説明

紫色の馬鈴薯を使用した肥満患者用の健康機能食品

【課題】
本発明では、肥満を抑制する作用を有する新規性のある健康機能性食品が開示される。
【解決手段】
本発明による健康機能食品は、主要な/副次的な材料として紫色の馬鈴薯の抽出物又は生の絞り汁を使用して、又は紫色の馬鈴薯の抽出物又は生の絞り汁を様々な嗜好品に加えて製造される。本発明による紫色の馬鈴薯の抽出物は、脂肪細胞の分化を抑え、脂肪細胞への分化を促すレプチン蛋白を低減させることにより、肥満を抑制する作用を有し、高脂血症を引き起こす原因となる遊離脂肪酸と、血液内コレステロールを減少させることができる。従って、本発明による紫色の馬鈴薯の抽出物を含む健康機能性食品は、十代から成人、老人まで、幅広い年齢層に亘る肥満患者の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新種の紫色の馬鈴薯(ラテン語:ソラナムチューベロザム、栽培品種:ボラヴァリー)の抽出物を含み、肥満を抑制する効果のある、健康に良い機能性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食習慣が改善され、経済成長と産業インフラの変化により生活における活動量が減った結果、体重超過で肥満の人が増加しつつある。
【0003】
今日、肥満は、大きな社会問題として表面化してきている。以前は、太っていることは、富裕層のライフスタイルの象徴と見なされてきたが、最近では、糖尿病、動脈硬化症、心臓疾患などの老人病の大きな原因であることが明らかになりつつあり、尊大さというよりは、大きな不安の元となっている。このような理由から、医療に関して大きな論争が沸き起こっている。
【0004】
肥満とは、体内に、脂肪が過剰に蓄積された状態、すなわち、体重の比較的大きな部分を脂肪が占めている状態をいう。合計体重に対し、脂肪細胞が男性で20%〜50%又はそれ以上、女性で30%〜35%又はそれ以上の場合、肥満であるとみなされる。一般的に、肥満は、以下の3つに分けられる。(1)体重が標準体重の10%〜20%の範囲内の場合の軽肥満、(2)体重が標準体重の20%〜50%の範囲内の場合の中肥満、(3)体重が標準体重の50%を上回る病的肥満、である。
【0005】
肥満は、原因によって単純性肥満と症候性肥満に分類され、他の場合は、肥大性肥満、過形成性肥満、混合性肥満に分けられ、もしくは、腹部に脂肪が過剰に蓄積した中心性肥満と、臀部、大腿部及び肩における末梢性肥満という脂肪の分布によって分類される場合もある。なお、男性の場合ウエストヒップ率(Waist−Hip Ratio;WHR)が1.0以上、女性の場合ウエストヒップ率(WHR)が0.9以上の場合、中心性肥満と呼ばれる。腹部の中心の回りの内臓脂肪が増えると、たとえ体重が軽かったとしても、それがさまざまな老人病の温床となる。
【0006】
しかしながら、通常、このような肥満の症状は、脂肪の発達に起因しているため、従って、脂肪細胞の成長を抑制するのが、最終的に肥満を抑制することができる最も効果的な方法であるかもしれない。
【0007】
脂肪細胞は、脂肪細胞自体の成長と分化を制御するだけでなく、体内のエネルギーの恒常性を維持する役割をもつ。これまで長い間、単純なエネルギー格納組織であると考えられてきた脂肪は、エネルギー収支と、肥満を含む代謝性疾患においてそれが果たす役割のために、重要な研究テーマになりつつある。脂肪細胞の過剰分化と、バランスの取れていないエネルギーの過剰供給に起因する肥満は、近年、WHOによって、単なる外見上の問題ではなく、疾患と見なされるようになった。特に、肥満は、高血圧症、高脂血症、動脈硬化症、心疾患、インスリン非依存型糖尿病(Non−Insulin Dependent Diabetes Mellitus;NIDDM)等の成人病を引き起こす、最も重大なリスク要因であるため、脂肪細胞の分化は、多くの注目を集めている。
【0008】
脂質代謝において重要な役割を果たす器官である肝臓は、脂肪酸が合成され、酸化される場所であり、トリグリセリド、リン脂質、コレステロール、リポ蛋白質が合成される場所でもある。特に、トリグリセリドは、様々な未知の原因により、肝臓に蓄積される場合があり、トリグリセリドの蓄積が過剰になると、病的な状態と見なされる。このような状態で、トリグリセリドが慢性的に肝臓に蓄積されるようになると、肝細胞の繊維症が、徐々に肝硬変や肝機能異常などに発展する。
【0009】
脂肪肝の原因は数多くあるが、脂肪肝の原因は、主に2つの理由に分けられる。第1に、どちらかというと肝臓ではなく、別の組織における脂肪細胞からの脂肪移動、若しくはリポ蛋白又はトリアシルグリセロールカイロミクロンの加水分解によって、血漿内に遊出する脂肪酸が増加する。遊出した脂肪酸は、最終的に肝臓に吸収され、その後、血清におけるリポ蛋白の生成が、入ってくる脂肪酸を超過しなければ、肝臓内にトリグリセリドが蓄積される。第2に、正常な肝臓内での脂質代謝が、蛋白質の合成、例えば、有毒物質による、肝臓から他の組織への運搬に必要となるアポ蛋白又はリポ蛋白の合成を上回るため、肝臓に脂肪が蓄積されることになる。このように肝臓内に脂肪が蓄積すると、肝組織に機能障害や形態変化が生じることとなり、従って、脂肪が蓄積すると、体内へのエネルギー供給など、主な新陳代謝において、重要な器官である肝臓の正常な脂質代謝に悪影響が生じる。
【0010】
肥満疾患の処置に使用される従来の補助食品群は、固体又は液状をしており、下痢を引き起こして体内の水分を減らしたり、又は腸洗浄によって便秘を無くす働きをするが、脂肪の生成及び分化には一切作用しない。また、病的肥満の場合、自然薬品ではなく、化学合成された薬物が投与される場合もあるが、この場合、体内での副作用の問題が数多く存在する。
【0011】
馬鈴薯は、耕作期間が短く、耕作単位面積に対して比較的生産性が高い上、外的環境に非常によく適応するため、米、小麦、トウモロコシに次ぐ第4の食用作物であり、世界約130ヶ国で栽培されている。馬鈴薯は、米及び小麦よりも低カロリーで、ビタミンC、B、B、ナイアシン等の栄養成分の観点からは、かなり野菜に近い。従って、馬鈴薯の食品学的な分析と、抗酸化活性に関する研究に対して多くの試みがなされてきた。
【0012】
近年では、国際的な農業環境が変化し、近い将来、食品が兵器のような役割を果たす可能性があることから、優れた植物の種子に対する争いが激化している。従って、各国共に、食用作物に関連した植物品種保護権を守るために最善を尽くしている。このような状況の中で、本出願の発明者も、新規性を有する機能性馬鈴薯の様々な品種を開発し、国家的に認められた品種として登録をしてきた(大韓民国農林省国立種子管理局)。
【0013】
発明者による出願特許文献1は、ヒトの腸内細菌の成長抑制及び促進の効果を有する、ヴァリーという栽培品種の馬鈴薯(ボラヴァリー、ダソムヴァリー、ゴグヴァリー)から抽出した馬鈴薯抽出物と、それを使用した機能性食品を開示している。また、特許文献2は、学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ゴグヴァリーから分離した、熱安定性を有するペプチドを開示しており、特許文献3は、学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ゴールデンヴァリーから分離した熱安定性を有するペプチドと、それを使用した機能性の資源を開示しており、さらに、特許文献4は、馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)から抽出した抗酸化成分を開示している。
【0014】
本発明による紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)は、発明者が開発した、中も外も紫色をした馬鈴薯であり、植物新種保護を受けるために、国立種子管理局に申請され(申請番号2002−11)、2004年の初めにチップ加工用の国家的な馬鈴薯の品種(登録番号1−5−2004−5)として登録された、紫色のポテトチップの加工に使用される馬鈴薯の新種である。真正種子は、遺伝子工学による方法ではなく、従来の人工交配方法によって取得した。なお、母親にはA87spx14−4、父親にはGurmeys Purpleを使用した。数年にわたる苗木段階から開始した選別過程において、えり抜きのクローンを最終的に選択し、1999年〜2001年の間、韓国内の3箇所の主要な馬鈴薯生産地区(チュンチョン市ソミョン、キムジェ市カンファルミョン、デグァンリョンファンゲ)において、生産性と、土地への適応性について、実質的な試験を実施した。
【0015】
馬鈴薯の品種登録申請は2002年に提出され、さらに、国立種子管理局からの依頼により、2年間(2002年〜2003年)にわたって2箇所の国立種子研究機関でさらに試験され、最終的に2004年に、韓国で初めて、馬鈴薯の、特に紫色をしたポテトチップの加工において、非常に優れた品種として認められ、「ボラヴァリー」と命名された。また、本出願の発明者は、2006年に、馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)に抗酸化成分が多く含まれていることを開示する特許文献4の特許を取得した。
【0016】
【特許文献1】大韓民国特許第10−628427号公報
【特許文献2】大韓民国特許第10−654231号公報
【特許文献3】大韓民国特許第10−654232号公報
【特許文献4】大韓民国特許公開第10−2005−110186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
発明者は「ボラヴァリー」馬鈴薯の新種についてさらなる研究を試み、紫色の馬鈴薯からのエタノール抽出物は、脂肪細胞の成長を抑制したり、前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化を抑制する効果や、下垂体に伝達される発現レプチン量を制御する効果があるため、エタノール抽出物を健康機能性食品として使用することが可能であることを発見した。従って、本発明はこれらの事実を基礎にして、完成されたものである。
【0018】
よって、本発明は、先行技術の欠点を解決するために考案されたものであり、従って本発明の目的は、新種の紫色の馬鈴薯を含む、健康機能性食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一実施例では、紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物又は生の絞り汁、若しくは乾燥粉末を含む、肥満患者を治療するための健康機能性食品を提供することによって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のこれらの及び/又はその他の態様や利点は、添付の図面を参照し、以下の好ましい実施例に関する説明によってより明らかになり、またよりわかりやすくなるであろう。
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る詳細及び効果を、図面を参照して以下に説明する。
【0022】
本発明では、肥満抑制作用を有する紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物とは、紫色の馬鈴薯に水又はアルコールを加えることによって抽出した、紫色の馬鈴薯の、未加工の抽出物を含むものを示す。
【0023】
紫色の馬鈴薯の抽出物は、水を加えて湯による抽出、もしくはアルコールを加えて冷却浸漬、又は低温過熱加工を行うことにより製造可能であり、若しくは粉末状にして製造することも可能である。好ましくは、紫色の馬鈴薯の抽出物を抽出するために加えるアルコールは、5%〜100%のエタノール若しくはメタノールであることが好ましく、70%のエタノールであることがより好ましい。
【0024】
本発明では、エタノールを使用して約3回、紫色の馬鈴薯の抽出を行い、低圧で濃縮し、凍結乾燥して粉末を取得し、これを後に使用する。
【0025】
本発明による紫色の馬鈴薯のエタノール抽出物は、前駆脂肪細胞が脂肪細胞に変化するプロセスにおいて、脂肪含有量を大幅に抑える脂肪細胞の脂肪を抑制する作用、並びに脂肪に分化する新しい血管の形成を抑制する作用、脂肪の成長を抑制する作用など、肥満を抑制する効果がある。
【0026】
さらに、本発明は、遺伝子組み換え生物(Genetically Modified Organism;GMO)ではなく、大韓民国において、国家的に認められた馬鈴薯の品種として登録された、新種の紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)のエタノール抽出によって、肥満を引き起こす、脂肪細胞への分化や蛋白質の発現を抑制する効果も含む。
【0027】
さらに、本発明では、紫色のエタノール抽出物を、従来の公知の方法によって、主にラーメンや汁物の麺類、豆腐、シリアル、パン、チューイングガム、飴、スナックなど、一般的な嗜好品に加えることにより、様々な食品を製造することができる。紫色の馬鈴薯のエタノール抽出物は、錠剤、顆粒、丸薬、硬カプセル剤、軟カプセル剤又は液剤などの従来の製剤にしたり、生ジュース、レトルト食品、飲み物又はお茶に加工することもできる。また、当業者であれば、以上に言及した原料以外の原料を処方に適宜混ぜ合わせることが可能である。本発明による、肥満患者を治療するための健康機能性食品は、食品の主要な/副次的な原料として紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物を使用して製造することができ、若しくは他の食品に紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物を加えることによって製造することができる。この時点で、本発明には、食品学上、利用できる食品補助添加物を使用することもできる。
【0028】
脂肪細胞に蓄積した脂質を測定するために、本発明の紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物をマウスに投与した(オイル赤染色法、吸収法)。その結果、紫色の馬鈴薯の抽出物は、脂質の抑制に大きく作用することが明らかになった(図1a及び図1b)。さらに、本発明による、エタノールによる紫色の馬鈴薯の抽出物を含有する健康機能性食品は、紫色の馬鈴薯のエタノール抽出物が濃度依存的にレプチン含有量を大きく減少させるため、肥満患者の治療に効果的に使用することができる(図2)。特に、本発明では、実験動物に、食物脂肪と紫色の馬鈴薯のエタノール画分を投与し、磁気共鳴映像システムを使用して、腹部内臓型肥満を測定した。その結果、図4a−dに示すように、高脂質の食事を投与したラット群に比べ、紫色の馬鈴薯のエタノール画分を投与した食事ラット群の腹部内臓型肥満は大幅に低下し、紫色の馬鈴薯のエタノール画分は、肥満患者を治療するのに、非常に効果的に使用できる可能性があることが示唆された。
【0029】
従って、肥満患者の治療用の新しい健康機能性食品のための、新規性を有する主題である、本発明による紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物は、十代から成人、老人まで、幅広い年齢層のグループに効果的に使用することができため、肥満の予防及び低減のための健康機能性食品の開発に使用することができる。
【0030】
本発明による紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物は、急性毒性試験及び亜急性毒性試験の結果からも、食品添加物としての使用にも適している。
【0031】
生産例1.紫色の馬鈴薯のエタノール抽出物の製造
37.8Kgの紫色の馬鈴薯を63Lのエタノールで3回抽出し、低圧下で回転真空蒸留器(ビュッヒ461)によって濃縮し、その後冷凍乾燥して336gの粉末を取得した(生産高:0.97%)。
【0032】
生産例2.溶液の製造
生産例1で準備した紫色の馬鈴薯のエタノール抽出粉末を乳化剤(DMSO)に溶かし、溶液を製造した。
【0033】
生産例3.生絞り汁の製造
50Kgの紫色の馬鈴薯を圧縮機で圧縮し、紫色の馬鈴薯の生絞り汁714gを取得した(生産高:1.43%)。
【0034】
実験例1
1.マウス生体内で前駆脂肪細胞を脂肪細胞に誘起
脂肪細胞株(STS−L1)を、10の細胞密度で6ウェルプレートに分け、ウェルが細胞で充満するまで、少なくとも1日培養した。次に、イソブチルメチルキサンチン0.5mM、デキサメタゾン1μM及びインスリン1μg/mlを、DMEM培養液(ウェル遺伝子)と混ぜ、その結果の混合物を細胞に加えた。2日にわたって細胞の分化を誘起させ、細胞の形状が変わった時点でDMEMにインスリンだけを加え、脂肪細胞として維持させた。
【0035】
2.脂肪細胞に蓄積した脂質の測定
A.オイル赤染色法
本発明による脂肪抑制効果を確認するために、脂肪細胞をオイル赤Oで染色し、その吸収を測定した。オイル赤染色法は、細胞内の脂肪だけを赤く染色する方法であり、肥満が原因となった脂肪蓄積に対する抑制効果の判定に使用することができる。図1aは、肥満を誘発させるためにインスリンとデキサメタゾンを投与し、次に濃度を増加させた紫色の馬鈴薯のエタノール抽出物を投与したマウスの脂肪細胞株STS−L1を、ホルムアルデヒドで72時間固定し、オイル赤O染色法を使用して、脂肪細胞における脂肪生成の抑制レベルを測定したところを示した図である。図1aに示される通り、陽性対照の脂肪含有量は高いため、全体の細胞が赤く染まっているのに対し、紫色の馬鈴薯のエタノール抽出物を補った培養液の脂肪細胞は、脂肪含有量が低いため、ほとんど色が染まっていない。
【0036】
B.吸収法
また、DMEM培養液を取り除き、細胞ペレットをリン酸生理食塩水で穏やかに洗浄し、オイル赤染色液1mlを、各ウェルに加えた。染色が完了した後、細胞ペレットを再度リン酸生理食塩水で洗浄し、脂肪細胞の染色レベルを判定するために写真撮影を行った。次に、脂肪細胞を400μlのイソプロパノールに溶かし、100μlの量で96ウェルプレートに投入し、450nmの波長でその吸収を測定した。より濃く染色されている脂肪細胞は、比較的高い吸収値を有していることが観察された。脂肪含有量を定量化するために、脂肪細胞を、イソプロパノールに溶かし、細胞内の脂肪含有量を調べた。その結果、図1bに示す通り、脂肪細胞の吸収率は濃度に依存して低下するため、紫色の馬鈴薯のエタノール抽出粉末は、脂肪を効果的に抑制する作用があることが明らかになった。
【0037】
3.脂肪細胞のレプチン含有量の測定
処置を行った脂肪細胞から浮遊物を分離して、13,000rpmの回転速度で1分間遠心分離し、混じりけのない浮遊物を取得した。その結果得られた混じりけのない浮遊物を1日間、−80℃で保管し、酵素免疫測定法(ELISA)を使用してレプチン含有量を測定した。その結果を図2に示す(ここで、濃度の単位は、pg/mlである)。
【0038】
図2からも明らかな通り、レプチン含有量についても、濃度に依存して大幅に低減したため、本発明による紫色の馬鈴薯のエタノール抽出物を含有する健康機能性食品は肥満患者の治療に有用である可能性がある。
【0039】
実験例2
1.実験動物の飼育とテストサンプルの収集
実験動物は、デハンバイオリンク社の協力によって提供して戴き、動物飼育のための一定条件下で2週間に亘り十分に適応させ、飼育された(温度:20±2℃、湿度:40%〜60%、明るさ:12時間毎の明暗サイクル)。この実験では雌のSprague−Dawleyラット(体重:130〜150g)を使用し、正常食グループと、高脂食グループ2つのグループに分けた。実験食を与える前に年齢4週間のラットを犠牲にし、基準動物として使用した。実験食は、下記の表1に列挙した。ここで、正常食グループには、AIN 76A食として、食事による合計カロリーの約11.7%に相当する脂質を与え、高脂食グループには、牛脂を脂質源として利用し、合計カロリーの約40%に相当する脂質を与えた。離乳期間が完了した、年齢が4週間の実験動物に実験食を与えた。成長期と、その後の10週間の飼育期のあいだの変化を観察するために、実験食を、それぞれ2週間、4週間、6週間与えた、年齢6週間、8週間、10週間の時点の、正常食グループと高脂食グループの違いを観察した。2つの実験動物のグループには、生理食塩水に紫色の馬鈴薯のエタノール画分を溶かした100mg/kg及び200mg/kgの2%メチルセルロースを、10週間にわたって経口投与した。
【0040】
実験動物は2つのグループに分けて飼育し、一切制限を加えずに水と食事を与えた。実験期間にわたり、1週間に2度、食事の摂取量と体重を測定した。実験食を与えた日から、ラットを犠牲にした日までの期間に亘り、食事効率(Food Efficiency Ratio;FER)を測定し、実験期間に増加した体重を、実験期間の食事摂取量で割って計算した。ラットは年齢4週間〜12週間のあいだ実験食で飼育し、年齢が6週間、8週間、10週間に達したラットをランダムに各実験グループから4体選択し、血液と器官を摘出した。細胞間の褐色脂肪と内臓脂肪を分離し、その重量を測定し、摘出直後に液体窒素で冷凍した。血液は、ラットを犠牲にした時に、心臓穿刺法により採取し、回転速度3,000rpmで15分間遠心分離して血清を取得し、将来の分析のために−70℃で保存した。
【0041】
2.テストサンプルの収集及び分析
A.テストサンプルの収集
各実験グループから年齢が4週間、6週間、8週間、10週間に達したラットをランダムに選択し、その血液と器官を摘出した。細胞間の褐色脂肪、内臓脂肪、腎臓及び肝臓を取り分け、その重量を測定し、摘出直後に液体窒素で冷凍した。血液は、ラットを犠牲にした時に心臓穿刺法により採取し、回転速度3,000rpmで15分間遠心分離して血清を取得し、将来の分析のために−70℃で保存した。
【0042】
B.MRIを使用した腹部の脂肪分布分析
年齢が16週に達した実験動物を犠牲にする1日前に、腹部の体脂肪分布を観察するために、磁気共鳴映像システムを使用して腹部を撮影した。
【0043】
C.血液内の脂肪含有量の分析
ソウルクリニカルラボラトリに委託して、血清内のコレステロール、HDLコレステロール及びトリグリセリドの合計含有量を測定した。
【0044】
D.血液内のレプチン及びインスリン含有量の分析
ソウルクリニカルラボラトリに委託して、血清内のレプチン及びインスリンの含有量を測定した。
【0045】
E.データの評価
正常食グループと高脂食グループの間の平均値における有意性を、学生のt−testを使用して検査し、週単位の年齢に従った変化を、一方向ANOVAを使用して試験し、次にα=0.05のレベルでダンカンの多重範囲検定を実施した。また、週単位の年齢に従った食事の脂質レベルと影響要因は、2方向ANOVAを使用して分析した。有意性は、α=0.05及びα=0.01のレベルで検査し、すべての統計分析がSASプログラムに適用された。結果は平均±標準偏差で示された。
【0046】
【表1】

【0047】
3.結果
A.食事摂取量、体重増加量及び食事効率
実験動物における食事摂取、体重増加量及び食事効率の測定結果を、下表2に列挙する。実験食を与えてから2週間及び12週間後に測定した結果では、正常食と高脂食グループの間に食事摂取量に大きな違いはないが、脂肪摂取量の違いにより、正常食グループに比べ、高脂食グループの体重増加量は極めて大きかった(P<0.05)。また、エネルギー密度の高い実験食を与えた高脂食グループでは、食事脂肪のレベルが異なることから、食事効率も高く、また継続的に高脂食を与えたことにより、2つのグループの間の食事効率の差が増加したため(P<0.01)、12週間実験食を与え、年齢が16週に達した高脂食グループのラットは、極めて高い食事効率を示した。なお、2つの実験グループの間に、食事摂取量に違いはなく、体重増加量と食事効率は、正常食グループに比べ高脂食グループのほうが高かったが、紫色の馬鈴薯のエタノール画分の効果については、統計的な有意性が見られた。
【0048】
【表2】

【0049】
B.脂肪の重量
食料と紫色の馬鈴薯エタノール画分の投与量による、細胞間褐色脂肪及び内臓脂肪の重量を、相互に比較した。図3が示す通り、褐色脂肪の重量は、正常食を与えたラットに比べ、高脂食を与えたラットにおいて多いことが明らかになり、高脂食を与えたラットグループにおける褐色脂肪の重量は、紫色の馬鈴薯のエタノール画分を食事として与えることによって低減したことが示されている。
【0050】
C.磁気共鳴映像システムによる腹部写真
食事脂肪と紫色の馬鈴薯のエタノール画分を与えた腹部の内臓脂肪レベルを、磁気共鳴映像システムを使用して撮影した。図4a−dに示す通り、高脂食を与えられたラットに比べ、紫色の馬鈴薯のエタノール画分を与えられたラットにおける腹部内臓脂肪のレベルは極めて低いことが明らかである。
【0051】
D.血液内の脂肪含有量
2つの実験グループにおける合計コレステロール含有量に差はなかったが、高比重リポ蛋白(High−Density Lipoprotein;HDL)コレステロールは、正常対照よりも高脂対照のほうが低く、高脂対照よりも、紫色の馬鈴薯エタノール画分が投与された食事グループにおいて極めて高かった。血液内のトリグリセリドは、正常対照よりも高脂対照において大幅に高く、血液内のトリグリセリドは、紫色の馬鈴薯のエタノール画分を投与された食事グループにおいて極めて低く、高脂対照の約50%であった。
【0052】
E.血液内のレプチン及びインスリン含有量
血液内のレプチン含有量は、高脂対照よりも、紫色の馬鈴薯のエタノール画分を投与したグループにおいて大幅に低く、実質的に、正常対照と同じであった。血液内のインスリン含有量も、紫色の馬鈴薯のエタノール画分を投与したグループのほうが低く、実質的に正常対照と同じであった。
【0053】
実験例3.亜急性毒性試験
A.材料及び実験動物
生産例2で作成した溶液を実験材料として使用し、実験動物はデハンバイオリンク社の協力によって提供して戴き、動物飼育のための一定条件下で2週間十分に適応させ、飼育された(温度:20±2℃、湿度:40%〜60%、明るさ:12時間毎の明暗サイクル)。この実験では、雌のSprague−Dawleyラット(体重:130g〜150g)10体を使用した。
【0054】
B.手順
実験動物に、溶液を1日2g/kg bwの割合で、2週間にわたり経口投与し、ラットの体重変化を測定した。
【0055】
C.試験結果
そのまま生き続けた、実験動物における平均体重の範囲に変化は見られなかった。
【0056】
この安全性試験により、本発明による紫色の馬鈴薯抽出物は、人体に悪影響を及ぼさないと見なされた。
【0057】
その後、肥満患者用の健康機能性食品を製造したが、本発明による紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物を加えた、お茶や飲み物、又はチューイングガム、ラーメンなどの麺類、飴、スナック、シリアル、パンなどを含む、様々な固体食品も製造可能である。
【0058】
例1.ビスケットの製造
製造例1で作成した紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物を重量の7%、1等級のケーキ用グルテン小麦粉を重量の19.59%、1等級のベーキンググルテン小麦粉を重量の22.22%、精糖を重量の4.80%、食卓塩を重量の0.73%、グルコースを重量の0.78%、パームショートニングを重量の11.15%、アンモニウムを重量の1.54%、重炭酸ナトリウムを重量の0.17%、亜硫酸水素ナトリウムを重量の0.16%、米粉を重量の1.45%、ビタミンB1を重量の0.0001%、ビタミンB2を重量の0.0001%、乳香料を重量の0.04%、水を重量の21.3298%、濃縮粉乳を重量の1.16%、代用乳を重量の0.29%、酸性リン酸カルシウムを重量の0.03%、噴霧塩を重量の0.29%、噴霧乳を重量の7.27%混ぜ合わせ、出来上がった混合物を従来のビスケットの製造法に従って製造した。
【0059】
例2.チューイングガムの製造
製造例1で作成した紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物を重量の7%、ガム基礎剤を重量の20%、砂糖を重量の70%、香辛料を重量の1%、水を重量の2%混ぜ合わせ、出来上がった混合物を従来のチューイングガムの製造法に従って製造した。
【0060】
例3.飴の製造
製造例1で作成した紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物を重量の10%、砂糖を重量の50%、コーンシロップを重量の39.8%、香辛料を重量の0.2%混ぜ合わせ、出来上がった混合物を従来の飴の製造法に従って製造した。
【0061】
例4.飲み物の製造
製造例1で作成した紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物を重量の10%、蜂蜜を重量の0.26%、チオクト酸アミドを重量の0.0002%、ニコチン酸アミドを重量の0.0004%、リボブラビン塩酸ナトリウムを重量の0.0001%、塩酸ピリドキシンを重量の0.0001%、イノシトールを重量の0.001%、オロチン酸を重量の0.002%、水を重量の89.7362%混ぜ合わせ、出来上がった混合物を従来の飲み物の製造法に従って製造した。
【0062】
例5.錠剤の製造
錠剤の調剤のために、製造例1で作成した紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物を200mg、ビタミンBを15mg、ビタミンBを15mg、ビタミンCを25mg、ビタミンBを25mg、ニコチン酸アミドを15mg混ぜ合わせ、乳糖粉末を200mg、ケイアルミン酸ナトリウムを25mg、蔗糖脂肪酸エステルを25mg、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを25mg、グリセリン脂肪酸エステルを15mg、酸化亜鉛を15mg、βシクロデキストリンを15mg加えて混ぜ合わせ、錠剤製造器で錠剤を製造した。
【0063】
例6.硬カプセルの製造
製造例1で作成した紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物を100mg、ビタミンBを15mg、ビタミンBを15mg、ビタミンCを25mg、ビタミンBを25mg、ニコチン酸アミドを15mg、クエン酸を25mg、乳糖を400mg加え、精製水500mgと混ぜ合わせた。次に、この混合物を造粒機に投入し、顆粒状に成形し、成形した顆粒を熱風乾燥機で、40℃〜50℃で乾燥させ、12〜14メッシュのふるいにかけて同型の顆粒を得、これを硬カプセルに充填した。
【0064】
なお、本明細書で提案した説明は、本発明の範囲を制限することは意図されておらず、説明の目的のための好ましい例でしかないため、当業者には明らかな通り、本発明の本質及び範囲から離れることなく、これらのその他の同等品又は変更が可能であることは理解されなければならない。従って、本発明は、詳細な説明に記述されている範囲内に定義されるものではなく、請求項及びその同等の範囲内に定義されるものであることは理解されなければならない。
【0065】
上述の通り本発明による紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)のエタノール抽出物は、脂肪細胞の脂肪含有量を低下させ、発現レプチンの量を低減させるため、脂肪細胞への分化を抑制することが明らかとなり、本発明による紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)のエタノール抽出物は、高脂食を投与した後、トリグリセリド及びコレステロール含有量を測定した際、濃度に依存しながらトリグリセリド及びコレステロール含有量を低減させる効果と、血液内の高比重リポ蛋白(HDL)を増加させる効果があることも明らかになった。
【0066】
従って、本発明による紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)のエタノール抽出物は、肥満患者の治療用の健康機能性食品として効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1a】図1aは、徐々に濃度を濃くした、紫色の馬鈴薯のエタノール抽出物を投与したマウスにおいて、脂肪細胞の生成が抑制されているかどうかをオイル赤O染色方法によって示す写真である。
【図1b】図1bは、徐々に濃度を濃くした、紫色の馬鈴薯のエタノール抽出物を投与することによってマウスの脂肪細胞の生成を抑制した後の、イソプロパノールに溶かした脂肪細胞の吸収度を示したグラフである。
【図2】図2は、徐々に濃度を濃くした、紫色の馬鈴薯のエタノール抽出物を投与したマウスにおける脂肪細胞のレプチン含有量を示したグラフである。
【図3】図3は、紫色の馬鈴薯のエタノール画分を含む食事を与えたグループの内臓脂肪、肝臓、腎臓の重量を示したグラフである。
【図4a】図4aは、通常の食事を与えたグループのラットの腹部の、磁気共鳴映像システムによる断面映像である。
【図4b】図4bは、高脂質の食事を与えたグループのラットの腹部の、磁気共鳴映像システムによる断面映像である。
【図4c】図4cは、体重1kgあたり100mgの紫色の馬鈴薯のエタノール画分を投与した、高脂質の食事を与えたグループのラットの腹部の、磁気共鳴映像システムによる断面映像である。
【図4d】図4dは、体重1kgあたり500mgの紫色の馬鈴薯のエタノール画分を投与した、高脂質の食事を与えたグループのラットの腹部の、磁気共鳴映像システムによる断面映像である。
【図5】図5は、紫色の馬鈴薯のエタノール画分を含む食事を与えたグループの血液中の脂肪含有量を示したグラフである。
【図6】図6は、紫色の馬鈴薯のエタノール画分を含む食事を与えたグループのレプチン及びインスリン含有量を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)に、水又はアルコール水溶液を加えることによって抽出された、紫色の馬鈴薯の抽出物を含む、肥満抑制作用を有する健康機能性食品。
【請求項2】
紫色の馬鈴薯の抽出物は、5%〜100%のエタノール水溶液を紫色の馬鈴薯に加えることによって抽出されることを特徴とする、請求項1記載の肥満抑制作用を有する健康機能性食品。
【請求項3】
健康機能性食品は、錠剤、顆粒、丸薬、硬カプセル剤、軟カプセル剤又は液剤から構成されるグループから選択されることを特徴とする、請求項1記載の肥満抑制作用を有する健康機能性食品。
【請求項4】
健康機能性食品は、生ジュース、ワイン、レトルト、粉末、飲み物又は緑茶から構成されるグループから選択されることを特徴とする、請求項1記載の肥満抑制作用を有する健康機能性食品。
【請求項5】
紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物として、肥満抑制作用を有する食品添加物。
【請求項6】
チューイングガム、飴及びスナックから構成されるグループから選択される嗜好品に、肥満抑制作用を有する紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物を、請求項5記載の食品添加物として含むことを特徴とする、肥満抑制作用を有する健康機能性食品。
【請求項7】
ラーメンや汁物などの麺類、豆腐、生の状態で食する粉末混合物、シリアル及びパンから構成されるグループから選択される嗜好品に、肥満抑制作用を有する紫色の馬鈴薯(学名ソラナムチューベロザム、栽培品種ボラヴァリー)の抽出物を、請求項5記載の食品添加物として含むことを特徴とする、肥満抑制作用を有する健康機能性食品。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−174539(P2008−174539A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186056(P2007−186056)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(507241137)ポテト ヴァリ カンパニー,リミテッド (1)
【Fターム(参考)】