説明

組電池の出力均等化システム

【課題】ハイブリット車等の電気自動車用の組電池の単位セル毎の過放電防止と、走行距離を伸ばすこと、との両立を図ることができる組電池の出力均等化システムを提供する。
【解決手段】監視制御部80は、車両の加速時に組電池10の出力が所定値を超えた場合(ステップ100)、全てのセル11のセル電圧を電圧監視回路60に検出させる(ステップ110)。そして、セル電圧の電圧バラツキが閾値(ΔV)を超える場合(ステップ120)、検出させたセル電圧を記憶部90に記憶させると共に、均等化を継続して行うための所定時間を設定する(ステップ130)。この後、記憶部90に記憶させた各セル11のセル電圧がそれぞれ等しくなるように均等化回路70に均等化を行わせる(ステップ140)。均等化は、設定した所定時間が経過するまで行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組電池を構成する複数のセルの出力を均等化する組電池の出力均等化システムに関し、特にハイブリッド車等の電気自動車の走行距離を伸ばすことにおいて有効である。
【背景技術】
【0002】
従来より、単位セルが複数直列に接続されて構成された組電池の充電状態調整装置が、例えば特許文献1で提案されている。具体的に、特許文献1では、各単位セルの両端電圧に応じた電圧信号を出力する電圧検出部と、コンデンサと、両端に接続された単位セルの両端電圧を昇圧してコンデンサに供給する電圧コンバータと、を備えた充電状態調整装置が提案されている。
【0003】
このような構成では、複数の単位セルのうち、電圧検出部で検出された両端電圧が最大となるものを最大単位セル、両端電圧が最小となるものを最小単位セルとする。そして、各単位セルの充電状態(State of Charge;SOC)に基づく両端電圧にばらつきが生じた場合、コンデンサの電圧が最大単位セルの両端電圧より高くなるように、電圧コンバータを介して最大単位セルからコンデンサに電荷を移動させる。さらに、コンデンサから最小単位セルに電荷を移動させて、各単位セルの両端電圧を均等化する。これにより、各単位セルの充電状態(SOC)が均等化される。なお、充電状態とは、組電池に電流が流れていないときの開路電圧に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−120871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
組電池を構成する各単位セルは、経時劣化に伴って内部抵抗が変化することが分かっている。しかしながら、上記従来の技術では、各単位セルの充電状態(SOC)を均等化するように制御している。このため、組電池に大電流を流して各単位セルを充放電した場合、単位セルの内部抵抗による電圧上昇・電圧降下が生じ、内部抵抗が大きな電池程、充電状態(SOC)が高くても、下限電圧以下になる可能性がある。したがって、内部抵抗が大きい単位セルの劣化が更に進むという問題があった。また、単位セルの劣化が進むと、車両の加速に必要な電力が得られず、通常走行ができなくなるという問題があった。
【0006】
本発明は上記点に鑑み、ハイブリット車等の電気自動車用の組電池の単位セル毎の過放電防止と、走行距離を伸ばすこと、との両立を図ることができる組電池の出力均等化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、セル(11)が複数直列に接続されて構成されていると共に車両に搭載されて駆動源となる組電池(10)において、セル(11)の間で電力を移動させることにより複数のセル(11)のセル電圧を均等化する均等化手段(70)を備えた組電池の出力均等化システムであって、以下の点を特徴としている。
【0008】
すなわち、複数のセル(11)毎に設けられると共に、セル(11)のセル電圧を検出する電圧監視手段(60)を備えている。また、電圧監視手段(60)にて検出されたセル(11)のセル電圧を記憶する記憶手段(90)を備えている。
【0009】
さらに、車両の加速時に組電池(10)の出力が所定値を超えたときの複数のセル(11)のセル電圧を電圧監視手段(60)に検出させ、当該検出させたセル電圧を記憶手段(90)に記憶させ、記憶手段(90)に記憶させた複数のセル(11)のセル電圧がそれぞれ等しくなるように均等化手段(70)に均等化を行わせる監視制御手段(80)を備えていることを特徴とする。
【0010】
これによると、組電池(10)に電流が流れていないときの充電状態を均等化するのではなく、車両の加速時に組電池(10)の出力が所定値を超えたとき、すなわち組電池(10)に所定の電流が流れるときの各セル(11)のセル電圧に基づいて均等化を行っている。このため、劣化したセル(11)のセル電圧が、組電池(10)に所定の電流が流れるときに高くなるように均等化されるので、劣化したセル(11)を高充電状態に維持することができる。したがって、劣化したセル(11)のセル電圧が車両の加速の際に下限電圧を下回らずに済むので、劣化したセル(11)の過放電を防止することができる。
【0011】
そして、劣化したセル(11)の過放電を防止でき、さらに過放電によるセル(11)のさらなる劣化を防止できるので、組電池(10)から車両の加速に必要な電力を得ることができ、組電池(10)を用いた車両の走行可能時間すなわち走行距離を長くすることができる。
【0012】
以上により、ハイブリット車等の電気自動車用の組電池(10)のセル(11)毎の過放電防止と、車両の走行距離を伸ばすこと、との両立を図ることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、監視制御手段(80)は、電圧監視手段(60)に検出させたセル(11)のセル電圧の最大値と最小値との差が閾値を超えた場合に電圧監視手段(60)に検出させた複数のセル(11)のセル電圧を記憶手段(90)に記憶させ、記憶手段(90)に記憶させた複数のセル(11)のセル電圧がそれぞれ等しくなるように均等化手段(70)に均等化を行わせることを特徴とする。
【0014】
このように、セル電圧のばらつきが閾値を超えるほど大きい場合にセル電圧の均等化を行うことで、劣化したセル(11)の充電状態を高く維持し、過放電にならないようにすることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、監視制御手段(80)は、記憶手段(90)にセル電圧を記憶させた際に所定時間を設定し、この所定時間が経過するまでは継続して均等化手段(70)に均等化を行わせることを特徴とする。
【0016】
これにより、劣化したセル(11)のセル電圧を確実に底上げすることができる。したがって、劣化したセル(11)の過放電を防止でき、組電池(10)から車両の加速に必要な電力を得ることができるようにすることができる。
【0017】
また、請求項4に記載の発明のように、監視制御手段(80)は、電圧監視手段(60)にて検出されたセル(11)のセル電圧の最大値と最小値との差が閾値を超えない場合、均等化手段(70)に均等化を行わせないようにすることもできる。
【0018】
請求項5に記載の発明では、監視制御手段(80)は、組電池(10)の出力が所定値を下回った場合、記憶手段(90)に記憶させたセル電圧に基づいて均等化手段(70)に均等化を行わせることを特徴とする。
【0019】
これにより、各セル(11)は車両の加速時に組電池(10)で電力が消費される際のセル電圧に均等化されるので、劣化したセル(11)を高充電状態に維持することができ、ひいてはセル(11)の過放電防止と車両の走行距離を伸ばすこととの両立を図ることができる。
【0020】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る出力均等化システムを含んだ組電池制御システムの全体構成図である。
【図2】均等化回路の一例を示した図である。
【図3】監視制御部の均等化処理の内容を示したフローチャートである。
【図4】(a)は本発明による組電池の放電時におけるセル電圧の均等化を示した図であり、(b)は従来の組電池の放電時における充電状態(開路電圧)に基づくセル電圧の均等化を示した図である。
【図5】組電池の充電時におけるセル電圧の均等化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について図に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る出力均等化システムを含んだ組電池制御システムの全体構成図である。この図に示されるように、組電池制御システムは、組電池10と、インバータ20(図1のINV)と、モータジェネレータ30(図1のMG)と、出力均等化システム40と、を備えて構成されている。
【0023】
組電池10は、最小単位であるセル11が直列に複数接続されて構成された電池群である。セル11として充電可能なリチウムイオン二次電池が用いられる。組電池10はハイブリッド車等の電気自動車に搭載されて駆動源となると共に、モータジェネレータ30等の負荷を駆動するための電源や電子機器の電源等に用いられる。「ハイブリッド車」には、組電池10を搭載したハイブリッド車と、外部から充電可能なプラグインハイブリッド車と、の両方が含まれる。そして、組電池10の正側出力端子12および負側出力端子13は、インバータ20を介してモータジェネレータ30に接続されている。
【0024】
インバータ20は、組電池10から出力される直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータ30に供給する機能と、モータジェネレータ30から出力される交流電力を直流電力に変換して組電池10に供給する機能と、を有する電力変換装置である。
【0025】
モータジェネレータ30は上記の車両の車輪軸に連結されたモータであり、車両の走行の動力源となる機能と発電機となる機能とを備えている。すなわち、車輪軸の回生動力がモータジェネレータ30で交流電力に変換され、インバータ20で直流電力に変換されて組電池10の各セル11にエネルギーとして蓄えられる。また、組電池10による車両走行中は、組電池10の各セル11のエネルギーがインバータ20で交流電力に変換されてモータジェネレータ30に供給され、車輪軸を駆動する。
【0026】
出力均等化システム40は、組電池10の各セル11を監視すると共に、各セル11の出力(電力)を均等化するシステムである。このような出力均等化システム40は、電流センサ50と、電圧監視回路60と、均等化回路70と、監視制御部80と、を備えている。
【0027】
電流センサ50は、組電池10とインバータ20との間に流れる電流の大きさを検出するセンサである。組電池10とインバータ20との間に流れる電流とは組電池10を充放電する電流であり、組電池10からインバータ20への流出電流またはインバータ20から組電池10への流入電流である。
【0028】
電圧監視回路60はセル11のセル電圧を検出する回路である。電圧監視回路60はセル11に対して並列に接続されていると共に、複数のセル11毎に設けられている。このような電圧監視回路60は、図示しないが、例えば分圧回路、選択回路、および比較回路を備えて構成されている。
【0029】
分圧回路は、各セル11の正極側と負極側との間に抵抗が複数直列に接続されて構成されている。各抵抗の接続点にはセル電圧に抵抗分圧比を乗じた分圧が発生する。
【0030】
選択回路は、一端が各抵抗の接続点にそれぞれ接続され、他端が1つの接点に集約された複数のスイッチで構成されている。そして、各スイッチの切り替えにより各抵抗の分圧が比較回路に出力されるようになっている。各スイッチの切り換えは、監視制御部80によって制御される。なお、各スイッチの切り替えは、選択回路側で自動的に切り換えて導通中のスイッチの番号を監視制御部80に出力してもよい。
【0031】
比較回路は、コンパレータと基準電源とにより構成されている。コンパレータの非反転入力端子には選択回路が接続されて分圧回路で得られた分圧が印加され、反転入力端子には基準電源で生成された基準電圧が印加される。これにより、コンパレータの非反転入力端子に印加される分圧が反転入力端子に印加される基準電圧を超える場合にはコンパレータの出力端子にハイレベルの比較結果が出力され、分圧が基準電圧を超えない場合にはローレベルの比較結果が出力される。この比較結果は、監視制御部80に出力される。
【0032】
このような電圧監視回路60の構成では、分圧回路の分圧の最小値が過充電判定値に対応し、分圧の最大値が過放電判定値に対応するように設定されている。そして、スイッチの切り替えにより、通常はいずれかのスイッチのオンでコンパレータの比較結果が反転する。すなわち、どのスイッチでコンパレータの比較結果が反転したかを調べることによりセル電圧を取得することができる。このように、セル電圧は過充電判定値と過放電判定値との間で多段階に判定される。
【0033】
均等化回路70は、セル11の間で電力を移動させることにより複数のセル11のセル電圧を均等化する回路である。セル11の間で電力を移動させるアクティブ均等化の方式はいくつか知られている。
【0034】
例えば、セル11とセル11との間に図示しないコイルを設け、図示しないスイッチを操作することでコイルに接続するセル11を切り替えることにより、一方のセル11の電力を一時的にコイルに蓄積した後、他方のセル11に移動させるコンバータ方式が知られている。また、コイルではなく図示しないコンデンサにセル11の電力を蓄積する方式もある。
【0035】
そして、本実施形態では、トランス方式を採用している。図2は、均等化回路70の一例としてトランス方式を採用した場合の模式図である。この図に示されるように、組電池10の正側出力端子12と負側出力端子13との間に1次巻線71が接続され、各セル11の両極に2次巻線72がそれぞれ接続されている。1次巻線71および各2次巻線72は共通の鉄心73にそれぞれ巻かれている。また、1次巻線71および各2次巻線72にはスイッチ74がそれぞれ設けられており、このスイッチ74が監視制御部80によって制御されるようになっている。なお、図1に示される均等化回路70には2次巻線72が備えられており、図1には1次巻線71は図示されていない。
【0036】
このようなトランス方式の構成では、1次巻線71に接続されたスイッチ74をオンすると、組電池10と1次巻線71とによるループ回路が形成され、1次巻線71に1次電流が流れて鉄心73にエネルギーが蓄積される。そして、セル電圧が低いセル11に対応するスイッチ74をオンすることで、鉄心73に蓄積されたエネルギーに基づいて、セル電圧が低いセル11に2次電流が流れる。このようにして、電力が高いセル11から電力が低いセル11に電力が移動することでセル電圧の均等化が図られる。
【0037】
もちろん、図2に示されるトランス方式の均等化回路70の構成は一例であり、トランス方式であっても他の構成を採用しても良い。また、トランス方式だけでなく、各方式の組み合わせても良い。
【0038】
監視制御部80は、セル電圧を監視する電圧監視機能、セル11の過充電または過放電を検出する過充放電検出機能、組電池10に流れる電流を検出する電流検出機能、組電池10の充電状態検出機能、各セル11のセル電圧を均等化する均等化機能等の各機能を有する装置である。
【0039】
電圧検出機能は、上述のように、監視制御部80が電圧監視回路60の選択回路の各スイッチを切り換えながら、電圧監視回路60から比較回路のコンパレータの比較結果を取得する機能である。これにより、各セル11の反転結果に基づいて各セル11のセル電圧を取得することができる。また、過充放電検出機能は、コンパレータの比較結果に基づいてセル11の過充電または過放電を判定する機能である。
【0040】
電流検出機能は、電流センサ50により組電池10に流れる電流を検出する機能である。また、充電状態検出機能は、電圧監視回路60によって取得された各セル11のセル電圧と電流センサ50によって取得された組電池10に流れる電流とに基づいて組電池10の充電状態(SOC)を取得する機能である。
【0041】
均等化機能は、電圧監視回路60により取得された各セル11のセル電圧に基づいて均等化回路70のスイッチを切り替えることにより、セル電圧が高いセル11からセル電圧が低いセル11に電力を移動させ、各セル11のセル電圧を均等化する機能である。例えば、監視制御部80は、組電池10の所定電力放電時は全てのセル11のセル電圧が同時に下限電圧に当たるように制御する。下限電圧はセル11の過放電を示す電圧である。
【0042】
上記のような各機能を備えた監視制御部80として、例えば、CPU等により構成されたマイクロコンピュータが採用される。このような監視制御部80は、電圧監視回路60にて検出された各セル11のセル電圧をそれぞれ記憶する記憶部90を備えている。記憶部90としては、例えばRAM等のメモリが採用される。
【0043】
後で詳しく説明するが、監視制御部80は車両の加速時に組電池10から所定の電力が出力されたときの各セル11のセル電圧を電圧監視回路60にそれぞれ検出させ、電圧監視回路60に検出させたセル電圧を記憶部90に記憶させるようになっている。そして、監視制御部80は、記憶部90にセル電圧を記憶させた後にセル電圧の均等化を行う際には、記憶部90に記憶させた各セル11のセル電圧がそれぞれ等しくなるように均等化回路70に均等化放電を行わせるようになっている。
【0044】
以上が、本実施形態に係る出力均等化システム40および組電池制御システムの全体構成である。
【0045】
次に、上記の出力均等化システム40において、監視制御部80の均等化機能について図3を参照して説明する。図3は、監視制御部80の均等化処理の内容を示したフローチャートである。図3に示されるフローチャートは、車両の電源がオンされるとスタートする。これに伴い、均等化処理を継続するか否かを判定するための均等化継続判定定数がリセットされる。ここで、「均等化継続判定定数」とは、均等化を継続して行う所定時間であり、均等化継続判定定数をKeepとするとKeep=0とされる。
【0046】
そして、ステップ100では、車両の加速時に組電池10の出力が所定値を超えたか否かが判定される。「組電池10の出力」とは、車両が一定以上の加速を行うために必要な出力である。また、所定値は例えば10kWであり、車種等によって異なる値が設定されている。したがって、電流センサ50により、現在の組電池10に流れる電流が検出され、組電池10の出力が演算され、その演算結果と所定値とが比較される。
【0047】
なお、「組電池10の出力」は上記のように通常は組電池10の電圧と組電池10に流れる電流との積で得られる電力である。しかしながら、「組電池10の出力」は単に組電池10に流れる電流を指しても良い。この場合、組電池10に流れる電流が例えば20Aを超えるか否かが判定される。
【0048】
ステップ100で組電池10の出力が所定値を超えると判定されるとステップ110に進む。ステップ110では、全てのセル11のセル電圧がそれぞれ測定される。本実施形態では、ステップ110で測定された各セル電圧をVCとする。
【0049】
続いて、ステップ120では、ステップ110で取得された全てのセル11のセル電圧のうちの最大値(VCmax)と最小値(VCmin)との差(VCmax−VCmin)が閾値(ΔV)を超えるか否かが判定される。「セル電圧のうちの最大値(VCmax)と最小値(VCmin)との差」は各セル11の電圧バラツキであり、各セル11のセル電圧の均等化が必要か否かが本ステップで判定される。
【0050】
例えば、セル11としてリチウムイオン電池が採用された場合のセル電圧は3.0V〜4.1V程度であり、電圧バラツキは例えば0.1V〜0.5V程度である。どれくらいの電圧差を電圧バラツキとするかにより、閾値(ΔV)の値が設定される。閾値(ΔV)が大きい値の場合には均等化の頻度は低くなるが、閾値(ΔV)が小さい値の場合には頻繁に均等化を行うこととなる。
【0051】
ステップ130では、均等化継続判定定数KeepがKeep=60に設定される。図3に示される制御フロー周期を1秒とすると、Keep=60の「60」は、60秒の均等化継続時間を意味する。本実施形態では、均等化継続判定定数Keepは固定値だが、可変値としても良い。例えば、均等化継続判定定数Keepをセル電圧の電圧バラツキすなわち閾値(ΔV)に応じてマップ化して監視制御部80に記憶することができる。具体的には、電圧バラツキが0.1Vの場合は均等化継続時間が60秒に設定され、電圧バラツキが0.5Vの場合は均等化継続時間が120秒に設定される。このように、電圧バラツキが大きいほど均等化継続時間が長くなる。
【0052】
また、ステップ130では、ステップ110で取得された全てのセル11のセル電圧が記憶部90にそれぞれ記憶される。すなわち、組電池10の出力が10kWを超えたときの全てのセル11のセル電圧VCがVCmとして記憶される(VCm=VC)。
【0053】
このように、ステップ130では、記憶部90にセル電圧VCmが記憶され、この際に均等化を継続して行うための均等化継続時間(一定時間)が設定される。
【0054】
次に、ステップ140では、セル電圧VCmに基づく均等化処理が行われる。すなわち、ステップ130にて記憶部90に記憶された各セル11のセル電圧VCmがそれぞれ等しくなるように、均等化回路70によってセル電圧の均等化が行われる。セル電圧の均等化は、記憶部90に記憶されたセル電圧VCmに基づき、上述のように、セル電圧が高いセル11からセル電圧が低いセル11に電力を移動させるトランス方式によって行われる。
【0055】
そして、ステップ150では、均等化継続判定定数KeepをKeep=Keep−1とする。
【0056】
この後、ステップ160では、車両の走行が終了したか否かが判定される。すなわち、車両の電源がオフされたか否かが判定される。車両の電源がオフされた場合は図3に示される監視制御部80の均等化処理は終了する。一方、電源がオフされていない場合、ステップ100に戻る。このようにして、図3に示される制御フローが1周する。上述のように、ステップ100からステップ160までの制御フロー周期は1秒である。
【0057】
上記のように、ステップ100にて組電池10の出力が所定値を超えたと判定され、ステップ110にて全てのセル11のセル電圧が測定された後、ステップ120において各セル11のセル電圧の最大値(VCmax)と最小値(VCmin)との差(VCmax−VCmin)が閾値(ΔV)を超えない場合、ステップ150に進む。すなわち、セル電圧の電圧バラツキが小さい場合には均等化回路70による均等化は行われず、この後のステップ150にて均等化継続判定定数Keepの値が1つ減らされる。
【0058】
また、上記ステップのうち、ステップ100において組電池10の出力が所定値を下回った場合、ステップ170に進む。ステップ170では、Keepが0を超えているか否かが判定される。すなわち、均等化処理が継続中であるか否かが判定される。そして、Keepが0を超えていると判定されるとステップ140に進み、均等化処理が行われる。この後、ステップ150にてKeepの値が1つ減らされ、ステップ160にて車両の電源がオフされていないと判定されると、再びステップ100に戻る。組電池10の出力が所定値を下回っておらず、Keepの値が0より大きな値であれば、Keepの値が0になるまで、ステップ100、ステップ170、ステップ140、ステップ150、ステップ160のループを繰り返す。このように、ステップ130で設定された均等化継続判定定数がカウントされるまで、すなわち所定時間が経過するまでは継続して均等化回路70による均等化が行われる。
【0059】
そして、Keepの値が0になり、ステップ170にてKeepが0を超えていないと判定されるとステップ160に進み、セル電圧の均等化処理は終了する。そして、再びステップ100に戻り、組電池10の出力が所定値を超えない限り、ステップ100、ステップ170、ステップ160のループを繰り返す。
【0060】
一方、ステップ120にて電圧バラツキが閾値(ΔV)を超える場合はステップ130にて均等化継続判定定数であるKeepが「60」が設定されるので、ステップ130に進む度にKeepには「60」が設定される。したがって、Keepの値は車両の加速が終了して組電池10の出力が所定値を下回った後にステップ150にて減算されていくことになる。
【0061】
また、Keep=0に設定されると共に図3に示されるフローチャートがスタートし、ステップ100にて組電池10の出力が所定値を超えたとしても、その後のステップ120にて電圧バラツキが閾値(ΔV)を超えないと判定された場合は、ステップ150にてKeepの値が「−1」とされる。この場合、再びステップ100に戻って組電池10の出力が所定値を下回ったと判定されれば、ステップ170にてKeepが0を超えていないと判定される。このため、組電池10の出力が所定値を超えるまで、ステップ100、ステップ170、ステップ160のループを繰り返すこととなり、均等化回路70による均等化は行われない。
【0062】
なお、車両の電源がオンされた後、ステップ100で組電池10の出力が所定値を超えないと判定された場合は、ステップ130でKeepが設定されないので、ステップ100、ステップ170、ステップ160のループを繰り返すだけである。
【0063】
上記の均等化処理による効果について、図4を参照して説明する。図4(a)は本発明によるセル電圧の均等化を示した図であり、図4(b)は従来の充電状態(開路電圧)に基づくセル電圧の均等化を示した図である。なお、図4(a)および図4(b)の横軸は正の方向が組電池10に流れる充電電流、負の方向が組電池10に流れる放電電流を示しており、縦軸はセル電圧を示している。
【0064】
また、図4では、セルA、セルB、セルCの3つのセル11のセル電圧を示している。これらの各セル11は、それぞれ劣化にばらつきがあり、電流に対するセル電圧の傾きがそれぞれ異なる。劣化したセル11は内部抵抗が高くなるので、電流に対するセル電圧の傾きが大きくなる。図4に示される3つのセル11の中では、セルAの劣化が最も進んでいる。
【0065】
そして、組電池10から電力が取り出されているとき、すなわち組電池10に放電電流が流れると、図4(a)に示されるように等電力ライン13が表れる。この等電力ライン13の位置はドライバがアクセルを踏み込む量によって異なる。アクセルの踏み込み量が大きい場合、等電力ライン13は図4(a)に示される等電力ライン13の位置よりも左側に表れる。
【0066】
また、均等化処理を行う前に3つのセル電圧に電圧バラツキがある場合、3つのセル11のセル電圧は等電力ライン13上にばらばらに位置している。したがって、図3に示される均等化処理では、等電力ライン13上のセル電圧をそれぞれ測定し(ステップ110)、記憶部90に記憶し(ステップ130)、記憶した各セル電圧がそれぞれ等しくなるように均等化を行っている(ステップ140)。これにより、内部抵抗が大きいすなわち傾きが大きいセルAについては、「組電池10に放電電流が流れるとき」のセル電圧が高くなるように均等化される。例えば、セルAは劣化が進んでいないセルCから電力を受け取る。
【0067】
このように、車両の加速を想定した組電池10の電力使用時のセル電圧が均等になるように均等化処理を行っているので、均等化された各セル11のセル電圧は、「組電池10に放電電流が流れるとき」に、過放電を示す下限電圧よりも高くなる。言い換えると、劣化が進んだセル11については、均等化処理によって「組電池10に放電電流が流れるとき」のセル電圧が底上げされるので、車両の加速の際に下限電圧を下回りにくくなる。このため、「組電池10に放電電流が流れるとき」に、劣化が進んだセルAの過放電を防止することができる。過放電によるセル11のさらなる劣化も防止することができる。また、図4(a)に示されるように、「組電池10に放電電流が流れるとき」のセル電圧が均等化されることで、各セル11のセル電圧が等電力ライン13の同じ位置に揃うので、各セル11の劣化にばらつきがあったとしても各セル11の出力(電力)を均等化することができる。
【0068】
一方、従来では、図4(b)に示されるように、組電池10に電流が流れていないときの開路電圧(SOC)が均等になるように均等化処理を行っている。このため、「組電池10に放電電流が流れるとき」には劣化が進んだ傾きが大きいセルAのセル電圧は下限電圧を下回り、過放電となってしまう。このように過放電のセル11が1つでも発生すると、監視回路等によって組電池10から加速に必要な出力を出せなくなったと判定され、組電池10に放電電流を流せなくなる。つまり、1つのセル11が使用できなくなったことで組電池10から加速に必要な出力を出せなくなり、車両の加速度が著しく低下する恐れがある。このため、車両の走行距離が伸びなくなるのである。
【0069】
本実施形態では、車両の加速に必要な組電池10の出力がある場合の各セル電圧を用いて均等化を実施しているため、従来のようにセル11の充電状態(開路電圧)は均等化されない。しかしながら、図4(a)に示されるように、組電池10に流れる電流が0のときのセル電圧すなわち開路電圧については、劣化が進んだセルAの開路電圧を他のセルBやセルCよりも高くしているので、劣化したセルAを長持ちさせることが可能となる。したがって、組電池10から車両の加速に必要な電力を得ることができ、組電池10を用いた車両の走行可能時間すなわち走行距離を伸ばすことができる。
【0070】
以上により、ハイブリット車等の電気自動車用の組電池10のセル11毎の過放電防止と、ハイブリット車等の電気自動車が組電池10のみを使用して走行する距離を伸ばすこと、との両立を図ることができる。
【0071】
また、本実施形態では、セル電圧の電圧バラツキが閾値(ΔV)を超えるほど大きい場合にセル電圧の均等化を行っているので、劣化したセル11の充電状態を高く維持することができ、劣化が進んだセル11が過放電にならないようにすることができる。また、劣化が進んだセル11の出力を他のセル11と同じにすることができる。さらに、均等化処理を所定時間継続して行い、組電池10の出力が所定値を下回った後も所定時間が経過するまでは継続して均等化を行っているので、劣化したセル11のセル電圧を確実に底上げすることができる。したがって、劣化したセル11の過放電の防止がされ、車両の走行距離を伸ばすことができる。
【0072】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、均等化回路70が特許請求の範囲の「均等化手段」に対応し、電圧監視回路60が特許請求の範囲の「電圧監視手段」に対応する。また、記憶部90が特許請求の範囲の「記憶手段」に対応し、監視制御部80が特許請求の範囲の「監視制御手段」に対応する。
【0073】
(他の実施形態)
上記実施形態で示された出力均等化システム40の構成は一例であり、上記で示した構成に限定されることなく、本発明の特徴を含んだ他の構成とすることもできる。例えば、記憶部90は監視制御部80の一部とされていたが、監視制御部80とは別体で設けられていても良い。また、電圧監視回路60の構成や均等化回路70の構成は上記実施形態で示された構成に限られず、他の構成でも構わない。
【0074】
また、上記実施形態では、監視制御部80は組電池10の放電時における各セル11のセル電圧を均等化する場合について説明したが、組電池10を充電する場合についても同様のことが言える。図5は、組電池10の充電時におけるセル電圧の均等化を示した図である。組電池10の充電の場合は、監視制御部80は、インバータ20から組電池10に例えば10Aの充電電流が流れたときの各セル11のセル電圧を電圧監視回路60に測定させ、記憶部90に記憶させる。そして、セル電圧の均等化は、記憶部90に記憶されたセル電圧VCmに基づき、上述のように、セル電圧が高いセルAからセル電圧が低いセルCに電力を移動させる。この場合、監視制御部80は、例えば組電池10の充電時に全てのセル11のセル電圧が同時に上限電圧に当たるように均等化制御する。上限電圧はセル11の過充電を示す電圧である。これにより、図5に示されるように、セル電圧が低いセルCのセル電圧を底上げすることができる。
【符号の説明】
【0075】
10 組電池
11 セル
60 電圧監視回路(電圧監視手段)
70 均等化回路(均等化手段)
80 監視制御部(監視制御手段)
90 記憶部(記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル(11)が複数直列に接続されて構成されていると共に車両に搭載されて駆動源となる組電池(10)において、前記セル(11)の間で電力を移動させることにより前記複数のセル(11)のセル電圧を均等化する均等化手段(70)を備えた組電池の出力均等化システムであって、
前記複数のセル(11)毎に設けられると共に、前記セル(11)のセル電圧を検出する電圧監視手段(60)と、
前記電圧監視手段(60)にて検出された前記セル(11)のセル電圧を記憶する記憶手段(90)と、
前記車両の加速時に前記組電池(10)の出力が所定値を超えたときの前記複数のセル(11)のセル電圧を前記電圧監視手段(60)に検出させ、当該検出させたセル電圧を前記記憶手段(90)に記憶させ、前記記憶手段(90)に記憶させた前記複数のセル(11)のセル電圧がそれぞれ等しくなるように前記均等化手段(70)に均等化を行わせる監視制御手段(80)と、を備えていることを特徴とする組電池の出力均等化システム。
【請求項2】
前記監視制御手段(80)は、前記電圧監視手段(60)に検出させた前記セル(11)のセル電圧の最大値と最小値との差が閾値を超えた場合に前記電圧監視手段(60)に検出させた前記複数のセル(11)のセル電圧を前記記憶手段(90)に記憶させ、前記記憶手段(90)に記憶させた前記複数のセル(11)のセル電圧がそれぞれ等しくなるように前記均等化手段(70)に均等化を行わせることを特徴とする請求項1に記載の組電池の出力均等化システム。
【請求項3】
前記監視制御手段(80)は、前記記憶手段(90)に前記セル電圧を記憶させた際に所定時間を設定し、この所定時間が経過するまでは継続して前記均等化手段(70)に均等化を行わせることを特徴とする請求項1または2に記載の組電池の出力均等化システム。
【請求項4】
前記監視制御手段(80)は、前記電圧監視手段(60)にて検出された前記セル(11)のセル電圧の最大値と最小値との差が閾値を超えない場合、前記均等化手段(70)に均等化を行わせないことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の組電池の出力均等化システム。
【請求項5】
前記監視制御手段(80)は、前記組電池(10)の出力が前記所定値を下回った場合、前記記憶手段(90)に記憶させた前記セル電圧に基づいて前記均等化手段(70)に均等化を行わせることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の組電池の出力均等化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−138979(P2012−138979A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287746(P2010−287746)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】