説明

粘土複合体膜の形成方法

【課題】 一度の操作で、耐久性に優れた無機被膜を厚膜で形成することができる粘土複合体膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】 ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)との複合体である粘土複合体(C)を水中に分散させてなる粘土複合体分散液(D)中に導電性基材を浸漬して一方の電極とし、該分散液(D)中に浸漬した他方の電極との間に電圧を印加して電析によって該基材上に粘土複合体膜を形成することを特徴とする粘土複合体膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土複合体膜の形成方法に関するものであり、容易に無機被膜を形成することができ、バリヤー膜、光触媒活性を利用した触媒材料、吸着剤などに有用なものである。
【背景技術】
【0002】
無機被膜は、酸素透過性などを制御するためのバリヤー被膜や、光触媒活性被膜など幅広い用途に使用が可能である。一般に無機被膜は、無機成分を含有した水性塗布液をスプレー、スピンコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、ハケなどで被塗物に塗布しているが、無機成分の水性塗布液の多くは、無機微粒子が分散したコロイド液もしくは固体無機物の前駆体水溶液の形態であることが多い。これらの塗布液を基材に塗布し、無機被膜を形成する際、膜にクラックやピンホールが発生し易いために、一般にその被膜を厚くすることは困難である。機械的な強度や防食性、耐久性を高めるためには、被膜を厚くすることが有効とされているが、上記理由により数μmの厚膜にすることは実質的に困難である。
【0003】
一方、粘土鉱物は層状の結晶構造を持っており、その層間に酸化チタン微粒子を複合させた酸化チタン微粒子−粘土複合体が開示されている(例えば、非特許文献1〜4、特許文献1、特許文献2等参照。)。酸化チタン微粒子−粘土複合体は、光触媒活性に優れるため、種々検討が行われている。しかしながら、一般に酸化チタン微粒子−粘土複合体は水や有機溶媒への分散性に乏しいため、凝集や沈降が起こりやすく、均一な被膜が得られにくいという問題があった。特許文献1にはペルオキソチタン酸溶液と粘土複合体を水熱処理により複合化させる方法が開示されており、比較的安定な分散液が得られるものの、安定な分散液となるためには分散液の固形分として高くても数%であり、一度の操作で被膜を厚膜に付けることは困難であり、塗り重ねて厚膜を形成する必要があった。
【0004】
【非特許文献1】Mater. Chem. Phys., 17, 87〜101(1987)
【非特許文献2】J. Phys. Chem., 93, 4833〜4837(1989)
【非特許文献3】Chem. Mater., 14, 5037〜5044(2002)
【非特許文献4】Chem. Commun., 2687〜2679(2002)
【特許文献1】特開2001−97717号公報
【特許文献2】特開平10−245226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、一度の操作で、耐久性に優れた無機被膜を厚膜で形成することができる粘土複合体膜の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行なった結果、ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体と水膨潤性粘土鉱物とを複合化させて得られる粘土複合体を用いて、電析によって導電性基板上に粘土複合体膜を形成せしめることにより、均一で厚い被膜を一度に形成することができ、高温による焼付処理をしなくても、耐久性に優れた無機被膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明は、ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)との複合体である粘土複合体(C)を水中に分散させてなる粘土複合体分散液(D)中に導電性基材を浸漬して一方の電極とし、該分散液(D)中に浸漬した他方の電極との間に電圧を印加して電析によって該基材上に粘土複合体膜を形成することを特徴とする粘土複合体膜の形成方法に関する。
【0008】
また本発明は、形成方法によって得られた粘土複合体膜及び粘土複合体被覆物品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粘土複合体膜の形成方法によって、導電性基板上に均一で厚い被膜を一度に形成することができ、高温による焼付処理をしなくても、耐久性に優れた無機被膜が得られるものであり、バリヤー被膜、光触媒材料、吸着剤などの用途に極めて有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の粘土複合体膜の形成方法は、粘土複合体(C)を水中に分散させてなる粘土複合体分散液(D)中に導電性基材を浸漬して一方の電極とし、該分散液(D)中に浸漬した他方の電極との間に電圧を印加して電析によって該基材上に粘土複合体膜を形成させてなるものである。
【0011】
上記粘土複合体(C)は、ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)、及び水膨潤性粘土鉱物(B)を複合化させてなるものである。
【0012】
ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)
粘土複合体(C)の(A)成分である金属錯体は、ペルオキソ配位子を含む水溶性の金属錯体であり、従来公知のものを用いることができるが、中でもペルオキソチタン錯体、ペルオキソモリブデン錯体、ペルオキソタングステン錯体、ペルオキソジルコニウム錯体、ペルオキソニオビウム錯体、ペルオキソバナジウム錯体、ペルオキソタンタル錯体及びペルオキソマンガン錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属錯体を用いることが好ましく、光触媒として利用する場合には特にペルオキソチタン錯体が好ましい。
【0013】
上記、ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)は、ペルオキソ配位子以外の配位子を含んでいてもかまわない。
【0014】
ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)の製造方法は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、金属又は金属化合物に過酸化水素を反応させることにより行うことができる。例えばペルオキソチタン錯体は、金属チタン、加水分解性チタン、加水分解性チタン低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタン低縮合物、メタチタン酸などのチタン化合物と過酸化水素水とを反応させることによって容易に製造することができる。
【0015】
上記した加水分解性チタンは、チタンに直接結合する加水分解性基を有するチタン化合物であって、水、水蒸気などの水分と反応することにより水酸化チタンを生成するものである。また、加水分解性チタンにおいて、チタンに結合する基の全てが加水分解性基であっても、もしくはその1部が加水分解された水酸基であってもどちらでも構わない。該加水分解性基としては、上記したように水分と反応することにより水酸化チタンを生成するものであれば特に制限されないが、例えば、低級アルコキシル基やチタンと塩を形成する基(例えば、ハロゲン原子(塩素等)、水素原子、硫酸イオン等)などが挙げられる。
【0016】
加水分解性基として低級アルコキシル基を含有する加水分解性チタンとしては、特に一般式Ti(OR)(式中、Rは同一もしくは異なって炭素数1〜5のアルキル基を示す)で表されるテトラアルコキシチタンが好ましい。炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
【0017】
加水分解性基としてチタンと塩を形成する基を有する加水分解性チタンとしては、塩化チタン、硫酸チタン等が代表的なものとして挙げられる。
【0018】
また、加水分解性チタン低縮合物は、上記した加水分解性チタン同士の低縮合物である。
【0019】
加水分解性チタン低縮合物又は水酸化チタン低縮合物における縮合度は2〜30程度が好ましく、特に縮合度2〜10の範囲内のものを使用することが好ましい。
【0020】
ペルオキソチタン錯体溶液の製造方法としては、具体的には下記のものを挙げることができる。
【0021】
(1)含水酸化チタンのゲルあるいはゾルに過酸化水素水を添加して得られるチタニルイオン過酸化水素錯体あるいはチタン酸(ペルオキソチタン水和物)水溶液(特開昭63-35419号公報及び特開平1-224220号公報参照)。
【0022】
(2)塩化チタンや硫酸チタン水溶液と塩基性溶液から製造した水酸化チタンゲルに過酸化水素水を作用させ、合成することで得られるチタニア膜形成用液体(特開平9-71418号公報及び特開平10-67516号公報参照)。
【0023】
また、上記したチタニア膜形成用液体において、チタンと塩を形成する基を有する塩化チタンや硫酸チタン水溶液とアンモニアや苛性ソーダ等のアルカリ溶液とを反応させることによりオルトチタン酸と呼ばれる水酸化チタンゲルを沈殿させる。次いで水を用いたデカンテーションによって水酸化チタンゲルを分離し、良く水洗し、さらに過酸化水素水を加え、余分な過酸化水素を分解除去することにより、黄色透明粘性液体を得ることができる。
【0024】
沈殿した該オルトチタン酸はOH基同志の重合や水素結合によって高分子化したゲル状態にあり、このままではチタンを含む水性液としては使用できない。このゲルに過酸化水素水を添加するとOH基の一部が過酸化状態になりペルオキソチタン酸イオンとして溶解、あるいは、高分子鎖が低分子に分断された一種のゾル状態になり、余分な過酸化水素は水と酸素になって分解し、無機膜形成用のチタンを含む水性液として使用できるようになる。
【0025】
このゾルはチタン原子以外に酸素原子と水素原子しか含まないので、乾燥や焼成によって酸化チタンに変化する場合、実質的に、水と酸素しか発生しないため有機成分の除去が不要で、従来より低温でも比較的密度の高い結晶性の酸化チタン膜を作成することができる。
【0026】
(3)塩化チタンや硫酸チタンの無機チタン化合物水溶液に過酸化水素を加えてぺルオキソチタン水和物を形成させた後に、塩基性物質を添加して得られた溶液を放置もしくは加熱することによってペルオキソチタン水和物重合体の沈殿物を形成した後に、少なくともチタン含有原料溶液に由来する水以外の溶解成分を除去した後に過酸化水素を作用させて得られるチタン酸化物形成用溶液(特開2000-247638号公報及び特開2000-247639号公報参照)。
【0027】
ペルオキソチタン錯体溶液としては、中でも、過酸化水素水中にチタン化合物を添加して製造されたものを使用することが好ましい。該チタン化合物としては、特に一般式Ti(OR)(式中、Rは同一もしくは異なって炭素数1〜5のアルキル基を示す)で表される加水分解して水酸基になる基を含有する加水分解性チタンやその加水分解性チタン低縮合物を使用することが好ましい。
【0028】
加水分解性チタン及び/又はその低縮合物(以下、これらのものを単に「加水分解性チタンa」と略す)と過酸化水素水との混合割合は、加水分解性チタンa10重量部に対して過酸化水素水が過酸化水素換算で0.1〜100重量部、特に1〜20重量部の範囲内であることが好ましい。過酸化水素換算で0.1重量部未満になるとキレート形成が十分でなく白濁沈殿してしまう。一方、100重量部を超えると未反応の過酸化水素が残存し易く貯蔵中に危険な活性酸素を放出するので好ましくない。
【0029】
過酸化水素水の過酸化水素濃度は特に限定されないが3〜30重量%の範囲内であることが取り扱いやすさ、塗装作業性に関係する生成液の固形分の点などから好ましい。
【0030】
また、加水分解性チタンaを用いてなるペルオキソチタン錯体溶液は、加水分解性チタンaを過酸化水素水と反応温度1〜70℃の範囲内で10分間〜20時間程度反応させることにより製造することができる。
【0031】
加水分解性チタンaを用いてなるペルオキソチタン錯体溶液は、加水分解性チタンaと過酸化水素水と反応させることにより、加水分解性チタンが水で加水分解されて水酸基含有チタン化合物を生成し、次いで過酸化水素が生成した水酸基含有チタン化合物に配位するものと推察され、この加水分解反応及び過酸化水素による配位が同時近くに起こることにより得られるものであり、室温域で安定性が極めて高く長期の保存に耐えるキレート液を生成する。
【0032】
水膨潤性粘土鉱物(B)
粘土複合体(C)の(B)成分である水膨潤性粘土鉱物は、水で膨潤する粘土鉱物であり、例えば、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、合成マイカなどを挙げることができるが、中でもスメクタイト系粘土鉱物であることが好ましい。水膨潤性粘土鉱物(B)の使用量は、ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)1重量部(固形分)に対して、水膨潤性粘土鉱物(B)を0.1〜5重量部、特に0.2〜1重量部の範囲内であることが好ましい。水膨潤性粘土鉱物の使用量が少な過ぎると、得られる塗液の均一性が低下し、塗装作業性も低下する。他方、多過ぎると、塗膜の密着性が低下したり、光触媒活性が低下する。
【0033】
粘土複合体(C)の製造
本発明に用いる粘土複合体(C)は、ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)及び水膨潤性粘土鉱物(B)を複合化させてなるものであり、両者の複合化は、例えば、水膨潤性粘土鉱物(B)に適宜水及び/又は有機溶媒を加え、そこにペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)を混合して加熱処理することによって行うことができる。その際、粘土複合体中にペルオキソ基を残存させておくことが、粘土複合体の分散液を安定に存在させるためや、無機膜を低温で形成させるためには望ましく、加熱処理して得られた粘土複合体中のペルオキソ基含有量が、粘土複合体固形分1gに対して1〜15mmol、特に3〜10mmolの範囲内になるように制御することが好ましい。ペルオキソ基量がこの範囲よりも少な過ぎても多過ぎても、塗液の安定性、造膜性、基材密着性、塗装作業性などが低下する傾向にある。
【0034】
粘土複合体中のペルオキソ基量は、100mlビーカーへ試料溶液(w[g])を秤量し加えて、さらに15%ヨウ化カリウム水溶液10mlと0.1N硫酸水溶液10mlを加え、数時間撹拌する。ついで、飽和デンプン水溶液1mlを加えて、滴定液として0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液を用いて、褐色から無色に変化したところの容量(X[ml])を滴定終点とする。試料中のペルオキソ基量は0.05×X÷wで与えられる。
【0035】
粘土複合体中のペルオキソ基含有量は加熱処理条件によって変化し、例えば、加熱処理として100℃以上の温度で行われる水熱処理を用いると、ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)中のペルオキソ金属錯体成分のほとんど又は全てが分解し、前駆体が粗大な粒子に転換してしまうため、得られた粘土複合体分散液が不均一となったり、造膜性及び塗装作業性が低下してしまうことがある。
【0036】
従って、加熱処理における加熱温度は50℃以上で100℃未満であることが好ましく、80〜98℃の範囲内であることがより好ましい。加熱温度が低過ぎると、ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)の両者が十分に複合化せず、得られた粘土複合体分散液が不均一となり、塗装性が低下する。加熱処理時間としては1〜12時間、特に3〜8時間の範囲内であることが好ましい。加熱時間が短か過ぎると、ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)と膨潤性粘土鉱物(B)との複合化が不十分であり、他方、長過ぎると水溶性が不十分となり、どちらの場合も粘土複合体分散液が不均一となったり、基材密着性や塗装作業性が低下することがある。
【0037】
上記の方法で得られた粘土複合体(C)の分散液はそのままでも無機膜形成用の粘土複合体分散液(D)として用いることができるが、さらに必要に応じて無機微粒子や水、有機溶剤を配合してもよい。無機微粒子としては、例えば、シリカ、ゼオライト、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタンなどが挙げられる。塗膜の平滑性や耐水性を低下させない範囲であれば、特に、配合量に制限はない。
【0038】
粘土複合体膜の形成
上記のようにして得られた粘土複合体分散液(D)中に導電性基材を浸漬して一方の電極とし、該分散液(D)中に浸漬した他方の電極との間に電圧を印加することにより、該基材上に粘土複合体膜を形成することができる。
【0039】
本発明に用いる導電性基材は、鉄やアルミニウムといったそれ自身導電性を有する金属材だけではなく、ガラス、セラミック、プラスチックといった非導電性の素材に導電剤を混合して導電性を付与したものや非導電性の素材表面に導電性被膜を形成させたものなども含まれる。
【0040】
粘土複合体分散液(D)は固形分が0.01〜5重量%程度になるよう脱イオン水などで希釈して電析浴とし、例えば、浴温を10〜40℃に調整し、被塗物である導電性基材を電析浴の中へ浸漬してアノードとし、負荷電圧10〜100Vの条件で行うことができる。負荷電圧が10V未満だと電析が不十分となり、負荷電圧が100Vを越えると消費電力が大きくなって経済的ではない。
【0041】
粘土複合体分散液(D)は一般の電着塗料と同様、定電圧や定電流条件の通電により電析することが可能であり、通電量に伴い膜厚が大きくなる。
【0042】
上記電析工程で得られた被膜は、多量の水分を含んでいるため、乾燥させることによって乾燥被膜を得ることができる。この被膜はかならずしも硬化剤や硬化反応触媒などを必要とせず、それ自身で硬化する性質を有するので、加熱工程のみで耐水性を有する無機被膜を形成することができる。乾燥被膜の膜厚としては、1〜40μm程度であることが望ましく、乾燥被膜が1μm未満になると被覆性が不十分になることがあり、40μmを超えると均一な塗面を得ることが難しくなり仕上がりが低下することがある。乾燥温度は常温から150℃程度が好ましく、被膜中の水分を取り除く程度の時間乾燥させればよい。
【0043】
上記のようにして得られた粘土複合体膜は耐久性があり、バリヤー膜等種々の用途に適用できる。また、ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)としてペルオキソチタン錯体などを用いれば、光触媒活性を有する被膜を容易に形成することができ、環境浄化や汚染物質除去のために利用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも重量基準によるものとする。
【0045】
粘土複合体組成物の製造
実施例1
内容量300mlのフラスコに、30%過酸化水素水17.0gと純水127.7gを入れ、液温を0〜4℃に保ち、激しく撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド5.3gをフラスコ内へゆっくりと滴下した。添加終了後、激しく撹拌しながら、同温度で3時間保持して、橙〜赤色のペルオキソチタン錯体を含む水性液(TiO換算1重量%)を得た。
【0046】
次に、同フラスコ内へスメクタイト系の「ルーセンタイトSWN」(商品名、コープケミカル社製)1.5gをゆっくりと加えて、激しく撹拌した。添加終了後、液温を徐々に上昇させるとともにフラスコ内の液の粘度が上昇した。激しく撹拌しながら液温を95℃に4時間保持させたところ、半透明淡黄色の液体が得られた。次に、フラスコ内を減圧して脱溶剤することで、揮発性有機成分を除去し、TiO換算で0.1重量%になるように、純水を加えて濃度を調整し、粘土複合体分散液を得た。ペルオキソ基含有量は固形分1g当たり4.2mmolであった。
【0047】
実施例2
実施例1において、「ルーセンタイトSWN」の代わりにスメクタイト系の「ラポライトRD」(商品名、ロックウッド社製)を用いる以外は実施例1と同様の方法で粘土複合体分散液を得た。ペルオキソ基含有量は固形分1g当たり5.6mmolであった。
【0048】
実施例3
実施例1において、「ルーセンタイトSWN」1.5gの代わりに、「ルーセンタイトSWN」1.5g及び微細亜鉛華(堺化学工業社製)0.6gを用いる以外は実施例1と同様の方法で、粘土複合体分散液を得た。ペルオキソ基含有量は固形分1g当たり2.1mmolであった。
【0049】
実施例4
内容量300mlのフラスコに、30%過酸化水素水17.0gと純水127.1gを入れ、液温を0〜4℃に保ち、激しく撹拌しながら、ニオブペンタエトキシド5.9gをフラスコ内へゆっくりと滴下した。添加終了後、激しく撹拌しながら、同温度で3時間保持し、淡黄色のペルオキソニオビウム錯体を含む水性液(Nb換算1.5重量%)を得た。
【0050】
次に、同フラスコ内へ純水97.0gとスメクタイト系の「ルーセンタイトSWN」(商品名、コープケミカル社製)2.5gをゆっくりと加えて、激しく撹拌した。添加終了後、液温を徐々に上昇させるとともにフラスコ内の液の粘度が上昇した。激しく撹拌しながら液温を95℃に4時間保持させたところ、半透明淡黄色の液体が得られた。次に、フラスコ内を減圧して脱溶剤することで、揮発性有機成分を除去し、Nb換算で0.15重量%になるように、純水を加えて濃度を調整し、粘土複合体分散液を得た。ペルオキソ基含有量は固形分1g当たり8.1mmolであった。
【0051】
比較例1
実施例1において粘土複合体の水性液を製造する途中で得られたペルオキソチタン錯体を含む水性液をTiO換算で0.1重量%になるように、純水を加えて濃度を調整し、無機被膜形成用水性分散液とした。ペルオキソ基含有量は固形分1g当たり20mmolであった。
【0052】
比較例2
実施例4において粘土複合体の水性液を製造する途中で得られたペルオキソニオビウム錯体を含む水性液をNb換算で0.15重量%になるように、純水を加えて濃度を調整し、無機被膜形成用水性分散液とした。ペルオキソ基含有量は固形分1g当たり25mmolであった。
【0053】
比較例3
内容量300mlのフラスコに、エタノール29gを入れ、液温を0〜4℃に保ち、激しく撹拌しながら、チタンテトライソプロポキシド7.8gをフラスコ内へゆっくりと滴下した。添加終了後、激しく撹拌しながら、2N塩酸1.2gとエタノール113gをゆっくりと加えて1時間保持した後、純水1300gを加えて、無機被膜形成用水性分散液を得た。ペルオキソ基含有量は固形分1g当たり0.1mmolであった。
【0054】
比較例4
純水150gに「ルーセンタイトSWN」0.15gを加えて、固形分濃度が0.1%の無機被膜形成用分散液を得た。
【0055】
比較例5
実施例1において、フラスコ内を減圧して脱溶剤することでTiO濃度を5%に調整する以外は実施例1と同様の方法で粘土複合体分散液を得た。
【0056】
粘土複合体膜の作成及び評価
上記実施例1〜4及び比較例1〜4で得られた各分散液を電析浴とした。3cm×5cmに切断された厚さ0.8mmのアルミニウム合金板(A1050P)を被塗物極(陽極)とし、同寸法の白金板を対極(陰極)とし、電析浴の中に浸漬し、極間電圧約50Vで3分間通電させて被塗物極上に粘土複合体を析出させた後、取り出して室温で15分間乾燥させた後、80℃で10分間乾燥して各無機被膜を有するアルミニウム合金板Aを得た。
【0057】
同様にして、極間電圧約50Vで3分間通電させる替わりに極間電圧約50Vで5分間通電させて各無機被膜を有するアルミニウム合金板Bを得た。
【0058】
また、比較例5で得られた粘土複合体分散液については、上記と同じアルミニウム合金板を該粘土複合体分散液の中に浸漬して、ゆっくりとアルミニウム合金板を引き上げることで塗布し、上記と同じ条件で乾燥して粘土複合体膜を有するアルミニウム合金板を作成した。
【0059】
得られた無機被膜を有するアルミニウム合金板A(3分間通電)及びB(5分間通電)については成膜性および耐水性を試験した。また、酸化チタンを含有する無機被膜を有するアルミニウム合金板については光触媒活性を光照射後の残留酢酸濃度(ppm)により評価した。試験は、下記試験方法に従って行い、得られた結果を後記表1に示す。
【0060】
<膜厚> 上記方法で作成された無機被膜の膜厚は、触針式表面形状測定器(Dektak8、アルバック社製)を用いて測定した。基材面とクラックやピンホールが見られない平滑な被覆面との段差の値(平均値)を被膜の厚さとした。なお、成膜性が不良で膜全面にクラックやピンホールが発生しているものについては、測定不可とした。
【0061】
<成膜性> 上記方法で作成された無機被膜の外観を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○ 塗膜にクラックが見られず、連続的に成膜している。
× 被塗物上に無機被膜が形成されていないか、又はクラックや剥離が見られ成膜していない。
【0062】
<耐水性> 上記方法で作成された無機被膜を有するアルミ合金板を、沸騰水中に30分間浸漬した後取り出して、常温まで冷却した後、塗膜外観を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○ 沸騰水中に浸漬する前の塗膜の状態を保持している。
× 塗膜にクラックや剥離が見られる。
【0063】
<残留酢酸濃度> 通電時間が3分間で作成された酸化チタン被膜を有するアルミ合金板A上の酸化チタン被膜の一部をカッターナイフで削り、削った被膜をさらに乳鉢で十分に粉砕し、酸化チタン粉末を得た。石英ガラス製の反応容器に濃度20ppmの酢酸水溶液100部を配合し、該溶液中に上記酸化チタン粉末0.05部を添加した。光源として100Wの高圧水銀ランプを用い、紫外線カットフィルター(パイレクス社製)により300nm以下の波長の光をカットして、この溶液へ光照射し、光照射開始から2時間後の溶液中の残留酢酸濃度を液体クロマトグラフィーで定量した。光照射後の残留酢酸濃度(ppm)が低いほど光触媒活性が高いといえる。
【0064】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)との複合体である粘土複合体(C)を水中に分散させてなる粘土複合体分散液(D)中に導電性基材を浸漬して一方の電極とし、該分散液(D)中に浸漬した他方の電極との間に電圧を印加して電析によって該基材上に粘土複合体膜を形成することを特徴とする粘土複合体膜の形成方法。
【請求項2】
粘土複合体(C)が、ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)を、水膨潤性粘土鉱物(B)の存在下で加熱処理して得られたものである請求項1に記載の粘土複合体膜の形成方法。
【請求項3】
粘土複合体(C)が、ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)を、水膨潤性粘土鉱物(B)の存在下で、50℃以上100℃未満の温度で1〜12時間の範囲内で加熱処理して得られたものである請求項1又は2に記載の粘土複合体膜の形成方法。
【請求項4】
ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)が、ペルオキソチタン錯体、ペルオキソモリブデン錯体、ペルオキソタングステン錯体、ペルオキソジルコニウム錯体、ペルオキソニオビウム錯体、ペルオキソバナジウム錯体、ペルオキソタンタル錯体及びペルオキソマンガン錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属錯体である請求項1〜3のいずれか一項に記載の粘土複合体膜の形成方法。
【請求項5】
ペルオキソ配位子を含む水溶性金属錯体(A)が、ペルオキソチタン錯体である請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘土複合体膜の形成方法。
【請求項6】
ペルオキソチタン錯体が、金属チタン、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、水酸化チタンの低縮合物及びメタチタン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と反応して得られるものである請求項5に記載の粘土複合体膜の形成方法。
【請求項7】
水膨潤性粘土鉱物(B)が、スメクタイト系鉱物、バーミキュライト鉱物及び合成マイカからなる群から選ばれる少なくとも1種の粘土鉱物である請求項1〜6のいずれか一項に記載の粘土鉱合体膜の形成方法。
【請求項8】
分散液(D)中のペルオキソ基含有量が粘土複合体1gに対して1〜15mmolの範囲内である請求項1〜7に記載の粘土複合体膜の形成方法。
【請求項9】
分散液(D)が、さらに、無機微粒子を含有するものである請求項1〜8のいずれか一項に記載の粘土複合体膜の形成方法。
【請求項10】
粘土複合体膜が、乾燥膜厚で1〜40μmの範囲内である請求項1〜9のいずれか一項に記載の粘土複合体膜の形成方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の粘土複合体膜の形成方法によって得られた光触媒活性を有する粘土複合体膜。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の粘土複合体膜の形成方法によって得られた光触媒活性を有する粘土複合体被覆物品。

【公開番号】特開2006−283061(P2006−283061A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101502(P2005−101502)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】