説明

細穴のレーザ加工方法

【課題】細穴の加工精度を高めるとともに熱変質層を発生しにくくする。
【解決手段】ノズル本体21にレーザビーム71を照射して細穴としての噴口25を加工するレーザ加工方法であって、不活性ガス雰囲気下で、回転させたノズル本体21に、光軸が固定されたレーザビーム71を照射し、噴口25を貫通させ、ノズル本体21の裏側からプリュームを吸引する。レーザビーム71の集光断面形状が非円形であっても、静止した集光断面形状の同一部分が、回転するノズル本体21の開けるべき噴口の縁に常に当たるため、噴口の形状は円形又は円形に近くなる。また、プリュームを吸引することで、レーザビーム71がプリュームによって遮られたり、吸収・拡散されることがなく、レーザビーム71が回転する被加工物に常時当たる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細穴のレーザ加工方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の細穴のレーザ加工方法として、放電加工の下穴を開けるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−150248公報
【0003】
特許文献1の図1を以下に説明する。なお、符号は振り直した。
図6は従来の細穴のレーザ加工方法を示す説明図であり、レーザ加工ヘッド101をワーク102の穴加工位置の真上に移動させ、レーザ加工ヘッド101からレーザビーム103をワーク102に照射して、加工液中のワーク102に下穴加工を行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザビーム103で細穴を開ける場合、レーザビーム103を集光させたときに、集光位置のレーザビーム103の断面が真円にならないことがあり、開けられた細穴の内径や真円度の精度が悪くなることがある。加工精度を向上させるために、レーザビーム103をビームローテータ、ガルバノミラー等で回転させる方法があるが、上記した集光断面形状が影響して加工精度を大きく高めることは難しい。
【0005】
また、レーザビーム103はエネルギ密度が高いため、レーザビーム103が静止した状態で加工された穴の周囲には、母材に対して組織が変化した熱変質層が出来やすい。
【0006】
本発明の目的は、細穴の加工精度を高めるとともに熱変質層を発生しにくくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、被加工物にレーザビームを照射して細穴を加工するレーザ加工方法であって、不活性ガス雰囲気下で、回転させた被加工物に、光軸が固定されたレーザビームを照射し、細穴を貫通させ、被加工物の裏側からプリュームを吸引することを特徴とする。
【0008】
例えば、被加工物を静止させ、レーザビームをビームローテータ等で回転させた場合には、レーザビームの集光断面形状が非円形であるときには、レーザビームを回転させたときに、開けるべき細穴の縁に当たるレーザビームの形状が時々刻々と変化するために、細穴の形状が円形にならない。
【0009】
これに対して、被加工物を回転させ、レーザビームの光軸を固定すると、レーザビームの集光断面形状が非円形であっても、静止した集光断面形状の同一部分が、回転する被加工物の開けるべき細穴の縁に常に当たるため、細穴の形状は円形又は円形に近くなる。
【0010】
また、細穴が貫通したら、被加工物の裏側からプリュームを吸引するため、レーザビームがプリュームによって遮られたり、吸収・拡散されることがなく、レーザビームが回転する被加工物に常時当たる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、不活性ガス雰囲気下で、回転させた被加工物に、光軸が固定されたレーザビームを照射し、細穴を貫通させ、被加工物の裏側からプリュームを吸引するので、レーザビームの集光断面形状の同一部分が、回転する被加工物の開けるべき細穴の縁に常に当たるため、細穴の形状は円形又は円形に近くなるため、レーザビームの集光断面形状に左右されずに細穴の穴径、真円度等の加工精度を高めることができる。
【0012】
また、プリュームを吸引することにより、レーザビームがプリュームによって遮られることがないので、レーザビームによる加工が断続的にならず、常に一定の加工を継続することができ、加工精度をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1(a),(b)は本発明に係るレーザ加工方法により細穴が開けられる燃料噴射弁の説明図である。
(a)は燃料噴射弁10の側面図であり、燃料噴射弁10は、ノズルホルダ11と、このノズルホルダ11の先端部に保持されたノズル12とからなる。なお、15は燃料を吸入する吸入口である。
【0014】
(b)はノズル12の先端部の要部断面図であり、ノズル12は、ホール型のものであり、ノズル本体21と、このノズル本体21の燃料流路を開閉するノズルニードル22とからなる。
ノズル本体21は、突出する先端部21aに燃料を噴射する複数の噴口25が開けられている。これらの噴口25が、本発明の細穴のレーザ加工方法によって開けられる。
【0015】
図2は本発明に係るレーザ加工装置を示す説明図であり、レーザ加工装置30は、レーザ発振器31と、このレーザ発振器31の下部に設けられてレーザビームを発射する加工ヘッド32と、この加工ヘッド32の下方に配置されたワーク支持部33とからなる。
【0016】
ワーク支持部33は、ベース部35と、このベース部35にベアリング36,36で回転自在に支持された回転部37と、この回転部37の上部に設けられたワーク保持部38と、回転部37をベルト44で回転駆動させる駆動用モータ45とからなる。
【0017】
回転部37は、ベアリング36,36で支持された回転筒部材53を備え、カラー56及びナット57でベアリング36,36に取付けられる。なお、61は駆動用モータ45の回転軸45aに取付けられた駆動プーリ、62は回転筒部材53の下部に取付けられた従動プーリであり、これらの駆動プーリ61及び従動プーリ62にベルト44が掛けられている。
【0018】
ワーク保持部38は、回転筒部材53に取付けられた保持ベース41と、この保持ベース41にベアリング42,42を介して回転自在に取付けられたワーク保持本体43と、ワーク保持本体43のベアリング42,42からの抜け止めをするカラー47及びナット48と、ベアリング42,42の両側に配置されるシール部材49,49のうちの一方を支持するために保持ベース41に取付けられた環状部材41Aと、ワーク保持本体43の一端を支持するために保持ベース41からワーク保持本体43の端部側へ延ばされた延長部材51と、ワーク保持本体43を回転させるための駆動装置(不図示)から駆動力を得るためにワーク保持本体43の先端に取付けられた従動ギヤ52と、ワーク保持本体43を所定回転角度毎に位置決めするためのワーク回転角度割出し機構58とからなる。なお、59はワーク保持本体43でワークとしてのノズル本体21を支持するときにワーク保持本体43に対してノズル本体21の回転止めをする位置決めピンである。
【0019】
ワーク保持本体43は、ノズル本体21内の通路21bに通じる通路43aと、この通路43aに直交する通路43bとが形成された部材であり、通路43bは、延長部材51内に形成された通路51aに接続され、この通路51は保持ベース41に形成された通路41aを介して回転筒部材53に設けられた中空部53aに連通する。
【0020】
上記通路21b,43a,43b,51a,41a及び中空部53aは、レーザ加工中に発生するプリューム(即ち、ノズル本体21が熱で蒸発して出来た金属蒸気やイオン化した混合気体)を吸引するためのプリューム吸引通路65を構成する部分である。
【0021】
ワーク回転角度割出し機構58は、ワーク保持本体43に設けられた大径部43cの外周面に周方向に所定角度毎に形成された複数の凹部43dと、大径部43cの外周面に対向するように保持ベース41に設けられたケース66と、このケース66内に配置されるとともに複数の凹部43dにそれぞれ嵌合可能なボール67と、このボール67を凹部43dに押し付けるためにケース66内に設けられたスプリング68とからなる。
隣り合う凹部43d,43dの周方向の間隔(角度)は、ノズル本体21の先端部21aに開けられた噴口(図1(b)参照)の隣り同士の周方向の角度に一致している。
【0022】
図3(a)〜(c)は本発明に係るレーザ加工の作用を示す第1作用図であり、(a)は側面図(一部断面図)、(b),(c)はレーザ加工中のノズル本体21をレーザビーム71の延びる方向から見た図である。
(a)において、不活性ガス雰囲気下で、加工ヘッド32からレーザビーム71を発射し、ノズル本体21の先端部21aに照射する。なお、形成されるべき噴口25を二点鎖線で示している。
【0023】
(b)において、レーザ加工中は、レーザビーム71((a)参照)の光軸を固定し、ノズル本体21を、ワーク支持部33(図3参照)によって矢印の向きに回転させながらレーザ加工を行う。
(b)において、更にノズル本体21を矢印の向きに回転させる。レーザ加工中はノズル本体21を一定の方向に一定の速度で回転させる。
【0024】
図4は本発明に係るレーザ加工の作用を示す第2作用図である。
レーザ加工中は、プリューム73が発生し、レーザビーム71を遮ったり、吸収・拡散させるため、加工中の穴75の開口近傍に設けられた吸引管76でプリューム73を吸引し、取り除く。
【0025】
また、穴75が貫通したときには、プリューム73をノズル本体21内から図2に示されたプリューム吸引通路65を通じて吸引し、取り除く。
【0026】
このように、プリューム73を吸引して取り除くことで、レーザビーム71がプリューム73によって遮られたり、吸収・拡散されることがないので、レーザビーム71による加工が断続的にならず、常に一定の加工を継続することができ、加工精度を向上させることができる。
【0027】
図5(a),(b)は本発明に係るレーザ加工の作用を示す第3作用図である。
(a)の比較例は、ノズル本体21を固定し、レーザビーム71をビームローテータ等で回転させたものである。
【0028】
レーザビーム71の集光断面形状は、非円形であるため、レーザビーム71を回転させたときに、穴75の縁に当たるレーザビーム71の形状が時々刻々と変化するため、穴75の形状が円形にならない。即ち、穴75の形状がレーザビーム71の集光断面形状に左右される。図では穴75が楕円に近い形状となる。
【0029】
(b)の実施例は、レーザビーム71の光軸を固定し、ノズル本体21を矢印の向きに回転させたものである。
このように、レーザビーム71の光軸を固定し、ノズル本体21を回転させることで、穴75の縁に当たるレーザビーム71の集光断面形状が常に同一であるため、穴75が円形又は円形に近い形状になる。従って、噴口25(図1参照)の穴径、真円度等の加工精度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の細穴のレーザ加工方法は、燃料噴射弁のノズルの噴口の加工に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るレーザ加工方法により細穴が開けられる燃料噴射弁の説明図である。
【図2】本発明に係るレーザ加工装置を示す説明図である。
【図3】本発明に係るレーザ加工の作用を示す第1作用図である。
【図4】本発明に係るレーザ加工の作用を示す第2作用図である。
【図5】本発明に係るレーザ加工の作用を示す第3作用図である。
【図6】従来の細穴のレーザ加工方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
21…被加工物(ノズル本体)、25…細穴(噴口)、71…レーザビーム、73…プリューム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物にレーザビームを照射して細穴を加工するレーザ加工方法であって、
不活性ガス雰囲気下で、回転させた前記被加工物に、光軸が固定された前記レーザビームを照射し、前記細穴を貫通させ、被加工物の裏側からプリュームを吸引することを特徴とする細穴のレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−238239(P2008−238239A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85269(P2007−85269)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】