説明

粒子分析装置用標準物質

【課題】本発明は、粒子分析装置の異常箇所を判定することが可能な標準物質を提供することを目的とする。また、本発明は、標準物質を用いて粒子分析装置の異常箇所を判定することができる方法及び装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、生体試料中に含まれる測定対象粒子に対して蛍光染色処理を行い、蛍光染色された測定対象粒子を分析する粒子分析装置に用いられる標準物質であって、前記蛍光染色処理によって蛍光染色される第1標準粒子と、予め所定の蛍光色素を含む第2標準粒子と、からなる粒子分析装置用標準物質を提供する。また、本発明は、上記標準物質を用いて粒子分析装置の異常箇所を判定することができる方法及び装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子分析装置の精度管理等に用いられる粒子分析装置用標準物質に関する。
【背景技術】
【0002】
尿や血液などの生体試料中の粒子を蛍光色素により染色し、この粒子に光を照射して、粒子より発せられる蛍光や前方散乱光を測定することにより、粒子を分類・計数する粒子分析装置が知られている。
【0003】
ところで、このような粒子分析装置においては、常に正確な測定結果が得られるように精度管理する必要がある。すなわち、精度管理用標準物質を粒子分析装置で測定して、正確な測定値が得られない場合には、粒子分析装置を較正して標準物質の測定値が所定の範囲に入るようにしなければならない。
【0004】
特許文献1には、尿中に含まれる有形成分に対して所定の色素により蛍光染色処理を行う試料調製機構と、蛍光染色された有形成分からの蛍光を検出する蛍光検出器を備えたフローサイトメータ用の標準液が記載されている。この標準液に含まれる標準粒子は、蛍光染色処理により測定対象の有形成分と同様の蛍光強度を示すように染色され得る粒子である。フローサイトメータの試料調製機構に問題が生じて染色が良好になされない場合、上記標準粒子を測定することにより、染色機構の異常を検出することができるようになる。
【0005】
【特許文献1】特開平09-196916号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された標準液を用いて粒子分析装置の精度管理を行えば、得られた測定値(蛍光強度)が所定範囲外にある場合、例えば蛍光検出器の感度を調整することにより、適正な測定値が得られるように較正することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1には、粒子分析装置で標準物質を測定して、装置の異常箇所を判定することについては一切記載されていない。
【0008】
本発明は、粒子分析装置の異常箇所を判定することが可能な標準物質を提供することを目的とする。また、本発明は、標準物質を用いて粒子分析装置の異常箇所を判定することができる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、生体試料中に含まれる測定対象粒子に対して蛍光染色処理を行い、蛍光染色された測定対象粒子を分析する粒子分析装置に用いられる標準物質であって、前記蛍光染色処理によって蛍光染色される第1標準粒子と、予め所定の蛍光色素を含む第2標準粒子と、からなる粒子分析装置用標準物質を提供する。
【0010】
本発明は、生体試料と第1の蛍光色素とを混合して測定用試料を調製するための測定用試料調製部、測定用試料に光を照射するための光源及び測定用試料からの蛍光を検出するための蛍光検出器を含む粒子分析装置の異常箇所を判定する方法であって、前記粒子分析装置を用いて第1標準粒子及び第2標準粒子を測定して、第1標準粒子に関する第1の蛍光及び第2標準粒子に関する第2の蛍光を検出する検出工程、及び前記蛍光検出工程により得られる第1の蛍光の検出結果及び第2の蛍光の検出結果に基づいて、粒子分析装置の異常箇所を判定する異常箇所判定工程を含み、前記第1標準粒子が前記第1の蛍光色素によって蛍光染色され、前記第2標準粒子が予め第2の蛍光色素を含有する粒子である、粒子分析装置の異常箇所を判定する方法を提供する。
【0011】
本発明は、第1標準粒子及び第2標準粒子を含む標準物質と第1の蛍光色素とを混合して測定用試料を調製するための測定用試料調製部、前記測定用試料に光を照射するための光源、前記測定用試料に含まれる第1標準粒子に関する第1の蛍光及び第2標準粒子に関する第2の蛍光を検出するための蛍光検出器、第1の蛍光の検出結果及び第2の蛍光の検出結果に基づいて粒子分析装置の異常箇所を判定するための解析部を含み、前記試料調調製部において、前記第1標準粒子が前記第1の蛍光色素によって蛍光染色され、前記第2標準粒子が予め第2の蛍光色素を含有する粒子される、粒子分析装置を提供する。
【0012】
本発明は、第1標準粒子を含有する第1の標準物質と第1の蛍光色素とを混合して第1の測定用試料を調製し、第2標準粒子を含有する第2の標準物質から第2の測定用試料を調製するための測定用試料調製部、前記第1及び第2の測定用試料に光を照射するための光源、前記第1の測定用試料に含まれる第1標準粒子に関する第1の蛍光を検出し、前記第2の測定用試料に含まれる第2標準粒子に関する第2の蛍光を検出するための蛍光検出器、第1の蛍光の検出結果及び第2の蛍光の検出結果に基づいて、粒子分析装置の異常箇所を判定するための解析部を含み、前記試料調調製部において、前記第1標準粒子が前記第1の蛍光色素によって蛍光染色され、前記第標準粒子が予め第2の蛍光色素を含有する粒子される、粒子分析装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の標準物質によれば、従来よりも精度良く装置の異常を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本実施形態の標準物質について説明する。しかし本発明が、この実施形態に限定されるわけではない。
【0015】
本実施形態の標準物質は、生体試料中に含まれる測定対象粒子に対して蛍光染色処理を行い、蛍光染色された測定対象粒子を分析する粒子分析装置の精度管理物質あるいはキャリブレーション用物質として用いられる。粒子分析装置用の標準物質は、上記粒子分析装置における前記蛍光染色処理によって蛍光染色される第1標準粒子と、予め所定の蛍光色素を含有する第2標準粒子とを含む。前記第1標準粒子は、粒子分析装置における蛍光染色処理において蛍光染色されることにより、蛍光強度を示すようになる。それに対して、前記第2標準粒子は実質的に染色されないが、予め所定の蛍光色素を含有しているために所定の蛍光強度を示す。
【0016】
上記標準物質を粒子分析装置で測定した際に、異なる特性を有する第1および第2標準粒子の測定値のそれぞれを検出することにより、従来よりも精度良く装置の異常を検出することができる。具体的には、粒子分析装置の異常が生じている箇所を判定することが可能となる。これによって、装置の較正を行う際に、較正が必要となった機構等に対してメンテナンス等を的確に行うことができ、将来生じる可能性のあるトラブルを未然に防ぐことが可能となる。
【0017】
粒子分析装置の精度管理に用いる染色性のある第1標準粒子は、測定に使用する色素で染色したときに、生体試料中の測定対象粒子と同程度の蛍光強度を示すように染色される粒子を用いることが望ましい。また、実質的に染色性がなく、蛍光を発することのできる第2標準粒子としては、生体試料中の測定対象粒子と同程度の蛍光強度を示すよう、然るべき方法であらかじめ蛍光色素を含むように調製された粒子を用いることが望ましい。
【0018】
また、本実施形態の標準粒子が適用される粒子分析装置としては、尿や血液等の生体試料を蛍光染料によって染色して測定用試料を調製する試料調製機構を備え、調製された測定用試料をフローサイトメータに供給して、フローサイトメータを通過する測定用試料中の粒子に光を照射し、染色された粒子からの蛍光を蛍光検出器で検出して分析を行う血液分析装置や尿中有形成分(尿沈渣)分析装置が挙げられる。
【0019】
上記粒子分析装置により分析される測定対象粒子は、尿や血液といった生体試料に含まれる粒子であり、例えば、白血球、赤血球、上皮細胞、円柱及び細菌などが挙げられる。
【0020】
以下、本実施形態の標準粒子が適用される粒子分析装置の一例である尿中有形成分分析装置について説明する。なお、この尿中有形成分分析装置は、尿中に含まれる粒子として、白血球、赤血球、上皮細胞、円柱および細菌を測定可能である。特に測定対象の粒子の中でも大きさの小さい細菌の測定精度を向上させた装置であり、細菌については細菌測定用の希釈液と細菌測定用の染色液を用い、それ以外の4粒子(白血球、赤血球、上皮細胞、円柱)については、4粒子測定用の希釈液と染色液を用いて測定を行う装置である。以下、4粒子測定用の希釈液を第1希釈液、4粒子測定用の染色液を第1染色液、細菌測定用の希釈液を第2希釈液、細菌測定用の染色液を第2染色液と呼ぶ。
【0021】
図1は、尿中有形成分分析装置の外観を示したものである。この尿中有形成分分析装置は、装置本体1と、レーザ電源2と、空圧源3とを備えている。装置本体1は、電源スイッチ4と、生体試料である尿を収容した試料容器を移送して自動的に吸引部5に供給するための搬送ユニット6と、尿を試料容器から吸引するための吸引部5と、吸引部5による尿の吸引を開始させるためのスタートスイッチ7と、使用者からの操作支持の入力を受け付けるとともに、尿の分析結果などの情報を表示するタッチパネル式液晶ディスプレイ8とを備えている。
【0022】
装置本体1は、図2に示すように試料調整部11、検出部41及び解析部56を備えている。試験管14に収容された試料(尿)がシリンジポンプ15の動作により吸引ピペット16から吸引される。吸引された試料はサンプリングバルブ17によって定量され、反応チャンバ18及び19にそれぞれ分配供給される。つまり、元となる同一の試料から反応チャンバ18及び19それぞれに所定量の試料が分注される。第2希釈液(細菌用希釈液)を収容した容器20及び第2染色液(細菌用染色液)を収容した容器21は、反応チャンバ18に接続されており、それぞれシリンジポンプ22及び23によりチューブを介して第2希釈液及び第2染色液が反応チャンバ18に所定量供給され、細菌測定用試料(以下、測定用試料Bと呼ぶ)が調製される。また、第1希釈液(4粒子用希釈液)を収容した容器24及び第1染色液(4粒子用染色液)を収容した容器25は、反応チャンバ19に接続され、それぞれシリンジポンプ26および27によりチューブを介して第1希釈液及び第1染色液が反応チャンバ19に所定量供給され、4粒子測定用試料(以下、測定用試料Aと呼ぶ)が調製される。
【0023】
検出部41は、測定用試料に含まれる各粒子から蛍光や散乱光といった光学的情報を検出するためのものであり、フローサイトメータによって構成される。フローサイトメータは、測定用試料を流すためのフローセル42、フローセル42を流れる測定用試料にレーザ光を照射するレーザ光源47、測定用試料中の粒子から発せられた側方蛍光を受光するフォトマルチプライヤーチューブ52、前方散乱光を受光するフォトダイオード49を有する。
【0024】
フローサイトメータの詳細を図3に示す。図2に示されるように反応チャンバ18及び19はフローセル42と接続されている。測定用試料を流すためのフローセル42は、レーザ光が照射される部分であり、内部流路が細く絞られているオリフィス部43、測定用試料をオリフィス部に向かって上方へ噴射するノズル44、シース液供給口45、廃液口46を有する。レーザ光源47は、波長633nmのレーザ光を出射する赤色半導体レーザ光源である。検出部41は、レーザ光源47から照射されたレーザ光をフローセル42へ集光するコンデンサレンズ48、レーザ光を照射された測定用試料中の粒子から発せられた前方散乱光を受光して電気信号に変換するフォトダイオード49、フォトダイオード49へ前方散乱光を集光するためのコレクタレンズ50とピンホール51、レーザ光を照射された測定用試料の粒子から発せられた蛍光を受光して電気信号に変換するフォトマルチプライヤーチューブ52、フォトマルチプライヤーチューブ52へ蛍光を集光するためのコレクタレンズ53、フィルタ54、ピンホール55、フォトダイオード47やフォトマルチプライヤーチューブ52から出力された電気信号を増幅し、前方散乱光信号及び蛍光信号として解析部56へ出力するアンプ57、58を有する。フローセル42に測定用試料が流されると、測定用試料中に含まれる粒子がレーザ光源47によるレーザ光の照射領域を横切る度に、蛍光や散乱光が生じる。フォトマルチプライヤーチューブ52によって側方蛍光が、フォトダイオード49によって前方散乱光が、それぞれ受光・光電変換され、側方蛍光信号や前方散乱光信号といった光検出信号として解析部56に出力される。
【0025】
図3の解析部56は、検出部41で検出された粒子毎の光検出信号を増幅したり、ノイズを除去する回路や、 CPU、ROM、RAMなどからなるコンピューターによって構成されている。解析部56は、検出部41で検出された粒子毎の光検出信号を記憶する。そして、解析部56は、記憶した粒子毎の光検出信号を解析し、二次元スキャッタグラムを作成して、測定用試料中に含まれる粒子を計数する。光検出信号のパルスのピークレベルから信号強度が得られる。蛍光信号の強度は、測定試料中の各粒子から検出された蛍光の強度を示し、蛍光色素による染色度合いを反映するパラメータとなる。前方散乱光の強度は、測定試料中の各粒子から検出された前方散乱光の強度を示し、粒子の大きさを反映するパラメータとなる。これらのパラメータを組み合わせ、二次元スキャッタグラムを作成する。スキャッタグラム上に出現する粒子は、測定試料中に含まれる各粒子のそれぞれの出現位置に応じて設定される領域内に出現した粒子のプロットを計数して測定結果を得る。
【0026】
なお、図2に示すように、解析部56はタッチパネル式液晶ディスプレイ8に接続されている。解析部56における解析により得られた測定結果は、タッチパネル式液晶ディスプレイ8に表示される。
【0027】
次に、尿中有形成分分析装置用の標準物質を例に挙げて説明する。標準物質は、測定対象となる粒子に対応する標準粒子と、これを分散させるための溶媒からなる。標準粒子としては、色素によって測定対象粒子と略同等に染色されうる第1標準粒子と、予め所定の蛍光色素を含むように調製された第2標準粒子とが用いられる。ここで、色素によって染色された第1標準粒子は、色素によって染色された測定対象粒子が呈する蛍光強度の分布範囲内に存在する蛍光強度を呈する。また、第2標準粒子は、色素によって実質的に染色されず、且つ色素によって染色された測定対象粒子が呈する蛍光強度の分布範囲内に存在する蛍光強度を呈する。
【0028】
以下、上述した第1標準粒子として、白血球に対応する白血球用標準粒子を用い、第2標準粒子として、細菌に対応する細菌用標準粒子を用いた標準物質の一例を調製し、この標準物質を上述した尿中有形成分分析装置1で測定した。
【0029】
(標準粒子)
細菌用標準粒子として、平均粒径1μm蛍光ラテックス粒子(Duke社製、DUKE4010A+蛍光1.0%)を用いた。また、白血球用標準粒子として、平均粒径7μmの酢酸ビニルポリマー粒子を用いた。
【0030】
(緩衝液1および緩衝液2の調製)
精製水1 Lに、塩化ナトリウムが0.3%、防腐剤が0.08%、酢酸が0.035%となるように添加して緩衝液1を調製した。また、この緩衝液1に、最終濃度が1.65%となるよう塩化ナトリウムを添加し、更に、最終濃度が9.0 %となるようグリセリンを添加して、緩衝液2を調製した。
【0031】
(細菌用標準粒子懸濁液の調製)
蛍光ラテックス粒子(500個/μl)250μlに6%ポリビニルアルコール溶液を1ml添加し、ボルテックスで攪拌して、蛍光ラテックス粒子を懸濁させた。ホーン系8mmのソニケーターを50mW、30secに設定し、懸濁液中の蛍光ラテックス粒子をポリビニルアルコールでコーティングした。この懸濁液に上記緩衝液1を適量加えて洗浄し、12000rpmで遠心して上清を除去した。この洗浄工程を2回繰り返した後、上記緩衝液2を2ml添加して、細菌用標準粒子懸濁液を調製した。
【0032】
(白血球用標準粒子懸濁液の調製)
酢酸ビニルポリマー粒子(200個/μl)250μlに緩衝液1を適量加えて洗浄し、3000rpmで遠心して上清を除去した。この洗浄工程を2回繰り返した後、上記緩衝液2を2ml添加して、白血球用標準粒子懸濁液を調製した。
【0033】
上記で調製した細菌用標準粒子懸濁液及び白血球用標準粒子懸濁液を混合し、標準物質として用いた。
【0034】
(4粒子測定用希釈液(第1希釈液)の調製)
HEPESを50 mM 、EDTA−3Kを0.40 %、2−フェノキシエタノールを0.75 %、プロピオン酸ナトリウムを0.6 %、水酸化ナトリウムを0.052 %、トミサイドSを350 ppm、プロキセルGX-Lを350 ppm、精製水を1 L添加して第1希釈液を調製した。
【0035】
(細菌測定用希釈液(第2希釈液)の調製)
クエン酸を100mM、硫酸ナトリウムを90mM、アミド硫酸を100mM、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイドを0.1%、水酸化ナトリウムをpH2.5となる量添加して第2希釈液を調製した。
【0036】
(4粒子測定用染色液(第1染色液)の調製)
以下の化学式1で表される蛍光色素であるNK-529(日本感光色素研究所(株)製)を240ppm、化学式2で表される蛍光色素であるNK-136(日本感光色素研究所(株)製)を25.2ppmとなるようエチレングリコールに溶解させたものを第1染色液とした。
【0037】
【化1】

【0038】
【化2】

【0039】
(細菌測定用染色液(第2染色液)の調製)
以下の化学式3で表される蛍光色素を、40ppmとなるようエチレングリコールに溶解させたものを第2染色液とした。
【0040】
【化3】

【0041】
まず、上記尿中有形成分分析装置1の容器20に第2希釈液を、容器21に第2染色液を、容器24に第1希釈液を、容器25に第1染色液をそれぞれセットし、尿試料を測定した。フォトダイオード49により検出された前方散乱光強度を縦軸に、フォトマルチプライヤーチューブ52により検出された側方蛍光強度を横軸にプロットしたスキャッタグラムを図4および図5に示す。なお、図4は図5に比べて前方散乱光感度を上げたスキャッタグラムである。
【0042】
図4は、尿試料、第2希釈液及び第2染色液から調製された測定用試料Bから得られた測定結果である。図4は、尿試料中に含まれる細菌を測定できるように前方散乱光感度を上げたスキャッタグラムであり、図中のA領域(前方散乱光強度:約70〜110チャンネル、蛍光強度:約100〜160チャンネル)に細菌が観察された。
【0043】
図5は、尿試料、第1希釈液及び第1染色液から調製された測定用試料Aから得られた測定結果である。図5は、図4に比べて前方散乱光感度を低く設定したスキャッタグラムであり、そのため図中のC領域に細菌が観察され、B領域(前方散乱光強度:約170〜230チャンネル、蛍光強度:約30〜170チャンネル)に白血球が観察された。
【0044】
次に、上記尿中粒子分析装置1を用いて上記標準物質の測定を行った。得られたスキャッタグラムを図6および図7に示す。なお、図6は標準物質、第2希釈液及び第2染色液から調製された測定用試料Bから得られた測定結果である。図7は標準物質、第1希釈液及び第1染色液から調製された測定用試料Aから得られた測定結果である。図6及び図7は、縦軸を前方散乱光強度、横軸を側方蛍光強度としたスキャッタグラムである。なお、図4及び図5の場合と同様に、図6は図7に比べて前方散乱光感度を上げたスキャッタグラムである。
【0045】
図6では、細菌用標準粒子(蛍光ラテックス粒子)が細菌の出現領域であるA領域内に観察された。この細菌用標準粒子の分布範囲は、細菌の出現領域Aの略中央に位置し、前方散乱光強度が約81〜88チャンネル、蛍光強度が約110〜140チャンネルに観察された。なお、細菌用標準粒子は第2染色液によって実質的に染色されない粒子である。
【0046】
図7では、白血球用標準粒子(酢酸ビニルポリマー粒子)が白血球の出現領域であるB領域内に観察された。この白血球用標準粒子の分布範囲は、前方散乱光強度が約200〜220チャンネル、蛍光強度が約30〜140チャンネルに観察された。また、領域Cに細菌用標準粒子が観察された。なお、細菌用標準粒子は第1染色液によって実質的に染色されない粒子である。
【0047】
なお、図7では白血球用標準粒子の出現領域及び細菌用標準粒子の出現領域が示されているのに対し、図6では白血球用標準粒子の出現領域が明確に示されていない。これは、図6が試料中の細菌を測定できるように前方散乱光感度を上げた分布図であるためである。上述したように、細菌用標準粒子と白血球用標準粒子とでは粒子径が大きく異なっている。そして、前方散乱光が粒子の大きさを反映するパラメータであることから、細菌用標準粒子から得られる前方散乱光強度と白血球用標準粒子から得られる前方散乱光強度とではその大きさが異なる。従って、図6について、前方散乱光の感度を下げた分布図を作成することにより、白血球用標準粒子の出現領域を確認することができる。
【0048】
上述した尿中有形成分分析装置1によって、尿試料を分析した場合、検出される粒子の蛍光強度は、(1)検出部41の条件;例えば、蛍光検出器(フォトマルチプライヤーチューブ52)の感度(出力電圧)など、と(2)試料調製部11の条件;例えば、染色液の分注量など、によって決まる。ここで、仮に標準粒子の測定により得られた蛍光強度の平均値と蛍光強度の所定の範囲を比較し、その結果を、±(正常範囲内)、+(正常範囲より10チャンネル高値)、−(正常範囲より10チャンネル低値)と判定することにする。そして、例えば、第1希釈液及び第1染色液から調製された測定用試料Aから得られる第1標準粒子および第2標準粒子の判定結果が下記表1に示される場合、検出部41や試料調製部11(特に、第1希釈液及び第1染色液を用いた測定用試料Aの調製に関わる部分)の異常を判定することができる。
【0049】
【表1】

【0050】
また、第2希釈液及び第2染色液から調製された測定用試料Bから得られる第1標準粒子及び第2標準粒子の判定結果についても同様に、上述したような検討を行うことにより、検出部41や試料調製部11(特に、第2希釈液及び第2染色液を用いた測定用試料Bの調製に関わる部分)の異常を判定することができる。
【0051】
なお、本実施形態に係る尿中有形成分分析装置1は、上述したような異常箇所の判定を自動的に実施するようになっている。以下に、この場合の動作について図8を用いて説明する。
【0052】
まず、使用者が、第1標準粒子及び第2標準粒子を含有する標準物質を所定の位置にセットし、スタートスイッチ7を押すと、標準物質の吸引が開始される。
【0053】
(ステップS1)ステップS1では、測定用試料A及び測定用試料Bが調製される。
まず、試験管14に収容された標準物質が、シリンジポンプ15の動作により吸引ピペット16から吸引される。吸引された標準物質は、サンプリングバルブ17によって定量され、反応チャンバ18及び19に分注される。容器20に収容された第2希釈液は、シリンジポンプ22により、チューブを介して反応チャンバ18に所定量供給される。容器21に収容された第2染色液は、シリンジポンプ23により、チューブを介して反応チャンバ18に所定量供給される。このようにして、測定用試料Bが調製される。また、容器24に収容された第1希釈液は、シリンジポンプ26により、チューブを介して反応チャンバ19に所定量供給される。容器25に収容された第1染色液は、シリンジポンプ27により、チューブを介して反応チャンバ19に所定量供給される。このようにして、測定用試料Aが調製される。
【0054】
(ステップS2)ステップS2では、各測定用試料に含まれる第1標準粒子及び第2標準粒子から、蛍光強度及び前方散乱光強度が得られる。まず、反応チャンバ19中の測定用試料Aは、ノズル44からフローセル内に吐出される。それと同時に、シース液供給口45からシース液がシースフローセル内に吐出される。これによって測定用試料Aはフローセル内でシース液に包まれ、さらにオリフィス部43において細く絞られて流れる。レーザ光源47から照射されたレーザ光は、コンデンサレンズ48で絞られた後、オリフィス部43を流れる測定用試料Aに照射される。レーザ光を受けた測定用試料A中の第1標準粒子および第2標準粒子から発せられる前方散乱光はフォトダイオード49で受光され、光電変換されて、前方散乱光信号として出力される。測定用試料A中の第1標準粒子および第2標準粒子から発せられる側方蛍光は、フォトマルチプライヤーチューブ52で受光され、光電変換されて、側方蛍光信号として出力される。各信号は解析部56に出力される。解析部56は、検出部41で検出された前方散乱光信号及び側方蛍光信号を解析し、前方散乱光強度及び蛍光強度を得る。このようにして、測定用試料A中の第1標準粒子から、第1蛍光強度及び第1前方散乱光強度が得られる。また、測定用試料A中の第2標準粒子から、第2蛍光強度及び第2前方散乱光強度が得られる。同様に、反応チャンバ18中の測定用試料Bは、ノズル44からフローセル内に吐出され、フローセル内を流れる。そして、レーザ光を受けた測定用試料B中の第1標準粒子および第2標準粒子から発せられる前方散乱光は、フォトダイオード49で受光され、光電変換されて、前方散乱光信号として出力される。測定用試料B中の第1標準粒子および第2標準粒子から発せられる側方蛍光は、フォトマルチプライヤーチューブ52で受光され、光電変換されて、側方蛍光信号として出力される。各信号は解析部56に出力される。解析部56は、検出部41で検出された前方散乱光信号及び側方蛍光信号を解析し、前方散乱光強度及び蛍光強度を得る。このようにして、測定用試料B中の第1標準粒子から、第3蛍光強度及び第3前方散乱光強度が得られる。また、測定用試料B中の第2標準粒子から、第4蛍光強度及び第4前方散乱光強度が得られる。
【0055】
(ステップS3)ステップS3では、解析部56が、前記ステップS2において得られた前方散乱光強度及び蛍光強度を記憶する。
【0056】
(ステップS4)ステップS4では、解析部56が、第1標準粒子の蛍光強度に関する判定結果及び第2標準粒子の蛍光強度に関する判定結果を取得し、その判定結果に基づいて、表1と同様の基準で異常箇所を判定する。まず、解析部56は、得られた第1蛍光強度について、その平均値を算出する(以降、平均値Xと呼ぶ)。そして、解析部56は、得られた平均値Xが、所定の上限値と下限値の範囲内であれば±(正常範囲内)と判定し、その上限値を超える場合は+(正常範囲より高値)と判定し、その下限値を下回る場合は−(正常範囲より低値)と判定する。同様に、解析部56は、第2蛍光強度、第3蛍光強度及び第4蛍光強度についても、それぞれ平均値を算出し、上述したような判定を行う。このようにして、第1標準粒子の蛍光強度(第1蛍光強度及び第3蛍光強度)に関する判定結果及び第2標準粒子の蛍光強度(第2蛍光強度及び第4蛍光強度)に関する判定結果を取得し、その判定結果に基づいて、表1と同様の基準で異常箇所を判定する。
【0057】
(ステップS5)ステップS5では、前記ステップS4における異常箇所の判定結果が、タッチパネル式液晶ディスプレイ8に出力される。
【0058】
このように本実施形態の標準粒子を用いることにより、試料調製機構の蛍光染色性が低下し、且つ蛍光検出器の感度が高くなっている場合のように従来の技術では検知できなかった異常の検知が可能になった。また、異常の生じている箇所がわかるため的確に装置のメンテナンスを行うことが容易になる。
【0059】
なお、上記実施形態においては、標準粒子の蛍光強度を測定して異常個所を検知する場合について説明したが、蛍光パルス幅を測定して異常個所の検知を行うことも可能である。また、標準粒子の蛍光だけでなく散乱光(強度またはパルス幅)を測定することにより、散乱光検出器の異常の有無を確認することができる。
【0060】
上述した実施形態においては、第1標準粒子及び第2標準粒子を含有する標準物質を用い測定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1標準粒子を含有する第1標準物質及び第2標準粒子を含有する第2標準物質を用いてもよい。以下に、この場合の動作について図9を用いて説明する。
【0061】
まず、使用者が、第1標準粒子を含有する第1標準物質及び第2標準粒子を含有する第2標準物質をそれぞれ所定の位置にセットし、スタートスイッチ7を押すと、第1標準物質及び第2標準物質の吸引が順次開始される。
【0062】
(ステップS6)ステップS6では、第1標準物質から、第1の測定用試料A及び第1の測定用試料Bが調製される。各測定用試料の調製に関する装置の動作は、前記ステップS1と同様である。
【0063】
(ステップS7)ステップS7では、前記ステップS6で得られた各測定用試料に含まれる第1標準粒子及び第2標準粒子から、蛍光強度及び前方散乱光強度が得られる。蛍光強度及び前方散乱光強度の取得に関する装置の動作は、前記ステップS2と同様である。これにより、前記ステップS6で調製された第1の測定用試料A中の第1標準粒子から、第1蛍光強度及び第1前方散乱光強度が得られる。また、測定用試料B中の第1標準粒子から、第3蛍光強度及び第3前方散乱光強度が得られる。
【0064】
(ステップS8)ステップS8では、解析部56が、前記ステップS7において得られた前方散乱光強度及び蛍光強度を記憶する。
【0065】
(ステップS9)ステップS9では、第2標準物質から、第2の測定用試料A及び第2の測定用試料Bが調製される。各測定用試料の調製に関する装置の動作は、前記ステップS1と同様である。
【0066】
(ステップS10)ステップS10では、前記ステップS9で得られた各測定用試料に含まれる第1標準粒子及び第2標準粒子から、蛍光強度及び前方散乱光強度が得られる。蛍光強度及び前方散乱光強度の取得に関する装置の動作は、前記ステップS2と同様である。これにより、前記ステップS9で調製された第2の測定用試料A中の第1標準粒子から、第2蛍光強度及び第2前方散乱光強度が得られる。また、測定用試料B中の第1標準粒子から、第4蛍光強度及び第4前方散乱光強度が得られる。
【0067】
(ステップS11)ステップS11では、解析部56が、前記ステップS10において得られた前方散乱光強度及び蛍光強度を記憶する。
【0068】
(ステップS12)ステップS12では、解析部56が、第1標準粒子の蛍光強度に関する判定結果及び第2標準粒子の蛍光強度に関する判定結果を取得し、その判定結果に基づいて、表1と同様の基準で異常箇所を判定する。検出結果の判定及び異常箇所の判定に関する装置の動作は、前記ステップS4と同様である。このようにして、第1標準粒子の蛍光強度(第1蛍光強度及び第3蛍光強度)に関する判定結果及び第2標準粒子の蛍光強度(第2蛍光強度及び第4蛍光強度)に関する判定結果を取得し、その判定結果に基づいて、表1と同様の基準で異常箇所を判定する。
【0069】
(ステップS13)ステップS13では、前記ステップS12における異常箇所の判定結果が、タッチパネル式液晶ディスプレイ8に出力される。
【0070】
なお、ステップS5又はステップ13においては、異常箇所の判定結果だけでなく、第1標準粒子及び第2標準粒子の±、+又は−の結果もタッチパネル式液晶ディスプレイ8に表示することが可能である。
【0071】
上述した実施形態においては、第1標準粒子に対応する標準粒子として白血球用標準粒子を使用し、第2標準粒子に対応する標準粒子として細菌用標準粒子を使用したがこれに限定されるものではない。例えば、第1標準粒子として、白血球用標準粒子と共に、赤血球用標準粒子、上皮細胞用標準粒子、円柱用標準粒子等を用いるようにしても良い。
【0072】
白血球に対応する白血球用標準粒子としては、酢酸ビニルポリマー粒子や多孔性シリカ粒子などが使用可能である。この標準粒子は、色素を用いて染色することにより、白血球と略同等の蛍光強度を示す粒子である。また、この標準粒子は、白血球と略同等の散乱光強度を示す粒子が好ましく、平均粒径5〜15μm、好ましくは7〜12μmのものが好適である。
【0073】
上皮細胞に対応する上皮細胞用標準粒子としては、ポリアクリルアミド粒子やセルロースゲル、親水性ビニルポリマーゲルなどが使用可能である。この標準粒子は、色素を用いて染色することにより、上皮細胞と略同等の蛍光強度を示す粒子である。また、この標準粒子は、上皮細胞と略同等の散乱光強度を示す粒子が好ましく、平均粒径20〜150μm、好ましくは45〜90μmのものが好適である。
【0074】
円柱に対応する円柱用標準粒子としては、親水性ビニルポリマー粒子や架橋アガロースゲルなどが使用可能である。この標準粒子は、色素を用いて染色することにより、円柱と略同等の蛍光強度を示す粒子である。また、この標準粒子は、円柱と略同等の散乱光強度を示す粒子が好ましく、平均粒径5〜60μm、好ましくは10〜40μmのものが好適である。
【0075】
赤血球に対応する赤血球用標準粒子としては、ラテックス粒子や高純度シリカ粒子などが使用可能である。この標準粒子は、色素を用いて染色することにより、赤血球と略同等の蛍光強度を示す粒子である。また、この標準粒子は、赤血球と略同等の散乱光強度を示す粒子が好ましく、平均粒径3〜20μm、好ましくは5〜10μmのものが好適である。
【0076】
細菌に対応する細菌用標準粒子としては、蛍光ラテックス粒子などが使用可能である。この標準粒子は、粒子分析装置で用いられる色素に対して実質的に染色されない粒子を用いることが好ましい。また、上記色素によって蛍光染色された細菌と略同等の蛍光強度を示すものが好ましい。また、細菌と略同等の散乱光強度を示す粒子が好ましく、平均粒径0.5〜5μm、好ましくは0.8〜3μmのものが好適である。
【0077】
ところで、上記実施形態においては、細菌に対応する標準粒子に蛍光ラテックス粒子を、白血球に対応する標準粒子に、粒子分析装置における蛍光染色処理によって蛍光染色される粒子を用いているが、これに限定されるものではない。例えば、細菌に対応する標準粒子として、色素によって細菌と略同等に蛍光染色される粒子を使用し、白血球、赤血球、上皮細胞または円柱に対応する標準粒子に、予め所定の蛍光色素を含むように調製された蛍光粒子を用いるようにしても良い。また、標準粒子として用いられるラテックス粒子等の分散性を向上させるため、ラテックス粒子にポリビニルアルコールのコーティングを施してもよい。
【0078】
標準物質に用いられる溶媒としては、水性溶媒を用いることができ、好ましくは緩衝液を使用する。緩衝液には、標準粒子の分散性を向上させるため界面活性剤等の分散性向上剤を加えてもよい。
【0079】
尿試料と混合して測定用試料を調製するための試薬としては、上記実施形態のように、赤血球、白血球、上皮細胞及び円柱測定用の第1染色液及び第1希釈液と、細菌測定用の第2染色液及び第2希釈液とをそれぞれ用いることが望ましい。これは、尿試料中に含まれる粒子のうち、細菌が他の粒子に比べて微小であるため、細菌測定専用の希釈液および染色液を用いることにより細菌の測定精度を向上させることができるためである。
【0080】
例えば、尿試料中には夾雑物といわれる粘液糸、結晶、無晶性塩類、細胞の断片などがしばしば見られ、これらは大きさが似ている点から、細菌の測定の妨害となる。夾雑物から検出される前方散乱光の強度が細菌から検出される強度と重なり、判別が困難なことがある。このため、夾雑物の染色を抑え、且つ、夾雑物を溶解し得るような第2希釈液を調製することが望ましい。
【0081】
第2希釈液は、細菌の染色性を向上させ、夾雑物の非特異染色を抑え、且つ夾雑物をある程度溶解させるため、pH2.0〜4.5、好ましくは、pH2.0〜3.0の範囲に調製することが望ましい。
【0082】
第2希釈液の前記pHを維持するために、酸あるいはpKa 1〜5の緩衝剤を使用することができる。前記pH範囲を維持できるものであれば特に限定はされないが、好適にはクエン酸塩、リン酸塩、フタル酸塩、グリシン、コハク酸、乳酸、β−アラニン、ε−アミノカプロン酸およびフマル酸などが使用できる。使用量は、前記pH範囲を維持できる量で使用でき、10〜500mMの範囲で使用できる。
【0083】
また、第2希釈液に界面活性剤、好ましくはカチオン性界面活性剤を添加することにより、細菌の細胞膜が傷害され、色素が入り込みやすくなる。その結果、細菌がよく染色され、夾雑物と弁別しやすくなる。一方、粘液糸や赤血球、細胞の破片などは、溶解あるいは収縮し、細菌の検出への影響が低減されることとなる。
【0084】
カチオン性界面活性剤は特に限定されないが、好適には以下の化学式4で示される四級アンモニウム塩が挙げられる。なお、化学式4における、R10は炭素数6〜18のアルキル基又は(C6H5)−CH2−を表し、R11、R12及びR13は炭素数1〜3のアルキル基またはベンジル基を表し、Yはハロゲンイオンを表す。なお、R11、R12及びR13は同一であっても異なっていてもよい。
【0085】
【化4】

【0086】
例えば、デシルトリメチルアンモニウム塩、ドデシルトリメチルアンモニウム塩、テトラデシルトリメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、及びオクタデシルトリメチルアンモニウム塩が好適に使用される。使用量については、10〜30000mg/l、好ましくは100〜3000mg/lが好適である。
【0087】
細菌の蛍光染色処理に用いられる色素については、前記pH範囲内で細菌を染色できるものであれば特に制限されない。濃度については、色素ごとに好適な濃度は異なるが、例えば、0.1〜100ppm(最終濃度)の範囲で使用できる。なお、細菌の検出能力の点から、使用する色素は、少なくとも細菌を構成する成分の一つと結合し、蛍光を発する蛍光色素を使うのが有利である。
【0088】
具体的には、以下の化学式5で示される色素が好適である。化学式5において、R1は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、R2及びR3は水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、R4は水素原子、アシル基又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、R5は水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基を表し、Zは硫黄原子、酸素原子又は炭素数1〜3のアルキル基で置換された炭素原子を表し、nは1又は2の整数を表し、X-はアニオンを表す。
【0089】
【化5】

【0090】
一方、尿試料中の、細菌以外の、赤血球、白血球、上皮細胞、円柱、の4種の粒子の測定に用いる希釈液(第1希釈液)は、赤血球が溶血しない浸透圧及びpHの範囲に調製することが望ましい。
【0091】
第1希釈液は、赤血球が溶血しない浸透圧及びpHの範囲に調製するため、緩衝剤や浸透圧補償剤を添加することが望ましい。第1希釈液のpHは3.8〜10.5、好ましくは6.3〜8.5の範囲で用いることが望ましい。これは、第1希釈液のpHが、強アルカリ性となると、赤血球が溶血する恐れがあり、また酸性領域では、尿検体におけるpH変化が大きく赤血球がダメージを受けたり、尿中の粒子の染色性が全体的に低下したりする恐れがあるからである。
【0092】
第1希釈液に添加する緩衝剤としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、トリス、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPSのようなグッド緩衝剤等を挙げることができる。用いる緩衝剤の濃度は、通常、20〜500mM、好ましくは50〜200mMである。
【0093】
第2希釈液に添加する浸透圧補償剤としては、無機塩類やプロピオン酸塩等の有機塩類、糖類等が用いられる。無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム等が用いられる。有機塩類のうちプロピオン酸塩としては、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸アンモニウム等が用いられる。他の有機塩類としてはシュウ酸塩、酢酸塩等が用いられる。糖類としては、ソルビトール、グルコース、マンニトール等が用いられる。浸透圧補償剤は、赤血球の溶血防止と安定した蛍光強度を得ることを目的として添加する。尿の浸透圧は、50〜1300mOsm/kgと広範囲にわたって分布している。分析用試薬の浸透圧が低すぎると赤血球の溶血が早期に進行してしまい、逆に高すぎると尿試料中の粒子の損傷が大きくなるので、浸透圧は100〜600mOsm/kgが好ましく、150〜500mOsm/kgがより好ましい。
【0094】
また、尿試料中に出現する無晶性塩類(例えば、リン酸アンモニウム、リン酸マグネシウム、炭酸カルシウム)の影響を低減するため、それらを溶解するキレート剤を4粒子用希釈液に添加してもよい。キレート剤は、脱カルシウム剤、脱マグネシウム剤であれば特に種類の限定はない。例えば、EDTA塩、CyDTA、DHEG、DPTA−OH、EDDA、EDDP、GEDTA、HDTA、HIDA、Methyl−EDTA、NTA、NTP、NTPO、EDDPO等が挙げられる。好適には、EDTA塩、CyDTA、GEDTAが用いられる。濃度は、0.05〜5w/w%の範囲で使用することができ、好適には0.1〜1w/w%である。なお、ここでいう脱カルシウム剤又は脱マグネシウムとは、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンと結合して、水溶性の化合物を形成するものを意味する。
【0095】
また、尿試料中に酵母様真菌が出現していると、酵母様真菌から検出される前方散乱光及び蛍光の強度が赤血球から検出される強度と重なり、判別が困難なことがある。そこで、有形成分用希釈液に酵母様真菌と赤血球との間に蛍光色素の染色性に差を生じさせる物質を添加してもよい。これを添加することにより、酵母様真菌と赤血球から検出される蛍光強度に差が生じ、赤血球の判別精度を向上させることができる。そのような物質としては、酵母様真菌の細胞膜に損傷を与えて細胞内部への色素透過性を亢進させ、且つ赤血球の細胞膜には損傷を与えない物質が挙げられる。赤血球の細胞膜が損傷すると溶血を生じてしまい、赤血球の計数が困難となる。上記の条件を満たす物質としては、ベンゼン環を有する非イオン性有機化合物が好適である。例えば、ベンジルアルコール、βフェネチルアルコール、フェノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、2−フェノキシエタノール等の芳香族アルコールや、2−アミノベンゾチアゾールやベンゾチアゾール等のチアゾール系化合物、酢酸フェニルなどを用いることができる。
【0096】
本実施形態の染色されうる粒子や、尿試料中の有形成分を染色するための蛍光色素には、以下の化学式6及び化学式7で表される縮合ベンゼン誘導体を用いることができる。
【0097】
【化6】

【0098】
化学式6において、R1及びR2は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基又は水酸基で置換された炭素数1〜6のアルキル基を表す。A及びBは、硫黄又は酸素又は窒素又はメチル及びエチルより選択される低級アルキル基を有する炭素を表す。nは1又は2であり、X−はアニオンである。
【0099】
【化7】

【0100】
化学式7において、R1は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R2は、水素又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。R3は、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数1〜3のアルキル基で置換されたジ低級アルキルアミノ基及びN(CH3)C2H4CNを表す。Aは、硫黄又は酸素又はメチル及びエチルより選択される低級アルキル基を有する炭素を表す。mは、1又は2であり、nは0又は1である。
【0101】
以上に、白血球、赤血球、上皮細胞及び円柱の4粒子を測定するための測定用試料Aと、細菌を測定するための測定用試料Bとを試料調製機構を用いて調製し測定する尿中有形成分分析装置1に、本発明の標準物質を適用した実施形態を示したがこれに限定されるものではない。生体試料中の粒子を蛍光染色処理する試料調製機構と、蛍光検出器を備えた粒子分析装置であれば、本発明の標準物質を使用可能である。例えば、このような粒子分析装置としては、尿中有形成分分析装置1において、細菌測定用の試料調製機構(容器20及び21、シリンジポンプ22及び23、反応チャンバ18)を設けないようにし、一つの試料調製機構(容器24及び25、シリンジポンプ26及び27、反応チャンバ19)で白血球、赤血球、上皮細胞、円柱および細菌を測定するための測定試料を調製するようにしたものが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明にかかる標準物質は、自動粒子分析装置の精度管理あるいはキャリブレーションに使用することができる標準物質として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】尿中有形成分分析装置の外観を示す図である。
【図2】尿中有形成分分析装置の内部構成の概略図である。
【図3】尿中有形成分分析装置の検出部であるフローサイトメータを説明する図である。
【図4】尿中有形成分分析装置による細菌の測定結果を示したスキャッタグラムである。
【図5】尿中有形成分分析装置による白血球の測定結果を示したスキャッタグラムである。
【図6】尿中有形成分分析装置により、本発明の実施形態の細菌用標準粒子の測定結果を示したスキャッタグラムである。
【図7】尿中有形成分分析装置により、本発明の実施形態の白血球用標準粒子の測定結果を示したスキャッタグラムである。
【図8】尿中有形成分分析装置による異常箇所の判定を示したフローチャートである。
【図9】尿中有形成分分析装置による異常箇所の判定を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0104】
1:尿中粒子分析装置本体、2:レーザ電源、3:空圧源、4:電源スイッチ、5:吸引部、6:搬送ユニット、7:スタートスイッチ、8:タッチパネル式液晶ディスプレイ、9:試料調整部、14:試験管、15:シリンジポンプ、16:吸引ピペット、17:サンプリングバルブ、18:反応チャンバ、19:反応チャンバ、20:細菌用希釈液容器、21:細菌用染色液容器、22:シリンジポンプ、23:シリンジポンプ、24:白血球用希釈液容器、25:白血球用染色液容器、26:シリンジポンプ、27:シリンジポンプ、41:検出部、42:フローセル、43:オリフィス、44:ノズル、45:シース液供給口、46:排液口、47:レーザ光源、48:コンデンサレンズ、49:フォトダイオード、50:コレクタレンズ、51:ピンホール、52:フォトマルチプライヤーチューブ、53:コレクタレンズ、54:フィルタ、55:ピンホール、56:解析部、57:アンプ、58:アンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中に含まれる測定対象粒子に対して蛍光染色処理を行い、蛍光染色された測定対象粒子を分析する粒子分析装置に用いられる標準物質であって、前記蛍光染色処理によって蛍光染色される第1標準粒子と、予め所定の蛍光色素を含む第2標準粒子と、からなる粒子分析装置用標準物質。
【請求項2】
前記第2標準粒子が、前記蛍光染色処理によっては実質的に染色されない粒子である請求項1記載の標準物質。
【請求項3】
測定対象粒子が第1測定対象粒子及び第2測定対象粒子であり、前記第1標準粒子が、蛍光染色された第1測定対象粒子と略同等の蛍光強度を示すように前記蛍光染色処理によって染色され、前記第2標準粒子が、蛍光染色された第2測定対象粒子と略同等の蛍光強度を示す請求項1または請求項2記載の標準物質。
【請求項4】
前記第1標準粒子が、前記第1測定対象粒子と略同等の散乱光強度を示し、前記第2標準粒子が前記第2測定対象粒子と略同等の散乱光強度を示す請求項1〜3の何れか1項に記載の標準粒子。
【請求項5】
前記生体試料が尿であり、前記第1第測定対象粒子が、白血球、赤血球、上皮細胞及び円柱からなる群から選択され、前記第2測定対象粒子が微生物である請求項3または4に記載の標準物質。
【請求項6】
前記第1標準粒子が、酢酸ビニルポリマー粒子、ポリアクリルアミド粒子、親水性ビニルポリマー粒子、ラテックス粒子、およびシリカ粒子からなる群から選択される少なくとも1種の粒子であり、前記第2標準粒子が蛍光ラテックス粒子である、請求項1〜5の何れか1項に記載の標準物質。
【請求項7】
前記粒子分析装置が、生体試料と色素を混合して測定用試料を調製する測定用試料調製部と、この測定用試料に光を照射する光源と、測定用試料からの蛍光を検出する蛍光検出器と、を備えた請求項1〜6の何れか1項に記載の標準物質。
【請求項8】
前記粒子分析装置が、前記測定用試料からの散乱光を検出する散乱光検出器を備えた請求項7記載の標準物質。
【請求項9】
生体試料と第1の蛍光色素とを混合して測定用試料を調製するための測定用試料調製部、測定用試料に光を照射するための光源及び測定用試料からの蛍光を検出するための蛍光検出器を含む粒子分析装置の異常箇所を判定する方法であって、
前記粒子分析装置を用いて第1標準粒子及び第2標準粒子を測定して、第1標準粒子に関する第1の蛍光及び第2標準粒子に関する第2の蛍光を検出する検出工程、及び前記蛍光検出工程により得られる第1の蛍光の検出結果及び第2の蛍光の検出結果に基づいて、粒子分析装置の異常箇所を判定する異常箇所判定工程を含み、
前記第1標準粒子が前記第1の蛍光色素によって蛍光染色され、前記第2標準粒子が予め第2の蛍光色素を含有する粒子である、粒子分析装置の異常箇所を判定する方法。
【請求項10】
さらに、前記第1標準粒子及び前記第2標準粒子を含有する標準物質と前記第1の蛍光色素とを混合して測定用試料を調製する測定用試料調製工程を含み、
前記検出工程において、前記測定用試料から第1標準粒子に関する第1の蛍光及び第2標準粒子に関する第2の蛍光を検出する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
さらに、前記第1標準粒子を含有する第1の標準物質と前記第1の蛍光色素とを混合して第1の測定用試料を調製する第1の調製測定用試料調製工程及び前記第2標準粒子を含有する第2の標準物質から測定用試料を調製する第2の調製測定用試料調製工程を含み、
前記検出工程において、前記第1の測定用試料から第1標準粒子に関する第1の蛍光が検出され、前記第2の測定用試料から第2標準粒子に関する第2の蛍光が検出される、請求項9記載の方法。
【請求項12】
さらに、前記第1の蛍光の検出結果と第1の条件とを比較して第1の比較結果を取得する第1の比較工程、及び前記第2の蛍光の検出結果と第2の条件とを比較して第2の比較結果を取得する第2の比較工程を含み、
前記異常箇所判定工程において、前記第2の比較結果に基づいて蛍光検出器の異常が判定され、前記第1の比較結果及び前記第2の比較結果に基づいて試料調製部の異常が判定される、請求項9〜11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記粒子分析装置が、前記測定用試料からの散乱光を受光するための散乱光検出器を含み、
前記検出工程において、第1標準粒子に関する第1の散乱光及び第2標準粒子に関する第2の散乱光が検出され、前記異常箇所判定工程において、前記第1の散乱光の検出結果及び第2の散乱光の検出結果に基づいて散乱光検出器の異常が判定される、請求項9〜12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記第2標準粒子が、前記第1の蛍光色素によっては実質的に染色されない粒子である、請求項9〜13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
第1標準粒子及び第2標準粒子を含む標準物質と第1の蛍光色素とを混合して測定用試料を調製するための測定用試料調製部、前記測定用試料に光を照射するための光源、前記測定用試料に含まれる第1標準粒子に関する第1の蛍光及び第2標準粒子に関する第2の蛍光を検出するための蛍光検出器、第1の蛍光の検出結果及び第2の蛍光の検出結果に基づいて粒子分析装置の異常箇所を判定するための解析部を含み、
前記試料調調製部において、前記第1標準粒子が前記第1の蛍光色素によって蛍光染色され、前記第2標準粒子が予め第2の蛍光色素を含有する粒子される、粒子分析装置。
【請求項16】
第1標準粒子を含有する第1の標準物質と第1の蛍光色素とを混合して第1の測定用試料を調製し、第2標準粒子を含有する第2の標準物質から第2の測定用試料を調製するための測定用試料調製部、前記第1及び第2の測定用試料に光を照射するための光源、前記第1の測定用試料に含まれる第1標準粒子に関する第1の蛍光を検出し、前記第2の測定用試料に含まれる第2標準粒子に関する第2の蛍光を検出するための蛍光検出器、第1の蛍光の検出結果及び第2の蛍光の検出結果に基づいて、粒子分析装置の異常箇所を判定するための解析部を含み、
前記試料調調製部において、前記第1標準粒子が前記第1の蛍光色素によって蛍光染色され、前記第2標準粒子が予め第2の蛍光色素を含有する粒子される、粒子分析装置。
【請求項17】
前記解析部が、前記第1の蛍光の検出結果と第1の条件とを比較して第1の比較結果を取得し、前記第2の蛍光の検出結果と第2の条件とを比較して第2の比較結果を取得し、前記第2の比較結果に基づいて蛍光検出器の異常を判定し、前記第1の比較結果及び前記第2の比較結果に基づいて試料調製部の異常を判定する、請求項15又は請求項16記載の粒子分析装置。
【請求項18】
さらに、前記測定用試料からの散乱光を受光するための散乱光検出器を含み、前記散乱光検出器が、第1標準粒子に関する第1の散乱光及び第2標準粒子に関する第2の散乱光を検出し、前記解析部が、第1の散乱光の検出結果及び第2の散乱光の検出結果に基づいて散乱光検出器の異常を判定する、請求項15又は請求項16記載の粒子分析装置。
【請求項19】
前記第2標準粒子が、前記第1の蛍光色素によっては実質的に染色されない粒子である、請求項15又は請求項16記載の粒子分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−47154(P2007−47154A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189883(P2006−189883)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】