説明

結像光学系、及び、顕微鏡装置

【課題】任意の角度から物体を観察することができる結像光学系、及び、この結像光学系を有する顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】顕微鏡装置100に用いられ、対物レンズ1、及び、観察光学系2により物体の像を形成する結像光学系5であって、観察光学系2は複数のレンズ群を有し、当該複数のレンズ群のうち少なくとも2つのレンズ群は、それぞれ対物レンズ1の光軸と直交方向に連続的に移動可能に構成され、少なくとも2つのレンズ群の直交方向の移動量に応じて、対物レンズ1の射出瞳を含む面内で、観察光学系2を通過する光束の領域は当該射出瞳に対して相対的に所定量移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結像光学系、及び、顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の平行系実体顕微鏡装置では、物体を立体視するために、一つの対物レンズに対して、左右2つの眼に入射する光束の光学系(例えば、変倍光学系等の観察光学系)を少なくとも部分的に独立させ、その光軸が物体面で交わるように配置することで、異なった方向より見た物体の拡大像を形成するように構成されている。また、このような実体顕微鏡装置では、対物レンズと変倍光学系とを相対的に移動させることで、対物レンズと変倍光学系のいずれか一方との光軸を一致させてズーム変倍域全体で垂直視が可能となるように構成することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−065652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の実体顕微鏡装置では、立体視と垂直視の不連続な2ポジションでの観察に限られてしまい、任意の角度から物体を観察することができないという課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、対物レンズからの光を集光して物体の像を結像する観察光学系を通る光束の対物レンズの瞳面における位置を、この対物レンズの瞳面を含む平面内で相対的に移動可能にすることにより、任意の角度から物体を観察することができる結像光学系、及び、この結像光学系を有する顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係る結像光学系は、対物レンズ、及び、観察光学系により物体の像を形成する結像光学系であって、観察光学系は複数のレンズ群を有し、当該複数のレンズ群のうち少なくとも2つのレンズ群は、それぞれ対物レンズの光軸と直交方向に連続的に移動可能に構成され、少なくとも2つのレンズ群の直交方向の移動量に応じて、対物レンズの射出瞳を含む面内で、観察光学系を通過する光束の領域は当該射出瞳に対して相対的に所定量移動することを特徴とする。
【0007】
このような結像光学系において、少なくとも2つのレンズ群のうちの少なくとも1つのレンズ群は、対物レンズの射出瞳を含む面内で観察光学系を通過する光束の領域を移動させる第1の調整レンズ群であり、少なくとも2つのレンズ群の残りのレンズ群は、第1の調整レンズ群により変化する光路を調整して、複数のレンズ群をその光軸が一致するように配置したときに形成されるであろう像形成位置に像が結像するように射出させる第2の調整レンズ群であることが好ましい。
【0008】
また、このような結像光学系において、観察光学系は、アフォーカル変倍光学系を含み、少なくとも2つのレンズ群は、このアフォーカル変倍光学系を構成するレンズ群であることが好ましい。
【0009】
また、このような結像光学系において、複数のレンズ群は、互いの位置関係を維持した状態で、対物レンズに対して、この対物レンズの光軸と直交する方向に相対的に移動することが好ましい。
【0010】
また、このような結像光学系において、観察光学系を通過する光束の領域の少なくとも一部は、対物レンズの射出瞳内にあることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る顕微鏡装置は、上述の結像光学系のいずれかを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る結像光学系、及び、この結像光学系を有する顕微鏡装置を以上のように構成すると、任意の角度から物体を観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】顕微鏡装置の光学系を示す説明図である。
【図2】射出瞳を含む平面において、この射出瞳と、観察光学系を通過する光束との関係を示す説明図である。
【図3】変倍光学系のレンズ群の一部と偏芯させたときを示す説明図であって、(a)は変倍光学系の全てのレンズ群が対物レンズの光軸上に揃っているときを示し、(b)は一部のレンズ群を偏芯させたときを示す。
【図4】図3の構成において、射出瞳を含む平面において、この射出瞳と、観察光学系を通過する光束との関係を示す説明図であって、(a)は図3(a)の場合を示し、(b)は図3(b)の場合を示す。
【図5】実体顕微鏡を構成する変倍光学系の一部を偏芯させたときを説明するものである。
【図6】上記図5の変形例であって、(a)は2つの変倍光学系のうち、一方の変倍光学系のレンズ群だけ移動させた場合であり、(b)同じ方向に変倍した場合を示す。
【図7】対物レンズに対して変倍光学系3を移動させた場合を示す。
【図8】2つの観察光学系のうち、一方の観察光学系の光軸を対物レンズの光軸に一致させた場合を示す。
【図9】射出瞳を含む平面において、この射出瞳と、観察光学系を通過する光束との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1を用いて顕微鏡装置の一例である実体顕微鏡装置100の光学系の構成について説明する。この実体顕微鏡装置100は、単対物双眼構成の顕微鏡装置であり、その光学系は、物体Oからの光を集光してこの物体Oの一次像IMを形成する結像光学系5と、この結像光学系5で結像された一次像IMを拡大観察するための接眼レンズ6と、を備えている。また、結像光学系5は、物体Oからの光を集光して光軸に対して略平行な光束に変換する対物レンズ1と、物体Oの観察倍率を変化させる(変倍する)変倍光学系3と、この変倍光学系3から射出した光を集光して上述の一次像IMを形成する結像レンズ4とを有して構成される。なお、この変倍光学系3と結像レンズ4とから構成される光学系を観察光学系2と呼ぶ。また、観察光学系2は、左右の眼で上記一次像IMを観察することができるように、左右一対の変倍光学系3と左右一対の接眼レンズ4とから構成されている。また、これら左右一対の観察光学系2の光軸の少なくとも一部は、対物レンズ1の光軸に略平行に配置されている。
【0015】
図2は、上述の顕微鏡装置100の光学系における対物レンズ1の射出瞳P0と、その射出瞳P0を通過する左右の観察光学系2の光束P1を示している。これらの図1及び図2から分かるように、対物レンズ1の射出瞳P0を含む面内(以下、「瞳面P0」とも呼ぶ)で観察光学系2の光束が通過する領域P1を射出瞳P0に対して相対的に移動させることにより、物体面Oを観察する角度(物体面Oの法線に対して観察光学系2の光軸がなす角度)θを変化させることができる。言い換えると、瞳面P0内で、観察光学系2の光束が通過する領域P1を相対移動させることにより、対物レンズ1の開口角の範囲内の任意の角度で物体Oを観察することができる。
【0016】
[第1の実施形態]
それでは、対物レンズ1の瞳面P0に対して観察光学系2の光束が通過する領域P1を相対的に移動させる方法として、2つの方法を説明する。まず、第1の実施形態として、観察光学系2を構成する変倍光学系3のレンズ群の一部を光軸に対して直交する方向の成分を持つように移動させることにより、領域P1を移動させる方法について説明する。
【0017】
図3は、結像光学系5のうち、対物レンズ1と変倍光学系3のみを示している図であり、また、この結像光学系5は、1つの対物レンズ1に対して1つの観察光学系2(変倍光学系3)を有する単眼の顕微鏡装置の光学系である。なお、図3に示す変倍光学系3は、一例として、物体面O側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1、負の屈折力を有する第2レンズ群G2、正の屈折力を有する第3レンズ群G3及び負の屈折力を有する第4レンズ群G4の合計4つのレンズ群から構成される場合を示している。なお、この変倍光学系3は、低倍端状態から高倍端状態に変倍する際に、第2レンズ群G2が物体側から像側に一定方向に、また、第3レンズ群G3が像側から物体側へ一定方向にのみ移動し、変倍の途中で逆戻りする方向には移動しないように構成されている。
【0018】
ここで、図3(a)に示すように、対物レンズ1の光軸X上に、変倍光学系3の全てのレンズ群G1〜G4の光軸が一致するように配置されているときは、物体面Oを垂直視する状態である。すなわち、図4(a)に示すように、対物レンズOの射出瞳P0と、瞳面を通る変倍光学系2の光束の領域P1の中心が光軸X上に一致している状態である。
【0019】
一方、図3(b)に示すように、この変倍光学系3の負の屈折力を有する第2レンズ群G2を光軸Xに対して偏芯させると、図4(b)に示すように偏芯させた方向に観察光学系2の領域P1が移動し、観察光学系2の光軸は、物体面Oの法線に対して所定の角度を有する。すなわち、物体面Oを斜めの方向から観察することができる。射出瞳P0に対する観察光学系2の領域P1の移動量により、物体面Oを観察する角度θは変化する(対物レンズ1の光軸Xから離れるほど、角度θは大きくなる)。
【0020】
このように、変倍光学系3を構成するレンズ群G1〜G4の少なくとも何れか(以下、このレンズ群を「第1の調整レンズ群CG1」と呼ぶ)を偏芯させることにより、対物レンズ1の射出瞳P0に対して観察光学系2を通る光束の領域P1を移動させることができ、物体面Oを観察する角度θを変化させることができるので、この物体面Oを任意の方向から観察することができる。
【0021】
ところで、この変倍光学系3は、入射した略平行光束の径を変倍して略平行光束(アフォーカル光束)として射出するアフォーカル変倍光学系である。従って、最終的にアフォーカル光束として変倍光学系3を射出させるためには、図3(b)に示すように、第2レンズ群G2(第1の調整レンズ群CG1)を偏芯したことにより、この変倍光学系3内における光路が変化し、射出する光束が平行光束からずれるのを他のレンズ群の少なくとも1つを光軸と直交方向の成分を持つように移動させて調整する必要がある(このレンズ群を「第2の調整レンズ群CG2」と呼ぶ)。すなわち、第2の調整レンズ群CG2を偏芯させて、第1の調整レンズ群CG1により変化する光路を調整して、この変倍光学系3を構成するレンズ群をその光軸が一致するように配置したときに形成されるであろう像形成位置に像が結像するように射出させる必要がある。図3(b)に示す変倍光学系3においては、正の屈折力を有する第3レンズ群G3を第2の調整レンズ群CG2として使用し、第2レンズ群G2の偏芯に応じて同じ方向に第3レンズ群G3を偏芯させるように構成されている。このときの第3レンズ群G3の偏芯量は、第2レンズ群G2の偏芯量から一意に決定することができる。なお、負の屈折力を有する第4レンズ群G4を第2の調整レンズ群CG2とする場合は、第2レンズ群G2と逆方向に偏芯させることが必要である。
【0022】
なお、偏芯させるレンズ群(第1及び第2の調整レンズ群CG1,CG2)は、変倍時に光軸に沿って移動することにより倍率を変化させるレンズ群の少なくとも1つであっても良いし、両方であっても良いが、図3(b)においては、変倍時に光軸沿って移動することにより倍率を変化させる第2レンズ群G2及び第3レンズ群G3を偏芯させている。
【0023】
また、変倍光学系3のレンズ群のいずれかを偏芯させる方法は、対物レンズ1に対して観察光学系2が1つ設けられた単眼の顕微鏡装置だけでなく、観察光学系2が2つ設けられた双眼の実体顕微鏡装置にも用いることができる。例えば、図5は、2つの観察光学系2の各々を構成する変倍光学系3の第1及び第2の調整レンズ群CG1,CG2を、左右対称に移動させた場合を示している。対物レンズ1の光軸に対して第1及び第2の調整レンズ群CG1,CG2が互いに近づくように移動させると左右の眼により物体面Oを見込む角度が小さくなり、反対に離れるように移動させると見込む角度が大きくなる。また、図5の紙面に直交する方向にこれらのレンズ群CG1,CG2を移動させると、物体面Oを前方や後方から斜めに観察することができる。
【0024】
また、図6に示すように、左右の変倍光学系3の第1及び第2の調整レンズ群CG1,CG2は、非対称に移動させることもできる。図6(a)は左側の変倍光学系3の第1及び第2の調整レンズ群CG1,CG2だけを偏芯させた場合を示し、図6(b)は左右の変倍光学系3の第1及び第2の調整レンズ群CG1,CG2を同じ方向に偏芯させた場合を示している。このように、対物レンズ1の射出瞳P0に対して観察光学系2を通る光束の領域P1を相対的に移動させることにより、観察する物体(物体面O)の状況により、任意の方向からこの物体面Oを観察することができる。
【0025】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、対物レンズ1に対して観察光学系2全体を相対的に移動させることにより、対物レンズ1の瞳面P0に対して観察光学系2の光束が通過する領域P1を相対的に移動させる方法である。上述の実体顕微鏡装置100の光学系で説明したが、図7に示すように、変倍光学系3を構成する第1レンズ群G1、第2レンズ群G2、第3レンズ群G3及び第4レンズ群G4の互いの位置関係を維持した状態で、対物レンズ1に対して変倍光学系3(観察光学系2)を対物レンズ1の光軸に直交する方向に移動させることにより、対物レンズ1の射出瞳P0に対して観察光学系2の光束がこの射出瞳P0を通る領域P1を相対的に移動させることができ、物体面Oを観察する角度θを変化させることができる。また、1つの対物レンズ1に対して2つの観察光学系2を有する実体顕微鏡装置でも、図8に示すように、変倍光学系3を構成する第1レンズ群G1、第2レンズ群G2、第3レンズ群G3及び第4レンズ群G4の互いの位置関係を維持した状態で、対物レンズ1に対して変倍光学系3(観察光学系2)を相対的に移動させることにより、物体面Oを観察する角度θを変化させることができる。
【0026】
このとき、上述の第1の実施形態で示したように、変倍光学系3を構成するレンズ群の一部を偏芯させる方法を組み合わせることもできる。このように構成すると、観察光学系2を移動させて物体面Oを観察する角度を大きく変化させた後、変倍光学系3の第1及び第2の調整レンズ群CG1,CG2を偏芯させて観察する角度を調整するという使い方ができる。
【0027】
なお、図8に示すように、2つの観察光学系2のいずれか一方の光軸を対物レンズ1の光軸に一致させる場合、その観察光学系2で物体面Oを垂直視する場合であるため、この観察光学系2の移動前に、例えば、上述の図5に示すように第1及び第2の調整レンズ群CG1,CG2を偏芯させていたときは、対物レンズ1の光軸に一致させる方の変倍光学系3の全てのレンズ群を同一の光軸上(対物レンズ1の光軸上)に位置するように戻す構成とすることもできる。また、上記第1及び第2の実施形態において物体面Oの像を観察するためには、図9に示すように、観察光学系2を通過する光束の領域P1の少なくとも一部が、対物レンズ1の射出瞳P0内にあることが必要である。
【符号の説明】
【0028】
1 対物レンズ 2 観察光学系 3 変倍光学系
CG1 第1の調整レンズ群 CG2 第2の調整レンズ群
5 結像光学系 100 顕微鏡装置
P0 射出瞳 P1 観察光学系を通過する光束の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズ、及び、観察光学系により物体の像を形成する結像光学系であって、
前記観察光学系は複数のレンズ群を有し、当該複数のレンズ群のうち少なくとも2つのレンズ群は、それぞれ前記対物レンズの光軸と直交方向に連続的に移動可能に構成され、前記少なくとも2つのレンズ群の前記直交方向の移動量に応じて、前記対物レンズの射出瞳を含む面内で、前記観察光学系を通過する光束の領域は当該射出瞳に対して相対的に所定量移動することを特徴とする結像光学系。
【請求項2】
前記少なくとも2つのレンズ群のうちの少なくとも1つのレンズ群は、前記対物レンズの射出瞳を含む面内で前記観察光学系を通過する光束の領域を移動させる第1の調整レンズ群であり、
前記少なくとも2つのレンズ群の残りのレンズ群は、前記第1の調整レンズ群により変化する光路を調整して、前記複数のレンズ群をその光軸が一致するように配置したときに形成されるであろう像形成位置に前記像が結像するように射出させる第2の調整レンズ群であることを特徴とする請求項1に記載の結像光学系。
【請求項3】
前記観察光学系は、アフォーカル変倍光学系を含み、前記少なくとも2つのレンズ群は、前記アフォーカル変倍光学系を構成するレンズ群であることを特徴とする請求項1または2に記載の結像光学系。
【請求項4】
前記複数のレンズ群は、互いの位置関係を維持した状態で、前記対物レンズに対して、当該対物レンズの光軸と直交する方向に相対的に移動することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の結像光学系。
【請求項5】
前記観察光学系を通過する光束の領域の少なくとも一部は、前記対物レンズの射出瞳内にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の結像光学系。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の結像光学系を有することを特徴とする顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−141470(P2012−141470A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15(P2011−15)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】