説明

組合せ癌治療方法

本発明は、ジャスモネート誘導体(例えば、ジャスモン酸メチル、又は式Iから式VIIのいずれかの化合物、又は当該式で表されるジャスモネート誘導体のいずれか)並びに化学療法薬(例えば、ニトロソ尿素、プラチナ化合物、タキサン誘導体、抗腫瘍抗生物質)及び解糖阻害薬(例えば、2−デオキシ−D−グルコース)から選択される少なくとも1つの他の薬剤を含む組合せを投与することによって癌を治療するための組成物及び方法に関する。ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、好ましくは相乗的(協働的)である治療効果をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャスモネート誘導体を化学療法薬及び/又は解糖阻害薬と組み合わせて含む組合せ治療を用いる癌の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
ジャスモネートは、オクタデカノイド経路によりリノレン酸から誘導され、多くの可食植物に少量見いだされる植物ストレスホルモン族である。ジャスモネート族などのストレスホルモンは、植物中で進化し、極紫外線、浸透圧衝撃、熱衝撃及び病原菌攻撃などのストレス時に放出されて、適切な応答で終了する様々なカスケードを開始する。ジャスモネート族の構成要素の例は、傷害に応答する細胞内シグナル伝達にとって重要なジャスモン酸、及び創傷又は病原菌攻撃に応答して低濃度で蓄積する、プロテイナーゼ阻害薬を誘発させるジャスモン酸メチル(MJ)である。哺乳類の癌の治療のためのジャスモネートの使用は、その内容が全面的に参照により組み込まれている米国特許第6,469,061号に開示された。米国特許第6,469,061号において、ジャスモネートは、乳癌、前立腺癌、皮膚癌及び血液癌から誘導される様々な種類のヒト癌細胞に対して直接的な細胞毒性を有することが示された。特にMJは、マウスにおけるリンパ腫の発生の防止に効果的であることが示された(米国特許第6,469,061号並びにFingrut,O.及びE.Flescher.2002(1)参照)。MJは、ヒト白血病、前立腺、乳房及び黒色腫細胞系並びに慢性リンパ性白血病(CLL)患者の白血病細胞の死を誘発することも示された(2、3)。
【0003】
ジャスモネートは、ヒト白血球Molt−4細胞の死を誘発したが、正常な末梢血赤血球(4)、正常なリンパ球(2)及びヒト精子細胞に損傷を与えない。その内容が全面的に参照により組み込まれているWO02/080890も参照されたい。これらの結果は、ジャスモネートが形質転換細胞を具体的に標的とするとの結論を強く支持するものである。
【0004】
その内容が全面的に参照により本明細書に組み込まれているPCT国際特許公開WO2005/054172には、新規のハロゲン化ジャスモネート誘導体、該誘導体を含む医薬組成物、及び癌細胞成長を抑制するため、且つ癌を治療するためのそれらの使用が開示されている。
【0005】
そのそれぞれの内容が全面的に参照により本明細書に組み込まれている国際特許公開WO2007/066336及びWO2007/066337には、新規のジャスモネート誘導体、該誘導体を含む医薬組成物、及び癌細胞成長を抑制するため、且つ癌を治療するためのそれらの使用が開示されている。
【0006】
ジャスモネートは、Molt−4ヒトリンパ芽球性白血病細胞(1)における壊死及びアポトーシス死の両方を誘発することが可能であることがさらに示された。また、ジャスモネートは、細胞mRNA転写、タンパク質翻訳(5)及びp53発現(6)と無関係に癌細胞を死滅させることが可能である。
【0007】
最近の研究では、ジャスモネートが細胞死を誘発するメカニズムの分析が行われた。ミトコンドリアは、ジャスモネートの作用のメカニズムにおいて中心的役割を果たすことが認められた。実際、ジャスモネートは、ミトコンドリアに直接作用して、細胞死をもたらす(2)。ジャスモネートは、無傷の癌細胞においてミトコンドリア膜脱分極及びシトクロムc放出を誘発した(2)。より重要なことは、MJは、ヒト白血病及び肝癌細胞系並びにCLL患者の白血病細胞から単離されたミトコンドリアにおいて膨潤及びシトクロムc放出を誘発した(2)。しかし、ジャスモネートは、正常のリンパ球から単離されたミトコンドリアにおいてシトクロムc放出又は膨潤を誘発しなかった。したがって、正常細胞と癌細胞の差がミトコンドリアレベルで存在すると思われる。興味深いことには、ジャスモネートは、不死であるが、形質転換されていない3T3ヒト線維芽球から単離されたミトコンドリアにおいて膨潤を誘発せず(2)、新生物性形質転換により、ミトコンドリアがジャスモネートの影響を受けやすくなることを示唆していた。したがって、MJは、直接的なミトコンドリア毒性効果を有し、ミトコンドリアがジャスモネートの標的細胞器官であることを強く示唆している。その主張を支持するものとして、ミトコンドリア浸透転移孔複合体(PTPC、細胞死をもたらすミトコンドリア摂動を媒介する孔)の開口に対する阻害薬は、癌細胞及びこれらの細胞から単離されたミトコンドリア上のMJの毒性効果を著しく抑制した。これらの研究(2)は、ジャスモネートがPTPCに依存して癌細胞を死滅させることを示している。ミトコンドリアに対するジャスモネートの直接的な効果は、前ミトコンドリア抗アポトーシス変異をバイパスすることによって、この抗癌薬類を様々な薬物抵抗性腫瘍に対して潜在的に活性にする能力をそれらに付与するものである。
【0008】
組合せ化学療法投薬における使用に向けた薬剤の選択のための原理に従って、異なる作用メカニズム及び腫瘍に対する相加的又は相乗的細胞毒性効果を有する薬物を組み合わせることができる(7)。多薬治療は、単薬治療と比較して3つの重要な理論的長所を有する。第1に、非オーバーラップの投与制限毒性を有する薬剤を使用することによって宿主毒性を最小限に抑えながら細胞死滅を最大限にすることができる。第2に、特定の種類の治療に対する内因性抵抗を有する腫瘍細胞に対する薬物活性の範囲を拡大することができる。最後に、新たに抵抗性を有する腫瘍細胞の発生を防止又は遅延させることもできる(7)。実質的に、癌に対するほぼすべての治癒的化学療法投薬が多薬の薬物組合せを採用する(8)。理想的な薬物組合せは、全身毒性の増大を伴わずに悪性腫瘍細胞に対して相乗的に活性である組合せであるが、好ましい毒性プロファイルを有する相加的な抗腫瘍活性も臨床的に有益であり得る(9)。
【0009】
伝統的な化学療法薬剤を作用のメカニズムによって分類することができる。アルキル化剤は、生物学的に重要な分子において、アミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基及びリン酸基と共有結合を形成することによって細胞機能を弱める。アルキル化の最も重要な部位は、DNA、RNA及びタンパク質である。アルキル化剤は、活性に対する細胞増殖に依存するが、細胞周期段階に特異的なものではない。アルキル化剤は、それらの化学構造及び共有結合のメカニズムに従って分類される。この薬物類は、窒素マスタード、ニトロソ尿素(BCNU)及びプラチナ錯体(シスプラチン)を含む(7)。タキサンは、イチイ属植物の針葉からの抽出前駆体の半合成誘導体である。これらの薬物は、新規の14員環、即ちタキサンを有する。微小管解体を引き起こすビンカアルカロイドと異なり、タキサン(例えばタキソール)は、微小管集成及び安定を促進するため、有糸分裂における細胞周期を阻止する(7)。アドリアマイシンのような抗腫瘍抗生物質は、グアニン−シトシン及びグアニン−チミン配列においてDNAをインターカレートすることで、自然酸化及び鎖破壊を引き起こす遊離酸素ラジカルの形成をもたらす(7)。
【0010】
最近、3つのインビトロのシミュレート低酸素モデルを使用して(10〜12)、低酸素条件下の細胞は、好気条件下の細胞より、2−デオキシ−D−グルコース(2DG)などの解糖を阻害する薬剤に対して敏感であることが示された。徐々に増殖する腫瘍集団を解糖阻害薬で選択的に死滅させることができるため、当該薬剤と、急速に分裂する好気性細胞を標的とする化学療法薬とを組み合わせることで、これらの治療薬の全体的な効果を高める(10〜12)。実際、2DGとシスプラチンの組合せは、インビトロで急速に増殖している様々な細胞系に適用すると、いずれの単独薬剤より効果的である(13)。2DGとアドリアマイシン(ADR)の組合せをMCF7細胞に用いても同様のインビトロ相乗効果が観察された(14)。2DG及びMJは、wt又は変異p53を発現するBリンパ腫細胞におけるATP枯渇に対する相加的効果を有していたことが認められた(6)。相加的効果の基礎は、恐らくは、ジャスモネート及び2DGが有するATPを形成する異なる細胞経路、即ちそれぞれ酸化性リン酸化及び解糖に対する阻害作用である。
【0011】
BCL1(B細胞白血病/リンパ腫1)は、Slavin及びStroberによって1978年に最初に記載された2歳の雌のBALB/cKa(H−2d)マウスにおける自然発生的なマウス白血病である(15)。腫瘍マウスは、白血球数が多く、脾腫が目立つ。BCL1細胞の細胞学的特徴は、十分に分化されたリンパ球のリンパ腫及び慢性リンパ性白血病(CLL)のヒト障害に見られるものと実質的に同じである(16)。したがって、それらは、これらの疾患の研究に対して有用な動物モデルを提供する。CLLに関して、多くの患者は、良性の疾患を有し、正常な寿命を生きるが、他の患者は、より悪性の形の疾患を有し、化学療法に対する抵抗により診断後に非常に短い寿命しか生きられない(17)。クロラムブシル、プレドニソン、及び特定の細胞表面タンパク質に向けられる一定のモノクローナル抗体などの化学療法薬は、インビボでB−CLLアポトーシスを誘発するが、完全な緩解を達成するのが困難であり、究極的にはすべての患者が再発する(18)。プリン類似体は、有意な臨床的改善を誘発するが、必然的に免疫抑制を伴うため、易感染症をもたらす(19)。加えて、9−β−D−アラビノフラノシル−2−フルオロアデニン(フルダラビン)とシクロホスファミドの組合せは、骨髄抑制を誘発する(20)。したがって、CLLに対する新規の治療薬として有用であり得る新しい薬剤を単独又は既に知られている薬物と組み合わせて探求することが重要である。
【0012】
ジャスモネート化合物の薬理活性により、それらは、単独又はさらなる化学療法薬と組み合わせて癌を治療するための治療薬としての魅力的な候補となる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ジャスモネート誘導体(例えば、ジャスモン酸メチル又は式IからVIIのいずれかの化合物若しくは当該式によって例示されるジャスモネート誘導体のいずれか)を、化学療法薬(例えば、ニトロソ尿素、プラチナ化合物、タキサン誘導体、抗腫瘍抗体)、解糖阻害薬(例えば、2−デオキシ−D−グルコース)又はそれらの組合せから選択される少なくとも1つの他の薬剤と組み合わせて含む組合せを投与することによって癌を治療するための組成物及び方法に関する。好ましくは相乗効果的である治療効果を与える量でジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤を集約的に投与する。
【0014】
本明細書に記載のジャスモネート誘導体の投与を含む第1の治療と、本明細書に記載の化学療法薬及び解糖阻害薬から選択される1つ又は複数の薬剤を使用する第2の治療との組合せは、治療に有効な抗癌作用を提供し得ることを思いがけず発見した。いくつかの実施形態において、該効果は相乗的である。即ち、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤が一緒になって、治療投与量で単独で投与された場合にそれぞれ個々の構成成分によって達成される相加的効果より有意に良好な抗癌成果(例えば、細胞成長阻止、アポトーシス、分化の誘発、細胞死等)をもたらす。好ましくは、一連の治療後の組合せ治療の全体的な効果は、一連の治療薬の各々によって個々に達成される効果より有意に良好である。
【0015】
組合せ治療における各薬剤の投与量を各薬剤による単一治療と比較して低減しながら、全体的な抗腫瘍効果を達成することができるため、治療の組合せは特に有益である。加えて、相乗効果により、有利には患者に投与する薬物の全量を低減することができるため、副作用を減少させることができる。
【0016】
本明細書に例示されているように、本発明の出願人は、ジャスモン酸メチル(MJ)と従来の化学療法薬(例えば、ニトロソ尿素BCNU、シスプラチン、タキソール及びアドリアマイシン)並びに解糖阻害薬、2−デオキシ−D−グルコース(2DG)の相互作用について調査した。MJは、様々な細胞系におけるいくつかの細胞毒性剤及び2DGと相乗的に作用することが認められた。具体的には、MJは、乳腺癌、肺癌、胸腺癌及び前立腺癌細胞系におけるタキソール;膵臓癌及び前立腺癌細胞系におけるシスプラチン;B細胞白血病細胞系におけるアドリアマイシン、膵臓癌及びB細胞白血病細胞系におけるBCNUとの相乗効果を示した。さらに、MJとアドリアマイシンの組合せ治療は、BCL1白血病マウスの生存率を有意に向上させるが、MJ又はアドリアマイシンの単独では生存率の向上を誘発しなかったことがインビトロの結果で証明されている。加えて、MJは、結腸癌、肺癌及び胸腺癌細胞系において2DGと相乗的に作用することが認められた。それらの予期せぬ結果は、MJと化学療法薬の組合せの重要性を強調し、いくつかの種類の癌の治療に対する臨床的価値を有することができることを示唆している。
【0017】
したがって、本発明は、それを必要とする対象における癌を治療するための方法であって、該方法は、ジャスモネート誘導体と化学療法薬及び解糖阻害薬から選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せを該対象に投与することを含み、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、相乗的治療効果をもたらす方法に関する。
【0018】
別の実施形態において、本発明は、癌細胞増殖を阻害するための方法であって、癌細胞をジャスモネート誘導体と化学療法薬及び解糖阻害薬から選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せと接触させることを含み、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は、一緒になって相乗効果をもたらす方法に関する。
【0019】
さらに別の実施形態において、本発明は、ジャスモネート誘導体と化学療法薬及び解糖阻害薬から選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せの使用であって、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、相乗的治療効果をもたらす使用に関する。
【0020】
「組合せ」又は「組合せ治療」という用語は、本明細書に用いられているように、少なくとも2つの異なる治療薬による任意の形の同時又は並行治療を指す。この用語は、それら2つの治療方式の同時投与、即ち実質的に同じ治療スケジュール、並びに各治療の順次又は交互スケジュールにおける重複投与の両方を包含することを意図する。
【0021】
ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の化学療法薬を(同一又は個別の剤形で)同時に投与することができ、又は任意の順序で順次投与することもできる。投与を交互投与スケジュールに従って行う、例えば、ジャスモネート誘導体の後に化学治療薬を投与し、次いでさらなる投与量のジャスモネート誘導体の後に解糖阻害薬等を投与することができる。本発明では同時、順次及び交互を含むすべての投与スケジュールが考えられる。
【0022】
1つの現在好ましい実施形態において、ジャスモネート誘導体は、ジャスモン酸メチルである。別の現在好ましい実施形態において、ジャスモネート誘導体は、以下の式で表される化合物である。
【化1】

【0023】
別の現在好ましい実施形態において、ジャスモネート誘導体は、以下の式で表される化合物である。
【化2】

【0024】
別の現在好ましい実施形態において、ジャスモネートは、式9の化合物である。
【化3】

【0025】
しかし、他の実施形態において、ジャスモネート誘導体は、ジャスモン酸又はその任意の誘導体であり得る。好適なジャスモネート誘導体が、米国特許第6,469,061号、PCT国際特許出願公開第WO02/080890、WO2005/054172並びにWO2007/066336及びWO2007/066337に開示されている。上記参考文献の各々の内容は、本明細書にすべて記載されているかの如く全面的に参照により本明細書に組み込まれている。
【0026】
好適な化学療法薬としては、アルキル化剤、抗生剤、抗代謝剤、ホルモン剤、植物由来薬剤及びそれらの合成誘導体、抗血管形成剤、分化誘発剤、細胞成長抑止誘発剤、アポトーシス誘発剤、細胞毒性剤、細胞生体エネルギーに影響を与える、即ち細胞ATP値及びこれらの値を調節する分子/活性に影響を与える薬剤、生物学的薬剤、例えば、モノクローナル抗体、キナーゼ阻害薬並びに成長因子及びそれらの受容体の阻害薬、遺伝子治療薬、細胞、例えば幹細胞治療薬、又はそれらの任意の組合せが挙げられるが、それらに限定されない。
【0027】
いくつかの現在好ましい実施形態において、化学療法薬は、ニトロソ尿素(例えば、1,3−ビス[2−クロロエチル]−10−ニトロソ尿素(BCNU))、プラチナ化合物(例えば、シスプラチン)、タキサン誘導体(例えば、タキソール)、抗腫瘍抗生物質(例えば、アドリアマイシン)又はそれらの任意の組合せである。別の現在好ましい実施形態において、解糖阻害薬は、2−デオキシ−D−グルコース(2DG)である。
【0028】
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする対象における癌を治療するための方法であって、該方法は、ジャスモネート誘導体と、ニトロソ尿素(例えば、1,3−ビス[2−クロロエチル]−10−ニトロソ尿素(BCNU))、プラチナ化合物(例えば、シスプラチン)、タキサン誘導体(例えば、タキソール)、抗腫瘍抗生物質(例えば、アドリアマイシン)、解糖阻害薬(例えば、2DG)又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せを該対象に投与することを含み、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、治療効果をもたらす方法に関する。好ましい実施形態において、治療効果は相乗的である。
【0029】
実施形態において、癌は肺癌であり、ジャスモネート誘導体はジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤はタキソールである。別の実施形態において、癌は膵臓癌であり、ジャスモネート誘導体はジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤はシスプラチン又はBCNUである。別の実施形態において、癌は乳腺癌であり、ジャスモネート誘導体はジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤はタキソールである。別の実施形態において、癌は前立腺癌であり、ジャスモネート誘導体はジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤はシスプラチン又はタキソールである。別の実施形態において、癌はB細胞白血病であり、ジャスモネート誘導体はジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤はアドリアマイシン又はBCNUである。さらに別の実施形態において、癌は結腸癌、肺癌又は乳腺癌であり、ジャスモネート誘導体はジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤は2DGである。
【0030】
本発明には、第1の量のジャスモネート誘導体と、化学療法薬及び解糖阻害薬から選択される第2の量の少なくとも1つの他の薬剤との組合せを含む医薬組成物も考えられる。総合量のジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は、相乗的な治療的抗癌効果をもたらす。
【0031】
本発明の医薬組成物を当該技術分野で知られている任意の形、例えば、経口投与に好適な形(例えば、液剤、懸濁剤、シロップ剤、乳剤、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、ペレット剤、顆粒剤及び粉剤)、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、動脈内投与、経皮投与、皮下投与又は腹腔内投与)に好適な形、局部等投与に好適な形、又は坐薬を介する投与に好適な形で与えることができる。1つの特定の実施形態において、活性成分を任意の許容し得る脂質担体に溶解させる。
【0032】
本発明の組合せは、広範な癌に対して活性である。本発明の組合せは、癌腫、肉腫、骨髄腫、白血病、リンパ腫及び混合型腫瘍を含む広範な癌に対して活性である。治療対象となる特定の範疇の腫瘍としては、リンパ球増殖障害、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、子宮頚癌、子宮内膜癌、骨癌、肝臓癌、胃癌、結腸癌、膵臓癌、甲状腺癌、頭及び首の癌、中枢神経系の癌、末梢神経系の癌、皮膚癌、腎臓癌、並びに上記すべての癌の転移が挙げられる。治療の対象となる特定の種類の腫瘍としては、肝細胞癌、血腫、肝芽腫、横紋筋肉腫、食道癌、甲状腺癌、神経節芽細胞腫、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋上皮肉腫、侵入性腺管癌、乳頭腺癌、黒色腫、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌(十分に分化、中程度に分化、不十分に分化又は未分化)、腎細胞癌、副腎腫、副腎様腺癌、胆道癌、繊毛上皮腫、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、抗癌腫、小細胞肺癌、非小細胞肺癌及び大細胞肺癌を含む肺癌、膀胱癌、神経膠腫、星状細胞腫、骨芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、網膜芽腫、神経芽腫、結腸癌、直腸癌、急性骨髄性白血病、急性骨髄球性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、肥胖細胞性白血病、多発性骨髄腫、骨髄性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫を含むすべての種類の白血病及びリンパ腫を含む造血系悪性腫瘍が挙げられる。
【0033】
特に、本発明の組合せは、乳癌、腎臓癌、胃癌、リンパ芽球性白血病を含む白血病、肺癌、黒色腫及び結腸癌に対して活性である。
【0034】
本発明の適用可能なさらなる実施形態及び全範囲は、以降に示す詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、詳細な説明及び具体的な実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すが、本発明の主旨及び範囲内の様々な変更及び修正が詳細な説明から当業者に明らかになるため、例示のみを目的として示されることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】腫瘍細胞系に対するMJの細胞毒性効果。細胞毒性は、対照未処理細胞の%(3回の平均値±s.e)として計算される。図1A:CT26、DA−3及びD122。図1B:TRAMP C1、MIA PaCa−2、MCF7及びBCL1。
【図2】MJ及び化学療法薬による組合せ治療のインビトロの異なる癌細胞系に対する細胞毒性効果。細胞毒性は、対照未処理細胞の%(3回の平均値±s.e)として計算される。期待値は、加算性を想定している。実測効果値は、MJと細胞毒性剤の組合せによって実際に生成された値である。 図2A:Mia PaCa−2細胞を指定濃度のシスプラチン若しくはBCNU及び/又は1mMのMJでの存在下でインキュベートした。BCNU+MJ(すべての指定濃度)及びシスプラチン+MJ(1及び2.5μg/ml)に対する期待細胞毒性値と実測値を比較するとpV<0.05。 図2B:MCF7細胞を指定濃度のタキソール及び/又は1mMのMJの存在下でインキュベートした。タキソール+2.5μg/mlのMJに対する期待細胞毒性値と実測効果を比較するとpV<0.05。 図2C:DA−3細胞を指定濃度のタキソール及び/又は0.5mMのMJの存在下でインキュベートした。タキソール+10μg/mlを除いてすべての指定濃度のMJに対する期待細胞毒性値と実測効果を比較するとpV<0.05。 図2D:D122細胞を指定濃度のタキソール及び/又は1mMのMJの存在下でインキュベートした。タキソール+すべての指定濃度のMJに対する期待細胞毒性値と実測効果を比較するとpV<0.05。 図2E:TRAMP C1細胞を指定濃度のタキソール若しくはシスプラチン及び/又は0.5mMのMJ(シスプラチンの場合)及び1mMのMJ(タキソールの場合)の存在下でインキュベートした。シスプラチン+2.5μg/mlのMJに対する期待細胞毒性値と実測効果を比較するとpV<0.05。タキソール+すべての指定濃度のMJに対する期待細胞毒性値と実測効果を比較するとpV<0.05。
【図3】MJ及び化学療法薬による組合せ治療のBCL1細胞に対する細胞毒性効果。細胞を指定濃度でBCNU(A)又はアドリアマイシン(B)とともに1時間プレインキュベートし、0.1mMのMJを24時間にわたって添加した。期待値は、加算性を想定している。実測効果値は、MJと細胞毒の組合せによって実際に生成された値である。細胞毒性は、対照未処理細胞の%(3回の平均値±s.e)として計算される。BCNU+2.5、5、10μg/mlのMJ又はアドリアマイシン+5、10、25ng/mlのMJに対する期待細胞毒性値と実測効果を比較するとpV<0.05。
【図4】アドリアマイシン(ADR)とMJの組合せ(i.v.)は、インビボでBCL1白血病に対して協働効果を示す。マウスを60mg/kgのMJ(i.v.)で4週間にわたって毎日(1週間に5日)処理した。BCL1注射の7日及び14日後にアドリアマイシン(ADR)を4mg/kgの量で2回i.p.投与した。対照マウスに媒体リポフンジン(LPF)を注射した。各グループに15匹のマウスが存在していた。ADR処理マウスとADR+MJ処理マウスの生存率を比較するとpV=0.028。
【図5】MJ及び2DGの異なる細胞系に対する組合せ効果。細胞毒性は、対照未処理細胞の%(3回の平均値±s.e)として計算される。期待値は、加算性を想定している。実測効果値は、MJと細胞毒性剤の組合せによって実際に生成された値である。MJ+2DGの期待効果とMJのすべての指定濃度でのCT−26及びD122細胞(図5A及び5B)並びに0.5mMのMJでのMCF細胞(図5C)における実測効果を比較するとpV<0.05。DA3(図5D)細胞の場合における期待値と実測値の差は、有意なものではなかった。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、ジャスモネート誘導体を化学療法薬及び解糖阻害薬から選択される少なくとも1つの他の薬剤と組み合わせて含む組合せを投与することによって癌を治療するための組成物及び方法に関する。ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤を、治療効果、好ましくは相乗効果をもたらす合計量で投与する。
【0037】
したがって、本発明は、それを必要とする対象における癌を治療するための方法であって、該方法は、ジャスモネート誘導体と化学療法薬、解糖阻害薬及びそれらの組合せから選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せを該対象に投与することを含み、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、相乗的治療効果をもたらす方法に関する。
【0038】
別の実施形態において、本発明は、癌細胞増殖を阻害するための方法であって、癌細胞をジャスモネート誘導体と化学療法薬、解糖阻害薬及びそれらの組合せから選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せと接触させることを含み、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は、一緒になって相乗効果をもたらす方法に関する。
【0039】
さらに別の実施形態において、本発明は、ジャスモネート誘導体と化学療法薬、解糖阻害薬及びそれらの組合せから選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せの使用であって、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は、一緒になって相乗的治療効果をもたらす使用に関する。
【0040】
組合せ治療は、2つの個々の治療薬に伴う差次的毒性の観点から治療有利性をもたらすことができる。例えば、ジャスモネート誘導体による治療は、化学療法薬又は解糖阻害薬に見られない特定の毒性をもたらし、その逆も真であり得る。そのように、この差次的毒性は、組合せ治療薬が一緒になって治療投与量を提供しながら、組合せ薬剤の構成要素の各々の毒性を回避するように、前記毒性が存在しないか、又は最小になる投与量で各治療薬を投与することを可能にすることができる。また、組合せ治療の結果として達成される治療効果が増補的又は相乗的、即ち相加的治療効果より有意に良好である場合は、薬剤の各々の投与量をさらに低減することができるため、付随する毒性がさらにより大きく低下する。
【0041】
「相乗的」、「協働的」及び「超相加的」という用語、並びにそれらの様々な文法的変形は、本明細書において区別なく用いられる。ジャスモン酸メチルと別の薬剤の相互作用は、一緒になった薬物の存在下における実測効果(例えば、細胞毒性)が、個別に投与される各薬物の個々の効果(例えば、細胞毒性)の合計より高い場合に、相乗的、協働的又は超相加的であると考えられる。一実施形態において、薬物の実測組合せ効果は、個々の効果の合計より有意に高い。有意という用語は、実測pが0.05未満であることを意味する。
【0042】
ジャスモネート誘導体
ジャスモン酸を含む任意のジャスモネート誘導体を本発明の組合せに使用することができる。本明細書に用いられているように、「ジャスモネート誘導体」という用語は、特定のジャスモネート誘導体のあらゆる塩、水和物、溶媒和物、多形体、光学異性体、幾何異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体及びそれらの混合物を含む。
【0043】
現在好ましい実施形態において、ジャスモネート誘導体は、化学的に設計されたメチル3−オキソ−2−(2−フェニル)シクロペンタン酢酸であるジャスモン酸メチルである。
【0044】
1つの現在好ましい実施形態において、ジャスモネート誘導体は、ジャスモン酸メチルである。別の現在好ましい実施形態において、ジャスモネート誘導体は、以下の式で表される化合物である。
【化4】

【0045】
別の現在好ましい実施形態において、ジャスモネート誘導体は、以下の式で表される化合物である。
【化5】

【0046】
別の現在好ましい実施形態において、ジャスモネートは、式9の化合物である。
【化6】

【0047】
しかし、他の実施形態において、ジャスモネート誘導体は、ジャスモン酸又はその任意の誘導体であり得る。好適なジャスモネート誘導体としては、A)米国特許第6,469,061号及びPCT国際特許出願公開第WO02/080890;B)PCT国際特許出願公開第WO2005/054172;C)PCT国際特許出願公開第WO2007/066336;D)PCT国際特許出願公開第WO2007/066337に記載された誘導体;並びにE)ジャスモネート−アミノ酸結合体化合物が挙げられるが、それらに限定されない。上記参考文献の各々の内容は、本明細書にすべて記載されているかの如く全面的に参照により本明細書に組み込まれている。
【0048】
好適なジャスモネート誘導体の非限定的な例としては、以下のものが挙げられる。
A)式I:
【化7】


(式中、
nは、0、1又は2であり;
は、OH、アルコキシ、O−グルコシル又はイミノであり;
は、OH、O、アルコキシ又はO−グルコシルであり;
、R及びRは、H、OH、アルコキシ又はO−グルコシルであり、且つ/又はR及びR若しくはR及びRは、一緒になってラクトンを形成し、さらにはC3:C7、C4:C5及びC9:C10の間の結合は、二重又は一重結合であってもよい)
の構造で表される、米国特許第6,469,061号及びWO02/080890に開示された化合物;或いは前記式の誘導体(該誘導体は、C3における低級アシル側鎖(遊離酸又はエステル若しくは結合体)、C6における炭素にケト又はヒドロキシ(遊離ヒドロキシ又はエステル)成分、或いはCにおけるn−ペンテニル又はn−ペンチル側鎖の少なくとも1つを有する);並びにそれらの塩、水和物、溶媒和物、多形体、光学異性体、幾何異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体及び混合物。
【0049】
代表的なジャスモネート誘導体としては、ジャスモン酸メチル、ジャスモン酸、ジャスモン、7−イソ−ジャスモン酸、9,10−ジヒドロジャスモン酸、2,3−ジデヒドロジャスモン酸、3,4−ジデヒドロジャスモン酸、3,7−ジデヒドロジャスモン酸、4,5−ジデヒドロジャスモン酸、4,5−ジデヒドロ−7−イソ−ジャスモン酸、ククルビン酸、6−エピ−ククルビン酸、6−エピ−ククルビン酸ラクトン、12−ヒドロキシ−ジャスモン酸、12−ヒドロキシ−ジャスモン酸−ラクトン、11−ヒドロキシ−ジャスモン酸、8−ヒドロキシ−ジャスモン酸、ホモ−ジャスモン酸、ジホモ−ジャスモン酸、11−ヒドロキシ−ジホモ−ジャスモン酸、8−ヒドロキシ−ジホモ−ジャスモン酸、ツベロン酸、ツベロン酸−O−β−グルコピラノシド、ククルビン酸−O−β−グルコピラノシド、5,6−ジデヒドロジャスモン酸、6,7−ジデヒドロ−ジャスモン酸、7,8−ジデヒドロジャスモン酸、シス−ジャスモン、メチル−ジヒドロ−イソジャスモネート、ジヒドロ−ジャスモン、ジャスモン酸のアミノ酸結合体、前記ジャスモン酸の低級アルキルエステルが挙げられるが、それらに限定されない。
【0050】
B)式II:
【化8】


(式中、
nは、0、1又は2であり;
は、OH、C〜C12アルコキシ、C〜C12置換アルコキシ、アリールオキシ、O−グルコシル又はイミノであり;
は、OH、C〜C12アルコキシ、C〜C12置換アルコキシ、O−グルコシル、オキソ、アルキル又はイミノであり;
、R、R、R、R、A、B、C、D及びEは、それぞれ独立に、H、ハロゲン、OH、C〜C12アルコキシ、C〜C12置換アルコキシ、アリールオキシ、O−グルコシル、C〜C12アルキル又はC〜C12置換アルキルであり;R及びR又はR及びRは一緒になって、所望により置換されたラクトンを形成してもよく;C3:C7、C4:C5及びC9:C10は、独立に、二重結合又は一重結合であってもよく;R、R、R、R、R、A、B、C、D及びEの少なくとも1つがハロゲンであることを条件とする)の構造で表される、WO2005/054172に開示された化合物、並びにそれらの塩、水和物、溶媒和物、多形体、光学異性体、幾何異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体及び混合物。
【0051】
代表的なジャスモネート誘導体としては、二臭化ジャスモン酸メチル(MJDB)、四臭化ジャスモン酸メチル(MJTB)、R及びRがそれぞれフルオロである化合物、R及びRがそれぞれヨードである化合物、R及びRがそれぞれクロロである化合物、R及びRの一方がヨードであり、他方がヒドロキシである化合物、並びにR及びRの一方がヨードであり、他方がメトキシである化合物が挙げられるが、それらに限定されない。
【0052】
C)それらの塩、水和物、溶媒和物、多形体、光学異性体、幾何異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体及び混合物を含めて、式IIIの構造で表される、PCT国際特許出願PCT/IL2006/001408に開示された化合物。
【化9】


(式中、
Aは、
a)COR
b)O−COR10;及び
c)OR11からなる群から選択され;
は、
a)ヘテロアリールオキシ;
b)−O[(CHO]−R12
c)式:
【化10】


の基からなる群から選択され、
d)R、R、R、R及びRの少なくとも1つがハロアルキルである場合、又はR及びRは、それらが結合した炭素と一緒になって、C〜Cシクロアルキル又はハロで置換されたC〜Cシクロアルキルを形成する場合は、Rは、水素又は無置換若しくは置換C〜C12アルキルをさらに表すことができ;
は、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、OR、オキソ及びNR9a9bからなる群から選択され;
、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜C12ハロアルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、OR及びNR9a9bからなる群から選択され;
或いはR及びRは、それらが結合した炭素と一緒になって、C〜Cシクロアルキル又はハロで置換されたC〜Cシクロアルキルを形成し;
或いはR及びRの一方は、Cに結合することによって、それぞれ酸素含有6又は5員複素環式環を形成する酸素原子を表し;
とC10の結合は、一重又は二重結合であってもよく;
、R9a及びR9bは、それぞれ独立に、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、グルコシルからなる群から選択され、或いはR9a及びR9bは、それらが結合した窒素と一緒になって、O、N及びSから選択される1つ又は複数のさらなるヘテロ原子を所望により含む無置換又は置換複素環式又は芳香族複素環式環を形成し;
10は、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール及び無置換又は置換ヘテロアリールからなる群から選択され;
11及びR12は、それぞれ独立に、水素又はヒドロキシ保護基であり;
13は、カルボキシ保護基であり;
14は、天然又は非天然アミノ酸の残基であり;
nは、0、1及び2から選択され;
mは、1から20の整数であり;
pは、1から12の整数である。)。
【0053】
式IIIの化合物の具体例としては、
【化11】


が挙げられるが、それらに限定されない。
【0054】
別の例は、式12の構造で表されるジャスモネート誘導体を含む。
【化12】

【0055】
D)以下の化合物を含む、PCT国際特許公開WO2007/066337に開示された化合物。
a)それらの塩、水和物、溶媒和物、多形体、光学異性体、幾何異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体及び混合物を含めて、式IVの構造で表される化合物。
【化13】


(式中、
nは、0、1又は2であり;
は、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、天然又は非天然アミノ酸、ペプチド、OR及びNR9a9bからなる群から選択され;
は、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、OR、NR9a9b、NHCOR10及びNHSO11からなる群から選択され;
、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、OR及びNR9a9bからなる群から選択され;
とC10の結合は、一重又は二重結合であってもよく;
、R9a、R9b、R10及びR11は、それぞれ独立に、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、グルコシルからなる群から選択され、或いはR9a及びR9bは、それらが結合した窒素と一緒になって、O、N及びSから選択される1つ又は複数のさらなるヘテロ原子を所望により含む無置換又は置換複素環式又は芳香族複素環式環を形成することができる。)。
【0056】
式IVの化合物の具体例としては、
【化14】


が挙げられるが、それらに限定されない。
【0057】
b)それらの塩、水和物、溶媒和物、多形体、光学異性体、幾何異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体及び混合物を含めて、式Vの構造で表される化合物。
【化15】


(式中、
nは、各存在において独立に、0、1又は2であり;
は、式:
【化16】


の基であり;
は、各存在において独立に、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、OR、オキソ及びNR9a9bからなる群から選択され;
、R、R、R及びRは、各存在においてそれぞれ独立に、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、OR及びNR9a9bからなる群から選択され;
とC10の結合は、各存在において独立に、一重又は二重結合であってもよく;
、R9a及びR9bは、各存在においてそれぞれ独立に、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、グルコシルからなる群から選択され、或いはR9a及びR9bは、それらが結合した窒素と一緒になって、O、N及びSから選択される1つ又は複数のさらなるヘテロ原子を所望により含む無置換又は置換複素環式又は芳香族複素環式環を形成することができる。)。
【0058】
式Vの化合物の具体例は、
【化17】


である。
【0059】
c)それらの塩、水和物、溶媒和物、多形体、光学異性体、幾何異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体及び混合物を含めて、式VIの構造で表される化合物。
【化18】


(式中、
nは、0、1又は2であり;
は、天然又は非天然アミノ酸又はペプチドであり;
は、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、OR、オキソ及びNR9a9bからなる群から選択され;
、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、OR及びNR9a9bからなる群から選択され;
とC10の結合は、一重又は二重結合であってもよく;
、R9a及びR9bは、それぞれ独立に、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、グルコシルからなる群から選択され、或いはR9a及びR9bは、それらが結合した窒素と一緒になって、O、N及びSから選択される1つ又は複数のさらなるヘテロ原子を所望により含む無置換又は置換複素環式又は芳香族複素環式環を形成することができる。)。
【0060】
式VIの化合物におけるアミノ酸残基は、任意の天然又は非天然アミノ酸の残基であり得る。現在好ましいアミノ酸は、ロイシン及びトリプトファンである。しかし、本明細書に定義されており、当業者に知られている任意の他の天然及び非天然アミノ酸を本発明のジャスモネート−アミノ酸誘導体に組み込むことができる。或いは、R基は、天然アミノ酸、非天然アミノ酸又はそれらの組合せであり得る2つ以上のアミノ酸を含むペプチド配列を表すことができる。
【0061】
式VIの化合物の例としては、
【化19】


が挙げられるが、それらに限定されない。
d)複数の共有結合ジャスモン酸成分を含むダイマー、オリゴマー又はポリマージャスモネート誘導体:それらの塩、水和物、溶媒和物、多形体、光学異性体、幾何異性体、鏡像異性体、ジアステレオ異性体及び混合物を含めて、式VIIの構造で表される化合物。
【化20】


(式中、
nは、各存在において独立に、0、1又は2であり;
pは、2、3、4、5又は6であり;
は、−O−、ポリオキシC〜C12アルキレン及び糖成分からなる群から選択されるリンカであり;
は、各存在において独立に、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、OR、オキソ及びNR9a9bからなる群から選択され;
、R、R、R及びRは、各存在においてそれぞれ独立に、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、OR及びNR9a9bからなる群から選択され;
とC10の結合は、各存在において独立に、一重又は二重結合であってもよく;
、R9a及びR9bは、各存在においてそれぞれ独立に、水素、無置換又は置換C〜C12アルキル、無置換又は置換C〜Cシクロアルキル、無置換又は置換アリール、無置換又は置換ヘテロアリール、グルコシルからなる群から選択され、或いはR9a及びR9bは、それらが結合した窒素と一緒になって、O、N及びSから選択される1つ又は複数のさらなるヘテロ原子を所望により含む無置換又は置換複素環式又は芳香族複素環式環を形成することができる。)。
【0062】
式VIIの化合物の具体例としては、
【化21】


が挙げられるが、それらに限定されない。
【0063】
e)式VIIIの構造で表される、リンカ糖成分を介して結合された複数のジャスモネート成分を含むオリゴマー化合物。
【化22】


(式中、
Rは、式:
【化23】


で表され、
、R、R、R、R及びRの各々は、以上に定義した通りである。)。
【0064】
式VIIIの化合物の具体例は、
【化24】


である。
【0065】
E)ジャスモン酸−アミノ酸結合体。
カルボキシル基を介してアミノ酸に結合したジャスモン酸は、天然で存在する(Plant Hormones、Davies PJ編、Kluwer Academic Publishers、London、2004、618、620頁)。いくつかのジャスモン酸−アミノ酸結合体を合成により調製した。アミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンが挙げられる(Jikumaru Yら、Biosci.Biotechnol.Biochem.68、1461〜1466、2004)。これらの参考文献の内容は、本明細書にすべて記載されているかの如く全面的に参照により組み込まれている。これらの結合体のすべては、本発明の方法で用いることができる。
【0066】
混合した形、又は純粋若しくは実質的に純粋な形の上記ジャスモネート誘導体のすべての立体異性体が考えられる。ジャスモネート誘導体は、原子のいずれかにおいて非対称中心を有することができる。結果として、該化合物は、鏡像異性体又はジアステレオ異性体或いはそれらの混合物の形で存在することができる。本発明では、あらゆるラセミ体(即ち、当量の各鏡像異性体を含む混合物)、鏡像異性体として高濃度の混合物(即ち、1つの鏡像異性体について高濃度の混合物)、純粋な鏡像異性体又はジアステレオ異性体、或いはそれらのあらゆる混合物が考えられる。キラル中心をR又はS又はR,S又はd,D、l,L又はd,l、D,Lで示すことができる。アミノ酸残基を含む化合物としては、D−アミノ酸、L−アミノ酸又はアミノ酸のラセミ誘導体が挙げられる。糖残基を含む化合物としては、D−糖、L−糖又は糖のラセミ誘導体の残基が挙げられる。天然で存在するD−糖の残基が好ましい。加えて、本発明の化合物のいくつかは、1つ又は複数の二重結合を含む。本発明は、各存在において独立に、シス、トランス、E及びZ異性体を含むすべての構造的異性体及び幾何異性体を包含することを意図する。
【0067】
本発明の化合物の1種又は複数種が塩として存在してもよい。「塩」という用語は、カルボン酸塩又はアミン窒素を有する塩を含むが、それらに限定されない塩基付加塩及び酸付加塩の両方を包含し、以下に記載する有機及び無機アニオン及びカチオンで形成された塩を含む。また、該用語は、塩基性基(アミノ基など)及び有機又は無機酸との標準的な酸−塩基反応によって形成する塩を含む。当該酸としては、塩酸、フッ化水素酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、リン酸、酢酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、パルミチン酸、コリン酸、パモ酸、ムチン酸、D−グルタミン酸、D−樟脳酸、グルタル酸、フタル酸、酒石酸、ラウリン酸、ステアリン酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ソルビン酸、ピクリン酸、安息香酸及び桂皮酸及び類似の酸が挙げられる。
【0068】
「有機又は無機カチオン」という用語は、カルボン酸塩のカルボン酸アニオンに対する対イオンを指す。対イオンは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、バリウム、アルミニウム及びカルシウムなど);アンモニウム、並びにモノアルキルアミン、ジアルキルアミン及びトリメチルアミンなどのトリアルキルアミン、シクロヘキシルアミン;並びにジベンジルアンモニウム、ベンジルアンモニウム、2−ヒドロキシエチルアンモニウム、ビス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、フェニルエチルベンジルアンモニウム、ジベンジルエチレンジアンモニウムなどの有機カチオン及び類似のカチオンから選択される。例えば、参照により本明細書に組み込まれている「医薬塩(Pharmaceutical Salts)」、Bergeら、J.Pharm.Sci.、66:1〜19(1977)を参照されたい。上記用語に包含される他のカチオンとしては、プロカイン、キニン及びN−メチルグルコサミンのプロトン化形、並びにグリシン、オルニチン、ヒスチジン、フェニルグリシン、リシン及びアルギニンなどの塩基性アミノ酸のプロトン化形が挙げられる。また、カルボン酸及びアミノ基によって形成される本化合物の任意の両性イオン形も考えられる。
【0069】
本発明は、また、本発明の化合物の溶媒和物及びそれらの塩を含む。「溶媒和物」は、本発明の化合物と1つ又は複数の溶媒分子との物理的結合を指す。この物理的結合は、水素結合を含む様々な程度のイオン結合及び共有結合を含む。場合によっては、溶媒は単離可能である。「溶媒和物」は、溶液相及び単離可能溶媒の両方を包含する。好適な溶媒和物の非限定的な例としては、エタノレート及びメタノレート等が挙げられる。「水和物」は、溶媒分子が水である溶媒和物である。
【0070】
本発明は、また、本発明の化合物の多形体及びそれらの塩を含む。「多形体」という用語は、X線回折、IRスペクトル及び融点などの特定の物理特性によって特徴づけることができる基質の特定の結晶状態を指す。
【0071】
化学療法薬
本発明の組合せに使用するのに好適な化学療法薬としては、アルキル化剤、抗生剤、抗代謝剤、ホルモン剤、植物由来薬剤、抗血管形成剤、分化誘発剤、細胞成長抑止誘発剤、アポトーシス誘発剤、細胞毒性剤、細胞生体エネルギーに影響を与える薬剤、生物学的薬剤、例えば、モノクローナル抗体、キナーゼ阻害薬並びに成長因子及びそれらの受容体の阻害薬、遺伝子治療薬、細胞、例えば幹細胞治療薬、又はそれらの任意の組合せが挙げられるが、それらに限定されない。
【0072】
アルキル化剤は、生物学的に重要な分子において、アミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基及びリン酸基と共有結合を形成することによって細胞機能を阻害する薬物である。アルキル化の最も重要な部位は、DNA、RNA及びタンパク質である。アルキル化剤は、活性に対する細胞増殖に依存するが、細胞周期段階に特異的なものではない。本発明に使用するのに好適なアルキル化剤としては、ビスクロロエチルアミン(窒素マスタード、例えば、クロラムブシル、シクロホスファミド、イフォスファミド、メクロレタミン、メルファラン、ウラシルマスタード)、アジリジン(例えば、チオテパ)、スルホン酸アルキルアルコン(例えば、ブスルファン)、ニトロソ尿素(例えば、BCNU、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン)、非古典的アルキル化剤(例えば、アルトレタミン、デカルバジン及びプロカルバジン)並びにプラチナ化合物(例えば、カルボプラスチン及びシスプラチン)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0073】
アドリアマイシンのような抗腫瘍抗生物質は、グアニン−シトシン及びグアニン−チミン配列においてDNAをインターカレートすることで、自然酸化及び鎖破壊を引き起こす遊離酸素ラジカルの形成をもたらす(7)。本発明に使用するのに好適な他の抗生剤としては、アントラシクリン(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン及びアントラセンジオン)、ミトマイシンC、ブレオマイシン、ダクチノマイシン及びプリカトマイシンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0074】
本発明に使用するのに好適な抗代謝剤としては、フロクスリジン、フルオロウラシル、メトトレキセート、ロイコボリン、ヒドロキシ尿素、チオグアニン、メルカプトプリン、シタラビン、ペントスタチン、リン酸フルダラビン、クラドリビン、アスパラギナーゼ及びゲムシタビンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0075】
本発明に使用するのに好適なホルモン剤としては、エストロゲン、プロゲストゲン、アンチエステロゲン、アンドロゲン、アンチアンドロゲン、LHRH類似体、アロマターゼ阻害薬、ジエチルスチベストロール、タモキシフェン、トレミフェン、フルオキシメステロール、ラロキシフェン、ビカルタミド、ニルタミド、フルタミド、アミノグルテチミド、テトラゾール、ケトコナゾール、酢酸ゴセレリン、ロイプロリド、酢酸メゲストロール及びミフェプリストーンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0076】
植物由来薬剤としては、イチイ属植物の針葉からの抽出前駆体の半合成誘導体であるタキサンが挙げられる。これらの薬物は、新規の14員環、即ちタキサンを有する。微小管解体を引き起こすビンカアルカロイドと異なり、タキサン(例えばタキソール)は、微小管集成及び安定を促進するため、有糸分裂における細胞周期を阻止する(7)。他の植物由来薬剤としては、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビンゾリジン、ビノレルビン、エトポシド、テニポシド及びドセタキセルが挙げられるが、それらに限定されない。
【0077】
本発明に使用するのに好適な生物学的薬剤としては、免疫調節タンパク質、腫瘍抗原に対するモノクローナル抗体、腫瘍抑制遺伝子、キナーゼ阻害薬、及び成長因子及びそれらの受容体の阻害薬、並びに癌ワクチンが挙げられるが、それらに限定されない。例えば、免疫調節タンパク質は、インターロイキン2、インターロイキン4、インターロイキン12、インターフェロンE1インターフェロンD、インターフェロンアルファ、エリスロポエチン、顆粒球−CSF、顆粒球、マクロファージ−CSF、カルメット・ゲランウシ型結核菌、レバミソール又はオクトレオチドであり得る。また、腫瘍抑制遺伝子は、DPC−4、NF−1、NF−2、RB、p53、WT1、BRCA又はBRCA2であり得る。
【0078】
細胞生体エネルギーに影響を与える薬剤は、細胞ATP値及び/又はこれらの値を調節する分子/活性に影響を与える。
【0079】
最近の開発により、従来の細胞毒及びホルモン治療薬に加えて、癌の治療のためのさらなる治療薬が導入された。例えば、多くの形の遺伝子治療薬が前臨床試験又は臨床試験を受けている。加えて、腫瘍血管新生(血管形成)の阻害に基づく手法が現在開発段階にある。この構想の目的は、新たに形成される腫瘍血管系によって供給される栄養物及び酸素から腫瘍を遮断することである。加えて、新生物細胞の末端分化の誘発によっても癌治療が試みられている。好適な分化剤としては、ヒドロキサミン酸、ビタミンD及びレチン酸の誘導体、ステロイドホルモン、成長因子、腫瘍促進剤並びにDNA又はRNA合成の阻害薬が挙げられる。また、ヒストンデアセチラーゼ阻害薬は、本発明に使用される好適な化学療法薬である。
【0080】
現在好ましい実施形態において、化学療法薬は、ニトロソ尿素(例えば、1,3−ビス[2−クロロエチル]−10−ニトロソ尿素(BCNU)、プラチナ化合物(例えば、シスプラチン)、タキサン誘導体(例えば、タキソール又はその誘導体)、抗腫瘍抗生物質(例えば、アドリアマイシン)又はそれらの任意の組合せである。
【0081】
解糖阻害薬
上述のように、低酸素条件下の細胞は、好気条件下の細胞より、2−デオキシ−D−グルコース(2DG)などの解糖を阻害する薬剤に対して敏感であることが最近示された。当該薬剤と、急速に分化する好気性細胞を標的とする化学療法薬とを組み合わせると、これらの治療薬の全体的な効果が高められると仮定された。2DGとシスプラチンの組合せは、インビトロで急速に増殖している様々な細胞系に適用された場合に薬剤単独より効果的であることが示された。2DGとアドリアマイシンの組合せでも同様のインビトロ相乗作用が認められ、2DGは、確立されたヒト腫瘍細胞系においてトポイソメラーゼ阻害薬(エトポシド及びカンプトテシン)及び抗生薬(ブレオマイシン)のような抗癌薬の細胞毒性効果を有意に向上させることがさらに示された。
【0082】
したがって、一実施形態において、本発明では、ジャスモネート誘導体と、2DGなどの解糖阻害薬との組合せ、さらに所望により、上述の1つ又は複数のさらなる化学療法薬との組合せの使用が考えられる。
【0083】
他の解糖阻害薬としては、オキサミン酸塩及びその誘導体が挙げられる。例えば、その内容が全面的に参照により組み込まれているHamilton E、Fennell M、Stafford DM.Acta Oncol.1995;34(3):429〜33を参照されたい。
【0084】
作用のメカニズム及び治療的使用
本発明は、それを必要とする対象における癌を治療するための方法であって、該方法は、ジャスモネート誘導体と、化学療法薬、解糖阻害薬及びそれらの組合せから選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せを該対象に投与することを含み、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、治療効果をもたらす方法に関する。
【0085】
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする対象における癌を治療するための方法であって、該方法は、ジャスモネート誘導体と、化学療法薬、解糖阻害薬及びそれらの組合せから選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せを該対象に投与することを含み、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、相乗的治療効果をもたらす方法に関する。
【0086】
別の実施形態において、本発明は、癌を治療するための医薬品を製造するためのジャスモネート誘導体、及び化学療法薬、解糖阻害薬から選択される少なくとも1つの他の薬剤を含む組合せの使用であって、第1の量及び第2の量は一緒になって、相乗的治療効果をもたらす使用に関する。
【0087】
本明細書において、実証されているように、異なる主な種類の悪性腫瘍、即ち乳癌、肺癌、前立腺癌及び膵臓癌並びに白血病により生じる6つの細胞系において、MJといくつかの抗癌薬の協働効果が認められた。また、MJは、インビボのアドリアマイシンの抗白血病効果を有意に向上させた。慣例の臨床的使用における4つの異なる化学療法薬を評価した。これらは、MJの作用メカニズムと異なる作用メカニズムに基づいて選択された。何らかの特定のメカニズム又は理論に縛られることを望まないが、異なる作用メカニズムを有する薬物は、癌治療のための有望な組合せになると考えられる。しかしながら、これらの薬物の各々の細胞毒性効果は、ミトコンドリア摂動を介して、間接的であるが、媒介される。したがって、ミトコンドリアは、細胞の生死の決定の中心点として働く。何らかの特定のメカニズム又は理論に縛られることを望まないが、これらの細胞器官に影響を与える薬物の組合せは、異なる特異的なメカニズムを通じてではあるが、一緒になって、超相加的効果をもたらすことが可能であることが提示される。これにより、MJの存在下で、様々な科学療法薬のIC50値が著しく低下し、望ましくない副作用を低減する可能性を指摘する。
【0088】
MJは、CLL患者の白血病細胞に対して作用しながら、正常のリンパ球を消耗させないことが既に示された(1、2、3)。したがって、MJは、副作用を引き起こすことなく、CLLに対する現在利用可能な治療を向上させることが可能である。さらに、MJは、p53変異細胞(6)、及び高レベルのP−gpを発現する細胞を死滅させることができることが既に示された。結果として、MJを含む薬物の組合せは、薬物抵抗を示す患者を治療する上での利点を有することになる。
【0089】
加えて、MJと解糖阻害薬2DGの組合せは、様々な癌細胞に対して超相加的細胞毒性効果を示した。何らかの特定のメカニズム又は理論に縛られることを望まないが、これは、ATP生合成の2つの主たる細胞源として、酸化性リン酸化の阻害と解糖の阻害との間の協働を反映することを提唱する。
【0090】
本発明の文脈における「癌」という用語は、固形腫瘍の形であるか、非固形腫瘍の形であるかにかかわらず、あらゆる起源のあらゆる種類の新生物を含み、悪性腫瘍状態及び前悪性腫瘍状態の両方並びにそれらの転移を含む。本発明の組合せは、広範な癌に対して活性である。本発明の組合せは、癌腫、肉腫、骨髄腫、白血病、リンパ腫及び混合型腫瘍を含む広範な癌に対して活性である。治療対象となる特定の範疇の腫瘍としては、リンパ球増殖障害、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、子宮頚癌、子宮内膜癌、骨癌、肝臓癌、胃癌、結腸癌、膵臓癌、甲状腺癌、頭及び首の癌、中枢神経系の癌、末梢神経系の癌、皮膚癌、腎臓癌、並びに上記すべての癌の転移が挙げられる。治療の対象となる特定の種類の腫瘍としては、肝細胞癌、血腫、肝芽腫、横紋筋肉腫、食道癌、甲状腺癌、神経節芽細胞腫、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋上皮肉腫、侵入性腺管癌、乳頭腺癌、黒色腫、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌(十分に分化、中程度に分化、不十分に分化又は未分化)、腎細胞癌、副腎腫、副腎様腺癌、胆道癌、繊毛上皮腫、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、抗癌腫、小細胞肺癌、非小細胞肺癌及び大細胞肺癌を含む肺癌、膀胱癌、神経膠腫、星状細胞腫、骨芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、網膜芽腫、神経芽腫、結腸癌、直腸癌、急性骨髄性白血病、急性骨髄球性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、肥胖細胞性白血病、多発性骨髄腫、骨髄性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫を含むすべての種類の白血病及びリンパ腫を含む造血系悪性腫瘍が挙げられる。
【0091】
特に、本発明の組合せは、乳癌、腎臓癌、胃癌、リンパ性白血病を含む白血病、肺癌、黒色腫及び結腸癌に対して活性である。一実施形態において、対象は、哺乳類、好ましくはヒトである。しかし、本発明では、本発明の化合物をヒト以外、例えば獣医薬に使用することも考えられる。
【0092】
「癌を治療又は阻害する」或いは「悪性腫瘍(癌)細胞増殖を治療又は阻害する」という用語が本明細書及び請求項に用いられている場合は常に、腫瘍形成、一次腫瘍、腫瘍進行又は腫瘍転移を包含することを意図すると理解されよう。
【0093】
本発明の文脈において癌細胞に関する「増殖の阻害」という用語は、以下の少なくとも1つの減少を指す。対照と比較した細胞数(壊死、アポトーシス又は任意の他の種類の細胞死或いはそれらの組合せであってもよい細胞死による);細胞成長率の低下、即ち、細胞の全数は増加し得るが、対照における増加レベル又は増加率より小さい;それらの全数が変化しなくても対照と比較した細胞の侵襲性の低下(例えば、軟寒天アッセイによって測定される);より分化の少ない細胞型からより分化の多い細胞型への進行;悪性形質転換の減速;或いは1つの段階から次の段階への癌細胞の進行緩慢化。
【0094】
本発明の文脈における「癌の治療」という用語は、以下の少なくとも1つを含む。癌の成長率の低下(即ち、癌はまだ成長しているが、その速度が遅い);癌成長の停止、即ち腫瘍成長の静止、且つ好ましい場合は、腫瘍が減少する、又はサイズが低下する。該用語は、また、転移数の減少、形成される新たな転移の数の減少、1つの段階から他の段階への癌の進行の緩慢化、癌によって誘発される血管形成の低下を含む。最も好ましい場合では、腫瘍が完全に除去される。また、治療を受ける対象の生存期間を延ばすこと、疾患進行時間を延ばすこと、及び腫瘍退化等も該用語に含まれる。この用語は、予防状況、又は腫瘍にかかりやすい個体についての予防をも包含する。本発明の化合物を投与すると、個体が疾患にかかる確率が低下することになる。好ましい状況において、該化合物が投与された個体は、疾患にかからない。
【0095】
本明細書に用いられているように、「投与する」という用語は、本発明の化合物と接触させることを指す。細胞又は組織培養物、或いは生体、例えばヒトに対して投与を遂行することができる。一実施形態において、本発明は、本発明の化合物をヒト対象に投与することを包含する。
【0096】
「治療的」治療薬は、病状の徴候を示す対象に対して、それらの徴候を低減又は排除することを目的として投与される治療薬である。「治療有効量」は、該化合物が投与される対象に有益な効果を提供するのに十分な化合物の量である。「相乗的治療有効量」は、組合せ治療薬投薬が、各構成要素を単独で治療投与量だけ投与した場合のその相加効果より有意に良好な抗癌効果(例えば、細胞成長阻止、アポトーシス、分化の誘発、細胞死)をもたらすことを意味する。標準的な統計分析を採用して、それらの結果が有意に良好であるときを判断することができる。例えば、マン・ホイットニー検定又はいくつかの他の一般的に受け入れられている統計分析を採用することができる。
【0097】
医薬組成物
本発明の組合せを単独で投与することができるが、少なくとも1つの医薬として許容し得る担体又は賦形剤をさらに含む医薬組成物で該組合せの構成要素を投与することが考えられる。該構成要素の各々を個別の医薬組成物で投与することができ、又は該組合せを1つの医薬組成物で投与することができる。
【0098】
したがって、一実施形態において、本発明では、第1の量のジャスモネート誘導体と、化学療法薬及び解糖阻害薬から選択される第2の量の少なくとも1つの他の薬剤との組合せを含む医薬組成物も考えられる。第1の量及び第2の量は一緒になって、一実施形態において相乗的である治療的抗癌効果をもたらす。
【0099】
別の実施形態において、本発明では、第1の量のジャスモネート誘導体を含む第1の医薬組成物、並びに化学療法薬及び解糖阻害薬から選択される第2の量の少なくとも1つの他の薬剤を含む第2の医薬組成物が考えられる。第1の量及び第2の量は一緒になって、一実施形態において相乗的である治療的抗癌効果をもたらす。該組合せが3つ以上の構成要素を含む場合は、ジャスモネート誘導体、化学療法薬及び/又は解糖阻害薬の合計量が、一実施形態において相乗的である治療的抗癌効果をもたらす。
【0100】
経口、直腸、経皮、非経口(皮下、腹腔内、静脈内、動脈内、経皮及び筋肉内)、局部、鼻内又は坐薬を含む様々な経路による投与に向けて、本発明の医薬組成物を処方することができる。当該組成物は、医薬技術分野で良く知られている方法で調製され、活性成分としての上記の本発明の少なくとも1つの化合物並びに医薬として許容し得る賦形剤又は担体を含む。「医薬として許容し得る」という用語は、動物、特にヒトへの使用について連邦又は州政府の法的機関に承認されていること、或いは米国薬局方又は他の広く認識された薬局方に掲載されていることを指す。
【0101】
本発明による医薬組成物の調製を通じて、活性成分は、固体、半固体又は液体材料であってもよい担体又は賦形剤と通常混合される。組成物は、錠剤、丸剤、カプセル剤、ペレット剤、顆粒剤、粉剤、トローチ剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、分散剤、乳剤、液剤、シロップ剤、(固体として、又は液体媒体中の)エアロゾル剤、例えば、10重量%までの活性化合物を含む軟膏剤、軟質及び硬質ゼラチンカプセル剤、坐薬、無菌注射可能液剤及び無菌梱包粉剤の形であり得る。
【0102】
担体は、従来使用されているもののいずれかであってもよく、溶解性及び本発明の化合物との反応性の欠如などの化学−物理条件並びに投与経路によってのみ制限される。担体の選択は、医薬組成物を投与するのに用いられる特定の方法によって決定されることになる。好適な担体のいくつかの例としては、ラクトース、グルコース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、珪酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水及びメチルセルロースが挙げられる。製剤は、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱油などの潤滑剤;湿潤剤、界面活性剤、乳化剤及び懸濁剤;安息香酸メチル及びプロピルヒドロキシなどの防腐剤;甘味料;香料、着色剤、緩衝剤(例えば、酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩)、崩壊剤、加湿剤、抗菌剤、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸又は重硫酸ナトリウム)、キレート化剤(例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸)、及び塩化ナトリウムなどの張度調整剤をさらに含むことができる。他の医薬担体は、水及び石油、動物、植物又は合成起源の油を含む油、例えば、落花生油、大豆油、鉱油及びゴマ油等、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒などの無菌液であり得る。水は、医薬組成物が静脈内投与される場合に好ましい担体である。特に注射可能溶液としては、食塩水並びにデキストロース及びグリセリン水溶液を液体担体として採用することもできる。
【0103】
一実施形態では、医薬組成物において、活性成分を任意の許容し得る脂質担体に溶解する(例えば、脂肪酸、油に溶解して、例えばミセル体又はリポソームを形成する)。
【0104】
錠剤などの固体組成物を調製するには、主要活性成分を医薬賦形剤と混合して、本発明の化合物の均一混合物を含有する固体の予備処方組成物を形成する。これらの予備処方組成物を均一と言う場合は、組成物を同等の効果の錠剤、丸剤及びカプセル剤などの単位剤形に容易に細分できるように、活性成分を組成物全体に均一に分散させることを意味する。次いで、この固体の予備処方製剤を、例えば、約0.1mgから約2000mg、約0.1mgから約500mg、約1mgから約100mg、約100mgから約250mg等の本発明の活性成分を含む上記の種類の単位剤形に細分する。
【0105】
任意の方法を用いて、医薬組成物を調製することができる。固体剤形を湿式造粒、乾式造粒及び直接圧縮等によって調製することができる。本発明の固体剤形をコーティング、或いは配合して、作用を延ばす利点を与える剤形を提供することができる。例えば、錠剤又は丸剤は、内部投与構成要素及び外部投与構成要素を含むことができ、後者は、前者に対する外膜の形をとる。胃内での崩壊に抵抗し、内部構成要素が、そのまま十二指腸に入るか、或いはその放出を遅延させることを可能にするように働く腸溶層によって、それら2つの構成要素を分離することができる。当該腸溶層又はコーティングに様々な材料を使用することができ、当該材料は、シェラック、セチルアルコール及び酢酸セルロースのような材料とともにいくつかのポリマー酸及びポリマー酸の混合物を含む。
【0106】
本発明の組成物を経口又は注射により投与するために導入することができる液体剤形としては、水溶液剤、好適に着香されたシロップ剤、水性又は油性懸濁剤、綿実油、ゴマ油、ヤシ油又は落花生油などの可食性油による着香乳剤、並びにエリキシル剤及び同様の医薬媒体が挙げられる。
【0107】
吸入又は吹導のための組成物としては、医薬として許容し得る水性溶媒若しくは有機溶媒又はそれらの混合物による液剤及び懸濁剤、及び粉剤が挙げられる。液体組成物又は固体組成物は、上記の好適な医薬として許容し得る賦形剤を含むことができる。好ましくは、該組成物を局部又は全身効果に向けて、経口又は経鼻呼吸経路によって投与する。好ましくは医薬として許容し得る溶媒中の組成物を不活性ガスの使用によって噴霧することができる。噴霧溶液を噴霧デバイスから直接吸い込んでよく、又は噴霧デバイスを顔面マスクテント又は断続的正圧呼吸装置に装着してもよい。液剤、懸濁剤又は粉剤組成物を、製剤を適切な方法で送達するデバイスから好ましくは経口又は経鼻投与することができる。
【0108】
本発明の方法に採用される別の製剤は、経皮送達デバイス(「貼付剤」)を採用する。当該経皮貼付剤を使用して、本発明の化合物を制御した量で連続的又は不連続的に注入することができる。医薬の送達に向けた経皮貼付剤の構成及び使用は、当該技術分野で良く知られている。
【0109】
さらに別の実施形態において、該組成物は、例えば、軟膏剤、ゲル剤、滴剤又はクリーム剤として局部投与に好ましい。例えば、クリーム剤、ゲル剤、滴剤及び軟膏剤などを使用して体表面に局部投与するために、医薬担体を用いた、又は用いていない生理的に許容し得る希釈剤で本発明の化合物を調製・塗布することができる。本発明を局部的又は経皮的に使用して、癌、例えば黒色腫を治療することができる。局部形又はゲル基材形のアジュバントは、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリアクリレート、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロック重合体、ポリエチレングリコール及び木製ワックスアルコールを含むことができる。
【0110】
代替的な製剤としては、当該技術分野で知られている経鼻スプレー剤、リポソーム製剤、徐放製剤、薬物を体内に送達するポンプ(機械的又は浸透圧ポンプを含む)及び制御放出製剤等が挙げられる。
【0111】
該組成物は、好ましくは単位剤形で処方される。「単位剤形」という用語は、ヒト対象及び他の哺乳類に対する単体投与物として好適な物理的に個別の単位であって、各単位は、所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性材料を好適な医薬賦形剤と一緒に含む単位を指す。
【0112】
製剤を調製するのに際して、他の成分と組み合わせる前に、活性成分を粉砕して好適な粒径とすることが必要であり得る。活性化合物が実質的に不溶である場合は、それを通常200メッシュ未満の粒径まで粉砕する。活性成分が実質的に水溶性である場合は、製剤における分布が実質的に均一になるように粉砕によって粒径を、例えば、約40メッシュに通常調整する。
【0113】
本発明の医薬組成物を治療が必要な部分に局部的に投与することが所望され得る。これを、例えば、限定することを目的とせずに、手術時の局部注入、手術による、又はよらない血管供給を介する肝臓への注入、例えば、手術後の創傷被覆材を併用する局部的塗布、注射、カテーテル、坐薬、多孔質、非多孔質又はゼラチン状材料のインプラントによって達成することができる。いくつかの好ましい実施形態によれば、腫瘍又は新生物若しくは新生物発生前の組織の部位に、例えばシリンジを介して、直接的な注射によって投与することができる。
【0114】
該化合物を任意の便利な経路によって、例えば、注入又はボーラス注射、上皮内層(例えば、口内粘膜、直腸及び腸粘膜等)を介する吸収によって投与することもでき、他の治療活性薬と一緒に投与することができる。投与は、局部的であることが好ましいが、全身投与であってもよい。加えて、本発明の医薬組成物を、心室内及びクモ膜下注射を含む任意の好適な経路で中枢神経系に導入するのが望ましい場合がある。心室内注射を、例えば、レザバーに装着された心室内カテーテルによって促進することができる。例えば、吸入器又は噴霧器の使用、及びエアロゾル化剤による処方によって肺投与を採用することもできる。
【0115】
本発明の化合物を即時放出又は制御放出系で送達することができる。一実施形態において、化学療法薬を特定の器官又は腫瘍に送達するのに使用されるもののような注入ポンプを使用して、本発明の化合物を投与することができる(Buchwaldら、1980、Surgery 88:507;Saudekら、1989、N.Engl.J.Med.321:574参照)。好ましい形において、本発明の化合物を、選択された部位に制御された時間にわたって化合物を放出する生分解性の生体適合性ポリマーインプラントと組み合わせて投与する。好ましいポリマー材料の例としては、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエチレン酢酸ビニル、それらの共重合体及び配合物(Medical applications of controlled release、Langer及びWise(編)、1974、CRC Pres.、Boca Raton、FIa参照)。さらに別の実施形態において、制御放出系を治療目標の近傍に配置することができるため、全身投与の何分の一程度しか必要としない。
【0116】
また、ときには、医薬組成物は、非経口投与(皮下、静脈内、動脈内、経皮、腹腔内又は筋肉内注射)のために処方されてもよく、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤及び溶質を含むことができ、製剤を意図する受給者の血液に対して等張性にする水性及び非水性等張無菌注射液、並びに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤及び防腐剤を含む水性及び非水性無菌懸濁剤を含むことができる。石油、動物油、植物油又は合成油などの油及び脂肪アルカリ金属などの石鹸、アンモニウム及びトリエタノールアミン塩、並びに好適な洗剤を非経口投与に使用することもできる。上記製剤を直接的な腫瘍内注射に使用することもできる。さらに、注射の部位における刺激を最小にする、又は除去するために、組成物は、1つ又は複数の非イオン性界面活性剤を含むことができる。好適な界面活性剤としては、モノオレイン酸ソルビタンなどのポリエチレンソルビタン脂肪酸エステル、並びに酸化プロピレンとプロピレングリコールの縮合によって形成された酸化エチレンと疎水性塩基との高分子量付加物が挙げられる。
【0117】
非経口製剤をアンプル及びバイアルなどの単位投与又は多投与密封容器に入れ、使用直前に無菌液体担体、例えば注射用水を添加することのみを必要とする凍結乾燥条件で保管することができる。即時注射液及び懸濁液を既に記載し、当該技術分野で知られている種類の無菌粉剤、顆粒剤及び錠剤から調製することができる。
【0118】
或いは、本発明の組合せを白血球除去法及び他の関連方法などの血液透析に使用することができる。例えば、血液を柱/中空繊維膜、カートリッジ等を介する様々な方法によって患者から採取し、ジャスモネート誘導体及び/又は化学療法薬及び/又は解糖阻害薬により生体外で処理し、処理後に患者に戻す。当該治療方法は、当該技術分野で良く知られ、記載されている。例えば、その内容が全面的に参照により本明細書に組み込まれているKolhoら、(J.Med.Virol.1993、40(4):318〜21);Tingら、(Transplantation、1978、25(1):31〜3)を参照。
【0119】
投与量及び投与スケジュール
ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の化学療法薬及び/又は抗解糖阻害薬による治療を任意の順序で順次、同時に、又はそれらの組合せで行うことができる。例えば、ジャスモネート誘導体の投与を化学療法薬及び/又は解糖阻害薬の投与前、投与後又は投与と同時に行うことができる。例えば、ジャスモネート誘導体についての全治療時間を決定することができる。追加的な薬剤(化学療法薬及び/又は解糖阻害薬)をジャスモネート誘導体による治療の開始前、又はジャスモネート誘導体による治療後に投与することができる。加えて、追加的な薬剤をジャスモネート誘導体の投与時間中に投与することができるが、ジャスモネート誘導体の治療時間全体にわたって行う必要はない。別の実施形態において、治療投薬は、1つの薬剤、即ちジャスモネート誘導体又は化学療法薬/解糖阻害薬による前治療の後に、1つ又は複数の他の薬剤を追加することを含む。交互順序の投与も考えられる。交互投与は、ジャスモネート誘導体、化学療法薬及び/又は解糖阻害薬を交互順序で投与すること、例えば、ジャスモネート誘導体の後に化学療法薬を投与し、その後に解糖阻害薬を投与し、その後にジャスモネート誘導体を投与する等を含む。
【0120】
癌を含む特定の障害又は状態の治療に有効である本発明の化合物(即ちジャスモネート誘導体/化学療法薬/解糖阻害薬)の量は、障害又は状態の性質に依存し、標準的な臨床技術によって決定され得る。加えて、インビトロアッセイを所望により採用して、最適な投与量範囲を特定するのに役立てることができる。製剤において採用すべき厳密な投与量は、投与経路及び疾患又は障害の重度にも依存し、実務者の判断及び各患者の状況に応じて決定されるべきである。好ましい投与量は、体重1kg当たり0.01〜1000mg/kgの範囲内、0.1mg/kgから100mg/kg、1mg/kgから100mg/kg、10mg/kgから75mg/kg、0.1〜1mg/kg等である。ジャスモネート誘導体/化学療法薬/解糖阻害薬の代表的な(非限定)量は、0.1mg/kg、0.2mg/kg、0.5mg/kg、1mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、75mg/kg及び100mg/kgを含む。或いは、投与量を測定し、投与化合物のモル数として表すことができる。限定ではなく例として、ジャスモネート誘導体(例えば、ジャスモン酸メチル)を0.1〜10mMの範囲、例えば、0.1、0.25、0.5、1及び2mMで投与することができる。或いは、投与量を測定し、mg/ml、μg/ml又はng/mlで表すことができる。限定ではなく例として、化学療法薬を1ng/mlから100mg/ml、例えば、1〜1000ng/ml、1〜100ng/ml、1〜1000μg/ml、1〜100μg/ml、1〜1000mg/ml、1〜100mg/ml等の量で投与することができる。効果的な投与量をインビトロ又は動物モデル試験バイオアッセイ又はシステムから導かれた投与量−応答曲線から推定することができる。相乗効果が認められる場合は、構成要素の各々の全投与量が小さくなり得るため、対象が経験する副作用が有意に低下し得る一方、十分な化学療法効果が達成される。本明細書の実験のセクションで実証されているように、ジャスモネート誘導体、ジャスモン酸メチルと様々な化学療法薬(アドリアマイシン、タキソール、BCNU及びシスプラチン)との組合せは、インビトロ及びインビボにおける様々な濃度範囲で相乗的抗増殖効果を示す。
【0121】
一実施形態において、組合せ治療薬は、その構成要素の各々の量を2分の1に減少させる。即ち、各構成要素は、単一薬治療薬と比較して半分の投与量で与えられ、なおも同一又は同様の治療効果を達成する。別の実施形態において、組合せ治療薬は、その構成要素の各々の量を5分の1、10分の1、20分の1、50分の1又は100分の1に減少させる。本明細書に実証されているように、様々な癌細胞における抗増殖薬としての化学療法薬のIC50は、単一で投与された場合の化学療法薬のIC50と比較して小さくなる。
【0122】
投与スケジュールは、治療されている癌、重度及び進行、患者種族、年齢、体重等のいくつかの要因に依存する。例えば、本発明の組成物を1日1回、1日に2回、1日3回、1週間に1回又は1ヶ月に1回摂取することができる。加えて、投与は、連続的、即ち毎日又は断続的であり得る。「断続的な」又は「断続的に」という用語は、本明細書に用いられているように、規則的又は不規則な間隔で停止及び開始することを指す。例えば、断続的投与は、1週間当たり1日から6日の投与であり得るか、或いは周期的な投与(例えば、2週間から8週間連続して毎日投与した後、1週間までの期間にわたって投与しない)を指してもよく、又は隔日の投与を指してもよい。該組合せの異なる構成要素は、互いに独立に、異なる投与スケジュールに従うことができる。
【0123】
以下の実施例は、本発明の一部の実施形態をより十分に例証するために示される。しかし、それらは、本発明の広い範囲を限定するものと見なされるべきではない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、本明細書に開示された原理の多くの変更及び修正を容易に考案できる。
【0124】
実験の詳細のセクション
(実施例1−材料及び方法)
化学物質:
ジャスモン酸メチル[メチル3−オキソ−2−(2−ペンテニル)シクロペンタン酢酸]、2−デオキシ−D−グルコース(2DG)、1,3−ビス{2−クロロエチル}−1−ニトロソ尿素(BCNU)及び二塩化シスジアミンプラチナ(II)(シスプラチン)をSigma−Aldrich Chemie GmbH(ドイツSteinheim)から購入した。アドリアマイシンをPharmacia Italia S.p.Aから購入し、タキソールをMeadJohnson(米国)から購入した。ジャスモン酸メチルを無水エタノールに溶解させて、500mMの原液を得た。さらに、MJの希釈及び細胞毒性剤の希釈を培地で行った。培地におけるエタノールの最終濃度は、0.6%を超えなかった。インビボ実験では、アドリアマイシンをリン酸緩衝食塩水に溶解させた。
【0125】
腫瘍細胞系:
CT26は、マウス結腸癌である。DA−3は、マウス乳腺癌である。TRAMP C1は、マウス前立腺癌である。MCF7は、ヒト胸腺癌である。MIA PaCa−2は、ヒト膵臓癌である。D122は、マウス肺癌である。BCL1は、マウスB細胞白血病である。Y.Keisari教授(Tel−Aviv大学(イスラエル))が親切に提供してくれたDA3及びD122を除いて、すべての細胞系をATCC(米国マサチューセッツ州Rockville)から購入した。
【0126】
細胞系は、VenorGemマイコプラズマ検出キット25T(Minerva Biolabs(ドイツBerlin))によって明らかにされたように、マイコプラズマ感染に対して陰性であることが判明した。
【0127】
細胞を37℃、5%COの加湿雰囲気に維持した。CT26及びDA−3細胞を、10%FCS、2mMのL−グルタミン、100Uml−1のペニシリン、100μgml−1のストレプトマイシン、1mMのピルビン酸ナトリウム及び可欠アミノ酸の1:100希釈液(いずれもBiological Industries(イスラエル)から購入)が補給されたダルベッコー修飾イーグル培地(Biological Industries(イスラエルBeit−Haemek))に維持した。
【0128】
MCF7、MIA PaCa−2及びBCL1細胞を、10%のFCS、2mMのL−グルタミン、100Uml−1のペニシリン及び100μgml−1のストレプトマイシンが補給されたRPMI−1640培地(Biological Industries(イスラエル))に維持した。
【0129】
TRAMP C1細胞を、10%FCS、2mMのL−グルタミン、100Uml−1のペニシリン、100μgml−1のストレプトマイシン、1mMのピルビン酸ナトリウム、可欠アミノ酸の1:100希釈液、5μg/mlのウシインシュリン及び10nMのデヒドロイソアンドロステロンが補給されたダルベッコー修飾イーグル培地で成長させた。
【0130】
培養において継続的に成長できないBCL1細胞をBALB/cマウスに維持した。接種後23〜28日目にBCL1−担持マウスの尾血管から血液を採取し、RBC溶解緩衝剤(Sigma−Aldrich)を使用して赤血球(RBC)を枯渇させた。純化した白血球をインビトロ及びインビボ実験に使用した。
【0131】
細胞毒性アッセイ
すべての細胞(BCL1を除く)を1ウェル当たり210個の細胞の密度で96ウェルのマイクロタイタープレート(Corning)に仕込み、処理前に接着させた。BCL1細胞を1ウェル当たり2010個の細胞の密度で接種した。細胞をMJ、細胞毒性剤、2DG又はそれらの組合せに異なる濃度で24時間にわたって曝露させた。MJを添加する1時間前に細胞毒性剤及び2DGを添加した。
【0132】
細胞増殖の阻害をCellTiter 96 Aqueous Non−Radioactive Cell Proliferation Assay(Promega(米国ウィスコンシン州Madison))で測定した。所定の実験が終了したら、MTS(333μg/mlの最終濃度のテトラゾリウム化合物)+メソ硫酸フェナジン(25μMの最終濃度)の混合物(20:1)の20μlを37℃で1時間にわたって96ウェルプレートの各ウェルに添加した。これにより、デヒドロゲナーゼが代謝活性細胞におけるMTSを低減する反応の発生が可能になった。細胞をMTSの添加前に洗浄しなかったため、潜在的に疎接着性の細胞又は非接着性細胞による問題は認められなかった。波長490nmにおける可溶性MTSホルマザン生成物をCERES 900 HDi ELISA読取装置(Bio−Tek Instruments(米国バーモント州Highland Park))で測定した。光学密度は、培養における生細胞の数に正比例する。細胞毒性(%)を以下のようにして計算した。[(対照細胞の吸光度−薬物処理細胞の吸光度)/対照細胞の吸光度]×100。
【0133】
インビボ試験:
雄のBalb/cマウス(生後7〜8週間)をTel−Aviv大学(イスラエル)の繁殖コロニーから入手した。動物の世話及び実験をTel−Aviv大学のガイドラインに従って実施し、組織的な動物の使用及び世話に関する委員会に承認された。実験を通じて、マウスを標準的な食物及び飼育条件下でケージに維持した。
【0134】
BCL1白血病のBALB/cマウスから新たに抽出した2×10BCL1細胞を100μlのPBSでマウスに腹腔内(i.p.)接種して、腫瘍を成長させた。60mg/kgのジャスモン酸メチルを、細胞接種の1日後から4週間にわたって毎日1週間に5回、動物に投与した。このMJの投与物は、予備実験において動物に十分許容されることが判明した。MJを脂質製剤のリポフンジン(B.Braun Melsungen(ドイツMelsungen))に溶解させた。7日目及び14日目に、アドリアマイシンをi.p.により4mg/kgの量でマウスに2回与えた。対照マウスを媒体のみで処理した。マウスの生存を毎日監視した。
【0135】
統計分析
両側スチューデントt検定を用いて、インビトロ実験における統計的有意性を評価した。P<0.05を統計的に有意であると見なした。統計ソフトウェアを使用して、生存曲線(カプラン−メイヤー試験)及び統計分析(マンテル−コックス試験)を実施した。
【0136】
(実施例2:インビトロの腫瘍細胞系に対するMJの細胞毒性効果)
MJの細胞毒性活性を6つの接着性細胞系及び1つの生体外マウス細胞系に対してインビトロで試験した。各細胞系を0.1mMから2mMの濃度で24時間にわたってMJに曝露し、方法のセクションに記載されるように細胞毒性を測定した。IC50値を表1にまとめる。図1からわかるように、MJは、0.25mM以上の濃度で細胞毒性効果を発揮した。いずれの細胞系も投与量に応じてMJに応答した。
表1:異なる細胞系におけるMJのIC50
【表1】

【0137】
(実施例3:インビトロの癌細胞系に対するMJ及び化学療法薬による組合せ治療の細胞毒性効果)
伝統的な化学療法薬によるMJの協働効果を調べた。抗癌薬が、単一治療薬として使用されることは希である。有効な化学療法は、2つ以上の薬剤の適性且つ効果的な組合せに通常依存する。作用様式の異なる4つの薬物を選択した。BCNU、シスプラチン、タキソール及びアドリアマイシンを7つの細胞系における一定濃度のMJとの組合せによる協働性について評価した。MJの細胞毒性が40%を超えないように、MJ濃度を投与量応答データ(図1)に従って選択した。両薬物が一緒に存在するときの細胞毒性と個別に投与された各薬物の細胞毒性の合計との差(グラフ上の期待相加性)がpV<0.05になる場合に、MJと別の薬剤との相互作用を協働的(超相加的)であると見なした。これらの実験の概要を表2に示す。それからわかるように、MJは、CT26細胞において4つの薬物のいずれとも協働的活性を示さないが、他の細胞系において、1つ又は2つの化学療法薬とのMJの協働効果が認められた。
【表2】


表2:MJと様々な化学療法薬との組合せを評価する実験の概要
+は、少なくともいくつかの濃度で協働効果をもたらす組合せ
【0138】
図2Aに示すように、MIA PaCa−2細胞は、試験したすべての濃度(1〜25μg/ml)においてBCNUとの強い協働効果を発揮するのに対して、シスプラチンとの協働は、低いシスプラチン濃度(1及び2.5μg/ml)で発揮される。BCNUのIC50は、それ自体が25μg/ml超であるが、組合せのIC50は、1μg/ml未満である。
【0139】
MCF7細胞(図2B)において、MJは、2.5μg/mlのタキソールと組み合わせるとタキソールの細胞毒性能力を向上させるのに対して、他の濃度の組合せは、相加的である。
【0140】
DA−3細胞(図2C)において、1、2.5及び5μg/mlにおいてMJとタキソールの協働効果が認められるのに対して、10μg/mlでは、その効果は相加的である。この組合せにおけるタキソールのIC50は、2.5μg/mlまで低下するのに対して、タキソール単独のIC50は、9μg/mlである。すべての指定濃度においてD122細胞(図2D)にタキソール及びMJの非常に強い協働性を確認することができる。この実験系におけるタキソール単独のIC50は、8.2μg/mlであるが、MJの存在下で1μg/ml未満まで低下する。
【0141】
TRAMP C1細胞におけるタキソールのMJとの協働を図2Eに示す。試験したすべての濃度(1〜50μg/ml)において、TRAMP C1細胞における組合せ効果は、期待された相加性より有意に高い。TRAMP C1細胞に対するタキソールのIC50は、38μg/mlである。この値は、MJとの組合せ治療によって2μg/mlまで低下する。シスプラチンもTRAMP C1細胞において、1及び2.5μg/mlの濃度でタキソールとの協働性を発揮した。
【0142】
(実施例4:インビトロのBCL1細胞に対するMJの細胞毒性効果)
BCL1白血病マウスから新たに抽出したBCL1細胞に対するMJの細胞毒性を調べた(図1)。これらの細胞は、MJに対して最も敏感であることが判明した(IC50=0.56)。また、BCL1細胞は、ヒトB細胞白血病のモデルと考えられ、MJは、CLL患者の血液から新たに採取した白血病細胞を効果的に死滅させた(2、3)。結果として、これらの一次腫瘍細胞におけるMJの化学療法薬との見込まれる協働効果を評価した。これらの実験における選択されたMJ濃度(0.1mM)は、BCL1細胞の感受性が高いため、癌細胞を用いた実験よりはるかに低かった。MJのシスプラチン及びタキソールとの協働効果は認められなかった。しかし、図3に見られ、表2に要約されているように、2.5及び5μg/mlにおいてMJとBCNUの間に協働が存在し(pV<0.05)、10及び25ng/mlにおいてMJとアドリアマイシンの間に協働が存在する。他の濃度では、相加効果が認められた。
【0143】
(実施例5:MJとアドリアマイシンの組合せは、インビボでBCL1に対して相乗的である)
アドリアマイシンは、白血病の治療に使用されるため、インビボでMJとの組合せを評価する実験に対してそれを選択した。新たに抽出した10個のBCL1細胞をBALB/cマウスにi.p.注射し、4週間にわたってアドリアマイシンとMJの組合せでマウスを処理した。アドリアマイシンの投与量を先のインビボ実験に基づいて、即ち最小限の治癒効果を発揮する無毒性レベルに選択した。MJによる処理は、BCL1注射の1日後に開始した。MJを静脈内注射によって毎日60mg/kg投与したのに対して、アドリアマイシンを2回、即ち7日目と14日目に注射した。図4に見られるように、MJ+ADRで処理したマウスの生存期間は、MJ又はADR単独で処理されたマウスと比較して有意に長かった(pV=0.028)。したがって、MJとADRの協働性をインビトロのみならずインビボでも認めることができる。
【0144】
(実施例6:インビトロの異なる細胞系に対するMJと2DGの組合せ治療の細胞毒性効果)
本発明の出願人は、29M4.1Bリンパ腫細胞における2DGによる解糖阻害薬が、ATP値に対するMJの効果を向上させて、MJ単独によってもたらされる効果より有意に強い細胞ATP値の著しい枯渇をもたらしたことを最近示した(6)。したがって、細胞生死に対するMJと2DGの見込まれる組合せ効果を調べた。この目的のために、4つの細胞系を異なる濃度のMJと一定濃度の2DGとの組合せに曝露した。この実験の結果を図5にまとめる。示されるように、0.5mMの2DGは、MJ濃度の各々において、CT26及びD122細胞におけるMJの細胞毒性を有意に向上させた(pV<0.05)のに対して、MCF7細胞において、その効果は、0.5mMのMJでのみ有意であり、他の濃度では相加的であった。DA−3細胞では協働効果が認められなかった。
【0145】
結論として、ミトコンドリア毒性抗癌薬MJは、インビトロ及びインビボの双方において、様々な一般的化学療法薬並びに解糖阻害薬と協働することができる。これらのデータは、恐らくは薬物耐性腫瘍に対しても薬物組合せにおけるMJの潜在的な臨床的使用のための基礎を成す。
【0146】
本発明の一部の実施形態を例証・記載したが、本発明は、本明細書に記載の実施形態に限定されないことが明らかになるであろう。添付の請求項に記載されている本発明の主旨及び範囲から逸脱することなく、多くの修正、変更、変形、代用及び同等物が当業者に明らかになるであろう。
【0147】
参考文献






【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象における癌を治療するための方法であって、ジャスモネート誘導体と、ニトロソ尿素、プラチナ化合物、タキサン誘導体、抗腫瘍抗生物質及び解糖阻害薬からなる群から選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せを該対象に投与することを含み、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、相乗的治療効果をもたらす、上記方法。
【請求項2】
癌細胞増殖を阻害するための方法であって、癌細胞を、ジャスモネート誘導体と、ニトロソ尿素、プラチナ化合物、タキサン誘導体、抗腫瘍抗生物質及び解糖阻害薬からなる群から選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せと接触させることを含み、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、相乗的抗増殖効果をもたらす、上記方法。
【請求項3】
ジャスモネート誘導体がジャスモン酸メチルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ジャスモネート誘導体が、以下の式で表される化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【化1】

【請求項5】
ジャスモネート誘導体が、以下の式で表される化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【化2】

【請求項6】
ジャスモネート誘導体が、式9で表される化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【化3】

【請求項7】
ニトロソ尿素が1,3−ビス[2−クロロエチル]−10−ニトロソ尿素(BCNU)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
プラチナ化合物がシスプラチンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
タキサン誘導体がタキソールである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
抗腫瘍抗生物質がアドリアマイシンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの他の薬剤が解糖阻害薬である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
解糖阻害薬が2−デオキシ−D−グルコース(2DG)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
化学療法薬が、1,3−ビス[2−クロロエチル]−10−ニトロソ尿素(BCNU)、シスプラチン、タキソール及びアドリアマイシンからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
解糖阻害薬が2−デオキシ−D−グルコース(2DG)である、請求項3に記載の方法。
【請求項15】
対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤が、同一の医薬組成物で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤が、個別の医薬組成物で、同時に又は任意の順序で順次投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
癌が、癌腫、肉腫又は白血病である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項19】
癌が、乳癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌又は膵臓癌である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
癌が乳腺癌であり、ジャスモネート誘導体がジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤がタキソールである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項21】
癌が肺癌であり、ジャスモネート誘導体がジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤がタキソールである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項22】
癌が膵臓癌であり、ジャスモネート誘導体がジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤がシスプラチン又はBCNUである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項23】
癌が胸腺癌であり、ジャスモネート誘導体がジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤がタキソールである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項24】
癌が前立腺癌であり、ジャスモネート誘導体がジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤がシスプラチン又はタキソールである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項25】
癌がB細胞白血病であり、ジャスモネート誘導体がジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤がアドリアマイシン又はBCNUである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項26】
癌が、結腸癌、肺癌又は胸腺癌であり、ジャスモネート誘導体がジャスモン酸メチルであり、少なくとも1つの他の薬剤が2DGである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項27】
ジャスモネート誘導体と、ニトロソ尿素、プラチナ化合物、タキサン誘導体、抗腫瘍抗生物質及び解糖阻害薬からなる群から選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せを含む医薬組成物であって、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤の合計量が相乗的治療抗癌効果をもたらす医薬組成物。
【請求項28】
経口投与、注射による静脈内投与、局部投与、吸入による投与又は坐薬を介する投与に好適な形である、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
癌を治療するための医薬品の製造における、ジャスモネート誘導体と、ニトロソ尿素、プラチナ化合物、タキサン誘導体、抗腫瘍抗生物質及び解糖阻害薬からなる群から選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せの使用であって、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、相乗的治療効果をもたらす、上記使用。
【請求項30】
それを必要とする対象における癌を治療するための方法であって、ジャスモネート誘導体と化学療法薬及び解糖阻害薬から選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せを該対象に投与することを含み、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、相乗的治療効果をもたらす、上記方法。
【請求項31】
癌細胞増殖を阻害するための方法であって、癌細胞を、ジャスモネート誘導体と、化学療法薬及び解糖阻害薬から選択される少なくとも1つの他の薬剤との組合せと接触させることを含み、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、相乗的抗増殖効果をもたらす、上記方法。
【請求項32】
化学療法薬が、アルキル化剤、抗生剤、抗代謝剤、ホルモン剤、植物由来薬剤、抗血管形成剤、分化誘発剤、細胞成長抑止誘発剤、アポトーシス誘発剤、細胞毒性剤、生物学的薬剤、遺伝子治療薬、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
ジャスモネート誘導体がジャスモン酸メチルである、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項34】
癌の治療で使用するための、ニトロソ尿素、プラチナ化合物、タキサン誘導体、抗腫瘍抗生物質及び解糖阻害薬からなる群から選択される少なくとも1つの他の薬剤と組合せたジャスモネート誘導体であって、ジャスモネート誘導体及び少なくとも1つの他の薬剤は一緒になって、相乗的治療効果をもたらす、上記ジャスモネート誘導体。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【公表番号】特表2009−542799(P2009−542799A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519056(P2009−519056)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【国際出願番号】PCT/IL2007/000863
【国際公開番号】WO2008/007367
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(506186536)ラモト アット テル − アビブ ユニバーシティー リミテッド (5)
【出願人】(508170531)セパル ファーマ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】