説明

組立クランクシャフトおよびその製造方法

【課題】強度低下を防止することができ、かつ接合部の厳しい品質管理を不要とするのはもちろんのこと、マグネットアーク溶接に適用可能な組立クランクシャフトおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】シャフト本体部110の外周部の突起部121には中空状の凹部121Aが形成され、凹部121Aの開口縁部は扁平円形状をなす接合面131である。カウンタウェイト部102Aには中空状の凹部122Aが形成され、凹部122Aの開口縁部は扁平円形状をなす接合面132である。接合面131,132は接合部104を構成している。凹部121A,122Aにより中空部が構成されている。マグネットアーク溶接により接合部104を溶接する。マグネットアーク溶接では、コイル200に電流を流すことによりコイル200内に磁場を発生させ、その磁場によりアークCを回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、別体として製作されたカウンタウェイト部がクランクシャフト本体部に接続されている組立クランクシャフトおよびその製造方法に係り、特に、カウンタウェイト部のクランクシャフト本体部への接続技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関では、ピストンの往復運動をコネクティングロッドを介して回転運動に変更するクランクシャフトが使用されている。クランクシャフトは、ジャーナル軸部を備え、ジャーナル軸部には、それと平行なクランクピン部がアーム部により連結されている。アーム部はウェブ部およびカウンタウェイト部を有している。ウェブ部にクランクピン部が連結され、カウンタウェイト部のジャーナル軸部に対する形成位置は、クランクピン部の接続箇所の反対側である。
【0003】
クランクシャフトの製造を鍛造により行う場合、図7に示すように、金型20の下型22にクランクシャフトの素材10を配置し、プレスラム(図示略)により上型21を下型22に向けて移動する。これにより、図の矢印方向に素材10を流動させて金型20内に充填させる。ところが、素材10のカウンタウェイト部10Aでは、金型20のキャビティにおける最も深い隅部に対応する部位であるため、そこでは素材10が充填されずに欠肉が生じやすい。
【0004】
そこで、高荷重を発生させるために、高価な巨大鍛造プレス設備を用いると、製造コストが増大する。また、ヒータ内で素材10を脱炭近くまで加熱して材料を軟化させることにより金型20内への充填を容易にすると、ヒータ内で素材10同士が接着したり、脱炭による素材10の品質低下が生じる。
【0005】
このような背景からクランクシャフトの製造では、クランクシャフトの各部位を別体で製作し、それらを接続することが提案されている。図8は、ボルト締結により接続された組立クランクシャフト30を表す概略構成図である。ボルト締結では、シャフト本体部31とカウンタウェイト部32とを別体で製作し、カウンタウェイト部32をシャフト本体部31へ接続している。この場合、ジャーナル本体部31およびカウンタウェイト部32の材質として同材あるいは異材を用い、それら部位31,32の端面を、機械加工で仕上げた後にボルト33により締結し、ジャーナル本体部31およびカウンタウェイト部32を互いの端面同士で一体化している(たとえば特許文献1)。なお、符号31Aはジャーナル軸部、符号31Bはウェブ部、符号31Cはクランクピン部を示している。
【0006】
ところが、この技術では、それら部位31,32の端面を数本のボルト33のみで締結しているため、クランクシャフト30の回転時(図の矢印方向)にカウンタウェイト部32で発生する慣性力(図の矢印方向)の全てがボルト33に負荷される。このため、ボルト33には、材質・強度・品質について厳しい管理が要求される上に、カウンタウェイト部32のジャーナル本体部31への組付時、ボルト締付による締付座面の破壊(圧縮側耐力不足)が発生する虞がある。また、クランクシャフト30の回転時の振動により、互いの接続面でフレッティングが発生してボルト33の緩みや破壊が生じる虞がある。さらに、それら部位31,32の熱膨張差によるボルト33の緩みや破壊が生じる虞がある。
【0007】
そこで、ボルト締結の代わりに溶接を用いることが考えられる。パイプ状としたクランクピン部あるいはジャーナル軸部の端面を接合部とし、その接合部同士に摩擦圧接やビーム溶接等の溶接を行う(たとえば特許文献2,3)。この技術では、ボルト締結の場合と異なり、カウンタウェイト部およびジャーナル本体部を接続部位として用いていない。なお、溶接にはマグネットアーク溶接があり、その溶接方法の特殊性から鋼管への適用例(たとえば特許文献4)があるが、複雑形状の組立クランクシャフトへの適用例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平5−90002号公報
【特許文献2】特開2008−49362号公報
【特許文献3】特開昭60−1416号公報
【特許文献4】特開昭58−77786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のような溶接手法では、溶接箇所として用いられるクランクピン部およびジャーナル軸部は、内燃機関での重要な部品であるクランクシャフトにおいて、その高速回転時に生じる遠心力やピストンの爆発荷重を受けとめる部位であるから、耐高負荷性が要求されている。
【0010】
しかしながら、溶接手法では、クランクピン部およびジャーナル軸部に溶接を行なうため、組織変化による強度低下が生じる虞があった。また、クランクピン部およびジャーナル軸部において仮に必要な強度を確保することができた場合でも、高負荷部位であるため、大量生産では、それら部位について厳しい品質管理を行う必要があり、その結果、製造工程数が増える等の問題が生じる。
【0011】
そこで、溶接手法でも、ボルト締結と同様にカウンタウェイト部とジャーナル本体部とを接続部位として用いることが考えられる。カウンタウェイト部は、クランクシャフトの回転時、ダイナミックバランス(クランクピン部側とカウンタウェイト部側とのバランス)を確保すればよい。これにより、カウンタウェイト部にはシャフト本体部に使用する高価な鋼材ではなく安価な材質(たとえば鋳造材)が好適である。
【0012】
この場合、接合面を異形に設定するから、ワークを回転させずに異材同士が接合可能となる溶接手法が好適であり、そのような手法として、ワークを回転させずに局部加熱が可能なマグネットアーク溶接がある。
【0013】
しかしながら、マグネットアーク溶接は、上記のように組立クランクシャフトへの適用例はなく、実際、組立クランクシャフトは複雑形状を有するから、従来のマグネットアーク溶接をそのまま適用することができない。
【0014】
したがって、本発明は、強度低下を防止することができ、かつ接合部の厳しい品質管理を不要とするのはもちろんのこと、マグネットアーク溶接に適用可能な組立クランクシャフトおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の組立クランクシャフトは、シャフト本体部とカウンタウェイト部とを備え、シャフト本体部に突起部が形成され、シャフト本体部の突起部がカウンタウェイト部と接合され、その接合部内部には、突起部側およびカウンタウェイト部側に中空部が形成され、接合部の接合面は扁平円形状なしていることを特徴としている。
【0016】
本発明の組立クランクシャフトは、 次のような製造方法により得られる。すなわち、本発明の組立クランクシャフトの製造方法は、シャフト本体部に凹部を有する突起部を形成し、カウンタウェイト部に凹部を形成し、シャフト本体部の突起部とカウンタウェイト部とをマグネットアーク溶接により接合し、凹部の形成では、接合部の接合面を扁平円形状に形成し、接合では、扁平円形状のコイルを用いるとともに、シャフト本体部の突起部およびカウンタウェイト部の互いの凹部により接合部の内部に中空部を形成することを特徴としている。
【0017】
本発明の組立クランクシャフトの製造方法では、シャフト本体部とカウンタウェイト部との接合部内部に中空部を形成しているので、中実材の場合とは異なり、磁場制御が可能となる。また、マグネットアーク溶接用のコイルとして、従来の円形状のコイルの代わりに、接合部の形状に対応する形状をなす扁平円形状のコイルを用いている。したがって、組立シャフトの製造にマグネットアーク溶接を適用することができる。
【0018】
ここで、凹部をシャフト本体部の突起部に形成し、凹部をカウンタウェイト部に形成している。凹部から構成される中空部の形成領域は組立クランクシャフトの回転中心の近傍領域であるから、その領域は錘としての作用をほとんど有しない。このような領域に中空部を形成しているので、カウンタウェイト部の作用効率を向上させることができる。
【0019】
また、シャフト本体部の突起部の開口縁部を扁平円形状をなす接合面とし、カウンタウェイト部の中空部の開口縁部を扁平円形状をなす接合面としているので、溶接時におけるカウンタウェイト部のシャフト本体部に対する位置合わせを容易に行うことができる。したがって、作業性および位置精度の向上を図ることができる。また、接合面は上記形状を有し、接合部の接合面積が大きくなるので、接合強度を向上させることができる。
【0020】
さらに、シャフト本体部とカウンタウェイト部とを別体で製作しているので、一体成形を行う鍛造とは異なり、材料の金型内への充填の容易化のための高価な巨大鍛造プレス設備が不要となり、製造コストを低減することができる。また、材料の金型内への充填の容易化のために脱炭近くまでの素材の加熱が不要となるから、製品の品質低下を防止することができる。また、成形時の欠肉防止のためにカウンタウェイト部の形状が制限される鍛造とは異なり、カウンタウェイト部の形状設計が自由であるから、その形状設計によりカウンタウェイト部の性能を最大限に得ることができる。
【0021】
加えて、形状設計の自由度を生かして扇形状のカウンタウェイト部を別体で製作すると、重心位置を大きく設定することができ、これによりダイナミックバランス(=重量×重心位置)を一定に保持しつつ、重量を減少させることが可能となる。このように組立クランクシャフトのダイナミックバランスの保持と軽量化の両立が可能となる。
【0022】
また、溶接箇所としてクランクピン部およびジャーナル軸部の端面を用いていないから、溶接部位の厳しい品質管理を不要となる。したがって、製造工程数の増大を防止することができる。マグネットアーク溶接では、局所的でかつエネルギー密度が高い溶接を行うことができる。これにより、接合影響領域(熱による金属組織の変化領域)を減少させることができるから、高品質化および高強度化を図ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の組立クランクシャフトあるいはその製造方法によれば、強度低下を防止することができ、かつ接合部の厳しい品質管理を不要とするのはもちろんのこと、マグネットアーク溶接に適用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る組立クランクシャフトの構成を表し、(A)は全体構成を表す側面図、(B)はアーム部の構成を表す分解斜視図である。
【図2】図1に示す組立クランクシャフトの製造においてマグネットアーク溶接を行っている状態を表し、(A)〜(E)はマグネットアーク溶の各状態を表す概念図である。
【図3】図2(C)に示す状態の部分拡大構成を表し、接合面上でアークが回転している状態を表す斜視図である。
【図4】(A),(B)は本発明の一実施形態に係る組立クランクシャフトの製造方法に用いるシャフト本体部の部分構成とカウンタウェイト部の構成を表す斜視図である。
【図5】コンロッドを介して、クランクピン部にピストンが接続された組立クランクシャフトと一体鍛造クランクシャフトとを比較するための図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図6】鋼材と鋳造材との接合部界面の光学顕微鏡による観察写真であり、(A)は接合部の写真、(B)は(A)の熱影響層Xの拡大写真である。
【図7】シャフト本体部とカウンタウェイト部を一体的に成形を行う従来の鍛造を表す断面図である。
【図8】別体で製作したシャフト本体部とカウンタウェイト部をボルト締結した従来の組立クランクシャフトを表す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(1)組立クランクシャフトの構成
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る組立クランクシャフト100の構成を表し、(A)は組立クランクシャフト100の全体構成を表す側面図、(B)はアーム部の構成を表す分解斜視図である。
【0026】
組立クランクシャフト100はジャーナル部101を備え、ジャーナル軸部101には、それと平行なクランクピン部103がアーム部102により連結されている。アーム部102は、カウンタウェイト部102Aとウェブ部102Bとを有し、それら部位102A,102Bは、溶接により接合部104で接合されている。
【0027】
ジャーナル軸部101、ウェブ部102B、および、クランクピン部103は、シャフト本体部110を構成している。シャフト本体部110とカウンタウェイト部102Aの材質として異材を用いることができ、たとえばシャフト本体部110として炭素鋼等の鋼材、カウンタウェイト部102Aとして鋳鉄等の鋳造材を用いることができる。
【0028】
シャフト本体部110のウェブ部102Bの外周部には、突起部121が形成されている。突起部121には中空状の凹部121Aが形成され、凹部121Aの開口縁部は扁平円形状をなす接合面131である。カウンタウェイト部102Aには、中空状の凹部122Aが形成され、凹部122Aの開口縁部は扁平円形状をなす接合面132である。接合面131,132は接合部104を構成している。接合部104内部には、凹部121A,122Aにより中空部が構成されている。
【0029】
(2)組立クランクシャフトの製造方法
組立クランクシャフト100の製造方法について、おもに図2〜4を参照して説明する。図2は、組立クランクシャフト100の製造においてマグネットアーク溶接を行っている状態を表し、(A)〜(E)はマグネットアーク溶の各状態を表す概念図である。図3は、図2(C)示す状態の部分拡大構成を表し、接合面131,132上でアークCが回転している状態を表す斜視図である。図2,3では、シャフト本体部110の突起部121およびカウンタウェイト部102Aの図示を簡略化している。図3では、コイル200の図示を省略している。図4(A),(B)は、組立クランクシャフト100の製造方法に用いるシャフト本体部110の部分構成を表す斜視図、カウンタウェイト部102Aの構成を表す斜視図である。
【0030】
まず、シャフト本体部110を鍛造により製作し、カウンタウェイト部102Aを鋳造により製作する。このようにシャフト本体部110およびカウンタウェイト部102Aを別体で製作する。次いで、シャフト本体部110のウェブ部102Bの外周部を加工し、図4(A)に示すように突起部121を形成する。この場合、突起部121に中空状の凹部121Aを形成し、凹部121Aの開口縁部を扁平円形状をなす接合面131とする。カウンタウェイト部102Aの外周部を加工し、図4(B)に示すように中空状の凹部122Aを形成する。この場合、凹部122Aの開口縁部を扁平円形状をなす接合面132とする。
【0031】
次いで、シャフト本体部110とカウンタウェイト部102Aをマグネットアーク溶接装置(図示略)に配置する。図2(A)に示すように、コイル200内部にシャフト本体部110の突起部121とカウンタウェイト部102Aを配置する。この場合、突起部121の接合面131とカウンタウェイト部102Aの接合面132は、接合部104を構成する。
【0032】
続いて、マグネットアーク溶接により接合部104を溶接する。マグネットアーク溶接では、コイル200に電流を流すことによりコイル200内に磁場を発生させ、その磁場によりアークを回転させており、ワーク(突起部121およびカウンタウェイト部102A)を回転させていない。マグネットアーク溶接用のコイルとして、従来の円形状のコイルの代わりに、接合部104の形状に対応する形状をなす扁平円形状のコイル200を用いる。
【0033】
具体的には、まず図2(B)に示すように、突起部121の接合面131とカウンタウェイト部102Aの接合面132との間にギャップを形成し、アークCを発生させる。
【0034】
このとき、図2(C),図3に示すように、コイル200に流れる電流(e;electric current)によりコイル200内に磁界(m:magnetic field)が発生し、フレミング左手の法則に従い、円周方向に力(F:Force)が発生する。これにより、その円周方向に沿って回転するアークCが発生する。すると、図2(D)に示すようにアークCにより接合面131,132が加熱され、発熱部Dが形成される。最後に図2(E)に示すように、接合面131,132にアップセット荷重Pを加えて圧接する。以上のようにして接合部104が溶接される。
【0035】
このようなマグネットアーク溶接では磁場を制御する必要がある。ここで本実施形態では、接合部104に中空部121A,122Aを形成して接合部104を中空形状としているから、中実材とは異なり、磁場制御が可能となっている。磁場は、アークCが接合面131,132上を回転するように制御する。この場合、アーク電流の制御を適宜行う。
【0036】
たとえば出力や磁場制御が不十分である場合、接合面131,132の内側のみしか溶融していなかったり、接合面131,132のエッジ゛部で磁場・アークCが集中して、接合部の縁部の溶融が不均一となったり(アーク不良)、アークCから放出されたガスがワークに付着する等の不具合が発生する虞がある。したがって、そのような不具合の発生を防止して良好な接合部104を得るために磁場制御やアーク電流の制御を行うことは重要である。
【0037】
また、シャフト本体部110の材質として鋼材を用い、カウンタウェイト部102Aの材質として鋳鉄(たとえば球状黒鉛鋳鉄)を用いる場合、球状黒鉛鋳鉄の基地に存在する球状黒鉛が回転による接合条件(摩擦等)により変形して黒鉛変形層が生成すると、接合部104の機械的性質低下の原因となる虞がある。
【0038】
しかしながら、マグネットアーク溶接の場合、ワーク(突起部121およびカウンタウェイト部102A)自体を回転させないから、黒鉛変質層が生成されず、機械的性質低下の虞がほとんどない。これにより、鋼材からなる突起部121と鋳鉄からなるカウンタウェイト部102Aとの接合が可能となる。
【0039】
以上のように本実施形態では、シャフト本体部110とカウンタウェイト部102との接合部104内部に凹部121A,122Aにより中空部を形成しているので、磁場制御が可能となる。また、マグネットアーク溶接用のコイルとして、接合部104の形状に対応する形状をなす扁平円形状のコイル200を用いている。したがって、組立シャフト100の製造にマグネットアーク溶接を適用することができる。
【0040】
ここで、凹部121Aをシャフト本体部110の突起部121に形成し、凹部122Aをカウンタウェイト部102Aに形成している。凹部121A,122Aから構成される中空部の形成領域は組立クランクシャフト100の回転中心の近傍領域であるから、その領域は錘としての作用をほとんど有しない。このような領域に中空部を形成しているので、カウンタウェイト部102Aの作用効率を向上させることができる。
【0041】
また、シャフト本体部110の突起部121の開口縁部を扁平円形状をなす接合面131とし、カウンタウェイト部102Aの中空部122Aの開口縁部を扁平円形状をなす接合面132としているので、溶接時におけるカウンタウェイト部102Aのシャフト本体部110に対する位置合わせを容易に行うことができる。したがって、作業性および位置精度の向上を図ることができる。また、接合面131,132は上記形状を有し、接合部104の接合面積が大きくなるので、接合強度を向上させることができる。
【0042】
さらに、シャフト本体部110とカウンタウェイト部102Aとを別体で製作しているので、一体成形を行う鍛造とは異なり、材料の金型内への充填の容易化のための高価な巨大鍛造プレス設備が不要となり、製造コストを低減することができる。また、材料の金型内への充填の容易化のために脱炭近くまでの素材の加熱が不要となるから、製品の品質低下を防止することができる。また、成形時の欠肉防止のためにカウンタウェイト部の形状が制限される鍛造とは異なり、カウンタウェイト部の形状設計が自由であるから、その形状設計によりカウンタウェイト部の性能を最大限に得ることができる。
【0043】
図5は、コンロッド201を介して、クランクピン部103にピストン101が接続された組立クランクシャフトと一体鍛造クランクシャフトとを比較するための図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。符号2Aは、一体鍛造成形されたカウンタウェイト部を示し、別体製作されたカウンタウェイト部102Aは斜線部で示している。たとえば鋳造により扇形状のカウンタウェイト部102Aを別体で製作すると、重心位置を大きく設定することができ、これによりダイナミックバランス(=重量×重心位置)を一定に保持しつつ、重量を減少させることが可能となる(たとえば1スローあたり100g程度の軽量化が可能となる)。このように組立クランクシャフト100のダイナミックバランスの保持と軽量化の両立が可能となる。
【0044】
また、溶接箇所としてクランクピン部およびジャーナル軸部の端面を用いていないから、溶接部位の厳しい品質管理を不要となる。したがって、製造工程数の増大を防止することができる。マグネットアーク溶接では、局所的でかつエネルギー密度が高い溶接を行うことができる。これにより、接合影響領域(熱による金属組織の変化領域)を減少させることができるから、高品質化および高強度化を図ることができる。
【0045】
図6は、鋼材(シャフト本体部)と鋳造材(カウンタウェイト部)との接合部界面の光学顕微鏡による観察写真であり、(A)は接合部の写真、(B)は(A)の熱影響層Xの拡大写真である。図6から判るように、局所加熱による熱影響層は0.5〜0.7mm程度と非常に小さく、溶接後のその界面には亀裂・割れ等の欠陥が発生していないことを確認した。
【符号の説明】
【0046】
100…組立クランクシャフト、101…ジャーナル軸部(シャフト本体部)、102A…カウンタウェイト部、102B…ウェブ部(シャフト本体部)、104…接合部、110…シャフト本体部、121…突起部、121A,122A…凹部、131,132…接合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト本体部とカウンタウェイト部とを備え、
前記シャフト本体部に突起部が形成され、
前記シャフト本体部の突起部が前記カウンタウェイト部と接合され、
その接合部内部には、前記突起部側および前記カウンタウェイト部側に中空部が形成され、前記接合部の接合面は扁平円形状なしていることを特徴とする組立クランクシャフト。
【請求項2】
シャフト本体部に凹部を有する突起部を形成し、カウンタウェイト部に凹部を形成し、
前記シャフト本体部の突起部と前記カウンタウェイト部とをマグネットアーク溶接により接合し、
前記凹部の形成では、接合部の接合面を扁平円形状に形成し、
前記接合では、扁平円形状のコイルを用いるとともに、前記シャフト本体部の突起部および前記カウンタウェイト部の前記凹部により前記接合部の内部に中空部を形成することを特徴とする組立クランクシャフトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−236565(P2010−236565A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82063(P2009−82063)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】