説明

空間光変調装置、及び、それを備えたレーザ照明装置、レーザ顕微鏡

【課題】光の波長に依存することなく、所望のパターンの光を対象物に照射する技術を提供することを課題とする。
【解決手段】空間光変調装置1は、空間光変調器3の隣接する変調領域(変調領域3a、変調領域3b)で変調された変調光(光線La、光線Lb)間で生じる光路長差を、光路長差補償器2の補償領域(補償領域2a、補償領域2b)での偏向により補償する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間光変調装置の技術に関し、特に、レーザ光源とともに用いられる空間光変調装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パターン刺激装置などの顕微鏡や、レーザリペア装置、露光機などでは、光の空間的分布及び強度(以降、パターンと記す。)を任意に制御し、所望のパターンの光を対象物に照射する技術が必要とされている。そして、このような技術を実現するために空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)が広く利用されている。
【0003】
空間光変調器は、複数の変調領域(以降、画素と記す。)を有し、各画素の状態を独立に制御することにより、所望のパターンを形成することができる。このことを利用して、空間光変調器を対象物に投影することにより所望のパターンの光を対象物に照射するさまざまな提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、白色光源とデジタルマイクロミラーデバイス(DMD:Digital Micromirror Device、以降、DMDと記す。)を用いた顕微鏡が開示されている。
【0005】
DMDは、画素毎に設けられたミラーにより光を偏向することで光を変調する空間光変調器である。図11Aは、DMDの構成を例示する上面概略図であり、図11Bは、図11Aに示される断面X−X’におけるDMDの断面概略図である。また、図11Cは、DMDが回折光学素子として作用する様子を示す図である。図11Aに例示されるように、DMD200には、例えば、一辺Lのミラー201がピッチP毎に2次元に複数配列されている。各ミラー201は、独立に制御され、不図示の電極との間に生じるクーロン力により回転軸202周りに回転する。これにより、各画素の状態が、図11Bに例示される入射光203を対象物の方向に反射するON状態と、入射光203を対象物から逸らして反射するOFF状態のいずれかに制御され、その結果として、所望のパターンを形成することができる。
また、特許文献2では、液晶型の空間光変調器を用いた技術が開示されている。この特許文献で示された液晶型空間光変調器においては、液晶の画素をダイナミックな回折格子として作用させ、非回折光はブロックされ、回折光のみがパターン形成に寄与する構成が開示されている。
特許文献1及び特許文献2で開示される技術を用いることで、所望のパターンの光を対象物に照射することができる。
【0006】
なお、通常、対象物に照射される光は、単色光であることが望ましく、特許文献1で例示されるように、光源として白色光源が用いた場合、励起フィルタなどの波長選択素子が必要となる。また、波長選択素子を用いても、照射される光が十分な単色性を有しない場合もある。
【0007】
このため、光源として、高い単色性を有するレーザ光を射出するレーザ光源を用いる提案がなされている。例えば、特許文献3では、LCD(Liquid Crystal Display)などの空間光変調器やデフォーマブルミラーとともにレーザ光源を用いる技術が開示されている。また、特許文献4では、DMDとともにレーザ光源を用いる技術が開示されている。
【0008】
しかしながら、空間光変調器とともにレーザ光源を用いた場合、レーザ光が可干渉性を有し干渉による影響を受けやすいため、所望のパターンが得られないことがある。
【0009】
例えば、DMD200の場合、図11Bに例示されるように、隣接する画素(ミラー201)で偏向されたレーザ光間で光路長差Δ(=dsinθ)が生じ、その結果、レーザ光間で位相のずれが発生してしまう。その結果、図11Cに例示されるように、DMD200は回折光学素子として作用するため、DMD200に複数の画素に亘る光束が入射した場合は、複数の非0次回折光(回折光206、回折光207、回折光208)が生じる。そして、非0次回折光のうち一部の回折光(回折光206、回折光207)は、対象物とDMD200の間に配置された光学系204に入射し対象物に照射され、それ以外はパターン形成に寄与しない。この非0次回折光(回折光206、回折光207、回折光208)の進行方向は、DMD200の画素ピッチd、入射光203の入射角θおよび入射光203の波長により変化し、必ずしも光学系204に垂直に入射するとは限らない。また、光学系204に入射する回折次数の数もそれらによって変化する。対象物に照射されるパターンは、光学系204に入射する回折光の入射角度および入射する回折光の数により大きく変化してしまう。
特許文献2で示された液晶型の空間光変調器においても、上記DMDと同様に回折光をパターン形成に使用しているため、隣接する画素に光路長差が生じる。
【0010】
このように、回折光学素子として機能する空間光変調器の隣接する画素で変調されるレーザ光の間に光路長差のある場合には、レーザ光間に位相のずれが生じる。そして、位相のずれたレーザ光が互いに干渉することでパターンが変化してしまう。このため、対象物に照射されるパターンが劣化してしまい、所望のパターンが得られない。
【0011】
このような実情を踏まえ、レーザ光の干渉によるパターンの劣化を抑制する技術が特許文献5及び特許文献6に開示されている。特許文献5及び特許文献6に開示された技術を用いることで、優れた単色性を有する所望のパターンのレーザ光を対象物に照射することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−109348号公報
【特許文献2】特開平10−268263号公報
【特許文献3】米国特許第6555826号公報
【特許文献4】特開2009−028742号公報
【特許文献5】特許第4084303号公報
【特許文献6】特開2007−329386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献5で開示される技術は、レーザ光をランダム化装置を介して照射することで、干渉によるパターンの劣化を抑制することができる。
【0014】
しかしながら、一般に、ランダム化装置はレーザ光の位相を経時的にランダムに変化させるものである。このため、レーザ光を一定時間以上照射する場合には効果的であるが、レーザ光を瞬間的に照射し対象物を刺激するレーザ刺激には適さない。
【0015】
また、特許文献6で開示される技術は、可変成形マスクとして用いられるDMD全体を傾ける。これにより、隣接するミラー素子からの反射光相互間の光路長差が波長の整数倍となり、位相のずれが補正される。このため、干渉によるパターンの劣化を抑制することができる。
【0016】
しかしながら、DMDの最適な傾斜角はレーザ光(反射光)の波長に依存するため、複数の波長のレーザ光を同時照射する場合には対応できない。また、DMDが光軸に対して傾斜して構成されるため、対象物にピントが合う領域が著しく制限されてしまう。
以上のような実情を踏まえ、本発明では、光の波長に依存することなく、所望のパターンの光を対象物に照射する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様は、独立に光を変調する複数の変調領域を有し、変調領域での変調により隣接する変調領域で変調された変調光間で光路長差を生じさせる空間光変調器と、入射する光を偏向する複数の補償領域を有し、補償領域間で生じる光路長差により変調光間の光路長差を補償する光路長差補償器と、を含む空間光変調装置を提供する。
【0018】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の空間光変調装置において、補償領域で生じる偏向光間の光路長差は、変調領域での変調により生じる変調光間の光路長差と相殺する空間光変調装置を提供する。
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様に記載の空間光変調装置において、変調領域は、補償領域に1対1で対応する空間光変調装置を提供する。
【0019】
本発明の第4の態様は、第1の態様乃至第3の態様のいずれか1つに記載の空間光変調装置において、光路長差補償器は、空間光変調器に対して光学的に共役な位置に配置される空間光変調装置を提供する。
【0020】
本発明の第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様のいずれか1つに記載の空間光変調装置において、さらに、空間光変調器と光路長差補償器とを光学的に共役な関係にするリレー光学系を含む空間光変調装置を提供する。
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載の空間光変調装置において、リレー光学系は、アフォーカル光学系である空間光変調装置を提供する。
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載の空間光変調装置において、リレー光学系は、投影倍率が略等倍の光学系である空間光変調装置を提供する。
本発明の第8の態様は、第6の態様に記載の空間光変調装置において、リレー光学系は、4f光学系である空間光変調装置を提供する。
本発明の第9の態様は、第6の態様に記載の空間光変調装置において、リレー光学系は、2つの4f光学系を含む空間光変調装置を提供する。
【0021】
本発明の第10の態様は、第5の態様乃至第9の態様のいずれか1つに記載の空間光変調装置において、リレー光学系は、空間光変調器の各変調領域を分離して識別できる開口数を有する空間光変調装置を提供する。
【0022】
本発明の第11の態様は、第5の態様乃至第7の態様又は第10の態様のいずれか1つに記載の空間光変調装置において、リレー光学系は、反射部材を含む空間光変調装置を提供する。
本発明の第12の態様は、第11の態様に記載の空間光変調装置において、空間光変調器は、光路長差補償器を兼ねる空間光変調装置を提供する。
本発明の第13の態様は、第12の態様に記載の空間光変調装置において、変調領域は、補償領域と異なる領域である空間光変調装置を提供する。
【0023】
本発明の第14の態様は、第1の態様乃至第13の態様のいずれか1つに記載の空間光変調装置において、光路長差補償器は、空間光変調器と同種の光学素子で空間光変調装置を提供する。
【0024】
本発明の第15の態様は、第1の態様乃至第13の態様のいずれか1つに記載の空間光変調装置において、光路長差補償器は、回折格子である空間光変調装置を提供する。
【0025】
本発明の第16の態様は、第1の態様乃至第15の態様のいずれか1つに記載の空間光変調装置において、空間光変調器は、デジタルマイクロミラーデバイスである空間光変調装置を提供する。
【0026】
本発明の第17の態様は、第1の態様乃至第15の態様のいずれか1つに記載の空間光変調装置において、空間光変調器は、液晶空間光変調器である空間光変調装置を提供する。
【0027】
本発明の第18の態様は、第1の態様乃至第15の態様のいずれか1つに記載の空間光変調装置において、空間光変調器は、ホログラム光学素子である空間光変調装置を提供する。
【0028】
本発明の第19の態様は、可干渉性を有する光を射出する光源と、光を変調する第1の態様乃至第18の態様のいずれか1つに記載の空間光変調装置と、を含む照射装置を提供する。
本発明の第20の態様は、第19の態様に記載の照射装置において、光源は、波長の異なる複数の光を射出する照射装置を提供する。
本発明の第21の態様は、第20の態様に記載の照射装置において、光源は、複数の光を同時に射出する照射装置を提供する。
本発明の第22の態様は、第19の態様乃至第21の態様に記載の照射装置において、光源は、レーザ光源である照射装置を提供する。
本発明の第23の態様は、第22の態様に記載の照射装置において、照射装置は、レーザリペア装置である照射装置を提供する。
本発明の第24の態様は、第22の態様に記載の照射装置において、照射装置は、露光機である照射装置を提供する。
本発明の第25の態様は、第22の態様に記載の照射装置において、照射装置は、医療機器である照射装置を提供する。
本発明の第26の態様は、第22の態様に記載の照射装置を含むレーザ顕微鏡を提供する。
【0029】
本発明の第27の態様は、第26の態様に記載のレーザ顕微鏡において、空間光変調器は、共焦点絞りとして機能し、顕微鏡は、共焦点レーザ顕微鏡であるレーザ顕微鏡を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、光の波長に依存することなく、所望のパターンの光を対象物に照射する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】各実施例に係る空間光変調装置に共通する構成を説明する概略図である。
【図2】実施例1に係る空間光変調装置の構成を例示する概略図である。
【図3】実施例1に係る空間光変調装置の変形例の構成を例示する概略図である。
【図4A】実施例2に係る空間光変調装置の構成を例示する概略図である。
【図4B】図4Aに例示される空間光変調器領域と光路長差補償器領域の関係を説明する図である。
【図5A】実施例2に係る空間光変調装置の変形例の構成を例示する概略図である。
【図5B】図5Aに例示される空間光変調器領域と光路長差補償器領域の関係を説明する図である。
【図6】実施例1に係る空間光変調装置が適用されたレーザリペア装置の構成を例示する概略図である。
【図7】実施例1の変形例に係る空間光変調装置が適用された露光機の構成を例示する概略図である。
【図8A】実施例2に係る空間光変調装置が適用されたレーザ顕微鏡の構成を例示する概略図である。
【図8B】図8Aに例示される空間光変調装置のA矢視図である。
【図9A】実施例2に係る空間光変調装置が適用された医療用レーザ照射装置の構成を例示する概略図である。
【図9B】図9Aに例示される空間光変調装置のB矢視図である。
【図10A】実施例2に係る空間光変調装置が適用された共焦点レーザ顕微鏡の構成を例示する概略図である。
【図10B】図10Aに例示される空間光変調装置のC矢視図である。
【図10C】図10Aに例示される空間光変調領域の変調領域の状態の一例を示している。
【図10D】図10Aに例示される空間光変調領域の変調領域の状態の他の例を示している。
【図11A】デジタルマイクロミラーデバイスの構成を例示する上面概略図である。
【図11B】図11Aに示される断面X−X’におけるデジタルマイクロミラーデバイスの断面概略図である。
【図11C】図11Aに例示される示されるデジタルマイクロミラーデバイスが回折光学素子として作用する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
まず、はじめに、各実施例に共通する構成と作用について説明する。
【0033】
図1は、各実施例に係る空間光変調装置に共通する構成を説明する概略図である。図1に例示される空間光変調装置1は、独立に光を変調する複数の画素(以降、変調領域と記す。)を有する空間光変調器3と、入射する光を偏向する複数の画素(以降、補償領域と記す。)を有する光路長差補償器2と、を含んで構成されている。
さらに、空間光変調器3と光路長差補償器2を光学的に共役な関係にする不図示のリレー光学系を含んで構成してもよい。
【0034】
空間光変調器3の変調領域(変調領域3a、変調領域3b、変調領域3c、変調領域3d、変調領域3e)は、光路長差補償器2の補償領域(補償領域2a、補償領域2b、補償領域2c、補償領域2d、補償領域2e)に、1対1で対応している。各変調領域は、リレー光学系によって対応する補償領域と光学的に共役な関係を有することが望ましい。
【0035】
空間光変調装置1は、空間光変調器3の各変調領域がそれぞれ独立して光を変調することにより、所望のパターンを形成することができる。その際、空間光変調器3では変調領域での変調により隣接する変調領域で変調された変調光間に光路長差が生じるが、光路長差補償器2の補償領域での偏向によりその光路長差を補償することができる。
【0036】
具体的には、空間光変調器3の各変調領域に一定の角度で入射する平行光(光線L)が入射する。このとき、各変調領域は、形成するパターンに応じて、ON状態とOFF状態のいずれかに制御されている。例えば、光線Lのうち変調領域3aに入射する光線Laは、変調領域3aがON状態にある場合には、変調領域3aで変調され、射出される。同様に、変調領域3bがON状態にある場合には、光線Lのうち変調領域3bに入射する光線Lbは、変調領域3bで変調され、射出される。このとき、変調領域3aで変調された光線Laと変調領域3bで変調された光線Lbの間では、空間光変調器3での変調により光路長差D2が生じる。
【0037】
光路長差補償器2は、空間光変調器3とは異なり、形成するパターンによらず、全補償領域が同じ状態に維持されている。このため、光路長差補償器2へ一定の方向から入射する光線Lはすべて空間光変調器3に向けて偏向される。例えば、光線Laは補償領域2aで偏向され、光線Lbは補償領域2bで偏向される。このとき、補償領域2aで偏向された光線Laと補償領域2bで偏向された光線Lbの間では、光路長差補償器2での偏向により光路長差D1が生じる。
【0038】
なお、ここでは、光路長差補償器2のすべての補償領域を同じ状態(ON状態)となる例に示したが、特にこれに限られない。空間光変調器3のON状態にある変調領域に対応する光路長差補償器2の補償領域のみがON状態になっていても良い。
【0039】
光路長差補償器2は、補償領域での偏向により生じる光線Laと光線Lbの間の光路長差D1が、空間光変調器3の変調領域での変調により生じる光線Laと光線Lbの間の光路長差D2と相殺されるように構成されている。つまり、光路長差D1と光路長差D2は、反対方向に発生する。光路長差D1と光路長差D2のいずれか一方は、光線Laの光路長が光線Lbの光路長より長い場合の光路長差であり、他方は、光線Laの光路長が光線Lbの光路長より短い場合の光路長差である。このため、光路長差D1と光路長差D2は相殺され、空間光変調装置1に入射する時点で位相が揃っている光線は、位相が揃っている状態で空間光変調装置1から射出される。
従って、空間光変調装置1は、空間光変調器3で形成されたパターンを劣化させることなく、所望のパターンの光を射出することができる。
【0040】
なお、空間光変調器3としては、例えば、DMDを用いることができる。空間光変調器3は、隣接する変調領域間のそれぞれで一定の光路長差が生じればよく、そのような空間光変調器であれば、液晶空間光変調器やホログラム光学素子などを用いても良い。
【0041】
また、光路長差補償器2としては、空間光変調器3で生じる光路長差と逆符号で同じ長さの光路長差を生じさせるものを用いる。このため、光路長差補償器2として、空間光変調器3と同種の光学素子を用いることができる。例えば、空間光変調器3がDMDであれば、光路長差補償器2もDMDを用いることができる。
【0042】
また、光路長差補償器2は、空間光変調器3と異種の光学素子を用いることもできる。例えば、光路長差補償器2にはパターンを形成する機能は必要ないため、回折格子などの回折光学素子を用いることもできる。ただし、この場合も、空間光変調器3で生じる光路長差と逆符号の光路長差を生じさせる必要がある。
【0043】
また、図1では、空間光変調器3で変調される前に光路長差補償器2に入射する構成を例示したが、特にこれに限られない。空間光変調器3と光路長差補償器2の両方に作用することで、それぞれで生じる光路長差が相殺されればよい。このため、空間光変調器3で変調された光が光路長差補償器2で偏向されてもよい。
【0044】
また、空間光変調装置1とともに用いられる光源としては、例えば、レーザ光源などの可干渉性を有する光を射出する光源を用いることができる。可干渉性を有する光は、一般に高い単色性を有するため、対象物を照射する光として好ましいが、干渉による影響を受けやすい。しかし、空間光変調装置1では、上述したように、空間光変調器3の隣接する変調領域で生じる光路長差と光路長差補償器2の隣接する補償領域で生じる光路長差が相殺されるため、位相のずれが抑制され、それによって、干渉による影響を抑制することができる。このため、空間光変調装置1は、レーザ光源などの可干渉性を有する光を射出する光源を用いた場合であって、空間光変調器3で形成されたパターンを劣化させることなく、所望のパターンの光を射出することができる。
【0045】
また、異なる光の波長に対しても、空間光変調器3及び光路長差補償器2で生じる光路長差の相殺自体には影響しないため、空間光変調装置1では、光源から射出される光の波長に依存することなく、所望のパターンの光を射出することができる。このため、光源としては、波長の異なる複数の光を射出する光源を用いても良い。また、その場合、光源は複数の光を同時に射出してもよい。
【0046】
以下、図面を参照しながら、上述した空間光変調装置の実施例について説明する。なお、以降では、空間光変調器及び光路長差補償器として、DMDを用いる場合を例に説明するが、特にこれに限られない。
【実施例1】
【0047】
図2は、本実施例に係る空間光変調装置の構成を例示する概略図である。
空間光変調装置4は、中心軸AX1を有する平行光L1を、中心軸AX2を有する所望のパターンの平行光L2として射出する空間光変調装置である。空間光変調装置4は、独立に光を変調する複数の変調領域を有する空間光変調器として機能するDMD6と、入射する光を偏向する複数の補償領域を有する光路長差補償器として機能するDMD5と、DMD5とDMD6を光学的に共役な関係にするリレー光学系として機能する4f光学系7を含んで構成されている。
【0048】
図2に例示されるDMD6とDMD5は、図1に例示される空間光変調器3と光路長差補償器2に対応する。つまり、DMD6の隣接する変調領域で生じる光路長差とDMD5の隣接する補償領域で生じる光路長差が相殺されるように構成されている。
【0049】
空間光変調装置4では、空間光変調器として機能するDMD6は、パターン形成のために各変調領域が独立に制御されるのに対して、光路長差補償器として機能するDMD5は、すべての補償領域が一定の状態に維持される。または、DMD5は、DMD6のON状態の変調領域に対応する補償領域のみをON状態とする。なお、DMD6を、光路長差を補償するための光路長差補償器として機能させ、DMD5を、パターン形成のための空間光変調器として機能させても良い。
【0050】
4f光学系7は、DMD5の補償領域で補償された光の広がりを抑え、DMD6の対応する変調領域へ入射させる役割を担っている。このため、4f光学系7は、DMD5の各補償領域やDMD6の各変調領域を分離して識別できる開口数を有することが望ましい。
【0051】
また、4f光学系7は、焦点距離がおよそ等しいレンズ群7a及びレンズ群7bからなる投影倍率が略等倍の光学系である。このため、DMD5の補償領域5aは、4f光学系7によりDMD6の変調領域6aに略等倍で投影される。同様に、DMD5の補償領域5bは、4f光学系7によりDMD6の変調領域6bに略等倍で投影される。この場合、DMD5とDMD6は、同じ仕様(ミラーサイズやピッチなど)のDMDを利用することができるため、望ましい。
【0052】
また、4f光学系7は、アフォーカル光学系である。このため、DMD5の各補償領域から入射する光の主光線は互いに平行であり、また、各変調領域へ射出される光の主光線は互いに平行である。このため、それぞれで生じる光路長差を相殺させるDMD5とDMD6の配置を比較的容易に実現でき、また、光路長差を精度よく補償することができる。
【0053】
以上、図2に例示される本実施例に係る空間光変調装置4でも、図1に例示される空間光変調装置1と同様に、光源から射出される光の波長に依存することなく、所望のパターンの光を射出することができる。
【0054】
図3は、本実施例に係る空間光変調装置の変形例の構成を例示する概略図である。
本変形例に係る空間光変調装置8は、中心軸AX3を有する平行光L3を、中心軸AX4を有する所望のパターンの平行光L4として射出する空間光変調装置である。空間光変調装置8は、独立に光を変調する複数の変調領域を有する空間光変調器として機能するDMD6、入射する光を偏向する複数の補償領域を有する光路長差補償器として機能するDMD5と、DMD5とDMD6を光学的に共役な関係にするリレー光学系として機能する4f光学系9及び4f光学系10を含んで構成されている。
【0055】
空間光変調装置8は、DMD5とDMD6の間に2つの4f光学系を含んで構成されている点が、図2に例示される本実施例に係る空間光変調装置4と異なる。その他の構成は、空間光変調装置4と同様である。
【0056】
4f光学系9は、レンズ群9a及びレンズ群9bから構成され、4f光学系10は、レンズ群10a及びレンズ群10bから構成されている。このように2つの4f光学系を用いることで、DMD5とDMD6が互いに平行に配置されるため、入射光の中心軸AX3と射出光の中心軸AX4を平行にすることができる。この場合、図2に例示される空間光変調装置4と異なり、入射光(平行光L3)と射出光(平行光L4)の光路は交差しない。このため、光学装置の一部として空間光変調装置8を用いる場合に、空間光変調装置8以外の構成要素の物理的な配置が容易になる。
【0057】
以上、図3に例示される本変形例に係る空間光変調装置8でも、図1に例示される空間光変調装置1と同様に、光源から射出される光の波長に依存することなく、所望のパターンの光を射出することができる。
【実施例2】
【0058】
図4Aは、本実施例に係る空間光変調装置の構成を例示する概略図である。図4Bは、図4Aに例示される空間光変調器領域と光路長差補償器領域の関係を説明する図である。
【0059】
本実施例に係る空間光変調装置11は、中心軸AX5を有する平行光L5を、中心軸AX6を有する所望のパターンの平行光L6として射出する空間光変調装置である。空間光変調装置11は、空間光変調器及び光路長差補償器として機能するDMD12と、リレーレンズ15と、ミラー16と、を含んで構成されている。
【0060】
図4Bに例示されるように、複数の画素を有するDMD12では、複数の画素の一部がパターンを形成するための領域(以降、空間光変調器領域と記す。)14として機能し、他の一部が光路長差を補償するための領域(光路長差補償器領域と記す。)13として機能する。つまり、DMD12は、光路長差補償器を兼ねた空間光変調器であり、また、空間光変調器を兼ねた光路長差補償器である。
【0061】
図4Bに例示される空間光変調器領域14と光路長差補償器領域13は、図1に例示される空間光変調器3と光路長差補償器2に対応する。つまり、空間光変調器領域14の隣接する変調領域で生じる光路長差と光路長差補償器領域13の隣接する補償領域で生じる光路長差が相殺されるように構成されている。
【0062】
リレーレンズ15及びミラー16は、空間光変調器領域14と光路長差補償器領域13を光学的に共役な関係にするリレー光学系として機能する。ミラー16は、平面状の反射面を有する反射部材である。リレーレンズ15は、光路長差補償器領域13から射出された光をミラー16上に集光させる集光レンズであり、ミラー16を反射した光を平行光に変換して空間光変調器領域14へ入射させるコリメータレンズである。
【0063】
図4Bに例示されるように、光路長差補償器領域13は、リレーレンズ15の光軸に対して偏心した位置に光を入射させる。このため、その光は、リレーレンズ15でミラー16の反射面に対して傾いた光に変換され、ミラー16の反射面上に集光する。ミラー16を正反射した反射光は、再びリレーレンズ15の光軸に対して偏心した位置に入射する。そして、リレーレンズ15で平行光に変換されて、空間光変調器領域14に入射する。
【0064】
このようにリレーレンズ15とミラー16を構成することで、空間光変調装置11では、空間光変調器領域14と光路長差補償器領域13を同一平面上の異なる領域に構成することができる。このため、1つのDMDでパターンの形成と光路長差の補償を行うことが可能となり、コストを抑えたコンパクトな空間光変調装置を実現することができる。
【0065】
以上、図4A及び図4Bに例示される本実施例に係る空間光変調装置11でも、図1に例示される空間光変調装置1と同様に、光源から射出される光の波長に依存することなく、所望のパターンの光を射出することができる。
【0066】
図5Aは、本実施例に係る空間光変調装置の変形例の構成を例示する概略図である。図5Bは、図5Aに例示される空間光変調器領域と光路長差補償器領域の関係を説明する図である。
【0067】
本変形例に係る空間光変調装置17は、中心軸AX7を有する平行光L7を、中心軸AX8を有する所望のパターンの平行光L8として射出する空間光変調装置である。空間光変調装置17は、空間光変調器として機能するDMD19と、光路長差補償器として機能するDMD18と、リレーレンズ20と、ミラー21と、を含んで構成されている。
【0068】
図5Bに例示される略同一平面上に配置されたDMD19とDMD18は、図1に例示される空間光変調器3と光路長差補償器2に対応する。つまり、DMD19の隣接する変調領域で生じる光路長差とDMD18の隣接する補償領域で生じる光路長差が相殺されるように構成されている。
【0069】
リレーレンズ20及びミラー21は、DMD18とDMD19を光学的に共役な関係にするリレー光学系として機能する。ミラー21は、図4Bに例示されるミラー16と異なり2つの平面で構成された反射面を有する反射部材である。また、リレーレンズ20は、反射面を構成する2つの平面の中間に光を集光させる。これにより、DMD18から射出された光は、リレーレンズ20を介して、ミラー21上に集光することなく、ミラー21の2つの平面を反射して、DMD19へ入射する。
【0070】
このように空間光変調装置17では、反射部材であるミラー21上に光を集光させないため、光源として大出力のレーザ光源を用いることが可能となる。また、DMD18とDMD19を別々に設けているため、リレー光学系の設計の自由度が高まり、設計条件が緩和される。また、リレーレンズ20が集光レンズ及びコリメータレンズとして機能するため、空間光変調装置17は、図4A及び図4Bに例示される空間光変調装置11と同様に、コンパクトに構成することができる。
【0071】
以上、図5A及び図5Bに例示される本変形例に係る空間光変調装置17でも、図1に例示される空間光変調装置1と同様に、光源から射出される光の波長に依存することなく、所望のパターンの光を射出することができる。
以下、図面を参照しながら、上述した空間光変調装置の各実施例、または、その変形例が適用された装置適用例について説明する。
【0072】
図6は、実施例1に係る空間光変調装置が適用されたレーザリペア装置の構成を例示する概略図である。本装置適用例に係るレーザリペア装置22は、ステージ23上に配置された基板24の像を観察する観察装置として機能する部分(以降、観察ユニットと記す。)と、観察ユニットでの観察結果に基づいて基板24の欠陥部分を加工するレーザ照射装置として機能する部分(以降、レーザ照射ユニットと記す。)から構成されている。
【0073】
観察ユニットは、照明光を射出するハロゲンランプ25と、照明光を基板24に向けて反射するハーフミラー26と、照明光を基板24に照射する対物レンズ27と、基板24を反射した照明光を対物レンズ27との組合せで結像させる観察側結像レンズ28と、観察側結像レンズ28から射出された照明光を受光するCCD29と、CCD29からの電気信号を受信し、モニタ31に基板24の画像を表示する制御装置30を含んで構成されている。
【0074】
一方、レーザ照射ユニットは、波長の異なる複数のレーザ光を合成して射出するレーザコンバイナモジュール33と、レーザコンバイナモジュール33を駆動させるレーザドライバ34と、光ファイバ35と、レーザ光の光束径を調整するビームエキスパンダ36と、所望のパターンの光を射出する空間光変調装置37と、DMDドライバ41と、照射側結像レンズ42と、レーザ光を反射し基板24を反射した照明光を透過するダイクロイックミラー43と、観察ユニットと共有される対物レンズ27及び制御装置30と、を含んで構成される。なお、レーザ光は、上述したように、可干渉性を有する光である。
【0075】
空間光変調装置37は、図2に例示される実施例1に係る空間光変調装置4と同様の構成であり、レーザコンバイナモジュール33から射出されるレーザ光の波長に依存することなく、所望のパターンのレーザ光を射出することができる。
【0076】
具体的には、空間光変調装置37は、光路長差補償装置として機能するDMDレプリカ38と、リレー光学系39と、DMDドライバ41により駆動され空間光変調器として機能するDMD40を含んで構成されている。リレー光学系39は、DMDレプリカ38とDMD40を光学的に共役な関係にしている。DMDレプリカ38とDMD40は、DMD40の隣接する変調領域で生じる光路長差とDMDレプリカ38の隣接する補償領域で生じる光路長差が相殺されるように構成されている。
【0077】
なお、DMDレプリカ38は、全ての画素がON状態であるときのDMD40と同一形状の回折光学素子であり、DMDドライバ41のようなドライバ装置を必要としない。
【0078】
レーザリペア装置22では、観察ユニットにより取得されモニタ31に表示される基板24の拡大画像に基づいて、操作盤32からレーザ光を照射する範囲、期間、強度などが入力されることにより、基板24に照射すべきパターンが指示される。そして、DMDドライバ41が指示された範囲に合わせてDMD40を駆動させる。その後、レーザドライバ34が指示された強度に合わせてレーザコンバイナモジュール33の出力を調整し、指示された期間だけレーザコンバイナモジュール33のシャッターを開く。これにより、所望のパターンのレーザ光が空間光変調装置37から射出され、基板24の欠陥部分に照射される。
【0079】
以上、実施例1に係る空間光変調装置が適用されたレーザリペア装置22によれば、空間光変調装置37を含むレーザ照射ユニットを用いることで、所望のパターンのレーザ光を照射することができるため、基板24の欠陥部分を正確に修正することができる。また、レーザ光の波長に依存することなく所望のパターンを射出することができるため、複数の波長のレーザ光を同時にまたは順番に射出し、欠陥部分を修正することができる。
【0080】
図7は、実施例1の変形例に係る空間光変調装置が適用された、露光機の構成を例示する概略図である。本装置適用例に係る露光機44は、ウエハ47に所望のパターンのレーザ光を照射するレーザ照射装置である。
【0081】
露光機44は、ウエハ47を配置するステージ45と、ステージ45を駆動させるステージドライバ46と、レーザ光を射出するレーザ光源48と、レーザ光源48を駆動させるレーザドライバ49と、レーザ光の光束径を調整するビームエキスパンダ50と、所望のパターンの光を射出する空間光変調装置51と、DMDドライバ55と、レーザ光をウエハ47に照射する露光レンズ56と、ステージドライバ46及びレーザドライバ49及びDMDドライバ55を制御する制御装置57を含んで構成されている。
【0082】
空間光変調装置51は、図3に例示される実施例1の変形例に係る空間光変調装置8と同様の構成であり、レーザ光源48から射出されるレーザ光の波長に依存することなく、所望のパターンのレーザ光を射出することができる。
【0083】
具体的には、空間光変調装置51は、光路長差補償装置として機能する回折格子52と、リレー光学系53と、DMDドライバ55により駆動され空間光変調器として機能するDMD54を含んで構成されている。リレー光学系53は、2つの4f光学系から構成され、回折格子52とDMD54を光学的に共役な関係にしている。回折格子52とDMD54は、DMD54の隣接する変調領域で生じる光路長差と回折格子52の隣接する補償領域で生じる光路長差が相殺されるように構成されている。
【0084】
以上、実施例1の変形例に係る空間光変調装置が適用された露光機44では、空間光変調装置51を用いることで、所望のパターンのレーザ光を照射することができる。このため、ステージドライバ46でステージ45を移動させながら、DMD54が投影されるウエハ47の位置に応じた露光パターンをDMD54で形成することで、ウエハ47上のフォトレジストに任意の回路パターンを焼き付けることができる。
【0085】
図8Aは、実施例2に係る空間光変調装置が適用された、レーザ顕微鏡の構成を例示する概略図である。図8Bは、図8Aに例示されるレーザ顕微鏡に含まれる空間光変調装置74のA矢視図である。本装置適用例に係るレーザ顕微鏡58は、ステージ59上に配置された標本60に照明光を照射し、標本60の像を観察する観察装置として機能する部分(以降、観察ユニットと記す。)と、標本60にレーザ光で刺激を与えるレーザ照射装置として機能する部分(以降、レーザ照射ユニットと記す。)から構成されている。
【0086】
観察ユニットは、照明光を射出するハロゲンランプ61と、照明光を標本60に照射するコンデンサレンズ62と、標本60を透過した照明光及び標本60から生じた蛍光を集光する対物レンズ63と、照明光及び蛍光を対物レンズ63との組合せで結像させる観察側結像レンズ64と、観察側結像レンズ64から射出された照明光及び蛍光を受光するCCD65と、CCD65からの電気信号を受信し、モニタ67に標本60の画像を表示する制御装置66を含んで構成されている。
【0087】
一方、レーザ照射ユニットは、波長の異なる複数のレーザ光を合成して射出するレーザコンバイナモジュール69と、レーザコンバイナモジュール69を駆動させるレーザドライバ70と、シングルモードファイバー71と、シングルモードファイバー71から射出されたレーザ光を平行光に変換するコリメータレンズ72と、レーザ光の光束径を調整するビームエキスパンダ73と、所望のパターンのレーザ光を射出する空間光変調装置74と、DMDドライバ78と、照射側結像レンズ79と、レーザ光を反射し照明光及び蛍光を透過するダイクロイックミラー80と、観察ユニットと共有される対物レンズ63及び制御装置66と、を含んで構成される。
【0088】
空間光変調装置74は、図4A及び図4Bに例示される実施例2に係る空間光変調装置11と同様の構成であり、レーザコンバイナモジュール69から射出されるレーザ光の波長に依存することなく、所望のパターンのレーザ光を射出することができる。
【0089】
具体的には、図8Bに例示されるように、空間光変調装置74は、光路長差補償器を兼ねた空間光変調器であるDMD75と、リレーレンズ76と、ミラー77とを含んで構成されている。DMD75は、空間光変調器として機能する空間光変調器領域82と、光路長差補償器として機能する光路長差補償器領域81とを含んでいる。空間光変調器領域82と光路長差補償器領域81は、いずれもDMDドライバ41で駆動される。ただし、空間光変調器領域82がパターン形成のために任意の状態に制御されるのに対して、光路長差補償器領域81は、常にON状態に制御される。または、光路長差補償器領域81は、空間光変調器領域82のON状態の変調領域に対応する補償領域のみがON状態に制御される。リレーレンズ76及びミラー77は、空間光変調器領域82と光路長差補償器領域81を光学的に共役な関係にするリレー光学系として機能している。空間光変調器領域82と光路長差補償器領域81は、リレーレンズ76及びミラー77により空間光変調器領域82の隣接する変調領域で生じる光路長差と光路長差補償器領域81の隣接する補償領域で生じる光路長差が相殺されるように構成されている。
【0090】
レーザ顕微鏡58では、観察ユニットにより取得されモニタ67に表示される標本60の拡大画像に基づいて、操作盤68からレーザ光で刺激する範囲、期間、強度などが入力されることにより、標本60に照射すべき刺激パターンが指示される。そして、DMDドライバ78が指示された範囲に合わせてDMD75の空間光変調器領域82を駆動させる。その後、レーザドライバ70が指示された強度に合わせてレーザコンバイナモジュール69の出力を調整し、指示された期間だけレーザコンバイナモジュール69のシャッターを開く。これにより、所望の刺激パターンのレーザ光が空間光変調装置74から射出され、標本60が刺激される。
【0091】
以上、実施例2に係る空間光変調装置が適用されたレーザ顕微鏡58によれば、空間光変調装置74を含むレーザ照射ユニットを用いることで、所望のパターンのレーザ光を照射することができるため、標本60を任意のパターンで刺激し、その反応を観察することができる。また、レーザ光の波長に依存することなく所望のパターンを射出することができるため、標本60に含まれる蛍光物質に応じて複数の波長のレーザ光を同時にまたは順番に射出して、蛍光物質を励起させることができる。
【0092】
図9Aは、実施例2に係る空間光変調装置が適用された、医療用レーザ照射装置の構成を例示する概略図である。図9Bは、図9Aに例示される医療用レーザ照射装置に含まれる空間光変調装置のB矢視図である。本装置適用例に係る医療用レーザ照射装置83は、患者84の患部85を観察する観察装置として機能する部分(以降、観察ユニットと記す。)と、患部85にレーザ光を照射するレーザ照射装置として機能する部分(以降、レーザ照射ユニットと記す。)から構成されている。また、医療用レーザ照射装置83の光学系は、医療用レーザ照射装置本体86内部に収納されている。
【0093】
観察ユニットは、照明光を射出するハロゲンランプ87と、照明光を患部85に向けて反射するハーフミラー88と、照明光を患部85に照射する対物レンズ89と、患部85を反射した照明光を対物レンズ89との組合せで結像させる観察側結像レンズ90と、観察側結像レンズ90から射出された照明光を受光するCCD91と、CCD91からの電気信号を受信し、モニタ93に患部85の画像を表示する制御装置92を含んで構成されている。
【0094】
一方、レーザ照射ユニットは、COレーザ光を射出するCOレーザ光源95と、COレーザ光源95を駆動させるレーザドライバ96と、中空ファイバ97と、中空ファイバ97から射出されたCOレーザ光を平行光に変換するコリメータレンズ98と、COレーザ光の光束径を調整するビームエキスパンダ99と、所望のパターンのCOレーザ光を射出する空間光変調装置100と、DMDドライバ104と、照射側結像レンズ105と、レーザ光を反射し照明光を透過するダイクロイックミラー106と、観察ユニットと共有される対物レンズ89及び制御装置92と、を含んで構成されている。
【0095】
空間光変調装置100は、図4A及び図4Bに例示される実施例2に係る空間光変調装置11と同様の構成であり、レーザ光の波長に依存することなく、所望のパターンのレーザ光を射出することができる。
【0096】
具体的には、図9Bに例示されるように、空間光変調装置100は、光路長差補償器を兼ねた空間光変調器であるDMD101と、リレーレンズ102と、ミラー103とを含んで構成されている。DMD101は、空間光変調器として機能する空間光変調器領域108と、光路長差補償器として機能する光路長差補償器領域107とを含んでいる。空間光変調器領域108と光路長差補償器領域107は、いずれもDMDドライバ104で駆動される。ただし、空間光変調器領域108がパターン形成のために任意の状態に制御されるのに対して、光路長差補償器領域107は、常にON状態に制御される。または、光路長差補償器領域107は、空間光変調器領域108のON状態の変調領域に対応する補償領域のみがON状態に制御される。リレーレンズ102及びミラー103は、空間光変調器領域108と光路長差補償器領域107を光学的に共役な関係にするリレー光学系として機能している。空間光変調器領域108と光路長差補償器領域107は、リレーレンズ102及びミラー103により、空間光変調器領域108の隣接する変調領域で生じる光路長差と光路長差補償器領域107の隣接する補償領域で生じる光路長差が相殺されるように構成されている。
【0097】
医療用レーザ照射装置83では、観察ユニットにより取得されモニタ93に表示される患部85の拡大画像に基づいて、操作盤94からレーザ光を照射する範囲、期間、強度などが入力されることにより、患部85に照射すべきパターンが指示される。そして、DMDドライバ104が指示された範囲に合わせてDMD101の空間光変調器領域108を駆動させる。その後、レーザドライバ96が指示された強度に合わせてCOレーザ光源95の出力を調整し、指示された期間だけCOレーザ光源95のシャッターを開く。これにより、所望のパターンのCOレーザ光が空間光変調装置100から射出され、患部85に照射される。なお、観察ユニットにより取得された患部85の画像に基づいて、制御装置92が自動的に患部85に照射するCOレーザ光のパターンを決定しても良い。
【0098】
以上、実施例2に係る空間光変調装置が適用された医療用レーザ照射装置83によれば、空間光変調装置100を含むレーザ照射ユニットを用いることで、所望のパターンのCOレーザ光を照射することができるため、患部85に必要最小限のCOレーザ光を照射し、患部85を治療することができる。また、レーザ光の波長に依存することなく所望のパターンを射出することができるため、必要に応じて、COレーザ光とは波長の異なるレーザ光を同時にまたは順番に射出することができる。
【0099】
図10Aは、実施例2に係る空間光変調装置が適用された、共焦点レーザ顕微鏡の構成を例示する概略図である。図10Bは、図10Aに例示される共焦点レーザ顕微鏡に含まれる空間光変調装置のC矢視図である。本装置適用例に係る共焦点レーザ顕微鏡109は、レーザ光を標本111に照射して標本111から生じる蛍光を検出することで標本111を観察する顕微鏡である。また、共焦点レーザ顕微鏡109では、空間光変調装置117に含まれるDMD118が共焦点絞りとして機能することで、共焦点効果が発揮されるため、高い分解能の標本像を得ることができる。
【0100】
共焦点レーザ顕微鏡109は、標本111を配置するステージ110と、波長の異なる複数のレーザ光を合成して射出するレーザコンバイナモジュール112と、光ファイバ113と、入射するレーザ光を、強度が均一で断面形状が矩形形状のレーザ光に変換するパウエルレンズ114と、レーザ光を反射し蛍光を透過させるダイクロイックミラー115と、矩形形状のレーザ光を直線状に集光させる第一の瞳レンズ116と、所望のパターンのレーザ光を射出する空間光変調装置117と、空間光変調装置117から射出された光を平行光に変換する第二の瞳レンズ121と、標本111を一方向に走査する走査手段として機能するガルバノミラー122と、第三の瞳レンズ123と、結像レンズ124と、レーザ光を標本111に集光させる対物レンズ125と、標本111から生じた蛍光を結像させる撮像レンズ126と、蛍光を受光し電気信号に変換するEM−CCD127と、を含んで構成されている。
【0101】
空間光変調装置117は、図4A及び図4Bに例示される実施例2に係る空間光変調装置11と同様の構成であり、レーザコンバイナモジュール112から射出されるレーザ光の波長に依存することなく、所望のパターンのレーザ光を射出することができる。
【0102】
具体的には、図10Bに例示されるように、空間光変調装置117は、光路長差補償器を兼ねた空間光変調器であるDMD118と、リレーレンズ119と、ミラー120とを含んで構成されている。DMD118は、空間光変調器として機能する空間光変調器領域128と、光路長差補償器として機能する光路長差補償領域129とを含んでいる。
【0103】
リレーレンズ119及びミラー120は、空間光変調領域128と光路長差補償領域129を光学的に共役な関係にするリレー光学系として機能している。空間光変調領域128及び光路長差補償領域129は、リレーレンズ119及びミラー120により、空間光変調領域128の隣接する変調領域で生じる光路長差と光路長差補償領域129の隣接する補償領域で生じる光路長差が相殺されるように構成されている。
【0104】
空間光変調領域128と光路長差補償領域129は、それぞれ直線状の領域であり、いずれも不図示のDMDドライバで駆動される。共焦点レーザ顕微鏡109では、DMDドライバが空間光変調領域128のON状態とする変調領域を変化させることで、標本111を一方向に走査することができる。なお、このとき、DMDドライバは、光路長差補償領域129の補償領域をすべてON状態に制御するか、または、空間光変調領域128のON状態となった変調領域に対応する光路長差補償領域129の補償領域をON状態に制御する。
【0105】
また、空間光変調領域128のON状態の変調領域は、共焦点絞りの開口(ピンホール)として機能する。このため、ON状態にする変調領域は、対物レンズ125の入射側(光源側)開口数NA´に応じて調整される。
【0106】
図10Cは、対物レンズ125の入射側開口数NA´が比較的大きいときの、空間光変調領域128の変調領域の状態を例示している。この場合、変調領域に集光するレーザ光のスポット径は小さくなるため、各開口130はそれぞれ空間光変調領域128の1つの変調領域で構成されている。なお、ここでは、3点を同時に照射しながら標本111を走査する例が示されている。
【0107】
図10Dは、対物レンズ125の入射側開口数NA´が比較的小さいときの、空間光変調領域128の変調領域の状態を例示している。この場合、変調領域に集光するレーザ光のスポット径は大きくなるため、各開口130はそれぞれ空間光変調領域128の4つの変調領域で構成されている。なお、ここでは、2点を同時に照射しながら標本111を走査する例が示されている。
【0108】
そして、共焦点レーザ顕微鏡109では、空間光変調領域128の変調領域を制御することにより走査される方向と直交する方向にガルバノミラー122が標本111を走査することで、標本111全体の画像を取得することができる。
【0109】
以上、実施例2に係る空間光変調装置が適用された共焦点レーザ顕微鏡109によれば、DMD118を共焦点絞りとして機能させることで、対物レンズ125の射出側開口数NA´に応じてピンホール径を容易に変更し最適化することができる。また、空間光変調装置117はレーザ光の波長に依存することなく所望のパターンを射出することができるため、標本111に含まれる蛍光物質に応じて複数の波長のレーザ光を同時にまたは順番に射出して、蛍光物質を励起させることができる。
【符号の説明】
【0110】
1、4、8、11、17、37、51、74、100、117・・・空間光変調装置、2・・・光路長差補償器、3・・・空間光変調器、2a、2b、2c、2d、2e・・・補償領域、3a、3b、3c、3d、3e・・・変調領域、5、6、12、18、19、40、54、75、101、118、200・・・DMD、7、9、10・・・4f光学系、7a、7b、9a、9b、10a、10b・・・レンズ群、13、81、107、129・・・光路長差補償器領域、14、82、108、128・・・空間光変調器領域、15、20、76、102、119・・・リレーレンズ、16、21、77、103、120、201・・・ミラー、22・・・レーザリペア装置、23、45、59、110・・・ステージ、24・・・基板、25、61、87・・・ハロゲンランプ、26、88・・・ハーフミラー、27、63、89、125・・・対物レンズ、28、64、90・・・観察側結像レンズ、42、79、105・・・照射側結像レンズ、124・・・結像レンズ、29、65、91・・・CCD、30、57、66、92・・・制御装置、31、67、93・・・モニタ、32、68、94・・・操作盤、33、69、112・・・レーザコンバイナモジュール、34、49、70、96・・・レーザドライバ、35、113・・・光ファイバ、36、50、73、99・・・ビームエキスパンダ、38・・・DMDレプリカ、39、53・・・リレー光学系、41、55、78、104・・・DMDドライバ、43、80、106、115・・・ダイクロイックミラー、44・・・露光機、46・・・ステージドライバ、47・・・ウエハ、48・・・レーザ光源、52・・・回折格子、56・・・露光レンズ、58・・・レーザ顕微鏡、60、111・・・標本、62・・・コンデンサレンズ、71・・・シングルモードファイバー、72、98・・・コリメータレンズ、83・・・医療用レーザ照射装置、84・・・患者、85・・・患部、86・・・医療用レーザ照射装置本体、95・・・CO2レーザ光源、97・・・中空ファイバ、109・・・共焦点レーザ顕微鏡、114・・・パウエルレンズ、116・・・第一の瞳レンズ、121・・・第二の瞳レンズ、123・・・第三の瞳レンズ、122・・・ガルバノミラー、126・・・撮像レンズ、127・・・EM−CCD、130・・・開口、202・・・回転軸、203・・・入射光、204・・・光学系、206、207、208・・・非0次回折光、L、La、Lb・・・光線、D1、D2・・・光路長差


【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立に光を変調する複数の変調領域を有し、前記変調領域での変調により隣接する前記変調領域で変調された変調光間で光路長差を生じさせる空間光変調器と、
入射する光を偏向する複数の補償領域を有し、前記補償領域間で生じる光路長差により前記変調光間の光路長差を補償する光路長差補償器と、を含むことを特徴とする空間光変調装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空間光変調装置において、
前記補償領域で生じる偏向光間の光路長差は、前記変調領域での変調により生じる前記変調光間の光路長差と相殺することを特徴とする空間光変調装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の空間光変調装置において、
前記変調領域は、前記補償領域に1対1で対応することを特徴とする空間光変調装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の空間光変調装置において、
前記光路長差補償器は、前記空間光変調器に対して光学的に共役な位置に配置されることを特徴とする空間光変調装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の空間光変調装置において、
さらに、前記空間光変調器と前記光路長差補償器とを光学的に共役な関係にするリレー光学系を含むことを特徴とする空間光変調装置。
【請求項6】
請求項5に記載の空間光変調装置において、
前記リレー光学系は、アフォーカル光学系であることを特徴とする空間光変調装置。
【請求項7】
請求項6に記載の空間光変調装置において、
前記リレー光学系は、投影倍率が略等倍の光学系であることを特徴とする空間光変調装置。
【請求項8】
請求項6に記載の空間光変調装置において、
前記リレー光学系は、4f光学系であることを特徴とする空間光変調装置。
【請求項9】
請求項6に記載の空間光変調装置において、
前記リレー光学系は、2つの4f光学系を含むことを特徴とする空間光変調装置。
【請求項10】
請求項5乃至請求項9のいずれか1項に記載の空間光変調装置において、
前記リレー光学系は、前記空間光変調器の各前記変調領域を分離して識別できる開口数を有することを特徴とする空間光変調装置。
【請求項11】
請求項5乃至請求項7又は請求項10のいずれか1項に記載の空間光変調装置において、
前記リレー光学系は、反射部材を含むことを特徴とする空間光変調装置。
【請求項12】
請求項11に記載の空間光変調装置において、
前記空間光変調器は、前記光路長差補償器を兼ねることを特徴とする空間光変調装置。
【請求項13】
請求項12に記載の空間光変調装置において、
前記変調領域は、前記補償領域と異なる領域であることを特徴とする空間光変調装置。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の空間光変調装置において、
前記光路長差補償器は、前記空間光変調器と同種の光学素子でことを特徴とする空間光変調装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の空間光変調装置において、
前記光路長差補償器は、回折格子であることを特徴とする空間光変調装置。
【請求項16】
請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の空間光変調装置において、
前記空間光変調器は、デジタルマイクロミラーデバイスであることを特徴とする空間光変調装置。
【請求項17】
請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の空間光変調装置において、
前記空間光変調器は、液晶空間光変調器であることを特徴とする空間光変調装置。
【請求項18】
請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の空間光変調装置において、
前記空間光変調器は、ホログラム光学素子であることを特徴とする空間光変調装置。
【請求項19】
可干渉性を有する光を射出する光源と、
前記光を変調する請求項1乃至請求項18のいずれか1項に記載の空間光変調装置と、を含むことを特徴とする照射装置。
【請求項20】
請求項19に記載の照射装置において、
前記光源は、波長の異なる複数の光を射出することを特徴とする照射装置。
【請求項21】
請求項20に記載の照射装置において、
前記光源は、前記複数の光を同時に射出することを特徴とする照射装置。
【請求項22】
請求項19乃至請求項21に記載の照射装置において、
前記光源は、レーザ光源であることを特徴とする照射装置。
【請求項23】
請求項22に記載の照射装置において、
前記照射装置は、レーザリペア装置であることを特徴とする照射装置。
【請求項24】
請求項22に記載の照射装置において、
前記照射装置は、露光機であることを特徴とする照射装置。
【請求項25】
請求項22に記載の照射装置において、
前記照射装置は、医療機器であることを特徴とする照射装置。
【請求項26】
請求項22に記載の照射装置を含むことを特徴とするレーザ顕微鏡。
【請求項27】
請求項26に記載のレーザ顕微鏡において、
前記空間光変調器は、共焦点絞りとして機能し、
前記顕微鏡は、共焦点レーザ顕微鏡であることを特徴とするレーザ顕微鏡。


【図1】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図10D】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図11C】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9B】
image rotate


【公開番号】特開2011−64892(P2011−64892A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214597(P2009−214597)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】