説明

端子金具付き電線及びその製造方法

【課題】電線と端子金具との接続部分の電食をより確実に防止する。
【解決手段】アルミ電線10における露出された芯線11の端末には予め防水コーティング30が施され、この状態で芯線11の端末に雌端子金具20のワイヤバレル25がかしめ圧着される。ワイヤバレル25の圧着部分では、防水コーティング30が剥がされつつ芯線11とワイヤバレル25の内面とが接触して電気的接続が取られる。ワイヤバレル25の圧着部分の前後では芯線11が露出した状態で雌端子金具20の底板22と接触しているが、芯線11には防水コーティング30が施されているために両者の接触部分に水分が付着することが防止され、電食が発生するには至らない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子金具付き電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のワイヤハーネス等の分野においても、軽量化等を目的としてアルミ電線を使用するようになった。アルミ電線は例えば、複数本のアルミ素線を撚り合わせた撚り線からなる芯線を絶縁被覆で覆った構造であって、ハーネス化される場合は一般に、電線の端末に端子金具が接続される。具体的には、アルミ電線の被覆の端末が皮剥きされて芯線の端末が露出され、この露出された芯線の端末に対して、端子金具に設けられたワイヤバレル(電線接続部)が圧着され、併せて残った絶縁被覆の端末に、ワイヤバレルの後方に設けられたインシュレーションバレルが圧着されて接続されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、電線を端子金具に導通接続させるに当たり、電線の芯線と端子金具とが異種の金属によって形成されている場合には、両者の接触部分に水分が介在すると、両金属が水中にイオンとして溶け込んで電気化学的反応により腐食が進行する電食が発生することが知られている。端子金具は強度上の問題等で銅合金製とするのが一般的であるため、上記のように電線にアルミ電線を使用すると、正に電食が問題となる。
【特許文献1】特開2005−50736公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、アルミ電線では、芯線の表面に酸化被膜が強固に形成される嫌いがあり、ワイヤバレルを圧着した際にも間に酸化被膜が介在することとなって、芯線とワイヤバレルとの間の接触抵抗が大きくなることが懸念される。そのため、ワイヤバレルを高圧縮で圧着することにより酸化被膜を破断して剥離し、露出した芯線の新生面をワイヤバレルの内面に接触させることで接触抵抗を小さく抑え、すなわち電気性能を高めるようにしている。
【0005】
電食の問題に戻ると、ワイヤバレルの圧着部分では、上記のように高圧縮で圧着することから、芯線とワイヤバレルとの接触部分に浸水することが防止されて、電食の発生は回避し得る。しかしながら、圧着されたワイヤバレルの軸方向の前後では、芯線が露出した状態で端子金具と接触しており、ここに埃や砂が侵入して混じった塩分が付着しさらに水分が付着すると、接触部分が電解質溶液に浸漬された状態となって、イオン化傾向が大きい金属(卑な金属)であるアルミニウムが溶解する、すなわち電食が進むおそれがあった。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、その目的は、電線と端子金具との接続部分の電食をより確実に防止するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属製の芯線を絶縁被覆で覆った電線における前記芯線の端末に端子金具の電線接続部が圧着された端子金具付き電線であって、前記電線の絶縁被覆の端末が皮剥きされて露出された前記芯線の端末には、前記端子金具の電線接続部の圧着前に予め防水コーティングが施されているところに特徴を有する。
【0007】
電線における露出された芯線の端末には予め防水コーティングが施され、係る状態で同芯線の端末に端子金具の電線接続部が圧着される。電線接続部の圧着部分では、コーティングが剥がされつつ芯線と電線接続部とが接触して電気的接続が取られる。電線接続部の圧着部分の前後では芯線が露出した状態で端子金具と接触しているが、芯線には防水コーティングが施されているために両者の接触部分に水分が付着することが防止され、電食が発生するには至らない。
【0008】
なお、以下のような構成としてもよい。
(1)前記電線が、アルミニウム製の芯線を備えたアルミ電線である一方、前記端子金具が銅合金製である。電食する可能性が高いアルミ電線を使用した場合にも、電食の発生を有効に防ぐことができる。
【0009】
(2)前記芯線が、複数本のアルミ素線を撚った撚り線により構成されている。
(3)前記端子金具の電線接続部は、前記電線における露出された芯線の端末が配される底板と、この底板の両側縁から前記芯線の軸方向と交差する方向に突出した一対のバレル片とを備え、前記芯線の端末を抱き込むように圧着されるものである。
【0010】
(4)また、端子金具付き電線の製造方法として、金属製の芯線を絶縁被覆で覆った電線における前記芯線の端末に端子金具の電線接続部が圧着された端子金具付き電線を製造する方法であって、前記電線の絶縁被覆の端末を皮剥きして前記芯線の端末を露出する工程と、露出された前記芯線の端末に防水コーティング材を塗布する工程と、防水コーティング材が塗布された前記芯線の端末に前記端子金具の電線接続部を圧着する工程と、が順次に行われることを特徴としている。本発明の端子金具付き電線を、確実に製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電線と端子金具との接続部分の電食をより確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<実施形態>
本発明の一実施形態を図1ないし図6に基づいて説明する。
本実施形態では、アルミ電線10に適用した場合を例示しており、図1に示すように、アルミ電線10の端末には、雌側の端子金具20(以下、雌端子金具20)が接続されている。
アルミ電線10は、図5に示すように、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の素線12(以下、アルミ素線12)を複数本を撚り合せた撚り線によって芯線11が形成され、この芯線11の回りが合成樹脂製の絶縁被覆13で覆われた構造となっている。
【0013】
雌端子金具20は、銅合金製の板材をプレス加工することで形成され、図4に示すように、相手の雄端子金具(図示せず)と電気的に接続される略角筒形をなす端子接続部21の後方に、ワイヤバレル25(本発明の電線接続部に相当)とインシュレーションバレル26とが設けられた構造である。
端子接続部21の内部には、底板22の前縁から折り返されるようにして弾性接触片23が設けられており、同端子接続部21に対して上記した相手の雄端子金具のタブが前方から挿入され、弾性接触片23と弾性的に接触することにより、雄端子金具と雌端子金具20とが電気的に接続されるようになっている。
【0014】
ワイヤバレル25は、オープンバレル形式であって、左右一対の幅広のバレル片25Aが、底板22の左右の側縁から互いに対向するようにして立ち上がり形成されている。ワイヤバレル25は、上記したアルミ電線10の芯線11の端末にかしめ圧着されるものであって、例えば、図2に示すように、両バレル片25Aがそれぞれの突出端を突き合わせつつ、芯線11の端末の外周を左右両側から抱き込むようにして、いわゆるハート型にかしめられるようになっている。
なお、図2及び図3においては、芯線11の断面を、全体として模式的に図示している。
【0015】
インシュレーションバレル26は、同じくオープンバレル形式であって、ワイヤバレル25側のバレル片25Aよりも幅狭で逆に背が高い左右一対のバレル片26Aが、同じく底板22の左右の側縁から互いに対向するようにして立ち上がり形成されている。このインシュレーションバレル26は、アルミ電線10の残された絶縁被覆13の端末にかしめ圧着されるものであって、例えば、両バレル片26Aがそれぞれの突出端を重ね合わせつつ、絶縁被覆13の端末の外周を左右両側から抱き込むようにして、いわゆるオーバラップ型にかしめられるようになっている。
【0016】
続いて、本実施形態に係る端子金具付き電線の製造工程を説明する。
まず、図4に示すように、アルミ電線10の絶縁被覆13の端末が皮剥きされて、芯線11の端末が所定長さに亘って露出状態とされる。この露出された芯線11の端末の長さは、雌端子金具20のワイヤバレル25のバレル片25Aの幅の2倍弱程度の寸法である。
【0017】
次に、この露出された芯線11の端末に、図6の鎖線に示すように、防水コーティング30が形成される。コーティング材の例としてはシリコーンゴムが挙げられ、より具体的には、信越化学工業株式会社製の「製品名:KE3420」が好適である。このコーティング材が、原液状態においてスプレー装置等により塗布され、そののち硬化することで防水コーティング30が形成される。上記コーティング材であれば、アルミニウム製の芯線11の表面に良くなじんで満遍なく付着し、続いて硬化し得ることが確認されている。また、同防水コーティング30の膜厚は、0.1〜0.5mmが好ましい。
【0018】
このように、芯線11の露出された端末に対して、コーティング材が塗布され硬化することで防水コーティング30が形成されたら、圧着装置によって、アルミ電線10の端末に雌端子金具20が圧着接続される。詳細には、圧着装置にはアンビルとクリンパとが設けられ、雌端子金具20のワイヤバレル25に対して、芯線11の端末の露出部分の中央部が、またインシュレーションバレル26に対して、残された絶縁被覆13の端末がそれぞれ配された状態でセットされ、両バレル25,26は、アンビルとクリンパとの間で挟圧されてかしめられる。
【0019】
これにより、一部既述したが、インシュレーションバレル26は、絶縁被覆13の端末に対してオーバラップ型にかしめられ、ワイヤバレル25は、防水コーティング30が形成された芯線11の端末の中央部に対して、ハート型にかしめられる。
ここでアルミ電線10は、芯線11の表面に外気が触れることで、表面に酸化被膜が形成されやすいという事情があり、この酸化被膜を剥離するために、圧着工程ではワイヤバレル25は高圧縮でかしめられ、すなわち圧着される。
【0020】
このように芯線11の端末にワイヤバレル25が高圧縮で圧着されると、ワイヤバレル25の圧着部分では、芯線11の表面に予め形成された防水コーティング30が酸化被膜ともども剥離され、露出した芯線11の新生面とワイヤバレル25の内面とが接触して電気的接続が取られる。一方、ワイヤバレル25の圧着部分の前後では、図1及び図3に示すように、芯線11が露出した状態で、雌端子金具20における底板22と接触するが、芯線11のこの部分では防水コーティング30が形成されたままに留まり、芯線11は防水コーティング30を介して雌端子金具20の底板22と接触した状態となる。
以上により、本実施形態に係るアルミ電線10の端末に雌端子金具20を接続する作業が終了する。
【0021】
上記のように形成された雌端子金具20付きのアルミ電線10が、複数本纏められてハーネスが構成され、例えば当該アルミ電線10の端末の雌端子金具20が雌ハウジングに収容され、車両の所定箇所に配線されて、同雌ハウジングが相手の雄ハウジングと嵌合され、対応する雌端子金具20と雄端子金具同士が電気的に接続されるところとなる。
【0022】
本実施形態では、アルミ電線10(芯線11)の端末に銅合金製の雌端子金具20が接続されているのであるから、電食発生の可能性は孕んでいるが、芯線11に対するワイヤバレル25の圧着部分では、上記のように高圧縮で圧着することから、芯線11とワイヤバレル25との接触部分に浸水することが防止されて、電食の発生は回避し得る。一方、ワイヤバレル25の圧着部分の前後では、芯線11が露出した状態で雌端子金具20(底板22)と接触しているが、芯線11には防水コーティング30が施されているために、芯線11と底板22の接触部分に水分が付着することが防止され、電食が発生するには至らない。
結果、アルミ電線10と雌端子金具20との接続部分の電食を広範囲にわたって確実に防止することができる。
【0023】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)防水用のコーティング材としては、上記実施形態に例示したものに限らず、要はアルミニウム製の芯線の表面に良くなじんで付着して防水機能を発揮するものであればよい。
(2)防水コーティングの形成方法としては、露出した芯線の端末をコーティング材中に浸漬させる、いわゆるどぶ漬けする等、他の方法を採用してもよい。
(3)アルミ電線としては、芯線が、比較的大径の1本のアルミ素線により形成されているもの、すなわち単芯線型のアルミ電線であってもよい。
【0024】
(4)上記実施形態では、雌端子金具に設けられたワイヤバレルが、両バレル片がそれぞれの突出端を突き合わせつつ、芯線の端末の外周を左右両側から抱き込むハート型にかしめられる場合を例示したが、これ以外に例えば、両バレル片がそれぞれの突出端を重ね合わせつつ、芯線の端末の外周を左右両側から抱き込む、いわゆるオーバラップ型にかしめられるものであってもよい。
(5)また、ワイヤバレルは、左右一対のバレル片が、芯線の軸線方向にずれて配された形式のものであってもよく、バレル片が1本だけのものであってもよい。さらには、かしめ前に予め筒形に形成されたクローズドバレル形式であってもよい。
【0025】
(6)上記実施形態では、アルミ電線の端末に接続する端子金具として雌端子金具を例示したが、雄タブを備えた雄端子金具、あるいは目玉状の接続部を有するLA端子等の他の端子金具であってもよい。
(7)端子金具の大きさや形状等の条件に応じて、端子金具がインシュレーションバレルを備えずワイヤバレルのみを備えたものであってもよい。
(8)本発明は、上記実施形態に例示したアルミ電線に銅合金製の端子金具を接続する場合に限らず、電線の芯線とこれに接続される端子金具とが異種の金属によって形成されている場合全般に広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る端子金具付き電線を示す側面図
【図2】図1のII−II線で切断した拡大端断面図
【図3】図1のIII−III線で切断した拡大端断面図
【図4】雌端子金具の斜視図
【図5】アルミ電線における芯線の端末が露出された状態を示す側面図
【図6】芯線に防水コーティングが形成された状態を示す側面図
【符号の説明】
【0027】
10…アルミ電線(電線)
11…芯線
12…アルミ素線
13…絶縁被覆
20…雌端子金具(端子金具)
22…底板
25…ワイヤバレル(電線圧着部)
25A…バレル片
30…防水コーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の芯線を絶縁被覆で覆った電線における前記芯線の端末に端子金具の電線接続部が圧着された端子金具付き電線であって、
前記電線の絶縁被覆の端末が皮剥きされて露出された前記芯線の端末には、前記端子金具の電線接続部の圧着前に予め防水コーティングが施されていることを特徴とする端子金具付き電線。
【請求項2】
前記電線が、アルミニウム製の芯線を備えたアルミ電線である一方、前記端子金具が銅合金製であることを特徴とする請求項1記載の端子金具付き電線。
【請求項3】
前記芯線が、複数本のアルミ素線を撚った撚り線により構成されていることを特徴とする請求項2記載の端子金具付き電線。
【請求項4】
前記端子金具の電線接続部は、前記電線における露出された芯線の端末が配される底板と、この底板の両側縁から前記芯線の軸方向と交差する方向に突出した一対のバレル片とを備え、前記芯線の端末を抱き込むように圧着されるものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の端子金具付き電線。
【請求項5】
金属製の芯線を絶縁被覆で覆った電線における前記芯線の端末に端子金具の電線接続部が圧着された端子金具付き電線を製造する方法であって、
前記電線の絶縁被覆の端末を皮剥きして前記芯線の端末を露出する工程と、
露出された前記芯線の端末に防水コーティング材を塗布する工程と、
防水コーティング材が塗布された前記芯線の端末に前記端子金具の電線接続部を圧着する工程と、
が順次に行われることを特徴とする端子金具付き電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−55901(P2010−55901A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218781(P2008−218781)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】