説明

窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体及びメタライズ基板

【課題】 窒化アルミニウムメタライズ基板の製造工程の途中において、最終的に得られるメタライズ層の抵抗値を非破壊により簡単に検査できるメタライズ脱脂中間体を提供する。また、このメタライズ脱脂中間体を焼成することにより、抵抗値のバラツキが低減された窒化アルミニウムメタライズ基板を提供する。
【解決手段】 有機化合物を含有するメタライズペースト層を非酸化性雰囲気中にて脱脂して、その全体及び部分的な明度がJIS Z 8721に規定する明度でN6以下、好ましくはN4以下のメタライズ脱脂中間体を得る。このメタライズ脱脂中間体を非酸化性雰囲気中で焼成することにより、窒化アルミニウムメタライズ基板が得られ、このメタライズ基板は抵抗値のバラツキが小さいためヒータとして好適に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマウントなどのヒートシンクや、サセプタ、プローバなどの半導体製造装置あるいは検査装置に広く利用されている窒化アルミニウムメタライズ基板、並びにその製造過程で得られる窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱伝導率の高い窒化アルミニウム焼結体については、窒化アルミニウム粉末に所定量の希土類元素やアルカリ土類金属元素の化合物を焼結助剤として加え、混合して焼結することにより製造されてきた。また、遮光性が要求される分野においては、更に炭素を所定量含有させることにより、黒色に近い窒化アルミニウム焼結体が製造されている。
【0003】
また、窒化アルミニウム基板をサブマウントやサセプタとして使用する場合には、窒化アルミニウム基板上にメタライズ層を形成することが不可欠である。その一例として、特開平11−040330号公報には、タングステン、パラジウム、ニッケル等を含む導電ペーストを窒化アルミニウム基板上に印刷し、焼結して発熱体とすることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−040330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来方法による窒化アルミニウムメタライズ基板の製造においては、所定の抵抗値が得られるように、メタライズ層の厚みを一定にするように制御して作製している。しかしながら、得られるメタライズ層の抵抗値バラツキが、しばしばメタライズ層の厚みバラツキよりも大きくなるという問題点があった。
【0006】
例えば、従来方法では、タングステン粉末やモリブデン粉末等に、用途に応じてガラスフリットを添加し、更に有機溶剤やバインダーを加えて混練して、得られたメタライズ用のペーストを作製する。次に、このペーストを用いて、スクリーン印刷等の手法により所定の厚みに制御しながら、窒化アルミニウムの焼結体上やグリーンシート上に所定の回路パターンを印刷する。その後、脱脂工程及び焼成工程を経て、回路パターンを構成しているメタライズペースト層が金属化され、窒化アルミニウムメタライズ基板が形成される。
【0007】
上記の脱脂工程では、非酸化性雰囲気中において、例えば500〜1000℃程度の高温で加熱することにより、ペーストを用いて形成した回路パターン中に存在するバインダー等の有機化合物が除去される。尚、このとき回路パターンをグリーンシート上に形成してある場合には、回路パターンからの有機化合物の除去と同時に、グリーンシートからの有機化合物の除去も行われる。
【0008】
しかし、この脱脂工程において、例えば、ペーストを用いて形成した回路パターン中の有機化合物が除去されない場合には、有機化合物が回路パターン中の金属と炭化物を形成するため、メタライズ層の抵抗値の上昇を招く結果となる。また、窒化アルミニウムのグリーンシート上に回路形成している場合には、上記の炭化物形成による抵抗値の上昇と共に、有機化合物から熱処理によって変化した炭化物が後の焼成時に窒化アルミニウムの焼結を阻害するという問題点もある。
【0009】
そこで従来は、窒化アルミニウムメタライズ基板におけるメタライズ層の抵抗値を予測評価する方法として、上記脱脂工程後のメタライズ脱脂中間体について、有機化合物や炭化物の残存量(残炭量)を測定していた。例えば、窒化アルミニウム基板上にペーストを用いて回路パターンを形成し、その回路パターンを構成するメタライズペースト層を脱脂した後、得られたメタライズ脱脂中間体から脱脂後のメタライズペースト層を所定量こそぎ取り、そこに含まれる残炭量を測定していた。
【0010】
しかしながら、この方法は破壊試験であるため、残炭量を測定したサンプルのメタライズ脱脂中間体は、当然のことながら製品にすることはできない。また、全体の回路抵抗値の予測を経験値的に算出していたが、実際には個体バラツキや同一基板内でのバラツキもあるため、信頼性のおける測定方法ではなかった。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、窒化アルミニウムメタライズ基板の製造工程の途中において、最終的に得られるメタライズ層の抵抗値を非破壊により簡単に検査できるメタライズ脱脂中間体を提供すること、並びに、このメタライズ脱脂中間体を焼成することにより、所定の抵抗値を有し且つ部分的な抵抗値のバラツキが低減された窒化アルミニウムメタライズ基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、窒化アルミニウム基板上にメタライズ層を有する窒化アルミニウムメタライズ基板の製造工程において、有機化合物を含有するメタライズペースト層を非酸化性雰囲気中にて脱脂して得られたメタライズ脱脂中間体であって、該メタライズ脱脂中間体の全体及び部分的な明度がJIS Z 8721に規定する明度でN6以下であることを特徴とする窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、上記窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体を、非酸化性雰囲気中で焼成することにより得られることを特徴とする窒化アルミニウムメタライズ基板を提供するものである。更に、本発明の窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体を焼成することによって得られるメタライズ基板は、メタライズ層を発熱体とするヒータとして好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、窒化アルミニウムメタライズ基板の製造工程途中のメタライズペースト層を脱脂した段階において、その窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体の明度を測定確認することにより、最終的に得られるメタライズ層が全体的に及び部分的に所定の抵抗値を満足するか否かを非破壊で簡単に検査することができる。
【0015】
従って、本発明の窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体を焼成することによって、メタライズ層が所定の抵抗値を有し且つ部分的な抵抗値のバラツキが低減された窒化アルミニウムメタライズ基板を提供することができ、焼成時における不良品の発生を撲滅することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
窒化アルミニウムメタライズ基板の製造工程では、ペーストのスクリーン印刷などによってメタライズペースト層を形成し、このメタライズペースト層を非酸化性雰囲気中にて例えば500〜1000℃程度の熱処理により脱脂する。この脱脂工程において、メタライズペースト層に含まれるバインダーなどの有機化合物は、熱分解を受けることによって一部は周囲の雰囲気中に揮散し、また一部は脱脂後のメタライズペースト層内に留まる。
【0017】
その後の焼成工程を経て最終的に得られるメタライズ層の抵抗値に関しては、脱脂が不十分でメタライズペースト層に多くの炭素化合物が残存している場合、後の焼成時にタングステンやモリブデンの炭化物が形成され、これが周囲の雰囲気中に揮散する。また、1000℃を超える温度あるいは酸素や水分を含む雰囲気中で脱脂を行った場合などには、金属粒子の表面に酸化物が形成され、これが後の焼成時に周囲の雰囲気中に揮散する。これらが揮散すると、得られるメタライズ層の厚みが相対的に減少するため、その部分の抵抗値が上昇する。更に、得られるメタライズ層に酸化物が残った場合にも、その部分の抵抗値が上昇する。
【0018】
一方、上記脱脂工程により得られる窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体の色調に関しては、非酸化雰囲気中で熱処理する脱脂によって、メタライズペースト層に含有される有機化合物が熱分解し、生成した炭化物などの炭素化合物が脱脂後のメタライズペースト層中に存在することにより黒色に着色する。また、メタライズペースト層に含まれるタングステンやモリブデンなどの金属粒子も、粒径が細かいほどその黒色を呈する。即ち、一般に好ましい窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体では、その色調は黒色又はそれに近いことが通常である。
【0019】
しかしながら、メタライズペースト層に含有される有機化合物が脱脂により十分に熱分解されない場合には、メタライズペースト層に残存する炭素化合物が多くなり色調が変化する。また、1000℃を超える温度で脱脂を行った場合や、脱脂処理時の雰囲気中などに微量の酸素や水分が含まれている場合には、残存する炭素化合物の濃度が低くなり、特にメタライズペースト層中に含まれる有機化合物が分解された後で、タングステンやモリブデンなどの金属粒子の表面に酸化物が形成されるため、やはり色調が変化する。
【0020】
例えば、モリブデンやタングステンは酸化するとMoO3やWO3となり、これらの酸化物は黄色を呈する。しかし、実際の工程ではMoO3やWO3まで酸化することは非常に稀であり、濃い紫色や褐色を示すMo2O5又はWO2などの酸化物が形成される。また、これら以外にも、モリブデンやタングステンは多数の酸化物の形態を有しており、しかも色調は粉末粒子の粒径の影響も受けるため、非常に判別しにくい。
【0021】
そこで、本発明者らは、窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体とメタライズ層の抵抗値について鋭意研究を重ねた結果、従来の破壊試験や判別しにくい色調によらず、メタライズ脱脂中間体の明度を基準とすることによって、最終的に得られるメタライズ層の抵抗値を評価し得ることを見出した。即ち、メタライズ脱脂中間体の全体及び部分的な明度がJIS Z 8721に規定する明度でN6以下であれば抵抗値のバラツキが少なく、更に明度がN4以下であれば抵抗値のバラツキをスクリーン印刷時のメタライズペースト層の厚みバラツキ以内とし得ることが分かった。
【0022】
従って、窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体の明度を測定し、そのJIS Z 8721に規定する明度がN6を超えるものは、抵抗値不良が発生する脱脂中間体として予め除去することによって、焼成による不良の発生を抑えることができる。その結果、従来の脱炭量測定のような破壊試験によらず、非破壊で極めて簡単に抵抗値不良をなくすことができ、全体として窒化アルミニウムメタライズ基板のコスト低減につなげることができる。
【0023】
次に、本発明による窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体、及び窒化アルミニウムメタライズ基板の製造方法について説明する。一般的な製造方法では、窒化アルミニウム(AlN)粉末のスラリーを用いて成形体を作製し、コファイヤ法では成形体上にメタライズペースト層を形成し、またポストファイヤ法では成形体を焼結した後、その焼結体基板上にメタライズペースト層を形成する。その後、脱脂を行って窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体とし、更に焼成により窒化アルミニウムメタライズ基板とする。
【0024】
まず、基板原料である窒化アルミニウム粉末については、特に制約は無いが、比表面積が2.0〜5.0m2/gであるものが好ましい。比表面積が2.0m2/g未満では、窒化アルミニウムの焼結性が低下するため好ましくない。また、比表面積が5.0m2/gを超えると、粉末の凝集が非常に強くなるため好ましくない。窒化アルミニウム粉末に含まれる酸素量は2重量%以下が好ましく、2重量%を超えると焼結体の熱伝導率が低下する。また、原料に含有されるアルミニウムを除く金属不純物量については、合計で2000ppm以下が好ましく、これを超えると焼結体の熱伝導率が低下する。更に、金属不純物としてSi等の4族元素やFe等の鉄族元素は、熱伝導率を低下させる作用が高いため特に好ましくなく、含有率はいずれも500ppm以下であることが好ましい。
【0025】
窒化アルミニウムは一般に難焼結材であるため、焼結体の熱伝導率を100W/mK以上とするためには、焼結助剤を添加することが好ましい。焼結助剤は窒化アルミニウム粒子の表面に存在するアルミニウム酸化物やアルミニウム酸窒化物と反応して、窒化アルミニウムの緻密化を促進すると共に、窒化アルミニウムの熱伝導率低下の一因である酸素をトラップして、熱伝導率を向上させる働きがある。添加する焼結助剤としては、希土類元素化合物が好ましく、特に窒化アルミニウムの酸素を除去するトラップ能力の高いイットリウム化合物が好ましい。
【0026】
また、焼結助剤の添加量としては、酸化物換算で0.01〜5.0重量%の範囲が好ましい。焼結助剤の添加量が0.01重量%未満の場合、十分緻密な焼結体が得られにくいだけでなく、熱伝導率も低下するため好ましくない。また、焼結助剤の添加量が5.0重量%を超えると、粒界に焼結助剤が存在するようになるため、腐食性雰囲気中で窒化アルミニウム焼結体を使用する場合には、この粒界に存在する焼結助剤部分がエッチングされ、脱粒やパーティクルの原因となる。
【0027】
また、焼結助剤として添加する希土類元素化合物の形態としては、酸化物や窒化物、フッ化物、ステアリン酸化合物などが使用できる。これらのうちで酸化物に関しては、特に安価で入手が容易であるというメリットがある。また、ステアリン酸化合物に関しては、有機溶剤との親和性が高いため、特に原料粉末と焼結助剤などを有機溶剤にて混合する際に混合性が高くなる点で優れている。
【0028】
上記窒化アルミニウム粉末に、通常のごとく有機溶剤と有機バインダー、好ましくは焼結助剤を加え、更には必要に応じて分散剤や邂逅剤を添加し、混合してスラリーを作製する。特に、黒色の窒化アルミニウム焼結体を製造する場合には、上記各成分に加えて、更にカーボン粉末を添加する必要がある。尚、混合のための手法としては、ボールミル混合や、超音波による混合などが可能である。次に、得られたスラリーを用いて、窒化アルミニウム成形体を作製する。成形体の作成方法については、特に限定されないが、例えば、スラリーをスプレードライによって顆粒とし、その顆粒をプレス成形して成形体を作製することができる。また、ドクターブレード法により、スラリーをシート成形することもできる。
【0029】
得られた成形体に対して、上記したコファイヤ法では、メタライズ用のペーストをスクリーン印刷等の手法により塗布して、メタライズペースト層を形成する。メタライズ用のペーストは、タングステンやモリブデンなどの高融点金属を主成分とし、必要に応じて、例えば希土類酸化物やアルカリ土類金属酸化物、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の酸化物粉末、エチルセルロースやニトロセルロース等の有機バインダー、テルピネオールやターピネオールなどの有機溶剤を添加し、混練して作製する。
【0030】
メタライズペースト層を構成する金属成分としては、熱膨張係数が窒化アルミニウムに比較的近いものが好ましく、通常はタングステンやモリブデンの粉末が使用される。これら金属粉末の粒径は、好ましくは10μm以下、更に好ましくは数μm以下、場合によっては1μm以下の粒子も含まれる。このように比較的細かい粒子の金属粉末を使用することにより、スクリーン印刷により形成するメタライズペースト層の膜厚の制御が容易になるので好ましい。
【0031】
上記のごとく成形体上にメタライズペースト層を形成した窒化アルミニウムメタライズ成形体は、次に、非酸化性雰囲気中での脱脂工程により、窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体とする。脱脂処理の条件に関しては、使用する非酸化性雰囲気の露点が−30℃以下であることが好ましい。これ以上の露点を有する雰囲気中で脱脂処理を行うと、得られるメタライズ脱脂中間体の明度がN6を越えてしまうため好ましくない。また、脱脂処理に使用するガスとしては、非酸化性のガスであれば特に制限は無いが、コスト面からは窒素ガスが好ましい。
【0032】
また、脱脂処理の温度は500〜1000℃の範囲が好ましい。500℃未満では、メタライズ成形体に含まれる有機化合物化合物が十分に分解されず、メタライズ脱脂中間体の明度がN6を超えてしまうため好ましくない。また、1000℃を超える温度で脱脂処理を行った場合には、メタライズ脱脂中間体中に残存する炭素化合物の濃度が低くなり、且つメタライズ脱脂中間体の粉末表面が酸素や水分と素早く反応して酸化物を形成し、明度が6を超えるため好ましくない。
【0033】
このようにして得られる窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体については、JIS Z 8721に規定する明度をN6以下とする。上記のごとく脱脂処理の温度や雰囲気を調整し、あるいは有機バインダーや有機溶剤などの有機化合物の種類や添加量を予め適宜選定することによって、脱脂工程で得られる全てのメタライズ脱脂中間体の明度をN6以下とすることも可能である。更に、メタライズ脱脂中間体の明度をN4以下とすれば、最終的に得られるメタライズ層の抵抗値のバラツキをより小さくすることができる。
【0034】
その後の焼成工程においては、例えば、窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体から明度がN6以下のものを選択して焼結する。焼結温度に関しては、窒化アルミニウムに対して焼結助剤を加えたものは、その焼結助剤の最適温度であれば良く、特に1600〜2000℃の範囲が好ましい。1600℃未満の温度では焼結体が緻密化せず、逆に2000℃を超えると焼結助剤成分の揮散が激しくなり、焼結体にポアや欠陥が多くなるからである。また、焼結助剤を加えないものについては、1750〜2000℃の焼結温度が好ましい。この場合も、1750℃未満の温度では焼結体が緻密化せず、2000℃を超えると焼結体にポアや欠陥が多くなるため好ましくない。
【0035】
また、焼結雰囲気に関しては、非酸化性雰囲気であれば特に問題はないが、使用する雰囲気ガスの露点は−30℃以下とすることが好ましい。何故ならば、脱脂処理時に明度がN6以下のメタライズ脱脂中間体を作製しても、これを焼結するときの非酸化性雰囲気の露点が−30℃を超えると、雰囲気中の水分がメタライズ脱脂中間体中の金属粉末と素早く反応して、焼結中に金属成分が除去されるため、抵抗値が上昇する原因となるためである。
【0036】
一方、上記ポストファイヤ法では、上記のごとく窒化アルミニウム粉末のスラリーを用いて作製した窒化アルミニウム成形体に対して、メタライズ用のペーストを塗布せず、前述の脱脂工程と同様にして成形体を脱脂し、その後焼成する。得られた窒化アルミニウム焼結体上に、メタライズペースト層を形成する。その際、焼結体の表面を、その表面粗さがRaで好ましくは2μm以下、更に好ましくは1μm以下となるように、必要に応じて研磨加工を施す。表面粗さがRaで2μmを超えると、その表面上に印刷塗布するメタライズペースト層の膜厚制御が難しくなるからである。
【0037】
そして、得られた窒化アルミニウム焼結体の表面上に、上記コファイヤ法の場合と同様にして、スクリーン印刷などによりメタライズスラリー層を形成する。次に、メタライズスラリー層の脱脂を行い、メタライズ脱脂中間体の明度を測定して、明度がN6以下のものを選択する。そのメタライズ脱脂中間体を焼成し、メタライズ層を窒化アルミニウムに焼き付けることにより、窒化アルミニウムメタライズ基板とする。
【0038】
この場合の焼成温度は、添加するガラスフリットの種類や添加量にもよるが、1500〜2000℃が好ましい。1500℃未満の焼成温度ではメタライズ層が緻密化せず、例えメタライズ脱脂中間体の明度がN4以下であっても、良好な抵抗値バラツキを有するメタライズ基板を得ることはできない。また、2000℃を超える焼成温度では、メタライズ層の金属成分であるモリブデンやタングステンの粒成長が非常に大きくなり、場合によってはメタライズ層と窒化アルミニウム基板の密着性の低下を引き起こすことがあるため好ましくない。
【0039】
このように、明度がN6以下の窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体を焼結することによって、所定の抵抗値を有する窒化アルミニウムメタライズ基板を確実に製造することができる。従って、全体の回路抵抗値が高いメタライズ基板が得られたり、部分的な抵抗値のバラツキが大きい窒化アルミニウムメタライズ基板が得られたりすることがなくなり、品質のバラツキがない窒化アルミニウムメタライズ基板を安定して得ることができる。
【0040】
本発明により得られた窒化アルミニウムメタライズ基板は、メタライズ層を発熱体とするヒータとして好適である。即ち、所定の温度で使用するヒータは、一般にヒータ回路を設計し、例えばシミュレーションなどの手法によって温度分布を求め、更に回路パターンの最適化を進める。このとき、回路の各部分のシート抵抗値は同一であるものとシミュレーションするため、当然のことながら、個体内のシート抵抗値のバラツキは少ない方が好ましい。
【0041】
本発明の窒化アルミニウムメタライズ基板は、回路抵抗値の個体間バラツキが小さいうえ、個体内のシート抵抗値のバラツキも小さいため、ヒータとして使用する場合に特に好適である。勿論、本発明の窒化アルミニウムメタライズ基板は、ヒータ以外のメタライズ基板として使用しても何ら差し支えない。
【実施例】
【0042】
[実施例1]
AlN粉末99.5重量%に、焼結助剤としてY2O3を0.5重量%添加し、次いで有機バインダーとしてポリビニルブチラール(PVB)をAlN粉末100重量部に対して15重量部加え、更に有機溶剤を加えて、ボールミルにて24時間混合した。得られたスラリーをスプレードライにて顆粒とし、プレス成形により、直径450mm、厚さ10mmのAlN成形体を作製した。
【0043】
得られたAlN成形体を、露点−60℃の窒素ガス雰囲気中において、250〜1100℃の間で脱脂温度を変えて脱脂処理を行った。これらを露点−60℃の窒素ガス雰囲気中において1850℃で5時間焼成し、それぞれAlN焼結体とした。各AlN焼結体を厚さ5mm、直径330mmに研磨加工し、AlN基板とした。
【0044】
タングステン粉末100重量部に酸化イットリウム粉末1重量部を加え、更に有機バインダー及び有機溶剤として10重量部のエチルセルロースとテルピネオールを加え、混練してタングステンペーストとした。このペーストを用いて、10枚の上記AlN焼結体上に、焼成後の抵抗値が20Ωになるように回路設計されたパターンをスクリーン印刷により形成した。このとき、得られるメタライズペースト層の膜厚は、30±3μmに制御した。
【0045】
次に、これらを露点−60℃の窒素ガス雰囲気中において850℃で脱脂処理を行い、得られた各メタライズ脱脂中間体の明度(JIS Z 8721)を測定した。その後、露点−60℃の窒素ガス雰囲気中において1800℃で5時間焼成し、AlNメタライズ基板を製造した。得られた各AlNメタライズ基板について、全体抵抗値及びシート抵抗値を測定した。シート抵抗値については、回路内の所定の10箇所でシート抵抗値を測定し、その標準偏差を求めた。尚、上記抵抗値の測定は、直流四端子法にて行った。
【0046】
得られた各AlNメタライズ基板をヒータとして使用した。このとき、ヒータの温度を150℃に制御し、その17点の測定点の温度を測温抵抗体が取り付けられたウエハ温度計を用いて測定し、その温度分布3σを計算して求めた。得られた結果を、メタライズ脱脂中間体の明度と共に、下記表1に示した。
【0047】
【表1】

【0048】
上記の結果から分かるように、ポストファイヤ法によるAlNメタライズ基板の製造工程において、メタライズ脱脂中間体の明度をN6以下に調整制御することによって、抵抗値バラツキの少ないAlNメタライズ基板を得ることができ、このAlNメタライズ基板をヒータとして使用した場合には、温度分布の小さなヒータとすることができる。
【0049】
[実施例2]
実施例1と同一のAlN粉末、焼結助剤、有機バインダー及び有機溶剤からなるスラリーを用い、ドクターブレード法によってAlNグリーンシートを作製した。得られたAlNグリーンシート上に、実施例1と同一のタングステンを含むメタライズ用のペーストを用い、実施例1と同様にして、スクリーン印刷によりメタライズペースト層を形成した。
【0050】
次に、これらを露点−60℃の窒素ガス雰囲気中にて850℃で脱脂処理し、得られた各メタライズ脱脂中間体の明度(JIS Z 8721)を測定した。その後、露点−50℃の窒素ガス雰囲気中において1850℃で5時間焼成し、AlNメタライズ基板を製造した。
【0051】
得られた各AlNメタライズ基板について、実施例1と同様に、全体抵抗値及びシート抵抗値を測定し、得られた結果をメタライズ脱脂中間体の明度と共に、下記表2に示した。
【0052】
【表2】

【0053】
上記の結果から、コファイヤ法によるAlNメタライズ基板の製造工程においても、メタライズ脱脂中間体の明度をN6以下に調整制御することによって、抵抗値バラツキの少ないAlNメタライズ基板が得られること、このAlNメタライズ基板をヒータとして使用した場合には、温度分布の小さなヒータとし得ることが分かる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム基板上にメタライズ層を有する窒化アルミニウムメタライズ基板の製造工程において、有機化合物を含有するメタライズペースト層を非酸化性雰囲気中にて脱脂して得られたメタライズ脱脂中間体であって、該メタライズ脱脂中間体の全体及び部分的な明度がJIS Z 8721に規定する明度でN6以下であることを特徴とする窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体。
【請求項2】
前記明度がN4以下であることを特徴とする、請求項1に記載の窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体。
【請求項3】
前記メタライズペースト層の主成分がタングステン又はモリブデンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の窒化アルミニウムメタライズ脱脂中間体を、非酸化性雰囲気中で焼成することにより得られることを特徴とする窒化アルミニウムメタライズ基板。
【請求項5】
前記窒化アルミニウムメタライズ基板がメタライズ層を発熱体とするヒータであることを特徴とする、請求項4に記載の窒化アルミニウムメタライズ基板。



【公開番号】特開2006−298690(P2006−298690A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121977(P2005−121977)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】