説明

筒状構造

【課題】 少なくとも一対の対向面を備えた筒状構造において、各対向面の一方の開口側端縁が比較的短い湾曲形状で他方の開口側端縁が比較的長い直線形状である場合にも、歪の発生を良好に抑制する。
【解決手段】 筒状構造の一例としてのフード部の左右側面を構成する側面部41は、先端側端縁41aの方が基端側端縁41bよりも短く、先端側端縁41aから基端側端縁41bに向かって互いの間隔が徐々に広がる複数の溝47が切削加工によって形成されている。この溝47は、いずれも全体に亘って同一深さの矩形断面を有し、隣接する溝47同士の間隔は、先端側端縁41aにおける間隔と基端側端縁41bにおける間隔との比が先端側端縁41aの長さと基端側端縁41bの長さとの比に等しくなるように徐々に広がっている。このため、先端側端縁41aを外に凸に湾曲させても基端側端縁41bが同様に湾曲してしまうのが抑制され、長期間放置しても歪が発生し難い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一対の対向面を備えた筒状構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、平板状の板材から曲面状に構成された構造を作成する場合、その板材の片面に多数の溝を平行に形成し、その溝に沿った方向の軸を中心にして板材を曲面状に湾曲させることが提案されている。この場合、例えば樹脂製の板材に切削加工によって上記溝を形成するだけで樹脂による曲面状の構造を得ることができる。従って、射出成形によって樹脂を曲面状に成形する場合などのように金型を作成する必要がないため、製造コストを良好に低減することができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−280751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、筒状構造の場合、一方の開口部と他方の開口部とに異なる形状が要求される場合もある。例えば、その筒状構造を構成する一対の対向面の、一方の開口側端縁が比較的短い湾曲形状で、他方の開口側端縁が比較的長い直線形状である場合もある。しかしながら、このような対向面を得るために上記のように多数の溝を平行に形成した場合、上記他方の開口側端縁も上記一方の開口側端縁と同じ長さに渡って同一の曲率で湾曲する傾向がある。従って、上記他方の開口側端縁を強制的に直線状に維持しようとすると、長期間放置されたときに歪が出易くなる。
【0004】
そこで、本発明は、少なくとも一対の対向面を備えた筒状構造において、各対向面の一方の開口側端縁が比較的短い湾曲形状で、他方の開口側端縁が比較的長い直線形状である場合にも、歪の発生を良好に抑制することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達するためになされた本発明は、少なくとも一対の対向面を備えた筒状構造であって、上記各対向面は、上記各対向面の一方の開口側端縁が他方の開口側端縁よりも短い平板状の板材から構成され、上記各対向面の内側には、互いの間隔が上記一方の開口側端縁から上記他方の開口側端縁に向かって徐々に広がる複数の溝が切削加工によって形成され、かつ、該複数の溝のうちの任意の2つの間隔は、上記一方の開口側端縁における間隔と上記他方の開口側端縁における間隔との比が上記一方の開口側端縁の長さと上記他方の開口側端縁の長さとの比に等しく、上記各対向面の上記各開口側端縁には、上記一方の開口側端縁を湾曲形状に、上記他方の開口側端縁を直線状に、それぞれ維持する維持部材が固着されたことを特徴としている。
【0006】
このように構成された本発明では、筒状構造を構成する一対の対向面は、各対向面の一方の開口側端縁が他方の開口側端縁よりも短い平板状の板材から構成され、維持部材を固着することによって上記一方の開口側端縁を湾曲形状に、上記他方の開口側端縁を直線状にそれぞれ維持している。本発明では、このように、射出成形によって成形する場合などのように金型を作成する必要がなく、平板状の板材から曲面状の上記各対向面を得ることにより、製造コストを良好に低減することができる。
【0007】
しかも、本発明では、上記各対向面の内側には、互いの間隔が上記一方の開口側端縁から上記他方の開口側端縁に向かって徐々に広がる複数の溝が切削加工によって形成されている。しかも、その複数の溝のうちの任意の2つの間隔は、上記一方の開口側端縁における間隔と上記他方の開口側端縁における間隔との比が上記一方の開口側端縁の長さと上記他方の開口側端縁の長さとの比に等しくされている。このため、上記一方の開口側端縁を湾曲させても、他方の開口側端縁が同様に湾曲してしまうのを良好に抑制することができ、長期間放置しても歪が発生し難い。
【0008】
なお、本発明は、以下の構成に限定されるものではないが、上記維持部材は、上記各対向面の上記一方の開口側端縁同士を連結し、開口部を有する平板状の第1の板材と、上記各対向面の上記他方の開口側端縁同士を連結し、開口部を有する平板状の第2の板材とによって構成されてもよい。この場合、上記維持部材も、開口部を有する平板状の板材から構成されるため、板材に切削加工等を施すことによって作成することができる。従って、この場合、製造を一層容易にして上記形状の筒状構造を一層安価に作成することができる。また、この場合、上記第1の板材または上記第2の板材の開口部は、ランプ,表示器具,ケーブル,スイッチ類,または表示パネルを取り付けるための開口部であってもよい。
【0009】
また、上記筒状構造の外周に沿って上記一対の対向面に挟まれる一対の平面部を備え、該各平面部は、上記外周方向にそれぞれ2分された平板状の板材によって構成され、上記各平面部を構成する各板材は、それに隣接する上記対向面を構成する上記板材と一体に構成されてもよい。
【0010】
この場合、上記各対向面を構成する板材には、上記各平面部の2分された各部を構成する板材が一体に構成されており、その2分された各平面部をつなぎ合わせることによって筒状構造が得られる。従って、この場合、2つの部品を組み合せることによって筒状構造が得られることになり、しかも、平面同士をつなぎ合わせる作業は曲面同士をつなぎ合わせる作業に比べて極めて容易である。よって、この場合、製造を一層容易にして上記形状の筒状構造を一層安価に作成することができる。
【0011】
また、この場合、上記各平面部を構成する各板材、及びそれに隣接する上記対向面を構成する上記板材は、互いに面対称となるよう一体に構成されてもよい。この場合製造を更に一層容易にして上記形状の筒状構造を一層安価に作成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。図1は、本発明が適用された筐体1の構成を表す斜視図である。図1に示すように、本実施の形態の筐体1は、略L字状に構成された支持部2の上端近傍に、本発明の筒状構造の一例としてのフード部3を固定した構成を有している。なお、支持部2は、例えば本願出願人が特開2005−150170号公報にて提案しているように、切削加工が施された平板状の合成樹脂板を組み合せることによって構成されている。
【0013】
フード部3は、曲面状に構成された一対の対向面の一例としての左右の側面3bと、平面状に構成された平面部の一例としての上面3c,下面3dとを備えた断面略四角形の筒状に構成されている。また、フード部3は、その筒状構造を構成する2枚の板材4,4と、その筒状構造を支持部2に固定する維持部材及び第2の板材の一例としての支持板5と、その筒状構造の先端部を覆う維持部材及び第1の板材の一例としてのカバー6とを備えている。図1に示すように、フード部3の上面3c,下面3dは、外周方向の中央で2分されており、各板材4,4は、左右いずれか一方の側面3bと、上記2分された上面3c及び下面3dのうちその側面3bに隣接する部分とを構成する。
【0014】
図2は、図1における向かって左側の板材4の構成を、内側から表す展開図である。なお、図1における向かって右側の板材4は、これとは左右対称に構成されている。板材4は、合成樹脂製の平板を切削加工して構成され、図2に示すように、側面3bを構成する側面部41と、上面3cを構成する上面部42と、下面3dを構成する下面部43とを備えている。側面部41と上面部42,下面部43との間には、V字状の断面を有する折り溝44,45が切削加工によって形成され、この部分で板材4は略直角に折り曲げ可能とされている。
【0015】
また、側面部41は、一方の開口側端縁の一例としての先端側端縁41aの方が他方の開口側端縁の一例としての基端側端縁41bよりも短く、かつ、平行な辺を有さない四角形に構成されている。そして、上面部42は、先端側端縁42aが側面部41の先端側端縁41aと一直線状に配設される長方形状に構成され、下面部43は、基端側端縁43bが側面部41の基端側端縁41bと一直線状に配設される長方形状に構成されている。更に、側面部41の内側には、先端側端縁41aから基端側端縁41bに向かって、互いの間隔が徐々に広がる複数の溝47が切削加工によって形成されている。この溝47は、いずれも全体に亘って同一深さの矩形断面を有し、隣接する溝47同士の間隔は、先端側端縁41aにおける間隔と基端側端縁41bにおける間隔との比が先端側端縁41aの長さと基端側端縁41bの長さとの比に等しくなるように徐々に広がっている。このため、先端側端縁41aを外に凸に湾曲させても、基端側端縁41bが同様に湾曲してしまうのを良好に抑制することができる。
【0016】
次に、図3(A)は、カバー6の構成をフード部3の内側から表した平面図であり、図3(B)は、支持板5の構成をフード部3の内側から表した平面図である。図3(A)に示すように、カバー6は平板状の合成樹脂板によって構成され、前述の側面部41,上面部42,下面部43の先端側端縁41a,42a,43aが嵌合する嵌合溝61と、その嵌合溝61の内側に配設される矩形の開口部62とが切削加工によって形成されている。嵌合溝61のうち、上面部42,下面部43の先端側端縁42a,43aが嵌合する部分は直線状に構成され、側面部41の先端側端縁41aが嵌合する部分は外に凸の曲線状に構成されている。また、各先端側端縁41a,42a,43aは、板材4の他の部分よりも薄肉に構成され、それらを嵌合溝61に嵌合させると、板材4の外周面がカバー6の外周面と連接するようになっている。
【0017】
図3(B)に示すように、支持板5も平板状の合成樹脂板によって構成され、前述の側面部41,上面部42,下面部43の基端側端縁41b,42b,43bが嵌合する嵌合溝51と、その嵌合溝51の内側に配設される矩形の開口部52と、支持部2へ固定するためのネジ穴53とが切削加工によって形成されている。なお、嵌合溝51は、側面部41の基端側端縁41bが嵌合する部分も上面部42,下面部43の基端側端縁42b,43bが嵌合する部分と同様に直線状に構成され、全体として矩形に構成されている。また、各基端側端縁41b,42b,43bは、板材4の他の部分よりも薄肉に構成され、それらを嵌合溝51に嵌合させると、板材4の外周面が支持板5の外周面と連接するようになっている。
【0018】
このため、前述のように板材4の上面部42,下面部43を側面部41に対して折り溝44,45で折り曲げ、更に、側面部41の先端側端縁41aのみを湾曲させれば、側面部41,上面部42,下面部43の先端側端縁41a,42a,43aを嵌合溝61に、基端側端縁41b,42b,43bを嵌合溝51に、それぞれ嵌合することができる。このようにして、板材4,4、支持板5、及び、カバー6を互いに組み付けて接着剤等によって固定すれば、フード部3が得られる。なお、カバー6の開口部62には、ランプ,表示器具,スイッチ類などを取り付けることができ、この開口部62と支持板5の開口部52とを通ってケーブルを挿通することも可能である。
【0019】
このように、本実施の形態の筐体1は、平板状の合成樹脂板に切削加工を施して組み合せることによって作成可能であるので、射出成形によって成形する場合などのように金型を作成する必要がなく、製造コストを良好に低減することができる。しかも、側面部41は、前述のような溝47を設けたことにより、基端側端縁41bを直線状に維持したまま先端側端縁41aを湾曲させることが、大きな力を必要とすることなく容易に実行できる。また、先端側端縁41a,基端側端縁41bは、カバー6,支持板5の嵌合溝61,51に嵌合接着することによってその形状に良好に維持することができる。従って、本実施の形態では、上記のような形状のフード部3を容易にかつ安価に作成することができる。しかも、上記実施の形態では、2つの板材4を、平面状の上面部42,下面部43同士をつなぎ合わせることによってフード部3を構成しているので、製造を一層容易にしてその製造コストを一層良好に低減することができる。
【0020】
また、上記実施の形態では、各溝47を、側面部41の先端側端縁41aから基端側端縁41bまで連続して形成しているので、上記のように湾曲させることで極めて滑らかな曲面が得られる。更に、上記実施の形態では、前述のような溝47を設けることにより側面部41の基端側端縁41bが湾曲するのを抑制しているので、長時間放置しても歪が発生し難い。
【0021】
なお、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、上記実施の形態では、図4(B)に模式的に示すように、側面部41に溝47を均等に設けており、このため図4(A)に模式的に示すように、先端側端縁41aを均等に湾曲させることができたが、図4(D)に模式的に示すように、溝47を側面部41の上下両端近傍に集中的に設ければ、図4(C)に模式的に示すように、先端側端縁41aを上下両端近傍で大きく湾曲させることができる。逆に、図4(F)に模式的に示すように、溝47を側面部41の中央近傍に集中的に設ければ、図4(E)に模式的に示すように、先端側端縁41aを上下方向中央近傍で大きく湾曲させることができる。更に、図4(H)に模式的に示すように、溝47を例えば上端近傍(下端近傍であってもよい)に集中的に設ければ、図4(G)に模式的に示すように、先端側端縁41aを上端近傍で大きく湾曲させることができる。
【0022】
そして、図4(D)に例示したような側面部41を使用した場合は、図5(A)に模式的に示すように、側面3bの上下両端が大きく湾曲したフード部3が得られ、図4(F)に例示したような側面部41を使用した場合は、図5(B)に模式的に示すように、側面3bの上下方向中央近傍が大きく湾曲したフード部3が得られる。更に、本発明は、図5(C)に例示するように、側面3bが内に凸に湾曲したフード部3に対しても適用することができ、更に、側面が平面状で上下面が湾曲した筒状構造や、開口部が上下方向に配設される筒状構造にも同様に適用することができる。
【0023】
更に、板材4は、図6に例示するように、側面部41が台形に構成されて各斜辺に長方形状の上面部42,下面部43が連接されてもよい。この場合、上下が対称のフード部3が得られる。
【0024】
また、上記実施の形態では、支持板5,カバー6も板材から切削加工によって作成しているが、これらは射出成形によって作成してもよい。但し、上記実施の形態では、支持板5,カバー6も板材から切削加工によって作成しているので、フード部3の製造を一層容易にしてそのフード部3を一層安価に作成することができる。更に、維持部材としては、この他にも、上記各開口部を塞ぐ、若しくは開閉可能に塞ぐような構成も採用でき、この場合、本発明の筒状構造を一部に備えた箱状物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明が適用された筐体の構成を表す斜視図である。
【図2】その筐体のフード部を構成する板材の構成を、内側から表す展開図である。
【図3】そのフード部を構成する支持板及びカバーの構成を、内側から表す平面図である。
【図4】上記板材の変形例の構成を模式図的に表す説明図である。
【図5】上記フード部の変形例の構成を模式的に表す斜視図である。
【図6】上記板材の更なる変形例の構成を模式的に表す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1…筐体 2…支持部 3…フード部 3b…側面
3c…上面 3d…下面 4…板材 5…支持板
6…カバー 41…側面部 41a…先端側端縁 41b…基端側端縁
42…上面部 43…下面部 47…溝 51,61…嵌合溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の対向面を備えた筒状構造であって、
上記各対向面は、上記各対向面の一方の開口側端縁が他方の開口側端縁よりも短い平板状の板材から構成され、
上記各対向面の内側には、互いの間隔が上記一方の開口側端縁から上記他方の開口側端縁に向かって徐々に広がる複数の溝が切削加工によって形成され、かつ、該複数の溝のうちの任意の2つの間隔は、上記一方の開口側端縁における間隔と上記他方の開口側端縁における間隔との比が上記一方の開口側端縁の長さと上記他方の開口側端縁の長さとの比に等しく、
上記各対向面の上記各開口側端縁には、上記一方の開口側端縁を湾曲形状に、上記他方の開口側端縁を直線状に、それぞれ維持する維持部材が固着されたことを特徴とする筒状構造。
【請求項2】
上記維持部材は、上記各対向面の上記一方の開口側端縁同士を連結し、開口部を有する平板状の第1の板材と、上記各対向面の上記他方の開口側端縁同士を連結し、開口部を有する平板状の第2の板材とによって構成されたことを特徴とする請求項1記載の筒状構造。
【請求項3】
上記第1の板材または上記第2の板材の開口部は、ランプ,表示器具,ケーブル,スイッチ類,または表示パネルを取り付けるための開口部であることを特徴とする請求項2記載の筒状構造。
【請求項4】
上記筒状構造の外周に沿って上記一対の対向面に挟まれる一対の平面部を備え、
該各平面部は、上記外周方向にそれぞれ2分された平板状の板材によって構成され、
上記各平面部を構成する各板材は、それに隣接する上記対向面を構成する上記板材と一体に構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の筒状構造。
【請求項5】
上記各平面部を構成する各板材、及びそれに隣接する上記対向面を構成する上記板材は、互いに面対称となるよう一体に構成されたことを特徴とする請求項4記載の筒状構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−119949(P2008−119949A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306692(P2006−306692)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】