説明

米胚芽発酵液、米胚芽発酵粉末およびそれらの製造方法。

【課題】 一般の食品素材を利用して製造される生体免疫系の増強、及び抗腫瘍、抗ウイルス感染効果を有する素材である米胚芽発酵液及び米胚芽発酵粉末並びにその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 米胚芽又は米胚芽を含む米糠に、水と、グルタミン酸又はグルタミン酸塩と、乳酸菌とを加えて一定の温度で発酵させた後、これを搾汁処理及び濾過処理したことによって得られたガンマ−アミノ酪酸及び胚芽又は米糠の由来成分を含むことを特徴とする米胚芽発酵液及び米胚芽発酵粉末である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は自然免疫系の増強、及び抗腫瘍効果を有する素材である米胚芽発酵液及び米胚芽発酵粉末並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガンマ(γ)−アミノ酪酸(以下GABA)や胚芽を含む糠には、様々な効果効能が報告されている。
たとえば、「GABA」においては、血圧上昇抑制効果やストレスの低減、血中コレステロールの低減、肝臓・腎臓等の活性化、肥満や糖尿病の改善、さらに生体免疫機能の活性化等々がそれである。
一方、「米糠及び米胚芽」にはいわゆる生活習慣病や癌を抑制する効果が報告されている。
【0003】
また、これらの成分を得る為の方法として、玄米やカボチャ、緑茶にGABAを増加させる方法や乳酸菌を用いて効率良くGABAを製造する方法等、様々な手法が考案されている(特許文献1及び2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−014356号公報
【特許文献2】特開2006−314207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、農産物を用いた製造方法では、その原料の産地や品種、状態等によって、製造状態が不安定となる欠点がある。また、乳酸菌を使用する方法では、純度の高いものが製造出来る反面、農産物が本来持っている機能性を直接有することが出来ず、相乗効果も得られない。
【0006】
そこで、通常であれば、胚芽および糠と乳酸菌を混合し、反応させることが考えられるが、糠や胚芽に付着している微生物によって、PHの低下を招き、脱炭酸酵素の至適PH域から外れてしまう為、GABAへの転換反応が停止してしまう。また、糠が多い程その傾向はさらに増大する。
【0007】
また、胚芽や糠に付着している微生物を殺菌してしまうと、元来不安定であるグルタミン酸脱炭酸酵素はその殺菌によって、失活してしまい、GABAへの転換反応をしなくなってしまう。
【0008】
また、このような弊害を避ける為、前段で米胚芽を反応させた後に殺菌を施し、新たに乳酸菌を加え、GABAの製造を行う手法もあるが、2工程に分かれている為、製造には大きなコスト増とロスが発生してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これに対して、本願発明の第1の発明は、米胚芽又は米胚芽を含む米糠に、水と、グルタミン酸又はグルタミン酸塩と、乳酸菌とを加えて発酵させたガンマ−アミノ酪酸及び胚芽又は米糠の由来成分を含むことを特徴とする米胚芽発酵液である。
第2の発明は、25℃〜45℃にて12時間〜240時間発酵させることを特徴とする同米胚芽発酵液である。
第3の発明は、発酵後に搾汁処理及び濾過処理されたことを特徴とする同米胚芽発酵液である。
ここで、搾汁処理には、例えば、豆乳絞り機、パルパー、圧搾機等を使用するとよい。
第4の発明は、上記第1〜第3の発明の米胚芽発酵液を粉末加工したことを特徴とする米胚芽発酵粉末である。
第5の発明は、米胚芽又は米胚芽を含む米糠に、水と、グルタミン酸又はグルタミン酸塩と、乳酸菌とを加えて発酵させたガンマ−アミノ酪酸及び胚芽又は米糠の由来成分を含むことを特徴とする米胚芽発酵液の製造方法である。
第6の発明は、米胚芽又は米胚芽を含む米糠に、水と、グルタミン酸又はグルタミン酸塩と、乳酸菌とを加えて発酵させた後に粉末加工させたガンマ−アミノ酪酸及び胚芽又は米糠の由来成分を含むことを特徴とする米胚芽発酵粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、以下の効果を有する。
(1)米胚芽の有する脱炭酸酵素に乳酸菌を加えることによって、2工程に分かれている反応を1工程で完了することが可能である。
(2)また、ここに糠を加えて反応させてもGABAの産生に影響を及ぼすことなく製造が可能であり、糠の有する機能を追加出来、さらに米胚芽・GABAとの相乗効果も期待できる。
(3)得られた米胚芽発酵液・米胚芽発酵粉末は、生体免疫系の増強、及び抗腫瘍、抗ウイルス感染効果を有する。
(4)得られた米胚芽発酵液・米胚芽発酵粉末は、うがい後の唾液中抗原特異的IgA抗体の産生を促進する効果を有する。
(5)得られた米胚芽発酵液・米胚芽発酵粉末は、インフルエンザウイルスに対するIgA抗体の産生およびウイルスの侵入阻止を促進する効果を有する。
(6)得られた米胚芽発酵液・米胚芽発酵粉末は、ガンマ−アミノ酪酸(GABA)、イノシトール、イノシトール1リン酸、イノシトール2リン酸、イノシトール3リン酸、イノシトール4リン酸、イノシトール5リン酸、イノシトール6リン酸(フィチン酸)、フェルラ酸、オリザノール、ビタミン類、ミネラル類その他米糠に含有される成分が単独または相乗的に効果を発揮させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本願発明の実施形態を示す説明図。
【図2】実施例1の実験結果を示す表。
【図3】実施例2の実験結果を示す表。
【図4】実施例3の実験結果を示す表。
【図5】実施例4の実験結果を示す表。
【図6】実施例5の実験結果を示す表(その1)。
【図7】実施例5の実験結果を示す表(その2)。
【図8】実施例5の実験結果を示す写真。
【図9】実施例5の実験結果を示す表(その3)。
【図10】実施例5の実験結果を示す表(その4)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本願発明の実施形態を示す説明図である。
図1に示すように、玄米(F01)を精米処理(F02)することによって得られた米糠(F03:糯米、粳米のどちらでも良い)を選別(F04)し、これにグルタミン酸又はグルタミン酸塩と、アルコールを加え、液状に分散したものに、乳酸菌をスターターとして加え(F05)、適度な酸素を与えられるように攪拌を行い、25℃〜45℃にて12〜240時間程度反応および発酵を同時進行で進め(F06)、グルタミン酸をGABAに転換させながら、胚芽や糠の由来成分(有用成分)を溶出させる。この時、乳酸菌の活性化のために糖やビタミン,ミネラル等を加えてやると良い。
【0013】
反応終了後、活性炭を混合し、脱臭・脱色処理を行った後、200メッシュ〜400メッシュのスクリーンで0.5〜2.0kg/minの処理速度で固形物を除去する搾汁処理(F07)を行う。これに再度活性炭を加えて、脱色・除臭処理を施し、70〜95℃に品温を維持しながら孔径0.1〜1.0μのセラミック膜にて流量20〜60L/minの処理速度で濾過処理(F08)をし、濾液すなわち原液(F09)を得て、終点とする。これを濃縮、粉末化して任意の濃度に調整する(F10)。
【0014】
次に、本願発明によって製造した米胚芽発酵液及び米胚芽発酵粉末を使用し、ヒト生体免疫システムに与える影響を検証してみた。
その結果、GABAはヒト末梢血リンパ球やモデル細胞株と共に培養すると時間に依存して免疫調節機能に関わる細胞表面分子(レセプター)(例えば、CD54分子、CD93分子、Dectin−1分子)の発現を増強することが判明した(生体免疫系を増強すると考えられる)。
また、上記の条件下でインターロイキンー8(IL−8)の産生を増強させた。しかし、インターフェロンγや可溶性CD93分子の産生には影響を与えないことも示唆できた。
【0015】
また、同様に製造された米胚芽発酵液及び米胚芽発酵粉末を使用し、GABAは濃度依存的に各種培養癌細胞株(白血病細胞、大腸癌細胞、子宮癌細胞、胃癌細胞、肝臓癌細胞)の増殖を抑制することが判明した。
このメカニズムはアポトーシス関連抗体で染色(蛍光顕微鏡ならびにFACS解析)されるのでアポトーシス(プログラム死)と考えられる。また、肝臓癌細胞に関しては腫瘍(癌)マーカーであるPIVKA−IIの産生を有意に抑制した。これらの結果から製造されたGABA液およびその乾燥物には癌細胞の正常化する作用があることが判明した。
【0016】
さらに効果の追及を進めたところ、この米胚芽発酵液にてうがいをすることにより、唾液中の抗原特異的IgA抗体の産生を増強することが判明した。
【0017】
上記の結果から、インフルエンザウイルスに対する効果についても研究を進めた結果、ウイルス表面抗原である赤血球凝集素(HA)を阻止することからインフルエンザウイルスに対する予防にも効果があることが判明した。
【0018】
この発明により、新しい抗癌薬に原薬として提供することが可能であるとともに、食品素材として使用することにより、癌の予防効果も期待出来、2008年には死因別順位で1位(34万人超)の癌に対して予防や進行の抑制に貢献出来るという、大変大きな社会貢献が期待される。
【0019】
さらに、パンデミックを引き起こし得る新型インフルエンザ等の感染予防にも大変大きな効果が見込まれる。
【0020】
また、これらの効果はGABAを富化する前段階の米胚芽及び糠を温水で発酵させた状態のものからも同様の効果を確認している。
【0021】
次に、本願発明(米胚芽発酵液又は米胚芽発酵粉末)が、免疫活性化因子の産出を促進する産物であることの実施例1〜4を示す。
【実施例1】
【0022】
(本願発明によるヒト末梢血単核球からのインターロイキン(IL-1β、IL-6およびIL-8)産生促進作用)
健常ヒト末梢血単核球を10%牛胎児血清(fetal calf serum: FCS)加RPMI-1640培地に浮遊し、細胞数が1x105個/穴になるように96穴マイクロプレートに播いた。次に、本願発明に係る米胚芽発酵液(最終希釈20倍)を添加し、37℃で1日間培養した。培養後、培養上清中のインターロイキン-1β(interleukin-1β:IL-1β)、IL-2、IL-6、IL-8およびIL-12の濃度を酵素抗体法(enzyme immunoassay: EIA法)で調べた。その結果、図2に示すように、米胚芽発酵液添加群は、無添加群に比べて大量のIL-1β、IL-6およびIL-8産生促進作用が認められた。
【実施例2】
【0023】
(本願発明によるヒト末梢血単核球からの腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor-α:TNF-α)産生促進作用)
健常ヒト末梢血単核球を10%牛胎児血清(fetal calf serum: FCS)加RPMI-1640培地に浮遊し、細胞数が1x105個/穴になるように96穴マイクロプレートに播いた。次に、本願発明に係る米胚芽発酵液(最終希釈20倍)を添加し、37℃で1日間培養した。培養後、培養上清中の腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor-α:TNF-α)の濃度を酵素抗体法(enzyme immunoassay: EIA法)で調べた。その結果、図3に示すように、米胚芽発酵液添加群は、無添加群に比べて大量のTNF-α産生促進作用が認められた。
【実施例3】
【0024】
(本願発明によるヒト末梢血単核球からの顆粒球・マクロファージ(単球)コロニー刺激因子(granulocyte macrophage colony-stimulating factor:GM-CSF)産生促進作用)
健常ヒト末梢血単核球を10%牛胎児血清(fetal calf serum: FCS)加RPMI-1640培地に浮遊し、細胞数が1x105個/穴になるように96穴マイクロプレートに播いた。次に、本願発明に係る米胚芽発酵液(最終希釈20倍)を添加し、37℃で1日間培養した。培養後、培養上清中の顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte macrophage colony-stimulating factor:GM-CSF)の濃度を酵素抗体法(enzyme immunoassay: EIA法)で調べた。その結果、図4に示すように、米胚芽発酵液添加群は、無添加群に比べて大量のGM-CSF産生促進作用が認められた。
【実施例4】
【0025】
(本願発明によるヒト単球系細胞株(U937細胞)からの血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)産生促進作用)
ヒト単球系細胞株(U937細胞)を10%牛胎児血清(fetal calf serum: FCS)加RPMI-1640培地に浮遊し、細胞数が1x105個/穴になるように96穴マイクロプレートに播いた。次に、本願発明に係る米胚芽発酵液(各種最終希釈倍数)を添加し、37℃で1日間培養した。培養後、培養上清中の血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)の濃度を酵素抗体法(enzyme immunoassay: EIA法)で調べた。その結果、図5に示すように、米胚芽発酵液添加群は、無添加群に比べてVEGFの産生促進作用が認められた。
【0026】
(まとめ)
本願発明では、まず始めに、米胚芽発酵液によるヒト末梢血単核球からの各種サイトカインの産生について検討した。その結果、米胚芽発酵液添加群では、IL-1β、IL-6、IL-8、TNF-α、さらにGM-CSFの著明な産生増強が認められた。
IL-1は内因性発熱物質およびリンパ球活性化因子として発見されたサイトカインである。その後、IL-1αおよびIL-1βの2種類が存在することが明らかになった。 IL-1αおよびIL-1βは共に前駆体タンパク質(アミノ酸残基数 IL-1α:271,IL-1β:269)として産生されるが、その後、酵素により構造の一部が切断されることで成熟体となる。IL-1の生理作用は多様であるが、炎症時における発熱や急性期タンパク質の産生誘導、さらにリンパ球、単球、顆粒球、樹状細胞などの活性化、血管内皮細胞への接着促進、破骨細胞活性の増強などがある。IL-1は単球、樹状細胞、好中球、T細胞、B細胞、マクロファージ、内皮細胞など様々な細胞から産生され、特に、自然免疫および獲得免疫の発動における主役を演じている。実施例1の結果から、米胚芽発酵液添加群では著明なIL-1βの産生が誘導されたことから、本願発明に係る米胚芽発酵液は、ヒト生体免疫系の活性化を促進する産物であることが判明した。
IL-6は液性免疫を制御するサイトカインの一つで、種々の免疫反応に関与している。ヒトのIL-6は212個のアミノ酸から構成される前駆体ペプチドとして産生されるが、アミノ基側末端のシグナルペプチドが切断されて最終的に184アミノ酸残基のペプチドとなる。IL-6はT細胞、B細胞、線維芽細胞、単球、血管内皮細胞、メサンギウム細胞など、様々な細胞により産生される。さらに、IL-6は各種ケモカインの産生および細胞接着分子の発現亢進、B細胞から抗体産生細胞への分化促進などの作用も示す。一方、IL-6は活性化樹状細胞からも分泌され、制御性T細胞の活性を制御することも知られている。実施例1の結果から、米胚芽発酵液添加群ではIL-1βと同様、IL-6も著明な産生が認められた。本願発明に係る米胚芽発酵液は、ヒト生体免疫系の活性化を促進する産物であることが判明した。
IL-8は主に免疫担当細胞の走化性を誘導するサイトカインである。好中球、単球、肺胞マクロファージ、血管内皮細胞などから産生される。また、最近は後に述べるVEGFと並んで、血管新生を誘導する因子としても注目されている。実施例1で示すように、米胚芽発酵液によってIL-8の産生が誘導されることは、米胚芽発酵液がIL-8を介して免疫担当細胞の走化や集積に関与しているものと考えられる。この結果は、IL-1β、IL-6の産生増強と同様に、本願発明に係る米胚芽発酵液は、ヒト生体免疫系の活性化を促進する産物であることが判明した。
【0027】
TNF-αは固形癌に対して出血性の壊死を誘導するサイトカインとして発見された。TNF-αは分子量25kDaの前駆体タンパク質である膜結合型TNF-α(mTNFα)として産生されるが、TNF-α変換酵素(TACE)により切断を受けて17kDaの可溶性TNF-α(sTNFα)タンパク質(157アミノ酸残基)になる。mTNF-αとsTNF-αのいずれも活性作用を有する。さらに、TNF-αは51kDaのホモ3量体を形成し血液中を循環する。TNF-αは主に活性化マクロファージによって産生されが、さらに単球、T細胞、NK細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞も産生源となる。TNF-αは癌(腫瘍)細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導することで抗腫瘍作用に関与する。実施例2の結果から、米胚芽発酵液添加群ではIL-1β、IL-6、IL-8と同様、TNF-αの著明な産生増強が認められた。すなわち、米胚芽発酵液はヒト生体免疫系の活性化、さらには抗腫瘍作用に密接に関わっていることが判明した。現在の日本における癌の治療は大きく(1)手術療法、(2)放射線療法、(3)抗癌剤療法、(4)免疫療法の4つに分類することができる。さらに、最近では免疫療法を利用したペプチドワクチン療法、樹状細胞ワクチン法など画期的な医療技術が進歩を遂げている。しかしながら、その治療には莫大な費用が掛かり余り一般的ではない。よって、比較的容易に、かつ安価に癌の予防・治療が可能になれば癌治療の新たな選択肢になると考えられる。本願発明に係る米胚芽発酵液は癌治療の新たな選択肢になる次世代の癌予防・治療の有益な産物になると大いに期待される。
【0028】
GM-CSFは、主に活性化T細胞より分泌され、多能性造血幹細胞に分化を促すサイトカインである。IL-3、IL-5と協力し多能性造血幹細胞を骨髄系前駆細胞(CFU-GEMM)に分化させ、これを前期赤芽球系前駆細胞(BFU-E)、顆粒球単球コロニー形成細胞(CFU-GM)、好酸球コロニー形成細胞(CFU-Eo)、好塩基球コロニー形成細胞(CFU-Ba)に分化させる作用がある。さらに、CFU-GMを好中球と単球に、CFU-Eoを好酸球に分化させる作用も持つ。このように主に細胞性免疫の主役である白血球(顆粒球、単球)の分化誘導作用をもつ。GM-CSFはより高次元の分化段階にある細胞に作用すると考えられているため、免疫活性や造血幹細胞誘導のための刺激剤に用いられることもある。実施例3の結果から、米胚芽発酵液添加群ではGM-CSFの著明な産生増強が認められた。すなわち、米胚芽発酵液はヒト生体免疫系の活性化に並行して、生体の造血機能にも密接に関与していることが判明した。本願発明に係る米胚芽発酵液によるGM-CSFの産生促進は、再生医療への応用においても大いに期待される産物である。
【0029】
以上、本願発明の実施例から、ヒト末梢血単核球に米胚芽発酵液を添加すると、生体免疫系を活性化するサイトカインの産生促進作用が認められた。この発明結果は、米胚芽発酵液が生体免疫系が活性化すると共に、新しい免疫療法として大変有益であることを強く示している。
本願発明に係る米胚芽発酵液は、本願出願人が長年の研究から独自の方法よって開発した産物で、既存の産物と比較すると生体免疫反応を強力に活性化する唯一の産物であることが判明した。
【0030】
本願発明では、米胚芽発酵液が脈管形成および血管新生に関与する血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の産生を促進することも判明した。VEGFは、ヒト下垂体前葉由来細胞株の培養上清から発見された45kDaの糖タンパク質で、血管内皮細胞に対して特異性を有する増殖因子である。
VEGFは培養血管内皮細胞の増殖、遊走、プロテアーゼ活性の亢進、コラーゲンゲル内での血管様構造の形成など血管新生の全ステップを促進し、in vivoでも血管新生や血管透過性を促進する。VEGFは主に血管内皮細胞表面にある血管内皮細胞増殖因子受容体 (VEGFR) にリガンドとして結合し、細胞分裂・遊走・分化を誘導し、微小血管の血管透過性を亢進させる。その他、免疫システムに密接に関与する単球・マクロファージの活性化にも関与する。VEGFファミリーには、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-D、VEGF-E、PlGF(胎盤増殖因子 placental growth factor)-1、PlGF-2の7つがあり、それぞれ異なった遺伝子を持つ。ヒトVEGF-A遺伝子は6番染色体短腕 (6p12) に存在し、8つのエクソンからなる。ヒトVEGF-B遺伝子は11番染色体長腕 (11q13) に存在する。VEGF-Cは4番染色体長腕(4q34.1-q34.3) に、VEGF-DはX染色体短腕 (Xp22.31) に存在する。PlGFは14番染色体長腕 (14q24-q31) に存在する。
7つのVEGFファミリーメンバーはそれぞれ決まったVEGF受容体に結合する。VEGF-AはVEGFR-2およびVEGFR-1に、VEGF-BとPlGF-1、PlGF-2はVEGFR1に、VEGF-CとVEGF-DはVEGFR-2およびVEGFR-3に、VEGF-EはVEGFR2に結合する。VEGFR-2はほとんど全ての血管内皮細胞表面に発現しているが、VEGFR-1およびVEGFR-3は特定の一部の血管内皮細胞に発現しているのみである。これら血管内皮細胞表面の受容体にVEGFが結合すると、受容体を介してチロシンキナーゼが活性化して細胞内にシグナルが伝達され、細胞の機能や構造に変化を与える。 VEGFR-2はVEGF-Aの大部分と結合して血管新生、脈管形成に働き、VEGFR-1は血管新生に関与する他、単球走化作用などに関与する。VEGFR-3はリンパ管新生に関与する。
VEGFの生体への作用としては脈管形成および血管新生があるが、特にメサンギウム増殖性糸球体腎炎(MPGN)の実験モデルにVEGFを投与すると、糸球体血管内皮細胞の増殖が刺激され、糸球体血管の修復が認められる。この事実は、VEGFが腎炎の糸球体修復に密接に関わっていることを支持している。
最近の研究により、VEGFはヒト皮膚における主要な血管新生因子であることが報告され、創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛、髪質改善等の研究分野で注目されている。正常な皮膚において、VEGFは表皮角化細胞により少量分泌される。その後、真皮の微小血管内皮細胞上の特異的レセプターに結合し、血管内皮細胞の生存能力を確保することで上部の網状構造の血管を維持している。炎症あるいは創傷治癒時に肥厚した表皮におけるVEGFの発現は非常に高く、真皮での血管の増加と栄養供給を導いている。また、毛髪の成長期では毛包周囲の血管が劇的に拡張すると共に、毛包の細胞におけるVEGFが高発現する。一方、毛髪の退行期と休止期では、血管の退縮に伴いVEGFの発現が抑制される。さらに、VEGFは血管形成を促進することから、血流循環を促進して毛根に栄養を多く供給することや、毛髪のコルテックス細胞同士の接着に関係していることも報告されている。従って、真皮での血管の増加と栄養供給に関与しているVEGFの産生を促進することは、創傷の回復・治癒に有効であるばかりでなく、皮膚の新陳代謝の低下等によって生じるくすみや肌の透明感の低下といった肌色改善にも有効である。また、毛髪・毛包の成長にもVEGFが関与していることから、VEGFの産生促進は、毛髪の脱毛・薄毛といった症状の防止や改善にも有効であると共に、毛髪を毛根から太くし、ハリコシを増強すると考えられている。このため、様々なVEGF産生促進剤(例えば、大豆由来の調製物、アミハナイグチ、アミタケ、キノボリイグチ、エゾウコギ、甘草、ニンジン、紅参、紫根、シンビジュームの各抽出物、シイタケ、エチナシ、プルーン、モヤシ、アマチャヅルの各抽出物等)がこれまでに開発されている。しかし、これらのVEGF産生促進剤は、副作用の点から配合が制限される場合があり、また有効量を配合すると着色や不快臭が発生する等の問題が生じる場合もあった。しかしながら、本願発明に係る米胚芽発酵液は着色や不快臭が発生する等の問題もなく、非常に応用範囲の広い産物である。
一方、最近のトピックスとして抗うつ薬の作用メカニズムにVEGFが密接に関与していることが報告された。これは抗うつ薬がVEGFを介して海馬の神経発生と海馬血管内皮細胞の増殖を促進する所見である。すなわち、VEGFが海馬におけるニューロン新生の誘導に重要な役割を演じることを証明したものである。実施例4の結果から、米胚芽発酵液のヒト単球系細胞株(U937細胞)への添加は、U937細胞からVEGFの産生促進作用が認められた。すなわち、この事実は、米胚芽発酵液が学習あるいは環境エンリッチメントにおける海馬のニューロン新生の誘導や認知能力の増進に有益であることを示すものである。
将来、米胚芽発酵液は認知症予防のサプリメントとして、有望な産物となる。すなわち、米胚芽発酵液によるVEGFの産生促進作用は「ブレインフィットネス」、すなわち認知症予防産物として大いに期待される産物であることが判明した。
以上、本願発明から、米胚芽発酵液は生体の免疫活性化因子の産生促進作用を有する次世代の最も有益な産物(サプリメント)であることが判明した。米胚芽発酵液の各産業界における利用は国内外的に多大な貢献をもたらすものと大いに期待される。
【0031】
さらに、本願発明(米胚芽発酵液又は米胚芽発酵粉末)が、腫瘍関連物質の産出を抑制する産物であることの実施例5を示す。
【実施例5】
【0032】
(本願発明の胃癌細胞株(MKN-45)と肝臓癌細胞株(HepG2)から産生される腫瘍関連物質CEAとPIVKA-IIの抑制)
培養胃癌細胞株(MKN-45)を10%FS加RPMI-1640に、培養肝臓癌細胞株(HepG2)を10%FCS加Advanced DMEMにそれぞれ2.5x105〜5x105個になるようにフラスコに播いた。次に、米胚芽発酵液(最終希釈倍数20倍)を添加し、3日間、37℃で培養した。培養後、培養上清中の腫瘍関連物質carcinoembryonic antigen(CEA)の濃度(ng/mL)を化学発光酵素免疫測定法で、protein induced by Vitamin K absence or antagonist-II(PIVKA-II)の濃度(mAU/mL)を電気化学発光酵素免疫測定法で測定した。その結果、図6と図7に示すように、米胚芽発酵液で培養したMKN-45およびHepG2細胞から分泌されるCEAまたはPIVKA-IIは、細胞の形態変化を伴いながら(図8)有意に抑制された(P<0.01)。また、図9と図10に示すように、米胚芽発酵液によるCEAまたはPIVKA-IIの抑制作用は濃度依存性であった(P<0.05)。
CEAは腫瘍関連物質(腫瘍マーカー)の一つで主に腺癌に対する指標である。また、細胞接着因子に関与する糖タンパク質の一つでもある。CEAは当初、消化器癌に特異的であるとされていたが、消化器癌以外の乳癌、肺癌、膀胱癌、前立腺癌、卵巣癌などでも高値を示すこことから、現在、大腸癌、胃癌、肺癌、卵巣癌、子宮癌などの予後診断のバイオマーカーとして用いられる。
PIVKA-IIは、血液凝固因子のうちII、VII、IX、X因子はいずれも肝臓で合成されるが、このときにビタミンKが必要である。また、これらの因子はいずれも活性化の際Ca2+を必要とし、N末端領域にγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)を有するなど性格は類似している。しかしこれらの因子は、ビタミンKが欠乏するとGlaはカルボシキ化されないで、グルタミン酸(Glu)のまま血中に出現する。このような正常の凝固因子活性をもたない蛋白をPIVKAと呼ぶ。PIVKA-IIが主にビタミンKの腸管における合成障害や、腸管からの吸収障害の指標として従来は測定されていたが、PIVKA-IIが肝細胞癌で高率に出現することで肝細胞癌の腫瘍マーカーとして見いだされ、現在では、PIVKA-IIは、ビタミンKの吸収障害、肝実質障害のみでなく肝細胞癌における代表的な腫瘍マーカーであるα-フェトプロテイン(AFP)に並ぶ腫瘍マーカーである。また、血中PIVKA-IIの値は治療効果をよく反映し、とくに著効例ではAFPよりも速やかに正常域まで下降する。よってPIVKA-IIは、再発の指標(予後診断)のバイオマーカーとなる。
以上、本願発明から、米胚芽発酵液で培養したMKN-45およびHepG2細胞から分泌されるCEAまたはPIVKA-IIは、細胞の形態変化を伴いながら有意に抑制された。よって、米胚芽発酵液にはヒトの癌細胞を正常化させる作用があることが判明した。
今後、CEAおよびPIVKA-IIは始め、癌細胞から産生される各種腫瘍関連物質の産生を米胚芽発酵液によって抑制し、癌細胞を正常化することは、米胚芽発酵液が抗癌(腫瘍)剤として癌治療分野における新しい産物(サプリメント)であると大いに期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米胚芽又は米胚芽を含む米糠に、水と、グルタミン酸又はグルタミン酸塩と、乳酸菌とを加えて発酵させたガンマ−アミノ酪酸及び胚芽又は米糠の由来成分を含むことを特徴とする米胚芽発酵液。
【請求項2】
25℃〜45℃にて12時間〜240時間発酵させることを特徴とする請求項1記載の米胚芽発酵液。
【請求項3】
発酵後に搾汁処理及び濾過処理されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の米胚芽発酵液。
【請求項4】
請求項3記載の米胚芽発酵液を粉末加工したことを特徴とする米胚芽発酵粉末。
【請求項5】
米胚芽又は米胚芽を含む米糠に、水と、グルタミン酸又はグルタミン酸塩と、乳酸菌とを加えて発酵させたガンマ−アミノ酪酸及び胚芽又は米糠の由来成分を含むことを特徴とする米胚芽発酵液の製造方法。
【請求項6】
米胚芽又は米胚芽を含む米糠に、水と、グルタミン酸又はグルタミン酸塩と、乳酸菌とを加えて発酵させた後に粉末加工させたガンマ−アミノ酪酸及び胚芽又は米糠の由来成分を含むことを特徴とする米胚芽発酵粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−217739(P2011−217739A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62012(P2011−62012)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(598094779)たいまつ食品株式会社 (8)
【Fターム(参考)】