説明

細胞増殖のTEL/ETV6−介在阻害

Stat3依存性およびサイトカイン−感受性細胞増殖の調節法、ならびにStat3依存性およびサイトカイン−感受性細胞増殖に影響する薬剤のスクリーニング法を提供する。方法は、TEL/Etv6の調節により例示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、癌の診断および治療において適用される、細胞増殖の分野に関する。本発明はまた予防的であれ治療的であれ、抗癌活性を有する可能性のある化合物のスクリーニングにも関する。
【0002】
背景技術
世界中の豊かな国のほとんどで、癌は大まかに5人に1人の死亡原因である。1993年に、米国癌協会(American Cancer Society)は、5つの最も多い癌は肺、胃、乳房、結腸/直腸および子宮頚であると報告した。癌は全ての症例が致死的ではなく、癌を発症した人の約半数のみがそれで死亡する。癌患者とその医師が向き合う問題は、癌を治療しようとすることが、雑草を取り除こうとするようなものであることである。癌細胞は、外科的に摘出し、毒性化合物または放射線により破壊できるが、癌性細胞を全て除くことは非常に困難である。一般的な目標は、体内の正常細胞を影響を受けずに残しながら、癌細胞を選択的に殺すよりよい方法を見出すことである。この努力の一部に、新しい抗癌剤の同定が包含される。
【0003】
癌細胞は細胞サイクルの正常な制御を失っており、正常細胞と比較して無制御に分裂する。細胞サイクルを制御する亜細胞性機構は、細胞の内容物の複製および分裂の必須過程を誘導し、調整する、一群の相互作用タンパク質からなる複雑な生化学的デバイスである。正常な細胞サイクルにおいては、制御系は該サイクルの特定の点で停止できるように調節されている。該停止点が、複製または分裂の過程からのシステムのフィードバック制御を可能にする。それらはまた環境シグナルによる調節のための点も提供する。
【0004】
癌細胞の研究が、細胞内シグナル伝達カスケードの複雑なネットワークを通じて増殖因子が正常細胞の細胞増殖をどのように制御しているかを示すことを助けてきた。これらのカスケードは、最終的に遺伝子の転写および細胞サイクル制御システムの構築および活性化を調節する。該細胞サイクル制御機構の構成部分およびどのようにそれが作動するかに関する知識が増大するにつれ、癌細胞における制御の喪失を是正する可能性が増している。制御必須点と必須タンパク質が、当該制御機構の中で同定され、それぞれの必要性に応じて、アクティベーターまたはインヒビターとして作用する薬剤で標的化され得る可能性がある。
【0005】
シグナル変換および転写活性化因子3(Stat3)は多くの増殖因子およびサイトカインの効果を仲介する。いくつかの研究が発癌におけるStat3の可能性のある役割を記載しているが(例えば、J. Bromberg, 2002, The Journal of Clinical Investigation, 109, 1139-1142;Levy and Lee, 2002, The Journal of Clinical Investigation, 109, 1143-1148参照)、Stat3が、ある場合は腫瘍細胞増殖のサイトカイン−誘導阻害のメディエーターであることを示す研究もある(例えば、J. Behrmann, 1999, Oncogene, 18, 3742-53;S Akira, 1996, Proc Natl Acad Sci USA, 93, 3963-3966参照)。このように、正常細胞および悪性細胞の両方におけるStat3の機能はまだ未解明である。原発性腫瘍および腫瘍細胞系における不適切に活性化されたStat(Stat3を含む)の存在および異常なSTATシグナル伝達におけるその役割は、Bowman et al. (Oncogene, 2000, 19: 2474-2488)によりレビューされている。
【0006】
TEL(“translocation-ETS-leukemia”、ETV6としても既知)遺伝子は、白血病における転座の主要な標的であり、その遺伝子産物は白血病およびいくつかの固形腫瘍の腫瘍サプレッサーと推定されると記載されている。Ras−形質転換NIH 3T3細胞におけるTELの発現は、軟寒天および通常培養において細胞増殖を阻害した(Fenrick et al., 2000, Molecular and Cellular Biology, 20, 5828-5839)。TELはまたヌードマウスで癌形成を遅らせることが示されている(Van Rompaey et al., 2000, 19, 5244-5250)。
【0007】
発明の開示
本発明の第1の態様によって、Stat3依存性細胞増殖の調節に有効な薬剤を同定する方法が提供され、該方法はi)TEL/Etv6(またはその変異形(variant)またはフラグメント)と化合物をインキュベートし;ii)TEL/Etv6活性を検出し;そしてiii)該化合物非存在下のそれに対するTEL/Etv6活性の化合物−誘導調節を測定する(ここで、化合物存在下におけるTEL/Etv6活性の変化が、Stat3依存性細胞増殖の調節に有効な薬剤の指標である)段階を包含する。
【0008】
当該調節はTEL/Etv6活性の阻害であり得るので、この場合、該薬剤は細胞増殖のサイトカイン−誘導阻害に有効である。また、当該調節はTEL/Etv6活性の活性化であることもあり、この場合、該薬剤はStat3、特にリン酸化Stat3を過剰発現する細胞の増殖の阻害に有効である。後者の場合、細胞増殖はrasと無関係であり得る。
【0009】
また、Stat3依存性細胞増殖の調節に有効な薬剤を同定する方法が提供され、該方法は:(i)TEL/Etv6、その変異形またはフラグメントからなる群から選択されるTEL/Etv6ポリペプチドと結合パートナーを、試験化合物の存在下でインキュベートし;そして(ii)試験化合物の存在がTEL/Etv6ポリペプチドと結合パートナーの間の相互作用を、試験化合物の非存在下のそれと比較して調節するか否かを測定する段階を含む。TEL/Etv6の変異形またはフラグメントは、好ましくはStat3と結合する能力を有する。TEL/Etv6フラグメントは好ましくは50から350の間のアミノ酸長である。好ましい結合パートナーはStat3、その変異形またはフラグメントである。所望により、TEL/Etv6ポリペプチドまたは結合パートナーを検出可能標識で標識し、他方を固体支持体上に固定する。
【0010】
本発明のさらなる態様において、当該スクリーニング方法は、試験化合物がStat3依存性細胞増殖の調節剤であることの確認を包含する。
【0011】
該調節はTEL活性またはTEL結合パートナー相互作用の阻害であり、この場合、当該方法は物質がサイトカイン−感受性癌細胞の細胞増殖を阻害することを確認する段階を含んでよい。
【0012】
該方法はインビトロまたは細胞使用のアッセイであり得る。このように、本発明によりまた提供されるのは、TEL/Etv6ポリペプチド、その結合パートナー、およびレポーター遺伝子構築物を発現でき、それにより、TEL/Etv6ポリペプチドと結合パートナー(特にStat3)との結合がレポーター遺伝子発現により観察できる、哺乳類細胞である。
【0013】
本方法は、黒色腫または癌腫(carcinoma)の細胞増殖を阻害するのに有効な薬剤の同定に特に有用である。
【0014】
また提供されるのは、特に黒色腫または癌腫におけるStat3発現癌細胞の増殖を阻害する方法である。一つの態様において、当該方法はStat3、好ましくはリン酸化Stat3を発現する癌細胞と、Stat3活性を阻害するのに十分な量の有効量のTELを接触させることを含む。好ましくは、細胞増殖はrasと無関係である。
【0015】
さらなる態様において、本発明はサイトカイン感受性癌細胞増殖を阻害する方法であり、サイトカイン−感受性癌細胞と、Stat3活性を増強するのに十分な量の有効量のTELインヒビターを接触させる方法を提供する。TELインヒビターは、例えばRNAiまたは抗体であり得る。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、細胞増殖におけるStat3の役割の研究の成果である。本発明は、サイトカイン−感受性黒色腫細胞系における誘導性Stat3構築物の効果を評価し、適度なレベルまでのStat3の活性化が、細胞サイクルにおける細胞変化を減速させることにより、細胞増殖を抑制するのに十分であることを発見した(実施例1および3参照)。さらに、増強し、延長したStat3活性が細胞サイクルの停止およびアポトーシスをもたらした。
【0017】
オリゴヌクレオチドマイクロアレイ分析を使用して、本発明者らは、さらに、Stat3活性化で発現が増加または減少する遺伝子を同定した(実施例4参照)。かかるStat3標的遺伝子のひとつは、転写因子C/EBPデルタであることが判明し、これは、C/EBPデルタ発現の低分子量干渉(si)RNAを使用した標的崩壊により支持されるので、細胞増殖におけるStat3阻害活性のメディエーターの一つである(実施例5参照)。対照的に、他のStat3標的であるTEL/Etv6転写因子の発現の阻害はStat3活性を増加し、Stat3が細胞増殖を阻害するという発見をさらに支持する。このように、TEL/Etv6はStat3活性のインヒビターであり、TEL/Etv6の調節は、Stat3シグナル伝達経路の制御を可能にする(実施例6参照)。
【0018】
したがって、本発明は、TEL/Etv6レベルまたはTEL/Etv6活性の調節に基づいた、STAT3依存性細胞増殖の抑制に有効な薬剤の同定法を提供する。典型的に、このような方法はi)TEL/Etv6と化合物をインキュベートし;ii)TEL/Etv6のレベルまたはその活性を測定し;そしてiii)化合物非存在下のそれに対するTEL/Etv6レベルまたはその活性の化合物−誘導調節を測定する(ここで、化合物存在下のTEL/Etv6レベルまたはその活性の変更が、Stat3依存性細胞増殖の調節に有効な薬剤の指標である)段階を含む。
【0019】
“TEL”および“Etv6”は本明細書で互換的に使用され、ets変異体遺伝子6(TEL癌遺伝子;NCBI受託番号NM_001987;Golub, et al., Cell 77 (2), 307-316, 1994)を意味する。
【0020】
当業者が認識するように、文脈から他の意味にならない限り、ポリペプチドまたは核酸が本明細書に記載の本発明の様相および態様において言及されている場合(例えばTEL、Stat3)、必須の活性を依然としてコードしていることを条件として、当該ポリペプチドまたは核酸の変異体(例えば誘導体または同族体)も本発明で使用され得る。一般的に、このような変異体は‘野生型'または本明細書に特記の他の配列と実質的に同族的であり、すなわち、それらと配列類似性または同一性を共有する。類似性または同一性は、ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列レベルのことであり、好ましくは、少なくとも約50%、60%、または70%、または80%、最も好ましくは少なくとも約90%、95%、96%、97%、98%または99%であり得る。配列比較は、FASTAおよびFASTPを使用して行い得る(Pearson & Lipman, 1988. Methods in Enzymology 183:63-98参照)。パラメーターは、好ましくは以下のようにデフォルトマトリックスを使用して設定する:Gapopen(gapにおける最初の残基のペナルティ):タンパク質に−12/DNAに−16DNA;Gapext(gapにおけるさらなる残基のためのペナルティ):タンパク質に−2/DNAに−4;KTUP単語長:タンパク質に2/DNAに6。類似性の分析は、ハイブリダイゼーションを使用してまた行い得る。特異的配列相同性の核酸分子間のハイブリダイゼーションを達成するのに必要なストリンジェンシー条件を計算するための一つの一般的な式は:Tm=81.5C+16.6Log[Na+]+0.41(%G+C)−0.63(%ホルムアミド)−600/二本鎖におけるbp数である(Molecular Cloning:a Laboratory Manual:2nd edition, Sambrook et al., 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0021】
TELの例示的機能相同物または誘導体(変異体)は、TELが、天然に存在するアミノ酸と異なる部分を含み得る置換、化学的、酵素的または他の適当な手段により共有結合的に修飾された分子を含む。共通構造特性を保持する誘導体は、TELのフラグメントであり、特にフラグメントは転写調節活性(実施例8に記載のようなもの)、Stat3結合活性、Stat3調節活性またはイソ型特異的特徴を維持する。好ましくは、フラグメントは50から350の間のアミノ酸長である。TELの誘導体は、また、TELの少なくとも一つの特徴、好ましくはStat3調節活性を維持しなければならないことを条件として、アミノ酸欠損、付加または置換を含むことができ、変異体も含む。このように、保存的アミノ酸置換は、実質的にTELの性質を変えることなくなされるもので、切断もあり得る。付加および置換は、本発明のスクリーニング法、特に、TEL活性を増強し(例えば、転写調節活性、Stat3結合活性、Stat3調節活性、HDAC結合活性)またはある他の望ましい特性を提供する方法に使用したTELのフラグメントに対して行われる。
【0022】
本発明のスクリーニングアッセイは、TELの存在または活性の任意の特定の測定法に限定されない。TELのレベルは、TEL特異的抗体を使用して、例えば、免疫ブロットにおいて測定できる。TELアッセイはまた当分野で既知であり(例えばVan Rompaey et al., 2000, Oncogene, 19, 5244-5250参照)、これは、Ras発現の測定またはDNA結合アッセイを使用したTEL転写活性のアッセイの方法を記載する。要約すれば、TELを適当な核酸基質(TEL結合部位を含む)と、TELのDNAへの結合を可能にする緩衝液中でインキュベートする。直接結合は、移動性シフトアッセイを使用して、または、rasのような標的遺伝子もしくはGFPのような生物工学処理標的遺伝子、または、下記に詳述するような他の検出可能なマーカーの転写に対する効果を検出することにより測定できる。あるいは、TEL転写調節活性の生成物に特異的な抗体を活性の検出に使用できる。当業者には明らかなように、アッセイは、ロボット法および自動化法を使用したハイスループット技術を容易に利用できる。TEL活性はまたタンパク質の下流標的の検出によりアッセイできる。例えば、TELは多くの特異的標的の転写および翻訳に影響することが知られている。
【0023】
TEL活性またはレベルの化合物−誘導調節は、化合物非存在下のそれと比較して、化合物存在下でTEL活性(または発現)に変化があることを意味する。特に、TEL(またはその活性)の化合物誘導阻害は、化合物非存在下のそれと比較して、減少したTEL活性により反映される。逆に、TEL(またはその活性)の化合物誘導活性化は、化合物非存在下のそれと比較して、増加したTEL活性により反映される。
【0024】
当該調節はしたがってTEL/Etv6活性の阻害であり得るので、この場合、薬剤は細胞増殖のサイトカイン−誘導阻害の増強に有効である。あるいは、当該調節はTEL/Etv6活性の活性化であり得るので、この場合、薬剤はStat3、特にリン酸化(活性化)Stat3を発現する細胞の増殖の阻害に有効である。後者の場合、細胞増殖はras活性と無関係であり得る。“Stat3を発現する”癌細胞は、構造的に活性なStat3を過剰発現するか、構造的に活性なStat3を有し、不適当なStat3シグナル伝達に至る癌を包含することを意味する。
【0025】
本方法は、特に黒色腫または癌腫の細胞増殖阻害に有効な薬剤の同定に有用である。
【0026】
アクティベーターおよびインヒビターは好ましくは本明細書で集合的にモジュレーターと呼び、好ましくはTEL活性に直接影響する。再構成された成分を使用して行うアッセイは、直接TEL調節(例えば、TEL活性の特異的阻害)を達成するために容易に設計できる。
【0027】
本発明のさらなる態様によれば、TELの結合パートナー、特にStat3への結合を調節する化合物を同定することによる、細胞増殖のようなSTAT3依存性疾患に有効な薬剤のスクリーニング法が提供される。本発明のこの態様において、方法は(i)TEL/Etv6、その変異形またはフラグメントからなる群から選択されたTEL/Etv6ポリペプチドと結合パートナーを、試験化合物の存在下でインキュベートし;そして(ii)試験化合物の存在が、TEL/Etv6ポリペプチドと結合パートナーの間の相互作用を、試験化合物の非存在下の場合と比較して調節するか否かを測定する段階を含む。下記実施例9に例示するように、結合パートナーはStat3、その変異形またはフラグメントであってよい。
【0028】
ポリペプチドと結合パートナーの間の相互作用を評価する方法は、本明細書に記載のような、当業者に既知の任意の方法であり得る。任意のこのような方法が、試験化合物がポリペプチド(この場合TEL)と結合パートナーの間の相互作用を調節(例えば、阻害)するか否かの評価に使用できる。
【0029】
一つの態様において、アッセイはTELと、Stat3、特にリン酸化(活性化)Stat3との相互作用に基づくものである。本発明者らは、非リン酸化Stat3(特に、細胞の細胞質において)のみならずリン酸化Stat3と相互作用するTELを検出している。TELは一般に核タンパク質として知られており、リン酸化Stat3は核に出入りし、核でTELと相互作用して転写を調節する。
【0030】
試験化合物がTELとStat3ポリペプチドの間の相互作用を阻害するか否かの決定は、TELポリペプチドとStat3ポリペプチドの間の物理的会合が阻害されるか否かの決定を含み得る。例えば、TELとその結合パートナーの間の物理的会合は、一方を検出可能な標識で標識し、それを固体支持体上に固定されている他方と接触させることにより検討され得る。適当な検出可能な標識は、組み換え的に製造したTELおよび/またはその結合パートナーに組み込まれ得る35S−メチオニンを含む。組み換え的に製造したTELおよび/または結合パートナーはエピトープを含む縮合タンパク質として発現され、該エピトープは抗体で標識できる。あるいは、当分野で既知のように、例えば、放射活性標識とシンチラントを使用した、二重標識を使用し得る。
【0031】
一般に、固体支持体上に固定されたタンパク質は、固体支持体に結合したタンパク質に対する抗体を使用して、または、それ自体既知の他の技術を介して固定し得る。好ましいインビトロ相互作用は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)またはHis6のようなタグを含む縮合タンパク質を利用し得る。タグは、例えば、各々グルタチオンアガロースビーズまたはNi−マトリックス上に、親和性相互作用により固定し得る。
【0032】
上記のタイプのインビトロアッセイ方式において、インヒビターと推定される化合物は、固定結合パートナー、それぞれの場合に応じて、例えば、GST結合パートナーまたはGST−TELに結合する、標識TELまたは結合パートナーの量を調節するその能力をアッセイできる。これは、グルタチオン−アガロースビーズのSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分画化により測定し得る。あるいは、ビーズを濯いで非結合タンパク質を除去し、結合しているタンパク質の量を、例えば、シンチレーションカウンター中で、存在する標識の量を計測することにより決定できる。
【0033】
また、TELまたは結合パートナー抗体の一つに対する、固体支持体に結合した抗体が、固体支持体に当該分子を結合するためにGSTの代わりに使用され得る。TELおよびその結合パートナーに対する抗体は、当分野でそれ自体既知の種々の方法で得られ得る。
【0034】
別の形態において、TELおよびその結合パートナーの一つを蛍光ドナー部分で標識し、他方をドナーからの発光を減少させ得るアクセプターで標識し得る。これは、本発明のアッセイを蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により行うことを可能にする。この形態において、ドナーの蛍光シグナルは、TELとその結合パートナーが相互作用したときに変化する。相互作用を調節する候補モジュレーター化合物の存在は、ドナーの未変化の蛍光シグナルの量を増加させるであろう。
【0035】
FRETは当分野でそれ自体既知であり、したがって、厳密なドナーとアクセプター分子、およびそれらをTELおよびその結合パートナーに結合させる手段は、文献を参照して達成し得る。
【0036】
適当な蛍光ドナー部分は、蛍光発生エネルギーを他の蛍光発生分子または化合物の部分に移すことができるものであり、クマリンおよびフルオレッセイン、ロードール(rhodols)およびローダミンのような関連色素、レゾルフィン、シアニン色素、ビマン(bimanes)、アクリジン、イソインドール、ダンシル色素、ルミノールおよびイソルミノール誘導体のようなアミノフタル酸ヒドラジン、アミノフラルイミド、アミノナフタルイミド、アミノベンゾフラン、アミノキノリン、ジシアノヒドロキノンおよびユーロピウムならびにテルビウム錯体、および関連化合物を含むが、これらに限定されない。
【0037】
適当なアクセプターはクマリンおよび関連フルオロフォア、フルオレッセイン、ロードールおよびローダミンのようなキサンテン、レゾルフィン、シアニン、ジフルオロボラジアザインダセンおよびフタロシアニンを含むが、これらに限定されない。
【0038】
好ましいドナーはフルオレッセインであり、好ましいアクセプターはローダミンおよびカルボシアニンを含む。Aldrich Chemical Company Ltd, Gillingham, Dorset, UKから入手可能なこれらのフルオレッセインのイソチオシアネート誘導体およびローダミン部分は、TELおよびその結合パートナーの標識に使用し得る。カルボシアニンの結合に関しては、例えばGuo et al, J. Biol. Chem., 270; 27562-8, 1995参照。
【0039】
本発明のさらなる態様によって、TEL遺伝子またはTEL調節配列の存在下に発現する遺伝子の発現を調節する化合物を同定することによる、細胞増殖のようなSTAT3依存性疾患に有効な薬剤のスクリーニング法が提供される。
【0040】
当該方法は、転写的に活性な細胞性成分を、好ましくは細胞中で、プロモーター配列に動作可能に結合したTEL遺伝子またはレポーター遺伝子に動作可能に結合したTELプロモーター配列(またはレポーター遺伝子の発現を可能にする他のTEL調節領域)をコードする核酸と、少なくとも一つの化合物の存在下接触させ;それがTEL発現であれ、レポーター遺伝子発現の発現であれ、コード領域の発現に対する当該化合物の効果を検出することを含む。TEL発現またはプロモーター活性の減少または増加は、上記細胞増殖の阻害に有効な薬剤の指標である。このようなアッセイは、転写的に活性な細胞性成分と核酸が細胞中に存在するので、細胞ベースのアッセイであるが、インビトロの転写アッセイも当分野で既知である。
【0041】
レポーター遺伝子は検出可能な変化を提供できる任意の分子をコードする。このようなレポーター分子は、蛍光部分を含む(例えば、シアン蛍光タンパク質、CFP;黄色蛍光タンパク質、YFP;青色蛍光タンパク質、BFP;または緑色蛍光タンパク質、GFPのような蛍光タンパク質;全てClontech Living Colors User Manualから市販されている)、抗原、レポーター酵素などである。レポーター酵素は下記のものを含むが、これらに限定されない:ベータ−ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、ホスファターゼ、オキシドレダクターゼ、デヒドロゲナーゼ、トランスフェラーゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、レダクターゼ、デアミナーゼ、カタラーゼおよびウレアーゼ。本発明で請求している範囲内で使用するレポーター分子の選択において、レポーター分子それ自体、アッセイ混合物中に存在する任意のプロテアーゼ活性による不活性化を含む、スクリーニングアッセイにおいて存在する推定薬剤または他の成分により不活性化されてはならない。適当なレポーター分子の選択は、当業者には容易であろう。
【0042】
核酸は典型的には、種々の細菌、酵母および哺乳類細胞について既知であるように、1個またはそれ以上の選択された宿主細胞中で複製できるベクター中に提供される。例えば、種々のウイルス起源(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSVまたはBPV)は哺乳類細胞中のクローニングベクターとして有用である。ベクターは、例えば、細胞に取り込まれ、目的の配列またはレポーター遺伝子の発現に使用できる、プラスミド、コスミド、ウイルス粒子、ファージまたは任意の他の適当なベクターまたは構築物の形であり得る。構築物は一過性に、または、安定なエピソームとして発現されるし、または、宿主細胞のゲノム内に取り込まれ得る。
【0043】
発現ベクターは、mRNA合成を指揮するように、目的のタンパク質コード核酸配列に動作可能に連結したプロモーターを、通常含む。TEL調節配列およびプロモーター配列のように、種々の可能性のある宿主細胞により認識されるプロモーターが既知である。“動作可能に連結”は、同じ核酸分子の一部として、プロモーターから開始すべき転写のために適当な位置および配向で、結合していることを意味する。プロモーターに動作可能に連結したDNAはプロモーターの“転写制御下”にある。哺乳類宿主細胞中のベクターからの転写は、例えば、プロモーターは、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(例えばアデノウイルス2)、ウシ乳頭腫ウイルス、鳥サルコーマウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルスおよびシミアン・ウイルス40(SV40)のようなウイルスのゲノムから、異種哺乳類プロモーター、例えばアクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーターから、および熱ショックプロモーターから得られたプロモーターにより制御されるが、このようなプロモーターが宿主細胞系と適合することを条件とする。本発明の発現ベクターはまた、抗生物質または他の毒素への耐性を付与する遺伝子のような1個またはそれ以上の選択遺伝子も含み得る。
【0044】
本発明の方法は、したがって、核酸を宿主細胞に挿入することを含んでもよい。挿入は、一般的に(特にインビトロ挿入について)“形質転換”と呼ぶが、これに限定されることはなく、任意の利用可能な技術を用い得る。真核細胞に関して、適当な方法は、当分野で既知のように、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーション、リポソーム介在トランスフェクション、および、レトロウイルスまたは他のウイルス、例えばワクチニア(vaccini)ウイルスを使用したトランスダクションを含み得る。例えば、Keown et al., Methods in Enzymology, 185:527 537 (1990)およびMansour et al., Nature 336:348-352(1988)参照。
【0045】
本明細書で記載の発現またはクローニングベクターでトランスフェクションまたは形質転換した宿主細胞は、慣用の栄養培地で培養し得る。培地、温度、pHなどの培養条件は、当業者が過度の実験をすることなく選択できる。一般に、細胞培養の生産性を最大にするための原則、プロトコールおよび実施技術は“Mammalian Cell Biotechnology:a Practical Approach”, M. Butler, ed. JRL Press, (1991) and Sambrook et al、前掲に見ることができる。
【0046】
このように、本発明のアッセイはインビボでも行い得る。このようなアッセイは、適当な宿主細胞、例えば細菌、酵母、昆虫または哺乳類宿主細胞で行い得る。酵母および哺乳類宿主細胞が特に適している。
【0047】
一つの態様において、TELポリペプチドおよびその結合パートナー(例えば、Stat3)およびレポーター遺伝子構築物を発現できる構築物を細胞に挿入し、試験化合物の存在に応答したレポーター遺伝子の調節を評価し得る。
【0048】
インビボアッセイはまた2ハイブリッドアッセイの形を取り得る。2ハイブリッドアッセイは、Fields and Song, 1989, Nature 340; 245-246により記載されたものと同一でよい。このようなアッセイにおいては、酵母GAL4転写因子のDNA結合ドメイン(DBD)および転写活性化ドメイン(TAD)が、評価しようとする各々の反応分子と融合させる。機能的GAL4転写因子は、二つの目的の分子が相互作用する場合のみ復元される。こうして、当該分子の相互作用を、該レポーター遺伝子の転写を活性化し得るGAL4 DNA結合部位に動作可能に連結したレポーター遺伝子の使用により測定し得る。他の転写活性化ドメイン、例えばウイルスVP16活性化ドメインを、GAL4 TADの代わりに使用し得る。
【0049】
一般に、TELおよびその結合パートナーは融合タンパク質として発現でき、一方は酵母GAL4結合ドメインのようなDNA結合ドメイン(DBD)を含む融合タンパク質であり、他方はGAL4またはVP16由来のような活性化ドメインを含む融合タンパク質である。このような場合、宿主細胞(これはまた細菌、酵母、昆虫または哺乳類、特に酵母または哺乳類であり得る)は、DBDに適合し得るDNA結合エレメントを含むプロモーターと共にレポーター遺伝子構築物を担持する。
【0050】
TELおよびその結合パートナーおよびレポーター遺伝子を細胞に挿入し、一過性または安定に発現し得る。
【0051】
TELおよび/またはその結合パートナーを次いで試験化合物と接触させ、TELとその結合パートナーとの結合阻害がレポーター遺伝子発現の減少として観察できる。
【0052】
このスクリーニングで同定されるインヒビターは、例えば、上記のようにStat3依存性細胞増殖の調節のために使用し得る。それらは後記のような医薬として製剤され得る。
【0053】
いくつかの態様においては、TELおよび/またはその結合パートナー(特にStat3)がその活性化形であることが好ましい。例えば、インビトロ法のためには、活性化TELまたはその結合パートナーを活性化細胞サンプルからの免疫沈降または親和性精製により提供し得る。細胞は、サイトカインで刺激されている細胞であってもよい。インビボ法用のためには、それは、例えば、サイトカインのようなリガンドを加えることにより活性化されているStat3を発現している細胞中で方法を実施することにより達成され得る。あるいは、それは構造的に活性であるか、またはリン酸化されていてもよい(Bowman et al., 2000, Oncogene, 19, 2474-2488; Bromberg et al. 1999参照)。
【0054】
結合アッセイは競合的であっても、非競合的であってもよい。全てのアッセイ(結合アッセイまたは活性アッセイであれ)は、典型的に当業者には慣用的な安定な対照と共に行うか、あるいは、対照で予め決定した標準値と比較するアッセイを使用することにより数値を決定する。
【0055】
本方法は、所望により、さらに、上記のように同定したTEL活性/結合のモジュレーターがStat3依存性細胞増殖のモジュレーターであるか否かを確認するための機能的アッセイを含んでもよい。
【0056】
一つの態様において、当該方法は細胞とTEL活性/結合のモジュレーターを接触させ、該モジュレーターがStat3依存性細胞増殖を調節できることを確認する段階を含む。例えば、該調節はサイトカイン−感受性細胞増殖の阻害(例えば、下に例示のような、サイトカインの存在下培養したA375細胞を使用して)またはStat3を過剰発現する癌の阻害(例えば、Bowman et al., 2000の表IおよびII参照)であってもよい。
【0057】
本発明はさらにStat3依存性細胞増殖の調節に有効な薬剤を同定する方法を提供するものであり、当該方法は、化合物をTEL活性に依存する非ヒト動物モデルに投与し、細胞増殖が該化合物の非存在下の場合と比較して影響を受けているか否かを決定することを含む。該非ヒト動物は典型的にマウスまたはラットのような実験動物であり、種々の投与量を経口的に餌と混ぜてまたは他の適当な手段で投与でき、投与法は安定性および標的送達のような化合物の特性に依存して選択し得る。TEL活性は、実験動物により発現される遺伝子由来であって異なる種由来のものであり、例えば、方法は、マウスTEL遺伝子を置換したヒトTEL遺伝子を含んでおり、これはヒト対象を使用せずにヒトTELに対する薬剤の効果を決定するのに特に有用であろう。
【0058】
本スクリーニングシステムは好ましくは小分子ライブラリー、ペプチドライブラリー、ファージ提示ライブラリーまたは天然物ライブラリーに含まれる化合物のスクリーニングに使用する。化合物は無機または有機、例えば、抗生物質または抗体であり得る。投与を容易にするために、化合物は好ましくは小分子であり、それらはDNA結合部位または他の転写制御部位、Stat3結合部位または実際Stat3に結合できる。
【0059】
TELモジュレーターを可能ならば改善するために、単離TELを、全タンパク質または少なくともTEL活性を担う領域の二次および三次構造を確立するために使用する。三次元構造の同定のための慣用法は、例えば、X線試験またはNMR試験である。これらまたは同等な方法により得たデータを、特異性を提供するためのような、TELのモジュレーターを同定または改善するために直接または間接的に使用し得る。この点に関して通常使用されている方法は、例えば、コンピューターを利用したドラッグデザインまたは分子モデリングである。
【0060】
このような化合物のスクリーニングに有用なキットがまた本発明によって提供され、本質的に、スクリーニングに有用なTELまたはそのフラグメントと指示書を含む。典型的には、TELポリペプチドはTEL活性を測定する手段と少なくとも一つの化合物(推定上の薬剤)または既知の調節活性を有する薬剤、例えば、siRNA、抗体または抗体フラグメントと一緒に提供される。本発明のキットに使用するためのTELは、例えば溶液、懸濁液または凍結乾燥したタンパク質の形で、またはTELもしくはそのフラグメントを産生し得る核酸配列の形で発現システム中、所望により即時使用形態で提供されてもよい。
【0061】
本発明はまた、特にStat3−過剰発現型癌またはサイトカイン−感受性癌におけるTEL活性を調節する方法および材料に関する。
【0062】
このように、一つの態様において、この目的のために、細胞におけるTEL活性を、例えば遺伝子サイレンシングにより減少させる方法を提供する。TELに対するポリヌクレオチド、特にアンチセンスRNAまたはリボザイムがTEL活性を阻害するために使用されてもよく、また、組み換え的に製造するために上記のようなベクター中に挿入されてもよく、また別法として合成的に製造されてもよい。
【0063】
アンチセンスに替わる方法は、センス配列に挿入された標的遺伝子の全てまたは一部のコピー(標的遺伝子と同一配向である)を、標的遺伝子の発現の低減を達成するために使用することである。dsRNA介在サイレンシングは遺伝子特異的であり、しばしばRNA干渉(RNAi)と呼ばれる(Fire(1999) Trends Genet. 15:358-363, Sharp(2001) Genes Dev. 15:485-490, Hammond et al. (2001) Nature Rev. Genes 2:1110-1119 and Tuschl(2001) Chem. Biochem. 2:239-245)参照。RNA干渉は二段階過程である。第一に、dsRNAを細胞内で開裂して、約21−23nt長で、5'末端リン酸と3'短突出部(〜2nt)を有する低分子量干渉性RNAs(siRNAs)を産生する。該siRNAは、特異的に対応するmRNA配列を、破壊のために標的とする(Zamore P.D. Nature Structural Biology, 8, 9, 746-750, (2001)。
【0064】
したがって、TELコード配列、例えば、“長い”二本鎖RNA(例えば、Dicerインビトロを使用してsiRNAに加工される)を含む二本鎖RNAは、Tel活性を阻害し、それによってStat3活性を阻害するために使用され得る。これらのRNA産物は、別法として、インビトロで、例えば、慣用の化学合成法により合成し得る。
【0065】
RNAiはまた3'−突出部末端と同じ構造の化学合成したsiRNA二本鎖を使用して効率的に誘導し得る(Zamore PD et al Cell, 101, 25-33, (2000))。合成siRNA二本鎖は、広範囲の哺乳類細胞系における内因性および異種遺伝子の発現を特異的に抑制することが示されている(Elbashir SM. et al. Nature, 411, 494-498, (2001))。
【0066】
したがって、例えば、合成により製造され、所望により分解防止のための保護形である、TEL配列の20から25bp、より好ましくは21から23bpを含む、siRNAは本発明のひとつの態様を形成する。
【0067】
あるいはsiRNAはベクターから、インビトロで(回収および使用のため)またはインビボで製造されてもよい。したがって、該ベクターは、例えば、本明細書に引用した任意の引用文献に記載のような、当分野で既知の任意の方法で、siRNAを細胞に挿入するのに適した、TEL(またはその変異形またはフラグメント)をコードする核酸配列を含んでもよく、該引用文献は出典明示により本明細書に包含される。
【0068】
一つの態様において、ベクターは、RNAとして発現された場合、センスおよびアンチセンス部分が結合して二本鎖RNAを形成するように、センスおよびアンチセンス配向の両方で本発明の核酸配列を含んでもよい。これは、例えば長い二本鎖RNA(例えば、23ntを超える)であってもよく、これは、Dicerにより処理され、siRNAを産生する(例えばMyers(2003)Nature Biotechnology 21:324-328参照)。
【0069】
あるいは、二本鎖RNAは、上記のような、siRNA二本鎖を形成する配列を直接コードし得る。別法として、センスおよびアンチセンス配列は、異なるベクター上に提供されてもよい。
【0070】
これらのベクターおよびRNA産物は、例えば細胞中のTELポリペプチドの新規産生の阻害に有用であり得る。したがって、本発明のさらに別の態様は、核酸(例えば上記の任意のベクター)を宿主細胞に挿入することを含む、方法を提供する。
【0071】
本明細書の記載に照らせば、TEL活性のモジュレーターは、それと特異的に結合し、そのStat3との相互作用を阻害し、それによりStat3依存性細胞増殖の阻害に有用性を有する、抗体を含むことが理解され得る。TEL抗体は、それが結合できるポリペプチドと、同種由来のそれが結合親和性を有しないか実質的に有しない(例えば少なくとも約1000倍不良の結合親和性)ポリペプチドを区別できるという意味で特異的である。特異的抗体は分子上のエピトープ(他の分子には存在しないか接近できない)と結合する。
【0072】
本発明の好ましい抗体は、他のポリペプチドと結合できる抗体のような汚染物を含まず、および/または血清成分を含まないという意味で単離されている。モノクローナル抗体がいくつかの目的のために好ましい。抗体は当分野で標準の技術を使用して得ることができる。抗体を産生する方法は、哺乳類(例えばマウス、ラット、ウサギ)を本発明のポリペプチドで免疫することを含む。抗体は当分野で既知の種々の任意の方法を使用して免疫した動物から得ることができ、好ましくは抗体と目的の抗原の結合を使用してスクリーニングする。例えば、ウェスタン・ブロッティング法また免疫沈降を使用し得る(Armitage et al, Nature, 357:80-82, 1992)。
【0073】
ペプチドで哺乳類を免疫するのに替えてまたはそれに加えて、タンパク質に特異的な抗体を、例えばその表面に機能的免疫グロブリン結合ドメインを提示するラムダバクテリオファージまたは糸状バクテリオファージを使用して、発現した免疫グロブリン可変ドメインの組み換えにより産生したライブラリーから得ることができる;例えばWO92/01047参照。
【0074】
抗体は多くの方法で修飾することができ、抗体フラグメント、抗体の誘導体、機能的等価物および同族体を含み、合成分子および、形態が、抗原またはエピトープに結合することを可能にする抗体の形態を模倣している分子を含む。抗原または他の結合パートナーの結合を可能にする抗体フラグメントの例は、VL、VH、ClおよびCH1ドメインから成るFabフラグメント;VHおよびCH1ドメインから成るFdフラグメント;抗体の一つのアームのVLおよびVHドメインから成るFvフラグメント;VHドメインから成るdAbフラグメント;単離されたCDR領域およびF(ab')2フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド結合により架橋した二つのFabフラグメントを含む、2価フラグメントを含む。一本鎖Fvフラグメントもまた含まれる。
【0075】
元の非ヒト抗体よりも免疫原性を少なくした抗体を提供するために、非ヒト起源からのCDRがヒトフレームワーク領域に、典型的にフレームワークアミノ酸残基のいくつかの変更を伴って継ぎ足されている、ヒト化抗体も含まれる。
【0076】
本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、遺伝子変異または他の変異に付され得る。モノクローナル抗体が、親抗体の特性を保持した他の抗体またはキメラ分子を製造するための組み換えDNA法に付され得ることも、当業者によって理解されるであろう。このような方法は、抗体の免疫グロブリン可変領域、または相補性決定領域(CDR)をコードするDNAを、異なる免疫グロブリンの定常領域または定常領域+フレームワーク領域に挿入することを含み得る。例えば、EP−A−184187、GB−A−2188638またはEP−A−0239400参照。キメラ抗体のクローニングと発現は、EP−A−0120694およびEP−A−0125023に記載されている。
【0077】
他方、好ましくは確立された方法にしたがい化学合成されている低分子量化合物が主として治療的薬剤とされる。これらの化合物は、SUMO化(sumolation)またはリン酸化のようなTELの翻訳後修飾またはTELの発現を調節し得る。SUMO化はTELの核輸出、したがって不活性化をもたらす。TELのリン酸化はTEL活性化に重要かもしれない。低分子量化合物および有機化合物(抗体を含む)は、一般に、Stat3依存性細胞増殖の調節に使用するための、そして好ましくはTELに選択的に作用する薬剤として有用である。
【0078】
本発明の化合物は前記の方法を使用したスクリーニングにより同定することができ、好ましくは、確立された方法にしたがって天然または遺伝子修飾された起源からの抽出により、または、特に低分子量化学化合物の場合、合成により製造される。タンパク化合物は、組み換え発現系、例えばバキュロウイルス系、または細菌系における発現により製造し得る。タンパク化合物は、主にシグナル伝達経路の機能の研究に有用であるが、それらは、TELに対するヒト化阻害抗体のような、治療的適用を有し得る。あるいは、siRNAのような核酸をTEL活性を阻害するために投与できる。siRNA技術は、下記実施例に示すような、TELに特異的な配列に基づいて慣用的に適用できる。siRNAの標的発現は、組織特異的プロモーターの使用により達成できる。
【0079】
本発明によりまた提供されるのはStat3発現癌細胞増殖、特に黒色腫または癌腫を阻害する方法であり、Stat3、特にリン酸化Stat3を発現する癌細胞と、Stat3活性を阻害するのに十分な量の有効量のTELを接触させることを含む方法である。好ましくは、細胞増殖はrasと無関係である。
【0080】
さらなる態様において、本発明はサイトカイン感受性癌細胞増殖を阻害する方法であり、サイトカイン−感受性癌細胞と、Stat3活性を増強するのに十分な量の有効量のTELインヒビターを接触させることを含む方法を提供する。TELインヒビターは、例えばRNAiまたは阻害性抗体(またはそのフラグメント)であり得る。
【0081】
このように、本発明によりまた提供されるのは、STAT3依存性細胞増殖の阻害に使用するためのTELを直接調節する化合物である。TELモジュレーター(例えば、インヒビター)は、モジュレーターの正確な性質に依存して慣用法により製剤することができ、典型的にモジュレーターまたはその前駆体を、生物学的に許容される担体と共に含む。種々の治療を考慮して、このような治療はTELおよび/またはStat3、特にリン酸化Stat3の発現が証明されている組織を標的にし得ることが理解される。
【0082】
影響を受けている細胞および組織へのモジュレーターの送達は、適当なパッケージングまたは投与系により達成できる。例えば、モジュレーターは、薬学的投与に利用できる薬剤と共に治療的使用のために製剤し、対象に所望の生理学的効果を産生するための許容される経路で送達し得る。有効量は、細胞増殖の低減のような所望の生理学的効果を発現する量である。
【0083】
本発明のさらなる態様において、本発明はまたStat3依存性細胞増殖の治療的または予防的処置用医薬の製造のためのTELモジュレーターを提供する。
【0084】
したがって、関係する方法は、さらに選択したモジュレーター(例えば、Stat3依存性細胞増殖の制御が望まれる疾患、例えば頭頸部癌、HTLV−1依存性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、大型顆粒リンパ球白血病、リンパ腫、腎細胞癌腫、前立腺癌腫、黒色腫、膵臓腺癌腫および卵巣癌腫の処置のための医薬としてのインヒビター)を製剤する段階を含み得る。これらの疾患の処置に使用するためのこのようなインヒビターおよび医薬、ならびに、その使用を含む処置法は本発明のさらなる態様を形成する。
【0085】
本明細書で使用する処置なる用語は防御および予防ならびにその状態または症状の軽減を含むことを意図する。
【0086】
組成物は、上記成分に加えて、薬学的に許容される賦形剤、防腐剤、可溶化剤、増粘性物質、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香味剤、浸透圧調整用塩、緩衝剤、またはコーティング剤を含み得る。このような物質は非毒性であり、活性成分の効果を妨害してはならない。担体または他の材料の厳密な性質は投与経路に依存し得る。方法およびプロトコールの例は、“Remington's Pharmaceutical Sciences”、16版、Osol, A. (編), 1980に見ることができる.
【0087】
組成物を医薬組成物に製剤する場合、その投与は経口、経鼻(例えばプレー式点鼻薬の形で)または直腸(例えば坐薬の形で)のような経腸(parentally)で行い得る。しかしながら、投与はまた筋肉内、静脈内、皮膚、皮下または腹腔内(例えば注射液の形で)のような非経腸的にも行い得る。
【0088】
このように、例えば、医薬組成物が錠剤の形である場合、それはゼラチンのような固体担体またはアジュバントを含み得る。錠剤、被覆錠、糖衣錠および硬ゼラチンカプセルの製造に関しては、活性化合物およびその薬学的に許容される酸付加塩を、薬学的に不活性な、無機または有機賦形剤と共に加工できる。ラクトース、メイズ澱粉またはその誘導体、タルク、ステアリン酸またはその塩などを、例えば、錠剤、糖衣錠および硬ゼラチンカプセルのためのこのような賦形剤として使用し得る。軟ゼラチンカプセルのための適当な賦形剤は、例えば、植物油、蝋、脂肪、半固体および液体ポリオールなどである。組成物が液体の形である場合、それは一般に水、石油、動物または植物油、鉱油または合成油のような液体担体を含む。生理食塩水、デキストロースまたは他の糖類溶液またはエチレングリコール、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールのようなグリコールをまた包含し得る。溶液およびシロップの製造のために適当な他の賦形剤は、例えば、水、ポリオール、サッカロース、転化糖、グルコース、トレハロース(trihalose)などである。注射液のための適当な賦形剤は、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセロール、植物油などである。静脈内、皮膚または皮下注射、または脳へのカテーテル内輸液のために、活性成分は無発熱源であり、適当なpH、等張性および安定性を有する非経腸可能水性溶液の形である。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射、リンゲル注射、乳酸加リンゲル注射を使用して、適当な溶液を製造できる。防腐剤、安定化剤、緩衝液および/または他の添加剤を必要に応じて包含し得る。
【0089】
本発明はまたStat3依存性癌の診断法であり、サンプル中のTELのレベルを検出し、サンプルにおけるTELの量またはその活性の変化を、正常コントロール値または値の範囲と比較したとき、Stat3依存性癌の傾向と相関させることを含む方法を提供する。TELの存在は、上記のような抗体を使用してまたは活性アッセイを使用して容易に測定できる。例えば、正常コントロール値または値の範囲を比較して、TELの少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%の上昇は、Stat3依存性癌の傾向の指標である(構造的に活性なStat3を有する)。サンプルは任意の生検材料または体液であり得る。
【0090】
上記は主にTEL/Etv6と関連しているが、当業者には、本発明の記載に照らして、下記の表4に記載の遺伝子/遺伝子産物の任意の一つがStat3依存性細胞増殖の阻害のために調節できることが明白であろう。したがって、TEL/Etv6に関連した上記の教示に基づいた、しかし、TEL/Etv6の代わりに表4に記載の細胞標的(例えば、STATインヒビター3)を使用した、細胞増殖のアッセイおよび阻害法の設計は、当分野の技術の範囲内である。
【0091】
これらの遺伝子は、Stat3−依存性応答を介在する転写レギュレーター;レセプター(例えば、サイトカインレセプター、OSMレセプターおよび、IL−6タイプレセプターファミリーに属するサイトカインレセプター様因子−1);細胞内シグナル伝達分子;接着タンパク質(オステオポンチンのような)および細胞性代謝の種々の側面に関連する遺伝子のような種々の機能グループに指定できる。例えば、SOCS3、Jak/Statシグナル伝達のインヒビター、C/EBPデルタ、JunBおよびアルファ−アンチキモトリプシン(セルピンA3)の発現は4HT処理により有意に増加した。同様に、死関連タンパク質キナーゼ1(DAPK1)およびセリンプロテアーゼインヒビター・セルピンB3も4HT処理により増加する。このように、例えば、DAPK1活性を細胞増殖の阻害のために調節できる。Stat3活性の阻害が望まれる場合(リン酸化Stat3発現癌または他の構造的に活性なStat3を発現する癌におけるような)、これはDAPK活性(または、分泌されたホスホタンパク質1のような表4に列記の他の遺伝子産物の一つ)の阻害により達成し得る。同様に、Stat3活性の増強が望まれる場合(サイトカイン感受性癌におけるような)、プロテアーゼインヒビター・セルピンB3を投与し得る。
【0092】
本発明を、以下の実施例において、説明のみを目的としてさらに記載する。
【0093】
実施例
本明細書で言及しているが、明確に記載していない分子遺伝学、タンパク質およびペプチド生化学および免疫学は、科学文献に報告され、かつ当分野で既知である。例えば、遺伝子操作における標準法は、本質的にSambrook et al., Molecular Cloning:A laboratory manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor NY, 1989に記載のように行う。
【0094】
実施例1:4−ヒドロキシタモキシフェン誘導Stat3ERDNA結合および転写活性
乳房癌腫および黒色腫細胞増殖のIL−6−タイプサイトカインによる阻害は、Stat3に依存する。誘導性Stat3構築物を、細胞増殖の阻害におけるStat3の役割を、他のIL−6−誘導シグナル伝達経路と無関係に調べることを可能にするために設計した。誘導性Stat3構築物は、変異したエストロゲンレセプターリガンド結合ドメイン(ER−LBD)と縮合したStat3の全コード配列(Accession No. NM_139276)を含み、本明細書ではStat3−ERと呼ぶ。ER−LBDリガンドである4−ヒドロキシタモキシフェン(4HT)の添加は、Stat3−ER二量体化、核への移動およびStat3依存性転写活性の活性化を開始させる。
【0095】
概説すれば、マウスエストロゲンレセプターの変異したリガンド結合ドメイン(T Littlewood, Nucleic Acids Res, 1995, 23,1686-90)ERTMを含むプラスミドを、BamH1−EcoR1フラグメントとしてpcDNA3.1(Invitrogenから市販されている)にクローン化した。さらなるBamH1部位を有するStat3配列をpRc/CMVStat3のPCR増幅により得(J. Bromberg, Proc Natl Acad Sci U S A., 2001, 98, 1543-8)、pcDNA3.1−ERTMにクローン化した。
【0096】
IL−6およびオンコスタチンM(OSM)はA375黒色腫細胞増殖を阻害する。Stat3−ER構築物をA375黒色腫細胞系にトランスフェクトし、高レベルのStat3−ERを発現する数個のクローンを選択した。A375黒色腫細胞を5%FCSを添加したRPMI中に維持した(Life Technologies, Inc., Grand Island, NY)。プラスミドをEffecteneトランスフェクション試薬(Qiagen, Hilden, Germany)を使用して、製造者のプロトコールにしたがって細胞内に挿入した。細胞を1mg/ml G418中で選択し、いくつかのクローンを選択し、G418存在下に拡張させてSTAT3−ER発現について分析した。二つの独立したSTAT3−ERクローン(AER18およびAER2)で類似の結果が得られた。
【0097】
DNA結合アッセイを4HT(1μM)で0、0.3、1、2、4および24時間刺激した細胞を使用して行った。核抽出物を記載のように製造した(Andrew and Faller, 1991)。Stat3 Trans Cruzオリゴヌクレオチドアガロース接合体(20マイクロタイター;Santa Cruz Biotechnology、5'-GAT CCT TCT GGG AAT TCC TAG ATC-3';配列番号1)を結合緩衝液(20mM HEPES、0.5mM EDTA、1mM DTT、2μg/ml ポリdI−dC)中、80μgの核抽出物に2時間、4℃で回転させながら添加する。サンプルを遠心し、ペレットをさらに2回結合緩衝液で洗浄する。タンパク質がビーズから25μlの2×ローディング緩衝液(1%DTT、4%SDS、20%グリセロール、0.02%ブロモフェノールブルー、0.25M TrisHCl 1M pH6.8)中の沸騰により抽出し、SDS−PAGEを行った。
【0098】
Stat3ER−DNA結合が刺激後20分に早くも検出されたが、結合は刺激後2時間強く増大し、4HT刺激24時間後に最大測定レベルに達した。このように、4HTのStat3−ER発現A375細胞への添加は、誘導核移動およびStat3−特異的オリゴヌクレオチドプローブのDNA結合を誘導した。DNA結合の増加はStat3−ER発現の増加と不随し、これはおそらくStat3−ER縮合タンパク質のリガンド依存性安定化のためである。
【0099】
ルシフェラーゼアッセイを使用し、Stat3−ER構築物が転写活性であることを証明する。この目的のために、Stat1およびStat3の標的である、アルファ2−マクログロブリン遺伝子の急性相応答エレメント(APRE)により駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子を使用した。
【0100】
細胞(2×10細胞/6ウェル皿)を、ルシフェラーゼ遺伝子に結合した最小junBプロモーターの上流の急性相応答エレメント(APRE)の4つのコピーを含むレポータープラスミド(T Hirano, EMBO Journal, 1996, 15, 3651-3658)で、Promega(Madison, WI)の内部コントロールプラスミドpRL−SV40と共にトランスフェクトした。トランスフェクション24時間後、細胞を非刺激のままにするか、OSM(PeproTechEC, London, United Kingdom)、4−ヒドロキシタモキシフェン(4HT; Sigma, St. Louis, MO)または4HT/OSMの組み合わせで24時間刺激した。細胞抽出物の製造およびルシフェラーゼ活性の測定は、Autolumat LB 953(Berthold Technologies, Wildbad, Germany)中のPromega(Madison, WI)のデュアル−ルシフェラーゼレポーターアッセイ系を使用して行った。ホタルルシフェラーゼ活性の変化は、サンプル中のウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼ活性に比例して発現された。
【0101】
A375細胞において、オンコスタチンM(OSM)は、インターロイキン6(IL−6)と白血病阻害因子(LIF)を含む試験したIL−6ファミリーメンバーの中で最も強力なStat3転写活性の活性化剤であった。Stat3−ER発現A375細胞中、4HT(1μM)はAPREからの転写を、100ng/ml OSMよりも効率的に刺激した。結果は下記表1に示す:
【表1】

【0102】
我々は、これらの条件下のこのアッセイにおいて、1μMが4HTの最適濃度であると決定した。APRE−駆動レポーターアッセイにおいて、4HTとOSMの組み合わせは、4HTまたはOSM単独により誘導された活性と比較して、ルシフェラーゼ活性を劇的に増加した。OSMの最高量で(100ng/ml)、4HTとの組み合わせにより誘導された転写は、個々に使用された4HTまたはOSMの転写活性よりも100倍強かった。IL−6は4HTと同様の協同活性を示す。このように、STAT3−ER発現A375細胞において、4HTおよびgp130シグナル伝達はStat3転写活性の増加に相乗的である。この実施例はまたStat3−ERが細胞増殖におけるStat3の効果を確立するのに効率的に使用できることも証明する。
【0103】
実施例2:STAT3DNA結合はTyr705リン酸化に依存する
STAT3−ER発現A375細胞を、本質的に実施例1に記載のように4HTで24時間処理し、次いでOSMを15分、30分、1時間、2時間、4時間または24時間添加した。Stat3−ERと内因性Stat3のDNA結合を、オリゴヌクレオチド結合タンパク質のウェスタン分析を行うことによりモニターした。Stat3DNA結合はOSM添加15分後に検出され、処理1時間後に減少した。4HTでの前処理のため、Stat3−ERは、OSM添加前にDNA結合した。OSMの存在下、Stat3−ERDNA結合は増強され、内因性Stat3が実験の全ての経過中結合したままであるのと対照的であった。Stat3およびStat3−ERのDNA結合動態は、本質的にTyr705リン酸化レベルと相関した。これらの結果は、OSM−誘導gp130活性化が、Stat3およびStat3−ERの両方のリン酸化を誘導する;Stat3が急速に脱リン酸化されている間、Stat3−ERはリン酸化されたままであり、したがって長期間DNA結合する。この結果は、Stat3依存性転写活性の刺激と、細胞増殖のStat3−誘導阻害における、4HTとOSMの間の相乗性を非常によく説明するようである。
【0104】
実施例3:Stat3活性はA375細胞増殖を阻害する
A375細胞増殖におけるStat3の役割を評価するために、A375−Stat3−ER細胞をOSMまたは4HTの存在下で増殖させ、細胞数を3日間にわたり測定した。1μMの濃度で、4HTは親A375細胞の増殖に影響しなかった。細胞を35mm皿で増殖させ、総細胞数をOSMおよび/または4HT処理0、24、48および72時間後に血球計で測定した。その値を下記表2に示す。
【0105】
【表2】

4HT処置(1μM)により、A375−Stat3−ER細胞数は約40%まで減少し、これは100ng/ml OSMの効果と同等であった。このように、Stat3活性は必要なだけでなく、A375黒色腫細胞増殖の阻害に十分である。組み合わせた場合、4HTおよびOSMは、A375−Stat3−ER細胞数の著しい減少を誘導した。
【0106】
細胞数減少におけるStat3活性化の役割をさらに詳細に述べるために、A375−Stat3−ER細胞の細胞サイクル分析を、4HT、OSMまたは組み合わせ4HT/OSM処理して行った。簡単に、細胞を示した時間(24、48および72時間)に回収し、氷冷PBSで3回洗浄し、ヨウ化プロピジウム緩衝液(1mM クエン酸ナトリウム(pH4.0)、1.5mM NaCl、5mM EDTA、5mM EGTA、0.1%NP40、4mg/ml ヨウ化プロピジウムおよび80mg/mlのRNase A)に再懸濁した。30分暗所で氷上インキュベーション後、細胞サイクルの分布をBecton Dickinson FACScanフロー・サイトメーターで測定した。その結果を下記表3に示す:
【表3】

【0107】
4HTは細胞サイクルプロフィールにごくわずかしか作用せず、処理48時間後に、細胞サイクルのG1相の細胞の一過性の5%増加を誘導した。細胞サイクルは処理3日後に再び正常になり、そのとき細胞数は約40%減少する。同様に、OSM単独はA375細胞サイクルプロフィールにわずかしか効果がなかった。対照的に、4HTとOSMの組み合わせ添加により、細胞は、細胞サイクルのG1相の急速な(24時間)遮断を受けた。48時間で、細胞はG1で蓄積され、サブ−G1ピークおよびPARP開裂の見かけにより示されるようにアポトーシスにより死滅し始めた。アポトーシス細胞の割合は、刺激3日後に20%に到達した。このように4HTとOSMの組み合わせ作用により誘導される細胞数の減少は、STAT3介在細胞死が主な原因である。
【0108】
細胞サイクルの異なる相における細胞分布は影響を受けないが、細胞サイクルにおけるStat3活性化の効果は、G1に同調しているA375 Stat3−ER細胞の放出により観察できる。4HT−処置細胞がS相に入るのは、コントロール細胞と比較して遅かった。これらの結果は、細胞サイクル分布には影響しないが、Stat3活性は細胞サイクルを通した進行を遅延させることを示す。
【0109】
実施例4:Stat3遺伝子の転写的解析
Stat3が細胞増殖および細胞死に影響する能力を理解するために、我々は、オリゴヌクレオチドマイクロアレーを使用して、A375細胞におけるStat3活性化により発現される遺伝子のプロフィールを試験した。実験を、同量のStat3−ERを発現するおよびDNA結合に同等の応答をする二つの独立したクローンで、Stat3−駆動レポーターアッセイおよび細胞増殖の阻害で行った。DNA結合実験およびレポーターアッセイは、Stat3結合および転写活性が4HT添加2および4時間後に強く増加することを示した(実施例1参照)。これはマイクロアレー実験で確認された。
【0110】
簡単に、マイクロアレイ分析を、HG U95A GeneChipsTM(Affymetrix, Santa Clara, USA)を使用して、本質的に製造者の指示にしたがって行った。Stat3−ER発現細胞を4HTで4、24および72時間刺激し、その後RNAを回収した。3つの独立した実験由来のRNAを貯蔵し、ビオチン標識cRNAプローブを各サンプルから、10μgの総細胞性RNAから開始して製造した。得られたビオチニル化cRNAを、12,000以上の配列を含むAffymetrix U95Aオリゴヌクレオチドアレイにハイブリダイズし、シグナルを検出した。チップ分析を、Affymetrix Microarray Suite v5(チップスケーリングのために標的強度500を使用)およびGeneSpring 4.2.1(Silicon Genetics)を使用して行った。遺伝子発現の変化を符号付きウィルコキソン検定(Affymetrixにより推奨されるように)を使用して複製の間の一致した変化を探すことにより評価した。“変化”p値閾値は発現の増加に関しては<0.003であり、発現の減少に関しては>0.997であった。一致分析の後、これらの値は各々<9×10−6および>0.999991となった。全ての実験条件で検出されたp値が>0.05である遺伝子を信頼できないデータとして分析から除いた。
【0111】
非処理細胞と比較して両方のクローンを有意に増加または減少した遺伝子(p<0.003)をこの結果同定したが、さらなる実験のためにその発現が2倍以上変化した遺伝子のみを選択した。4HTにより非トランスフェクトA375細胞で有意に増加または減少した遺伝子を、Stat3−ER発現細胞における変化がA375細胞における変化と比較して両方のクローンで2倍以上である限り、除いた。
いくつかの既知のStat3標的遺伝子が我々の系で誘導され、我々の実験的試みの正当性を確認する(表4)。
【0112】
【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【0113】
例えば、Jak活性を妨害することによりStatシグナル伝達の負のフィードバックに関与するJak/Statシグナル伝達のインヒビターであるSOCS3は、4HT処理により急速に上昇した(処理後1時間ほど早く)。同様に、C/EBPデルタ、JunBおよびアルファ−アンチキモトリプシン(セルピンA3)は、4HT処理により有意に増加した。しかしながら、他のStat3標的遺伝子も急速に活性化し、したがって新規Stat3標的遺伝子として同定された。これらはTEL/Etv6転写因子、死関連タンパク質キナーゼ1(DAPK1)およびセリンプロテアーゼインヒビターセルピンB3を含む。
【0114】
全体的に4HT−誘導Stat3活性化は、限定された数の遺伝子の発現の変化をもたらした。実際、処理24時間後、154遺伝子が有意に増加し、かつ23が減少したが、39遺伝子のみが2倍以上上方制御された(表4)。遺伝子の配列は当分野で既知であり、Genbankのような種々のデータベースで提供される。遺伝子は、Stat3依存性応答を介在する転写レギュレーター;レセプター(例えば、サイトカインレセプター、OSMレセプターおよび、IL−6タイプレセプターファミリーに属するサイトカインレセプター−様因子−1);細胞内シグナル伝達分子;接着タンパク質(オステオポンチンのような)および細胞代謝の種々の側面に関連するような種々の機能グループに指定できる。
【0115】
Stat3ER発現A375細胞中の4HT−誘導遺伝子のマイクロアレースクリーニングの結果は、より生理学的なStat3アクティベーター、すなわちOSMを使用して確証した。OSMがMAPK、リボソームS6キナーゼまたはタンパク質キナーゼCのようなgp130を介したStat3以外の複数の経路を活性化するため、我々は、OSM−誘導転写プロフィールが広いが、4HT標的を含むことを予期した。Stat3−ER発現細胞において、ほとんどの4HT標的はまたOSM標的であった(表4)。しかしながら、OSMはより緩和な転写応答を誘発し、したがってほとんどの遺伝子が2倍閾値を超えて増加しなかった。フィブロネクチン、インターロイキン−8およびc−Junを含むいくつかの遺伝子は、OSM標的ではないように見えた。逆に、いくつかの遺伝子がOSMにより、4HTよりもより効率的に誘導されるように見えた。クラスII主要組織適合複合体、推定癌抑制遺伝子Aim2および癌原遺伝子c−Mafを含むこれらの遺伝子の転写活性は、Stat3の活性化だけでなく、MAPKまたはPI3K経路のような別の経路にも依存している。
【0116】
実施例5:細胞増殖のStat3介在阻害におけるC/EBPデルタの役割
低分子量干渉(si)RNAを使用して、実施例3で細胞増殖のStat3−誘導阻害において役割を演じることが同定された遺伝子の発現を妨害する。この実施例は、4HTまたは4HTとOSMの組み合わせで処理したStat3−ER発現A375細胞の細胞増殖、続くC/EBPdに対するsiRNAの非存在下または存在下での細胞増殖にしたがう。
【0117】
siRNAトランスフェクションに関して、細胞をトランスフェクション前日に5×10細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートに蒔いた。siRNA二本鎖をOligofectatAMINE試薬(Life Technologies)を用いて、製造者のプロトコールにしたがい、10μlの20μM siRNAおよび3μlのトランスフェクション試薬/ウェルと共に挿入した。以下の21量体オリゴヌクレオチドペアを使用した:
C/EBPデルタ siRNA nt 844−864、5'-GCAGCUGCCCAGCCCGCCCdTdT-3'(配列番号2)および5'-GGGCGGGCUGGGCAGCUGdTdT-3'(配列番号3)。
【0118】
LacZ siRNAをコントロールとして使用した。設計したRNAオリゴヌクレオチドをGENBANK/EMBLデータバンクに対して“BLAST検索(blasted)”し、遺伝子特異性を確認した。RNAオリゴヌクレオチドは市販品から得た。発現ベクターをsiRNAトランスフェクション1日後、Effecteneを使用して行った。定量的PCRで試験した場合、C/EBPデルタmRNAは4HT処理により有意に増加し、OSM/4HT組み合わせ処理により強く増加し、マイクロアレー分析の結果を確認した。C/EBPデルタsiRNAはC/EBPデルタの発現を有意に減少させた。コントロールsiRNAの存在下、細胞増殖の約40−45%阻害が観察された。C/EBPデルタsiRNA存在下、A375細胞増殖は有意に減少し(〜40%、3つの独立した試験の平均、すなわち、細胞増殖の約25%までの阻害)、C/EBPデルタがStat3機能のメディエーターであることを示唆した。
【0119】
実施例6:TELはStat3活性の負のレギュレーターである
マイクロアレーデータは、TEL mRNAがStat3活性化の4時間以内に増加することを示す。TELは通常、ATGコドン1および43でのTEL mRNA翻訳開始に対応する(TELおよびTEL−43)、二つのタンパク質イソ型として発現する。TELの両方のイソ型は、ASER細胞への4HT添加8時間以内に有意に増加し、処理24時間後に著しく増加した。TELがStat3の天然標的であるかどうかを確認するために、我々は、OSMまたはIL−6に応答した、ヒト癌細胞系細胞系でのその発現を試験した。実際TEL発現は、T47DおよびSKBr−3乳癌細胞、DU145前立腺癌腫細胞およびHepG2肝腫由来細胞のIL−6/OSM処理に続いて増加した。しかしながら、TEL発現は前立腺癌細胞PC3およびLNCaPおよびMDA−MB−468乳癌細胞を含む他の細胞系では、これらの細胞系各々でもStat3がIL−6/OSM処理により活性化されることが期待されたにもかかわらず、変わらなかった。
【0120】
本質的に実施例4に記載のように、しかし、TEL siRNA nt 540−560、5'-CCCUCCCACCAUUGAACUGdTdT-3'(配列番号4)および5'-CAGUUCAAUGGUGGGAGGGdTdT-3'(配列番号5)を使用して、細胞増殖のStat3介在阻害におけるTELの機能を試験するために実験を行った。この実施例は、4HTまたは4HTとOSMの組み合わせで処理したStat3−ER発現A375細胞の、TELに対するsiRNAの非存在下または存在下での増殖にしたがう。
【0121】
タンパク質分析をウェスタンブロッティングにより行った。簡単に、細胞をNP40抽出緩衝液(50mM Tris(pH7.5)、1mM EGTA、5mM EDTA、120mM NaCl、1%NP40、2mM オルトバナジウム酸ナトリウム、50mM フッ化ナトリウム、
【化1】

10μg/ml ロイペプチン、10μg/ml アプロチニン、および0.5mM フェニルメチルスルホニルフルオリド)で5分氷上で回収した。融解物を遠心により浄化し、タンパク質濃縮をBio-Radタンパク質アッセイ試薬(Bio-Rad Laboratories Gmbh, Munich, Germany)を使用して測定した。免疫沈殿のために、等量のタンパク質をSanta Cruz Biotechnology(Santa Cruz, CA)のStat3(C−20)と1時間インキュベートした。SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に続き、タンパク質をポリビニリデンジフルオリド膜(Boehringer Mannheim, Mannheim, Germany)にブロットした。50mM Tris pH7.5、150mM NaCl、0.05%Tween20中の10%ウマ血清(Life Technologies, Inc.)でブロックした後、フィルターを特異的抗体;Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz, CA)からのc−TEL、Stat3(C−20)、Cell Signaling Technology(Beverly, MA)からのホスホ−Stat3(Tyr705)でプローブした。タンパク質を増強された化学ルミネッセンス検出系(Amersham Pharmacia Biotech, Little Chalfont, United Kingdom)を使用して、ペルオキシダーゼ結合二次抗体で可視化した。
【0122】
タンパク質レベルでの分析は、4HTまたは4HT/OSM処理によりTELが強く増加することが確認された。この増加はTEL siRNAの存在下で非常に防止された。驚くべきことに、TEL siRNAの存在下、A375細胞増殖のStat3介在阻害は有意に増加した(約28%から約40%に)。これらの結果は、TELがStat3活性のStat3が誘導する負のレギュレーターとして作用することを示唆した。
【0123】
TEL発現の阻害がStat3活性に直接影響するか否かを試験するために、Stat3依存性転写活性を、Stat3−ER発現A375で、TEL siRNAの非存在下または存在下、上記のルシフェラーゼ活性を使用してアッセイした。4HTまたはOSMにより誘導されたルシフェラーゼのStat3依存性転写は、TEL発現がsiRNAにより減少した場合、有意に増加した(各々コントロールよりも約6から16倍増加、および約9倍から18倍増加)。
【0124】
したがって、TELの発現は、TEL siRNAのトランスフェクションにより、コントロールLacZ siRNAでトランスフェクトされた細胞で観察されたレベルと比較して、強く減少した。加えて、4HTおよびOSM処理Stat3ERA375細胞におけるStat3の抗増殖性効果は、コントロールLacZ siRNA処理培養と比較してTEL siRNA処理培養において強く、Stat3シグナル伝達のStat3が誘導する負のレギュレーターとしてのTELの機能をさらに支持した。
【0125】
Stat3ERA375細胞およびHEK293細胞におけるTELの過剰発現は、4HT(50から75%)およびOSM(>70%)に応答したStat3活性の強い減少をもたらした。これらの結果は、TELがStat3転写活性の負のレギュレーターであることを証明する。
【0126】
要約すると、IL−6−タイプサイトカインによる乳癌腫および黒色腫の細胞増殖の阻害は、本明細書ではA375細胞で例示しているが、TEL活性の減少により誘導できるStat3活性に依存している。
【0127】
実施例7:トリコスタチンAによるTEL活性の阻害
TELリプレッサー活性は、mSin3A、NcoRおよびSMRT(Chakrabarti and Nucifora 1999; Wang and Hiebert 2001)を含む、コ−リプレッサー複合体の補充に依存しており、これらはヒストンデアセチラーゼ(HDAC)と相互作用することが知られている。この実施例は、HDAC補充がStat3転写活性のTEL依存性抑制で役割を演じるか否かを見るために行う。
【0128】
簡単に、4HTで処理した、TEL−またはコントロール、pcDNA3.1−トランスフェクトStat3ERA375細胞を、本質的に上記のような一般的なHDAC阻害剤であるトリコスタチンA(TSA;250nM)の存在下または非存在下で培養した。TSAの4HT刺激細胞への添加は、TELによるStat3活性の抑制を予防するが、pcDNA3.1トランスフェクト細胞におけるStat3介在転写活性には影響しなかった。このように、Stat3介在転写におけるTELの阻害効果は、HDACの補充に依存する。
【0129】
実施例8:TELはStat3活性をDNA結合ドメインと無関係に抑制する
この実施例は、TELのどの領域がStat3転写活性の抑制に必要であるか、Stat3ER−A375細胞またはHEK−293細胞に種々のTEL変異体を発現させ、4HT−またはOSM−誘導Stat3転写活性におけるその効果を評価することにより試験した。コ−リプレッサーであるHDAC含有複合体がTELの少なくとも二つの異なるドメイン、ポインテッド・ドメインおよび中央抑制ドメインと相互作用することが既知であるため(Chakrabarti and Nucifora 1999; Wang and Hiebert 2001)、これらの両方の構築物をアッセイに包含させた。使用した構築物は:TELΔ41−127(すなわちΔP)、TELΔ122−176、TELΔ122−217、TELΔ268−333、TELΔ303−333、TELΔ333−352、TELΔ442−452、TELDBDM(R396K;R399K)であった。
【0130】
概説すると、Stat3−ER−A375細胞およびHEK293細胞を異なるTEL変異体、Stat3レポータープラスミドおよびウミシイタケ(Renilla)プラスミドでトランスフェクトした。細胞を4HTまたはOSMで24時間処理し、ルシフェラーゼ活性を実施例1に記載のルシフェラーゼアッセイを使用して測定した。ポインテッド・ドメインを欠くTELΔPのみがStat3活性の抑制をしなかった。TELデルタ333−452はStat3活性を抑制したが、TELデルタ442−452はStat3活性を抑制できなかった。TEL、TELデルタP、TELデルタ333−452およびそれより程度は低いがTELデルタ442−452はまだStat3と相互作用した。TELのDNA結合変異体は、両方の細胞タイプで4HT−またはOSM−誘導Stat3活性を抑制する能力を維持しており、TELがStat3活性をDNA結合ドメインと無関係に抑制するが、ポインテッド・ドメインの少なくとも一部を必要とすることを示唆する。
【0131】
実施例9:TELはStat3と直接相互作用する
TEL DNA結合ドメインはStat3活性の抑制に必要ではないため、この実施例は、TELが直接Stat3と相互作用する可能性を試験する。核に富むフラクションからの抽出物を、コントロールまたはOSM−刺激A375細胞から調製した。抗体でプロービングした核融解物は、OSM処理後の予期されたStat3レベルの上昇を確認するが、一方、TELの核含量はOSMにより影響されない。内因性TELがStat3免疫沈降物に存在し、TELのレベルはコントロール処理核抽出物と比較してOSM処理核抽出物で上昇したStat3と関連した。逆に、Stat3はTEL含有複合体に存在し、固定化GGAA−含有オリゴヌクレオチドを介して低下し、該ヌクレオチドはTELの結合部位である。総合すると、これらの結果は、TELは、Stat3転写活性を、Stat3と直接相互作用し、かつHDACをStat3転写複合体に補充することにより抑制することを示唆する。
【0132】
本明細書ならびに2003年8月14日出願のUS特許出願第60/495,309号に引用した全ての刊行物は、出典明示により各々が個々に記載されているかのごとく本明細書に包含させる。

【配列表】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
Stat3依存性細胞増殖の調節に有効な薬剤を同定する方法であり:
i)TEL/Etv6と化合物をインキュベートし;
ii)TEL/Etv6活性を検出し;そして
iii)該化合物の非存在下のそれに対するTEL/Etv6活性の化合物−誘導調節を測定する(ここで、化合物存在下におけるTEL/Etv6活性の変化が、Stat3依存性細胞増殖の調節に有効な薬剤の指標である)
段階を含む、方法。
【請求項2】
該調節がTEL/Etv6活性の阻害であり、かつ該薬剤が細胞増殖のサイトカイン−誘導阻害の増強に有効である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該調節がTEL/Etv6活性の活性化であり、かつ該薬剤がStat3を発現する細胞の増殖阻害に有効である(ここで、該Stat3はリン酸化されている)、請求項1記載の方法。
【請求項4】
該細胞増殖がras活性と無関係である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
該細胞増殖が黒色腫または癌腫の増殖である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
Stat3依存性細胞増殖の調節に有効な薬剤を同定する方法であり:
(i)TEL/Etv6、その変異形およびフラグメントからなる群から選択される少なくとも一つのTEL/Etv6ポリペプチドと結合パートナーを、試験化合物の存在下でインキュベートし;そして
(ii)試験化合物の存在が該TEL/Etv6ポリペプチドと該結合パートナーの間の相互作用を、該試験化合物の非存在下のそれと比較して調節するか否かを測定する
段階を含む、方法。
【請求項7】
TEL/Etv6の変異形またはフラグメントがStat3と結合する能力を有する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
TEL/Etv6のフラグメントが50から350の間のアミノ酸長である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
該結合パートナーがStat3、その変異形またはフラグメントである、請求項6から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
さらに試験化合物がStat3依存性細胞増殖の調節剤であることを確認することを含む、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
該TEL/Etv6ポリペプチドまたは結合パートナーを検出可能な標識で標識し、他方を固体支持体上に固定する、請求項6から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
調節が該相互作用の阻害である、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
物質がサイトカイン−感受性癌の細胞増殖を阻害することを確認する段階を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
該試験化合物がTEL/Etv6とStat3の物理的会合を阻害するか否かを測定する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
該方法が:
(i)該結合パートナーと相互作用する能力を有するTEL/Etv6、その変異形またはフラグメントを発現する細胞と、試験化合物を接触させ、そして
(ii)該細胞における該相互作用を阻害する物質を同定する
段階を含む、請求項6から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
該方法が:
(i)TEL/Etv6ポリペプチドおよびその結合パートナーおよびレポーター遺伝子構築物を発現できる細胞を提供し、
(ii)細胞と試験化合物を接触させ、
それにより、試験化合物によるTEL/Etv6ポリペプチドと結合パートナー間の結合の阻害が、レポーター遺伝子発現の減少として観察できる、
段階を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
TEL/Etv6ポリペプチド、その結合パートナーおよびレポーター遺伝子構築物を発現でき、それにより、該TEL/Etv6ポリペプチドと該結合パートナー間の結合がレポーター遺伝子発現により観察できる、哺乳類細胞。
【請求項18】
Stat3発現癌細胞増殖を阻害する方法であり、Stat3を発現する癌細胞を、Stat3活性を阻害するのに十分な量の有効量のTELアクティベーターと接触させることを含む、方法。
【請求項19】
該Stat3がリン酸化されている、請求項18記載の方法。
【請求項20】
サイトカイン感受性癌を阻害する方法であり、サイトカイン−感受性癌細胞と、Stat3活性を増強するのに十分な量の有効量のTEL活性インヒビターを接触させることを含む、方法。
【請求項21】
活性の阻害が、細胞におけるTEL/Etv6またはその同族体の下方制御によりもたらされる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
該下方制御がRNAiによりもたらされる、請求項21記載の方法。
【請求項23】
該下方制御が、TEL/Etv6またはその同族体の部分をコードするRNA配列を含む、少なくとも部分的に二本鎖の20から25bp長の間のRNAによりもたらされる、請求項22記載の方法。
【請求項24】
該TELインヒビターが抗体または抗体フラグメントである、請求項20記載の方法。
【請求項25】
活性の阻害が、細胞中のTEL/Etv6またはその同族体と、結合パートナーの相互作用の阻害によりもたらされる、請求項20または24に記載の方法。
【請求項26】
結合パートナーがStat3である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
サイトカイン−感受性癌細胞の細胞増殖阻害のための、TEL/Etv6、その同族体またはフラグメントをコードするRNA配列を含む、少なくとも部分的に二本鎖のRNAの使用。
【請求項28】
該dsRNAが20から25bpの間のsiRNA二本鎖である、請求項27記載の二本鎖RNAの使用。
【請求項29】
TEL/Etv6活性インヒビターの、サイトカイン−感受性癌に罹患している患者の処置用薬剤の製造における使用。
【請求項30】
STAT3発現癌に罹患している患者の処置に使用する薬剤を製造するためのTEL/Etv6活性アクティベーターの使用。


【公表番号】特表2006−505286(P2006−505286A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502105(P2005−502105)
【出願日】平成15年11月4日(2003.11.4)
【国際出願番号】PCT/EP2003/012295
【国際公開番号】WO2004/042406
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(502407336)ノバルティス・フォルシュングスシュティフトゥング・ツヴァイクニーダーラッスング・フリードリッヒ・ミーシェー・インスティトゥート・フォー・バイオメディカル・リサーチ (19)
【氏名又は名称原語表記】Novartis Forschungsstiftung Zweigniederlassung Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research
【Fターム(参考)】