説明

立軸ポンプ

【課題】立軸ポンプの主軸に作用するスラスト力を効果的に低減し、かつ揚水に異物が含まれる場合にもスラスト力の低減効果を適切に維持する。
【解決手段】立軸ポンプ1は、揚水ケーシング3内の揚水に対して密封されるように潤滑液が収容され、かつ少なくともスラスト軸受であるボール軸受36に潤滑液を供給するように構成された循環閉水路21を備える。循環閉水路内には潤滑液を循環させるための循環用ポンプ26が配置されている。循環用ポンプ26が備える循環用インペラ61の側板64は、口金部66と外周縁との間に位置で上向きに突出し、かつ潤滑液ケーシング51の上部開口52aに内嵌されたリング部71を備える。リング部71とボス部62の直径差と循環用ポンプ自体の揚程に応じた上向きのスラスト力Faが主軸11に作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立軸ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、揚水ケーシング内で主軸を囲む保護管がその一部を構成し、揚水ケーシング内の揚水に対して密封されるように潤滑液が収容された循環閉水路を備える立軸ポンプが開示されている。循環閉水路内の潤滑液は、その内部に配置された循環用ポンプによって循環し、主軸を支持するラジアル軸受やスラスト軸受に供給される。この立軸ポンプは、気中運転時であってもラジアル軸受やスラスト軸受に潤滑液が供給されて潤滑及び冷却がなされるので、外部からの注水が不要で長時間の気中運転が可能である等の種々の利点を有する。
【0003】
しかし、非特許文献1に開示されたものを含め、従来の立軸ポンプには主軸を支持するスラスト軸受に過大なスラスト荷重が作用するという問題がある。過大なスラスト荷重が作用するために、スラスト軸受として低抵抗で軸動力の低減(動力損失の低減)に寄与する転がり軸受(ボール軸受やローラ軸受)ではなく、すべり軸受を使用せざるを得ず、あるいはスラスト軸受として転がり軸受を採用しても十分な耐用期間を確保できない。
【0004】
ポンプの主軸の作用するスラスト力を低減する手法として、インペラにバランスホールや背羽根を設けてインペラに発生する推力を低減することが広く知られている。しかし、これらの手法は揚水中に含まれる揚水に含まれる砂、ゴミ、夾雑物等の異物に起因する摩耗等により推力低減効果やポンプ効率が経時的に著しく低下するので、清水用の低揚程のポンプ等に適用対象が限定される。
【0005】
【非特許文献1】兼森祐治、外1名、「内部循環式無注水ポンプ(A市下水道局Bポンプ場雨水ポンプ)」、とりしまレビューNo.17、株式会社酉島製作所、平成16年、p.41〜44
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、立軸ポンプの主軸に作用するスラスト力を効果的に低減し、かつ揚水に砂、ゴミ、夾雑物等の異物が含まれる場合にもスラスト力の低減効果を適切に維持可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、鉛直方向に延び、揚水ケーシング内に位置する下端側に主インペラが固定され、揚水ケーシングを貫通して延びる上端側がスラスト軸受で支持された主軸と、前記揚水ケーシング内で前記主軸を囲む保護管を少なくとも含み、前記揚水ケーシング内の揚水に対して密封されるように潤滑液が収容され、かつ少なくとも前記スラスト軸受に前記潤滑液を供給するように構成された循環閉水路と、前記循環閉水路内の前記潤滑液を循環させるための循環用ポンプとを備える立軸ポンプであって、前記循環用ポンプは、循環閉水路内に配置され、かつ前記主軸が貫通する潤滑液ケーシングと、前記潤滑液ケーシング内に配置され、前記主軸に固定されたボス部と、このボス部から前記主軸の径方向外向きに拡がる主板と、この主板に基端が連結された複数の羽根と、前記主板の上方に位置して前記複数の羽根の先端を連結すると共に、前記ボス部を取り囲む鉛直方向上向きの吸込口を形成する口金部が設けられた側板とを備え、前記主板及び前記側板の外周縁で挟まれた領域が吐出口を構成する循環用インペラとを備え、前記循環用インペラの前記側板は、前記口金部と前記外周縁との間に位置で上向きに突出し、かつ前記潤滑液ケーシングの上部開口に内嵌されたリング部を備え、前記リング部と前記ボス部の直径差と前記循環用ポンプ自体の揚程に応じた上向きのスラスト力が前記主軸に作用することを特徴とする立軸ポンプを提供する。
【0008】
立軸ポンプの揚水時(通常運転時)には、主インペラには鉛直方向下向きの力の推力が作用し、この推力は主軸に対する鉛直方向下向きのスラスト力となる。つまり、揚水時には主インペラから主軸に対して鉛直方向下向きのスラスト力が作用する。循環用インペラの側板の口金部と外周縁の間の位置に上向きに突出するリング部を設け、このリング部をケーシングの上部開口に内嵌したことにより、潤滑液を揚水する際の循環用インペラにはリング部とボス部の直径差と循環用ポンプ自体の揚程に応じた鉛直方向上向きの推力が作用する。この推力は主軸に対する鉛直方向上向きのスラスト力となる。つまり、リング部を設けた循環用インペラから主軸に対し鉛直方向上向きのスラスト力が作用する。主インペラから主軸に作用する鉛直方向下向きのスラスト力は、循環用インペラから主軸に作用する鉛直方向上向きのスラスト力で相殺される。この相殺の結果、主軸に対して作用するスラスト力が低減され、主軸のスラスト軸受に作用するスラスト荷重が低減される。このスラスト荷重の低減により、スラスト軸受として、すべり軸受ではなく、ボール軸受、ローラ軸受等の転がり軸受を採用し、かつ十分な耐用期間を確保することが可能となる。
【0009】
循環用ポンプ(循環用インペラ及びケーシング)は、揚水ケーシング内の揚液に対して密封された循環閉水路内に配置されている。従って、揚水に含まれる砂、ゴミ、夾雑物等の異物によって循環用インペラに摩耗、破損等の不具合が発生せず、循環用インペラから主軸に対して作用する鉛直方向上向きのスラスト力に変動が生じない。つまり、揚水に異物が含まれる場合でも、循環用インペラによる主軸に作用するスラスト力の低減機能は適切に維持される。
【0010】
具体的には、前記循環用インペラから前記主軸に作用する上向きのスラスト力は、以下の式で表される。
【0011】
【数1】

【0012】
循環用ポンプは、例えば、前記主軸の前記揚水ケーシングの外側の位置と、前記主軸の前記主インペラと隣接する位置のうちいずれか一方に配置される。また、循環用ポンプは、これらの位置の両方に配置してもよい。
【0013】
前記循環閉水路における前記潤滑液の流量を調整する流量調整弁を設けても良い。
【0014】
この流量調整弁を設けることにより、循環用ポンプから主軸に作用するスラスト力を調整できる。具体的には、流量調整弁によって循環閉水路中の潤滑液の流量を増加させる程、循環用インペラから主軸に作用するスラスト力は減少する。逆に、流量調整弁によって循環閉水路中の潤滑液の流量を減少させる程、循環用インペラから主軸に作用するスラスト力が増加する。
【発明の効果】
【0015】
循環閉水路内に配置した循環用インペラの側板の口金部と外周縁の間の位置に上向きに突出するリング部を設けたことにより、循環用インペラから主軸に対して鉛直方向上向きのスラスト力を作用させ、それによって主インペラから主軸に対して鉛直方向下向きに作用するスラスト力を相殺することで、主軸に作用するスラスト力(スラスト軸受に作用するスラスト荷重)を低減できる。その結果、スラスト軸受として、すべり軸受ではなく、ボール軸受、ローラ軸受等の転がり軸受を採用し、かつ十分な耐用期間を確保することが可能となる。また、循環用インペラは揚水ケーシング内の揚液に対して密封された循環閉水路内に配置されているので、揚水に異物が含まれる場合でも、循環用インペラによる主軸に作用するスラスト力の低減機能は適切に維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1実施形態)
図1に示す第1実施形態の立軸ポンプ1は、図示しない流入側管路から排水ポンプ場の吸水槽2内に流入する雨水等の水を下流側に排水するためのものであり、吸水槽2内に配置された鉛直方向に延びる揚水ケーシング3を備える。揚水ケーシング3は、直管状の揚水管4、揚水管4の下端に連結された吐出ボール5、吐出ボール5の下端に連結された吸込ベルマウス6、及び揚水管4の上端に連結されて鉛直方向から水平方向に湾曲した吐出エルボ7を備える。吐出エルボ7には下流側の管路(図示せず)が接続されている。
【0017】
鉛直方向に延びる主軸11は大部分が揚水ケーシング3内に位置しているが、上端側が吐出エルボ7を貫通して上方に延びている。吐出ボール5内に位置する主軸11の下端には主インペラ12が固定されている。また、吐出ボール5にはガイドベーン13を介して下部軸受ケーシング14が固定されている。下部軸受ケーシング14には貫通孔14aが形成されている。この貫通孔14aに主軸11のうち主インペラ12上部の部分が貫通している。下部軸受ケーシング14の貫通孔14aの孔壁には主軸11のラジアル軸受である2個のゴム軸受15が収容されている。一方、吐出エルボ7の上方に位置する主軸11の上端には、原動機及び伝動機構(本実施形態では図示せず)が機械的に連結されている。
【0018】
主軸11が回転駆動されて主インペラ12が回転すると、吸水槽2内の水が吸込ベルマウス6から吸い込まれ、吐出ボール5、及び揚水管4を経て吐出エルボ7から下流側に吐出される。図3に、この立軸ポンプ1における揚水の流量Qの変化に対する揚程H、効率η、及び軸動力Lの変化を模式的に示す。揚水時(通常運転時)には、主インペラ12には鉛直方向下向きの力の推力が作用し、この推力は主軸11に対する鉛直方向下向きのスラスト力Fdとなる。つまり、揚水時には主インペラ12から主軸に対して鉛直方向下向きのスラスト力Fdが作用する。
【0019】
立軸ポンプ1は揚水ケーシング3内の揚水に対して密封されるように潤滑液が収容された循環閉水路21を備える。以下、この循環閉水路21を構成する種々の要素を説明する。
【0020】
まず、揚水ケーシング3内には間隔をあけて主軸11を囲む保護管22が設けられている。この保護管22の下端は下部軸受ケーシング14の上端に液密状態で嵌合されている。下部軸受ケーシング14の下端には主軸11を軸封するメカニカルシール23が取り付けられており、このメカニカルシール23により下部軸受ケーシング14のうちゴム軸受15を収容した部分が揚水ケーシング3内の揚水に対して密封されている。下部軸受ケーシング14の下側のゴム軸受15の部分から吐出エルボ7の外周面まで延びる連通部24が設けられている。
【0021】
一方、保護管22の上端は主軸11を遊挿する貫通孔25aが形成された貫通部25(吐出エルボ5の上部に一体的に形成されている。)に液密状態で取り付けられている。貫通部25の下端側は吐出エルボ7の内部に位置しており、この下端側に保護管22の上端が液密状態で取り付けられている。貫通部25は吐出エルボ7の外側上面からさらに上向きに突出しており、上端側に受け部25bが形成されている。この受け部25bに循環用ポンプ26が配置されている。循環用ポンプ26については後に詳述する。
【0022】
筒状の囲い部27が吐出エルボ7と一体的に設けられており、この囲い部27内に貫通部25の吐出エルボ7の外側上面から吐出している部分及び循環用ポンプ26が収容されている。囲い部27は、下端が吐出エルボ7の外側上面で閉鎖され、上端が別体の蓋体28により閉鎖されている。蓋体28の中央には貫通孔28aが形成されており、この貫通孔28aを通って主軸11がさらに鉛直方向上向きに延びている。貫通孔28aには主軸11を軸封するメカニカルシール29が取り付けられている。このメカニカルシール29によって囲い部27の内部空間が密封されている。蓋体28上には台座30が取り付けられている。この台座30上に潤滑液タンク31が取り付けられている。潤滑液タンク31は中央に大面積の開口31aを有する中空厚肉円環状であり、リング状の底部31b及び蓋部31cと、これら底部31a及び蓋部31cの間の内側周壁部31d及び外側周壁部31eを備える。潤滑液タンク31とメカニカルシール29は配管32により接続されている。また、潤滑液タンク31には潤滑液の液面レベルが十分であることを検出する満水検知器33が装着されている。この満水検知器33により潤滑液タンク31内(循環閉水路21内)の潤滑液の不足を速やかに検出できる。さらに、潤滑液タンク31内には調圧ベローズ34が収容されている。調圧ベローズ34については後に詳述する。
【0023】
主軸11が通過して上方に延びる潤滑液タンク31の開口31aには、概ね筒状である液冷ブラケット35を介して主軸11のスラスト軸受であるボール軸受36が固定されている。液冷ブラケット35の外周には環状の溝35aが形成されており、この溝35aは潤滑液タンク31の内側周壁部31dに形成された環状スリットを介して潤滑液タンク31の内部と連通している。
【0024】
前述した連通部24の一端と潤滑液タンク31との間は循環管路40により互いに接続されている。循環管路40の潤滑液タンク31付近に空気抜き弁41が設けられている。また、循環管路40には流量調整弁42が設けられている。流量調整弁42については後に詳述する。
【0025】
循環閉水路21内の潤滑液は、囲い部27の内部空間に配置された循環用ポンプ26によって、図1において時計方向の流れで循環する。具体的には、循環用ポンプ26で吐出された潤滑液は、貫通部25に形成された貫通孔25aの孔壁と主軸11との間の隙間を通って図において下向きに流れ、保護管22内に流入する。さらに、潤滑液は保護管22内を図において下向きに流れ、下部軸受ケーシング14の貫通孔14aの孔壁と主軸11の隙間を通過し、さらに連通部24を介して循環管路40に流入する。潤滑液は循環管路40を上昇して潤滑液タンク31に達する。潤滑液タンク31から配管32を介して潤滑液が降下しメカニカルシール23を介して囲い部27の内部空間に達して循環用ポンプ26に戻る。
【0026】
循環閉水路21内で循環する潤滑液は揚水ケーシング3内の揚水に対して密封されている。ゴム軸受15と主軸11の間には潤滑が供給されてゴム軸受15が潤滑及び冷却される。前述のように、液冷ブラケット35の溝35aが潤滑液タンク31と連通しているので、液冷ブラケット35を介してボール軸受36が潤滑液によって冷却される。さらに、メカニカルシール23,29も循環閉水路21内に位置しているので、潤滑液によって潤滑及び冷却される。立軸ポンプ1が揚水状態(通常運転状態)の場合のみでなく、気中運転状態の場合であっても循環閉水路21内を潤滑液が循環し、それによってゴム軸受15、ボール軸受36、メカニカルシール23,29が潤滑及び冷却される。
【0027】
次に、循環用ポンプ26の構造及び機能を詳細に説明する。
【0028】
図2を併せて参照すると、循環用ポンプ26は囲い部27に内部空間に配置された潤滑液ケーシング(潤滑液ケーシング)51を備える。潤滑液ケーシング51は、上側ケーシング52と下側ケーシング53により構成されている。下側ケーシング53の下面は貫通部25上端の受け部25bに液密状態で固定されている。上側ケーシング52には、後述するボス部62と同軸の円形であって比較的面積の広い上部開口52aが形成されており、主軸11はこの上部開口52aを貫通している。また、この上部開口52aを介して後述する側板64の上面が囲い部27の内部空間に露出している。下側ケーシング53には円形で比較的面積の狭い下部開口53aが形成されている。この下部開口53aは貫通部25の貫通孔25aと連通しており、循環用ポンプ26からの潤滑液の出口として機能する。
【0029】
潤滑液ケーシング51内には主として遠心力によって潤滑液にエネルギを付与する片吸込型の循環用インペラ61が収容されている。詳細には、循環用インペラ61は主軸11にキー止めで固定された概ね円筒状のボス部62を備える。ボス部62から主軸11の径方向外向きに拡がる概ね円板状であって無開口の主板63がボス部62と同軸に設けられている。また、主板63に対して間隔を開けて上方に概ね円板状で直径(外径)が主板63と同一の側板64がボス部62と同軸に配置されている。主板63と側板64の間には複数の羽根65が設けられている。複数の羽根65の基端(下端)は主板63に連結されている。一方、複数の羽根の先端(上端)は側板64に連結されている。側板64には主軸11及びボス部62を取り囲んで上方に突出する円筒状である口金部66が設けられている。この口金部66の上端開口の内周壁とボス部62の間の円環状の隙間(ボス部62と同軸である。)が循環用インペラ61の吸込口67を構成している。一方、循環用インペラ61の吐出口68は、主板63及び側板64の外周縁で挟まれた領域によって構成されている。
【0030】
潤滑液ケーシング51内(上側ケーシング52の内部側)には、循環用インペラ61の吐出口68を取り囲むガイドベーン型の案内装置69が取り付けられている。吐出口68から吐出された潤滑液は案内装置69を通過して前述の潤滑液ケーシング51の下部開口53a(出口)へ向かう。
【0031】
側板64の上面には、鉛直方向上向きに突出するリング部71が形成されている。リング部71は高さ及び厚さが一定の短円筒状であり、ボス部62と同軸に配置されている。リング部71の外側周壁は潤滑液ケーシング51の上側ケーシング52に形成された上部開口52aの周壁に対して僅かな隙間を隔てて対向している。つまり、リング部71は上部開口52aに内嵌されている。リング部71の外側周壁と上部開口52aの周壁の隙間は、循環用インペラ61が回転に上部開口52aの周壁と接触しないことが保証されることを条件に、可能な限り狭く設定されている。隙間をこのように設定することにより、吸込口67側(側板64の上面側)の潤滑液の吐出口68側への回り込みを防止している。
【0032】
リング部71は口金部66と側板64の外周縁との間の位置に配置されている。つまり、リング部71の直径(外径)Drは、ボス部62の直径(外径)Dbよりも大きく、かつ側板64の直径(外径)Dpよりも小さく設定している。
【0033】
主軸11が回転駆動すると循環用ポンプ26の循環用インペラ61が回転し、吸込口67から吸い込まれた潤滑液が吐出口68から吐出され、それによって前述のように循環閉水路21内を潤滑液が循環する。図4に循環用ポンプ26における潤滑液の流量qの変化に対する揚程h及び軸動力lの変化を模式的に示す。
【0034】
循環用インペラ61の吸込口67は鉛直方向上向きであるので、潤滑液の循環時には、循環用インペラ61には鉛直方向上向きの推力が作用し、この推力は主軸11に対する鉛直方向上向きのスラスト力Fuとなる。つまり、潤滑液の循環時には、循環用インペラ61から主軸11に対して鉛直方向下向きのスラスト力Fuが作用する。
【0035】
前述のように通常運転時には、主インペラ12から主軸11に鉛直方向下向きのスラスト力Fdが作用する。しかし、このスラスト力Fdは循環用インペラ61から主軸11に作用する鉛直方向上向きのスラスト力Fuで相殺される。通常運転時に主軸11に実際に作用するスラスト力Faは以下の式(1)で表される。
【0036】
【数2】

【0037】
このように主インペラ12からの鉛直方向下向きのスラスト力Fdを循環用インペラ61からの鉛直方向上向きのスラスト力Fuで相殺することで低減されたスラスト力Faが、スラスト軸受であるボール軸受36にスラスト荷重として作用する。そのため、スラスト軸受としてすべり軸受よりも低抵抗で軸動力を低減(動力損失を低減)できるボール軸受36を採用することができ、かつボール軸受36について十分な耐用期間を確保できる。
【0038】
循環用インペラ61から主軸11に作用するスラスト力Fuの大きさは、リング部71の直径Drとボス部62の直径Dbの差と循環用ポンプ自体の揚程hに対応する圧力Ph(揚程hの単位を水頭から圧力に換算したもの)により決まる。つまり、スラスト力Fuの大きさは以下の式(2)で表される。
【0039】
【数3】

【0040】
仮に循環用インペラ61の側板64にリング部71を設けずに口金部66を潤滑液ケーシング51の上部開口52aに内嵌する構成としても、潤滑液の循環時には循環用インペラ61から主軸11に鉛直方向上向きのスラスト力Fuが作用する。しかし、この場合には、式(2)の右辺第2項(Dr−Db)の値がリング部71を設けた場合として大幅に小さくなるので、スラスト力Fuの大きさは非常に小さくなり、主インペラ12から主軸11に作用するスラスト力Fuを効果的に低減できない。言い換えれば、本実施形態の立軸ポンプ1では、リング部71を設けることによって、循環用インペラ61から主軸11に作用するスラスト力Fuの値を大きく設定し、それによって主インペラ12から主軸11に作用するスラスト力Fdを効果的に低減し、主軸11に実際に作用するスラスト力Fa(スラスト軸受であるボール軸受36にスラスト荷重)を効果的に低減している。
【0041】
循環用ポンプ26は、揚水ケーシング3内の揚液に対して密封された循環閉水路21内に配置されている。従って、揚水に含まれる砂、ゴミ、夾雑物等の異物によって循環用インペラ61に摩耗、破損等の不具合が発生せず、循環用インペラ61から主軸11に対して作用する鉛直方向上向きのスラスト力Fuに変動が生じない。つまり、揚水に異物が含まれる場合でも、循環用インペラ61による主軸11に作用するスラスト力Faの低減機能は適切に維持される。
【0042】
循環管路40に設けられた流量調整弁42により循環閉水路21内の潤滑液の流量を調整でき、流量を調整することによって循環用インペラ61から主軸11に作用するスラスト力Fuを調節できる。以下、この点に関して説明する。
【0043】
図4を参照すると、循環用ポンプ26の流量q(循環閉水路21内の潤滑液の流量)が、流量q1,q2,q3と増加するのに伴って循環用ポンプ26の揚程hは低下する。つまり、循環用ポンプ26の流量qの流量の増加に伴って循環用ポンプ26の揚程hに対応する圧力Phが低下する。従って、式(2)を参照すれば明らかなように、循環用ポンプ26の流量qの流量の増加に伴って循環用インペラ61から主軸11に作用するスラスト力Fuが減少し、逆に循環用ポンプ26の流量qの流量の減少に伴って循環用インペラ61から主軸11に作用するスラスト力Fuが増加する。
【0044】
式(1)に示すように主軸11に実際に作用するスラスト力Faは、主インペラ12から作用するスラスト力Fdを循環用インペラ61からの作用するスラスト力Fuで減じたものであるので、循環用ポンプ26の流量qの流量の増加に伴って実際に主軸11に作用するスラスト力Faが増加し、逆に循環用ポンプ26の流量qの流量の減少に伴って実際に主軸11に作用するスラスト力Faが減収する。例えば、図5に示すように、循環用ポンプ26の流量qが、流量q1,q2,q3と増加するのに伴って主軸11に作用するスラスト力Faが増加する。
【0045】
流量調整弁42を使用して以下の制御が可能である。まず、立軸ポンプ1の起動時には流量調整弁42の開度を大きくして循環用ポンプ26の流量(循環閉水路21の潤滑液の流量)qを大きく設定する(例えば流量q3)。これによって、循環用インペラ61の回転を円滑に開始させることができる。次に、起動が完了して運転状態が安定した時点で流量調整弁42の開度を減少して循環用ポンプ26の流量qを順次に減少させる(例えば、流量q3から流量q2、流量q1に減少させる。)。これによって、実際に主軸11に作用するスラスト力Faを順次減少させることができる。つまり、起動時(先行待機運転の場合には気中運転となるので主インペラ12からのスラスト力Fdは作用しない。)には、循環用インペラ61の回転の円滑性を重視し、起動完了後は主軸11に実際に作用するスラスト力Faの低減を重視する制御が可能である。
【0046】
潤滑液タンク31内にはベローズ34が収容されている。ベローズ34は一端が開口して他端が閉鎖した弾性的に伸縮可能な筒状体であり、閉鎖端が潤滑液タンク31の底部31bに液密状態で固定されている。ベローズ34の内部は配管72によって吐出エルボ7内と連通している。ベローズ34の外部には潤滑液タンク31内の潤滑液の液圧が作用し、内部には吐出エルボ7内の揚水の液圧(静圧)が作用する。つまり、ベローズ34には潤滑液の液圧と揚水の静圧の差圧が作用する。ベローズ34はこの差圧に応じて弾性的に伸縮するので、循環閉水路21内の潤滑液の液圧と揚水の液圧(静圧)が釣り合った状態で維持される。その結果、循環閉水路21内の潤滑液が揚水ケーシング3内の漏洩するのを防止できる。
【0047】
(第2実施形態)
図6及び図7に示す本発明の第2実施形態の立軸ポンプ1’は、2個の循環用ポンプ26A,26Bを備える。一方の循環用ポンプ26Aは第1実施形態と同様に循環閉水路21のうち揚水ケーシング3の外側(吐出エルボ7の上方)に配置されている。他方の循環用ポンプ26Bは、循環閉水路21のうち主インペラ12に隣接する位置に配置されている。具体的には、下部軸受ケーシング24の上端に蓋体73で密閉された収容室74が形成され、この収容室74内に循環用ポンプ26Bが収容されている。蓋体74には開口部74aが形成されており、この開口部74aに保護管22の下端が液密状態で連結されている。循環用ポンプ26Bは潤滑液ケーシング51(図2参照)は備えておらず、リング部71は案内装置69の中央開口部69aに内嵌されている。
【0048】
第2実施形態のその他の構成及び作用は第1実施形態と同様であるので、同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
(第3実施形態)
図8に示す本発明の第3実施形態の立軸ポンプ1’’は、第2実施形態と同様の構成で循環閉水路21のうち主インペラ12に隣接する位置に配置された循環用ポンプ26Bを備えるが、循環閉水路21のうち揚水ケーシング3の外側には循環用ポンプを備えていない。また、スラスト軸受としてすべり軸受136を採用している。さらに、第3実施形態の立軸ポンプ1’’は減速機内蔵型であり、第1及び第2実施形態の立軸ポンプ1,1’とは主として以下の点で異なる。
【0050】
減速機81のケーシング82は、揚水ケーシング3内に配置された第1部分82a、揚水ケーシング3外に配置された第2部分82b、及び揚水ケーシング3を貫通して第1部分82aと第2部分82bを連通させる第3部分82cを備える。第1部分82aに上側のメカニカルシール23が配置されている。メカニカルシール23より上方に位置する主軸11の上端側に傘歯車83が固定されている。水平方向の伝動軸84の一端に固定された傘歯車85が主軸11側の傘歯車83と噛み合っている。伝動軸84の他端に固定された平歯車86が出力軸87の一端に固定された平歯車88と噛み合っており、ケーシング82の第2部分82bを貫通して外部に突出する出力軸87の他端に原動機の回転軸(図示せず)が機械的に連結されている。
【0051】
主軸11のラジアル軸受として機能する2個のゴム軸受15のうちの一方は揚水管4中に中間軸受ケーシング89により保持されている。
【0052】
2本の保護管22A,22Bが設けられている。上側の保護管22Aは、上端が減速機81のケーシング82の第1部分82aの下端に液密状態で嵌合され、下端が中間軸受ケーシング89の上端に液密状態で嵌合されている。下側の保護管22Bは、上端が中間軸受ケーシング89の下端に液密状態で嵌合され、下端が蓋体73に液密状態で嵌合されている。
【0053】
循環管路40は減速機81のケーシング82の第1部分82aと下部軸受ケーシング14を接続している。
【0054】
循環用インペラ61からのスラスト荷重Fuで主インペラ12からのスラスト荷重Fdを相殺することによって主軸11に実際に作用するスラスト力Faを低減できるので、減速機81を構成する要素小型化できる。その結果、減速機81全体として小型化を図ることができる。
【0055】
第3実施形態のその他の構成及び作用は第1実施形態と同様であるので、同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施形態に係る立軸ポンプを示す縦断面図。
【図2】図1の部分拡大図。
【図3】第1実施形態の立軸ポンプにおける流量に対する揚程、効率、及び軸動力の変化を模式的に示す線図。
【図4】循環用ポンプにおける流量に対する揚程及び軸動力の変化を模式的に示す線図。
【図5】循環用ポンプの種々の流量に対する主軸に作用するスラスト力を模式的に示す線図。
【図6】本発明の第2実施形態に係る立軸ポンプを示す縦断面図。
【図7】図6の部分拡大図。
【図8】本発明の第3実施形態に係る立軸ポンプを示す縦断面図。
【符号の説明】
【0057】
1,1’,1’’ 立軸ポンプ
2 吸水槽
3 揚水ケーシング
4 揚水管
5 吐出ボール
6 吸込ベルマウス
7 吐出エルボ
11 主軸
12 主インペラ
13 ガイドベーン
14 下部軸受ケーシング
14a 貫通孔
15 ゴム軸受
21 循環閉水路
22,22A,22B 保護管
23 メカニカルシール
24 連通部
25 貫通部
25a 貫通孔
25b 受け部
26 循環用ポンプ
27 囲い部
28 蓋体
28a 貫通孔
29 メカニカルシール
30 台座
31 潤滑液タンク
31a 開口
31b 底部
31c 蓋部
31d 内側周壁部
31e 外側周壁部
32 配管
33 満水検知器
34 調圧ベローズ
35 液冷ブラケット
35a 溝
36 ボール軸受
40 循環管路
41 空気抜き弁
42 流量調整弁
51 潤滑液ケーシング
52 上側ケーシング
52a 上部開口
53 下側ケーシング
53a 下部開口
61 循環用インペラ
62 ボス部
63 主板
64 側板
65 羽根
66 口金部
67 吸込口
68 吐出口
69 案内装置
71 リング部
72 配管
73 蓋体
74 収容室
74a 開口
81 減速機
82 ケーシング
82a 第1部分
82b 第2部分
82c 第3部分
83,85 傘歯車
84 伝動軸
86,88 平歯車
87 出力軸
89 中間軸受ケーシング
136 すべり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に延び、揚水ケーシング内に位置する下端側に主インペラが固定され、揚水ケーシングを貫通して延びる上端側がスラスト軸受で支持された主軸と、
前記揚水ケーシング内で前記主軸を囲む保護管を少なくとも含み、前記揚水ケーシング内の揚水に対して密封されるように潤滑液が収容され、かつ少なくとも前記スラスト軸受に前記潤滑液を供給するように構成された循環閉水路と、
前記循環閉水路内の前記潤滑液を循環させるための循環用ポンプと
を備える立軸ポンプであって、
前記循環用ポンプは、
循環閉水路内に配置され、かつ前記主軸が貫通する潤滑液ケーシングと、
前記潤滑液ケーシング内に配置され、前記主軸に固定されたボス部と、このボス部から前記主軸の径方向外向きに拡がる主板と、この主板に基端が連結された複数の羽根と、前記主板の上方に位置して前記複数の羽根の先端を連結すると共に、前記ボス部を取り囲む鉛直方向上向きの吸込口を形成する口金部が設けられた側板とを備え、前記主板及び前記側板の外周縁で挟まれた領域が吐出口を構成する循環用インペラと、
を備え、
前記循環用インペラの前記側板は、前記口金部と前記外周縁との間に位置で上向きに突出し、かつ前記潤滑液ケーシングの上部開口に内嵌されたリング部を備え、前記リング部と前記ボス部の直径差と前記循環用ポンプ自体の揚程に応じた上向きのスラスト力が前記主軸に作用することを特徴とする、立軸ポンプ。
【請求項2】
前記循環用インペラから前記主軸に作用する上向きのスラスト力は、以下の式で表されることを特徴とする、請求項1に記載の立軸ポンプ。
【数1】

【請求項3】
前記主軸の前記揚水ケーシングの外側の位置に前記循環用ポンプが配置されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の立軸ポンプ。
【請求項4】
前記主軸の前記主インペラと隣接する位置に前記循環用ポンプが配置されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の立軸ポンプ
【請求項5】
前記主軸の前記揚水ケーシングの外側の位置及び前記主軸の前記主インペラと隣接する位置の両方に前記循環用ポンプが配置されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の立軸ポンプ。
【請求項6】
前記循環閉水路における前記潤滑液の流量を調整する流量調整弁をさらに備えることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の立軸ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−24919(P2010−24919A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186114(P2008−186114)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000152170)株式会社酉島製作所 (89)
【Fターム(参考)】