説明

糖尿病性神経障害における末梢神経の形態機能的回復のための上皮増殖因子の使用

本発明は、ヒト用医薬品に関し、有痛性感覚運動神経障害並びに虚血性神経炎の徴候における末梢神経の形態機能的回復のための、神経節及び/又は神経幹の周辺に浸潤によって投与される医薬組成物を調製するための上皮増殖因子(EGF)の使用に関する。本発明は、麻酔剤若しくは鎮痛剤と共に製剤され得る又はミクロスフェア中に封入され得るEGF含有組成物、並びに有痛性の感受性運動型糖尿病性神経障害及び虚血性神経炎の徴候における末梢神経の形態機能的回復のためのその使用も含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病性神経障害の任意の臨床的徴候、及び虚血性神経炎の徴候を予防する又は治すための、神経幹及び/又は神経節の周辺に浸潤によって投与することが好ましい、上皮増殖因子(EGF)を含む医薬組成物の医学的又は実験的適用に関する。前記製剤は局所的に、四肢の末端領域に又は神経障害性疼痛を感じる切断肢に基づいて投与することもできる。
【背景技術】
【0002】
血液中の不適当なグルコースレベル及び他の糖尿病関連因子は、身体の任意の部位で神経線維を変化させ、冒された神経に応じて特異的な特徴を有する一群の障害を生じる場合がある。これらの障害は、総じて糖尿病性神経障害と称され、少なくとも3つ主要な種類が記述されている:(1)感受性運動神経障害(最も典型的かつ頻出の形態)、(2)自律神経障害、及び(3)単神経障害(Sadikot SM、Nigam A、Das Sら、(2004).WHO 1999年基準を使用したインドにおける糖尿病及び糖耐性減退の要旨:インドにおける糖尿病有病率の研究(The burden of diabetes and impaired glucose tolerance in India using the WHO 1999 criteria:prevalence of diabetes in India study(PODIS).Diabetes Res Clin Pract,66,301〜7)。
【0003】
これらの障害の背景の正確な機序は完全には理解されていないが、神経線維が、グルコース代謝の悪化に由来する物質の蓄積によって構造的に修飾され、それにより神経線維中のミエリン鞘が喪失することは周知である。この保護鞘の喪失は、運動指令又は任意の他の種類のシグナルの感知、伝達のいずれにおいても神経インパルスを伝達する能力の遅延を意味する。この直接の機序に加えて、神経に血液を注いでいる血管が、糖尿病の他の慢性合併症に一般的である事象による閉塞を引き起こす恐れがある(Ashok S、Ramu M、Deepa R ら、(2002)。南インドの糖尿病センターに通院する2型糖尿病患者における神経障害の有病率(Prevalence of neuropathy in type2 diabetes patients attending diabetes center in South India.J Assoc Physicians India,50,546〜50)。
【0004】
糖尿病において一般的であるように、糖尿病性神経障害の初期段階は、一般的に、何年間も無症候性であり、今日までその潜行性の臨床経過を予期する方法は無い。医師が、感受性運動性糖尿病性神経障害を疑う場合、神経伝導の速度を評価する検査を実施することによって診断を確認できる。この検査は、選択した神経を介する少量の電流の伝達速度の決定から成る。
【0005】
糖尿病性神経障害のさらに頻出の形態、感受性運動神経障害において、初期の症状として、感受性の喪失、触覚の不正確な認知及び特定の場合においてわずかな皮膚への接触後の鋭敏な疼痛が挙げられる。通常、これは最初、足及び手に、主に夜間に生じる。冒された神経が消化運動を司る場合、遅い消化過程又は腸の律動の変化(下痢及び/又は便秘)が起きる場合がある。時に、糖尿病性神経障害は、心臓血管系制御を冒し、患者が急に起き上がる場合に失神又は低血圧を引き起こす(Levitt NS、Stansberry KB、Wychanck Sら、(1996))。自律神経障害の自然進行及びIDDMコホートでの自律機能検査(Natural progression of autonomic neuropathy and autonomic function tests in a cohort of IDDM.Diabetes Care,19,751〜54)。
【0006】
糖尿病性単神経障害は、事実上、任意の孤立した神経を冒す場合があり、顔面の片側の麻痺、眼球運動の変化、具体的な解剖学的位置の麻痺及び/又は疼痛を生じる。
【0007】
末梢神経障害は、頭蓋神経、又は脊髄及びその分枝の神経を冒す場合があり、段階的に進行する傾向がある型の神経障害(神経病変)である。初期には、四肢、特に足に疼痛及び間欠的な刺痛があるが、さらに進行した段階では疼痛はより強く、持続的である。最終的に、無痛性神経障害を、神経の変質が強い場合に発症する(Oh SJ.(1993).Clinical electromyography:nerve conduction studies.In:Nerve conduction in polyneuropathies.Baltimore:Williams and Wilkins,p:579〜91)。
【0008】
糖尿病性神経障害のさらに重篤な事象の1つは、時に激しく、標準的治療手順に応答しない、関連する疼痛である。薬学的及び臨床的治療が、十分に成功しないが使用されている。前者は、遮断された線維にまで到達して浸透できる鎮痛剤、非ステロイド性抗炎症剤、カルバマゼピン及びフェントラミンなどの鎮痙剤、三環系抗うつ剤及び局所麻酔剤との組合せで主に用いられている。鎮痙剤は、近年、糖尿病性神経障害に伴う疼痛を治療するために使用されている。その中で、疼痛を治療するために最近導入されたのは、ガバペンチンである。神経化学的にはガパペンチンは、ガンマアミノ酪酸(GABA)の生物利用能を増大し、GAT−1担体を阻害し、結果としてGABAの再捕捉を低減し;ノルアドレナリン、ドパミン及び5−OH−トリプタミンなどの生体アミンの合成及び放出を減少させ;疼痛調節に関与するエンセファリン型アヘンペプチドの放出を誘導する(Didangelos TP、Karamitsos DT、Athyros VGら、(1998))。確定的な糖尿病性自律神経障害を有する患者における心臓血管反射検査についてのアルドース還元酵素阻害の効果(Effect of Aldose reductase inhibition on cardiovascular reflex tests in patients with definite diabetic autonomic neuropathy.J.Diabetes Complications,12,201〜7)。
【0009】
有痛性神経障害を有しかつ、治療への応答を欠いている患者において、経皮的電子的刺激が、プログラムされた、低強度の電圧を印加するなどの方法で使用されており、冒された神経を介しての疼痛の伝達が防止されている。
【0010】
有痛性糖尿病性神経障害は、慢性及び急性の形態に分類されている。急性形態は、典型的には診断後の最初の3年間に観察され;突発的に始まり、突発的に治まる。慢性形態は、平均で8又は9年間糖尿病を罹患している患者に生じる。それは、ゆっくり始まり、複数回の再発を伴って何年も持続する。頭蓋神経障害は、視覚を冒し、眼に疼痛を生じる場合がある。
【0011】
疾患の症状は、一般的に、嗜眠、刺痛、身体のいくつかの部分での感受性の喪失、下痢又は便秘、膀胱制御の喪失、インポテンス、顔面、眼瞼及び/又は口の下垂である。それは、視覚の変化、めまい、腫脹障害、言語の変化及び筋肉の収縮も生じる場合がある。これらの症状は、冒された1つ又は複数の神経に応じて変化し、一般に徐々に発症する。
【0012】
糖尿病性神経障害に伴う感受性の喪失は、病変の危険性を増大させる。わずかな感染が潰瘍になるまで進行し、切断が必要になる場合がある。一方、運動神経の損傷は、運動分解及び筋肉の不均衡をもたらす場合がある。すなわち、神経障害は、恐らくこの疾患での脚及び足の切断の主な原因である。
【0013】
糖尿病性神経障害の治療の目的は、本疾患の進行の予防及び症状の低減である。グルコースの厳しい管理が、その進行を回避するために重要である。現在、糖尿病性神経障害における神経線維の変化の予防、阻止又は回復が可能である特効的な治療法は無い。神経損傷の修復が可能であると認可されている薬剤は無いが、いくつかが、現在研究中である。複合ビタミンB剤は、全ての形態の神経障害のために、恐らく最も使用されている薬剤である。これらの薬剤は、いくつかの症状を軽減するが、それらは緩和剤でしかない。最近使用されている他の治療の選択肢は、抗酸化特性に基づくリポ酸の静脈経路による適用である(Ziegler D、Hanefeld M、Ruhnau KJら、(1999)。抗酸化剤アルファ−リポ酸での症候性糖尿病性多発神経障害の治療:7ヵ月間多施設ランダム化対照試験(ALADIN III研究)、ALADIN III研究グループ、糖尿病性神経障害におけるアルファ−リポ酸(Treatment of symptomatic diabetic polyneuropathy with the antioxidant alpa−lipoic acid:a 7 month multicenter randomized controlled trial(ALADIN III study).ALADIN III study group.Alpa−lipoic acid in diabetic neuropathy.Diabetes Care,22,1296〜301)。他のアッセイは、細径感受性線維に個別的な影響を示す化合物、アセチルL−カルニチンでの経口治療を導入するために実施されている。
【0014】
末梢糖尿病性神経障害について病因に基づいた唯一の治療手順は、アルドース還元酵素阻害剤の使用に関する。その活性は、糖尿病の生物の神経に高血糖によって誘導される構造的及び機能的代謝障害における、アルドース還元酵素の役割に基づく。現在までに、神経障害を有する糖尿病のヒトで運動伝導速度の改善に有効であるソルビニルが臨床試験で評価されたが、毒性作用のために市場から撤退した。スタチルは、動物で有望な結果を示したが、これらの結果はヒトでは認められなかった。一般に、アルドース還元酵素阻害剤は非常に毒性である。
【0015】
考慮すべき楽観論が臨床で、神経増殖因子(NGF)及び他の増殖因子の導入を提案した。細径線維(C線維)神経障害を有する250名の患者でのアッセイにおいて、疼痛解除及び熱刺激を検出する能力の増大が立証された。しかし、さらに多数の患者での続く2つのアッセイにおいて、NGFでの治療はいかなる利益も示さなかった(Vinik AI.(1999)。組換えヒト神経増殖因子(rh NGF)での糖尿病性多発神経障害(DPN)の治療(Treatment of diabetic polyneuropathy(DPN) with recombinant human nerve growth factor(rh NGF).Diabetes,48,A54〜5)。
【0016】
血管内皮増殖因子(VEGF)での遺伝子治療は、動物において大規模に評価されており、神経インパルスの伝導及び神経に血液を注いでいる血管の密度の改善を示している。しかし、これ及び追加の神経親和性薬剤を用いる他の手法は、動物での先行する肯定的結果にもかかわらず、臨床試験において糖尿病性神経障害の進行を停止できていない(Schratzberger P、Walter DH、Rittig Kら、(2001))。VEGF遺伝子導入による実験的糖尿病性神経障害の回復(Reversal of experimental diabetic neuropathy by VEGF gene transfer.J Clin Invest,107,1083〜92)。症状を低減するために、カプサイシン又はアミトリプチリン、ガバペンチン及びカルバマゼピンなどの経口薬剤での局所的な治療が推奨される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
糖尿病性神経障害の病因機序は、十分に理解されていない。現在の治療は疼痛を解消し、付随する症状の一部を管理できるが、経過は一般に進行性である。最も悪いことは、この疾患に対する特効薬が近い将来に入手できそうにないことである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、有痛性の感受性運動神経障害並びに虚血性神経炎における末梢神経の形態機能的回復のための、神経幹及び/又は神経節の周辺に浸潤を介して投与される医薬組成物においてEGFを使用することにより上記問題の解決に寄与する。
【0019】
糖尿病に伴う末梢神経の変化は、複雑であり、様々な原因が恐らく関与する。2つの主な発症機序は、1)長期にわたり末梢神経に構造的変化を引き起こす一連の生化学的異常をもたらすソルビトール蓄積説、2)低酸素又は虚血によって引き起こされる神経線維の変化を生じる、神経内膜微小血管の構造的及び機能的損傷である。糖尿病性神経障害の発生の他の機序は、酵素産生の調節、補体系の活性化、鉄及び銅などの重金属に対して高い親和性を有するタンパク質の蓄積、並びに神経親和性因子の減少である。強く主張されている他の要素は、過酸化物及びニトロシル化物の蓄積である。神経内膜の酸素分圧の低減が、神経障害に罹患している糖尿病患者の神経において観察されている。これら全ての事象は、神経構造での高レベルのアポトーシス及び細胞死をもたらす。これが、糖尿病性神経障害が、ミエリン化された神経線維のレベルでの機能単位の喪失及び神経伝導速度(NCV)の顕著な低減によって特徴付けられる理由である。末梢多発神経障害は、アルファ及びC線維の機能障害に関連する疼痛の存在によって特徴付けられる。
【0020】
一般に、本発明の組成物は、当業者がC線維の損傷を認めた場合に、それを切断の前後の脚の末梢疼痛領域である、神経幹及び/又は神経節の近傍に配置して、局所浸潤によって適用される。本組成物により数週間治療すると、神経障害性疼痛が消失し、非自律神経障害が緩和され、圧力及び温度に対する末梢感受性が回復し得ることが示されている。
【0021】
糖尿病の動物において医薬組成物を3回全身注射する、又は神経幹の周辺に局所浸潤した後、本発明者らは、以下のことを認めた。
1.坐骨神経のミエリン鞘の完全性の改善
2.軸索浮腫の低減
3.軸索神経フィラメントの保存
4.神経栄養血管の完全性
5.神経内膜膠原化の減少
6.運動線維の伝導速度の正常化
【0022】
この組成物は、目的の構造の近傍に1から5ミリリットルの容積で緩徐に放出される。神経幹及び神経節への浸潤の頻度は、1週間に1回から3回の間で変えることができる。本発明に記載の組成物による治療は、アルドース還元酵素阻害剤、アミノグアニジン、経口又は非経口血糖降下剤、インスリン、インスリンに対する末梢感受性の刺激剤、グルカゴン様ペプチド、ビタミン療法、GABA系の作用薬又は増幅剤、エンドルフィン前駆体、抗酸化剤、脂肪酸又はその前駆体、個々の療法又は鎮痛剤と組合せた療法、三環系抗うつ剤及び抗炎症剤を伴う場合も伴わない場合もある。患者に施される適用の回数は、患者の臨床症状の重症度によって異なる。症状が再出現する場合は、数サイクルの治療が必要である。
【0023】
本発明の具体的な一実施形態は、感受性運動神経障害のより重大な発現により脚が冒されている場合、この神経障害における末梢神経の形態機能的回復のための、神経幹及び/又は神経節の周辺に浸潤によって投与される製剤を調製するためのEGFの使用である。好ましい実施形態において、末梢神経の形態機能的回復のための、神経幹及び/又は神経節の周辺に浸潤を介して投与される医薬組成物を調製するために使用されるEGFは、ヒト組換えEGFである。
【0024】
本発明の他の具体的な実施形態において、EGF含有医薬組成物の浸潤は、坐骨神経に行われる。
【0025】
本発明の目的は、糖尿病性神経障害における末梢神経の形態機能的回復のための、神経幹及び/又は神経節の周辺に浸潤を介して投与される、EGFと少なくとも1つの局所麻酔剤又は鎮静剤との組合せを含有する注射可能な医薬組成物である。具体的な一実施形態において、前記麻酔剤は、EGFの浸潤によって生じる疼痛の緩和に寄与するリドカインである。さらに、組成物中に存在する添加された麻酔剤は、中でもブピバカイン又はノボカインであり得る。
【0026】
本発明の一部として、EGFが放出制御系を用いて神経幹及び/又は神経節の周辺に浸潤を介して投与される組成物もある。好ましい一実施形態において、前記放出制御系は、乳酸及びグリコール酸、又はポリ乳酸コポリマーで作製された、EGFを含むミクロスフェアである。
【0027】
ミクロスフェアにより、いくつかの利点を享受することができ、最も一般的なものは、投与頻度の低減である。本発明は、糖尿病性神経障害の治療に特異的である利用可能な薬剤がないことに対して技術的解決を提示する。しかし、EGF含有医薬組成物による治療は、この分子がミクロスフェアに結合しない場合、少なくとも1週間に2回、相当する用量の薬剤の適用を必要とする。この不便さを考慮しても、EGFの緩徐で持続的な放出のための製剤の使用は、製品の投与頻度を低減し、それは患者にとって有益である。ミクロスフェアに基づく製剤は、以下の利点を有する。
投与頻度が低減し、それにより患者の治療に対するアドヒアランスがより良好となる。
血清中のタンパク質レベルの変動が減少することにより、治療効果が高まる。
投与された用量の効能が高まることにより、治療に必要な総投与量が潜在的に減少する。
適用時に身体に放出されるタンパク質の量が減少することにより、有害事象が潜在的に減少する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】EGFを含むミクロスフェアの顕微鏡写真である。顕微鏡写真の下の線は、10μm長を表す。
【図2】PALミクロスフェアに封入されたEGFの放出プロファイルのグラフである。X軸は、経過日数を示し、Y軸は、放出されたEGFの量をアッセイで使用したミクロスフェア中のEGFの全量に対する百分率で表す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0029】
(実施例1)糖尿病性神経障害の回復における医薬組成物の予防効果
本研究の目的は、真性糖尿病の動物モデルでのEGF含有医薬組成物の神経保護効果を評価することであった。最初に、ストレプトゾトシンを投与することによるウィスターラットでの真性糖尿病誘導の方法論を確立する必要があった。
【0030】
ウィスター雄、体重200〜250グラムに、クエン酸ナトリウム緩衝液中のストレプトゾトシンを75mg/kgで皮下注射した。次いで、低血糖による死を防ぐために、続く24時間は水を10%ショ糖溶液に置き換えた。血液中のグルコースレベルは、注射後72時間は毎朝モニターした。グルコース値15mmol/L以上を維持した動物だけを使用した。ラットは、1ケージ当たり4匹ずつ入れ、通常の方法で給餌した。同時に他のラット80匹の群にストレプトゾトシンを含まないクエン酸緩衝液を与え、糖尿病群と同様のやり方で扱った。この群の72時間の血糖の平均値は、5.87mmol/Lであった。
【0031】
糖尿病性神経障害の予防におけるEGF含有医薬組成物の効果を研究するために、以下の実験設計:
・対照群 腹腔内経路によって1週間に3回、生理食塩水1mlを投与される糖尿病ラットの群
・処置群1 腹腔内経路によって1週間に1回、EGF含有医薬組成物1mlを投与される糖尿病ラットの群
・処置群4 腹腔内経路によって1週間に3回、EGF含有医薬組成物1mlを投与される糖尿病ラットの群
を各群についてラット10匹で使用した。
【0032】
全ての処置は、ストレプトゾトシン注射の1週間後に開始し、8週間実施した。使用した組成物は、ヒト組換えEGFを1ml当たり75μg含有していた。研究中の動物についていくつかの種類の観察を実施した。
【0033】
(1)侵害受容閾値(NCT)の決定、疼痛試験
尾に増大する圧力を適用することによる疼痛試験を処置開始後28日目及び56日目に、各実験群1つ当たり動物10匹を使用して実施した。グラム数で表すNCTは、動物の尾に徐々に増大する圧力を、それらが逃避反射を示すまで適用するためにUgo Basile型無痛覚計を使用することによって決定した。ヒトの糖尿病性神経障害において、侵害受容閾値は低減している。表1は、28日目に測定したNCTの結果を示す。
表1.NCT検査の結果(28日目)
【表1】

【0034】
疾患進行の28日後では、動物の侵害受容様式に変化は検出されなかった。これは、知覚過敏の臨床形態がまだ始まっていないことを示唆している。これにより、処置の効果はこの時点ではまだ判断できない。56日目の検査の結果を表2に示す。
【0035】
結果が示す通り、糖尿病誘導の2ヵ月後では、動物で末梢糖尿病性神経障害の影響を判断することができる。疼痛感受性閾値の低減がこの実験の時点で検出された。2ヵ月間生理食塩水を投与された糖尿病ラットの群と1週間に3回、EGF含有組成物での処置を受けた群との間にも顕著な差異がある。
表2.NCT検査の結果(56日目)
【表2】

【0036】
生理食塩水で処置した糖尿病群と、処置3を受けた群及び非糖尿病ラットの群との間に有意差が観察された(**p<0.01 ANOVAとボンフェローニ補正)。処置1の群と、処置3の群及び健康な動物との間にも有意差があった。処置した動物が一般に疼痛に対してより耐性を示したという発見は、EGF含有組成物での処置が感受性線維の変質を予防したことを示唆している。
【0037】
(2)感受性線維によるインパルスの伝導速度の決定
感受性及び運動線維でのEGF含有医薬組成物の予防効果を評価するために、電気インパルスの伝導速度を処置開始の60日後に測定した。各実験群について動物15匹を使用した。糖尿病性神経障害において伝導速度は、一般に低下している。
【0038】
双極電極を使用する坐骨−脛骨経路での遠位の最大刺激を運動伝導を研究するために使用した。感受性経路での伝導速度の決定は、尾の近位点に刺激を適用し、3cm離れてそれを測定することによって実施した。60日目でのこの研究の結果を表3に示す。
表3.60日目の運動伝導速度(MCV)
【表3】

【0039】
生理食塩水で処置した糖尿病群と、処置3を受けた群及び非糖尿病ラットの群との間に有意差が観察された(**p<0.01 ANOVAとボンフェローニ補正)。有意差が、処置1の群と処置3の群及び健康な動物との間にもあり(**p<0.05);処置群1と生理食塩水を投与された対照の糖尿病の動物との間にもあった。
【0040】
組成物の、具体的には1週間に3回の適用を受けた群における、肯定的効果に注目されたい。運動線維での伝導の値は、健康な動物におけるそれに非常に類似している。非糖尿病動物の群とはまだ統計的差異があるが、処置1を受けた群のラットも伝導速度が改善した。60日目での感受性伝導速度(SCV)の研究結果を表4に示す。
表4.60日目での感受性伝導速度(MCV)
【表4】

【0041】
生理食塩水で処置した糖尿病群と、処置3を受けた群及び非糖尿病ラットの群との間に有意差が観察された(**p<0.01 ANOVAとボンフェローニ補正)。処置1の群と、処置3の群及び健康な動物との間にも有意差があり(**p<0.05);処置群1と生理食塩水を投与された対照の糖尿病の動物との間には統計的差異は検出されなかった。この研究は、1週間に3回投与した場合での、動物の機能的完全性を保存するためのEGF含有医薬組成物の効果を示している。
【0042】
(3)末梢神経の血液灌流の完全性における組成物の影響
ラットの右坐骨神経をモデルとして使用した。各実験群1つに動物10匹が含まれた。同様の数の非糖尿病ラットを基準値を算出するために使用した。レーザードップラー灌流画像(LDPI)システムを使用した。末梢組織から神経への灌流のデータをゼロ値としてプログラムした。対照動物に、測定前の2ヵ月間生理食塩水を与えた。全ての決定は、同じ麻酔条件及び環境条件下で実施した。それらを表5に示す。
表5.レーザードップラー灌流画像システムで実施した研究の結果
【表5】

【0043】
生理食塩水で処置した糖尿病群と治療用組成物を1週間に1回投与された群、両処置とも2ヵ月間、との間に;及び治療用組成物を1週間に3回投与された群との間にも有意差が(**p<0.01 ANOVAとボンフェローニ補正)観察された。後者の群と健康な非糖尿病ラットからの値との間に統計的差異は検出されなかった。
【0044】
(4)死後での決定及び特徴付け
組織形態計測的研究
処置完了後、動物を糖尿病誘導の70日後、最後の用量を与えた10日後で上に記載の分析が終了した後に屠殺した。動物は、過量投与の麻酔薬によって屠殺し、緩衝生理食塩水pH7.4で灌流した。実験群当たり合計10匹の動物が組織形態計測的研究のために含まれ、同等数のラットを生化学的決定のために使用した。両方の系において、両肢由来の坐骨神経を切開し、断片を処理まで−70℃で保存した。組織学的及び/又は組織形態計測的研究のために採取した試料をヘマトキシリン/エオシン及びトルイジンブルーで染色した。同じ神経の少なくとも5個の断片をMADIPプログラムを使用して定量的に研究した。断片をセロイジン及びゼラチンのブロックに包含し、これらのブロックを水平及び横断方向に薄切りにした。以下の組織学的指標:
一定倍率として10×を使用した、神経の縦方向の切断における10顕微鏡視野中の(神経鞘/神経周膜での)血管の総数。
脱髄線維の百分率。顕微鏡視野当たりの値を平均することによって評価した(×20、少なくとも5視野)。
顕微鏡視野当たりの、(膨張した又は歪んだ)病変を有するミエリン又は非ミエリン線維の百分率(×20、少なくとも5視野)。
神経内膜の膠原化の百分率(少なくとも異なる3ヵ所の切片の横断的薄片の神経内膜面積において、中等度:25から50%;重度:50%超を評価した。この研究の結果を表6に示す。
表6.坐骨神経の断片で実施した形態計測的研究
【表6】

【0045】
生理食塩水で処置した糖尿病の動物の群と健康な対照ラットの間の血管数において統計的有意差が示された(p=0.0023)。さらに、生理食塩水群と処置1を受けた群とを比較した場合にも統計的差異が見られた(p=0.031)。生理食塩水群を、処置3を受けた群と比較した場合にも統計的差異があった(p=0.014)。結果は、ANOVAとボンフェローニ補正によって分析した。百分率はフィッシャー直接確率法で比較した。
【0046】
3つのパラメーターについて処置群間に統計的有意差が見られた:脱髄線維の百分率、病変を有する線維の百分率及び膠原化面積の百分率。インスリン処置糖尿病マウスの群と処置3を受けた動物との間に統計的差異が検出された(p<0.05)。
【0047】
部分的結論 EGF含有組成物での1週間に3回、2ヵ月間の処置は、脱髄過程を予防でき、坐骨神経線維の形態学的変質を顕著に低減でき、結果として神経内膜膠原化を予防できた。同様に、この組成物での持続的処置は、神経を養っている血管の委縮及び変性を顕著に回避する。これら全ての発見は、感受性及び運動刺激伝導に関して実施された機能検査、及びレーザードップラーシステムでの灌流研究と一致する。
【0048】
(5)神経断片の生化学的特徴付け
実験群当たり10匹の動物を、採取した坐骨神経の断片での生化学的決定を実施するために使用した。研究した生化学的パラメーターは、以下の:
酸化還元プロファイル
全スーパーオキシドジムスターゼ酵素活性(tSOD)
カタラーゼ酵素活性
全ヒドロペルオキシド(HPT)の軸索内蓄積
マロニルジアルデヒド(malonyldialdehyde)(MDA)の軸索内蓄積
である。この研究の結果を表7に示す。
表7.坐骨神経由来断片での酸化還元状態の特徴付け
【表7】

【0049】
プラセボで処置した糖尿病の動物とEGF含有組成物で1週間に3回処置したそれとの間に有意差が観察された(**p=0.0001)。EGF含有製剤で1週間に1回処置した群と1週間に3回処置した群との間、及び非糖尿病動物と比較した場合にも差異があった(p=0.003)。健康な動物と1週間に3回処置した動物との間に両側スチューデントT検定によって差異は見られなかった。
【0050】
グルコースの蓄積がいくつかの生化学的機序を介して脂質過酸化レベルの増大に、結果として終末糖化産物(AGE)の組織内の蓄積に寄与することから、この過程に関連するマーカーを評価することは必須である。表7に示す結果によって表される通り、アッセイした医薬組成物での処置は、過酸化過程の代謝指標の蓄積を、適用の頻度に応じて顕著に低減する。同時に、処置はスーパーオキシドジムスターゼの減少を予防できる。
【0051】
(6)坐骨神経断片でのリポタンパク質リパーゼ(LPL)酵素活性
各動物由来の神経の断片をクレブス−リンゲル緩衝液中のヘパリン3μg/mlと37℃で、50分間インキュベートした。これらの試料の一定分量を次いで、[14C]トリオレイン−ホスファチジルコリンの存在下でインキュベートした。14C標識脂肪酸を古典的方法によって定量した。LPL活性は、組織1グラム当たり、1分間に放出された脂肪酸(RFA)のナノモル数で表した。結果を表8に示す。
表8.坐骨神経におけるLPL活性
【表8】

【0052】
生理食塩水で処置した糖尿病のラットと、処置3を受けた群並びに非糖尿病ラットの群との間に有意差が見られた(**p<0.01 ANOVA及びチュ−キー法)。処置1の群と対照動物との間にも差異(p<0.05)があった。処置3と非糖尿病動物との間に統計的有意差は見られなかった。
【0053】
本分析は、EGF含有組成物での処置が、LPL酵素活性の保存を達成し、結果としてミエリンを合成する神経の能力を、この機能へのリン脂質の適切な寄与によって、改善することを示している。
【0054】
(実施例2)既に罹患している糖尿病性神経障害の回復における医薬組成物の効果
本研究の目的は、医薬組成物の神経修復効果を評価することであった。体重200〜250グラムの間のウィスターラット雄にクエン酸ナトリウム緩衝液中のストレプトゾトシンを75mg/kgで皮下注射し、疾患の誘導後120日間まで進行させた。この実験で使用した全てのラットは、15mmol/L以上に維持されたグルコースレベルを示した。動物は、既に記載の通り扱い、給餌した。同時に、動物にストレプトゾトシンの代わりに生理食塩水を与えた対照群を設定した。動物を、ストレプトゾトシン投与後3ヵ月間観察した。この期間の後に、全てのラットで電気生理学的特徴付けを行い、動物を2つの無作為の処置群に分けた:
群I.1週間に3日間、腹腔経路によって生理食塩水(1ml)を投与される動物。
群II.1週間に3日間、腹腔経路によって1ml中にEGF100μgを含む医薬組成物を投与される動物。
【0055】
同腹由来の、少なくとも10匹の健康な非糖尿病ラットの群を、非糖尿病動物での生理学的値の基準として含めた。処置開始前の動物の神経生理学的特徴付けの結果を表9に示す。これらの調査において使用した方法は、既に記載されている。
表9.処置開始前の動物の神経生理学的特徴付け
【表9】

【0056】
(1)侵害受容閾値(NCT)の決定、疼痛試験
尾への徐々に増大する圧力の適用から成る疼痛試験、及び次に記載する残りの調査を1ヵ月間の治療後の糖尿病誘導後120日目に実施した。各実験群1つ当たり少なくとも動物10匹を使用した。NCT決定を、既に記載の通り実施し、結果を表10に表す。
表10.NCT検査の結果
【表10】

【0057】
生理食塩水で処置した糖尿病ラットの群と、処置を受けたラットの群並びに非糖尿病ラットの群との間に有意差が観察された(**p<0.01 ANOVA及びボンフェローニ補正)。処置群と元の動物との間にも差異があった(p<0.05)。
【0058】
結果は、糖尿病誘導の3ヵ月後では、末梢神経障害の進行の増大、健康な動物と比較して50%を超える疼痛感受性閾値の低減があることを示している。糖尿病ラットの群と1週間に3回、1ヵ月間、医薬組成物で処置した群との間に観察された差異にも注目すべきである。
【0059】
処置した動物は、一般に疼痛に対してより高い耐性を示し、発見は、医薬組成物での処置が感受性線維をなんらかの方法で治した又は回復させたことを示唆している。
【0060】
(2)運動線維を介するインパルスの伝導速度の決定
感受性及び運動線維の回復についての医薬組成物の効果を検査するために、電気インパルスの伝導速度を糖尿病誘導後120日目、動物を医薬組成物又は生理食塩水で処置した後に測定した。実験群当たり動物15匹を使用した。続く手順は、これまでの研究に対して既に記載されており、結果を表11に示す。
表11.運動線維の伝導速度の調査
【表11】

【0061】
生理食塩水で処置した糖尿病ラットの群と、本発明の組成物を投与されたラットの群並びに非糖尿病ラットの群との間に有意差が見られた(**p<0.01 ANOVA及びボンフェローニ補正)。EGF含有組成物で処置した群と元の非糖尿病動物との間にも差異があった(p<0.05)。
【0062】
結果は、糖尿病誘導の3ヵ月後では、末梢神経障害の進行の増大、及び運動線維に沿った刺激の伝導速度の低減が、特に健康な動物と比較する場合にあることを示している。しかし、医薬組成物での処置が、1週間に3回、1ヵ月間生理食塩水を投与された糖尿病ラットの群と比較して大きな差異を示したことを理解することは重要である。一般に、医薬組成物での処置は、運動神経線維を回復させ、その伝導能力を改善する。
【0063】
研究した他の態様は、表12に示す通り、感受性伝導速度(SCV)である。
表12.感受性伝導速度(SCV)の研究
【表12】

【0064】
生理食塩水で処置した糖尿病ラットの群と、EGF含有組成物を投与されたラットの群並びに非糖尿病ラットの群との間に有意差が見られた(**p<0.01 ANOVA及びボンフェローニ補正)。本発明の組成物で処置した群と元の非糖尿病動物との間にも差異があった(p<0.05)。
【0065】
結果は、糖尿病誘導の3ヵ月後では、末梢神経障害の進行の増大、及び感受性線維に沿った刺激の伝導速度の低減が、特に健康な動物と比較する場合にあることを示している。パラメーターの悪化は50%を超える。しかし、医薬組成物での処置が、1週間に3回、1ヵ月間生理食塩水を投与された糖尿病ラットの群と比較して大きな差異を示したことを理解することは重要である。一般に、医薬組成物での処置は、感受性神経線維を回復させ、それは、侵害受容閾値検査と一致する。
【0066】
(3)末梢神経の血液灌流の完全性についての医薬組成物の影響
ラットの右坐骨神経を再びモデルとして使用した。各実験群1つ当たり動物10匹を使用した。非糖尿病ラット由来の値を基準値として含めた。実験は、既に記載の通り実施したが、この場合は、動物は既に3ヵ月間糖尿病であり、実験群に応じてEGF含有組成物又は生理食塩水で1ヵ月間持続的に処置を受けていた。結果を表13に表す。
表13.レーザードップラー灌流画像システムで実施した研究の結果
【表13】

【0067】
生理食塩水で処置した糖尿病群と、EGF含有組成物を投与された群並びに健康なラットの対照群との間に有意差が見られた(**p<0.01 ANOVAとボンフェローニ補正)。本発明の組成物で処置した群と元の非糖尿病動物との間にも有意差(p<0.05)が見られた。
【0068】
本発明の組成物での処置は、神経への血液灌流のレベルを明らかに改善した。値は、健康な動物の値にはまだ匹敵しないが、生理食塩水を投与された糖尿病のラットと比較するとはるかに高い。この効果の背景の分子機構は、まだ明確ではない。
【0069】
(4)死後での決定及び特徴付け
組織形態計測的研究
EGF含有組成物又は生理食塩水のいずれかでの処置の完了の1ヵ月後、疾患誘導の120日後に、動物を過量投与の麻酔薬によって屠殺し、緩衝生理食塩水pH7.4で灌流した。実験群当たり合計10匹の動物が組織形態計測的研究のために含まれ、同等の数のラットを生化学的決定のために使用した。両方の系において、両肢由来の坐骨神経を切開した。手順は、神経障害的損傷予防のアッセイについて記載されたものと同様であった。組織学的及び組織形態計測的研究のために採取した試料をヘマトキシリン/エオシン及びトルイジンブルーで染色した。同じ神経の少なくとも5個の断片をMADIPプログラムを使用して定量的に研究した。断片をOCTブロックに包含し、グルタルアルデヒドで後固定し、水平及び横断方向に薄切りにした。評価した組織学的指標並びに処理及び評価のために使用した手順は、既に記載されている:
一定倍率として10×を使用した、神経の縦方向の切断における10顕微鏡視野での(神経鞘/神経周膜での)血管の総数。
脱髄線維の百分率。顕微鏡視野当たりの値を平均することによって評価した(×20、少なくとも5視野)。
顕微鏡視野当たりの、(膨張した又は歪んだ)病変を有するミエリン又は非ミエリン線維の百分率(×20、少なくとも5視野)。
神経内膜の膠原化の百分率(少なくとも異なる3ヵ所の切片の横断的薄片の神経内膜面積において、中等度:25から50%;重度:50%超。
【0070】
結果を表14に示す。糖尿病のラットの両方の群と元のラットの間の血管数において統計的有意差が示された(p<0.001)。EGF含有組成物で処置したラットと生理食塩水を投与された動物との間にも統計的差異が見られた(p<0.05、ANOVAとボンフェローニ補正)。
表14.坐骨神経の断片について実施した形態計測的研究 30日後での評価
【表14】

【0071】
糖尿病の動物における脱髄した線維、病変を有する線維及び膠原化した神経内膜面積の百分率は、非糖尿病動物において観察された値と有意に異なっていた(p<0.001)。健康な動物とEGF含有組成物で処置した動物との間に有意差が検出されたが(p<0.05)、損傷の減弱効果は明らかである。百分率は、フィシャー直接確率法を使用して比較した。
【0072】
部分的結論 糖尿病性神経障害確立後の、1週間に3回、1ヵ月間の本発明の組成物での処置は、坐骨神経線維の形態学的変質を顕著に低減した。本組成物での処置は、血管の委縮及び変性も低減できた。やはり、これら全ての発見は、実施された機能検査と一致する。
【0073】
(5)神経断片の生化学的特徴付け
各群から動物10匹を、採取した坐骨神経の断片での生化学的決定のために使用した。以下の生化学的パラメーター:
酸化還元プロファイル:
全スーパーオキシドジムスターゼ(tSOD)酵素総活性
カタラーゼ酵素活性
全ヒドロペルオキシド(THP)の軸索内蓄積
マロニルジアルデヒド(MDA)の軸索内蓄積
を研究した。この研究の結果を表15に示す。
表15.坐骨神経の断片での酸化還元状態の特徴付け
【表15】

【0074】
プラセボ及び処置した糖尿病動物とEGF含有組成物で処置したラットの群との間に統計的有意差が見られた(p<0.01、両側スチューデントT検定)。表15に示す通り、医薬組成物での処置は、研究した神経組織において過酸化過程の代謝指標の存在を顕著に低減する。同時に、処置がスーパーオキシドジムスターゼ酵素の機能障害を減弱することが示されている。
【0075】
(6)坐骨神経断片でのリポタンパク質リパーゼ(LPL)酵素活性
この研究の目的は、EGF含有組成物での1ヵ月の処置後のLPL酵素活性を、生理食塩水で処置した糖尿病の動物と比較することであった。結果を表16に示す。生理食塩水で処置した糖尿病群と本発明の組成物で処置した群との間に有意差が観察された(**p<0.01、ANOVA及びチュ−キー法)。
表16.坐骨神経におけるLPL活性
【表16】

【0076】
本分析は、EGF含有医薬組成物での処置がLPL酵素活性を回復させ、結果としてミエリンを合成する神経の能力を改善することを示している。
【0077】
(実施例3)糖尿病性神経障害を有する患者の治療におけるEGF含有組成物の治療効果の証明
合計5名の患者をEGF含有組成物で治療した。これらの患者は、感受性運動及び有痛性神経障害の徴候を有し、従来の治療に反応しなかった。投与されたEGFの用量は、20及び25μgの間であった。この活性な薬学的成分を含有する組成物の適用は、浸潤によって行われた。治療した例は以下の通り:
患者PCM 50歳女性患者、20年超の1型糖尿病の診断、虚血性心臓障害の症状、高血圧及び神経障害を有する。10年を超えて進行し、従来の治療に臨床的反応が無い、感受性運動神経障害の病歴及び有痛性神経障害の徴候。1用量当たりEGF25μg及びリドカイン100mgを含有する組成物を、主な坐骨神経に浸潤させた。この手順を常に坐骨神経に1週間に2回でさらに5回、合計6回の適用について繰り返した。3回目の浸潤後に疼痛は消失した。治療開始から8週間後、感受性運動の徴候は止み、3ヵ月間の追跡調査期間を通じてそのように維持された。
【0078】
患者OZD 糖尿病を罹患している72歳女性患者、重症の動脈閉塞及び安静時疼痛を有する。歩行できず、完全な下肢知覚麻痺を有する。同組成物の3回の適用を同じ解剖学的位置(主な坐骨神経)に実施した。患者は、EGF含有組成物の投与後でも脚の知覚麻痺は止まなかったと述べたが、安静時疼痛は本組成物の3回の適用後に消失し、患者は、より速く歩行できた。
【0079】
患者BCB 60歳女性患者、10年超の1型糖尿病の診断、安静時疼痛及び肢に知覚麻痺を有する。主な坐骨神経に浸潤によって同組成物を6回適用した。3回目の適用後に疼痛は消失し、知覚異常は、低減した。最終用量の適用の3週間後に疼痛が再出現したため、新たな治療周期を実施した。
【0080】
患者GTC 糖尿病を罹患している57歳男性患者、肢に知覚麻痺を有する。同組成物の6回の適用を4日間隔で同じ解剖学的位置に実施した。前述の治療の終了後、脚の知覚麻痺の症状は消失し、3ヵ月間の追跡調査期間を通じてそのように維持された。
【0081】
患者STL I型糖尿病を10年超罹患している68歳男性患者。下肢に知覚麻痺の徴候を呈する。同組成物の6回の適用を同じ解剖学的位置に、1週間に2回適用の割合で実施した。初回周期(6用量)の治療後、下肢の知覚麻痺は、6ヵ月後に再発するまで消失した。これにより新たな治療周期を同じ手順に従って適用し、知覚麻痺の徴候は3回目の浸潤後に低下した。
【0082】
患者の神経学的機能における実質的改善が、安静時の自発痛及び感覚異常的感覚の消失を示して一般的に観察された。
【0083】
(実施例4)EGFを有するPLGAミクロスフェアを含有する医薬組成物の調製
EGFを含むミクロスフェアの調製及び特徴付け
5%(w/v)ポリ乳酸溶液(Sigma、St.Louis、Missouri、USA)をポリマー1gをジクロロメタン(DCM)に溶解することによって調製した。
【0084】
PLGA溶液3ミリリットルをガラス容器に入れ、EGF30mg/mlの水性溶液100μlを添加した。
【0085】
混合物をUltraturrax T8 homogenizer(IKA Labortechnik、Alemania)を用いて、14000rpmで2分間撹拌した。得られた乳剤を1%ポリビニルアルコール 30mlに注ぎ、2次乳剤(w/o/w)をT8 Ultraturrax homogenizer(IKA Labortechnik、Germany)を使用する14000rpmでの2相の激しい撹拌を介して得た。両面乳剤を1%ポリビニルアルコール30000〜70000(Sigma、St.Louis、Missouri、USA)270mlに注ぎ、ホモジナイザー(IKA Labortechnik、Germany)で300rpm、1時間、ジクロロメタンを蒸発させるために撹拌した。最後にミクロスフェアをろ過によって回収し、50ml蒸留水で5回洗浄し、凍結乾燥機(Edwards、UK)で凍結乾燥した。乾燥させたミクロスフェアは、使用まで4℃で保存した。
【0086】
得られたEGFを含むミクロスフェアは、球状であり、均一で多孔性の表面を示した(図1)。工程の回収率は、封入効率は68から71%の範囲で、85%であった。ミクロスフェアの負荷は、0.82から0.85%の範囲であった。粒子は、30μmより小さかった。
【0087】
封入されたEGFのin vitro放出
EGFを含むミクロスフェア50mgを受容体液(PBS pH7.2中、0.001% Tween 80及び0.1%アジ化ナトリウム)1mlに懸濁した。懸濁液を穏やかに撹拌しながら37℃でインキュベートした。試料を、1、3、7及び14日目にHettich microcentrifuge(Tuttlingen,Germany)で5000rpm、5分間遠心分離した。上清を回収し、同容積の受容体液を添加した。各試料中のEGF濃度を微量定量法(マイクロBCAアッセイ)でのビシンコニン酸法によって評価した。
【0088】
ミクロスフェアからのEGFの放出プロファイルは、第1日目のバースト放出期、及び14日目までの持続的かつ徐放的なEGF放出の第2期を示した。全タンパク質の約30%が第1期の内に放出され、粒子内に含有されたEGFの50%までが残りの評価期間中に1日当たり約7μgの速度で放出された(図2)。
【0089】
(実施例5)糖尿病性神経障害を有する患者でのミクロスフェアに封入したEGF含有組成物の治療的効果の証明
次いで我々は、ミクロスフェアに封入したEGF含有組成物で治療した患者3名のいくつかの特徴及び彼らに適用した治療についての情報を要約する:
患者LNP 47歳女性患者、10年超の1型糖尿病の診断を有し、感受性運動及び有痛性神経障害Iの徴候を有する。主な坐骨神経に1用量当たりEGF20μgを含有する組成物を浸潤させた。この手順を1週間に2用量の頻度で3回、合計4回の適用について繰り返した。疼痛は3回目の浸潤後に低減し、4回目の適用後に消失した。感受性運動徴候は、2週間後に消失し、3ヵ月間の追跡調査期間を通じてそのように維持された。
【0090】
患者JVR 63歳女性患者、I型糖尿病を有する。安静時疼痛及び肢の知覚麻痺を呈する。1用量当たりEGF25μgを含有する組成物を12日ごとに6回適用した。組成物の適用は、主な坐骨神経への浸潤によって行った。3回目の適用後に疼痛は消失し、知覚異常は、低減した。組成物の最終適用の6週間後に疼痛が再出現したため、新たな周期の治療を開始した。
【0091】
患者DGR 52歳、男性患者、型糖尿病を有し、肢の知覚麻痺を罹患。徐放用にミクロスフェアに封入した前記EGF含有組成物の5用量を、同じ解剖学的部位に、14日の間隔を置いて投与した。EGF治療を終了すると、脚の知覚麻痺は既に消えており、それは4ヵ月間の追跡調査期間を通じて維持された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感受性運動、有痛性神経障害並びに虚血性神経炎の徴候における末梢神経の形態機能的回復のための、神経幹及び/又は神経節の周辺に浸潤によって投与される医薬組成物を調製するための上皮増殖因子(EGF)の使用。
【請求項2】
感受性運動、有痛性神経障害又は虚血性神経炎の最も顕著な徴候が下肢を冒す、請求項1に記載のEGFの使用。
【請求項3】
前記増殖因子がヒト組換えEGFである、請求項1に記載のEGFの使用。
【請求項4】
前記EFGがミクロスフェアに封入されている、請求項1から3までに記載のEGFの使用。
【請求項5】
前記EGF含有医薬組成物が液体であるか又は使用前に再構成されるように凍結乾燥されている、請求項1から4までに記載のEGFの使用。
【請求項6】
前記EGF含有医薬組成物が、場合により緩衝されている水性組成物であるか又は水又は水性緩衝液で再構成される凍結乾燥組成物である、請求項5に記載のEGFの使用。
【請求項7】
前記医薬組成物が、1ミリリットル当たり10から1000マイクログラムのEGFを含有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のEGFの使用。
【請求項8】
前記EGF含有医薬組成物が、リドカイン、ブピバカイン又はノボカインからなる群から選択される、10マイクログラムから500ミリグラムの少なくとも1種の局所麻酔剤又は鎮静剤をさらに含有する、請求項1から7のいずれか一項に記載のEGFの使用。
【請求項9】
局所麻酔剤が2%リドカインである、請求項8に記載のEGFの使用。
【請求項10】
感受性運動、有痛性神経障害;及び神経幹及び/又は神経節の周辺での虚血性神経炎の徴候の治療のための、末梢神経の形態機能的回復のための医薬組成物であって、局所麻酔剤又は鎮静剤との組合せでEGFを含有する医薬組成物。
【請求項11】
EGFがミクロスフェアに封入されている、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
麻酔剤がリドカイン、ブピバカイン又はノボカインからなる群から選択される局所麻酔剤である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
EGFが10から1000マイクログラム/ミリリットルの範囲である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項14】
感受性運動、有痛性の糖尿病性神経障害及び/又は虚血性神経炎の徴候における末梢神経の形態機能的回復における、請求項10から13に記載の医薬組成物の使用。
【請求項15】
糖尿病性神経障害に伴う任意の種類の運動線維損傷を治療するための、請求項14に記載の医薬組成物の使用。
【請求項16】
治療が神経幹及び/又は神経節の周辺に浸潤によって適用される、請求項14に記載の医薬組成物の使用。
【請求項17】
浸潤が坐骨神経に行われる、請求項16に記載の医薬組成物の使用。
【請求項18】
浸潤が1週間に1から3回、3から8週間実施される、請求項14に記載の医薬組成物の使用。
【請求項19】
治療が、強い神経痛を伴う、一方又は両方の下肢の虚血を伴う又は伴わない、損傷した又はしていない領域への局所浸潤によって実施され、前記治療が1週間に1から5回、2から6週間、組成物の局所浸潤によって実施される、請求項14に記載の医薬組成物の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2010−505773(P2010−505773A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530751(P2009−530751)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【国際出願番号】PCT/CU2007/000018
【国際公開番号】WO2008/040260
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】