説明

管継手及びその製造方法、並びに射出成形用金型

【課題】内側コーナー部が円弧状曲面の樹脂製管継手を、溶接・切削等の追加工を必要とせず、射出成形法により簡便に製作する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の射出成形における金型、内筒体及び外包体(最終製品である継手に相当)の配置図に示されるように、まず、継手の内側コーナー部16に接する面が円弧状である内筒体11を金型にインサートする。内筒体11は外包体12との剥離性が良いシリコンが望ましい。また、内筒体の潰れ防止のためにコアピン19が挿入されている。内筒体11の回りに、例えばフッ素樹脂が充填され、管継手が成形される。成形品を金型から取り出し、コアピン19を除去、その後、内筒体11を引き抜いて取り除き、内側コーナー部16が円弧状曲面の外包体(管継手)が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製管継手及びその製造方法並びに射出成形用金型に係り、特に、屈曲部をもつ連通路の内側コーナー部が円弧状曲面を有する管継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の管を接続する管継手には、L字型、T字型、Y字型あるいはクロス型など、さまざまな形状がある。例えば点滴や輸血等の医療用機器では、各種形状の合成樹脂製管継手が多用されている。しかし、これらの管継手を射出成形法により製作する場合、管継手内側コーナー部の形状に由来する問題がある。本来、流体を円滑に流すためには、コーナー部が円弧状曲面であることが望ましい。しかし、図6のL字継手の例が示すように、継手1の内側コーナー部16を円弧状の曲面にすると、2つのコアピン19を引き抜く際に内側コーナー部16がアンダーカットとなり、コアピンを矢印方向に取り外すことが出来ない。したがって、内側コーナー部16は鋭角なエッジとならざるを得ない。
【0003】
内側コーナー部を円弧状曲面にする方法としては、非特許文献1に開示される「置き中子」を用いることが考えられる。また、中空部、凹部、アンダーカット部等を有する射出成形品を製造する方法(例えば、特許文献1参照)、エルボー等の樹脂継手を製造するに好適な分割型中子を用いる方法(例えば、特許文献2参照)、エッジとなるコーナーをなだらかな曲面にする方法(例えば、特許文献3参照)等が開示されている。また、本発明者らは、ブロー成形によって、内向きに突出する内側コーナー部が円弧状となるように製造された内筒体を製造し、次いで、内筒体を溶融温度に加熱した状態で、射出成形により、その外周に一体的に形成された外包体となる溶融樹脂を注入して、管継手を製作する方法を提案している(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06-190863号公報
【特許文献2】特開平10-230345号公報
【特許文献3】特開2004-3148号公報
【特許文献4】特開2009-184203号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】福島有一著、「よくわかるプラスチック射出成形金型設計」、初版、日刊工業新聞社、2002年11月18日、P121〜P122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、「置き中子」を用いた方法は、複数の分割片を組み合わせることにより内部形状を形成することができるが、多数の分割片を用いる為に、小径管への適用が難しく、大量生産には不向きである。また、特許文献1は、外径部のアンダーカット部を複層成形する事により、外径部のアンダーカットは解決することはできるが、内径部のアンダーカット処理を行なうことができない。特許文献2は、一般的な分割入れ子の応用であり、内径の小さな継手を作ることができない。また、パズルのようなクラッド層と呼ばれる入れ子を製品から取り出す際、継手内面を損傷する懸念がある。特許文献3は、溶接加工の提案で、接合部の接合強度不足やビード、切り欠き部の補充不足、及び強度不足等が考えられ、継手としての性能を満たすことが出来ない。本発明者らが提案した技術(特許文献4)は、インサートする内筒体をブロー成形して製作する。しかし、金型で樹脂を挟み込んで成形を行なうブロー成形は、挟み込んだ部分に発生する樹脂の合わせがあり、この部分は他の部分と比べ耐圧強度不足が懸念される。本発明は、従来技術が抱える上記の問題に鑑み、内側コーナー部が円弧状の曲面を有する樹脂製継手を、溶接・切削等の追加工を必要とせず、射出成形法により簡便に製作する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の管継手は、連通路屈曲部の内側コーナー部が、円弧状曲面を有する合成樹脂製単層構造であることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の管継手の製造方法は、連通路に屈曲部を有する管継手の製造方法であって、外周面が前記連通路面と同一形状で、かつ前記屈曲部の内側コーナー部に当接する面が円弧状曲面である筒体を用い、射出成形用金型のキャビティ内に配置された前記筒体の外周に溶融樹脂を注入する工程と、成形後に前記筒体を除去する工程とを有している。また、前記射出成形用金型が、筒体の潰れ防止のためのコアピンを有している。また、筒体の内面形状が、コアピンの引き抜き方向に対してアンダーカットとならないように成形されている。また、筒体がシリコンであることを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明の管継手の射出成形用金型は、連通路に屈曲部を有する管継手の製造に使用され、外周面が前記連通路面と同一形状で、かつ前記屈曲部の内側コーナー部に当接する面が円弧状曲面である筒体を、収容可能な内部形状を有するキャビティと、前記筒体の全開口部より挿入されるコアピンと、前記筒体と前記キャビティ間に溶融樹脂を注入するゲートとを備えている。また、コアピンの外径が筒体の内径より若干太いことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、管継手内面の内側コーナー部を円弧状にする事が可能となり、流体の乱流を抑え、流れをスムーズにする事で、継手内部にかかる負担を軽減することができ、安全で高寿命な管継手を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の射出成形における金型、内筒体及び外包体の配置図である。
【図2】内筒体の断面図である。
【図3】各種形状の内筒体断面図であり、(a)はT字型、(b)はY字型、(c)はクロス型、(d)はL字型である。
【図4】金型の作動状態で、(a)は型閉め時、(b)は型開き時を示す。
【図5】コアピンの引き抜き手段の変形例を示す概略図である。
【図6】L字型管継手を射出成形で製作する場合の問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる継手成形を実施するための形態について説明する。図1は、本発明の射出成形用金型、内筒体及び外包体(最終製品である管継手に相当)の配置図である。また、図2はL字継手を製作する際に用いる内筒体の例である。外包体12の内側コーナー部16に接する面が、凹の円弧状曲面に成形された内筒体11を金型にインサートする。なお、当然に、内筒体11は、外包体12の外側コーナー部22に接する面が凸の円弧状曲面に成形されている。内筒体は樹脂製、木製、紙製のいずれでも良いが、取扱い易さの観点からは樹脂製が最も望ましい。また、樹脂製の場合、内筒体と外包体の剥離性が良い、例えば、外包体をフッ素樹脂(PFA)、内筒体をシリコンとすることが良い。図1において、溶融樹脂温度380℃、金型温度200℃、射出圧力1000Kgf/cm3で、PFA樹脂を射出した時、シリコン内筒体11の外回りにPFA樹脂が充填される。なお、内筒体11の内部には、潰れ防止のためにコアピン19が挿入されている。シリコンは耐熱性に優れ、耐熱温度を超えても溶けることはなく形状を維持できる特性を持っている。成形処理後、内筒体11からコアピン19を矢印方向に抜き取る。次いで、成形品を金型から取り出し、内筒体11を引き抜いて除き、内側コーナー部16が円弧状に形成された外包体12が得られる。なお、内筒体内側コーナー部21は、コアピン19を引き抜く際にアンダーカットとならないように、凸のエッジであることが望ましい。
【0013】
本発明では、内筒体と外包体の剥離性が良いことが重要である。そこで、材料の組合せと剥離性について検討した。結果を表1に示す。表1からわかるように、外包体材料が、PFA(ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)、PC(ポリカーボネート樹脂)のいずれかの場合、内筒体材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン樹脂)も使用可能であるが、シリコンが最適である。なお、管継手となる外包体に使用する樹脂は、スーパーエンジニアプラスチック、エンジニアプラスチック、又は汎用材の熱可塑性樹脂に限定される。
【0014】
【表1】


◎:最良 ○:良 △:可 ×:不適 −:形状保てず
【0015】
次に、管継手(外包体)の内径と成形性について検討した。成形数は10ヶである。L字とT字の継手で確認した結果を表2に示す。L字継手の場合、内径が1mm以下になると内筒体自体が細くなり強度が不足してしまう為、引き抜きの際にちぎれてしまうものがあった。T字継手は、L字継手よりもちぎれる率が高かったが、内径が5mm以上確保されていれば、L字もT字の継手も問題なく成形することが確認できた。
【0016】
【表2】


◎:良品10ヶ ○:良品9ヶ ×:良品7ヶ以下
【0017】
以下に本発明にかかる継手成形を実施するための形態を詳しく説明する。
【0018】
〔内筒体の製造〕
図2は、射出成形、ブロー成形又は切削等によって製造された内筒体と呼ばれる合成樹脂製品である。継手の連通路面と接する外面を有する内筒体11は、継手の内側コーナー部に接する面16aを、連通路内の凸の内側コーナー部に丸みを持たせた円弧状とするため、射出成形、ブロー成形又は切削等によって形成する。また、継手の外側コーナー部に接する面22aは凸の円弧状曲面に成形されている。さらに、内筒体内側コーナー部21は凸のエッジであることが望ましい。図3に示すように、内筒体の外部形状が連通路となり、その形状は様々なものが可能である。
【0019】
〔外包体の形成〕
以上のように製造された内筒体は、図4の射出成形金型20のキャビティ41内にセットされ、内筒体11の外周に外包体12が形成され、最終製品の管継手となる。
【0020】
図4に示す射出成形金型20は、固定側入れ子42と、固定側入れ子42に対して接離自在な可動側入れ子43、及び、ガイド18を有するコアピン19とを備えている。コアピン19は、射出成形の際にキャビティ41に注入される溶融樹脂の圧力によって内筒体11が潰れる等の変形の防止、及び、内筒体11の位置決めのために設けられる。また、コアピン19は内筒体11の内径よりも若干太くする。このように内筒体11を外側に膨らませた状態で外包体12を形成すると、成形後にコアピン19を除去すると、内筒体を外側に膨らませていた力が除去されて内筒体は内側に縮み、内筒体の除去が容易に出来ることを特徴としている。なお、ガイド18を磁化、もしくはこれらに磁石を埋設するなどして形成し、コアピン19を導電性磁性体で形成すれば、後述する型抜きにおいて、コアピンを同時に型抜きすることができる。
【0021】
内筒体11を収容するキャビティ41は、固定側入れ子42と可動側入れ子43とを接合することにより、両入れ子にそれぞれ形成された凹部によって囲まれた空間として形成され、製造される外包体12の外部形状に対応した内部形状を有する。内筒体の収容に際し、可動側入れ子43を固定側入れ子42より離間して、両入れ子をパーティング面より型開きすることにより、キャビティ41が開放されて内筒体を収容可能に構成されている。型開きにより開放したキャビティ41内に内筒体11を配置した状態で、可動側入れ子43を固定側入れ子42に近付けて最終的に両入れ子を接合すると、これにより両入れ子の接合部内に閉じたキャビティ41を形成することが出来る。
【0022】
図4に示す実施形態にあっては、可動側入れ子43を固定側入れ子42に接近する方向に移動すると、アンギュラピン44に案内されたコアピン19がキャビティ41内に挿入される方向に前進移動するように構成されており、型開きにより開放された状態にあるキャビティ41内に内筒体11を配置した状態で型締めを行なうと、自動でコアピン19が内筒体11の管端開口より内筒体11内の空間に挿入されるように構成されている。もっとも、内筒体11に対するコアピン19の挿入は、アンギュラピン44による案内に代えてカム等によって行なうものとしても良く、又は、図5に示すように、油圧シリンダや空気圧シリンダ、ソレノイド等の外力発生手段51によってコアピン19を矢印方向に前進移動させることにより行なっても良い。更には、内筒体11をキャビティ41内に収容する前に、予め、内筒体11の各管端開口より、例えば、手作業によってコアピン19を挿入しておき、このようにしてコアピン19が挿入された状態の内筒体11をキャビティ41内に配置して型締めを行なうものとしても良い。
【0023】
以上のようにして、固定側、可動側の両入れ子内に形成されたキャビティ41内に、図示せざる射出成形機によって外包体を形成するための溶融樹脂がキャビティ41内に注入される。このキャビティ41内に対する溶融樹脂の注入位置、すなわち入れ子42,43に設けられるゲート14の形成位置は、いずれの位置に設けるものとしても良い。L字継手の製造方法を説明した図示の実施形態にあっては、このゲート14の形成位置を図1に示すとおりの位置に設けてある。
【0024】
以上のようにして、外包体形成用の溶融樹脂をキャビティ41内に注入した後、注入された溶融樹脂が冷却、固化すると、固定・可動側入れ子42、43のパーティング面より両入れ子を型開きすると共に、ガイド18及びコアピン19の引き抜きを行なう。このコアピン19の引き抜きは、型開きに先立って行なうものとしても良く、又は型開きと同時に、更には型開きの後に行なうものとしても良く、外包体形成用の樹脂が冷却・固化した後であれば、いずれの時期に行なっても良い。コアピン19の引き抜きを型開き後に行なう場合には、型開き後、エジュクトピン37によりコアピン19が付いたままの外包体12を突き出して回収し、その後、作業者が手作業によって除去するものとしても良い。
【0025】
もっとも、継手を大量生産等する場合には、型開きと共に自動でこのコアピン19の引き抜きを行なう手段を射出成形金型20の構造内に組み込むことが好ましく、図4に示す実態形態にあっては型開き力を利用して、同時に図示せざる磁石を内蔵し、又は、磁化したガイド18により、コアピン19をも行なうものであり、図4(b)に示すとおり、可動側入れ子43が下方に移動すると、コアピン19が固定側入れ子42に傾斜して取り付けられたアンギュラピン44に案内されて、矢印方向に移動してコアピンの抜き取りを行なうことができるように構成されている。なお、コアピン19の引き抜き手段は、図4に示す例に限定されず、例えば、カム機構によって行なっても良く、又は、図5に示すようにコアピン19にカップリングを介して油圧シリンダ、空気圧シリンダ、ソレノイド等の外力発生手段51を設け、油圧、空気圧、電気信号の入力等によってコアピン19を引き抜くようにしても良い。この場合、ガイド30の電磁石でコアピン19を引き抜くように構成しても良く、コアピン19の引き抜きが可能であれば、その構成は図示の実施形態に限定されない。
【符号の説明】
【0026】
1 継手
11 内筒体
12 外包体
13 スプルー
14 ゲート
15 連通路
16 内側コーナー部
17 入れ子
18 ガイド
19 コアピン
20 射出成形金型
21 内筒体内側コーナー部
37 エジェクトピン
41 キャビティ
42 固定側入れ子
43 可動側入れ子
44 アンギュラピン
51 外力発生手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通路屈曲部の内側コーナー部が、円弧状曲面を有する合成樹脂製単層構造であることを特徴とする管継手。
【請求項2】
連通路に屈曲部を有する管継手の製造方法であって、外周面が前記連通路面と同一形状で、かつ前記屈曲部の内側コーナー部に当接する面が円弧状曲面である筒体を用い、射出成形用金型のキャビティ内に配置された前記筒体の外周に溶融樹脂を注入する工程と、成形後に前記筒体を除去する工程とを有することを特徴とする管継手の製造方法。
【請求項3】
射出成形用金型が、筒体の潰れ防止のためのコアピンを有することを特徴とする請求項2に記載の管継手の製造方法。
【請求項4】
筒体の内面形状が、コアピンの引き抜き方向に対してアンダーカットとならないように成形されていることを特徴とする請求項3に記載の管継手の製造方法。
【請求項5】
筒体がシリコンであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の管継手の製造方法。
【請求項6】
連通路に屈曲部を有する管継手の製造に使用され、外周面が前記連通路面と同一形状で、かつ前記屈曲部の内側コーナー部に当接する面が円弧状曲面である筒体を、収容可能な内部形状を有するキャビティと、前記筒体の全開口部より挿入されるコアピンと、前記筒体と前記キャビティ間に溶融樹脂を注入するゲートとを備えたことを特徴とする管継手の射出成形用金型。
【請求項7】
コアピンの外径が筒体の内径より若干太いことを特徴とする請求項6に記載の管継手の射出成形用金型。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−47487(P2011−47487A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197631(P2009−197631)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(309028721)株式会社金山製作所 (1)
【Fターム(参考)】