説明

窒化アルミニウム材料の製造方法、窒化アルミニウム材料及び熱交換器

【課題】比較的容易に厚い窒化アルミニウムを製造する。
【解決手段】アルミニウム4と、アルミニウム4の融点よりも高い温度でアルミニウムと混合して窒化アルミニウムとする反応の自由エネルギー変化が負となる窒化マグネシウム8を用い、窒化アルミニウム9が型1の平坦面5に接する状態で形成されるようにアルミニウム4と窒化マグネシウム8とを配置し、アルゴンガス雰囲気中で900から1300℃の範囲に昇温してアルミニウム4を窒化マグネシウム8により窒化し、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム材料の製造方法、窒化アルミニウム材料及び熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばインバータやコンバータ等の電力変換装置である半導体モジュールを冷却するために熱交換器が用いられている。この場合、半導体モジュールは電極板が表面(放熱面)に露出されている構造であるので、熱交換器の冷却管がアルミニウム(Al)からなる構造であれば、半導体モジュールの電極板と熱交換器の冷却管との間に電気的絶縁性を確保するための絶縁板が介在される。ここで、半導体モジュールの冷却効率を考慮すると、半導体モジュールから熱交換器への熱抵抗の増大を抑えることが望ましく、例えば特許文献1に記載されている技術では、傾斜機能材のように金属層とセラミックス層とを一体化した材料を半導体モジュールと熱交換器との間に介在させることで、半導体モジュールと熱交換器との間で電気的絶縁性を確保しつつ半導体モジュールから熱交換器への熱抵抗の増大を抑えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−287934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されている傾斜機能材を用いる方法では、窒化アルミニウム(AlN)粉末(粒子)を1900℃以上の高温度で焼結する工程を行うので、1900℃以上まで昇温させる必要があるという問題があり、又、窒化アルミニウムが低密度になってしまうという問題もあった。そこで、出願人は、窒化アルミニウムを低温度で且つ高密度に製造する技術として、特願2009−101938号を出願した。特願2009−101938号は、アルミニウムを窒素ガス雰囲気中で900から1300℃までの範囲に昇温することで窒化アルミニウムをマグネシウム等の金属を用いてアルミニウム上に直接形成するものである。
【0005】
しかしながら、上記した技術では、窒化アルミニウム粉末を用いる場合に比べて窒化アルミニウムを低温度で且つ高密度に製造することができるものの、マグネシウムの蒸気を用いるので、蒸気の供給を制御することが難しく、その結果、窒化アルミニウムの厚みを短時間で厚くすることが困難であるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的容易に厚い窒化アルミニウムを製造することができる窒化アルミニウム材料の製造方法、窒化アルミニウム材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した窒化アルミニウム材料の製造方法によれば、アルミニウムと、アルミニウムの融点よりも高い温度で当該アルミニウムと反応した場合に窒化アルミニウムとなる反応の自由エネルギー変化が負となる固体窒化物とを、当該アルミニウムの表面が非酸化雰囲気に接するように配置し、非酸化雰囲気中で当該アルミニウムの融点以上から固体窒化物の分解温度以下の範囲に昇温し、当該アルミニウムの当該非酸化雰囲気に接する表面を当該固体窒化物により窒化して当該アルミニウムの表面に窒化アルミニウムを露出状態で形成する。
【0008】
これにより、窒化アルミニウム粉末を1900℃以上の高温度で焼結する工程を行う従来の方法とは異なり、窒化アルミニウム粉末を用いることがなく、又、窒化アルミニウム粉末を1900℃以上の高温度で焼結することもないので、窒化アルミニウム粉末を用いる場合に比べて窒化アルミニウムを低温度で且つ高密度に製造することができる。又、マグネシウムの蒸気を用いることがなく、比較的容易に厚い窒化アルミニウムを製造することができる。又、アルミニウムが窒化アルミニウムとなる反応は内部まで進行するので、薄板に限らずバルク体にも適用することができる。
【0009】
即ち、従来の方法では、アルミニウムとマグネシウムと窒素とが同一の空間に存在しないと反応することができず、マグネシウム及び窒素を蒸気として供給しなければならず、アルミニウムを窒化する効率に劣るものであったが、本発明では、マグネシウムと窒素ガスとが一体化してなる窒化マグネシウムを用いるので、アルミニウムと窒化マグネシウムとが反応すれば良く、アルミニウムを窒化する効率を高めることができる。
【0010】
請求項2に記載した窒化アルミニウム材料の製造方法によれば、非酸化雰囲気中で当該アルミニウムの融点以上から固体窒化物の分解温度以下の範囲に昇温する工程において型を用い、アルミニウムの表面に露出状態で形成する窒化アルミニウムの表面を、型が有する面に合わせて形成する。これにより、窒化アルミニウムの表面を所望の面形状とすることができる。
【0011】
請求項3に記載した窒化アルミニウム材料の製造方法によれば、固体窒化物は、窒素ガス雰囲気中でアルミニウムの融点よりも低い温度に昇温して金属を窒化することによって製造されたものである。これにより、固体窒化物の原料となる金属を窒化することで固体窒化物を製造することに続いて、その製造した固体窒化物を用いて窒化アルミニウム材料を製造することができる。即ち、固体窒化物を製造する工程と、窒化アルミニウム材料を製造する工程とを同一炉内で連続して行うことで、固体窒化物が空気中の水分と反応して分解することを回避することができる。
【0012】
請求項4に記載した窒化アルミニウム材料の製造方法によれば、金属とアルミニウムとの間に隙間を設け、窒素ガスが隙間に流入するように当該金属と当該アルミニウムとを配置する。これにより、金属が窒素ガスに触れる領域を確保することができ、金属を窒素ガスにより良好に窒化することができ、固体窒化物を良好に製造することができる。
【0013】
請求項5に記載した窒化アルミニウム材料の製造方法によれば、アルミニウムに突起部を形成し、突起部の先端部が金属又は型と接するように当該金属と当該アルミニウムとを配置する。これにより、金属を窒素ガスにより窒化することで固体窒化物を製造した後に、アルミニウムにおける固体窒化物と対向する面の全域を固体窒化物により良好に窒化することができ、窒化アルミニウム材料を良好に製造することができる。
【0014】
請求項6に記載した窒化アルミニウム材料の製造方法によれば、金属としてマグネシウムを用いる。これにより、安価であり、工業的に扱いやすいマグネシウムを用いて固体窒化物を製造することができる。
【0015】
請求項7に記載した窒化アルミニウム材料の製造方法によれば、非酸化雰囲気としてアルゴンガス雰囲気を用いる。これにより、固体窒化物が分解してしまうことを回避することができ、固体窒化物を安定して保持することができる。
【0016】
請求項8に記載した窒化アルミニウム材料の製造方法によれば、アルミニウムの一部を窒化する。これにより、アルミニウムの一部を窒化し、即ち、アルミニウムの残り部分を窒化しないことで、アルミニウムと窒化アルミニウム材料とが接合されてなる複合材料を製造することができる。
【0017】
請求項9に記載した窒化アルミニウム材料によれば、アルミニウムと、アルミニウムの融点よりも高い温度で当該アルミニウムと反応した場合に窒化アルミニウムとなる反応の自由エネルギー変化が負となる固体窒化物とを、当該アルミニウムの表面が非酸化雰囲気に接するように配置し、非酸化雰囲気中で当該アルミニウムの融点以上から固体窒化物の分解温度以下の範囲に昇温し、当該アルミニウムの当該非酸化雰囲気に接する表面を当該固体窒化物により窒化して当該アルミニウムの表面に窒化アルミニウムを露出状態で形成した。
【0018】
これにより、窒化アルミニウム粉末を用いる場合に比べて窒化アルミニウムを低温度で且つ高密度に製造することができ、又、比較的容易に厚い窒化アルミニウムを製造することができる。
【0019】
請求項10に記載した窒化アルミニウム材料によれば、アルミニウムの一部を窒化するので、アルミニウムと窒化アルミニウム材料とが接合されてなる複合材料を製造することができる。
【0020】
請求項11に記載した熱交換器によれば、窒化アルミニウム粉末を用いる場合に比べて窒化アルミニウムを低温度で且つ高密度に製造することができ、又、比較的容易に厚い窒化アルミニウムを備えた熱交換器を実現することができる。
【0021】
請求項12に記載した熱交換器によれば、発熱体と熱交換される冷却媒体が流通する冷媒流路を有する冷却管を備え、窒化しなかったアルミニウムが冷却管の一部を構成するので、アルミニウムを冷却媒体に直接接触させることができ、アルミニウムと窒化アルミニウム材料とが接合されてなる複合材料と冷却媒体との間の熱交換効率を高めることができ、発熱体から熱交換器への熱抵抗の増大を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態を示すもので、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料を製造する手順を模式的に示す図
【図2】アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料を製造する手順を示すフローチャート
【図3】質量測定結果を示す図
【図4】X線回折測定結果を示す図
【図5】半導体モジュール及び熱交換器の縦断側面図
【図6】図1相当図
【図7】その他の実施形態を示す図1相当図
【図8】図7相当図
【図9】図7相当図
【図10】図7相当図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1及び図2はアルミニウム−窒化アルミニウム複合材料を製造する手順を示している。最初に、凹形状の型(キャビティ)1の内部2に、マグネシウム(Mg)3(本発明でいう金属に相当)を底面部2aに接するように配置し、そのマグネシウム3の上方にアルミニウム(Al)4を配置する。マグネシウム3は板形状であっても良いし粒形状であっても良い。型1の内部2を構成する底面部2aは平坦面5とされている。アルミニウム4の下面部には下方へ突出するようにアルミニウムからなる突起部4aが一体的に形成されており、突起部4aの先端部(図1では下面部)がマグネシウム3と接している。アルミニウム4の下面部にあって突起部4aが形成されていない部分とマグネシウム3との間には隙間が形成されている。アルミニウム4の上面部には多数の凹部と多数の凸部とが繰返して連なる凹凸部4bが形成されており、各凸部の頂部及び各凹部の底部は、熱交換の表面積を大きくするために鋭角となっている。アルミニウム4の凹凸部4bは、溶融アルミニウムが固化する際に型6により成形される。
【0024】
次いで、マグネシウム3及びアルミニウム4を型1及び型6と共に炉のチャンバー7内に配置し、チャンバー7内を真空引きしてチャンバー7内の酸素を含む空気を排出した後に、窒素(N2)ガスをチャンバー7内に導入し、窒素ガス雰囲気を形成する。チャンバー7内に導入する窒素ガスの純度は例えば5N(99.999%)以上である。このようにしてチャンバー7内を非酸化且つ非水の条件とする。非酸化とは、アルミニウム4の窒化を阻害しない程度の酸素濃度であり、非酸素の状態であると解釈することもできる。
【0025】
次いで、チャンバー7内をアルミニウムの融点(660℃)以下である約480から660℃までの範囲に昇温し、マグネシウム3を窒化して窒化マグネシウム(Mg32)8(本発明でいう固体窒化物に相当する)を形成する(ステップS1)。尚、チャンバー7内を窒素ガス雰囲気でアルミニウムの融点以上(例えば800℃)に昇温し、マグネシウム3を窒化して窒化マグネシウム8の形成を加速し、その後に、チャンバー7内を窒素ガス雰囲気でアルミニウムの融点以下に降温し、アルミニウムをチャンバー7内に投入し、次の工程に進んでも良い。チャンバー7内を窒素ガス雰囲気でアルミニウムの融点以下に降温する温度は、次の工程の温度を考慮すると、660℃に近い方が好ましい。
【0026】
この場合、上記したようにアルミニウム4の下面部にあって突起部4aが形成されていない部分とマグネシウム3との間には隙間が形成されているので、マグネシウム3が窒素ガスに触れる領域が良好に確保され、窒素ガスが隙間に流入することにより、マグネシウム3を良好に窒化することができ、窒化マグネシウム8を良好に製造することができる。尚、窒化マグネシウム8を形成する化学反応式は以下の通りである。
3Mg+N2→Mg32
【0027】
図3はマグネシウムの窒素ガス雰囲気中での質量測定結果を示し、図4は窒化マグネシウムのX線回折測定結果を示している。図4において、横軸はX線の回折角度を示し、縦軸はX線強度を示し、約800℃で製造した窒化マグネシウム8をサンプルとして用いて解析したX線回折測定結果の一例である。窒化マグネシウム8の物性に特有のピークが得られていることで、窒化マグネシウム8の特定が可能となっており、約480℃よりも低い温度では窒化マグネシウム8を製造することができないので、図4に示すピークは得られない。図3及び図4から明らかなように、約480℃を超えると、マグネシウム3と窒素ガスとが化学反応して窒化マグネシウム8が形成されることが実証されている。又、このようにして形成された窒化マグネシウム8は、アルミニウムと混合して窒化アルミニウムとなる反応の自由エネルギーが、アルミニウムの融点よりも高い温度で負となる。即ち、反応の前後でエントロピーが増加するので、アルミニウム4の窒化が促進する。
【0028】
次いで、チャンバー7内を真空引きしてチャンバー7内の窒素を排出した後に、アルゴン(Ar)ガスをチャンバー7内に導入し、アルゴンガス雰囲気を形成する。そして、チャンバー7内をアルミニウムの融点(660℃)以上から窒化マグネシウム8が分解しない1300℃までの範囲に昇温し、アルミニウム4の一部を窒化マグネシウム8により窒化して窒化アルミニウム(AlN)9を形成する(ステップS2)。
【0029】
この場合、型1の内部2を構成する底面部2aが平坦面5とされており、アルミニウム4における窒化マグネシウム8に近い部分(図1では下側)が平坦面5に接する状態で窒化されるので、窒化アルミニウム9におけるアルミニウム4との界面と反対側の面を平坦化することができる。本実施形態では、平坦面5を用いることで、窒化アルミニウム9におけるアルミニウム4との界面と反対側の面を平坦化したが、所望の面を用いることで、窒化アルミニウム9におけるアルミニウム4との界面と反対側の面を所望の面形状とすることができる。即ち、アルミニウム4の表面に露出状態で形成する窒化アルミニウム9の表面を型1が有する底面部2a(面)に合わせて形成することができる。尚、窒化アルミニウム9を形成する化学反応式は以下の通りである。
2Al+Mg32→2AlN+3Mg
【0030】
このようにしてアルミニウム4の一部を窒化して窒化アルミニウム9を形成することにより、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10を製造する。そして、チャンバー7内を常温まで降温し、チャンバー7内に残留しているアルゴンガスを排出した後に、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10を型1及び型6から取外す。この場合、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10を型1から取外し易くするように、型1の内部2を構成する内側側面部がテーパ状となっていても良いし、型1が型割り可能に構成されていても良い。
【0031】
このようにして形成されたアルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10は熱交換器11の一部として用いられる。図5に示すように、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10におけるアルミニウム4の両端面部4c、4d側とアルミニウムを材料として成型されている冷却管部材12の端面部12a、12bとはろう付け接合されており、即ち、アルミニウム4と冷却管部材12とがろう付け接合されていることで冷却管13が構成されている。冷却管13の内部は冷却媒体が流通する冷媒流路14とされている。
【0032】
半導体モジュール15(本発明でいう発熱体に相当)は例えばインバータやコンバータ等の電力変換装置であり、IGBT等の半導体素子16を内蔵している。半導体素子16は例えば銅を材料として成型されている一対の電極板17、18によりスペーサ19、20を介して挟持されている。電極板17の片面17a及び電極板18の片面18aは半導体モジュール15の表面に露出されており、電極板17の片面17aにはグリス21を介してアルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10の窒化アルミニウム9が密着している。この窒化アルミニウム9は、アルミニウム4と、アルミニウム4の融点よりも高い温度でアルミニウム4と反応した場合に窒化アルミニウム9となる反応の自由エネルギー変化が負となる窒化マグネシウム8(固体窒化物)とを、アルミニウム4の表面がアルゴンガス雰囲気(非酸化雰囲気)に接するように配置し、アルゴンガス雰囲気中でアルミニウム4の融点(660℃)以上から窒化マグネシウム8の分解温度(1300℃)以下の範囲に昇温し、アルミニウム4のアルゴンガス雰囲気に接する表面を窒化マグネシウム8により窒化してアルミニウム4の表面に窒化アルミニウム9を露出状態で形成したものである。
【0033】
上記した構成によれば、半導体モジュール15の電極板17側から発生された熱はグリス21を介してアルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10に伝達され、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10から冷却媒体に伝達される(熱交換される)。この場合、アルミニウム4にあって窒化アルミニウム9が形成されている側と反対側には上記したように凹凸部4bが形成されているので、アルミニウム4と冷却媒体との接触面積を大きくすることができ、アルミニウム4と冷却媒体との熱交換効率を高くすることができ、半導体モジュール15の冷却効率を高くすることができる。
【0034】
以上に説明したように本実施形態によれば、アルミニウム4と、アルミニウム4の融点よりも高い温度でアルミニウムと混合して窒化アルミニウムとする反応の自由エネルギー変化が負となる窒化マグネシウム8を用い、窒化アルミニウム9が型1の平坦面5に接する状態で形成されるようにアルミニウム4と窒化マグネシウム8とを配置し、アルゴンガス雰囲気中で900から1300℃の範囲に昇温してアルミニウム4を窒化マグネシウム8により窒化し、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10を製造するようにしたので、窒化アルミニウム粉末を用いる場合に比べて窒化アルミニウム9を低温度で且つ高密度に製造することができる。これにより、比較的容易に厚い窒化アルミニウム9を製造することができる。
【0035】
即ち、従来の方法では、アルミニウムとマグネシウムと窒素とが同一の空間に存在しないと反応することができず、マグネシウム及び窒素を蒸気として供給しなければならず、アルミニウムを窒化する効率に劣るものであったが、本実施形態では、マグネシウム3と窒素ガスとが一体化してなる窒化マグネシウム8を用いるので、アルミニウム4と窒化マグネシウム4とが反応すれば良く、アルミニウム4を窒化する効率を高めることができる。
【0036】
又、固体窒化物の原料となるマグネシウム3をアルミニウム4と平坦面5との間に配置し、窒素ガス雰囲気中でアルミニウムの融点よりも低い温度に昇温してマグネシウム3を窒化することで窒化マグネシウム8を製造し、その製造した窒化マグネシウム8を用いるようにしたので、固体窒化物の原料となるマグネシウム3を窒化することで窒化マグネシウム8を製造することができる。これにより、窒化マグネシウム8を製造することに続いて、その製造した窒化マグネシウム8を用いてアルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10を製造することができる。即ち、窒化マグネシウム8を製造する工程と、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10を製造する工程とを同一炉内で連続して行うことで、窒化マグネシウム8が空気中の水分と反応して分解することを回避することができる。
【0037】
又、マグネシウム3とアルミニウム4との間に隙間を設け、窒素ガスが隙間に流入するようにしたので、マグネシウム3が窒素ガスに触れる領域を確保することができ、マグネシウム3を良好に窒化することができ、窒化マグネシウム8を良好に製造することができる。
【0038】
又、アルミニウム4に突起部4aを形成し、その突起部4aの先端部がマグネシウム3と接するようにしたので、マグネシウム3を窒化することで窒化マグネシウム8を製造した後に、アルミニウム4における窒化マグネシウム8と対向する面の全域を良好に窒化することができ、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10を良好に製造することができる。
【0039】
ところで、以上は、凹形状の型1を用いてアルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10を製造する方法を説明したが、凹形状の型1を用いずにアルミニウム−窒化アルミニウム複合材料を製造することも可能である。
【0040】
即ち、図6に示すように、最初に、アルミニウム21にあって凹凸部21aが形成されている側と反対側にマグネシウム22を配置する。次いで、アルミニウム21及びマグネシウム22を炉のチャンバー23内に型29と共に配置し、チャンバー23内を真空引きしてチャンバー23内の酸素を含む空気を排出した後に、窒素ガスをチャンバー23内に導入し、窒素ガス雰囲気を形成する。そして、チャンバー23内をアルミニウムの融点以下である480から660℃までの範囲に昇温し、マグネシウム22を窒化して窒化マグネシウム24を形成する。この場合、マグネシウム22の上面が露出しているので、マグネシウム22を良好に窒化することができ、窒化マグネシウム24を良好に製造することができる。
【0041】
次いで、チャンバー23内を真空引きしてチャンバー23内の窒素を排出した後に、窒化マグネシウム24の上方に型25を配置し、アルゴンガスをチャンバー23内に導入し、アルゴンガス雰囲気を形成する。型25の下面部25aは平坦面26とされている。そして、チャンバー23内をアルミニウムの融点(660℃)以上から窒化マグネシウム8が分解しない1300℃までの範囲に昇温し、アルミニウム21の一部を窒化マグネシウム24により窒化して窒化アルミニウム27を形成する。このようにしてアルミニウム21の一部を窒化して窒化アルミニウム27を形成することにより、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料28を製造する。
【0042】
上記した製造方法でも、アルミニウム21と、アルミニウム21の融点よりも高い温度でアルミニウムと混合して窒化アルミニウムとする反応の自由エネルギー変化が負となる窒化マグネシウム24を用い、窒化アルミニウム27が型25の平坦面26に接する状態で形成されるようにアルミニウム21と窒化マグネシウム24とを配置し、アルゴンガス雰囲気中で900から1300℃の範囲に昇温してアルミニウム21を窒化マグネシウム24により窒化し、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料28を製造するようにしたので、窒化アルミニウム粉末を用いる場合に比べて窒化アルミニウム27を低温度で且つ高密度に製造することができる。これにより、比較的容易に厚い窒化アルミニウム27を製造することができる。即ち、本実施形態でも、マグネシウムと窒素ガスとが一体化してなる窒化マグネシウム24を用いるので、アルミニウム21と窒化マグネシウム24とが反応すれば良く、アルミニウム21を窒化する効率を高めることができる。
【0043】
本発明は、上記した実施形態にのみ限定されるものではなく、以下のように変形又は拡張することができる。
アルミニウム4の一部を窒化してアルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10を製造することに限らず、アルミニウム4の全体を窒化して窒化アルミニウム材料を製造しても良い。即ち、アルミニウム4と窒化マグネシウム8とのモル分率を調整することにより、アルミニウム4の一部を窒化するか全体を窒化するか、換言すれば、アルミニウム−窒化アルミニウム複合材料10を製造するか窒化アルミニウム材料を製造するかを決定しても良い。
【0044】
固体窒化物の原料となる金属の代わりに、モル分率で所定比(例えば「0.4」)以下のアルミニウム4を含む金属とアルミニウム4との混合物を用いても良い。例えばアルミニウム粉とマグネシウム粉との混合物や、アルミニウム−マグネシウム合金の粉末等を用いても良い。
【0045】
固体窒化物としては、アルミニウム4の融点よりも高い温度でアルミニウム4と反応した場合に窒化アルミニウム9となる反応の自由エネルギー変化が負となる物質であれば良く、窒化マグネシウム8に限らず、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化リチウム(Li3N)、窒化バリウム(Ba32)、窒化シリコン(Si34)、窒化カルシウム(Ca32)、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化ランタン(LaN)等を用いても良い。
【0046】
アルミニウム4を窒化する場合に、アルゴンガスに限らず、非酸化雰囲気を形成するガスであれば良く、例えばヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガス、ラドン(Rn)ガス、水素(H2)ガス等を用いても良い。又、窒素ガスを用いても良い。更に、真空雰囲気でも可能である。
【0047】
アルミニウム4における窒化マグネシウム8と対向する面の全域を良好に窒化するように、アルミニウム4の下面部に下方へ突出するように突起部4aを設けることに限らず、底面部2aの一部を突出させたり、固体窒化物の原料となる金属の一部を用いて突起状としたり、常温で固体でありアルミ二ウムの融点以下で蒸散する材料で突起を形成したりしても良い。要するに、アルミニウム4と窒化マグネシウム8との間に窒素ガスが流入する隙間を形成し、且つアルミニウム4と窒化アルミニウムとの間に支障を来たさないものであれば突起部4aは何でも良い。
【0048】
平坦面5を有する型1や平坦面26を有する型25を用いることに代えて、所望の面形状を有する型を用いても良い。図7に示すように、型31の内部32を構成する底面部32aが下方に膨らむ曲面33とされていても良く、型31を用いることで、窒化アルミニウム9の表面を凸状の面形状とすることができる。又、図8に示すように、型41の内部42を構成する底面部42aが上方に膨らむ曲面43とされていても良く、型41を用いることで、窒化アルミニウム9の表面を凹状の面形状とすることができる。
【0049】
又、図9に示すように、型51の内部52を構成する底面部52aが複数の段差を有する段差面53とされていても良く、型51を用いることで、窒化アルミニウム9の表面を段差状の面形状とすることができる。更に、図10に示すように、型61の内部62をテーパ形状に構成し、マグネシウム3を型61の内部62を構成する底面部62aと側面部62bとに跨って配置することで、窒化アルミニウム9をアルミニウム4の下面部と側面部とを跨って覆う形状とすることもできる。この場合、マグネシウム3は板形状であることが望ましい。
【符号の説明】
【0050】
図面中、3はマグネシウム(金属)、4はアルミニウム、4aは突起部、5は面、8は窒化マグネシウム(固体窒化物)、9は窒化アルミニウム、10はアルミニウム−窒化アルミニウム複合材料、11は熱交換器、13は冷却管、14は冷媒流路、15は半導体モジュール(発熱体)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムと、前記アルミニウムの融点よりも高い温度で当該アルミニウムと反応した場合に窒化アルミニウムとなる反応の自由エネルギー変化が負となる固体窒化物とを、当該アルミニウムの表面が非酸化雰囲気に接するように配置し、前記非酸化雰囲気中で当該アルミニウムの融点以上から前記固体窒化物の分解温度以下の範囲に昇温し、当該アルミニウムの当該非酸化雰囲気に接する表面を当該固体窒化物により窒化して当該アルミニウムの表面に窒化アルミニウムを露出状態で形成することを特徴とする窒化アルミニウム材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した窒化アルミニウム材料の製造方法において、
前記非酸化雰囲気中で当該アルミニウムの融点以上から前記固体窒化物の分解温度以下の範囲に昇温する工程において型を用い、前記アルミニウムの表面に露出状態で形成する前記窒化アルミニウムの表面を、前記型が有する面に合わせて形成することを特徴とする窒化アルミニウム材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載した窒化アルミニウム材料の製造方法において、
前記固体窒化物は、窒素ガス雰囲気中で前記アルミニウムの融点よりも低い温度に昇温して金属を窒化することによって製造されたものであることを特徴とする窒化アルミニウム材料の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載した窒化アルミニウム材料の製造方法において、
前記金属と前記アルミニウムとの間に隙間を設け、前記窒素ガスが前記隙間に流入するように当該金属と当該アルミニウムとを配置することを特徴とする窒化アルミニウム材料の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載した窒化アルミニウム材料の製造方法において、
前記アルミニウムに突起部を形成し、前記突起部の先端部が前記金属又は前記型と接するように当該金属と当該アルミニウムとを配置することを特徴とする窒化アルミニウム材料の製造方法。
【請求項6】
請求項3乃至5の何れかに記載した窒化アルミニウム材料の製造方法において、
前記金属としてマグネシウムを用いることを特徴とする窒化アルミニウム材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載した窒化アルミニウム材料の製造方法において、
前記非酸化雰囲気としてアルゴンガス雰囲気を用いることを特徴とする窒化アルミニウム材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載した窒化アルミニウム材料の製造方法において、
前記アルミニウムの一部を窒化することを特徴とする窒化アルミニウム材料の製造方法。
【請求項9】
アルミニウムと、前記アルミニウムの融点よりも高い温度で当該アルミニウムと反応した場合に窒化アルミニウムとなる反応の自由エネルギー変化が負となる固体窒化物とを、当該アルミニウムの表面が非酸化雰囲気に接するように配置し、前記非酸化雰囲気中で当該アルミニウムの融点以上から前記固体窒化物の分解温度以下の範囲に昇温し、当該アルミニウムの当該非酸化雰囲気に接する表面を当該固体窒化物により窒化して当該アルミニウムの表面に窒化アルミニウムを露出状態で形成したことを特徴とする窒化アルミニウム材料。
【請求項10】
請求項9に記載した窒化アルミニウム材料において、
前記アルミニウムの一部を窒化することを特徴とする窒化アルミニウム材料。
【請求項11】
請求項10に記載した窒化アルミニウム材料を備えてなることを特徴とする熱交換器。
【請求項12】
請求項11に記載した熱交換器において、
発熱体と熱交換される冷却媒体が流通する冷媒流路を有する冷却管を備え、窒化しなかったアルミニウムが冷却管の一部を構成することを特徴とする熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−66975(P2012−66975A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213932(P2010−213932)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】