説明

粘着テープ、粘着テープで被覆された平角電線、およびそれを用いた電気機器

【課題】貼付時に加圧や加熱を必要とせず、気泡を巻き込まない粘着テープを提供する。
【解決手段】下記で定義される初期濡れ速度が1cm2/秒以上であることを特徴とする粘着テープを提供する。
初期濡れ速度:粘着テープの粘着面を、23℃雰囲気下、ポリカーボネート板に接触させた際の、接触直後の単位時間(秒)当たりの接着面積。
特に本発明の粘着テープは、下記で定義される濡れ性が70%以上であることが好ましい。
濡れ性:7cm×7cmの粘着テープの粘着面を、23℃雰囲気下、ポリカーボネート板に接触させた際の、30秒経過後の接着面積の割合。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体に対する濡れ性の高い粘着テープに関する。また本発明は、濡れ性の高い粘着テープで被覆された平角電線、およびそれを用いた電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着テープは、プラスチックフィルムや紙などの基材上にゲル状の柔らかい粘着剤層を有しており、粘着剤層は固体でありながら被着体に対して濡れることにより接着力を発揮する。すなわち粘着剤層は被着体に対し十分に濡れることが要求される一方、剥離に抵抗する程度の凝集力(固さ)が必要となり、濡れと凝集力は相反する特性として粘着テープは設計されている。
【0003】
このため一般に粘着テープを被着体に貼り合わせる際には加圧され、場合によっては加熱した状態で加圧され、被着体に対し十分密着するよう施工される。このように施工に際し加圧や加熱が可能な場合には、粘着テープの濡れ性が劣るものであっても使用は可能であるが、被着体が微小な部品であったり、加熱に対して不具合が発生するような場合は、そのような施工は困難となる。
【0004】
また被着体に対する濡れ性が問題となる場合として、被着体と粘着テープとの間に気泡が入ることが考えられる。例えば装飾用のフィルムを貼り合わせる際に、気泡が残ることを防ぐため、粘着剤層に凸状の突起を設けたり、凹状の筋を形成し、気泡を逃がすことが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
また平角電線を絶縁するために、適宜な絶縁材で被覆して使用されている。平角電線は、各種電気機器に使用される回転機械や磁石等のコイル機器等に使用されており、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、またはそれらの金属の組み合わせからなる線材を、適宜な絶縁材で被覆したものが使用されている。また近年、ビスマス系、イットリウム系、ニオブ系など各種超伝導材料が開発され、これらを用いた超伝導線を平角電線として使用することで、超伝導マグネットや超伝導コイルなどが開発されている。具体的な使用例として、裸平角電線を絶縁フィルムテープでらせん状に巻回して被覆することが知られている(例えば、特許文献3参照)。また平角導体を樹脂絶縁被覆材により被覆することが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
しかし、特許文献3に記載の絶縁方法は、確実に絶縁するために絶縁フィルムテープの一部を重ね合わせたラップ部分を設ける必要があるが、ラップ部分に隙間が生じ、また絶縁フィルムテープが裸平角電線に完全に密着しないため気泡を含む場合があった。このような隙間や気泡は、その部分に電界が集中し、微弱な放電が発生する。これは部分放電とよばれ、これにより絶縁体が劣化し、長時間後には絶縁破壊に至ることがある。特に超伝導線のように液体窒素中で使用される平角電線の場合、ラップ部分に噛みこんだ気泡による部分放電開始電圧の低下が著しいことが本発明者によって確認された。
【0007】
また特許文献4に記載の絶縁方法は、溶融させた熱可塑性樹脂により平角電線を被覆するものであり、材料の種類によってはかなりの高温となり、線材の特性を低下させる恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08-113768号公報
【特許文献2】特開2006-299283号公報
【特許文献3】特開2000-4552号公報
【特許文献4】特開2003-272916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、貼付時に加圧や加熱を必要とせず、気泡を巻き込まない粘着テープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、濡れ性の高い粘着テープを用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち本発明の粘着テープは、下記で定義される初期濡れ速度が1cm2/秒以上であることを特徴とする。
初期濡れ速度:7cm×7cmの粘着テープの粘着面を、23℃雰囲気下、ポリカーボネート板に接触させた際の、接触直後の単位時間(秒)当たりの接着面積。
【0012】
特に本発明の粘着テープは、下記で定義される濡れ性が70%以上であることが好ましい。
濡れ性:7cm×7cmの粘着テープの粘着面を、23℃雰囲気下、ポリカーボネート板に接触させた際の、30秒経過後の接着面積の割合。
【0013】
また本発明の粘着テープは、基材上にシリコーン系粘着剤組成物からなる粘着剤層を設けたことを特徴とする。さらに当該基材がポリイミド樹脂からなることを特徴とする。
【0014】
さらに本発明の粘着テープは、ステンレス板に対する接着力(180°ピール、引っ張り速度300mm/分)が0.01〜10N/20mmであることが好ましい。
【0015】
また本発明の粘着テープは、平角電線を被覆し絶縁する平角電線被覆用粘着テープとして好適であり、本発明の粘着テープで被覆されていることを特徴とする平角電線を提供する。前記平角電線は、超伝導線であることが好適である。
【0016】
また本発明は、前記粘着テープで被覆された平角電線を用いた電気機器を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粘着テープは、高い濡れ性を有するため、貼り合わせ時に加圧や加熱を必要とせず、気泡を巻き込むことなく容易に貼り合わせることができる。特に本発明の粘着テープを平角電線被覆用として使用することで、室温条件で平角電線を被覆することができ、平角電線に熱による劣化を生じさせることを抑制でき、また被覆用粘着テープをラップ部を設けながららせん状に巻回した際でも、粘弾性層がラップ部の隙間を埋め、また電線に被覆材が接着することで気泡が入らないように被覆することができる。このためラップ部や気泡部からの放電がなく、高い絶縁破壊電圧を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1(a)は、本発明の粘着テープの初期濡れ速度及び濡れ性の測定方法を示す概略図であり、図1(b)は解析結果の一例である。
【図2】図2は、本発明の粘着テープの一実施形態を示す概略側面図である。
【図3】図3は、本発明の粘着テープで被覆された平角電線の一実施形態を示す概略斜視図である。
【図4】図4は、平角電線の部分放電開始電圧の評価方法を示す説明図である。
【図5】図5は、電気機器の一例であるコイルの一実施形態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の粘着テープは、基材の片面に粘着剤層を設けた構成とすることができる。
【0020】
本発明の粘着テープは、下記で定義される初期濡れ速度が1cm2/秒以上であることを特徴とする。
初期濡れ速度:7cm×7cmの粘着テープの粘着面を、23℃雰囲気下、ポリカーボネート板に接触させた際の、接触直後の単位時間(秒)当たりの接着面積。
【0021】
本発明において、粘着テープの初期濡れ速度は1cm2/秒以上、好ましくは10cm2/秒以上、より好ましくは30cm2/秒以上、更に好ましくは50cm2/秒以上である。初期濡れ速度が1cm2/秒以上であれば、貼り合わせ時に加圧や加熱を必要とせず、気泡を巻き込むことなく容易に貼り合わせることができる。なお初期濡れ速度の上限値は特に制限されないが、測定の精度と簡便性を考慮すると、通常100cm2/秒程度である。一方、初期濡れ速度が1cm2/秒未満であると、被着体への貼り合わせ時の濡れに斑ができ、気泡の噛み込みが発生する。また気泡を噛み込ませないようにするため、スキージーを使って徐々に貼り合わせたり、界面活性剤やアルコールを含む液を被着体に噴霧し、貼り合わせ後に気泡を押し出すといった特別な操作が必要となる。
【0022】
また本発明の粘着テープを平角電線被覆用粘着テープとして使用する場合、粘着テープの初期濡れ速度が1cm2/秒以上であれば、室温条件で平角電線を被覆することができ、平角電線に熱による劣化を生じさせることがなく、また被覆用粘着テープをラップ部を設けながららせん状に巻回した際でも、粘着剤層がラップ部の隙間を埋め、また電線に被覆材が接着することで気泡が入らないようにすることができる。このためラップ部や気泡部からの放電がなく、高い絶縁破壊電圧を得ることができる。
【0023】
また本発明の粘着テープは、下記で定義される濡れ性が70%以上であることが好ましい。
濡れ性:7cm×7cmの粘着テープの粘着面を、23℃雰囲気下、ポリカーボネート板に接触させた際の、30秒経過後の接着面積の割合。
【0024】
濡れ性が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上とすることで、例えば、平角線等の導電体を絶縁被覆する際に、巻き回し装置に新たに加圧装置を設ける必要が無く線材との密着、被覆テープ背面との密着が得られるという利点がある。なお濡れ性の上限値は100%であって良いが、98%程度であっても構わない。一方、濡れ性が70%以上であると、巻き回し装置により巻き回されただけで、線材、或いは被覆テープ背面との十分な密着が得られやすいために、新たに加圧装置等を取り付けて、密着させなければならない場合を低減できる。
【0025】
本発明における初期濡れ速度および濡れ性の測定方法について、図1を参照して説明する。
【0026】
図1は、本発明の濡れ性の測定方法を示す概略図である。図1(a)において、1は測定する粘着テープを、4は被着体であるポリカーボネート板を、5は貼り合わせ面を観察するデジタルマイクロスコープをそれぞれ示している。
【0027】
本発明の初期濡れ速度および濡れ性の測定は、測定する粘着テープを幅7cm、長さ8cmに切断し評価サンプルとする。粘着テープ1をポリカーボネート板4に固定するために、粘着テープ1の粘着剤層面の長さ方向の一端1cm分をポリカーボネート板4上に貼り合わせる。デジタルマイクロスコープ5を粘着テープ1の全長の略中央付近に設置し、粘着テープ1の自重でポリカーボネート板4に貼り合わせ、その際のサンプル全面の様子をデジタルマイクロスコープ5で記録する。記録した画像は画像解析ソフト(例えば、三谷商事社製「WinRoof」)によりポリカーボネート板への接着面積の経時変化を解析する。解析結果の一例を図1(b)に示す。このグラフから読み取れる接着開始直後の傾きより初期濡れ速度を算出し、30秒経過後の濡れ面積比率を濡れ性とする。なお評価する粘着テープの幅が7cmに満たない場合は、初期濡れ速度に関しては比例換算することも可能である。
【0028】
なお図1(a)では、基材に透明な基材を用いた粘着テープについての測定方法を示している。すなわち基材側から接着部分の様子をデジタルマイクロスコープ5で観察するものであるが、基材として不透明な基材を用いた粘着テープを測定する場合は、デジタルマイクロスコープ5を粘着テープ1と反対側に設置し、ポリカーボネート板4越しに接着の様子を観察することも可能である。
【0029】
(基材)
本発明において、基材は特に限定されず、従来周知のものを用いることができるが、粘着テープの濡れ性を70%以上とするためには、一定の強度や硬さを有することが望ましく、例えば引張弾性率(ASTM D−882)が2.0GPa以上、好ましくは2.5GPa以上、より好ましくは3.0GPa以上(通常10GPa以下)の基材を用いることが望ましい。
【0030】
本発明の粘着テープを平角電線被覆用に用いる場合、基材は絶縁性、耐放射線性、耐熱性等を有すれば特に限定されず、例えばポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用することも出来る。
【0031】
これらの樹脂の中でも、本発明においては、特にポリイミド樹脂を基材として用いることが好ましい。ポリイミド樹脂は、耐熱性と共に、不燃性材料であり電気機器に使用する絶縁材料としては、優れた難燃性を有するという点で本発明の平角電線用被覆材(平角電線用粘着テープ)の基材として優れた特性を有している。
【0032】
ポリイミド樹脂は公知乃至慣用の方法により得ることが出来る。例えば、ポリイミドは有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを反応させてポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を合成し、このポリイミド前駆体を脱水閉環することにより得ることが出来る。
【0033】
上記有機テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等が挙げられる。これらの有機テトラカルボン酸二無水物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用することも出来る。
【0034】
上記ジアミノ化合物としては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル、4,4´−ジアミノジフェニルスルホン、3,3´−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ジアミノジフェニルメタン、2,2´−ジメチル−4,4´−ジアミノビフェニル、2,2´−ビス(トリフルオロメチル)−4,4´−ジアミノビフェニル等が挙げられる。これらのジアミノ化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用することも出来る。
【0035】
なお本発明において用いられるポリイミド樹脂としては、有機テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミノ化合物としてp−フェニレンジアミン、4,4´−ジアミノジフェニルエーテルを用いることが好ましい。このようなポリイミド樹脂は、「カプトン」(東レ・デュポン社製)、「ユーピレックス」(宇部興産社製)など市販品を用いることもできる。
【0036】
本発明において用いる基材の厚さは、5〜200μm、好ましくは7〜100μmである。厚さが本範囲内であると、適度な曲げ弾性や柔軟性を有し被着体への濡れ性が向上するという利点がある。一方、厚さが200μm以下であると、基材の柔軟性が欠ける場合を低減でき、粘着剤層の濡れに追従しなくなることを抑制でき初期濡れ速度が低下する場合を低減でき、また5μm以上であると、基材の強度が不足することを抑制し取り扱いが困難になる場合を低減できる。
【0037】
本発明の粘着テープを平角電線被覆用に用いる場合、基材の厚さは、5〜25μm、好ましくは7〜15μmである。厚さが本範囲内であると、十分な絶縁性を確保でき、平角電線としての機能を発揮できる。一方、厚さが25μm以下であると、テープが厚くなることを抑制できる為に、平角電線に被覆した際にコイルの線占率が小さくなることを抑制し所望のコイル性能が得られない場合を低減でき、また厚さが5μm以上であると線材の絶縁性が低くなることを抑制し、作動中に絶縁破壊する場合を低減できる。
【0038】
また本発明において用いる基材は、後述する粘弾性体層(粘着剤層)との投錨力を向上させるために、スパッタエッチング処理やコロナ処理、プラズマ処理などの化学的処理や、下塗り剤などを塗布することもできる。
【0039】
(粘着剤層)
本発明において粘着剤層は、粘着テープの初期濡れ速度が1cm2/秒以上となるものであれば特に限定されず、公知のベースポリマーから適宜選択して用いることができる。例えば、アクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー、ビニルアルキルエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ウレタン系ポリマー、フッ素系ポリマー、エポキシ系ポリマーなどを挙げることができる。
【0040】
本発明において、粘着テープの初期濡れ速度が1cm2/秒以上とするためには、その粘着剤層を構成する粘着剤組成物は粘弾性体層(粘着剤層)としては、温度0〜80℃の範囲で、動的弾性率が1×103〜1×108N/m2のものを使用することが好ましく、特に好ましくは1×104〜1×106N/m2の範囲のものである。すなわち、1×103N/m2以上であると、粘着テープとしての形状を維持でき濡れが不均一になる場合を低減でき、逆に、1×108N/m2以下であると柔軟性の低下を抑制でき、初期濡れ速度の低下や濡れ性の低下をきたす場合を低減できる。
【0041】
また、粘着剤層は被着体への接着特性のバランスが取りやすい理由から、上記ベースポリマーのガラス転移温度(Tg)が−5℃以下、好ましくは−10℃以下であることが望ましい。ガラス転移温度が−5℃以下の場合、ポリマーが流動しやすく被着体への濡れが十分となり、初期濡れ速度や接着力が低下する場合を低減できる。
【0042】
本発明において粘着剤層は、高い初期濡れ速度を得るためにシリコーン系ポリマーを含む粘着剤組成物より構成することが好ましい。シリコーン系粘着剤組成物は、シリコーンガムおよびシリコーンレジンを主成分とする配合物の架橋構造を含有してなる。
【0043】
特に本発明の粘着テープを平角電線被覆用に用いる場合においても、粘着剤層を構成するベースポリマーは、耐熱性や透明性に優れるという理由から、シリコーン系ポリマーが好適に用いられる。
【0044】
シリコーンガムとしては、シリコーン系粘着剤組成物として使用されている各種のものを特に制限なく使用できる。たとえば、ジメチルシロキサンを主な構成単位とするオルガノポリシロキサンを好ましく使用できる。オルガノポリシロキサンには必要に応じてビニル基、その他の官能基が導入されていてもよい。オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は通常18万以上であるが、望ましくは28万から100万、特に50万から90万のものが好適である。これらシリコーンガムは1種または2種以上を適宜に組み合わせて使用することができる。重量平均分子量が低い場合には架橋剤の量によりゲル分率を調整することができる。
【0045】
シリコーンレジンとしては、シリコーン系粘着剤組成物として使用されている各種のものを特に制限なく使用できる。たとえば、M単位(R3SiO1/2)と、Q単位(SiO2)、T単位(RSiO3/2)およびD単位(R2SiO)から選ばれるいずれか少なくとも1種の単位(前記単位中、Rは一価炭化水素基または水酸基を示す)を有する共重合体からなるオルガノポリシロキサンを好ましく使用できる。前記共重合体からなるオルガノポリシロキサンは、OH基を有する他に、必要に応じてビニル基等の種々の官能基が導入されていてもよい。導入する官能基は架橋反応を起こすものであってもよい。前記共重合体としてはM単位とQ単位からなるMQレジンが好ましい。
【0046】
シリコーンガムとシリコーンレジンの配合割合(重量比)は特に制限されないが、粘着テープの初期濡れ速度が1cm2/秒以上とするためには、前者:後者=100:0〜20:80程度、好ましくは100:0〜30:70程度、より好ましくは90:10〜40:60程度、更に好ましくは80:20〜50:50程度のものを使用するのが好適である。シリコーンガムとシリコーンレジンは、単にそれらを配合して使用してもよく、それらの部分縮合物であってもよい。
【0047】
前記配合物には、それを架橋構造物とするために、通常、架橋剤を含む。架橋剤により、シリコーン系粘着剤層のゲル分率を調整することができる。
【0048】
本発明においてシリコーン系粘着剤層のゲル分率は、シリコーン系粘着剤組成物の種類によっても異なるが、概ね20〜99%程度、好ましくは50〜98%程度、より好ましくは40〜85%程度とするのが適当である。ゲル分率が上記範囲内であると接着力と保持力のバランスがとりやすいというという利点がある。一方ゲル分率が99%以下であると初期接着力が低くなりすぎず、貼り付きが悪くなってしまう傾向を低減でき、20%以上であると濡れ性が低下することを抑制でき、また十分な保持力が得られ、テープずれや糊はみ出しが発生する場合を低減できる。
【0049】
本発明におけるシリコーン系粘着剤層のゲル分率(重量%)は、シリコーン系粘着剤層から乾燥重量W1(g)の試料採取し、これをトルエンに浸漬した後、前記試料の不溶分をトルエン中から取り出し、乾燥後の重量W2(g)を測定し、(W2/W1)×100を計算して求めることができる。
【0050】
本発明のシリコーン系粘着剤組成物は、一般に用いられる、過酸化物系架橋剤による過酸化物硬化型の架橋と、Si−H基を含有するシロキサン系架橋剤による付加反応型架橋を用いることができる。
【0051】
過酸化物系架橋剤の架橋反応はラジカル反応であるため、通常150℃〜220℃の高温下で架橋反応が進められる。一方、ビニル基含有のオルガノポリシロキサンとシロキサン系架橋剤の架橋反応は付加反応であるので、通常80℃〜150℃の低温で反応が進む。本発明においては、特に低温短時間で架橋を完了できることから、付加反応型架橋が好ましい。
【0052】
前記過酸化物架橋剤としては、従来よりシリコーン系粘着剤組成物に使用されている各種のものを特に制限なく使用できる。たとえば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,4−ジクロロ−ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキシン−3等があげられる。過酸化物系架橋剤の使用量は、通常、シリコーンガム100重量部に対して0.15〜2重量部程度、好ましくは0.5〜1.4重量部である。
【0053】
また、シロキサン系架橋剤として、たとえば、ケイ素原子に結合した水素原子を分子中に少なくとも平均2個有するポリオルガノハイドロジエンシロキサンが用いられる。ケイ素原子に結合した有機基としてはアルキル基、フェニル基、ハロゲン化アルキル基等があげられるが、合成および取り扱いが容易なことから、メチル基が好ましい。シロキサン骨格構造は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状が良く用いられる。
【0054】
シロキサン系架橋剤の使用量は、通常、シリコーンガムおよびシリコーンレジン中のビニル基1個に対して、ケイ素原子に結合した水素原子が1〜30個、好ましくは4〜17個になるように配合する。ケイ素原子に結合した水素原子が1個以上では、十分な凝集力が得られ、30個を超える場合には接着特性が低下する傾向を低減できる。シロキサン系架橋剤を用いる場合には、通常、白金触媒が用いられるが、その他種々の触媒を使用することができる。なお、シロキサン系架橋剤を用いる場合には、シリコーンガムとしてビニル基を有するオルガノポリシロキサンを用いるが、そのビニル基は、0.0001〜0.01モル/100g程度とするのが好ましい。
【0055】
本発明の粘着剤層には、前記ベースポリマーの他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、粘着付与剤、可塑剤、分散剤、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、安定剤、消泡剤、難燃剤、増粘剤、顔料、軟化剤、充填剤、などの従来公知の各種の添加剤を適宜配合することができる。
【0056】
本発明において粘着剤層の厚さは、1〜200μm、好ましくは2〜100μmである。厚さが本範囲内であると適度な曲げ弾性や柔軟性を有し被着体への濡れ性が向上するという利点がある。一方、厚さが200μm以下であると粘着剤層の柔軟性が欠ける場合を低減でき、粘着剤層の濡れに追従しなくなることを抑制し初期濡れ速度が低下する場合を低減でき、また1μm以上であると接着力が著しく低下する場合を低減できる。
【0057】
特に本発明の粘着テープを平角電線被覆用粘着テープとして用いる場合、粘着剤層の厚さは、1〜25μm、好ましくは2〜10μmである。粘着剤層の厚さが本範囲内であると適度な接着性が得られるという利点がある。一方、粘着剤層の厚さが25μm以下であると粘着テープが厚くなることを抑制する為、平角電線に被覆した際にコイルの線占率が小さくなることを抑制し所望のコイル性能が得られない場合を低減でき、また1μm以上であると線材への密着が得られ、線材との界面に隙間が出来るという不具合が発生する場合を低減できる。
【0058】
(粘着テープ)
次に、本発明の粘着テープについて、図2を参照して、説明する。
【0059】
図2は、本発明の粘着テープの一実施形態を示す概略側面図である。図2において、粘着テープ1は、基材11の片面に粘着剤層12を設けた構成である。また粘着テープ1は、芯材13にロール状に巻回されている。
【0060】
なお図2では、基材11の片面に粘着剤層12を設けた粘着テープを例示しているが、本発明においては、基材11の両面に粘着剤層12を設けた、両面粘着テープであってもよく、あるいは基材を有しない、粘着剤層12のみの、いわゆる基材レスの粘着テープであっても良い。さらに、粘着剤層12の表面には、粘着面を保護する剥離ライナーが設けられていても良い。
【0061】
また本発明において粘着テープには、テープ状の他、シート状、フィルム状など従来周知の形状も包含する。
【0062】
本発明の粘着テープ1の作製方法は特に限定されないが、例えば、前記したシリコーン系粘着剤組成物を基材上にコーティングする方法により、基材11にシリコーン系粘着剤層を粘弾性層12として形成することができる。
【0063】
より具体的には、シリコーンガム、シリコーンレジン、架橋剤、触媒等を含むシリコーン系粘着剤組成物をトルエン等の溶剤に溶解した溶液を前記基材に塗布し、次いで前記配合物を加熱することで溶剤の留去と架橋を行う。本発明におけるシリコーン系粘着剤層の形成方法としては、たとえば、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコーターなどによる押出しコート法などの方法があげられる。
【0064】
また剥離ライナー上にシリコーン系粘着剤組成物からなるシリコーン系粘着剤層を形成し、これを基材に転写する方法であっても良い。剥離ライナーとしては、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂フィルム、ゴムシート、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体等があげられる。
【0065】
加熱温度は、溶剤を留去でき、また所定の架橋反応が進行すれば特に限定されないが、例えば溶剤にトルエンを用い、付加反応型架橋を行うシリコーン系粘着剤層を形成する場合、80℃〜150℃、好ましくは100〜130℃である。
【0066】
本発明の粘着テープを平角電線被覆用に用いる場合、その厚み(総厚)が0.007〜0.04mmであることが好ましく、0.01〜0.03mmであることがより好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.02mmである。粘着テープの厚さが0.007mm以上では強度が十分であり、取り扱い性に劣る場合を低減でき、厚さが0.04mm以下であると、粘着テープで被覆された平角電線を絶縁コイルとして巻回した際に、線材の密度の低下を抑制し、性能の低下を引き起こす場合を低減でき好ましくない。
【0067】
また平角電線の一般的なサイズは、厚さが1〜10mm、幅が1〜20mmのものが市販されており、一般的な絶縁被覆方法は、巻き回し角度が20°〜80°の範囲で、且つ絶縁被覆材(絶縁粘着テープ)の一部が重なり合う、ハーフラップで螺旋状に巻き回されている場合が多い。このことから、線材幅と、巻き回し角度を考慮すると、テープ幅は、最小でも、線材幅の1倍、最大でも、線材幅の2倍程度が好ましい。具体的には、本発明の平角電線用被覆材(平角電線用粘着テープ)は、その幅が1〜80mmであることが好ましく、1.5〜60mmであることがより好ましく、さらに好ましくは2〜40mmである。
【0068】
また平角電線を被覆する被覆材(粘着テープ)は、平角電線を被覆する際につなぎ目を設けないことが望ましい。そのため本発明の粘着テープを平角電線被覆用粘着テープとして用いる場合は、長尺のテープであることが好ましく、長さは500m以上、好ましくは1000m以上、更に3000m以上であることが望ましい。従って本発明の平角電線用被覆材(平角電線用粘着テープ)1は巻芯13にロール状に巻回されており、一つの巻芯に複数列に亘って巻回する、いわゆるボビン巻きであっても構わない。
【0069】
本発明の粘着テープは、SUS304鋼板に対する接着力(180°ピール、引っ張り速度300mm/分)が0.01〜10N/20mm、好ましくは0.01〜6.0N/20mm、より好ましくは0.02〜4.0N/20mm、更に好ましくは0.1〜2.0N/20mmであることが望ましい。接着力が上記範囲内であれば、例えば粘着テープを平角電線被覆用粘着テープとして用いる場合、平角電線と室温で十分に密着し、容易に平角電線を絶縁被覆することができる、また気泡や隙間をなくすことができ、高い絶縁破壊電圧を得ることができる、という利点がある。一方、接着力が10N/20mm以下であると、巻き戻しにくくなることを抑制できるばかりでなく、螺旋状に巻き回す際にテープが伸び、被覆後の平角電線に反りや捻じれ等が発生する恐れを低減できる。また接着力が0.01N/20mm以下であると、平角電線に対する十分な接着力が得られ、隙間や気泡が混入する恐れを低減できる。
【0070】
本発明の粘着テープの接着力は上記範囲であることが望ましいが、そのためには粘着剤層の組成を適宜調整することで達成される。例えば粘着剤層として前記シリコーン系粘着剤組成物を用いる場合、シリコーンガムとシリコーンレジンとの配合比を調整することで、接着力を調整することができ、具体的にはシリコーンレジンの配合量を増やすことで接着力を高めることができる。より具体的には、粘着テープのSUS304鋼板に対する接着力(180°ピール、引っ張り速度300mm/分)を0.01〜10N/20 mmとするには、シリコーンガムとシリコーンレジンの配合割合(重量比)を、前者:後者=100:0〜30:70程度にすればよい。
【0071】
また本発明の粘着テープの低速巻戻し力(引っ張り速度300m/分)は、0.05〜10N/20mm、好ましくは0.07〜7.0N/20mm、より好ましくは0.1〜5.0N/20mm、更に好ましくは0.2〜3.0N/20mmであることが望ましい。粘着テープの自背面接着力が上記範囲内であれば、例えば粘着テープを平角電線被覆用粘着テープとして用いる場合、平角電線用被覆材(平角電線用粘着テープ)の巻回体からの巻き戻しがスムーズに行われるという利点がある。一方、巻き戻し力が5N/20mm以下であると、巻き戻しが不規則になる場合を低減できる。
【0072】
(粘着テープで被覆された平角電線)
本発明は、上記平角電線被覆用粘着テープで被覆した平角電線を提供する。本発明に使用する平角電線は、特に限定されず、従来周知の物を使用でき、その素材としては銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、またはそれらの金属の組み合わせからなる線材を用いることができる。またビスマス系、イットリウム系、ニオブ系など各種超伝導材料からなる平角電線も用いることができる。
【0073】
平角電線を被覆する方法は特に限定されず、従来周知の螺旋状に被覆用粘着テープを巻回する方法であってもよいし、被覆用粘着テープの長さ方向に平角電線を添わせながら被覆する方法(タテ添え)であってもよい。
【0074】
また本発明に用いる平角電線は、その断面形状において幅/厚さの比(アスペクト比)が、1〜60程度の平角電線を用いることが望ましい。
【0075】
(電気機器)
本発明の平角電線用被覆材(粘着テープ)で被覆された平角電線は、絶縁コイルや超伝導コイル、超伝導マグネットなどの電気機器に使用することができる。特に本発明の平角電線用被覆材で被覆された平角電線は、被覆材と線材との間に気泡や隙間がなく、高い絶縁破壊電圧を有するため、それを用いた電気機器においては、印加する電力を大きくした設計が可能で、出力の大きい機器を提供出来るというという利点を有する。
【0076】
なお、電気機器の一例である絶縁コイルや超伝導コイルなどのコイル200は、例えば図5に示すように、巻枠210と、この巻枠210に巻きつけられた粘着テープで被覆された平角電線100とを備えている。
【実施例】
【0077】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
シリコーン系粘着剤として「X−40−3229」(シリコーンガム、固形分60%、信越化学工業社製)70重量部および「KR−3700」(シリコーンレジン、固形分60%、信越化学工業社製)30重量部、白金触媒として「PL−50T」(信越化学工業社製)0.5重量部、溶剤としてトルエン315重量部を配合し、ディスパーで攪拌してシリコーン系粘着剤組成物を作製した。ポリイミド樹脂からなる基材「カプトン40EN」(厚み10.0μm、引張弾性率5.8GPa、東レ・デュポン社製)にファウンテンロールで乾燥後の厚みが3μmとなるよう塗布し、乾燥温度150℃、乾燥時間1分の条件でキュアー・乾燥して、ポリイミド樹脂基材上にゲル分率が74%のシリコーン系粘着剤層を形成した粘着テープを作製した。これを巻芯(内径76mm)に巻き取り、ロール状の巻回体を得た。
【0079】
(実施例2)
ポリイミド樹脂からなる基材として「カプトン50H」(厚み12.5μm、引張弾性率3.50GPa、東レ・デュポン社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。
【0080】
(実施例3)
シリコーン系粘弾性体として「X−40−3229」(シリコーンガム、固形分60%、信越化学工業社製)60重量部および「KR−3700」(シリコーンレジン、固形分60%、信越化学工業社製)40重量部とした以外は実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂基材上にゲル分率が80%のシリコーン系粘着剤層を形成した平角電線用被覆材を作製した。これを巻芯(内径76mm)に巻き取り、ロール状の巻回体を得た。
【0081】
(実施例4)
シリコーン系粘弾性体として「X−40−3229」(シリコーンガム、固形分60%、信越化学工業社製)50重量部および「KR−3700」(シリコーンレジン、固形分60%、信越化学工業社製)50重量部とした以外は実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂基材上にゲル分率が65%のシリコーン系粘着剤層を形成した平角電線用被覆材を作製した。これを巻芯(内径76mm)に巻き取り、ロール状の巻回体を得た。
【0082】
(比較例1)
シリコーン系粘着剤として「KR−3700」(シリコーンレジン、固形分60%、信越化学工業社製)100重量部、白金触媒として「PL−50T」(信越化学工業社製)0.5重量部、溶剤としてトルエン315重量部を配合し、ディスパーで攪拌してシリコーン系粘着剤組成物を作製した。ポリイミド樹脂からなる基材「カプトン40EN」(厚み10.0μm、引張弾性率5.8GPa、東レ・デュポン社製)にファウンテンロールで乾燥後の厚みが3μmとなるよう塗布し、乾燥温度150℃、乾燥時間1分の条件でキュアー・乾燥して、ポリイミド樹脂基材上にゲル分率が38%のシリコーン系粘着剤層を形成した粘着テープを作製した。これを巻芯(内径76mm)に巻き取り、ロール状の巻回体を得た。
(比較例2)
基材としてカプトン50H(厚み12.5μm、東レ・デュポン社製)を用い、粘着剤層を設けずそのまま使用した。
【0083】
(評価)
実施例及び比較例について、初期濡れ速度、濡れ性、接着力、部分放電開始電圧をそれぞれ測定した。結果を表1に示した。
【0084】
(初期濡れ速度および濡れ性の測定)
各実施例及び比較例で作成した粘着テープについて、幅7cm、長さ8cmに切断し評価用サンプルとした。23℃、50%RH雰囲気下、評価用サンプルの粘着面の一端1cm分を、ポリカーボネート板(タキロン社製品番1600)に貼り付けて固定し、図1(a)に示す装置にて評価用サンプルが自重でポリカーボネート板に接着する際の様子をデジタルマイクロスコープで記録した。記録した画像は画像解析ソフト(三谷商事社製「WinRoof」)によりポリカーボネート板への接着面積の経時変化を解析し、接着開始直後の傾きより初期濡れ速度を算出し、30秒経過後の濡れ面積比率を濡れ性とした。
【0085】
(接着力の測定)
各実施例及び比較例で作製した粘着テープを幅20mm、長さ150mmに切断し評価用サンプルとした。23℃、50%RH雰囲気下、評価用サンプルの粘着面を、SUS304鋼板に2kgローラー1往復により貼り付けた。23℃で30分間養生した後、ミネベア株式会社製万能引張試験機『TCM−1kNB』を用い、剥離角度180°、引っ張り速度300mm/分で剥離試験を行い、接着力を測定した。
【0086】
(部分放電開始電圧の測定)
各実施例及び比較例で作成した粘着テープおよび比較例2の基材について、幅5mmの試験片とし、平角電線として「Di−BSCCO」(線材:ビスマス系超電導線、厚み0.23mm×幅4.3mm、住友電気工業社製)に対し、図3に示すとおり、巻き回し角度60°、被覆材同士の重なりを 約2.0mmで螺旋状に被覆した長さ10cmの評価サンプル2を作製した。図3において、21は平角電線を、22は試験片(平角電線用被覆材または基材)を、23は試験片22のラップ部分を示す。
【0087】
図4に示す装置により、液体窒素中での部分放電開始電圧を測定した。図4において、31は容器であり、32は電極であり、33は評価サンプル2および電極32を保持する支柱である。容器31内に、電極32および支柱33で挟持する形で評価サンプル2を配置した。上部の電極32には部分放電測定器34が接続され、評価サンプル2の平角電線にアース35を接続した。液体窒素を、少なくとも評価サンプル2が浸漬するよう加え、温度が安定した状態で(約15分後)、測定を開始した。なお電極サイズは25mmφ、R2.5mm、接触面積20mmφであり、昇圧速度200Vrms/秒で昇圧した際に、放電電荷量が100pC以上の放電が50PPS(単位時間当たりの放電電荷の発生数)以上確認された時の印加電圧を部分放電開始電圧とした。
【0088】
【表1】

【0089】
実施例のように初期濡れ速度が1cm2/秒である粘着テープは被着体への濡れ性が高く、これを平角電線被覆用粘着テープとして用いた場合、その部分放電開始電圧は、粘着剤層を設けず基材のみで被覆した場合にくらべ、2倍以上の高い値であることが確認された。
また比較例1のように、被着体への接着性が高い粘着テープであっても初期濡れ性に劣る場合、気泡を噛みこむため、これを平角電線被覆用粘着テープとして用いた場合、その部分放電開始電圧は、実施例より劣ることが分かる。
【符号の説明】
【0090】
1 粘着テープ
11 基材
12 粘着剤層
13 巻芯
2 評価サンプル
21 平角電線
22 試験片
23 ラップ部分
31 容器
32 電極
33 支柱
34 部分放電測定器
35 アース
4 ポリカーボネート板
5 デジタルマイクロスコープ
100 平角電線用被覆材で被覆された平角電線
200 コイル
210 巻枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記で定義される初期濡れ速度が1cm2/秒以上であることを特徴とする粘着テープ。
初期濡れ速度:7cm×7cmの粘着テープの粘着面を、23℃雰囲気下、ポリカーボネート板に接触させた際の、接触直後の単位時間(秒)当たりの接着面積。
【請求項2】
下記で定義される濡れ性が70%以上であることを特徴とする請求項1に記載の粘着テープ。
濡れ性:7cm×7cmの粘着テープの粘着面を、23℃雰囲気下、ポリカーボネート板に接触させた際の、30秒経過後の接着面積の割合。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粘着テープであって、基材上にシリコーン系粘着剤組成物からなる粘着剤層を設けたことを特徴とする粘着テープ。
【請求項4】
前記基材がポリイミド樹脂からなることを特徴とする請求項3に記載の粘着テープ。
【請求項5】
SUS304鋼板に対する接着力(180°ピール、引っ張り速度300mm/分)が0.01〜10N/20mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘着テープ。
【請求項6】
平角電線を被覆し絶縁する平角電線被覆用に用いられる請求項1〜5のいずれか1項に記載の粘着テープ。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の粘着テープで被覆されていることを特徴とする粘着テープで被覆された平角電線。
【請求項8】
前記平角電線が超伝導線であることを特徴とする請求項7に記載の粘着テープで被覆された平角電線。
【請求項9】
請求項7または8に記載の粘着テープで被覆された平角電線を用いた電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−144701(P2012−144701A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257884(P2011−257884)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】