説明

端部シール部材の製造方法および燃料電池の製造方法

【課題】シール性能が向上した端部シール部材が提供される。
【解決手段】複数の細孔を内部に有する、層状構造の膨張黒鉛シートSの積層方向に平行な第1の面と、第1の面に対向する第2の面とを除く膨張黒鉛シートSの外周面を密閉し、第1の面と第2の面との間に差圧を設けて、膨張黒鉛シートS内に対して、圧力の高い第1の面から、圧力の低い第2の面へ向けて樹脂Pを注入する端部シート部材の製造方法によって、シール性能が向上した端部シール部材が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は端部シール部材の製造方法および燃料電池の製造方法に関し、特に、燃料電池を構成する端部シール部材の製造方法および端部シール部材を有する燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸型燃料電池(PAFC:Phosphoric Acid Fuel Cell)は、電解質層にリン酸溶液を保持させ、燃料ガス(例えば、水素)および空気ガス(例えば、酸素)を燃料極および空気極にそれぞれ連続的に供給して、これらを反応させて得られるエネルギーを電気化学的に電気エネルギーに変換するものである。
【0003】
図7は、リン酸型燃料電池の単位セルの(A)は正面図、(B)は側面図である。
なお、図7に示すリン酸型の燃料電池の単位セル100は、後述するように層を積層させて構成された略直方体の形状をしている。
【0004】
単位セル100は、フレームシート170と、フレームシート170を挟む、燃料極側のシールテープ161および空気極側のシールテープ162と、燃料極基材151および空気極基材152と、燃料ガスの流路141aが形成された燃料極側のリブ付多孔質基材141および空気ガスの流路142aが形成された空気極側のリブ付多孔質基材142とを有する。さらに、単位セル100の燃料ガスの流路141aと平行に相対する二辺のリブ付多孔質基材141の両端部部分と、空気ガスの流路142aと平行に相対する二辺のリブ付多孔質基材142の両端部部分とに、ガス不透過性の、燃料極側の端部シール部材131および空気極側の端部シール部材132とがそれぞれ備えられている。これに対して、ガス遮蔽板である燃料極側のセパレータ111および空気極側のセパレータ112が、接着シート121,122を介してそれぞれ積層されている。
【0005】
フレームシート170は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で構成されている。フレームシート170はシールテープ161,162および電解質層(後述)に挟まれており、電解質層を保護する役割を担っている。
【0006】
シールテープ161,162は、フレームシート170の燃料極側および空気極側にそれぞれ配置されて、例えば、PTFEで構成されている。シールテープ161,162は、リブ付多孔質基材141,142との間の高さ寸法の寸法誤差を調整する。高さ寸法の寸法誤差の調整については後述する。
【0007】
燃料極基材151は、例えば、多孔質の炭素板により構成されている。燃料極基材151は、リブ付多孔質基材141を介して供給される燃料ガスの構成分子を電子とイオンとに分けて、電子を図示しない外部回路へ、イオンを空気極基材152側へ供給する。例えば、燃料ガスを構成する水素分子が、燃料極基材151で電子と水素イオンとに分けられて、電子を外部回路へ、水素イオンを空気極基材152側へ供給する。
【0008】
空気極基材152は、例えば、多孔質の炭素板により構成されている。空気極基材152は、リブ付多孔質基材142を介して供給される空気ガスと、外部回路からの電子と、燃料極基材151からのイオンとが反応する。例えば、リブ付多孔質基材142からの酸素分子と、外部回路からの電子と、燃料極基材151からの水素イオンとが空気極基材152で反応して、水が生成される。
【0009】
リブ付多孔質基材141は、燃料極基材151に接触して配置されており、多孔質の材料から構成されている。リブ付多孔質基材141は、燃料ガスの流路141aが形成されており、流路141aから取り込まれた燃料ガスが燃料極基材151に供給される。
【0010】
リブ付多孔質基材142は、空気極基材152に接触して配置されており、多孔質の材料から構成されている。リブ付多孔質基材142は、空気ガスの流路142aが形成されており、流路142aから取り込まれた空気ガスが空気極基材152に供給される。なお、リブ付多孔質基材142は、リブ付多孔質基材141に対して互いの流路の方向が直交するように空気極基材152に配置されている。
【0011】
端部シール部材131,132は、燃料ガスと空気ガスとが単位セル100内で混合しないようにガス不透過性の材料によって構成されており、流路141a,142aと平行に相対する二辺のリブ付多孔質基材141,142のそれぞれの両端部に形成されている。また、端部シール部材131,132は、リブ付多孔質基材141,142の高さ寸法の調整も行う。高さ寸法の寸法誤差の調整については後述する。
【0012】
接着シート121,122は、例えば、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)シートにより構成されている。接着シート121,122は、端部シール部材131,132に固着する。
【0013】
セパレータ111,112は、燃料ガスおよび空気ガスを遮蔽する炭素板などにより構成されており、リブ付多孔質基材141,142上にそれぞれ配置されている。
単位セル100の構成についてさらに説明を行う。
【0014】
図8は、リン酸型燃料電池の単位セルの(A)は平断面図、(B)は側断面図である。
なお、図8(A)の平断面図は図7(A)の一点鎖線X−Xにおける断面を、図8(B)の側断面図は図7(A)の一点鎖線Y−Yにおける断面をそれぞれ示している。また、図7と同じ構成には同様の符号としている。以下、図8を参照しながら説明する。
【0015】
シールテープ161は、図8(A)に示されるように、枠型の形状であって、内側に燃料極側の燃料極触媒層181を囲んでいる。また、図示はしていないが、シールテープ162の形状も同様に枠型であり、シールテープ161,162とは寸法は異なるが、フレームシート170も枠型である。
【0016】
シールテープ161,162は、図8(B)に示されるように、フレームシート170を挟んでいる。フレームシート170を挟んで、電解質層191,192が形成され、さらに、電解質層191,192に燃料極触媒層181および空気極触媒層182が形成されている。また、電解質層191および燃料極触媒層181と、電解質層192および空気極触媒層182とは、シールテープ161,162によりそれぞれ囲まれている。
【0017】
電解質層191,192は、リン酸溶液を、例えば、珪化炭素基板に含ませて構成されている。電解質層191,192は燃料極基材151からの、例えば、水素イオンが通過する。
【0018】
燃料極触媒層181および空気極触媒層182は、例えば、白金の微粒子を炭素粉末に担持させた触媒とテフロン(商標登録)とから構成されている。燃料極触媒層181および空気極触媒層182では、燃料極基材151および空気極基材152での化学反応がそれぞれ促進される。
【0019】
上記のような単位セル100が複数積層されてスタックとなって、燃料電池が構成される。
なお、リブ付多孔質基材141,142と、シールテープ161,162およびフレームシート170とはそれぞれ材料の作成誤差による寸法差が生じる。燃料極基材151、空気極基材152、燃料極触媒層181、空気極触媒層182、電解質層191,192およびフレームシート170を合わせた電池部と、リブ付多孔質基材141,142との高さ寸法の合計が、シールテープ161,162、フレームシート170および端部シール部材131,132の合計より大きい場合には、フレームシート170および端部シール部材131,132に掛かる圧力は弱くなり、シール性能が低下する。
【0020】
一方、シールテープ161,162、フレームシート170および端部シール部材131,132の合計の方が大きい場合には、電池部に掛かる圧力が弱くなり、電池内部の接触抵抗が大きくなる。このようなことを防止するために、シールテープ161,162、フレームシート170および端部シール部材131,132で、高さ方向の寸法誤差の調整が行われる。
【0021】
特に、端部シール部材131,132は、上記の通り寸法誤差を調整する際にはガスの流路141a,142aの高さを確保する厚さが必要であるだけでなく、ガス不透過性とともに電解質層191,192に対する耐食性が求められる。また、端部シール部材131,132には、端部シール部材131,132の端面で電解質のリン酸溶液が漏れないように所望のシール性能を備えさせる必要がある。仮に、端部シール部材131,132が電解質層191,192からのリン酸溶液を多く含み、端部シール部材131,132の端面にて、リン酸溶液が漏れると、単位セル100を積層させて燃料電池を構成させた場合には、電解質液量の減少速度増加によってセル電圧低下開始時間が早くなることや絶縁抵抗が低下するなどの問題が発生する可能性がある。
【0022】
このような問題を抑制するために、次のような方法が行われていた。端部シール部材に層状構造であって多孔質の膨張黒鉛シートが用いられていた(例えば、特許文献1参照)。また、膨張黒鉛シートのシール性能をより向上させるために、膨張黒鉛シートに樹脂を含浸させて、膨張黒鉛シートの細孔に樹脂を充填させてシール性能を向上させる方法が提案されていた(例えば、特許文献2参照)。
【0023】
以下に、膨張黒鉛シートに樹脂を含浸させた端部シール部材の製造方法について説明する。
図9は、端部シール部材の製造方法を説明するための図である。
【0024】
製造装置200は、樹脂供給容器210、気密性容器230および減圧装置250を有する。
樹脂供給容器210は、膨張黒鉛シートSに含浸させる樹脂Pを保持している。樹脂供給容器210に保持される樹脂Pは、パイプ220を通じて、気密性容器230に供給される。気密性容器230に供給される樹脂Pの量は、パイプ220に設置した弁V1の開閉を調節することで適宜変化させることができる。
【0025】
気密性容器230は、外部へ続くパイプ240が形成されており、密閉された内部に浸透槽231が配置されて、浸透槽231の底部に膨張黒鉛シートSが配置されている。なお、膨張黒鉛シートSは層の主面が浸透槽231の底部と平行になるように浸透槽231に配置されている。パイプ240を通じて、気密性容器230内の雰囲気が外部へ排気されて、気密性容器230の内部はほぼ真空に保たれている。この状態で、弁V1を調節して、樹脂供給容器210内の樹脂Pを輸送するパイプ220から浸透槽231に樹脂Pを供給して、膨張黒鉛シートSに樹脂Pを含浸させる。
【0026】
減圧装置250は、パイプ240と接続されており、駆動させると、気密性容器230内の雰囲気を吸気して、気密性容器230の内部を真空にする。なお、パイプ240にも弁V2が設置されており、弁V2の開閉を調整することにより、気密性容器230内の真空度を制御することができる。
【0027】
上記の構成を有する製造装置200では、減圧装置250を駆動させて、気密性容器230の内部を真空にする。弁V1を開封することにより、樹脂供給容器210からパイプ220を通じて、樹脂Pを浸透槽231に供給する。供給された樹脂Pを浸透槽231の膨張黒鉛シートS内に含浸させる。
【0028】
図10は、膨張黒鉛シートにおける(A)は樹脂の浸透方向を、(B)および(C)は樹脂が充填された細孔を説明するための拡大図である。
製造装置200を用いて、膨張黒鉛シートSに樹脂Pを含浸させると、図10(A)に示されるように、樹脂Pは膨張黒鉛シートSの層の主面に平行な方向に、膨張黒鉛シートSの縁部から中心部に向かって浸透していく。膨張黒鉛シートSは内部に複数の細孔Saを有するために、樹脂Pは細孔Saを充填しながら膨張黒鉛シートSの中心部に進んでいく。
【0029】
このようにして樹脂Pを含浸させた膨張黒鉛シートSを単位セル100の端部シール部材131,132に用いることにより、電解質層191,192からのリン酸溶液の漏れを防止することができる。
【特許文献1】特開2001−23654号公報
【特許文献2】特開平5−148472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
しかし、上記特許文献2の方法では、膨張黒鉛シートSの層の主面に平行な方向に、樹脂Pが膨張黒鉛シートSの縁部から入り込むと、縁部近傍の細孔Saに樹脂Pが充填されて、樹脂Pは中心部の細孔Saに到達できずに、膨張黒鉛シートSの中心部には樹脂Pが含浸されない可能性がある。このため、樹脂Pが含浸されなかった膨張黒鉛シートSの中心部でリン酸溶液の漏れが生じる可能性があるという問題点があった。
【0031】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、シール性能が向上した端部シール部材の製造方法および電解質の漏れが抑制された燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記目的を達成するために、燃料電池を構成する端部シール部材の製造方法が提供される。
この端部シール部材の製造方法は、複数の細孔を内部に有する、層状構造の膨張黒鉛シートの積層方向に平行な第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面とを除く前記膨張黒鉛シートの外周面を密閉し、前記第1の面と前記第2の面との間に差圧を設けて、前記膨張黒鉛シート内に対して、圧力の高い前記第1の面から、圧力の低い前記第2の面へ向けて樹脂を注入する。
【0033】
このような端部シール部材の製造方法によれば、複数の細孔を内部に有する、層状構造の膨張黒鉛シートの積層方向に平行な第1の面と、第1の面に対向する第2の面とを除く膨張黒鉛シートの外周面が密閉されて、第1の面と第2の面との間に差圧が設けられて、膨張黒鉛シート内に対して、圧力の高い第1の面から、圧力の低い第2の面へ向けて樹脂が注入される。
【発明の効果】
【0034】
上記端部シート部材の製造方法および燃料電池の製造方法では、シール性能が向上した端部シール部材および信頼性が向上した燃料電池が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本実施の形態では、リン酸型の燃料電池の単位セルに用いられる端部シール部材の製造方法について説明する。
【0036】
図1は、実施の形態における単位セルに用いられる端部シール部材の製造方法を説明するための図である。
製造装置10は、図1に示されるように、樹脂供給容器11、気密性容器13および減圧装置15を有し、それぞれの間がパイプ12,14で連通されている。
【0037】
樹脂供給容器11は、膨張黒鉛シートSに含浸させる樹脂Pを保持している。膨張黒鉛シートSは多孔質の層状構造である。樹脂供給容器11に保持される樹脂Pは、パイプ12を通じて、気密性容器13に供給される。気密性容器13に供給される樹脂Pの量などは、パイプ12に設置した弁V1の開閉を調節することにより適宜変化させることができる。また、端部シール部材が用いられるリン酸型の燃料電池は約190度で動作させるために、樹脂Pは、耐熱性、耐食性を兼ね備えるフッ素系樹脂などが好ましい。フッ素系樹脂の具体例として、例えば、PTFE、FEP、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)またはテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などが挙げられる。
【0038】
気密性容器13は、含浸領域13aを有し、含浸領域13aの両側に樹脂供給容器11に通じるパイプ12および外部の減圧装置15と接続したパイプ14と、を備えている。後述する減圧装置15の駆動によりパイプ14を介して気密性容器13の内部の雰囲気が吸気されると、パイプ12を通じて供給された樹脂Pが含浸領域13aを通過する。また、含浸領域13aには膨張黒鉛シートSが収納されている。膨張黒鉛シートSは、層の主面が、樹脂Pの含浸方向と吸気方向と平行となるように、含浸領域13aに収納されている。また、膨張黒鉛シートSの厚さおよび含浸領域13aの高さは共に高さhであり、含浸領域13aの長さは長さLである。
【0039】
減圧装置15は、パイプ14と接続されており、駆動させると、パイプ14と接続されてある気密性容器13内の雰囲気を吸気して、気密性容器13の内部を真空にする。なお、パイプ14にも弁V2が設置されており、弁V2の開閉を調整することにより、気密性容器13内の真空度を制御することができる。
【0040】
以下に、気密性容器13の詳細について図1および図2を参照しながら説明する。
図2は、実施の形態における端部シール部材の製造に用いられる気密性容器の(A)は上面図、(B)は別の上面図である。
【0041】
なお、図2(A)は、図1に示した、膨張黒鉛シートSが配置された気密性容器13の上面図である。図2(B)は、気密性容器13の含浸領域13aの内部の両端にスペーサ13bを新たに配置した場合の上面図である。
【0042】
気密性容器13は、図2(A)に示されるように、含浸領域13aの両側に、パイプ12,14がそれぞれ形成されている。既述の通り、膨張黒鉛シートSは、層の主面が、パイプ12からの樹脂Pの含浸方向およびパイプ14を介した吸気の方向と平行となるように、含浸領域13aに収納されている。なお、膨張黒鉛シートSと含浸領域13aとの幅は共に幅wである。膨張黒鉛シートSの長さlは含浸領域13aの長さLよりも短い。したがって、図1および図2(A)に示されるように、膨張黒鉛シートSは、パイプ12側の面S2およびパイプ14側の面S1を除く外周面が含浸領域13aに密閉されている。
【0043】
このような構成からなる製造装置10において、減圧装置15で、気密性容器13の内部の雰囲気を吸気しながら、樹脂Pを気密性容器13に供給する。含浸領域13aに収納された膨張黒鉛シートSは、パイプ14側の面S1から排気されながら、パイプ12側の面S2から樹脂Pが含浸される。膨張黒鉛シートSの層の主面は、樹脂Pの含浸方向および排気方向と平行であるために、面S2からの樹脂Pを、層の主面に沿って、面S1まで浸入させることが可能となる。このため、樹脂Pを膨張黒鉛シートS内に均一に行き届かせることができ、膨張黒鉛シートS内のほぼ全ての細孔に樹脂Pを充填させることができる。
【0044】
このようにして樹脂Pを含浸させた膨張黒鉛シートSはシール性能が向上して、端部シール部材131,132に用いることにより、電解質層191,192からのリン酸溶液の漏れを抑制することができる。
【0045】
なお、気密性容器13の含浸領域13aは、含浸対象となる膨張黒鉛シートSの寸法に応じて用意される。ところが、例えば、長さl2が長さLよりも短く、幅w2が幅wよりも小さく、厚さhである膨張黒鉛シートS3に樹脂Pを含浸させる場合には、図2(B)に示されるように、含浸領域13aの幅wを幅w2にするために、含浸領域13aにスペーサ13bを配置するようにしても構わない。
【0046】
次に、製造装置10を用いて膨張黒鉛シートSに樹脂Pを適切に含浸させるための、膨張黒鉛シートSの細孔の直径、膨張黒鉛シートに対する樹脂含浸率および気密性容器13内の真空度について説明する。
【0047】
まず、膨張黒鉛シートSに樹脂Pを適切に含浸させるための、膨張黒鉛シートSが内部に有する細孔の直径を定める。
図3は、実施の形態における細孔の直径に対する細孔径分布(左縦軸)および累積細孔容積(右縦軸)を示すグラフである。
【0048】
なお、図3は、横軸は細孔の直径(μm)を表している。これに対して、縦軸(左)は直径Dの細孔の分布(dV/dlogD)を、縦軸(右)は全体に対する細孔の累積体積(%)をそれぞれ表している。また、細孔の直径の大きさ、細孔の分布および細孔の体積の測定は水銀ポロシメーターを用いて行った。
【0049】
このグラフによれば、細孔の直径が0.15μmまでは、細孔径分布は増加している。リン酸の粘度は65.0cP(温度20℃の場合)と高いので(例えば、水の粘度は1.002cPである。)、直径が0.15μm以下の細孔にはリン酸は入り込まない可能性が高いことが考えられる。
【0050】
また、細孔の直径が0.15μmを超えると、細孔の分布は減少している。ところで、リン酸漏れの原因の一つとして、毛細血管現象が挙げられる。毛細血管現象では、細孔の直径と液体を吸い上げる高さとが反比例の関係にある。このため、細孔の分布が少なく、細孔の直径が1μm以上では、毛細血管現象が機能しないと考えられ、リン酸の漏れが生じない可能性が高いことが考えられる。
【0051】
したがって、膨張黒鉛シートSに内在する細孔の直径が0.15μm〜1μmの範囲であれば、リン酸の漏れが生じる可能性が高い。
次に、膨張黒鉛シートSに樹脂Pを適切に含浸させるための、上記直径の範囲にある細孔を内部に有する膨張黒鉛シートSに対する樹脂含浸率について定める。
【0052】
図4は、実施の形態における膨張黒鉛シートへの樹脂含浸率に対するセル開回路電圧低下開始時間(リン酸漏れなしの場合を1とする)(左縦軸)およびリン酸染み出し速度(右縦軸)を示すグラフである。
【0053】
図4は、様々な含浸率で樹脂Pを含浸させた膨張黒鉛シートSを端部シール部材として単位セル100に配置して、その時のセル開回路電圧低下開始時間およびリン酸染み出し速度を測定した結果を示している。また、横軸は膨張黒鉛シートSに対する樹脂含浸率(%)を表している。なお、樹脂含浸率とは、膨張黒鉛シートSが内部に有する、直径が0.15μm〜1μmの複数の細孔に対する樹脂Pの含浸率である。樹脂含浸率に対して、縦軸(左)は膨張黒鉛シートSで構成された端部シール部材が適用された単位セルのセル開回路電圧低下開始時間(リン酸漏れ無しの場合を1とする)を、縦軸(右)はリン酸染み出し速度(g/h)をそれぞれ表している。なお、セル開回路電圧低下開始時間は、セル開回路電圧が基準下限値の950mV以下になった時の時間のことである。また、リン酸染み出し速度とは、1時間(h)あたりのリン酸の染み出し量(g)である。また、それぞれの測定時の単位セルは、反応ガス(燃料ガスおよび空気ガス)圧は0.1MPa、温度は約190度、外部電圧は0mVであった。
【0054】
このグラフによれば、樹脂含浸率が増加するにつれて、リン酸染み出し速度が低下している。すなわち、樹脂Pが多くの細孔を充填するにつれて、リン酸の染み出しが抑制されていることが考えられる。一方、セル開回路電圧低下開始時間は、樹脂含浸率が減少するにつれて、早くなる傾向を示している。これは、リン酸の染み出し速度が増加して、電解質が早く損なわれるために、セル開回路電圧低下時間が早くなったと考えられる。
【0055】
この結果から、例えば、セル開回路電圧低下開始時間が、リン酸漏れなしの場合と比べて0.75以上である場合には、樹脂含浸率は30%以上が望ましく、特に、60%以上が最適である。
【0056】
最後に、上記範囲の樹脂含浸率の膨張黒鉛シートSにするために、製造装置10における気密性容器13の真空度を定める。
図5は、実施の形態における、膨張黒鉛シートの樹脂含浸率に対する気密性容器の真空度を示すグラフである。
【0057】
なお、図5は、横軸は膨張黒鉛シートに対する樹脂含浸率(%)を表している。縦軸は、膨張黒鉛シートをこの樹脂含浸率にするための気密性容器13の真空度(kPa)を表している。
【0058】
グラフによれば、図4の結果に従って、膨張黒鉛シートSの樹脂含浸率を30%以上にするためには気密性容器13内の真空度を9kPa以上、60%以上にするためには18kPa以上になるように減圧装置15を動作させればよいことが分かる。
【0059】
(実施例1)
実施例1では、製造装置10を用いて、実施の形態(図3〜図5)から得られた結果から膨張黒鉛シートSに樹脂Pを含浸させて端部シール部材を作成する。
【0060】
実施例1で用いられる膨張黒鉛シートSは、「ニカフィルム FL−400(厚さ:およそ1.6mm、かさ密度:およそ1.2g/cm3)(日本カーボン(株)製)」であって、寸法(長さ×幅)を1050mm×18.5mm、525mm×39mmの2種類をそれぞれ2本用いた。
【0061】
樹脂Pは、「四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂ディスパージョン FEP 120−JR(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)(平均粒径:0.15μm〜0.35μm)」であって、およそ50cc用いた。
【0062】
製造装置10の樹脂供給容器11に上記の樹脂Pを注入し、気密性容器13の含浸領域13aに上記の膨張黒鉛シートSをそれぞれ1本ずつ収納した。膨張黒鉛シートSに樹脂Pを以下の手順で含浸させた。
【0063】
まず、減圧装置15を駆動させる。この際、樹脂供給容器11内の樹脂Pは、まだ気密性容器13に供給しない。減圧装置15を駆動させながら、弁V2を少しずつ開放していく。弁V2を開放して、気密性容器13の真空度がおよそ20kPaとなったら、その真空度で、およそ30分間維持する。
【0064】
30分後、20kPaの真空度を保ったままの状態で、弁V1を開放して、パイプ12を通じて、所定の量の樹脂Pを気密性容器13に供給する。所定の量の樹脂Pの供給が終了すると弁V1を閉じる。
【0065】
次いで、20kPaの真空度を保ったままの状態で、およそ30分間、樹脂Pを膨張黒鉛シートSに含浸させる。この間に、上記で説明したように、膨張黒鉛シートSの他方の面S2から樹脂Pが膨張黒鉛シートS内に浸入し、膨張黒鉛シートSの内部に存在する細孔が樹脂Pで充填される。
【0066】
最後に、樹脂Pを含浸させた膨張黒鉛シートSを、およそ290℃の電気炉でおよそ1時間焼成を行った。
このようにして樹脂Pを含浸させたそれぞれの膨張黒鉛シートSに対して、水銀ポロシメーターを用いて、樹脂含浸率を測定したところおよそ60%であった。
【0067】
(実施例2)
実施例1の手順で作成した膨張黒鉛シートSと、樹脂Pを含浸させていない膨張黒鉛シートSとをそれぞれ用いた単位セル100を複数積層させた燃料電池において、燃料電池の運転時間に対するセル電圧低下について比較を行った。なお、実施例2では、実施例1の手順で、膨張黒鉛シートSの樹脂含浸率がそれぞれ80%および30%となるようにした。また、実施例2のセル電圧は、樹脂Pが含浸された膨張黒鉛シートSはリン酸漏れをほとんど起こさないと仮定した予測値である。樹脂Pを含浸させていない膨張黒鉛シートSを用いた単位セル100のセル電圧の低下の原因は、リン酸漏れやその他様々な理由が考えられる。リン酸漏れ以外の要因がセル電圧の低下にどのような影響を及ぼしているのかは把握できていない。このため、実施例2では、リン酸漏れのみがセル電圧の低下に起因していると仮定した。
【0068】
図6は、実施の形態における樹脂含浸率0、30、80%の時の燃料電池のセル電圧の故障目安到達時間を示すグラフである。なお、横軸は樹脂含浸率を表しており、縦軸は樹脂含浸率80%の時のセル電圧の故障目安到達時間に対するセル電圧の故障目安到達時間を表している。ここで言うセル電圧の故障目安時間とは、セル電圧が設計出力に対して半分になったときとする。
【0069】
このグラフによれば、樹脂含浸率が増加するに伴い、故障目安到達時間は遅くなっており、燃料電池がより長寿命化されている。これは樹脂Pを膨張黒鉛シートSに含浸させて樹脂Pの含浸率の増加に伴って、リン酸漏れの抑制が向上したと考えられる。
【0070】
以上のように、膨張黒鉛シート内に均等に樹脂を含浸させることにより、膨張黒鉛シートに内在する細孔に樹脂が充填される。このような膨張黒鉛シートはシール性能が向上して、端部シール部材として燃料電池に用いることにより、燃料電池内でリン酸の漏れが抑制されるために、燃料電池を長寿命化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施の形態における単位セルに用いられる端部シール部材の製造方法を説明するための図である。
【図2】実施の形態における端部シール部材の製造に用いられる気密性容器の(A)は上面図、(B)は別の上面図である。
【図3】実施の形態における細孔の直径に対する細孔径分布(左縦軸)および累積細孔容積(右縦軸)を示すグラフである。
【図4】実施の形態における膨張黒鉛シートへの樹脂含浸率に対するセル開回路電圧低下開始時間(リン酸漏れ無しの場合を1とする)(左縦軸)およびリン酸染み出し速度(右縦軸)を示すグラフである。
【図5】実施の形態における、膨張黒鉛シートの樹脂含浸率に対する気密性容器の真空度を示すグラフである。
【図6】実施の形態における樹脂含浸率0、30、80%の時の燃料電池のセル電圧の故障目安到達時間を示すグラフである。
【図7】リン酸型燃料電池の単位セルの(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図8】リン酸型燃料電池の単位セルの(A)は平断面図、(B)は側断面図である。
【図9】端部シール部材の製造方法を説明するための図である。
【図10】膨張黒鉛シートにおける(A)は樹脂の浸透方向を、(B)および(C)は樹脂が充填された細孔を説明するための拡大図である。
【符号の説明】
【0072】
10 製造装置
11 樹脂供給容器
12,14 パイプ
13 気密性容器
13a 含浸領域
15 減圧装置
V1,V2 弁
P 樹脂
S 膨張黒鉛シート
S1,S2 面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を構成する端部シール部材の製造方法において、
複数の細孔を内部に有する、層状構造の膨張黒鉛シートの積層方向に平行な第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面とを除く前記膨張黒鉛シートの外周面を密閉し、
前記第1の面と前記第2の面との間に差圧を設けて、前記膨張黒鉛シート内に対して、圧力の高い前記第1の面から、圧力の低い前記第2の面へ向けて樹脂を注入することを特徴とする端部シール部材の製造方法。
【請求項2】
前記膨張黒鉛シートが有する複数の前記細孔に対する前記樹脂の含浸率は30%以上であることを特徴とする請求項1記載の端部シール部材の製造方法。
【請求項3】
前記膨張黒鉛シートが有する複数の前記細孔に対する前記含浸率は60%以上であることを特徴とする請求項2記載の端部シール部材の製造方法。
【請求項4】
前記差圧は9kPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の端部シール部材の製造方法。
【請求項5】
前記差圧は18kPa以上であることを特徴とする請求項4記載の端部シール部材の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂は、フッ素系樹脂のポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体またはテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の端部シール部材の製造方法。
【請求項7】
端部シール部材を有する燃料電池の製造方法において、
複数の細孔を内部に有する、層状構造の膨張黒鉛シートの積層方向に平行な第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面とを除く前記膨張黒鉛シートの外周面を密閉し、前記第1の面と前記第2の面との間に差圧を設けて、前記膨張黒鉛シート内に対して、圧力の高い前記第1の面から、圧力の低い前記第2の面へ向けて樹脂を注入して、前記端部シール部材を製造する工程と、
前記燃料電池の電極部に設置された多孔質基材の端部に前記端部シール部材を配置する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項8】
前記膨張黒鉛シートが有する複数の前記細孔に対する前記樹脂の含浸率は30%以上であることを特徴とする請求項7記載の燃料電池の製造方法。
【請求項9】
前記膨張黒鉛シートが有する複数の前記細孔に対する前記含浸率は60%以上であることを特徴とする請求項8記載の燃料電池の製造方法。
【請求項10】
前記差圧は9kPa以上であることを特徴とする請求項7または8に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項11】
前記差圧は18kPa以上であることを特徴とする請求項10記載の燃料電池の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂は、フッ素系樹脂のポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体またはテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体であることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか1項に記載の燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−27516(P2010−27516A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190097(P2008−190097)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】