説明

粉体攪拌機構、金属微粒子担持粉体の作製方法及び燃料電池用触媒

【課題】粉体全面に均一に金属微粒子を担持せしめるための同軸型真空アーク蒸着装置を用いた粉体攪拌機構、金属微粒子担持粉体の作製方法及び燃料電池用触媒を提供する。
【解決手段】粉体用容器1の上方近傍に設けられた突き当て部材3と、突き当て部材に容器を突き当てるために容器を揺動させるための揺動機構とを有する粉体攪拌機構及びこの攪拌機構と同軸型真空アーク蒸着源2とを備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用いて金属微粒子担持粉体を作製する。この金属微粒子担持粉体からなる燃料電池用触媒を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体攪拌機構、金属微粒子担持粉体の作製方法及び燃料電池用触媒に関し、特に同軸型真空アーク蒸着装置に設けた粉体攪拌機構、この蒸着装置を用いる金属微粒子担持粉体の作製方法及びこの作製方法を利用して得られた燃料電池用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば燃料電池用の電極触媒となる金属微粒子は、析出法、光電着法、共沈殿法といった液相法で基体となる粉体の表面に担持させている。この場合、粉体に触媒となる金属微粒子を均一に分散して担持させることが必要であるが、その担持の仕方によっては触媒性能が異なってしまうという問題がある。
【0003】
上記液相法による触媒担持は、還元処理、ろ過処理、800℃程度での高温処理といった工程を経なければならず、担持まで時間が掛かっていた。また、還元処理や高温処理を行う必要があるため、析出した金属微粒子が酸化するので、触媒性能が劣化してしまい、例えば燃料電池の発電性能が低下するという問題もある。
【0004】
また、上記方法以外に、スパッタや蒸着による気相法を用いて触媒金属を担持させる方法も知られている。この場合、基板上に載置した試料皿等の容器内に粉体を入れ、その上に触媒金属を照射して粉体に担持させるため、金属が照射される粉体の上面にしか触媒金属が担持されず、このように片面に担持させた後に容器を取り出して、粉体が上下逆さまになるようにし、再度その上に触媒金属を照射して担持させるという工程が必要であった。この場合、粉体を入れた容器を揺さぶることで粉体を攪拌することも考えられるが、容器を揺さぶるだけでは粉体が容器の底面上を転がらず、単に底面上を滑っていくだけのため、粉体の表面全体に金属微粒子を担持させることはできないという問題がある。
【0005】
なお、カーボン粒子等の導電性粒子に金属微粒子を担持させてなる燃料電池用触媒が知られている(例えば、特許文献1参照)。この場合、導電性粒子と金属微粒子とを交流アーク放電により同時に蒸発させており、金属微粒子を完全に又は部分的に導電性粒子中に埋包させる手法を用いている。
【特許文献1】特開2006−140017号公報(特許請求の範囲、段落0019等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、同軸型真空アーク蒸着装置に設けられた粉体攪拌機構、この蒸着装置を用いる金属微粒子担持粉体の作製方法及びこの作製方法を利用して得られた燃料電池用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の粉体攪拌機構は、円筒状のトリガ電極と、微粒子作製用金属材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極と、前記トリガ電極とカソード電極との周りに同軸状に配置された円筒状のアノード電極とを有し、前記トリガ電極とカソード電極とが円板状の絶縁碍子を挟んで隣接して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えている同軸型真空アーク蒸着装置内に設けられた粉体攪拌機構であって、この粉体攪拌機構が、前記金属材料からなる微粒子を蒸着させる粉体を装入する粉体用容器の上方近傍に設けられた突き当て部材と、この突き当て部材に粉体用容器を突き当てるために前記粉体用容器を揺動させるための揺動機構とを有することを特徴とする。
【0008】
前記粉体用容器は、その底面に高さ5mm以下のリブを設けたものであることが好ましい。高さが5mmを超えると粉体攪拌機構を傾けた時に、その傾きの角度にもよるが、粉体がリブの上を乗り越えて転がることができず、粉体全面に金属微粒子の担持を行うことができない。
【0009】
前記突き当て部材は、前記同軸型真空アーク蒸着源のアノード電極先端部の近傍に設けられていることが好ましい。
【0010】
前記突き当て部材を設けずに、前記同軸型真空アーク蒸着源のアノード電極先端の外縁部を、前記突き当て部材として機能し得るように構成しても良い。
【0011】
本発明の金属微粒子担持粉体の作製方法は、円筒状のトリガ電極、微粒子作製用金属材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極、及び前記トリガ電極とカソード電極との周りに同軸状に配置された円筒状のアノード電極を有し、前記トリガ電極とカソード電極とが円板状の絶縁碍子を挟んで隣接して配置されている同軸型真空アーク蒸着源と、底面に5mm以下のリブが設けられている粉体用容器の上方近傍に設けられた突き当て部材及びこの突き当て部材に粉体用容器を突き当てるために粉体用容器を揺動させるための揺動機構からなる粉体攪拌機構とを備えている同軸型真空アーク蒸着装置を用い、前記トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させ、前記カソード電極の金属材料から生じるプラズマ化された金属微粒子を、前記粉体用容器内に装入された粉体に蒸着せしめる静止蒸着工程と、次いでこの粉体を前記粉体攪拌機構により攪拌しながら、前記プラズマ化された金属微粒子を粉体に蒸着せしめる攪拌蒸着工程とを繰り返して粉体表面に金属微粒子を担持せしめることを特徴とする。
【0012】
前記攪拌は、粉体用容器の上縁部を突き当て部材に突き当て、その物理的衝撃により行われ、また、前記突き当て部材を含んでいない粉体攪拌機構を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用いる場合には、前記攪拌は、同軸型真空アーク蒸着源のアノード電極先端の外縁部に粉体用容器を突き当てて行われる。
【0013】
前記担持された金属微粒子の粒径は、1〜10nmである。上記したような同軸型アーク真空蒸着源及び粉体攪拌機構を備えた蒸着装置を利用することにより、このような粒径を有する金属微粒子を制御して作製することができる。
【0014】
前記粉体は、カーボンブラック等のカーボン、酸化アルミニウム、酸化シリコン及び酸化チタンの粉体か選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
本発明の燃料電池用触媒は、上記した金属微粒子担持粉体の作製方法に従って、粒径10〜100nmのカーボン粉体の表面に金属微粒子を金属触媒として担持させてなることを特徴とする。このカーボン粉体表面に担持させた金属微粒子の粒径は、1〜10nmである。このように、カーボン粉体表面に所定の粒径を有する均一な微粒子金属触媒が担持されているので、燃料電池の電気特性(酸化還元反応)が向上することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の粉体攪拌機構を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用いれば、粉体の片面だけでなく粉体全面にまんべんなく金属微粒子を担持させることが可能であり、例えば燃料電気等の電極触媒として十分な性能を発揮できる触媒材料を提供できるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明の燃料電池用触媒によれば、カーボン粉体表面に所定の粒径を有する均一な微粒子金属触媒が担持されているので、燃料電池の電気特性(酸化還元反応)が向上するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る粉体攪拌機構の一実施の形態によれば、金属材料からなる微粒子を表面に蒸着させる粉体を装入する粉体用容器の上方近傍に設けられた突き当て部材(障害物)と、この突き当て部材に粉体用容器の上縁部を突き当てるために粉体用容器を揺動させるための揺動機構とを有する粉体攪拌機構が提供され、この粉体用容器の底面には所定の高さのリブが設けられている。
【0019】
上記揺動機構は、粉体用容器を揺りかごのように左右に揺動して、容器上縁部を突き当て部材に突き当てることができる機構であれば、特に制限はなく、公知の機構を有するものであれば良い。
【0020】
また、上記突き当て部材は、粉体用容器の上方であって、粉体用容器が突き当てられ、粉体が一様に攪拌され得るような位置に設けられてあれば良い。この場合、粉体用容器の横断面の大きさを勘案して突き当て部材を設ける位置を適宜設定すれば良い。この突き当て部材は、例えば、同軸型真空アーク蒸着装置のアノード電極先端部の近傍に設けられていれば良く、また、同軸型真空アーク蒸着装置のアノード電極先端の外縁部自体が、この突き当て部材として機能するように構成しても良い。この突き当て部材及びアノード電極は、粉体用容器の材質と同等又はそれ以上の硬度を持った材料から作製されていれば良い。
【0021】
以下、本発明に係る粉体攪拌機構の一実施の形態を図1及び2を参照して詳細に説明する。図1(a)は、粉体攪拌機構を組み込んだ真空チャンバの断面を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、図1(a)の模式的側面図であり、図2(a)は、粉体用容器の模式的上面図であり、そして図2(b)は、粉体用容器の模式的断面図である。
【0022】
図1及び2に模式的に示すように、本発明の粉体攪拌機構は、粉体Sを装入する粉体用容器1の上方近傍(図1では、同軸型真空アーク蒸着源2のアノード電極外周部近傍)に設けられた円筒状の突き当て部材3と図示していない公知の揺動機構とからなり、この粉体用容器1は、皿等の形状を有し、粉体用容器載置台4の上に載置される。この揺動機構は、粉体用容器1をその中心を支点として左右に揺動させて、この粉体用容器の上縁部を突き当て部材3に突き当てるようにする公知の揺動機構である。突き当て部材3の形状は、円筒状に限らず、粉体用容器1の上縁部が突き当たり、その物理的衝撃により粉体Sが転がって攪拌できるように構成されているものであれば良く、例えば板状でも良い。図1中、5は真空チャンバを示す。粉体用容器1の底面には一般に高さ5mm以下、好ましくは1〜5mm、より好ましくは1〜2mmのリブ1aが複数本設けられている。このリブの高さは、揺動せしめる角度にもよるが、粉体の転動が良好になるように、すなわち粉体用容器の揺動により粉体がリブを乗り越えて良好な転がりを達成できるように、適宜選択すれば良い。
【0023】
次いで、上記粉体攪拌機構を備えた同軸型アーク真空蒸着装置及びこの蒸着装置を用いた本発明の金属微粒子作製方法の一実施の形態を図3を参照して詳細に説明する。
【0024】
図3に示すように、同軸型真空アーク蒸着装置31は、円筒状の真空チャンバ32を有し、この真空チャンバ内の下方には、粉体用容器載置台33が水平に配置されている。真空チャンバ32には、図示されていないが、容器載置台33上に載置される粉体用容器34を揺動させるための公知の揺動機構が設けられている。
【0025】
粉体用容器34内の粉体Sを加熱できるように容器載置台にはヒータ等の加熱手段(図示せず)を設け、所望により、粉体を所定の温度に加熱できるようにしてもよい。載置台33は1又は複数個設けられ、それぞれに、粉体用容器34が保持されて取り付けられ得るようになっている。真空チャンバ32内の上方には、各粉体用容器34と対向して、1又は複数個の後述する同軸型真空アーク蒸着源(アークプラズマガン)35が、カソード電極35a側を容器載置台33に向けて配置されている。これにより、金属微粒子が、真空チャンバ32内の上方から下方に向かって飛翔し、粉体用容器34内の粉体Sに蒸着でき、必要に応じて、粉体用容器34を上記した粉体攪拌機構により揺動させて粉体Sを攪拌し、粉体S表面に均一に金属微粒子を蒸着させることができるように構成されている。
【0026】
真空チャンバ32の壁面には、ガス導入系36及び真空排気系37が接続されている。このガス導入系36は、バルブ36a、マスフローコントローラー36b及びガスボンベ36cがこの順序で金属製配管で接続されている。また、真空排気系37は、バルブ37a、ターボ分子ポンプ37b、バルブ37c及びロータリーポンプ37dがこの順序で金属製真空配管で接続されており、真空チャンバ32内を好ましくは10−5Pa以下に真空排気できるように構成されている。
【0027】
図3に示すように、同軸型真空アーク蒸着装置31に設けられた同軸型真空アーク蒸着源35は、その一端が閉じ、粉体用容器34に対向する他端が開口しており、白金、コバルト、鉄、ニッケル、ルテニウム、及びチタン等から選ばれた蒸着用金属材料で構成されている円筒状のカソード電極35aと、ステンレス等から構成されている円筒状のアノード電極35bと、ステンレス等から構成されている円板状のトリガ電極(例えば、リング状のトリガ電極)35cと、カソード電極35aとトリガ電極35cとの間に両者を離間させるために設けられた円板状の絶縁碍子35dとから構成されている。カソード電極35aが、粉体用容器34に対向して設けられている。カソード電極35aと絶縁碍子35dとトリガ電極35cとの3つの部品は、図示していないが、ネジ等で密着させて取り付けられている。また、アノード電極35bは、図示していないが支柱で真空フランジに取り付けられ、この真空フランジは真空チャンバ32の上面に取り付けられている。カソード電極35aは、アノード電極35bの内部に同軸状にアノード電極の壁面から一定の距離だけ離して設けられている。カソード電極35aは、上記したように、その少なくとも先端部(アノード電極35bの開口部A側の端部に相当する)が、前記金属材料から構成されていても良い。
【0028】
トリガ電極35cは、前記ターゲット材料ないしはカソード電極35aとの間にアルミナ等から構成された絶縁碍子(ワッシャ碍子)35dを挟んで取り付けられている。絶縁碍子35dはカソード電極35aとトリガ電極35cとを絶縁するように取り付けられており、また、トリガ電極35cは絶縁体を介してカソード電極35aに取り付けられていてもよい。これらのアノード電極35bとカソード電極35aとトリガ電極35cとは、絶縁碍子35d及び絶縁体により電気的に絶縁が保たれていることが好ましい。この絶縁碍子35dと絶縁体とは、一体型に構成されたものであっても、別々に構成されたものでも良い。
【0029】
カソード電極35aとトリガ電極35cとの間にはパルストランスからなるトリガ電源35eが接続されており、また、カソード電極35aとアノード電極35bとの間にはアーク電源35fが接続されている。アーク電源35fは、直流電圧源35gとコンデンサユニット35hとからなり、このコンデンサユニット35hの両端は、それぞれ、カソード電極35aとアノード電極35bとに接続され、コンデンサユニット35hと直流電圧源35gとは並列接続されている。
【0030】
コンデンサユニット35hは、1つ又は複数個のコンデンサ(図3では、1個のコンデンサを例示してある)が接続したものであって、その1つの容量が例えば2200μF(耐電圧160V)であり、直流電圧源35gにより随時充電される。トリガ電源35eは、入力200Vのパルス電圧を約17倍に変圧して、3.4kV(数μA)、極性:プラスを出力している。アーク電源35fは、100V、数Aの容量の直流電源であって、直流電圧源35gからコンデンサユニット35h(例えば、4個のコンデンサユニットの場合、8800μF)に充電している。この充電時間は約1秒かかるので、本システムにおいて8800μFで放電を繰り返す場合の周期は、1Hzで行われる。トリガ電源35eのプラス出力端子はトリガ電極35cに接続され、マイナス端子はアーク電源35fの直流電圧源35gのマイナス側出力端子と同じ電位に接続され、カソード電極35aに接続されている。アーク電源35fの直流電圧源35gのプラス端子はグランド電位に接地され、アノード電極35bに接続されている。コンデンサユニット35hの両端子は直流電圧源35gのプラス端子及びマイナス端子間に接続されている。図3中、35iはケーブルを示し、放電時の放電電流の流れを矢印→で示してある。実際には、放電電流の電流の大部分は電子によるものなので、実際の電子の流れる向きは矢印と逆になるが、図3では簡易的に電気的な配線図による電気回路で示してあるので、電流の流れの方向として示してある。
【0031】
次に、図3に示す同軸型真空アーク蒸着装置31を用いて、粉体用容器34内に装入された粉体Sの表面に金属微粒子を担持せしめるプロセスについて説明する。
【0032】
例えば、まず、直流電圧源35gによりコンデンサユニット35hに100V〜400Vで電荷を充電し、コンデンサユニット35hの容量を8800μF以下、間欠運転の周期を1〜5Hz、放電時間を1000μs以下に設定する。次いで、トリガ電源35eからトリガ電極35cにパルス電圧を出力し(出力:3.4kV)、カソード電極35aとトリガ電極35cとの間にワッシャ碍子35dを介して印加することで、カソード電極35aとトリガ電極35cとの間にトリガ放電(ワッシャ碍子表面での沿面放電)を発生させる。この際、カソード電極35aとワッシャ碍子35dとのつなぎ目から電子が発生する。このトリガ放電によって、カソード電極35aの側面とアノード電極35b内面との間で、コンデンサユニット35hに蓄電された電荷が真空アーク放電され、カソード電極35aに多量のアーク電流が流入し、このアーク放電により、カソード電極35aから白金等の金属材料のプラズマが形成される。コンデンサユニット35hに蓄電された電荷の放出により放電は停止する。このトリガ放電を複数回繰り返し、そのトリガ放電毎にアーク放電を誘起させることが好ましい。
【0033】
上記したアーク放電の間、金属材料の融解により発生した微粒子(プラズマ化している原子状イオンやクラスタや電子等)が形成される。この微粒子をアノード電極35bの開口部(放出口)Aから真空チャンバ32内に放出させ、開口部Aに対向して設置されている粉体用容器34内の粉体Sに対して、上記のようにして形成された金属微粒子を供給し、粉体Sに金属微粒子を付着させ、凝集せしめて直径数nm(例えば、1〜10nm)の金属微粒子が付着され担持された粒子を形成する。この粉体Sは、室温であっても、加熱手段により所定の温度に加熱されていても良い。
【0034】
本実施の形態によれば、上記同軸型真空アーク蒸着源35の近傍にコンデンサユニット35hを取り付けたものを用い、上記した放電条件を用いて行うことにより、1〜10nm程度の金属微粒子を形成することができると共に、金属微粒子を粉体に密着性よく付着させ、担持せしめることができる。コンデンサユニット35hを同軸型真空アーク蒸着源35の近傍に取り付ける場合、カソード電極35a及びアノード電極35bとの接続ラインを短く、例えば、100mm以下、好ましくは10mm〜100mm程度の距離になるように取り付ければ良い。
【0035】
上記した金属微粒子の放出は次のようにして行われる。カソード電極35aに多量の電流が流れるので、カソード電極35aに磁場が形成され、この時発生したプラズマ中の電子(この電子はカソード電極35aからアノード電極35bの円筒内面に飛行する)が自己形成した磁場によってローレンツ力を受け、前方に飛行する。一方、プラズマ中のカソード電極材料の金属イオンは、電子が前記したように飛行し分極することでクーロン力により前方の電子に引きつけられるようにして前方に飛行し、粉体S上に金属微粒子が付着し、担持されることになる。
【0036】
上記したアーク放電の間、白金等の金属の融解により発生した微粒子(プラズマ化している原子状イオンやクラスタや電子等)が形成される。この微粒子をアノード電極35aの開口部Aから真空チャンバ32内に放出させ、粉体用容器34内に装入したカーボンブラックS上に供給し、まず粉体Sを攪拌することなく室温で所定のショット数で静止蒸着せしめる工程と、その後粉体Sを上記のようにして攪拌しながら室温で所定のショット数で蒸着せしめる工程とを所定の回数繰り返して、蒸着せしめ、カーボンブラック表面に白金等の金属の微粒子を担持せしめる。攪拌の際、粉体用容器34の上縁部を突き当て部材(図示せず)や、アノード電極35bの先端部に突き当てて、容器に物理的衝撃を加えることで、粉体Sが容器底面に設けたリブを乗り越えて、転がりながら攪拌される。すなわち、上記金属微粒子の蒸着は、粉体Sを攪拌せずに粉体表面に金属微粒子を所定のショット数で静止蒸着させる工程と、次いで粉体Sを攪拌しながら粉体表面に金属微粒子を所定のショット数で攪拌蒸着させる工程とを交互に複数回繰り返して行う。
【0037】
上記したような同軸型真空アーク蒸着源35を用いて燃料電池電極用の粉体(カーボンブラック)に白金等の金属触媒粒子を蒸着させることにより、粉体に白金等が、例えば粒径2〜5nm程度で形成・担持されるため、この白金等が担持した粉体を燃料電池電極として使用すると、燃料電池の電気特性(酸化還元反応)が改善される。
【0038】
前記実施の形態では、容器内に装入した粉体を同軸型真空アーク蒸着源と対向させて配置し、粉体に直接的に金属微粒子を蒸着したが、このように、蒸着源を真空チャンバ、ひいては粉体に対して鉛直に配置した場合、蒸着源からμサイズのパーティクル(液滴)が粉体内に混入する場合がある。この場合には、同軸型真空アーク蒸着源を真空チャンバに対して水平状態に取付け、磁石2個をアノード電極近傍に挟み込むように平行に配置して磁場を形成し、プラズマを偏向させて粉体に金属微粒子を蒸着させてもよい。
【実施例1】
【0039】
本実施例では、図3に示す同軸型真空アーク蒸着源35及び公知の粉体攪拌機構(図示せず)を備えた同軸型真空アーク蒸着装置31を用い、ターゲット材として、白金で構成されたカソード電極35aを配置して、以下のようにして、φ80mm×10mmの粉体用容器34(底面に高さ1mmのリブが4本設けてある)内に装入したカーボンブラック粉体(キャボット社製、商品名:VULCAN XC-72、粒径20〜50nm)の表面に室温で白金微粒子を担持せしめた。なお、アノード電極35bの先端(開口部A)からカーボンブラック粉体までの距離を約40mmに設定して実施した。
【0040】
まず、白金微粒子を形成する前に、直流電圧源35gによりコンデンサユニット35h(本実施例では4つのコンデンサを設けた)に電荷を充電し、アーク電圧を100Vとし、コンデンサユニット35hの容量を8800μFに設定した。次いで、トリガ電源35eからトリガ電極35cにパルス電圧を出力し(出力:3.4kV)、カソード電極35aとトリガ電極35cとの間にワッシャ碍子35dを介して印加することで、カソード電極35aとトリガ電極35cとの間にトリガ放電を発生させた。カソード電極35aとワッシャ碍子35dとのつなぎ目から電子が発生した。この時、カソード電極35a側面とアノード電極35b内面との間で、コンデンサユニット35hに蓄電された電荷がアーク放電され、カソード電極35aに多量の電流が流入し、カソード電極35aから白金のプラズマが形成された。コンデンサユニット35hに蓄電された電荷の放出により放電は停止した。放電周期は1Hzとし、放電を繰り返し、そのトリガ放電毎にアーク放電を誘起させた。
【0041】
上記したアーク放電の間、白金の融解により発生した微粒子(プラズマ化している原子状イオンやクラスタや電子等)が形成された。この微粒子をアノード電極35aの開口部Aから真空チャンバ32内に放出させ、粉体用容器34内に装入したカーボンブラックS上に供給し、まず粉体Sを攪拌することなく室温で400発(ショット)静止蒸着せしめ、その後、粉体用容器34を粉体攪拌機構により揺動させ、容器の上縁部をカソード電極35bの先端部に突き当てて粉体Sを攪拌しながら、室温で100ショット攪拌蒸着せしめる2つの静止/攪拌蒸着工程を10回繰り返して、合計5000ショットの蒸着工程を行い、カーボンブラック表面に白金微粒子を担持させた。攪拌の際、粉体用容器34の上縁部をアノード電極35aの先端部に突き当てて、容器に物理的衝撃を加えることで、カーボンブラックSが容器底面に設けたリブを乗り越えて、転がりながら攪拌されていることが確認できた。
【0042】
かくして得られたカーボンブラック粉体上に白金微粒子が担持された粒子のTEM写真を図4に示す。図4から明らかなように、カーボンブラック粉体上に2〜5nmの白金微粒子が満遍なく分散担持されていることがわかる。この白金微粒子を担持したカーボンブラックは燃料電池の電極として有用である。
(比較例1)
【0043】
実施例1と同じカーボンブラック粉体Sをガラス板上に固定して配置し、攪拌することなく、実施例1と同じ条件でこのカーボンブラック粉体S表面に白金微粒子を担持せしめた。但し、粉体を固定して攪拌せずにショット数を増やして蒸着を行うと、薄膜が形成されてしまうため、50ショット蒸着を行った。
【0044】
かくして得られたカーボンブラック粉体上に白金微粒子が担持された粒子のTEM写真を図5に示す。図5から明らかなように、カーボンブラック粉体上の白金微粒子が供給された面だけに白金微粒子が担持されていることがわかる。
【0045】
上記実施例1及び比較例1から明らかなように、本発明の粉体攪拌機構を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用いることにより、粉体全面に均一に満遍なく金属微粒子を担持せしめることができ、触媒としての性能を向上できることが分かる。
【実施例2】
【0046】
実施例1に従って形成されたカーボンブラック粉体上に白金微粒子が担持された粒子を燃料電池用の電極触媒とし、この電極触媒に対して、公知の対流ボルタンメトリー法(回転ディスク電極法)を用いる電気化学測定により、酸化還元反応で得られた電流値を測定した。この測定条件は、掃引速度50mV/sec、回転数2000rpmであった。なお、比較対照として、カーボンブラック(CB)のみについて、また、従来の液相プロセスによりカーボンブラック上に白金を担持せしめた電極触媒として、市販品:Pt20wt%/CB(ElectroChem, Inc.製)についても、同様にして、電気化学測定を行った。
【0047】
上記のようにして測定した電流値のデータを、横軸に電位(V vsAg/AgCl)、縦軸に電流(A)をとり、図6にプロットする(図6中、CBはカーボンブラック、APG−Pt5000/CB)は上記実施例1で得られた電極触媒、そしてPt20wt%/CBは市販品の場合のデータを示す)。
【0048】
図6から明らかなように、本発明に従って同軸型真空アーク蒸着源装置を用いて蒸着して得た電極触媒の方が、市販の白金20wt%をカーボンブラックに含有した電極触媒よりも電流値が高く、より高い触媒活性を示していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、粉体攪拌機構を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用いることにより、粉体全面に金属微粒子を均一に満遍なく担持せしめることが可能である。この方法を利用することにより、均一な金属微粒子からなる触媒金属を燃料電池電極用の粉体(カーボンブラック)に蒸着させることによって得られる金属微粒子は、均一な金属触媒がカーボンブラックに担持されているので、この金属触媒を利用すれば燃料電池の電気特性(酸化還元反応)が向上する。
【0050】
従って、本発明は、燃料電池等のような次世代エネルギーデバイスの技術分野において、触媒金属を担持させる際に利用可能である。また、本発明は、上記したように粉体表面に均一な金属微粒子の担持された粒子を形成できることから、カーボンナノチューブ等のナノカーボン材料の下地膜(触媒層)を作製する技術分野でも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る粉体攪拌機構の一実施の形態を示す模式図であり、(a)は粉体攪拌機構を組み込んだ真空チャンバの断面を模式的に示す断面図であり、(b)は(a)の模式的側面図である。
【図2】本発明の粉体攪拌機構で用いる粉体用容器の模式図であり、(a)は粉体用容器の上面図であり、(b)は粉体用容器の断面図である。
【図3】本発明の粉体攪拌機構を備えた同軸型アーク真空蒸着装置の一構成例を模式的に示す構成図。
【図4】実施例1で得られたカーボンブラック粉体上に白金微粒子が担持された粒子のTEM写真。
【図5】比較例1で得られたカーボンブラック粉体上に白金微粒子が担持された粒子のTEM写真。
【図6】実施例2における燃料電池用電極触媒の触媒活性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0052】
1 粉体用容器 2 同軸型真空アーク蒸着源
3 突き当て部材 4 粉体用容器載置台
5 真空チャンバ 1a リブ
S 粉体 31 同軸型真空アーク蒸着装置
32 真空チャンバ 33 容器載置台
34 粉体用容器 35 同軸型真空アーク蒸着源
35a カソード電極 35b アノード電極
35c トリガ電極 35d 絶縁碍子
35e トリガ電源 35f アーク電源
35g 直流電圧源 35h コンデンサユニット
35i ケーブル 36 ガス導入系
36a バルブ 36b マスフローコントローラー
36c ガスボンベ 37 真空排気系
37a バルブ 37b ターボ分子ポンプ
37c バルブ 37d ロータリーポンプ
A 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のトリガ電極と、微粒子作製用金属材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極と、前記トリガ電極とカソード電極との周りに同軸状に配置された円筒状のアノード電極とを有し、前記トリガ電極とカソード電極とが円板状の絶縁碍子を挟んで隣接して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を備えている同軸型真空アーク蒸着装置に設けられた粉体攪拌機構であって、この粉体攪拌機構が、前記金属材料からなる微粒子を蒸着させる粉体を装入する粉体用容器の上方近傍に設けられた突き当て部材と、この突き当て部材に粉体用容器を突き当てるために前記粉体用容器を揺動させるための揺動機構とを有することを特徴とする粉体攪拌機構。
【請求項2】
前記粉体用容器が、その底面に高さ5mm以下のリブを設けたものであることを特徴とする請求項1記載の粉体攪拌機構。
【請求項3】
前記突き当て部材が、前記同軸型真空アーク蒸着源のアノード電極先端部の近傍に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の粉体攪拌機構。
【請求項4】
前記突き当て部材を設けずに、前記同軸型真空アーク蒸着源のアノード電極先端の外縁部が、突き当て部材として機能するように構成することを特徴とする請求項1又は2記載の粉体攪拌機構。
【請求項5】
円筒状のトリガ電極、微粒子作製用金属材料で少なくとも先端部が構成された円筒状のカソード電極、及び前記トリガ電極とカソード電極との周りに同軸状に配置された円筒状のアノード電極を有し、前記トリガ電極とカソード電極とが円板状の絶縁碍子を挟んで隣接して配置されている同軸型真空アーク蒸着源と、底面に5mm以下のリブが設けられている粉体用容器の上方近傍に設けられた突き当て部材及びこの突き当て部材に粉体用容器を突き当てるために粉体用容器を揺動させるための揺動機構からなる粉体攪拌機構とを備えている同軸型真空アーク蒸着装置を用い、前記トリガ電極とアノード電極との間にトリガ放電をパルス的に発生させて、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を断続的に誘起させ、前記カソード電極の金属材料から生じるプラズマ化された金属微粒子を、前記粉体用容器内に装入された粉体に蒸着せしめる静止蒸着工程と、次いでこの粉体を前記粉体攪拌機構により攪拌しながら、前記プラズマ化された金属微粒子を粉体に蒸着せしめる攪拌蒸着工程とを繰り返して粉体表面に金属微粒子を担持せしめることを特徴とする金属微粒子担持粉体の作製方法。
【請求項6】
前記攪拌が、粉体用容器の上縁部を突き当て部材に突き当て、その物理的衝撃により行われることを特徴とする請求項5記載の金属微粒子担持粉体の作製方法。
【請求項7】
前記突き当て部材を含んでいない粉体攪拌機構を備えた同軸型真空アーク蒸着装置を用いる場合、前記攪拌が、前記同軸型真空アーク蒸着源のアノード電極先端の外縁部に粉体用容器を突き当てて行われることを特徴とする請求項5記載の金属微粒子担持粉体の作製方法。
【請求項8】
前記担持された金属微粒子の粒径が、1〜10nmであることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の金属微粒子担持粉体の作製方法。
【請求項9】
前記粉体が、カーボン、酸化アルミニウム、酸化シリコン及び酸化チタンの粉体か選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の金属微粒子担持粉体の作製方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれかに記載の金属微粒子担持粉体の作製方法に従って、粒径10〜100nmのカーボン粉体の表面に金属微粒子を金属触媒として担持させてなることを特徴とする燃料電池用触媒。
【請求項11】
前記金属微粒子の粒径が、1〜10nmであることを特徴とする請求項10記載の燃料電池用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−231502(P2008−231502A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72269(P2007−72269)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】