角をアンテナ走査する多仰角走査モードを備える空港用気象レーダ装置であって、前記空港の滑走路に着陸する予定の航空機の位置情報を取得する位置情報取得手段と、前記航空機の位置情報に基づいて当該航空機が前記滑走路を使用する直前の時間帯を予測する予測手段と、前記予測手段の予測結果に基づいて少なくとも前記航空機が前記滑走路を使用する直前に前記低仰角走査モードに切り替えて前記滑走路付近の低仰角をアンテナ走査させるレーダ制御手段とを具備することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る空港用気象レーダ装置の運用方法は、空港面内の気象現象を観測するために、地上付近の低仰角をアンテナ走査する低仰角走査モードと複数の仰角をアンテナ走査する多仰角走査モードを備える空港用気象レーダ装置の運用方法であって、前記空港の滑走路に着陸する予定の航空機の位置情報を取得し、前記航空機の位置情報に基づいて当該航空機が前記滑走路を使用する直前の時間帯を予測し、前記予測結果に基づいて少なくとも前記航空機が前記滑走路を使用する直前に前記低仰角走査モードに切り替えて前記滑走路付近の低仰角をアンテナ走査させることを特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明に係る空港用気象レーダ装置は、航空機の位置情報を基に最適なアンテナ走査シーケンスをリアルタイムで決定し、それに従って運用を行う気象レーダ装置である。本発明では、まず航空機の位置情報を入手することが前提となる。位置情報の入手は空港監視レーダによる検出位置や航空機からのGPS情報のダウンリンクなどを利用する。このような情報をリアルタイムで入手し、地上付近を観測しなければならない時間を予測する。例えば、航空機が着陸態勢に入ってから着陸行動を中止することができない時間までである。そして、それ以外の時間を上空の観測に当てるという考え方で最適なアンテナ走査のシーケンスを決定する。
【0010】
従来は航空機が遠くにいる時に地上付近を観測し、もう着陸行動を中止できない状態になってから再び地上付近を観測するなど、航空機の安全性を最大限に高めるようなタイミングでの観測とは必ずしもなっていなかった。本発明では、これを航空機が安全に着陸できる状態かどうかを最適なタイミングで判断することができる。また、上空の観測もこれまで以上に増やすことも可能であり、空域全体の気象状態を大まかに把握するという目的においても、従来以上の効果を期待できる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、航空機の安全を考慮した最適なシーケンスで観測高度を切り替える運用を実現する空港用気象レーダ装置その運用方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明に係る空港用気象レーダ装置の構成を示すブロック図である。図1において、通信部11は例えば通信回線を介して空港監視レーダから航空機位置情報を受け取る。航空機からのGPS情報のダウンリンクなどを利用してもよい。この航空機位置情報は着陸時間帯予測部12に送られる。
【0014】
この着陸時間帯予測部12は、航空機位置情報から着陸機の情報のみを抽出し、着陸進入経路(あるいは使用滑走路)を特定して、経路への進入時間帯(以下、着陸行動時間帯と称する)を予測する。この予測結果はレーダ制御部13に送られる。
【0015】
このレーダ制御部13は、着陸時間帯の予測結果に基づいて最適なアンテナ走査シーケンス(=観測モード)を決定し、そのシーケンスに基づいてアンテナ走査モードを指定するレーダ制御信号を生成する。このレーダ制御信号は気象ドップラーレーダ部14に送られる。
【0016】
この気象ドップラーレーダ部14は地上付近の低仰角をアンテナ走査してダウンバーストを観測可能な低仰角走査モードと複数の仰角をアンテナ走査して高度別の気象を観測可能な多仰角走査モードを備えており、レーダ制御部13からのレーダ制御信号に基づいて走査モードを切り替えて気象観測を行う。それぞれの観測結果は観測結果判定部15に送られる。
【0017】
この観測結果判定部15は観測結果にダウンバースト等の異常気象が発生しているか判定するもので、ダウンバーストのような危険な異常気象検出時には着陸態勢に入る航空機に警告を発令する。
【0018】
上記構成において、その運用手順をまとめると図2に示すようになる。
【0019】
まず、空港監視レーダから航空機位置情報を取得する(あるいは航空機からGPS情報をダウンリンクで取得する)(ステップS1)。次に、取得した位置情報から着陸機の情報のみを抽出して(ステップS2)、その航空機位置情報から着陸行動時間帯を予測する(ステップS3)。予測した着陸行動時間帯から着陸態勢に入る直前に低仰角走査モードとなるようにアンテナ走査の最適シーケンスを決定する(ステップS4)。このようにして決定した最適シーケンスで気象ドップラーレーダ部14を制御し(ステップS5)、観測情報を取得して異常気象を判定する(ステップS6)。この判定において、ダウンバーストのような危険な異常気象を判別した場合には、着陸態勢に入る航空機に対して警告を発するものとする。
【0020】
上記最適シーケンスについて、図3を参照して説明する。
【0021】
従来の運用シーケンスでは、図3(a)に示すように、多仰角アンテナ走査を繰り返す中で低仰角アンテナ走査が一定周期で繰り返すようにしていた。このため、航空機が遠くにいる時に地上付近を観測し、もう着陸行動を中止できない状態になってから再び地上付近を観測するなど、航空機の安全性を最大限に高めるようなタイミングでの観測とは必ずしもなっていなかった。
【0022】
これに対し、本発明による運用シーケンスでは、図3(b)に示すように、通常は多仰角アンテナ走査を行い、着陸進入機がある時間帯にのみ低仰角アンテナ走査を行うようにする。これにより、航空機が安全に着陸できる状態かどうかを最適なタイミングで判断することができる。また、上空の観測もこれまで以上に増やすことも可能であり、空域全体の気象状態を大まかに把握するという目的においても、従来以上の効果を期待できる。
【0023】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態である空港用気象レーダ装置の構成を示すブロック図。
【図2】図1に示す装置の運用手順を示すフローチャート。
【図3】図1に示す装置において決定する最適シーケンスを説明するための図。
【符号の説明】
【0025】
11…通信部、12…着陸時間帯予測部、13…レーダ制御部、14…気象ドップラーレーダ部、15…観測結果判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空港面内の気象現象を観測するために、地上付近の低仰角をアンテナ走査する低仰角走査モードと複数の仰角をアンテナ走査する多仰角走査モードを備える空港用気象レーダ装置であって、
前記空港の滑走路に着陸する予定の航空機の位置情報を取得する位置情報取得手段と、
前記航空機の位置情報に基づいて当該航空機が前記滑走路を使用する直前の時間帯を予測する予測手段と、
前記予測手段の予測結果に基づいて少なくとも前記航空機が前記滑走路を使用する直前に前記低仰角走査モードに切り替えて前記滑走路付近の低仰角をアンテナ走査させるレーダ制御手段と
を具備することを特徴とする空港用気象レーダ装置。
【請求項2】
前記予測手段は、航空機が着陸態勢に入ってから着陸行動を中止することができない時間までの期間を予測することを特徴とする請求項1記載の空港用気象レーダ装置。
【請求項3】
さらに、前記レーダ制御手段による低仰角走査モードで異常気象が観測されたとき警告を前記航空機に通知する警告通知手段を備えることを特徴とする請求項1記載の空港用気象レーダ装置。
【請求項4】
空港面内の気象現象を観測するために、地上付近の低仰角をアンテナ走査する低仰角走査モードと複数の仰角をアンテナ走査する多仰角走査モードを備える空港用気象レーダ装置の運用方法であって、
前記空港の滑走路に着陸する予定の航空機の位置情報を取得し、
前記航空機の位置情報に基づいて当該航空機が前記滑走路を使用する直前の時間帯を予測し、
前記予測結果に基づいて少なくとも前記航空機が前記滑走路を使用する直前に前記低仰角走査モードに切り替えて前記滑走路付近の低仰角をアンテナ走査させることを特徴とする空港用気象レーダ装置の運用方法。
【請求項5】
前記予測は、航空機が着陸態勢に入ってから着陸行動を中止することができない時間までの期間を予測することを特徴とする請求項4記載の空港用気象レーダ装置の運用方法。
【請求項6】
さらに、前記レーダ制御による低仰角走査モードで異常気象が観測されたとき警告を前記航空機に通知することを特徴とする請求項4記載の空港用気象レーダ装置の運用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−240190(P2007−240190A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59635(P2006−59635)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】