説明

結晶の構造解析方法

【課題】 X線回折法による多層構造結晶の構造劣化の評価において、従来法と比較して検出感度を向上させた結晶の構造解析方法を提供する。
【解決手段】 所定の結晶面の基板上に形成された多層構造結晶を、X線回折により測定して、該多層構造結晶の回折プロファイルを取得する際、X線回折装置の受光系の開口角条件のみを変えて、同一の反射指数をもつ回折プロファイルを複数測定する工程と、得られた該複数の回折プロファイル中に観測される多層構造に対応するピーク又は一連のピーク群の最大回折強度を示す点を、回折強度軸及び回折角度軸とも揃えることにより、該複数の回折プロファイルを重ねて表示する工程と、表示された該複数の回折プロファイル間のプロファイル形状の差異を比較抽出する工程とを有し、差異の比較抽出により、多層構造結晶の構造劣化の有無及び程度を判定する結晶の構造解析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体薄膜や多重量子井戸構造の構造解析方法に関し、特に、歪を含むエピタキシャル薄膜及び歪超格子構造の構造劣化の有無及びその程度、特徴等を調べる上で有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、InGaAs/GaAs、Si/SiGeなどの材料系を用いた歪系エピタキシャル層、歪超格子構造の作製においては、「臨界膜厚」(あるいは「臨界歪」)という量の重要性がよく知られており、臨界膜厚の評価及び臨界膜厚をこえた領域での格子緩和過程の評価は重要な評価対象であった。X線回折は、PL(Photoluminescence)測定、TEM(Transmission Electron Microscope)解析などとともに、これら臨界膜厚の評価、格子緩和過程の評価に従来からよく用いられてきた。
【0003】
しかるに、これらの各種評価法で評価された臨界膜厚値はMatthews-Blakeslee(MB)モデル、People-Bean(PB)モデル等の理論からの予測値と比較することにより議論されてきたが、その一致の程度は従来実験例により様々であり、その原因が問題となっていた。更に、上記各評価法から得られた臨界膜厚値の相関も十分とはいえず、その評価検出感度も問題視されていた。
【0004】
このような状況の下、X線回折による転位の検出感度が他のPL測定等の評価法を用いた場合の検出感度に比べて劣るという実験事実が報告された(非特許文献1、2)。このことからX線回折により得られた臨界膜厚値は他のPL等から得られた臨界膜厚値に比べて大きな値になり、正しい値が得られないことが指摘され、欠陥等の密度が小さい場合の初期的構造劣化の検出には不向きであることが指摘されていた。
【0005】
しかるに、この評価法としての問題点は、あまり広くは認識されておらず、特に他の材料系での臨界膜厚の評価、構造劣化の検出においては、上記問題点を十分認識しないまま、X線回折を適用して報告した評価例が最近でも散見されている。更に、上記問題点を十分認識した場合では、X線回折は評価に用いず、他のより検出感度の高い評価法を用いて臨界膜厚の評価、構造劣化の検出を行う形の対応がとられるのみであった。すなわち、「なぜX線回折では検出感度がとれないのか?」という点に対しての更なる検討はなされず、X線回折の立場からの検出感度の向上の方法等はこれまで全く検討されてこなかった。
【0006】
上記におけるX線回折評価では、rocking curve測定法を用いた評価が主であったのに対し、その後、逆格子mapping測定などの方法が開発されたが、これらの新しく開発された方法においても、上記の「他の測定法に比べての構造劣化の検出感度」という問題点に関しては、目立った改善効果は見られなかった。
【0007】
このような中、最近、発明者らによって、この検出感度問題を改善する新しいX線回折を用いた評価解析法が提出された(非特許文献3)。しかるに、この方法以外のやり方が可能か否かにについては十分検討されてはいなかった。
【0008】
更には、この方法は構造劣化の程度を感度よく検出できるものの、どういうタイプの構造劣化であるかまでは判定できず、構造劣化のタイプの詳細まで簡便に判別でき、かつ、検出感度のよい方法は全く知られていなかった。
【0009】
【非特許文献1】I. J. Fritz, P. L. Gourley and L. R. Dawson, "Critical layer thickness in In0.2Ga0.8As/GaAs single strained quantum well structures", App1. Phys. Lett. 51. 1004-1006, 28 September 1987
【非特許文献2】P. L. Gourley, I. J. Fritz, and L. R. Dawson, "Controversy critical layer thickness for InGaAs/GaAs strained-layer epitaxy", Appl. Phys. Lett. 52, 377-379, 1 February 1988
【非特許文献3】K. Nakashima and K. Tateno, "X-ray diffraction analysis of GaInNAs double-quantum-well structures", J. App1. Cryst. 37, 14-23, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、歪系エピタキシャル層、歪超格子構造の作製において重要となる、臨界膜厚の評価、臨界膜厚をこえた領域での格子緩和過程の評価等、構造劣化の評価を行う際、他のPL測定法などを用いた場合と比べて、X線回折法を用いた場合は検出感度が悪いという課題が従来から提起されていた。本発明は、X線回折法を用いて構造劣化を評価する上で、このような課題を解決し、従来法と比較して検出感度が向上するような新しい評価解析法を提供するものである。
【0011】
つまり、本発明は、X線回折法による多層構造結晶の構造劣化の評価において、従来法と比較して検出感度を向上させた結晶の構造解析方法を提供することを目的とする。
【0012】
更には、どういうタイプの構造劣化であるかという構造劣化の詳細まで、簡便に判別できるような検出感度のより良い方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る結晶の構造解析方法は、所定の結晶面の基板上にエピタキシャル成長により作製された所定の材料系からなる多層構造結晶を、X線回折により測定を行って、構造評価を行うものである。
【0014】
(1) この際、本発明の結晶の構造解析方法は、
多層構造結晶の回折プロファイルを取得する際、X線回折装置の受光系の開口角条件のみを変え、他の測定条件は同じに保って、同一の反射指数(hk1)を持つ回折プロファイルを複数測定する工程と、
得られた該複数の回折プロファイル中に観測される多層構造に対応するピーク又は一連のピーク群の最大回折強度を示す点を、回折強度軸及び回折角度軸とも揃えることにより、該複数のプロファイルを重ねて表示する工程と、
表示された該複数の回折プロファイル間のプロファイル形状の差異を比較抽出する工程とを有し、
前記差異の比較抽出により、多層構造結晶の構造劣化の有無及び程度を判定することを特徴とする。
上記各工程は、例えば、コンピュータ等の計算機を用いて、プログラム等により自動処理されて、画面上への表示、プロファイル形状の差異の比較抽出が行われる。
【0015】
(2) あるいは、上記(1)の結晶の構造解析方法において、
前記差異を比較抽出する際、回折プロファイル中に観測される回折強度が強いピーク部分の間に現れる回折強度が微弱なピーク間の谷間部分の形状の差を選択的に抽出することにより、構造劣化の程度を判定することを特徴とする。
構造劣化が進んだ場合、複数の回折プロファイルにおけるピーク間の谷間部分の形状の差が大きくなる方向に変化するため、ピーク間の谷間部分の形状の差を抽出し、比較することにより、構造劣化の程度が判定可能である。
【0016】
(3) あるいは、上記(2)の結晶の構造解析方法において、
前記差異を比較抽出する際、更に、ピーク間の谷間部分の深さを抽出することにより、構造劣化の程度を判定することを特徴とする。
構造劣化が進んだ場合、ピーク間の谷間部分の深さが浅くなる方向に変化するため、ピーク間の谷間部分の深さを抽出し、比較することにより、構造劣化の程度が判定可能である。
【0017】
(4) あるいは、上記(2)の結晶の構造解析方法において、
前記差異を比較抽出する際、更に、前記複数の回折プロファイル間におけるピーク間の谷間部分の形状の差異の指標として、該谷間部分の広さの差異を抽出することにより、構造劣化の程度を判定することを特徴とする。
【0018】
(5) あるいは、上記(2)の結晶の構造解析方法において、
前記差異を比較抽出する際、更に、前記複数の回折プロファイル間におけるピーク間の谷間部分の形状の差異の指標として、該谷間部分の深さの差異を抽出することにより、モザイク結晶によるチルト分布に起因する構造劣化成分の程度を判定することを特徴とする。
【0019】
(6) あるいは、上記(1)〜(5)のいずれかの結晶の構造解析方法において、
前記開口角条件を、少なくとも、極端な広開口角と極端な狭開口角とすることを特徴とする。
開口角条件が極端な広開口角における回折プロファイルと、開口角条件が極端な狭開口角における回折プロファイルとを比較した場合、回折プロファイル間のプロファイル形状を最も大きな差異とすることができる。
【0020】
[作用]
本発明に係る結晶の構造解析方法を用いることにより、欠陥の生成に伴う試料結晶の不完全性を反映する回折X線の拡がり状態の検出測定を、2つのX線回折プロファイルにおけるピーク間の谷間部分における回折プロファイル形状の差異として、簡便に行うことができる。
【0021】
更には、ピーク間の谷間部分の形状の差異の比較抽出する際、その指標として、谷間部分の深さの差異を抽出することにより、どういうタイプの構造劣化であるかという構造劣化の情報として、モザイク結晶によるチルト分布に起因した構造劣化成分の程度を簡便に判別することができる。
【発明の効果】
【0022】
歪系エピタキシャル層、歪超格子構造の作製において重要となる、臨界膜厚の評価及び臨界膜厚をこえた領域での格子緩和過程の評価等、構造劣化の評価を行う際、従来のX線回折法を用いた方法は、他のPL測定法などを用いた場合と比べて検出感度が悪いものであった。これに対して、本発明によれば、X線回折法を用いて構造劣化の評価を行う際、従来法と比較して検出感度を向上させることができる。
【0023】
更には、どういうタイプの構造劣化であるかという構造劣化の情報として、モザイク結晶によるチルト分布に起因した構造劣化成分の程度を簡便に、かつ、検出感度よく判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、歪みを含むエピタキシャル薄膜や歪超格子構造等、多層構造結晶の構造劣化の有無と程度を、X線回折により評価する構造解析方法である。従来、X線回折法による構造劣化の評価は感度が悪いものであったが、本発明では、X線解析装置のX線受光器の開口角のみを変えて、同一の反射指数(hk1)を持つ回折プロファイルを複数測定し、得られた複数のプロファイル中に観測される多層構造に対応するピーク又は一連のピーク群の最大回折強度を示す点を揃えて、複数のプロファイルを重ねて表示し、プロファイル間の形状の差異を比較抽出することにより、高い感度で、構造劣化の有無、程度を判定するものである(後述の実施例1参照)。
更には、プロファイル間の形状の差異を比較抽出する際、ピーク間の谷間部分の形状の差異の指標として、谷間部分の広さ、深さの差異を抽出することにより、構造劣化の程度(大きさ)や構造劣化のタイプを、定量的に簡便に判別するものである(後述の実施例2参照)。
以下に、従来法との比較と共に本発明に係る結晶の構造解析方法の実施形態例を示す。
【実施例1】
【0025】
本発明の具体的実施例として、(001)GaAs基板上にMOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)成長法により作製したGaInNAs/GaAs2重量子井戸(Double Quantum Well, DQW)構造試料を本発明に適用して構造評価した例を以下に述べる。
【0026】
用いたGaInNAs/GaAs DQW構造試料は4試料であり、4試料ともに(001)GaAs基板上にGaAs buffer層(膜厚100nm)、GaInNAs/GaAs DQW構造、GaAs clad層(膜厚100nm)を順次成長した層構造をもつ。DQW構造部分に用いたwell層であるGaInNAs層の組成は各試料で共通であり、歪量に換算して2.2%圧縮歪を持つGa0.7In0.3N0.02As0.98組成を用いた。又、GaAs buffer層の膜厚も11nmで共通である。4試料においてはwell層であるGaInNAs層の膜厚を順次変化させた。各試料でのGaInNAs層膜厚(d)はそれぞれサンプルA:d=3.2nm、サンプルB:d=4.5nm、サンプルC:d=6.0nm、サンプルD:d=9.0nmである。
【0027】
まず、図1に他の測定手段の代表例として、上記試料のPL測定結果を示す。なお、図1のグラフにおいては、左から順に、サンプルA(3.2nm)、B(4.5nm)、C(6nm)、D(9nm)の測定結果を示している。
図1において、Well層であるGaInNAs層の膜厚が大きくなるにつれてPLピーク波長が長波長側にシフトしているのは、DQW構造の量子閉じこめ効果が弱くなるためであり、定性的に妥当な結果である。しかるに、GaInNAs層の膜厚が大きくなるにつれてPL強度が著しく低下しており、又、それに伴いPL半値幅も著しく増大していることが分かる。この結果はGaInNAs層の膜厚が大きくなるにつれてDQW構造中に欠陥が導入され、構造劣化が進んでいることを示している。このことからPL測定による評価では構造劣化がはっきりと検出されていることが分かる。
【0028】
しかるに、上記4試料を従来からよく用いられてきた004X線回折rocking curve測定法により評価した結果を図2に示す(図2中の実線)。測定はX線受光器の直前に受光スリットを挿入しない測定配置で、θ-2θ法スキャンにより測定した。又、図2には、運動学的理論を用いたシミュレーションにより最適化(fitting)された計算プロファイルもあわせて示してある(図2中の点線)。又、上記最適化(fitting)により得られた構造パラメータを表1にまとめた。なお、図2(a)、(b)、(c)、(d)は、各々サンプルA、B、C、Dの測定結果及び計算結果を示すものである。
【0029】
【表1】

【0030】
表1の結果より、ほぼ設計どおりの歪量が得られており、顕著な格子緩和は観測されないことがわかる。このことから、従来のX線回折評価では構造劣化が特定されず、PL測定に比べ、構造劣化の検出感度が劣るという従来指摘されていた問題点が確認される。
【0031】
これに対し本発明を適用した実施例を以下に示す。
図3は別々のX線受光器の開口角条件を用いて測定した2種類の004反射X線回折プロファイルを、両プロファイル中に観測される一連の超格子サテライトピークの各ピークトップの位置がちょうど一致するようにあわせることにより、重ねて表示した図を、試料毎に示したものである。ここに用いた2種類の004反射X線回折プロファイルのうち、1つは受光器の直前に受光スリットを置かない極端な広開口角条件で測定したプロファイルであり(図3中の実線)、図2に示したプロファイルと同一のものである。もう1つのプロファイルは受光器の直前に逆格子マッピング測定用のアナライザ結晶を挿入した極端な狭開口角条件となる配置で測定したプロファイルである(図3中の点線)。なお、本実施例においては、測定試料に合わせて、広開口角条件を2度程度、狭開口角条件を10秒程度に設定して、測定を行っている。又、図3(a)、(b)、(c)、(d)は、各々サンプルA、B、C、Dの測定結果を示すものである。
【0032】
図3に示すように、各試料ともに2種類の004反射X線回折プロファイルはほとんどの部分で重なっており、両者の形状はほぼ一致していることがわかる。しかるに、超格子サテライトピークの間に生じる回折強度が微弱な谷間部分の形状に注目すると、この部分には各試料により顕著な差が観測され、この部分から構造劣化の様子が読みとれる。すなわち、サンプルAでは谷間部分はシャープな状態であり、かつ2種類の004反射X線回折プロファイルの谷間部分での形状の差も小さい。これは構造劣化が小さい(無い)ことを示している。
【0033】
一方、構造劣化が進むにつれ、まず谷間部分での2種類の004反射X線回折プロファイルの谷間部分での形状の差が大きくなるため、これによりサンプルB、サンプルCにおいても構造劣化が検出感度よく検出できていることがわかる。この場合、支配的なピーク拡がり要因は形状効果であり、構造劣化の影響は、この支配要因に比べて小さいのでプロファイル全体の形状には反映されない。このため、谷間部分のみに影響が現れ、本発明に係る結晶の構造解析方法を用いて、この部分を集中的に解析することにより、検出感度を改善できる。
【0034】
つまり、開口角条件のみを変えた条件で、同一の反射指数(hk1)を持つ回折プロファイルを複数測定し、得られた複数のプロファイル中に観測される多層構造に対応するピーク又は一連のピーク群の最大回折強度を示す点を、回折強度軸及び回折角度軸とも揃えることにより、該複数のプロファイルを重ねて表示し、表示された複数のプロファイル間のプロファイル形状の差異を比較抽出することで、構造劣化の程度を判定する事が可能となる。そして、差異の比較抽出を行う際には、特に、プロファイル中に観測される回折強度が強いピーク部分の間に現れる、回折強度が微弱なピーク間の谷間部分の形状の差を選択的に抽出すれば、簡便且つ感度よく、構造劣化の程度を判定することができる。
【0035】
更に、サンプルDでは構造劣化が進み、支配的ピーク拡がりが大きくなるため、谷間部分の谷の深さが浅くなる方向に谷間の形状自体が変化し、これを観測することにより構造劣化の進行が観測できる。ここで、ピーク間の谷間部分の深さの抽出は、各ピークのピークトップから谷間の底までの深さを測定することにより行なわれている。従って、各サンプルA、B、C、Dにおいて、プロファイル間におけるピーク間の谷間部分の深さを抽出し、比較することにより、その構造劣化の程度が判定できる。つまり、構造劣化が進んだ場合、ピーク間の谷間部分の深さが浅くなる方向に変化するため、ピーク間の谷間部分の深さを抽出し、比較することにより、構造劣化の程度が、より感度よく判定可能となる。
【0036】
上述してきたように、本発明に係る結晶の構造解析方法を用いることにより、多層結晶構造の構造劣化が、従来に比べて感度よく検出できることが分かった。
【実施例2】
【0037】
本実施例は、構造劣化の程度、更には、構造劣化のタイプを、定量的に明確に判定するため、2種類の測定プロファイル(開口角条件のみを変えたもの)において、ピーク間の谷間部分の広さの差異及び谷間の深さの差異を数値的に抽出することにより、この谷間部分の変化の特徴をより明確に解析するものである。
以下に、その手順及び解析した結果を述べて説明を行う。
【0038】
まず、解析に用いる谷間部分の広さの差異及び深さの差異を求める手順を具体的に示す。
図4は、開口角条件のみを変えて測定したプロファイルA(without a receiving slit)及びプロファイルB(with analyzer crystal)の2種類を重ねて表示した場合において、ピーク間の谷間部分を示す模式図である。なお、縦軸は回折強度の対数表示であり、横軸は測定時のX線入射角度である。
【0039】
図4において、logI0は、プロファイルA及びプロファイルB共通のサテライトピーク頂点での対数回折強度であり、θ0及びθ3は、隣接するサテライトピーク頂点でのX線入射角度である。又、logI1は、プロファイルAにおける隣接するサテライトピーク間の谷間部分の底の位置での対数回折強度であり、logI2は、プロファイルBにおける隣接するサテライトピーク間の谷間部分の底の位置での対数回折強度である。θ1及びθ2は、プロファイルBにおいて、上記logI1の対数回折強度をもつ点でのX線入射角度である。又、logIbは、測定時のバックグラウンド・レベルを示している。
【0040】
図4中に示した量=a、b、c、dは、上記量を用いて、それぞれ、a=logI0/I2、b=logI0/I1、c=θ2−θ1、d=logI1/I2と表せる。これらをもとに正規化した谷間部分の広さの差異wを、w=(θ2−θ1)/(θ3−θ0)と定義し、正規化した谷間部分の広さの差異の指標として用いる。又、d=logI1/I2を、谷間部分の深さの差異の指標として用いる。
【0041】
図3に示した測定プロファイルのデータに対して、上記手順を適用して、上記w、dを求め、上記w、dを用いて、谷間部分の広さの差異及び谷間部分の深さの差異のサンプル依存性を解析した結果が、図5及び図6である。なお、比較のため、図5には、従来の解析によく用いる半値幅(FWHM)のサンプル依存性を併記した。
【0042】
図5において、FWHMのサンプル依存性を見ると、サンプルD以外は顕著なサンプル依存性が見られない。このことは、FWHMを用いた従来の解析法では、サンプルB、C等で起こっている構造劣化が検出できていないことを示しており、従来の解析法では構造劣化の検出感度が悪いことを反映している。
【0043】
これに対して、本実施例における指標wのサンプル依存性を見ると、前述した構造劣化に対するPL強度のサンプル依存性と、よく相関したサンプル依存性を示しており、構造劣化を検出感度よく検出できていることが分かる。この結果から、本実施例における指標wを用いて、谷間部分の広さの差異を解析することにより、構造劣化の程度を検出感度よく検出できることが分かった。
【0044】
次に、図6において、本実施例における指標dのサンプル依存性を見ると、サンプルAでは値が小さいのに対し、サンプルB、Cでは値が大きく、サンプルDでは再び値が小さくなっていることがわかる。この解析では構造劣化のうち、モザイク結晶に起因したチルト成分による構造劣化の大きさが検出でき、本実施例における指標dのサンプル依存性は、構造劣化の初期過程(サンプルB、C)では、モザイク結晶に起因したチルト成分による構造劣化が顕著に現れているのに対し、構造劣化が進んだ過程(サンプルD)では、チルト成分以外の機構による構造劣化が顕著になり、構造劣化の機構が変化することがわかる。このように、本実施例における指標dを用いて、谷間部分の深さの差異を解析することにより、構造劣化の程度のみでなく、構造劣化の種類及び構造劣化機構の変化といった構造劣化の詳細まで検出感度よく検出、観測できることが分かった。
【0045】
上述したように、本実施例では、上記指標w、dを用いることにより、構造劣化の程度、更には、構造劣化過程の詳細まで、従来と比較して検出感度よく検出できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】GaInNAs/GaAs DQW試料4試料のPL測定結果を示すグラフである。
【図2】GaInNAs/GaAs DQW試料4試料の従来法による004反射X線回折評価結果を示すグラフである。
【図3】本発明に係る結晶の構造解析方法を、GaInNAs/GaAs DQW試料4試料に適用して得られたグラフである。
【図4】2種類の測定プロファイルを重ねて表示した場合において、ピーク間の谷間部分を示す模式図である。
【図5】図3の測定プロファイルのデータに対して、指標wを適用して、谷間部分の広さの差異のサンプル依存性を解析した結果である。比較のため、半値幅(FWHM)のサンプル依存性を併記している。
【図6】図3の測定プロファイルのデータに対して、指標dを適用して、谷間部分の深さの差異のサンプル依存性を解析した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の結晶面の基板上に形成された多層構造結晶を、X線回折により測定して、該多層構造結晶の回折プロファイルを取得する際、X線回折装置の受光系の開口角条件のみを変えて、同一の反射指数を持つ回折プロファイルを複数測定する工程と、
得られた該複数の回折プロファイル中に観測される多層構造に対応するピーク又は一連のピーク群の最大回折強度を示す点を、回折強度軸及び回折角度軸とも揃えることにより、該複数の回折プロファイルを重ねて表示する工程と、
表示された該複数の回折プロファイル間のプロファイル形状の差異を比較抽出する工程とを有し、
前記差異の比較抽出により、多層構造結晶の構造劣化の有無及び程度を判定することを特徴とする結晶の構造解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の結晶の構造解析方法において、
前記差異を比較抽出する際、回折プロファイル中に観測される回折強度が強いピーク部分の間に現れる回折強度が微弱なピーク間の谷間部分の形状の差を選択的に抽出することにより、構造劣化の程度を判定することを特徴とする結晶の構造解析方法。
【請求項3】
請求項2記載の結晶の構造解析方法において、
前記差異を比較抽出する際、更に、ピーク間の谷間部分の深さを抽出することにより、構造劣化の程度を判定することを特徴とする結晶の構造解析方法。
【請求項4】
請求項2記載の結晶の構造解析方法において、
前記差異を比較抽出する際、更に、前記複数の回折プロファイル間におけるピーク間の谷間部分の形状の差異の指標として、該谷間部分の広さの差異を抽出することにより、構造劣化の程度を判定することを特徴とする結晶の構造解析方法。
【請求項5】
請求項2記載の結晶の構造解析方法において、
前記差異を比較抽出する際、更に、前記複数の回折プロファイル間におけるピーク間の谷間部分の形状の差異の指標として、該谷間部分の深さの差異を抽出することにより、モザイク結晶によるチルト分布に起因する構造劣化成分の程度を判定することを特徴とする結晶の構造解析方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の結晶の構造解析方法において、
前記開口角条件を、少なくとも、極端な広開口角と極端な狭開口角とすることを特徴とする結晶の構造解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−64962(P2007−64962A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5535(P2006−5535)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月7日 社団法人応用物理学会発行の「2005年(平成17年)秋季 第66回 応用物理学会学術講演会講演予稿集 第1分冊」に発表
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】