説明

窒化物半導体装置の製造方法

【課題】優れた窒化物半導体装置を簡単な工程で製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】n型GaN基板10上にn型Al0.03Ga0.97Nクラッド層12及びn型GaN光ガイド層14を形成する。n型GaN光ガイド層14上に、V族原料としてアンモニアとヒドラジン誘導体を用い、キャリアガスに水素を添加して、Inを含む窒化物系半導体からなる活性層16を形成する。活性層16上に、V族原料としてアンモニアとヒドラジン誘導体を用いてp型Al0.2Ga0.8N電子障壁層18、p型GaN光ガイド層20、p型Al0.03Ga0.97Nクラッド層22、p型GaNコンタクト層24を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III−V族窒化物系半導体からなる窒化物半導体装置の製造方法に関し、特に優れた窒化物半導体装置を簡単な工程で製造することができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子や発光ダイオード等の発光素子や電子デバイスの材料としてIII−V族窒化物系半導体の研究開発が盛んに行われている。その特性を利用して既に青色発光ダイオード、緑色発光ダイオード、及び高密度光ディスク光源として青紫色半導体レーザが実用化されている。
【0003】
窒化物系半導体の結晶成長においてV族原料ガスとしてアンモニア(NH)が広く使用されている。また、発光素子の活性層に用いられるInGaNは、表面からInが再蒸発しやすいために、約900℃以下で成長させなければ結晶化しない。この温度領域ではNHの分解効率が非常に低いため、多くのNHを要する。しかも、実効的V/III比を増加させる必要があり、成長速度を下げなければならないため、意図しない不純物が結晶に混入するという問題があった。
【0004】
青色から緑色の可視光を発光させる場合、活性層に用いるInGaNのIn組成を20%以上にする必要がある。その場合には約800℃以下で成長させなければならず、より多くのNHを要する。さらに、In組成が20%を超えるInGaNは熱によって劣化しやすいため、InGaN活性層上に成長させるクラッド層やコンタクト層の成長工程や、ウェハプロセス工程中の熱処理によって活性層が劣化して発光効率が低下し、デバイス特性が悪化するという問題があった。
【0005】
上記問題を解決するために、V族原料ガスとしてNHの代わりに分解効率の良いヒドラジンを用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、活性層の熱ダメージを低減させるために900℃以下でp層を成長する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−144325号公報
【特許文献2】特開2004−87565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、V族原料ガスとしてヒドラジンを用いるだけでは、InGaN活性層の高品質化は不十分で、特に青色から緑色の可視光を発光させる場合に発光特性が劣化するという問題があった。また、900℃以下でp層を成長しても、p型ドーパントとして用いたMgを活性化させるための800℃−1000℃の高温アニール中に活性層に熱ダメージが入り、発光特性が劣化するという問題があった。この問題は、活性層波長が青色を超えるような長波長領域において顕著に発生していた。
【0008】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は優れた窒化物半導体装置を簡単な工程で製造することができる製造方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基板上にn型窒化物系半導体層を形成する工程と、前記n型窒化物系半導体層上に、V族原料としてアンモニアとヒドラジン誘導体を用い、キャリアガスに水素を添加して、Inを含む窒化物系半導体からなる活性層を形成する工程と、前記活性層上に、V族原料としてアンモニアとヒドラジン誘導体を用いてp型窒化物系半導体層を形成する工程とを備えることを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、優れた窒化物半導体装置を簡単な工程で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。
【図2】図1の窒化物半導体装置の活性層を拡大した断面図である。
【図3】p型GaN層の抵抗率のNH/ヒドラジン供給モル比依存性を示す図である。
【図4】p型GaN層の抵抗率のヒドラジン/III族原料供給モル比依存性を示す図である。
【図5】p型GaN層の炭素濃度の成長温度依存性を示す図である。
【図6】実施の形態1に係る活性層のフォトルミネッセンス(PL)測定を行った結果を示す図である。
【図7】p型GaN層の抵抗率の炭素濃度依存性を示す図である。
【図8】実施の形態2に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。
【図9】図8の窒化物半導体装置の活性層を拡大した断面図である。
【図10】実施の形態3に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。
【図11】図10の窒化物半導体装置の活性層を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。同様の構成要素には同じ番号を付し、説明を省略する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。この窒化物半導体装置は窒化物系半導体レーザである。
【0014】
n型GaN基板10の主面である(0001)面上に、厚さ2.0μmのn型Al0.03Ga0.97Nクラッド層12、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層14、活性層16、厚さ0.02μmのp型Al0.2Ga0.8N電子障壁層18、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層20、厚さ0.5μmのp型Al0.03Ga0.97Nクラッド層22、厚さ0.06μmのp型GaNコンタクト層24が順番に形成されている。
【0015】
p型Al0.03Ga0.97Nクラッド層22とp型GaNコンタクト層24は導波路リッジ26を形成している。導波路リッジ26は共振器の幅方向の中央部分に形成され、共振器端面となる両劈開面の間に延在している。
【0016】
導波路リッジ26の側壁及び露呈しているp型GaN光ガイド層20の表面上にSiO膜28が配設されている。導波路リッジ26の上面にSiO膜28の開口部30が設けられ、この開口部30からp型GaNコンタクト層24の表面が露出している。この露出したp型GaNコンタクト層24上にp側電極32が形成されている。n型GaN基板10の裏面にはn側電極34が形成されている。
【0017】
図2は、図1の窒化物半導体装置の活性層を拡大した断面図である。活性層16は、厚さ3.0nmのIn0.2Ga0.8N井戸層16aと厚さ16.0nmのGaN障壁層16bとを交互に2対積層した多重量子井戸構造である。
【0018】
実施の形態1に係る窒化物半導体装置の製造方法について説明する。結晶成長方法としてMOCVD法を用いる。III族原料として、有機金属化合物であるトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)を用いる。V族原料として、アンモニア(NH)と1,2ジメチルヒドラジン(ヒドラジン誘導体)を用いる。n型不純物原料としてモノシラン(SiH)を用い、p型不純物原料としてシクロペンタジエニルマグネシウム(CPMg)を用いる。これらの原料ガスのキャリアガスとして、水素(H)ガス、窒素(N)ガスを用いる。ただし、p型不純物としてMgの代わりにZnやCaなどを用いてもよい。
【0019】
まず、予めサーマルクリーニングなどにより表面を清浄化したn型GaN基板10を用意する。そして、n型GaN基板10をMOCVD装置の反応炉内に載置した後、NHを供給しながら、n型GaN基板10の温度を1000℃まで上昇させる。次に、TMGとTMAとSiHの供給を開始して、n型GaN基板10の主面上にn型Al0.03Ga0.97Nクラッド層12を形成する。次に、TMAの供給を停止して、n型GaN光ガイド層14を形成する。次に、TMGとSiHの供給を停止して、n型GaN基板10の温度を750℃まで降温する。
【0020】
次に、キャリアガスとしてNガスにHガスを少量混合させ、アンモニアと1,2ジメチルヒドラジンとTMGとTMIを供給してIn0.2Ga0.8N井戸層16aを形成する。そして、TMIを停止し、アンモニアと1,2ジメチルヒドラジンとTMGを供給してGaN障壁層16bを形成する。これを交互に2対積層することにより多重量子井戸(MQW)構造の活性層16を形成する。ここでHガス流量は全ガス流量の0.1〜5%の範囲にする。
【0021】
次に、流量1.3×10−1mol/minのNHと流量20l/minの窒素ガスを供給しながら、n型GaN基板10の温度を750℃から1000℃まで再び上昇させる。そして、水素ガスと窒素ガスを1:1で混合したガスをキャリアガスとして、III族原料として流量2.4×10−4mol/minのTMG及び流量4.4×10−5mol/minのTMA、流量3.0×10−7mol/minのCPMg、V族原料としてNHに加えて流量1.1×10−3mol/minの1,2ジメチルヒドラジンをそれぞれ供給して、p型Al0.2Ga0.8N電子障壁層18を形成する。この場合、III族原料に対する1,2ジメチルヒドラジンの供給モル比は3.9であり、1,2ジメチルヒドラジンに対するNHの供給モル比は120である。
【0022】
次に、TMAの供給を停止し、キャリアガスとともに流量1.2×10−4mol/minのTMG、流量1.0×10−7mol/minのCPMg、V族原料としてNHに加えて流量1.1×10−3mol/minの1,2ジメチルヒドラジンをそれぞれ供給してp型GaN光ガイド層20を形成する。
【0023】
次に、TMAの供給を再度開始し、流量2.4×10−4mol/minのTMG、流量1.4×10−5mol/minのTMA、流量3.0×10−7mol/minのCPMg、V族原料としてNHと1,2ジメチルヒドラジンをそれぞれ供給して、p型Al0.03Ga0.97Nクラッド層22を形成する。この場合、III族原料に対する1,2ジメチルヒドラジンの供給モル比は4.3であり、1,2ジメチルヒドラジンに対するNHの供給比は120である。p型Al0.03Ga0.97Nクラッド層22の炭素濃度は1×1018cm−3以下である。
【0024】
次に、TMAの供給を停止し、キャリアガスと共に流量1.2×10−4mol/minのTMG、流量9.0×10−7mol/minのCPMg、V族原料としてNHに加えて流量1.1×10−3mol/minの1,2ジメチルヒドラジンをそれぞれ供給して、p型GaNコンタクト層24を形成する。この場合、III族材料に対する1,2ジメチルヒドラジンの供給モル比は9.4であり、1,2ジメチルヒドラジンに対するNHの供給モル比は120である。
【0025】
次に、III族材料であるTMGとp型不純物原料であるCPMgの供給を停止し、V族原料を供給しながら300℃程度まで冷却する。そして、V族原料の供給も停止して室温まで冷却する。なお、TMGとCPMgの供給を停止する時に、NHも停止して1,2ジメチルヒドラジンだけを供給しながら300℃程度まで冷却してもよいし、NHと1,2ジメチルヒドラジンの供給を同時に停止してもよい。
【0026】
以上の結晶成長を行った後にp型GaNコンタクト層24上の全面にレジストを塗布し、リソグラフィーによりメサ状部の形状に対応したレジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクとして、反応性イオンエッチング(RIE)法により、p型GaNコンタクト層24からp型Al0.03Ga0.97Nクラッド層22の途中までエッチングして、光導波構造となる導波路リッジ26を形成する。RIEのエッチングガスとしては、例えば塩素系ガスを用いる。
【0027】
次に、レジストパターンを残したまま、n型GaN基板10上の全面に例えばCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、厚さ0.2μmのSiO膜28を形成する。そして、レジストパターンの除去と同時に、いわゆるリフトオフ法により導波路リッジ26上にあるSiO膜28を除去する。これにより、導波路リッジ26上においてSiO膜28に開口部30が形成される。
【0028】
次に、p型GaNコンタクト層24上に真空蒸着法によりPt及びAu膜を順次成膜する。その後、レジスト(不図示)を塗布し、リソグラフィー及びウエットエッチング又はドライエッチングを行うことで、p型GaNコンタクト層24にオーミック接触するp側電極32を形成する。
【0029】
次に、n型GaN基板10の裏面に真空蒸着法によりTi膜、Pt膜及びAu膜を順次成膜してn側電極34を形成する。次に、n型GaN基板10を劈開などによりバー形状に加工して共振器の両端面を形成する。そして、共振器の端面にコーティングを施した後、バーをチップ形状に劈開することで、実施の形態1に係る窒化物半導体装置が製造される。
【0030】
上記の製造方法では、活性層16を形成する際にV族材料としてアンモニアと1,2ジメチルヒドラジンの混合ガスを用いる。これにより、成長温度が900℃以下の低温においても実効的なV/III比を上げることができ、結晶欠陥であるN空孔の発生を抑え、不純物の混入を低減することができる。なお、本実施の形態に係る製造方法は、InGaN量子井戸構造に限らず、Inを含んだ活性層に適用できる。
【0031】
また、キャリアガスにHを数%添加することによって、InGaN成長中にエッチング作用が働き、In偏析を低減することができ、光学的特性が良好な量子井戸構造を成長できる。
【0032】
また、InGaN活性層にSiHを導入しても良く、例えばキャリア濃度1×1018cm−3になるようにドーピングすることで、SiがN空孔を埋めるように作用し、非発光センターとなる点欠陥を低減させ、不純物の混入を抑制して、結晶性を更に向上させることができる。In組成が20%を超えるような、青色以上の発光を得ようとする場合には、より低温で成長を行うので、V族材料の分解効率が低下し、InGaN結晶中にN空孔が発生しやすくなるため、Siドーピングによる結晶性向上の効果はいっそう顕著になる。
【0033】
次に、p型窒化物系半導体層の形成に際して、NHとヒドラジン誘導体(例えば1,2ジメチルヒドラジン)の両方を使用する理由について説明する。
【0034】
p型窒化物系半導体層を形成する時にV族原料としてNHのみを使用すると、NHから生成されるHラジカルがp型窒化物系半導体層の結晶中に取り込まれ、Hラジカルとp型不純物とが反応し、Hパッシベーション(p型不純物の活性化率低下)が発生する。そのため活性化のために熱処理工程が必要となり、熱処理によって結晶の最表面からのN抜けが発生し結晶品質が低下するという問題がある。また、熱処理工程によって活性層が崩れて発光特性が低下するという問題がある。
【化1】

【0035】
そこでV族原料をアンモニアガスからジメチルヒドラジン(UDMHy)に変更すると、UDMHyから生成されるCHラジカルが同時に生成するHラジカルと反応し、UDMHyから生成されるHラジカルがp型窒化物系半導体層の結晶中に取り込まれない。
【化2】

【0036】
しかし、III族原料として有機金属化合物のトリメチルガリウム(TMGa)を使用しているので、TMGaからCHラジカル遊離され、このCHラジカルをCHとして排出しないとCHラジカルが結晶中に取り込まれ、結晶中の炭素濃度を高め、p型窒化物系半導体層の抵抗率を高めてしまうことになる。
【化3】

【0037】
従って、V族原料をアンモニアガスからジメチルヒドラジンに完全に変更した場合には、CHラジカルからCHを生成するために必要となるHラジカルが不足するので、本実施の形態ではCHを生成するために必要な量だけHラジカルを供給することができる所定のNHを添加する。
【0038】
すなわち、まずはジメチルヒドラジンによりp型窒化物系半導体層を形成する際に、結晶中に取り込まれる炭素の濃度を少なくするために、言い換えればアクセプタが補償される炭素の取り込みを抑制するために、ジメチルヒドラジンから遊離されるCHラジカルをCHとして排出するために必要となるHラジカルをNHから供給する。
【0039】
ただし、NHから生成されるHラジカルが多すぎるとHパッシベーションを発生させるので、Hラジカルの供給源であるNHの供給量を必要最小限にする。
【0040】
以上説明したように、p型窒化物系半導体層を形成する際にV族材料として所定流量のNHと1,2ジメチルヒドラジンの混合ガスを供給することで、Hパッシベーションの発生を抑えることができ、含有炭素濃度が低く、as−grownの状態で電気抵抗率の低いp型窒化物系半導体層を形成できる。従って、p型ドーパントとして用いたMgを活性化させるための熱処理工程を無くすことができるため、活性層への熱ダメージを軽減することができ、優れた窒化物半導体装置を簡単な工程で製造することができる。
【0041】
図3は、p型GaN層の抵抗率のNH/ヒドラジン供給モル比依存性を示す図である。NH/ヒドラジン供給モル比とは、ヒドラジンの供給モル流量に対するNHの供給モル流量である。キャリアガスとして窒素ガスと水素ガスを比率1:1で混合したガスを用いた。成長温度が1000℃でヒドラジン/III族原料供給モル比が9.4の場合と、成長温度が900℃でヒドラジン/III族原料供給モル比が2の場合と、成長温度が900℃でヒドラジン/III族原料供給モル比が19の場合に分かれている。ヒドラジン/III族原料供給モル比とは、III族原料の供給モル流量に対するヒドラジンの供給モル流量である。
【0042】
この結果、NH/ヒドラジン供給モル比が10以下になると、Hラジカルの供給が不足し結晶中の炭素濃度が増加するため高抵抗となる。一方、NH/ヒドラジン供給モル比が500から1000の間で低効率が急峻に上昇する。これはNHの過剰供給により結晶中にHが取り込まれることでHパッシベーションが発生したためである。従って、NH/ヒドラジン供給モル比の範囲は10以上1000未満、更に望ましくは20以上500以下とする。
【0043】
図4は、p型GaN層の抵抗率のヒドラジン/III族原料供給モル比依存性を示す図である。成長温度を1000℃、NH/ヒドラジン供給モル比を120、キャリアガスとして窒素ガスと水素ガスを比率1:1で混合したガスを用いた。
【0044】
この結果、ヒドラジン/III族原料供給モル比20と25との間で抵抗率が急激に上昇した。これは結晶中に含まれる炭素濃度が増加したことに起因している。一方、ヒドラジン/III族原料供給モル比が1未満では、結晶中にV族の空孔が発生し結晶劣化を引き起こす。従って、p型GaN層を形成する際に、有機金属化合物に対するヒドラジン誘導体の供給モル比を望ましくは1以上25未満、更に望ましくは3以上15以下とする。
【0045】
図5は、p型GaN層の炭素濃度の成長温度依存性を示す図である。成長温度は基板の温度と同じである。ヒドラジン/III族原料供給モル比を9.4、NH/ヒドラジン供給モル比を120、キャリアガスとして窒素ガスと水素ガスを比率1:1で混合したガスを用いた。
【0046】
この結果、800℃から900℃にかけて結晶中の炭素濃度が急激に減少した。また、成長温度が低くなるとNHの分解が減少し、CHラジカルがCHとなって放出されなくなり、結晶中に取り込まれると考えられる。一方、p型GaNの結晶成長が可能な温度は1200℃未満である。従って、p型GaN層を形成する際に、n型GaN基板10の温度を望ましくは800℃以上1200℃未満、更に望ましくは900℃以上1100℃未満とする。
【0047】
図6は、実施の形態1に係る活性層のフォトルミネッセンス(PL)測定を行った結果を示す図である。図6の横軸はp型クラッド層の成長温度である。縦軸は活性層のPL強度である。ここでは、活性層上に成長するp型クラッド層の成長温度を760℃から1150℃まで変化させることで、活性層への熱ダメージが発生する温度を確認した。
【0048】
この結果、p型クラッド層の成長温度が1100℃までは活性層のPL強度はほとんど変化がないが、1100℃を超えると急激にPL強度が低下した。これは1100℃を超える熱によって活性層が崩れてしまい、発光特性が劣化したためである。また、活性層への熱ダメージとp型窒化物系半導体層中の炭素濃度を考慮する必要もある。従って、p型窒化物系半導体層の成長温度は800℃以上1100℃未満、更に望ましくは900℃以上1100℃未満とする。
【0049】
図7は、p型GaN層の抵抗率の炭素濃度依存性を示す図である。1×1016cm−3が炭素の検出限界である。デバイスとして使用できる程度に低い抵抗率を得るには、炭素濃度が1×1018cm−3以下である必要がある。
【0050】
p型GaN層には炭素が含まれない方がよいが、ヒドラジンを使用した場合には幾分なりともp型GaN層に炭素が取り込まれる。しかし、本実施の形態に係る製造条件を選定することにより、p型GaN層の炭素濃度を1×1018cm−3以下にすることができる。
【0051】
また、p型窒化物系半導体層を形成する際に、キャリアガスとして、水素ガスの体積組成比をx(0≦x≦1)、窒素ガスの体積組成比を1−xとした水素ガスと窒素ガスの混合ガスを用いる。即ち、p型窒化物系半導体層を形成する際のキャリアガスは、窒素ガス単独、窒素ガスと水素ガスとの混合ガス、水素ガス単独の何れでも良い。ここで、基板の温度が1000℃程度では水素ガスは解離せず、水素分子の状態のままで存在し、結晶中に取り込まれることはない。従って、結晶中に取り込まれるHラジカルはNHから分解されたHラジカルが主体であると考えられるので、キャリアガスを水素ガス単独にしても抵抗率が低いp型窒化物系半導体層を形成することができる。例えば、流量10l/minの水素ガスと流量10l/minの窒素ガスを1:1で混合したガスをキャリアガスとして用いる。
【0052】
実施の形態2.
図8は、実施の形態2に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。図9は、図8の窒化物半導体装置の活性層を拡大した断面図である。実施の形態1の活性層16の代わりに活性層36を用いている。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0053】
活性層36は、厚さ3.0nmのAl0.01In0.21Ga0.78N井戸層36aと厚さ16.0nmのAl0.01In0.015Ga0.975N障壁層36bとを交互に2対積層した多重量子井戸構造である。
【0054】
活性層36の製造方法について説明する。まず、NHガスを供給しながらn型GaN基板10の温度を750℃にする。次に、キャリアガスとしてNガスにHガスを少量混合させ、アンモニアと1,2ジメチルヒドラジンとTMGとTMIとTMAを供給してAl0.01In0.21Ga0.78N井戸層36aとAl0.01In0.015Ga0.975N障壁層36bを形成する。これを交互に2対積層することにより多重量子井戸(MQW)構造の活性層36を形成する。
【0055】
本実施の形態では、活性層36がAlInGaNからなるため、InGaNと比較して結晶の結合力が向上するために熱耐性が向上し、熱による結晶の劣化を防ぐことができる。その他、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0056】
実施の形態3.
図10は、実施の形態3に係る窒化物半導体装置を示す断面図である。図11は、図10の窒化物半導体装置の活性層を拡大した断面図である。実施の形態1の活性層16の代わりに活性層38を用いている。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0057】
活性層38は、厚さ3.0nmのIn0.2Ga0.8N井戸層38aと厚さ16.0nmのAl0.03In0.002Ga0.968N障壁層38bとを交互に2対積層した多重量子井戸構造である。
【0058】
活性層38の製造方法について説明する。まず、NHガスを供給しながらn型GaN基板10の温度を750℃にする。次に、キャリアガスとしてNガスにHガスを少量混合させ、アンモニアと1,2ジメチルヒドラジンとTMGとTMIを供給してIn0.2Ga0.8N井戸層38aを形成する。そして、アンモニアと1,2ジメチルヒドラジンとTMGとTMIとTMAを供給してAl0.03In0.002Ga0.968N障壁層38bを形成する。これを交互に2対積層することにより多重量子井戸(MQW)構造の活性層38を形成する。
【0059】
井戸層38aは結晶性に優れた3元混晶のInGaNからなり、障壁層38bは熱耐性のより優れた4元混晶のAlInGaNからなることで、より優れた発光特性を有する発光素子を得ることができる。その他、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0060】
また、井戸層38aが基板10のGaNよりa軸長が長いInGaNからなることで圧縮歪を有し、障壁層38bが基板10のGaNよりa軸長が短いInAlGaNからなることで引張歪を有することが好ましい。通常、青紫色や青色の光を発光する活性層の井戸層は大きな圧縮歪を有し、波長が長くなるほど歪量が大きくなる。そして、波長が青色以上に長波長化した場合、歪によりミスフィット転位が顕著に発生する。これに対して、引張歪を有する障壁層38bを用いることでミスフィット転位の発生を軽減できる。
【符号の説明】
【0061】
10 n型GaN基板(基板)
12 n型Al0.03Ga0.97Nクラッド層(n型窒化物系半導体層)
14 n型GaN光ガイド層(n型窒化物系半導体層)
16,36,38 活性層
18 p型Al0.2Ga0.8N電子障壁層(p型窒化物系半導体層)
20 p型GaN光ガイド層(p型窒化物系半導体層)
22 p型Al0.03Ga0.97Nクラッド層(p型窒化物系半導体層)
24 p型GaNコンタクト層(p型窒化物系半導体層)
38a In0.2Ga0.8N井戸層(井戸層)
38b Al0.03In0.002Ga0.968N障壁層(障壁層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にn型窒化物系半導体層を形成する工程と、
前記n型窒化物系半導体層上に、V族原料としてアンモニアとヒドラジン誘導体を用い、キャリアガスに水素を添加して、Inを含む窒化物系半導体からなる活性層を形成する工程と、
前記活性層上に、V族原料としてアンモニアとヒドラジン誘導体を用いてp型窒化物系半導体層を形成する工程とを備えることを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記活性層に不純物としてSiをドーピングすることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記p型窒化物系半導体層を形成する工程において、前記ヒドラジン誘導体に対する前記アンモニアの供給モル比を10以上1000未満とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記p型窒化物系半導体層を形成する工程において、III族原料として有機金属化合物を用い、前記有機金属化合物に対する前記ヒドラジン誘導体の供給モル比を1以上25未満とすることを特徴とする請求項1−3の何れか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記p型窒化物系半導体層を形成する工程において、前記基板の温度を900℃以上1100℃未満とすることを特徴とする請求項1−4の何れか1項に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記活性層は、InGaNからなる井戸層と、InAlGaNからなる障壁層とを有する量子井戸構造であることを特徴とする請求項1−5の何れか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記井戸層は圧縮歪を有し、前記障壁層は引張歪を有していることを特徴とする請求項6記載の窒化物半導体装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−151074(P2011−151074A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9288(P2010−9288)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】