説明

結晶化ガラス

【課題】本発明の課題は、0℃から50℃において平均線膨張係数が極めて小さく、かつΔL/L曲線の傾きの変化が極めて小さい結晶化ガラスを提供することであり、より具体的には0℃から50℃において平均線膨張係数が0.0±0.2×10−7・℃−1、ΔL/Lの最大値−最小値の絶対値が0℃から50℃において10×10−7以下、かつ20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が−1.5ppb・℃−2から+1.5ppb・℃−2の範囲内である結晶化ガラスを提供することである。
【解決手段】β−石英及び/又はβ−石英固溶体を含み、結晶化前後における屈折率ndの変化量が0.04以下である結晶化ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極低膨張特性を有する結晶化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
β−石英及び/又はβ−石英固溶体を含む結晶化ガラスは低い平均線膨張係数を有し、極端紫外線を光源とする極端紫外線露光技術(EUVL)を利用した次世代半導体製造装置などのミラー基板材やフォトマスク基板材としての使用が検討されている。
【0003】
EUVLの反射光学系では、ミラー面の投影像が基板材の熱膨張などによって変形すると、最終的な露光品質が劣化してしまうため、ミラーやフォトマスクの基板材料にはppb/℃レベルの熱膨張係数が極めて小さな材料を使用する必要がある。
例えばEUVLのフォトマスク基板の規格であるSEMI P37−1102には、クラスDで19℃から25℃における平均線膨張係数が0±30ppb/℃、クラスAで19℃から25℃における平均線膨張係数が0±5ppb/℃と定められている。
【0004】
ここで、T1℃からT2℃における平均線膨張係数αとは次の式によって得られる。
α=(LT2−LT1)/{L×(T2−T1)}
L:室温における試料の長さ(本発明においては室温を25℃と定義する。)
T1:T1の時の試料の長さ
T2:T2の時の試料の長さ
また、ある温度における膨張傾向を把握する為にCTE−温度曲線や、ΔL/L曲線を描くことが良く行われる。
CTE−温度曲線とは上記の式において、T1とT2の温度範囲を充分に狭くした時の、ある温度Tにおける平均線膨張係数をy軸に、温度をx軸としてプロットした時に得られる曲線を言う。
ΔL/L曲線とは室温における試料の長さをLとし、温度Tの時の試料の長さをLとする時、(L−L)/Lの値(ΔL/L)をy軸に、温度をx軸としてプロットした時に得られる曲線を言う。
また、dCTE/dT−温度曲線とは、CTE−温度曲線を温度で微分した曲線であり、膨張特性の温度依存性を示す。
【0005】
次世代半導体製造装置などのミラー基板材やフォトマスク基板材として結晶化ガラスを使用するためには、平均線膨張係数がゼロ付近であることに加え、膨張傾向の変化が少ないこと、すなわちΔL/L曲線の傾きの変化が少ないことが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特許文献1には0℃〜50℃において、平均線膨張係数が0.0±0.2×10−7・℃−1以内であり、ΔL/Lの最大値−最小値が10×10−7以内である結晶化ガラスが開示されている。
しかし、特許文献1のΔL/L曲線は20℃から30℃の領域では山なりとなっており、ΔL/L曲線の傾きの変化が大きく、使用温度領域での膨張傾向が変化するため、次世代半導体製造装置などのミラー基板材やフォトマスク基板材への適用は必ずしも好ましくない。
【特許文献1】特開2005−89272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、0℃から50℃において平均線膨張係数が極めて小さく、かつΔL/L曲線の傾きの変化が極めて小さい結晶化ガラスを提供することであり、より具体的には0℃から50℃において平均線膨張係数が0.0±0.2×10−7・℃−1、ΔL/Lの最大値−最小値の絶対値が0℃から50℃において10×10−7以下、かつ20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が−1.5ppb・℃−2から+1.5ppb・℃−2の範囲内である結晶化ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
結晶化ガラスの大まかな膨張特性は組成と結晶相およびガラス相の構造によって決まるが、特に平均線膨張係数が極めて小さい結晶化ガラスにおいて、ΔL/L曲線の傾きの変化が極めて小さくなるような精密な膨張の制御においては、結晶化ガラスの組成、並びに結晶化後の結晶相の個々の結晶の形状、結晶の粒径分布及び結晶化度等の結晶化ガラスの微細構造を決める様々な要素が複雑に関連しあって結晶化ガラスの膨張特性に反映され、これらの個々の要素を個々に制御しても所望の結晶化ガラスは得られなかった。
【0009】
本発明者は上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねたところ、結晶化前後における屈折率ndの変化量を一定の値の範囲内とすることによって、平均線膨張係数が極めて小さく、かつΔL/L曲線の傾きの変化が極めて小さい結晶化ガラスが得られる事を見いだしたのである。本発明者は結晶化前の原ガラスの屈折率ndと、結晶化後の結晶化ガラスの屈折率ndの差、すなわち結晶化前後における屈折率ndの変化量を特定の値の範囲内に制御することによって、結晶化ガラスの微細構造が本発明の課題を解決する為に理想的な状態となり、0℃から50℃において平均線膨張係数が0.0±0.2×10−7/℃、ΔL/Lの最大値−最小値の絶対値が10×10−7以下、かつ20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が0±1.5ppb・℃−2の範囲内である結晶化ガラスが得られる事を見いだし、この発明を完成したものであり、その具体的な構成は以下の通りである。
【0010】
(構成1)
β−石英及び/又はβ−石英固溶体を含み、結晶化前後における屈折率ndの変化量が0.0400以下である結晶化ガラス。
(構成2)
結晶化度が85wt%以下である構成1に記載の結晶化ガラス。
(構成3)
0℃〜50℃における平均線膨張係数の値が0.0±0.2×10−7・℃−1である構成1または2に記載の結晶化ガラス。
(構成4)
0℃〜50℃の温度範囲におけるΔL/Lの最大値−最小値の絶対値が10×10−7以下である構成1から3のいずれかに記載の結晶化ガラス。
(構成5)
20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が0±1.5ppb・℃−2の範囲内であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載の結晶化ガラス。
(構成6)
酸化物基準の質量%で、
SiO47〜65%、
Al17〜29%、
LiO 1〜8%、
の各成分を含有する構成1から5のいずれかに記載の結晶化ガラス。
(構成7)
酸化物基準の質量%で、
1〜13%、
MgO 0.1〜5%、
ZnO 0.1〜5.5%、
TiO1〜7%、
ZrO1〜7%
の範囲の各成分を含有する構成1から6のいずれかに記載の結晶化ガラス。
(構成8)
酸化物基準の質量%で、
NaO 0〜4%、及び/又は
O 0〜4%、及び/又は
CaO 0〜7%、及び/又は
BaO 0〜7%、及び/又は
SrO 0〜4%、及び/又は
As0〜2%、及び/又は
Sb0〜2%、
の範囲の各成分を含有することを特徴とする構成1から7のいずれかに記載の結晶化ガラス。
(構成9)
酸化物基準の質量%で、
SiO+Al+P=65.0〜93.0%であり、
とSiOの質量百分率の比、
とAlの質量百分率の比がそれぞれ、
/SiO=0.02〜0.200、
/Al=0.059〜0.448、
であることを特徴とする構成1から8のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば0℃から50℃において平均線膨張係数が0.0±0.2×10−7・℃−1、より好ましい態様においては、0.0±0.1×10−7・℃−1
ΔL/Lの最大値−最小値の絶対値が0℃から50℃において10×10−7以下、より好ましい態様においては、8×10−7以下、最も好ましい態様においては、2×10−7以下、
かつ20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が−1.5ppb・℃−2から+1.5ppb・℃−2の範囲内であり、より好ましい態様においては、−1.3ppb・℃−2から+1.3ppb・℃−2の範囲内であり、最も好ましい態様においては−1.0ppb・℃−2から+1.0ppb・℃−2である結晶化ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例のΔL/L−温度グラフである。
【図2】本発明の実施例のdCTE/dT−温度グラフである。
【符号の説明】
【0013】
1:実施例1
2:実施例2
3:実施例3
4:実施例4
5:実施例5
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の結晶化ガラスについて述べる。
結晶化ガラスの結晶相は、平均線膨張係数を左右する重要な要因である。本発明の結晶化ガラスは、負の平均線膨張係数を有する結晶相を析出させ、全体としての平均線膨張係数を所望の範囲としている。この目的を実現するための結晶相には、β−石英(β−SiO)、及び/又はβ−石英固溶体(β−SiO固溶体)を含有する事が好ましい。なお、本明細書において、β−石英固溶体とはβ−石英にSiおよびO以外の元素が侵入したもの(interstitial)および/または置換したもの(substitutional)を指す。特に本願結晶化ガラスにおいては、Si+4原子がAl+3と置換されLi、Mg+2、Zn+2原子が添加され平衡を保つ結晶体である事が好ましい。
【0015】
さらに本発明の課題を解決する為には、結晶化前後における屈折率ndの変化量を0.04以下とすることが必要である。
すなわち結晶化前の原ガラスのndをndとし、結晶化後の結晶化ガラスのndをndとする時、|nd−nd|の値を0.0400以下とすることが必要であり、0.0200以下とすることがより好ましく、0.0163以下とすることが最も好ましい。
これにより、0℃から50℃において平均線膨張係数が0.0±0.2×10−7/℃、ΔL/Lの最大値−最小値の絶対値が10×10−7以下、かつ20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が−1.5ppb・℃−2から+1.5ppb・℃−2の範囲内である結晶化ガラスを得ることが可能となる。
|nd−nd|の値が0.04を超えると、上記の膨張特性を有する結晶化ガラスを得ることができなくなってしまう。
なお、β−石英及び/又はβ−石英固溶体を含む結晶化ガラスの場合は結晶化によってndは増加するため、nd−ndの値は常に正である。
【0016】
また、所望の結晶化ガラスを得る為には|nd−nd|の値は、0.0100以上とすることが好ましく、0.01300以上とすることがより好ましく、0.01500以上とすることが最も好ましい。|nd−nd|の値が0.0100未満であると上記の膨張特性を有する結晶化ガラスを得ることができなくなってしまう。
【0017】
屈折率ndの値は日本光学硝子工業会規格(JOGIS)01−2003「光学ガラスの屈折率の測定方法」に従い、Heを光源とする587.56nmの光の屈折率を測定する。なお、既に結晶化され、原ガラスの屈折率が未知の結晶化ガラスについての結晶化前後の屈折率ndの変化量の測定は、まず結晶化ガラスの屈折率を測定し、その後、この結晶化ガラスを再溶解し、原ガラスを作製して屈折率を測定すればよい。
【0018】
本発明の結晶化ガラスの好ましい組成について説明する。なお、各組成成分について述べるとき、特に記載が無い場合は、各成分の含有量は酸化物基準の質量%で示す。ここで、「酸化物基準」とは、本発明の結晶化ガラスの構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定して、ガラス中に含有される各成分の組成を表記する方法であり、この生成酸化物の質量の総和を100質量%として、結晶化ガラス中に含有される各成分の量を表記する。
【0019】
SiO成分は、原ガラスの熱処理により、結晶相として析出するβ−石英及び/又はβ−石英固溶体を生成する成分であり、その量が47%以上であると、原ガラスの熱膨張係数が小さくなり、所望の熱膨張係数を有する結晶化ガラスが得やすくなる。また、65%以下であると原ガラスの溶融・成形性が容易であり、均質性が向上する。前記効果をより容易に得るには、成分量の下限は51%が好ましく、53%がより好ましい。また、成分量の上限は60%が好ましく、58%がより好ましい。
【0020】
Al成分は、その量が17%以上29%以下であると原ガラスの溶融が容易となり、そのため、得られる結晶化ガラスの均質性が向上し、更に結晶化ガラスの化学的耐久性も良好なものとなる。また、29%以下であると原ガラスの耐失透性が向上し、耐失透性の低下が原因となって結晶化段階で結晶化ガラスの組織が粗大化することがなくなり、機械的強度が向上する。
前記効果をより容易に得るには、成分量の下限は20%が好ましく、22%がより好ましい。また、成分量の上限は27%が好ましく、26%がより好ましい。
【0021】
LiO成分はβ−石英固溶体の構成要素となる成分であり、結晶化ガラスの低膨張特性向上や高温時のたわみ量を低減させ、更に原ガラスの溶融性、清澄性を著しく向上させる成分である。LiO成分の量が1%以上であると前記効果が飛躍的に向上し、また、原ガラスの溶融性が向上することにより均質性が向上し、さらに目的とする結晶相の析出が飛躍的に向上する。また8%以下であると低膨張特性が飛躍的に向上し、極低膨張特性を容易に得ることができ、原ガラスの耐失透性がより向上し、耐失透性の低下に起因する結晶化段階後の結晶化ガラス中の析出結晶の粗大化を抑制し、機械的強度が向上する。前記効果をより容易に得るには、成分量の下限は2%がより好ましく、3%が最も好ましい。また、成分量の上限は6%がより好ましく、5%が最も好ましい。
【0022】
成分は、原ガラスの溶融・清澄性を向上させる効果と、熱処理結晶化後の熱膨張を所望の値に安定化させる効果を有する。本願の結晶化ガラスにおいてはP成分の量が1%以上であると前記の効果が飛躍的に向上し、また13%以下であると、原ガラスの耐失透性が良く、耐失透性の低下が原因となって結晶化段階で結晶化ガラスの組織が粗大化することがなくなり、機械的強度が向上する。前記効果をより容易に得るには、成分量の下限は4%がより好ましく、6%が最も好ましい。また、成分量の上限は10%がより好ましく、9%が最も好ましい。
【0023】
本発明の結晶化ガラスはSiO成分、Al成分、P成分の合計量(SiO+Al+P)を65.0〜93.0%とすることにより、低膨張特性を著しく向上させ、極低膨張特性を得ることができる。より容易に前記効果を得るには、SiO+Al+Pの含有量の下限は75%がより好ましく、80%が最も好ましい。また、SiO+Al+Pの含有量の上限は91%がより好ましく、89%が最も好ましい。
【0024】
本発明の結晶化ガラスはSiO成分に対するP成分の比の値(P/SiO)を0.02〜0.20とすることにより、低膨張特性を著しく向上させ、極低膨張特性を得ることができる。より容易に前記効果を得るには、P/SiOの下限は0.08がより好ましく、0.12が最も好ましい。P/SiOの上限は0.16がより好ましく、0.14が最も好ましい。
【0025】
本発明の結晶化ガラスはAl成分に対するP成分の比の値(P/Al)を0.059〜0.448とすることにより、低膨張特性を著しく向上させ、極低膨張特性を得ることができる。より容易に前記効果を得るには、P/Alの下限は0.150がより好ましく、0.250が最も好ましい。P/Alの上限は0.400がより好ましく0.350が最も好ましい。
【0026】
MgO成分は、β−石英固溶体の構成要素となる成分であり、結晶化ガラスの低膨張特性向上や高温時のたわみ量を低減させ、更に原ガラスの溶融性、清澄性を著しく向上させる成分である。MgO成分の量が0.1%以上であると前記効果が飛躍的に向上し、また5%以下であると低膨張特性が飛躍的に向上し、極低膨張特性を得ることができる。前記効果をより容易に得るには、成分量の下限は0.4%がより好ましく、0.6%が最も好ましい。また、成分量の上限は3%がより好ましく、2%が最も好ましい。
【0027】
ZnO成分は、β−石英固溶体の構成要素となる成分であり、結晶化ガラスの低膨張特性向上や高温時のたわみ量を低減させ、更に原ガラスの溶融性、清澄性を著しく向上させる成分である。ZnO成分の量が0.1%以上であると前記効果が飛躍的に向上し、また5.5%以下であると低膨張特性が飛躍的に向上し、極低膨張特性を容易に得ることができ、原ガラスの耐失透性がより向上し、耐失透性の低下に起因する結晶化段階後の結晶化ガラス中の析出結晶の粗大化を抑制し、機械的強度が向上する。前記効果をより容易に得るには、成分量の下限は0.2%がより好ましく、0.3%が最も好ましい、また、成分量の上限は4%がより好ましく、3%が最も好ましい。
【0028】
CaO、BaOの2成分は、基本的にガラス中に析出した結晶以外のガラスマトリックスとして残存するものであり、極低膨張特性および溶融性改善の効果に対して、結晶相とガラスマトリックス相の微調整成分として任意に添加しうる。
【0029】
CaO成分は熔融性の改善とともに、原ガラスの耐失透性の向上、耐失透性の低下に起因する結晶化段階後の結晶化ガラス中における析出結晶の粗大化抑制および機械的強度の向上が期待できる。しかしながら、7%を超えると原ガラスの膨張係数が大きくなり、所望の結晶化ガラスが得難くなるため、成分量の上限は5%がより好ましく、3%が最も好ましい。
【0030】
BaO成分は熔融性の改善とともに、原ガラスの耐失透性の向上、耐失透性の低下に起因する結晶化段階後の結晶化ガラス中における析出結晶の粗大化抑制および機械的強度の向上が期待できる。しかしながら、7%を超えると原ガラスの膨張係数が大きくなり、所望の結晶化ガラスが得難くなるため、成分量の上限は5%がより好ましく、3%が最も好ましい。
【0031】
TiOおよびZrO成分は、いずれも結晶核形成剤として用いられる。これらの量がそれぞれTiO1%、ZrO1%以上であると目的とする結晶相の析出が可能となる。またそれぞれ7%以下であると不熔物の発生が無くなって原ガラスの溶融性が良好となり均質性が向上する。前記効果をより容易に得るには、TiOの成分量の下限は1.3%がより好ましく、1.5%が最も好ましい。ZrOの成分量の下限は1.3%がより好ましく、1.5%が最も好ましい。また、TiOの成分量の上限は、5%がより好ましく、3%が最も好ましい。ZrOの成分量の上限は5%がより好ましく、3%が最も好ましい。
【0032】
As成分やSb成分は、均質な製品を得るためガラス溶融の際の清澄剤として添加し得る。その効果を得るには各々の成分量が2%以下の範囲が良い。
【0033】
上記As成分やSb成分は、環境や人体への影響を考慮してその使用が控えられる傾向にあり、As成分やSb成分に代えて、Ce成分やSn成分を用いることも可能である。この場合、清澄剤としての効果を得る為には各々の成分量が2%以下の範囲が良い。
【0034】
尚、上記成分の他に特性の微調整等を目的として、本発明の結晶化ガラスの特性を損なわない範囲で、SrO、B、F、La、Bi、WO、Y、Gd2O、SnO成分を1種または2種以上の合計量で2%以下、他にもCoO、NiO、MnO、Fe、Cr等の着色成分を1種または2種以上の合計量で2%以下まで、それぞれ添加し得る。しかし、本発明の結晶化ガラスを高い光線透過率が求められる用途に用いる場合には、前記着色成分は含まない事が好ましい。
【0035】
本発明の結晶化ガラスにおいては、負の平均線膨張係数を有する主結晶相を析出させ、正の平均線膨張係数を有するガラスマトリックス相と相まって、全体として極低膨張特性を実現している。このためには正の平均線膨張係数を有する結晶相、すなわち、二珪酸リチウム、珪酸リチウム、α−石英、α−クリストバライト、α−トリジマイト、Zn−ペタライトをはじめとするペタライト、ウォラストナイト、フォルステライト、ディオプサイト、ネフェリン、クリノエンスタタイト、アノーサイト、セルシアン、ゲーレナイト、フェルスパー、ウィレマイト、ムライト、コランダム、ランキナイト、ラルナイトおよびこれらの固溶体等を含まないことが好ましく、これらに加えて、良好な機械的強度を維持するためには、Hf−タングステン酸塩やZr−タングステン酸塩をはじめとするタングステン酸塩、チタン酸マグネシウムやチタン酸バリウムやチタン酸マンガンをはじめとするチタン酸塩、ムライト、3ケイ酸2バリウム、Al・5SiOおよびこれらの固溶体等も含まないことが好ましい。
【0036】
本発明の結晶化ガラスにおいて結晶化度が85wt%を越えると、所望のΔL/Lの最大値−最小値の絶対値、あるいはdCTE/dT−温度曲線の値を有する結晶化ガラスが得難くなるため、その上限値は85wt%以下であることが好ましく、82wt%以下がより好ましく、80wt%が最も好ましい。また60wt%未満であると所望の熱膨張係数を有する結晶化ガラスが得難くなるため、その下限値は60wt%以上であることが好ましく、63wt%以上がより好ましく、65wt%が最も好ましい。
結晶化度の算出は、次の通り行う。予め原ガラス粉末と目的とする析出結晶粉末(例えばβ−ユークリプタイト)を任意比で混合し、さらに標準試料となるSiOを加えた混合粉末数種のXRD測定によって、析出結晶粉末量(wt%)をx軸に、結晶積分強度/標準試料積分強度をy軸にプロットした検量線を作成する。次に測定対象の結晶化ガラスおよび標準試料の混合粉末のXRD測定を行い、求められた結晶積分強度/標準試料積分強度から検量線を用いて結晶化度を算出する。
【0037】
また、本発明の結晶化ガラスにおいて、研磨加工時における良好な表面平滑性を得るために析出結晶の平均粒径は80nmを超えないことが好ましく、粒径の標準偏差は20nmを超えないことが好ましい。
【0038】
次に、本発明の結晶化ガラスは以下の方法により製造する。まずガラス原料を秤量、調合し、坩堝などに入れ、約1500℃〜1600℃で溶融し、ガラス融液を得る。
その後、ガラス融液を、金型に鋳込む、および/または熱間成形等の操作により、所望の形状に成形し徐冷して原ガラスを得る。
【0039】
次に、結晶化ための熱処理を行う。結晶化のための熱処理は好ましくは核形成工程と核成長工程に分けられる。核形成工程は原ガラスのTgに対して+10℃から+50℃の範囲の温度で、より好ましくは+15℃から+45℃の温度、最も好ましくは+20℃から+40℃で原ガラスを保持する。核形成工程では前記範囲の温度で20〜100時間、より好ましくは30〜80時間、最も好ましくは35〜65時間保持する。
【0040】
核形成工程後、核成長工程を行う。核成長工程は原ガラスのTgに対して+50℃から+110℃の範囲の温度で、より好ましくは+55℃から+90℃の温度、最も好ましくは+60℃から+80℃で原ガラスを保持する。核成長工程では前記範囲の温度で40〜400時間、より好ましくは45〜250時間、最も好ましくは50〜150時間保持する。
核成長工程の保持温度は核形成工程の保持温度より高いことが好ましい。
【0041】
核形成工程および核成長工程の前後には昇温工程または降温工程がある。通常、室温からスタートし、昇温工程、核形成工程、昇温工程、核成長工程、降温工程を経て室温まで徐冷されることが好ましい。
上記の熱処理を行うことによって、結晶化ガラスの結晶化前後の屈折率ndの変化量を所望のものとすることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0043】
酸化物基準の質量%で表1に記載の組成となるように原料として酸化物、炭酸塩あるいは硝酸塩等の原料を混合し、これを通常の溶解装置を用いて約1450〜1550℃の温度で溶解し攪拌均質化した後、成形、冷却しガラス成形体(原ガラス)を得た。
【0044】
得られたガラス成形体を、表1に記載の条件で結晶化し、結晶化ガラスを作製した。
得られた結晶化ガラスはβ−石英およびβ−石英固溶体が析出しており、この時の平均結晶粒径、結晶粒径分布、結晶化度、原ガラスのTg、原ガラスの屈折率nd、結晶化ガラスの屈折率nd、結晶化前後の屈折率の変化量|nd−nd|、0℃から50℃における平均線膨張係数α0℃から50℃の温度範囲内でのΔL/L−温度曲線の最大値−最小値を表1に示す。
なお、平均結晶粒径、結晶粒径分布はTEMにより得られた画像から無作為に選んだ30個の結晶の最大幅を測定して算出した。平均結晶粒径はこれらの個数基準の平均値であり、結晶粒径分布は標準偏差である。
【0045】
平均線膨張係数はフィゾー干渉式精密膨張率測定装置を用いて測定した。測定試料の形状は直径6mm、長さ約80mmの円柱状である。測定方法として、この試料の両端に光学平面板を接触させ、He−Neレーザーによる干渉縞が観察できるようにし、温度コントロール可能な炉に入れる。次に測定試料の温度を変化させ、干渉縞の変化を観察することによって、温度による測定試料長さの変化量を測定する。本発明においては、0℃から50℃の温度範囲において0.5℃・min−1で昇温あるいは降温させ、5秒毎に測定試料長さの変化量をプロットし、さらに5次の近似曲線を描いたうえで、0℃から50℃における平均線膨張係数および0℃から50℃の温度範囲内でのΔL/Lの最大値−最小値を算出した。なお、平均線膨張係数およびΔL/L−温度曲線の最大値−最小値はいずれも昇温時と降温時の平均値である。
【0046】
図1には本発明の実施例のΔL/L−温度グラフであり、図2は本発明の実施例のdCTE/dT−温度グラフである。
これによれば、いずれの実施例も所望の平均線膨張係数α、ΔL/L−温度曲線およびdCTE/dT−温度曲線が得られており、特に実施例1及び2においては平均線膨張係数、ΔL/L−温度曲線およびdCTE/dT−温度曲線が極めて零に近いことが分かる。










【0047】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−石英及び/又はβ−石英固溶体を含み、結晶化前後における屈折率ndの変化量が0.04以下である結晶化ガラス。
【請求項2】
結晶化度が85wt%以下である請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
0℃〜50℃における平均線膨張係数の値が0.0±0.2×10−7/℃である請求項1または2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
0℃〜50℃の温度範囲におけるΔL/Lの最大値−最小値の絶対値が10×10−7以下である請求項1から3のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が0±1.5ppb・℃−2の範囲内であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項6】
酸化物基準の質量%で、
SiO47〜65%、
Al17〜29%、
LiO 1〜8%、
の各成分を含有する請求項1から5のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項7】
酸化物基準の質量%で、
1〜13%、
MgO 0.1〜5%、
ZnO 0.1〜5.5%、
TiO1〜7%、
ZrO1〜7%
の範囲の各成分を含有する請求項1から6のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項8】
酸化物基準の質量%で、
NaO 0〜4%、及び/又は
O 0〜4%、及び/又は
CaO 0〜7%、及び/又は
BaO 0〜7%、及び/又は
SrO 0〜4%、及び/又は
As0〜2%、及び/又は
Sb0〜2%、
の範囲の各成分を含有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項9】
酸化物基準の質量%で、
SiO+Al+P=65.0〜93.0%であり、
とSiOの質量百分率の比、
とAlの質量百分率の比がそれぞれ、
/SiO=0.02〜0.200、
/Al=0.059〜0.448、
であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の結晶化ガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−73935(P2011−73935A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228354(P2009−228354)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】