説明

結晶化可能ポリエーテルイミド類とその製造方法および同材料から誘導される物品

記載される組成物は、(a)96.8モル%を超える、4,4’−ビスフェノールA二無水物またはその化学的等価物を含む二無水物成分と、(b)ジアミンまたはその化学的等価物を含むジアミン成分と、の重合から誘導される結晶化可能なポリエーテルイミドを含んでおり、前記結晶化可能なポリエーテルイミドのTは250℃〜400℃であり、前記組成物の前記TとTとの差は50℃を超えている。さらに、該組成物から製造される繊維などの物品、該組成物の製造方法、該物品の製造方法および該物品の利用方法が記載される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本開示は、結晶化可能なポリエーテルイミド類とその製造方法および同材料から誘導される繊維とその他の物品における利用に関する。
【0002】
ポリエーテルイミド類は、熱安定性や耐溶剤性などの有利な特性によって特徴付けられる既知のポリマー種である。ポリエーテルイミド類は、特に、その高い難燃性、良好な耐薬品性および高ガラス転移温度(T)により繊維製造に有用である。広範に使用されている2つのポリエーテルイミド類は、芳香族エーテル二無水物であるビスフェノールA二無水物(BPADA)と、芳香族ジアミンであるメタ−またはパラ−フェニルジアミン(mPD、pPD)との反応から誘導される単位を含んでいる。出来たポリエーテルイミド類は、例えば、SABIC Innovative Plastics社からULTEM(R)1000およびULTEM(R) CRS5001として販売されている。
【0003】
それらの意図した目的には好適ではあるものの、例えば紡糸や延伸プロセスで配向されて、結晶ドメインを形成する溶融加工可能なポリエーテルイミドが当分野では求められている。結晶ドメインは、融点(T)未満でT近傍の温度に暴露されると、ポリマー鎖配向を保持させ得る物理的架橋として作用する。従って、半結晶性繊維は、ポリマーのTとT間の温度において良好な機械的特性(高いポリマー鎖配向による)と良好な寸法安定性とを有することができる。溶融加工性は、溶媒ベースの繊維製造操作の必要性を最小化するもう一つの望ましい特性である。
【0004】
商業生産や繊維製造操作での使用に適応可能な、溶融結晶化可能なポリエーテルイミド類の調製は、多くの要因によって困難である。第1に、多くの既知の半結晶性ポリエーテルイミド類の融点は400℃を超えており、そのために繊維製造には多くの困難が生じている。そうした高温を取り扱える、典型的な溶融紡糸繊維装置は限られており、また、ポリエーテルイミド類は熱的にはかなり安定であるものの、そうした安定性も、一般的には実質的に400℃を超える温度には及ばない。従って、約400℃を超えるT値は繊維製造操作には好適ではない。また、約400℃未満のTが求められていることと相俟って、多くのポリエーテルイミド類が高いTを有している(それは多くの用途で望ましいものではあるものの)ために、実際に適用される場合には溶融状態から結晶化への反応速度を遅らせ得る。
【0005】
BPADAとpPDとから誘導される繰り返し単位(BPADA−pPD)を含むポリエーテルイミドポリマー類は、特定の溶媒類に暴露されれば結晶化するものの、溶融状態から容易には結晶化しない。従って、溶融加工が可能で結晶化可能なポリエーテルイミド類、特に半結晶性ポリエーテルイミド繊維類の代替製造方法が当分野では求められている。
【発明の開示】
【0006】
ある実施形態では、結晶化可能なポリエーテルイミド組成物は、(a)96.8モル%を超える、4,4’−ビスフェノールA二無水物またはその化学的等価物を含む二無水物成分と、(b)ジアミンまたはその化学的等価物を含むジアミン成分と、の重合から誘導され、前記結晶化可能なポリエーテルイミドのTは250℃〜400℃であり、前記組成物の前記TとTとの差は50℃を超えることを特徴とする。
【0007】
別の実施形態では、繊維は、(a)96.8モル%を超える、4,4’−ビスフェノールA二無水物またはその化学的等価物を含む二無水物成分と、(b)ジアミンまたはその化学的等価物を含むジアミン成分と、の重合から誘導される結晶ポリエーテルイミド組成物と、を含み、前記繊維のTは250℃〜400℃であり、前記繊維の前記TとTとの差は50℃を超えることを特徴とする。
【0008】
別の実施形態では、繊維の製造方法は、96.8モル%を超える、(a)4,4’−ビスフェノールA二無水物またはその化学的等価物を含む二無水物成分と、(b)ジアミンまたはその化学的等価物を含むジアミン成分と、の重合から誘導される結晶化可能なポリエーテルイミド組成物であって、前記結晶化可能ポリエーテルイミドのTは250℃〜400℃であり、前記組成物の前記TとTとの差は50℃を超えることを特徴とするポリエーテルイミド組成物を、繊維製造に十分な条件下でオリフィスから押出すステップを含んでいる。
【0009】
さらに別の実施形態では、物品は上記の繊維を含んでいる。
【0010】
以下の図、発明を実施するための最良の形態および実施例で本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例16〜19の紡糸した状態での繊維の示差走査熱量測定におけるサーモグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、ビスフェノールA二無水物の特定の異性体とパラ−フェニレンジアミンとを用いて、紡糸、延伸およびまたは紡糸後の熱処理後に、結晶化可能なポリエーテルイミド類が形成できることを思いがけず見出した。該ビスフェノールA二無水物は、96.8モル%を超える4,4’−ビスフェノールA二無水物を含んでおり、該組成物は5モル%未満のメタ−フェニレンジアミンを含んでいる。予期しない特長として、典型的な繊維製造操作で達成されるような高いポリマー鎖配向条件下でのみ、溶融状態からの結晶化が起こることを見出した。非配向条件下では、前記4,4’−BPADA−pPDポリマー類は、その高い異性体純度にもかかわらず、溶融状態から容易には結晶化しない。該ポリエーテルイミド類は優れた物性、特に、良好な引張強度、低熱風収縮および良好な溶融加工性を有していることがわかった。
【0013】
繊維用および繊維を含有する物品用の、結晶化可能なポリエーテルイミド類を本明細書および添付の特許請求の範囲で用いるので、多くの用語について以下の意味を有するものと定義する。単数表現はそうでないことが明記されていない限り複数も包含する。本明細書で用いられる技術用語および科学用語は、そうでないことが明記されていない限り、当業者に共通的に理解されている意味と同じ意味を有する。化合物は標準名称法に従って記載する。
【0014】
作用例を除き、あるいは別途明示がある場合を除き、明細書および請求項で用いられている成分量や反応条件等を表す数字や表現は、すべての場合について「約」という用語で修飾されるものと理解されたい。用語「それらの組み合わせ」は、リストアップされた成分の1つ以上がリストアップされていない1つ以上の同様な成分と共に選択的に存在することを意味する。本特許出願には種々の数値範囲が開示されている。これらの範囲は連続しているため、最小値と最大値間のすべての数値を含む。別途明示がある場合を除き、本出願で明記されたこうした様々な数値範囲は近似である。同じ成分あるいは特性に対するすべての範囲の終了点は包含されており、また独立に組み合わせ可能である。
【0015】
「繊維」とは、その直径に対して長さが非常に長いストランドまたはフィラメントを指す。
【0016】
別途明記した場合を除き、ASTM試験およびデータはすべて、ASTM標準1991年度版からのものである。
【0017】
「ガラス転移温度」(T)は、ガラス転移が生じる温度範囲のほぼ中点温度を指す。Tは(融点のようには)明確でなく、温度に伴う比体積あるいは、電気的または機械的特性の変化率などの、温度上昇に伴う二次的特性の変化で検出される。また、観測されたTは、検出のために選択された特定の物性とともに、また、加熱速度や電気周波数などの実験詳細によっても大きく変化する。従って、報告したTは推定値と考えるべきである。最も信頼性の高い推定値は通常、動的な機械的試験における最大損失あるいは膨張計のデータから得られる。本発明の目的のために、示差走査熱量測定(DSC)トレースの変曲からガラス転移温度を決定した。
【0018】
DSC熱流量トレースから組成物の「融点」(T)を測定した。融点はここでは、DSCトレースにおける融解吸熱最大値に対応する温度を指す。加工履歴に応じて複数の融解吸熱が観測される場合もある。その場合には、用語融点は最高吸熱温度の最大値を指す。
【0019】
「溶融粘度」は、せん断応力を流動材料の任意の点のせん断速度で割った商として定量化される、溶融樹脂のせん断抵抗性である。押出品の延伸に関わる伸長粘度も同様に定義付けられる。ポリマーにおいては、該粘度は温度と、強くはないものの圧力とだけに依存するのではなく、せん断速度にも依存する。本開示の目的から、ASTM D3835に準拠して毛管レオメータにより、あるいは平行板レオメータにより、温度400℃で溶融粘度を求める。
【0020】
本明細書では、用語「結晶化可能な」とは、本発明の組成物から紡糸された繊維が、延伸後または温度200〜300℃×20分間以下の熱処理後に結晶化し(少なくとも1つのTを示す)、融解エンタルピが少なくとも10J/gであることを意味する。
【0021】
本明細書では、「結晶性」あるいは「半結晶性」ポリマーとは、該ポリマーが完全にまたは部分的に結晶性であるか、あるいはポリマー質量中の非晶質ドメイン内に実質的な大きさを有する結晶性ドメインが存在することを意味する。本開示の目的のために、ポリマーに融点Tがあり融解吸熱を示せば、該ポリマーは結晶性あるいは半結晶性と考える。
【0022】
「引張強度」とは、特定の温度、特定の引張速度で試験片を両端部から引張った時の保持した名目上の最大応力である。該名目上の最大応力が降伏点で起こった場合は、降伏点引張強度とされる。破断点で起こった場合は破断引張強度とされる。繊維の引張強度はASTM標準D2256−97に準拠して測定し、その値をパスカル単位(N/m)あるいはデニール当たりのグラム重量(gpd)単位で表した。
【0023】
以下の議論は、開示したポリマー組成物の繰り返しサブユニットの形成に使用される反応やモノマーに関して限定することを意図したものではない。化学物質部分の構造単位が前躯体部分「から誘導される」と言及される場合、前記化学物質部分の製造に使用され得る実際の化学反応に関する限定を暗示するものではない。例えば、ポリエーテルイミドなどの化学物質部分が、二無水物とジアミンとの重合「から誘導された」構造単位を有すると言及される場合、二無水物とジアミンとの反応、あるいはフェノキシド種と置換可能な基を持つイミド間の置換反応、あるいは他の既知の方法を含めて、任意の既知等価物あるいは方法を用いて前記ポリエーテルイミドを調製することができ、前記誘導された化学物質部分が言及された前躯体部分に、代表され得る構造単位を含んでいることだけが求められる。
【0024】
前記結晶化可能なポリエーテルイミド類は式(1)の繰り返し構造単位を含んでいる。
【0025】
【化1】

【0026】
式中、ArはC6−36二価芳香族基である。ある実施形態では、前記C6−36二価芳香族基にはヘテロ原子類が含まれる。繰り返し構造単位(1)の標識化された環位置で示されるように、ビスフェノールA部分の酸素は、2つのフタリル芳香環の4および4’位置に結合している。従って、繰り返し単位(1)は、ポリエーテルイミドの4,4’−異性体である。ある実施形態では、前記結晶化可能なポリエーテルイミドは、本質的に式(1)の繰り返し構造単位から構成される。すなわち、ポリエーテルイミドの結晶化特性に著しく悪影響を与えるその他のポリエーテルイミド構造単位は含まれていない。別の実施形態では、前記結晶化可能なポリエーテルイミドは、式(1)の繰り返し構造単位から構成される。つまり、他の種類の構造単位は含まれていない。
【0027】
特定の実施形態では、前記結晶化可能なポリエーテルイミド類は、式(1a)の繰り返し構造単位を含んでいる。
【0028】
【化2】

【0029】
式(1)の化合物に言及する下記議論においては、具体的に式(1a)の化合物も包含されることは理解されるであろう。
【0030】
繰り返し単位(1)で表される結晶化可能なポリエーテルイミド類は、96.8モル%を超える、より具体的には97モル%を超える、最も具体的には98モル%以上の異性体純度を有している。言いかえれば、該ポリマー中の異性体混合物は96.8モル%を越える量の、繰り返し単位(1)で表される4,4’−異性体を含んでいる。また、高融点でありながら溶融加工可能なこれらのポリエーテルイミド類は、本明細書で説明するような好適な方法により結晶化されると、そのTは250℃〜400℃であり、TとTの差は50℃を超える。
【0031】
理論に拘束されることなく、結晶化可能なポリエーテルイミド類の異性体純度は、本明細書で説明するような紡糸、延伸およびまたは熱処理後などの配向条件下(高度のポリマー鎖配向を有する)での結晶化を促進すると考えられる。しかしながら、異性体純度だけで結晶化特性を十分に予測することはできない。ジアミンの選択も結晶化に影響を与える。
【0032】
ある実施形態では、結晶化可能なポリエーテルイミド類は、4,4’−BPADA成分またはその化学的等価物と、ジアミン成分またはその化学的等価物と、の重合から誘導される。
【0033】
繰り返し構造単位(2)の標識化された環位置で示されるように、
【0034】
【化3】

【0035】
ビスフェノールA部分の酸素は、2つのフタリル芳香環の4および4’の位置に結合している。従って、繰り返し単位(2)はBPADAの4,4’−異性体である。BPADA中の異性体混合物は96.8モル%を越える量の、構造単位(2)で表される4,4’−異性体を含んでいる。
【0036】
4,4’−ビスフェノールA二無水物の化学的等価物には、例えば、対応するカルボン酸類、C1−4アルキルまたはC6−1−アリールエステル類、ハロゲン化物類、アミド類、イミド類、ニトリル類、混合無水物類およびハロホルマート類などが含まれる。混合エステル類、混合アミド類、混合イミド類、混合エステルイミド類、混合エステルアミド類、カルボン酸のアミン塩類などや、あるいは前述の官能基類の組み合わせも用いられる。
【0037】
前記4,4’−ビスフェノールA二無水物(4,4’−BPADA)は既知の方法によって調製できる。例えば、4−ニトロフタルイミドまたは4−ニトロフタロニトリルを4,4’−ビスフェノールAのジナトリウム塩と反応させ、生成したビスイミドまたはテトラニトリルをテトラカルボン酸(3)に加水分解させ、
【0038】
【化4】

【0039】
さらに二無水物(2)に凝縮させる。該4,4’−ビスフェノールA二無水物成分中の異性体不純物は、モノマーの製造から生じる場合がある。例えば、4,4’−ビスフェノールA二無水物(2)は、式(4)のビス(N−メチルフタルイミド(BPABIとも呼ばれる)と無水フタル酸との交換反応から調製できる。
【0040】
【化5】

【0041】
前記ビスイミド出発原料(4)が3,4’−異性体およびまたは3,3’−異性体を含んでいれば、4,4’−BPADAには、式(5)の3,4’−ビスフェノールA二無水物(3,4’−BPADA)、
【0042】
【化6】

【0043】
およびまたは式(6)の3,3’−ビスフェノールA二無水物(3,3’−BPADA)も含まれるであろう。
【0044】
【化7】

【0045】
または、あるいはさらに、前記交換反応が終了に至らない場合には、該4,4’−BPADA成分には式(7)のモノイミド
【0046】
【化8】

【0047】
およびまたは式(4)の出発ビスイミドがいくらか含まれ得る。
【0048】
前記4,4’−ビスフェノールA誘導成分中の、特に二無水物中の4,4’−異性体、3,4’−異性体および3,3’−異性体のモル比、あるいは、モノイミド(7)およびまたは出発ビスイミド(4)などの他の不純物の存在は、核磁気共鳴(NMR)およびまたは高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)などの種々の方法によって容易に決定できる。異性体類および他の不純物は、既知の種々の方法から任意の方法を用いて同様に分離し精製できる。
【0049】
二無水物(2)と反応させるジアミン成分には、例えば、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、1,5−ジアミノナフタレン、ビス(4−アミノフェニル)メタン、ビス(4−アミノフェニル)プロパン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(4,4’−メチレンジアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−オキシジアニリン)、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’ジメチルベンジジン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,2’,3,3’−テトラヒドロ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビ[1H−インデン]−6,6’−ジアミン、3,3’,4,4’−テトラヒドロ−4,4,4’,4’−テトラメチル−2,2’−スピロビ[2H−1−ベンゾピラン]−7,7’−ジアミン、1,1’−ビス[1−アミノ−2−メチル−4−フェニル]シクロヘキサン、4,3’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、これらの異性体類および前述のジアミン類の少なくとも1つを含む組み合わせなどが含まれる。ある実施形態では、前記ジアミン成分にはp−フェニレンジアミン(pPD)が含まれる。別の実施形態では、前記ジアミン成分は本質的にp−フェニレンジアミンから構成される。別の実施形態では、前記ジアミン成分はp−フェニレンジアミンから構成される。すなわち、他のジアミンは含まれない。
【0050】
前記ジアミン成分がp−フェニレンジアミン(pPD)の場合、メタ−フェニレンジアミン(mPD)の量は5モル%未満、具体的には2モル%未満、より具体的には1モル%未満である。ある実施形態では、ジアミン成分は実質的にメタ−フェニレンジアミンを含まない。用語「実質的に含まない」とは、メタ−フェニレンジアミンの量がアミンの全重量の0.5モル%未満であることを意味する。ジアミンの化学的等価物には対応する塩類あるいはイソシアネート類が含まれる。
【0051】
結晶化可能なポリエーテルイミド類は、溶液重合(例えば125〜200℃)あるいは溶融重合(例えば200〜350℃)で調製できる。ジアミン成分と4,4’−二無水物モノマーとのモル比は通常、約0.90:1と約1.1:1の間である。
【0052】
溶融粘度が不都合に高くなることを避けるために、無水フタル酸(PA)やアニリンなどの末端キャッピング剤の使用が好ましいものであり得る。こうした末端キャッピング剤が存在する場合、その量は典型的には全モノマーの約0.2〜10モルパーセントである。
【0053】
末端キャッピング剤は、任意の組み合わせの1〜4個の「R」置換基を有する下記一般式の一無水物を含んでおり、
【0054】
【化9】

【0055】
その一無水物の中には、C1−36アルキル、C1−36アルコキシ、芳香族、ハロ、ニトロ、スルホン、チオエーテル、エステル、酸、スルホネート、カルボニル、ケトンあるいは水素などが含まれる。具体的には、無水フタル酸、3−クロロフタル酸無水物、4−クロロフタル酸無水物、3−フルオロフタル酸無水物、4−フルオロフタル酸無水物、3−ニトロフタル酸無水物、4−ニトロフタル酸無水物などが含まれる。末端キャッピング剤には、一般構造HN−Rの第1級アミン種も含まれ得る。式中、「R」は、C1−36アルキル、アルコキシ、フェニルなどの芳香族基、スルホン、ケトン、カルボン酸およびその塩類、芳香族酸類およびその塩類、およびチオエーテル類である。具体的には、アニリン、オクチルアミン、ヘキシルアミン、エタノールアミンおよびタウリンなどが含まれる。
【0056】
前記結晶化可能なポリエーテルイミド類は、第1段階をポリアミド酸の形成、第2段階を該ポリアミド酸のイミド化とする2段階プロセスでも調製できる。該第1段階は典型的にはヒドロキシ芳香族溶媒でもよいが、多くの場合、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、ベラトロール、ニトロベンゼン、シアノベンゼン、ジエチルエーテル、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンあるいは他のハロゲン化芳香族などの極性有機化合物中で、あるいはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、m−クレゾールあるいはN−メチルピロリドンなどの二極性非プロトン性溶媒中で、温度25℃〜180℃で行われる。第2段階では、典型的には180℃〜375℃で実質的に溶媒が存在しない条件で加熱させて、ポリアミド酸をポリイミドに転換する。
【0057】
該結晶化可能なポリエーテルイミド類は耐溶媒溶解性が高い。一般に、こうしたポリエーテルイミド類は、m−クレゾール、ヘキサフルオロイソプロパノールおよびo−クロロフェノールなどのヒドロキシ芳香族溶媒だけに、それも多くの場合高温でのみ、かなりの量溶解する。前記したように、T値は270℃、特に280°Cより大きい。
【0058】
繊維の種々の特性を制御するために、該結晶化可能なポリエーテルイミド類を含む組成物には、繊維紡糸プロセス前またはそのプロセスの間に、安定剤、可塑剤、および顔料、または染料などの添加剤を従来量含有させることができる。
【0059】
溶解加工可能な4,4’−ポリマーに添加されるその他の添加剤としては、ホスファイト、ホスホナイトおよびヒンダードフェノールなどの酸化防止剤がある。リン酸や亜リン酸、トリアリールホスファイトおよびアリールホスホネートなどのリン含有安定剤は有用な添加剤として注目される。二官能性リン含有化合物も使用できる。分子量が300ドルトン以上の安定剤は特に有用である。他の例では、分子量が500ダルトン以上のリン含有安定剤が有用な場合もある。リン含有安定剤の該組成物中の量は該処方の0.05〜0.5重量%とすることができる。光安定剤およびUV吸収剤も使用できる。
【0060】
該結晶化可能なポリエーテルイミド類は、処方に望ましい任意の添加剤を有する材料の緊密混合を含む種々の方法により、前記の成分と混合することができる。好適な手順としては、溶融混合および溶液混合がある。溶融加工方法に使用される装置としては、共回転および逆回転押出機、一軸スクリュ押出機、共混錬機、ディスクパック処理機および他の種々の押出装置などがある。
【0061】
添加剤は、繊維が実際に融解紡糸される前の個別配合ステップにおいて、あるいは繊維紡糸プロセスそのものの間に、多くの方法で配合される。前記の個別配合プロセスおよび繊維紡糸プロセスとも、ポリマー配合および繊維溶融紡糸分野における当業者に周知の技術と装置を用いて行うことができる。
【0062】
繊維の引張強度と耐熱風収縮に対して十分な改良を達成するために、繊維の製造方法は、繊維製造に十分な条件下でオリフィスから溶融ポリエーテルイミドを押出すステップと、前記紡糸中、あるいは、部分的な結晶化を引き起こす場合もあり得る選択的な延伸プロセス中に、前記ポリマーを十分に配向させるステップと、を含む。高いポリマー鎖配向度を有する生成繊維をさらに熱処理して、結晶化を誘発もしくは増大させて高温暴露下での寸法安定性を改善させている。結晶化した繊維はその後、例えばより糸やヤーンなどの製造にすぐに使用できる状態となる。より糸やヤーンは、布地織りプロセスやフェルト製造あるいはその他の広範な種類の織物に使用できる。
【0063】
具体的には、繊維の製造方法は、(a)96.8モル%を超える、4,4’−ビスフェノールA二無水物またはその化学的等価物を含む二無水物成分と、(b)ジアミンまたはその化学的等価物を含むジアミン成分と、の重合から誘導される結晶化可能なポリエーテルイミド組成物であって、前記結晶化可能ポリエーテルイミドのTは250℃〜400℃であり、前記組成物の前記TとTとの差は50℃を超え、具体的には50〜150℃、さらにより具体的には50〜100℃であることを特徴とするポリエーテルイミド組成物を、少なくとも1本の繊維製造に十分な条件下でオリフィスから押出すステップを含んでいる。ある実施形態では、繊維の製造方法は、前述の複数の繊維を組合せてヤーンを作るステップと、次に前記繊維を織って布地を製造するステップと、を含む。
【0064】
最適な延伸速度は、ポリマー、延伸温度、応力速度、初期直径および任意の添加材の存在などの正確な性質に応じて変わってくるだろう。延伸比は、延伸プロセスで生成されるヤーンの単位重量当たりの最終長さと初期長さとの比として定義される。延伸比は1.05:10あるいは20が好適であるが、この場合には、1.1:6がより好適である。
【0065】
繊維延伸は、当分野で既知の任意の標準的な方法で達成できる。繊維は、2つのゴデットロール間またはロールセット間、あるいは延伸ピン上または延伸ピン間、ホットプレート間、あるいはこれらの組み合わせで延伸される。延伸は単一または複数のステージで行われる。繊維は通常、延伸前または延伸中にガラス転移温度を超える温度に加熱されてポリマー鎖の動きと配向を容易にする。加熱は、ゴデットロール、プレート、ピンの加熱により、あるいは加熱チャンバを用いるなどのその他の手段により行なうことができる。蒸気などの高温のガスや高温の液体も使用できる。
【0066】
良好な引張強度と耐熱風収縮のための適切な結晶化レベルを達成するために、本明細書で説明する4,4’−BPADAベースのポリエーテルイミド類を含む繊維は一般に、紡糸およびまたは延伸後に熱処理(望ましくは拘束状態で)を必要とする。熱処理の時間/温度条件は、ポリマー中の異性体純度レベル、繊維中のポリマー鎖の配向度および熱処理温度に応じて、温度200℃〜300℃において、0分(すなわち、繊維は紡糸した状態で結晶化しているであろう)から20分まで変えられる。
【0067】
別の実施形態では、本明細書で説明する4,4’−BPADAベースのポリエーテルイミド類を含む繊維は、異性体純度と配向が最適な条件では、紡糸および選択的に延伸ステップにかけられた後の熱処理を必要としない。
【0068】
ポリマー中の前記4,4’−異性体の異性体純度が高いために、典型的な繊維製造操作で達成されるようなポリマー鎖配向が高い条件下では、前記結晶化可能なポリエーテルイミド類の結晶化は容易になる。非配向条件下では、前記結晶化可能なポリエーテルイミド類は、高い異性体純度を有しているだけでは溶融状態から容易には結晶化しない。結晶化を達成するためには、正しいモノマー種類、純度および高い配向性が組み合わされていることが重要である。
【0069】
前記結晶化可能なポリエーテルイミド類は、当業界で通常用いられている温度で溶融加工できるために特に有用である。例えば、該結晶化可能なポリエーテルイミド類の粘度は、温度400℃以下において、具体的には温度300℃〜400℃において、7,000ポイズ未満に、具体的には1,000〜5,000ポイズとすることができる。
【0070】
前記結晶化可能なポリエーテルイミド類によって、いくつかの有利な特性を有する繊維が得られる。ある実施形態では、該繊維の引張強度は2〜20g/デニールである。
【0071】
さらに前記繊維は、熱風や高温液体などの熱暴露時の収縮を非常に小さくすることができる。例えば、温度260℃の熱風に10分間暴露時の繊維の熱風収縮は20%以下である。
【0072】
本明細書での説明通りに製造した繊維は、繊維の最終用途に応じた繊度範囲、すなわち、フィラメント当たりのデニール(dpf)を持つものにできる。例えば、布地用途に対しては低dpfとし、工業用途に対しては高dpfとするなどである。該繊維の断面形状も、円形、三角形、三裂状、四裂状、溝状あるいは不規則状などの広範な可能性ある形状の内任意の形状とすることができる。
【0073】
製品となる繊維は、クリンピング、バルキングおよびツィスティングなどの、溶融紡糸繊維に通常行われる任意の既知の後工程プロセスにかけて、織布や不織布、フェルトなど複数の製造繊維を含む種々の物品に好適に組み込まれるヤーンまたは短繊維を製造できる。
【0074】
前記繊維は例えば、ろ材として、また衣料品では安全服、防護服として、また、工業用布地、室内用装飾品、カーペットおよび、タイヤやその他の組成物の補強材として広範な用途に利用できる。上記の通り、結晶化可能なポリエーテルイミドは、溶融加工、特に業界で通常使用される温度での溶融加工を可能にするという有利さを有する。また、結晶性が高められたことによって、繊維の生産性向上も容易にする。上記のように、本明細書で用いる用語「結晶化可能な」とは、本発明の組成物から紡糸された繊維が、延伸後または温度200〜300℃×20分間以下の熱処理後に結晶化し(少なくとも1つのTを示す)、融解エンタルピが少なくとも10J/gであることを意味する。別の実施形態では、本発明の組成物から紡糸された繊維は10分以内に結晶化する。別の実施形態では、本発明の組成物から紡糸された繊維は5分以内に結晶化する。別の実施形態では、本発明の組成物から紡糸された繊維は、4分、3分、2分あるいは1分以内に結晶化する。
【0075】
結晶化可能なポリエーテルイミド類の特長と利点について以下の実施例によりさらに説明する。
(実施例)
【0076】
【表1】

【0077】
(技術と手順)
(手順1a:NMRによるBPADAの異性体純度)
異性体純度とは、本明細書で説明したポリエーテルイミド類分子のBPADA部分における、4,4’−結合対3,4’−および3,3’−結合の割合(モル%)を指す。NMRを用いて純度を測定した。
【0078】
すべてのBPADAモノマーサンプルを減圧下で一晩200℃以上で溶解させた後、核磁気共鳴(NMR)による分析を行った。この加熱ステップにより、無水物または二無水物の改質によって残余の二酸および四酸加水分解生成物を効率的に減少させた。このことは、CDClにおける溶解性の向上や溶液の濁度減少によって確認される。さらに、13C NMRによって、低磁場領域に如何なる酸も残っていないことが確認された。すべてのBPADAサンプルをCDClに溶解させた。いずれの場合も、200mgのBPADAモノマーを溶媒約3.5mLに溶解させ、10mmのNMRチューブに充填してカラム高さを50mmとした。13Cに対して150.8MHz、Hに対して599.8MHzで操作して、Varian Inova NMRスペクトロメータでスペクトルを得た。スイープ幅を36.2KHz、データポイント数を64,000とし、データ取得時間は1.8秒であった。パルス遅延を調整してトータルのサイクル時間を4秒とした。スペクトルはすべて広帯域Waltz−16プロトンデカップリングで取得した(これによって、一部の高ダイナミックレンジスペクトル中の側波帯をデカップリングできる)。数としては、16,000の過渡現象を収集したために、合計のデータ取得時間は約17.5時間であった。2Hzの線幅拡大、自動相調整および0.1度の多項式ベースライン補正が可能な社内で開発した処理ツールを用いてデータ処理を行った。
【0079】
カルボニル領域を積分してBPADAモノマー類の純度を算出した。163.9ppmのカルボニルピークを用いて、162.8ppmの主要二無水物ピーク(100に設定)に対する3,4’二無水物の量を算出した。168.4ppmおよび168.3ppm(両方とも2つに分割したイミドカルボニル)のピークも162.8ppmのピークに対して積分し、そのうちの1つが4,4’−BPADAに対するピークである。
【0080】
(手順1b:HPLCによるBPADAの異性体純度)
精製BPADAのサンプルをアルミ製の鍋(表面温度300℃)に15分間入れて融解した。融解した材料のサンプル20mg(±3mg)を、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、イソ−オクタンおよび氷酢酸(それぞれ43.74体積%、15.25体積%、41.00体積%、0.01体積%)の混合物50mLに溶解した。超音波処理を15分間行ってサンプルの溶解を促進した。その後、該溶液を高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、4,4−BPADA、3,4−BPADAおよび3,3−BPADA異性体の量を求めた。HPLCプロトコルとしては、30℃のZorbax CNカラム(4.6mm×25cm)、注入量15uL、254nmでのUV検出、溶離液流量1mL/分、および72.5体積%のイソ−オクタンと27.5%のテトラヒドロフランから成る定組成溶媒混合物とした。分離した前記3つの異性体とそれらのピーク面積から各異性体の割合を求めた。
【0081】
(手順2 ポリマー合成:m−クレゾール溶媒)
窒素雰囲気下、m−クレゾール溶媒中で4,4−BPADAと、mPDまたはpPDを重合した。典型的な手順としては、50gの二無水物、10.9gのジアミンおよび1.44gの無水フタル酸末端キャッピング剤を秤量して、水分離器、自動攪拌器、窒素流入口および熱電対を備えた丸底フラスコに入れた。その後、m−クレゾールを添加して固形分が20重量%の混合物とした。反応混合物を200℃に加熱し、生成した水分をm−クレゾールとの共沸混合物として蒸留した。一定量の分子量をGPC測定して該反応をモニターした。前記ポリマー分子量が一定になった時点(約3時間)で加熱を中止した。激しく攪拌して反応混合物を室温まで冷却した。その後、約500mLのメタノールをバッチ式に(複数回に分けて)反応フラスコに添加して、生成した淡黄色粉末のポリマーを沈殿させた。その後、得られたポリマー、m−クレゾールおよびメタノールの混合物を実験用混合機に注いで約10分間激しく混合した。その後、黄色微粉のポリマーをろ過し、メタノールで複数回すすぎ洗いした後、減圧下200℃×10時間乾燥させた。
【0082】
バッチ量、使用したモノマーの純度および目標とする分子量に応じて、無水物、アミンおよび末端キャッピング剤の量を各組成毎に調整した。上記の量は、バッチ量が約60g、目標とする重合度が20であって、純度100%の4,4’−BPADAとの特定の合成の場合の代表値である。
【0083】
(手順3a ポリマー合成:o−DCB溶媒、少量)
典型的な手順では、オーバーヘッド攪拌器、窒素パージおよび水分離器を備えた500mLの3首丸底フラスコに、62.1434g(0.1198モル)のビスフェノールA二無水物(BPADA)を入れた。さらに、11.8234g(0.1093モル)のp−フェニレンジアミン、1.6326g(0.0175モル)のアニリンおよび125mLのo−ジクロロベンゼン(o−DCB)を該フラスコに添加した。二無水物、ジアミンおよび末端キャップのモル比および量を、モノマーの純度、バッチ量および目標とする分子量に応じて各組成毎に調整した。上記の量は、目標の重合度が20であって、純度100%の4,4’−BPADAとの特定の合成における代表値である。
【0084】
激しく攪拌しながら、外部温度制御オイルバスで前記反応物をまず120℃に加熱し30分間保持した。その後、温度を165℃に上げて30分間保持した。最後に、温度を185℃に上げて残りの反応の間保持した。185℃で1時間保持後に少量のサンプルが得られ、窒素パージしながら380℃の高温ブロックを用いて溶媒を除去した。該溶融ポリマーサンプルを次に室温まで冷却してフィルム状に押圧した。該フィルムをFTIRで分析して、残留アミンと無水物の割合をIRスペクトルから求めた。その分析から、残留アミンが0.370モル%、無水物が0.224モル%であることがわかった。0.0969gのBPADAを加えて化学量論の差を補正した。さらに1時間該反応を加熱後、室温まで冷却した。ポリマー沈殿を、減圧ろ過を行って収集し、180℃で一晩乾燥させた。乾燥後のポリマー中の残留溶媒含量は、ガスクロマトグラフィーで測定して123ppmであった。その後、高温の自動攪拌金属ボウル(Haake HBI System90)上で、温度330℃、攪拌速度50rpmで10分間該ポリマー粉末を溶融加工して該反応を終了させた。
【0085】
(手順3b ポリマー合成:o−DCB溶媒、大規模)
1788Lの蒸留o−DCBを室温の攪拌容器に入れた。その後、該容器を170℃に加熱して3時間保持し50℃未満に冷却した。681.8kgのビスフェノール−A−二無水物(4,4’−二無水物結合が98.5モル%のBPADA)と12.27kgのアニリンを前記容器に添加した。次に、該容器の蒸気空間を15分間窒素パージした。次に、133.2kgのp−フェニレンジアミン(pPD)を添加して該容器を170℃に加熱した。その温度を1時間保持した後、サンプルを収集して化学量論分析を行った。pPDを添加して一連の化学量論補正を行い、無水物が0.3モル%過剰であるという目標の化学量論を得た.その後、該容器の内容物を別の攪拌容器に移して50℃未満に冷却した。冷却後、800rpmで稼動する遠心分離機に該内容物をバッチ式に投入した。遠心分離機からの固形物を次に回転式減圧乾燥器にバッチ式に移し、固形分中のo−DCB含量をさらに低減させた。乾燥器からの固形分を次に、逆回転式の非噛合液化二軸スクリュ押出機に供給して溶融ポリマーストランドを生成し、水浴中で冷却してペレット化した。
【0086】
BPADAの異性体純度、バッチ量および目標とする分子量に応じて、BPADA、pPD、アニリンおよび溶媒の量をバッチごとに調整した。
【0087】
(手順4 GPCによる分子量決定)
オートサンプラーおよびUV可視光線検出器を備えたPerkin−Elmerシリーズ200ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)システムを用いて分子量を求めた。移動相としてクロロホルムを用いた。ポリスチレン標準を用いて前記GPCシステムのキャリブレーションを行った。データはまとめて、Perkin−Elmer Totalchromワークステーションを用いて処理した。ヘキサフルオロ−イソプロパノールとクロロホルム溶媒の1:1体積比混合物(ポリマー10mg/溶媒混合物1mL)に前記ポリマー粉末を溶解させた後、9mLのクロロホルムで希釈してポリマー1mg/溶媒1mL濃度とした。
【0088】
(手順5 平行板レオメータによる粘度決定)
Rheometrics RDAII平行板レオメータを用いて前記ポリマー溶融物の動粘度を求めた。ポリマー粉末またはペレットを減圧下、少なくとも150℃で一晩乾燥させた後、400℃に加熱した金型内で圧縮成形により25mmのディスクに成形した。該ディスクを冷却し再度乾燥させて分析にかけた。ギャップ2mm、回転数0.63rad/秒、歪み20%の条件で、25mmの平行板状を用いて粘度を測定した。複素粘度η(ポイズ)を報告する。
【0089】
(手順6 毛管レオメータによる粘度決定)
Goettfert2002毛管レオメータを用いて高せん断速度における粘度を求めた。該レオメータには1000barトランスデューサと長さ/直径比が30/1の1mm直径毛管とが備わっている。各操作でのせん断速度範囲を10〜10,000sec−1とした。特に明記がなければ、400℃で測定を行った。データはラビノビッチ補正も端圧力損失補正もしていないので、結果は見かけの粘度と見かけのせん断速度である。ここでは、見かけのせん断速度が1000s−1における400℃での見かけの粘度を報告する。
【0090】
(手順7 押出−DACAミクロ混合機)
DACAのミクロ混合機を用いて小規模の繊維押出(約20gのポリマーを使用)を行った。該混合機は、出口の口金が選択できる縦型の二軸スクリュ押出機である。この押出機のバレル容量は4.6mLであり、最高温度400℃が可能である。スクリュ速度(RPM)と、従ってその処理量は5rpm〜650rpmの範囲で調節できる。メーカによれば、溶融ポリマーを供給口から出口まで到達させるためには約25回転が必要である。
【0091】
すべてのポリマーを真空オーブンで、少なくとも150℃で一晩乾燥させた後に押出した。乾燥ポリマーを小型ホッパーから押出機に供給した。スクリュ速度で処理量を調整し、その速度を典型的には5rpmに設定した。バレル/溶融温度は370℃〜400℃の範囲で変化した。実際の押出温度は各実施例で報告する。スクリュの回転速度によって処理量は名目上調節されるが、押出品の実際の処理量または流量(g/分)は、ホッパーに供給する粉末のかさ密度、ポリマーの温度、従って溶融密度およびスクリュの回転に伴う周期的な変化などのその他の要因によって変わってくる。
【0092】
本作業の口金には0.5mmの毛管を用いた。該口金から水平に出るストランドを外気中で冷却(制御した急冷ではない)し、直径が8.8cmのゴデットロール上に取り出した。該ゴデットの速度は40〜5000rpm(つまり11〜1380m/分)の範囲で変えられる。ゴデットを口金出口から約100cmの距離に配置した。
【0093】
(手順8 押出−Killion押出機)
さらに大規模な押出用として、L/D比が20/1のスクリュを備えた19mmKillion一軸スクリュ押出機を用いた。該押出機は、押出機に流入するポリマー量を測定する重量検出方式フィーダを備えている。押出機からの溶融ポリマーはその後、流量測定用のZenith溶融ポンプを経由して下流側に供給されて、90°流路変更アダプターを通った後に紡糸口金に供給される。前記溶融ポンプの容量は1.8mL/回転(4rpmで約1ポンド/時あるいは約450g/時)であり、1/8馬力(93W)のDC駆動モーターで駆動した。紡糸口金は、0.7mmの孔(L/D比は5)を有する6穴の口金とした。
【0094】
口金を出たストランドは、口金出口から約100cmの位置に配置した無摩擦の糸車を通り、ゴデット/デニールロールから、最後はLeesonaの引張補償巻き取り機に導かれる。ゴデットの速度は40〜500rpm(11〜1380m/分)の範囲で変えられる。
【0095】
(手順9 繊維径/線密度測定)
通常は、単一のフィラメントが押出されるため、繊維の線密度は直径から求められる。分解能が1μmのMitutoyo製ディジタル式マイクロメータを用いて直径を測定した。精度保証のために、前記マイクロメータ測定値を光学顕微鏡測定値に対して修正した。
典型的には2〜3回直径を測定して平均した。
【0096】
(手順10 引張試験)
下記のパラメータと変数を有するASTM D2256−97に準拠して単一フィラメントおよびヤーンの引張特性試験を行った。単一フィラメント試験ではゲージ長さを2.5cmとし、マルチフィラメントヤーン試験ではその長さを17cmとした。単一フィラメント試験では、空気式の平面グリップを用いた。繊維滑りを防ぐために、細粒の紙やすりをグリップ面に貼付した。フレーム上に取り付けられた、1インチ(2.54cm)離れた2片の粘着紙テープ(マスキングテープ)間に該フィラメントを取り付けた。その片を別の層の粘着テープで被覆して繊維を挟み込んだ。次に、このテープ組み立て品を最小の予張力のグリップ上に取り付けた。
【0097】
マルチフィラメントヤーンの引張試験では、空気式ヤーングリップを用いた。該グリップは、摩擦によってグリップ力を曲線状の半キャプスタンの表面上に均等に分配するキャプスタン形状を有している。
【0098】
引張速度は5cm/分とした。典型的には、1測定当たり少なくとも4つのサンプルを測定した。
【0099】
(手順11 熱風収縮)
所望の温度を維持するために予熱された自然対流オーブン中に、20cm長さのフィラメントまたはヤーンを、金属クリップを通して拘束せずに吊るして熱風収縮を測定した。サンプルをオーブン内に10分間入れた後取り出し、その後冷却して測定した。初期長さと最終長さの差を初期長さで正規化して熱風収縮を求めた。1回の測定当たり、少なくとも3サンプルについて試験した。
【0100】
(手順12 DSCによるT、TおよびΔHの測定)
Perkin Elmer DSC−7示差走査熱量計を用いて、T、Tおよび融解エンタルピを求めた。第1の加熱ステップ(走査速度20℃/分で室温から400℃に加熱)のデータを用いた。融解エンタルピをベースライン減算後のピーク面積から求めた。Tは、熱流れと温度トレースにおける遷移の中間点とした。Tは、融解吸熱のピーク温度とした。複数の融解吸熱が見られる場合には、最も高温の吸熱のピーク温度をTとした。
【0101】
(手順13 拘束下での熱処理)
アニーリング/熱処理として、前記フィラメントまたはヤーンをアルミ管またはアルミフレーム周囲に巻き付けて、高温(ポリイミド)テープにより所定の場所に固定した。このように収縮を拘束した繊維をチューブ管またはフレームと共に、所望のアニーリング温度に予熱した自然対流式オーブン内に特定時間入れた。
【0102】
(手順14 高純度4−ニトロフタルイミド(4−NPI)を用いた4,4’−結合が豊富なBPADAの調製)
3−NPIの含有量が異なる4−NPIを、式1のN−メチルフタルイミド(PI)の混合酸のニトロ化で得た。
【0103】
【化10】

【0104】
98%硫酸中の1.3モル当量の硝酸でPIをニトロ化した。反応混合物を水中で希釈し、NPIを溶液から沈殿させた。沈殿物をろ過した後、水量を変えて洗浄した。該ケーキの水洗浄によって、4−NPI湿潤ケーキから選択的に3−NPIが除去できる。水洗浄を徹底して行うことによって、3−NPIの含有量が0.1%程度(NPIの全量に対して)と少ない4−NPIケーキが得られる。約0.5%の3−NPI、約0.8%の3−NPIおよび約1.85%の3−NPIを含有する材料が得られた。前記混合酸のニトロ化で得られる4−NPI中の3−NPIの通常の量は約4.0%である。
【0105】
3−NPIの含有量が異なる4−NPIをBPAジ−アルカリ金属塩と反応させて、対応するビスイミドを得た(式2)。
【0106】
【化11】

【0107】
相間移動触媒の存在下、3−および4−NPIは共に溶媒中のBPAジ−アルカリ金属塩と反応して、4−NPI中に存在する3−NPI(これらの異性体は式3に示されていない)の量で決定される統計的量の3−エーテル結合を有するビスイミドを生成した。
【0108】
その後、塩基の存在下、高温高圧化で前記ビスイミドを無水フタル酸と反応させて最終的にBPADAを得る(式3)。
【0109】
【化12】

【0110】
前記エーテル結合は交換反応では安定である。したがって、4−NPI/3−NPIの異性体比率によって、BPADA中のエーテル結合の異性体比率が決定される。
【0111】
4−NPIは、0.1〜4.0%の3−NPIを含有するN−メチルフタルイミドの混合酸ニトロ化によって製造できる。3−NPIの含有量が異なる4−NPIを用いることによって、表2に示す異性体純度を有するBPADAが得られる。特に、表2は、種々の量の3−NPIを含有する4−NPIから得られるBPADAの異性体純度を示す。
【0112】
【表2】

【0113】
次に、この方法では、1.85%の3−NPIを含有する4−NPIから最終的に、約96.3%の4,4−BPADAを含有するBPADAを得た。約0.8%の3−NPIを含有する4−NPIから、約98.5%の4,4−BPADAを含有するBPADAを得た。0.5%の3−NPIを含有する4−NPIから、約99.0%の4,4−BPADAを含有するBPADAを得た。種々の異性体純度を有するBPADAはpPDと重合化できる。
【0114】
(手順15 98.5%の4,4’−BPADAを含有するBPADAの再結晶化による、4,4’−結合が豊富なBPADAの調製)
タービン翼撹拌機、環流凝縮器および熱電対プローブを備えた100ガロンステンレス製リアクタに窒素を充填し、580ポンドのメチルイソブチルケトン(MIBK、Brenntag Northeast社製、製品コード662675、ロット#242349B)を添加した。中程度に攪拌しながら、97.7%の4,4’−BPADAであるBPADA140.8ポンドを添加し、リアクタジャケットに高温のオイル(オイル設定温度124℃)を循環させてスラリーをゆっくり加熱した。ゆるやかに還流させながら、116〜117℃に短時間保持した後、すべてのBPADAを溶解させた。溶液を117℃×30分攪拌後、攪拌しながら48℃になるまで一晩ゆっくり冷却した。スラリーをさらに31℃まで冷却し2時間保持した。5ミクロンのポリプロピレンフィルタバッグを備えた40インチバスケットフィルターに該スラリーを落として生成物を分離した。ケーキを高速で回転させた後、60ポンドの25℃MIBKでフィルタ上にて洗浄し、さらにもう一度高速で回転させた。ケーキを第2の60ポンドのMIBKを用いて上記のように洗浄した。この材料の4,4−BPADA異性体純度は99.75%であった。
【0115】
上記の湿潤ケーキ(133.6ポンド)を、545ポンドの新鮮なMIBKを含有するリアクタに戻した。117℃までゆっくり加熱して湿潤ケーキDAを完全に溶解させた。混合物をゆるやかに還流させた後、一晩かけてゆっくり冷却した。主要な冷却器を用いて22℃まで冷却し、そこで90分間保持した後、BPADAをバスケットろ過で分離し、上記の第1の分離で述べたように、60ポンドの新鮮なMIBKで2回洗浄した。
【0116】
前記第2の再結晶からの湿潤ケーキ(124.3ポンド)を15ftの真空式タンブラー乾燥機に移し、室温で18時間、その後50℃で24時間、最終的には85℃で20時間回転させながら減圧下で乾燥させて、初期量140.8ポンドの81.6%に相当する115ポンドのBPADAを得た。この材料は本質的に100%4,4−BPADAであった。
【0117】
この手順を繰り返して、99.75%の4,4−異性体純度および100%の4,4−異性体純度を有する乾燥BPADAを得た。
【0118】
99.75%の4,4−異性体純度を有する237ポンドのBPADAと、97.7%の4,4−異性体純度を有する136.7ポンドのBPADAとの混合物も調製した。この材料は、全体の4,4−異性体純度が99.0%であるBPADAを含有していた。
【0119】
(手順16 NMRによるポリマー中のBPADAの異性体純度)
手順1では、BPADAモノマー中の異性体純度について説明した。手順16では、ポリマー中のBPADAの異性体純度、特に、本明細書で説明するポリエーテルイミド類のBPADA部分における4,4’−結合対3,4’−および3,3’−結合との割合(モル%)について説明する。
【0120】
ポリマー中のBPADAの異性体純度を決定するために、約100mgのペレットを1mLの、HFIP−DとCDClとの1:1混合物中に溶解させた後、3mLのCDClで希釈した。13Cに対して150.8ppmで操作するVarian INOVAまたはNMRSスペクトロメータで、13C NMRスペクトルを得た。取得パラメータとしては、スペクトル幅36.8kHz、データポイント数64,000であり、データ取得時間は1.8秒であった。パルス遅延は1.2秒、フリップ角は45°とした。Waltz−16パルスシークエンスを用いて広帯域のプロトンデカップリングを行った。64のブロックで24時間にわたり、約30,000回の走査が得られた。スペクトルは厳密な意味では定量性がないものの、四級炭素だけを比較する(4−異性体に対しては164.7ppmと152.5ppm、3−異性体に対しては156.1ppm、151.9ppmおよび137.2ppm)ことによって、NOEの影響を回避できる。
【0121】
(手順17 o−DCBからBPADAを再結晶させて、4−エーテル結合に富むBPADAの大規模調製)
前記の再結晶プロセスを1500ガロン容器にスケールアップした。窒素下で攪拌しながら、4,4’−異性体純度が約93.0〜99.0%のBPADA(1500〜1700ポンド)を蒸留o−DCBに溶解させて25%固形分とした。該材料を180℃まで加熱して水分と環近傍二酸を除去した後、この材料を17〜20時間かけて約40℃まで冷却しスラリーを得た。300ポンド(乾燥重量)の該スラリーを遠心分離機に入れた(700〜900rpmで3〜4時間回転)。分離液の固形分は5%オーダであった。次に、ケーキ(固形分約90%)を乾燥機に落とし、同量のバッチで乾燥させて(圧力25psiの蒸気、120℃、200mmHg、時間3〜4時間)、表3に示す精製生成物を得た。
【0122】
該材料をスーパーサックに移した。精製BPADAの全体の収率は、1回の再結晶化で70〜85%であった。再結晶化された材料の4,4−異性体純度は約99.0%〜99.9%であった。一般に、4,4−異性体純度が97%を超える材料を再結晶化すると、4,4−異性体純度が99.7%を超える生成物が得られ、4,4−異性体純度が93%の市販グレードを再結晶化すると、4,4−異性体純度が約99.0%の生成物が得られる。4,4−異性体純度が99.5%のBPADAの1バッチを再度、上記で説明したようにo−DCBから再結晶化して、収率85%で4,4−異性体純度が99.9%の生成物を得た。
【0123】
【表3】

【0124】
(手順18 高4,4−異性体純度のBPADAを有するポリエーテルイミドの大規模調製)
General Electric社の米国特許第4,835,249号に準拠して、固形分濃度25%の、種々の4,4−異性体純度を有する式(2)の再結晶化二無水物を用いて、バッチ量のポリマーを1500ガロンの蒸気ジャケット型容器で処方した。連鎖停止剤として作用し得る、該二無水物中の式(7)のモノイミドの量をHPLCで予め決定した。該容器に蒸留o−DCBを添加した。該o−DCBを還流するまで加熱して水分を除去した後、50℃未満まで冷却した。その後、アニリンを該容器に添加し、その後に固形二無水物(2)を添加した。アニリン(連鎖停止剤)の量を調整して、最終的に所望の分子量とメルトインデックスを有するポリマーを製造した(粘度と分子量の測定)。連鎖防止剤(アニリンおよびイミド−無水物)の合計量を調節する。容器を窒素で15分間パージした後、溶融パラ−フェニレンジアミンを秤量し投入する。再度、アニリン、BPADAおよびpPDの比率を注意深く調節して所望の分子量を有する樹脂を生成する。容器を120℃まで加熱して20分間保持した後、130℃に加熱、次に180℃に加熱して1時間保持する。この手順により、溶媒には不溶のプレポリマーが得られる。該プレポリマースラリーの少量サンプルを取り出し、ガラス管内で窒素雰囲気下、380℃まで加熱して重合を終了させる。該熱処理したポリマーを管から取り出し、フィルム状に押圧してFTIR分析を行い、General Electric社の米国特許第7,041,773号に記載されるように、無水物とアミン末端基とのモルパーセントを決定する。
【0125】
前記容器にBPADAまたはpPDを添加して樹脂の化学量論を所望のレベルに調整する。反応混合物をさらに1時間加熱してポリマーの化学量論を再度チェックする。
【0126】
前記バッチを目標の化学量論に調節した後、それを別の撹拌された容器に熱い状態で落とし、外部の冷却ジャケットを利用して60℃未満に冷却する。その後、該バッチを少量のバッチに分けて遠心分離機に供給し(バッチ当たり、プレポリマーの乾燥重量で約300ポンド)、残りの材料は引き続き冷却する。前記バッチを約750〜900rpmで3時間回転させて固形分濃度が約50%のプレポリマーを得る。その後、該材料を固形分濃度約50%で乾燥器に落とす。該ミニバッチを、圧力200mmHg、温度120℃で3時間乾燥させた後、固形分濃度が約85%でスーパーサックに落とす。
【0127】
最後に、前記プレポリマーを約340℃で操作される逆回転式の非噛合液化二軸スクリュ押出機に供給して、溶融ポリマーストランドを得た。得られたポリマーストランドを水浴中で冷却しペレット化して最終樹脂を生成した。表4に示すように、この方法で、樹脂数バッチ(1バッチは800〜1200ポンド)を製造した。BPADAの異性体純度、バッチ量および目標の分子量に応じて、BPADA、pPD、アニリンおよび溶媒量をバッチ毎に調節した。
【0128】
【表4】

【0129】
(手順19 安定剤との混合)
前記ポリエーテルイミド類を選択的に、さらに以下の安定剤と混合した。手順18で得た前記ポリエーテルイミドペレットを、運転時間を30分間に設定した回転混合機を用いて、500ppmの安定剤製品と乾燥混合した。混合物を235°F(113℃)×8時間乾燥させた。前記添加剤を溶融混合するために、次にこの混合物を6つのゾーンから、温度316℃〜360℃の30mm二軸スクリュ真空吸引式押出機に供給した。該スクリュの回転速度は300rpm、真空度は27インチHg(68.6cmHg)とした。押出された溶融ストランドを水浴中で冷却し、ペレット化後包装した。
【0130】
(手順20 メルトインデックス測定)
ASTM標準D1238−04c(「押出可塑度計による熱可塑性物質の溶融流量の標準試験方法」(Standard Test Method for Melt Flow Rates of Thermoplastics by Extrusion Plastometer))に準拠して、前記ポリマーのメルトインデックス(MI)を測定した。重量6.7kg、温度337℃の条件でMIを測定した。
【0131】
(手順21 毛管レオメータによる粘度決定の代替法)
また、ISO標準11443:2005、Plastics(毛管およびスリットダイレオメータを用いたプラスチックの流動性の決定)(Determination of the fluidity of plastics using capillary and slit−die rheometers))に準拠した手順6の修正版を用いて高せん断速度での粘度も決定した。10KNトランスデューサとL/D比が10/1の1mm毛管とを備えたDynisco LCR7000レオメータを用いた。各操作におけるせん断速度範囲は100〜10,000とした。特に明記がない限り、温度390℃で測定した。データのラビノビッチ補正は行なわなかった。端圧力損失は補正しなかった。したがって、報告データは見かけの粘度と見かけのせん断速度である。ここでは、見かけのせん断速度が1000s−1、温度390℃の条件での見かけの粘度を報告する。
【0132】
(実施例)
(実施例1 異性体純度が100%の4,4’−BPADA−pPDの合成と特性評価)
手順2に準拠し重合溶媒としてm−クレゾールを用いて、異性体純度が100%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDポリエーテルイミドを合成した。使用したモノマー、末端キャッピング剤および溶媒の特定量などの重合に関する詳細を表3にリストアップした。
【0133】
前記重合化した状態で乾燥させた粉末をDSCにより特性評価した。該粉末の融解吸熱は26.4J/gの融解エンタルピ(ΔH)を有しており、恐らくは、合成および沈殿プロセスの間に、溶液状態から結晶化したものであろう。合成した状態での粉末のTおよびTは、DSCで測定してそれぞれ224℃と291℃であった。
【0134】
(実施例2(比較実施例) 異性体純度が100%のBPADA−mPDの合成と特性評価)
pPDの代わりにmPDを使用した以外は、実施例1の手順に従った。したがって、手順2に準拠して、異性体純度が100%の4,4’−BPADAを有するBPADA−mPDポリマーを合成した。表3に詳細を示す。
【0135】
この結果、識別できる融解吸熱のない乾燥粉末が製造でき、このことは、類似のBPADA−pPD組成物と異なって、該組成物が溶液状態から結晶化できるものではないことを意味する。該粉末のTは212℃であった。
【0136】
(実施例3 異性体純度が99%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDの合成と特性評価)
手順2に準拠して、異性体純度が99%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDポリエーテルイミドを合成した。表3に詳細を示す。前記重合化した状態での乾燥粉末をDSCにより特性評価した。該粉末は、融解エンタルピ(ΔH)が23.5J/gの融解吸熱を示した。前記合成した状態での粉末のTおよびTはDSCで測定して、それぞれ224℃と288℃であった。手順5に準拠して測定した該材料の溶融粘度は370℃で6000ポイズであった。
【0137】
(実施例4 異性体純度が98.5%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDの合成と特性評価)
手順3に準拠し、同手順でリストアップしたモノマー、溶媒などの量を用いて、異性体純度が98.5%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDポリエーテルイミドを合成した。毛管レオメータと平行板レオメータにより、出来たペレットの特性評価を行った。温度400℃、せん断速度1000s−1における粘度(手順6に準拠して測定)は3100ポイズであった。400℃、低せん断速度における平行板測定による粘度(手順5)は3400ポイズであった。
【0138】
(実施例5 異性体純度が96.3%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDの合成と特性評価)
異性体純度が96.3%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDの市販サンプルを得た。表5に示す手順3に準拠して該材料を製造した。しかしながら、モノマー、溶媒などの正確な量は、容易にはたどることができない。毛管レオロジーと平行板レオロジーによりペレットの特性を評価した。温度400℃、せん断速度1000s−1における、手順6により測定した粘度は2600ポイズであった。温度400℃、低せん断速度における、手順5に準拠した平行板測定による粘度は3000ポイズであった。
【0139】
【表5】

【0140】
(実施例6 繊維紡糸と特性評価−異性体純度が100%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPD)
直径が500μmの単一孔紡糸口金を有する、手順7のDACAミクロ混合機を用いて、実施例1で出来たポリマーを紡糸した。融点は380℃に維持した。処理量はスクリュ速度5rpmで維持し、最終直径17μmに対応させて、出来たストランドを110m/分の速度で巻き取った。
【0141】
出来た繊維の平均引張強さは7.3gpd(引張強さは約3gpdを超えていることが望ましい)であり、熱風(250℃)収縮値は21%(収縮は20%未満であることが望ましい)であった。前記紡糸した状態での繊維は、DSCにおける融解吸熱Tが303℃であり、融解エンタルピ(ΔH)が11J/gであることを明らかに示している。該繊維のTは217℃であった。
【0142】
結晶性をさらに向上させ寸法安定性をさらに高めるために、前記繊維を拘束状態で、250℃×5分間、次に280℃×5分間の2段階熱処理にかけた。得られた熱処理繊維の引張強さは7.2gpdであり、熱風収縮値は250℃で測定して1%未満であった。紡糸プロセスで付与された高ポリマー鎖配向と相まった高異性体純度によって、紡糸されたままでも著しい結晶性を有する繊維ができた。寸法変化を拘束する熱処理によって繊維特性がさらに向上した。
【0143】
(実施例7(比較実施例) 繊維紡糸と特性評価−異性体純度が100%の4,4’−BPADAを有するBPADA−mPD)
直径が500μmの単一孔紡糸口金を用いた手順7のDACAミクロ混合機を用いて、実施例2で得た繊維を紡糸した。融点は380℃に維持した。処理量をスクリュ速度5rpmで維持し、出来たストランドの最終直径は38μmであった。
【0144】
出来た繊維の平均引張強さは4.1gpdであり、熱風(250℃)収縮値は83%であった。4,4’−BPADAの異性体純度が高く、ポリマー鎖配向度が比較的高いにもかかわらず、熱風収縮で示唆されるように、紡糸した状態での繊維はDSCにおける融解吸熱を示さなかった。
【0145】
(実施例8 繊維紡糸と特性評価−異性体純度が99%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPD)
直径が500μmの単一孔紡糸口金を用いた手順7のDACAミクロ混合機を用いて、実施例3で得た繊維を紡糸した。融点は400℃に維持した。処理量をスクリュ速度5rpmで維持し、最終直径21μmに対応させて、出来たストランドを166m/分の速度で巻き取った。
【0146】
出来た繊維の平均引張強さは5.9gpdであり、熱風(250℃)収縮値は64%であった。紡糸した状態での繊維から、DSCにおける融解吸熱Tは297℃であり、融解エンタルピ(ΔH)は6J/gであることが明確に示された。
【0147】
結晶性をさらに向上させ寸法安定性をさらに高めるために、前記繊維を拘束状態で、250℃×5分間、次に280℃×5分間の2段階熱処理にかけた。得られた熱処理繊維の引張強さは5.2gpdであり、熱風収縮値は250℃で測定して1%未満であった。該熱処理繊維のDSCにおける融解吸熱Tは305℃であり、融解エンタルピ(ΔH)は12J/gであることがわかった。
【0148】
(実施例9 繊維紡糸と特性評価−異性体純度が98.5%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPD)
実施例4で得たポリマーを、手順7で説明したように、押出温度385℃で直径が500μmの毛管から押出した。取り出し速度を300m/分とし、平均直径が24.2μmの繊維を得た。
【0149】
得られた繊維の平均引張強さは、5.9g/デニール、熱風収縮値は75%であった。紡糸した状態での繊維から、DSCにおける融解吸熱Tは300℃であり、融解エンタルピ(ΔH)は14J/gであることが明確に示された。繊維のTは226℃であった。
【0150】
拘束状態で、この繊維を260℃×15分間熱処理して、引張強さが4.6gpd、熱風収縮値が7.5%の繊維を得た。該熱処理繊維の融解エンタルピは31.6J/gであった。Tは304℃であった。Tは明確には識別できなかった。
【0151】
(実施例10(比較実施例) 繊維紡糸および特性評価−異性体純度が96.3%の4,4’−BPADAを有する市販BPADA−pPD)
実施例5で得たポリマーを、手順7で説明したように、押出温度395℃で直径が500μmの毛管から押出した。取り出し速度を275m/分とし、平均直径が24μmの繊維を得た。
【0152】
得られた繊維の平均引張強さは5.4g/デニール、熱風収縮値は87.5%であった。紡糸した状態での繊維には、DSCにおける識別可能なピークは見られなかった。この繊維を拘束状態で、260℃×15分間の熱処理にかけて、引張強さが3.3gpd、熱風収縮値が27.5%の繊維を得た。該熱処理した繊維は、溶融エントロが6.6J/gである融解吸熱を示した。該熱処理繊維のTとTは、それぞれ224℃と291℃であった。
【0153】
(実施例11(比較実施例) 代替熱処理条件−異性体純度が96.3%の4,4’−BPADAを有する市販BPADA−pPD)
実施例10で得た紡糸した状態での繊維を、異なる条件(250℃×15分間、その後260℃×15分間)下で熱処理して、繊維の結晶性と寸法安定性をさらに高めた。
【0154】
この2段階熱処理後の繊維の引張強さは3.3gpdであり、熱風収縮値は5%、ΔHは14J/gであった。該熱処理繊維のTおよびTは、それぞれ226℃と293℃であった。
【0155】
実施例1〜5のポリマー合成と特性評価を表6にまとめた。実施例6〜11の繊維紡糸と特性評価を表7にまとめた。
【0156】
【表6】

【0157】
【表7】

【0158】
(実施例12 異性体純度が99%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDポリエーテルイミドの大規模合成)
手順18に準拠して、BPADA、pPDおよびアニリンの量が表4の第1列にリストアップした量である、本バッチのポリエーテルイミドを調製した。使用したBPADAは、異性体純度が98.5%のBPADA(HPLCで測定)と異性体純度が99.9%のBPADAとを、出来たブレンドの名目上の純度が98.9%となる量でブレンドしたものである。手順18で説明した液化押出機で処理して該ポリマーを完成させた。この段階では、該ペレットにはそれ以上の処理は行わなかった。
【0159】
出来たポリマーの数平均分子量(Mn)はGPCで測定して15,545、重量平均分子量(Mw)は35,971であった。手順20に準拠して測定した該ポリマーのメルトインデックス(MI)は1.78であった。平行板レオメータ(手順5)で測定した粘度は400℃で2452ポイズであった。手順21で測定した高せん断速度(毛管)粘度は390℃で2967ポイズであった。
【0160】
(実施例13 実施例12への安定剤の導入)
手順19に準拠して、実施例12のポリエーテルイミドペレットを500ppmの安定剤(Irgafos168)と混合した。こうして出来たポリマーの特性評価を行った結果、GPCによる測定(手順4)で、Mが15,254、Mが35,213であることがわかった。手順20によって測定したメルトインデックス(MI)は1.94であった。平行板レオメータで測定(手順5)した粘度は400℃で2400ポイズであった。手順21で測定した毛管粘度は390℃で2801ポイズであった。ポリマー中の異性体純度はNMRを用いて測定(手順16)し、純度が99.3%の4,4’−BPADAであった。
【0161】
(実施例14 異性体純度が99.5%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDポリエーテルイミドの大規模合成)
手順18に準拠して、BPADA、pPDおよびアニリンの量が表4の第2列にリストアップした量である、本バッチのポリエーテルイミドを調製した。使用したBPADAは、異性体純度が99.3%のBPADA(HPLCで測定)と異性体純度が99.5%のBPADAとを、出来たブレンドの名目上の純度が99.45%となる量でブレンドしたものである。手順19で説明したように、液化押出機からのポリエーテルイミドペレットを添加剤と混合した。NMRを用いて、出来たポリマーで測定した異性体純度は99.4%−BPADAであることがわかった。
【0162】
GPCで測定(手順4)した生成ポリマーのMは17,070、Mは39,198であった。手順20により測定したポリマーのメルトインデックスは1.22であった。平行板レオメータで測定した粘度は400℃で3680ポイズであった。手順21により測定した毛管粘度は390℃で3749ポイズであった。
【0163】
(実施例15 異性体純度が99.9%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDポリエーテルイミドの大規模合成)
手順18に準拠して、BPADA、pPDおよびアニリンの量が表2の第3列にリストアップした量である、本バッチのポリエーテルイミドを調製した。使用したBPADAの異性体純度は、HPLCで測定して99.9%の4,4’−結合であった。手順19で説明したように、液化押出機からのポリマーペレットを安定剤と混合した。NMRを用いて測定(手順16)した生成ポリマー中の異性体純度は99.7%の4,4’−BPADAであった。
【0164】
出来たポリマーのメルトインデックス(MI)は2.17であった。平行板レオメータで測定した粘度は400℃で2150ポイズであった。手順21により測定した毛管粘度は390℃で2515ポイズであった。
【0165】
(実施例16 大規模合成で製造された異性体純度が98.9%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDポリエーテルイミドの繊維紡糸と特性評価)
直径が500μmの単一孔紡糸口金を用いた手順7のDACAミクロ混合機を用いて、実施例12で得たポリマーを紡糸した。融点は370℃に維持した。処理量をスクリュ速度5rpmで維持し、最終直径21μmに対応させて、出来たストランドを690m/分の速度で巻き取った。
【0166】
出来た繊維の平均引張強さは3.04gpdであり、熱風(260℃)収縮値は85%であった。紡糸した状態での繊維から、DSCにおける融解吸熱はT(第1熱)が208℃、Tが305℃であり、融解エンタルピ(ΔH)は25.4J/gであることが明確に示された。
【0167】
さらに結晶度を増加させ、寸法安定性を高めるために、前記繊維を拘束状態で2段階熱処理にかけた。繊維をガラス円筒上に巻き付け、250℃のオーブン内に入れて10分間保持した。次に、前記サンプルを中に入れたままオーブン温度を280℃に上げ、オーブン温度が280℃に達してからさらに5分間保持した。出来た熱処理繊維の引張強さは4.3gpdであり、260℃で測定した熱風収縮値は0%であった。
【0168】
(実施例17 大規模合成で製造された、添加剤を含む異性体純度が98.9%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDポリエーテルイミドの繊維紡糸および特性評価)
直径が500μmの単一孔紡糸口金を用いた手順7のDACAミクロ混合機を用いて、実施例13で得たポリエーテルイミドを紡糸した。融点は385℃に維持した。処理量をスクリュ速度5rpmで維持し、最終直径17μmに対応させて、出来たストランドを829m/分の速度で巻き取った。
【0169】
出来た繊維の平均引張強さは5.5gpdであり、熱風(260℃)収縮値は66%であった。紡糸した状態での繊維から、DSCにおける融解吸熱はT(第1熱)が204℃でありTが303.6℃であり、融解エンタルピ(ΔH)は21J/gであることが明確に示された。
【0170】
実施例16と17において、高異性体純度、適切な分子量および処理を組み合わせると、異性体純度の低いサンプル(例えば実施例9)に対して、高いレベルの紡糸した状態での結晶性が得られた。示されるように、適切な熱処理によって特性をさらに向上させることができる。
【0171】
(実施例18 大規模合成によって製造された、添加剤を含む異性体純度が99.5%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPDポリエーテルイミドの紡糸と特性評価)
直径が500μmの単一孔紡糸口金を用いた手順7のDACAミクロ混合機を用いて、実施例14で得たポリエーテルイミドを紡糸した。融点は385℃に維持した。処理量をスクリュ速度5rpmで維持し、最終直径26.7μmに対応させて、出来たストランドを442m/分の速度で巻き取った。
【0172】
出来た繊維の平均引張強さは4.9gpdであり、熱風(260℃)収縮値は75%であった。紡糸した状態での繊維から、DSCにおける融解吸熱はT(第1熱)が212℃、Tが303.9℃であり、融解エンタルピ(ΔH)は10.8J/gであることが明確に示された。
【0173】
この実施例でのポリマー分子量は、実施例16および17に比べて若干高く、試験した条件下では紡糸した状態での結晶性は中程度ではあるものの、一定の噴射延伸では引張強さがより高くなる可能性と、引抜などの紡糸後の処理操作によって性能が高められる可能性と、を有している。
【0174】
(実施例19 繊維紡糸と特性評価−大規模合成で製造され,添加剤を有する異性体純度が99.9%の4,4’−BPADAを有するBPADA−pPD)
直径が500μmの単一孔紡糸口金を用いた手順7のDACAミクロ混合機を用いて、実施例15で得たポリエーテルイミドを紡糸した。融点は370℃に維持した。処理量をスクリュ速度5rpmで維持し、最終直径24μmに対応させて、出来たストランドを940m/分の速度で巻き取った。
【0175】
出来た繊維の平均引張強さは4.6gpdであり、熱風(260℃)収縮値は85%であった。紡糸した状態での繊維から、DSCにおける融解吸熱はT(第1熱)が208℃、Tが304.4℃であり、融解エンタルピ(ΔH)は19.4J/gであることが明確に示された。
【0176】
さらに結晶度を増加させ、寸法安定性を高めるために、前記繊維を拘束状態で、2段階熱処理にかけた。繊維をガラス円筒上に巻き付け、250℃のオーブン内に入れて10分間保持した。次にオーブン温度を280℃に上げ、さらに該繊維を280℃×5分間保持した。出来た熱処理繊維の引張強さは4.7gpdであり、260℃で測定した熱風収縮値は0%であった。
【0177】
再び繰り返すが、高異性体純度、適切な分子量および処理を組み合わせると、加熱処理を受けて特性が向上した、高い紡糸した状態での結晶性が得られた。
【0178】
実施例17、18および19間で、HPLCで測定した名目上の純度は異なっているが、測定に伴うエラーバーは限定的である。また、4,4’−BPADA純度が非常に高いものでは、pPD内の不純物などのその他の不純物もまた、大きな要因になり始める。従って、紡糸した状態での結晶性などの結果は、実施例16〜19に見られるような狭い範囲(99〜99.9%)内の異性体純度と完全に相応しているものではないようである。しかしながら、99%およびそれ以上の異性体純度のものは、96.3%あるいは98%のものと比較して、結晶性は間違いなく早い、という、異性体純度の増加と共に結晶性は向上するという一般的な傾向は明らかである。実施例12〜19を表8と9に要約した。実施例16〜19の紡糸した状態での、繊維のDSCサーモグラムを図1に示す。
【0179】
【表8】

【0180】
【表9】

【0181】
本明細書に開示された特許、特許出願、およびその他の出版物のすべては、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0182】
好適な実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更が可能であり、それらの要素の代わりに等価物が用いられてもよいことは、当業者には理解されるであろう。さらに、本発明の本質的な範囲を逸脱することなく、特定の状況や材料を本発明の教示に適応させるために、多くの改良が可能である。従って、本発明は、本発明の最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に包含されるすべての実施形態を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)96.8モル%以上の4,4’−ビスフェノールA二無水物またはその化学的等価物を含む二無水物成分と、
(b)ジアミンまたはその化学的等価物を含むジアミン成分と、
から誘導される結晶化可能なポリエーテルイミドを含む組成物であって、
前記結晶化可能なポリエーテルイミドのTは250℃〜400℃であり、前記組成物の前記TとTとの差は50℃以上であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記ジアミン成分は、パラ−フェニレンジアミンまたはその化学的等価物を含み、好適には前記ジアミン成分は、本質的にはパラ−フェニレンジアミンまたはその化学的等価物から構成され、より好適には前記ジアミン成分は、メタ−フェニレンジアミンまたはその化学的等価物を実質的に含まないパラ−フェニレンジアミンであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ジアミン成分はパラ−フェニレンジアミンであり、前記組成物はさらに5.0モルパーセント未満、好適には2.0モルパーセント未満のメタ−フェニレンジアミンまたはその化学的均等物を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ジアミンは、パラ−フェニレンジアミン、ベンジジン、1,5−ジアミノナフタレン、ビス(4−アミノフェニル)メタン、ビス(4−アミノフェニル)プロパン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(4,4’−メチレンジアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−オキシジアニリン)、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’ジメチルベンジジン、4,3’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、前記ジアミン類の化学的均等物およびこれらの組み合わせから構成される群から選択されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物はさらに少なくとも1つの安定剤を含み、好適には前記安定剤はリン含有安定剤であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
温度400℃未満、せん断速度1000s−1で測定した見かけの粘度が0を超え10,000ポイズ未満、好適には100を超え7000ポイズ未満、であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物を含む繊維は、2〜20g/デニールの引張強度と、260℃の熱風に10分間暴露後の収縮が20パーセント以下、好適には10パーセント以下である熱風収縮と、の1つまたは複数を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物はさらに末端キャッピング剤、好適には無水フタル酸、アニリンおよびこれらの組み合わせから構成される群から選択される末端キャッピング剤を含む、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の組成物を含むことを特徴とする繊維。
【請求項10】
請求項9に記載の繊維を複数含むことを特徴とする物品。
【請求項11】
物品が織布または不織布であることを特徴とする請求項10に記載の物品。
【請求項12】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の結晶化可能なポリエーテルイミド組成物を、少なくとも1本の繊維製造に十分な条件下でオリフィスから押出すステップを含むことを特徴とする繊維の製造方法。
【請求項13】
前記方法はさらに、前記少なくとも1本の繊維を延伸するステップを含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法はさらに、前記ポリエーテルイミドの結晶化に効果的な拘束下で前記少なくとも1本の繊維を熱処理するステップを含むことを特徴とする請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の結晶化可能なポリエーテルイミド組成物を、少なくとも1本の繊維製造に十分な条件下でオリフィスから押出すステップと、
選択的に、複数の前記繊維をヤーンに組み合わせるステップと、
前記繊維または前記ヤーンを布地に織るステップと、
を含むことを特徴とする布地の製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−534744(P2010−534744A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518430(P2010−518430)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/071322
【国際公開番号】WO2009/015383
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(508171804)サビック・イノベーティブ・プラスチックス・アイピー・ベスローテン・フェンノートシャップ (86)
【Fターム(参考)】