説明

管の欠陥検査装置および検査方法

【課題】鋳鉄管などの管の欠陥の有無を確実に検知することができるようにする。
【解決手段】鋳鉄管Pの欠陥の有無を検知する欠陥検査装置5であって、鋳鉄管Pの内部に水圧を負荷してアコースティックエミッション(AE)を発生させるポンプ7と、鋳鉄管Pの軸心方向に複数配置されて上記AEを検出するAEセンサ1,2,3と、各AEセンサ1,2,3にてAEを検出した時刻の差から当該AEの発生位置を特定する発生位置特定部50とを有し、鋳鉄管Pの内部への水圧の負荷、AEの検出および当該AEの発生位置の特定を行う一連の工程を3回繰り返し、特定されたAE発生位置が当該3回で重複すれば、この重複したAE発生位置に欠陥が有ると判断する欠陥検出部60を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管の欠陥検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上下水道やガスの輸送用に用いられる管は、工場での製造後に様々な検査が行われ、これらの検査に合格した製品が完成品となる。そして、このような検査には、製品のより高い品質を保証するためにも、精度の高い検査装置の導入が望まれている。
【0003】
従来からの検査としては、管の内部に水圧を負荷して外部への漏水の有無を目視により確認する水圧試験(公的規格で定められた試験、非特許文献1、2および3参照)がある。また、外観検査としては、目視により確認する方法や管の一部に渦電流を流して発生する電磁誘導の変化から探傷を行う渦流探傷がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「JIS G 5526 ダクタイル鋳鉄管」、日本規格協会、1998年11月20日改正、p.6−7
【非特許文献2】「JWWA G 113 水道用ダクタイル鋳鉄管」、日本水道協会、2005年11月18日改正
【非特許文献3】「ダクタイル管路のてびき JDPA T 26」、日本ダクタイル鉄管協会、2006年9月、p.27−28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の水圧試験において、漏水を目視によって確認する方法では、人的ミスによる見逃しの危険性を排除できない。また、目視や渦流探傷による外観検査では、管の外表面に現れない欠陥までは検知することができなかった。
【0006】
そこで、本発明は、漏水確認をより確実に行うとともに、従来の外観検査では見つけにくかった欠陥をも検知することができる管の欠陥検査装置および検査方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために請求項1記載の発明は、管の欠陥の有無を検知する管の欠陥検査装置であって、管に応力を負荷してアコースティックエミッションを発生させる応力負荷手段と、管の軸心方向に複数配置されて上記アコースティックエミッションを検出する検出手段と、各検出手段にてアコースティックエミッションを検出した時刻の差から当該アコースティックエミッションの発生位置を特定する発生位置特定手段とを有し、上記管への応力の負荷、アコースティックエミッションの検出および当該アコースティックエミッションの発生位置の特定を行う一連の工程を複数回繰り返し、特定されたアコースティックエミッションの発生位置が当該複数回で重複すれば、この重複したアコースティックエミッションの発生位置に欠陥が有ると判断する欠陥検出手段を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1に記載の欠陥検査装置において、応力負荷手段は、管の内部に水圧を負荷するものであることを特徴とする。
さらに、請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載の欠陥検査装置において、発生位置特定手段は、アコースティックエミッションを検出した検出手段が発信する信号から所定の周波数成分を除去するフィルタ部と、フィルタ部を通過した信号に基づいて当該アコースティックエミッションの発生位置を算出する演算部とを有することを特徴とする。
【0009】
一方、請求項4記載の発明は、管の欠陥検査方法であって、管への応力の負荷によりアコースティックエミッションを発生させ、管の軸心方向に複数配置された検出手段で上記アコースティックエミッションを検出し、各検出手段にてアコースティックエミッションを検出した時刻の差から当該アコースティックエミッションの発生位置を特定し、上記管への応力の負荷、アコースティックエミッションの検出および当該アコースティックエミッションの発生位置の特定を行う一連の工程を複数回繰り返し、特定されたアコースティックエミッションの発生位置が当該複数回で重複すれば、この重複したアコースティックエミッションの発生位置に欠陥が有ると判断することを特徴とする。
【0010】
また、請求項5記載の発明は、請求項4に記載の欠陥検査方法において、管への応力の負荷は、管の内部への水圧の負荷であることを特徴とする。
さらに、請求項6記載の発明は、請求項5に記載の欠陥検査方法において、管の内部への水圧の負荷を行ったときに、同時に管の外部へのにじみ漏水を検査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
アコースティックエミッションの発生位置を発生位置特定手段で複数回特定し、特定されたアコースティックエミッションの発生位置に基づいて管の欠陥の有無を検知するため、人的なミスを防止でき、さらに、欠陥以外を誤検知することなく、目視や渦流探傷で検知できない欠陥も確実に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明における管の欠陥検査装置の概略図である。
【図2】同欠陥検査装置で管の欠陥から発生するアコースティックエミッション(AE)を検出する状態を示した一部切欠拡大図である。
【図3】同欠陥検査装置の演算装置を示すブロック図である。
【図4】(a)はAEセンサによりAEの検出を示すグラフであり、(b)はAE発生位置を算出する式を説明するための図である。
【図5】鋳鉄管の各判断点におけるAEのエネルギーを示すグラフであり、(a)が第1回目の計測時、(b)が第2回目の計測時、(c)が第3回目の計測時である。
【図6】同欠陥検査装置での検査における管内の水圧変化を示すグラフである。
【図7】同欠陥検査装置による検査方法を説明するためのフローチャート(前半)である。
【図8】同欠陥検査装置による検査方法を説明するためのフローチャート(後半)である。
【図9】同欠陥検査装置での検査の変形例における管内の水圧変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0013】
次に、この発明の実施の形態に係る管の欠陥検査装置および検査方法について、図面を参照しながら、具体的に示した実施例に基づき詳細に説明する。この欠陥検査装置は、検査対象となる鋳鉄管の内部に水圧を負荷することで、鋳鉄管が有する欠陥(具体的には後に表1で示す)、その他を原因とするアコースティックエミッション(以下、AEという)を発生させるとともに検出し、鋳鉄管の欠陥の有無を検知するものである。水道用に用いられる管には、管の内部に水圧を負荷して外部への漏水の有無を目視により確認する水圧試験(公的規格で定められた試験)を実施するが、本欠陥検査装置はこの試験における管内部への水圧負荷工程を利用することができる。なお、鋳鉄管の製造工程で生ずる欠陥を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
図1および2に示すように、この欠陥検査装置5は、検査対象となる鋳鉄管P(水圧負荷の工程では両端を蓋Lで密閉する)の内部に水圧を負荷するポンプ(応力負荷手段の一例である)7と、内部に水圧が負荷された鋳鉄管Pから発生するAEを検出するために鋳鉄管Pの軸心方向に沿って互いに間隔をおいて配置された3つのAEセンサ(検出手段の一例である)1,2,3と、これらAEセンサ1,2,3に電気的に接続されて鋳鉄管Pの欠陥nの有無および当該欠陥nの推定位置を求める演算装置10と、この演算装置10による結果を表示する表示装置70とから構成される。
【0016】
図3に示すように、この演算装置10は、AEの発生位置を特定する発生位置特定部(発生位置特定手段の一例である)50と、この発生位置特定部50で特定したAEの発生位置に基づいて鋳鉄管Pの欠陥nの有無および当該欠陥nの推定位置を求める欠陥検出部(欠陥検出手段の一例である)60とから構成される。
【0017】
この発生位置特定部50は、AEを検出した各AEセンサ1,2,3がそれぞれ発信する信号(以下、AE信号という)を増幅させる第1アンプ部11、第2アンプ部12および第3アンプ部13と、明らかに鋳鉄管Pの欠陥nを原因としないAE信号を除去するために20kHz〜1MHz帯域のみの周波数成分を通過させる第1フィルタ部21、第2フィルタ部22および第3フィルタ部23と、コンパレータなどにより構成されるとともに各フィルタ部21,22,23を通過したAE信号としきい値を比較して欠陥には至らない微小な傷を欠陥と誤認することを防止する第1比較部31、第2比較部32および第3比較部33と、各比較部31,32,33で上記AE信号がしきい値を超えた際の各時刻を内蔵するタイマー回路(図示しない)によりそれぞれ演算する演算部40とを有する。また、この演算部40では、上記のように演算された各時刻に基づいて、AEの発生位置を算出する。具体的には、図4(a)に示すように、上記比較部31,32,33でしきい値を超えたAE信号に対応するAEがその発生位置から最も近いAEセンサに到達した時刻をt1[ms]、次に近いAEセンサに到達した時刻をt2[ms]、これら時刻の差であるt2−t1をΔt[ms]とし、図4(b)に示すように、これらAEセンサ間の距離をD[mm]、これらAEセンサの中間位置からAE発生位置Nまでの距離をK[mm]とした場合、音速C[mm/ms]を用いて下記の式(1)によりKが求められる。
【0018】
K=Δt・C/2 ・・・(1)
ここで、図2では、欠陥をnで表したが、AEは欠陥n以外も原因として発生するので、AE発生位置はNで表す。なお、AE発生位置Nは、便宜上、管の軸心方向に沿った位置であり、円周方向に沿った位置までを特定したものではない。また、AE発生位置Nに最も近いAEセンサからAE発生位置Nまでの距離Sは、下記の式(2)により求められる。
【0019】
S=D/2−K ・・・(2)
このようにしてAE発生位置Nを算出するが、通常、AE発生位置Nは複数存在するため、さらに演算部40では、算出した複数のAE発生位置Nを、鋳鉄管Pを軸心方向で等分した各点(以下、判断点という)でのAE発生の有無の情報である位置情報データに変換する。また、演算部40では、図5に示すように、位置情報データとして、判断点におけるAE発生の有無だけでなく、発生したAEのエネルギーも算出する。
【0020】
一方、図3において欠陥検出部60は、上記演算部40で算出した全判断点における位置情報データを2進数データに変換して記憶する記憶部65と、当該2進数データに基づいて鋳鉄管Pの欠陥nの有無を判定するとともに欠陥nの推定位置を算出する判定部67とから構成される。
【0021】
この記憶部65は、全判断点の数Mと同じ桁数の2進数データを作成し、各位置情報データに基づいて、この2進数データにBitSetまたはBitResetを行うものである。具体的には、記憶部65は、作成したM桁の2進数データにおいて、AE発生位置Nに対応する判断点での桁に[1]を格納するとともに(BitSet)、AE発生位置Nに対応しない判断点での桁に[0]を格納し(BitReset)、当該2進数データRを配列として記憶するものである。例えば、検査対象である鋳鉄管Pを9等分し(全判断点の数Mは、等分された数である9に1を加えた10となる)、第1回目の計測で、第1,2,7,9の判断点でAEが発生した場合、記憶部65で作成される2進数データRは10桁であり、この2進数データRには左から第1,2,7,9番目の桁に[1]が格納されるとともに、他の桁に[0]が格納されて、
R(1)=1100001010
が記憶部65で記憶される。詳しく説明すると、記憶部65で記憶される2進数データR(j)は、第1回目の計測ではj=1であるから、R(1)である。そして、R(1)は、全判断点の数M(この例ではM=10)だけ桁数を有し、この例では10桁の2進数、すなわち10個の数字(0または1)から構成される。ここで、桁は、鋳鉄管Pの軸心方向に沿った位置を表し、その桁の数値は、AE発生の有無を表す。つまり、ある桁の数値が[1]であれば、その桁に対応する判断点の位置でAEの発生が有ることを意味し、[0]であれば、その桁に対応する判断点の位置でAEの発生が無いことを意味する。したがって、上記の例のR(1)では、左から第1,2番目の桁の数値は[1]であるため、第1,2の判断点ではAE発生有りを意味し、左から第3〜6番目の桁の数値は[0]であるため、第3〜6の判断点ではAE発生無しを意味する。同様に、左から第7番目の桁の数値は[1]であるため第7の判断点ではAE発生有り、左から第8番目の桁の数値は[0]であるため第8の判断点ではAE発生無しを意味し、また同様にして、第9の判断点ではAE発生有り、第10の判断点ではAE発生無しを意味する。
【0022】
次に、第2回目のAEの計測(j=2)では、例えば第3,6,7の判断点でAEが発生した場合、記憶部65で記憶される2進数データRも、同様にして、左から第3,6,7番目の桁に[1]が、その他の桁に[0]が格納されて、
R(2)=0010011000
となる。さらに、第3回目のAEの計測(j=3)では、例えば第1,4,5,7,9の判断点でAEが発生した場合、記憶部65で記憶される2進数データRも、同様にして、左から第1,4,5,7,9番目の桁に[1]が、その他の桁に[0]が格納されて、
R(3)=1001101010
となる。このように、記憶部65ではAEの計測回数Jだけ複数の2進数データR(1)〜R(J)が配列として記憶される。
【0023】
一方、判定部67では、記憶部65で記憶された複数の2進数データR(1)〜R(J)を各桁で比較し、各2進数データR(1)〜R(J)で共通して[1]となる桁があれば、鋳鉄管Pに欠陥nが有る旨およびその桁に対応する判断点を表示装置70に表示し、2進数データR(1)〜R(J)で共通して[1]となる桁がなければ、鋳鉄管Pに欠陥nが無い旨を表示装置70に表示するものである。なぜなら、AEの発生は、欠陥nのみを原因とせず、例えば気泡のつぶれなど欠陥n以外も原因となるが、欠陥nを原因とするAEは常に同じ位置から発生するとともに、欠陥n以外を原因とするAEは偶然に発生するので、J回続けてAEが発生した位置に欠陥nが有ると判定することにより、欠陥n以外を原因とするAEの発生位置に欠陥nがあると誤認することを防止できるからである。
【0024】
また判定部67では、上述の例であれば、R(1)〜R(3)において、左から第1番目の桁は、R(1)では[1]、R(2)では[0]、R(3)では[1]であり、共通して[1]ではなく、第1の判断点には欠陥nが無いと判定される。しかし、同様にして、左から第2番目の桁、第3番目の桁・・・と、第10番目の桁まで比較していくと、第7番目の桁は、R(1)では[1]、R(2)では[1]、R(3)では[1]であるので、共通して[1]となり、第7の判断点には欠陥nが有ると判定される。一方、第7番目の桁以外では、R(1)〜R(3)で共通して[1]とならないので、欠陥nは第7の判断点のみに有る。したがって、表示装置70には、鋳鉄管Pに欠陥nが有る旨、およびその欠陥nの位置は第7の判断点であることが表示される。
【0025】
次に、鋳鉄管Pに上記欠陥検査装置5を用いた検査方法について説明する。この検査方法では、鋳鉄管Pの内部への水圧の負荷〜AE発生位置Nの特定までの工程(すなわち計測である)をJ回繰り返すが、この全計測回数Jが少なければ、検査精度が下がって欠陥nが無い鋳鉄管Pを欠陥品と判断するおそれがある一方、全計測回数Jが多ければ、検査に時間を要することになる。したがって、図7のStep1に示すように、全計測回数Jは3回が適当である。
【0026】
まず、図1に示すように、3つのAEセンサ1,2,3を、鋳鉄管Pの軸心方向に沿って互いに間隔をおいて配置し、鋳鉄管Pの両端を蓋Lで密閉する。次に、一方の蓋Lの開口(図示しない)からポンプ7により鋳鉄管P内に水を注入し、蓋Lの上部に設けられた空気抜き弁(図示しない)により、鋳鉄管Pから空気が排出される。そして、鋳鉄管P内が満水になれば、空気抜き弁を閉じる。なお、鋳鉄管P内の空気は完全に排出されず、小さな気泡となって鋳鉄管P内に残留することもある。その後、さらにポンプ7で加圧して鋳鉄管Pの内部に水圧を負荷する。この水圧変化によって、鋳鉄管Pの欠陥nおよびその他の原因(残留した気泡など)によりAEが発生し、AEセンサ1,2,3で検出される。
【0027】
これらAEを検出した各AEセンサ1,2,3から発信された各AE信号は、各アンプ部11,12,13で増幅されるとともに、20kHz〜1MHz帯域のみの周波数成分が各フィルタ部21,22,23を通過し、明らかに鋳鉄管Pの欠陥nを原因としないものは除去される。そして、比較部31,32,33では、微小な傷などを欠陥と誤認しないために、フィルタ部21,22,23を通過したAE信号としきい値が比較される。また、演算部40では、当該AE信号がしきい値を超えた時刻を演算し、AE信号がしきい値を超えた時刻に基づいて、上記式(1)および(2)により、AE発生位置Nを特定する。図7では、上述した鋳鉄管Pの内部への水圧の負荷〜AE発生位置Nを特定する工程までを「計測」(Step2)として示す。
【0028】
また、演算部40では、図7のStep3に示すように、AE発生位置Nを、判断点でのAE発生の有無の情報である位置情報データに変換する。具体的には、第j回目の計測において、AE発生位置Nに対応する判断点が第mの判断点であるとすれば、E(j,m)にてAE発生有り、と変換される。その後、図6に示すように、鋳鉄管P内の水圧をAEの発生が収まる程度(例えば1MPa)まで減圧する。なお、後述するが、E(j,m)でのAE発生の有無は(図7でのStep7)、判定部67においてR(j)のBitSet(Step8)またはBitReset(Step9)に用いられる。
【0029】
ここで、図7でのStep4において、現在の計測回数jは1であるとともに、全計測回数Jは3であるから、j≧Jを満たさず、Step5で現在の計測回数jは1が加えられて2となり、第2回目(j=2)の計測を開始する(Step2)。
【0030】
そして、第2回目(j=2)の計測、第3回目(j=3)の計測を行っていくが、上述した第1回目の計測と同様に、鋳鉄管Pの内部に水圧を負荷してAEの検出〜位置情報データへの変換を行い、鋳鉄管P内の水圧を減圧する。ここで、一般に計測回数を重ねるにつれてAEが発生しにくくなるので、後の計測では前の計測よりも負荷する水圧を高圧にしていく。具体的には、図6に示すように、第2回目の計測では第1回目の計測よりも高圧の水圧を負荷し、第3回目の計測では第2回目の計測よりも高圧の水圧を負荷する。なお、第3回目の計測では水圧試験も合わせて行うので、鋳鉄管P内の水圧を6MPaまで加圧し、その水圧のまま5秒間保持する。ここで、6MPaの負荷水圧および5秒間の保持時間は、「JIS G 5526 ダクタイル鋳鉄管」および「JWWA G 113 水道用ダクタイル鋳鉄管」での呼び径75〜250に関する記載にあるように、公的規格として定められたものである。また、第3回目の計測では、全計測回数Jは3で現在の計測回数jと一致し(Step4)、次(第4回目)の計測を行わないことから、図6に示すように、鋳鉄管Pの減圧では排水まで行い、鋳鉄管P内の水を全て排出する。
【0031】
ここで、図7でのStep3と図5の関係を説明する。図7のStep3においてAE発生位置Nを位置情報データに変換する際に、演算部40では、判断点でのAEの大きさ[dB]に当該AEの検出時間[s]を乗じたAEのエネルギー[dBs]を算出する。そして、図5の(a)は、第1回目の計測で各判断点におけるAEのエネルギーを表したグラフであり、図5の(b)は第2回目の計測、図5の(c)は第3回目の計測でのAEのエネルギーのグラフである。
【0032】
その後、演算装置10では、図7でのStep6に示すように、第1回目の計測(j=1)での第1の判断点(m=1)における位置情報データ、すなわちE(1,1)を抽出する。そして、このE(1,1)でAE発生有りと判断されていれば(Step7)、すなわち、図5の(a)における第1の判断点に対応する位置でAEのエネルギーが有れば、Step8に示すように、記憶部65におけるR(1)の左から第1番目の桁に[1]が格納される(BitSet)。一方、このE(1,1)でAE発生有りと判断されていなければ、すなわち、図5の(a)における第1の判断点に対応する位置でAEのエネルギーが無ければ、Step9に示すように、記憶部65におけるR(1)の左から第1番目の桁に[0]が格納される(BitReset)。このようにして、BitSetまたはBitResetを第1の判断点から第mの判断点まで繰り返す(Step11)。そして、全ての判断点でBitSetまたはBitResetを行えば、つまり、全判断点数をMとしてm≧Mとなれば(Step10)、次は第2回目の計測(j=2)において(Step13)、全ての判断点でBitSetまたはBitResetを行い、記憶部65にR(2)として記憶する。その後、同様にして第3回目の計測(j=3)における全ての判断点でBitSetまたはBitResetを行い、記憶部65にR(3)として記憶する。ここで、jは3であり、全計測回数Jと一致することから(Step12)、欠陥検出部60による演算は、図7に示すStep7〜Step13のループを抜ける。
【0033】
次に、判定部67では、図8でのStep14に示すように、記憶部65で記憶された3つの2進数データR(1)〜R(3)を各桁で比較し、これら2進数データで共通して[1]となる桁があればRESULT=1とし、共通して[1]となる桁がなければRESULT=0とする。そして、RESULT=0であれば(Step15)鋳鉄管Pに欠陥nが無い旨を表示装置70に表示し(Step16)、RESULT=0でなければ(Step17)鋳鉄管Pに欠陥nが有る旨およびその欠陥nの位置を表示装置70に表示する。図5で説明すると、破線の記載を、図5の(a)〜(c)で共通してAEの発生エネルギーが有る位置、すなわち鋳鉄管Pの内部への水圧の負荷〜AE発生位置の特定を行う工程を3回(複数回)繰り返して当該3回で重複したAE発生位置、に行っており、この破線の記載箇所が欠陥nの位置に該当する。なお、図5における破線の記載箇所以外は、(a)〜(c)でAE発生位置(AEの発生エネルギーが有る位置)が共通しておらず、欠陥nの無い位置である。このように、計測を3回(複数回)繰り返すことで、鋳鉄管Pの欠陥n以外の原因から発生して検出されたAEに基づいて当該鋳鉄管Pに欠陥nがあると誤認することを防止する。詳細に説明すると、AEは、欠陥nを原因とするものであれば常に同じ位置から発生するが、気泡のつぶれなど欠陥n以外を原因とするものであれば偶然に発生するので、計測を3回(複数回)繰り返し、続けて発生したAEの発生位置に欠陥nが有ると判定することで、偶然に発生するAE(すなわち欠陥n以外を原因とするもの)の発生位置に欠陥nがあると誤認することを防止でき、検査精度が向上する。
【0034】
そして、検査員は、表示装置70による表示から、鋳鉄管Pの欠陥nの有無および当該欠陥nの位置を知り、欠陥nの無い鋳鉄管Pを健全品として判別する。一方、検査員は、欠陥nのある鋳鉄管Pを欠陥品として判別するが、この欠陥nの位置は鋳鉄管Pの軸心方向に沿った位置であるため、円周方向に沿った位置については、検査員が調べる必要がある。
【0035】
以下に、欠陥品の鋳鉄管および健全品の鋳鉄管に対して、上述した欠陥検査装置を使用した検査を試験的に行った。
この試験条件と結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

表2に示した上記試験では、呼び径、中摺(管の内面への粉体塗装のための下地処理)の有無に関係なく、全ての欠陥品の鋳鉄管から欠陥が検知され、健全品の鋳鉄管からは欠陥が検知されなかった。
【0037】
このように、AE信号を用いて演算装置により鋳鉄管の欠陥の有無を検知するため、人的なミスを防止でき、さらに、欠陥以外を誤検知することなく、目視や渦流探傷で検知できない内面欠陥をも確実に検知することができる。
【0038】
また、一般に行われている水圧試験の工程を利用することができる検査方法であるから、水圧試験の工程と合わせることで、検査工程を大幅に増やすことなくAEにより鋳鉄管の欠陥を検知することができる。
【0039】
ところで、上記実施例での第1回目および第2回目の計測における減圧では、鋳鉄管P内の水圧を1MPaとしたが、この水圧に限定されるものではなく、図9(a)に示すように、AEの発生が収まる程度までの減圧であればよい。また、特に減圧せず、図9(b)に示すような水圧変化でもよい。これらの検査方法では、上記実施例で示した検査方法よりも、検査時間を短縮することができる。
【0040】
また、上記実施例では、計測を重ねるにつれて負荷する水圧を高圧にしていったが、図9(c)に示すように、負荷する水圧を一定にしてもよい。
さらに、上記実施例では、第3回目の計測で水圧試験を行ったが、第1回目または第2回目の計測で水圧試験を行ってもよく、また本検査において水圧試験を合わせて行わなくてもよい。
【0041】
また、上記実施例では、鋳鉄管Pの内部への水圧の負荷、AEの検出およびAE発生位置の特定を行う一連の工程を3回繰り返したが、この回数(3回)に限定されるものではなく、検査精度を下げないためにも、複数回であればよい。
【0042】
また、AEセンサ1,2,3の数を3つとして説明したが、複数であれば、鋳鉄管Pの長さに応じて増減してもよい。鋳鉄管が長くてもAEセンサの数を増やせば、AEがAEセンサに到達するまでの距離が長くならず、AE検出の精度を向上させることができる。
【0043】
また、上記実施例では、AEの発生のために鋳鉄管Pの内部に水圧を負荷したが、水圧に限定されるものではなく、鋳鉄管Pの軸心方向への圧縮力など、他に応力を発生させるものであってもよい。なお、検査対象は必ずしも鋳鉄管である必要はなく、他の管であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
P 鋳鉄管
L 蓋
N AE発生位置
n 欠陥
J 全計測回数
M 全判断点数
E 位置情報データ
R 2進数データ
1,2,3 AEセンサ
5 欠陥検査装置
7 ポンプ
10 演算装置
50 発生位置特定部
60 欠陥検出部
70 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の欠陥の有無を検知する管の欠陥検査装置であって、
管に応力を負荷してアコースティックエミッションを発生させる応力負荷手段と、管の軸心方向に複数配置されて上記アコースティックエミッションを検出する検出手段と、各検出手段にてアコースティックエミッションを検出した時刻の差から当該アコースティックエミッションの発生位置を特定する発生位置特定手段とを有し、
上記管への応力の負荷、アコースティックエミッションの検出および当該アコースティックエミッションの発生位置の特定を行う一連の工程を複数回繰り返し、特定されたアコースティックエミッションの発生位置が当該複数回で重複すれば、この重複したアコースティックエミッションの発生位置に欠陥が有ると判断する欠陥検出手段を備えたことを特徴とする管の欠陥検査装置。
【請求項2】
応力負荷手段は、管の内部に水圧を負荷するものであることを特徴とする請求項1に記載の管の欠陥検査装置。
【請求項3】
発生位置特定手段は、アコースティックエミッションを検出した検出手段が発信する信号から所定の周波数成分を除去するフィルタ部と、フィルタ部を通過した信号に基づいて当該アコースティックエミッションの発生位置を算出する演算部とを有することを特徴とする請求項1または2に記載の管の欠陥検査装置。
【請求項4】
管への応力の負荷によりアコースティックエミッションを発生させ、管の軸心方向に複数配置された検出手段で上記アコースティックエミッションを検出し、各検出手段にてアコースティックエミッションを検出した時刻の差から当該アコースティックエミッションの発生位置を特定し、
上記管への応力の負荷、アコースティックエミッションの検出および当該アコースティックエミッションの発生位置の特定を行う一連の工程を複数回繰り返し、特定されたアコースティックエミッションの発生位置が当該複数回で重複すれば、この重複したアコースティックエミッションの発生位置に欠陥が有ると判断することを特徴とする管の欠陥検査方法。
【請求項5】
管への応力の負荷は、管の内部への水圧の負荷であることを特徴とする請求項4に記載の管の欠陥検査方法。
【請求項6】
管の内部への水圧の負荷を行ったときに、同時に管の外部へのにじみ漏水を検査することを特徴とする請求項5に記載の管の欠陥検査方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−2507(P2012−2507A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134626(P2010−134626)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(594078685)日本フィジカルアコースティクス株式会社 (8)
【Fターム(参考)】