説明

糖化阻害剤

【課題】優れた糖化阻害作用を有し、かつ安全性の高い糖化阻害剤を提供する。
【解決手段】黒大豆種皮、マテ茶葉(緑)、リンデン花、ウラジロガシ葉、黒米種子、西洋ヤナギ樹皮・新芽、アイブライト地上部、ブラックコホシュ根、アグニ果実、アーティチョーク葉、ライチ種子、カツアバ樹皮、オート麦地上部、パッションフラワー葉、チャデブグレ葉、ソバ葉、マリアアザミのソウ果、明日葉の葉、デビルスクロー根、イペ樹皮、アガリクス菌糸体、パフィア根、アサイ果実、モズク全草及びフキ茎・葉からなる群より選択される少なくともいずれか1種の加工物を有効成分として含有する、糖化阻害剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来の加工物を有効成分として含有する糖化阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質と還元糖を混合して加熱すると、タンパク質のアミノ基と糖のカルボニル基との間が非酵素的に結合し、糖化産物が形成される。この反応はメイラード反応または糖化反応と称され、古くより食品化学の分野において利用されてきた。このタンパク質と還元糖の結合反応は、生体内においても起きており、糖化されたタンパク質は常に形成されている。
【0003】
タンパク質の糖化は、時にタンパク質の構造や機能を失わせ、異常タンパク質を体内に蓄積する場合がある。通常、糖化タンパク質は形成と分解の均衡が保たれており、体内に異常タンパク質が蓄積することはない。しかし、加齢による代謝機能の低下や糖尿病発症による高血糖状態が続くと、生体内で糖化反応が徐々に進行し、各組織におけるタンパク質の正常な機能が損なわれる。さらに、最終的にこの糖化タンパク質は終末糖化産物(AGE ; Advanced Glycation End-products)と呼ばれる不可逆的な化合物を形成し、各組織に沈着したり、血管内皮細胞に局在するAGE受容体と結合して様々な疾患を引き起こすことが知られている。
【0004】
特に、タンパク質の糖化が病態の原因となるものに、糖尿病合併症、腎症、網膜症、神経障害、アルツハイマー病、動脈硬化症、悪性腫瘍、骨疾患、神経変性疾患等が知られている。また、皮膚の老化もタンパク質の糖化が原因の1つと考えられている。従って、タンパク質の糖化を阻害することはこれらの疾患や症状を予防・治療するのに有効であると考えられている。
【0005】
これまでにもタンパク質の糖化を阻害する物質に関して様々な研究が行われてきた。糖化阻害剤の代表例としては、アミノグアニジンが知られている。アミノグアニジンはそのヒドラジン基の窒素原子が糖のカルボニル基と反応して安定なヒドラゾンを形成することで、遊離又はタンパク質に結合したカルボニル基を捕捉し、タンパク質の糖化を阻害する。しかしながら、アミノグアニジンは、強力な糖化阻害効果を有する反面、臨床的にはビタミンB2を捕捉する等の副作用があり、生体への利用には至っていない(例えば非特許文献1)。この様な背景から、副作用の問題が少ない天然物由来の糖化阻害剤の開発が期待されている。
【0006】
また、タンパク質及び糖を含む飲食品においては、例えば、保存中に糖化反応により飲食品の褐変や沈殿等を生じるといった問題がある。これを防ぐためには、例えば、糖として糖アルコールを使用することなどが考えられるが、この方法では使用する原料が制限されるという問題があった。
【非特許文献1】AGEs研究の最前線,メディカルレビュー社:2004年5月20日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、植物由来の加工物を有効成分として含有する糖化阻害剤、該糖化阻害剤を含有する医薬組成物、化粧料組成物及び飲食品組成物を提供することを主な目的とする。また、本発明は、植物由来の加工物を配合することによる、飲食品中の糖化反応抑制方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の植物由来の加工物が優れた糖化阻害作用を有することを見出した。本発明は、この様な知見に基づいてさらに研究を重ねた結果完成されたものである。
【0009】
本発明は、以下の糖化阻害剤、医薬品組成物、化粧料組成物、飲食品組成物、及び飲食品中の糖化反応抑制方法を提供するものである。
項1.黒大豆種皮、マテ茶葉(緑)、リンデン花、ウラジロガシ葉、黒米種子、西洋ヤナギ樹皮・新芽、アイブライト地上部、ブラックコホシュ根、アグニ果実、アーティチョーク葉、ライチ種子、カツアバ樹皮、オート麦地上部、パッションフラワー葉、チャデブグレ葉、ソバ葉、マリアアザミのソウ果、明日葉の葉、デビルスクロー根、イペ樹皮、アガリクス菌糸体、パフィア根、アサイ果実、モズク全草及びフキ茎・葉からなる群より選択される少なくともいずれか1種の加工物を有効成分として含有する、糖化阻害剤。
項2.項1に記載の糖化阻害剤を、薬学的に許容される担体及び/又は添加剤と共に含有する医薬組成物。
項3.項1に記載の糖化阻害剤を含有する化粧料組成物。
項4.(a)糖
(b)アミノ酸、ペプチド、タンパク質及びそれらの塩からなる群より選択される少なくともいずれか1種を含む飲食品組成物であって、(b)成分1重量部に対して、項1に記載の糖化阻害剤を、加工物の乾燥重量換算で0.006重量部以上含有する飲食品組成物。
項5.黒大豆種皮、マテ茶葉(緑)、リンデン花、ウラジロガシ葉、黒米種子、西洋ヤナギ樹皮・新芽、アイブライト地上部、ブラックコホシュ根、アグニ果実、アーティチョーク葉、ライチ種子、カツアバ樹皮、オート麦地上部、パッションフラワー葉、チャデブグレ葉、ソバ葉、マリアアザミのソウ果、明日葉の葉、デビルスクロー根、イペ樹皮、アガリクス菌糸体、パフィア根、アサイ果実、モズク全草及びフキ茎・葉からなる群より選択される少なくともいずれか1種の加工物を配合することを特徴とする、飲食品中の糖化反応抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の糖化阻害剤は、アミノ酸やこれを構成成分とするペプチドもしくはタンパク質の糖化阻害作用に優れている。また、本発明の糖化阻害剤の有効成分は植物由来の加工物であり、従来から一般的に食されていることから、その安全性は確認されている。従って、アミノグアニジン等の従来の糖化阻害剤の使用で問題となっていた副作用を引き起こすこともなく、安全性に優れたものである。
【0011】
このような本発明の糖化阻害剤を含有する医薬組成物を投与することにより、体内での糖化反応を阻害することができ、例えば糖尿病合併症(例えば、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害等)、動脈硬化症、悪性腫瘍、骨疾患、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病等)等を予防/治療することができる。
【0012】
また、本発明の糖化阻害剤を含有する化粧料組成物を皮膚に適用することによって、皮膚におけるアミノ酸等の糖化を阻害し、皮膚の老化を防止することも期待できる。
【0013】
さらに、本発明の飲食品組成物は、前記糖化阻害剤を含有することにより、飲食品中における糖化反応が抑制されるため、例えば、糖として還元糖を用いた場合でも褐変や沈殿等を防ぐことができる。また、本発明の飲食品組成物は、日常的に容易に摂取することができることから、継続的に体内でのアミノ酸類の糖化が抑制され、より簡便に前記疾患を予防したり、症状を改善することもできる。
【0014】
加えて、本発明の食品中の糖化反応抑制方法によれば、飲食品組成物中のアミノ酸類の糖化を抑制することができ、その結果、飲食品の褐変や沈殿を防止し、品質を安定に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
糖化阻害剤
本発明において糖化阻害とは、アミノ酸やこれを構成成分とするペプチドもしくはタンパク質及びこれらの塩のアミノ基と糖のカルボニル基が結合し、これらの糖化産物が形成される反応を阻害することを指す。ここで、糖とは還元糖のことを指し、アルデヒド基、ケトン基等のカルボニル基(還元基)を有する糖を意味する。この様な糖としては、例えば、グルコース、フルクトース、キシロース、アラビノース等の単糖に分類される糖の全てと、マルトース、ラクトース等の二糖類などが挙げられる。また、本発明において、アミノ酸やこれを構成成分とするペプチドもしくはタンパク質及びこれらの塩を『アミノ酸類』と総称することがある。
【0016】
本発明は、植物由来の加工物を有効成分として含有する。以下、本発明の糖化阻害剤の各成分について説明する。
【0017】
(1)各種加工物
本発明の糖化阻害剤の有効成分として用いられる植物由来の加工物としては、下記表Aに示される植物の各部位の加工物が挙げられる。
【表A】

【0018】
上記植物の加工物を1種単独で本発明の糖化阻害剤の有効成分としてもよく、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0019】
これらのうち、本発明の糖化阻害剤の有効成分として、好ましくは黒大豆種皮、マテ茶葉(緑)、リンデン花、ウラジロガシ葉、黒米種子、西洋ヤナギ樹皮・新芽、アイブライト地上部、ブラックコホシュ根、アグニ果実、アーティチョーク葉、ライチ種子、カツアバ樹皮、オート麦地上部、パッションフラワー葉、ソバ葉及びチャデブグレ葉からなる群から選択されるいずれか1種の加工物であり、より好ましくは前記加工物が、黒大豆種皮、マテチャ葉(緑)、リンデン花、ウラジロガシ葉、ライチ種子及びブラックコホシュ根からなる群から選択されるいずれか1種の加工物である。
【0020】
本発明において植物の加工物とは、前記原料の各部位を、通常、乾燥後、その形態や目的とする剤型に応じて、粉砕処理、抽出処理、精製処理、濃縮処理、乾燥処理(スプレードライ処理、凍結乾燥処理を含む)等の種々の加工処理に供し、加工物として調製されたものを指す。本発明が対象とする加工物を、『植物の加工物』、『植物由来の加工物』又は『加工物』ということがある。
【0021】
本発明において加工物としては、例えば、粉砕加工物(粗紛状、細紛状のいずれでもよい)、各種溶媒で抽出された抽出物、その乾燥物(乾燥抽出物)、さらにこれを粉末にした粉末乾燥抽出物等を挙げることができる。
【0022】
本発明が対象とする加工物が粉砕加工物である場合、その調整方法は従来公知の方法に従えばよい。例えば、前記植物の各部位を恒温乾燥(恒温器等を用いた乾燥)、熱風乾燥、凍結乾燥等によって乾燥し、得られた乾燥物を粉砕器等に供し、粉砕加工物として調製することができる。
【0023】
また、本発明の加工物が抽出物である場合、その製造方法(抽出方法)及び抽出条件等は特に限定されず、従来公知の方法に従えばよい。上記植物の各部位(全草、花、果実、葉、枝、樹皮、根茎、種子等)をそのまま又は裁断、粉砕等したのち、搾取又は溶媒抽出によって抽出物を得ることができる。溶媒抽出の方法としては、当該技術分野において公知の方法を採用すればよく、例えば、水抽出、熱水抽出、温水抽出、アルコール抽出、超臨界抽出等の従来公知の抽出方法を利用することができる。
【0024】
溶媒抽出を行う場合、溶媒としては例えば水;メタノール、無水エタノール、エタノール等の低級アルコールや、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール等のアルコール類(無水、含水の別を問わない);アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステル等のエステル類、キシレン、ベンゼン、クロロホルム等が挙げられ、好ましくは水、エタノール等である。これらの溶媒を1種単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
得られた抽出物をそのままの状態で使用することもできるが、乾燥させて粉末状のものを用いてもよい。また、必要に応じて得られた抽出物に精製、濃縮処理等を施してもよい。精製処理としては、濾過又はイオン交換樹脂や活性炭カラム等を用いた吸着、脱色といった処理を行うことができる。また、濃縮処理としては、エバポレーター等の常法を利用できる。
【0026】
あるいは、得られた抽出物(又は精製処理物若しくは濃縮物)を凍結乾燥処理に供して粉末化する方法、デキストリン、コーンスターチ、アラビアゴム等の賦形剤を添加してスプレードライ処理により粉末化する方法等、従来公知の方法に従って粉末化し、本発明で用いる加工物としてもよい。また、該加工物を、必要に応じて純水、エタノール等に溶解して用いてもよい。
【0027】
簡便には、本発明で用いられる植物由来の加工物として、商業的に入手可能なものを用いてもよい。各加工物の販売元としては、例えば、上記表Aに示されるものが挙げられる。
【0028】
本発明の糖化阻害剤における前記加工物の配合量は、本発明の所期の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、加工物の乾燥重量換算で0.01〜100重量%程度、好ましくは0.05〜50重量%程度、より好ましくは0.1〜20重量%程度である。
【0029】
(2)その他の成分
上記有効成分を単独で使用することもできるが、上記成分以外に従来公知の賦形剤、香料、着色料、乳化剤、安定化剤、増粘剤、酵素、防腐剤、滑沢剤、界面活性剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、結合剤、吸収促進剤、吸着剤、保湿剤、可溶化剤、保存剤、風味剤、甘味剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて配合することができる。
【0030】
医薬組成物
本発明は、前記糖化阻害剤を、薬学的に許容される担体及び/又は添加剤と共に含有する医薬組成物をも提供するものである。
【0031】
本発明の医薬組成物は、経口又は非経口の別を問わず各種の製剤剤型に調製することができ、例えば、液剤(シロップ等を含む)等の液状製剤や、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤形態の経口製剤;液剤、点滴剤、注射剤、点眼剤等の液状製剤や、錠剤、丸剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤形態の非経口製剤が挙げられる。本発明の医薬組成物としては、経口製剤であることが好ましい。
【0032】
本発明の医薬組成物が液状製剤である場合は、凍結保存することもでき、また凍結乾燥等により水分を除去して保存してもよい。凍結乾燥製剤やドライシロップ等は、使用時に注射用蒸留水、滅菌水等を加え、再度溶解して使用される。
【0033】
例えば、本発明の医薬組成物が注射剤、点滴等として調製される場合、希釈剤として例えば水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を使用することができる。なお、この場合、体液と等張な溶液を調整するに充分な量の食塩、ブドウ糖あるいはグリセリンを本発明の医薬組成物中に含有させてもよい。また、当分野において一般的に使用されている溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。
【0034】
固形剤として本発明の医薬組成物を調製する場合、例えば、錠剤の場合であれば、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用することができる。このような担体としては、例えば乳糖、白糖、麦芽糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。さらに錠剤は、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0035】
また、丸剤の形態に調製する場合は、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0036】
上記以外に、添加剤として、例えば、界面活性剤、吸収促進剤、吸着剤、充填剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調節する塩を、得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択し使用することができる。また、他の活性成分(例えば、アスコルビン酸、ビタミンB6、ビタミンB1、ビタミンB2、ニコチン酸アミド等のビタミン類;塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩や、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩等の無機塩類)を含有させてもよい。さらに、他の薬効成分と組み合わせて用いてもよい。また、本発明の医薬組成物中には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等を配合し、調製することもできる。
【0037】
本発明の医薬組成物の投与量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、患者の年齢、体重、症状の程度等によって適宜設定され得るが、例えば、加工物の乾燥重量換算で大人一人あたり約4mg/kg/日以上、好ましくは4〜200mg/kg/日程度、より好ましくは16〜100mg/kg/日程度である。
【0038】
本発明の医薬組成物は、生体内において優れた糖化反応阻害作用を発揮し得ることから、生体内におけるアミノ酸類の糖化が原因とされている疾患の予防/治療を目的として使用することができる。このような疾患としては、例えば糖尿病合併症(例えば、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害等)、動脈硬化症、悪性腫瘍、骨疾患、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病等)等が挙げられる。
【0039】
化粧料組成物
本発明の糖化阻害剤は、香粧学上許容される従来公知の基剤又は担体と共に混合して化粧料組成物として調製することもできる。
【0040】
基剤又は担体としては、例えば、水等の水系基剤;ワセリン、スクワラン、パラフィン、流動パラフィン、白ロウ、プラスチベース、ポリエチレングリコール、マクロゴール等の油系基剤;エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピル、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、カラギーナン、ポリビニルブチラート、ヒドロキシプロピルセルロースフタレート、メタアクリル酸メチルコポリマー、メタアクリル酸ジエチルアミノエチルメタアクリル酸メチルコポリマー、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール等の高分子;セタノール、ステアリルアルコール等の高級アルコール;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン類等の多価アルコール等が挙げられる。
【0041】
上記基剤又は担体に加え、公知のpH調整剤、保存剤、界面活性剤、安定化剤、分散剤、防腐剤、着色剤、香料等を添加することができる。
【0042】
当該化粧料の形態については、特に制限されず、上記の基剤、担体等を用いて各種の形態に調製できるが、例えば、クレンジング剤、皮膚洗浄料、マッサージ剤、軟膏、クリーム、ローション、オイル、パック、洗顔料、化粧水、乳液、ゼリー等の基礎化粧料;ファンデーション、おしろい、口紅、頬紅、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、眉墨等のメークアップ化粧料等が挙げられる。
【0043】
上記の剤型に調製する際の調製方法は特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り、当該分野において公知の方法に従えばよい。
【0044】
本発明の化粧料組成物における糖化阻害剤の配合量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、加工物の乾燥重量換算で0.01〜99重量%程度、好ましくは0.05〜50重量%程度、より好ましくは0.1〜20重量%程度である。
【0045】
本発明の化粧料組成物の適用量は特に限定されず、各種加工物の配合量を参考に、適量を剤型に従って適用すればよい。本発明の化粧料組成物は、優れた糖化阻害作用を有することから、皮膚におけるアミノ酸類の糖化を阻害し、シワ、シミ、たるみの発生等といった皮膚の老化を防止することができる。また、皮膚の老化を防止することによって、結果として皮膚のツヤやハリを良くする効果が期待できる。
【0046】
飲食品組成物
さらに上記糖化阻害剤を食品として許容される担体や添加剤と共に、(a)糖と(b)アミノ酸、ペプチド、タンパク質及びそれらの塩からなる群より選択される少なくともいずれか1種を含む種々の飲食品形態に調製することができる。以下、成分(b)をアミノ酸類と総称することがある。
【0047】
本発明の飲食品の種類としては、特に限定されないが、例えば、飲料(乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、アルコール飲料、コーヒー飲料、スポーツ飲料粉末飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、ブレンド茶飲料等の茶飲料)、菓子類(チューイングガム、風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣粒状ガムを含む));マーブルチョコレート等のコーティングチョコレート、イチゴチョコレート、ブルベリーチョコレート等の風味を付加したチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、フィルム状キャンディー(可食性フィルム);ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子);パン類;スープ類(粉末スープ等を含む)等の各種飲食品;ドッグフード、キャットフード等の各種ペットフードが挙げられる。
【0048】
これらの飲食品の製造方法は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各用途で当業者によって使用されている方法に従えばよい。
【0049】
また、体内のアミノ酸類の糖化を抑制し、糖化によってひきおこされる疾患を予防又は改善することを目的とする健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、病者用食品等として本発明の飲食品組成物を調製することもできる。このような飲食品として本発明の飲食品組成物を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(ドリンク剤)等の形態で調製することが望ましく、なかでも錠剤の形態が好ましい。錠剤形態の本発明の飲食品組成物は、前記の薬学的に許容される担体を用いて、常法に従って適宜調製することができる。また、他の形態に調製する場合であっても、従来公知の方法に従えばよい。
【0050】
なお、特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む)、病者用食品は、例えば、糖尿病合併症(例えば、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害等)、動脈硬化症、悪性腫瘍、骨疾患、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病等)等の生体内におけるアミノ酸類の糖化によって引き起こされる疾患に対する該食品の機能・効果(体内でのアミノ酸類の糖化抑制効果)に関する記載を、その包装容器等に表示することが可能な食品である。
【0051】
本発明の飲食品組成物への本発明の糖化阻害剤の配合量としては、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、加工物の乾燥重量換算で0.01〜99重量%程度、好ましくは0.05〜50重量%程度、より好ましくは0.1〜20重量%程度である。
【0052】
本発明の飲食品組成物において、アミノ酸類を1重量部とした場合、加工物の乾燥重量換算で約0.006重量部以上、好ましくは0.006〜1000重量部程度、より好ましくは0.1〜100重量部程度である。
【0053】
本発明の飲食品組成物は、上記有効成分によって該飲食品組成物中における糖化反応が抑制され、褐変、沈殿等が生じない品質安定性の高いものである。
【0054】
また、本発明の飲食品組成物を日常的に摂取することによって、生体内でのアミノ酸類の糖化に起因する前記疾患の予防効果又は症状の改善が期待できる。
【0055】
糖化阻害方法
本発明は、前記植物の加工物を配合することによる、糖とアミノ酸類を含有する飲食品における糖化阻害方法をも提供するものである。
【0056】
植物の加工物については、前記糖化阻害剤(1)の欄に記載の通りである。また、加工物の配合量については、各種飲食品の形態に基づいて適宜設定され得るが、例えば、加工物の乾燥重量換算で0.01〜99重量%程度、好ましくは0.05〜50重量%程度、より好ましくは0.1〜20重量%程度である。
【0057】
本発明の糖化阻害方法における加工物の配合量は、アミノ酸類を1重量部とした場合、加工物の乾燥重量換算で約0.006重量部以上、好ましくは0.006〜1000重量部程度、より好ましくは0.1〜100重量部程度である。
【0058】
本発明の糖化阻害方法によれば、飲食品組成物中のアミノ酸類の糖化を抑制することができ、飲食品の褐変、沈殿等を防止することによって品質を安定に保つことが可能である。
【実施例】
【0059】
以下、試験例等を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0060】
1.糖化阻害試験I
「BSA−グルコース試験系」
下記表1に示される植物由来の加工物を、5mg/mLとなるように純水に溶解し、超音波(5分間)にかけた後、遠心分離を行った(3000rpm、室温、5分間)。その後、上清を回収し、試料溶液とした。
【0061】
1Mグルコース(D(+)-Glucose;和光純薬工業株式会社製)/PBS(和光純薬工業株式会社製)100μL、25mg/mL牛血清アルブミン(BSA:SIGMA社製)/0.02%アジ化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)/PBS80μL、及び試料溶液20μLを混合し、蛍光(励起360nm,蛍光465nm)で測定した。これを反応前の値とした。試料溶液中、植物由来の加工物の最終濃度は500μg/ml、167μg/ml及び56μg/mlである。なお、蛍光測定には、蛍光測定器GENios(TECAN)を用いた。
【0062】
前記で得られた混合溶液を、60℃、24時間反応後、グルコースにより糖化を受けた糖化BSAを蛍光(励起360nm, 蛍光465nm)で測定した。これを反応後の値とした。
【0063】
陰性対照には試料の代わりに純水を用い、上記と同様の方法に従って反応前後の蛍光を測定した。
【0064】
また、陽性対照としてアミノグアニジン(500μg/ml、167μg/ml及び56μg/ml:東京化成株式会社)を用い、同様の方法に従って反応前後の蛍光を測定した。
【0065】
得られた値から、下記式に従って糖化阻害率を算出した。
[糖化阻害率算出式]
糖化阻害率(%)={1-(反応後の試料-反応前の試料)/(反応後の陰性対照-反応前の陰性対照)}×100
各試料溶液による糖化阻害率を下記表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
2.糖化阻害試験II
「BSA−フルクトース試験系」
1Mグルコースの代わりに1Mフルクトース(D(-)-Fructose;和光純薬工業株式会社製)を使用する以外は、前記糖化阻害試験Iと同様の方法に従って、フルクトースを用いた場合の糖化阻害率を算出した。
【0068】
各試料溶液による糖化阻害率を下記表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
3.糖化阻害試験III
「アルギニン−グルコース試験系」
表3に示される植物由来の加工物を、5mg/mLとなるように純水に溶解し、超音波(5分間)にかけた後、遠心分離を行った(3000rpm、室温、5分間)。その後、上清を回収し、試料溶液とした。
【0071】
1Mグルコース(D(+)-Glucose;和光純薬工業株式会社製)/PBS(和光純薬工業株式会社製)100μL、25mg/mL L−アルギニン(協和発酵工業株式会社製)/0.02%アジ化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)/PBS80μL、及び試料溶液20μLを混合し、蛍光(励起360nm,蛍光465nm)で測定した。これを反応前の値とした。試料溶液中、植物由来の加工物の最終濃度は500μg/ml、167μg/ml及び56μg/mlである。なお、蛍光測定には、蛍光測定器GENios(TECAN)を用いた。
【0072】
前記で得られた混合溶液を、60℃、12時間反応後、グルコースにより糖化を受けた糖化アルギニンを蛍光(励起360nm, 蛍光465nm)で測定した。これを反応後の値とした。
【0073】
陰性対照には試料の代わりに純水を用い、糖化阻害試験Iと同様の方法に従って反応前後の蛍光を測定した。
【0074】
また、陽性対照としてアミノグアニジン(500μg/ml、167μg/ml及び56μg/ml)を用い、同様の方法に従って反応前後の蛍光を測定した。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
なお、上記表1〜3中マリアアザミのソウ果抽出物とはシリマリン含有抽出物であり、モズクの全草抽出物とはフコイダン含有抽出物である。
【0077】
上記表1〜3に示される結果より、各植物由来の加工物が糖化阻害作用を有することが示された。中でも、黒大豆種皮、マテ茶葉(緑)、リンデン花、ウラジロガシ葉、黒米種子、西洋ヤナギ樹皮・新芽、アイブライト地上部、ブラックコホシュ根、アグニ果実、アーティチョーク葉、ライチ種子、カツアバ樹皮、オート麦地上部、パッションフラワー葉、ソバ葉及びチャデブグレ葉500μg/mlは、アミノグアニジン167μg/mlよりも優れた糖化阻害作用を示した。特に、黒大豆種皮、マテ茶(緑)葉、リンデン花、ウラジロガシ葉、ライチ種子、ブラックコホシュ根500μg/mlは、アミノグアニジン500μg/mlよりも優れた糖化阻害作用を示した。
【0078】
以下に処方例を示す。
[医薬品組成物の処方例]
処方例1.トローチ 質量%
リンデン花抽出物 1.0
マルチトール 21.0
アラビアガム 1.5
ショ糖脂肪酸エステル 2.5
クエン酸 3.0
粉末香料 1.0
キシリトール 残部
合計 100
【0079】
[飲食品組成物の処方例]
処方例2.タブレット 質量%
黒大豆種皮抽出物 77.9
結晶セルロース 5.1
デンプン 9.0
トウモロコシタンパク質 0.1
ショ糖脂肪酸エステル 5.0
麦芽糖 2.9
合計 100
【0080】
処方例3.飲料 質量%
ブドウ糖液糖 35.0
グレープフルーツ果汁 50.0
果糖 4.0
アルギニン 1.0
ウラジロガシ葉抽出物 3.0
香料 適量
酸味料 適量
合計 100
【0081】
[化粧料組成物]
処方例4.化粧水 質量%
西洋ヤナギ樹皮抽出物 5.0
グリセリン 5.0
1,3-ブチレングリコール 5.0
モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン 1.0
エタノール 15.0
抗菌・防腐剤 適量
香料 適量
精製水 残部
合計 100
【0082】
前記植物由来の加工物のいずれを用いた場合でも、上記処方例1〜4と同様の処方により各種組成物を調製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒大豆種皮、マテ茶葉(緑)、リンデン花、ウラジロガシ葉、黒米種子、西洋ヤナギ樹皮・新芽、アイブライト地上部、ブラックコホシュ根、アグニ果実、アーティチョーク葉、ライチ種子、カツアバ樹皮、オート麦地上部、パッションフラワー葉、チャデブグレ葉、ソバ葉、マリアアザミのソウ果、明日葉の葉、デビルスクロー根、イペ樹皮、アガリクス菌糸体、パフィア根、アサイ果実、モズク全草及びフキ茎・葉からなる群より選択される少なくともいずれか1種の加工物を有効成分として含有する、糖化阻害剤。
【請求項2】
請求項1に記載の糖化阻害剤を、薬学的に許容される担体及び/又は添加剤と共に含有する医薬組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の糖化阻害剤を含有する化粧料組成物。
【請求項4】
(a)糖
(b)アミノ酸、ペプチド、タンパク質及びそれらの塩からなる群より選択される少なくともいずれか1種
を含む飲食品組成物であって、(b)成分1重量部に対して、請求項1に記載の糖化阻害剤を、加工物の乾燥重量換算で0.006重量部以上含有する飲食品組成物。
【請求項5】
黒大豆種皮、マテ茶葉(緑)、リンデン花、ウラジロガシ葉、黒米種子、西洋ヤナギ樹皮・新芽、アイブライト地上部、ブラックコホシュ根、アグニ果実、アーティチョーク葉、ライチ種子、カツアバ樹皮、オート麦地上部、パッションフラワー葉、チャデブグレ葉、ソバ葉、マリアアザミのソウ果、明日葉の葉、デビルスクロー根、イペ樹皮、アガリクス菌糸体、パフィア根、アサイ果実、モズク全草及びフキ茎・葉からなる群より選択される少なくともいずれか1種の加工物を配合することを特徴とする、飲食品中の糖化反応抑制方法。

【公開番号】特開2008−88102(P2008−88102A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270137(P2006−270137)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】