説明

経路生成装置及び経路生成方法

【課題】障害物の特性に応じて始点から終点までの経路を生成することが可能な経路生成装置及び経路生成方法を提供する。
【解決手段】まず、始点より終点への到達性を保証できる手段により経路を生成し、次に、障害物の特性に応じた境界条件を用いて経路を変形する。
【効果】始点より終点への到達性を確保しつつ、障害物の特性に応じた経路を生成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、始点から終点までの経路を生成する経路生成装置及び経路生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
障害物を含む空間中の移動経路を生成する方法として、対象の空間にポテンシャルを定義し、最急勾配方向へ移動することで経路を生成する方法がある(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】Connolly,“Path Planning Using Laplace's Equation”, proc. IEEERobotics and Automation Conference, pp2102-2106,1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のラプラスポテンシャルによる経路生成では、始点より終点への到達可能な経路の生成を保証しようとすると、境界条件に拘束が必要なため、障害物の特性に応じた経路の制御が難しくなる。そこで、境界条件を任意に設定すると、障害物の特性に応じた経路の制御が可能であるものの、極小点への落ち込みによるデッドロックが発生し、終点への到達性を保証することが困難になる。
【0004】
本発明は、上記の問題点を考慮してなされたものであり、障害物の特性に応じて始点から終点までの経路を生成することが可能な経路生成装置及び経路生成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による経路生成装置及び経路生成方法においては、所望の特性をもつ経路を得るために、まず、始点より終点への到達性を保証できる手段により経路を生成し、次に、障害物の特性に応じた境界条件を用いて経路を変形する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、始点より終点への到達性を確保しつつ、障害物の特性に応じた経路を生成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
障害物領域および非障害物領域が定義された二次元以上の空間が与えられたとして、始点および終点を非障害物領域内に定義する。始点および終点は非障害物領域のみを辿って到達できる領域内にあるものとする。
【0008】
まず、第一のステップとして、大きく迂回させたい障害物か否かの区別をせず、全ての障害物を同一の扱いとして、公知のNeumannまたはDirichletの境界条件、或いは両者の混合境界条件を適用したラプラス調和関数を用いたポテンシャル場を生成する。同ポテンシャルの最急勾配により、始点より終点への経路を生成する。
【0009】
次に、第二のステップとして、大きく迂回させたい障害物か否かなど、障害物の特性に応じた境界条件を設定し、ポテンシャル場を算出する。この第二のステップにて生成したポテンシャル値の勾配を用い、第一のステップで求めた経路を変形させる。
【実施例】
【0010】
図1は、本発明の1実施例である経路生成装置を示す。入力装置1により、経路の始点や終点,障害物特性データなど、経路生成動作に関する可変データを入力する。始点,終点,境界条件,障害物フラグa設定装置5により、障害物形状データ保持装置4のデータを参照しつつ、始点,終点,境界条件及び障害物フラグaを設定/保持する。ポテンシャル場a算出/保持装置6により、始点より終点への到達性のあるポテンシャル場を生成しその値を保持する。経路生成処理装置7により、上記ポテンシャル場aの最急勾配を辿ることで経路を生成し、そのウェイポイントを経路データa保持装置8にて保持する。境界条件,障害物フラグb設定装置10において、障害物特性データ保持装置9のデータを参照しつつ、境界条件,障害物フラグbを設定/保持する。ポテンシャル場b算出/保持装置11により、障害物の特性に応じたポテンシャル場を生成しその値を保持する。経路変形処理装置12は、ポテンシャル場b算出/保持装置11にて保持しているポテンシャル場b及び、経路データa保持装置8にて保持している経路データaを用い、経路の変形処理を行い、その結果を経路データb保持装置13に出力する。経路データb保持装置13に保持される変形処理された経路データは、出力装置3により、画像データや文字データなどとして出力される。なお、入力装置1としてはキーボードやポインティングデバイスなどが適用でき、出力装置3としてはディスプレイ装置などが適用できる。また、経路生成処理装置2としては、CPUやMPUなどの演算処理装置が適用でき、記憶装置としては半導体メモリやハードディスクなどが適用できる。
【0011】
図1に示した経路生成装置において、入力装置1と出力装置3を一体化した端末装置とし、かつ一点鎖線で囲んだ部分をサーバー化することもできる。この場合、例えば、経路生成処理装置を内蔵するサーバーを管理センターやサービスセンターに設置し、サーバーで作成した経路データを、建物内などを歩行する歩行者が携帯する携帯端末や車両に搭載される移動端末に無線で配信する。
【0012】
また、図1に示した経路生成装置は、入力装置1,出力装置3及び一点鎖線で囲んだ部分を、携帯端末及び移動端末に内蔵しても良い。
【0013】
図2は、本発明の1実施例である経路生成方法を示す。図2(a)に示す概略フローのように、まず、始点より終点までの到達性を確保した方法により経路を生成し(ステップ1101)、次に、経路変形の制御性を重視した方法により、ステップ1101にて生成した経路を、障害物に付与した特性に応じて変形する(ステップ1102)。
【0014】
図2(c)は、経路生成の様子を概略図にて示す。1110は通行が出来ない障害物領域である。1111は通行が可能な非障害物領域である。ここで、移動体(例えば、歩行者)は始点1112(S)より出発し、終点1113(G)を目的地として移動するものとする。1114は、障害物領域のうち大きく迂回させたい領域(以下斥力オブジェクトと記す)である。逆に1115は接近させたい障害物領域(以下引力オブジェクトと記す)である。1116は図2(a)ステップ1101による経路生成結果で、障害物の特性とは無関係に始点1112より終点1113へ到達する経路となっている。1117はステップ1102による経路生成結果で、斥力オブジェクト1114より離れ、引力オブジェクト1115に近づく経路となっている。尚、接近させたい障害物領域1115は、内部通行が不可能な障害物として定義しても良いし、内部通行が可能な領域として定義しても良い。前者は、例えば視覚障害者向けの経路の生成において、安全な壁に沿った経路を生成する場合に適用できる。後者は、やはり視覚障害者向け経路の生成において、点字ブロック領域など内部の通行が可能な領域を通る経路を生成する場合に適用可能である。
【0015】
図2(b)は、本実施例のフローをより具体化した例を示す。図2(a)のステップ
1101の具体的一例として、極小点を持たないポテンシャルによる経路の生成が挙げられる(ステップ1103)。なお、ポテンシャルを用いた方法以外にも、空間を構造化することで、非障害物領域中に生成したノードを辿り、経路を生成する方法などがある。次に、図2(a)のステップ1102の具体的一例として、障害物の属性に応じた第二のポテンシャル場を用いて経路を変形する方法が挙げられる(ステップ1104)。
【0016】
図3は図2の実施例の詳細フロー、図4は図3における各動作の説明図である。
【0017】
図3の詳細フローの内、1202〜1204は、図2(a)のステップ1101又は図2(b)のステップ1103に相当する。同様にステップ1205〜1207は、図2
(a)のステップ1102又は図2(b)のステップ1104に相当する。まず、ステップ1201にて、始点1112および終点1113を設定する。次に、ステップ1202において、初期条件として、斥力オブジェクト1114及び、引力オブジェクト1115及び一般オブジェクト(上記二種のオブジェクト以外の引力及び斥力の何れも発生させない障害物領域)それぞれに、障害物フラグを設定する。また、非障害物領域に非障害物フラグを設定する。さらに、上記、障害物フラグを設定した領域と非障害物フラグを設定した領域との境界条件としてラプラス調和関数のNeumann境界条件、或いはDirichlet境界条件、或いは両者混合の境界条件を設定する。ここで、ラプラス調和関数によるポテンシャルとは(式1)を満たすポテンシャルである。
【0018】
【数1】

【0019】
(式1)において、Φがポテンシャル、x,yは空間座標値である。同式では2次元の場合を示しているが、一般的に座標値をn個用いたn次元の場合についても同様の式で表される。次にNeumannの境界条件は(式2)で示される。
【0020】
【数2】

【0021】
ここで、∂Ωは障害物領域の輪郭、∂nは、障害物領域の法線ベクトルである。同境界条件は、障害物領域の境界から直角方向のポテンシャルの変化が無いことを示している。一方Dirichletの境界条件は(式3)で示される。
【0022】
【数3】

【0023】
ここで、∂Ωは障害物領域の輪郭である。同境界条件は、障害物領域境界でのポテンシャル値は常に一定であることを示している。Neumannの境界条件とDirichletの境界条件の混合境界条件とは、(式4)に示すとおり、係数kにより両者の境界値を混合するものである。
【0024】
【数4】

【0025】
一般にkは適宜調整する。上記フラグ及び境界条件に基づき、極小点をもたないポテンシャル場を生成する(ステップ1203)。計算例としては、(式5)をイテレーションで解くガウス=サイデル法などがある。
【0026】
【数5】

【0027】
ステップ1203で生成したポテンシャル場を用い、始点より最急勾配方向を辿ることにより、終点へ達する経路を生成し、同経路をある間隔でサンプリングしたウェイポイントを保存する(ステップ1208)。
【0028】
次に、ステップ1205において、初期条件として、斥力オブジェクト1114及び、引力オブジェクト1115それぞれに、障害物フラグを設定する。また、一般オブジェクト及び非障害物領域に非障害物フラグを設定する。障害物フラグを設定した領域と非障害物フラグを設定した領域との境界条件として、斥力オブジェクトと非障害物領域との境界には斥力の境界値、引力オブジェクトと非障害物領域との境界には引力の境界値を設定する。上記境界値に設定する値は、以降のステップ1207におけるウェイポイントの修正で、−grad(Φ)方向に位置を修正すると仮定した場合、斥力オブジェクトに正の値、及び引力オブジェクトに負の値を設定する。ここでgrad演算とは、(式6)に示す演算である。
【0029】
【数6】

【0030】
符号を除く値の絶対値は、障害物の特性に応じ増減させる。例えば大きく迂回したい障害物には、小さく迂回したい障害物より大きな正の値を設定する。引力オブジェクトに関しても、同様に絶対値にて調整する。
【0031】
上記フラグ及び境界条件に基づき、ポテンシャル場を生成する(ステップ1206)。ポテンシャル場の生成においては、空間中の着目点の周囲の障害物フラグをチェックすることにより、障害物領域或いは非障害物領域或いは両者の境界領域かの判定を行う。判定結果に基づき、前述のNeumann境界条件、或いはDirichlet境界条件、或いは両者の混合境界条件を適用し、演算を行う。
【0032】
ステップ1206で生成されるポテンシャル場は、オブジェクトからの距離の増大に伴い、正のポテンシャル値が単調に減少する(負のポテンシャル値が単調に増加する)ものであれば良い。
【0033】
次に、ステップ1208で保存された経路のウェイポイントの位置を、ステップ1206にて生成したポテンシャル場の勾配を用いて修正する(ステップ1207)。そして、ステップ1207で生成された、引力・斥力を考慮した経路のウェイポイントを保存する(ステップ1209)。以下にステップ1206における修正の具体例を示す。修正前の座標値を(xa,ya)とし、ステップ1206で生成されるポテンシャル場をΦb とする。
(式6)に示すGradient 演算により最急勾配方向が−grad(Φb)=(xb,yb)のとき、変形後のウェイポイント(x,y)を(x,y)=(xa+cxb,ya+cyb)とする。cは係数であり、引力/斥力オブジェクトに付与した境界値に依存して変わるため、実験的に調整する。
【0034】
図4(a)は、図3のステップ1201に相当し、始点1112及び終点1113を連続する非障害物領域内に設定した例である。図4(b)は、ステップ1202,1203で生成されたポテンシャル場の例である。同図は、ポテンシャル場の、最急勾配方向を、規格化した大きさのベクトル1303で示している。図4(c)は、ステップ1204に相当し、障害物の特性とは無関係に始点1112より終点1113へ到達する経路を生成した例である。図4(d)は、ステップ1205〜1206に相当し、斥力オブジェクト及び引力オブジェクトに、適切なポテンシャル値による境界条件を与え、算出したポテンシャル値に関し、最大勾配方向のみをベクトルで模式的に示している(便宜上、引力オブジェクト及び斥力オブジェクトの周囲のみ表示)。図4(e)は、ステップ1207に相当し、ウェイポイントの位置の修正の例である。1301が位置修正前のウェイポイント(1208の保存データ)、1302が位置修正後のウェイポイント(1209の保存データ)である。1301の各ウェイポイント位置における第二のステップによるポテンシャルの勾配ベクトルの方向及び大きさにより(図4(d),ステップ1205〜1206)、位置をシフトさせることで、修正後のウェイポイント1302の位置としている。図4(f)の1117が、障害物の特性を反映させ最終的に生成された経路である。
【0035】
図5は、障害物フラグの利用方法及びポテンシャル値の演算の例を示すフローである。まず着目点を設定し2101、その座標点における障害物フラグをチェックする2102。チェックの結果、境界付近であれば、前述のNeumann境界条件、或いはDirichlet境界条件、或いは両者の混合境界条件など、所定の境界条件に従い、ポテンシャル値の演算を行う2104。自由空間内であれば、自由空間におけるポテンシャルの計算2103を行う。障害物フラグが設定されかつ、境界付近でない場合は、演算を行わない。これを次の着目点がなくなるまでループする2105。
【0036】
本実施例の経路生成法を、視覚障害者向けの誘導経路の生成に適用すれば、危険箇所を大きく迂回させた経路を生成できる。同様に視覚障害者向けとして、点字ブロックや安全な壁など、位置を認識しやすい経路を生成することが可能であるため、安全性向上につながる。同様に、電動カートや電動車椅子,自動走行ロボットなど自律移動体向けの経路生成に適用した場合にも、走行に適さない箇所を大きく迂回し、走行に適した箇所を出来るだけ多く通行する経路を生成可能である。また、多関節ロボットアームの制御においてはクリアランスを大きく取りたい箇所がある場合に対応した経路を生成できる。
【0037】
なお、上記実施例に限らず、本発明の技術的思想の範囲内において、種々の変形例が可能である。例えば、図2(c)や図4に示したように、上記実施例においては、経路が生成される空間が2次元であったが、本発明は2次元以上の任意の次元の空間に適用可能である。また、本発明による経路形成方法は、コンピュータプログラムとして、コンパクトディスクなどのプログラム媒体に記録することができる。そして、このプログラム媒体からパーソナルコンピュータなどにソフトウェアをインストールすることにより、本発明による経路形成方法を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の1実施例である経路生成装置を示す。
【図2】本発明の1実施例である経路生成方法を示す。
【図3】図2の実施例の詳細フローを示す。
【図4】図3における各動作の説明図を示す。
【図5】境界付近での障害物フラグの利用方法及びポテンシャル値の演算を示すフロー。
【符号の説明】
【0039】
1…入力装置、3…出力装置、4…障害物形状データ保持装置、5…始点,終点,境界条件,障害物フラグa設定装置、6…ポテンシャル場a算出/保持装置、7…経路生成処理装置、8…経路データa保持装置、9…障害物特性データ保持装置、10…境界条件,障害物フラグb設定装置、11…ポテンシャル場b算出/保持装置、12…経路変形処理装置、13…経路データb保持装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
経路の始点及び終点を設定する入力装置と、前記始点から前記終点への経路を生成する処理装置とを有する経路生成装置において、
前記処理装置は、前記始点から前記終点への到達可能な経路を生成し、さらに障害物の特性に応じて、生成した前記経路を変形することを特徴とする経路生成装置。
【請求項2】
請求項1において、前記処理装置は、前記経路の生成及び変形において、それぞれポテンシャル場を用い、かつそれぞれ異なる境界条件を用いることを特徴とする経路生成装置。
【請求項3】
請求項2において、前記処理装置は、Neumannの境界条件或いはDirichletの境界条件或いは両者の混合境界条件を適用したラプラス調和関数を用いたポテンシャル場を用いて前記経路を生成し、障害物の特性に応じた境界条件を適用したポテンシャル場を用いて前記経路を変形することを特徴とする経路生成装置。
【請求項4】
始点から終点までの経路を生成する経路生成方法において、
始点より終点まで到達可能な経路を生成する第1のステップと、
前記第1のステップで生成された経路の変形を行う第2のステップと、
を含むことを特徴とする経路生成方法。
【請求項5】
請求項4において、前記第1及び第2のステップにおいて、それぞれポテンシャル場を用い、かつそれぞれ異なる境界条件を用いることを特徴とする経路生成方法。
【請求項6】
請求項5において、前記第1のステップにおいては、Neumannの境界条件或いは
Dirichletの境界条件或いは両者の混合境界条件を適用したラプラス調和関数を用いたポテンシャル場を用いて前記経路を生成し、前記第2のステップにおいては、障害物の特性に応じた境界条件を適用したポテンシャル場を用いることを特徴とする経路生成方法。
【請求項7】
入力装置によって設定される始点から終点への経路を生成する処理装置を有する経路生成装置において、
前記処理装置は、前記始点から前記終点への到達可能な経路を生成し、さらに障害物の特性に応じて、生成した前記経路を変形することを特徴とする経路生成装置。
【請求項8】
経路生成方法をコンピュータプログラムとして記録するプログラム媒体において、前記経路形成方法は、始点より終点まで到達可能な経路を生成する第1のステップと、前記第1のステップで生成された経路の変形を行う第2のステップと、
を含むことを特徴とするプログラム媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−155568(P2007−155568A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352827(P2005−352827)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】