説明

窒化物半導体素子

【課題】
p側窒化物半導体層における電流拡散性を向上させた窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【解決手段】
基板上に、n型窒化物半導体層、活性層、およびp型窒化物半導体層が順に積層された窒化物半導体素子であって、前記p型窒化物半導体層において、p型コンタクト層と、前記p型コンタクト層と組成の異なるAlN層とを有し、前記p型コンタクト層と前記AlN層とが接していることを特徴とする窒化物半導体素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体素子に関し、特にp側窒化物半導体層内に電流拡散層を有する窒化物半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体発光素子の分野において、高光束の要求に伴ってチップサイズが大きくなる傾向にある。しかし、p側窒化物半導体層の抵抗が比較的高いことにより、電流がチップの隅々まで流れず、静電耐圧特性に問題があった。半導体層上面側に補助電極を設けることによって電流拡散性が改善されることが知られているが、その反面、チップから外部に光を取り出す際に補助電極自体に光が吸収されてしまい、チップサイズの大型化による高光束化のメリットが損なわれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/117788号
【特許文献2】特開2002−208732号公報
【特許文献3】特開2008−109066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、p側窒化物半導体層における電流拡散性を向上させた窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の窒化物半導体素子は、
基板上に、n型窒化物半導体層、活性層、およびp型窒化物半導体層が順に積層された窒化物半導体素子であって、
前記p型窒化物半導体層において、p型コンタクト層と、前記p型コンタクト層と組成の異なるAlN層とを有し、前記p型コンタクト層と前記AlN層とが接していることを特徴とする。
【0006】
前記AlN層の厚さは、1nm〜10nmであることが好ましい。
【0007】
本発明の窒化物半導体素子は、前記AlN層と前記活性層との間にp側クラッド層を更に有してよく、前記AlN層と前記p側クラッド層との間にアンドープGaN層を有してよい。
【0008】
本発明の窒化物半導体素子は、前記AlN層と前記活性層との間にp型GaN層を更に有してよく、前記AlN層と前記p型GaN層とが接していてよい。
【0009】
更に、本発明の窒化物半導体素子は、前記p型GaN層と前記アンドープGaN層とが接していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
p型コンタクト層が、p型コンタクト層と組成の異なる(即ちバンドギャップの異なる)AlN層(以下、p側AlN層ともよぶ)と接していることにより、窒化物半導体素子に電圧をかけると、p型コンタクト層とp側AlN層との界面において格子定数差によるピエゾ電界が発生する。これにより、前記界面においてキャリア移動度(電流拡散性)が増大する。p型コンタクト層とp側AlN層との界面において電流が拡散されることにより、比較的結晶性の脆い活性層が保護され、静電耐圧特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、(a)が従来の窒化物半導体素子、(b)が本発明の第1の実施形態の窒化物半導体素子の積層構造を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の第2の実施形態の窒化物半導体素子の積層構造の模式図である。
【図3】図3は、本発明の第3の実施形態の窒化物半導体素子の積層構造の模式図である。
【図4】図4は、アンドープGaN層とAlN層との界面におけるキャリア移動度測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。ただし、以下に説明する実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための態様を例示するものであって、本発明を以下のものに特定しない。実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするために誇張していることがある。更に、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよく、一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0013】
(第1の実施形態)
従来の窒化物半導体素子(図1a)および本発明の第1の実施形態の窒化物半導体素子(図1b)の積層構造の模式図を図1に示す。本発明の第1の実施形態の窒化物半導体素子(図1b)は、サファイアからなる基板1の上に、Si等のn型不純物を含むn側窒化物半導体層、活性層3、Mg等のp型不純物を含むp側窒化物半導体層4が積層され、p側窒化物半導体層4の上にp側透光性電極5aとp側パッド電極5bとからなるp側電極が形成されている。n側窒化物半導体層はn型コンタクト層2を含む。n側窒化物半導体層はn型コンタクト層2以外の層を含んでもよい。p側窒化物半導体層4より窒化物半導体層の一部をエッチング除去して露出されたn型コンタクト層2の表面にn側電極6が形成されている。p側窒化物半導体層4は、活性層側から順に、p側クラッド層4a、p側AlN層4c、p型コンタクト層4bが積層されており、p側AlN層4cは、p型コンタクト層4bと組成が異なる。本発明に係るp側クラッド層4aは、電子を閉じ込めるため、およびホールを活性層に供給するための層(例えば、MgがドープされたAlGaN層など)であり、p側AlN層4cとは異なり、電流拡散の効果が殆ど無い層である。
【0014】
p型コンタクト層4bおよびp側AlN層4cは互いに組成が異なり、従って格子定数が異なる。そのため、窒化物半導体素子に電圧をかけると、p型コンタクト層4bとp側AlN層4cとの界面において格子定数差によるピエゾ電界が発生する。これによって、界面におけるキャリア移動度が増大し、前記界面において電流が横方向に拡散される(即ち、正孔が横方向に拡散される)。図1aに示す従来の窒化物半導体素子と比較して、本発明の窒化物半導体素子において電流が拡散される様子を、図1bにおいて矢印で模式的に示している。p型コンタクト層4bとp側AlN層4cとの界面において電流が拡散されることにより、p側クラッド層4aおよび活性層3の一部に電流が集中して注入されることがなくなり、比較的結晶性の脆いp側クラッド層4aおよび活性層3が保護され、静電耐圧特性が向上する。更に、p型コンタクト層4bとp側AlN層4cとの界面において正孔の横方向への拡散が促進されることにより、活性層3のより広範囲の領域において電子と正孔との再結合、即ち発光が起こり、光取り出し効率が向上し得る。なお、p側AlN層4cは、安定した混晶比で半導体結晶を成長させることができるため、電流が部分的に集中することなく均一に拡散することができる。
【0015】
p側AlN層4cの厚さは、好ましくは1nm〜10nm、より好ましくは1nm〜5nm、更に好ましくは1nm〜3nmである。p側AlN層4cの厚さが1nm以上である場合、p側AlN層4cとp型コンタクト層4bとの界面におけるキャリア移動度の増加が顕著であり、従って静電耐圧特性を効率的に向上させることができる。また、p側AlN層4cの厚さが10nm以下である場合、p側AlN層4c自体の抵抗を低く抑えることができ、順方向電圧Vの増加を軽減することができる。
【0016】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る半導体素子は、p側AlN層と活性層との間にp側クラッド層を更に有し、p側クラッド層とp側AlN層との間にアンドープGaN層を有するものである。
本発明の第2の実施形態に係る半導体素子は、例えば図2に示すような積層構造を有する。本発明の第2の実施形態に係る半導体素子は、p側クラッド層4aとp側AlN層4cとの間にアンドープGaN層(以下、p側アンドープGaN層ともよぶ)4dを更に有する以外は、第1の実施形態の半導体素子と同様の構造を有するものである。p側アンドープGaN層4dは、p側窒化物半導体層4のシート抵抗を下げるための層であり、p側アンドープGaN層4d内を電流が拡散することによって静電耐圧特性をさらに向上させることができる。
【0017】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る半導体素子は、p側AlN層と活性層との間にp型GaN層を有するものであり、AlN層とp型GaN層とが接している。本発明の第3の実施形態に係る半導体素子は、p側アンドープGaN層を更に有してよく、p型GaN層とp側アンドープGaN層とが接していてよい。
本発明の第3の実施形態に係る半導体素子は、例えば図3に示すように、p型GaN層4b’とp型コンタクト層4b”との間に、p型GaN層4b’およびp型コンタクト層4b”の両方と接するようにp側AlN層4cが設けられる以外は、第1の実施形態の半導体素子と同様の構造を有するものである。
本実施形態におけるp型GaN層は、GaNに限定されるものではなく、例えばAlGaNやInGaNからなる層であってもよく、好ましくはp型コンタクト層と同じ組成からなる層である。
また、p側クラッド層4aとp型GaN層4b’との間に、p型GaN層4b’と接するようにp側アンドープGaN層(図示しない)を設けてもよい。これにより、p型GaN層4b’にドープされたp型不純物がp側アンドープGaN層に微量に拡散されるため、p側アンドープGaN層自体の抵抗を低く抑えることができ、順方向電圧Vの増加を軽減したまま静電耐圧特性を更に向上させることができる。
【0018】
以上、第1〜第3の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、他の実施形態も可能である。
【0019】
以下に、本発明の一の実施形態に係る発光素子の各構成について詳細に説明するが、以下に説明する全ての構成物が必須ではなく、それらのいくつかを省略または変更することができる。
【0020】
[基板]
基板は、サファイアのC面、R面、A面の他、スピネル(MgAl)等の絶縁性基板、SiC、ZnS、ZnO、GaAs、GaN等の半導体基板を用いることができる。
【0021】
[n側窒化物半導体層]
以下に、n側窒化物半導体層の構成について説明する。本実施形態に係るn側窒化物半導体層は、少なくとも基板側から順に、バッファ層、n型コンタクト層、アンドープ半導体層およびn型多層膜層が積層されている。
【0022】
(バッファ層)
まず、基板1の上にバッファ層を形成させる。バッファ層は、基板と窒化物半導体との格子定数の不一致を緩和して、結晶性の高い窒化物半導体層をその上に形成するためのものである。バッファ層は、最終的に除去することもできるし、それ自体省略することもできる。バッファ層は、AlGaN、GaN、AlN等を、温度500〜800℃で10〜50nmの厚さに成長させて形成することが好ましい。
【0023】
このバッファ層の上に、第2のバッファ層を更に形成してもよい。第2バッファ層は、後述のn型コンタクト層よりn型不純物のドープ量が少ない、またはn型不純物をドープしない窒化物半導体、例えばAlGaN、GaN、AlN等を、上述の第1のバッファ層より高い温度、例えば800〜1300℃で、0.5〜3μmの厚さに成長させて形成する。第2バッファ層は、不純物ドープ量が少ない(またはゼロである)ので高い結晶性を有する。そのため、結晶性の高いn型コンタクト層をその上に形成することができる。
【0024】
(n型コンタクト層)
この上にn型コンタクト層を形成させる。n型コンタクト層はその組成が特に限定されるものではなく、例えば、Al比率が0.2以下のAlGaN又はGaNからなる層であることが好ましい。このような組成にすると結晶欠陥の少ない窒化物半導体層が得やすい。具体的には、Si等のn型不純物を4.5×1018/cmドープした窒化物半導体、例えばGaNを、温度900〜1300℃で1〜10μmの厚さに成長させて、n型コンタクト層を形成する。
【0025】
(アンドープ半導体層)
n型コンタクト層の上にアンドープ半導体層を形成させる。アンドープ半導体層は、InAlGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)からなる層が挙げられる。なかでも、アンドープ半導体層は、GaN、x及び/又はyが0.2以下のAlGa1−x−yN、InGa1−x−yNが好ましく、更に、GaNからなる層を含むことが好ましい。このような組成により、結晶欠陥の少ない窒化物半導体層が容易に得られる。
アンドープ半導体層は、単層で形成されていてもよいが、多層で形成されていることが好ましい。アンドープ半導体層が多層で形成される場合、その全ての層が、n型不純物を含有しないアンドープ層とすることは必要ではなく、少なくとも1層がアンドープ層であればよい。また特に、アンドープ半導体層は、同じ組成のアンドープ層とドープ層とが交互に積層された層であることが好ましい。これらの交互の積層は、例えば、3層以上であることが好ましく、5層程度以下であることが適しており、アンドープ層とドープ層とのいずれが最下層及び/又は最上層であってもよい。具体的には、例えば、温度900〜1300℃でアンドープGaNからなる厚さ100〜200nmの第1の層を成長させ、その上に、Siを4.5×1018/cmドープしたGaNからなる厚さ10〜50nmの第2の層を成長させ、これを2回繰り返した後に、更にアンドープGaNを1〜10nmの厚さに成長させて、総膜厚が100〜500nmのアンドープ半導体層を形成する。不純物がドープされていない、従ってキャリア移動度の高いアンドープGaN層と、不純物がドープされた、従ってキャリア濃度の高い層とが交互に存在することにより、閾値電圧および順方向電圧が低下する。第1の層は、第2の層よりもSiドープ量の少ないSiドープGaNであってもよい。
【0026】
なお、本明細書において「アンドープ」とは、成膜時に不純物を導入することなく形成された層であって、成膜後および/または製造工程における熱処理等によって上下層から拡散されて不純物が混入された層を意味するのではない。つまり、不純物濃度が1×1017/cm程度以下に留められている層を、実質的に「アンドープ」の層と称する。
【0027】
(n型多層膜層)
アンドープ半導体層の上にn型多層膜層を形成させる。n型多層膜層は、組成の異なる少なくとも2種類以上の元素からなる窒化物半導体、例えば、InAlGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)からなる層が挙げられる。特に、n型多層膜層は、AlGa1−zN(0≦z<1)(第1層)とInGa1−pN(0<p<1)(第2層)との2種類の組成からなる層が交互に積層されるのが好ましい。第1層は、zが小さいほど、つまりアルミニウム含有量が小さいほど、結晶性が良好になるため、z=0であるGaNからなる層が好ましい。第2層は、pが0.5以下の層が好ましく、pが0.2以下の層がより好ましい。なかでも、n型多層膜層としては、第1層がGaNであり、第2層においてpが0.2以下のInGa1−pNであるのが好ましい。
また、n型多層膜層を構成する単一層(つまり、第1層又は第2層)の膜厚は特に限定されないが、少なくとも1種類の単一層の膜厚を、10nm以下とすることが適しており、7nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。具体的には、例えば、温度900〜1300℃でアンドープGaNからなる厚さ1〜2nmの第1の層を成長させ、その上に、温度800〜1000℃でアンドープInGaNからなる厚さ0.5〜1nmの第2の層を成長させ、これを20回繰り返した後に、更にGaNを10〜20nmの厚さに成長させて、総膜厚が40〜80nmのn型多層膜層を形成する。このように単一層の膜厚を薄くすることにより、n型多層膜層が超格子構造となると共に、弾性臨界膜厚以下となり、n型多層膜層における各単一層の結晶性が良好となる。よって、積層が進むにつれて、より結晶性を向上させることができ、光出力の向上を実現させることができる。
【0028】
[活性層]
活性層として、少なくともInを含んでなる窒化物半導体、好ましくはInGa1−xN(0≦x<1)を含む井戸層と、障壁層とを有する多重量子井戸構造または単一量子井戸構造を用いることができる。井戸層や障壁層の膜厚は、30nm以下、好ましくは20nm以下とすることが望ましい。特に井戸層は薄い方が好ましく、10nm以下、更に好ましくは1〜5nmとすることが望ましい。これによって量子効率に優れた活性層が得られる。
活性層が多重量子井戸構造からなる場合、出力の向上、発振閾値の低下などを図ることが可能となる。活性層3が多重量子井戸構造からなる場合、井戸層と障壁層が交互に積層されていれば、最初と最後の層は井戸層でも障壁層でもよい。また、多重量子井戸構造において、井戸層に挟まれた障壁層は、特に1層であること(井戸層/障壁層/井戸層)に限るものではなく、2層若しくはそれ以上の層の障壁層を、「井戸層/障壁層(1)/障壁層(2)/・・・/井戸層」というように、組成・不純物量等の異なる障壁層を複数設けてもよい。
量子井戸構造の活性層に用いる障壁層としては、特に限定されないが、井戸層よりIn含有率の低い窒化物半導体、GaN、Alを含む窒化物半導体などを用いることができる。より好ましくは、InGaN、GaNまたはAlGaNを含むことが望ましい。障壁層の厚さや組成は、量子井戸構造中で全て同じにする必要はない。
【0029】
[p側窒化物半導体層]
以下に、p側窒化物半導体層の構成について説明する。本実施形態に係るp側窒化物半導体層は、少なくとも活性層側から順に、p側クラッド層、p側AlN層、p型コンタクト層が積層されている。
【0030】
(p側クラッド層)
まず、活性層の上に、温度900〜1000℃程度でMg等のp型不純物を1×1020/cmドープしたAl含有窒化物半導体、好ましくはMgドープAlGa1−XN(0<X<1)を10〜50nmの厚さに成長させて、p側クラッド層を形成する。Al含有窒化物半導体からなるp側クラッド層は、活性層の井戸層よりバンドギャップエネルギーが大きいことにより、キャリア閉じ込め層としてはたらく。Al混晶比が高いほどバンドギャップエネルギーが大きくなるので、p側クラッド層はAlGaNからなることが好ましい。
【0031】
(p側AlN層)
p側クラッド層の上に、p型コンタクト層と組成の異なるAlNを成長させてp側AlN層を形成する。p側AlN層の厚さは、好ましくは1nm〜10nm、より好ましくは1nm〜5nm、更に好ましくは1nm〜3nmである。p側AlN層はMg等のp型不純物がドープされていてよく、あるいはアンドープであってもよい。電流拡散効果はp型コンタクト層とp側AlN層との格子定数の差に起因するので、p側AlN層におけるp型不純物のドープの有無に関わらず、電流拡散効果を得ることができる。
また更に、p側クラッド層とp側AlN層との間に、p側アンドープGaN層を50〜100nmの厚さで成長させてもよい。p側アンドープGaN層内を電流が拡散することによって、静電耐圧特性をさらに向上させることができる。
【0032】
(p型コンタクト層)
p型コンタクト層は、InAlGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)からなる層が挙げられ、なかでも、GaN、Al比率0.2以下のAlGaN、In比率0.2以下のInGaNからなる層が好ましく、GaNからなる層がより好ましい。これらの組成は、電極材料と良好なオーミックコンタクトを得ることができる。具体的には、例えば、p側AlN層の上に、Mg等のp型不純物を1×1020/cmドープしたGaNを10〜100nmの厚さに成長させて、p型コンタクト層を形成する。
【0033】
[p側電極およびn側電極]
p側電極およびn側電極は、特に限定されず、当該分野で公知のもののいずれをも採用することができる。
例えば本実施形態に係るp側電極は、p型コンタクト層の上に、p側透光性電極およびp側パッド電極が順に形成して構成される。p側透光性電極は、光の取り出し効率を考慮して、活性層から出射される光を吸収しない材料によって形成されることが好ましく、例えば、導電性酸化物(ITOやZnO等)等が挙げられる。n側電極は、p側窒化物半導体層より窒化物半導体層の一部をエッチング除去して上部n型コンタクト層を露出させ、露出された上部n型コンタクト層の表面に形成される。
【実施例】
【0034】
[比較例]
p側AlN層を有しない比較例の発光素子を以下の工程で作製した。
【0035】
(第1バッファ層)
温度600℃で、キャリアガスに水素、原料ガスにアンモニア、TMG(トリメチルガリウム)およびTMA(トリメチルアルミニウム)を用いて、基板上にAlGaNを約20nmの厚さに成長させて、第1バッファ層を形成した。
【0036】
(第2バッファ層)
第1バッファ層を形成した後、TMGのみを止めて、温度を1050℃まで上昇させた。1050℃に達した後、原料ガスにTMGおよびアンモニアガスを用いてアンドープGaNを約2μmの厚さに成長させ、第2バッファ層を形成した。
【0037】
(n型コンタクト層)
次に、温度1050℃にて原料ガスにTMGおよびアンモニアガス、不純物ガスにシランガスを用いて、Siを4.5×1018/cmドープしたGaNを約5μmの厚さに成長させ、n型コンタクト層を形成した。
【0038】
(アンドープ半導体層)
次に、シランガスのみを止め、1050℃で、TMGおよびアンモニアガスを用いて、アンドープGaNからなる第1の層を約150nmの厚さに成長させ、続いて同温度にてシランガスを追加し、Siを4.5×1018/cmドープしたGaNからなる第2の層を約20nmの厚さに成長させた。これを繰り返して計2回行い、最後に、シランガスのみを止め、同温度にてアンドープGaNからなる層を約10nmの厚さに成長させて、5層からなる総厚さ約350nmのアンドープ半導体層を形成した。
【0039】
(n型多層膜層)
次に、同様の温度で、アンドープGaNからなる第1の層を約1.5nm成長させ、次に温度を800℃にして、TMG、TMIおよびアンモニアを用いて、アンドープInGaNからなる第2の層を約1nm成長させた。そしてこれらの操作を繰り返して交互に20層ずつ積層させ、最後にGaNからなる第1の窒化物半導体層を約1.5nm成長させて、超格子構造の多層膜からなる総厚さ約51.5nmのn型多層膜層を形成した。
【0040】
(活性層)
温度900〜1300℃程度にてTMG、アンモニアガスおよびシランガスを用いて、SiドープGaNを約3.5nm成長させた後、シランガスのみを止め、GaNを約1.5nm成長させて、厚さ約5nmの障壁層を形成した。
次に、温度600〜1000℃程度にてTMG、TMIおよびアンモニアを用いて、アンドープInGaNからなる井戸層を約3nmの厚さに成長させ、続いてTMGおよびアンモニアを用いてアンドープGaNからなる障壁層を約5nmの厚さに成長させた。そして、井戸+障壁+井戸+障壁+・・・・+障壁の順で井戸層を9層、障壁層を9層、交互に積層して、総厚さ約80nmの多重量子井戸構造からなる活性層を形成した。
【0041】
(p側クラッド層)
次に、温度900〜1000℃程度にてTMG、TMA、アンモニアおよびCpMg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用いて、Mgを1×1020/cmドープしたp型AlGaNを約10nmの厚さに成長させ、p側クラッド層を形成した。
【0042】
(p側アンドープGaN層)
次に、温度1050℃にてTMGおよびアンモニアガスを用いて、アンドープGaNを約80nmの厚さに成長させ、p側アンドープGaN層を形成した。
【0043】
(p型GaNコンタクト層)
p側アンドープGaN層の上に、温度1050℃にてTMG、アンモニアおよびCpMgを用いて、Mgを1×1020/cmドープしたp型GaNを約50nmの厚さに成長させ、p型コンタクト層を形成した。
【0044】
(電極)
次に、ウェハを反応容器から取り出し、最上層のp型コンタクト層の表面に所定の形状のマスクを形成し、RIE(反応性イオンエッチング)装置でp型コンタクト層側から約1.5μmの深さでエッチングを行い、n型コンタクト層の表面を露出させた。
続いて、p型コンタクト層上のほぼ全面にITOからなるp側透光性電極を形成した。次に、形成したp側透光性電極上およびエッチングにより露出させたn型コンタクト層上に、p側パッド電極およびn側電極をそれぞれ形成した。
【0045】
最後に、ウェハを各チップに切断して発光素子を得た。
【0046】
[実施例1]
実施例1の発光素子は、p側アンドープGaN層とp型コンタクト層との間に、温度950〜1350℃程度でTMAおよびアンモニアを用いてAlNからなるp側AlN層を約1.0nmの厚さに成長させる以外は比較例と同様の手順で作製した。
【0047】
[実施例2]
実施例2の発光素子は、p側AlN層の厚さを2.0nmにする以外は実施例1と同様の手順で作製した。
【0048】
[実施例3]
実施例3の発光素子は、p側AlN層の厚さを3.0nmにする以外は実施例1と同様の手順で作製した。
【0049】
比較例および実施例1〜3の窒化物半導体素子の構成を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
(キャリア移動度試験)
厚さ3μmのアンドープGaNの上に、厚さ0〜10nmのAlNを成長させ、更にその上にアンドープGaNを30nm成長させて、AlN層の厚さの異なるサンプルを作製した。このようにして得られた各サンプルのキャリア移動度を、ホール測定装置を用いてvan der Pauw法によって測定した。結果を図4に示す。図4より、AlN層の厚さが1〜10nmの場合にキャリア移動度が増大することがわかる。
【0052】
(p側AlN層の厚さと静電耐圧特性との関係)
実施例1〜3および比較例に関して、電圧を徐々に上げていき(ステップ印加)、50V、300Vおよび500Vの電圧が印加されたときの破壊数を調べて破壊率を算出した。試験結果を表2に示す。p側AlN層を挿入することにより、破壊率が低下した。p側AlN層を挿入することでピエゾ効果により電流拡散性が良くなる(シート抵抗が軽減される)ため、静電耐圧特性が改善したと考えられる。印加電圧が300Vおよび500Vの場合、p側AlN層の厚さが2.0nmおよび3.0nmである実施例2および3の破壊率は、p側AlN層の厚さが1.0nmである実施例1の破壊率より低くなった。
【0053】
【表2】

【0054】
(光取り出し効率測定)
実施例1〜3および比較例に関して、光出力(Po)を測定した。結果を表3に示す。p側AlN層の厚さが1.0nmの場合にPoが最大となり、光取り出し効率が最も良い結果になった。
【0055】
(順方向電圧測定)
実施例1〜3および比較例に関して、20mAおよび70mAにおける順方向電圧Vを測定した。結果を表3に示す。p側AlN層の厚さが3.0nmに増加しても、順方向電圧は同程度のままであった。
【0056】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の窒化物半導体素子は、優れた静電耐圧特性を有する。
【符号の説明】
【0058】
1 基板
2 n型コンタクト層
3 活性層
4 p側窒化物半導体層
4a p側クラッド層
4b p型コンタクト層
4c p側AlN層
4d p側アンドープGaN層
4b’ 下部p型コンタクト層
4b” 上部p型コンタクト層
5a p側電極層
5b p側パッド電極
6 n側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、n型窒化物半導体層、活性層、およびp型窒化物半導体層が順に積層された窒化物半導体素子であって、
前記p型窒化物半導体層において、p型コンタクト層と、前記p型コンタクト層と組成の異なるAlN層とを有し、前記p型コンタクト層と前記AlN層とが接していることを特徴とする窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記AlN層の厚さが1nm〜10nmである請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記AlN層と前記活性層との間にp側クラッド層を更に有し、前記p側クラッド層と前記AlN層との間にアンドープGaN層を有する請求項1または2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記AlN層と前記活性層との間にp型GaN層を有し、前記AlN層と前記p型GaN層とが接している請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記p型GaN層と前記アンドープGaN層とが接している請求項4に記載の窒化物半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−84707(P2013−84707A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222648(P2011−222648)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】