説明

糖尿病および心血管疾患の治療のためのプロテインキナーゼCαの抑制

本発明は、特に、糖尿病および合併症、例えば糖尿病性腎症、網膜症またはニューロパシーに罹患している患者を治療するための、プロテインキナーゼC−α(PKC−α)の発現および/または活性を妨げる作用物質の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冠動脈心疾患、心筋梗塞、末梢血管閉塞症、脳卒中、タンパク尿症を伴う腎疾患、糖尿病患者における糖尿病後遺症および/または心血管合併症、高血圧症患者における心血管合併症、および高コレステロール血症患者における心血管合併症の治療および/または予防のための、プロテインキナーゼC−α(PKC−α)の発現および/活性を低減または抑制する作用物質の使用に関する。
【0002】
糖尿病は、西側世界で最もよくある疾患の一つであり、人口の約5%が罹患している。糖尿病は、通常若年者において既に発生するI型糖尿病と、成人発症型糖尿病または成人型糖尿病とも呼ばれるII型糖尿病にさらに分けられる。グルコース代謝の障害のために、どちらの糖尿病型でも血糖値の永久的な増加が起こり、その結果、罹患患者において数年後に様々な合併症が起こる。最もよく起こり、それと同時に最も怖い合併症は、結果として失明をもたらす糖尿病性網膜症、下肢切断に至る糖尿病性ニューロパシー、および糖尿病性腎症である。
【0003】
糖尿病性腎症は、すべての糖尿病患者の約40%で発症し、世界的に慢性腎不全および透析治療の最もよくある原因である。すべての新たな透析患者の約30〜40%は糖尿病性腎症を示す。糖尿病性腎障害はゆっくりと発症することから、腎不全を発症するリスクの高い患者を早期に同定することは、適切な治療段階を開始するのに臨床的に極めて重要である。腎障害が始まる最初の臨床的徴候の一つは、いわゆるミクロアルブミン尿の出現である。これは、24時間採取した尿中にアルブミン30〜300mgの排泄を伴う。通常、1日に排泄されるアルブミンは30mg未満である。現在の治療条件の下では、ミクロアルブミン尿は、I型糖尿病またはII型糖尿病の糖尿病患者の約25%で発症するだろう(アルザイド(Alzaid),Diabetes Care,19:(1996),79−89;クレイン(Klein)ら,Diabetes Care,22(1999),743−751;Valjnadridら,Arch.Intern.Med.,160(2000),1093−1100)。腎不全が発生するリスクは、アルブミン排泄が正常な患者と比較して、アルブミン尿症の患者では約10倍高い。300mg/日を超えるタンパク尿症および/または制限された腎機能によって特徴付けられる糖尿病性腎症は、1年につき糖尿病およびミクロアルブミン尿症患者すべての約5〜10%で発症するだろう。糖尿病性網膜症を発症するリスクもまた、ミクロアルブミン尿症ではない糖尿病患者と比較して、ミクロアルブミン尿症に罹患している糖尿病患者で著しく増加する(ビグストラップ(Vigstrup)およびモーエセン(Mogensen),Acta Ophthalmol.(Copenh),63(1985),530−534)。
【0004】
10年を超える経過観察での長期間の研究で示されているように、コレステロールおよび高血圧などの通常の危険因子を補正した後でも、心血管疾患死亡率は、ミクロアルブミン尿症に罹患していない糖尿病患者と比較して、既にミクロアルブミン尿期のII型およびI型糖尿病患者で約2倍に増加する(ロシング(Rossing)ら,Bmj,313(1996),779−784;ガーシュタイン(Gerstein)ら,Diabetes Care,23(2000),Suppl.2:B35−39;ヴァルマドリッド(Valmadrid)ら,2000)。増加した心血管死亡率は、糖尿病に罹患していないミクロアルブミン尿症の患者においても検出することができる(ガーシュタイン(Gerstein)ら,Jama,286(2001),421−426)。
【0005】
なぜミクロアルブミン尿症が糖尿病の患者における合併症の発症の非常に重要なマーカーであるのか様々な仮説がある。いわゆる「狭窄仮説(steno hypothesis)」(デッカート(Deckert),Feldt−Rasmussenら,Diabetologia,32(1989),219−226)によれば、細胞外マトリックスにおける負に帯電した分子、つまり陰イオン分子の減少は、ミクロアルブミン尿症、糖尿病性網膜症および心血管合併症、例えば冠動脈心疾患の形成の原因である。この仮説は、ヒトおよび動物モデル系の両方で得られたデータによって支持されており、かつ近年、他の作業グループにより得られた結果によって確認されている。
【0006】
腎臓において、尿は、腎小体、いわゆる糸球体において分泌される。タンパク質、例えばアルブミンの通過を防ぐために、血液側は、基底膜と呼ばれる膜によって尿側から分離されている。基底膜は、小さな分子が基底膜を通り抜けるのを可能にする小さな孔を有し、タンパク質分子はそのサイズのために膜を通過することができない。それにもかかわらず、ミクロアルブミン尿症の患者では、孔径は最初は増大しないが、アルブミンなどの小さなタンパク質の通過が起こる。この現象を説明するために、負に帯電したタンパク質を反発する負電荷を有する分子が孔中に、または孔の端に存在することを示すことができた(Kverneland,Feldt−Rasmussenら,Diabetologia,29(1986),634−639;デッカート(Deckert),Feldt−Rasmussenら,Kidney Int.,33(1988),100−106;Kverneland,Welinderら,Diabetologia,31(1988),708−710)。負電荷を有するこれらの分子はプロテオグリカンである。プロテオグリカンは、多糖鎖がそれに共有結合しているタンパク質からなる複合高分子である。多糖鎖は主に、ヘパラン硫酸からなり、高い負電荷を有する。体内でもっともよく発生するプロテオグリカンはパールカンである。パールカンは、460kDのタンパク質であり、いくつかの多糖側鎖を有する(マードック(Murdoch)およびイオッゾ(Iozzo),Virchows Arch.A.Pathol.Anat.Histopathol.,423(1993),237−242;イオッゾ(Iozzo),コーヘン(Cohen)ら,Biochem.J.,302(1994),625−639;マードック(Murdoch),リュウ(Liu)ら,J.Histochem.Cytochem.,42(1994),239−249)。糖尿病およびミクロアルブミン尿症の患者では、ヘパラン硫酸は、糸球体基底膜にほとんど存在しない。進行した糖尿病性腎症の患者においても、タンパク質鎖がまだ存在していたとしても、ヘパラン硫酸を基底膜でもはや検出することはできない。この影響は、ヘパラン硫酸合成が、糖尿病患者で生じる高血糖性条件下で減少するという事実によって説明される(パルタサラティ(Parthasarathy)およびスピロ(Spiro),Diagetes,31(1982),738−741;デッカート(Deckert),Feldt−Rasmussenら,1988;ナカムラおよびマイヤーズ(Myers),Diagetes,37(1988),1202−1211;ネルリッチ(Nerlich)およびシュライヒャー(Schleicher),Am.J.Pathol.,139(1991),889−899;マキノ,イケダら,Nephron,61(1992),415−421;スキャンドリング(Scandling)およびマイヤーズ(Myers),Kidney Int.,41(1992),840−846;ベルニエ(Vernier),ステッフェス(Steffes)ら,Kidney Int.,41(1992),1070−1080;Tamsma,van den Bornら,Diabetologia,37(1994),313−320;イオッゾ(lozzo)およびサン・アントニオム(San Antoniom),J.Clin.Invest.,108(2001),349−355)。さらに、ヘパラン硫酸プロテオグリカンが、それらの負電荷によってアルブミンの糸球体濾過を妨げるだけでなく、おそらく基底膜内の孔径の完全性も担っているということが示された(デッカート(Deckert),Kofoed−Enevoldsenら,Diabetologia,36(1993),244−251)。このように、腎不全が進行するにつれて、ヘパラン硫酸プロテオグリカンが減少した結果、基底膜の微細構造が破壊される。これらの変化によって、免疫グロブリンなどの大きなタンパク質の減少を伴う、非選択的な巨大分子タンパク尿症が、なぜ糖尿病性腎症の過程で発症するのかを説明することができる。ヘパラン硫酸プロテオグリカンは、腎小体におけるメサンギウムの増殖の強い阻害剤でもある。メサンギウム結合組織の増殖は古典的に、糖尿病患者で起こることから、これは非常に興味深い。したがって、糖尿病患者におけるヘパラン硫酸プロテオグリカンの減少は、メサンギウムの増殖の重要な原因として告発されることは驚くべきことではない。
【0007】
しかしながら、糖尿病患者におけるヘパラン硫酸の減少は、腎臓だけでなく、ほとんどすべての他の臓器においても起こる。このように、網膜、骨格筋、動脈壁、皮膚の結合組織中の、ならびに赤血球上でヘパラン硫酸が明らかに減少する。内皮細胞もまた、ヘパラン硫酸合成の減少を示す(ヨコヤマ,ホイヤー(Hoyer),ら,Diagetes,46(1997),1875−1880;van der Pijl,ダハ(Daha)ら,Diabetologia,41(1998),791−798)。ヘパラン硫酸プロテオグリカンは重要な抗血栓性を有することから、ヘパラン硫酸プロテオグリカンの減少は、例えば網膜血管における微小血栓の形成の原因となり、したがって糖尿病性網膜症の発生を促進する(マーカム(Marcum),フリッツェ(Fritze)ら,Am.J.Physiol.,245(1983),H275−33;マーカム(Marcum),マッケニー(McKenney)ら,J.Clin.Invest.,74(1984),341−350;マーカム(Marcum)およびローゼンバーグ(Rosenberg),Biochemistry,23(1984),1730−1737;マーカム(Marcum),Athaら,J.Biol.Chem.,261(1986),7507−7517)。ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)の更なる重要な抗アテローム硬化機能としては、その結果として動脈血管病変の形成が起こる、血管平滑筋細胞増殖のHSPGによる抑制が挙げられる。HSPGはさらに、内皮下結合組織への単球(炎症細胞)の結合を抑制する。HSPGは、アテローム性動脈硬化症の発症において重要な役割を担う、リポタンパク質aおよび酸化LDLの内皮下結合および沈着も抑制する。HSPGは、血管形成、つまり損傷した体の領域における新たな血管の形成においても重要な制御因子である(ローゼンバーグ(Rosenberg),Shworakら,J.Clin.Invest.,100(1997),p.67−75;Pillarisetti,Trens Cardiovasc.Med.,10(2000),60−65;Iozzo and San Antonio,2001)。したがって、ヘパラン硫酸プロテオグリカンの減少は、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症の発症だけでなく、心血管合併症の発症にも重要である。
【0008】
更なる態様は、ミクロアルブミン尿症が、高血圧症の患者に発症するという事実である。現在まで、この現象は、アルブミンが増加的に分泌されると想定して、腎小体における圧力の増加によって説明されてきた。しかしながら、これが事実だとしたら、常に動脈圧が高い患者は、ミクロアルブミン尿を示しているかどうかにかかわらず、高い心血管リスクも有すると考えなければならない。しかしながら、いくつかの前向きな研究で示されているように、これはそうではない。ミクロアルブミン尿症の高血圧患者は、他の比較可能なリスクプロファイル、例えば高コレステロール血症、喫煙歴および糖尿病を有する同様な高血圧患者の約2倍高い、心血管罹患率および心血管死亡率を示す(スレイト(Sleight),J.Renin Angiotensin Aldosterone Syst.,1(2000),18−20;クリッパ(Crippa),J.Hum.Hypertens.,16(Suppl.1)(2002),p.74−7;Diercks,ヴァン・ボヴェン(van Boven)ら,Can.J.Cardiol.,18(2002),525−535)。したがって、ミクロアルブミン尿症は、心血管疾患の発症および予後の独立的なリスクパラメーターである。これは、脈管系全体における変化がミクロアルブミン尿症の患者で起こるという事実によってのみ説明することができる。しかしながら、現在まで、高血圧症の患者における疾患がミクロアルブミン尿症の根本であるということは不確かであった。
【0009】
本発明の目的は、糖尿病、特に糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症および糖尿病性ニューロパシー、および心血管合併症ならびに高血圧症に関連する心血管合併症に伴う後遺症(late effect)を治療および/または予防するために、特に糖尿病の患者および高血圧症の患者におけるミクロアルブミン尿症の治療に用いることができる作用物質を提供することである。
【0010】
本発明は、血管疾患、心血管疾患、タンパク尿症を伴う腎疾患、糖尿病患者における糖尿病の後遺症および/または心血管合併症、高血圧症患者における心血管合併症、および/または高コレステロール血症患者における心血管合併症を治療および/または予防するために、プロテインキナーゼC−α(PKC−α)の発現および/または活性を低減または抑制する作用物質を使用することによって、この目的を達成する。
【0011】
従来技術では、プロテインキナーゼCのβ2アイソフォームが糖尿病性合併症の発症の原因であると、現在まで考えられている。一方、β2アイソフォームは、糖尿病の動物の組織において増加したレベルで産生され(イノグチら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89(1992),11059−11063)、他方では、プロテインキナーゼC−β特異的な阻害剤LY333531によって、I型およびII型糖尿病のげっ歯類における低減された腎障害のサインとして、タンパク尿症が減少する(イシイら,J.Mol.Med.,76(1998),21−31;コヤ(Koya)ら,Faseb J.,14(2000),439−447)。
【0012】
プロテインキナーゼC−αを形成することができない、本発明に従って作製されたプロテインキナーゼC−α「ノックアウト」マウスは驚くべきことに、ストレプトゾトシンによって糖尿病を誘発した後にミクロアルブミン尿症を発症しなかった。対照的に、プロテインキナーゼC−αの発現の変化を除いて、遺伝的に実質的に同一である対照動物は、明らかなミクロアルブミン尿症を発症した。本発明に従って、「ノックアウト」動物をさらに検査した結果、驚くべきことに、その動物は、糖尿病条件下にて正常なレベルでヘパラン硫酸を形成することができることが完全に示された。対照的に、対照動物は、糖尿病条件下にて、もはやヘパラン硫酸を形成することがほとんどできなかった。
【0013】
本発明に従って実施した組織学的検査の結果、プロテインキナーゼC−α「ノックアウト」マウスにおいて更なる著しい変化が生じた。本発明に従って、免疫組織化学的方法を用いて、プロテインキナーゼC−αの欠乏によって、VEGF(血管内皮成長因子)および関連受容体(VEGF−R II)の発現に更なる有意な差が生じることを示すことができた。糖尿病対照動物において、VEGFおよびVEGF−R II受容体の発現量の有意な増加が検出されたのに対して、プロテインキナーゼC−α「ノックアウト」動物にでは、VEGFおよびVEGF−R II受容体の発現量の有意に低い増加が証明された。VEGF発現の増加は糖尿病性網膜症の発症の最も重要なメディエーターの一つとみなされることから、この結果は非常に重要である(アイエロ(Aiello)およびウォン(Wong),Kidney Int.Suppl.,77(2000),p.113−9;Benjamin,Am.J.Pathol.,158(2001),1181−1184)。
【0014】
本発明による結果から、プロテインキナーゼC−αは、ヘパラン硫酸プロテオグリカン形成の調節およびタンパク尿症の出現において主要な役割を果たすことが分かる。本発明による結果から、プロテインキナーゼC−αは、プロテインキナーゼC−βと比較して、タンパク尿症の出現において極めて重要な役割を果たすが、プロテインキナーゼC−βは明らかに、プロテインキナーゼC−αの機能の少なくとも一部を引き継ぐことができることも示されている。本発明による結果からさらに、プロテインキナーゼC−αアイソフォームの抑制は選択的に、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症および/または心血管合併症などの糖尿病の後遺症の発症、およびタンパク尿症を伴う疾患の発症の両方からの保護を提供することが示されている。
【0015】
このように、本発明に従って、血管疾患、心血管疾患、タンパク尿症を伴う腎疾患、糖尿病患者における糖尿病後遺症および/または心血管合併症、高血圧症患者における心血管合併症および/または高コレステロール血症患者における心血管合併症を治療および/または予防するための、プロテインキナーゼC−α(PKC−α)の発現および/または活性を低減または抑制する作用物質の使用が提供される。
【0016】
本発明のコンテクストにおいて、「疾患」とは、自覚的に感じられる、または客観的に検出可能な物理的、心的なまたは精神的変化を生じる、臓器または生物全体における生体プロセス(vital process)の障害を意味する。「合併症」または「後遺症」とは、結果として起こる疾患または二次疾患、つまり最初の臨床像に加えて生じる2番目の疾患を意味する。
【0017】
本発明に従って、治療すべき疾患は、特に血管疾患、心血管疾患、タンパク尿症を伴う腎疾患、後遺症を伴う糖尿病および後遺症を伴わない糖尿病、および/または心血管合併症を伴う高血圧症および心血管合併症を伴わない高血圧症、および/または血管合併症を伴う高コレステロール血症および心血管合併症を伴わない高コレステロール血症である。
【0018】
本発明のコンテクストにおいて、「血管疾患」とは、特に、機能性または器質性循環障害を引き起こし得る動脈の疾患を意味する。本発明の好ましい実施形態では、血管疾患は、末梢動脈閉塞症である。「動脈閉塞症」とは、動脈における狭窄または閉塞の変化によって起こり、その結果、供給に依存する組織または器官に虚血を伴う循環障害が生じる疾患を意味する。特に糖尿病は、とりわけ閉塞性アテローム性動脈硬化症および血管障害および血管性神経症によって引き起こされる慢性閉塞症の原因となる。
【0019】
「心血管疾患」とは、心臓および循環の機能、例えば、循環系の充満状態および緊張、心臓の拍出能、心臓と循環との間の神経性および体液性カップリングメカニズム(coupling mechanism)等に影響を及ぼす疾患および障害を意味する。本発明の好ましい実施形態において、心血管疾患は、冠動脈心疾患、心筋梗塞および脳卒中である。
【0020】
「冠動脈心疾患」とは、冠血管の狭窄または閉塞によって、循環の低下が生じ、そのため心筋へのエネルギー送達基質および酸素の供給が低下する、原発性冠不全の臨床症状を意味する。
【0021】
「心筋梗塞」とは、主に慢性冠動脈心疾患における合併症として急性的に起こる心筋の限局領域の壊死を意味する。心筋梗塞の原因は、特に既存の偏心性冠状動脈狭窄の領域での、冠不全および拡大した冠攣縮における継続的な重大な循環不全である。心筋梗塞は、心筋の酸素要求量の増加の結果としての身体的または心的ストレスで、または血液供給の急な遮断によって現れる場合が多い。
【0022】
「脳卒中」または「卒中」とは、脳の動脈循環障害の結果としての虚血性脳梗塞を意味する。脳卒中は、頻度は高くないが狭窄または大脳微小血管障害の結果として、頭蓋外血管におけるアテローム硬化性の変化から生じる塞栓、または心臓からの塞栓によって起こる。
【0023】
本発明のコンテクストにおいて、「タンパク尿症を伴う腎疾患」とは、特に、尿中にタンパク質が存在することによって特徴付けられる腎実質性疾患を意味する。タンパク尿症は、糸球体性タンパク尿症、尿細管性タンパク尿症または混合糸球体尿細管タンパク尿症であり得る。アルブミンおよびトランスフェリンの独占的な腎排泄は、例えば微少変化型腎症で生じる選択的なタンパク尿症を特徴付ける。非選択的タンパク尿症において、IgGもまた尿中に検出することがある。タンパク尿症のこの形態は、例えば腎アミロイドーシスに見られるが、糖尿病性腎症の進行した状態においても見られる。尿細管性タンパク尿症は、再吸収プロセスに影響を及ぼし、その結果低分子量タンパク質が排泄される、尿細管間質性疾患に基づく。臨床的に、尿細管性タンパク尿症は、特に近位尿細管の他の欠陥と関連している場合に重要である。尿細管性タンパク尿症は、とりわけ、遺伝性細尿管症、尿細管性アシドーシス、細菌もしくは薬物により誘発される間質性腎炎、急性腎不全、重金属中毒、ベンス・ジョーンズネフロパシーなどの疾患において、および腎臓移植の手術後段階において起こる。混合糸球体尿細管タンパク尿症は、顕著な二次的間質性変化を有する原発性糸球体疾患に基づく場合が多い。
【0024】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、タンパク尿症を伴う腎疾患は、特に微少変化ネフロパシー、他の糸球体症、腎アミロイドーシス、遺伝性細尿管症、尿細管性アシドーシス、細菌もしくは薬物により誘発される間質性腎炎、急性腎不全、ベンス・ジョーンズネフロパシーおよび腎臓移植の手術後段階である。
【0025】
本発明のコンテクストにおいて、「糖尿病」とは、異なる原因および症状を有する様々な形態の糖代謝異常を意味する。一般的な特徴は、相対的または絶対的なインスリン欠乏である。糖尿病疾患は、血糖値の永久的な増加(高血糖)によって、または供給されたグルコースの時機を逸した利用によって特徴付けられる。糖尿病は、I型(インスリン依存性;IDDM)糖尿病およびII型(非インスリン依存性;NIDDM)糖尿病にさらに分けられる。
【0026】
糖尿病特異的な、および糖尿病に関連する慢性合併症としては、微小血管障害、例えば網膜症、ネフロパシーおよびニューロパシー、多発ニューロパシー、糖尿病足病変、骨格、支持組織および結合組織の障害ならびに大血管障害、特に冠動脈心疾患、脳循環障害および末梢動脈閉塞症が挙げられる。
【0027】
「糖尿病性網膜症」とは、糖尿病で生じる眼底の微小血管障害を意味する。糖尿病性網膜症の形態は、非増殖性網膜症(背景網膜症)、例えば網膜出血、微細動脈瘤、硬性白斑、視力の低下をもたらす網膜浮腫、ならびに血管閉塞からの網膜虚血のために硝子体出血と共に、網膜上または網膜中に綿花様白斑および新脈管形成がさらに生じる、増殖性網膜症である。増殖性網膜症から、牽引性網膜剥離、血管新生緑内障および失明に至る場合がある。
【0028】
本発明のコンテクストにおいて、糖尿病性糸球体硬化症とも呼ばれる「糖尿病性腎症」とは、腎糸球体係蹄への損傷を意味する。臨床的に、糖尿病性腎症は、タンパク尿症、高血圧症、浮腫、基底膜のびまん性拡大(diffuse widening)、血管腔の狭窄を伴う糸球体係蹄における糸球体間質肥大および後の結節性腫脹、ならびに係蹄壁におけるフィブリノイド沈着および微細動脈瘤によって明らかになる。
【0029】
本発明のコンテクストにおいて、「糖尿病性ニューロパシー」とは、末梢神経の疾患を意味する。特に、それは、対称性遠位性ポリニューロパシーおよび自律性ニューロパシーを意味する。末梢神経障害は通常、下肢で現れ、足で始まり、基部へ進み、しばしば腕も冒す。その症状は著しく異なり、痛み、しびれおよび感覚異常などの愁訴の結果、増悪する。
【0030】
本発明に従って、「糖尿病における心血管合併症」とは、心血管および血管疾患、特に末梢性閉塞症、冠動脈心疾患、心筋梗塞および脳卒中を意味し、それらは糖尿病の結果として起こる。
【0031】
本発明のコンテクストにおいて、「高血圧症」とは、収縮期血圧140mmHgを超える値および拡張期血圧90mmHgを超える値に血圧が永久的に増加することによって特徴付けられる高血圧または昇圧性心疾患を意味する。本発明に従って、「高血圧症に関連する心血管合併症」とは、心血管および血管疾患、特に梢性閉塞症、冠動脈心疾患、心筋梗塞および脳卒中を意味し、それらは高血圧症の結果として起こる。
【0032】
本発明のコンテクストにおいて、「高コレステロール血症」とは、血中のコレステロールレベルの増加を意味し、高コレステロール血症は、糖尿病の結果として一次的または二次的に起こり得る。高コレステロール血症は、アテローム性動脈硬化症の危険因子である。本発明に従って、「高コレステロール血症に関連する心血管合併症」とは、心血管および血管疾患、特に梢性閉塞症、冠動脈心疾患、心筋梗塞および脳卒中を意味し、それらは高コレステロール血症の結果として起こる。
【0033】
本発明のコンテクストにおいて、「プロテインキナーゼC」、即ち「PKC」とは、シグナル伝達において必須の役割を果たすタンパク質のファミリー、基質のリン酸化によって細胞内調節機能を果たすPKCタンパク質、例えば酵素、転写因子および/または細胞骨格タンパク質を意味する。例えば、PKCタンパク質が活性化された結果、PKCタンパク質の基質である、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)を含む更なるタンパク質キナーゼが活性化される。プロテインキナーゼCタンパク質は、主要なホルボールエステル受容体である。タンパク質のプロテインキナーゼCは、3つの異なるサブファミリーにさらに分けられる、哺乳動物細胞における少なくとも12種類のアイソフォームを含む。いわゆる従来のプロテインキナーゼCアイソフォーム(cPKC)は、アイソフォームPKC−α、PKC−βIおよびそのスプライスバリアントβIIならびにPKC−γを含む。いわゆる新規なプロテインキナーゼアイソフォーム(nPKC)は、アイソフォームPKC−δ、PKC−ε、PKC−ηおよびPKC−θを含む。いわゆる異型(atypical)プロテインキナーゼCアイソフォーム(aPKC)は、アイソフォームPKC−ζおよびPKC−λ(PKC−ιとしても知られる)を含む。更なるアイソフォームは、異なるサブファミリーである、PKC−μ(プロテインキナーゼDとも呼ばれる)およびPKC関連キナーゼ(PRK)である(トケル(Toker),Frontiers in Biosciences,3(1998),d1134−1147)。PKCアイソフォームは、それらのアミノ酸配列およびアミノ酸配列をコードする核酸配列の両方において区別される(コウセンズ(Coussens)ら,Sciences,233(1986),859−866)。PKCタンパク質はすべて、ドメイン構造を有する。それらの細胞発現パターン、それらの活性化メカニズムおよびそれらの基質特異性もまた異なる。
【0034】
プロテインキナーゼCアイソフォームの大部分は、活性化前に膜結合しておらず、細胞質中に広く分布する。ホルボール化合物12−O−テトラデカノイルホルボール−13−アセテートで細胞を処理することによって各アイソフォームの活性が活性化された結果、細胞モフォロジーのアイソザイム特異的な変化ならびに、異なる細胞下構造への異なるPKCアイソザイムの急速かつ選択的な再分布が起こる。プロテインキナーゼC−αアイソフォームは、特に小胞体内および細胞端で豊富になり、PKCβIIアイソフォームは、細胞骨格のアクチン豊富なミクロフィラメントに豊富にある。PKCアイソフォーの基質特異性は、活性化プロテインキナーゼCアイソザイムの細胞内分布によって少なくとも部分的に仲介される。
【0035】
「プロテインキナーゼC−α」とは、カルシウムイオンおよびジアシルグリセロールによって活性化されるタンパク質、特に小胞体内および細胞端で豊富になる活性化プロテインキナーゼC−αを意味する。PKC−αのアミノ酸配列およびPKC−αをコードする核酸配列は、コウセンズ(Coussens)ら,Sciences,233(1986),859−866に記述されている。PKC−αタンパク質は、残りのcPKCタンパク質と同様なドメイン構造を有する。そのcPKCタンパク質は、偽基質ドメイン、システイン豊富な領域、カルシウム結合ドメインおよび触媒ドメインを含む。PKC−αは、ジアシルグリセロール、ホルボールエステル、ホスファチジルセリンおよびカルシウムによって活性化することができる。
【0036】
本発明のコンテクストにおいて、「プロテインキナーゼC−αの発現を低減または抑制する作用物質」とは、in−vitroおよびin−vivoの両方の条件下で機能性PKC−αタンパク質の合成を完全に防ぐ、または少なくとも低減する作用物質を意味し、前記低減または抑制は、PKC−αをコードするDNA配列の、相補的mRNA配列への転写、mRNAのプロセッシング、mRNAのポリペプチド鎖への翻訳、ポリペプチドのプロセッシングおよび/またはポリペプチドの翻訳後修飾に関わる。このように、プロテインキナーゼC−αの発現を低減または抑制する作用物質の使用は、機能性、例えば活性化可能なPKC−αタンパク質が全く産生されない、あるいは機能性、例えば活性化可能な産生されるPKC−αタンパク質が減少する、原因となり得る。しかしながら、プロテインキナーゼC−αの発現を低減または抑制する作用物質の使用は、非機能性、例えば非活性化可能なPKC−αタンパク質、または部分的にのみ機能性のPKC−αタンパク質が産生される原因となり得る。
【0037】
本発明のコンテクストにおいて、「プロテインキナーゼC−αの活性を低減または抑制する作用物質」とは、in−vitroおよびin−vivoの両方の条件下で機能性PKC−αタンパク質の生物活性を完全に無くす、または少なくとも一部無くすことができる作用物質を意味する。PKC−αタンパク質の完全または部分的な不活性化は、例えばPKC−αタンパク質と共に用いられる作用物質(agent)の直接相互作用によって起こされる。作用物質とPKC−αタンパク質との間の直接的相互作用は、例えば共有結合または非共有結合によって引き起こされる。作用物質とPKC−αタンパク質との間の相互作用は、例えばタンパク質キナーゼにおける化学的変化も引き起こし、その結果、タンパク質キナーゼの生物活性が低下する。この相互作用は、例えばPKC−αの特異的な分解も引き起こし得る。しかしながら、プロテインキナーゼC−αの活性を低減または抑制する作用物質は、PKC−αの生物活性が低減されるか、または完全に抑えられるように、PKC−αの特異的基質、標的構造または標的分子を修飾または除去する、またはそれに結合する作用物質でもあり得る。プロテインキナーゼC−αの活性を低減または抑制する作用物質は、PKC−αが、その特異的基質、標的構造または標的分子と相互作用できないように、活性化後に、例えばホルボール処理による活性化後に、PKC−αが小胞体内または細胞端に移行するのを防ぐ物質でもあり得る。
【0038】
本発明の特に好ましい実施形態では、本発明に従って用いられる作用物質は、PKC−αの発現および/または活性を特異的に低減または抑制するが、他のPKCアイソフォーム、例えばPKC−βの発現および/または活性は特異的に低減または抑制しない作用物質である。
【0039】
本発明に従って、PKC−αの発現および/または活性を特異的に低減または抑制する作用物質は、プロテインキナーゼC−α遺伝子の発現を低減または抑制する核酸、前記核酸を含有するベクター、前記ベクターを含有する宿主細胞、プロテインキナーゼC−αの発現を抑制または低減する物質、プロテインキナーゼC−αの移行を抑制する物質、プロテインキナーゼC−α活性の拮抗剤、およびプロテインキナーゼC−α活性の阻害剤からなる群から選択される。
【0040】
本発明に従って、用いられる核酸は、
a)ヒトプロテインキナーゼC−αをコードする核酸、またはその断片;
b)a)による核酸に相補的な核酸、またはその断片;
c)a)またはb)による核酸の1つまたは複数の塩基の置換、付加、逆位および/または欠失によって得られる核酸、またはその断片;
d)a)からc)による核酸と80%を超える相同性を有する核酸、またはその断片;からなる群から選択されることが好ましい。
【0041】
本発明のコンテクストにおいて、「プロテインキナーゼC−αをコードする核酸、またはその断片」とは、天然プロテインキナーゼC−αの機能ドメイン、特に偽基質ドメイン、システイン豊富な領域、カルシウム結合ドメインおよび触媒ドメインを含む、PKC−αタンパク質をコードする核酸またはその断片を意味する。本発明の好ましい実施形態において、本発明に従って使用される核酸は、ヒトPKC−αまたはその一部をコードする。
【0042】
本発明のコンテクストにおいて、「相同性」とは、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは90%、95%、97%および99%を超える配列同一性を意味する。したがって、当業者に公知の「相同性」とは、配列間の一致によって決定される、2つ以上の核酸分子間の関連性の程度を示す。
【0043】
本発明に従って使用される核酸は、特に直鎖状のDNAまたはRNA配列であり得る。核酸は、天然源から、例えば真核生物組織、好ましくは哺乳動物組織、さらに好ましくはヒト組織から単離してもよいし、または合成的に作製してもよい。本発明に従って、ベクターに、特に発現ベクターに挿入した場合、作用物質として使用される核酸が、プロモーターに対してアンチセンス方向で宿主細胞におけるヒトプロテインキナーゼC−αの遺伝子の発現を抑制することができることが提供される。本発明に従って用いられる核酸がアンチセンス方向でベクター中に挿入される場合、つまり本発明に従って用いられる核酸のアンチセンス構築物が用いられる場合、その核酸はアンチセンス核酸として転写されるだろう。次いで、細胞の天然PKC−α遺伝子が転写される場合には、本発明に従って使用される核酸の産生されたアンチセンス転写物は、センス方向にある天然プロテインキナーゼC−α遺伝子のmRNA転写物にワトソン−クリック型塩基対を介して結合し、二重鎖構造を形成することができる。このようにして、天然PKC−α遺伝子のmRNAのポリペプチドへの翻訳は選択的に抑制され、天然PKC−αの発現は、他の細胞PKCアイソフォームの発現を抑制することなく、特異的に抑制される。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、アンチセンス構築物の作製に使用される核酸は、PKC−αをコードする配列全体を含むわけではなく、その断片のみを含む。かかる断片は、少なくとも10個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも50個のヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも200個のヌクレオチドを含み、断片によって橋がかけられる、PKC−αをコードする配列のヌクレオチド領域は、断片が細胞においてアンチセンス方向に発現する場合に、PKC−α、特にヒトPKC−αの発現の特異的な抑制が起こるが、他のPKCアイソフォーム、例えばPKC−βアイソフォームの抑制は起こらないように選択されることが提供される。
【0045】
本発明に従って、上記の核酸またはその適切な断片が、少なくとも1つの発現調節因子の制御下にてベクターに挿入され、核酸またはその断片は、前記発現調節因子に対してアンチセンス方向に挿入されることを提供する。このように、ベクターが細胞、例えば哺乳動物細胞、特にヒト細胞に導入された後、核酸またはその断片をアンチセンス方向に発現させることができ、したがって、細胞の天然PKC−αの発現を効率的に抑制することができる。ベクターは、プラスミド、コスミド、バクテリオファージまたはウイルスであることが好ましい。
【0046】
したがって、本発明は、少なくとも1つの発現調節因子の機能的制御下にてPKC−αをコードする核酸配列またはその断片を含むベクターにも関し、核酸またはその断片は、前記発現調節因子に対してアンチセンス方向に挿入される。前記発現調節因子は、特にプロモーター、リボゾーム結合部位、シグナル配列または3’転写ターミネーターである。
【0047】
本発明のその他の実施形態は、上述のベクターを含有する宿主細胞に関する。特に、宿主細胞は、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞である。特に好ましい形態では、ヒト細胞は成体幹細胞である。
【0048】
本発明の好ましい実施形態において、少なくとも10個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも50個のヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも200個のヌクレオチドを含む、合成的に作製されたアンチセンスオリゴヌクレオチドが、PKC−αの発現を抑制するのに用いられる。かかるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、PKC−αの発現を抑制するのに直接的に用いることができる。つまり、ベクターに挿入し、細胞条件下で発現させる必要がない。特に好ましい実施形態では、これらのPKC−α特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、Isis Pharmaceuticals社から市販の製品ISIS3521であり、プロテインキナーゼα発現の強い選択的阻害剤である。本発明の更なる特に好ましい実施形態では、本発明に従って用いられるPKC−α特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、Busuttiら,J.Surg.Pathol.,63(1996),137−142に記述されているアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドである。
【0049】
本発明に従って、例えば遺伝子治療の範囲内で、血管疾患、心血管疾患、タンパク尿症を伴う腎疾患、糖尿病に関連する後遺症および/または心血管合併症、高血圧症に関連する心血管合併症、および/または高コレステロール血症に関連する心血管合併症の治療および/または予防に、上記の核酸、かかる核酸を含有するベクターまたはかかるベクターを含有する宿主細胞を作用物質として等しく用いることができる。
【0050】
本発明の他の好ましい実施形態では、プロテインキナーゼC−αの活性化因子がプロテインキナーゼαの発現を抑制または低減するために使用されることを提供する。好ましくは、前記活性化因子は、ホルボール化合物、特に12−O−テトラデカノイルホルボール−13−アセテート(TPA)またはホルボール−12,13−ジブチレート(PDBu)である。細胞を例えばPDBuと共に16時間〜24時間にわたってインキュベートすると、PKC−αが完全にダウンレギュレートされることが知られている(Busuttiら,J.Surg.Res.,63(1996),137−142)。高いTPA濃度、例えば1.6μMで処理することによって、PKC−αの発現が完全に抑制されることも知られている。そのため、本発明に従って、それぞれの組織または器官において、PKC−αの発現を一部または完全にブロックするために、好ましくは1.6μMを超える濃度のホルボールエステルで少なくとも15時間にわたって処理することが提供される。
【0051】
他の好ましい実施形態では、プロテインキナーゼαの活性を抑制または低減する阻害剤の使用が提供される。本発明のコンテクストにおいて、「阻害剤」とは、プロテインキナーゼC−αの生物活性を競合的に抑制し、PKC−αの空間構造を変化させる、または基質阻害によりPKC−αを抑制する物質を意味する。
【0052】
本発明の好ましい実施形態において、阻害剤は、プロテインキナーゼC−αと特異的に反応する抗体である。「抗体」とは、免疫グロブリン遺伝子(1つまたは複数)またはその断片により本質的にコードされ、かつ分析物、つまり抗原に特異的に結合し、認識することができるポリペプチドを意味する。抗体がPKC−αに結合することによって、後者の生物活性が抑制される。本発明に従って、インタクトな免疫グロブリンとして、または種々のペプチダーゼで切断することによって作製される多くの断片として、プロテインキナーゼC−α対する抗体を用いてもよい。本発明に従って使用される「抗体」という用語は、修飾抗体、例えばオリゴマー抗体、還元抗体、酸化抗体および標識抗体にも関する。「抗体」という用語は、全抗体を修飾することによって、または新たに組換えDNA法を使用して作製される、抗体断片も含む。したがって、「抗体」という用語は、インタクトな分子と、その断片、例えば抗原決定基に結合することができるFab、F(ab’)2およびFVのどちらも含む。これらの抗体断片は、相当する抗原に選択的に結合する能力を保持する。抗体またはその断片を作製する方法は従来技術において公知である。
【0053】
本発明の好ましい実施形態において、プロテインキナーゼC−αの活性を抑制するために、本発明に従って用いられる抗体は、モノクローナルまたはポリクローナル抗体である。本発明に従って、その抗体はヒト化抗体であってもよい。本発明の特に好ましい実施形態では、プロテインキナーゼC−αの活性を抑制するために使用される抗体は、グッドナイト(Goodnight)ら,J.Biol.Chem.,270(1995),9991−10001に記載の抗体である。
【0054】
本発明の更なる好ましい実施形態において、PKC−αを抑制するために本出願に従って用いられる阻害剤によって、プロテインキナーゼC−αのリン酸化状態が変化し、したがってPKC−αの活性が抑制、または少なくとも低減されることが提供される。タシナト(Tasinato)ら,Biochem.J.,334(1998),243−249から、α−トコフェロールは、PKC−αのリン酸化状態を変化させることによって、細胞プロテインキナーゼC−αを不活性化することができることが知られている。したがって、本発明の特に好ましい実施形態において、PKC−αの活性を抑制し、したがって血管疾患、心血管疾患、タンパク尿症を伴う腎疾患、糖尿病患者における糖尿病後遺症および/または心血管合併症、高血圧症患者における心血管合併症および/または高コレステロール血症患者における心血管合併症を治療および/または予防するための、α−トコフェロールの使用が提供される。
【0055】
本発明の更なる好ましい実施形態において、血管疾患、心血管疾患、タンパク尿症を伴う腎疾患、糖尿病患者における糖尿病後遺症および/または心血管合併症、高血圧症患者における心血管合併症および/または高コレステロール血症患者における心血管合併症を治療および/または予防するための、PKC−αの拮抗剤の使用が提供される。本発明のコンテクストにおいて、「拮抗剤」とは、PKC−α特異的な基質への結合に関してPKC−αと競合するが、基質に結合した後にPKC−αと同じ効果をもたらさない、物質を意味する。「拮抗剤」という用語は、その構造のためにPKC−α特異的な基質の不活性なコンフォメーションに適応され、したがってPKC−αによる基質の活性化を防ぐ物質も含む。
【0056】
本発明の好ましい実施形態において、天然PKC−αの基質に結合することができるが、それに結合した後に天然PKC−αと同じ生物学的効果をもたらさない、PKC−αの誘導体が、PKC−α活性を抑制するための拮抗剤として用いられる。
【0057】
本発明のコンテクストにおいて、「誘導体」とは、原子または分子基または残基を置換することによって得られ、PKC−α基本構造を保持し、かつ/またはそのアミノ酸配列がヒトまたは動物PKC−α分子の天然配列と少なくとも1つの位置で異なるが、アミノ酸レベルで高い程度の相同性を本質的に有する、プロテインキナーゼC−αの機能的等価物または誘導体を意味する。本発明に従って、「誘導体」という用語は、その他のタンパク質、例えば他のPKC−α阻害剤の機能ドメインがそのN末端またはC末端部分に存在する、融合タンパク質も含む。
【0058】
誘導体と天然PKC−αとの差異は、例えば、PKC−αアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の欠失、置換、挿入、付加、塩基の交換および/または組換えなどの突然変異から生じ得る。当然のことながら、これらは、天然に存在する配列変異、例えば他の生物に由来する配列または天然に突然変異した配列、または当技術分野で公知の一般的な手段、例えば化学的作用物質および/または物理的作用物質によって相当する配列に意図的に導入された突然変異でもある。
【0059】
本発明のその他の好ましい実施形態において、PKC−αの類似体が、PKC−α活性を抑制するために拮抗剤として用いられる。本発明のコンテクストにおいて、プロテインキナーゼCの「類似体」とは、プロテインキナーゼC−αの配列と同一のアミノ酸配列を持たないが、その三次元構造がプロテインキナーゼC−αと非常に似ている化合物を意味する。本発明に従って用いられるPKC−αの類似体は好ましくは、PKC−αと類似の基質特異性を有し、つまりPKC−α特異的な基質に結合することができるが、好ましくはPKC−αの触媒特性を欠いている。したがって、本発明に従って用いられるプロテインキナーゼC−α類似体は、例えば、適切なコンフォメーションにおけるPKC−α基質へのプロテインキナーゼC−αの結合を担うアミノ酸残基を含有し、したがってプロテインキナーゼC−αの結合領域の必須の特性を模倣することができるが、プロテインキナーゼC−αと同じ触媒特性を保持しない、化合物であり得る。
【0060】
本発明の他の実施形態において、血管疾患、心血管疾患、タンパク尿症を伴う腎疾患、糖尿病患者における後遺症および/または心血管合併症、高血圧症患者における心血管合併症および/または高コレステロール血症患者における心血管合併症を治療および/または予防するために、プロテインキナーゼC−α(PKC−α)の発現および/または活性を低減または抑制するだけでなく、それと同時にプロテインキナーゼC−β(PKC−β)の発現および/または活性を低減または抑制する作用物質が用いられることを提供する。J.Invest.Dermatol.,117(2001),605−611において、タカハシ(Takahashi)およびカミムラ(Kamimura)は、免疫抑制薬シクロスポリンAが、同時にプロテインキナーゼCアイソフォームα、βIおよびβIIの発現を低減することを記述している。したがって、本発明の特に好ましい実施形態において、PKC−αおよびPKC−βの発現を低減し、このように上記の疾患を治療するための、シクロスポリンAの使用が提供される。
【0061】
本発明の他の好ましい実施形態において、プロテインキナーゼC−αの発現および/または活性を特異的に低減または抑制する作用物質が、プロテインキナーゼC−βの発現および/または活性を特異的に低減または抑制する作用物質と組み合わせて使用されることを提供する。本発明に従って、「プロテインキナーゼC−β」は、プロテインキナーゼC−βIおよびスプライスバリアントβIIのどちらも含む。
【0062】
本発明に従って、プロテインキナーゼC−βの発現および/または活性を特異的に低減または抑制する作用物質は、プロテインキナーゼC−β遺伝子の発現を低減または抑制する核酸、前記核酸を含有するベクター、前記ベクターを含有する宿主細胞、プロテインキナーゼC−βの発現を低減または抑制する物質、プロテインキナーゼC−βの移行を抑制する物質、プロテインキナーゼC−β活性の拮抗剤、およびプロテインキナーゼC−β活性の阻害剤からなる群から選択されることを提供する。
【0063】
本発明の好ましい実施形態において、作用物質として用いられるべき核酸は、
a)ヒトプロテインキナーゼC−βをコードする核酸、またはその断片;
b)a)による核酸に相補的な核酸、またはその断片;
c)a)またはb)による核酸の1つまたは複数の塩基の置換、付加、逆位および/または欠失によって得られる核酸、またはその断片;
d)a)からc)による核酸と80%を超える相同性を有する核酸、またはその断片;からなる群から選択される。
【0064】
本発明の好ましい実施形態において、本発明に従って使用される核酸は、ヒトPKC−αまたはその一部をコードする。
【0065】
本発明に従って使用される核酸は、特に直鎖状のDNAまたはRNA配列であり得る。核酸は、天然源から、例えば真核生物組織、好ましくは哺乳動物組織、さらに好ましくはヒト組織から単離してもよいし、または合成的に作製してもよい。
【0066】
本発明に従って、ベクターに、特に発現ベクターに挿入した場合、作用物質として使用される核酸が、プロモーターに対してアンチセンス方向で宿主細胞におけるヒトプロテインキナーゼC−βの遺伝子の発現を抑制することができることが提供される。本発明に従って用いられる核酸がアンチセンス方向でベクター中に挿入される場合、つまり本発明に従って用いられる核酸のアンチセンス構築物が用いられる場合、その核酸はアンチセンス核酸として転写されることができる。次いで、細胞の天然PKC−β遺伝子が転写される場合には、本発明に従って使用される核酸の産生されたアンチセンス転写物は、センス方向にある天然プロテインキナーゼC−β遺伝子のmRNA転写物に結合し、二重鎖構造を形成することができる。このようにして、天然PKC−β遺伝子のmRNAのポリペプチドへの翻訳は選択的に抑制され、天然PKC−βの発現は、他の細胞PKCアイソフォームの発現を抑制することなく、特異的に抑制される。
【0067】
本発明の好ましい実施形態において、アンチセンス構築物の作製に使用される核酸は、PKC−βをコードする配列全体を含むわけではなく、その断片のみを含むことが提供される。かかる断片は、少なくとも10個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも50個のヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも200個のヌクレオチドを含み、断片によってまたがれる、PKC−βをコードする配列のヌクレオチド領域は、断片が細胞においてアンチセンス方向に発現する場合に、PKC−β、特にヒトPKC−βの発現の特異的な抑制が起こるが、他のPKCアイソフォームの抑制は起こらないように選択される。
【0068】
本発明に従って、上記の核酸またはその適切な断片が、少なくとも1つの発現調節因子の制御下にてベクターに挿入され、核酸またはその断片は、前記発現調節因子に対してアンチセンス方向に挿入されることを提供する。このように、ベクターが細胞、例えば哺乳動物細胞、特にヒト細胞に導入された後、核酸またはその断片をアンチセンス方向に発現させることができ、したがって、細胞の天然PKC−βの発現を効率的に抑制することができる。ベクターは、プラスミド、コスミド、バクテリオファージまたはウイルスであることが好ましい。
【0069】
したがって、本発明は、少なくとも1つの発現調節因子の機能的制御下にてPKC−βをコードする核酸配列またはその断片を含むベクターにも関し、核酸またはその断片は、前記発現調節因子に対してアンチセンス方向に挿入される。前記発現調節因子は、特にプロモーター、リボゾーム結合部位、シグナル配列または3’転写ターミネーターである。
【0070】
本発明のその他の実施形態は、上述のベクターを含有する宿主細胞に関する。特に、宿主細胞は、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞である。特に好ましい形態では、ヒト細胞は成体幹細胞である。
【0071】
本発明の好ましい実施形態において、少なくとも10個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも50個のヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも200個のヌクレオチドを含む、合成的に作製されたアンチセンスオリゴヌクレオチドが、PKC−βの発現を抑制するのに用いられる。かかるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、PKC−βの発現を抑制するのに直接的に用いることができる。つまり、ベクターに挿入し、細胞条件下で発現させる必要がない。
【0072】
本発明の他の好ましい実施形態において、プロテインキナーゼC−βと特異的に反応する抗体またはその適切な断片が、プロテインキナーゼC−βの活性を抑制するために用いられることを提供する。本発明に従って、その抗体は、モノクローナルまたはポリクローナル抗体である。本発明に従って用いられる抗体はヒト化抗体であってもよい。
【0073】
本発明の更なる好ましい実施形態において、プロテインキナーゼC−βのリン酸化状態を変化させる物質が、プロテインキナーゼC−βの活性を抑制するために用いられることを提供する。
【0074】
本発明の他の好ましい実施形態において、PKC−βの拮抗剤として作用するプロテインキナーゼC−βの誘導体または類似体が、プロテインキナーゼC−βの活性を抑制するために用いられることを提供する。好ましくは、本発明に従って用いられるPKC−βの誘導体または類似体は、PKC−β特異的な基質への結合に関して天然PKC−βと競合するが、基質に結合した後にPKC−βと同じ効果をもたらさない物質である。
【0075】
本発明の特に好ましい実施形態において、米国特許第5,491,242号、同第5,661,173号、同第5,481,003号、同第5,668,152号、同第5,672,618号、WO95/17182,WO95/35294およびWO02/に記載の化合物が、プロテインキナーゼC−βの発現および/または活性を特異的に抑制および低減するために用いられる。
【0076】
本発明の他の好ましい実施形態は、冠動脈心疾患、心筋梗塞、末梢性閉塞症、脳卒中、タンパク尿症を伴う腎疾患、糖尿病患者における糖尿病後遺症および/または心血管合併症、高血圧症患者における心血管合併症、および高コレステロール血症患者における心血管合併症の治療および/予防に用いられる医薬組成物を製造するための、プロテインキナーゼC−α(PKC−α)の発現および/または活性を特異的に低減または抑制する作用物質の使用に関する。本発明に従って、心血管合併症は好ましくは、冠動脈心疾患、心筋梗塞、末梢性閉塞症、および脳卒中である。糖尿病の後遺症は特に、糖尿病性網膜症、糖尿病性ニューロパシーおよび糖尿病性腎症である。
【0077】
本発明のコンテクストにおいて、「医薬組成物」または「薬物」とは、診断、治療および/または予防の目的のために使用される混合物、つまり治療効果をもたらす、少なくとも1種類の天然活性成分または合成的に作製された活性成分を含む、ヒトまたは動物の体の健康を促進または回復する混合物を意味する。その医薬組成物は、固体および液体混合物の両方であり得る。例えば、活性成分を含む医薬組成物は、1種または複数種の薬学的に許容される成分を含有し得る。さらに、医薬組成物は、当技術分野で通常用いられる添加剤、例えば安定剤、製造剤(production agent)、分離剤(separating agent)、崩壊剤、乳化剤または医薬組成物の製造に通常使用される他の物質を含み得る。
【0078】
本発明に従って、特に、上記の疾患の治療および/または予防に用いられる薬物を製造するための、プロテインキナーゼC−α(PKC−α)の発現および/または活性を特異的に低減または抑制する作用物質の活性成分としての使用が提供される。本発明の好ましい実施形態では、医薬組成物の製造に用いられる作用物質は、プロテインキナーゼC−α遺伝子の発現を低減または抑制する核酸、前記核酸を含有するベクター、前記ベクターを含有する宿主細胞、プロテインキナーゼC−αの発現を低減または抑制する物質、プロテインキナーゼC−αの移行を抑制する物質、プロテインキナーゼC−α活性の拮抗剤、およびプロテインキナーゼC−α活性の阻害剤からなる群から選択される。
【0079】
さらに好ましくは、本発明による医薬組成物を製造するために用いられる作用物質は、プロテインキナーゼC−αをコードする遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチド、トコフェロール、ホルボール化合物、プロテインキナーゼC−αの誘導体、またはプロテインキナーゼC−αの類似体である。
【0080】
本発明の好ましい実施形態では、医薬組成物は、非経口投与、特に静脈内、筋肉内、皮内または皮下投与に使用されることを提供する。好ましくは、本発明に従って使用される作用物質を含有する薬物は、注射または注入用の形態をとる。
【0081】
本発明の他の実施形態において、発明に従って使用される作用物質を含有する薬物は、経口投与される。例えば、薬物は、液剤、懸濁剤、乳剤などの液体剤形で、または錠剤などの固体剤形で投与される。
【0082】
したがって、本発明は、冠動脈心疾患、心筋梗塞、末梢性閉塞症、脳卒中、タンパク尿症を伴う腎疾患、糖尿病患者における糖尿病後遺症および/または心血管合併症、高血圧症患者における心血管合併症、および高コレステロール血症患者における心血管合併症の予防および/または治療のための医薬組成物であって、プロテインキナーゼC−α(PKC−α)の発現および/または活性を特異的に低減または抑制する少なくとも1種類の作用物質を活性成分として含む医薬組成物にも関する。
【0083】
好ましい実施形態において、医薬組成物に含有される作用物質は、プロテインキナーゼC−α遺伝子の発現を低減または抑制する核酸、前記核酸を含有するベクター、前記ベクターを含有する宿主細胞、プロテインキナーゼC−αの発現を低減または抑制する物質、プロテインキナーゼC−αの移行を抑制する物質、プロテインキナーゼC−α活性の拮抗剤、およびプロテインキナーゼC−α活性の阻害剤からなる群から選択される。
【0084】
さらに好ましくは、本発明による医薬組成物は、プロテインキナーゼC−αをコードする遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチド、トコフェロール、ホルボール化合物、プロテインキナーゼC−αの誘導体、またはプロテインキナーゼC−αの類似体を含有する。
【0085】
本発明の他の好ましい実施形態において、本発明による医薬組成物は、少なくとも1種類の更なる活性成分を含有する。特に、前記の更なる活性成分は、プロテインキナーゼC−βの発現および/または活性を特異的に低減または抑制する作用物質である。
【0086】
好ましくは、プロテインキナーゼC−βの発現および/または活性を特異的に低減または抑制する作用物質は、プロテインキナーゼC−β遺伝子の発現を低減または抑制する核酸、前記核酸を含有するベクター、前記ベクターを含有する宿主細胞、プロテインキナーゼC−βの発現を低減または抑制する物質、プロテインキナーゼC−βの移行を抑制する物質、プロテインキナーゼC−β活性の拮抗剤、およびプロテインキナーゼC−β活性の阻害剤からなる群から選択される。
【0087】
本発明の更なる有利な実施形態は、従属の請求項から分かる。
【0088】
本発明はさらに、以下の図面および実施例によって説明される。
【0089】
図1は、糖尿病のPKC−α「ノックアウト」マウスおよび糖尿病ではないPKC−α「ノックアウト」マウス(対照)、ならびに糖尿病のSV129マウスおよび糖尿病ではないSV129マウス(対照)の尿中のアルブミン排泄を示す。アルブミン濃度は、間接的ELISAアッセイを用いて決定した。確立されたアルブミン値は、クレアチニン濃度に基づく。非糖尿病SV129およびPKC−α-/-マウスは、通常10g/mol未満である、比較可能なアルブミン/クレアチニン比を有する。それと対照的に、糖尿病SV129マウスの比は著しく高い(p=0.004)。糖尿病PKC−α-/-マウスの値は、糖尿病SV129マウスの値よりも有意に低い(p≦0.001)。横棒は中央値を示す。有意性は、マンホイットニーのU検定によって計算された。
【0090】
図2は、糖尿病のPKC−α「ノックアウト」マウスおよび糖尿病ではないPKC−α「ノックアウト」マウス(対照)、ならびに糖尿病のSV129マウスおよび糖尿病ではないSV129マウス(対照)における糸球体VEGFの発現を示す。各動物群について、免疫組織化学的方法によって、40の糸球体を半定量的に評価し、その値を弱い、中程度の、強い免疫蛍光に分類した。有意性は、マンホイットニーのU検定によって計算した。糖尿病の動物において、VEGFの発現は、対照動物と比較して有意に高い(p<0.001)。しかしながら、糖尿病SV129動物におけるVEGFの発現は、糖尿病PKC−α-/-動物と比較して有意に高い(p<0.001)。
【0091】
図3は、糖尿病のPKC−α「ノックアウト」マウスおよび糖尿病ではないPKC−α「ノックアウト」マウス(対照)、ならびに糖尿病のSV129マウスおよび糖尿病ではないSV129マウス(対照)における糸球体VEGF受容体IIの発現を示す。各動物群について、免疫組織化学的方法によって、40の糸球体を半定量的に評価し、その値を弱い、中程度の、強い免疫蛍光に分類した。有意性は、マンホイットニーのU検定によって計算した。糖尿病の動物において、VEGFR−IIの発現は、対照動物と比較して有意に高い(p<0.001)。しかしながら、糖尿病SV129動物におけるVEGFR−IIの発現は、糖尿病PKC−α-/-動物と比較して有意に高い(p<0.001)。
【0092】
図4は、糖尿病のPKC−α「ノックアウト」マウスおよび糖尿病ではないPKC−α「ノックアウト」マウス(対照)、ならびに糖尿病のSV129マウスおよび糖尿病ではないSV129マウス(対照)における糸球体のパールカン発現を示す。各動物群について、免疫組織化学的方法によって、40の糸球体を半定量的に評価し、その値を弱い、中程度の、強い免疫蛍光に分類した。有意性は、マンホイットニーのU検定によって計算した。糖尿病SV129動物において、パールカンの発現は、SV129対照動物と比較して有意に低い(p<0.001)。
【実施例】
【0093】
実施例1
実験的な糖尿病の誘発
餌および水に自由にアクセスできる、22℃での標準化条件下に維持されたマウスを用いて、ニーダーザクセンの動物保護局によって認可された後に、以下の実験を行った。
【0094】
実験の開始前に、すべての動物について血清からの血糖値を決定した。その結果を表1に示す。SV129対照マウス16匹およびSV129プロテインキナーゼC−αノックアウト(PKC−α-/-)マウス14匹において、ストレプトゾトシンの注入によって、糖尿病を誘発させた。ストレプトゾトシンによって、膵臓内のインスリン産生島細胞が破壊される。その結果生じたインスリン欠乏は、永久的に血糖値レベルを増加させ、つまり高血糖を引き起こし、したがって糖尿病を引き起こす。高血糖を引き起こすために、1日目および4日目に、体重1kg当たりストレプトゾトシンをそれぞれ125mgを動物に腹腔内投与した。かかる目的のために、pH4.5の50mMクエン酸ナトリウム溶液にストレプトゾトシンを溶解した。対照については、1日目および4日目に、SV129マウス7匹およびPKC−α-/-マウス6匹に溶媒のみを腹腔内投与した。次に、血糖値を確認するために、マウスの尾から一滴の血液を2日ごとに採取した。血糖の測定は、Bayer Glucometer Elite(登録商標)測定装置を用いて行った。Glucometer Elite Sensor(登録商標)試験片を測定に使用した。
【0095】
7〜10日目に、ストレプトゾトシンを投与された動物は、350mg/dlを超える血糖値を有する糖尿病であった。ストレプトゾトシン注入前の開始値は平均で200mg/dlであった。溶媒のみを投与された動物は、血糖値の増加を全く示さず、糖尿病を発症しなかった。最初に注入して10日後、動物をさらに8日間観察した。この期間中、血糖を2週間ごとに検査し、糖尿病の動物がまだ糖尿病であるかを確認した。この期間中、糖尿病の動物に関しては、血糖値は平均約500〜550mg/dlに変化し、非糖尿病の動物に関しては、約200mg/dlに変化した。
【0096】
8週間後、麻酔剤アバーティン(avertin)で動物を麻酔した。続いて、麻酔下にて、血液400μlを眼球の静脈叢から採取し、27G針で穿刺することによって、全膀胱尿を膀胱から採取した。次に、腹側大動脈を通して、乳酸リンゲル液で腎臓を灌流し、腎臓を取り出した。その直後に、麻酔下にて動物を死亡させた。続いて、血糖値を血清から決定した。血糖値は表1に示す。表から分かるように、糖尿病の動物は、それらが実験の最初に有したグルコースレベルよりも、および非糖尿病対照動物と比較しても、2.5〜3倍高いグルコースレベルを有する。
【0097】
【表1】

【0098】
実施例2
アルブミン濃度の決定
糖尿病患者におけるミクロアルブミン尿症の発症は公知の現象である。したがって、糖尿病のPKC−α「ノックアウト」マウスおよび糖尿病ではないPKC−α「ノックアウト」マウス(対照)、ならびに糖尿病のSV129マウスおよび糖尿病ではないSV129マウス(対照)の尿中のアルブミン排泄を決定した。この目的のために、採取した尿中のアルブミン濃度を決定した。アルブミンを決定するために、間接的なELISAアッセイ(Exocell社のAlbuwell M(登録商標),米国フィラデルフィア)を使用した。このELISAアッセイは、マウスアルブミンに特異的である。この測定は、製造元の説明書に従って行った。尿排泄の変動を考慮に入れることができるように、アルブミン値は尿中のクレアチニンレベルに基づく。この結果を図1に示す。非糖尿病SV129およびPKC−α-/-マウスは、通常10g/mol未満の比較可能なアルブミン/クレアチニン比を有することが見出された。対照的に、糖尿病SV129マウスの比は有意に高い(p=0.004)。その中央値は、非糖尿病SV129対照動物の7.48g/molに対して21.5g/molである。比較すると、糖尿病PKC−α-/-マウスにおいてミクロアルブミン尿の有意な増加はない。アルブミン/クレアチニン比は常に20g/mol未満であり、中央値は10.2g/molである。非糖尿病PKC−α-/-対照マウスの中央値は8.5g/molである。糖尿病PKC−α-/-マウスの値は、糖尿病SV129マウスの値よりも有意に低い(p≦0.001)。その結果を図1に示す。
【0099】
実施例3
VEGFおよびVEGF受容体IIの発現の決定
実施例1で上述のように、実験が終了した後、すべての動物を死亡させた。その直後に、腎臓を取り出し、−70℃で凍結した。取り出した腎臓をさらに分析することによって、糖尿病対照動物の腎小体(糸球体)における「血管内皮成長因子」(VEGF)およびVEGF受容体II(VEGFR−II)の発現の有意な増加が示された。VEGFおよびVEGFR−IIの発現の検出は、免疫組織化学的方法によって行われた。このように、−70℃で凍結させた腎臓を厚さ6nmに凍結スライスし、次いで空気中で乾燥させた。次に、凍結切片を冷アセトンで固定し、空気中で乾燥させ、トリス緩衝液(TBS:0.05Mトリス緩衝液、0.15M NaCl、pH7.6)で洗浄した。続いて、マウスVEGF(Santa Cruz,A−20)またはVEGFR−II(Santa Cruz,C−1158)に対する一次ポリクローナル「ウサギ」抗体と共に、凍結切片を湿室内で60分間インキュベートした。TBSで再び洗浄した後、切片をCy3標識二次「抗ウサギ」抗体(Jackson Immunresearch Laboratories,711−165−152)と共に室温で30分間インキュベートし、再度TBSで洗浄した。次に、標本を評価し、Zeiss Axioplan−2顕微鏡(Zeiss,Jena,ドイツ)で写真を撮った。すべての動物において、40の腎小体それぞれを評価し、蛍光強度を強い、中程度、弱いに分けた。糖尿病SV129対照動物において、VEGFおよびVEGFR−II発現の有意な増加(p<0.001)が、非糖尿病対照動物と比較して見出された。比較すると、発現の増加は、糖尿病SV129およびPKC−α-/-マウスにおいて、有意に顕著ではなかった(p<0.001)。この結果を図2および3に示す。
【0100】
実施例4
パールカンの発現の決定
VEGF発現の確立された差のみで、ミクロアルブミン尿における差を説明することができないことから、糖尿病および非糖尿病動物の腎臓におけるヘパラン硫酸プロテオグリカンパールカンの発現を、免疫組織化学的方法を用いて調べた。実施例3に記載のように、腎臓の凍結切片を作製し、包埋した。マウスパールカンに対して作られたモノクローナルラット抗体(RDI Systems,A7L6)を一次抗体として使用した。Cy3標識ロバ抗ラット抗体(Jackson Immunresearch Laboratories,712−165−153)を二次抗体として使用した。切片の免疫組織化学的検査から、糖尿病対照動物においてパールカンがもはや検出可能ではない、またはほとんど検出可能ではないという完全に驚くべき結果が得られた(図4参照)。このように、糸球体においても、細動脈の血管壁においてもパールカンは検出できなかった。それと対照的に、SV129およびPKC−α-/-マウスにおいて、パールカンの発現は、変わらないか、またはわずかに低減した。ヘパラン硫酸の欠乏はタンパク尿症の発症における主要なメディエーターの一つであるとみなされることから、この結果からアルブミン尿症が存在しないことを説明することができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】糖尿病のPKC−α「ノックアウト」マウスおよび糖尿病ではないPKC−α「ノックアウト」マウス(対照)、ならびに糖尿病のSV129マウスおよび糖尿病ではないSV129マウス(対照)の尿中のアルブミン排泄を示す。
【図2】糖尿病のPKC−α「ノックアウト」マウスおよび糖尿病ではないPKC−α「ノックアウト」マウス(対照)、ならびに糖尿病のSV129マウスおよび糖尿病ではないSV129マウス(対照)における糸球体VEGFの発現を示す。
【図3】糖尿病のPKC−α「ノックアウト」マウスおよび糖尿病ではないPKC−α「ノックアウト」マウス(対照)、ならびに糖尿病のSV129マウスおよび糖尿病ではないSV129マウス(対照)における糸球体VEGF受容体IIの発現を示す。
【図4】糖尿病のPKC−α「ノックアウト」マウスおよび糖尿病ではないPKC−α「ノックアウト」マウス(対照)、ならびに糖尿病のSV129マウスおよび糖尿病ではないSV129マウス(対照)における糸球体のパールカン発現を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管疾患、心血管疾患、タンパク尿症を伴う腎疾患、糖尿病患者における糖尿病後遺症および/または心血管合併症、高血圧症患者における心血管合併症、および/または高コレステロール血症患者における心血管合併症を治療および/または予防するための、プロテインキナーゼC−α(PKC−α)の発現および/または活性を低減または抑制する作用物質の使用。
【請求項2】
前記血管疾患および心血管疾患が、末梢性閉塞症、冠動脈心疾患、心筋梗塞および脳卒中からなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記心血管合併症が、末梢性閉塞症、冠動脈心疾患、心筋梗塞および/または脳卒中である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記の糖尿病後遺症が、糖尿病性網膜症、糖尿病性ニューロパシーおよび/または糖尿病性腎症である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記のタンパク尿症を伴う腎疾患が、腎実質性疾患である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記タンパク尿症が、糸球体性タンパク尿症、尿細管性タンパク尿症または混合糸球体尿細管タンパク尿症である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記腎疾患が、微少変化ネフロパシー、他の糸球体症、腎アミロイドーシス、遺伝性細尿管症、尿細管性アシドーシス、細菌もしくは薬物により誘発される間質性腎炎、急性腎不全、ベンス・ジョーンズネフロパシーおよび腎臓移植である、請求項5または6に記載の使用。
【請求項8】
前記作用物質が、プロテインキナーゼC−α(PKC−α)の発現および/または活性を特異的に低減または抑制する、請求項1から7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
前記作用物質が、プロテインキナーゼC−α遺伝子の発現を低減または抑制する核酸、前記核酸を含有するベクター、前記ベクターを含有する宿主細胞、プロテインキナーゼC−αの発現を抑制または低減する物質、プロテインキナーゼC−αの移行を抑制する物質、プロテインキナーゼC−α活性の拮抗剤、およびプロテインキナーゼC−α活性の阻害剤からなる群から選択される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記核酸が、プロモーターに対してアンチセンス方向で宿主細胞におけるヒトプロテインキナーゼC−αの遺伝子の発現を抑制することができる、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記核酸が、
a)ヒトプロテインキナーゼC−αをコードする核酸、またはその断片;
b)a)による核酸に相補的な核酸、またはその断片;
c)a)またはb)による核酸の1つまたは複数の塩基の置換、付加、逆位および/または欠失によって得られる核酸、またはその断片;
d)a)からc)による核酸と80%を超える相同性を有する核酸、またはその断片;からなる群から選択される、請求項9または10に記載の使用。
【請求項12】
核酸の前記断片が、少なくとも10個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも50個のヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも200個のヌクレオチドを含む、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記核酸が、DNAまたはRNAである、請求項9から12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
前記核酸またはその断片が、少なくとも1つの発現調節因子の制御下にて、それに対してアンチセンス方向に挿入される、請求項9から13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
前記ベクターが、プラスミド、コスミド、バクテリオファージまたはウイルスである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記発現調節因子が、プロモーター、リボゾーム結合部位、シグナル配列または3’転写ターミネーターである、請求項14または15に記載の使用。
【請求項17】
前記ベクターが、宿主細胞中に含まれる、請求項14から16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
前記宿主細胞が、哺乳動物細胞、特にヒト細胞である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
プロテインキナーゼC−αの発現を抑制または低減する前記物質が、プロテインキナーゼC−αの活性化因子である、請求項9に記載の使用。
【請求項20】
前記活性化因子が、ホルボール化合物である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記ホルボール化合物が、12−O−テトラデカノイルホルボール−13−アセテート(TPA)またはホルボール−12、13−ジブチレート(PDBu)である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記阻害剤が、プロテインキナーゼC−αと反応する抗体である、請求項9に記載の使用。
【請求項23】
前記抗体が、モノクローナルまたはポリクローナル抗体である、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記抗体が、ヒト化抗体である、請求項22または23に記載の使用。
【請求項25】
前記阻害剤が、プロテインキナーゼC−αのリン酸化状態を変化させる、請求項9に記載の使用。
【請求項26】
前記阻害剤が、トコフェロールである、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記拮抗剤が、プロテインキナーゼC−αの誘導体または類似体である、請求項9に記載の使用。
【請求項28】
プロテインキナーゼC−αの発現および/または活性を低減または抑制する前記作用物質が、それと同時にプロテインキナーゼC−βの発現および/または活性を低減または抑制する作用物質である、請求項1から7のいずれかに記載の使用。
【請求項29】
前記作用物質が、シクロスポリンAである、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
プロテインキナーゼC−αの発現および/または活性を特異的に低減または抑制する前記作用物質が、プロテインキナーゼC−βの発現および/または活性を特異的に低減または抑制する作用物質と組み合わせて使用される、請求項1から27のいずれかに記載の使用。
【請求項31】
プロテインキナーゼC−βの発現および/または活性を低減または抑制する前記作用物質が、プロテインキナーゼC−β遺伝子の発現を低減または抑制する核酸、前記核酸を含有するベクター、前記ベクターを含有する宿主細胞、プロテインキナーゼC−βの発現を抑制または低減する物質、プロテインキナーゼC−βの移行を抑制する物質、プロテインキナーゼC−β活性の拮抗剤、およびプロテインキナーゼC−β活性の阻害剤からなる群から選択される、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
前記核酸が、
a)ヒトプロテインキナーゼC−βをコードする核酸、またはその断片;
b)a)による核酸に相補的な核酸、またはその断片;
c)a)またはb)による核酸の1つまたは複数の塩基の置換、付加、逆位および/または欠失によって得られる核酸、またはその断片;
d)a)からc)による核酸と80%を超える相同性を有する核酸、またはその断片;からなる群から選択される、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
核酸の前記断片が、少なくとも10個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも50個のヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも200個のヌクレオチドを含む、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
前記核酸が、DNAまたはRNAである、請求項31から33のいずれかに記載の使用。
【請求項35】
前記核酸またはその断片が、少なくとも1つの発現調節因子の制御下にて、それに対してアンチセンス方向に挿入される、請求項31から34のいずれかに記載の使用。
【請求項36】
前記ベクターが、プラスミド、コスミド、バクテリオファージまたはウイルスである、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
前記発現調節因子が、プロモーター、リボゾーム結合部位、シグナル配列または3’転写ターミネーターである、請求項35または36に記載の使用。
【請求項38】
前記ベクターが、宿主細胞中に含まれる、請求項35から37のいずれかに記載の使用。
【請求項39】
前記宿主細胞が、哺乳動物細胞、特にヒト細胞である、請求項38に記載の使用。
【請求項40】
前記阻害剤が、プロテインキナーゼC−βと反応する抗体である、請求項31に記載の使用。
【請求項41】
前記抗体が、モノクローナルまたはポリクローナル抗体である、請求項40に記載の使用。
【請求項42】
前記抗体が、ヒト化抗体である、請求項40または41に記載の使用。
【請求項43】
前記阻害剤が、プロテインキナーゼC−βのリン酸化状態を変化させる、請求項31に記載の使用。
【請求項44】
前記拮抗剤が、プロテインキナーゼC−βの誘導体または類似体である、請求項31に記載の使用。
【請求項45】
冠動脈心疾患、心筋梗塞、末梢血管閉塞症、脳卒中、タンパク尿症を伴う腎疾患、糖尿病患者における糖尿病後遺症および/または心血管合併症、高血圧症患者における心血管合併症、および高コレステロール血症患者における心血管合併症の治療および/または予防のための医薬組成物を製造するための、プロテインキナーゼC−α(PKC−α)の発現および/活性を低減または抑制する作用物質の使用。
【請求項46】
前記心血管合併症が、冠動脈心疾患、心筋梗塞、末梢性閉塞症または脳卒中である、請求項45に記載の使用。
【請求項47】
前記糖尿病後遺症が、糖尿病性網膜症、糖尿病性ニューロパシーおよび糖尿病性腎症である、請求項45に記載の使用。
【請求項48】
前記作用物質が、プロテインキナーゼC−α遺伝子の発現を低減または抑制する核酸、前記核酸を含有するベクター、前記ベクターを含有する宿主細胞、プロテインキナーゼC−αの発現を抑制または低減する物質、プロテインキナーゼC−αの移行を抑制する物質、プロテインキナーゼC−α活性の拮抗剤、およびプロテインキナーゼC−α活性の阻害剤からなる群から選択される、請求項45または47に記載の使用。
【請求項49】
前記作用物質が、プロテインキナーゼC−αをコードする遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチド、トコフェロール、ホルボール化合物、プロテインキナーゼC−αの誘導体、またはプロテインキナーゼC−αの類似体である、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
冠動脈心疾患、心筋梗塞、末梢性閉塞症、脳卒中、タンパク尿症を伴う腎疾患、糖尿病患者における糖尿病後遺症および/または心血管合併症、高血圧症患者における心血管合併症、および高コレステロール血症患者における心血管合併症の予防および/または治療のための医薬組成物であって、プロテインキナーゼC−α(PKC−α)の発現および/または活性を低減または抑制する少なくとも1種類の作用物質を活性成分として含む医薬組成物。
【請求項51】
前記作用物質が、プロテインキナーゼC−α遺伝子の発現を低減または抑制する核酸、前記核酸を含有するベクター、前記ベクターを含有する宿主細胞、プロテインキナーゼC−αの発現を抑制または低減する物質、プロテインキナーゼC−αの移行を抑制する物質、プロテインキナーゼC−α活性の拮抗剤、およびプロテインキナーゼC−α活性の阻害剤からなる群から選択される、請求項50に記載の医薬組成物。
【請求項52】
前記作用物質が、プロテインキナーゼC−αをコードする遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチド、トコフェロール、ホルボール化合物、プロテインキナーゼC−αの誘導体、またはプロテインキナーゼC−αの類似体である、請求項51に記載の医薬組成物。
【請求項53】
少なくとも1種類の更なる活性成分を含む、請求項50から52のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項54】
前記の更なる活性成分が、プロテインキナーゼC−βの発現および/または活性を特異的に低減または抑制する作用物質である、請求項53に記載の医薬組成物。
【請求項55】
プロテインキナーゼC−βの発現および/または活性を低減または抑制する前記作用物質が、プロテインキナーゼC−β遺伝子の発現を低減または抑制する核酸、前記核酸を含有するベクター、前記ベクターを含有する宿主細胞、プロテインキナーゼC−βの発現を抑制または低減する物質、プロテインキナーゼC−βの移行を抑制する物質、プロテインキナーゼC−β活性の拮抗剤、およびプロテインキナーゼC−β活性の阻害剤からなる群から選択される、請求項54に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−503841(P2006−503841A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−538744(P2004−538744)
【出願日】平成15年9月23日(2003.9.23)
【国際出願番号】PCT/DE2003/003165
【国際公開番号】WO2004/028516
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(505106302)フェノス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】