説明

細菌DAMDNAメチルトランスフェラーゼの小分子阻害剤

DNAメチル化、およびメチル化の阻害に関与する化合物、結晶構造、データ表現、使用方法および同定方法を開示する。実施形態では、DNAメチル化はDNA−アデニンメチルトランスフェラーゼ(Dam)によって行われる。一実施形態では、化合物は、病原性生物の感染の疑いがある宿主を治療するために使用される。一実施形態では、病原性細菌のビルレンスは、細菌性Dam酵素を阻害可能な薬剤を用いた治療によって改変される。一実施形態では、Dam阻害剤に関する化合物および方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【政府支援の研究開発に関する記述】
【0001】
[0001] 本発明は、米国国立衛生研究所によって付与された政府支援GM49245の下で行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【発明の背景】
【0002】
[0002] 病原性細菌は、ヒトにおいて様々な疾患を引き起こし、軽度から重度までの一連の症状を表し、死をもたらし得る。世界規模の感染性疾患は死の主要原因である。強い多剤耐性が出現し、耐性遺伝子が水平移動する場合、病原性細菌は特に懸念される。抗生物質に対する細菌耐性が出現することは、現在益々問題となっている。新たな種類の抗生物質、特に、細菌による耐性の発生によって効果が失われる可能性が少ない抗生物質が常に必要とされている。本発明は、DNAアデニンメチラーゼ(「Dam」)を阻害することによってDNAメチル化を妨害する新たな種類の抗生物質を提供する。Damは様々な細菌のビルレンスに必要とされるので、Damを阻害すればビルレンスが減少する。Damの阻害剤は哺乳類細胞のDNA−MTアーゼには影響を及ぼさず、そのため、宿主生物に対する毒性は最小限なので、抗生物質として特に有効である。さらに、細菌のビルレンスのみを減少させるので、細菌がDam阻害剤に対する耐性を持つ機会も減少させる。
【0003】
[0003] DNAメチル化とは、メチル基をDNAに付加し、遺伝子発現制御機構を提供するプロセスである。したがって、DNAメチル化は、数多くの、多種多様な生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たす。ほとんどの原核生物および真核生物のDNAは、メチル化された塩基、4−メチルシトシン(N4mC)、5−メチルシトシン(5mC)および6−メチルアデニン(N6mA)を含有する。メチル化による修飾は、DNA複製後DNAメチルトランスフェラーゼ(「MTアーゼ」)によって導入される。DNA MTアーゼは、供与体S−アデノシル−L−メチオニン(「AdoMet」)からのメチル基転移を触媒し、S−アデノシル−L−ホモシステイン(AdoHcy)およびメチル化DNAを生成する(図1)。一般的に、MTアーゼは、特異的配列を認識し、「塩基のフリッピング(base flipping)」機構(Klimasauskas他、1994)を利用して、その配列内の標的塩基をDNAらせんからMTアーゼ活性部位ポケットに回転させる。
【0004】
[0004] ほとんどの原核細胞DNA MTアーゼは、制限修飾系の構成成分であり、ファージ防御機構の一部として機能を果たすが、いくつかのMTアーゼはコグネイト(cognate)制限酵素、例えば、GATC配列内のアデノシンの環外アミノ窒素(N6)をメチル化する大腸菌(E.coli)DNAアデニンMTアーゼ(Dam)とは関係がない(図1)(Hattman他、1978、Lacs and Greenberg、1977)。Dam MTアーゼ遺伝子オルソログは、大腸菌およびそれらのバクテリオファージの中で広範囲に及ぶ(Hattman & Malygin、2004の総説参照)。
【0005】
[0005] Damメチル化は、原核生物のDNA複製において重要である。例えば、大腸菌(E.coli)およびサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)の複製開始点の近くにはGATC部位の集団があり、それら全てが2つの種の間で保存されている。いくつかの細胞機能のタイミングおよび標的化を調節するのは、DNA複製直後に生成されるヘミメチル化GATC部位である(Messer & Noyer−Weidner、1988)。例えば、SeqAはこれらのヘミメチル化GATC部位に特異的に結合し、完全なメチル化の遅延を引き起こし(Guarne他、2002、Kang他、1999、Lu他、1994)、一部ではDNA複製を調節する。
【0006】
[0006] 特定のGATC部位のDNA−アデニンメチル化は、細菌の遺伝子発現、DNA複製、ミスマッチ修復に中心的な役割を果たし、多くのグラム陰性菌の細菌ビルレンスに必須である。Damメチル化は、大腸菌(E.coli)のある種の遺伝子の発現を調節し(Oshima他、2002、Lobner−Olesen他、2003)、エルシニア・シュードツベルクローシス(Yersinia pseudotuberculosis)においては、非許容条件下でYop病原タンパク質の発現および分泌を調節する(Julio他、2002)。尿路疾患性大腸菌における腎盂腎炎惹起性線毛(Pap)の発現は、グローバル制御因子Lrpのヘミメチル化GATC部位への結合によって後成的に制御される(Hernday他、2003)。さらに、Damメチル化は、MutSIおよびMutHによって形成された大腸菌ミスマッチ修復系において重要である(Modrich、1989、Yang、2000)。対照的に、DNA−アデニンメチル化は、ヒトまたはその他の高等真核生物では認められていない。
【0007】
[0007] EcoDam酵素によるDNAメチル化および塩基フリッピングの機構は、詳細に研究されている。EcoDamは、連続的な反応でDNAをメチル化し、DNA分子を分離せずに55個までのメチル基を転移させる(Urig他、2002)。このような作用機序では、EcoDamは、DNA2本鎖に結合したままAdoHcyをAdoMetと交換し、これによりDNAの連続的メチル化が引き起こされる(Berdis他、1998、Renbaum and Razin、1992)。この機構は、その他の孤立性MTアーゼ(すなわち、非コグネイト制限酵素)でも同様に見られる。対照的に、制限修飾系に属するMTアーゼは、(DNAの連続的メチル化は制限修飾系の生物学的機能を妨害するので)離散的機構を示すことが多い(Jeltsch、2002)。高い連続性は、複製後に完全なメチル化を迅速に回復するために必須である。
【0008】
[0008] DNAアデニンメチル化は、細菌のビルレンスに不可欠な役割を果たす(Heithoff他、1999、Garcia−Del Portillo他、1999)。したがって、本発明は、Damメチル化を阻害することによってビルレンスを阻害する。ビルレンス因子としてのDamの関与は、サルモネラ・エンテリカ・血清型チフィムリウム(Salmonella enterica serovar Typhimurium)に関して最初に記載され、dam変異体は、マウスにおける致死的感染の確立においては野生型に劣っているが、以前にdam変異体に感染したマウスは、野生型に重複感染してもあまり感受性を示さなかった(Low他、2001)。サルモネラは、米国において最も一般的な腸管内(腸内)感染菌の1つである。いくつかの州(例えば、ジョージア州、メリーランド州)では、最も一般的であり、全体的に見ると2番目に一般的な食物起因疾患である(通常、カンピロバクター感染よりも若干頻度が少ない)。CDCによれば、米国では毎年1000人に約500人、または食物関連死の31%がサルモネラ感染に起因している。サルモネラは、腸チフス熱および腸由来のその他多くの感染を引き起こす細菌種である。米国では希な腸チフス熱は、サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi)と呼ばれる特定種によって引き起こされる。しかし、「サルモネラ症」と呼ばれるその他のサルモネラ種による病気は、米国において一般的である。現在、この細菌の知られている株(技術的には「セロタイプ」または「血清型(serovar)」と称される。)の数は、総計2300種を上回る(CDCウェブサイトから)。哺乳類の免疫防御をすり抜ける分子装置の細菌による使用がDamメチル化により調節されることは、サルモネラ・チフィムリウムにおいて初めて示された。Dam変異細菌は正常に増殖するようであるが、この変異体はLD50がDam細菌の10,000倍であり、マウスに対して非病原性である。さらに、dam変異細胞でマウスを感染させると、野生型damのさらなる感染に対する防御が与えられる。したがって、Damは、薬剤設計の魅力的な標的である(Heithoff他、1999、Low他、2001)。
【0009】
[0009] エルシニアDam:エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis)は、伝染病、すなわち、急速に死に至らしめ、ヨーロッパおよびアジアにおいて過去2000年間いくつかの主な流行病の原因となった感染病を引き起こす細菌種である。最も良く知られている伝染病の1つは、皮膚を黒くしてしまうために黒死病と呼ばれた。14世紀に流行したこの伝染病は、2、3年のうちにヨーロッパの人口の3分の1以上を死に至らしめた。いくつかの都市では、人口の75パーセントまでが発熱および皮膚に潰瘍性の腫脹を伴って数日のうちに死んだ。合衆国において流行した最後の都市型伝染病は、1925年ロサンゼルスで発生した。それ以来、毎年平均13例の流行が主として南西部で確認され、約80パーセントはニューメキシコ州、アリゾナ州またはコロラド州の砂漠地方で発生し、約9パーセントがカリフォルニア州で発生した。世界的には、毎年3000例に及ぶ伝染病が世界保健機構に報告されている。伝染病は、細菌戦争の最も危険な因子の1つと考えられ、肺炎型(CDCによって潜在的な生物テロ薬とされている。)はテロに利用される可能性がある。
【0010】
[0010] 大腸菌Dam:大腸菌は大腸における主要な通性居住生物であるが、胆嚢炎、菌血症、胆管炎、尿路感染症および旅行者下痢症を含む多くの通常の細菌感染のいくつか、および新生児髄膜炎、肺炎などのその他の臨床的感染の最もよくある原因菌の1つである。このような細菌種は数百ある。1種、大腸菌O157:H7は、食物由来疾患の新たに出現した原因菌である。これは、腸の表面に重篤な損傷をもたらす1種または複数の関連性のある強力な毒素を大量に産生する。これらの毒素(ベロ毒素(VT)、志賀毒素様毒素)は、密接に関連しており、志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)によって産生される毒素と同一である。大腸菌O157:H7感染は、血性下痢、場合によっては腎不全を引き起こすことが多い。
【0011】
[0011] クレブシエラDam:クレブシエラの増殖およびビルレンスにおけるDamメチル化の役割は、当分野では確立されていないが、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)感染は病院内では一般的であり、肺炎(血痰の排出が特徴である。)およびカテーテルを挿入された患者の尿路感染の原因となる。クレブシエラ感染は、免疫系が弱った人に生じる傾向がある。実際に、K.ニューモニエは、尿路病原体としては、大腸菌に次いで2番目である。クレブシエラ感染は、以前よりも現在かなり頻繁に、特に新生児集中治療室で発生している。これは、おそらく細菌の抗生物質耐性特性によるためであろう。クレブシエラ種は、アンピシリン、カルベニシリンおよびペニシリンのような抗生物質に対する耐性を与える耐性プラスミド(R−プラスミド)を有することができる。しばしば、2種以上の強力な抗生物質がクレブシエラ感染を除去するために使用される。さらに悪いことに、R−プラスミドは必ずしも同種でなくてもその他の腸内細菌に移動することができる。したがって、クレブシエラDamを阻害し、それによってこれらの院内日和見感染を効果的に治療する新種の化合物が必要とされる。
【0012】
[0012] さらに、Dam MTアーゼの不活性化は、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)ビルレンスを弱める(Watson他、2004)。Damは、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)、エルシニア・シュードツベルクローシス(Yersinia pseudotuberculosis)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)およびエルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)を含み、増え続けている細菌病原体群のビルレンス因子と関係がある(Low他、2001、および表1)。Damメチル化は、多くの生物の生存能力に必須ではないが、damは、試験した増殖条件下ではビブリオ・コレラおよびエルシニア・シュードツベルクローシスの必須の遺伝子である(Julio他、2001)。エルシニア・シュードツベルクローシスにおいてDamが過剰生産されると、その効果は、ヘミメチル化されたGATC部位に結合しているSeqAの阻害による間接的なものであるが(Lobner−Olesen他、2005)、ビルレンス、いくつかの外部タンパク質(Yop)の分泌、および高い免疫性が弱められる(Julio他、2002)。同様の原理が、ウシ呼吸器疾患の原因となるパスツレラ・ムルトシダにおけるビルレンスのdamプラスミドによる弱毒化に当てはまる(Chen他、2003)。今日まで調べられてきたDam分子の中では、シゲラ・フレキシネル(Shigella flexnerii)dam変異体のビルレンスに対する効果が最も小さい(Honma他、2004)。
【0013】
[0013] Dam阻害剤は、いくつかの病原性細菌に関連したビルレンスを減少および/または抑制するのに有用である。例えば、腸管病原性大腸菌(EPEC)は、特に発展途上国における重要な公衆衛生問題であり、上水道を汚染し、幼児下痢を引き起こし(Gill and Hamer、2001、Goosney他、2000、Knutton他、19989、Lebine and Edelman、1984)、一年に200万人の幼児の死亡をもたらす。EPECは、下痢、ならびに溶血性尿毒症症候群(Riley他、1983)および死を引き起こし得る出血性大腸炎、の原因となる腸管出血性大腸菌O157:H7(EHEC)に密接に関連している。西洋諸国では、EHECはウシで大流行し(Mead他、1999)、牛挽肉の主要な汚染源となってきた(USDA、2002)。EHECは、米国だけでも1年に約60人の人を死に至らしめ、約74000人に感染している(Mead他、1999)。現在、EHEC感染に対して、抗生物質は、菌が溶解して、志賀毒素を放出し、腎不全および死をもたらすので、禁忌である。ビルレンス因子の発現を阻害する薬剤の開発が、EHEC感染を治療する手段となる。
【0014】
[0014] 本発明は、病原性細菌のビルレンスを抑制する、Damの特異的阻害剤の合理的な設計方法、および同定のためのスクリーニング方法を提供する。これらの特異的阻害剤は、ヒト、および検出可能なDNA−アデニンメチル化が起こらないその他の高等真核生物を治療するために使用することができる(Jeltsch、2002)。特異的GATCメチル化阻害剤は、宿主機能に影響を及ぼさない広範な抗微生物作用を有する可能性がある。例えば、必須酵素よりもビルレンスに影響を及ぼす因子を標的とすることにはいくつかの利点があり、(1)非病原性細菌に毒性を与えず、非病原性細菌よりも病原性細菌を選択すること、(2)即時型毒性の欠如により、薬剤耐性の迅速な出現の危険性が減少すること、および(3)病原体の初期増殖の継続により、宿主の安定した免疫応答の上昇が可能になることが含まれる。サルモネラのDam欠失変異体は、交差保護免疫を与える弱毒化生ワクチンとして使用することができる(Dueger他、2001、2003、Heithoff他、1999)。しかし、dam変異体は、ミスマッチDNA修復が不十分であり、そのため、自然突然変異の割合が高く、生ワクチン種に望ましい形質ではない。増殖に影響を及ぼさずにビルレンスに影響を及ぼす能力を有する化合物は、従来の抗生物質と比較して耐性を惹起する可能性が少ない。抗生物質耐性は、人類が直面している公衆衛生上の最大の難問の1つであり、様々な病原体のビルレンスに影響を及ぼす化合物を開発することは、感染疾患の治療に重大で肯定的な影響を与える。Dam阻害剤は、多くのヒト病原性細菌の生存能力に影響を及ぼすことができるので、生物テロが懸念される時代において実用性が広まってきた。小分子阻害剤によるDamの阻害は、広範な抗菌作用を有する新種の抗生物質の同定および開発の基礎となる。我々は、DNAと複合した2種のDam MTアーゼ、バクテリオファージT4 Dam MTアーゼおよび大腸菌Dam MTアーゼの三次元構造を決定した。これらの高分解能構造を用いて、特異的Dam MTアーゼ阻害剤を同定し、合理的に設計する。これらの阻害剤は、病原性細菌に感染した宿主の治療に有用である。
【発明の概要】
【0015】
[0015] 本発明は、宿主の病原性生物を治療するための化合物および方法に関する。特に、本発明は、DNAメチルトランスフェラーゼの活性を修飾することが可能な化合物を同定する方法であって、病原性細菌由来のAdoMet依存性MTアーゼの活性を修飾することを含む方法を提供する。AdoMet依存性MTアーゼおよび関連するタンパク質には、Hhal DNA MTアーゼ、Hhal MTアーゼ−DNA複合体、Pvullエンドヌクレアーゼ−DNA複合体、Pvull DNA MTアーゼ、タンパク質アルギニンMTアーゼPRMT3およびPRMT1、小分子ヒスタミンMTアーゼおよび阻害剤との複合体、Dnmt3b PWWPドメイン、MBD4グリコシラーゼドメイン、ヒストンH3 Lys9 MTアーゼ DIM−5および基質H3ペプチドとの複合体、ファージT4 DamおよびDNAとの特異的および非特異的複合体、タンパク質グルタミン−N5 MTアーゼHemK、ヌクレオソーム依存性ヒストンH3リシン79 MTアーゼDot1p、およびHinP1Iエンドヌクレアーゼ、大腸菌Damおよびその他の病原性細菌由来のDamが含まれる。一実施形態では、DamまたはDim−5酵素活性が修飾される。一実施形態では、Dam酵素活性が修飾される。Dam酵素活性は、増加させるか、または減少させることができる。好ましい実施形態では、Dam酵素活性は阻害される。
【0016】
[0016] 同定方法は、Dam酵素またはDam酵素複合体の三次元構造を提供することによって実施することができる。Dam酵素は、完全なタンパク質であってもよい。あるいは、Dam酵素は完全なタンパク質の一部であってもよく、その部分は1個または複数のAdoMet結合ポケット、ポケット内外のチャンネル、触媒ドメインとDNA結合ドメインとの間のヒンジ領域、DNA結合表面、特有の表面ポケット、またはDam酵素活性に影響を及ぼすことが可能ないかなるその他の領域をも含む。その構造は、1個または複数のメチル供与体(例えば、AdoMet)およびDNAと複合体化したDam酵素から得ることができる。修飾剤候補構造が作製され、相互作用エネルギー値は、この候補構造およびDam酵素の、シミュレートされたドッキング相互作用から計算される。相互作用エネルギー値を評価することによって、Dam酵素活性を修飾可能な候補構造が同定される。この評価は、基準値または「カットオフ値」と比較して実施することができる。
【0017】
[0017] 一実施形態では、Dam酵素構造は、バクテリオファージまたは細菌から得られた構造である。一実施形態では、Dam酵素構造は、大腸菌から得られた構造である。シミュレートされたドッキング相互作用から意味のある相互作用エネルギー値が得られる程度に十分な分解能を有する限り、この構造はいかなる原料から得てもよい。好ましい構造はX線結晶学から得られ、例えば、タンパク質データバンクに登録されている結晶構造(表8にまとめて示す。)が挙げられる。
【0018】
[0018] ドッキング相互作用は、好ましくはドッキング部位に生じる。Damのドッキング部位には、メチル供与体がDNA塩基にメチル基を供与する活性部位、および/または触媒ドメインとDNA結合ドメインとの間に形成されたポケット、および/またはメチル供与体結合部位が含まれる。ドッキング部位には、AdoMet結合ポケット、ポケット内外のチャンネル、触媒ドメインとDNA結合ドメインとの間のヒンジ領域、DNA結合表面、特有の表面ポケット、およびDam酵素活性に特異的に影響を及ぼすことが可能なその他の部位が含まれる。
【0019】
[0019] 本発明の方法には、酵素の三次元構造をベースにして、作製された構造と酵素構造との間の相互作用エネルギー値を計算することによって阻害剤候補構造を作製するコンピューター支援薬剤設計が含まれる。この酵素は、Dam酵素であってもよく、Dam酵素構造は、病原性細菌を含めた任意の生物から得ることができる。Dam酵素構造は、大腸菌Damから得ることができる。
【0020】
[0020] これらの方法のいずれかによって同定された化合物についてはさらに、生化学アッセイ(例えば、非細胞ベース)、細胞ベース、および動物全体の研究を含む、公知のin vitroおよび/またはin vivoアッセイを用いて、Dam酵素活性を修飾する能力を評価することができる。
【0021】
[0021] 細菌におけるDNAメチル化は、本発明によって同定された化合物を提供すること、および細菌と、細菌におけるDNAメチル化を阻害するのに十分な量の当該化合物と、を接触させることによって阻害することができる。一実施形態では、細菌はメチラーゼ、好ましくはDamメチラーゼおよび/または細胞周期調節DNAアデニンメチラーゼを有する。細菌は、メチラーゼを有してもよく、具体的な実施形態では、メチラーゼはGATCまたはGANTC部位においてアデニンメチル化を行う。
【0022】
[0022] 化合物は、スクリーニング法によって同定され、生化学アッセイおよび全細胞アッセイによってDNAメチル化を阻害することが確認された。これらの化合物は、生物を化合物と接触させることによって、生物におけるDamによるDNAメチル化を阻害するために使用することができる。一実施形態では、この化合物はDam−iZ1であり、Dam−iZ1は下式の構造を有する。
【0023】
【化1】

【0024】
[0023] 式中、Aは、非芳香族5もしくは6員環であり、Aの環構成原子の1個または複数はC、N、OまたはSであり、Aは場合によって置換されていてよい。Aの好ましい構造の例は、
【化2】


(Yに対する結合位置をで示した)
である。
【0025】
〜Xは各々独立して、H、ハライド、OH、OCH、アルキルおよびアルキルハライドから成る群より選択される。YはNHまたはCHである。YはNまたはCHである。Yに対する波線の2重結合は、この結合が1重または2重であることを示す。具体的な実施形態では、Yは所定の部位でAに結合する。
【0026】
[0024] 化合物Dam−iZ1は下記NCI659390であってもよい。
【化3】

【0027】
[0025] 化合物Dam−iZ1は下記NCI658343であってもよい。
【化4】

【0028】
[0026] 化合物Dam−iZ1は下記NCI657589であってもよい。
【化5】

【0029】
[0027] 「アリール」という用語は、単環(例えば、フェニル)、1個または複数の環(例えば、ビフェニル)または複数の縮合(融合)環を有し、少なくとも1個の環が芳香族(例えば、ナフチル、ジヒドロフェナントレニル、フルオレニルまたはアントリル)である炭素原子6〜22個の不飽和芳香族炭素環基を有する基のことである。アリールはフェニル、ナフチルなどを含む。アリール基は、不飽和芳香族環に加えて、アルキル、アルケニルまたはアルキニル部分を含有してよい。「アルカリール」という用語は、アルキル部分を含有するアリール基、すなわち、−アルキレン−アリールおよび置換アルキレン−アリールのことである。このようなアルカリール基は、ベンジル、フェネチルなどによって例示される。
【0030】
[0028] アルキル、アルケニル、アルキニルおよびアリール基は、本明細書で説明したように、場合によって置換され、基の中の炭素原子数および基の不飽和の程度に応じて1〜8個の非水素置換基を有していてもよい。
【0031】
[0029] 「ヘテロアリール」という用語は、(複数の環があるならば)少なくとも1個の環内に酸素、窒素および硫黄から選択された1〜4個のヘテロ原子を有する炭素原子2〜22個の芳香族基のことである。ヘテロアリール基は、場合によって置換されていてよい。
【0032】
[0030] 1個または複数の置換基を有する前記基のいずれかに関して、このような基は立体的に実現不可能な、および/または合成的に実行不可能な置換または置換パターンを含まないことを理解されたい。本発明の化合物は、開示した化合物の置換から生じる新規立体化学異性体全てを含む。
【0033】
[0031] 化合物Dam−iZ1、NCI−DTP Diversity Set化合物番号659390、658343および657589のいずれか、ならびに本発明の方法によって同定された任意の化合物は、生物と、任意の1種または複数のこれらの化合物と、を接触させることによって、生物におけるDamによるDNAメチル化を阻害するために使用することができる。一実施形態では、この生物は、大腸菌を含む細菌である。一実施形態では、DNAメチル化は、Damメチラーゼを阻害することによって阻害される。一実施形態では、Damを阻害するための化合物濃度は約10〜400μMである。一実施形態では、Damを阻害するための濃度は約20〜200μMである。一実施形態では、Damを阻害するための濃度は約20μMである。
【0034】
[0032] 本発明は、病原性細菌の感染の疑いがある宿主を治療する方法であって、Dam−iZ1並びにNCI−DTP Diversity Set化合物番号659390、658343および657589、から成る群より選択される化合物を含む、本発明の方法のいずれかによって同定された化合物を宿主に投与することを含む方法を包含する。一実施形態では、病原性細菌の感染の疑いがある宿主の治療方法は、細菌のビルレンスパラメーターを減少させる。本明細書では、ビルレンスパラメーターは、例えば、複製、宿主への付着、コロニー形成、運動性、遺伝子発現、代謝、熱ショック応答、およびビルレンスに関連するその他の測定可能なパラメーターを意味するために広く使用される。
【0035】
[0033] 一実施形態では、本発明は、病原性細菌の感染の疑いがある宿主を治療する方法であって、メチラーゼを阻害することによって病原性を改変することが可能な化合物を宿主に投与することを含む方法を提供する。一実施形態では、このメチラーゼはDamメチラーゼである。一実施形態では、病原性の改変がビルレンスの改変を含む。一実施形態では、ビルレンスの改変は、細菌の細胞分裂に実質的な影響を与えない。
【0036】
[0034] 一実施形態では、本発明は大腸菌(Escherichia coli)Damの結晶を提供する。一実施形態では、本発明は大腸菌Dam複合体の結晶を提供する。一実施形態では、この複合体は大腸菌Damおよびコグネイト(cognate)DNAを含む。一実施形態では、この複合体は大腸菌Damおよび非コグネイト(noncognate)DNAを含む。一実施形態では、この複合体はさらに補因子または補因子アナログを含む。一実施形態では、この補因子または補因子アナログは、AdoMet、AdoHcyおよびシネフンギンから成る群より選択される。具体的な実施形態では、この結晶は図37の一組の原子構造座標を有する。一実施形態では、本発明は、本明細書に記載の1種または複数の結晶のデータ表現を提供する。
【発明の詳細な説明】
【0037】
[0072] 本発明は、以下の非制限的実施例によってさらに理解することができる。本明細書で引用した文献は全て、本明細書の開示と矛盾しない限り、参照として本明細書に援用される。本明細書の説明は多くの限定を含むが、これらは本発明の範囲を制限するものではなく、単に本発明の現在好ましい実施形態のいくつかの例を提供するものである。例えば、このような本発明の範囲は、例示した実施例によってではなく、添付の特許請求の範囲およびその同等物によって規定される。一般的に、本明細書で使用した用語および表現は、当分野で認識されている意味を有し、このような意味は、標準的参考書、雑誌文献および当業者に公知の状況を参考にして見いだすことができる。以下の定義は、本発明の状況での具体的な用法を明らかにするために挙げられる。
【0038】
[0073] 略語のリスト:A/E(attaching and effacing)(付着性および微絨毛消滅性)、ATCC(アメリカ培養細胞系統保存機関)、Dam(DNA−アデニンMTアーゼ)、AdoHcy(S−アデノシル−ホモシステイン)、AdoMet(S−アデノシル−L−メチオニン)、EcoDam(大腸菌Dam)、EHEC(腸管出血性大腸菌O157:H7)、EPEC(腸管病原性大腸菌)、HTA(ハイスループットアッセイ)、ISS(インシリコスクリーニング)、MTアーゼ(メチルトランスフェラーゼ)、NCI(米国国立癌研究所)、PDB(タンパク質データバンク)。
【0039】
[0074] 一般的な結晶化および構造決定技術。Dam酵素学およびアッセイの発展を調べた。例えば、Roth & Jeltsh(2000)、Urig他、(2002)、Humeny他(2003)、Liebert他、(2004)、Horton他(2004)参照。タンパク質精製、結晶化および構造決定の標準的方法を使用して、多くのAdoMet−依存性MTアーゼおよび関連するタンパク質、HhaI DNA MTアーゼ、HhaI MTアーゼ−DNA複合体、PvuIIエンドヌクレアーゼ−DNA複合体、PvuII DNA MTアーゼ、タンパク質アルギニンMTアーゼPRMT3およびPRMT1、小分子ヒスタミンMTアーゼおよび阻害剤との複合体、Dnmt3b PWWPドメイン、MBD4グリコシラーゼドメイン、ヒストンH3 Lys9 MTアーゼ DIM−5および基質H3ペプチドとの複合体、T4ファージDamおよびDNAとの特異的および非特異的複合体、タンパク質グルタミン−N5 MTアーゼHemK、ヌクレオソーム依存性ヒストンH3リシン79MTアーゼDot1pならびにHinP1Iエンドヌクレアーゼの新規構造を解析した。
【0040】
[0075] 一旦酵素を精製し、約10mg/mLまで濃縮したら、研究室で現在利用できる3種のスクリーニング(300条件)を使用して結晶化条件を検索する。さらにスクリーニングが必要ならば、様々な沈殿剤、緩衝液などを含む、数千の条件の市販のその他のスクリーニングを使用することができる。結晶化を3種の方法で並行してスクリーニングする。第1に、アポ酵素のために、第2に、MTアーゼ−AdoMetまたはAdoHcy複合体のような2要素複合体のために、補因子を精製の最終カラム(通常ゲル濾過カラム)に、また、濃縮ステップで添加し、第3に、MTアーゼ−AdoHcy−DNAのような3要素複合体のために、タンパク質/DNA比ならびにDNAの長さおよび配列を変化させる。さらに、ヘミメチル化されたGATC(鎖の1本のN6−メチル−Ade)は、DNA複製直後に存在する天然の基質なので、結晶化に使用する。
【0041】
[0076] X線回折品質の結晶が得られたとき、EcoDamおよびその他のDam分子の構造を解析するために3種の方法、(1)分子置換法、(2)セレノ−Metの多波長または1波長異常分散法(MADまたはSAD)、および(3)重原子誘導体の多重同形置換法(MIR)を使用する。
【0042】
[0077] 分子置換法: EcoDam構造決定のために(図13参照)、回転機能検索および翻訳機能検索の開始モデルとしてT4Dam座標を使用する。大腸菌およびT4Damタンパク質は、配列同一性が25%で、相同性が46%である。非保存性側鎖をアラニンに置換し、いくつかの小さなループ領域を除去することによってT4Damモデルを変更した。このモデルを3個の厳密な群(触媒ドメイン、DNA結合ドメインおよびDNA自体)に分類し、CNSプログラムを用いて、分子置換検索を完全に遂行する。(Brunger他、1998)
【0043】
[0078] 結晶が利用可能な場合は、サルモネラおよびH.インフルエンザのDam構造を解析するために同様の方法を使用する。さらに、分子置換解析はまた、MADまたはMIRデータにおいて異常分散差フーリエマップによりSeまたは水銀部位の位置を突き止めるために使用することができる(下記)。分子置換および実験相を組み合わせると、電子密度地図の品質を非常に高めることができ、構造の解釈に適するようになる。HemKの構造を解析するために同様の方法を使用した(Yang他、2004)。
【0044】
[0079] セレノ−Metの多波長または単波長異常分散法(MADまたはSAD): EcoDamは3個のメチオニンを有する。Se−Metを供給する培地中でタンパク質を過剰発現することによって、タンパク質中のメチオニンをSe−Metに置換した。予備的なX線データは、Se吸収端近辺の2波長で、分解能約2.3ÅのAPS SERCATビームラインによって収集した。しかし、分子置換法によって構造を解析していた(前記)ので、これらのデータは必要なかった。
【0045】
[0080] 重原子誘導体の多重同形置換法(MIR): 必要に応じて、重原子を含有する様々な試薬に結晶を浸漬することによって、同形重原子誘導体が得られる。最初に、水銀化合物に注目する。水銀原子は、システインの硫黄原子と反応し、EcoDamは5個のシステイン残基を有する。最初のT4Dam構造は、水銀誘導体によって解析された(Yang他、2003)。
【0046】
[0081] 病原性細菌の様々なDam分子のいずれか1つを結晶化して、X線結晶学によって高分解能三次元構造を得ることができる。例えば、Dam分子は、サルモネラ・エンテリカ・血清型チフィムリウム、エルシニア・ペスティスおよびクレブシエラ・ニューモニエから得ることができる。3種の酵素(それぞれ278、271および275残基)は、大きさが大腸菌Dam(278残基)と同じである。Kpn Damは、大腸菌で発現し、精製された。さらに、フレクスナー赤痢菌(Shigella flexnerii)およびサルモネラ・シュードツベルクローシスのdam遺伝子はクローニングされ、そのタンパク質は大腸菌で発現し、触媒活性を有していた(データは示さず)。精製されたDamタンパク質は、当分野で公知の結晶学的方法により結晶構造を得るために使用される。
【0047】
[0082] KpnゲノムDNAは、ATCC(Manassas、VA)から入手した。Dam遺伝子は、PCRを用いてゲノムDNAから得た(Dam配列は公に使用できるデータベースから入手できる。例えば、EcoDamおよびT4Damのアミノ酸配列については図36参照)。pETプラスミドを使用して、GST−KpnDam(GSTの後にトロンビン部位を有する。)および(His)6タグKpnDamの両方を発現させた。いずれも大腸菌BL21(DE3)株で発現した。精製のために、文献(Kossyk他、1995、Yang他、2003)に記載のT4Damプロトコールを実施することができる。さらに、大腸菌Damは、pET系で発現する。サルモネラおよびエルシニアDam発現構造物が使用可能である(Michael Mahan博士)。その他のDam分子は、ATCCを含む公に使用できる供給源から対応する細菌ゲノムを入手することによって同様に得ることができ、例えばPCRを用いて、ゲノムからDam遺伝子を抽出することができる。
【実施例】
【0048】
[0083]〔実施例1:T4DAMおよびT4DAM−DNA複合体のX線結晶学〕
[0084] T4Dam構造は、X線結晶学によって解析した。いずれもT4Damの結晶学的方法、データおよび構造解析の参考として援用したYang他、「Structure of the bacteriophage T4 DNA adenine methyltransferase Nature Struct.Biol.10:849〜55(2003)およびHorton他、「Transition from nonspecific to specific DNA interactions along the substrate recognition pathway of Dam methyltransferase」Cell 121:349〜61(2005)を参照のこと。T4Damの2次および3次構造の座標は、タンパク質データバンクに登録されている(PDBおよびPDB ID番号と共に登録された構造の概要については表8を参照のこと)。
【0049】
[0085] バクテリオファージT4Damは2個のドメイン、すなわち(i)AdoHcyの結合部位を有する7本鎖触媒ドメイン、および(ii)5本のヘリックスの束およびGATC関連MTアーゼオルソログのファミリー(図2C)に保存されているβヘアピンループ(図2A〜B)から成るDNA結合ドメイン、を含有する。
【0050】
[0086] 非特異的T4Dam−DNA−AdoHcy複合体の構造:AdoHcyおよび合成12塩基対DNA(ACAGGATCCTGT)(T4Damの最小基質)の両方を有するT4Damの3要素複合体を結晶化した(Hattman and Malygin、2004)。結晶において、DNA2本鎖は逆向きに重なり、疑似連続DNA2本鎖を形成する。図3A。驚くべきことに、配列特異的T4DamはGATC部位には結合しない。図3A〜C。むしろ、それは、合成2本鎖当たり2個のDam単量体を含有するDNAに、非特異的な「緩い」様式で結合する。図3A〜B。
【0051】
[0087] T4DamとDNAとの非特異的結合については、T4Damは複数のGATC部位を有するDNAを連続的な方法でメチル化する、すなわち、結合したDam単量体当たり複数のメチル基を転移することができる、と説明することができる。三次元結晶構造において、T4Dam−AdoHcy複合体は、メチル転移後の段階に対応する様式で2本鎖上に存在する。すなわち、GATC標的部位とは接触せず、むしろホスホジエステル主鎖と接触し、拡散、および/またはAdoHcyのAdoMetとの交換を行う準備を整えている。この3次構造は、DNAに沿って直線的に拡散する準備が整った酵素の希なスナップ写真である。
【0052】
[0088] 半特異的複合体の構造:AdeおよびThyが結合部で塩基対になるように、平滑末端GATC含有12塩基DNAに加えて、1本の鎖(ACCATGATCTGAC)に5’オーバーハングAdeを有し、他方の鎖(TGTCAGATCATGG)に5’−オーバーハングThyを有する13塩基特異的DNAを使用した。2個のDNA分子のらせん軸が互いに約12Åずれていること以外は、非特異的結合と同様に、2個のDam分子は1個のDNA2本鎖に結合する(図4A)。T4DamはDNA結合部に結合し、3位のG:C塩基対でR116を介してGuaと水素結合相互作用を形成する(図4B〜C)。驚くべきことに、次の2位のG:C対および1位のオーバーハングAdeは(DNAの溶解を通じて)開かれている(図4B)。隣のDNA分子のオーバーハングThyが接近し、らせんからはみ出て、G:C対のCytと重なり、他方、F111のフェニル環は別の側に重なる(図4B)。Thyのメチル基は、P126とのファンデルワールス力で接触し、他方、O4原子はM114と接触する(図4C)。相互作用に関与する残基(R116、F111、P126およびM114)は、GATC MTアーゼのファミリーで高度に保存されたアミノ酸である(図2C参照)。特定の理論に結びつけることは望まないが、この分子は認識配列の一部を結合部の配列に模倣させていると考えられる。
【0053】
[0089] 半特異的接触および特異的接触の両方を含む3要素複合体の構造:12塩基および13塩基に加えて、認識配列の一部を模倣している末端配列を有する15塩基オリゴ(TCACAGGATCCTGTG)を構築した。さらに、DNAに対するタンパク質の割合も減少させた。以下のことが観察された。(1)隣接したDNA分子の間の結合部はいずれもDam分子(図5Aの分子B、C、DおよびE)によって占有される。2個のDNA分子の重なりはF111を介して媒介され、F111は、2個の隣接するDNA分子の5’Thy塩基と重なる(図5B)。(2)より特異的な相互作用はオリゴヌクレオチドの結合部に認められ、R116、P126およびM114は半分の部位と相互作用し、S112およびR130はもう半分の部位と相互作用する(図5C)。(3)DNAに対するタンパク質の比が減少するので、分子1個のみ(図5Aの分子F)がオリゴの中央の特異的GATC部位に結合し、2本鎖DNAからフリッピングした標的Adeと特異的に相互作用する(示さず)。表2および3に、様々なT4Dam−DNA−AdoHcy結晶の特性の概要を示す。
【0054】
[0090] これらの所見は、Dam酵素が、損傷を受けたDNAまたは修飾された認識部位を模倣する2個のDNA分子の結合部に優先的に結合することを示している。このことは驚くべきことであるが、生化学データと合致しており、DNA MTアーゼの結合特異性は、標的ヌクレオチドに隣接するヌクレオチドによって決定され、DNA MTアーゼが、標的塩基にミスマッチを含有する基質により堅く結合することを示唆している(Cheng and Roberts、2001)。言い換えると、DNA MTアーゼは、結合特異性については、フリッピング可能な標的塩基に左右されない。Damについては、5’G:C塩基対が回文構造の両端に存在するならば、1本の鎖に認識部位の半分があるだけで安定な複合体形成に十分であると考えられる(Hattman and Malygin、2004)。これは、15塩基2本鎖DNAによって形成された結合部について観察されたことである。
【0055】
[0091] 全部位認識には、タンパク質側鎖挿入が関与する。1個のT4Dam(分子E)のみがGATC部位(オレンジ色のDNA)を占有する(図6A)。βヘアピンは、3/4部位に認められるのとほとんど同様に、主溝のDNA塩基と特異的に相互作用する。F111およびS122はいずれも、主溝側からDNAにその側鎖を挿入する(図6A)。標的Adeは2本鎖からフリッピングするが、その電子密度は活性部位ではあまり規則正しくない(以下の活性部位相互作用の説明を参照)。S112の側鎖は、フリッピングしたAdeによって残された空間を占有し、3/4部位複合体に見られるのと同様に、「オーファン」Thyと2個の水素結合を形成する。このS112相互作用は、オーファンThyの極性端に対する水素結合を回復し、隣接する塩基対に対する重なりと置換する(図6A)。Thy−S112相互作用は、DNA−シトシンMTアーゼ HhaIのGua−Q237(Klimasauskas他、1994)、ヒト3−メチルアデニンDNAグリコシラーゼのThy−Y162(Lau他、1998)およびヒト8−オキソグアニンDNAグリコシラーゼのCyt−N149(Bruner他、2000)のようなその他のタンパク質側鎖−オーファン塩基相互作用と同様である。
【0056】
[0092] F111のフェニル環は、DNAらせんに挿入され、隣接するA:T塩基対とThy:S112「塩基−アミノ酸」対との間に重なり、らせん上昇部において局部的な重なりを生じる(図6A)。主溝側からのDNA塩基対間へのアミノ酸の挿入は、いくつかのタンパク質−DNA複合体に関して記載されている。M.HaeIII−DNA複合体では、Ile221が重なった塩基の間に入り、オーファンGuaが隣接するCytと対合するようにDNAにギャップを開く(Reinisch他、1995)。非常に短いパッチ修復エンドヌクレアーゼ−DNA複合体では、3個の芳香族残基がTGミスマッチの隣のDNAに挿入される(Tsutakawa他、1999)。HincII制限エンドヌクレアーゼ−DNA複合体では、Gln側鎖が認識部位のいずれかの側の2個の塩基対の間に挿入される(Horton他、2002)。さらに、F111−M75残基対がA:T塩基対と塩基−アミノ酸対Cyt:R109との間に重なる、修復酵素ホルムアミド−ピリミジン−DNAグリコシラーゼによる挿入は、DNAの副溝側から観察された(Serre他、2002)。
【0057】
[0093] 非標準的部位との相互作用。中央のAT重なりへの分子EによるF111の挿入は、オレンジ色で示されたDNA分子の1塩基対延長を効果的に引き起こす(図7AおよびB)。この延長は、DNA分子の1端に伝わり、隣接した2本鎖(赤紫)の2個の不規則なヌクレオチドを生じる。赤紫DNAの5’−オーバーハングThyが突出して、外見上不規則になり、次の塩基対のCytがDam分子DのF111と重なることになる。一部にはN4アミノ窒素(NH2)と主鎖アミド窒素(NH)との間の反発力によって、S112の側鎖は、側鎖ヒドロキシル酸素およびCytの環外アミノ窒素N4とでCyt塩基にファンデルワールス力の距離まで接近する(図7C)。S112とCytとの間の相互作用は、相補的Guaを置換して、これを不規則にするのに十分である。R130の側鎖は、隣のA:T塩基対を飛び越し、近隣の下流G:C塩基対のGuaと相互作用する(図7C)。GATC(または改変TATC)部位の下流のGuaの存在は触媒性を支持しないので(データは示さず)、この複合体は、DNAメチル化を引き起こさない、DNA中の隔離されたTCジヌクレオチド部位とT4Damとの相互作用の例証である。
【0058】
[0094] シネフンギンの存在下でのフリッピングアデニンの安定化。今まで、メチル化反応生成物AdoHcyを使用して3要素複合体を調製してきた。各5量体のタンパク質−AdoHcy相互作用は、T4Dam−AdoHcy2要素複合体で説明したものとほとんど同一である(Yang他、2003)。Dam分子Eとオレンジ色のDNAとの全部位認識複合体において(図6A)、標的Adeはフリッピングするが、活性部位では完全には規則正しくない。生成物AdoHcyは、次のメチル転移の前にAdoMetと交換するために、標的部位から遊離するように酵素に合図を送ることができると推測した。したがって、活性部位ポケットのフリッピングしたAdeの安定な結合には、EcoDamで示唆されたように(Liebert他、2004)、おそらくAdoMetが必要であろう。したがって、アミノ基上で形式的な正電荷を帯びていることから、AdoMetアナログシネフンギン(アデノシルオルニチン)を、新たな3要素複合体を調製するために使用する。
【0059】
[0095] 新たな結晶は、2個のT4Dam分子を含有し(示さず)、1個は図5BのDamC分子と同様に2個のDNA2本鎖の結合部に結合し、他方は図6AのDamE分子と同様に1個の2本鎖の中央の特異的GATC部位に結合する。フリッピングしたAdeは、保存された触媒性D171−P−P−Y174モチーフ(Malone他、1995)、Y181、K11およびシネフンギンに属するアミノ酸によって(水素結合、πスタッキングおよび疎水性相互作用を介して)囲まれている(図6C)。メチル化されるAdeN6−アミノ基は1対の水素結合を形成し、1個はD171の側鎖に、もう1個は2個のプロリン残基P172およびP173の間の主鎖カルボニル酸素に結合する。標的アミノ窒素は、シネフンギンアミノ基から3Å未満の距離だけ離れており、束縛されたAde塩基の平面から突出している。この構造配置は、Taq1 DNAアデニンMTアーゼで示唆されたように、標的窒素の孤立電子対が脱共役し、直線方向へのメチル基転移のための位置を取ることを示唆している(Goedecke他、2001)。シネフンギンのアミノ基は、Y181のヒドロキシルと水素結合を形成し、次にT8の主鎖カルボニルと相互作用する。フリッピングしたAdeの反対面は、Y174の芳香族環と向かい合ってπスタッキングする。
【0060】
[0096] EcoDam変異体の生化学分析。EcoDamは、T4Damとかなりの程度の配列類似性があるが(同一性25%)(Hattman他、1985)、病原性細菌のDam酵素とは非常に高い配列保存性を有する。例えば、大腸菌およびS.チフィムリウムDamタンパク質は、同一性が92%で(278残基のうち22残基のみが異なる)、配列にギャップがない。Damファミリーは生物学的に重要なので、T4Dam構造がこれらのオルソログの機能の理解に寄与するかどうかを調べた。このために、標的GATC部位とのT4Dam特異的相互作用に関与する残基に対応するEcoDamの残基をAlaに置換する効果を研究した(図8A)。これには、Y119(T4DamのF111)、N120(T4DamのS112)、L122(T4DamのM114)、R124(T4DamのR116)およびP134(T4DamのP126)が含まれる。これらの残基はいずれも、Damオルソログの中で高度に保存されている。さらに、残基R137、Y138およびK139はT4Dam Arg130の機能を引き継ぐことができるので、これらを変異させた(図8A)。
【0061】
[0097] R124AおよびY119A変異体は、Ala置換によって最も強く影響を受け、それらの触媒活性の減少は100倍を上回った(図8B、ならびに図5BのT4Dam R116およびF111参照)。N120A、N120SおよびL122Aは、わずかに影響を受けたのみであった。R124A変異体によるDNA結合の減少は、10倍であった(触媒活性減少の10分の1を占めるにすぎない)が、Y119A、P134A、P134GおよびK139Aによる結合の減少は2〜3倍であった(図8C)。その他の変異体(N120A、N120S、L122A、R137A、Y138AおよびK139A)は、野生型と比較してDNA結合に関してそれほど違いを示さなかった。
【0062】
[0098] DNA認識の過程をさらに調べるために、野生型および変異酵素によるDNAメチル化速度は、1個のヘミメチル化標的を含有する2本鎖を使用して測定した(下鎖のN6−メチル−Ade、図8Aの3番目の塩基対)。これによって、DNAの1本鎖のみがメチル化を受けることが確かめられた(すなわち、上鎖のAde、図8Aの2番目の塩基対)。これらの2本鎖は、標準的GATC部位、または標的配列の1番目、3番目または4番目いずれかの塩基対に1個の塩基置換を有する変異部位を含有し(図8A参照)、これらの変異部位を本明細書では「ニアコグネイト(near−cognate)」部位(全部で9個)と称する。このように、野生型酵素およびその変異体の特異性プロファイルが得られた(図9)。野生型EcoDamは、ニアコグネイト部位がコグネイト部位よりも100〜1000倍遅く改変されるので、非常に特異的な酵素である(図9A)。GATC配列の第1の位置は、以前の発見(Leibert他、2004)と合致して、第3および第4の塩基ほど正確には認識されない。T4DamのR130によるこの塩基への接触は、Damファミリーのその他の構成メンバーではあまりよく保存されておらず(例えば、EcoDamのYによる置換、図8A参照)、R130−Gua1接触は1/4部位複合体では形成されない(図4および図5の比較)ことは興味深い。第1の塩基対(R137A、Y138AおよびK139A)の認識に関与し得る残基で改変されたEcoDam変異体は、メチル化活性または特異性においてあまり強い変化を示さなかった(図12)。
【0063】
[0099] 第1の位置とは対照的に、GATCの第3および第4の塩基は、より正確に認識される。両方の位置で、トランジション(Thy3からCyt、またはCyt4からThy)はトンランスバージョンよりも害が少なく、保存的交換はより許容可能であることを示唆している。T4DamR116とGua4との間の接触(図5C)は、Dam MTアーゼ中で保存されている(例えば、図8A)。対応するEcoDamR124A変異体の特異性プロファイルを決定した(図9B)。T4Dam構造と合致して、GATGおよびGATT部位は、標準GATC部位よりも速くR124Aによってメチル化された。対照的に、これらの2個のニアコグネイト部位の野生型EcoDamメチル化は、GATCのメチル化よりも3桁遅かった。したがって、R124Aは、野生型EcoDamに対してGATC部位のDNAメチル化の速度が100倍減少しているが、GATGおよびGATT部位をGATCよりも2〜3倍速く、wt酵素修飾GATGまたはGATTよりも30〜40倍速くメチル化する。したがって、R124Aは、GATCの4番目の位置のC:G塩基対の差別的な必要性を失っている。この情報をより定量的に分析するために、全てのニアコグネイト部位における相対的なメチル化活性を統合することによって特異性因子を定義した(実験方法)。位置4(S4)を認識するための特異性因子を比較すると、R124A変異体では、4番目の位置で改変されたニアコグネイト部位のメチル化に対する相対的選択性が8000倍変化していることが明らかになった(図9F)。S4においてこのような強い変化を示した変異体は他になかった。さらに、R124A変異体は、塩基対特異的変化であるので、GATCの1番目および3番目の位置に対する特異性を維持(または増加さえ)していた(図9B)。
【0064】
[00100] GATCの第3の位置のT:A塩基対を認識する、T4Dam残基P126およびM114に関連した特異性の同様の塩基対特異的欠如を発見した(図8A)。標準GATC部位に加えてGACC部位を効果的に改変する天然に生じる変異ファージ酵素(T2DamhおよびT4Damh)(Brooks and Hattman、1978)は、P126S置換を含有する(Miner他、1989)。さらに、P126G、−Aまたは−C置換は、Damhの様に機能する(Miner他、1989)。これに関して、EcoDamP134AおよびP134G変異体がGATC部位で通常の触媒活性を有することはおそらく驚くべきことではない(図8B)。しかし、P134Aは、GAACおよびGACC基質のメチル化速度において著しい増加を示し、GACCは標準GATCとほとんど同じ速度で改変された(図9C)。選択性のこの変化は、野生型EcoDamと比較すると、第3の塩基における100倍を上回る配列識別能力の低下に対応する。P134の側鎖をグリシンにさらに短くすると、GAACおよびGACCの間の区別がなくなり、GATCの約10倍遅い速度でメチル化された(図9D)。第3塩基対のP134AおよびP134G認識の変化は、図9Gに示されており、ここでは第3の塩基(S3)を認識するための特異性因子を全変異体について比較している。この比は、野生型EcoDamと比較して1200〜1500倍に変化している。しかし、これらの変化によって、第3の位置での特異性の単純な低下は引き起こされなかった。GATC部位はまだGA(A/C)Cに対して約10倍選択性があり、他方、GAGC部位は少なくとも1000倍遅くメチル化される。
【0065】
[00101] EcoDamのL122A変異体(T4DamのM114、図5BおよびC)の活性は、あまり減少していない(図8B)。しかし、興味深いことに、ニアコグネイト部位のいずれについてもメチル化活性は検出されなかった(図9E)。このことは、L122A変異体の特異性が著しく高いことを示している(図9H)。これは、L122の側鎖が完全なタンパク質−DNA接触の安定化に必要であると考えることによって理論的に説明可能である。L122A変化単独では通常のGATC基質の触媒活性をあまり減少させないが、L122Aを認識部の塩基対のいずれかの変化と組み合わせるとタンパク質−DNA接触を相乗的に妨害することができ、これによって活性の完全な欠如を説明することができた。
【0066】
[00102] 塩基特異的に接触させる残基に加えて、DNAに挿入する芳香族残基(EcoDamのY119、T4DamのF111、図6A)、およびオーファンThyに接触する近傍の親水性残基(EcoDamのN120、T4DamのS112、図6A)について研究した。図8Bに示したように、Y119Aは2番目に最も影響を受ける変異体であった。これは、DNAへの芳香族環の挿入は酵素触媒の重要なステップであり、塩基フリッピングの開始または安定化におそらく関与することを示唆している。対照的に、特異的T4Dam−DNA複合体の構造は塩基フリッピングにおけるこのアミノ酸の重要な役割を示唆しているが、N120の側鎖(N120A)を除去してもメチル化速度にはほんの少ししか影響を及ぼさなかった。この発見は、塩基フリッピングは速く、EcoDamおよびその他のDNA MTアーゼの触媒を制限しないと考えられる事実と合致する(Allan他、1999、Beck and Jeltsch、2002およびLiebert他、2004)。
【0067】
[00103] タンパク質によるDNA認識は、いかなる生物においても遺伝子の特異的発現に不可欠である。タンパク質が主溝での接触によってDNA配列を認識するという原則は数十年前から知られているが(Seeman他、1976)、標的DNA配列からのアミノ酸モチーフの推定を可能にする一般的基準はない。注目すべき例外はC2H2型亜鉛フィンガーであり、このタンパク質ファミリーのDNA認識基準を規定可能な程度に十分にDNA認識過程が理解されている(Pado他、2001)。したがって、DNAと相互作用する酵素だけでなく、非触媒性タンパク質についても、合理的な設計はまだ初期の段階にある。
【0068】
[00104] 本明細書では、基質認識経路に沿った特有の6種のT4Dam−DNA相互作用を説明する(図10)。驚くべきことに、タンパク質およびDNA成分の両方は、結合時に受ける全体的な立体変化が非常に少ない。非特異的、半特異的および特異的複合体のタンパク質構造は、2要素T4Dam−AdoHcy複合体(PDBコード1Q0S)の構造との標準偏差が0.4〜0.8Å以内で挿入され得る。F111挿入、および標的ヌクレオシドのDNAらせんから特異的複合体の酵素触媒ポケットの中へのフリッピングによって引き起こされる1塩基対延長以外は、DNA成分は主にB型である。しかし、DNAらせん軸に対するT4Damの3つの顕著な配向が認められた。ヘアピンを形成するβ鎖に平行に軸が規定されるβヘアピンループは、非特異的複合体中においてDNA軸に対してほとんど垂直(約80°)に位置し(図10A)、R130は1リン酸接触を形成する。非特異的相互作用はまたDNA副溝に生じ(図10B)、このタンパク質はDNAに対して約45°傾いており、ヘアピンループの第2のArg(R116)はリン酸相互作用の1つを形成する。塩基との直接相互作用はDNA主溝にのみ生じ(図10C〜F)、βヘアピンおよびDNAの軸間の角度は1/2部位複合体では約30°であり、3/4部位および全部位複合体では約25°である。これらの結果は、T4DamがDNAに沿って移動し、DNAに対して剛体としてあちこちで回転することを示唆している。
【0069】
[00105] 興味深いことに、特異的複合体(またはR116−Gua4相互作用が関与する任意の複合体、図10C〜F)においてGua4の5’の第1および第2のリン酸と水素結合するリン酸相互作用残基R95およびN118は、非特異的複合体においてはどんなDNA相互作用にも関与しない(図10A〜B)。2個の異なる残基対(Q12およびS13、ならびにR130およびN133)は、非特異的複合体においてGATC回文構造の各Guaに対応する2個のリン酸5’と相互作用する(図4B参照)。対照的に、2個のArg残基(R130およびR116)は、非特異的複合体におけるDNAリン酸との純粋に静電的な相互作用(図10A〜B)から、特異的または半特異的複合体の塩基対との非常に特異的な結合様式(図10C〜F)へ、役割を変えることができる。DNAとの相互作用の同様の変化は、大腸菌lac抑制因子の残基R22で観察された(Kalodimos他、2004)。この変化は、T4Damを効果的に再配向させ、それによってフリッピングした標的塩基を収容するように酵素の活性部位ポケットを配置させる。触媒後、酵素は標的部位から離れ、垂直方向に逆回転し、活性部位を溶媒に露出させ、AdoHcyとAdoMetとの交換を可能にする。この機構によって、塩基フリッピングおよびメチル転移がコグネイトGATC部位との複合体で特異的に生じ、DNAから分離することなく各回転後にAdoHcy/AdoMet交換が起こることになる。
【0070】
[00106] これらのデータは、DNAに沿ってT4Damが1方向に滑るように進む間に特異的接触が一時的な順番で形成されることを示唆している。GATC部位の4番目の塩基対に対するR116の接触は、1/4および3/4部位認識複合体において認められる。次に、第3の塩基対に対してP126およびM114の接触が形成される。これらの残基はいずれも、DamMTアーゼファミリーの中で厳密に保存されている。T4Damに特異的なGua1に対するR130の接触がその後形成される。この結果は、M.EcoRV変異体での迅速な反応速度論的実験から引き出された同様の結論と合致する(Beck and Jeltsch、2002)。この酵素では、酵素ファミリーで保存されているアミノ酸の置換(例えば、N136A)は、初期段階での特異的複合体形成を妨害し、他方、EcoRVに特有のアミノ酸の置換(例えば、R145A)は、後期段階での複合体形成を妨害した。この発見は、分子進化中のタンパク質および酵素のDNA特異性の変化の一般的経路を示すことを可能にする。ヒトDNA修復タンパク質O6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(AGT)に関する最近の研究によって、DNAの同一領域に対する複数のAGT分子の動員が、方向的偏りのプロセスによるDNA損傷の検索に役立ち得ることが示唆された(Daniels他、2004)。しかし、このような方向的偏りは、AGTによる1本鎖DNAの修復にのみ観察され、2本鎖DNAには観察されない。T4DamおよびEcoDamは2本鎖DNAに沿って移動するが(図5A)、AGTはポリマーを形成するので、この系をDamMTアーゼと直接比較することはできない。
【0071】
[00107] 2重変異サイクル(Fersht他、1992)で前述した接触の変更の生化学的効果を分析した。これには、それぞれのアミノ酸側鎖の短縮、およびニアコグネイト部位を有するDNA基質の使用が関与していた。認識部位の特異的1塩基対をもはや認識しないMTアーゼ変異体を予想通りに設計できることを発見した。EcoDamR124A変異体は、ニアコグネイト部位に著しく高い触媒活性を有し、特異性の変化を示した。さらに、EcoDamP134A変異体(T4Damh MTアーゼのアナログ)は、野生型EcoDam修飾標準部位とほとんど同様の速度でニアコグネイト部位をメチル化したが、これは特異性が広いことを示している(図9)。
【0072】
[00108] 図11は、(A)3/4部位、(B)非標準部位および(C)特異的全部位に対するタンパク質−DNA接触の概略を示す図である。図12は、メチル化速度に対する様々なEcoDam変異の効果の概略を示している。
【0073】
[00109] 2種類のタンパク質DNA接触、区別的接触および反区別的接触を確認した。区別的接触は、酵素触媒の遷移状態を安定化し、コグネイト部位との反応を特異的に促進する接触である。T4DamのR116(EcoDamのR124)とGua4との間の接触が、区別的接触の一例である。アミノ酸側鎖を除去することによって接触を分断すると、酵素変異体の活性の強い減少が引き起こされた。非区別的接触、例えば、T4DamのP126(EcoDamのP134)と認識部位の第3塩基対との間の接触は、間違ったDNA配列が結合すると立体的衝突が生じるので、コグネイト部位との反応をあまり促進せず、ニアコグネイト部位での活性を嫌う接触である。これは、ほとんどの非標準DNA配列のメチル化を強く妨害し、非標的部位のメチル化に対する効果的な対抗選択を引き起こす。これは、EcoDam変異体P134AおよびP134Gの高い活性および広い特異性によって例示される。
【0074】
[00110] 制限修飾MTアーゼM.DpnIIとの比較。T4DamおよびMTアーゼM.Dpnii(Tran他、1998)は、いずれも同じGATC配列を認識してメチル化し、非常に類似した構造を有するが、連続性はかなり異なっている。T4Damのような連続的酵素は基質をよりしっかりと取り囲む傾向があることが示唆された。Breyer and Matthews(2001)。しかし、M.DpnII−DNA複合体構造は現在分かっていないので、T4Damと直接構造比較することはできない。
【0075】
[00111] 今までに調べたT4Damの全構造における補因子(例えば、AdoHcy)結合部位は、閉じた酸性ポケット中にある。対照的に、開いた立体構造は、2要素M.DpnII−AdoMet構造に認められ、AdoMetはほとんど視覚的に認識することができ、ポケットは開いている(Tran他、1998)。この違いは、AdoHcyとAdoMetとの交換、T4Damメチル化過程全体における律速段階(Malygin他、2000)が、タンパク質の立体構造変化を必要とすることを示唆している。Trp185を含むT4Damのこの立体構造変化は、AdoHcyおよびAdoMetのいずれかに結合するT4Damから生じる固有のトリプトファン蛍光の消失によって示される(Tuzikov他、1997)。
【0076】
[00112] Damメチルトランスフェラーゼの基質認識経路に沿った、非特異的から特異的DNA相互作用への転換。DNAメチルトランスフェラーゼは、特異的ヌクレオチド配列内の標的塩基をメチル化する。部分的に、または完全に特異的なDNAおよびメチル供与体アナログとの3要素複合体のバクテリオファージT4DNA−アデニンメチルトランスフェラーゼ(T4Dam)について3種の構造が記載されている。関連する大腸菌DNAメチルトランスフェラーゼ(EcoDam)における置換、すなわちT4Damの標準GATC標的配列との特異的相互作用に関連した残基に対応する残基の変更、の効果を報告する。2種のタンパク質−DNA相互作用、すなわち、遷移状態を安定化し、コグネイト部位のメチル化を促進する区別的接触、およびコグネイト部位のメチル化にあまり影響を及ぼさず、非コグネイト部位での活性を嫌う非区別的接触を確認した。これらの構造は、非特異的作用から特異的相互作用への酵素−DNA相互作用の遷移を示しており、特異的接触の形成には一時的な順番があることを示唆している。
【0077】
[00113] 基質認識経路に沿った構造スナップ写真。T4Damの研究では(図10)、(複数のDam分子をDNAの1つに結合させるために)異なる長さのオリゴヌクレオチドを、(GATC標的配列の一部を表すために)DNA2本鎖の異なる末端配列を、(非特異的結合を減少させるために)DNAに対するタンパク質の異なる比を、また、(活性部位ポケットにおいてフリッピングした標的Adeを安定化させるために)メチル供与体アナログシネフンギンを使用することによって、基質認識経路に沿った多くのDNA相互作用のスナップ写真を撮影した。T4Damのこれらの多くのスナップ写真を撮影する機会は、GATC関連MTアーゼオルソログ全体ならびにその他の連続的DNA結合酵素を理解する際に重要である。しかし、T4DamおよびEcoDamの配列同一性は25%しかなく、同一性のない残基のほとんどが表面上に位置しているので、T4Damのリードに続いてEcoDam−DNA相互作用の多くの接触を同定することが必要である。EcoDamの構造研究を通じて、EcoDamに特有なタンパク質−DNA接触を詳述し、それらをインシリコスクリーニング(ISS)の標的とする。同様に、AdoMet結合ポケットの特異的部分およびEcoDam表面の特有のくぼみをISSのために使用する。
【0078】
[00114] ある種の立体的状態に選択的な阻害剤の設計が可能であるので、DNAとの複合体における酵素の様々な構造に関する情報、およびDNAメチル化過程の機構的理解は、ISSプロセスに、またそれ故、リード候補の同定に影響を及ぼす。非特異的および特異的DNA相互作用に関与するタンパク質表面領域の測定は、ISSにおけるこれらの領域を個々に標的化することを助ける。特異的DNA結合を妨害する阻害剤は、非特異的から特異的DNA相互作用への遷移を妨害するか、あるいは、DNAに沿って酵素が滑って移動することを妨害することができる。AdoMet交換を遮断する阻害剤は連続的に影響を与えることができる。
【0079】
[00115]〔実施例2:大腸菌DAMのX線結晶学〕
[00116] DNA複製によって生じたヘミメチル化GATC部位におけるアデニンメチル化は、遺伝子発現、ミスマッチ修復、および多くのグラム陰性菌におけるビルレンス、を含む細菌細胞機能を調節する。γ−プロテオバクテリアにおける広範な、かつ保存された酵素DNAアデニンメチルトランスフェラーゼ(Dam)は、ゲノムを移動しながらスキャンすることによってGATC部位をメチル化する。大腸菌Dam(EcoDam)の構造は解析されており、補因子アナログの存在下でコグネイトおよび非コグネイト部位と相互作用する。非コグネイト複合体は、多くのDam調節(Dam−regulated)プロモーターにおいてGATC部位のすぐ側にある潜在的DNA結合エレメント、TA(G/A)ACの同定を可能にした。生化学的研究に伴って、この構造は、特異的酵素−DNA相互作用形成の発生順を明らかにする。GATC部位の後半(3’)における非標的鎖との接触は認識経路の早期に確立され、まず第4塩基対に、次いで第3塩基対に接触する。その後、特異的タンパク質側鎖の、DNAらせん第2塩基対および第3塩基対の間への挿入は、標的Adeのフリッピングと同時に生じる。GATCの最初のGuaに対する接触は、その後確立される。フリッピングした標的Adeが他の塩基結合部位に結合することは、塩基フリッピング経路における後半中間体候補を示唆している。オーファンThyは、らせん内またはらせん外の位置を取ることができる。
【0080】
[00117] 補因子アナログの存在下でコグネイトまたは非コグネイトDNAに結合したEcoDamの2種の結晶構造を報告する。非コグネイトDNA複合体は、多くのDam調節プロモーターにおいてGATC部位のすぐ側にある潜在的DNA結合エレメント、TA(G/A)ACの同定を可能にしたが、このことは細菌DNAにおけるdamメチル化の調節機構を示唆している。並行した生化学的研究と考え合わせて、構造の予測が正しいことを証明し、DNA結合の部位特異的変異、標的配列特異性および塩基フリッピングの効果と合致させた。構造データおよび速度論的データを一緒にすることによって、酵素とDNAとの間の特異的接触の形成および塩基フリッピングの順番も決定した。フリッピングした標的Adeが他の塩基結合部位に結合することは、塩基フリッピング経路における後半中間体候補を示唆している。「オーファン」Thyは、らせん内またはらせん外の位置を取ることができる。
【0081】
[00118] Hisタグ−EcoDamは、HMS174(DE3)細胞で発現し、Ni2+アフィニティ、UnoS、およびS75セファロースサイズ分画カラムを用いて精製される。0.5リットル誘導培養によって精製Hisタグ−EcoDam 約7mgが生じる。最後の精製ステップおよび濃縮中に、補因子アナログAdoHcyまたはシネフンギンはタンパク質に約2:1のモル比で添加される。濃縮した2要素複合体を、タンパク質対DNA比約2:1でオリゴヌクレオチド2本鎖(New England Biolabs、Incによって合成された。)と混合し、結晶化前に少なくとも2時間氷上に静置した。結晶化のための最終タンパク質濃度は約15mg/mLである。AdoHcyを用いた懸垂液滴結晶化では、3要素複合体結晶が、KCl100mM、MgSO10mM、PEG400 5〜15%および緩衝液100mM(MESまたはHEPES)pH6.6〜7.4の低塩条件下で出現した(表4のコグネイト結晶型)。シネフンギンを用いた結晶化試験では、3要素複合体結晶は同様の低塩条件下で成長したが、様々な格子定数を生じた(表4の非コグネイト結晶型)。
【0082】
[00119] コグネイト3要素複合体の構造決定は、DpnM単量体構造(PDB 2DPM)(Tran他、1998)のタンパク質座標を使用したREPLACEプログラム(Tong and Rossmann、1997)による分子置換法によって実施した。DpnMモデルは、DpnMを有するEcoDamのペアワイズ配列アラインメントに基づいて改変され、DpnM中の異なるアミノ酸は、EcoDam中のアミノ酸に変更され、プログラムO(Jones他、1991)を使用して最良の回転異性体が視覚的に与えられ、いくつかのアミノ酸がループ領域から除去された。DNA分子は、種々の密度の異なる地図に手動で組み込まれた。精密化は、CNSプログラム(Brunger他、1998)により実施された。非コグネイト3要素複合体の構造は、検索モデルとして精密化されたコグネイト複合体構造からタンパク質単量体を使用して決定された。
【0083】
[00120] 部位特異的変異誘発は、文献(Jeltsch and Lanio、2002)に記載のように実施した。EcoDam野生型およびその変異体は、文献(Horton他、2005)に記載のように精製した。DNA結合は、BiaCoreX装置で表面プラズモン共鳴を使用して、文献(Horton他、2005)に記載のように分析した。オリゴヌクレオチド基質(精製型をThermo Electron、Dreieich、Germanyから購入)のメチル化は、文献(Horton他、2005)に記載のように実施した。メチル化実験は、[メチル−H]AdoMet(NEN)0.76μmを含有するHepes(pH7.5)50mM、NaCl 50mM、EDTA 1mM、DTT 0.5mM、BSA 0.2μg/μl中で、37℃で、文献(Roth and Jeltsch、2000)に記載のように行い、特異性分析のためにオリゴヌクレオチド基質0.5μMおよび酵素0.6μMを(図15B〜C)、また、ヘミメチル化DNAとの相互作用の研究のために酵素0.25μMを(図18)用いて、シングルターンオーバー条件下で実施した。20塩基オリゴヌクレオチド基質の配列は、MがN6−メチル−Adeである5’−GCGACAGTGATCGGCCTGTC−3’および5’−GACAGGCCGMTCACTGTCGC−3’の2本鎖であった。さらに、第1、第3また第4の位置のGATCとは1塩基対異なる、ニアコグネイト部位を備えた9種の基質を使用した。様々な変異体による標的配列の第1の位置の認識を比較するために、特異性因子は、その他の位置で改変された全てのニアコグネイト部位のメチル化速度と第1の位置で改変された基質のメチル化速度との比、すなわち、
[00121]
【数1】


と定義した。
【0084】
[00122] 平衡状態の塩基フリッピングを測定するために、2APを含有するオリゴヌクレオチドの蛍光変化を、EcoDamの非存在下および存在下で、AdoHcy 100μMを含有するHepes(pH7.5)50mM、NaCl 50mM中で酵素2μMおよびDNA 0.5μMを用いて、周囲温度で検出した(図17)。2AP蛍光は、F2810分光蛍光計(Hitachi)で、313nmで励起させた。放射スペクトルは、320〜500nmで記録した。放射および励起スリットは2.5nmに設定し、データは、緩衝液試料単独による背景シグナルを差し引いた後の蛍光ピークを積分することによって分析した。塩基フリッピングの反応速度論は、SF−3ストップトフロー装置(BioLogic、Claix、France)で、酵素およびDNAを同濃度(350nM)で使用して、周囲温度で、文献(Liebert他、2004)に記載のように実施したストップトフロー実験で検討した。Hepes(pH7.5)50mM、NaCl 50mMおよびAdoMet 10μMを含有する緩衝液中でこの酵素を予めインキュベートして、同緩衝液中でDNAと迅速に混合した(図17C)。2AP蛍光は313nmで励起させ、放射は340nmカットオフフィルターを使用して観察した。この実験の不感時間は3.1msであった。
【0085】
[00123] EcoDam、AdoHcy、および中央に位置するGATC標的部位を1個含有する12塩基オリゴデオキシヌクレオチド2本鎖を含有する3要素複合体を結晶化した(図13)。2本鎖の末端配列は、DNA2本鎖が逆向きに重なっているならば、2分子の結合部の配列がGATC標的部位を模倣するように選択された(図14A)。平滑末端オリゴヌクレオチドの設計は、T4Damが2個の2本鎖の結合部に選択的に結合するという所見(Horton他、2005)に基づいて行った。得られた結晶は、分解能1.89ÅまでX線回折した(表5のコグネイト結晶型)。
【0086】
[00124] 大腸菌Dam結晶を生成することは困難で、特にDNA無しでは困難である。うまく結晶化したT4Damから得られた知識を利用して、以下の特性、(1)結晶充填格子におけるDNA媒介タンパク質−タンパク質接触を最大化するのに最適な長さ、および(2)2個のDNA2本鎖が逆向きに重なる場合にGATC部位を模倣するオリゴヌクレオチドの2個の末端配列を有するオリゴヌクレオチドを設計した。したがって、12塩基DNA5’−TCTAGATCTAGA−3’を使用する。さらに、隣接するDNA2本鎖の間の結合部全てと、中央GATC部位とがDam分子によって占められるように、タンパク質対DNA比(>2:1)を変化させる。これらの特性によって、DNAおよびAdoHcyと複合体になったEcoDamをうまく結晶化させた。この結晶は、高い分解能でX線を回折した。特に、a=44.8Å、b=70.2Å、c=96.5Åの単位セルを有する斜方晶形態(空間群P2)は、PEG400 5〜15%、KCl 100mM、MgSO 10mMおよび緩衝液(MESまたはHEPES)100mM pH6.6〜7.4で成長した。分解能1.89Åまで回折したデータセットを表5に示す。この構造を、初期検索モデルとしてT4Damを使用して分子置換法によって解析し、このモデルをR因子0.186およびR−free0.215まで精密に調べた(図13)。
【0087】
[00125] 同じ12塩基対DNAによる異なる六方晶形結晶型(空間群P3(1、2)21)も、Li(SO 1.5M、MgSO 50mM、緩衝液(MESまたはHEPES)100mM pH6.8〜7.2の条件下で観察した(単位セルa=b=159.5Å、c=93.7Å)。
【0088】
[00126] EcoDamの全体構造:2個のEcoDamモノマー(分子AおよびB)および1個のDNA2本鎖は、結晶学的に対称な単位に含まれる。EcoDma分子Aは、主として1個のDNA2本鎖に結合し、他方、EcoDam分子Bは、2個のDNA2本鎖の間の結合部に結合する(図14B)。T4Dam(Yang他、2003)のようなEcoDamは、2個のドメイン、すなわち、AdoHcyの結合部位を有する7本鎖触媒ドメイン、および5個のヘリックス束およびGATC関連MTアーゼオルソログのファミリーに保存されている(残基118〜139、図14Bおよび14Cの赤)β−ヘアピンループから成るDNA結合ドメイン、を含有する(Yang他、2003)。2個のタンパク質分子は、Cα原子の241対と比較して非常に類似しており、標準偏差は0.07Åである。2個の領域、すなわち、活性部位D181−P−P−Y184モチーフ(β4鎖の後ろ)直後の残基188〜197、およびβ6とβ7鎖の間の残基247〜259、が両分子中で不規則になっている(図14Cおよび14D)。
【0089】
[00127] EcoDam−DNAリン酸相互作用:EcoDam分子は、1個のDNA2本鎖からにせよ(EcoDam分子A)、2個の12塩基DNA2本鎖の間の結合部からにせよ(EcoDam分子B)、10個の塩基対、フリッピングした標的Adeの5’側の4塩基対および3’側の5塩基対に及ぶ(図14E)。両鎖のAde残基に対する5’の5個のリン酸基は、1個のEcoDam分子と接触する。非標的鎖とのリン酸相互作用は、標的鎖との相互作用よりも重要であると考えられる。これは、リン酸基と直接相互作用をする側鎖の中には4個の保存された残基(R95、N126、N132およびR137)があり、いずれも、非標的鎖の4番目のGATC塩基対のGuaに隣接した3個の連続したリン酸基と相互作用する(図14E)。
【0090】
[00128] EcoDam−DNA塩基相互作用:メチル化標的、GATCの2番目の塩基対のAde(Ade2)は、DNAらせんからフリッピングする(図15A)。この部位の残りの塩基との特異的な相互作用は、DNAの主溝で起こる。T4Damのように、βヘアピンのアミノ酸残基(図15Bの赤)は塩基特異的相互作用の大部分を占めるが、N末端ループのK9も塩基接触を形成する(図14Cの青緑色)。2つの領域−βヘアピンおよびN末端ループ−は、主鎖アミド窒素およびK9のカルボニル酸素と、N115側鎖カルボニルおよびアミドとの、各々の水素結合を含む多くの分子内相互作用によって互いに固く結合している(示さず)。以下の項で、第1、第3および第4塩基対のEcoDam認識、ならびにタンパク質側鎖挿入およびDNA塩基フリッピングを含む標的塩基対との相互作用を説明する。
【0091】
[00129] N−末端K9による第1塩基対の認識:第1の塩基対の認識は、T4DamとEcoDamとの間の最も興味深い変動の1つである。T4Dam構造において、GATC部位の第1のGuaは、Gua1のN7およびO6原子に対する分岐した水素結合でR130と接触する(Horton他、2005)。R130はβヘアピンの末端に位置するが、Dam関連MTアーゼ中では保存されていない(図16A)。以前に、第1の塩基対の認識における役割について、EcoDam Y138(アラインメントに基づいて、T4DamのR130に直接対応する。図16A)、および隣接する2個の残基−R137およびK139−の関連を調べたが、これらの残基をAlaに変化させてもEcoDamのDNA認識に強い影響を及ぼさなかった(Horton他、2005)。EcoDam構造は、Gua1が、それぞれN7およびO6原子によって、2個の側鎖、K9およびY138と相互作用することを示している(図15C)。EcoDamK9に対応する位置で、T4Damは、β炭素がDNAの方を向くが、DNAと接触しないAlaを有する(図16A)。EcoDamK9A変異体では、触媒活性(野生型の約60%)(図16Bおよび16Cの水色の棒を比較する。)およびDNA結合(約70%)が少し減少している(データは示さず)。
【0092】
[00130] EcoDamによるDNA認識をさらに調べるために、標準2本鎖のDNAメチル化速度を変異2本鎖と比較した(図16B)。いずれも1個のヘミメチル化標的を含有し、DNAの1本鎖のみがメチル化を受けるようにしている。これらの変異2本鎖は、標的配列の1番目、3番目または4番目いずれかの塩基対に1個の塩基の置換を含有し、これらの変異部位を本明細書では「ニアコグネイト」部位(全部で9個)と称する(図16B)。結果は、GATCと比較して、第1の位置に塩基対置換を有するニアコグネイト基質のメチル化は、野生型EcoDamにより、100〜1000倍遅い速度でメチル化されたことを示している(図16B)。対照的に、K9A変異体は、第1の塩基対において特異性の欠如を示した。これは、GATCと比較して、ATCのメチル化速度は4倍しか減少せず、ATCおよびATCメチル化は10倍しか減少しなかったことによる(図16C)。さらに、K9A変異体は、3番目または4番目の塩基対に置換を有するニアコグネイト部位のいずれもメチル化することができず、これらの位置の区別の増強が示された。これはおそらく、触媒に必要ないくつかの他のタンパク質−DNA接触の(DNA配列の変異による)阻害によるものであろう。
【0093】
[00131] Gua1を認識するための特異性因子(S1)は、K9Aについて計算されており、第1の塩基対に改変を有するニアコグネイト基質全てのメチル化速度の平均を、その他のニアコグネイト基質全てのメチル化速度の平均で除することによって得られる。S1に基づくと、野生型EcoDamと比較して、K9Aでは第1塩基対の認識が少なくとも800倍減少していたが(図16D)、その他の変異体は全てほんの僅かな効果を示した。これらの結果は、(N7原子を介した)EcoDam K9−Gua1接触が、GATCにおける第1塩基対の認識に重要であることを示唆している。Y138A(Gua1のO6原子との相互作用が欠如している。図15C)およびN120A(Gua1とのπスタッキングを欠如している。図15B)はまた、特異性因子S1の小さな変化を示したが、これは、S1がGua1近傍の3個の側鎖全てを正確に識別したことを示唆している。
【0094】
[00132] 標的Adeと塩基フリッピングとの相互作用:合成オリゴデオキシヌクレオチド2本鎖へのヌクレオチドアナログ2−アミノプリン(2AP)の組み込みは、2AP蛍光が、2重らせんDNAの重なった環境から除去されると劇的に増加する(Ward他、1969)ことから、塩基フリッピングなどの立体構造変化を詳しく調べるために広く使用されている(Allan他、1998、Allan and Reich、1996、Holz他、1998、Stivers、1998)。標的Adeの位置に2APを有するヘミメチル化G−2AP−TC基質の蛍光変化は、EcoDamによる塩基フリッピングと関連していた(Liebert他、2004)。EcoDamによる塩基フリッピングには、(i)DNAらせんの外に標的塩基がフリッピングするステップ、および(ii)フリッピングした塩基が(D181−P−P−Y184モチーフによって形成された)酵素の活性部位ポケットに結合するステップ、の2つのステップが含まれる。標的塩基のフリッピングによって、蛍光の強い増加を引き起こす、隣接塩基とAdeとの重なり相互作用の完全な消失がもたらされる。フリッピングした塩基が活性部位ポケットに結合する間に、芳香族残基に重なり、それによってこの捕捉ステップの間に2AP蛍光の減少が引き起こされる(Liebert他、2004)。ヘミメチル化G−2AP−TC基質による迅速な反応速度論的測定によって、AdoMetの存在下では、EcoDamによる塩基フリッピングは2相性のプロセスであることが示された(図17C)。最初のフリッピングは非常に速かったが、フリッピングした塩基の活性部位ポケットへの挿入は遅かった。しかし、補酵素AdoMetの非存在下、またはAdoHCyの存在下では、ゆっくりした蛍光減少は認められなかった。このことは、フリッピングした標的塩基の活性部位ポケットへの結合は、AdoMetがこの酵素に結合しなければ起こらないことを示唆している(Liebert他、2004)。
【0095】
[00133] これらの所見と合致して、AdoHcyの存在下で形成される一般的な構造では、フリッピングした標的Adeは、活性部位ポケットの外側のタンパク質表面(Y184およびH222の側鎖)に対向した位置を取る(図15A、左図)。H222のイミダゾール環は、Ade環と共に陽イオンπ相互作用を形成する。さらに、環窒素原子N1およびAdeの環外アミノ窒素N6原子はそれぞれ、主鎖アミド窒素およびV261のカルボニル酸素と水素結合を形成する。T4Dam複合体とDNA立体構造とを比較する(Horton他、2005)と、たった3個の2面結合の周りの単純だが大きな回転(>120°)が、フリッピングしたAdeの活性部位ポケットへの挿入を促進することが明らかとなる(図15A、右図)。
【0096】
[00134] フリッピングしたAdeが活性部位に結合しない構造が存在することによって、一連の中間体によって塩基のフリッピングが生じることが示唆される(Banerjee他、2005、Horton他、2004、Leibert他、2004)。ここで観察されたEcoDam複合体におけるAde結合様式によれば、Adeフリッピング経路の後半の中間体、すなわち、活性部位ポケットに塩基が挿入される直前の中間体を模倣することができる。あるいは、この立体構造は、活性部位ポケットから遊離した直後に形成された中間体と考えることができる。したがって、生成物AdoHcyは、フリッピングしたAdeが活性部位ポケットに結合する前に、AdoMetと交換するために、酵素に合図を送ることができると推論した。この結合は、活性部位近傍のループの動的立体構造によって媒介されることができ(図14D)、T4Dam中の対応するループは、結合した補因子といくつかの芳香族残基と接触する(Yang他、2003)。このループは、このEcoDamモデルにおいては構造化されてないが、AdoMet結合後に安定した構造を取ることができ、これはフリッピングしたAdeの活性部位ポケットへの挿入の引き金となり得る。
【0097】
[00135] オーファンThyとの相互作用:2重塩基フリッピング:オーファンThy(フリッピングしたAdeに対向する。)の立体構造は、分子Aと分子Bとでは、形成されたEcoDam−DNA複合体が大きく異なることを示す。意外なことに、分子Aでは、中心のオーファンThyもDNAらせんの外にフリッピングし、R137のグアニジノ基とのπ重なり相互作用によって安定化される(図15D)。対照的に、分子BのオーファンThyはN120のアミド側鎖と水素結合する(図15G)。ここで、N120は、フリッピングしたAdeによって形成されたらせん空間にその側鎖を挿入する。これらの結果は、オーファンThyが少なくとも2個の異なる立体構造を取ることができることを示している。そこで、Thy−フリッピングが溶液中で起こるかどうかを調べた。このために、オーファンとなるべきThyの代わりに置換された2APを有する基質を使用した。AdoHcyが存在する平衡結合条件下では6倍の蛍光増加が認められ(図17A)、これは、Thy重なり相互作用の著しい減少を示している。(分子Bが結合した)DNA結合部のらせん内立体構造では、Thyの重なり相互作用の明瞭な変化がなく、DNA立体構造の変化(折れ曲がりまたは巻き戻し)もないので、タンパク質誘導性の蛍光強度変化は、Thyフリッピングが溶液中でも起こることを示唆している。高速反応速度実験は、AdoMet存在下でもThyフリッピングが起こることを示している。Thyフリッピングは、標的Adeフリッピングよりも遅いので、2つの事象は結合していないことが示唆される(図4C)。Thyフリッピングはまた、R137A変異体で認められる(データは示さず)が、このことは、フリッピングしたThyのR137へのドッキング(図15D)はフリッピングに必要でなく、フリッピングしたThyには他の代替らせん外立体構造が存在し得ることを示している。
【0098】
[00136] Y119挿入は、塩基フリッピングに必要である:Y119芳香族環はDNA2本鎖に挿入され、GATCの3番目の塩基対と、結合部のThy:N120「塩基性アミノ酸」対(図15H)または中心のN120の側鎖(図15B)と、の間に重なり、らせん上昇部において局所的な重なりを生じる。DNA2本鎖の中央および末端におけるらせん延長は、DNAの長さを効果的に延長し、その結果、14塩基対に相当することになり、約46Åの長さで結晶a軸と一致する。以前に、Y119のAlaによる置換は、触媒活性の強い減少をもたらすことが示されている(Horton他、2005)。蛍光研究によって、AdoHcy(図17B)およびAdoMet(データは示さず)のいずれかが存在すると検出可能な塩基フリッピングがほとんど完全に消失すること、Y119Aが、塩基フリッピングの(R124に次いで)2番目に重要な残基であることが明らかになった(図17B)。したがって、Y119のDNAへの挿入は、塩基フリッピングに必要な現象である。N120のDNAらせんへの侵入はあまり重要ではない。Alaで置換されると、触媒活性(Horton他、2005)およびAdeフリッピングは約2〜3倍減少するにすぎない(図17B)(Horton他、2005)。
【0099】
[00137] 第3の塩基対の認識:非メチル化およびヘミメチル化DNAの区別。GATCの第3の塩基対は、L122およびP134の2個の疎水性側鎖とファンデルワールス接触を形成する(図15E)。DNA複製中に生じたヘミメチル化GATC部位は、Dam MTアーゼの天然のin vivo基質である。メチル基を、Ade3の環外アミノ窒素N6原子に合わせた(図15E)。メチル基は、L122およびP134の側鎖間に位置するが、L122−CH接触距離(約3.6Å)は、P134−CHの接触距離(約4.9Å)よりもずっと短い。そこで、EcoDamのヘミメチル化DNA2本鎖との相互作用に対する残基L122の影響について検討した。図18Aに示すように、非メチル化基質でのメチル転移速度は、ヘミメチル化基質での速度のほぼ2倍であった。この発見は、非メチル化基質の標的部位の数はヘミメチル化基質の2倍なので、予測通りである。最初のEcoDam結合が2本鎖に関して無作為ならば、非メチル化基質への各々の結合現象は増殖的で、メチル化を誘導する。対照的に、ヘミメチル化基質への結合現象が50%であれば、EcoDamはメチル化Adeが標的位置に存在するように配置されるので、非増殖的である。しかし、L122A変異体は劇的な作用の変化を示した(図18B)。すなわち、非メチル化DNAにはほとんど活性が無いが、ヘミメチル化基質を野生型EcoDamと同様の速度で改変した。
【0100】
[00138] L122Aの触媒特性のこの著しい変化の機構は、明らかではない。特定の理論に結びつけることは望まないが、122位のAlaはメチル化Ade3のメチル基と相互作用し、L122とThy3との間の接触の欠如を補うものと仮定する(図15E参照)。興味深いことには、脂肪族炭水化物側鎖の大きさを減少させる点突然変異(L122A)は、EcoDamを、ヘミメチル化DNAへの著しい選択性を有し、確実に維持されるMTアーゼに変換するのに十分である。哺乳類が保持するMTアーゼ、Dnmt1は、非メチル化CpG部位よりもヘミメチル化CpG部位に高い選択性を有し(Fatemi他、2001、Hermann他、2004)、哺乳類におけるCpGメチル化パターンの伝播に中心的な役割を果たす(Grace Goll and Bestor、2005)。Dnmt1のこの選択性の基礎となる機構は知られていないが、ヘミメチル化CpG部位にメチル基が1個存在することによる酵素の選択的活性化がベースとなるに違いない。我々の結果は、このような1個のメチル基の認識の一例となる。
【0101】
[00139] 第4塩基対の認識:特異的DNA相互作用の第1ステップ:GATCの第4塩基対のGuaは、分岐した水素結合パターンでO6およびN7原子を介してR124のグアニジノ基と相互作用する(図15F)。R124−Gua4相互作用は、T4Damで認められるものと同一で、R124はEcoDamによるDNA認識に重要な役割を果たすことを既に示した(Horton他、2005)。R124A変異体は、触媒活性が全体的に減少しているが、2個のニアコグネイト基質(GATおよびGAT)を標準GATCよりも速くメチル化し、R124とGua4との相互作用(「区別型接触」)が酵素の触媒性を活性化するために必要であることを示している(Horton他、2005)。
【0102】
[00140] 図17Dに示したように、野生型EcoDamは、第3または第4塩基対に配列変化を含有する基質では2AP蛍光に検出可能な変化を示さないが(図17Dの緑または赤の線)、塩基フリッピングは、第1の塩基対に塩基置換を含有する基質で生じる。逆に、触媒活性の著しい減少と相関する塩基フリッピングシグナルは、R124A変異体では検出されなかった(図17E)。
【0103】
[00141] これらの発見は、DNA認識とEcoDamによる塩基フリッピングの間につながりがあることを示している。βヘアピンループと認識配列の後半(第3および第4塩基対)との間の接触は、標的配列に対する酵素の配置に必要である。特に、Gua4塩基はR124によって接触し、その隣接するリン酸は保存された残基(前記参照)によって接触し、塩基フリッピング(Y119など)およびDNA認識(L122およびP134など)に関与するその他の残基がDNAに接近し、塩基フリッピングを誘導するように、EcoDamをDNA2本鎖に配置すると仮定する。この知識はさらに、次の構造によって支持される。
【0104】
[00142] 非標準部位との相互作用:pap発現調節への関与:第2の結晶型は、AdoMetアナログシネフンギン(アデノシルオルニチン)の存在下で生じ(表4)、結晶化では同様の12塩基対平滑末端オリゴデオキシヌクレオチド2本鎖である。予想外のことが少なくとも3つ認められた。第1に、EcoDam分子(図14に示したAおよびB分子と区別するために分子Cと称する)は、隣接するDNA2本鎖の間の結合部に結合し、EcoDam分子は2本鎖の中央の特異的GATC部位には結合しなかった(図19A)。第2に、各DNA2本鎖は、結晶a軸にそって逆向きに重なった塩基対を12個ではなく11個だけ形成し、その長さは約36Åであった(塩基対当たりの平均らせん上昇約3.3Å)。この短さのために残された空間は、第2のEcoDam分子がDNA2本鎖の中央に結合するには不十分であった。第3に、その電子密度地図は、各DNA2本鎖の末端の2個の3’Ade塩基がフリッピングし(1個は不規則になり、もう1個は安定化する)、2個の5’Thy塩基が2本のDNA分子の結合部でT:Tミスマッチを形成することを示している(図19B)。両Adeがらせん外になる原因が何かははっきりしない。
【0105】
[00143] 結合部の5個の塩基対、緑色のDNAの3個、T:Tミス対合および青色のDNAの1個(非標準部位と称する)は、分子Cと接触する(図19C)。5’Gua(青色のDNA)とR124との相互作用(図19C)およびその5’リン酸の相互作用は、分子AおよびBの相互作用と同一である。Ade3を置換するT:T対合ミスの1Thyは、L122およびP134とファンデルワールス相互作用する(図19D)。挿入(Y119)、塩基−アミノ酸対(N120)および第1の塩基対認識(K9およびY138)に関与することが既に確認されているその他の残基は、緑色のDNAの主溝に位置する。それらは、まるでDNAに侵入するように位置しているが、その役割はリン酸接触(Y119およびK9)、塩基接触(N120)または水媒介DNA相互作用(Y138)に替わった(図19E〜H)。他の塩基接触は、緑色のDNAの側溝においてR249によって形成され(図19G)、分子AおよびBのβ6およびβ7鎖の間の不規則なループの一部となる。これらを考え合わせると、このような部位を設計する意図はなかったが、これらの相互作用は、EcoDamが5’−TAGTC−3’または5’−GTCTA−3’の非標準配列に結合できること(図19I)を示唆している。
【0106】
[00144] Papレギュロンは、2個のGATC部位を含有する(図19J)。大腸菌ゲノムのほとんどのGATC部位とは対照的に、これらの部位はDNA複製後に常に完全にメチル化されるのではなく、それらのメチル化状態は、DNA配列変化なしに生じる線毛形成の相変異を部分的に決定する(Hernday他、2003)。したがって、これらの部位のメチル化が不十分なのは、EcoDamの接近を遮断する調節タンパク質の結合か(Hernday他、2003)、またはDNAの特定の配列によるこれらの部位での酵素活性の固有の欠如によるものであり得る。興味深いことに、最近の研究で、これらの2個の部位のメチル化は、任意の調節因子がなくては非連続的であることが示され、このことは、これらのGATC部位に隣接する配列はEcoDamの連続性を妨害することができることを示唆している(Mashhood他、2004)。これは、EcoDamが特定のGATCをメチル化する能力はすぐ隣りのDNA配列に左右されるという以前の所見を連想させる(Bergerat他、1989)。Pap GATC隣接配列を調べた後(図19J)、非標準TAGTC部位と類似性が高い配列エレメント(TAGACまたはTAAAC)がGATC部位のすぐ隣りに存在することが発見されたことは驚くべきことであった(図19IおよびJ)。2個のTA(G/A)ACエレメントは、方向が反対で、第3の塩基対とは異なり、非標準複合体の構造では直接塩基接触をしない(図19E)。これらの潜在的DNA結合エレメントの同定に励まされて、EcoDam調節プロモーターに関する文献を検索し、このエレメント(TANAC)が多くの場合に存在することを発見した(表6)。これらのデータによって、GATC部位に結合する前、またはGATC部位から離れた後に、TANACエレメントはEcoDamを捕捉できる可能性が生じる。このエレメントはpapl応答エレメントと重複するので(Hernday他、2003)、捕捉されたEcoDamは、Lrp−papl結合を妨害し、Pap発現の調節に寄与することができた。
【0107】
[00145] 塩基フリッピングとDNA認識のつながり:DNAメチル化の最大の謎は、DNA MTアーゼが認識配列内の標的塩基のフリッピングを引き起こす機構に関する。コグネイトおよび非コグネイト複合体のこの構造は、このプロセスにいくらかの光を投げかけてくれる。(分子Cが結合した)非標準部位におけるDNA立体構造と(分子AまたはBが結合した)標準部位における立体構造とを比較すると、DNA認識の初期段階および塩基フリッピングの最終段階で起こる詳細な立体的変化が明らかとなる。図20Aは、重なりを測定するためだけにR124:Gua4対を使用して、2個のEcoDam(分子AおよびC)の最小二乗による重なりを示す。タンパク質成分は、非コグネイト複合体からコグネイト複合体へのDNAに対する固いヒンジの動きを示し、DNA接触面のN末端ループは約4Å動き、DNAから離れた外面の残基は約8〜9Å動いた(2個のタンパク質成分の間の全体標準偏差約0.3Åを比較する)。2個のDNA2本鎖は、第4の塩基対を含む右半分の相互作用パターンにおいて高い一致を示し(図20Bの右側)、非標的鎖の主鎖は、R95との静電的相互作用、N126、N137の側鎖との水素結合相互作用、L127の主鎖および保存的Gua4−R124相互作用によって定位置に保持されている。その一方で、左半分のらせん構造(図20Bの左側)は、2つの構造で著しく異なっている。主鎖立体構造を調べると、らせん軸に沿って(Y119挿入による)非標準2本鎖の左側部は移動し、らせん軸の周りに約30°回転すると標準複合体の立体構造が生じることが明らかである(図20C)。このプロセスにおいて、タンパク質成分は目立った立体的変化を必要とせず、(図20Bに示したY119などの)極めて重要な側鎖のほとんど全ては、両複合体のDNA主溝に並ぶ。Y119およびK9の役割は、非標準複合体中ではDNAリン酸との相互作用であるが、標準複合体中では特異性の高い結合様式に換わる。(DNAらせんに深く貫通する)Y119による挿入は、両鎖にらせんがつながるのを遮断し、DNA分子の一塩基対延長を促すのに欠かせないステップで、G:C塩基対とK9およびY138の側鎖との間の妥当な接触ならびに第2の塩基対における基質Adeの塩基フリッピングを引き起こす。興味深いことには、非コグネイト複合体における5−塩基対認識の長さは、コグネイト複合体における4−塩基対および1挿入ステップと同様である。
【0108】
[00146] 塩基フリッピングとDNA認識のつながりを研究するために、(第3の塩基対における区別の減少を示す)P134GおよびP134Aならびに(第1の塩基対の認識を緩和する)K9Aによる特異性改変を伴ったEcoDam変異体による塩基フリッピングを調べた。高い触媒活性と合致して、P134G(図17F)およびP134A(データは示さず)では、蛍光変化の大きさには少しだけ減少が見られたが、塩基フリッピングの反応速度論における変化は検出されなかった。しかし、両変異体は、第3の塩基対において配列が改変した基質の塩基フリッピングを誘導したが(図17Fの緑色の線)、これは野生型EcoDam(図17Dの緑色の線)では生じなかった。K9Aは同様の挙動を示した。標的部位の最初の位置に塩基対置換を有する基質の塩基フリッピングは、野生型EcoDamよりも効果的であった(図17Gおよび図17Dにおける青緑色の線と比較)。これらの変異体の特異性の変化は、ニアコグネイト部位においてフリッピングしたAdeの変化に基づくものと結論する。
【0109】
[00147] 図20に示した構造比較および前述の考察に基づいて、右側のDNA−R124−Gua4の非標的鎖に対する接触およびその5’リン酸相互作用は、おそらく標的塩基Ade2が実際にフリッピングする前に、認識経路の初期に確立される。DNAに対して酵素が密接に接近するには、次に第3の位置におけるT:A塩基対が必要である。次いで、Y119およびN120はDNAに挿入することができ、塩基フリッピングが生じる。第1の塩基対に対する接触は、その後確立される。したがって、EcoDamの特異的複合体の形成は、第4の塩基対から第1の塩基対までジッパーが閉じるのに似ている。左側の相互作用は、固くかみ合っており、フリッピングしたAdeは、活性部の外側の端に位置しており(図15A、左図)、らせん外ヌクレオチドにおいてDNA主鎖の周りに結合が単純回転することによって、標的Adeが活性部位に入る。この動きは、活性部位直後の非構造ループが規則正しくなり、閉じた活性部位の形成を可能にする場合のAdoMet結合後にのみ生じる。オーファンThyの柔軟な立体構造が、塩基フリッピングプロセスの動力学において役割を果たし得る。これらの現象が起こった後でのみ、標的Adeは活性部位に入り、AdoMetからのメチル輸送の触媒が生じる(図15A、右図)。3’末端におけるR124−Gua相互作用も必要な非コグネイトエレメント、TA(G/A)ACへの結合は、Dam調節プロモーターにEcoDamを捕捉し、EcoDam連続性に影響を及ぼし、遺伝子発現の調節に寄与する。
【0110】
[00148] インシリコスクリーニング(ISS)(実施例3参照)によって同定された化合物は、Damとの共結晶化することによってさらに構造的に研究することができる。これらの共結晶から得られた構造情報は、より望ましい特性を備えた化合物ライブラリーの合成によって、同一のコア化学構造に関する誘導体を生じる構造的変動部位を同定するために、使用することができる。
【0111】
[00149] DNAメチル化の連続性を解決するための変異Damまたはpap関連GATC基質の結晶化:EcoDamは、高い連続的反応でDNAをメチル化する(Urig他、2002)。各メチル化現象の後で、補酵素生成物AdeHcyは次の反応の前にAdoMetと交換しなければならない。連続的メチル化には、酵素がDNAに結合している間にこの交換が起こることが必要である。DNAに沿って酵素が滑るように動くのを妨げ、および/またはAdoHcy/AdoMet交換を遮断する阻害剤は連続性に影響を及ぼし、それによってメチル化を阻害することができる。
【0112】
[00150] T4Dam構造において、チャンネルは補酵素結合部位および溶媒に連結する(示さず)。DNAから酵素を遊離せずに補酵素の交換を可能にすることができるので、このチャンネルは、Damによる連続的メチル化に重要である。本発明の状況において、このチャンネルはDamに特有の他のドッキング部位を形成し、より特異的な阻害剤が発見される可能性がある。これらの阻害剤は、AdoHcy/AdoMet交換を妨害するか、AdoMet結合ポケット内に広がって立体的にAdoMet結合を妨害することができる。これらの可能性のある作用様式は、AdoMet結合およびDNAメチル化の連続性に対する阻害剤の効果を比較することによって区別することができる。Ile51は、T4Damにおいてチャンネルの1つの壁を形成する。チャンネルを遮断し、連続性を妨害しようと、TrpおよびArgに対応する残基(EcoDamのIle55)を変化させた。最初の結果は、I55W置換によるチャンネルの遮断が活性を強く損なわせることを示す。I55R変異体は、短いオリゴヌクレオチド基質に対して野生型酵素と同じ活性である。I55R変異体の連続性は、Urig他(2002)に記載されたアッセイを使用して調べられ、両変異体に対するAdoMet結合のKを測定する。補酵素とこれらの変異体の共結晶構造は、これらの置換が補酵素相互作用に影響を及ぼすかどうか、どのように影響を及ぼすかを示す。このチャンネルが本当に補酵素結合/交換に影響を及ぼすならば、他のDam阻害剤を同定するためにこの部位のISSを実行することができる。
【0113】
[00151] Papレギュロンは、103bp離れた2個のGATC部位を含有する(図21)。これら2個のGATC部位のメチル化状態は、DNA配列変化がなくても生じる繊毛形成の相変異を部分的に決定する(Hernday他、2003)。Hernday他(2003)に基づいて、EcoDamがこの部位の1つのみをメチル化する理由は、調節タンパク質LrpおよびPapI結合およびDam接近の遮断による。しかし、最近の研究で、これらの2個の部位のメチル化は、LrpまたはPapIがなくては非連続的であることが示され、このことは、これらのGATC部位に隣接する配列はEcoDamの連続性を妨害することができることを示唆している(Mashhoon他、2004)。この発見を再現し、その機構を調査することができる。1つの可能性は、両GATC部位に隣接する保存配列は酵素との他のDNA相互作用を形成し、最初の結合または生成物の遊離を妨害することで、両方とも連続性に影響を及ぼす。あるいは、(103bp離れた)2個のPap部位の間の配列は、酵素の効果的な滑りを妨害し、それによって連続的メチル化を妨害することができた。これら2つのモデルの間を区別するために、Pap基質の2種のキメラ基質および通常のDNA配列を作製することができる(図21C)。1基質は、正常なDNA配列に連結した5隣接塩基対を有する2個のPapGATC部位を含有し、他方、その他はpap中間体配列によって分離された2個の正常なDam部位を含有する。EcoDamは、これらの基質の少なくとも1種を非連続的に改変するだろう。隣接配列が連続性に寄与するならば、隣接配列を有するPap関連GATC部位に対するEcoDamの構造を決定することができる。他のタンパク質−DNA相互作用を観察するならば、標的化された変異タンパク質を作製し、その連続性および配列特異性を調べることができる。
【0114】
[00152] 細菌において、MTアーゼ標的部位は通常全てメチル化されている。しかし、MTアーゼが遺伝子の発現を制御する能力は、メチル化パターンの存在に非常に左右され、このことはある種の部位は構成的メチル化に対して保護されなければならないことを意味する。pap−部位の配列状況において、いくつかのシグナルがこの保護に寄与し、pap部位のメチル化におけるEcoDamの連続性の欠如が1効果となり得そうである。連続的メチル化を防ぐこれらのシグナルの同定は、個別にメチル化され、その発現がDamメチル化によって改変され得るその他の細菌性遺伝子の発見の一助となる。この取り組みは、damメチル化が細菌の病原性をどのように調節するかを理解するのに役立つ。
【0115】
[00153]〔実施例3:インシリコスクリーニング〕
[00154] 2通りの異なる経路、ISSを使用する経路、およびハイスループットスクリーニング(HTS)を使用する経路(Sawyer他、2003、Singh他、2003)、によってTGF−β受容体キナーゼの同様の阻害剤の同定に最近成功したことを考えると、適切に手順を踏んだISS法がHTSと同様にうまくいくことは明らかである(Liu他、2004)(Waszkowycz、2002)。さらに、分子ドッキングはあまり労力を必要としない。例えば、メルク化学コレクション(Merck chemical collection)(Paiva他、2001)に対して結核菌標的ジヒドロジピコリン酸レダクターゼをスクリーニングするHTSの<0.2%と比較して、そのヒット率は6%である。
【0116】
[00155] ISS中は、2種類の主要な目的を考えなければならない。第1に、Damメチル化を効果的に阻害する化合物を同定することが必要である。第2に、その他のMTアーゼに対して細菌性Dam分子に特異的な化合物が必要である。第1の考察に関しては、EcoDamのいくつかの潜在的結合部位を標的とする。結晶学的構造から、非結合性ポケットから標的までISSを介してDam分子の多くのスナップ写真を撮影する予定である。潜在的部位は、AdoMet結合ポケット、ポケット内外のチャンネル、触媒ドメインとDNA結合ドメインとの間のヒンジ領域、DNA結合表面(特異的および非特異的)、および特有の表面ポケットを含む。特に、AdoMet/AdoHcyまたはDNAまたはフリッピングした標的Ade存在下での立体構造変化は、大きさまたは形または特定のくぼみに影響を及ぼすことができ、これらの特性は、結晶学によって特徴付けられたDamの様々な形態の構造的比較によって調べられる。さらに、補因子結合Dam構造を標的とすることによって、高レベルのAdoMetの存在下でも活性のある阻害剤を同定することができる(このような高レベルは細胞内に存在し得るので)。結合部位の最終選択には、広域性抗体を得る目的による相同性の考慮、ならびに化合物の結合部位の特性が含まれる。後者は、ドッキングスコアおよび幾何に基づいて測定された各部位の特性によって、予測部位に対する予備ドッキングを実施することによって測定される。
【0117】
[00156] その他のMTアーゼに対するDam阻害剤の選択性は、抗生物質として成功するための非常に重要な基準である。Damに選択的な化合物は、その他のDamタンパク質に対して高い結合率を有さなければならないが、非DamMTアーゼに対する結合率は低くなければならない。後者のために、最初のスクリーニング(化合物50000個、以下参照)から選択された化合物をまた、以下の非DamMTアーゼ、PRMT1−タンパク質アルギニンMTアーゼ(Zhang and Cheng、2003)、およびDIM−5−ヒストンH3 Lys9 MTアーゼ(Zhang他、2002)(Zhang他、2003)に対してスクリーニングし、これらのタンパク質との結合エネルギーは次の項で説明した選択性スコアに組み込む。選択性の欠如の可能性は、タンパク質の機能的に類似した領域で最高であるので、このような選択性スクリーニングは、補因子結合領域を標的とする阻害剤に特に重要である。大腸菌およびサルモネラのDam両方に有利なスコアを与え、その他の非DamMTアーゼには与えない化合物が生物学的試験で優先的に選択されるように、サルモネラDamに対する化合物もスクリーニングする。現在、サルモネラDamの3D構造はないので、Modellerプログラム(Sali and Blundell、1993)を使用して、大腸菌Damをベースにした相同性モデルを作製する。モデル形成の精度は、大腸菌とサルモネラDamの間にほんの22残基の違いがあり(同一性92%)、アミノ酸の数はほとんど同数(278対277)で、それらの間にギャップがないという事実が助けとなる。サルモネラDamの結晶学的構造が一旦得られたら、その構造をT4および大腸菌のDamと同等の方法でドッキングに使用することができる。
【0118】
[00157] これらのスクリーニング研究の標的は、Dam−AdoHcy複合体である。最初に、T4 Dam−AdoHcy複合体の結晶構造を標的として使用する。インシリコスクリーニング(「ISS」)は、化合物および標的の構造に基づいたコンピューター計算によって、ライブラリーの化合物の標的に結合する能力を評価する。インシリコスクリーニングは、ハイスループットスクリーニングよりも有利で、ハイスループットスクリーニングに関する実験上の時間と労力を必要とせずに、いかなる数の化合物も容易にスクリーニングすることができる。例えば、比較的「小さい」ライブラリー、特に、米国国立癌研究所(NCI)「Diversity Set」ライブラリーを使用した。このNCI Diversity setは、約140000個の化合物の大きなライブラリーから選択された約2000個の化合物のサブセットである(図26参照)。このサブセットは、140000個の化合物の大きなライブラリーにおいて、三次元的化学物質多様性を最大限に表すように企図されている。このNCI Diversity Setは、公に使用可能で、HIV-1ヌクレオカプシドのいくつかの潜在的阻害剤(Stephen他、2002)を含む様々な標的分子の阻害剤の同定にうまく使用されてきており、このdiversity setはNCI開発途上治療プログラム(http://dtp.nci.nih.gov)から公に使用可能である。図22に、本発明のISS方法の流れ図をまとめて挙げる。
【0119】
[00158] ISSは、標的化合物の同定に有用で、例えば、Pan他(2003)、Huang他(2004)によって検討されている。TGF−βの同様の阻害剤は、ISSおよびハイスループットスクリーニング(Sawyer他、2003、Singhe他、2003)の両方によって同定された。
【0120】
[00159] 本明細書で使用する場合、データを表す用語は、分子または分子複合体の化学的および/または構造的情報を含むことができる。例えば、データの表現は、所与の分子、分子複合体、またはそれらの部分の一連の構造座標、三次元図、二次元図、化学式、またはその他の情報であってもよい。
【0121】
[00160] 本明細書で使用するとき、構造座標という用語は、当業者によって理解され、酵素または酵素複合体の原子(散乱中心)によるX線単色ビームの回折で得られたパターンに関連した計算式から得られた数学的座量を意味することができる。例えば、酵素複合体には、メチラーゼ、DNA基質、およびメチル供与体を含めることができる。回折データは、結晶の反復単位の電子密度地図を計算するために使用される。電子密度地図は、結晶の単一セル内の個々の原子の位置を確立するために使用される。X線結晶構造解析によって決定された一連の構造座標では、当業者は標準誤差のない座標データはないことを理解するだろう。本発明の実施形態では、骨格原子を使用して参照構造座標に重ね合わせたとき、タンパク質骨格原子(例えば、N、アルファ−C、CおよびO)の標準偏差が0.75Å未満である構造座標はいずれも同一と見なされる。
【0122】
[00161] 一実施形態では、小分子および/または小分子データ塩基は、本明細書で説明したような酵素または酵素複合体に、全体または一部が結合できる治療薬または化合物についてコンピューターによってスクリーニングされる。スクリーニングの具体的な実施形態では、このような治療薬または化合物の関心のある結合部位への合致の特性は、形状相補性または推定相互作用エネルギーのいずれかによって評価することができる。Meng、E.C.他、J.Comp.Chem.、13、pp.505〜524(1992)を参照のこと。
【0123】
[00162] 本発明は、スクリーニングを実施するための特定の方法の使用に限定されない。本発明は、任意のドッキングソフトウェアアルゴリズムおよび当分野で公知の任意の評価アルゴリズムを利用することができる。米国特許出願第2005/0170379号(Kita他)は、(表面関係、幾何ハッシング、ポーズクラスタリング、グラフパターン一致のいずれかをベースにした)剛体パターン一致アルゴリズム、(段階的構成法または「プレイスアンドジョイン(place and join」オペレーターを含む)断片をベースにした方法、(モンテカルロ、模擬アニーリング、遺伝的(またはミーム的(memetic))アルゴリズムを含む確率的最適化法、分子動態シミュレーション、および/またはこれらの技術の1つまたは複数の複合を含むドッキングシミュレーションを実施するのに適した様々な技術を概説している。数多くのドッキングプログラムが使用可能で、アルゴリズムおよび効率に関して開発が続けられている。プログラムDOCK(Ewing他、2001)が配布無料なので阻害剤スクリーニング研究に使用する。このプログラムは、以下のコンピューター処理、第1に、ドッキングの基礎的なプロセスである選択部位またはポケットにおける小分子の方向検索、第2に、標的部位に合致させるのに最適な立体構造の同定をもたらす分子の立体構造検索を実施する。より重要なのは、ドッキング試験のために化合物のデータベースを使用することができ、仮想スクリーニングの基本的な必要性を満たす。
【0124】
[00163] DOCKをベースにしたスクリーニングでは、球体中心を関心のある結合部位およびデータベースの化合物のコノリー面に基づいて作製し、次に球体中心を化合物原子と合致させることによって結合部位にドッキングさせる。ドッキング部位の選択は、一般的に、相同性情報を含む生物学的データ、ならびに結合阻害剤の部位の特性に基づく。このような結合能力は、実験的に測定されたAdoHcyの結合様式を再現する能力などの、公知のリガンドの結合構造を再現するドッキングアルゴリズムの能力をベースにして確認できることが理想的である(図23参照)。戦略は、タンパク質間およびタンパク質DNA間相互作用の両方を遮断する推定阻害剤結合ポケットを選択するために有用で(Chen他、2000、Hancock他、2005、Huang他、2003、Markowitz他、2004)、本研究における部位選択を容易にする。
【0125】
[00164] 予備的な分子ドッキングは、AdoHcy結合部位(暗色)および2個のドメインの間のくぼみ(暗色および灰色、図24A)を標的として実施した。このくぼみの位置は、グリセロール分子を結合するのに十分大きく(T4Dam構造の1つに見られるように、示さず)、小分子が2個のドメインの間のヒンジの動きを遮断できることを示唆している。2個のドメインの見かけ上のヒンジの動きは、反応サイクル中の機能的重要性を反映することができる。興味深いことに、DpnII−関連GATC制限修飾関連酵素−の構造において、対応する位置は(図24Bの黒い矢印で示した)表面上の「くぼみ」を示すが、小分子が結合できるくぼみほど深くない。この所見から、このくぼみは、阻害の選択性のために標的とすることができるT4Damの固有特性であるという興味深い可能性をもたらす。
【0126】
[00165] 一実施形態では、ドッキング部位は、実験的に結合させたAdoHcyおよび活性部位をベースにして特定される。リガンドの周り8Å以内の領域が考えられる。相互作用エネルギー、グリッドをコンピューター計算するためにドッキング研究全てにおいて0.3Åのグリッドを使用する。エネルギースコアリンググリッドは、結合原子モデル、距離依存性誘電関数(ε=4r)および6〜12レナードジョーンズファンデルワールスポテンシャルを使用することによって得られる。フレキシブルリガンドドッキングは、最小アンカー断片の大きさ7原子、立体構造をサンプリング数25個のアンカーファースト(Anchor−First)機構を使用して実施する。方向は、ドッキング中アンカー断片1個当たり最大5000に設定する。
【0127】
[00166] グリッドをベースにした剛体単純アルゴリズムを使用してエネルギー最小化を実施する。100個の単純な最小化段階の1サイクルを、化合物方向および立体構造を調節するために適用し、近接局所エネルギー最小値を0.5kcal/molに収束させるために適用する。この最小化は、DOCKプログラムの転送時に計算され、最終エネルギースコアのみが記録される。
【0128】
[00167] リード化合物にいくらか化学的類似性のある関連化合物(例えば、化合物#78(NCI659390)を使用してさらに調査を実施する。関連化合物は、SMILESストリングベースパターン認識(図26参照)を使用して同一の、または類似のコア断片構造を有する化合物について確認する。このsringベースパターン認識に基づく化合物#78(NCI659390)に関連した化合物については、図29を参照のこと。
【0129】
[00168] スコアリング:データベース中の全化合物2000個をヒンジ領域の補因子結合部位または推定結合くぼみにドッキングさせた後、DOCKプログラムを適用してリガンド−タンパク質相互作用エネルギーを計算し、ドッキングしたリガンドの順位を付けた(図28参照)。エネルギースコアは、ファンデルワールスおよび静電的相互作用エネルギー成分をベースとしている。ドッキング方法の最終段階として、リガンドの方向は、最終エネルギースコアを得る前に他のエネルギー最小化に与えられた。次に、最良のDOCKエネルギースコアに対応する最高の結果を分類し、保存した。現在、補因子結合部位18個およびくぼみ22個を選択しているので、例を図24に示す。興味深いことに、補因子結合部位の上位30個の中で、10個の化合物がアミノ酸様化学構造を有していた(図24Cの補因子のメチオニン部分と重なる)。これは、化合物2000個のライブラリーにおけるこのような化合物40個から約20倍に濃縮されている。
【0130】
[00169] その他の構造的に特徴付けられた非Dam MTアーゼに対する特異性:同様の取り組みにしたがって、この2000個の化合物をアカパンカビ(Neurospora crassa)DIM−5−ヒストンH3 Lys9 MTアーゼの3次構造の補因子部位およびペプチド結合部位(図25)にドッキングさせた(Zhang他、2002)(Zhang他、2003)。Dim−5およびT4Damは、構造的折り畳みが異なり、補因子立体構造も異なるAdoMet依存性MTアーゼの2つの異なる種類に属する(Schubert他、2003)(図23参照)。「frequent hitters」を除外するために、内部対照として、Dim−5表面の不可逆的推定部位も使用した。潜在的frequent hittersの迅速な自動的同定のために開発された3層神経ネットワークをベースとした方法を使用した(Roche他、2002)。これらの研究から、補因子結合部位20個、基質Lys結合部位11個および亜鉛結合部位9個(示さず)を選択し、例を図25に示す。
【0131】
[00170] Dim−5およびT4Damの補因子部位から同定された化合物の大部分は異なっており、特異性はドッキングによって実現され得ることが示されることに留意すべきである。Roche他(2002)が、データベース中のfrequent hittersの高い割合が実際の薬剤から成り、そのため、frequent hittersを除去すると実際に市販可能な薬剤が排除されることを予測したことにも注意されたい。ドッキングの目標は、結合ポケットに相補的な化合物を同定することなので、生化学アッセイにおいて、上位であるが、頻繁であるヒットのいくつかを評価する。
【0132】
[00171] DOCK結果の概要:最近、82個の化合物(DIM−5で同定された36個、T4Damで同定された40個およびヒスタミンMTアーゼの阻害剤として公知の6個、小分子MTアーゼ1個(Horton他、2001))を同定した(図27)。エネルギースコアによって格付けされた上位100個の化合物を示す図28にDOCK分析の結果をまとめて示す。これらの中で、化合物9個がin vitroアッセイで中程度の阻害を示し、そのうちの1個(NCI659390)が細胞をベースとしたビルレンス阻害においてアクチン台座形成を阻害することが発見された(表7参照)。リード化合物構造をベースにして、リード化合物構造に関連するその他の構造をスクリーニングすることができる。例えば、表7の化合物78(NSC659390)の構造を使用して化合物140000個のライブラリーからその他の関連化合物を同定した(図29)。
【0133】
[00172] 興味深いことには、他の機能的コア構造は、表7で同定された9個の化合物のうち2個(化合物55番および58番)によって定義される。類似の分析によってその他の機能的コア構造を同定することができる。化合物Dam−iZ1に加えて、化合物Dam−iZ2はDam阻害剤:
【化6】


として機能することができる。
【0134】
[00173] Mはアリールまたはヘテロアリールであることができ、アリールは1個または複数の環、好ましくは各環が場合によって独立して置換されている1個または2個の芳香族環である。ヘテロアリールは、1個または2個のヘテロ原子を含有する芳香族環である。一実施形態では、Mは、
【化7】


である。一実施形態では、「」は窒素原子に対するMの結合位置を示す。
【0135】
[00174] コンピューター支援薬剤設計(CADD)は、データベーススクリーニングによる同定をもたらす。Damに結合する能力を有する新規リード化合物の同定は、仮想NCI Diversity Setおよび市販されている化合物300万個を上回る3D化学構造データベースのデータベース検索によって実施される。メリーランド大学CADDセンター(所長MacKerell博士)において、300万個の化合物のデータベースが蓄積され、2D構造から3D構造へ変換された(Huang他、2004、Pan他、2003)。データベース中の化合物の大部分は最近、薬剤様特性を有することが示された(Sirois他、2005)。最初のデータベース検索の標的は、EcoDamの触媒部位であり、その後の検索は、推薦された結晶学的研究によって決定された新規結合部位を標的とする。データベース検索は、リガンド柔軟性を明らかにするアンカーをベースにした検索方法を使用したDockプログラム(Kuntz他、1982)を使用して実施する(DesJarlais他、1986、Ewing and Kuntz、1997)。10個以下の回転可能な結合および10〜40個の間の非水素原子を含有する選択化合物に対して予備スクリーニングを実施し、エネルギースコアリングはDockで実施したGRID(Goodford、1984)法に基づく。最初のドッキングから、上位50000個の化合物は、正規化したファンデルワールス(vdW)引力による双方向性エネルギーをベースにして選択される。全エネルギーまたは静電的エネルギーに対してvdW引力によるエネルギーを使用することによって、立体的に結合部位を補足する構造を有する化合物を選択するためにこの方法を推進する(Huang他、2004)。標準化方法は、選択した化合物の分子量(MW)を制御するために設計され(Pan他、2003)、Nが化合物中の非水素原子の数であるN1/2標準化を使用することによって、平均MWが320ダルトンである化合物を選択する。このような化合物は、World Drug Indexをベースにした薬剤として活性のある化合物の平均MWよりも小さい。小さいMW化合物は、この計画の後半の段階の改変でより影響を受けやすいので、薬剤設計計画のこの段階に望ましい(Oprea他、2001)。
【0136】
[00175] 最初のスクリーニングから選択された上位50000個の化合物の第2の仮想検索には、反復蓄積法中のアンカーの同時エネルギー最小化が含まれる(Chen他、2000、Huang他、2004)。第2のスクリーニングは、化合物選択に特異性を含めるために、非Dam MTアーゼ、DpnII(Tran他、1998)、PRMT1(Zhang and Cheng、2003)およびDIM−5(Zhang他、2002、Zhang他、2003)ならびにEcoDamに対して実施する。各化合物の最終的なスコアは、以下のように、各化合物とEcoDamとの全相互作用エネルギーの合計およびEcoDamと非Dam MTアーゼ相互作用エネルギーとの間の違いの加重和によって得られる。
【数2】

【0137】
[00176] I.E.が全相互作用エネルギーの場合、iは選択的スクリーニングに使用する非Dam MTアーゼそれぞれを表し、wは1/nと同等の重み係数であり、nは非Dam MTアーゼの数である。このスキームにおいて、EcoDamに対する絶対的結合を非Dam MTアーゼに対するEcoDamの相対的結合と一緒にする。したがって、化合物がEcoDamおよび非Dam MTアーゼに非常に都合よく結合するならば、その全体スコアは比較的低く、他方、非Dam MTアーゼにあまり都合よく結合しないが、on−Dam MTアーゼにもあまり都合よく結合しない化合物のスコアは高い。もし必要と思われるならば、非Dam MTアーゼに対するEcoDam相互作用エネルギーの重みは調節することができる。例えば、特異性の問題が非Dam MTアーゼの1つに関して特に問題であるならば、その重みをその他のものに対して増加させて、最終スコアにより大きな影響を与えるためにそれに関する選択性を引き起こすことができる。最初の方法1スクリーニングで使用したvdW相互作用エネルギーに対して全相互作用エネルギーを使用すると、このスクリーニング方法の第2段階中に静電的関与およびvdW的関与の両方を考慮することが可能である。これは、非特異的静電性によってその結合が優性になる化合物を最初のスクリーニングで排除するので、適切である。方法2選択性スクリーニングから、上位1000個の化合物を化学類似性分析(Butina、1999)、スクリーニングで当たる率を改善することが示された(Huang他、2004)生物学的アッセイで選択された最終化合物の化学的多様性を最大限にするステップで選択される。この方法で、化学的類似性は、化学的に類似な化合物のクラスター約100個を生じるTanimoto指数と組み合わせて化学的フィンガープリントをベースにして定量する。1個または2個の化合物が生物学的アッセイのために各クラスターから選択された。最終選択方法は、安定性、潜在的毒性、および溶解性(すなわち、Lipinskiルールの5(Lipnski、2000)を考慮し、溶解性はMolecular Operating Environment(MOE、Chemical Computing Group)を使用してログP値を計算することによって概算される。選択した化合物は、適切な業者から購入した。
【0138】
[00177] リード同定にあり得る落とし穴および代替物。データベース検索によるISSは、コンピューターの必要性を最小限に抑えるためにいくつかの簡便化を行い、300万個の化合物のデータベースの検索を可能にしている。これらの簡便化で最も重要な2点は、(1)タンパク質における立体的柔軟性の欠如(Carlson、2002)および(2)簡便なスコアリング機能である。もし、これらの仮定のいずれかが、方法2で同定された少数の活性化合物によって問題であることが示されたならば、以下のステップを採用する。
【0139】
[00178] タンパク質の柔軟性を考慮するために、複数の構造を方法2のドッキングに使用する。最終ランキングに使用する各化合物が最も好ましいスコアで50000個の化合物のそれぞれが各立体構造に対してスクリーニングされるように、EcoDamの他の立体構造(一般的に5個)は、分子動力学的(MD)シミュレーションから得られ、方法2の検索に含まれる。他の立体構造は、分子モデリングプログラムCHARMM(Brooks他、1983、MacKerell他、1998b)を使用して、標的とするタンパク質の領域の分子動力学的(MD)シミュレーションによって作製される。これらのシミュレーションは、タンパク質骨格の処理に最新修正を含む(MacKerell他、2004)CHARMM22タンパク質力場を使用して(MacKerell他、1998a)、明示的溶媒中において5nsで、既に記載されたように(Huang他、2003)実施する。
【0140】
[00179] 得点率(すなわち、選択された活性化合物の数)が不適切と思われる場合、他のスコアリング方法を試みる。他の1取り組みは、コンセンサススコアリング(Charifson他、1999)、化合物をランク付けするために複数のスコアリング機能を適用する方法である。この取り組みには、リガンドの正確な方向の選択に改善をもたらすことが示され、救済効果の特定の面を内在するという利点を有する知識ベースのスコアリング方法を含む。さらに他の取り組みには、一般化線形応答法(Aqvist他、1994、Lamb他、1999)および、最近DOCKプログラムに装備されたGBバージョン(Kang他、2004、Zou他、1999)を含む一般化Born(GB)モデル(Feig and Brooks、2004)をベースにした溶媒和自由エネルギーが含まれる。
【0141】
[00180] 図22(流れ図)は、新規Dam阻害剤の開発に適したリード候補を同定し、特徴付けるための全体的戦略をまとめて示したものである。EcoDam(および認識経路に沿ったDNAとの多くの複合体−具体的目的1)の高分解能構造の利用性は、構造をベースとした仮想スクリーニングを可能にする。ISSは、NCIデータベースおよび市販の化合物3000000個の大きなデータベースにおける主要な化学物質型を代表した小さな化学的「多様性」ライブラリーに対して実施される。仮想スクリーニングを使用して同定された化合物は、化学物質型にグループ分けされ、3種のアッセイ、IC50値を測定するin vitroメチル化アッセイ、細菌をベースとしたin vivoメチル化阻害アッセイ、および細胞をベースとしたビルレンス阻害アッセイによって並行して確認する。阻害機構および非DAM MTアーゼ(哺乳類DNAシトシンMTアーゼ、ヒストンリシンMTアーゼおよびタンパク質アルギニンMTアーゼ)に対するそれらの選択性を決定するために最良の候補を分析する。
【0142】
[00181] ISSによって同定された各リード化合物は、(リード様分子の最も望ましい特性のLipinskiパラメーターによって誘導され)化学的に最適化された能力について評価される。毒性は、最初に細胞で、次に虫で(Anyanful他、2005)、その後マウスで測定される。in vitroおよびin vivoにおける効率は、マウスモデルを使用して、病原性大腸菌およびサルモネラのような特定の感染病原体によって引き起こされる疾患を予防および治療する能力によって評価される。最適化の一次基準は、標的酵素(Dam)に対する能力、哺乳類MTアーゼに対する負の選択性、宿主毒性がないか、低いことである。最後に、リード阻害剤を有するDamの共結晶構造を測定し、より望ましい特性を有するコア構造に関する誘導体アナログを設計するために繰り返し取り組む。
【0143】
[00182]〔実施例4:阻害剤の活性試験〕
[00183] 活性試験は、in vitroおよびin vivoにおける生化学アッセイを包含する。これらのアッセイは、ISSおよび/またはコンピューター支援薬剤設計によって同定されたDam阻害剤を試験するのに使用できる。例えば、このアッセイは、生化学系におけるDNAメチル化、in vitroにおける細胞全体での、またはin vivoにおける病原性大腸菌疾患モデルとしてのマウス病原体シトロバクターロデンティウムでの台座形成を評価することができる。例えば、Swimm他(2004)、Wei他(2005)を参照のこと。
【0144】
[00184] 数百〜数千の化合物のスクリーニングを可能にするハイスループットアッセイ(HTA)を使用する。特に、2種のHTAアッセイ、(1)マイクロプレート形式によるin vitroHTA、および(2)細胞をベースとしたハイスループットビルレンス阻害アッセイを使用する。
【0145】
[00185] マイクロプレート形式によるin vitroハイスループットアッセイ:DNAメチル化を分析するために、DNAメチル化分析用のビオチン化オリゴヌクレオチド基質を使用するマイクロプレートアッセイを使用する(Roth 2000)。このアッセイは、標識した[メチル−H]−AdoMetを使用する。メチル化反応後、オリゴヌクレオチドはアビジンでコーティングされたマイクロプレートに固定される。DNAへの[3H]の取り込みは、結合緩衝液に非標識AdoMetを添加することによって停止させる。非反応性AdoMetおよび酵素を洗浄によって除去する。DNAに取り込まれた放射活性を放出させるために、ウェルを非特異的エンドヌクレアーゼと共にインキュベートして、放射活性を液体シンチレーションカウンティングによって測定した。例として、図8Bおよび9に示したEcoDamによってDNAのメチル化を研究した。ビオチン−アビジンアッセイは安価、便利、定量的、迅速で、96個の試料を並行して処理するのによく適している。このアッセイの精度は、高く、結果の再現性は+/−10%以内である。1点メチル化アッセイは、MTアーゼ反応の阻害能を引き起こす化合物の初期スクリーニングのために使用する。初期スクリーニングで正のスコアを付けた各化合物のIC50を測定するために、定常状態の反応速度論を次に実施する。
【0146】
[00186] Damを阻害する能力について評価するためのマイクロプレートアッセイで、82個の化合物を化合物濃度200μMでスクリーニングした。(2倍以上の阻害を有する)陽性のみを使用して、この試験を繰り返した。陽性化合物9個(表8)全てを、DOCKによってDamの潜在的阻害剤として「同定」した。これによって、ISSが十分に確認される。このマイクロプレートアッセイは、標識した「メチル−3H]−AdoMetを使用する。メチル化反応後、オリゴヌクレオチドはアビジンでコーティングされたマイクロプレートに固定される。DNAへの[3H]の取り込みは、結合緩衝液に非標識AdoMetを添加することによって停止させる。非反応性AdoMetおよび酵素を洗浄によって除去する。DNAに取り込まれた放射活性を放出させるために、ウェルを非特異的エンドヌクレアーゼと共にインキュベートして、放射活性を液体シンチレーションカウンティングによって測定した。化合物#78(例えば、NCI659390)はまた、細胞をベースとしたビルレンス阻害アッセイでアクチン台座形成を阻害することが発見された(図31参照)。
【0147】
[00187] 病原性大腸菌感染の細胞および動物モデル:腸管出血性大腸菌O157:H7(EHEC)に密接に関連し、マウス病原体シトロバクターロデンティウムに密接に関連している腸管病原性大腸菌(EPEC)は、いずれも付着性および微絨毛消滅性(A/E)病変を引き起こし、腸の微絨毛を平らにすること、上皮細胞への細菌の付着、および宿主アクチン細胞骨格の再構成が特徴で、アクチン充填膜突出または各細菌の下の「台形構造」の形成を引き起こす(Goosney他、2000、Knutton他、1989)。台座構造形成は、EPECに曝露された培養繊維芽細胞(図30参照)で容易に検出され、次に、アクチンを認識するファロイジン(図10の赤)と一緒に、細菌の外膜タンパク質を認識する抗体(図30の緑)、または細菌および細胞のDNAを認識するDAPI(図30の青)で染色される。台座構造は、細菌に密着した強いアクチン染色として認められる。
【0148】
[00188] EPECによるアクチン台座構造の形成がビルレンスを阻害する薬剤のスクリーニングに使用できるかどうかを決定するために、82個の化合物それぞれを試験した。3T3細胞を96ウェル光学ディッシュに接種した。この「原理の証明」実験では、化合物82個のそれぞれをウェルに20μMで添加し、細胞にEPECを6時間感染させた。上清の光学密度(OD600)を、細菌増殖に対する効果を判断するために評価し、細胞を固定し、細菌(および細胞核)を認識するDAPIおよび繊維状アクチンを認識するFITC−ファロイジンで染色した。アクチン台座構造の阻害は、強いアクチン染色の欠如として容易に確認することができる(Kalman他、1999、Swimm他、2004a)。次に、このプレートを、20×対物レンズを備えたZeiss 200M倒置蛍光顕微鏡で視覚的に調べた。ディッシュのウェル全てを5分間隔で調べた(ハイスループット様式)。低出力では、アクチン台座構造は細菌群に隣接した強い蛍光として認められる(図31B、矢印)。非感染細胞では、このような明白な染色は無かった。OD600によって測定される細菌細胞増殖および台座構造形成(示さず)を遮断する1化合物、B11(ウェルの位置、化合物#23)を同定した。B11は、抗生物質マイトマイシンの誘導体であることが判明した。アクチン台座構造を阻害すると思われるが、細菌増殖には影響を及ぼさない第2の化合物、G6(化合物#78)を同定した(図31C)。この化合物は、T4Damに対してDOCKによって同定され、より詳細に分析するために選択された。いくつかの時点でOD600を測定することによって、G6は細菌増殖に影響を及ぼさないことが示された(赤線、図32)。さらに、高倍率でも付着した細菌の近隣には台座構造は全く見られず(63×、図33j)、G6は3T3細胞にそれほど大きな細胞病理学的効果を有さなかった。
【0149】
[00189] 台座構造形成は、下痢の発症と強く相関しているが、疾患の開始との関係は十分には理解されていない。ここで重要なことは、台座構造形成は病原性大腸菌のビルレンスの指標であり、ハイスループット薬剤スクリーニングプロトコルで容易に扱いやすいことである。台座構造を形成するために、EPECは最初に上皮細胞に緩く付着し、次いでそのIII型分泌系を宿主細胞原形質膜に挿入し、宿主細胞質および膜に、転位インティミン(intimin)受容体(Tir)(Kenney他、1999)を含むいくつかのビルレンス因子を分泌する(Goosney他、2000)。化合物G6の細菌ビルレンス因子Tirの発現に対する効果も評価した。図33gに示したように、Tir染色は、感染細胞のアクチン台座構造で明らかであった。しかし、化合物G6で処理された細胞では、Tir染色は付着した細菌の近隣には全く見られなかった(図33k)。これらのデータは、化合物G6がTirの発現または分泌を直接的または間接的に阻害したことを示し、増殖に影響を及ぼさずに細菌ビルレンスを阻害する化合物のスクリーニングにアクチン台座構造を使用できるという「原理の証明」をもたらす。したがって、培養繊維芽細胞における台座構造形成は、細菌のビルレンス因子発現の指標であり、動物モデルにおける疾患の発症と強く相関している。したがって、台座構造形成は、Dam MTアーゼ阻害剤機能を評価するための適切なアッセイである。
【0150】
[00190] 図31〜33に示したように、(EPEC)によるアクチン台座構造の形成は、ビルレンスを阻害する薬剤のスクリーニングに使用できる。対照として、Dam MTアーゼをコードする遺伝子が非極性的に欠如したEPEC株による台座構造形成を評価する。これを実施するために大腸菌遺伝子を不活性化する非常に効果的な手段である、Datsenko and Wannerの方法を使用する。この方法は、tnaAに非極性的欠失を起こさせるために使用された。簡単に説明すると、この方法は、PCRおよびバクテリオファージλ Red組換え系を利用しており、プラスミドベクターで遺伝子破壊を行うのに労力を要するプロセスを回避している。Red系は、3種の遺伝子生成物、Gam、BetおよびExoをコードする。Gamは、BetおよびExoが線状DNA末端に接近して組換えを促進することができように、宿主RecBCDエキソヌクレアーゼVを阻害する。クロラムフェニコール(Cm)耐性遺伝子を取り囲む2個のFRT(FLP認識標的)部位に隣接したDam近傍配列を含有する線状DNAを作製するためにPCRを使用する。この生成物を(メチル化(非増幅)鋳型DNAを除去するために)DpnIで処理し、再精製し、次にRedヘルパープラスミドpKD46を含有するEPEC株にエレクトロポレーションする。Red遺伝子を誘導するために、変異体をクロラムフェニコールおよびアンピシリンおよびL−アラビノース1mMを含有するLB寒天で選択する。変異体を非選択的培地で継代し、(Ampをそれらにもたらす)Redヘルパープラスミドを分離的に除去させる。欠失した遺伝子の再組換えによる挿入は、適切なプライマーを使用したPCR分析によって確認される。catの除去は、43℃で増殖させることによって回復可能なFLPレコンビナーゼをコードするヘルパープラスミドを使用して実施する。この領域から作製したPCR生成物を、欠失を確認するために配列決定する。Dam表現型は、DpnI消化に対する耐性およびDpnII消化に対する感受性によって示される。欠失株の補足アッセイは、適切なプラスミドからDamタンパク質を発現することによって実施される。Dam欠失株は、アクチン台座構造アッセイおよびマウスビルレンスアッセイの対照として使用する。
【0151】
[00191] in vitroアッセイで阻害が同定された化合物が、細胞をベースとしたアッセイではアクチン台座構造形成に影響を及ぼさない理由は、おそらく化合物が細菌に入ることができないからである。このようなことが起こっているのならば、当分野で知られているように、化合物が細菌に入れるように最適化することができる。これらの化合物が細菌増殖およびメチル化に影響を及ぼすかどうかを試験するために、pUC19プラスミドを有する大腸菌培養物を様々な濃度の阻害剤の存在下で増殖させる。メチル化状態を分析するために、このプラスミドを単離し、制限酵素DpnI(メチル化DNAのみを切断する)およびKpnII(非メチル化DNAのみを切断する)で消化する。このアッセイにおけるメチル化のいかなる欠如も、阻害剤が細菌細胞に入り、Dam活性を阻害することができることを示す。(T4DamについてDOCKによって同定された)40個のNCI化合物を50μMで測定したところ、いくつかの化合物が少し不完全なDpnI消化を示した(図34AのI56)。
【0152】
[00192] 細菌においてメチル化活性の大部分を阻害する必要性から、より感度のよいアッセイが必要ならば、その他の細菌をベースとしたアッセイを使用することができる。このようなアッセイの1つを図34Bに概略する。DpnII制限酵素を発現するプラスミドをDH5αに導入する。(DpnII過剰発現プラスミドの利用性によって示されたように)DH5αのゲノムは通常メチル化されるので、非メチル化DNAのみを切断するDpnIIの遺伝子には十分耐性であるだろう。細菌性Dam活性を阻害剤によって遮断すると、非メチル化DNAが生じ、DpnIIによって切断されて、細胞死が引き起こされ得る。DpnIIプラスミドを有する、および有さないDH5αをマイクロタイタープレートで潜在的阻害剤の存在下で増殖させ、その増殖速度をモニターする。DpnIIを含有する培養物の増殖のみに影響を及ぼす阻害剤がDam MTアーゼの阻害剤になりそうである。
【0153】
[00193] マウスにおけるリードDam MTアーゼ阻害化合物のスクリーニング。マウス病原体シトロバクターロデンティウムは、病原性大腸菌疾患のモデルである。C.ロデンティウムは結腸でコロニーを形成し、A/E病変、結腸過形成およびヒトにおけるEPEC効果を示唆する炎症を引き起こす。マウスのサルモネラ感染のために開発された取り組みを使用して、C57BL/6マウスにEPECを感染させた。Barthel他、2003。この取り組みは、腸内細菌叢を除去しないが、減少させる短期ストレプトマイシン処理を利用する。ストレプトマイシンで処理したマウスにEPEC(Str)を感染させると、結腸がコロニー形成し、感染後(=pi)7日で上皮過形成が生じ、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)レベルによって測定されるように好中球動員が増加した(図35)。このEPEC病理発生のin vivoモデルは、抗菌剤としてのリードDam MTアーゼ阻害剤の効果を確立するために使用される。
【0154】
[00194] 付着性および微絨毛消滅性(A/E)病変は、EPECおよびC.ロデンティウムが結腸にコロニー形成するために必須である。したがって、in vitroにおいてA/E病変を遮断するDam MTアーゼ阻害剤が(予備結果を参照)in vivoにおいて細菌負荷を減少させることを期待する。EPECまたはC.ロデンティウムを経口摂取すると、pi10日までに結腸組織1グラム当たり10〜1010コロニー形成単位(CFU)を生じる。一般的に、この病原体は正常な成体マウスではpi6週間までに除去される。最初の実験で非感染マウスにおける化合物の安全性および生体利用効率を決定する。皮下に設置したAlzet浸透圧ポンプによってこの化合物を送達させる(Reeves他、2005)。これらのポンプは、薬剤を継続的に送達する能力を備え、そのため、生体利用効率に対する薬剤半減期の効果は最小限に抑えられる。血清中の薬剤レベルは、液体クロマトグラフィー質量分析によって測定する。血中酵素レベルの徹底的な検査を実施し、剖検によって病理学的なその他の証拠を探す。
【0155】
[00195] 次に、EPECまたはC.ロデンティウム感染マウスで細菌レベルに対するリード化合物の効果を測定する。C57BL/6マウスにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)200μLに溶かした2.5×10CFUを経口感染させた。このマウスを薬剤または担体で10日間処理した。pi10日に、マウスを殺処分し、結腸を採取し、機械的にホモゲナイズして、連続的に希釈した。生きた細菌の数を、グラム陰性生物を選択するMacConkey寒天に接種することによって測定する。C.ロデンティウムコロニーは、中心がピンク色で縁が白いので容易に識別される(Wei他、2005)。次に、薬剤が感染マウスにおける細菌関連病変を減じるかどうかを測定する。マウスにおけるC.ロデンティウムまたはEPEC感染は体重減少、活力減退、下痢、毛並みの乱れおよび猫背を引き起こす(データは示さず)。免疫適格性マウスは、pi6週目に感染から治癒し、正常な外観および活動を回復することができる。回復前に殺処分されたマウスでは、結腸の組織化学的分析によって塊(過形成)の明らかな増加、腸陰窩高、リンパ球および顆粒球の浸潤が明らかである(Wei他、2005)。
【0156】
[00196] A/E病変形成を防ぐ薬剤は、感染したマウスのEPECまたはC.ロデンティウム関連疾患パラメーターを減少させる。マウスを経口的に感染させ、薬剤または担体で処理する。現実的な臨床設定に近づけるために、第2群のマウスに疾患の徴候が表れたとき(一般的にpi10日)、薬剤または担体で処理する。マウスの体重を毎日測定し、身体的苦痛の徴候(倦怠感、猫背、肛門周辺染色)を視覚的に確認する。pi14日および24日にマウスを殺処分し、結腸の疾患の徴候を組織学的に調べる(3μmの切片に切断し、ヘマトキシリンおよびエオジンで染色する)。腸陰窩高をマイクロメーターで測定し、処置群を知らされていない観察者がマウスの外観の等級付けを行う。それぞれの状態、倦怠感、毛並みの乱れ、直腸脱、肛門周辺染色に1点を割り当てる(最高点=4、最低点(健康)=0)。腸陰窩高および体重の結果を平均値+/−1標準誤差として表す。処理群には、少なくとも10匹のマウスを含める。統計学的分析は、マンホイットニーt検定によって計算し、p<0.01は有意と見なした。薬剤処理群の病変スコアが減少すれば、薬剤治療はC.ロデンティウム疾患の予後に肯定的な影響を及ぼすものと結論付けることができる。
【0157】
[00197] マウスにおける薬剤送達の方法。薬剤送達および検出系を一緒にした感染モデルを使用することができる。例えば、ポックスウイルスビルレンスにおけるAblファミリーチロシンキナーゼの役割(Reeves他、2005)は、マウスにおけるウイルス拡散および生存率に対するAblキナーゼ阻害剤(例えば、Gleevec and PD−166326)の効果を調べることによって確立された。液体クロマトグラフィー質量分析を使用してマウス血清中におけるこれらの化合物を検出し、マウスにおけるこれらの化合物の半減期を測定するための方法を開発した(Wolff他、2005)。これらの技術は、血清試料中のDAM MTアーゼ阻害化合物の検出に容易に適用できる。いくつかの化合物は、口腔洗浄によって送達できるが、その他のものはマウスで測定された半減期は短く(約4時間)、感染前後に皮下に設置した連続放出Azlet浸透圧ポンプによって送達する必要がある。化合物の可溶化、またはそれとは別に生体利用効率の増加といったその他の方法を使用することができる。これらの方法を組み合わせて、マウスにおける病原性微生物によって引き起こされる感染をうまく治療することを可能にした。
【0158】
[00198] 阻害機構の研究。阻害機構、AdoMetまたはDNAと競合、反競合、または非競合の機構を明らかにするために、3種のリード化合物の作用機構を反応速度論的に分析する。阻害剤が補酵素結合、特異的DNA結合または構造的変化を妨害するかどうかに関する情報は、ドッキング研究に基づいた予測と比較することができる。最終的に、Dam阻害剤複合体の共結晶化を実施する。Dam阻害剤複合体構造から得られた情報は、より望ましい薬理学的特性を備えた化合物ライブラリーの合成によって、同一の機能的コア構造に関する誘導体を生じる構造的変動部位を同定するために使用する。
【0159】
[00199] 反応速度論的研究は、補酵素およびDNA結合をさらに研究するために様々な他の確立されたアッセイによって補足することができる。
【0160】
[00200] DNA結合研究。EcoDamおよびその他のMTアーゼによるDNA結合は、ニトロセルロールフィルター結合および表面プラズモン共鳴(BiaCore)を使用して研究することができる。これらのアッセイによって、平衡結合定数および結合平衡に対する阻害剤の効果の迅速で信頼できる測定が可能である。SPR BiaCoreはまた、DNA結合および遊離の速度定数の測定を可能にする。
【0161】
[00201] AdoMet結合研究。EcoDamに対するAdoMet結合の反応速度論は、Trp10に対する固有蛍光の変化によって直接モニターすることができる(Liebert and Jeltsch、未公表)。蛍光効果は、2要素および3要素複合体で検出することができる。したがって、このアッセイによって、AdoMet結合に対する阻害剤のいかなる効果も直接高い感度で測定することが可能である。
【0162】
[00202] 標的塩基フリッピング(2APをベースにしたアッセイ)。本発明の目的は、特異的GATC部位に対するDam酵素の結合および立体構造変化を特異的に妨害する阻害剤を開発することである。メチル化より先に生じる酵素−DNA複合体の最も印象深い構造変化は、DNAらせんの外への標的塩基のフリッピングである。塩基フリッピングの機構は、2−アミノプリンを含有する基質を使用したストップトフロー反応速度論によって研究されてきた。この塩基アナログは、DNA屈曲および塩基フリッピングの後に強い蛍光シグナルを生じ、EcoDam中の2−アミノプリンシグナルは塩基フリッピングに相関する(Liebert他、2004)。この測定の結果は、塩基フリッピングおよびDNA認識が強くつながり絡み合ったプロセスであることを示している。塩基フリッピングは2相様式で生じ、第1に標的塩基は非常に速い反応でDNAの外側に回転し、その後、この標的塩基は酵素と緊密に接触して、活性部位ポケット内に配置する(Liebert他、2004)。標的塩基の結合ポケットに結合する阻害剤は、塩基フリッピングを特異的に妨害することができる。平衡化した2−アミノプリン蛍光にしたがって、迅速な反応速度論的方法を使用することによって、この立体構造変化に対するMTアーゼ阻害剤の潜在的な影響を調べることができる。
【0163】
[00203] 図36(Yang他、Nature Structural Biology、10:849〜855)は、選択したDam MTアーゼオルソログの配列データをまとめて示す。SWISSPROTデータベースアクセション番号は、バクテリオファージT4(T4dam−P04392)、大腸菌(EcoDam−P00475)、制限−修飾MTアーゼ(EcoRV−P04393)およびDpnIIA(P04043)である。T4Damの2次構造を、配列の上に示す(円柱はらせん、矢印は鎖)。図37は、X線回折によって得られたEcoDam−AdoMet−DNA3要素複合体の三次元構造である。
【0164】
[00204] 置換基の群を本明細書で開示するとき、群構成メンバーの任意の異性体および鏡像異性体を含む群および下位群全部の個々の構成メンバー全て、ならびに置換基を使用して形成され得る化合物種は別々に開示されることを理解されたい。1化合物を特許請求するとき、本明細書で開示した参考文献で開示されている化合物を含む当分野で公知の化合物は含まれないものとすることを理解されたい。マルクーシュ(Markush)群またはその他の群分けを本明細書で使用するとき、その群の個々の構成メンバー全てならびに群の可能性のある全組み合わせおよび下位組み合わせは個々に開示に含まれるものとする。
【0165】
[00205] 説明した、または例示した成分の全製剤または組み合わせは、特記しない限り本発明を実施するために使用することができる。当業者が同一の化合物を様々に呼ぶことができることが知られているので、化合物の特定の名称は例示のためとする。例えば、式または化学名で、化合物の特定の異性体または鏡像異性体を明記しないように1化合物を本明細書で記載するときは、その記載は、個々に、または組み合わせて記載した化合物のそれぞれの異性体または鏡像異性体を含むものとする。当業者は、具体的に例示されたもの以外の方法、装置要素、開始物質、合成方法、構造、ライブラリーおよびアッセイは、不適切な実験に頼らずに本発明の実施で使用できることを理解するだろう。このような方法、装置要素、開始物質、合成方法、構造、ライブラリーおよびアッセイの当分野で公知の機能的同等物は全て、本発明に含まれるものとする。明細書において範囲、例えば、温度範囲、時間範囲、または組成物範囲が与えられるときはいつでも、中間の範囲および小範囲全て、ならびに与えられた範囲に含まれる個々の値は、この開示に含まれるものとする。
【0166】
[00206] 本明細書では、「含む(comprising)」は、「含む(including)」、「含有する(containing)」または「特徴とする(characterized by)」と同義で、包括的または制限がなく、他の引用していない要素または方法ステップを除外しない。本明細書では、「からなる(consisting of)」は、特許請求項で明記していない要素、ステップまたは成分を除外する。本明細書では、「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲の基礎的で新しい特徴に著しく影響を及ぼさない物質またはステップは除外しない。特に、組成物の成分の説明または装置の要素の説明における「含む(comprising)」という用語の本明細書での説明は、引用した成分または要素から本質的になる組成物および方法を包含するものと理解される。本明細書で適切に例示して説明された本発明は、本明細書で具体的に開示されていない要素、制限等がなくても実施することができる。
【0167】
[00207] 正確な製剤、投与経路および用量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択することができる(例えば、Fingl他、「The Pharmacological Basis of Therapeutics、1975、Ch.1.p.1参照)。
【0168】
[00208] 主治医は、毒性、または器官不全が原因で、投与をどのように、いつ終了、中断または調節するかを承知していることに注意されたい。反対に、主治医はまた、臨床反応が不適切な場合(毒性を除いて)、処置をより高レベルに調節することを承知している。関心のある障害の管理において、投与量を治療する状態の重症度および投与経路によって変化させる。状態の重症度は、例えば、部分的には、標準的予後評価法によって評価することができる。さらに、用量およびおそらく投与頻度はまた、個々の患者の年齢、体重および応答によって変化するだろう。前記で考察したものと同等のプログラムはまた、獣医薬で使用することができる。
【0169】
[00209] 治療する特定の状態および選択された標的化方法に応じて、このような薬剤は製剤され、全身的または局所的に投与することができる。製剤化および投与の技術は、Alfonso and Gennaro(1995)に見いだすことができる。適切な経路は、例えば、経口、経直腸、経皮、経膣、粘膜内、または腸内投与、筋肉内、皮下、または脊髄注射、およびクモ膜下腔内、静脈内、または腹腔内注射を含む非経口的送達を含むことができる。
【0170】
[00210] 注射用には、本発明の薬剤は、水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル液、または生理食塩水緩衝液などの生理学的に適合した緩衝液で製剤化してよい。経粘膜投与用には、浸透すべきバリアーに適した浸透剤を製剤中に使用する。このような浸透剤は、当分野では一般的に知られている。
【0171】
[00211] 本発明を実施するために本明細書で開示した化合物の製剤化するために、薬剤として許容される担体を全身投与に適した投与薬剤に使用することは、本発明の範囲内である。担体を適切に選択し、適切に製造を実施して、本発明の組成物を、特に溶液として製剤化された組成物を非経口的に、静脈注射などによって投与することができる。適切な化合物は、経口投与に適した投与薬剤に当分野で周知の薬剤として許容される担体を使用して、容易に製剤化することができる。このような担体は、本発明の化合物を、治療する患者によって経口摂取されるように、錠剤、丸剤、カプセル、液剤、ジェル、シロップ、スラリー、懸濁物などとして製剤化することができる。
【0172】
[00212] 細胞内に投与するように企図された薬剤は、当業者に周知の技術を使用して投与することができる。例えば、このような薬剤は、リポソームに封入することができ、次に前述のように投与することができる。リポソームは、水性内部を有する球状の脂質二重層である。リポソーム形成のときに水性溶液中に存在する分子は全て、水性内部に取り込まれる。リポソーム内容物は、外部微小環境から保護されると同時に、リポソームは細胞膜と融合しているので、細胞質に効果的に輸送される。さらに、疎水性であることによって、有機小分子は、直接細胞内に投与されてもよい。
【0173】
[00213] 本発明での使用に適した医薬組成物には、活性成分が企図する目的を実現するのに有効な量で含有される組成物が含まれる。有効量の決定は、特に、本明細書で提供した詳細な開示を踏まえて、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0174】
[00214] 活性成分に加えて、これらの医薬組成物は、賦形剤および、活性化合物の薬剤として使用できる調製物への加工を容易にする補助剤を含む適切な薬剤として許容される担体を含有することができる。経口投与用に製剤化された調製物は、遅延放出するため、または薬剤が小腸または大腸に到達したときにのみ放出されるために製剤化されたものを含む、錠剤、ドラジェ、カプセルまたは溶液の形態であってよい。
【0175】
[00215] 本発明の医薬組成物は、従来の混合、溶解、顆粒化、ドラジェ生成、浮揚、乳化、カプセルへの密封、封入、または凍結乾燥方法によって、それ自体公知の方法で製造することができる。
【0176】
[00216] 非経口投与用医薬製剤には、水溶性形態の活性化合物の水性溶液が含まれる。さらに、活性化合物の懸濁物は、適切な油状注射懸濁物として調製することができる。適切な親脂質性溶媒または媒体には、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームが含まれる。水性注射懸濁物は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランなどの懸濁物の粘度を増加させる物質を含有することができる。場合によって、この懸濁物はまた、適切な安定化剤または高濃度溶液の調製を可能にする化合物の溶解度を増加させる薬剤を含有することができる。
【0177】
[00217] 経口使用のための医薬品調製物は、活性化合物を固形賦形剤と一緒にして、場合によって得られた混合物を粉砕して、所望するならば、錠剤またはドラジェコアを得るために、適切な補助剤を添加した後、顆粒混合物を加工して得ることができる。適切な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖などの注入剤、例えば、トウモロコシ澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉、馬鈴薯澱粉、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース調製物である。所望するならば、架橋結合ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどのそれらの塩などの崩壊剤を添加することができる。
【0178】
[00218] ドラジェコアには、適切なコーティングを施す。この目的のために、場合によってアラビアガム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコールおよび/または2酸化チタン、ラッカー溶液および適切な有機溶媒または溶媒混合物を含有することができる濃縮糖溶液を使用することができる。染料または顔料は、同定のために、または活性化合物投与の様々な組み合わせを特徴付けるために錠剤またはドラジェコーティングに添加することができる。
【0179】
[00219] 経口に使用できる医薬品調製物には、ゼラチンでできている押し込み型カプセル、ならびに、ゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤でできている密封式軟カプセルが含まれる。押し込み型カプセルは、ラクトースなどの注入剤、澱粉などの結合剤、および/またはタルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの光沢剤、場合によって安定化剤と混合して活性成分を含有することができる。軟カプセルでは、活性化合物は、脂肪油、液体パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体に溶解または懸濁することができる。さらに、安定化剤を添加することができる。
【0180】
[00220] 本願明細書を通して、文献を挙げた表9を含む参考文献、例えば、交付された、または登録された特許または同等物を含む特許文書、特許出願公報および非特許文献文書またはその他の情報源材料は全て、まるで、個々が参考として援用されるように、各参考文献が本願明細書の開示と少なくとも部分的に不一致ではない範囲まで、参考として本明細書に援用される(例えば、部分的に不一致な参考文献は、参考文献の部分的な不一致な部分を除外して参考として援用される)。
【0181】
【表1】

【0182】
【表2】

【0183】
【表3】

【0184】
【表4】

【0185】
【表5】

【0186】
【表6】

【0187】
【表7】

【0188】
【表8】

【0189】
【表9−1】

【0190】
【表9−2】

【0191】
【表9−3】

【0192】
【表9−4】

【0193】
【表9−5】

【0194】
【表9−6】

【0195】
【表9−7】

【0196】
【表9−8】

【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】DamによるDNAアデニンメチル化を示す図である。Damは、GATC配列のアデニン残基において、AdoMetからN6原子へのメチル基の転移を触媒する。
【図2】T4Dam−AdoHcy構造を示す図である。A.AdoHcyと複合体を形成しているT4Damの2次構造をリボンで表した図である(ボールスティックモデル)。B.ヘアピンループは、DNA(配列特異的および非特異的)相互作用に関連する保存された残基を有する。C.選択されたDam MTアーゼオルソログのヘアピンループの配列アラインメント。Sty:サルモネラ・チフィムリウム、Sma:セラチア・マルセッセンス、Ype:エルシニア・ペスティス、Vch:ビブリオ・コレラ。
【図3】T4Dam−AdoHcy−12塩基DNA構造を示す図である。Dam複合体の12塩基DNAへの非特異的結合の2つの直交投影図。A.分子Aは、1個のDNA分子に結合し、分子Bは2個のDNA分子の結合部に結合する。B.DNAのらせん軸の下視図である。C.分子Bのヘアピンループは、DNA結合部の近くにあるが、DNAとは特異的な接触を行わない。
【図4】T4Dam−AdoHcy−13塩基DNAの3次構造を示す図である。この構造は登録されている(PDB 1YF3)。A.2個のDNA分子(右側に示す。らせん軸はページから突き出ている。)は、互いに相手のDNA軸に対して垂直にずれている。B.非特異的複合体(分子A)および1/4−部位認識複合体(分子B)におけるタンパク質−DNA接触の概略を示す図である。C.結合部に結合したDam(分子B)のヘアピンループのF111は5’Thyに重なる。D.R116−Gua、P126−ThyおよびM114−Thyでは、特異的相互反応が認められる。
【図5】T4Dam−AdoHcy−15塩基DNAの構造を示す図である。この構造は登録されている(PDB 1YFJ)。A.2個のDNA2本鎖の間の結合部は全て、CまたはDとして示されたDam分子によって占有され、他方、1個の特異的GATC部位のみが分子Eと結合する。B.Dam分子CのヘアピンループのF111は、2個の5’Thyに重なる。C.R116、P126、M114、S112、G128およびR130によって特異的相互作用が媒介される。
【図6】T4DamF111の挿入を示す図である。(A)分子Eと標準GATC部位との間の相互作用。水色の破線の円は、フリッピングしたAdeを示す。T4DamのDNAへの挿入領域は、濃青色の破線の円で示し、右図に拡大して示す。分子EのF111はAT塩基対とThy:S112「塩基−アミノ酸」対の間に挿入する。(B)AdoMet、AdoHcyおよびシネフンギンの化学構造。(C)シネフンギン存在下での活性部位の立体構造(PDBコード1YFL)。変化しないN末端残基K11は、D171およびY174の側鎖ならびにG9の主鎖カルボニル酸素と相互作用し、同様のD171−K11−Y174相互作用は、T4Dam−AdoHcyの2次構造においても認められた(Yang他、2003)。K11S置換により実質的に酵素活性が消失するので、このD171−K11−Y174相互作用は正常な機能に必須なようである(V.G、Kossykh、S.L.Schlagman and S.H.、未公表データ)。K11のアミノ基はまた、標的Adeの環N1原子に隣接する。M.EcoRVの対応するLysの変異体(K16R)は、標的塩基に対する特異性の改変を示した(Roth and Jeltsch、2001)。
【図7】非標準部位との相互作用を示す図である。(A)オレンジ色で示したDNA分子の中央AT重なりへの分子EによるF111の挿入は、1塩基対の延長を効果的に引き起こす。この延長は、隣接する2本鎖(赤紫)の2個の不規則なヌクレオチド(影付き)を生じる。(B)分子Dと非標準部位との間の相互作用。赤紫DNAのオーバーハングした5’−Thyが突出して、外見上不規則になり、次の塩基対のCytがDam分子DのF111と重なることになる。(C)R130および外部G:C塩基対、並びにS112−Cytの詳細な相互作用。
【図8】EcoDam変異体の生化学分析を示す図である。(A)特定の複合体におけるタンパク質−DNA塩基接触の概略およびT4Dam(G110−T131、認識配列GATC)、EcoDam(G118−K139、認識配列GATC)およびEcoRV(C122−P143、認識配列GATATC)のβヘアピンループの配列アラインメント。フリッピングした標的塩基は影付きXで示す。EcoDamに生じた点突然変異を示す(残基の番号の違いに注意)。T4Damのin vivoにおける通常の基質は、Cytの代わりにグリコシル化5−ヒドロキシメチル−Cyt(hmCyt)を有するファージDNAであることに注意されたい。ファージhmCyt含有DNA(グリコシル化があってもなくてもよい。)は、EcoDamによってメチル化されない(Hattman、1970)。本明細書に示した構造から明らかなように、回文構造のGATC部位においてCyt塩基(Cyt1またはCyt4)はいずれもT4Damとは接触しない。特定の複合体では、タンパク質とこれらの塩基との間の最短距離は、Cyt4からV178までの6.3Å、およびCyt1からK129までの7.7Åである。この点に関して、EcoDamは両方の位置、すなわち、V178に隣接した6個の追加的残基およびK129に隣接した2個の追加的残基に挿入物を有する(Yang他、2003の図1参照)。EcoDamのこれらの追加的残基は、いずれかのhmCyt塩基(または両方)のヒドロキシメチル基と立体的に衝突し、DNAのメチル化から酵素を防御することができる。野生型EcoDamおよびその変異体のシングルターンオーバーDNAメチル化速度(B)およびDNA結合親和性(C)。EcoDam変異体はクローニングされ、大腸菌で発現し、均一に精製された。
【図9】EcoDamの特異性プロファイルを示す図である。(A〜E)野生型および変異体のシングルターンオーバーメチル化速度を、コグネイトGATC(水色の棒)およびニアコグネイト基質9種全てについて示す。水平軸上には、変異したGATC部位の3個の位置を示す(G=GATC、T=GATC、C=GATC)。右の軸には、各位置に導入された新たな塩基を明記する(一例については図12参照)。酵素および基質の各々の対のメチル化速度を垂直軸に示す。(A)野生型、(B)R124A、(C)P134A、(D)P134Gおよび(E)L122A。(F〜H)GATC配列の4番目(S4)(F)および3番目(S3)の位置の認識に関するEcoDam変異体の特異性因子および全特異性因子(H)。値は全て、野生型に対する相対的変化で示す。野生型EcoDamの特異性因子は540であり、この値はL122A変異体の場合少なくとも30倍に増加した。L122A変異体ではニアコグネイト部位で活性が検出されなかったので、ここに挙げた特異性因子が下限であり、矢印で示してある。R124A、P134AおよびP134G変異体の特異性は劇的に減少した。その他の変異体全ての特異性因子は、野生型酵素と比較して大きな変動を示さなかった。
【図10】DNA軸に対するタンパク質ヘアピンループの向きによって示されたT4Dam−DNA複合体構造のスナップ写真を示す図である。(A)リン酸接触に関与するR130との非特異的複合体。(B)リン酸接触に関与するR116との非特異的複合体。(C)塩基特異的接触に関与するR116、リン酸接触におけるN118およびR130との1/4部位複合体。(D)塩基特異的接触に関与するR116およびR130、リン酸接触におけるN118との3/4部位複合体。(E)非標準部位との相互作用、および(F)全部位複合体。
【図11】(A)3/4部位複合体、(B)非標準部位および(C)特異的全部位におけるタンパク質−DNA接触の概略を示す図である。
【図12】EcoDam変異体の特異性プロファイルを示す図である。WT EcoDamおよびY119A、N120AおよびS、R137A、Y138AおよびK139A変異体の特異性プロファイルを示す。この図では、野生型および変異体のシングルターンオーバーメチル化速度を、コグネイトGATC(水色の棒)およびニアコグネイト基質9種全てについて示す。水平軸上には、変異したGATC部位の3個の位置を示す(G=GATC、T=GATC、C=GATC)。右の軸には、各位置に導入された新たな塩基を明記する。酵素および基質の各々の対のメチル化速度を垂直軸に示す。
【図13】EcoDam−AdoHcy−12塩基DNAの構造を示す図である。明確化のために、第2のDNA分子は示していない。(B)はDNA分子のらせん軸の下視図である。
【図14】EcoDam−AdoHcy−12塩基DNAの構造を示す図である。2個のDNA2本鎖(太字のものおよび太字でないもの)は逆向きに重なり合い、1個のGATC部位は各2本鎖の中央にあり、もう1個は2個の2本鎖の結合部位にある。らせん外の位置のヌクレオチドは、青丸の中に影をつけてある。(B)分子Aは、各DNA2本鎖の中央のGATC部位に結合し、他方、EcoDam分子Bは2個のDNA2本鎖の結合部に結合する。(C)EcoDamは2個のドメイン、すなわちAdoHcyの結合部位(スティックモデルで表す。)を備えた7本鎖触媒ドメイン、ならびに5本のヘリックスの束、およびGATC関連MTアーゼオルソログのファミリーで保存されているβヘアピンループから成るDNA結合ドメインを含有する。青緑色のN末端残基7〜10はまた、DNAと相互作用する(E参照)。(D)EcoDamおよびT4Damの比較。T4Damでは、残基6個分短い活性部位ループが弁の閉じた(closed−flap)補因子結合部位の形成に関与し(Yang他、2003)、他方、β6鎖とβ7鎖との間の残基は不規則であり(Yang他、2003)、結晶充填接触に関与するときにのみ規則正しくなる(Horton他、2005)。(E)分子A(赤)および分子B(灰色)のタンパク質−DNA接触の概要。相互作用を媒介する主鎖は、主鎖アミン(N)またはカルボニル(O)で示されている。簡単にするために、相互作用を媒介する水(w)を1個のみ示す。1組のDNA2本鎖(青)に注目すると、22個のリン酸基のうち20個は3個のEcoDam分子(A、B、および対称性を有する分子B)と相互作用する。したがって、最適な結晶化のために使用したオリゴヌクレオチドの選択された長さ(12塩基対)および末端配列は、充填の結晶格子におけるDNA−タンパク質相互作用およびDNA媒介タンパク質−タンパク質相互作用を最大化した。EcoDam相互作用に関与しないリン酸基は2個だけであり、これは中央GATC部位の2個のThyの5’リン酸であり、これらは結合部のGATC部位において失われたリン酸である。オーファンThyのすぐ側のリン酸基は、S198(高い熱B因子を有する)、すなわち構造化されていないループ(残基188〜197)の後ろの最初の規則正しい残基と全く相互作用しない(5’リン酸)か、または弱く相互作用する(3’リン酸)のみである。束縛の少ない立体構造によって、オーファン部位のDNA主鎖の周りの結合回転が可能であり、Thyはらせん外の位置に移動し、Thy−N120相互作用を妨害する。
【図15】EcoDam−DNA塩基相互作用を示す図である。(A)標的Adeは、DPPYモチーフにより形成された活性部位ポケットの外側の端で、選択的ヌクレオチド結合部位に結合している(左図)。この標的Adeは、平均を3.5σ上回る輪郭を描いた電子密度地図略図(塩基およびリボースを省く。)と重なる(中図)。DNA主鎖の3個の結合の周りが大きく回転することによって、Adeは活性部位に挿入される(右図)。M.Taql−DNA複合体で示されたように(Goedecke他、2001)、AdoHcyの硫黄原子上に付けられた転移可能なメチル基は、Ade塩基の平面の外に横たわり、標的窒素原子の脱共役孤立電子対と符合し、直線方向へのメチル基転移(矢印で示した。)のための位置を取る。(B)中央GATC部位を有する青DNA2本鎖の主溝中の分子A(赤)のヘアピンループ。(C)GATCの第1塩基対(G:C)との相互作用。点線は水素結合を表す。(D)平均を3.5σ上回る輪郭を描いた電子密度地図略図と重なり、R137の側鎖と重なったフリッピングオーファンThy。オーファン塩基の局所的立体構造変化はまた、M.HaeIII−DNA(塩基修復)(Goedecke他、2001、Reinisch他、1995)およびM.TaqI−DNA構造(らせんの中央への塩基移動)(Goedecke他、2001、Reinisch他、1995)において認められた。2個の塩基フリッピングは、DNA修復酵素エンドヌクレアーゼIVおよびそのDNA基質の構造(Hosfield他、1999)ならびに2AP−含有DNAを使用したMutYアデニンDNAグリコシラーゼによるストップトフロー蛍光研究(Bernards他、2002)において既に認められている。しかし、MutY−DNA損傷含有複合体の構造において、oxoG損傷は完全にDNA複合体中にあり、他方、Adeはフリッピングした(Fromme他、2004)。これらのことを考えると、これらの研究は、EcoDamに結合したオーファンThyのように、oxoGはらせん内部またはらせん外部のいずれかに位置することができることを示唆している。(E)GATCの第3塩基対(T:A)との相互作用。メチル基はAdeの環外アミノ窒素N6原子上に付けられている。両矢印はファンデルワールス接触を示す。(F)GATCの第4塩基対(C:G)との相互作用。(G)2個のDNA2本鎖の結合部におけるオーファンThy−N120の相互作用。このThy−N120相互作用は、T4DamのThy−S112(Horton他、2005)、M.HhaIのGua−Q237(Klimasauskas他、1994)など、塩基フリッピング酵素のタンパク質側鎖−オーファン塩基相互作用と同様である。(H)2本のDNA分子(緑および青)の結合部における分子B(赤)のヘアピンループ。第1、第3および第4塩基対の相互作用は、分子A(図B参照)のものと同一である。
【図16】N末端K9による第1塩基対の認識を示す図である。(A)2つの領域、βヘアピンループおよびN末端ループにおけるEcoDamおよびT4Damのペアワイズ配列アラインメント。赤色の残基は、部位特異的変異誘発の標的である。(B〜C)EcoDam野生型(B)およびK9A変異体(C)の特異性プロファイル。野生型およびK9A変異体のシングルターンオーバーメチル化速度を、コグネイトのヘミメチル化GATC基質(水色の棒)およびニアコグネイトヘミメチル化基質9種全てについて示す。水平軸上には、変異したGATC部位の3個の位置を示す(G=ATC、T=GAC、C=GAT、M=N6mA)。右の軸には、各位置に導入された新たな塩基を明記する。酵素および基質の各々の対のメチル化速度を垂直軸に示す(対数目盛に注意)。(D)GATC配列の最初の位置(S1)の認識に関するEcoDam変異体の特異性因子(実験方法で定義した)。この値は、野生型に対する相対的変化で示す。GATCの第3または第4塩基対がK9A変異体で改変されたニアコグネイト部位では活性が検出されなかったので、ここに挙げたS1因子が下限であり、矢印で示した。野生型EcoDamおよびK9Aの特異性因子は、図BおよびCに挙げたデータを用いて計算し、その他の全変異体のデータはHorton他、2005から得た。
【図17】EcoDamおよびその変異体の塩基フリッピングを示す図である。(A)EcoDam存在下でのいくつかのDNA基質の蛍光強度。この図は、標的Ade(青色の曲線)、オーファンThy(オレンジ色の曲線)、最初の対のGua1位置(緑色の曲線)およびGATCのすぐ隣の5’位(赤色の曲線)の位置の2APの蛍光を示す。ピンク色の曲線は、対照のフリーなDNA(ヘミメチル化G−2AP−TC)を示し、黒色の曲線はフリーな酵素を示す。(B)EcoDamおよびその変異体の結合中のヘミメチル化G−2AP−TCの相対的蛍光変化。(C)標的Ade(青色の曲線)およびオーファンThy(オレンジ色の曲線)の位置に2APプローブを含有する基質を使用した塩基フリッピングのストップトフロー研究。この青色の曲線は、最初の100msecの間に蛍光が増加し、続いて1秒後に蛍光が減少する2相性反応を示す。(D)標的位置に2APを含有する基質(青色の曲線)、および認識部位の第1(ピンク色の曲線)、第3(緑色の曲線)または第4(赤色の曲線)の塩基対に1個の塩基対置換を有する3種のニアコグネイト基質を使用した塩基フリッピングのストップトフロー研究。(E〜G)様々な基質:(E)R124A、(F)P134Gおよび(G)K9AによるEcoDam変異体の塩基フリッピングのストップトフロー研究。
【図18】非メチル化とヘミメチル化DNAとの間の区別を示す図である。非メチル化(四角)およびヘミメチル化(菱形)オリゴヌクレオチド基質の(A)EcoDam(WT)および(B)L122A変異体によるメチル化。
【図19】非標準複合体の構造を示す図である。(A)EcoDam分子Cは、改変された認識部位を模倣した2個のDNA2本鎖の結合部に優先的に結合し、T4Damの構造データ(Horton他、2005)およびその他のDNA MTアーゼの生化学データ(Cheng and Roberts、2001、Klimasauskas and Roberts、1995)と合致する。ここでは、部分的認識部位(特に、5’G:C塩基対)が存在すれば、EcoDamによる安定な複合体形成に十分である。青色の円は不規則なAdeを示す。(B)タンパク質−DNA接触の概要。2個のDNA2本鎖(緑および青)は逆向きに重なり合い、2個の2本鎖の結合部に1個のT:T誤対合がある。相互作用を媒介する主鎖は、主鎖アミン(N)またはカルボニル(O)で示される。(C〜H)EcoDam分子CとのDNA相互作用の詳細。(I)非標準部位およびPap GATC隣接配列のDNA配列比較。(J)pap調節配列の構成。数字(1〜6)は、6個のロイシン応答調節タンパク質(Lrp)結合部位を示す(Hernday他、2003)。6個のLrp結合部位の中で、部位2および5はGATC配列を含有する(上図)。それぞれの標的Ade(赤または緑の影付き)をメチル化するためにDNAに沿って移動するDam分子(赤または緑の円)のモデルは、非コグネイト部位(赤または緑の箱)の1つで捉えられる。
【図20】標準および非標準複合体の構造比較を示す図である。(A)標準複合体(灰色の分子Aおよび青色のDNA)と非標準複合体(分子C)を重ね合わせ、4個の塩基対およびR124との相互作用を示す。G:C対の塩基原子およびR124の側鎖原子のみが重ね合わせに使用された。(B)標準複合体のDNA主鎖は青色で、非標準複合体は赤紫色である。R124−Gua4相互作用は、右側のDNAで生じる。Y119による挿入によって、非標準複合体の左側のDNAはらせん軸に沿って1塩基対長くなるように移動する(矢印で示した)。(C)2個の複合体におけるDNAの比較(重ね合わせのために右側部分を使用)。左側の部分の非標準2本鎖は、らせん軸の周りに約30°回転する。
【図21】(A)pap調節配列の構成。6個のLrp結合部位は、分岐papBAピリンおよびpaplプロモーターの間に位置する(Hernday他、2003から改作)。(B)6個のpap部位の中で、部位2および5はGATC配列を含有する(囲いの中)。(C)pap部位のメチル化における連続性の欠如に基づいた分子研究のための実験設計。
【図22】構造をベースにしたインシリコスクリーニングの概略を示す流れ図である。
【図23】補因子AdoHcy結合を示す図である。T4DamおよびDIM−5において実験的に決定されたAdoHcy立体構造の重ね合わせ。T4DamにおけるAdoHcyは、DNA MTアーゼなどの広範囲に及ぶI型MTアーゼにおいて最も頻繁に認められる伸長型立体構造である(Schubert他、2003)。しかし、この伸長型立体構造は、DIM−5などのヒストンLys MTアーゼ(HKMT)のSETドメインで認められる折り畳み立体構造とは著しく異なる。補因子のこのように異なる立体構造は、V型(SET HKMT)MTアーゼに対してI型(T4Dam、DNMTおよびPRMT)に選択的な阻害剤を設計するためのよい標的となる。補因子から生じた球体の中心は、(B)DIM−5(左)およびT4Dam(右)におけるAdoHcyの実験的に決定された結合様式を再現することができる。
【図24】(A)T4Damの2個のドメイン構造:触媒ドメイン(濃い)およびDNA結合ドメイン(薄い)。2個のドメインの間には深いくぼみがある(点によって表された球体中心によって示される)。予備DOCKスクリーニングによって、AdoHcy結合ポケット(上)または2個のドメインの間のくぼみ(下)のいずれかに結合できる特有の小分子(NSC48693およびNSC159165)が明らかになった。(B)T4Dam−AdoHcy(上)およびM.DpnII−AdoMet(下)の間の小さいが、重要な構造の違い。(C)補因子アナログAdoHcy上への補因子結合部位の上位30ヒットの重ね合わせ。
【図25】DIM−5のDOCK結果を示す図である。(A)AdoHcy結合部位、(B)AdoHcy結合部位にドッキングした小分子NSC106221、(C)標的Lys含有ペプチド結合部位、(D)Lys結合チャンネルにドッキングした小分子NSC322921。
【図26】最初のISSで使用したNCI「Diversity Set」の約2000個の化合物の概要を示す図である。各項(entry)は、NSC識別子、ならびに原子結合および結合の種類の情報を含有するSMILES列(string)を有する1化合物に対応する。
【図27】ISSによって同定され、より詳細に調べられた82個の化合物の概要を示す図である。各項は、NSC識別子、分子量および化学構造図を有する1化合物に対応する。DIM−5阻害化合物は1〜36番に対応し、Dam阻害候補は41〜80番に対応する。ヒスタミンメチルトランスフェラーゼ阻害剤は37〜40番および81〜82番である(示さず)。
【図28】ISSから得られた、上位100個の化合物のエネルギースコア順位。各項には、NSC識別子およびエネルギースコアが記載されている。(A)および(B)はDIM−5阻害剤のスコア、(C)および(D)はDam阻害剤のスコアである。
【図29】リード化合物NSC659390との構造類似性について選択された他の化合物のリストを示す図である。
【図30】EPECは、宿主上皮細胞表面のアクチンで満たされた膜の突出の形成原因となる。蛍光顕微鏡下では、EPECは緑色に標識され、アクチンはオレンジ色に、DNA(細菌および核の両方)は青色に標識される。縮尺の長さは10ミクロンである。
【図31】(A)非感染3T3細胞および(B〜C)感染3T3細胞の顕微鏡画像。(C)の細胞をG6(化合物#78−NSC659390)20μMで処理し、アクチンをFITCファロイジンで染色して標識し(中央列およびマージの緑)、3T3および細菌の核をDAPIで染色して標識した(左列およびマージの青)。アクチン台座構造は、明るいアクチン染色部として認められる(例えば、矢印)。アクチンの台座構造は、G6では認められない。縮尺の長さは20μmである。
【図32】G6化合物20μMを添加した、もしくは添加しない、またはB11(化合物#23−抗生物質)20μMを添加したEPECの増殖曲線。G6は、抗生物質と比較して細菌増殖に全く影響を与えなかった。
【図33】EPECビルレンスに対するG6の効果を示す図である。(a〜d)は非感染3T3細胞、(e〜h)はEPECに感染した3T3細胞、(i〜l)は、EPECに感染し、また、G6 20μMで処理した3T3細胞である。細胞は、アクチンをFITCファロイジンで染色し、細菌をDAPIで染色して標識し、細菌ビルレンス因子Tir(宿主細胞に分泌される。)をα−Tir pAb−Cy3で染色して標識した。Tir染色(gの矢印参照、蛍光顕微鏡下で赤色に認められる。)は、アクチン台座構造の先端にはっきりと現れている(fの矢印、蛍光顕微鏡下では緑色に認められる)。G6で処理すると、台座構造(j)もTir染色(k)も、付着した細菌の側には認められない((i)の矢印)。縮尺、10μm。
【図34】(A)化合物で処理した細菌から単離されたpUC19DNAのメチル化感受性消化。(B)より感受性が高いハイスループットの細菌をベースにしたアッセイの設計。
【図35】C57BL/6マウスにEPECまたはC.ロデンティウムを感染させた。結腸組織の細菌負荷は、感染後(pi)7日目に、結腸片を破砕し、MacConkey寒天に載せ、結腸組織1グラム当たりのコロニー数(コロニー形成単位(CFU)を計測することによって測定する。EOECもC.ロデンティウムも非感染マウスでは検出されなかった。(B)C57BL/6マウスをストレプトマイシン20mgで予備処理した後、C.ロデンティウムまたはEPECを感染させた。結腸組織をpi7日目のマウスから採集し、H&E染色によって分析した(縮尺線=200μm)。(C)EPECまたはC.ロデンティウムに感染したマウスの結腸(14日目)を採取し、ミエロペルオキシダーゼ活性、結腸の好中球動員の指標を分析した。非感染結腸と比較してp<0.05。
【図36】選択されたDam MTアーゼオルソログ(Yang他、Nature Structural Biology 10:849〜855、2003の図1より)、バクテリオファージT4(T4Dam)、大腸菌(EcoDam)、制限−修飾MTアーゼEcoRV、およびDpnIIAの配列データを示す図である。不変の残基および保存された残基はそれぞれ、強調された白色文字および太文字で示す。T4Damの2次構造は、配列の上に示す(円柱はヘリックス、矢印は鎖)。
【図37】EcoDamの三次元座標構造を示す図である。この図は、実施例に記載のように、EcoDam3要素(EcoDam−AdoMet−12塩基DNA)複合体のX線座標を示し、Dam阻害剤候補を同定するISSに使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Dam酵素活性を修飾可能な化合物を同定する方法であって、
a.Dam酵素またはDam酵素複合体の三次元構造を提供するステップと、
b.修飾剤候補構造を提供するステップと、
c.前記修飾剤候補構造および前記Dam酵素構造もしくはDam酵素複合体構造が関与する、シミュレートされたドッキング相互作用から相互作用エネルギー値を測定するステップと、
d.前記相互作用エネルギー値を評価するステップと、
を含み、それによってDam酵素活性を修飾可能な化合物を同定する方法。
【請求項2】
前記修飾がDam酵素活性の阻害を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
e.測定した前記エネルギー値を基準値と比較するステップ、をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記Dam酵素がバクテリオファージT4または細菌に由来する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記Dam酵素が大腸菌に由来する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記Dam酵素複合体の三次元構造が図37の原子構造座標によって与えられる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
ステップcの、シミュレートされたドッキング相互作用が特定のドッキング部位で生じる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ドッキング部位が、触媒ドメインとDNA結合ドメインとの間のポケット、および/またはメチル供与体結合部位に制限される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポケットが、残基Trp10−Ala11およびLeu122−Cys123が結合したグリセロール結合部位によって規定される、前記触媒ドメインおよび前記DNA結合ドメインの間に位置する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記活性部位がAdoHcy結合部位のAsp−Pro−Pro−Tyrモチーフを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
Dam酵素を阻害可能な化合物を同定する方法であって、
a.Dam酵素がポケット部位および活性部位を有するDam酵素複合体の三次元構造を提供するステップと、
b.Dam酵素の阻害剤候補を、当該阻害剤候補と、前記Dam酵素複合体の前記ポケット部位および/または前記活性部位と、が関与する、シミュレートされたドッキング相互作用の相互作用エネルギー値を計算することによって、コンピューターで選択するステップと、
を含み、それによってDam酵素を阻害可能な化合物を同定する方法。
【請求項12】
前記Dam酵素が大腸菌に由来する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
細菌におけるDNAメチル化を阻害する方法であって、
a.請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法によって同定された化合物を提供するステップと、
b.DNAメチル化を阻害するために、細菌と、ステップaで提供された化合物と、を接触させるステップと、
を含み、それによって前記細菌におけるDNAメチル化を阻害する方法。
【請求項14】
前記細菌がDamメチラーゼを有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
生物におけるDamによるDNAメチル化を阻害する方法であって、
生物を、
NCI−DTP Diversity Set化合物番号659390:
【化1】


化合物番号658343:
【化2】


化合物番号657589:
【化3】


および下記構造式の化合物Dam−iZ1:
【化4】


(式中、Aは非芳香族5または6員環であり、Aの環構成原子の1個または複数個がC、N、OまたはSであってもよく、
〜Xは各々独立して、H、ハライド、OH、OCH、アルキルおよびアルキルハライドから成る群から選択され、YはNH、CHまたはCHであり、YはN、NH、CHまたはCHである。)
から成る群より選択される化合物と接触させることを含む方法。
【請求項16】
前記生物が細菌である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細菌が大腸菌である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
DNAメチル化が、Damメチラーゼを阻害することによって阻害される、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記化合物が、NCI−DTP Diversity Set化合物番号659390、658343および657589から成る群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
病原性細菌の感染の疑いがある宿主を治療する方法であって、
宿主に、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法によって同定された化合物、NCI−DTP Diversity Set化合物番号659390、658343、657589、Dam−iZ1およびDam iZ2、から成る群より選択される化合物を、細菌内でDNAのメチル化を阻害するのに十分な量、投与することを含む方法。
【請求項21】
治療が前記細菌のビルレンスパラメーターを減少させる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記宿主が哺乳類である、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記宿主がヒトでない、請求項20または21に記載の方法。
【請求項24】
前記宿主がヒトである、請求項20または21に記載の方法。
【請求項25】
前記病原性細菌が、大腸菌、腸管病原性大腸菌、サルモネラ・チフィムリウム、髄膜炎菌、エルシニア・シュードツベルクローシス、ビブリオ・コレラ、パスツレラ・ムルトシダ、ヘモフィルス・インフルエンザおよびエルシニア・エンテロコリチカから成る群より選択される、請求項20〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記化合物がさらに医薬製剤を構成する、請求項20〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
病原性細菌の感染の疑いがある宿主を治療する方法であって、
宿主に、Damメチラーゼを阻害可能な化合物を投与することを含む方法。
【請求項28】
前記細菌がグラム陰性細菌である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
化合物Dam−iZ1を含有する組成物。
【請求項30】
NCI−DTP Diversity Set化合物番号659390、658343および657589を含有しない、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
細菌のビルレンスパラメーターを減少させる方法であって、
細菌と、Damメチラーゼを阻害可能な化合物と、を接触させることを含む方法。
【請求項32】
前記Dam酵素活性を修飾可能な化合物のin vitroまたはin vivo活性を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
in vitro活性の測定が生化学アッセイまたは細菌アッセイを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
病原性細菌の感染の疑いがある宿主を治療する方法であって、
宿主に、メチラーゼを阻害することによって病原性を改変することが可能な化合物を投与することを含む方法。
【請求項35】
前記メチラーゼがDamメチラーゼである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
病原性の改変がビルレンスの改変を含む、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
ビルレンスの改変が細菌の細胞分裂に実質的な影響を与えない、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
大腸菌Damの結晶。
【請求項39】
大腸菌Dam複合体の結晶。
【請求項40】
前記複合体が大腸菌DamおよびコグネイトDNAを含有する、請求項39に記載の結晶。
【請求項41】
前記複合体が大腸菌Damおよび非コグネイトDNAを含有する、請求項39に記載の結晶。
【請求項42】
前記複合体がさらに補因子または補因子アナログを含有する、請求項39〜41のいずれか一項に記載の結晶。
【請求項43】
前記補因子または補因子アナログが、AdoMet、AdoHcyおよびシネフンギンから成る群より選択される、請求項42に記載の結晶。
【請求項44】
図37の一組の原子構造座標を有する、請求項43に記載の結晶。
【請求項45】
請求項38〜44のいずれか一項に記載の結晶のデータ表現。

【図2】
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【図3】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図26】
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【図26】
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【図26】
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【図26】
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【図26】
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【図26】
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【図26】
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【図26】
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【図26】
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【図26】
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【図28A】
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【図28B】
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【図28C】
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【図28D】
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【図29−1】
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【図29−2】
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【図29−3】
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【図29−4】
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【図29−5】
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【図29−6】
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【図29−7】
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【図29−8】
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【図29−9】
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【図29−10】
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【図37】
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【図37】
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【図37】
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【図37】
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【図37】
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【図37】
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【図37】
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【図37】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図27−1】
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【図27−2】
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【図27−3】
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【図27−4】
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【図27−5】
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【図27−6】
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【図27−7】
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【図27−8】
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【図27−9】
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【図27−10】
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【図27−11】
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【図27−12】
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【図27−13】
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【図27−14】
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【図27−15】
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【図27−16】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公表番号】特表2008−522619(P2008−522619A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545590(P2007−545590)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/044277
【国際公開番号】WO2006/063058
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(507187248)エモリー ユニヴァーシティ (5)
【Fターム(参考)】