説明

細胞増殖を誘導するための選択的光刺激

本発明は、少なくとも部分的に、ある組織を、例えばレーザーなどから致死量以下の線量で照射すると、該組織中の色素性細胞が選択的に刺激されて増殖し、血小板由来成長因子 (PDGF)などの特定の有糸分裂促進性因子及び成長因子を高レベル、産生するという発見に基づく。具体的には、パワー、パルス持続時間、総照射エネルギー(「フルエンス」)、波長、そして複数回のパルスを用いる場合にはパルス率及び総パルス数など、パルス・レーザー光線の多様なパラメーターを慎重に選択及び制御することで、照射された色素性細胞の致死を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組織の光処置に関し、より具体的には細胞増殖を誘導するための光刺激の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーなどの光による組織の処置は態様な医療分野における普通の慣例である。例えば眼科では、用途には光凝固用のレーザー使用、即ち、組織損傷を起こさせる光の照射がある。光凝固は、例えば年齢に関係する黄斑変性症 (AMD)、糖尿病性黄斑症 (DMP)、増殖性糖尿病性網膜疾患
(PDR)、中枢漿液性網膜症 (CSR)など、網膜障害疾患を治療するために用いられる。加えて、米国特許第5,549,596号は、隣接する非色素性細胞を温存しながら、色素性眼内細胞を損傷させる方法として選択的レーザー・ターゲティングの使用を解説している。
【0003】
概要
本発明は、少なくとも部分的に、ある組織をレーザーなどから致死量以下の線量で照射した場合に、該組織中の色素性細胞が選択的に刺激され(即ち光刺激され)て増殖し、血小板由来成長因子(PDGF)などの特定の有糸分裂促進性因子及び成長因子が高レベルで産生されるという発見に基づくものである。このように、致死量以下の照射を適切に応用することで、増殖及び成長を誘導するような細胞の生化学的応答を引き起こすことができ、ひいては細胞損傷及び細胞死を避けつつも萎縮性又は罹患組織に治癒効果をもたらすことができる。
【0004】
具体的には、例えばパワー、パルス持続時間(ここでは「パルス幅」とも言及される)、総照射エネルギー(これもここでは「フルエンス」とも呼ばれる)、波長、及び複数のパルスを用いる場合にはパルス率及び総パルス数、など、パルス照射の多様なパラメーターは、照射された色素性細胞の致死を抑えるために慎重に選択され、制御される。例えば致死量以下の一レーザー・パルス、又は数パルスの持続時間は、組織中の個々の細胞の熱緩和時間よりも短くなくてはならず、用いる波長は、標的とする細胞又はそのような細胞内の色素の最大吸光度に近くなければならない。
【0005】
ここで解説する方法は、例えば、小柱網(TM)細胞、網膜色素性上皮細胞、ブドウ膜色素性細胞、黒色腫細胞、又は結膜色素性細胞などの眼内細胞などの色素性細胞を選択的に光刺激するステップを含む。色素性細胞は、内因的に合成された色素を含むものでもよく、あるいは、例えば貪食細胞など、当該細胞を含有する組織の部位を照射する前に、外因的色素に当該貪食細胞を接触させることにより中に外因的色素を導入した、貪食細胞などの細胞であってもよい。代替的には、遺伝子操作技術、あるいは細胞膜を通じて色素を通過させることによって非貪食細胞に色素を導入することもできる。
【0006】
ここで用いられる場合、内因的色素とは、細胞内で合成され、保持された色素を言い、そして外因的色素とは、同じ細胞内で合成されたのではない、細胞内の色素を言う。
【0007】
いくつかの実施態様では、貪食細胞は小柱網細胞であり、外因的色素は虹彩のレーザー照射により眼房水中に導入される。
【0008】
新規な本方法は、「致死量以下の」フルエンスで、又は生/死生存率/細胞障害性検定により測定されるように照射された組織中のうちの有意なパーセンテージ(90パーセントを越える)を生きたままに維持しつつ、組織中の色素性細胞を光刺激するために投与される、一回又は短い一連のパルスの投与を含む一回処置セッションにおいて投与される総線量で組織を照射するステップを含む。
【0009】
致死量以下のフルエンスは、様々なパワー、波長、パルス持続時間、及び反復率や、様々なレーザー及び細胞種及び細胞内の色素沈着のレベルで異なる。例えば、250 ns 乃至3 msのパルス持続時間でRPE細胞を一回、パルス照射する場合、致死量以下のフルエンスは約 5 乃至 8 mJ/cm2
から約250 乃至285 mJ/cm2、例えば約10 乃至 220、25 乃至 200、そして55乃至110 mJ/cm2の範囲内であろう。例えば、590 nm での一回の 1 ms パルスの処置セッションの120
mJ/cm2 未満のフルエンスは、RPE細胞に対するパルス染料レーザーを用いた致死量以下フルエンスである。更なる例として、RPE細胞を、例えば10-20 nsのパルス時間などの250ns未満のパルス持続時間で一回、パルス照射する場合、致死量以下のフルエンスは
約0.1 乃至1 mJ/cm2 から約20 乃至 30 mJ/cm2の範囲内、例えば約0.5 乃至20、1 乃至15、そして5 乃至10 mJ/cm2などであろう。
【0010】
ここで用いられる場合、細胞の選択的光刺激とは、非色素性(原語:unpigmented)(ここでは非色素性(原語:nonpigmented))とも言及される)細胞に比較して、色素性細胞中の特定の色素に優先的に吸収される波長で運転されるレーザーにより誘導される効果である。該効果は、例えば血小板由来由来成長因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGFb)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、上皮成長因子(EGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、色素上皮-由来因子(PEDF)、及び熱ショックタンパク質のうちの一種以上など、特定の有糸分裂促進性及び/又は成長因子の産生を増加させる生化学的応答を、照射された色素性細胞に有させる、及び/又は、未照射の、かつ非色素性の細胞に比較してそれらの増殖レベルを、照射された細胞に増加させる、ことである。
【0011】
ここで用いられる場合、ここで用いられる場合、非色素性(原語:unpigmented)又は非色素性(原語:nonpigmented)細胞とは、ある色素性細胞で見られるレベルの半分未満である特定の色素のレベルを有する細胞である。一般的には、ある局面では、本発明は、患者中の組織内の色素性細胞を選択的に光刺激する方法を特徴とし、本方法は、色素性標的細胞及び非色素性細胞を含有する組織の領域を選択するステップであって、前記色素は内因的に合成された又は外因的な色素である、ステップと、前記組織を、レーザーなどから一種以上の照射パルスで照射するステップであって、各パルスが、(i)非色素性細胞でよりも色素細胞中でより吸収される波長と、(ii)色素性細胞の熱緩和時間よりも短いパルス持続時間とを含み、適用される総照射エネルギーは、色素性標的細胞に致死量以下のフルエンスを提供するステップとを含み、こうして組織中の色素性細胞を選択的に光刺激する、方法である。
【0012】
方法の実施態様には、以下の特徴及び/又はここで解説する他の局面の特徴のうちの一つ以上を含めることができる。例えば、いくつかの実施態様では、総レーザー照射の致死量以下のフルエンスは120 mJ/cm2 未満でもよく、そしてパルス持続時間は0.5 ms 乃至 8 msの範囲内である。いくつかの実施態様では、照射は可視スペクトル中の波長(例えば 約 400 nm 乃至 約 800 nmの範囲)を有する。
【0013】
いくつかの実施態様では、レーザー照射を、それぞれ約 1 ns 乃至 約 2 msのパルス持続時間である一回以上のパルスで送達することができる。いくつかの実施態様では、総レーザー照射のレーザー・フルエンスは120 mJ/cm2未満であってよい。
【0014】
いくつかの実施態様では、総レーザー照射の致死量以下のレーザー・フルエンスは20 mJ/cm2 未満であってよく、そしてパルス持続時間は約 10ナノ秒であってよい。当該照射は可視スペクトル(例えば約 400 nm 乃至 約 800 nmの範囲).の波長を有することができる。
【0015】
他の実施態様では、総レーザー照射の致死量以下レーザー・フルエンスは200 mJ/cm2 未満であってよく、そしてパルス持続時間は約 10 ナノ秒であってよく、そして照射は赤外スペクトル(例えば1000 nm 乃至 1500 nmの範囲)の波長を有することができる。
【0016】
本方法は、その後の照射ステップ、又は、再生期間後のステップを含むことができる。
【0017】
いくつかの実施態様では、一回以上のレーザー照射パルスに、約 0.05乃至約 1.5 mm 又は約 0.1 乃至約 1.0 mmの直径を有する標的スポットで組織に入射させることができる。
【0018】
多様な実施態様では、組織に黒色腫又は眼内組織、例えば小柱網細胞、網膜色素性上皮細胞、ブドウ膜色素性細胞、及び/又は黒色腫細胞を含めることができる。いくつかの実施態様では、前記色素性細胞は眼内部分の貪食細胞であってよく、色素は、この眼内部分を照射する前に外因性色素に貪食細胞を接触させることにより、この眼内部分に導入される。
【0019】
一般的には、更なる局面では、本発明は、網膜色素上皮細胞の増殖を選択的に誘導する方法を特徴とし、本方法は、網膜色素上皮細胞を含有する網膜の領域を選択するステップであって、該網膜色素上皮細胞は、内因的に合成された又は外因的な色素である色素を含有するものである、ステップと、網膜色素上皮細胞の該領域を一回以上の致死量以下照射パルスで照射するステップであって、各パルスは、120 mJ/cm2未満のフルエンスを提供すると共に、400 nm 乃至800 nmの波長の少なくとも0.5μsのパルス持続時間、あるいは、1000 nm 乃至1500 nm の範囲の波長の5ns乃至0.5μsの範囲のパルス持続時間と、周囲組織よりも網膜色素上皮細胞でより吸収される波長とを含み;個々のパルスは、組織の光凝固が確実におきないように充分な時間、離して適用され;そして組織に適用される総レーザー照射エネルギーは、致死量以下のレーザー・フルエンスを網膜色素上皮細胞に提供するステップとを含み、こうして組織中の網膜色素上皮細胞の増殖を選択的に誘導する、方法である。
【0020】
本方法の実施態様には、以下の特徴及び/又はここで解説する他の局面の特徴のうちの一つ以上を含めることができる。例えば、いくつかの実施態様では、レーザー照射に、直径約 0.05乃至約 1.5 mm 又は直径約 0.1乃至約 1.0 mmの標的スポットで眼内部分に入射させることができる。
【0021】
いくつかの実施態様では、放射光曝露は400 nm 乃至800 nmの波長で5 ns 乃至0.5 ms の範囲のパルス持続時間で約
20 mJ/ cm2 未満であってよい。特定の実施態様では、本方法は、一つ以上の網膜色素上皮細胞に外因性色素を導入するステップを更に含む。
【0022】
一般的には、更なる局面では、本発明は、患者の組織中の色素性細胞を選択的に光刺激する方法を特徴とするものであり、本方法は、色素性標的細胞及び非色素性細胞を含有する組織の領域を選択するステップであって、前記色素は内因的に合成された、又は、外因的な色素である、ステップと、色素性細胞の熱緩和時間よりも短い、一回以上の照射パルスのためのパルス持続時間と、非色素性細胞でよりも色素細胞でより吸収される、一回以上の照射パルスを生成する波長とを選択するステップと、選択された波長及び選択されたパルス持続時間による一回以上の照射パルスで生成されるフルエンスであって、色素性細胞にとって致死量以下のフルエンスである、フルエンスを選択するステップと、一回以上の照射パルスで組織を照射するステップであって、組織に適用される前記総照射エネルギーは、色素性標的細胞に致死量以下のフルエンスを提供するものである、ステップとを含み、こうして組織中の色素性細胞を選択的に光刺激する方法である。これらの方法の実施態様には、ここで解説する他の局面の特徴のうちの一つ以上を含めることができる。
【0023】
概略的には、更なる局面では、本発明は、網膜色素上皮細胞の増殖を選択的に誘導する方法を特徴とし、本方法は、網膜色素上皮細胞を含有する網膜の領域を選択するステップであって、前記網膜色素上皮細胞は、内因的に合成された、又は外因的な色素である、色素を含有する、ステップと、一回以上の照射パルスのパルス持続時間と、周囲組織よりも網膜色素上皮細胞でより吸収される、一回以上の照射パルスを生成するための波長とを選択するステップと、選択された波長及び選択されたパルス持続時間による一回以上の照射パルスで生成されるフルエンスであって、網膜色素上皮細胞にとって致死量以下のフルエンスである、フルエンスを選択するステップと、前記一回以上の照射パルスで網膜色素上皮細胞の領域を照射することで、組織中の網膜色素上皮細胞の増殖を選択的に誘導する、ステップとを含む。これらの方法の実施態様には、ここで解説する他の局面の特徴のうちの一つ以上を含めることができる。
【0024】
概略的には、更なる局面では、本発明は、患者の組織中の色素性細胞を選択的に光刺激するシステムを特徴とし、本システムは、一回以上の照射パルスを生成する光源であって、各パルスが、(i)非色素性細胞でよりも色素性細胞でより吸収される波長、及び(ii)色素性細胞の熱緩和時間よりも短いパルス持続時間、を含む、光源と、色素性標的細胞及び非色素性細胞を含有する組織の領域に前記一回以上のパルスを指向させる光学システムであって、前記色素は、内因的に合成された、又は外因的な色素である、光学システムと、組織に適用される総照射エネルギーが、色素性標的細胞に致死量以下のフルエンスを提供するように、一回以上の照射パルスでの組織照射を制御するように構成されることで、組織中の色素性細胞を選択的に光刺激する、制御ユニットとを含む。これらのシステムの実施態様には、以下の特徴、及び/又は、ここで解説する他の局面の特徴のうちの一つ以上を含めることができる。
【0025】
いくつかの実施態様では、制御ユニットは更に、色素性標的細胞に対する致死量以下のフルエンスが確実となるように、パルス持続時間、波長、及びフルエンスのうちの少なくとも一つを制御するように構成することができる。いくつかの実施態様では、本システムは更に、放出されるパルスの時間、波長、及びフルエンスを観察する観察ユニットを含むこともできる。いくつかの実施態様では、光源を、ナノ秒から数マイクロ秒の範囲の時間のパルスを生成するように構成することができる。多様な実施態様では、光源を、例えば約 400 nm乃至 約 800 nmの範囲などの可視スペクトル、及び/又は、例えば約100 nm 乃至約 1500 nmの範囲などの赤外スペクトル、の波長のパルスを生成するように構成することができる。いくつかの実施態様では、更に本システムを、組織に対して10 nJ 乃至200 mJの範囲の照射フルエンスを生成するように構成することができる。
【0026】
概略的には、更なる局面では、本発明は、網膜色素上皮細胞の増殖を選択的に誘導するシステムを含み、本システムは、一回以上の照射パルスを生成する光源と、網膜色素上皮細胞を含有する網膜の領域を選択する手段であって、前記網膜色素上皮細胞は、内因的に合成された、又は外因的な色素である色素を含有する、手段と、一回以上の照射パルスのパルス持続時間と、周囲組織よりも網膜色素上皮細胞内でより吸収される、一回以上の照射パルスを生成するための波長とを選択する手段と、選択された波長及び選択されたパルス持続時間による一回以上の照射パルスで生成されるフルエンスであって、網膜色素上皮細胞にとって致死量以下のフルエンスである、フルエンスを選択する手段と、網膜色素上皮細胞の領域を一回以上の照射パルスで照射することで、組織中の網膜色素上皮細胞の増殖を選択的に誘導する光学素子とを含む。これらのシステムの実施態様には、ここで解説する本発明の他の局面の特徴のうちの一つ以上を含めることができる。
【0027】
そうでないと明示しない限り、ここで用いられた全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する、当業者に通常理解されるものと同じ意味を有する。ここで解説されたものと同様又は均等な方法及び材料を本発明の実施又は検査で用いることができるが、適した方法及び材料を下で解説する。ここで言及された全ての公開文献、特許出願、特許、及び他の参考文献の全文を、引用をもって援用することとする。矛盾がある場合は、定義を含む本明細書を上位とする。加えて、材料、方法、及び実施例は単に描写的なものであり、限定的であることを意図していない。
【0028】
本発明の他の特徴及び長所は、以下の詳細な解説、及び請求項の範囲から明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、組織の光刺激のためのレーザー装置の図である。
【図2】図2は、光刺激を描いたフロー図である。
【図3】図3は、レーザー・フルエンス及びメラニン含有量の関数とした、色素性RPE細胞の生存率の図である。
【図4】図4A乃至4Hは、RPE細胞(4A乃至4G)の顕微鏡写真の一連の表現と、レーザー照射後のRPE細胞再生を示したグラフ(4H)である。
【図5】図5A乃至5Eは、in及びin vitroでの創傷治癒モデルの細胞(5A乃至5D)の顕微鏡写真の一連の表現と、経時的な創傷治癒の多様なレベルを示したグラフ(5E)である。
【図6】図6A乃至6Eは、細胞(6A乃至6D)の一連の画像と、BrdU染色を示したグラフ(6E)である。
【図7】図7は、偽性コントロール及びレーザー・照射されたRPE細胞中のPDGFA、PDGFB、PDGFレセプター・アルファ(PDGFR-α)、及びPDGFR-β のRT-PCR解析の図である。
【図8】図8Aは、レーザー照射後の様々な時点でのPDGFA 及びPDGFB並びにそれらの受容体の遺伝子発現を示すRT-PCRの図である。 図8Bは、レーザー照射後の様々な時点でのTGFβ1、bFGF、IGF、EGF、VEGF、PEDF、及びそれらの受容体の遺伝子発現や、多様な熱ショックタンパク質及びβ-アクチンの発現を示すRT-PCTの図である。
【図9】図9Aは、Nd:YAG レーザーで生成された一回のパルスのフルエンスの関数とした、ヒト胎児RPE(hfRPE)の正規化後の生存率のグラフである。 多様な図面における同様な参照記号は同様な要素を示すものである。
【0030】
詳細な説明
現在のところ、眼科での使用に向けた多種の市販のレーザー・システムがあり、そのいずれも、ここで解説され、請求の範囲とされた方法を行うために適合させることができる。市販の眼科外科用レーザーは、レーザー技術で熟練した者であれば、色素性細胞のレーザー誘導性選択的光刺激を提供するための必要な波長、標的スポットの大きさ、及び致死量以下のフルエンスを生じるよう、容易に改変することができる。
【0031】
光刺激のためのレーザー・システム
図1は、組織の光刺激用のレーザー・パルスを提供する例示的なシステム1を示す。例えば、システム1の照射を、ヒトの眼5の網膜3に指向させて、網膜色素上皮(RPE)細胞を光刺激し、増殖の増加を起こさせることができる。
【0032】
システム1は、パルス・レーザー源7(例えばq-スイッチ式Nd:YAG 又はルビー・レーザー)、照準レーザー9、及び、レーザー源7の処置ビーム及び照準レーザー9の照準ビームをRPE細胞などの標的組織に指向させるための光学素子を含む。光学素子は、例えば、ビーム・スプリッター13、15、非球面プレート17、ビーム視準器19(光ファイバー)、鏡21、及び集束レンズ23などのレンズを含む。
【0033】
システム1は更に、レーザー源7(パルス・エネルギー、パルス幅、パルス数)と、照準レーザー9と、光学素子(例えばレンズ23)と、標的(例えば網膜3)の位置とを制御する制御ユニット8を含む。制御ユニット8は自動及び/又は手動制御用に構成することができる。例えば制御ユニットは、放出される光線の波長、放出されるレーザー・パルスの持続時間、及び、放出される光線のフルエンスを、駆動された作動モードに応じて制御する。いくつかの実施態様では、制御ユニット8はまた、網膜における位置及びレーザー光線の大きさを制御するためにも用いることができる(例えば医師により手動で)。レーザー光線のパラメーターは、例えばレーザー・パワー計測器25などで観察することができる。更に、組織及び焦点のスポット・サイズを、制御ユニット8に接続された顕微鏡27を用いて観察及び測定することができる。
【0034】
図1ではシステム1はレーザー源7を含むが、いくつかの実施態様では、非干渉性光源などの他の種類の光源を用いて照射パルスを生成することもできる。
【0035】
例えば、RPE細胞を、590nmで放出されるパルス化色素レーザー(例えばPalomar Medical 社製)で照射することができる。パルス・エネルギーはエネルギー・パワー計測器 (DigiRad, U.S.A., R-752 Universal Radiometer)を用いて計測することができる。以下に解説する研究の間、ARPE-19細胞を多様な照射量 (mJ/cm2) で、図1に示した実験条件を用いて照射した。15mWの出力を持ち、光路に接続されたヘリウム−ネオン・レーザーを、レーザー光線の位置合わせに用いた。パルス化色素レーザー を1 mmコア直径のファイバー(米国ニュージャージー州ニュートン、Thorlabs社、NA = 0.22)に接続し、該ファイバーの長さは、遠位のファイバー先端でのスペックル形成を原因とする空間的輝度変調を抑えるために50 mだった。該ファイバーをスリット・ランプ・ファイバーに直接、接続した。
【0036】
フルエンスは、例えばR.
Brinkmann, J. Roider, R. Birngruber, "Selective Retina Therapy (SRT): A
review on methods, techniques, preclinical and first clinical results,"
Bull. Soc. Belge Ophtalmol. 302, 51-60, 2006に解説された通りに計算することができる。
【0037】
レーザー照射領域のビデオ画像をスリット・ランプ(ドイツ、Zeiss社、SL130)を通じてCCDカメラでキャプチャーし、デジタル化し、解析し、スクリーン上に表示するか、又は印刷する。ここで解説するいくつかの実験では、以下のパラメーターを用いた: 5 mJ/cm2 - 2500 mJ/cm2のレーザー・フルエンス、1 μsのレーザー・パルス持続時間、及び3.5-cm-直径の組織当り200 スポット。レーザー処置スポットは、例えば2 mmの距離、分離された。レーザー・プロファイルは直径約 1.2 mmであると判定された。このように、レーザー照射は、(パワー計測器で測定された)パルス・エネルギーをスポット面積で助産したものとして計算された。
【0038】
いくつかの実施態様では、適切な照射量がスリット・ランプ光学素子の焦点で達成されるように、レーザー光線をスリット・ランプ送達システムを通じて送達することができる。中性フィルターをレーザー光線を減衰させるために用いることができる。
【0039】
いくつかの実施態様では、レーザーに、
最高500 Hz 以上の反復率などで、パルス系列を提供させることができる。こうして、レーザー・パルス当りのエネルギーは、一連のレーザー・パルスの印加注、組織の致命的な損傷を避けるために最低の値を有してもよい。
【0040】
光刺激の方法
図2は、選択的な光刺激処置プロトコルのフロー図を示す。まず、刺激した組織部分を選択する(ステップ30)。該組織部分は、充分な組織濃度を示す細胞でもよく、又は色素を選択の前後に導入することができる(ステップ30)。選択された部分は萎縮性であると診断されたものでも、あるいは、選択された部分は、組織の損傷部分に関連していてもよい。一番目の場合、目標は増殖を光刺激することにより健康な、又はより健康な組織を復元することである。二番目の場合、目標は、組織の損傷領域への健康な細胞の移動速度を増すことである。
【0041】
次に、一番目の光刺激処置セッションI(ステップ35)を行う。光刺激セッションIでは、一回又は一系列のレーザー・パルスを組織に照射する(ステップ37)。この一回のレーザー・パルス又は系列のレーザー・パルスは、選択された部分に致死量以下のフルエンスを提供する。照射は、例えば非運動モード、連続スキャン・モード、又はパターン・モードで行うことができる。レーザー処置を複数のモードで実行できる場合、選択された照射ステップ(ステップ39)は光刺激セッションIの一部でもよく(ステップ35)、一回又は一系列のレーザー・パルスの前であってもよい。
【0042】
所謂「治癒」段階の間(ステップ40)、照射された組織は増殖増加及び組織修復活動を発生させる。この段階が、光刺激に対する細胞の生化学的応答である。治癒段階は、選択的な光刺激を受ける処置が第二の光刺激セッションII(ステップ45)、又は、治癒段階が途中にある一系列の光刺激セッションを含むように、時間的に制限されていてもよい。光刺激セッションの回数は前もって決定しておいても、あるいは、処置の成功を観察することにより、処置中に調節することもできる。加えて、光刺激セッションのパラメーターを処置中に変更することも、又は採用することもできる。
【0043】
ここで解説された方法は、色素性細胞を選択的に光刺激するステップを含む。色素性細胞を含有する組織の部分をq-スイッチ式Nd:YAG レーザーなどのレーザーで照射すると、照射された組織中の細胞は増殖するように誘導され、組織の修復及び/又は再生を起こす。その生物学的効果は照射された領域や、レーザー光を吸収する色基を発現する細胞に選択的に限定される。標的とする細胞は内因性の色基を発現するものでも(例えば網膜上非)、又は当該の色基を人工的に導入することもでき、あるいは、細胞内の色基の発現を、遺伝子療法などの多様な技術を用いて誘導することができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施態様では、短パルスのNd:YAG q-スイッチ式レーザーを用いる。概略的には、Nd:YAG レーザーは1064 nmで放出し、振動数が二倍になると出力は532 nmとなる。これらの波長の両者とも、眼の中では有用である。なぜなら、これらは角膜、眼房水、レンズ、硝子体、及び強膜を含む眼の媒体及び構造によって伝達されるからであろう。他の実施態様では、パルス化色素レーザー(例えばPalomar 3010; 590 nm、1 Ts, 1 mm
直径)や、ダイオード・ポンプ式固体レーザー、パルス式ダイオード・レーザー・システム、又は更に非干渉性パルス式光源を用いることができる。
【0045】
一般に、細胞内の色素は、色素性標的細胞を非色素性の周囲細胞よりも光学的に濃くするため、選択されたレーザー波長及びフルエンスでのレーザー誘導性光刺激に対してより感受性である。致死量以下のフルエンスでは、短時間、標的組織部分に入射する光は色素性細胞を選択的に刺激し、標的細胞及び周囲細胞の両者に対する損傷は最小である。組織刺激のこのような選択性は、色素性細胞に限定された病的状態を治療する上で大きな臨床上の有益性を有する。これらの状態では、刺激を受けた細胞の増殖を増加させることができる。
【0046】
本新規な方法は、公知の又は推定されるレベルの内因性又は外因的な色素沈着のある、特定の細胞種の処置セッションに向けて、致死量以下のフルエンス、又は総照射量を提供するレーザー照射の使用を要するものである。約 1-5 msのパルス持続時間で、例えば、約 5、8、10、15、25、35、50、75、100、110、又は120 mJ/cm2など、130 mJ/cm2未満のパルス化色素レーザー又はダイオード・ポンプ型固体レーザー・フルエンスは致死量以下フルエンスであり、従って、色素性細胞の有意な致死を引き起こすことなく、そして組織の光凝固を引き起こすことなく色素性 RPE細胞(内因性のメラニンを色素として持つ)を光刺激する上で有効である。この新しい方法の選択的な標的決定のおかげで、非色素性細胞もまた温存され、従って細胞応答を起こすこともない。
【0047】
数ナノ秒乃至数100ナノ秒のパルス持続時間では、致死量以下のフルエンスはより低い数値に移行し、約数mJ/cm2 乃至約数 mJ/cm2の範囲内、例えば 約 10 mJ/cm2 乃至30 mJ/cm2、0.1 乃至10、そして1 乃至5 mJ/cm2であってよい。例えば、532nmで10ナノ秒パルスの処置セッションの10 mJ/cm2 未満のフルエンスは、Q-スイッチ式Nd-YAG レーザーを用いた致死量以下のフルエンスであってよい。より短いパルス持続時間では、より低いフルエンスが、色素性細胞の有意な致死を引き起こすことなく、そして組織の光凝固を引き起こすことなく、色素性 RPE細胞を光刺激する上で有効であろう。新規な本方法の選択的な標的決定のおかげで、非色素性細胞はこれらの短いパルス持続時間でも温存される。
【0048】
所望の照射量は、パワー、標的スポット・サイズ、ビームの対称性、送達されるJoules/パルス、及び/又は、一回の処置セッションに含まれる総パルス数を変更することにより、達成することができる。概略的には、標的スポット・サイズは、眼へのレーザー治療の数多くの以前の適用例で用いられたものに比較して大きい;いくつかの実施態様では、標的スポット・サイズは直径で約 0.1 乃至約 1 mmである。大きな標的スポット・サイズの使用が可能であるが、それは、新規な本方法は細胞の色素沈着に基づく選択的な細胞刺激を提供するからである。大きな標的部分は有利である。なぜなら、レーザー装置を再指向させねばならない回数が少なければ、処置時間が抑えられるからである。
【0049】
約 1.0 ナノ秒乃至 約 2.0 msec、例えば50、100、250、500、又は750ナノ秒、又は1.0 もしくは 1.5 Tsec などのパルス持続時間を用いることができる。好ましいパルス持続時間は、光刺激しようとする標的細胞内の色素粒子の種類及び大きさに関係する。粒子の熱緩和は色素物質の粒子サイズに関係するため、細胞内粒子が小さい場合には、標的細胞にエネルギーが確実に制限されるよう、パルス持続時間は短い必要がある。より具体的には、熱は球形の標的内に熱緩和時間、Tr、制限されるが、この時間は標的の直径d2と、熱拡散定数Dに関係し、Tr = d2 / 4Dとなっている。Trよりも長時間のレーザー曝露の間、 標的内の熱は周囲の細胞又は構造に拡散する。他方、熱が遠くへ拡散するよりも速く熱が標的内で生成する場合、標的温度はそれらの周囲組織よりもずっと高くなり、周囲構造への熱拡散は抑えられる。従って、標的色素(例えばメラニン)の熱緩和時間よりも短いパルス持続時間を選択することにより、選択的な標的刺激を達成することができる。約 0.5 mm乃至5 mmの球形の標的を想定すると、生物学的な標的の熱緩和時間の推定値は10-8 s 乃至10-6 sの範囲である。
【0050】
レーザーの放出波長は、可視又は赤外スペクトル(眼科的用途などに向けた水の吸収線を除く)内であってよい。適したレーザー波長を用いると、標的細胞への付加的な選択性が提供される。例えば、新規な本方法を網膜組織に用いる場合、網膜血管中のヘモグロビンによる付随的吸収は、メラニン含有標的細胞を切除するためには1064nmの波長を選択することにより、避けられよう。この波長はメラニンには吸収されるが、ヘモグロビンには吸収されないからである。
【0051】
眼内には、臨床で示唆された場合には有利に刺激することのできる数種の色素性細胞がある。これらの細胞はメラニンを内因的に合成するか、あるいは、外因性色素を貪食することにより、色素を獲得する。メラニンを合成及び保持する細胞種には、網膜、毛様体、及び虹彩や眼の黒色腫の色素性上皮細胞がある。
【0052】
小柱網(TM)細胞はメラニンを合成することはできるが、これらの細胞は典型的には、
色素性細胞片の粒子を通常、含有する眼房水からの貪食により色素を獲得する。加えて、いくつかの実施態様では、TM細胞の色素沈着は、例えば細い針で眼の前房内に色素粒子の懸濁液を注射するなど、眼房水に色素を加えることにより増強することができる。懸濁させた色素粒子を含んだ眼房水が眼からTMを通って流れるにつれ、TM細胞は色素を取り込み、周囲の非色素性組織に比較してそれらの光学密度を増し、細胞のレーザー刺激の細胞選択性を向上させる。いくつかの実施態様では、メラニンを虹彩のレーザー切開術により導入し、これがメラニン粒子を虹彩細胞から眼房水へと放出する。インドインク又はいずれか他の非毒性で不溶性の微粒子染料など、他の色素を、色素性細胞を刺激するためのレーザー照射前に貪食性標的細胞に導入することができる。概略的には、色素沈着のレベルが高いほど、光刺激を達成するのに必要なフルエンスは低くなる。
【0053】
眼内において、色素性標的細胞は角膜又は結膜の表面上にあっても、角膜又は結膜内にあっても、あるいは、例えば角膜内部、虹彩、毛様体、レンズ、硝子体、脈絡膜、網膜、視神経、眼の血管、又は強膜など、眼の眼内領域のいずれかを構成又は付着していてもよい。具体的には、光刺激により処置することのできる疾患及び状態には、年齢に関係する黄斑変性症及び、網膜上皮細胞の変性及び死を含むいずれか他の網膜障害がある。
【0054】
ここで解説する実施例は、眼内の網膜上皮を再生する場合の光刺激の使用を解説するものであるが、同じアプローチを用いて、細胞が選択的に色素性である、及び/又は、色素性である可能性がある、例えば皮膚、筋肉、又は血管壁、あるいはいずれかの組織などの他の組織の修復及び再生を促進することができる。このように、ここで解説する方法は、色素性細胞の増殖及び/又は移動が有益であるようないずれかの疾患又は障害を処置する上で有用である。
【0055】
概略的には、処置という用語は、光凝固を起こすことなく、そして処置された組織に、又は処置された組織において有意な損傷又は細胞死を起こすことなく、哺乳動物組織などの組織に適用されるいずれかの光刺激療法を包含するものと、意図されている。ここで解説する新規な方法により処置することのできる患者には、ヒトや、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、ウマ、ウシ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ラット、及びマウスがある。
【0056】
黄斑変性症を処置する方法
図2は、黄斑変性症、特に年齢に関係する黄斑変性症など、眼の疾患を処置するために適用されるなど、選択的光刺激の新規な方法におけるステップを示す。照射しようとする組織部分の選択は、黄斑のうちで変性した網膜色素上皮の状態に基づくが、この状態は、処置セッションの開始時に従来のスリット・ランプを用いて評価することができる。次に、選択された組織部分は手動又は自動により、例えば590 nmの波長、約1-5 msのパルス持続時間、及び130 mJ/cm2未満のレーザー・フルエンスのレーザー光など、適したパラメーターの光で照射する。
【0057】
一系列のパルスのうちの連続するパルス間の時間的分離は、致死量以下のフルエンスに影響する場合がある。
例えば、時間的分離を短くすると、細胞に対するパルスの相互作用の効果が蓄積し、致死量以下のフルエンスが低下しかねない。いくつかの実施態様では、パルス系列には、例えば、約 500 Hz の反復率の10 - 100 パルス(例えば 1 ms 未満乃至数百msのパルス分離)が含まれよう。例えば処置セッション間などの治癒段階は、1時間以上、一日、数日、又は数週間にわたって延びる場合もある。
【0058】
創傷治癒の方法
選択的光刺激療法は多様な組織の創傷を治癒させるためにも用いることができる。具体的には、特定の色素又は色基を含有する(又は含有するように処置された)組織が損傷した場合、致死量以下の光刺激により、組織修復の増加を誘導することができる。創傷は、例えば、手術中の当該組織に対する機械的相互作用や、あるいは、事故などの何らかの外量により、起き得る。組織部分の選択は、損傷した組織の程度に基づくであろう。選択された組織部分を、適したパラメーターのレーザー光で手動又は自動で照射する。
【0059】
光刺激後の光凝固併用の方法
レーザーで誘発された眼内組織損傷の具体的例は、レーザー手術、例えば眼のレーザー凝固である。レーザー手術の副作用として、例えば網膜の部分が損傷することがある。治癒を促進し、隣接部分からの健康な組織の移動を増加させるために、選択的光刺激をレーザー手術と組み合わせて適用することができる。例えば光凝固の直後、あるいは、例えば、レーザー手術から数時間又は一日もしくは数日後又は一週間後など、後のセッションで、凝固した組織又は凝固した組織に隣接する組織部分を、致死量以下のフルエンスで別の処置セッションで照射して、上皮の増殖及び移動を増加させ、手術後の治癒を促進する。
【実施例】
【0060】
以下の実施例で本発明を更に解説するが、以下の実施例は、本請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものではない。
【0061】
材料及び実験の方法
以下の実験に置いて、レーザー照射パラメーター(1mm直径で、590nmで放出するusing a Palomar Medical 社製パルス化色素レーザーを用いる) は: 5.0 mJ/cm2 - 2550 mJ/cm2
のレーザー照射量、1 μs の持続時間、及び3.5-cm-直径の皿当り200スポットを含んでいた。レーザー曝露スポットは2 mmの距離、分離されていた。4枚のサンプル皿を一つの実験条件当り、照射した。レーザー照射量は、パワー計測器で測定されたパルス・エネルギーをスポット面積で除算したものとして計算された。
【0062】
その結果は平均± S.D.で表され、nはサンプル数を言うものである。統計学的比較はスチューデントのt検定を用いて行われ、p

0.05 を統計上有意とみなした。
【0063】
成体ARPE-19細胞株をメラニンとのインキュベーションにより人工的に色素沈着させた。次にこの細胞を590nmに設定した多様なレーザー 照射量でシングル1 μs パルス色素レーザーで照射した。該色素性成体ARPE-19細胞の生存率を蛍光生/死細胞障害性検定を用いて評価した。In vitro 創傷治癒及び細胞再生モデルを用いてレーザー照射のその後の光/熱刺激効果を研究した。レーザー照射に応答した成体ARPE-19細胞による血小板-由来成長因子(PDGF) 及びその受容体の発現を、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR)を用いて評価した。
【0064】
概略的には、以下の現象が観察された:(1)色素性 RPE細胞を選択的に標的決定すると、2550
mJ/cm2のレーザー照射量ですら、隣接する非色素性細胞に何の熱損傷もなかった;(2)レーザー照射 (< 120 mJ/cm2) への曝露により、RPE細胞の増殖及び移動が亢進した;そして(3)選択的光刺激により、レーザー照射後のPDGF、TGFb1、bFGF、EGF、IGF、及びそれらの受容体であるVEGF、PEDF、及び熱ショックタンパク質の発現が増加した。
【0065】
このように、これらの実験は色素性RPE細胞の選択的処置や、RPE 増殖及び関連する生物学的機序の光/熱刺激を実証している。これらの結果は、例えば年齢に関係する黄斑変性症など、EPE関連網膜障害疾患のための処置様式で応用することができる。本実験は、選択的刺激後のRPEにおける成長因子発現の時間的変化を示しており、これは、選択的光刺激後のRPEの創傷治癒が成長因子により自己分泌的に調節され、これらの成長因子は創傷修復を惹起するために調和的に働くことを推論するものである。
【0066】
試薬
ダルベッコの改良イーグル培地/F12 (DMEM/F12)、ウシ胎児血清(FBS)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、100X ペニシリン−ストレプトマイシン・ストック溶液、及び0.5% トリプシン-0.02%EDTA ストック溶液をInvitrogen Life Technologies 社(カリフォルニア州カールスバッド)から得た。F-12K 培地(Ham’s F12のKaighnの改良)はATCC(ヴァージニア州マナサス)から購入された。セピア・メラニン、尿素、チオウレア、CHAPS、DTE、EGTA、及びEDTAはSigma-Aldrich Chemicals 社(ミズーリ州セントルイス)から得られた。プロテアーゼ阻害剤はRoch Applied
Science社(インディアナ州インディアナポリス)から購入された。ブラッドフォードタンパク質検定試薬はBio-Rad Laboratories社(カリフォルニア州ヘラクレス)から得られた。蛍光生/死生存率/細胞障害性検定はMolecular Probes社(米国オレゴン州ユージーン)から得られた。. 血小板由来成長因子 (PDGF)-BB 用のELISAキットはR&D Systems Inc.社(ミネソタ州ミネアポリス)から購入した。Nuclearspin(登録商標) RNA II キットはClontech Laboratories, Inc. 社(カリフォルニア州マウンテン・ビュー)から得た。SuperScriptTM III
First Strand キットは、Invitrogen
Life Technologies 社(カリフォルニア州カールスバッド)から購入し、そしてPCRコア・システムはPromega社(ウィスコンシン州マジソン)から購入した。分子量カットオフ値3000ダルトンのミクロコン遠心分離フィルター装置はMillipore社(マサチューセッツ州ビレリカ)から得られた。
【0067】
調製培地の採集
色素性 ARPE-19細胞はポスト・コンフルエントまで成長させて静止状態にした。色素性 ARPE-19細胞をパルス化色素レーザーにより様々レーザー・フルエンスでPBS中で照射した。レーザー照射の直後に、1% FBS を加えた細胞培養基を用いてPBSに替えた。照射後の細胞を 37°C 5% CO2でインキュベートした。調製培地をレーザー照射から48時間後に採集した。
【0068】
実施例1−細胞内の含有メラニンを強調する
混合された非色素性及び色素性ARPE-19細胞
ヒトARPE-19細胞を二つの整合するフラスコ(75
cm2) で、上に解説するようにコンフルエントに成るまで成長させた。フラスコの一方にはメラニンを20時間、供給した後、PBSで洗浄した。次に、ARPE-19
細胞培養株(非色素性及び色素性)を10分間、トリプシン処理(0.5% トリプシン-0.02%EDTA)した。ARPE-19細胞懸濁液を遠心分離(500 rpm で5分間)により採集し、培地に再懸濁させた。二つの細胞懸濁液を配合し、完全に混合して非色素性細胞及び色素性細胞の1:1混合物の懸濁液を作製した。混合した細胞懸濁液をすぐに35 mm 皿にコンフルエントな密度で再プレートし、24時間、インキュベートして、連続した細胞シートを形成させた後、照射した。
【0069】
色素性 RPE細胞中の含有メラニンの評価
培養細胞を 0.02% EDTAを加えた1 mlの0.25% トリプシンで剥がした(37℃で10分間)。一アリクォート(50 μl)を取り出し、細胞を血球計を用いて計数した。残った細胞懸濁液を遠心分離し、ペレットを1 N NaOH中に溶解させた。メラニン濃度を、475
nmでの吸収を測定することで判定した後、合成メラニンを用いて得られた標準曲線と比較した。
【0070】
実施例2−RPE細胞の選択的光刺激
RPE細胞培養株及びメラニンの貪食
ここで解説する実験を3代、4代及び5代継代ヒト網膜色素上皮(ARPE-19) 細胞を用いて行った。ARPE-19細胞(ATCCから得られた)を、5% CO2 平衡空気大気中の10%ウシ胎児血清、1% ペニシリン−ストレプトマイシンを加えた、37℃のダルベッコの改良イーグル培地/F12
(1:1) で培養した。細胞は直径3.5cmの組織培養株処理済培養皿中で培養された。ARPE-19細胞はそれらの正常な正常状態では非色素性であり、コントロール非色素性 RPE細胞として役立つ。
【0071】
色素性ARPE-19細胞を得るために、コンフルエントARPE-19細胞培養株を20時間、様々な濃度のセピア・メラニンと一緒に、前述したようにインキュベートした。インキュベーション前にセピア・メラニンをRPE細胞培地で洗浄し、音波破砕して均一な懸濁液を得た。照射の直前に、培地によるレーザー・エネルギーの吸収を避けるために培地をPBSに取り替え、レーザー照射後にはPBS
を標準培地に取り替えた。
【0072】
色素性細胞の選択的標的決定
非色素性細胞はレーザー照射を吸収しないようであるが、色素性細胞の吸収する熱エネルギーは、それらの隣接する非色素性細胞を損傷するかも知れない。図3では、適合する曲線は実験データの最小自乗線形適合点であり、回帰パラメーターは以下の通りである(a=傾斜;b=縦軸;閾値=d=100% 生存率線との交点;r=回帰係数);含有メラニン0.03
mg/mg タンパク質:a=0.99; b=-9.8×10-4; r=0.98; 閾値=1140 mJ/cm2; 含有メラニン0.05
mg/mg タンパク質:a=1.05; b=-1.1×10-3; r=0.98; 閾値=460 mJ/cm2; (y=ax+b); 図示するP値は非色素性細胞との比較である。
【0073】
レーザー処置の選択性を評価するために、色素性及び非色素性 ARPE-19細胞の混合細胞集団に対するその効果を、高レーザー照射量(1100 mJ/cm2)を用いて分析した。このレーザー照射量は、含有0.03 mg/mg タンパク質メラニン中で予めインキュベートしたRPE細胞の50%生存率に相当する。色素性ARPE-19細胞の選択的標的決定の結果は、 それらの隣接する非色素性細胞に随伴する損傷は示さなかった。メラニンを含有する照射域中のARPE-19細胞のみが選択的に殺され、他方、隣接する非色素性 ARPE-19細胞は、何の細胞損傷の証拠も示さなかった。色素性 ARPE-19細胞の生存率はほぼ50%であり、これは、非色素性 ARPE-19細胞の100%というそれよりも著しく低かった(p < 0.001, n = 6)。レーザー照射に続いてすぐは、色素を含有するARPE-19細胞への損傷は大変僅かだったため、位相差顕微鏡のみでは、影響を受けた細胞から影響を受けていない細胞を形態学的に区別することは困難だった。
【0074】
これらの結果は、メラニン含有ARPE-19細胞は、隣接する非色素性
ARPE-19細胞への大きな副次的損傷を起こすことなく、最高約
1100 mJ/cm2のレーザー 照射量レベルで選択的に標的とすることができることを裏付けるものである。
【0075】
実施例3−細胞生存率及び増殖検定
ARPE-19細胞を、レーザー照射後から48時間目に採集された調整培地に入れて96ウェル・プレートに1000 細胞/ウェルの密度で播種した。細胞培地は1週間に2回、取り替えた。細胞増殖は、比色ジメチルチアゾールジフェニルテトラゾリウムブロミド (MTT)検定で評価された。分析のために、培地を取り出し、10 μL のMTT (5 mg/ml) を含有する100 μl のPBS を各ウェルに加えた。次に細胞を37°C
で3時間、インキュベートした。0.04 N
HCLのイソプロパノール溶液を加えることでこの反応を停止させた。次に、培地の吸光度を、570nm及び630nmでELISAリーダーを用いて判定した。二つの波長間の吸光度の差を、細胞生存率の推定値として役立てた。個々の実験は、各実験について3つの複製を用いることにより少なくとも三回、繰り返された。
【0076】
レーザー照射後の色素性RPE細胞の細胞生存率
色素性 ARPE-19細胞の生存率を、蛍光生/死生存率/細胞障害性検定を用いて評価した。蛍光生/死生存率/細胞障害性検定は、それぞれ死んだ及び生きた細胞に局在するエチジウムのホモ二量体及びカルセイン-AMを用いるものである。検定溶液はメーカーの推奨するプロトコルに従って調製された。簡単に説明すると、200 μl の溶液(2.0 μM カルセイン-AM及び4.0 μMエチジウムのホモ二量体-1のPBS溶液)を各細胞培養皿に施した。培養株を20分間、37℃でインキュベートした後、蛍光顕微鏡法を用いて分析した(Carl Zeiss MicroImaging, Inc 社製Zeiss Axiovert 200M.)。
【0077】
生きた細胞は、実質的には非蛍光性の細胞透過物質カルセイン-AMが蛍光の強いカルセインに酵素転化することで判断される、遍在性細胞内エステラーゼ活性の存在によって識別された。多価陰イオン性のカルセイン染料は生きた細胞内によく保持され、強力で均一な緑色の蛍光を発する(励起/放出 ~495 nm/515 nm)。エチジウムホモ二量体-1
(EthD-1)は、膜の損傷した細胞内に進入し、核酸に結合すると40倍の蛍光強調を行い、それにより、死んだ細胞では明るい緑色の蛍光を発する(励起/放出 ~ 495 nm/635 nm)。EthD-1 は生きた細胞のインタクトな細胞膜では排除される。細胞生存率を、平均3個の照射されたスポット
(440 μm 直径) を、同じ皿上の非照射スポットで除算したものとして、測定した。画像は同一のゲイン及び露出設定で採取された。
【0078】
図3を参照すると、5 mJ/cm2のレーザー 照射量では、細胞質染色からは、色素性 RPE細胞には何の明らかな細胞傷害もないことが実証された。 レーザー 照射量を30 mJ/cm2に増加させると、核が赤く染色された少数の死んだ細胞が現れた。レーザー 照射量を次第に上げると、赤い核染色のある、より多くの死んだ細胞が観察されていった。レーザー
照射量を最高の2550 mJ/cm2にすると、メラニン・レベルが0.03 mg/mgタンパク質 (

) でレーザー・スポット・サイズ内にある細胞はすべて、損傷したか、あるいは殺された。メラニンのない照射された細胞から成る偽のコントロール(図3の一番上の軌跡(

))の場合、蛍光細胞障害性検定では、用いる照射量を2550 mJ/cm2にした場合でも、何の細胞傷害の証拠も示されなかった。0.05 mg/mg タンパク質という、メラニン濃度の最も高い細胞 (

) はすべて、約 900 mJ/cm2のフルエンスで死んでいた。
【0079】
レーザー照射後の色素性 RPE細胞の生存率定量のために、レーザー・スポット・サイズの半径内の対物面積を用いて生きた/死んだ細胞を計数し、細胞生存率をレーザー照射量やメラニン含有量の関数として評価した。色素性ARPE-19細胞の生存率は、緑色蛍光強度比として定義された。この比は、レーザー照射後のレーザー・スポット・サイズ内の緑色蛍光強度を、レーザー照射のない同様なスポット・サイズ内のそれで除算したものとして計算された。RPE細胞のレーザー照射量及びメラニン含有量の関数としての細胞生存率が実証された。
【0080】
概略的には、レーザー照射量が高いほど、より多数の色素性細胞が標的とされた。メラニン含有量が増加するほど、このレーザー
照射量の臨界範囲は減少した。従って、メラニン含有量はレーザー照射中に著しい役割を果たしていた。
【0081】
BrdU
Assay
色素性 ARPE-19細胞を、無血清培地F-12K培地を容れた35mmの皿に24時間、播種した。細胞をPBS中で照射した。PBSには、レーザー照射後、細胞培地が補われた。6時間後、10 μM BrdU を細胞培地に加え、一晩、37°Cでインキュベートした。該細胞を70% エタノールで45分間、室温で固定し、4M HCLと一緒に20分間、室温でインキュベートした。次に、細胞を0.2% Tritox X-100(登録商標) で15分間、室温で透過化し、1
ml/皿の遮断緩衝液 (PBS/10%FBS) を10分間、室温で加えることでゲノムDNAを変性させた。10 μl の抗-BrdU-Alex594 ストック溶液を加え、60分間、37°Cでインキュベートした。次に細胞を3回、洗浄した。蛍光強度は蛍光顕微鏡法により594 nmの波長で評価された。レーザー照射後のサンプルの蛍光強度は、METAMORPH(登録商標) ソフトウェアにより定量され、偽コントロールの蛍光強度で正規化される。
【0082】
色素性RPE細胞の照射に対する増殖応答を判定するために、我々は、レーザー照射から6時間後にBrdU取り込みを定量した。BrdU染色により、図6A乃至6Eに示すように、致死量以下のレーザー照射へ曝露した後の色素性RPE細胞の著しく亢進した増殖が実証された。図6Aは、偽のコントロールの画像を示す。更に、28 mJ/cm2
(図6B)、55 mJ/cm2
(図6C)、及び110
mJ/cm2 (図6D)のレーザー・フルエンスでレーザー照射されたサンプルである。スケール棒は200 μmである。p値の比較は偽のコントロールN=を言うものである。
【0083】
実施例4−細胞再生検定
レーザー照射後の細胞再生
1.0×106 の量のARPE-19細胞を播種し、増殖が最低となるコンフルエントになるまで成長させ、上述したようにメラニンを供給した。この細胞をPBS中で照射した。照射直後に1%
FBSを加えた培地を用いてPBSに替えた。細胞増殖を拘束するために低パーセンテージの血清を用いた。調整培地をレーザー照射から48時間後に採集した。三回のレーザー照射セッション後、20% FBS を加えた培地を用いてレーザー-誘導性細胞再生のプロセスを追跡した。コントロールはレーザー照射なしで同様に扱われた。視野の画像は10倍の倍率で、デジタルカメラ(米国ツァイス社、AxioCam(登録商標) MRm)を付けた倒立顕微鏡(米国ツァイス社、Axiovert(登録商標) 200 M)を用いて得られた。in vitroでの細胞再生中の細胞数を、各視野について手で提供した。定量には三つの視野を無作為に抽出した。
【0084】
レーザー照射後のRPE細胞再生
レーザー照射後、PBSを、1% FBSを含有する細胞培地に取り替えた。その後、細胞をレーザー照射処置に、一日置きに合計三回の処置、曝露した。6日目に細胞培地に20% FBSを添加し、細胞を更に11日間、培養(6日目から17日目)して、細胞再生を追跡した。レーザー処置なしでこの手法を行っているARPE-19細胞(偽のコントロール)は、11日間の血清処置後、芳しくない再生を示した。他方、低パワーのレーザー照射に曝露したARPE-16細胞は20% FBSを加えた細胞培地に交換した後、良好な再生を示した。
【0085】
図4A乃至4Hはレーザー照射後のRPE細胞再生を示す。図4Aは、レーザー照射前のコンフルエントな細胞を示す。図4B乃至4Gは、3回のレーザー照射後の偽のコントロール中の ARPE-19細胞の位相画像と、レーザー照射後に20% FBSを加えた細胞培地中でのその後の再生を示す。具体的には、図4Aはレーザー照射前のコンフルエントなARPE-19細胞の位相画像を示し;図4Bは、6日目の偽のコントロール画像を示し;図4Cは、17日目の偽のコントロール画像を示し;図4Dは、27 mJ/cm2
で照射されたARPE-19細胞の6日目の画像を示し;図4Eは、27 mJ/cm2 で照射されたARPE-19細胞の17日目の画像を示す。図4Fは、110
mJ/cm2 で照射されたARPE-19細胞の6日目の画像を示し;図4Gは、110 mJ/cm2
で照射されたARPE-19細胞の17日目の画像を示す。
【0086】
図4Hは、一視野当りの細胞数を時間の関数として示す。スケール棒は100 μmであり、そしてp値は偽のコントロールとの比較のためである。具体的には、図4Hは、細胞数をレーザー照射量及びin vitroでの細胞再生実験中の日数の関数として示す。偽のコントロールについては、細胞数は6日目には一視界当り50未満まで著しく落ち、培地を20% FBSに取り替えた後の11日目でも余り増加しなかった。この減少は、以前にも報告されたことだが、おそらくは細胞内に飲食されたメラニンの細胞障害性を反映したものである。27 mJ/cm2のレーザー照射量でレーザー照射されたサンプルは6日目には良好な形態を見せ、細胞数もその後は大きく落ちることはなかった(偽のコントロールに比較して、p = 0.003、n = 3)。110 mJ/cm2のレーザー照射量でレーザー照射されたサンプルの場合、細胞数は最初は落ちたが、その後、20%
FBS-添加培養培地に取り替えた後は17日目まで著しく増加した(偽のコントロールに比較して、p = 0.004、n = 3)。
【0087】
実施例5−創傷治癒検定
In Vitro 創傷治癒検定
色素性ARPE-19細胞を、前述したように増殖が最低になるポスト・コンフルエントまで培養した。創傷環境をシミュレーションするために、コンフルエントな単層を1 ml ピペットの先端を用いて優しくなでた。このプロセスにより、細胞のない均一なレーンができる。次に細胞を、照射前に37°Cで30分間、インキュベートした。レーザー照射期間のために培地はPBSに取り替えた。レーザー照射後、PBSを、1% FBSを加えた培地に取り替えた。FBS を10% から1%に変えた目的はRPE細胞の増殖を拘束するためである。培地は48時間毎に取り替えられ、培養株にはレーザー照射を48時間毎に行った。正常及び被創傷ARPE-19細胞の形態変化は、光学顕微鏡で観察された。細胞数を該プロセス中、計数した。
【0088】
致死量以下のレーザー照射は創傷治癒応答を促進する
RPE細胞層への損傷は黄斑変性症の重要な一部である。ここで、致死量以下のレーザー照射が、傷害後のRPEの回復を刺激することができるかどうかを確認しようとした。標準的なスクラッチ検定モデルで、照射細胞及び未照射細胞の治癒応答を図5A乃至5Eに示す通りに比較した。
【0089】
図5A乃至5Eはin vitro
での創傷治癒の位相画像を示す。具体的には、図5Aはレーザー照射前のスクラッチ・モデルを示す。図5Bは、創傷傷害から3日目の偽のコントロール画像を示す。図5Cは、創傷傷害から3日後に27 mJ/cm2
を照射された細胞培養株を示す。図5Dは、創傷傷害から3日目に110
mJ/cm2 で照射された細胞培養株を示す。図5Eは、(視野は、創傷の中央であり、創傷の面積を約 2 mm2とした)一視野当りの細胞数を、日数の関数として示す。スケール棒は100 μmであり、そしてp値は偽のコントロールに関する比較を言う。
【0090】
創傷治癒検定中のレーザー照射量と日数の関数とした細胞数を図5に挙げる。瘢痕の境界線は、照射を受けていない偽のコントロールでは、培養3日後でもくっきりとしたままだった(図5B)。対照的に、27 mJ/cm2 乃至110 mJ/cm2 のエネルギー・レベルによるレーザー照射で処置された色素性ARPE-19細胞は、創傷の境界線周りでの細胞密度増加(偽のコントロールに比較してp = 0.001、n = 3)を示し、創傷領域に近づこうとする、より高率の細胞移動及び増殖を創傷周囲に呈した(図5C及び5D)。しかしながら、非色素性細胞はレーザー照射による影響を受けなかった(データは図示せず)。
【0091】
実施例6−成長因子刺激検定
RNA単離及びRT-PCR
以前に言及した通り、ARPE-19細胞を、増殖が最低になる時点であるポスト・コンフルエントになるまで成長させた。色素性ARPE-19細胞を無血清培地F-12Kを容れた35 mmの皿に24時間、播種した。この細胞をPBS中で照射した。該PBSにはレーザー照射後にF-12Kが補われた。レーザー照射から8時間後、総RNAを培養色素性 ARPE-19細胞からメーカーのプロトコルに従って抽出した。逆転写を10 ngの総RNAに対し、 First Strand SUPERSCRIPT(登録商標) 予備増殖システムPreamplification System for First
Strand cDNA Synthesis を oligo(dT)20 プライマーと一緒にメーカーのプロトコルに従って用いて行った。5マイクロリットルのcDNAをPCR 混合物に加え、最終体積を、50 mM KCl、10 mM Tri-HC、2.5 mM MgCl2、及び、それぞれ10 mMのサーミス-ブロキアヌス(原語:Thermus brockianus )由来のNTPs 及び1U 熱安定DNA ポリメラーゼ(米国、Promega社製)を含有する50 μlとした。以下のPCRサイクル・パラメーターを40回のサイクルに用いた:最初の変性は95°Cで2分間、アニーリングは55°Cで1時間;重合反応は72°Cで1分間;続いて最後の伸長は72°Cで2分間。
【0092】
逆転写酵素を用いない並行RT-PCR反応を各サンプルについて行って、当該PCR産物はゲノムDNAではなくcDNAから生じたことを確認した。β-アクチンを、サンプル間でPDGF及びPDGF 受容体mRNA豊富度を比較するための構成的に発現する遺伝子産物として用いた。次に、全産物を2%アガロース・ゲル電気泳動法及び臭化エチジウム染色法で分析し、その結果得られたバンドを比重走査した。PDGF-A、PDGF-B、PDGFR-α、及びPDGFR-βの特異的5'側及び3'側プライマーは市販のものを入手した。
【0093】
色素性 RPE細胞におけるPDGF及びその受容体のmRNAの発現
PDGF-A及びB鎖、及びPDGF受容体α及びβの色素性 ARPE-19細胞におけるmRNAレベルを、レーザー照射有り又は無しで評価した。このような処置後8時間にわたって細胞から抽出された総RNAをRT-PCR分析によるmRNAの判定に用いた。偽コントロール及びレーザーで照射されたRPE細胞におけPDGFA、PDGFB、PDGFR-α、PDGFR-βのRT-PCR分析を示した図7に示すように、ARPE-19細胞は、PDGF-A及びB、並びに受容体α及びβmRNAを構成的に発現していた。
【0094】
PDGF-A、B、並びに受容体α及びβの発現は、偽のコントロールに比較して55 mJ/cm2
及び110 mJ/cm2 のレーザー照射により増加していた。予想されたサイズの反応産物の正体はアガロース・ゲル電気泳動法により確認された。逆転写酵素がない場合には何のPCR産物も得られず、ゲノムDNAではなくRNAがテンプレートとして働いたことが示唆された。
【0095】
成長因子、それらの受容体、及び熱ショックタンパク質の遺伝子発現
PDGFA、PDGFB、及びそれらの受容体の発現を選択的光凝固後に上方調節した。8時間目のPDGFAのレベルは偽のコントロールのレベルの1.35±0.005 (P = 4.57E-08, n = 3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2) 及び2.11 ± 0.09 (P
= 6.92E-05、n = 3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍であり、その後、24時間目では偽のコントロールのレベルの1.12 ± 0.04 (p =
0.028、n = 3) (レーザー・フルエンス は55 mJ/cm2) 及び1.41 ± 0.04 (p = 0.0008) (レーザー・フルエンス は110 mJ/cm2) 倍に減少し、レーザー光凝固から2週間目では偽のコントロールのレベルの1.12±0.13 (p
= 0.28、n = 3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2)及び1.28 ± 0.22 (p = 0.15、n = 3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍になった。
【0096】
8時間目のPDGFα 受容体の発現レベルは偽のコントロールのレベルの1.08±0.03 (P=0.044、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/cm2) 及び1.60±0.17
(P=0.033、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍であり、その後、24時間目には偽のコントロールのレベルの1.31±0.08
(P=0.005、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2) 及び1.76±0.03 (P=5.39E-06、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍に、そしてレーザー凝固から2週間後には偽のコントロールのレベルの1.22±0.22 (P=0.21、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2)及び1.73±0.03 (P=5.96E-06、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍に減少した。
【0097】
8時間目のPDGFBのレベルは偽のコントロールのレベルの1.22±0.02 (P=4.94E-05、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/cm2) 及び1.44±0.11 (P=0.005、n=3) (レーザー・フルエンスは 110 mJ/cm2) 倍であり、その後、24時間目には少し増加して偽のコントロールのレベルの1.22±0.02 (P=0.0009、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/cm2) 及び1.45±0.03 (P=0.0001) (レーザー・フルエンスは 110 mJ/cm2) 倍になり、レーザー光刺激から2週間目には 偽のコントロールのレベルの1.24±0.32 (P=0.28、n=3) (レーザー・フルエンスは 55 mJ/cm2)及び 1.85±0.05 (P=1.38E-05、n=3) (レーザー・フルエンスは 110 mJ/cm2) 倍になった。
【0098】
8時間目のPDGFβ 受容体の発現レベルは偽のコントロールのレベルの1.28±0.03 (P=9.65E-05、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/cm2) 及び1.60±0.06
(P=0.033、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍であり、その後、24時間目には偽のコントロールのレベルの1.80±0.17
(P=0.003、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/ cm2) 及び2.97±0.19 (P=0.001、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍に増加し、そしてレーザー光刺激から2週間後には偽のコントロールのレベルの2.04±0.2 (P=0.002、n=3) (レーザー・フルエンスは 55 mJ/cm2) 及び3.00±0.03 (P=1.87E-07、n=3) (レーザー・フルエンスは 110 mJ/ cm2) 倍になった(図8A)。
【0099】
6時間目のTGF-β1の発現レベルは偽のコントロールのレベルの1.40±0.29 (P=0.116、n=3) (レーザー・フルエンスは 55
mJ/cm2) 及び2.38±0.11
(P=6.67E-05、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍であり、その後、24時間目には偽のコントロールのレベルの1.07±0.01
(P=0.002、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2) 及び1.50±0.05 (P=0.0001) (レーザー・フルエンスは 110 mJ/cm2) 倍に減少し、そしてレーザー光刺激から2週間目には偽のコントロールのレベルの
1.11±0.06 (P=0.06、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2) 及び1.31±0.07 (P=0.004、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍になった。
【0100】
6時間目のTGF 受容体の発現レベルは偽のコントロールのレベルの1.53±0.15 (P=0.0075、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/cm2) 及び2.05±0.09
(P=6.39E-05、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍であり、その後、24時間目には偽のコントロールのレベルの1.1±0.14 (P=0.4、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2) 及び2.02±0.08 (P=5.61E-05、n=3) (レーザー・フルエンスは 110
mJ/cm2) 倍に減少し、レーザー光刺激から2週間後には偽のコントロールのレベルの1.03±0.05 (P=0.37、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2) 及び1.5±0.11 (P=0.003、n=3) (レーザー・フルエンスは 110 mJ/cm2) 倍になった。(図8B)。
【0101】
6時間目のbFGFの発現は偽のコントロールのレベルの1.54±0.23 (P=0.029、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/ cm2) 及び1.93±0.18
(P=0.002、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍であり、その後、24時間目には偽のコントロールのレベルの 1.08±0.02
(P=0.003、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/ cm2) 及び1.23±0.02 (P=0.0001、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍に減少し、レーザー光刺激から2週間目には偽のコントロールのレベルの1.0±0.04 (P=0.725、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2) 及び 1.04±0.03 (P=0.191、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍になった。
【0102】
6時間目のFGF 受容体の発現レベルは偽のコントロールのレベルの1.73±0.015 (P=0.00043) (レーザー・フルエンス は55 mJ/ cm2) 及び 2.72±0.42 (P=0.055) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍であり、その後、24時間目には偽のコントロールのレベルの1.27±0.01
(P=2.11E-06、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2) 及び 1.46±0.12 (P=0.006、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) まで減少し、レーザー光刺激から2週間目には偽のコントロールのレベルの1.0±0.035 (P=0.42、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2) 及び1.24±0.01 (P=0.0017、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍になった。(図8B)。
【0103】
IGF-1 の遺伝子発現も6時間目までは増加し、その後、24時間目には2週間目まで減少した。このように、当該レベルは6時間目では偽のコントロールのレベルの1.39±0.10 (P=0.005、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/cm2) 及び 1.86±0.18
(P=0.0027、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2)倍であり、その後、24時間目には偽のコントロールのレベルの1.25±0.18
(P=0.125、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2) 及び1.56±0.85 (P=0.097、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍まで減少し、レーザー光刺激後2週間目には偽のコントロールのレベルの 1.0±0.04 (P=1、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2) 及び1.31±0.17 (P=0.061、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) になった。
【0104】
IGF1 受容体の発現レベルは偽のコントロールのレベルの1.22±0.11 (P=0.044, n=3) (レーザー・フルエンスは 55 mJ/cm2) 及び2.27±0.24 (P=0.0016, n=3) 倍であり、24時間目には偽のコントロールのレベルの1.05±0.13 (P=0.75、n=3) (レーザー・フルエンスは 55 mJ/cm2)及び1.51±0.12 (P=0.048、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍まで減少し、その後、レーザー光刺激から2週間目には偽のコントロールのレベルの1.0±0.04 (P=1、n=3) (レーザー・フルエンスは 55 mJ/ cm2) 及び1.18±0.16 (P=0.193、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍まで減少した。(図8B)。
【0105】
IGF-2 の遺伝子発現も6時間目まで増加した後、24時間目には減少し、2週間目ではほぼ一定に留まった。このように、当該レベルは6時間目では偽のコントロールのレベルの1.27±0.12 (P=0.033、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/cm2) 及び1.73±0.09
(P=0.00039、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) 倍であり、その後、24時間目には1.13±0.06 (P=0.106、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/cm2) 及び1.65±0.10 (P=2.23E-0、n=3) (レーザー・フルエンスは110
mJ/ cm2) 倍まで減少し、レーザー光刺激後2週間目には1.07±0.07 (P=0.212、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/cm2) 及び 1.21±0.05
(P=0.004、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/cm2) になった。
【0106】
IGF2 受容体の発現レベルは1.39±0.22 (P=0.064、n=3) (レーザー・フルエンス は55 mJ/cm2) 及び2.62±0.21 (P=0.006、n=3)であり、24時間目には偽のコントロールのレベルの1.29±0.05 (P=0.024、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/ cm2) 及び 1.89±0.10
(P=0.011、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍まで減少し、その後、レーザー光刺激後2週間目には1.0±0.02 (P=0.71、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/ cm2) 及び1.41±0.32 (P=0.142、n=3) (レーザー・フルエンスは110
mJ/ cm2) まで減少した。(図8B)。
【0107】
EGF の遺伝子発現は6時間目、24時間目までは増加した後、2週間目では減少していた。このように当該レベルは6時間目では偽のコントロールのレベルの1.17±0.06 (P=0.014、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/ cm2) 及び1.53±0.07 (P=0.00042、n=3) (レーザー・フルエンスは 110 mJ/ cm2) 倍であり、その後、24時間目では偽のコントロールのレベルの1.57±0.37 (P=0.092、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/ cm2)及び 2.45±0.14
(P=0.00012、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍まで増加し、レーザー光刺激後2週間目では偽のコントロールのレベルの1.07±0.05
(P=0.131、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/ cm2) 及び 2.17±0.39 (P=0.0014、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍になった。
【0108】
EGF 受容体の発現レベルは6時間目では偽のコントロールのレベルの1.11±0.02 (P=0.0013、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/ cm2) 及び 1.89±0.21 (P=0.004、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍であり、その後減少して24時間目には偽のコントロールのレベルの1.11±0.005 (P=5.9E-06、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/ cm2) 及び1.67±0.09
(P=0.00053、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍になり、レーザー照射後2週間目には偽のコントロールのレベルの1.10±0.14
(P=0.358、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/ cm2) 及び1.48±0.01 (P=6.46E-07、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) になった。(図8B)。
【0109】
VEGF の遺伝子発現も、6時間目までに僅かに増加した後、次第に減少して偽のコントロールのレベルよりも低いそれになった。このように、当該のレベルは6時間目では偽のコントロールのレベルの1.58±0.12 (P=0.0024、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/ cm2 ) 及び2.14±0.20
(P=0.00134、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍だったが、24時間目では偽のコントロールの0.93±0.17 (P=0.65、n=3) (レーザー・フルエンス は55 mJ/ cm2) 及び0.89±0.09 (P=0.125、n=3) (レーザー・フルエンス は110 mJ/ cm2) 倍まで落ち、選択的光刺激後2週間目では偽のコントロールのレベルの0.90±0.02
(P=0.0027、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/ cm2) 及び0.89±0.08 (P=4.47E-05、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍になった。(図8B)。
【0110】
選択的光刺激後、6時間目に色素上皮-由来因子(PEDF)の上方調節を色素性ARPE-19細胞で観察し、その後、PEDF のレベルは次第に減少した。当該のレベルは6時間目では偽のコントロールのレベルの1.19±0.06
(P=0.008、n=3) (レーザー・フルエンス は 55 mJ/ cm2)
及び1.59±0.33 (P=0.07、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍だったが、その後、24時間目には偽のコントロールのレベルの1.07±0.03 (P=0.025、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/ cm2) 及び1.36±0.07
(P=0.0032、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍になり、その後、レーザー照射から2週間目には偽のコントロールのレベルの1.06±0.026
(P=0.027、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/ cm2) 及び1.34±0.09 (P=0.005、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍になった。(図8B)
【0111】
熱ショックタンパク質Hsp27、Hsp70、及びHsp90 は選択的光刺激後6時間目で一過性の発現増加を示した後、次第に減少したことが注目されるに違いない。このように、Hsp27 のレベルは6時間目では偽のコントロールのレベルの1.17±0.04 (P=0.00053、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/ cm2) 及び1.59±0.12
(P=0.0003、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍だったが、24時間目には偽のコントロールのレベルの1.03±0.04 (P=0.364、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/ cm2) 及び1.25±0.123 (P=0.047、n=3) (レーザー・フルエンスは 110
mJ/ cm2)倍まで落ち、選択的光刺激後2週間目では偽のコントロールのレベルの1.05±0.033 (P=0.124、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/ cm2) 及び1.16±0.033
(P=0.00245、n=3) (レーザー・フルエンスは 110 mJ/ cm2) 倍になった。
【0112】
Hsp70 のレベルは6時間目では偽のコントロールのレベルの1.24±0.08 (P=0.01、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/ cm2) 及び1.42±0.03 (P=0.000053、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍だったが、その後、24時間目では偽のコントロールのレベルの1.37±0.09 (P=0.006、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/ cm2) 及び1.82±0.25
(P=0.01、n=3) (レーザー・フルエンス は110 mJ/ cm2)
倍まで落ち、選択的光刺激後2週間目では偽のコントロールのレベルの1.17±0.14 (P=0.124、n=3) (レーザー・フルエンス は55 mJ/ cm2)及び1.68±0.09 (P=0.0004、n=3) (レーザー・フルエンスは 110 mJ/ cm2) 倍になった。
【0113】
Hsp90 のレベルは6時間目では偽のコントロールのレベルの1.44±0.24 (P=0.06、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/ cm2) 及び1.97±0.21 (P=0.003、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2)倍だったが、その後、24時間目では偽のコントロールのレベルの1.08±0.04 (P=0.47、n=3) (レーザー・フルエンスは55 mJ/ cm2) 及び1.22±0.08 (P=0.02、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍まで落ち、選択的光刺激後2週間目では偽のコントロールのレベルの1.05±0.04 (P=0.118、n=3) (レーザー・フルエンスは55
mJ/ cm2) 及び1.18±0.06
(P=0.02、n=3) (レーザー・フルエンスは110 mJ/ cm2) 倍になった。(図8B)。
【0114】
これらの結果は、選択的な光刺激は、レーザー照射後のPDGF、TGFβ1、bFGF、EGF、IGF、及びそれらの受容体であるVEGF、PEDF、及び熱ショックタンパク質の発現を増加させたことを実証するものである。成長因子は正常な創傷治癒にとって重要なプロセスのうちの多くを調節する。例えば、TGF-βは炎症性細胞にとっての化学誘引物質であり、マトリックス付着を促進する。PDGF、EGF、及びFGFはRPE細胞増殖を促進する。IGF-1は強力な細胞生存因子であり、網膜前方の血管新生の病理において強く関与が示唆されている。これらの成長因子は創傷治癒を惹起するために調和して働いている可能性が高いようである。提示された実験は選択的光刺激後のRPEにおける成長因子発現の一時的変化を示しており、これから、選択的光刺激後のRPE創傷治癒は成長因子により自己分泌/パラ分泌的態様で調節されることが推論される。光刺激後のPEDF及びHspsなどの抗血管新生性因子の上方調節は、選択的光刺激の有利な効果に寄与するに違いない。
【0115】
実施例7:致死量以下のパルス・レーザー処置は再生亢進を網膜色素上皮細胞で誘導する
この例では、優れたRPE再生のための選択的かつ安全なレーザー処置養生法を開発するために、ヒト胎児網膜色素性上皮 (RPE)細胞のパルス・レーザー処置への生物学的応答の評価を提供する。
【0116】
ヒト胎児網膜色素性上皮 (hfRPE)細胞を19週齢の胎児の眼からMaminishkis et al., “Confluent
monolayers of cultured human fetal 網膜色素 上皮 exhibit morphology and physiology of native
tissue,” Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 47(8):3612-24 (2006)に記載された通りに分離し、ラミニンで被覆したガラス製スライド上で、それらがコンフルエントかつ色素の濃くなるまで4週間、培養した。ヒト胎児RPE細胞をパルス化色素レーザー
(Palomar 3010;590 nm、1 Ts、1 mm直径)で処置した。この細胞を単一パルス・レーザーで、50-700 mJ/cm2 のフルエンスで照射し、処置から2時間後に蛍光生/死染料(カリフォルニア州カールスバッド、Invitrogen社)を用いて分析した。染色した細胞の蛍光画像を用いて照射野内の生きた及び死んだ細胞の数を METAMORPH(登録商標) ソフトウェア(カリフォルニア州サニーベール、Molecular Devices社)を用いて判定した。
【0117】
この例のために、照射部分照射で50%の細胞死を引き起こしたレーザーエネルギー・レベルを閾値エネルギー・レベルに割り当て、亜閾値エネルギーを、細胞死が観察されないエネルギー・レベルと定義した。実験は亜閾値エネルギーの70%であるエネルギー・レベルで行われた。単一パルス・レーザー処置時のhfRPE細胞の再生応答をin vitro
引っかき傷治癒モデルで評価した。レーザー処置から2時間後の血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子
(bFGF)、及びインシュリン様成長因子(IGF1及びIGF2)などの有糸分裂促進性成長因子の発現を、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で分析した。
【0118】
1-μs 単一パルス色素レーザーを用い、hfRPE細胞の閾値エネルギー・レベルを496 mJ/cm2 と判定し、亜閾値エネルギー・レベルを285 mJ/cm2 と判定した。当該実験は200 mJ/cm2 (閾値エネルギーの70%)で行われた。引っ掻き型のin vitro 創傷治癒モデルでは、単一パルス色素レーザー照射後、偽のコントロールに比較してほぼ20-倍の増加が hfRPE細胞の増殖にあった。加えて、レーザー処置後、成長因子発現は以下の通りに上方調節された:RT-PCR及びデンシトメトリーで分析したところbFGF (1.96-倍)、IGF1 (4.6-倍)、IGF2 (2.2-倍)及びPDGF (0.14-倍)。
【0119】
この結果は、in 及びin vitroの創傷治癒モデルでhfRPE細胞を致死量以下の pulsed レーザー処置すると、有糸分裂促進性 因子の発現が刺激され、これが増殖亢進につながったことを示すものである。RPEの局部的な致死量以下のパルス・レーザー処置は周囲細胞を温存し、またRPEの変性が関与するとされている疾患においてRPEの再生を向上させるために用いることができる。
【0120】
実施例8−様々なレーザーを用いたRPE細胞の生存率研究
図9A及び9Bは、それぞれNd:YAG レーザー(パルス持続時間 は約 3ナノ秒)及びパルス化色素レーザー(パルス持続時間 は約 1 Ts)で一回パルスを施した後のヒト胎児RPE(hfRPE)の生存率研究の結果を示す。YAG レーザーの場合、正規化した生存率の値は最高約 100 mJ/cm2のフルエンスで約 100% 乃至95%の生存率であり、最高約 200
mJ/cm2のフルエンスでは80%を上回る生存率であり、
約 300 mJ/cm2のフルエンスでは生存率は急激に落ちて70%未満となる。パルス・色素レーザーの場合、約 300 mJ/cm2のフルエンスで90%を越える正規化された生存率、約 380-390 mJ/cm2のフルエンスで80%を越える生存率、及び、約 500 mJ/cm2のフルエンスで約50%の生存率。
【0121】
このように、ns-パルス持続時間について、図9Aは、hfRPE細胞を最高数十mJ のフルエンスに曝露しても基本的には何の致死も引き起こさないことを示している。100 mJ 乃至約 250 mJ のパルス・フルエンスですら、hfRPE 細胞の正規化後の生存率には僅かに小さな低減しか引き起こさない。
【0122】
Ts-パルス持続時間について、図9Bは、hfRPE 細胞に最高数百のmJのフルエンスを適用しても、基本的には何の細胞死も起きないことを示している。約 250 mJのパルス・フルエンスでも、hfRPE
細胞にはごく僅かな生存率低減しか起きない。
【0123】
これらの結果は、nJ から数mJのフルエンスを適用すると、hfRPE細胞の有意な細胞死なく、高い生存率を確実にすることができることを示している。メラニン濃度はコントロールされなかったとしても、メラニン濃度が高ければ、フルエンスの閾値は低くなるであろう。このように、細胞死なしの上限の70%を用いると、細胞死が全く(又は実質的に全く)ないようにすることができる。
【0124】
実施例9−致死量以下のフルエンス・レベルのin vivoウサギ・モデル
Dutch Belted ウサギの角膜上に配置されたMainsterコンタクト・レンズを用いて、RPE細胞を約 64 mJ/cm2 のフルエンスで1 Ts パルス化色素レーザーを用い、そして約 8.0 mJ/cm2 でa q-スイッチ型Nd:YAG レーザーを用いて532 nmで照射した。RPEには何の可視の損傷もみとめられなかった。しかしながら、フルオレセイン血管造影法では、上のフルエンスで漏出が実証されたことから、細胞間結合が開放したことが示唆された、RPE中に検眼で見える変化はないまま、光エネルギーで誘導された生化学的作用の証拠が提供された。このデータは、in vivoでのRPEの光刺激は、培養RPE細胞を用いて報告されたものより低い処置エネルギーで起きることを示唆している。
【0125】
他の実施態様
以上、本発明をその詳細な解説と関連して説明してきたが、前述の解説は本発明を描写することを意図しており、本発明の範囲を限定することは意図しておらず、同範囲は、付属の請求項の範囲で定義されることを理解されたい。他の局面、利点、及び変更は、以下の請求項の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の組織中の色素性細胞を選択的に光刺激する方法であって:
色素性標的細胞及び非色素性細胞を含有する組織の領域を選択するステップであって、前記色素が内因的に合成された又は外因性の色素である、ステップと;
前記組織を一回以上の照射パルスで照射するステップであって、各パルスが(i)非色素性細胞でよりも色素性細胞でより吸収される波長、及び(ii)色素性細胞の熱緩和時間よりも短いパルス持続時間であって、適用される総照射エネルギーが色素性標的細胞に致死量以下のフルエンスを提供するステップと
を含み、こうして組織中の色素性細胞を選択的に光刺激する方法。
【請求項2】
前記一回以上の照射パルスをレーザーで生成するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記総レーザー照射の致死量以下のフルエンスが120 mJ/cm2 未満であり、前記パルス持続時間が0.5 ms 乃至8 msの範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記照射が可視スペクトル中の波長を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザー照射が、それぞれが約 1 ns 乃至 約 2 ms間のパルス持続時間を持つ一回以上のパルスで送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記総レーザー照射のレーザー・フルエンスが120 mJ/cm2未満である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記総レーザー照射の致死量以下のレーザー・フルエンスが20 mJ/cm2 未満であり、そしてパルス持続時間が約 10ナノ秒である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記照射が、400 nm 乃至800 nmの範囲内の波長を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記総レーザー照射の前記致死量以下のレーザー・フルエンスが200 mJ/cm2未満であり、前記パルス持続時間が約10ナノ秒であり、そして前記照射が赤外スペクトル中の波長を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
再生期間の後の後続照射ステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記一回以上のレーザー照射パルスが約 0.05 乃至 約 1.5 mmの直径を有する標的スポットで組織に入射する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記一回以上のレーザー照射パルスが約 0.1 乃至 約 1.0 mmの直径を有する標的スポットで組織に入射する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記組織が黒色腫を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記組織が眼内組織を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記眼内組織が小柱網細胞、網膜色素性上皮細胞、ブドウ膜色素性細胞、及び黒色腫細胞のうちの少なくとも一つを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記色素性細胞が眼内部分の貪食細胞であり、前記色素が、前記部分を照射する前に外因性色素に前記貪食細胞を接触させることにより前記貪食細胞内に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
網膜色素上皮細胞の増殖を選択的に誘導する方法であって:
網膜色素上皮細胞を含有する、網膜の領域を選択するステップであって、前記網膜色素上皮細胞は、内因的に合成された又は外因性の色素のいずれかである色素を含有する、ステップと;
網膜色素上皮細胞の前記領域を、一回以上の致死量以下の照射パルスで照射するステップであって、各パルスが、120 mJ/cm2未満のフルエンスを提供し、400 nm 乃至 800 nmの波長で少なくとも0.5μs未満のパルス時間、又は、1000 nm 乃至 1500 nmの波長で5ns乃至0.5μsの範囲のパルス持続時間と、周囲組織でより網膜色素上皮細胞でより吸収される波長とを含み;個々のパルスは、組織の光凝固が確実に全く起きないようにする充分な分離時間を置いて適用され、組織に適用される前記総レーザー照射エネルギーが、致死量以下のレーザー・フルエンスを網膜色素上皮細胞に提供する、ステップと
を含み、
それにより組織中の網膜色素上皮細胞の増殖を選択的に誘導する、方法。
【請求項18】
前記照射が単一パルスにより送達される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記レーザー照射が直径約 0.05 乃至 約 1.5 mmの標的スポットで眼内部分に入射する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記が直径約 0.1 乃至 約 1.0 mmの標的スポットで眼内部分に入射する、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記照射量が、5ns乃至5msの範囲のパルス持続時間、400 nm 乃至 800 nmの波長で約 20 mJ/ cm2 未満である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
網膜色素上皮細胞の一つ以上に外因性色素を導入するステップを更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
患者の組織中の色素性細胞を選択的に光刺激する方法であって:
色素性標的細胞及び非色素性細胞を含有する組織の領域を選択するステップであって、前記色素が内因的に合成された又は外因性の色素である、ステップと;
前記色素性細胞の熱緩和時間よりも短い、一回以上の照射パルスのパルス持続時間と、非色素性細胞でよりも色素性細胞でより吸収される一回以上の照射パルスを生成するための波長とを選択するステップと;
選択された波長及び選択されたパルス持続時間による一回以上の照射パルスで生成されるフルエンスであって、色素性細胞にとって致死量以下のフルエンスである、フルエンスを選択するステップと;
一回以上の照射パルスで組織を照射するステップであって、組織に適用される前記総照射エネルギーは、色素性標的細胞に致死量以下のフルエンスを提供するものである、ステップと、
を含み、こうして組織中の色素性細胞を選択的に光刺激する、方法。
【請求項24】
網膜色素上皮細胞の増殖を選択的に誘導する方法であって:
網膜色素上皮細胞を含有する網膜の領域を選択するステップであって、前記網膜色素上皮細胞は、内因的に合成された、又は外因的な色素である色素を含有する、ステップと、
一回以上の照射パルスのパルス持続時間と、周囲組織よりも網膜色素上皮細胞でより吸収される、一回以上の照射パルスを生成するための波長とを選択するステップと、
選択された波長及び選択されたパルス持続時間による一回以上の照射パルスで生成されるフルエンスであって、網膜色素上皮細胞にとって致死量以下のフルエンスである、フルエンスを選択するステップと、
前記一回以上の照射パルスで網膜色素上皮細胞の領域を照射することで、組織中の網膜色素上皮細胞の増殖を選択的に誘導する、ステップと
を含む、方法。
【請求項25】
患者の組織中の色素性細胞を選択的に光刺激するシステムであって:
一回以上の照射パルスを生成する光源であって、各パルスが、(i)非色素性細胞でよりも色素性細胞でより吸収される波長、及び(ii)色素性細胞の熱緩和時間よりも短いパルス持続時間、を含む、光源と、
色素性標的細胞及び非色素性細胞を含有する組織の領域に前記一回以上のパルスを指向させる光学システムであって、前記色素は、内因的に合成された、又は外因的な色素である、光学システムと、
組織に適用される総照射エネルギーが、色素性標的細胞に致死量以下のフルエンスを提供するように、一回以上の照射パルスでの組織照射を制御するように構成されることで、組織中の色素性細胞を選択的に光刺激する、制御ユニットと
を含む、システム。
【請求項26】
制御ユニットが、色素性標的細胞に対する致死量以下のフルエンスが確実となるように、パルス持続時間、波長、及びフルエンスのうちの少なくとも一つを制御するように構成される、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
放出されるパルスの時間、波長、及びフルエンスを観察する観察ユニットを更に含む、請求項25に記載のシステム。
【請求項28】
光源が、ナノ秒から数マイクロ秒の範囲の時間のパルスを生成するように構成される、請求項25に記載のシステム。
【請求項29】
光源が、 400 nm乃至 約 1500 nmの範囲の波長のパルスを生成するように構成される、請求項25に記載のシステム。
【請求項30】
組織に対して10 nJ 乃至200 mJの範囲の照射フルエンスを生成するように構成される、請求項25に記載のシステム。
【請求項31】
網膜色素上皮細胞の増殖を選択的に誘導するシステムであって:
一回以上の照射パルスを生成する光源と、
網膜色素上皮細胞を含有する網膜の領域を選択する手段であって、前記網膜色素上皮細胞は、内因的に合成された、又は外因的な色素である色素を含有する、手段と、
一回以上の照射パルスのパルス持続時間と、周囲組織よりも網膜色素上皮細胞内でより吸収される、一回以上の照射パルスを生成するための波長とを選択する手段と、
選択された波長及び選択されたパルス持続時間による一回以上の照射パルスで生成されるフルエンスであって、網膜色素上皮細胞にとって致死量以下のフルエンスである、フルエンスを選択する手段と、
網膜色素上皮細胞の領域を一回以上の照射パルスで照射することで、組織中の網膜色素上皮細胞の増殖を選択的に誘導する光学素子と
を含む、システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2011−510694(P2011−510694A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543312(P2010−543312)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/031599
【国際公開番号】WO2009/092112
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】