説明

管状カソードを有するスパッタ装置およびこのスパッタ装置の操作方法

【課題】管状カソードを有するスパッタ装置において、基板に対する連続的かつ均一な被覆のために、管状カソードの供給を可撓性を有する案内線要素を介して行う。
【解決手段】電力、冷却液、および他の媒体の管状カソードへの供給は、受容器に巻かれる可撓性を有する線および/またはチューブを介して行われる。管状カソードが振り子運動を終了すると、その線および/またはチューブは受容器上に巻かれるか、または、そこから解される。管状カソードの振り子運動は、管状カソードが第1の方向における第1の角度と、および第1の角度とは異なる後続する第2の方向における第2の角度とに回転されるようにすることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提要件に従うスパッタ装置と、請求項18に請求される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタプロセスによって基板上に層を施すことがしばしば行われる。このスパッタプロセスにおいて、たとえばガラスや合成フィルムのような基板は、プラズマが用意されている真空室内に導入される。
【0003】
そこには、プラズマの正イオンが、カソードに置かれているターゲット上に運ばれる。これらの正イオンはターゲット中の粒子を打ち、そしてこれらの粒子は被覆されるべき基板に向かって運ばれ、そこに堆積される。
【0004】
ターゲット付近には、プラズマ中のイオン数を増加させるために、永久磁石がしばしば置かれていて、それによってターゲット中のより多くの粒子が打たれ得る。このような永久磁石とカソードとの組み合わせはマグネトロンと呼ばれる。
【0005】
原理的には、平坦マグネトロンと円形または筒状マグネトロンとの間には違いがある。
【0006】
筒状マグネトロンの場合は、円筒カソードの外側に筒状ターゲットが置かれる。この全体配置は円筒カソードの長軸線の周りを回転し得る。これらの筒状マグネトロンにおけるターゲット物質の歩留まりは平坦マグネトロンのものより高いので、これらの筒状マグネトロンはますます効力をもたらす。
【0007】
たとえば、真空室内に置かれている筒状マグネトロンが知られている(特許文献1参照)。ここでのターゲット構造は、磁石が静止している間、筒状マグネトロンの長軸線の周りを回転している。
【0008】
さらに、2つの個々に向かい合う基板が同時に被覆されるような磁石配置を有し、長軸線の周りを回転するマグネトロンカソードが知られている(特許文献2参照)。
【0009】
カソード上に置かれた少なくとも1つのターゲットを持つ回転カソードがまた開示されている(特許文献3参照)。それ自体の軸線の周りを回転する代わりに、回転カソードは高々90度の揺動運動を行う。これは、真空設備を開放することなくターゲット物質を速やかに交換し得る仕事を解決しようとするものである。
【0010】
また、特許文献4は、内部に同心状の冷却筒が置かれている回転受容器を含むスパッタ装置を開示している。ここでは、エネルギー供給ケーブルがスパッタマグネトロンに接続されている。
【0011】
さらに、交流電気供給線が中空カソードに接続された回転自在な筒状中空カソードが知られている(特許文献5)。
【0012】
最後に、給水のために回転フランジを備える管状カソードが知られている(非特許文献1)。この管状カソードの大気側には、固定された複数本の受容器給水ホースが取り付けられている。
【特許文献1】EP0500744B1
【特許文献2】DE4126236A1
【特許文献3】EP0703599
【特許文献4】US2004/0149576A1
【特許文献5】US5814195
【非特許文献1】著者エム・ライト等、「回転自在な円筒状マグネトロンの進展計画と応用」、真空科学および技術ジャーナル、パートA、AVS/AIP、アメリカ合衆国、ニューヨーク、メルヴィル、第4巻の3、1986年、388〜392頁、XP002314779、ISSN0734−2101
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、管状カソードを有するスパッタ装置およびこのスパッタ装置の操作方法を提供することにある。この装置における管状カソードの供給は可撓性を有する案内線要素を介して行われる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は請求項1および18における発明の特徴を示す各態様によって解決される。
【0015】
このように、本発明は管状カソードを有するスパッタ装置およびこのスパッタ装置の操作方法に関する。
【0016】
電力、冷却液、および他の媒体の管状カソードへの供給は、受容器に巻かれる可撓性を有する線および/または管を介して行われる。管状カソードが振り子運動を実行するとき、その線および/または管は受容器上に巻かれるか、または、そこから解かれる。管状カソードの振り子運動は、管状カソードが第1の方向における第1の角度と、第1の角度とは異なる後続する第2の方向における第2の角度とに回転されるようにすることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって達成される利点は、特に、冷却液および/または電流の供給が可撓性を有する線またはホースを介して行われることである。これによって、もはや冷却媒体を静止部から回転部へ運ぶ必要がなくなるので、たとえば、ウォータフランジに回転シールを配設することが省略され得る。ウォータホースは回転自在な管状カソード上に直接配置される。
【0018】
また、技術的に非常に複雑な回転フランジは大きなスペースを必要とする。従って、本発明の課題解決策は省スペースになるという付加的効果がある。
【0019】
また、技術的に複雑な機能のスライド用構成要素を省略することができ、しかも電流が制限されないように、管状カソードに、たとえば、ケーブルを介して電流を供給することが可能になることも本発明の利点である。これによって、スパッタ電力は増大され得る。従来のスライド接点における最大の欠点は多くの粒子の発生である。真空における接触の場合、これらの粒子が、被覆される基板上に堆積し、被覆内にピンホールの形成をもたらす。複数個のスライド接点、およびこれらを有する電力供給線が大気圧側に置かれた場合、ベアリングや回転フランジ等の金属構成部は、交流電流の使用時に渦電流による被害を受ける。
【0020】
また、本発明の更なる利点として、可撓性を有する測定線または信号線が管状カソードに接続されていることが挙げられる。これにより、たとえば、ターゲット温度を決定することが可能になる。ターゲット温度がまさに臨界値またはそれを超える値に達しようとするとき、制御線を介して冷却媒体の供給を増加することができるからである。
【0021】
可撓性を有する供給要素を配設することは、従来のスパッタプロセスにおける場合と同様に、管状カソードをその長軸線の周りに継続して少なくとも360度回転させることができる状態を実現する。この回転は断続的な円運動の形で行われる。このようにして、ターゲット物質の均一な浸蝕、つまり、それに伴う基板の均一な被覆を得ることが継続する。
【0022】
さらに、回転ウォータフランジおよびスライド接点の技術的に複雑で厄介な据付がもはや必要ないので、被覆設備の維持がし易くなる。このことも本発明の1つの利点である。
【0023】
最後に、本発明のスパッタ装置は摩滅し難く、かつ、傷つき難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、スパッタ装置の真空室1と、この真空室に接続される前方真空室2との長手方向の断面図であり、前方真空室2は、その一部が示されている。真空室1内には、外側に筒状ターゲット4が置かれた管状カソード3が接続要素5、6を介して設置されている。
【0025】
管状カソード3は、ターゲットと一緒に管状カソード3がそれ自体の長軸線の周りを軸7、8とともに回転するように、軸7、8上に支持されている。これにより、ターゲット物質の均一な浸蝕が達成される。基板9は管状カソード3のすぐ下に置かれている。基板9と外側にターゲット4が置かれた管状カソード3とは互いに対して動かされる。すなわち、基板9が図の平面に直交する方向に動かされる。
【0026】
基板9は、たとえば、合成材のフィルムやガラスである。軸7、8はパイプとして作られており、これらの軸7、8内に内管30が設けられている。この内管30を介して管状カソード3を冷却するための冷却媒体が外部から供給される。
【0027】
真空室1を囲む壁10には、ガス導入口14のための開口11およびガス排出口13のための開口12が形成されており、少なくともガス導入口14は図示されていないポンピングシステムに接続されている。
【0028】
ガス排出口13またはガス導入口14を介して、然るべき真空が生成されるだけではなく、その上、真空室1にガスが供給される。このガスは好適には、たとえば、アルゴンのような不活性ガスである。しかし、反応スパッタリングが望まれる場合は、反応ガスが付加され得る。
【0029】
軸8は、接続装置が大気圧中にある場合には、真空室1から気密の回転フランジ16を介して前方真空室2内に導かれる。また、接続装置が前方真空室2内にある場合には、参照数字16は通常の軸受を示す。
【0030】
軸8は、ここには示されていないが、管状カソード3がそれ自身の軸線の周りを確実に回転するような駆動源に接続されている。
【0031】
図1には、前方真空室2の接続装置20〜22に接続される幾つかの可撓性を有する線要素17〜19が更に示されている。これらの線要素は、たとえば、電流の伝導用ケーブル、または、冷却媒体搬送用ホースである。
【0032】
前方真空室2内には、更なる線要素23、24、25が軸8の方向に導かれている。これらの線要素23〜25は螺旋状板バネ26に繋止されており、線要素17〜19の継続を表している。線要素23〜25の各々は軸8の周りに個々に巻かれるのではなく、全部の線要素が揃って螺旋状板バネ上に固定的に配置される。螺旋状板バネ26の代わりとして、巻き戻しバネを有するケーブルドラムもまた選択され得る。
【0033】
線要素23〜25のまた好適にはホースまたはケーブルである。図1では見ることができないが、これらホースの各端部は、軸8内の伸び、かつ、ターゲットに冷却媒体を搬送する各チューブにそれぞれ届くようになっている。
【0034】
電圧が管状カソード3に、および/または、冷却媒体がターゲットにそれぞれ供給されるように、接続装置20〜22によってそれぞれ互いに接続される線要素対17と25、18と24、19と23と、更に詳細に後述されるチューブシステムとを経由して、電流および冷却媒体が軸8を介して導入される。
【0035】
しかし、冷却ホースおよびエネルギー線とは別に、幾つかの信号線もまた配設され得る。これら信号線は、たとえば、各々の一端が測定装置に、また各々の他端が軸8内に収容されたセンサに接続される。これによって、たとえば、カソードの電圧または冷却媒体の温度を測定することができるようになる。
【0036】
これらのセンサを配置することによって、スパッタプロセスを最適に制御することができる。このようにして、電流または冷却媒体供給用の線要素のほかに、種々異なるパラメータ測定用の複数本の線要素が前方真空室2内に配設され得る。
【0037】
線要素23〜25は、また、真空室1自体の中にも配設され得る。しかし、この場合には、少なくとも電力ケーブルは絶縁される必要がある。電力ケーブルが絶縁されていないと、破裂放電がプラズマへの接触を介して生じる。真空室1のアースされた壁への接触を防止するために、この壁は破壊放電または破裂的な絶縁破壊に対する防御、すなわち、絶縁を備えている。しかし、この場合、線要素が互いに接触しないように、螺旋状板バネ26はバネ鋼に代わって誘電体ファイバまたは複合物質からなるべきである。螺旋状板バネ26自体がスパッタ電力の供給を果たすこともできる。この場合には、螺旋状板バネ26は、たとえば、銅−ベリリウム合金からなる。線要素23〜25はガス不浸透性の物質からなるべきで、それ以外では、たとえば、ガス浸透性線要素からの冷却媒体の漏洩およびそれによるスパッタプロセスへの影響というような危険がある。それでも、装置の保全を著しく促進するので、これらの線要素をスパッタ設備の外側の大気圧下に配設するのは比較的簡素なことである。
【0038】
図2は、図1の描写に関連して、管状カソード3と基板9との相関的な配置を上方からの視野で示している。
【0039】
この上面図において、図示の部分は、側に前方真空室2を有し、図1に示された真空室1であることが明白である。ターゲット4は、接続要素5、6によって管状カソード3上に固定されている。管状カソード3の直下では基板9が矢印27の方向に移動する。前方真空室2内では、線要素23〜25と、それらが螺旋状板バネ26に接触して置かれている状態とが明らかである。線要素23〜25は固定要素28によって螺旋状板バネ26上に固定されている。螺旋状板バネ26は前方真空室2の壁に固定されている。この点はさらに詳細に後述される。
【0040】
螺旋状板バネ26は、その上に固定された線要素23〜25と一緒に軸8上に少なくとも部分的に巻き上げられる。管状カソード3が一方向に回転されると、線要素23〜25を上面に有する螺旋状板バネ26は、軸8から外された線要素23〜25を伴うことなく、解される。
【0041】
図3は、図1に示された管状カソード3の長手方向の断面図であり、ターゲットキャリアチューブ29上に置かれ、かつ、そこに固定要素5、6によって保持された筒状ターゲット4が再び明らかにされている。軸7、8の部分として内管30が管状カソード3の中心を通る線A−Aに沿って伸びている。この内管30の上に、内側に幾つかの磁石が設置されたチューブ31が固定されている。これらの磁石は全て参照数字32で示される。
【0042】
管状カソード3がその長軸線の周りを回動しても、内側に磁石が設置されたチューブ31は回動しない。内管30と同様にチューブ31は静止状態に置かれる。
【0043】
ターゲット4とターゲットキャリアチューブ29の間に、中間層が付加的に形成され得る。この中間層は接着剤または、たどえば、黒鉛の分離層とすることができる。このような分離層の利点は、スパッタプロセスが終了した後、ターゲットがターゲットキャリアチューブから再び容易に取り除かれ得ることである。
【0044】
図4は、図1に示された管状カソード3を通るB−B線に沿った断面図である。
【0045】
図4には、ターゲット4がターゲットキャリアチューブ29上に直接接触して置かれている状態が示されている。この例には中間層が形成されていない。図4は、さらに、内管30に接続されるチューブ31を示している。このチューブ31内には、2つの磁界35、36を発生する3個の磁石32〜34が描写されている。チューブ31をその上に有する内管30は静止状態に置かれるので、ターゲットキャリアチューブ29がその上に置かれるターゲット4とともに内管30およびチューブ31の配列の周囲を回転する。磁界35、36もまた静止したままであり、ターゲット4はそれ自体の長軸線の周りを移動するので、ターゲット4の均一な溶発が確保される。ここで、プラズマが起こるターゲット4の各領域は磁界35、36内を通過する。従って、ターゲット4は均一に浸蝕される。
【0046】
しかしながら、管状カソード3は、それ自体の軸線のまわりを360度またはそれ以上の完全な動きを行わず、好適には150度から270度の間で断続的な動きを行う。また、管状カソード3は、実質的に動きの出発点方向に再び戻される。このようにして、振り子運動が行われる。その結果、管状カソード3は1.5回転、すなわち、±270度、まで行うことができる。
【0047】
ターゲットの均一な方位角浸蝕を確保するために、管状カソード3は長時間に亘って、または、振り子運動を何回か繰り返しながら360度回転されなければならない。それによって重複する浸蝕が行われる。図4に描写されている管状カソード3は、たとえば、曲線矢印Aで示されるように時計方向に180度回転され、次いで、さらに続けて曲線矢印Cで示される時計方向への180度の回転運動を行うために、ある幅だけ小さいまたは大きい角度で反時計方向への逆回転が行われる。たとえば、角度が10度だけ小さい場合には、曲線矢印Bで示されるように、管状カソード3は170度だけ逆に回転される。この断続的な振り子運動は、少なくとも管状カソード3がそれ自体の軸線の周りを一回転するまで行われる。この場合、時計方向への180度の回転と反時計方向への170度の逆回転とが交互に行われるので、断続的な振り子運動は36回行われる。この断続的な振り子運動が36回行われたとき、管状カソード3はそれ自体の軸線の周りを360度回転、すなわち一回転、することになる。
【0048】
また、最初の回転は180度の角度の代わりに270度の角度で行われても良い。しかし、この最初の回転運動の角度は180度から270度の間が好適である。
【0049】
数回の振り子運動後に、管状カソード3がそれ自体の軸線の全周、すなわち、少なくとも360度回転したとき、戻し運動が行われる。この戻し運動は時計方向に170度、そして反時計方向に180度行われる。回転運動の反転ポイントにおいて、逆回転が行われる前に、遊び時間が付加的に生じる。この遊び時間は、たとえば、0.5秒間と非常に短い。このため、反転ポイント領域におけるターゲット4の周上にあるターゲット物質の非均一な浸蝕は抑制され得る。
【0050】
遊び時間のほかに、管状カソード3は、回転角度の大部分では一定速度を保つが、異なる速度プロフィールで回転する。反転ポイント付近だけが一定速度から逸脱する。この反転ポイントにおける速度プロフィールの間、金属の移動による不均一な浸蝕がどこにも発生しないように、ターゲット上にプラズマの休止時間がセットされる。
【0051】
図5aには、図1に描写した前方真空室2の部分を通るC−C線に沿って得られたもので、軸8および電力供給のためにその上に接続される線要素24を有する断面が示されている。冷却液供給用の複数の線はここでは省略されている。また、側壁38上に置かれた前方真空室2のカバー37が示されている。このカバー37は、たとえばボルトのような連結部材40を介して側壁38に連結されており、また、側壁38とカバー38との間には、前方真空室内に真空が生じるように、好適には弾性ゴムのようなシール部材39が置かれている。ここに示されるカバー37は、線要素18が外側から挿入され、固定されるように接続装置21を具備している。この線要素18は、管状カソード3への電力供給に用いられる1本のケーブルである。しかしながら、実質的に可撓性を有する線要素18は、測定用の線、制御用の線、または信号線であることも可能である。たとえば、制御用の線を介して磁石システムが変えられるか、または、ターゲットチューブから磁石システムまでの距離が変えられ得る。
【0052】
もう1つの線要素24が接続装置21から軸8に導かれている。この線要素24は実質的に線要素18と同じ特性を有している。
【0053】
線要素24は、側壁38に沿って螺旋板バネ26の固定装置41の方向に延ばされ、要素28、28′、28″を介して螺旋板バネ26に接続される。この螺旋板バネ26には、図2に示されているように、他の線要素23、25も同様に固定される。この点は、図7に関連して、更に詳細に説明される。
【0054】
螺旋板バネ26はその上に固定された線要素24とともに軸8の周りに多重に巻かれる。したがって、螺旋板バネ26は固体であるが、たとえば、薄い帯鋼のような軸8の周りに巻かれえる可撓性を有する物質からなる。
【0055】
可撓性を有する線要素24の先端24′は、軸8の外方に同軸芯上に配置された環状体の受容器47に、留め金または栓部材等の連結部材46でもって連結される。この連結部材46は栓部材と留め金との組み合わせであってもよい。受容器47は非常に良好な導電性を持つ材料からなり、好ましくは、絶縁物質で絶縁される。しかし、線要素23〜25を絶縁層で包むことも可能である。
【0056】
図5aから明らかなように、線要素24だけが軸8周辺に配設された管システムの受容器47に接続されているので、すなわち、この線要素を管状カソード3(図4参照)に電圧を供給するものとする。
【0057】
軸8は、固設された内管30によって分離される2つの領域49および50を含む。領域49は冷却媒体の流入用であり、一方、領域50は冷却媒体の流出用である。領域49および50の機能を逆にすることもできる。
【0058】
螺旋板バネ26は固定装置41に固定される。螺旋板バネ26は、たとえばボルトのような接続要素45、46を介して互いに接続される2つの板42、43の間に締め付けられる。電力供給部と室壁との間で寄生プラズマ放電が防止されるように、アースされた室壁が絶縁層を介して内側に形成される。スパッタプロセス用真空内または前方真空内に電力供給が存在する場合には、せん絡(破壊放電)防止が極めて重要になる。
【0059】
図4に関連して既に述べたように、管状カソード3がその軸線の周りで回転すると、受容器47、または、その周囲に施された絶縁層48もまた回転するが、一方、内管30は一緒に回転しない。管状カソード3が、たとえば、時計方向に180度だけ回転することによって、螺旋板バネ26およびその上に固定された線要素24は部分的に解される。一方、管状カソード3が、たとえば、反時計方向に170度だけ回転すると、螺旋板バネ26は、その上の置かれた線要素24とともに螺旋板バネ26は再び巻かれる。
【0060】
管状カソード3を、とりわけ、図4に基づいて記述した振り子運動において、少なくとも360度回転可能にするために、線要素24または螺旋状板バネ26の長さは、留め金または栓部材等の連結部材46との連結に必要な長さと、軸8の周りで、一旦、螺旋状板バネ26上に置かれた線要素24を螺旋状板バネ26に巻きつけるために必要な長さとを加えた長さに少なくとも対応する。
【0061】
しかしながら、線要素24と螺旋状板バネ26とが同等の長さを持つならば有利である。それとともに、ここには図示されていないが、他の線要素23、25もまた、そのような長さを最小限持たなければならない。
【0062】
図5aにおいて、ケーブル18は、前方真空室内のケーブル24より太いように示されているが、両ケーブルとも同じ直径を有することができる。図5aの描写は次のことを示そうとしている。すなわち、平坦ケーブルは巻き上げ易いので、ここでは装置の外側での丸ケーブルから装置の内側での平坦ケーブルへの移行が見られる。前方または中間真空室2内に冷却媒体が供給されている場合には、電圧搬送部は電気的に絶縁される必要がない。ケーブルとアースされた室壁との間に何らの短絡も生じないように、室壁は破壊放電または破裂放電防御、すなわち、絶縁を用意しなければならない。
【0063】
図5bは、軸8とその上に接続された冷却媒体供給用の線要素25とを有する、図1に示された前方真空室の部分におけるC−C線に沿って得た断面図である。冷却媒体は、外部から、線要素17および接続装置20を介して、前方真空室内に置かれた線要素25へ移動する。線要素25、17は好適には可撓性を有するゴム材からなるホースである。
【0064】
ホース25は少なくとも部分的に螺旋状板バネ26上に置かれ、ここでは要素28、28′、28″、28′′′、28″″ によって保持されている。螺旋状板バネ26とその上に固定されたホース25とは軸8の周りに巻かれる。
【0065】
ホース25の先端25′は、留め金または栓部材等の連結部材15によって軸8の受容器47に連結される。この連結部材15は留め金と栓部材との組み合わせであってもよい。
【0066】
冷却媒体はホース25から開口60を経て環状領域49に移動する。この領域49は、結果的に、たとえば水のような冷却媒体を管状カソード3内に導く流入システムである。領域50は、冷却媒体を管状カソード3の外部に導く流出システムである。ただし、領域50を通して冷却媒体を管状カソード3内に導くことも可能である。この場合には、冷却媒体は領域49を通して管状カソード3の外部に運ばれ、前方真空室2からホース25を逆方向に流出される。この流出は、予め圧力下で冷却媒体を供給する、たとえば、ポンプシステムを介して行われる。
【0067】
図6は、図3に示された軸8を有する管状カソード3の部分拡大された部分を示している。軸8は、その中に置かれた内管30を包囲する受容体47を有するチューブシステムを示している。受容体47は絶縁層48によって包囲され得る。
【0068】
絶縁層48は管状カソード3のターゲットキャリア29まで延びている。これにより、電流を伝える受容体27と管状カソード3の導電性部材からなるターゲットキャリアチューブ29との接触が場所61で生じる。このように、管状カソード3には電流が直接供給される。
【0069】
図6から明らかなように、冷却媒体が内管30を通して管状カソード3に送られることが矢印63で示されている。冷却媒体は内管30を通ってターゲットキャリアチューブ29の内部に置かれた管状カソード3の向かい端まで流れ進んでいる。言い換えれば、冷却媒体はターゲットキャリアチューブ29内の端から端まで進み、折り返して流れている。
【0070】
冷却媒体は、矢印62で示されるように、軸8の領域49を経て管状カソード3の内部から去る。その後、管状カソード3の内部を去る冷却媒体は、図5bに示されているように、軸8上に置かれたホース、たとえば、ホース25を経由して排出される。
【0071】
しかし、冷却媒体がホース25を経由して軸8内に供給される場合には、冷却媒体は領域49を経由して管状カソード3の内部に達し、内管30を経由して管状カソード3から去る。そのために、内管30は管状カソード3の内部に通じる複数の開口を有しており、冷却媒体はこれらの開口を通って管状カソード3から去る。
【0072】
図7は、板バネ51の一部分を示しおり、その上に置かれた4つの線要素52〜55を有する。これらの線要素52〜55は実質的に可撓性を有する材料からなるケーブルまたはホースである。線要素52〜55は、ほぼ互いに平行に並べられ、要素56、57によって保持される。たとえばボルトのような連結要素58、59を締め付けることによって、各千要素52〜55の滑動はもはや不可能である。
【0073】
図1〜6による実施例では、回転可能な受容器47は真空室1の外側に置かれているが、スパッタ処理真空室の中に置くこともできる。ここで、電圧伝送部は電気的に絶縁されなければならない。そうでなければ、寄生プラズマが生じ、また、破壊放電がスパッタプラズマに否定的に影響するからである。
【0074】
以上説明した実施例以外に、また、本発明は次のような実施例を含むことができる。すなわち、受容器47は追加の前方真空室内にも設置され得る。この場合、基板上に層を施すコーティングプロセスに影響を及ぼすところの、合成物質がガス抜けを起こすか否か、ということについて考慮する必要がない。また、電圧伝送部は必ず電気的に絶縁される必要はない。その代わりに、接続装置20〜22の領域における室壁に電気的絶縁が必要である。さらに、受容器は大気圧下にも設置され得る。如何なる場合にも、回転運動のための回転フランジが必要である。しかし、滑動接点や液体用の回転連結装置は必要ない。使用される物質の真空適合性はもはや考慮する必要がない。しかし、安全のために、全ての電圧伝送部は絶縁されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】真空室と、該真空室に接続される前方真空室の一部とを示す断面図である。
【図2】前方真空室が接続された、図1に描写されている真空室の一部を示す上面図である。
【図3】図1に示された管状カソードを示す長手方向断面図である。
【図4】図1におけるB−B線に沿って得た管状カソードの断面図である。
【図5a】図1におけるC−C線に沿って得た前方真空室の部分的な断面図であり、受容器とこれに接続される電力供給用線要素とが示されている。
【図5b】図1におけるC−C線に沿って得た前方真空室の部分的な断面図であり、容器とこれに接続される冷却媒体供給用線要素とが示されている。
【図6】図1に示された管状カソードの部分的な拡大断面図であり、軸が示されている。
【図7】幾つかの線要素を有する螺旋状板バネの部分的斜視図である。
【符号の説明】
【0076】
1 真空室
2 前方真空室
3 管状カソード
4 筒状ターゲット
5、6 接続要素
7、8 軸
10 壁
16 回転フランジ
17〜19 線要素
20〜22 接続装置
23〜25 線要素
26 螺旋状板バネ
29 ターゲットキャリアチューブ
30 内管
32〜34 磁石
51 板バネ
52〜55 線要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの真空室(1)とこの真空室(1)内に設けられる1つの管状カソード(3)を備えるスパッタ装置であって、
外周に複数本の可撓性を有する案内線要素(23〜25、52〜55)が巻かれ、また、それらの案内線要素がそこから解かれる1つの回転自在な受容器(47)と、
前記複数本の可撓性を有する案内線要素(23〜25、52〜55)を前記受容器(47)に連結させる連結部材(46)と
を具備することを特徴とするスパッタ装置。
【請求項2】
前記連結部材(46)は、留め金または栓部材等の連結部材であることを特徴とする請求項1に請求されるスパッタ装置。
【請求項3】
前記受容器(47)は、前記真空室(1)の外側に配置されることを特徴とする請求項1に請求されるスパッタ装置。
【請求項4】
前記受容器(47)は、前記真空室(1)内に配置されることを特徴とする請求項1に請求されるスパッタ装置。
【請求項5】
前記受容器(47)は、前方の真空室(2)内に配置されることを特徴とする請求項1に請求されるスパッタ装置。
【請求項6】
前記受容器(47)は、筒状に形成され、かつ、同軸状の内管(30)を有することを特徴とする請求項1に請求されるスパッタ装置。
【請求項7】
前記複数本の可撓性を有する案内線要素(23〜25、52〜55)は、電力線であることを特徴とする請求項1に請求されるスパッタ装置。
【請求項8】
前記複数本の可撓性を有する案内線要素(23〜25、52〜55)は、冷却ホースであることを特徴とする請求項1に請求されるスパッタ装置。
【請求項9】
前記複数本の可撓性を有する案内線要素(23〜25、52〜55)は、少なくとも部分的に螺旋状板バネ(26、51)の上に置かれることを特徴とする請求項1に請求されるスパッタ装置。
【請求項10】
前記複数本の可撓性を有する案内線要素(23〜25、52〜55)は、複数個の連結要素(28、28´、28´´、56と59、57と58)を介して前記螺旋状板バネ(26、51)に連結されていることを特徴とする請求項9に請求されるスパッタ装置。
【請求項11】
前記螺旋状板バネ(26、51)は、実質的に可撓性を有する材料からなることを特徴とする請求項9に請求されるスパッタ装置。
【請求項12】
前記螺旋状板バネ(26、51)は、電気エネルギーの導体として備えられていることを特徴とする請求項9に請求されるスパッタ装置。
【請求項13】
前記複数本の可撓性を有する案内線要素(23〜25、52〜55)は、エネルギー線であることを特徴とする請求項1または請求項7に請求されるスパッタ装置。
【請求項14】
前記複数本の可撓性を有する案内線要素(23〜25、52〜55)は、信号線であることを特徴とする請求項1または請求項7に請求されるスパッタ装置。
【請求項15】
前記螺旋状板バネ(26、51)は、固定装置(41)上に置かれることを特徴とする請求項9において請求されるスパッタ装置。
【請求項16】
前記複数本の可撓性を有する案内線要素(23〜25、52〜55)は、前記連結部材(46)を介して軸(8)に連結されていることを特徴とする請求項1に請求されるスパッタ装置。
【請求項17】
前記複数本の可撓性を有する案内線要素(23〜25、52〜55)の長さは、前記連結部材(46)との連結に必要な長さと、前記軸(8)の周りで、一旦、前記螺旋状板バネ(26、51)上に置かれた前記案内線要素(23〜25、52〜55)を前記螺旋状板バネ(26、51)に巻き付けるために必要な長さとを加えた長さに少なくとも対応することを特徴とする請求項15およびに請求項16に請求されるスパッタ装置。
【請求項18】
a)前記管状カソード(3)を、その長軸線(A−A)の周りで次のような方向、すなわち、前記可撓性を有する案内線要素(23〜25、52〜55)が前記受容器(47)に巻かれるか、または、解かれる第1の方向、に±150度乃至270度の第1の角度で回すことと、
b)前記管状カソード(3)を、その長軸線(A−A)の周りで前記第1の方向とは反対方向、すなわち、前記可撓性を有する案内線要素(23〜25、52〜55)が前記受容器(47)に巻かれるか、または、解かれる第2の方向、に前記第1の角度より規定された大きさだけ大きいまたは小さい第2の角度で動かすことと、
c)前記管状カソード(3)が、その長軸線(A−A)の周りで少なくとも±360度だけ動かされるまで前記a)およびb)の動作を繰り返すこと
の各動作ステップを含むことを特徴とする管状カソードによって基板を被覆する方法。
【請求項19】
前記管状カソード(3)が、その長軸線(A−A)の周りで少なくとも±360度だけ動かされた後に、その回転動がある特定の反対方向に行われるように、前記方法が繰り返されることを特徴とする請求項18に請求される方法。
【請求項20】
前記b)の動作ステップにおける角度が、前記a)の動作ステップにおける角度よりほぼ10度だけ大きいか、または、小さいことを特徴とする請求項18に請求される方法。
【請求項21】
前記案内線要素(23〜25、52〜55)が置かれている前記螺旋状板バネ(26、51)もまた、前記受容器(47)に巻かれ、または、そこから解かれることを特徴とする請求項18に請求される方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−169775(P2007−169775A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270437(P2006−270437)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(502208722)アプライド マテリアルズ ゲーエムベーハー アンド コンパニー カーゲー (28)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS GMBH & CO. KG
【Fターム(参考)】