説明

窒化アルミニウム製造方法

【課題】 常圧窒素環境下で新規の薄膜成長技術を確立し、該技術に基づいて高純度な窒化アルミニウム材料を製造する新規の製造方法を提供する。
【解決手段】 窒化アルミニウム製造方法は、常圧窒素雰囲気下で、窒化リチウムおよびアルミニウムから成る原料混合物を、第1図(a)に示す窒化リチウムおよびアルミニウムに関する二元系状態図における斜線領域内の組成および温度で少なくとも2時間保持する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子材料の分野に属し、特に、高純度な窒化アルミニウムから成る窒化アルミニウム材料を製造できる新規な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,窒化物半導体(III-V 族共有結合を有する半導体材料のうち、V 族元素が窒素である半導体を指す)を発光層とする深紫外領域のLED(Light Emitting Diode)開発が注目されており、殺菌・医療・高密度光記録・固体照明などの分野への応用が期待されている。
【0003】
窒化物半導体を発光層とするデバイス作製が様々な方法で試みられているが、基板と成長層の格子不整合により生じる貫通転位などの結晶欠陥が発光効率の妨げとなっている。そのため、高品質な窒化アルミニウム(AlN)材料の製造が切望されており、当該材料は窒化物半導体と同種材料基板であり熱伝導率が高いことから、窒化アルミニウム自立基板やヒートポンプ等のその他の用途への応用が期待されている。
【0004】
従来の窒化アルミニウム材料の製造方法に関しては、昇華法によりサセプター上の種結晶上に窒化物単結晶を成長させる技術がある(例えば、特許文献1参照)。また、反応容器内で、アルカリ金属と少なくともIII族金属を含む物質とが混合融液を形成し、該混合融液と少なくとも窒素を含む物質とから、III族金属と窒素とから構成されるIII族窒化物を結晶成長させるフラックス法によるIII族窒化物の結晶製造方法がある(例えば、特許文献2参照)。また、窒化物半導体と異なる材料からなる基板の上に、石英反応容器を用いたハイドライド気相成長法により、窒化物半導体を成長させる窒化物半導体素子の製造方法がある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−284869号公報
【特許文献2】特開2005−219961号公報
【特許文献3】特開2002−261014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、昇華法を使用する場合には、約2000度の高温で薄膜成長を行うため、不純物の混入が避けられず、不純物による着色を伴うとともに窒化アルミニウム(AlN)の純度が低くなるという課題がある。フラックス法に代表される溶液成長法を使用する場合には、融液中への窒素原子の溶解量が非常に小さいことから、高温・高圧窒素環境下で薄膜成長を行う必要があるため、コストが高くなり、さらに、窒素の過飽和度により成長速度が制限されるという課題がある。ハイドライド気相成長法を使用する場合には、異種材料基板を必要とするため、その格子不整合性から成長層/基板界面で貫通転位が発生するという課題がある。
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決するために、新規の薄膜成長技術を確立し、高純度な窒化アルミニウム材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、窒化リチウム(Li3N)およびアルミニウム(Al)を原料として窒化アル
ミニウム(AlN)の結晶を液相で成長させる際に、Li3AlN2が副生成物(不純物)として混入していることに着目し、Li3AlN2相を考慮してLi3N-Al擬二元系状態図を新規に作成した。窒化アルミニウム(AlN)結晶の副生成物であるLi3AlN2は、同じく副生成物であるリチウムアルミニウム(LiAl)やアルミン酸リチウム(LiAlO2)等とは異なり、窒化アルミニウム(AlN)の結晶の内部で入り混じった状態で、窒化アルミニウム(AlN)の結晶化と同時に生成されることから、結晶化後に除去することが困難である。このため、可能な限りLi3AlN2の生成を抑制することが、高純度の窒化アルミニウム(AlN)の結晶を得るために必要となる。なお、リチウムアルミニウム(LiAl)やアルミン酸リチウム(LiAlO2)は、窒化アルミニウム(AlN)とは分離した状態で生成される。このため、例えば、基板上に窒化アルミニウム(AlN)の結晶を生成した場合には、リチウムアルミニウム(LiAl)やアルミン酸リチウム(LiAlO2)は、上澄み溶液に含まれて生成されるため、当該上澄み溶液を取り除くことで除去することが可能ではある。しかしながら、除去コストが別途必要となるために、このような副生成物の生成を抑制することが製造コスト削減のためには好ましい。
【0009】
さらに、本発明者らは、当該擬二元系状態図を用いることにより、従来よりも副生成物の混入を抑えた窒化アルミニウムの製造条件を常圧窒素環境下で新たに見出すとともに、従来よりも低温条件下で窒化アルミニウムの結晶を製造できる方法を新たに見出した。
【0010】
かくして、本発明に従えば、窒化アルミニウム(AlN)の結晶を液相成長により生成する窒化アルミニウム製造方法であって、常圧窒素雰囲気下で、窒化リチウム(Li3N)およびアルミニウム(Al)から成る原料混合物を、第1図(a)に示す窒化リチウムおよびアルミニウムに関する擬二元系状態図における斜線領域内の組成および温度で、少なくとも2時間保持する工程を含むことを特徴とする窒化アルミニウム製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明に従えば、前記温度が1300℃以下であることを特徴とする窒化アルミニウム製造方法も提供される。前記温度を1300℃以下とすることにより、リチウムの昇華を抑えることとなり、安定的に窒化アルミニウムを製造することができる。
【0012】
また、本発明に従えば、前記温度が1000℃以下であり、且つ前記原料混合物におけるアルミニウムの原料モル組成比[原料アルミニウム/(原料アルミニウム+原料窒化リチウム)]が0.9以上かつ1未満の範囲であることを特徴とする窒化アルミニウム製造方法も提供される。前記温度を1000℃以下とすることにより、成長装置に使用するヒーターの熱量が抑えられることとなり、純度の高い窒化アルミニウムを低コストで製造することができる。
【0013】
また、前記温度の範囲は、前記擬二元系状態図から読み取れるように、一般に600℃以上であるが、一般には、後述する表1の各物質の融点から、850℃以上であることが好ましい。よって、850℃以上1000℃以下とすることが好ましく、例えば、950℃で実施することができる。このような条件で得られた窒化アルミニウムは、アルミニウムの酸化物をはじめとする不純物の含有率が著しく低いことが後述する実験結果からも見出されている。
【0014】
また、本発明に従えば、上記の新規なLi3N-Al擬二元系状態図に基づく窒化アルミニウム製造方法により生成される窒化アルミニウム材料も提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法により製造された窒化アルミニウム材料は、電気電子材料である自立基板の他にも、その高い熱伝導率および電気絶縁性を活かしたヒートシンク等の広汎な用途を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る窒化リチウムおよびアルミニウムに関する擬二元系状態図を示す。
【図2】本発明に係る窒化アルミニウム製造方法の装置構成図を示す。
【図3】本発明に係る窒化アルミニウム製造方法のフローチャートを示す。
【図4】本発明に係る窒化アルミニウムの粉末XRDおよびラマンスペクトル測定結果を示す。
【図5】本発明に係る窒化アルミニウムの異なるAl/Li3N比に対する粉末XRD測定結果を示す。
【図6】本発明に係る窒化アルミニウムの異なるAl/Li3N比に対するSEM画像および生成物比を示す。
【図7】本発明に係る窒化アルミニウムの原料アルミニウムを0.9とした場合のXRD測定結果を示す。
【図8】本発明に係る窒化アルミニウムのラマンスペクトル、およびXRD測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の窒化アルミニウム材料は、常圧窒素雰囲気下で、窒化リチウムおよびアルミニウムから成る原料混合物を、第1図(a)に示す窒化リチウムおよびアルミニウムに関する擬二元系状態図における斜線領域内の組成および温度で、少なくとも2時間保持することにより製造される。該製造方法により得られる窒化アルミニウム材料は、SEMによる観察、ラマンスペクトルおよびXRDを用いて確認することができる(後述の実施例参照)。
【0018】
本発明で用いられるLi3N-Al擬二元系状態図は、本発明者らが、鋭意研究の結果、従来のLi3N-Al擬二元系状態図から新たにLi3AlN2相を考慮して見出したものである。本発明者らは、図1(a)に示すように、(アルミニウムの原料モル組成比[原料アルミニウム/(原料アルミニウム+原料窒化リチウム)]、温度)に関して、状態点X1(0.8、700℃)、状態点X2(1.0、660℃)近傍を極値として含む斜線領域を、窒化アルミニウムの液相領域として新たに見出した。
【0019】
従来では、同図(b)に示すように、Li3N-Al二元系状態図にLi3AlN2相が考慮されていないことから、窒化アルミニウム生成時に、副生成物のLi3AlN2が予期せず混入してしまうという問題点があった。本発明者らは、このような問題点を解消すべく、新たにLi3AlN2相を考慮したLi3N-Al擬二元系状態図を作成した。
【0020】
上記のように、本発明者らは、新たなLi3N-Al擬二元系状態図を、 CALPHAD法(Calculation of Phase Diagram法)を用いて作成した。結晶成長の温度および組成比率を変化させた実験を行い、その結果を、CALPHAD 法(CALculation of PHAse Diagram:状態図解析手法)を用いて、熱力学の理論に基づき解析的に状態図を作成した。
【0021】
CALPHAD 法は、扱う系に含まれる各相の熱力学エネルギーを安定性の指標として、どのような相が現れるかを判定する。本発明では、Li3NおよびAlを原料とする物質の移動現象を考えるため、Li,Al,Nの三元系に着目した。
【0022】
従来のCALPHAD法におけるデータベースでは、Li3AlN2のギブスエネルギーのデータが含まれていないため,Li3AlN2が析出すべき領域の情報が欠落していた。Li3AlN2の熱力学エ
ネルギーのデータはこれまでに報告されていない。本発明者らは、鋭意研究の結果、Li3AlN2のギブスエネルギーの温度依存関数を求めることにより、従来のデータベースを独自に修正し、新規なLi3N-Al擬二元系状態図を完成させた。このLi3N-Al擬二元系状態図により、従来よりも高純度なAlN結晶を生成できる生成条件を見出せることへの展望を与える。また、現在では高純度のAlN結晶を低温で生成するような生成条件が試行錯誤で研究されており、現状ではそのような生成条件は得られていないが、このLi3N-Al擬二元系状態図を用いることにより最適な生成条件を見出すことができる。
【0023】
以上のように製造された本発明の窒化アルミニウム材料は、例えば、窒化アルミニウム自立基板として使用することができる。また、その高い熱伝導率および電気絶縁性を活かしたヒートシンクとして使用することもできる。
【0024】
本発明の特徴を更に具体的に示すため以下に実施例を記すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。実施例で用いた機器および材料を以下に記載する。
(機器)
・卓上型高温管状炉(山田電機製、TSR-430)
・タングステン(W)坩堝(フルウチ化学製)
・走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope;SEM)(JEOL社製、JSM6701F)
・制御盤(山田電機製、YKC-52)
・フロート式流量計(KOFLOC製)
・SiCら管型発熱体(シリコニット社製、Sp24)
(材料)
・高純度窒素ガス(純度99.9999%)
・水
・塩酸
以下の実施例で使用した窒化リチウム、アルミニウムおよび窒化アルミニウムの諸物性は、以下の通りである。
【0025】
【表1】

【0026】
以下の実施例で用いた原料の詳細は、以下の通りである。アルミニウムに関しては、粒状および粉末状の二種類の形状が混合された材料を用いた。これらの原料の混合は、不活性ガスであるアルゴン雰囲気で置換したグローブボックス内で行った。
【0027】
【表2】

【0028】
(装置構成)
本発明の窒化アルミニウム材料の製造方法は、装置構成に関して、図2に示すように、窒素ガスの導入および排出を行うガス供給領域・ガス排出領域と、原料が化学反応を起こして結晶が生成される成長領域と、当該成長に必要な熱エネルギーを供給し、温度を制御する加熱領域・温度制御領域とから構成される。ガス供給領域は、高純度窒素ガス(純度99.9999%)を貯蔵する窒素ガスタンク1と、流量を計測する質量流量計11と、安全弁12とを備える。成長領域は、窒化アルミニウム生成反応を行う反応管2と、反応管2の内部に戴置されたタングステン製の坩堝21とを備える。加熱領域は、炉3と、炉3の内部に戴置された熱源31と、R型熱電対である熱電対32とを備える。温度制御領域は、熱電対32を介して熱源31の温度制御を行う制御盤4を備える。ガス排出領域は、反応管2から送られる流体を一旦タンクに取込み、バブリングすることによってガスを外部に排出するバブラー5を備える。以下、上記の各領域を詳述する。
【0029】
(ガス供給領域・ガス排出領域)
窒素ガスタンク1に貯蔵された高純度窒素ガスを雰囲気ガスとして使用し、反応管2内の気相を常圧(1気圧)で置換する。流量は、質量流量計11としてのフロート式流量計(KOFLOC製)で制御し、窒化アルミニウムの成長において、昇温中、成長中および降温初期過程では、450ml/分を保持する。例えば、反応管2の内径が30mmの場合には、反応管2の入り口での流速は10.6mm/secとなる。また、反応管2の入り口直前に安全弁12を設けることにより、管内の圧力上昇を防止することができる。反応管2の下流はバブラー2に接続し、生成ガスの清浄後、系外へ排ガスを排出する。
【0030】
(成長領域)
加熱領域の水平中心位置に坩堝21の中心部が一致するように設置し、当該設置された位置を保持する。坩堝21は、気相成長を行う場合には、幅16mm、高さ(内寸)9mmとする。坩堝21は、液相成長を行う場合には、内径は20mm、高さ(内寸)20mm、厚さ1mmとする。気相成長および液相成長のいずれの場合でも、反応管2には内径30mm、厚さ5mmのムライト管を用いる。ムライト管は、酸化アルミニウムおよび二酸化ケイ素から成り、リチウムによる侵食を防止することができる。
【0031】
(加熱領域・温度制御領域)
加熱は、炉5の内部に備えられた熱源51としてのSiCら管型発熱体(シリコニット社製、Sp24)により行う。常用温度は1400℃、最高温度は1500℃となるようにする。熱電対32により、反応管2の水平中心位置の外壁の温度を計測し、別途接続する制御盤7としての制御盤(山田電機製、YKC-52)により計測温度を表示する。また、この制御盤7を用いてPID方式により加熱制御を行う。
【0032】
上記構成に基づく本発明の窒化アルミニウム製造方法を図3(A)に従って説明する。図3(A)は、本発明の窒化アルミニウム製造方法のフローチャートである。
【0033】
まず、アルゴンガスで置換されたグローブボックス内で窒化リチウム(Li3N)原料およびアルミニウム(Al)原料を所定のAl/Li3N比で秤量し、坩堝21内へ投入する(S1)。また、原料の入った坩堝21を反応管2の水平方向中心部まで搬入する。次に、反応管2内部の気相を高純度窒素ガスで置換する(S2)。このとき、二次圧力を0.01〜0.5MPa、好ましくは0.1MPa、流量計の指示流量を300〜600ml/分に設定する。ここでは、バブラー2により、ガスのリークが無いことも確認する。
【0034】
反応管2は、原料搬入時に空気と接触するため、200℃で2時間の焼きなまし、いわゆるアニール処理(Annealing)を行い、反応管2の内部および反応管2に吸収された水分を蒸発させる(S3)。さらに、所定の昇温速度で、第1図(a)に示すLi3N-Al二元系状態図のAl/Li3N比に対応する斜線領域内の温度まで昇温し、温度を成長時間保持した後、室温(20℃)まで降温する(S4)。この設定された成長時間としては、窒化アルミニウムの薄膜成長が十分に成長しきるまでの必要かつ十分な時間であることが、コストおよび不純物を混入させるリスクを抑える観点から好ましいことから、10時間以下かつ2時間以上であることが好ましく、例えば2時間である。また、昇温速度としては、5℃/分〜10℃/分であることが好ましい。昇温速度がこれよりも速くなると急激な熱膨張により反応管が割れる虞があるためである。この場合、窒素ガスは室温に降温されるまで連続的に供給する。この後、坩堝21を取り出し、水に浸すことで、サンプル中の残留リチウムを除去する。また、残留アルミニウムが存在する場合には、必要に応じて酸に浸してアルミニウムを除去することが好ましい。このような酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の強酸を使用することができる。得られたサンプルは回収を行い、粉末XRD測定を行う。
【0035】
以下の実施例では、上記手順に従い、新規なLi3N-Al擬二元系状態図の斜線領域(図1(a))内に含まれている実験条件を使用する一例として、窒化リチウム(Li3N)とアルミニウム(Al)を原料として窒化アルミニウム(AlN)の結晶成長を行った。
(実施例1)
本発明のLi3N-Al擬二元系状態図の斜線部に含まれる実験条件(図1(a)中の点Y2)で窒化アルミニウムの生成を行った。すなわち、原料(粉末Li3Nおよび粉末Al)をAl/Li3N比1/1(アルミニウムの原料モル組成比[原料アルミニウム/(原料アルミニウム+原料窒化リチウム)]は0.50)でタングステン坩堝に入れ、横型管状炉を用いて、1気圧下、窒素雰囲気中で2時間のアニール処理(焼きなまし)を行った。5℃/分で温度1050℃まで昇温し、2時間保持した後、室温まで冷却した。この間、窒素流量を450ml/分で連続供給した。冷却後、得られたサンプルを回収し、水との反応により残留リチウムを除去した後、粉末XRD測定を行った。
【0036】
得られた窒化アルミニウムのサンプルのXRDプロファイルに関して、図4(a)に示すように、窒化アルミニウム(AlN)を主要素とするピークが確認された。また、同図(b)に示すように、得られた窒化アルミニウムのサンプルのラマンスペクトルからも、同様に高純度な窒化アルミニウムが生成されたことが確認された。
【0037】
(実施例2)
本実施例では、上記の実施例1の手順において、Al/Li3N比のみを1/2(アルミニウムの原料モル組成比[原料アルミニウム/(原料アルミニウム+原料窒化リチウム)]は0.34、以下同じ)、1/1(0.50)、4/3(0.57)、4/1(0.80)、8/1(0.89)とした場合(各々、図1(a)中の点Y1〜Y5に対応する)を実施した(Al/Li3N比が1/1の場合は実施例1の結果を使用する)。なお、これらの5つの実験条件のうち、点Y1のみは、図1(a)の斜線部に含まれない実験条件であり、本発明の対照例である。得られた窒化アルミニウムのサンプルのXRDプロファイルに関して、図5に示すように、窒化アルミニウム(AlN)を主要素とするピークが確認された。
【0038】
図6(a)〜(d)は、異なるAl/Li3N比に対するSEM画像を示す。図6(e)にそれぞれのAl/Li3N比における生成物比を示す。同図から明らかなように、対照例である点Y1は、他の実験条件と比較して、異相(Li3AlN2)の混入が格段に多く、窒化アルミニウム(AlN)の割合が著しく低い。本発明に従う実験条件である点Y2〜Y5では、いずれのAl/Li3N比においても窒化アルミニウム(AlN)が主生成物であることが観察された。
【0039】
(実施例3)
本発明のLi3N-Al擬二元系状態図によれば、アルミニウムの原料モル組成比[原料アルミニウム/(原料アルミニウム+原料窒化リチウム)]が0.9以上1未満の範囲において、さらに、1000℃以下という低温で従来よりも高純度に窒化アルミニウム(AlN)を生成できることが予想される。そこで本実施例では、この一例として、アルミニウムの原料モル組成比[原料アルミニウム/(原料アルミニウム+原料窒化リチウム)]を0.9、温度950℃に2時間保持し、窒化アルミニウム(AlN)生成を行った(図1(a)中の点Y6に対応する)。
【0040】
すなわち、原料(粉末Li3Nおよび粉末Al)をAl/Li3N比9/1(アルミニウムの原料モル組成比[原料アルミニウム/(原料アルミニウム+原料窒化リチウム)]は0.90)でタングステン坩堝に入れ、横型管状炉を用いて、1気圧下、窒素雰囲気中で2時間のアニール処理(焼きなまし)を行った。5℃/分で温度950℃まで昇温し、2時間保持した後、室温まで冷却した。この間、窒素流量を450ml/分で連続供給した。冷却後、得られたサンプルを回収し、水との反応により残留リチウムを除去した後、粉末XRD測定を行った。粉末XRD測定の結果を図5に示す。
【0041】
得られたサンプルのXRDプロファイルに関して、図7に示すように、窒化アルミニウム(AlN)およびリチウムアルミニウム(LiAl)のピークが観察された。また、アルミニウムの酸化物であるアルミン酸リチウム(LiAlO2)は、窒化アルミニウム(AlN)およびリチウムアルミニウム(LiAl)と比較して無視できることが観察された。この結果から、本実験条件で生成された窒化アルミニウムは、上記の実施例1及び実施例2で得られた窒化アルミニウムと比較して、アルミニウム酸化物をはじめとする異相の混入が格段に少ないことがわかった。特に、実施例2における点Y5では、アルミニウムの原料モル組成比[原料アルミニウム/(原料アルミニウム+原料窒化リチウム)]が0.89かつ温度1050℃の結果であり、多少の異相を含んではいるが、この実験条件がアルミニウムの原料モル組成比0.90かつ温度950℃となった時点(点Y6)で、飛躍的に異相 (特にLiAlO2) の混入が低下することがわかった。このことから、アルミニウムの原料モル組成比が0.9以上の高アルミニウム組成比かつ1000℃以下の低温において、Li-Al-N溶液中のAlN濃度が低アルミニウム組成比かつ高温の条件に比べて高くなるためと推察される。また、LiAlO2の混入量が減少した原因として温度の低下に伴うLiAl相の酸化の抑制が考えられる。この結果から、従来から課題とされるアルミン酸リチウム(LiAlO2) およびLiAlの生成が十分に抑制され、さらに、1000℃以下という従来よりも低温条件下で高純度な(AlN以外の副生成物が少ない)窒化アルミニウム(AlN)相を得ることができた。
【0042】
(実施例4)
種基板を用いることにより、基板の面方位と同一方位への窒化アルミニウム(AlN) 成長(エピタキシャル成長)が展開されることが知られている。そこで本実施例では、AlN/SiC 基板を種基板としたホモエピタキシャル成長を行った。
【0043】
原料(粉末Li3N および粉末Al)をタングステン坩堝に入れ、種基板としてAlN/SiC 基板を坩堝底面に設置し、横型管状炉を用いて、1気圧下、窒素雰囲気中で2 時間のアニール処理を行った。5℃/分で成長温度1050℃まで昇温し、2時間保持した後、室温まで冷却
した。窒素流量を450ml/分で連続供給し、Al/Li3N比を4/1(アルミニウムの原料モル組成比[原料アルミニウム/(原料アルミニウム+原料窒化リチウム)]は0.80)とした。水との反応により残留リチウムを除去した後、SEM観察を行った。
【0044】
得られた成長基板において種基板と接する面を、成長基板を種基板からはがすことで観察したところ、当該面において白い領域の部分が形成されていたことから窒化アルミニウムの単相が得られたことがわかる。生成した窒化アルミニウムは、AlN/SiC基板からの分解等による不純物の混入を受けないことから、ヘテロエピタキシャル成長の場合のように基板が分解するようなことがなく、純度の高い状態で生成されていることが分かる。
【0045】
次に、本実施例で作製したサンプルのラマンスペクトルを図8(a)に示す。同図より窒化アルミニウム(AlN)のピークのみが確認された。また、同図(b)にサンプルのXRDプロファイルを示す。同図より、アルミン酸リチウム(LiAlO2)のピークが確認されず、窒化アルミニウム(AlN)のピークのみが確認されたことから、窒化アルミニウム(AlN)単相が得られたものと考えられる。
【符号の説明】
【0046】
1 窒素ガスタンク
11 質量流量計
12 安全弁
2 反応管
21 坩堝
3 炉
31 熱源
32 熱電対
4 制御盤
5 バブラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウムの結晶を液相成長により生成する窒化アルミニウム製造方法であって、常圧窒素雰囲気下で、窒化リチウムおよびアルミニウムから成る原料混合物を、第1図(a)に示す窒化リチウムおよびアルミニウムに関する擬二元系状態図における斜線領域内の組成および温度で、少なくとも2時間保持する工程を含むことを特徴とする窒化アルミニウム製造方法。
【請求項2】
前記温度が1300℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化アルミニウム製造方法。
【請求項3】
前記温度が1000℃以下であり、且つ前記原料混合物におけるアルミニウムの原料モル組成比[原料アルミニウム/(原料アルミニウム+原料窒化リチウム)]が0.9以上かつ1未満の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の窒化アルミニウム製造方法。
【請求項4】
前記原料混合物を窒化アルミニウムを含む基板上に戴置して前記温度を保持することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の窒化アルミニウム製造方法。
【請求項5】
前記基板がAlN/SiC基板であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の窒化アルミニウム製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の窒化アルミニウム製造方法により生成されることを特徴とする窒化アルミニウム材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−12266(P2012−12266A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152397(P2010−152397)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月3日 社団法人応用物理学会発行の「2010年春季 第57回応用物理学関係連合講演会[講演予稿集](DVD−ROM)」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】