説明

紙葉類取扱装置

【課題】異常紙葉類を正確に判別することが可能な紙葉類取扱装置を提供することにある。
【解決手段】紙葉類取扱装置1は、紙葉類5の搬送方向に設けられ紙葉類5を搬送するローラ対20、21と、下流側のローラ対21を上流側のローラ対20より大きい速度で駆動する回転駆動源23と、ローラ対20、21と独立して上流側のローラ対20に並行して設けられ、紙葉類5の表面状態を検出する検出手段41と、検出手段41との間で紙葉類5を通過させる接触部22と、検出手段41の検出に基づいて紙葉類5の状態判定を行う判定手段31、43とを備え、検出手段41は、紙葉類5に圧力を付加する圧力付加手段40、44と、接触部22、検出手段41間の第1所定距離bを調整する第1の調整機構46と、上流側の一方側のローラ20aの支持機構52と第2所定距離a離隔され紙葉類5への検出手段41の接触深さ(aーb)を調整する第二の調整機構47とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣等の紙葉類の摩擦特性を測定して紙葉類の選別を行う紙葉類取扱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば現金自動取引装置(ATM:Automatic Teller Machine)のように、紙幣等の紙葉類を繰り出して搬送する装置においては、ローラ等の搬送手段を紙葉類に接触させ、紙葉類と搬送手段の間に働く摩擦力を利用して紙葉類を繰り出すことにより搬送している。
しかし、紙葉類に加わる摩擦力を決定する係数である紙葉類と搬送手段との間の摩擦係数は、紙葉類の状態、例えばしわの度合いや腰の強さ、汚れ等により変化するため、搬送手段が紙葉類に加える押圧力を一定にした場合においても、紙葉類の状態によっては、ジャム(紙詰まり)やスキュー(紙曲り)、変形等を生じ、エラー発生の原因となることがある。
【0003】
このため、従来では紙葉類の状態を判別し、紙葉類の摩擦力や摩擦係数等の摩擦特性を検出して、例えば摩擦係数が極端に高い紙幣は装置内に還流させなくしたり、或いは、そのまま出金して利用者に返却するなどして、エラー原因を排除したり、回避するなどの搬送制御を行っている。
紙幣等の紙葉類を搬送しながら、紙葉類の摩擦特性を瞬時に測定できる方法として、下記の特許文献1、2、3に記載の測定方法が提案されている。
【0004】
特許文献1においては、紙葉類の搬送方向の前後に2組のローラ対を設け、各ローラ対に異なる押圧力を付与して2組のローラ対に異なる速度差を持たせて回転駆動し、一方のローラ対と紙葉類との間に生じるすべりから負荷トルクを測定し、その測定値により紙葉類の摩擦係数を算出して、紙葉類の状態を判断するように構成している。
【0005】
特許文献2に記載の紙葉類処理装置においては、摩擦ローラからなる分離部において、摩擦ローラの一方の軸端を、紙幣分離時に作用するトルクを摩擦ローラの回転角として検出するセンサを備えたセンサプレートに接続し、検出したトルクにより正常紙幣と異常紙幣とを判別する方法が記載されている。異常紙幣が判別された際には、異常紙幣の搬送速度を減速して搬送することにより、異常紙幣を安定して搬送処理することができ、紙幣ジャムを未然に防止する技術が開示されている。
【0006】
特許文献3に記載の紙葉類厚さ検知装置においては、紙幣が基準ローラと検知ローラ間を通過する際に検知レバーが回転して紙幣の厚さを測定することが記載されており、紙幣の通過により変位する検知ローラが移動することにより厚さを測定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2003−315183号公報(段落0016、図3等)
【特許文献2】特開平11−157706号公報(段落0021、図1、図6等)
【特許文献3】特開2002−321849号公報(段落0014、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図10は、従来の紙葉類取扱装置の二組の一対の送りローラ対200、210を用いて紙葉類の摩擦力測定方法を示す概念的側面図である。
図10を用いて、従来の紙葉類取扱装置の送りローラ対200、210を用いた紙葉類の表面状態の検出方法の原理について、説明する。
従来の紙葉類取扱装置の紙葉類判別機構は、ATM等の紙葉類取扱装置に投入された紙幣が1枚ずつ搬送される図10に示す紙葉類搬送路110と、第一モータ230により回転され投入された紙幣5を挟んで送る第1送りローラ対200と、該第1送りローラ対200と独立して第二モータ240により回転され投入された紙幣5を挟んで送る第2送りローラ対210とを具えている。なお、第1送りローラ対200と第2送りローラ対210とは、それぞれ図10の紙面に垂直方向に一対配設されている。
【0008】
第1送りローラ対200には、第1送りローラ対200の回転トルク、回転速度等を測定する、例えばトルクメータの検出器220が接続されており、検出器220によって瞬時に紙葉類の送りによる回転トルク、回転速度等の変化量が検出されるように構成されている。
以下、従来の紙葉類取扱装置の紙葉類判別機構の動作を、図11に従って説明する。なお、図11は、従来の紙葉類取扱装置の紙葉類判別方法の動作を示すフローチャートである。
【0009】
まず、ATM等において、紙幣5が利用者により、紙幣収容空間(図示せず)に投入される。すると、紙幣収容空間の開閉パネルが自動的に閉塞され、紙幣5が一枚ずつ紙葉類収容空間から繰り出されて、図10に示す紙幣搬送路110内に搬送される。
図10に示すように、紙幣搬送路110においては、第一送りローラ対200が独立して第一モータ230により角速度ω1で回転するとともに、第二送りローラ対210が独立して第二モータ240により角速度ω2で回転しており、角速度ω1、ω2間には、ω1<ω2の関係がある。
紙幣搬送路110内に搬送される各紙葉類5が第一送りローラ対200に到達すると、紙葉類5は、その表面、裏面の両面が第一送りローラ対200に一定の接触荷重Nを加えられ挟まれ、第二送りローラ対210へ搬送される。
【0010】
ここで、紙幣5と第二送りローラ対210間の摩擦力が紙幣5と第一送りローラ対200間の摩擦力よりも十分大きく構成されるので、紙幣5は、第二送りローラ対210によって加速され、紙幣5と第一送りローラ対200との間に摩擦力Fが発生する。
この摩擦力Fを、第一送りローラ対200のローラに紙葉類5によって加えられたトルクTまたは回転角度の変化として計測する。
まず、トルクTと第一送りローラ対200により紙葉類5に加えられる所定の接触荷重Nを用いて、第一送りローラ対200を速度ω1で、第二送りローラ対210を速度ω2(ω2>ω1)で搬送したときの動摩擦係数μを算出する。
【0011】
送りローラ200に加わるトルクTは、摩擦力F、送りローラ200の半径rとすると、次式で表される。
T=r×F ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(1)
(1)式より摩擦力Fを算出する。そして、次式より動摩擦係数μを算出する。
μ=F/N ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(2)
上述したように、送りローラ対200、210の速度差により生じるトルク、または回転角度変化等により紙葉類5の摩擦力Fを測定し、動摩擦係数μを算出する(図11のS101)。
【0012】
続いて、図11のS102において、測定した動摩擦係数μが、異常紙幣と正常紙幣とを判別する閾値の動摩擦係数μ以下か否かが判定され、各紙葉類を異常紙幣と正常紙幣に判別する。ここで、紙葉類5の表面とローラ間の摩擦力Fは、紙葉類5の表面状態に大きく影響されるため、紙幣状態の検出に有効である。正常な紙葉類は、その表面状態が滑らかで摩擦力Fが小さく動摩擦係数μが閾値の動摩擦係数μ以下になる一方、しわ券、よれ券等の異常紙幣は、その表面状態が悪いために摩擦力Fが大きく動摩擦係数μが閾値の動摩擦係数μより大きくなる。
【0013】
この判定結果に従い、図11のS102において、測定した動摩擦係数μが閾値の動摩擦係数μ以下と判定された場合(図11のS102でYes)、搬送される紙葉類5は正常紙幣と判別され、図示しない紙葉類保管庫へ搬送する(図11のS103)。
一方、図11のS102において、測定した動摩擦係数μが閾値の動摩擦係数μより大きいと判別された場合(図11のS102でNo)、搬送される紙葉類5は、搬送不良を起こしやすい異常紙幣と判別され、図示しない一時保管庫へ搬送するかまたは返金する(図11のS104)。
【0014】
このように、トルクメータ等を用いて摩擦力Fを検出すれば、紙葉類の正常紙幣か否かの判別は可能であるが、実際にATM装置内にトルクメータを搭載することは、製造コストや庫内のスペースの面などから非常に困難である。
加えて、上述の従来技術では、紙幣の種類や基準の厚さが異なる場合、その基準厚さの違いにより摩擦ローラが回転し、紙幣の厚さや種類が変わると計測が正確に行えずに誤動作する場合があり、正常な紙幣が異常紙幣と検出されることが想定される。そのため、複数の基準厚さが異なる種類の紙幣のしわ券、よれ券等の異常紙幣を正確に判別することは殆ど不可能であるという問題がある。
【0015】
本発明は上記実状に鑑み、紙幣等の紙葉類の種類や基準の厚さが異なる場合においても、しわ券、よれ券等の異常紙葉類を正確に判別することが可能な紙葉類取扱装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成すべく、本発明に関わる紙葉類取扱装置は、紙葉類収容空間に投入された紙葉類を搬送し、該紙葉類が正常な紙葉類か異常な紙葉類かを選別する紙葉類取扱装置であって、紙葉類の搬送方向の上流側、下流側にそれぞれ設けられ紙葉類を搬送する少なくとも2組のローラ対と、下流側のローラ対を上流側のローラ対より大きい速度で回転駆動する2組のローラ対の回転駆動源と、2組の各ローラ対と独立して上流側のローラ対に並行して設けられ、紙葉類の表面状態を検出する検出手段と、検出手段に対向して設けられ、検出手段との間で紙葉類を通過させ該紙葉類に接触する接触部と、検出手段の検出結果に基づいて紙葉類の状態判定を行う判定手段とを備え、検出手段は、搬送中の紙葉類に所定の圧力を付加する圧力付加手段と、接触部と検出手段との間の第1所定距離を調整する第1の調整機構と、上流側のローラ対のうちの一方側のローラの支持機構と第2所定距離離隔され搬送中の紙葉類に対する検出手段の接触深さを調整する第二の調整機構とを有し、搬送される紙葉類の通過時に、上流側のローラ対のうちの一方側のローラが紙葉類の厚さに応じて寸法移動するとともに該移動に伴い検出手段を移動させ、検出手段を、搬送中の紙葉類に第1所定距離減算された接触深さで接触させて回転させることにより、検出手段によって紙葉類の表面状態を検出し、該検出手段の検出結果に基づいて判定手段によって紙葉類の状態判定を行っている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、紙幣等の紙葉類の種類や基準の厚さが異なる場合においても、しわ券、よれ券等の異常紙葉類を正確に判別することが可能な紙葉類取扱装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
<<第1実施形態>>
<紙葉類取扱装置であるATM1の概要>
図5は、本発明の第1実施形態の紙葉類取扱装置であるATM1の初期状態を示す内部の概念的側断面図である。
実施形態の紙葉類取扱装置であるATM1は、銀行などの金融機関の等の入金システムに利用されるものであり、利用者によってATM1に投入された紙葉類である紙幣5を、正常紙幣とよれ券、しわ券等の異常紙幣とに判別している。
【0019】
図5に示すように、ATM1は、利用者によって投入口3を通して紙幣5が投入される紙幣収容空間6と、紙幣収容空間6内を可動であるとともに投入された紙幣5を挟むビルプレス板8と、紙幣収容空間6内の紙幣5をビルプレス板8と挟むとともに投入された紙幣5を1枚ずつ紙幣搬送路11に繰り出す繰り出しローラ9(図6参照)と、紙幣搬送路11に繰り出された紙幣5を正常紙幣か異常紙幣かを判別する紙幣判別機構50と、紙幣判別機構50によって正常紙幣か異常紙幣かに判別された紙幣5を正常紙幣を保管する紙幣保管庫(図示せず)、異常紙幣を保管する一時保管庫(図示せず)等に向けて搬送する上流側の送りローラ対20および下流側の送りローラ対21とを備えている。
なお、図6は、第1実施形態の紙葉類取扱装置であるATM1における投入された紙幣5を紙幣搬送路11に送る動作を示す内部の概念的側断面図である。
【0020】
<紙葉類取扱装置であるATM1の動作概要>
次に、紙葉類取扱装置であるATM1の動作概要を説明する。
図5に示すように、まず、ATM1の利用者が、筐体2の正面側の操作パネル面2aの図示しないタッチパネルまたは押し釦でパネル操作を行ってスライド蓋4を開ける。そして、利用者は、紙葉類である紙幣5を投入口3を通して紙幣収容空間6内に投入して入金する。その後、図6に示すように、スライド蓋4は、自動的に閉塞される。
【0021】
紙幣5の投入完了をスライド蓋4の閉塞等で検知した後、図示しない駆動モータにより、ビルプレス板8を移動させることでビルプレス板8およびガイド板7で紙幣5を挟み込んだ状態で、これらを、図5に示す位置から図6に示す位置に向けて前進させる。こうして、ガイド板7を、紙幣搬送路11および紙幣収容空間6が紙幣導入口12を介して連通する所定の位置まで前進させて停止させる(図6参照)。その後、図6に示すように、ガイド板7のローラ窓10からその周面が露出する繰り出しローラ9、および紙幣搬送路11の送りローラ対20、21をそれぞれ回転駆動させる。
【0022】
繰り出しローラ9の駆動開始後に、紙幣収容空間6内の紙幣5は、繰り出しローラ9周面との摩擦力によってガイド板7に沿いながら、繰り出しローラ9によって紙幣導入口12内に向けて上方に繰り出される。この動作により、紙幣5が、紙幣収容空間6から紙幣導入口12を介して紙幣搬送路11に1枚ずつ移動する。その後、紙幣搬送路11に移動した各紙幣5は、紙幣搬送路11を通って、送りローラ対20、21へと搬送され、送りローラ対20近傍の紙幣判別機構50により各紙幣5の状態に応じて正常紙幣か異常紙幣かの判別が行われ、その判定結果は、図2に示す紙幣判別回路31に入力される。なお、図2は、第1実施形態のATM1の信号処理方法を説明するブロック図である。
【0023】
紙幣判別回路31は、各紙幣5の摩擦特性に基づき、各紙幣5の状態を判別し、紙幣選別回路32に各紙幣が正常紙幣か異常紙幣かの選別の指示を出力し、紙幣5の選別が行われる。紙幣選別回路32は、その指示に従い、紙幣5が正常紙幣の場合には図示しない紙幣保管庫へ図示しないローラで搬送する制御を行う一方、紙幣5が異常紙幣の場合には、紙幣5を図示しない一時保管庫へ図示しないローラで搬送または返金する制御を行い処理を終了する。
【0024】
<<ATM1の各部の構成>>
以下、ATM1における紙幣5の送り経路に沿って、順番にATM1の各部の構成をその動作とともに詳細に説明する。
図5に示すように、金融機関等に載置されるATM1は、外側が鋼板等の金属製の筐体2に覆われており、筐体2の正面側の操作パネル面2aには紙幣の投入口3が設けられており、この投入口3は、自動または手動のスライド蓋4によって開閉自在になっている。
【0025】
<ATM1の紙幣収容空間6>
筐体2の操作パネル面2aの下部内方には、利用者によって投入口3から投入された紙幣5を一時的に貯留するためのスペースである紙幣収容空間6が画設されている。
ATM1の利用者(図5の紙面右側に位置する)から見て、紙幣収容空間6の奥側(図5の紙面左側)には、投入された紙幣5を円滑に紙幣搬送路11に送るために所定の傾斜角度を有したガイド板7が配置されている。このガイド板7は、図5の実線で示す位置と図示しないストッパで止められるストッパ位置7p(図5の二点鎖線で示す)間を図5の矢印α1方向に往復動するように構成されている。ガイド板7には、図6に示すように、ストッパ位置7pに移動した際に繰り出しローラ9の周面の一部を露出するためのローラ窓10が形成されている。
【0026】
また、ATM1の利用者から見て紙幣収容空間6の手前側(図5の紙面右側)には、図示しないガイドレールに沿って水平方向(図5の紙面左右方向)に往復動自在な(図5に示す位置と図6に示す位置との間を往復する)ビルプレス板8が配置されている。
図6に示すように、紙幣5を紙幣収容空間6内に投入後にスライダ蓋4が閉鎖された後、ビルプレス板8が所定枚数の紙幣5を挟み込んだ状態で前進するとともに、ガイド板7が、そのローラ窓10から繰り出しローラ9の周面の一部が露出する所定のストッパ位置まで前進するように構成されている。
【0027】
<ATM1の繰り出しローラ9>
繰り出しローラ9は、その周面の一部に、例えばウレタンゴム、ブタジエンゴム等の紙幣5を摩擦力で送るための摩擦係数の大きい摩擦部を有する円筒形状のローラであり、図6に示すように、回転駆動されることにより、紙幣5を紙幣収容空間6から紙幣搬送路11へ1枚ずつ繰り出す働きを担っている。
繰り出しローラ9は、紙幣収容空間6からの紙幣5の繰り出し時において、紙幣5の送りを行うためにガイド板7のローラ窓10を通してその周面の一部が紙幣収納空間内に突出し、ガイド板7とビルプレス板8とで挟み込まれた紙幣5のうちでガイド板7に当接した状態の1枚の紙幣5の表面に接触しつつ回転し、接触時の紙幣5に働く摩擦力によって紙幣5をガイド板7に沿って、1枚ずつ上方の紙幣搬送路11に向けて繰り出している(図6参照)。
【0028】
<ATM1の紙幣搬送路11>
紙幣搬送路11は、紙幣収容空間6から繰り出した紙幣5のうち正常な紙幣を紙幣保管庫へ搬送する一方、しわ券、よれ券等の異常紙幣を一時保管庫または返金するための搬送路である。
紙幣搬送路11は、図5に示す紙幣収容空間6の投入口3をスライド蓋4で閉塞後にガイド板7がストッパ位置7pまで移動した場合(図6参照)に、紙幣収容空間6と連通する紙幣導入口12を有するとともに、紙幣5を図示しない保管庫、一時保管庫等へ搬送するための二組の一対の紙幣5の送りローラ対20、21が、紙幣搬送路11の上流側から下流側にかけて配置されている。すなわち、図5、図6の紙面に垂直方向に送りローラ対20、21がそれぞれ2つ配置される。
【0029】
<ATM1における紙幣判別機構50の概要>
図1は、紙葉類取扱装置であるATM1における紙幣判別機構50を示す図であり、図1(a)は、図6に示す実施形態のATM1における紙幣搬送路11のA−A線断面図であり、図1(b)は、図1(a)のB方向矢視図である。
図1に示すように、二組の一対の送りローラ対20、21のうちの上流側(紙幣収容空間6に近い側)の送りローラ対20に並行して、上流側の送りローラ対20の上方のローラ20aとほぼ同軸上に紙幣5の搬送に寄与することなく紙幣5の表面に接触し、その表面状態を検出するセンサ部41(図1(b)参照)を有する紙幣判別機構50が設けられている。
【0030】
図1に示す紙幣判別機構50は、回転角度検出部43に設けられたエンコーダ等の検出器により、搬送される紙幣5と接触するセンサ部41の回転トルク、回転角度の変化等により紙幣状態を判別する構成である。
図6に示すように、下流側(紙幣収容空間6に遠い側)の送りローラ対21が図示しない回転駆動源によって上流側(紙幣収容空間6に近い側)の送りローラ対20(モータ23(図1(a)参照)によって駆動される)より回転速度が速く設定されることにより、紙幣5が送りローラ対21に引っ張られ、この引っ張り力により送りローラ対20の上方のローラ20aとほぼ同軸上にあって紙幣5と接触するセンサ部41が、接触時の摩擦力によって第二調整バネ45のバネ力に抗して回転し(図1(a)参照)、紙幣5の表面状態に応じた回転角度等が検出される。
【0031】
<紙葉類取扱装置であるATM1の紙幣5の正常・異常の判定制御>
図2に示すように、紙幣判別機構50におけるセンサ部41からベルト42を介してエンコーダ等を有する回転角度検出部43で検出された回転角度等の検出値は、紙幣判別回路31に入力され、紙幣判別回路31はこの検出値を基に、摩擦力の大小の摩擦特性に基づき、紙幣5の状態を判別し、正常紙幣か異常紙幣を判別する。そして、紙幣判別回路31は、紙幣選別回路32に各紙幣を選別する指示を出力し、紙幣選別回路32の制御により、正常紙幣の紙幣5を図示しない紙幣保管庫に搬送する一方、異常紙幣の紙幣5を図示しない一時保管庫に搬送または返金のための搬送が行われる。
【0032】
なお、紙幣判別回路31、紙幣選別回路32は、マイコンおよびその周辺回路で構成することも可能である。この場合には、回転角度等の検出値は、増幅回路、A/D変換回路等の入力インターフェース回路に入力されてマイコンに適合した信号に変換され、マイコンのROM(Read Only Memory)に格納されるプログラムの動作により、摩擦力の大小の摩擦特性に基づいて紙幣5の状態から正常紙幣と異常紙幣とを判別し、その判別結果の正常・異常の判定制御信号を、出力インターフェース回路に出力し、この出力インターフェース回路の駆動回路、リレー駆動回路等の駆動信号によって選別搬送を行なう図示しない搬送ローラ等を駆動制御して、紙幣5の選別搬送が行われる。
【0033】
<紙幣判別機構50>
次に、紙幣判別機構50構成について、説明する。
図1(a)に示すように、左右の送りローラ対20は、その周面の一部または全部が摩擦部として例えばウレタンゴム、ブタジエンゴム等で形成される円筒状のローラであり、回転自在に支持されるとともに紙幣搬送路11下方のモータ23により送りローラ対20のうちの下方のローラ20bが回転駆動され、紙幣5を摩擦部との摩擦力によって下流に向けて搬送する。
【0034】
図3は、紙幣判別機構50の紙幣5の通過前の状態を示す図であって図6に示すATM1における紙幣搬送路11のA−A線断面図である。
図4(a)は、紙幣判別機構50の紙幣5の通過時の状態を示す図であって図6に示すATM1における紙幣搬送路11のA−A線断面図であり、(b)は、(a)図のC部拡大図である。
図1の点線で示した紙幣判別機構50は、その左右にある搬送用の送りローラ対20とは独立の構成になっており、紙幣判別機構50において、図3に示すように、紙幣5通過時(図4参照)に紙幣5の表面に接触して回転するセンサ部41が、紙幣搬送前には下部ローラ22と距離b(図3参照)離隔されており、紙幣通過前は回転しない構成としている。
【0035】
図6に示す紙幣収容空間6が配置される上流側から、繰り出しローラ9によって紙幣5が紙幣搬送路11に向けて搬送されてくると、その紙幣5は紙幣搬送路11を通過し、図1に示す左右の搬送用の送りローラ対20に達する。この左右の搬送用の送りローラ対20は、紙幣5を搬送させる動作のみを行う。
図1(b)に示すように、紙幣5が送りローラ対20で搬送される際、紙幣判別機構50のセンサ部41は、紙幣5の表面と接触して紙幣5との摩擦力により、第二調整バネ45の引張力のバネ力に抗してある一定角度回転する。この場合の回転角度がベルト42を介してエンコーダ等を有する回転角度検出部43に伝達され、その回転検出信号が増幅回路を通して増幅されA/D変換されて紙幣5の表面状態の検出信号として検出される。この検出信号を基に、紙幣5の表面状態を判定し、新券等の正常紙幣としわ券、よれ券等の異常紙幣とを選別する。
【0036】
センサ部41(図1、図4参照)は、紙幣5の表面状態に応じて回転するため、紙幣5が正常紙幣か異常紙幣かの正確な判定を行なうには、紙幣5の種類やその基準厚さが変わった場合においても、紙幣5の基準厚さの違いによって回転を起こすことなく、紙幣5の表面状態による厚さ変化分のみによって、センサ部41の回転が生じることが求められる。このような要求を満たすためには、紙幣5の基準厚さには鈍感であり、紙幣5の表面状態の変化による厚さ変化分に敏感である機構が必要とされる。
この要求を満足するために、図1(a)に示すセンサ部41と下部ローラ22との距離を調整する第一調整ネジ46およびセンサ部41の紙幣5の表面に対する接触深さを調整する図1(a)に示す第二調整ネジ47を設け、センサ部41を常に一定量の接触深さだけ紙幣5の表面に接触する機構としている。
【0037】
すなわち、図1の破線で示す紙幣判別機構50は、紙幣判別用のセンサ部41と、センサ部41を支軸40a(図1(b)参照)で回転自在に支持するとともに支軸48(図1(b)参照)を中心にATM1の固定部(図示せず)に回転自在に支持されるセンサホルダ40と、ベルト42を介してセンサ部41に接続されるエンコーダ等を有する回転角度検出部43と、センサホルダ40を図1(b)の矢印α2方向に引張りセンサホルダ40を介して紙幣11へ垂直荷重Nを与えるセンサホルダ40の上流側(紙幣収容空間6側)に配置される引張バネの第一調整バネ44と、センサ部41の回転を抑制する図1(b)に示す引張力F0を与える引張バネの第二調整バネ45と、センサ部41、下部ローラ22間の距離b(図3参照)を調整する第一調整ネジ46と、センサ部41の紙幣5の紙幣表面に対する接触深さを調整する第二調整ネジ47とを備え構成されている。なお、図1(a)においては、理解を容易にするために第一調整ネジ46を省略して示している。
【0038】
センサ部41は、図1(b)に示すように、一定の厚み寸法をもつ半月様の形状を有しており、その円弧状の周面で紙幣5の摩擦特性が測定可能なように摩擦力が大きいゴム等で形成されている。そして、センサ部41は、前記したように、センサホルダ40に支軸40a(図1(b)参照)で回転自在に支持されている。
センサ部41が、接触する紙幣5の表面状態によって第二調整バネ45の引張力のバネ力に抗して回転する回転角度によって、紙幣5を正常紙幣か異常紙幣かを判別する構成である。
【0039】
<紙幣判別機構50のセンサ部41が紙幣5の表面に接触する接触深さの設定方法>
次に、図1に示す紙幣判別機構50において、センサ部41が紙幣5の表面に接触する接触深さを設定する方法について図3、図4を用いて説明する。
まず、図3に示すように、センサ部41が下部ローラ22に対して所定の距離bだけ離隔して非接触状態にする方法を説明する。
図1(b)に示すように、ATM1の固定部(図示せず)の支軸48を中心に回転するように構成されたセンサホルダ40は、一方の上流側の端部が第一調整バネ44により上側に引っ張られており、他方の下流側の端部にはセンサ部41が回転自在に設けられている。
【0040】
センサホルダ40は、第一調整バネ44の上方への引張力のバネ力により支軸48を中心に反時計廻りに回転し、センサ部41が第一調整バネ44のバネ力により下部へ押し下げられる。
センサ部41の下部ローラ22は、図1(a)に示すように、送りローラ対20の下方のローラ20bと同軸に取り付けられており、モータ23により送りローラ対20とともに回転している。下部ローラ22は、送りローラ対20の下方のローラ20bと同径であり、これにより、紙幣5の通過時に、紙幣5の下面が送りローラ対20の下方のローラ20b、20bおよび下部ローラ22で成す平面上を通過することができ、円滑な紙幣5の搬送が可能である。
【0041】
なお、下部ローラ22は、送りローラ対20の下方のローラ20bと異なる径とすることもできるが、この場合には、送りローラ対20の下方のローラ20b、20bおよび下部ローラ22で平面を形成しないことから、紙幣5の通過時には、紙幣5の下面が送りローラ対20の下方のローラ20b、20bおよび下部ローラ22で成す非平面上を通過することになる。
【0042】
一方、センサ部41は、紙幣5との摩擦力が大きくなり過ぎると紙幣5が正常か異常かの摩擦力を用いた判定が不可能になるので、紙幣5の表面にのみ接触する必要がある。そのため、図3に示すように、紙幣5が搬送され通過する前の状態においては、センサ部41は、下部ローラ22とは非接触状態としている。
このセンサ部41と下部ローラ22との離隔距離b(図3参照)を調整するのが、図1(b)に示す第一調整ネジ46であり、第一調整ネジ46を回転させて、センサホルダ40の一方端部を下部に押し下げるとセンサホルダ40は支軸48を中心に時計廻りに回転する。
【0043】
この際、センサホルダ40の他方端部に支持されているセンサ部41は、センサホルダ40の支軸48を中心とする時計廻りの回転につれて上部に移動し、図3に示すように、紙幣5が上流側から搬送される前には、センサ部41を下部ローラ22と距離b(例えば10um)だけ離隔することができる。このようにして、紙幣5の搬送前にセンサ部41が下部ローラ22に当たって回転して誤動作しないような適切な距離に、第一調整ネジ46で調整された後にナット46nにより動かないように固定される。センサ部41は、距離b(図3参照)下部ローラ22と離隔されているため、紙幣5が搬送される前は検出機構のセンサ部41は回転することなく停止しており、誤測定が発生することが防止されている。
【0044】
<紙幣5の厚さに拘らず一定の距離だけ紙幣5の表面に接触する機構>
次に、紙幣5の紙幣の厚さが変わった場合でも、センサ部41が常に一定の距離、すなわち接触深さだけ紙幣5の表面に接触する機構について説明する。
図1(b)に示すように、半月様の形状のローラ形を成すセンサ部41は、センサホルダ40に対して支軸40aで回転自在に構成されており、第二調整バネ45により搬送方向の上流側に一定の引張力F0のバネ力で引張られている。
また、センサ部41はベルト42を介して回転角度検出部43に接続されており、紙幣5が搬送されて第二調整バネ45の引張力F0より大きいセンサ部41を回転させる摩擦力が働いた場合、センサ部41が回転し、その回転量が回転角度検出部43で検出される構成である。
【0045】
図3に示すように、センサホルダ40には、センサ部41の紙幣5の表面に対する接触深さを調整する第二調整ネジ47が設けられている。
コ字状支持部材51における上流側の送りローラ対20の上方のローラ20aを支持するローラ支持部52(図3参照)と第二調整ネジ47の先端部との間に、所定距離aが形成されるように、第二調整ネジ47をセンサホルダ40の調整部40hに対して廻して調整し、固定用のナット47nで動かないように固定する。なお、センサホルダ40の調整部40hには、第二調整ネジ47の雄ねじに螺合する雌ねじが螺刻されている。
【0046】
また、送りローラ対20の上方のローラ20aを支持するコ字状支持部材51は、紙幣判別機構50と独立して、ATM1の図示しない固定軸廻りに回転自在に支持されるとともに、図3に示すように、ローラ支持部52に支持される送りローラ対20の上方のローラ20aが、下方のローラ20bに当接するように、図示しないバネ等の弾性材により付勢されている。
【0047】
<紙幣判別機構50におけるセンサ部41の紙幣5の表面への接触深さの調整方法>
次に、図3、図4を用いて、センサ部41の紙幣5への接触深さを調整する方法について説明する。
図4に示すように、紙幣5が一組の送りローラ対20間に搬送されてきた場合、その紙幣5の紙幣厚さにより両側の送りローラ対20の上方のローラ20aが持ち上げられる。
ここで、図3に示すように、送りローラ対20の上方のローラ20aを支持するローラ支持部52の上部と第二調整ネジ47の先端部との間は、第二調整ネジ47を調整することにより、所定距離a離隔されている。
【0048】
厚さTの紙幣5が、上流側から搬送されてくる場合、まず両側の送りローラ対20のうちの上方のローラ20aが、図3に示す状態から、紙幣5の厚さTにより高さT分上昇する(図4参照)。しかしながら、送りローラ対20の上方のローラ20aを支持するローラ支持部52の上部とセンサホルダ40に螺着している第二調整ネジ47の先端部との間には所定距離a離隔されているため、センサ部41は、第二調整ネジ47の先端部がローラ支持部52の上部で押圧され、(T−a)分上昇する。
【0049】
このように、センサ部41は、送りローラ対20の上方のローラ20aの上昇と共に移動するため、紙幣厚さTの紙幣5に対しては、T−(T−a)=aの接触深さをもって表面に接触することになる。しかし、上述したように、第一調整ネジ46によりセンサ部41と下部ローラ22との間には紙幣搬送前に予め距離b(図3、図1(a)参照)だけ隙間が設けられているので、実際にはセンサ部41は距離(a−b)の接触深さで紙幣5の表面に接触することになる。この接触深さ(a−b)は、上述の関係により紙幣5の厚さTが代わっても変化せずに常に一定の接触深さとなる。
【0050】
例えば、紙幣厚さT=100μm、距離a=30μm、b=10μmと仮定する。図3、図4に示すように、両側の送りローラ対20の上方のローラ20aは紙幣厚さ分であるT=100μm上昇する。しかし、センサ部41が回転自在に支持されるセンサホルダ40は、(T−a)=70μmしか上昇せず、センサ部41は紙幣表面にa=30μm接触する筈である、しかし、紙幣搬送前にセンサ部41と下部ローラ22との間に予め隙間b=10μmが設定されているため、実際にセンサ部41が紙幣表面に接触する接触深さは(a−b)=20μmとなる。
【0051】
このように、紙幣の厚さTが変わった場合でも、図3、図4に示すように、常に所定距離(a−b)の接触深さだけセンサ部41は紙幣5の表面に押し付けられるため、紙幣の厚さTに拘らず紙幣表面の状態(紙幣厚さ変化分)に応じてセンサ部41は回転することが可能となる。
さらに詳しく紙幣状態の判別法を説明すると、例えば、新券の基準厚さをT0、よれ券の厚さをT0+α1とすると、厚さ変化分α1が(a−b)より小さい場合には、センサ部41と接触しないのでセンサ部41に回転を生じないが、(a−b)<α1のよれ券ではセンサ部41と紙幣5が接触し、接触量に応じてセンサ部41が回転し、回転信号が紙幣判別回路31(図2参照)で検出されることにより、よれ券を選別することが可能となる。
【0052】
紙幣5の紙幣通過後には、図3に示すように、両側の送りローラ対20の上方のローラ20aおよびセンサホルダ40は再び降下するが、センサホルダ40が支軸48(図1(b)参照)に支持されており、センサ部41と下部ローラ22との距離は紙幣通過前に設定した所定距離bに保持されるため、紙幣通過後にはセンサ部41は下部ローラ22と接触することがないため、センサ部41の回転は徐々に停止する。
【0053】
これらの二つの調整ネジ46、47による調整機構を設けることにより、基準厚さの異なる紙幣5が搬送されてきた場合でも、図4(b)に示すように、センサ部41を所定量(a−b)の接触深さをもって紙幣5の表面に接触させることが可能となるため、基準厚さの異なる種類の紙幣5についても、紙幣判別を同様に行うことができ、紙幣5の基準厚さ変化によるセンサ部41の誤動作を防止することが可能である。
さらに、図1(b)に示すように、センサ部41の荷重Nを調整する第一調整バネ44及びセンサ部41の回転力を調整する及び第二調整バネ45を設けることにより、紙幣判別機構50において、正常紙幣と異常紙幣を選別する判定条件を最適に調整することができる。
【0054】
<紙幣5の正常/異常紙幣かの判定>
図7は、紙幣判別機構50のセンサ部41で測定した紙幣5通過時のエンコーダ信号の一例を示した図であり、横軸に時間(ms)をとり縦軸にセンサ部41の回転角度を変換した電圧(V)をとっている。図7(a)は、新券の正常紙幣の測定信号の例であり、図7(b)は、よれ券の異常紙幣の測定信号の例である。
紙幣5の表面状態により、図7(a)に示す新券(正常紙幣)と図7(b)に示すよれ券(異常紙幣)とのエンコーダの回転角度に比例した電圧変化が異なっており、紙幣判別が可能であることが示されている。例えば、図7(b)に示す表面状態の悪い異常紙幣のよれ券は、図7(a)に示す表面状態の良い正常紙幣の新券より、電圧のピ−ク値が高くなっている。
【0055】
このことから、例えば、3Vを正常紙幣か異常紙幣かを判別する閾値として用いて、3V以下の場合には正常紙幣と判定し、3Vを超える場合はよれ券等の異常紙幣と判定することができる。
また、図7(a)に示す表面粗さの滑らかな正常紙幣のピーク値の幅b1が、図7(b)に示す表面粗さの荒い異常紙幣のよれ券のピーク値の幅b2より短いことに着目し、所定のピーク値幅を正常紙幣か異常紙幣かを判別する閾値として用いることもできる。
【0056】
また、図7(a)に示す表面粗さの滑らかな正常紙幣のピーク値ps1、ps2、ps3の数が3つであり、図7(b)に示す表面粗さの荒い異常紙幣のよれ券のピーク値pi1、pi2、pi3、pi4、pi5、pi6の数が6つであり、ピーク値の数が正常紙幣より異常紙幣が多くなることに着目し、所定のピーク値の数を正常紙幣か異常紙幣かを判別する閾値として用いることもできる。
【0057】
これらピ−ク値、ピーク値幅、ピーク値の数等を適宜組み合わせまたはこれらの少なくとも一つを、正常紙幣か異常紙幣かを判別する閾値として、用いることが可能である。
例として、図7で検出された電圧Vのピーク値により紙幣判別を行う方法を、図8に従って説明する。なお、図8は、図7で検出された電圧Vのピーク値により紙幣判別を行う際のフローチャートを示す図である。
まず、図7に示すように、紙幣判別機構50のセンサ部41で測定した紙幣5のエンコーダ信号を取得し、センサ部41の回転角度から紙幣5の表面粗さを測定する(図8のS01)。
【0058】
続いて、紙幣5の表面粗さにより、センサ部41の回転に比例した検出電圧のピーク値が、正常紙幣か異常紙幣かを判定する閾値の所定の値V0以下か否かを判断し、正常紙幣か異常紙幣かを判別する(図8のS02)。
図8のS02において、センサ部41の回転に比例した検出電圧のピーク値が所定の値V0以下の場合(図8のS02でYes)には、正常紙幣と判別して紙幣保管庫に搬送する(図8のS03)。
【0059】
一方、図8のS02において、センサ部41の回転に比例した検出電圧のピーク値が所定の値V0より大きい場合(図8のS02でNo)には、異常紙幣として一時保管庫へ搬送するかまたは返金処理を行う。
以上の処理を行うことにより、ATM1に投入される紙幣5のうちから異常紙幣を排除して正常紙幣のみ紙幣保管庫に搬送することで、ATM1の障害発生率を低減することが可能である。
【0060】
<<変形形態>>
ところで、センサ部41の紙幣5と接触する部分には、紙幣状態に応じて最適なウレタンゴム等のゴム部材またはポリアセタール、ABS(Acrylonitrile、Butadiene、Styreneの共重合合成樹脂)等のプラスチック部材等で構成することも可能である。国によっては、紙幣がポリイミドフィルム等により製造されていることもあるため、センサ部41の回転力を効率よく生じるのに最適な部材で構成することがより望ましい。
また、センサ部41の幅および個数については、センサ部41の幅はより広くかつ個数が多い方が紙幣の表面状態をより広い面積範囲およびより多い測定箇所で測定できるため、より高精度な紙幣判別機構50を実現することが可能である。
【0061】
さらに、センサ部41の感度を上げるために、センサ部41から紙幣5に加わる荷重N(図1(b)参照)のうちの調整が効かない重量部分を減少させることを目的に、図1に示したセンサ部41を有するセンサホルダ40と回転角度検出部43とを分離して、回転角度検出部43を別部材に固定するとともにベルト42を介してセンサ部41と連動するように構成することで、センサ部41を有するセンサホルダ40の軽量化を図ることができる。これにより、センサ部41から紙幣5に加わる荷重Nのうちの重量部分を極力減少させ、センサ部41の測定感度を向上させ、紙幣5の判別をより高精度に行うことが可能である。
【0062】
なお、紙幣判別機構50をATM1に搭載する場合には、紙幣判別機構50において、調整ネジ46、47によりそれぞれ離隔距離a、b(図3参照)が最適な値に調整される。また、第一調整バネ44により押付荷重N(図1(b)参照)が最適な値に調整されるとともに第二調整バネ45によりセンサ部41のバネ力F0(図1(b)参照)は最適な値に調整され固定されるため、より小型化、簡略化された機構として搭載される。
【0063】
例えば、バネ力F0としては、10〜20gが判別性良好であり、5mmの伸びで20g位の引張力のバネ定数の引張バネが、第二調整バネ45として好適である。また、押付荷重Nは、低過ぎる場合、例えば20〜30gの場合には、振動が生じて不安定になる一方、200gとすると重過ぎ測定感度が低下するが、50〜150gの場合には測定が安定して行なえ、好適である。
また、センサ部41は、搬送中の紙幣5に所定量の接触深さで接触し、紙幣5の表面状態(紙幣厚さ変化分)に応じて所定の角度回転し紙幣5の厚さ変化分を回転角度として検出できれば、前記の半月様状のローラ以外にカム等によって構成してもよい。
【0064】
<<第2実施形態>>
次に、第2実施形態の紙葉類取扱装置であるATM1について、図9を用いて説明する。なお、図9は、第2実施形態の紙葉類取扱装置であるATM1の紙幣判別機構50の構成を示す図1(a)のB方向から見た図である。
第2実施形態のATM1の紙幣判別機構50は、センサ部41の動作を、第1実施形態の回転角度検出部43に代替して、フォトセンサ等の変位センサで検出するように構成している。
【0065】
これ以外の構成は、第1実施形態と同様であるので、同一の構成要素には、第1実施形態と同一の符号を付して示し、詳細な説明を省略する。
図9において、変位センサ55は反射型のフォトセンサ等で構成されており、投射光をセンサ部41と一体に形成されたレバー部56に投射し、レバー部56からの反射光を変位センサ55で検出することにより、センサ部41の動作(変位)を検出するものである。
ここで、レバー部56としては、ポリアセタール、ABS等のプラスチックレバーが適用でき、反射性を高めるためには、レバー部56の反射面に反射テープ、白色の紙等を貼り付けてもよい。
【0066】
変位センサ55で検出された検出信号は電圧に変換され、図2に示す紙幣判別回路31に入力される。そして、紙幣判別回路31は紙幣5の摩擦特性に基づき、紙幣5の状態を判別し、紙幣選別回路32に各紙幣5の選別の指示を出力し、紙幣選別回路32で紙幣5の選別が行われる。紙幣選別回路32の指示に従い、正常紙幣は図示しない紙幣保管庫へ搬送する一方、異常紙幣は一時保管庫へ搬送するかまたは返金して処理を終了する。
前記したように、最適な状態で紙幣判別機構50を構成することにより、正常紙幣か異常紙幣かの正確な判別が可能となり、紙幣ジャム等のトラブルが起こりにくく、信頼性の高いATM1を提供することが可能となる。
【0067】
ここで、変位センサとしては、センサ部41の回転角度が検出できればよいので、フォトセンサ以外の磁気センサでもよく、センサとしては、第1実施形態のエンコーダ、第2実施形態のフォトセンサに限定されない。なお、第1実施形態で例示したエンコーダは、簡素かつ信頼性の高い構造で、かつ低コストで有利である。
なお、変位センサとしては、感度が良い、応答速度が速い、安価である等が紙幣判別機構50に適用する条件として挙げられる。
【0068】
<<作用効果>>
本発明によれば、紙葉類である紙幣の種類や基準厚さが異なる紙幣でも表面状態(紙幣厚さ変化分)を同一の検出器で正確に判別することが可能となり、効率的に紙幣を選別することができる。また、トルクメータ等を用いるよりもコスト的に安価な紙葉類取扱装置を提供することが可能である。
【0069】
なお、特許請求の範囲の請求項1の接触部として、第1実施形態では、図1(a)、図4に示すように、送りローラ対20の下方のローラ20bと同径、同軸の下部ローラ22を例示して説明したが、接触部としては、例示した下部ローラ22以外に、紙幣5の動きに従って回転するフリーな非駆動ローラとしてもよいし、紙幣5の下面と単に滑らかにすべるスベリ面としてもよく、第1実施形態で例示した下部ローラ22に限定されない。
なお、接触部をスベリ面とした場合には、スベリ面は不動であるので、センサ部41の誤検出は発生しないので、紙幣5の非通過時に、スベリ面にセンサ部41を接触させる構成とすることが可能である。
【0070】
なお、本実施形態では、紙葉類として紙幣5を例示して説明したが、紙葉類であれば紙幣5以外にも幅広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】(a)は、図6に示す本発明の第1実施形態の紙葉類取扱装置であるATMにおける紙幣搬送路のA−A線断面図であり、 (b)は、 (a)図のB方向矢視図である。
【図2】第1実施形態のATMの信号処理方法のブロック図である。
【図3】第1実施形態のATMにおける紙幣判別機構の紙幣の通過前の状態を示す図であって図6に示すATMにおける紙幣搬送路のA−A線断面図である。
【図4】(a)は、第1実施形態のATMにおける紙幣判別機構の紙幣の通過時の状態を示す図であって図6に示すATMにおける紙幣搬送路のA−A線断面図であり、(b)は、(a)図のC部拡大図である。
【図5】第1実施形態の紙葉類取扱装置であるATMの初期状態を示す内部の概念的側断面図である。
【図6】第1実施形態の紙葉類取扱装置であるATMにおける投入された紙幣を紙幣搬送路に送る動作を示す内部の概念的側断面図である。
【図7】(a)は、第1実施形態の新券の正常紙幣の測定信号の例であり、図7(b)は、第1実施形態のよれ券の異常紙幣の測定信号の例である。
【図8】第1実施形態の図7で検出された電圧Vのピーク値により紙幣判別を行う際のフローチャートを示す図である。
【図9】第2実施形態の紙葉類取扱装置であるATMの紙幣判別機構の構成を示す図1(a)のB方向から見た図である。
【図10】従来の紙葉類取扱装置の二組の送りローラ対を用いて紙葉類の摩擦力測定方法を示す概念的側面図である。
【図11】従来の紙葉類取扱装置の紙葉類判別方法の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
1 ATM(紙葉類取扱装置)
5 紙幣(紙葉類)、
6 紙幣収容空間(紙葉類収容空間)、
20 送りローラ対(2組のローラ対、上流側のローラ対)、
20a 上方のローラ(一方側のローラ)、
21 送りローラ対(2組のローラ対、下流側のローラ対)、
22 下部ローラ(接触部)
23 モータ(上流側のローラ対の回転駆動源)
31 紙幣判別回路(判定手段)、
40 センサホルダ(圧力付加手段)、
41 センサ部(検出手段)
42 ベルト(減速機構)、
43 回転角度検出部(判定手段、検出器)、
44 第一調整バネ(圧力付加手段)、
45 第二調整バネ(回転力調整手段)、
46 第一調整ネジ(第1の調整機構、荷重調整手段)、
47 第二調整ネジ(第2の調整機構)、
52 ローラ支持部(一方側のローラの支持機構)
55 変位センサ(変位検出器)、
56 レバー部(請求項3の部材)
a 第2所定距離
b 第1所定距離
T 紙幣の厚さ寸法(紙葉類5の厚さ寸法)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉類収容空間に投入された紙葉類を搬送し、該紙葉類が正常な紙葉類か異常な紙葉類かを選別する紙葉類取扱装置であって、
前記紙葉類の搬送方向の上流側、下流側にそれぞれ設けられ前記紙葉類を搬送する少なくとも2組のローラ対と、
前記下流側のローラ対を前記上流側のローラ対より大きい速度で回転駆動する前記2組のローラ対の回転駆動源と、
前記2組の各ローラ対と独立して前記上流側のローラ対に並行して設けられ、前記紙葉類の表面状態を検出する検出手段と、
前記検出手段に対向して設けられ、前記検出手段との間で前記紙葉類を通過させ該紙葉類に接触する接触部と、
前記検出手段の検出結果に基づいて前記紙葉類の状態判定を行う判定手段とを備え、
前記検出手段は、搬送中の前記紙葉類に所定の圧力を付加する圧力付加手段と、前記接触部と前記検出手段との間の第1所定距離を調整する第1の調整機構と、前記上流側のローラ対のうちの一方側のローラの支持機構と第2所定距離離隔され搬送中の前記紙葉類に対する前記検出手段の接触深さを調整する第二の調整機構とを有し、
前記搬送される紙葉類の通過時に、前記上流側のローラ対のうちの前記一方側のローラが前記紙葉類の厚さ寸法に応じて移動するとともに該移動に伴い前記検出手段を移動させ、前記検出手段を、前記搬送中の紙葉類に前記第1所定距離減算された前記接触深さで接触させて回転させることにより、前記検出手段によって前記紙葉類の表面状態を検出し、該検出手段の検出結果に基づいて前記判定手段によって前記紙葉類の状態判定を行う
ことを特徴とする紙葉類取扱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の紙葉類取扱装置において、
前記検出手段により検出される前記紙葉類の表面状態は、前記検出手段に減速機構を介して接続された検出器により検出される
ことを特徴とする紙葉類取扱装置。
【請求項3】
請求項1に記載の紙葉類取扱装置において、
前記検出手段により検出される前記紙葉類の表面状態は、前記検出手段と一体で形成された部材の前記紙葉類の表面状態による移動変位を測定する変位検出器により検出される
ことを特徴とする紙葉類取扱装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちの何れか一項に記載の紙葉類取扱装置において、
前記検出手段の前記紙葉類の表面に接触する箇所にプラスチック部材またはゴム部材を形成する
ことを特徴とする紙葉類取扱装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちの何れか一項に記載の紙葉類取扱装置において、
前記検出手段の前記紙葉類の表面に接触する接触荷重を調整する荷重調整手段を設けた
ことを特徴とする紙葉類取扱装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちの何れか一項に記載の紙葉類取扱装置において、
前記検出手段の前記紙葉類の表面に接触する際の回転力を調整する回転力調整手段を設けた
ことを特徴とする紙葉類取扱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−252209(P2009−252209A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103398(P2008−103398)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】