説明

結晶性ポリマー微孔性膜、及びその製造方法、並びに、濾過用フィルタ

【課題】平均孔径の面内分布が均一であり、大面積で使用した場合であっても粒子を漏れがなく捕捉することができ、目詰まりがなく、高流量で、かつ濾過寿命が長い結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタの提供。
【解決手段】固定された、結晶性ポリマーからなるフィルムの一の表面を、加熱手段により、前記結晶性ポリマーの焼成体の融点以上の温度で加熱手段と接触の状態で加熱することにより、前記フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する非対称加熱工程と、前記半焼成フィルムを延伸する延伸工程と、を含む結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体等の精密濾過に使用される濾過効率の高い結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに、濾過用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
微孔性膜は古くから知られており、濾過用フィルタ等に広く利用されている(非特許文献1参照)。このような微孔性膜としては、例えばセルロースエステルを原料として製造されるもの(特許文献1等参照)、脂肪族ポリアミドを原料として製造されるもの(特許文献2等参照)、ポリフルオロカーボンを原料として製造されるもの(特許文献3等参照)、ポリプロピレンを原料とするもの(特許文献4参照)、などが挙げられる。
これらの微孔性膜は、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられ、近年、その用途及び使用量が拡大しており、粒子捕捉の点から信頼性の高い微孔性膜が注目されている。これらの中でも、結晶性ポリマーによる微孔性膜は耐薬品性に優れており、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を原料とした微孔性膜は、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、その需要の伸びが著しい。
【0003】
また、特許文献5には、PTFE多孔質膜の製造工程において、PTFE予備成形体を押出及び/又は圧延する方向と直交する方向に、PTFE予備成形体に圧縮応力を加えることにより、ヘイズ値のバラツキが変動率により表示して20%以下であるPTFE多孔質膜が提案されている。この提案によれば、PTFE多孔質膜の微多孔構造の均一化が図れる。しかし、この提案のPTFE多孔質膜は、流量、及び濾過寿命の点で十分満足できるものではないという問題がある。
【0004】
また、特許文献6には、ポリテトラフルオロエチレン成分の結晶融点を下回る温度で1軸に伸長し、ポリテトラフルオロエチレン成分の結晶融点を上回る温度までそのテープの温度を高めることによって、その伸長されたテープをアモルファス固定し、ポリテトラフルオロエチレン成分の結晶融点を上回る温度で元の伸長方向に直角な方向に伸長する工程からなる多孔質ポリテトラフルオロエチレン物品の製造方法が提案されている。この提案によれば、濾過流量を高くすることができる。しかし、前記提案では、微孔性膜の単位面積当たりの濾過可能量は少なくなる(即ち濾過寿命が短い)という問題がある。
【0005】
また、特許文献7には、未焼成フィルムの表面に熱エネルギーを付与し、フィルムの厚み方向に温度勾配を形成させる半焼成工程を含む結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法が提案されている。この提案によれば、非対称構造の微孔により多段濾過が可能となり、微孔性膜の濾過寿命を長くすることができる。しかし、この提案の微孔性膜の製造方法では加熱ムラが生じ、その結果、得られた微孔性膜の平均孔径の面内分布にバラツキがみられ、小面積(0.04m以下)の場合はほとんど問題ないが、大面積(0.04mより大きい)の場合に粒子の漏れが生じることがあるという問題がある。
【0006】
したがって、平均孔径の面内分布が均一であり、大面積で使用した場合であっても粒子を漏れがなく捕捉することができ、目詰まりがなく、高流量で、かつ濾過寿命が長い結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法の更なる改良、開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第1,421,341号明細書
【特許文献2】米国特許第2,783,894号明細書
【特許文献3】米国特許第4,196,070号明細書
【特許文献4】西独特許第3,003,400号明細書
【特許文献5】特開2002−172316号公報
【特許文献6】特表平11−515036号公報
【特許文献7】特開2007−332342号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】アール・ケスティング(R.Kesting)著「シンセティック・ポリマー・メンブラン(Synthetic Polymer Membrane)」マグロウヒル社(McGrawHill社)発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、平均孔径の面内分布が均一であり、大面積で使用した場合であっても粒子を漏れがなく捕捉することができ、目詰まりがなく、高流量で、かつ濾過寿命が長い結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 固定された、結晶性ポリマーからなるフィルムの一の表面を、加熱手段により、前記結晶性ポリマーの焼成体の融点以上の温度で加熱手段と接触の状態で加熱することにより、前記フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する非対称加熱工程と、
前記半焼成フィルムを延伸する延伸工程と、
を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
前記<1>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法では、前記非対称加熱工程において、結晶性ポリマーからなるフィルムが加熱され、前記フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムが形成される。このとき、前記結晶性ポリマーからなるフィルムが固定された状態で加熱され、半焼成されるので、面内でムラのない状態で加熱、半焼成がなされる。前記延伸工程において、前記半焼成フィルムが延伸される。その結果、平均孔径の面内分布が均一な結晶性ポリマー微孔性膜が得られる。
<2> 結晶性ポリマーからなるフィルムの一の全表面が固定された前記<1>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<3> 結晶性ポリマーからなるフィルムの少なくとも一の表面が器材により固定され、該固定が、押圧、及び吸引の少なくともいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<4> 押圧手段が、ベルト、ロール、及びシートのいずれかである前記<3>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<5> 押圧手段による押付け圧力が、0.01MPa〜5MPaである前記<4>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<6> 吸引手段が、表面に複数の孔部が形成され、表面から内部に吸引可能なベルト、及びロールのいずれかである前記<3>から<5>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<7> 吸引手段が、少なくとも表面が加熱可能なベルト、及びロールのいずれかである前記<6>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<8> 加熱手段が、少なくとも表面が加熱可能なベルト、及びロールのいずれかである前記<1>から<7>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<9> 結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである前記<1>から<8>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<10> 延伸工程が、半焼成フィルムを一軸方向に延伸する前記<1>から<9>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<11> 延伸工程が、半焼成フィルムを二軸方向に延伸する前記<1>から<10>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<12> 延伸されたフィルムを親水化処理する親水化工程を更に含む前記<1>から<11>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<13> 前記<1>から<12>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法により製造され、一方の面の平均孔径が、他方の面の平均孔径よりも大きく、かつ前記一方の面から前記他方の面に向かって平均孔径が連続的に変化していることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜である。
前記<13>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜は、前記<1>から<12>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法により製造され、一方の面の平均孔径が、他方の面の平均孔径よりも大きく、かつ前記一方の面から前記他方の面に向かって平均孔径が連続的に変化しているので、平均孔径の面内分布が均一であり、大面積で使用した場合であっても粒子を漏れがなく捕捉することができ、目詰まりがなく、高流量で、かつ濾過寿命が長い。そのため、工業的に多量の液体などを濾過するのに適している。
<14> 結晶性ポリマー微孔性膜の膜厚みをXとし、非加熱面から、深さ方向X/10の厚み部分における平均孔径をP1とし、深さ方向9X/10の厚み部分の平均孔径をP2としたときのP1/P2が、4.5以上である前記<13>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<15> 平均孔径の面内バラツキが、変動率20%以下である前記<13>から<14>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<16> 面積が0.04mより大きい前記<13>から<15>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<17> 前記<13>から<16>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたことを特徴とする濾過用フィルタである。
前記<17>に記載の濾過用フィルタは、前記<13>から<16>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いているので、大面積で使用した場合であっても粒子を漏れがなく捕捉することができ、また、効率よく微粒子を捕捉することができる。また、比表面積が大きいため、微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着又は付着によって除かれる効果が大きく、濾過寿命を大きく改善することができる。
<18> プリーツ状に加工成形してなる前記<17>に記載の濾過用フィルタである。
<19> 結晶性ポリマー微孔性膜の平均孔径の大きな面側をフィルタの濾過面に使用する前記<17>から<18>のいずれかに記載の濾過用フィルタである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、平均孔径の面内分布が均一であり、大面積で使用した場合であっても粒子を漏れがなく捕捉することができ、目詰まりがなく、高流量で、かつ濾過寿命が長い結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ハウジングに組込む前の一般的なプリーツフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図2】図2は、カプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込む前の一般的なフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図3】図3は、ハウジングと一体化された一般的なカプセル式のフィルターカートリッジの構造を表す図である。
【図4】図4は、実施例1の片面加熱装置を表す図である。
【図5】図5は、実施例2の片面加熱装置を表す図である。
【図6】図6は、実施例3の片面加熱装置を表す図である。
【図7】図7は、実施例4の片面加熱装置を表す図である。
【図8】図8は、実施例5の片面加熱装置を表す図である。
【図9】図9は、実施例6の片面加熱装置を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(結晶性ポリマー微孔性膜、及び結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、非対称加熱工程と、延伸工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、結晶性ポリマーフィルム作製工程、親水化工程などのその他の工程を含む。
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、本発明の前記結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法により製造される。
以下、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法の説明を通じて、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の詳細についても明らかにする。
【0014】
なお、以下においては、平均孔径が大きい側の面を「非加熱面」とし、平均孔径が小さい側の面を「加熱面」として説明する。これは本発明の説明をわかりやすくするために便宜的につけた呼称に過ぎない。したがって、未焼成の結晶性ポリマーフィルムのいずれの面を加熱して半焼成後に「加熱面」にしても構わない。
【0015】
<結晶性ポリマーフィルム作製工程>
前記結晶性ポリマーフィルム作製工程は、結晶性ポリマーからなるフィルムを作製する工程である。
【0016】
−結晶性ポリマー−
本発明において、前記「結晶性ポリマー」とは、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶領域が混在したポリマーを意味し、このようなポリマーは物理的な処理により、結晶性が発現する。例えば、ポリエチレンフィルムを外力により延伸すると、始めは透明なフィルムが白濁する現象が認められる。これは外力によりポリマー内の分子配列が一つの方向に揃えられることによって、結晶性が発現したことに由来する。
【0017】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアルキレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、液晶性ポリマーなどが挙げられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリル、などが挙げられる。
これらの中でも、耐薬品性と扱い性の観点から、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン)が好ましく、ポリアルキレンにおけるアルキレン基の水素原子がフッ素原子によって一部又は全部が置換されたフッ素系ポリアルキレンがより好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
前記ポリエチレンは、その分岐度により密度が変化し、分岐度が多く、結晶化度が低いものが低密度ポリエチレン(LDPE)、分岐度が少なく、結晶化度の高いものが高密度ポリエチレン(HDPE)と分類され、いずれも用いることができる。これらの中でも、ポリエチレン又はその水素原子がフッ素原子に置換された結晶性ポリマーが使用され、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
【0018】
前記結晶性ポリマーは、数平均分子量500〜50,000,000のものが好ましく、1,000〜10,000,000のものがより好ましい。
前記結晶性ポリマーとしては、ポリエチレンが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。ポリテトラフルオロエチレンは、通常、乳化重合法により製造されたポリテトラフルオロエチレンを用いることができ、好ましくは乳化重合により得られた水性分散体を凝析することにより取得した微粉末状のポリテトラフルオロエチレンを使用する。
前記ポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量は、250万〜1,000万が好ましく、300万〜800万がより好ましい。
前記ポリテトラフルオロエチレン原料としては、特に制限はなく、市場で販売されているポリテトラフルオロエチレン原料を適宜選択して使用してもよい。例えば、ダイキン工業株式会社製「ポリフロン・ファインパウダーF104U」などが好適に挙げられる。
【0019】
前記結晶性ポリマーは、そのガラス転移温度が、40℃〜400℃が好ましく、50℃〜350℃がより好ましい。また、前記結晶性ポリマーの質量平均分子量は、1,000〜100,000,000が好ましい。前記結晶性ポリマーの数平均分子量は、500〜50,000,000が好ましく、1,000〜10,000,000がより好ましい。
【0020】
前記結晶性ポリマーフィルムの作製は、前記ポリテトラフルオロエチレン原料を押出助剤と混合した混合物を作製し、これをペースト押出して圧延することによりフィルムを調製するのが好ましい。押出助剤としては、液状潤滑剤を用いることが好ましく、具体的にはソルベントナフサ、ホワイトオイルなどを例示することができる。前記押出助剤としては、市場で販売されているエッソ石油株式会社製「アイソパー」などの炭化水素油を用いても構わない。前記押出助剤の添加量は、結晶性ポリマー100質量部に対して、20質量部〜30質量部が好ましい。
【0021】
ペースト押出しは、温度が50℃〜80℃にて行うことが好ましい。押出し形状については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常は棒状にするのが好ましい。押出物は次いで圧延することによりフィルム状にする。圧延は、例えばカレンダーロールにより50m/分の速度でカレンダー掛けすることにより行うことができる。圧延温度は、通常50℃〜70℃に設定することができる。その後、フィルムを加熱することにより押出助剤を除去して結晶性ポリマー未焼成フィルムとすることが好ましい。このときの加熱温度は用いる結晶性ポリマーの種類に応じて適宜定めることができるが、40℃〜400℃が好ましく、60℃〜350℃がより好ましい。例えばテトラフルオロエチレンを用いる場合には、150℃〜280℃が好ましく、200℃〜255℃がより好ましい。加熱は、フィルムを熱風乾燥炉に通すなどの方法で行うことができる。このようにして製造される結晶性ポリマー未焼成フィルムの厚みは、最終的に製造しようとする結晶性ポリマー微孔性膜の厚みに応じて適宜調整することができ、後の工程で延伸を行う場合には、延伸による厚みの減少も考慮して調整することが必要である。
なお、結晶性ポリマー未焼成フィルムの製造に際しては、「ポリフロンハンドブック」(ダイキン工業株式会社発行、1983年改訂版)に記載されている事項を適宜採用することができる。
【0022】
−非対称加熱工程−
前記非対称加熱工程は、固定された、結晶性ポリマーからなるフィルムの一の表面を、加熱手段により、前記結晶性ポリマーの焼成体の融点以上の温度で加熱手段と接触の状態で加熱することにより、前記フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する工程である。これにより、フィルムを加熱ムラがなく加熱することができ、得られる結晶性ポリマー微孔性膜の平均孔径の面内分布が均一となると共に、結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向に非対称に加熱温度を制御することができる。
【0023】
ここで、前記半焼成とは、結晶性ポリマーをその焼成体の融点以上であり、かつ、その未焼成体の融点+15℃以下の温度で加熱処理することを意味する。
また、本発明において、結晶性ポリマーの未焼成体とは、焼成の加熱処理をしていないものを意味する。また、結晶性ポリマーの融点とは、結晶性ポリマー未焼成体を示差走査熱量計により測定した際に現れる吸熱カーブのピークの温度を意味する。前記焼成体の融点及び未焼成体の融点は、結晶性ポリマーの種類や平均分子量等により変化するが、50℃〜450℃が好ましく、80℃〜400℃がより好ましい。
このような温度は、以下のように考えることができる。例えば、結晶性ポリマーがポリテトラフルオロエチレンである場合には、焼成体の融点が約324℃で未焼成体の融点が約345℃である。従って、半焼成体にするには、ポリテトラフルオロエチレンフィルムの場合、327℃〜360℃が好ましく、335℃〜350℃がより好ましく、例えば345℃の温度に加熱する。半焼成体は、融点約324℃のものと融点約345℃のものが混在している状態である。
【0024】
前記半焼成は、固定された、結晶性ポリマーからなるフィルムの一の表面を、加熱手段により、前記結晶性ポリマーの焼成体の融点以上の温度で加熱手段と接触の状態で加熱することにより行う。
前記結晶性ポリマーからなるフィルムの一の表面は、全表面が固定されていることが好ましい。
前記結晶性ポリマーからなるフィルムの一の表面の固定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくとも一の表面が器材により固定されていることが好ましい。前記器材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、押圧、及び吸引の少なくともいずれかが可能なものが好ましい。
また、前記結晶性ポリマーからなるフィルムの固定面としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、後述する押圧手段を用いる場合は、押圧手段により、前記結晶性ポリマーからなるフィルムを加熱手段に押付け、前記結晶性ポリマーからなるフィルムの両表面を固定面とすることができる。また、後述する吸引手段を用いる場合は、前記結晶性ポリマーからなるフィルムの一の表面を吸引手段により固定面としてもよいし、押圧手段、又は加熱手段を併用して前記結晶性ポリマーからなるフィルムの両表面を固定してもよい。
【0025】
−−押圧手段−−
前記押圧手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ベルト、ロール、シートが好ましく、ベルト、シートがより好ましい。
前記ベルトとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、エンドレスベルトが好ましい。
前記ロールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記シートとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ロールシートが好ましい。
通常、結晶性ポリマーからなるフィルムなどのシートの固定は、搬送中のシートに適度なテンションを加えることで、加熱ロールなどの加熱手段に密着させる方法がとられるが、前記通常の方法を本発明に用いた場合、過剰なテンションが加わると前記結晶性ポリマーからなるフィルムが容易に延伸し、多孔質化してしまうという問題がある。
一方、本発明の前記押圧手段は、前記結晶性ポリマーからなるフィルムを後述する加熱手段に押付けるとともに、回転することによって、結晶性ポリマーからなるフィルムを固定して搬送する。その結果、前記の問題が生じることがなく、また、前記結晶性ポリマーからなるフィルムの加熱手段と接触する面を後述する加熱手段で加熱した際に、前記結晶性ポリマーからなるフィルムの変形を抑えることができ、加熱ムラを防ぐことができる。
【0026】
前記エンドレスベルトの構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、図4、及び図5の押付け用ベルトユニット41などが挙げられる。前記押付け用ベルトユニット41は、内側の両端にエンドレスベルト用ロール45を有するエンドレスベルト43を有する。
【0027】
前記エンドレスベルト、及び前記ロールの素材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記結晶性ポリマーの焼成体の融点以上の温度で耐久性を有し、また、押付け圧力に耐え得る素材が好ましく、例えば、金属などが挙げられる。前記金属としては、例えば、SUS304H、スチールが好適に挙げられる。
前記ロールシートとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記結晶性ポリマーの焼成体の融点以上の温度で耐久性を有し、また、押付け圧力に耐え得る素材が好ましく、例えば、耐熱樹脂などが挙げられる。前記耐熱樹脂としては、例えば、ユーピレックス75S(宇部興産製)が好適に挙げられる。
【0028】
前記押圧手段による押付け圧力としては、前記結晶性ポリマーからなるフィルムを加熱手段と固定させることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01MPa〜5MPaが好ましく、0.1MPa〜3MPaがより好ましく、0.5MPa〜1MPaが特に好ましい。前記押付け圧力が、0.01MPa未満であると、加熱時の前記結晶性ポリマーからなるフィルムの変形を防ぐことができないことがあり、5MPaを超えると、前記結晶性ポリマーからなるフィルムが圧延されてしまうことがある。
前記押付け圧力の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、圧力測定フィルム(例えば、富士フイルム製プレスケールなど)を用いて測定することができる。
【0029】
前記エンドレスベルトの大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、周長400mm〜3,000mmが好ましく、500mm〜2,000mmがより好ましく、600mm〜1,500mmが特に好ましい。前記エンドレスベルトの大きさが、400mm未満であると、前記結晶性ポリマーからなるフィルムとエンドレスベルトとの接触面積が小さく、加熱ムラが生じることがあり、3,000mmより大きいと、設備が大型化しすぎる。一方、前記エンドレスベルトの大きさが特に好ましい範囲内であると、加熱ムラを防止することができ、平均孔径の面内分布が均一な結晶性ポリマー微孔性膜を得ることができる。
前記エンドレスベルト用ロールの大きさとしては、特に制限はなく、ベルトの大きさに応じて適宜選択することができる。
【0030】
前記ロールの直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50mm〜700mmが好ましく、100mm〜600mmがより好ましく、150mm〜500mmが特に好ましい。前記ロールの直径が、50mm未満であると、前記結晶性ポリマーからなるフィルムとロールとの接触面積が小さく、加熱ムラが生じることがあり、700mmより大きいと、設備が大型化しすぎる。一方、前記ロールの直径が特に好ましい範囲内であると、加熱ムラを防止することができ、平均孔径の面内分布が均一な結晶性ポリマー微孔性膜を得ることができる。
【0031】
前記ロールシートの大きさとしては、結晶性ポリマーフィルムを十分に覆えるサイズであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、幅方向では結晶性ポリマーフィルム幅に対して、100%〜200%が好ましく、105%〜150%がより好ましく、110%〜130%が特に好ましい。全長では、結晶性ポリマーフィルムロール全長に対して、100%〜200%が好ましく、105%〜150%がより好ましく、110%〜130%が特に好ましい。前記ロールシートの大きさが結晶性ポリマーフィルム幅及び結晶性ポリマーフィルムロール全長に対して、100%未満であると、前記結晶性ポリマーからなるフィルムとロールシートとの接触面積が小さく、加熱ムラが生じることがあり、200%より大きいと、設備が大型化しすぎる。一方、前記ロールシートの大きさが特に好ましい範囲内であると、加熱ムラを防止することができ、平均孔径の面内分布が均一な結晶性ポリマー微孔性膜を得ることができる。
【0032】
−−加熱手段−−
前記加熱手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくとも表面が加熱可能なベルト、及びロールのいずれかが好ましい。
前記少なくとも表面が加熱可能なベルトとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、エンドレスベルト装置が好ましい。
前記少なくとも表面が加熱可能なロールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ロール加熱装置が好ましい。
【0033】
前記エンドレスベルト加熱装置の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、図4、図6のエンドレスベルト加熱装置などが挙げられる。
図4のエンドレスベルト加熱装置46は、内側の両端に非加熱ロール49を有するエンドレスベルト48と、前記エンドレスベルト48の内側にヒーター47とを有する。前記エンドレスベルト48は、ヒーター47で加熱され、前記結晶性ポリマーからなるフィルムを搬送しながら、その表面で前記結晶性ポリマーからなるフィルム加熱することができる。
図6のエンドレスベルト加熱装置65は、内側の両端に加熱ロール67を有するエンドレスベルト66を有する。前記エンドレスベルト66は、加熱ロール67で加熱され、前記結晶性ポリマーからなるフィルムを搬送しながら、その表面で前記結晶性ポリマーからなるフィルム加熱することができる。
【0034】
前記エンドレスベルト加熱装置に用いるエンドレスベルトの素材、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、上述した押圧手段に記載したものと同様とすることができる。
前記エンドレスベルト加熱装置に用いる非加熱ロールの大きさとしては、特に制限はなく、ベルトの大きさに応じて適宜選択することができる。
【0035】
前記エンドレスベルト加熱装置に用いるヒーターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、抵抗加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱、誘導加熱、などが挙げられる。
【0036】
前記エンドレスベルト加熱装置に用いる加熱ロールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、誘導発熱ロールが好ましい。
前記誘導発熱ロールは、ロール内部のコイルによりロールシェルが誘導発熱する。具体的には、交流電流が誘導コイルに供給されると、コイルに磁束が発生する。この磁束の作用でコイルに対向したロールシェル(外筒)の内側に誘導電流が誘起され、その抵抗熱によってロール自身が自己発熱(誘導発熱)する。油循環式や温水循環式など、他の間接加熱と異なり、ロール自体が直接発熱するため必要に応じた高温の熱エネルギーを効率よく得ることができる。
また、ロール表面は、ヒートパイプ機構により、幅方向も円周方向も均一に温度を高精度に保持できる。
このような誘導発熱ロールとしては、市販品を用いることができ、例えば由利ロール株式会社製「誘導発熱方式高温高速カレンダー機(由利ロール株式会社内に設置)」に搭載の誘導発熱金属ロール、などが挙げられる。
前記エンドレスベルト加熱装置に用いる加熱ロールの大きさとしては、特に制限はなく、ベルトの大きさに応じて適宜選択することができる。
【0037】
前記ロール加熱装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱ロールを用いることができる。
前記ロール加熱装置に用いる加熱ロールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、上述したベルト加熱装置に記載した誘導発熱ロールが好ましい。
前記ロール加熱装置に用いる加熱ロールの直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50mm〜700mmが好ましく、100mm〜600mmがより好ましく、150mm〜500mmが特に好ましい。前記ロールの直径が、50mm未満であると、前記結晶性ポリマーからなるフィルムと加熱ロールとの接触面積が小さく、加熱ムラが生じることがあり、700mmより大きいと、設備が大型化しすぎる。一方、前記加熱ロールの直径が特に好ましい範囲内であると、加熱ムラを防止することができ、平均孔径の面内分布が均一な結晶性ポリマー微孔性膜を得ることができる。
【0038】
前記押圧手段と、前記加熱手段との組み合わせとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、前記加熱手段は、後述する吸引手段により固定された前記結晶性ポリマーからなるフィルムの表面に接触させて使用してもよい。
【0039】
−−吸引手段−−
前記吸引手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表面に複数の孔部が形成され、表面から内部に吸引可能なベルト、及びロールのいずれかが好ましく、表面に複数の孔部が形成され、表面から内部に吸引可能なベルトがより好ましい。
前記表面に複数の孔部が形成され、表面から内部に吸引可能なベルトとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、サクションベルトが好ましい。
前記表面に複数の孔部が形成され、表面から内部に吸引可能なロールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、サクションロールが好ましい。
前記サクションベルト、及びサクションロールは、前記吸引を行うとともに、回転することによって、前記結晶性ポリマーからなるフィルムを表面に固定して搬送する。その結果、前記結晶性ポリマーからなるフィルムの加熱手段と接触する面を前記加熱手段で加熱した際に、前記結晶性ポリマーからなるフィルムの変形を抑えることができ、加熱ムラを防ぐことができる。
また、前記吸引手段は、少なくとも表面が加熱可能なベルト、及びロールのいずれかであることが好ましい。
【0040】
前記サクションベルトの構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、図8のサクションベルトユニット81などが挙げられる。前記サクションベルトユニット81は、内側の両端に加熱ロール82と、表面に吸引孔83とを有するエンドレスベルト84と、前記エンドレスベルト84の内側に真空ボックス85とを有する。前記エンドレスベルト84の内部は、真空ボックス85で吸引することにより減圧になり、前記エンドレスベルト84は、前記結晶性ポリマーからなるフィルムを搬送しながら、その表面で前記結晶性ポリマーからなるフィルムを固定することができる。また、前記エンドレスベルト84は、前記加熱ロール82で加熱され、前記結晶性ポリマーからなるフィルムを搬送しながら、その表面で前記結晶性ポリマーからなるフィルム加熱することができる。
【0041】
前記サクションロールの構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、図9のサクション加熱ロールユニット91などが挙げられる。前記サクション加熱ロールユニット91は、内側に真空負荷可能な空洞部と、表面に吸引孔92とを有するロール93と、前記ロール93に接続された真空装置(不図示)を有する。前記ロール93の内部は、前記真空装置で吸引することにより減圧になり、前記ロール93は、回転しながら、その表面で前記結晶性ポリマーからなるフィルムを固定することができる。
また、前記ロール93は、それ自体を発熱させて加熱手段としてもよく、加熱装置を通じて加熱して加熱手段としてもよい。前記ロール93は、前記結晶性ポリマーからなるフィルムを搬送しながら、その表面で前記結晶性ポリマーからなるフィルム加熱することができる。
【0042】
前記サクションベルト、及びサクションロールの素材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記結晶性ポリマーの焼成体の融点以上の温度で耐久性を有する素材が好ましく、例えば、金属などが挙げられる。前記金属としては、例えば、SUS304Hが好適に挙げられる。
【0043】
前記サクションベルト、及びサクションロールの吸引孔の軸方向に垂直な断面の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、6角形、4角形、円形、楕円形、矩形、メッシュ、不定形などが挙げられるが、これらの中でも、円形が好ましい。
前記サクションベルト、及びサクションロールの吸引孔の最大径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1mm〜10mmが好ましく、0.2mm〜7mmがより好ましく、0.3mm〜5mmが特に好ましい。前記サクションベルト、及びサクションロールの吸引孔の最大径が10mmより大きいと、前記結晶性ポリマーフィルムに吸引孔の跡が残ることがある。
前記サクションベルト、及びサクションロールの吸引孔のピッチ(隣接する吸引孔における中心同士の平均距離)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5mm〜50mmが好ましく、1mm〜40mmがより好ましく、5mm〜20mmが特に好ましい。前記サクションベルト、及びサクションロールの吸引孔のピッチが、0.5mm未満であると、開孔率が大きくなりすぎ、サクションベルト、及びサクションロールの強度が不足することがあり、50mmより大きいと、吸引力が弱まったり、エアだまりが生じやすくなったりすることがある。
前記サクションベルト、及びサクションロールの吸引孔の並び方としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記サクションベルト、及びサクションロールの吸引孔の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ドリルで穿孔する方法などが挙げられる。
【0044】
前記サクションベルト、及びサクションロールの開孔率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01%〜50%が好ましく、0.05%〜20%がより好ましく、0.1%〜10%が特に好ましい。前記サクションベルト、及びサクションロールの開孔率が、0.01%未満であると、吸引力が不足することがあり、50%より大きいと、サクションベルト、及びサクションロールの強度が不足することがある。
なお、前記サクションベルト、及びサクションロールの開孔率とは、前記サクションベルト、及びサクションロールの全表面における孔部の占める面積をいう。
【0045】
前記サクションベルト、及びサクションロールの吸引力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、大気圧と、前記サクションベルト、及びサクションロールの内部圧力との差が、0.5KPa〜60KPaが好ましく、1KPa〜40KPaがより好ましく、3KPa〜20KPaが特に好ましい。前記大気圧と、サクションベルト、及びサクションロールの内部圧力との差が、0.5KPa未満であると、前記結晶性ポリマーフィルムをサクションベルト、及びサクションロールに固定することが困難となることがあり、60KPaより大きいと、前記結晶性ポリマーフィルムに吸引跡がつくことがある。
【0046】
前記サクションベルト、及びサクションロールの表面は、前記結晶性ポリマーからなるフィルムに吸引跡がつかない加工が施されていることが好ましい。前記加工としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記サクションベルト、及びサクションロールの表面を、前記サクションベルト、及びサクションロールの吸引孔より小さい吸引孔を有する層で被覆するなどが挙げられる。
【0047】
前記サクションベルトのエンドレスベルトの大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、周長400mm〜3,000mmが好ましく、500mm〜2,000mmがより好ましく、600mm〜1,500mmが特に好ましい。前記エンドレスベルトの大きさが、400mm未満であると、前記結晶性ポリマーからなるフィルムとエンドレスベルトとの接触面積が小さく、加熱ムラが生じることがあり、3,000mmより大きいと、設備が大型化しすぎる。一方、前記ベルトの大きさが特に好ましい範囲内であると、加熱ムラを防止することができ、平均孔径の面内分布が均一な結晶性ポリマー微孔性膜を得ることができる。
前記サクションベルトに用いるサクションベルト用ロールの大きさとしては、特に制限はなく、サクションベルトの大きさに応じて適宜選択することができる。
前記サクションロール用のロールの直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50mm〜700mmが好ましく、100mm〜600mmがより好ましく、150mm〜500mmが特に好ましい。前記ロールの直径が、50mm未満であると、前記結晶性ポリマーからなるフィルムとロールとの接触面積が小さく、加熱ムラが生じることがあり、700mmより大きいと、設備が大型化しすぎる。一方、前記ロールの直径が特に好ましい範囲内であると、加熱ムラを防止することができ、平均孔径の面内分布が均一な結晶性ポリマー微孔性膜を得ることができる。
【0048】
前記サクションベルト、及びサクションロールを加熱する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記サクションベルト、及びサクションロールの内部、又は外部から熱媒により加熱する方法、前記サクションベルト、及びサクションロールの内部、又は外部から加熱装置により加熱する方法、前記サクションベルト、及びサクションロールの外部から熱風を吹き付ける手段により加熱する方法、電磁誘導により前記サクションベルト、及びサクションロール自体を発熱させる方法が挙げられる。これらの中でも、電磁誘導により前記サクションベルト、及びサクションロール自体を発熱させる方法が好ましい。
前記サクションベルト、及びサクションロールの内部、又は外部から熱媒により加熱する方法の熱媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱オイルなどが挙げられる。
前記サクションベルト、及びサクションロールの内部、又は外部から加熱装置により加熱する方法の加熱装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電気ヒーターなどが挙げられる。
前記サクションベルト、及びサクションロールの外部から熱風を吹き付ける手段により加熱する方法の熱風を吹き付ける手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱風ブロワー、熱風ノズルなどが挙げられる。
前記電磁誘導により前記サクションベルト、及びサクションロール自体を発熱させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上述したベルト加熱装置に記載した誘導発熱ロールが挙げられる。なお、前記サクションベルト自体を発熱させる方法には、上述したベルト加熱装置のようにエンドレスベルトの内側の両端の加熱ロールを誘導発熱ロールとする態様も含まれる。
【0049】
−−加熱方法−−
上記したように固定された、結晶性ポリマーからなるフィルムの一の表面を、加熱手段により、前記結晶性ポリマーの融点以上の温度で加熱手段と接触の状態で加熱することにより、厚み方向に非対称に加熱温度を制御することができ、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を容易に製造することができる。
また、前記結晶性ポリマーからなるフィルムの厚み方向の温度勾配としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、加熱面と非加熱面との温度差が、30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。
【0050】
前記加熱手段の温度としては、特に制限はなく、上記の半焼成体にする際の温度に応じて適宜選択することができる。
前記加熱手段による前記結晶性ポリマーからなるフィルムの加熱面温度の制御方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱手段の出力、搬送速度、雰囲気温度などで制御することができる。
前記加熱手段に前記結晶性ポリマーからなるフィルムを接触させる時間としては、特に制限はなく、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間を適宜選択することができるが、5秒間〜120秒間が好ましく、10秒間〜90秒間がより好ましく、20秒間〜80秒間が特に好ましい。
【0051】
前記非対称加熱工程における加熱は、連続的に行ってもよく、何度かに分割して間欠的に行ってもよい。
前記加熱を連続的に行う場合、前記結晶性ポリマーからなるフィルムの加熱面と、非加熱面とで温度勾配を保持するため、加熱面の加熱と同時に非加熱面を冷却することが好ましい。
前記非加熱面を冷却する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、冷風を吹き付ける方法、冷媒に接触させる方法、冷却した材料に接触させる方法、放冷による方法などが挙げられる。これらの中でも、冷却した材料に接触させる方法が好ましい。
前記冷却した材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、加熱面の加熱と同様に、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である点で、冷却ロールが好ましい。前記冷却ロールの温度としては、特に制限はなく、上記の半焼成体にする際の温度と差を生じさせるように適宜選択することができる。前記冷却ロールに前記結晶性ポリマーからなるフィルムを接触させる時間としては、特に制限はなく、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間を適宜選択することができるが、例えば、加熱工程と同時進行で行うことを前提とすると、5秒間〜120秒間が好ましく、10秒間〜90秒間がより好ましく、20秒間〜80秒間が特に好ましい。
また、前記加熱を間欠的に行う場合にも、前記結晶性ポリマーからなるフィルムの加熱面を間欠的に加熱、及び非加熱面を冷却し、非加熱面の温度上昇を抑制することが好ましい。
【0052】
−延伸工程−
半焼成したフィルムは、次いで延伸することが好ましい。延伸は、長手方向と幅方向の両方について行うことが好ましい。長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行ってもよいし、同時に二軸延伸を行ってもよい。
長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行う場合には、まず、長手方向の延伸を行ってから幅方向の延伸を行うことが好ましい。
前記長手方向の延伸倍率は、3倍〜100倍が好ましく、4倍〜90倍がより好ましく、5倍〜80倍が特に好ましい。長手方向の延伸温度は、100℃〜320℃が好ましく、200℃〜310℃がより好ましく、250℃〜300℃が特に好ましい。
前記幅方向の延伸倍率は、3倍〜100倍が好ましく、5倍〜90倍がより好ましく、7倍〜70倍が更に好ましく、10倍〜40倍が特に好ましい。幅方向の延伸温度は、100℃〜320℃が好ましく、200℃〜310℃がより好ましく、250℃〜300℃が特に好ましい。
面積延伸倍率は、10倍〜300倍が好ましく、20倍〜280倍がより好ましく、30倍〜200倍が特に好ましい。延伸を行う際には、予め延伸温度以下の温度にフィルムを予備加熱しておいてもよい。
【0053】
なお、延伸後に、必要に応じて熱固定を行うことができる。該熱固定の温度は、通常、延伸温度以上で結晶性ポリマー焼成体の融点未満で行うことが好ましい。
【0054】
−親水化工程−
前記親水化工程は、延伸後のフィルムを親水化処理する工程である。
前記親水化処理としては、(1)延伸後のフィルムにケトン類を含浸させた後、紫外線レーザーを照射する処理、(2)化学的エッチング処理、などが挙げられる。
【0055】
前記(1)の延伸後のフィルムにケトン類を含浸させた後、紫外線レーザーを照射する処理に使用しうる水溶性ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これらの中でも、アセトンが特に好ましい。結晶性ポリマー微孔性膜に含浸する段階での上記水溶性ケトンの濃度は結晶性ポリマー微孔性膜の材質及び細孔の大きさによって若干変動するが、アセトン及びメチルエチルケトンの場合、好ましくは85質量%〜100質量%である。また、紫外レーザー光照射時の結晶性ポリマー微孔性膜内部の水溶性ケトンの濃度は、使用する紫外レーザー光の波長における吸光度として0.1〜10が好ましい。例えばこれはアセトンの場合、光源としてKrFを使用する場合は、0.05質量%〜5質量%に相当する。吸光度として0.1〜6が好ましく、0.5〜5がより好ましい。この濃度範囲に調整された水溶性ケトンを含んだ結晶性ポリマー微孔性膜に紫外レーザー光を照射する場合には、従来よりもかなり低い照射量で既に満足すべき親水化効果が得られる。
【0056】
一般的には、沸点が50℃〜100℃の水溶性ケトンを用いる場合には、紫外レーザー照射による親水化処理効率が高く、親水化処理後の溶剤除去も容易であるが、沸点が100℃よりも高い水溶性ケトンを用いる場合には、親水化処理後のケトン除去が困難となる。
【0057】
水溶性ケトンを含浸した結晶性ポリマー微孔性膜に紫外レーザー光を照射して親水化処理するに当たっては、均一で高い親水化処理効果を得るために、水溶性ケトンを含浸した結晶性ポリマー微孔性膜に水を含浸させて結晶性ポリマー微孔性膜中の水溶性ケトン水溶液の濃度を、使用する紫外レーザー光の波長における吸光度が0.1〜10、好ましくは0.1〜6、特に好ましくは0.5〜5となるように調整する。前記吸光度が0.1よりも低い場合には十分な親水化処理効果が得難くなることがあり、10よりも高くなると、水溶液による光エネルギーの吸収が大きくなり、微孔内部までの十分な親水化処理が困難となることがある。
結晶性ポリマー微孔性膜中の水溶性ケトン水溶液の濃度を調整するために水を含浸させる方法としては、同じケトンの極低濃度の水溶液中に浸漬するのが好ましい。
ここで、前記吸光度とは、次式で定義される量を意味する。
吸光度≡log10(I/I)=εcd
ただし、εはケトンの吸光係数、cはケトン水溶液の濃度(モル/dm)、dは透過光路長さ(cm)、Iは溶媒単独の光透過強度、Iはその溶液の光透過強度を表す。本発明で、吸光度がxとなる濃度とは、dが1cmの測定セルで測定した場合に吸光度がxとなるような濃度を意味する。ただし、dが1cmでは透過光量が少なすぎて吸光度の測定が困難であるような高い濃度の場合は、dが0.2cmの測定セルを使用して得られた吸光度を5倍したものを吸光度とした。
【0058】
前記水溶性ケトンの水溶液を結晶性ポリマー微孔性膜に含浸させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、浸漬法、噴霧法、塗布法等を結晶性ポリマー微孔性膜の形態や寸法等に応じて適宜採用すればよいが、浸漬法が一般的である。
前記水溶性ケトン又はその水溶液の含浸温度は、結晶性ポリマー微孔性膜の微孔内への水溶液の拡散速度の観点からは10℃〜40℃が好ましい。含浸温度が10℃よりも低い場合には、微孔内部へ水溶液を十分に拡散させるのに比較的長い時間が必要となり、また、40℃よりも高くなると、水溶性ケトンの蒸発速度が高くなり、好ましくない。
【0059】
前記含浸処理に付した結晶性ポリマー微孔性膜は含浸されている水溶性ケトンの濃度を上記範囲に調整したのち以下の紫外レーザー光照射処理に付される。
紫外レーザー光としては、波長が190nm〜400nm以下のものが好ましく、アルゴンイオンレーザー光、クリプトンイオンレーザー光、Nレーザー光、色素レーザー光、及びエキシマレーザー光等が例示されるが、エキシマレーザー光が好適である。これらの中でも、高出力が長時間にわたって安定して得られるKrFエキシマレーザー光(波長:248nm)、ArFエキシマレーザー光(波長:193nm)及びXeClエキシマレーザー光(308nm)が特に好ましい。
前記エキシマレーザー光照射は、通常、室温、大気中で行うが、窒素雰囲気中で行うのが好ましい。また、エキシマレーザー光の照射条件は、フッ素樹脂の種類及び所望の表面改質の程度によって左右されるが、一般的な照射条件は次の通りである。
・フルエンス:10mJ/cm/パルス以上
・入射エネルギー:0.1J/cm以上
【0060】
特に好適なKrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、及びXeClエキシマレーザー光の常用される照射条件は次の通りである。
・KrFフルエンス:50〜500mJ/cm/パルス
・入射エネルギー:0.25〜3.0J/cm
・ArFフルエンス:10〜200mJ/cm/パルス
・入射エネルギー:0.1〜3.0J/cm
・XeClフルエンス:50〜500mJ/cm/パルス
・入射エネルギー:3.0〜30.0J/cm
【0061】
前記(2)の化学的エッチング処理としては、アルカリ金属を用いて、結晶性ポリマー微孔性膜を構成するフッ素樹脂を変性し、その変性された部分を除去する酸化分解処理が挙げられる。
前記酸化分解処理は、例えば、有機アルカリ金属溶液を用いて行われる。結晶性ポリマー微孔性膜に、有機アルカリ金属溶液により化学的エッチング処理を施すと、表面は変性され親水性が付与されるとともに、褐色化した層(褐色層)が形成される。この褐色層は、フッ化ナトリウム、炭素−炭素二重結合を有するフッ素樹脂の分解物、これらとナフタレン、アントラセンとの重合物等からなるが、これらは、脱落、分解、溶出等により濾過液に混入する場合があるので、除去することが好ましい。これらの除去は、過酸化水素や次亜塩素酸ソーダ、オゾン等による酸化分解によりすることができる。
【0062】
前記化学的エッチング処理は、有機アルカリ金属溶液等を用いて行うことができるが、具体的には、有機アルカリ金属溶液に結晶性ポリマー微孔性膜を浸漬することにより行うことができる。この場合、結晶性ポリマー微孔性膜の表面側から化学的エッチング処理が行われるので、膜の両表面近傍のみに化学的エッチング処理を施すことも可能である。しかし、膜の保水性をより高めるためには、両表面近傍のみではなく、結晶性ポリマー微孔性膜の内部まで化学的エッチング処理を施すことが好ましい。結晶性ポリマー微孔性膜の内部まで化学的エッチング処理を施しても、分離膜としての機能の低下は小さい。
前記化学的エッチング処理に用いられる有機アルカリ金属溶液としては、例えばメチルリチウム、金属ナトリウム−ナフタレン錯体、金属ナトリウム−アントラセン錯体のテトラヒドロフラン等の有機溶剤溶液、金属ナトリウム−液体アンモニアの溶液等が挙げられる。これらの中でも、ナフタレンを芳香族アニオンラジカルとした金属ナトリウムとの錯体の溶液が一般に広く用いられているが、結晶性ポリマー微孔性膜の内部まで化学的エッチング処理を施こすためには、ベンゾフェノン、アントラセン、ビフェニルを芳香族アニオンラジカルとして用いることが好ましい。
【0063】
<結晶性ポリマー微孔性膜>
本発明の前記結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法により製造される結晶性ポリマー微孔性膜は、平均孔径の面内分布が均一であることを1つの特徴とする。
また、前記結晶性ポリマー微孔性膜の平均孔径の面内バラツキとしては、変動率20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。前記変動率が20%を超えると、孔径のバラツキが大きすぎるため、捕捉粒径が大きくなってしまうことがある。
ここで、前記平均孔径の面内分布は、バブルポイント測定値で以下の方法により評価することができる。25mm径のシリンジホルダーを用い、湿潤液としてIPAを用い、初期バブルポイント値(最大孔径に相当する)をもって測定値とした。微孔性膜を一辺400mmの正方形に切り抜き、正方形内を一辺40mmの正方形で100等分し、各部分のバブルポイント測定を行い、平均値及び変動率を求めることができる。
前記変動率は、測定値の平均値に対するその標準偏差の比により表される。n個のデータ(X1、X2・・・・Xn)の平均値をXm、標準偏差をSxとすると、変動率Vxは次式により算出できる。
変動率[%];Vx=Sx/Xm×100
【0064】
また、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、非加熱面の平均孔径が加熱面の平均孔径よりも大きいことを1つの特徴とする。
また、前記結晶性ポリマー微孔性膜は、結晶性ポリマー微構成膜の膜厚みをXとし、非加熱面から、深さ方向X/10の厚み部分における平均孔径をP1とし、深さ方向9X/10の厚み部分における平均孔径をP2としたとき、P1/P2が2〜10,000が好ましく、3〜100がより好ましく、4.5〜100が特に好ましい。
また、前記結晶性ポリマー微孔性膜は、非加熱面と加熱面の平均孔径の比(非加熱面/加熱面比)が5倍〜30倍が好ましく、10倍〜25倍がより好ましく、15倍〜20倍が更に好ましい。
【0065】
ここで、前記平均孔径は、例えば走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型、いずれも日立製作所製)で膜表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜5,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んで結晶性ポリマー繊維のみからなる像を得て、その像を演算処理することにより平均孔径が求められる。
【0066】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜には、上記の特徴に加えて更に非加熱面から加熱面に向けて平均孔径が連続的に変化している態様(第1の態様)と、上記の特徴に加えて更に単層構造である態様(第2の態様)の両方が含まれる。これらの付加的な特徴を更に加えることによって、濾過寿命を効果的に改善することができる。
【0067】
第1の態様でいう「非加熱面から加熱面に向けて平均孔径が連続的に変化している」とは、横軸に非加熱面からの厚み方向の距離d(表面からの深さに相当)をとり、縦軸に平均孔径Dをとったときに、グラフが1本の連続線で描かれることを意味する。非加熱面(d=0)から加熱面(d=膜厚)に至るまでのグラフは傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものであってもよいし、傾きが負の領域と傾きがゼロの領域(dD/dt=0)が混在するものであってもよいし、傾きが負の領域と正の領域(dD/dt>0)が混在するものであってもよい。好ましいのは、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものであるか、傾きが負の領域と傾きがゼロの領域(dD/dt=0)が混在するものである。更に好ましいのは、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものである。
【0068】
傾きが負の領域の中には少なくとも膜の非加熱面が含まれることが好ましい。傾きが負の領域(dD/dt<0)においては、傾きが常に一定であっても異なっていてもよい。例えば、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものである場合、膜の非加熱面におけるdD/dtよりも膜の加熱面におけるdD/dtが大きい態様をとることができる。また、結晶性ポリマー微孔性膜の非加熱面から加熱面に向かうにしたがって徐々にdD/dtが大きくなる態様(絶対値が小さくなる態様)をとることができる。
【0069】
第2の態様でいう「単層構造」からは、2以上の層を貼り合わせたり積層したりすることにより形成される複層構造は除外される。即ち、第2の態様でいう「単層構造」とは、複層構造に存在する層と層の間の境界を有しない構造を意味する。第2の態様では、膜中に、非加熱面の平均孔径よりも小さくかつ加熱面の平均孔径よりも大きな平均孔径を有する面が存在することが好ましい。
【0070】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、第1の態様の特徴と第2の態様の特徴を両方とも兼ね備えているものが好ましい。即ち、結晶性ポリマー微孔性膜の非加熱面の平均孔径が加熱面の平均孔径よりも大きくて、非加熱面から加熱面に向けて平均孔径が連続的に変化しており、かつ、単層構造であるものが好ましい。このような結晶性ポリマー微孔性膜であれば、非加熱面側から濾過を行ったときに一段と効率よく微粒子を捕捉することができ、濾過寿命も大きく改善することができるとともに、容易かつ安価に製造することもできる。
【0071】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の膜厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm〜300μmが好ましく、5μm〜100μmがより好ましく、10μm〜80μmが特に好ましい。
【0072】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、大面積使用時でも粒子を漏れがなく捕捉することができる。そのため、前記結晶性ポリマー微孔性膜の面積としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.04mより大きく10m以下が好ましく、0.1m以上5m以下がより好ましい。
【0073】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、様々な用途に用いることができるが、特に、以下に説明する濾過用フィルタとして好適に用いることができる。
【0074】
(濾過用フィルタ)
本発明の濾過用フィルタは、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いることを特徴とする。
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を濾過用フィルタとして用いるときは、その非加熱面(平均孔径が大きい面)をインレット側として濾過を行う。即ち、平均孔径の大きな表面側をフィルタの濾過面に使用する。このように、平均孔径が大きい面(非加熱面)をインレット側として濾過を行うことにより、効率よく微粒子を捕捉することができる。
また、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は比表面積が大きいため、その表面から導入された微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着又は付着によって除かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高い濾過効率を維持することができる。
【0075】
本発明の濾過用フィルタは、差圧0.1kg/cmとして濾過を行った時に、少なくとも5ml/cm・min以上の濾過が可能なものとすることができる。
本発明の濾過用フィルタの形状としては、ろ過膜をひだ折りするプリーツ型、ろ過膜をのり巻き状にするスパイラル型、円板状のろ過膜を積層させるフレーム・アンド・プレート型、ろ過膜を管状にするチューブ型などがある。これらの中でも、カートリッジあたりのフィルタの濾過に使用する有効表面積を増大させることができる点から、プリーツ型が特に好ましい。
また、劣化した濾過膜を取り換える際にフィルターエレメントのみを取り換えるエレメント交換式フィルターカートリッジと、フィルターエレメントをろ過ハウジングと一体に加工しハウジングごと使い捨てのタイプにしたカプセル式のフィルターカートリッジとに分類される。
【0076】
ここで、図1はエレメント交換式のプリーツフィルターカートリッジエレメントの構造を示す展開図である。精密ろ過膜103は2枚の膜サポート102、104によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するコアー105の廻りに巻き付けられている。その外側には外周カバー101があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端にはエンドプレート106a、106bにより、精密ろ過膜がシールされている。エンドプレートはガスケット107を介してフィルターハウジング(不図示)のシール部と接する。ろ過された液体はコアーの集液口から集められ、流体出口108から排出される。
【0077】
カプセル式のプリーツフィルターカートリッジを図2及び図3に示す。
図2はカプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込まれる前の精密ろ過膜フィルターエレメントの全体構造を示す展開図である。精密ろ過膜2は2枚のサポート1、3によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するフィルターエレメントコア7の廻りに巻き付けられている。その外側にはフィルターエレメントカバー6があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端には上部エンドプレート4、下部エンドプレート5により、精密ろ過膜がシールされている。
図3は、フィルターエレメントがハウジングに組込まれて一体化されたカプセル式のプリーツフィルターカートリッジの構造を示す。フィルターエレメント10はハウジングベースとハウジングカバーよりなるハウジング内に組込まれている。下部エンドプレートはOリング8を介してハウジングベース中心部にある集水管(不図示)にシールされている。液体は液入口ノズル13からハウジング内に入り、フィルターメディア9を通過し、フィルターエレメントコア7の集液口から集められ、液出口ノズル14から排出される。ハウジングベースとハウジングカバーは通常溶着部17で液密に熱融着される。
なお、図3中、「11」はハウジングカバーを示し、「12」はハウジングベースを示し、「15」はエアーベントを示し、「16」はドレンを示す。
【0078】
図2は、下部エンドプレートとハウジングベースとのシールをOリング8を介して行う事例を示しているが、下部エンドプレートとハウジングベースとのシールは熱融着や接着剤によって行われることもある。またハウジングベースとハウジングカバーとのシールも熱融着の他に、接着剤を用いる方法も可能である。図1〜3は精密ろ過フィルターカートリッジの具体例であり、本発明はこれらの図に限定されるわけではない。
【0079】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタは、このように濾過機能が高くて長寿命であるという特徴を有することから、濾過装置をコンパクトにまとめることができる。従来の濾過装置では、多数の濾過ユニットを並列的に使用して濾過寿命の短さに対処していたが、本発明の濾過用フィルタを用いれば並列的に使用する濾過ユニットの数を大幅に減らすことができる。また、濾過用フィルタの交換期間も大幅に延ばすことができるため、メンテナンスにかかる費用や時間を節減できる。
【0080】
本発明の濾過用フィルタは、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられる。特に、本発明の濾過用フィルタは耐熱性及び耐薬品性に優れているため、従来の濾過用フィルタでは対応できなかった高温濾過や反応性薬品の濾過にも効果的に用いられる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
<結晶性ポリマー微孔性膜の作製>
数平均分子量が620万のポリテトラフルオロエチレンファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、「ポリフロン・ファインパウダーF104U」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパー」)27質量部を加え、丸棒状にペースト押出しを行った。これを、60℃に加熱したカレンダーロールにより30m/分の速度でカレンダー掛けして、ポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。このフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚み120μm、平均幅150mm、比重1.55のポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムを作製した。
【0083】
図4の片面加熱装置を用いて、得られたポリテトラフルオロエチレンフィルムの一方の面を押付け用ベルトユニット(図4の「41」)により、345℃に加熱したエンドレスベルト(図4の「48」)に押付け圧力1MPaで30秒間接触させて、半焼成フィルムを作製した。
【0084】
図4の片面加熱装置の構成を以下に示す。
・エンドレスベルト加熱装置(図4の「46」)
ヒーター(図4の「47」):
出力:5KW、サイズ:MD 1,000mm、幅:300mm
非加熱ロール(図4の「49」):
直径:100mm、材質:スチール
エンドレスベルト(図4の「48」):
幅:300mm、長さ:2,314mm、厚み:0.2mm、材質:SUS304H
・押付け用ベルトユニット(図4の「41」)
エンドレスベルト(図4の「43」):
幅:300mm、長さ:2,314mm、厚み:0.2mm、材質:SUS304H
エンドレスベルト用ロール(図4の「45」):
直径:100mm、材質:スチール
【0085】
得られた半焼成フィルムを270℃にて長手方向に13倍にロール間延伸し、一旦巻き取りロールに巻き取った。その後、フィルムを305℃に予備加熱した後、両端をクリップで挟み、270℃で幅方向に12倍延伸した。その後、380℃で熱固定を行った。得られた延伸フィルムの面積延伸倍率は、伸長面積倍率で120倍であった。以上により、実施例1のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0086】
(実施例2)
実施例1における片面加熱装置を図5に示す片面加熱装置に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0087】
図5の片面加熱装置の構成を以下に示す。
・加熱ロール(加熱装置)(図5の「51」)
誘導加熱方式、径:300mm、幅:300mm、材質:スチール
・押付け用ベルトユニット(図5の「41」)
エンドレスベルト(図5の「43」):
幅:300mm、長さ:1,800mm、厚み:0.2mm、材質:SUS304H
エンドレスベルト用ロール(図5の「45」):
直径:100mm、材質:スチール
【0088】
(実施例3)
実施例1における片面加熱装置を図6に示す片面加熱装置に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0089】
図6の片面加熱装置の構成を以下に示す。
・エンドレスベルト加熱装置(図6の「65」)
エンドレスベルト(図6の「66」):
幅:300mm、長さ:2,100mm、厚み:0.2mm、材質:SUS304H
加熱ロール(2個)(図6の「67」):
誘導加熱方式、幅:300mm、径:200mm、材質:スチール
・スチールロール(押付け手段)(図6の「61」)
径:300mm、幅:300mm、材質:スチール
【0090】
(実施例4)
実施例1における片面加熱装置を図7に示す片面加熱装置に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0091】
図7の片面加熱装置の構成を以下に示す。
・加熱ロール(加熱装置)(図7の「51」)
誘導加熱方式、径:300mm、幅:300mm、材質:スチール
・押付け用ロールシート(図7の「71」)
ユーピレックス75S(宇部興産製)
なお、図7中、「73」は結晶性ポリマーからなるフィルムを示す。
【0092】
(実施例5)
実施例1における片面加熱装置を図8に示す片面加熱装置に変更し、以下のようにして半焼成フィルムを作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例5のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
図8の片面加熱装置を用いて、得られたポリテトラフルオロエチレンフィルムの一方の面をサクションベルトユニット(図8の「81」)の345℃に加熱したエンドレスベルト(図8の「84」)に固定しながら、30秒間加熱して、半焼成フィルムを作製した。
【0093】
図8の片面加熱装置の構成を以下に示す。
・サクションベルトユニット(吸引手段、加熱手段)(図8の「81」)
吸引孔(図8の「83」):
孔径:0.5mm、中心間距離:MD 10mm、TD 10mm
エンドレスベルト(図8の「84」):
幅:300mm、長さ:2,100mm、厚み:0.2mm、材質:SUS304H、開孔率:0.79%
真空ボックス(図8の「85」):
長さ:1,000mm、幅:280mm、吸引力:15KPa
加熱ロール(2個)(図8の「82」):
誘導加熱方式、幅:300mm、径:200mm、材質:スチール
【0094】
(実施例6)
実施例5における片面加熱装置を図9に示す片面加熱装置に変更した以外は、実施例5と同様にして、実施例6のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0095】
図9の片面加熱装置の構成を以下に示す。
・サクション加熱ロールユニット(吸引手段、加熱手段)(図9の「91」)
吸引孔(図9の「92」):
孔径:0.5mm、中心間距離:MD 10mm、TD 10mm
ロール(図9の「93」):
誘導加熱方式、径:300mm、幅:280mm、材質:SUS304H、開孔率:0.79%、吸引力:15KPa
【0096】
(実施例7)
実施例1において、延伸フィルムを作製した後に、下記に示す親水化処理を行った以外は、実施例1と同様にして、実施例7のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0097】
−親水化処理−
濃度0.03質量%の過酸化水素水中に、予めエタノールを含浸させた延伸フィルムを浸漬し(液温:40℃)、20時間後に引き上げた該延伸フィルムの上方から、フルエンス 25mJ/cm/パルス、照射量 10J/cmの条件下でArFエキシマレーザー光(193nm)を照射して親水化したポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
前記微孔性膜の濡れ性は、純水で十分洗浄し、乾燥させた後、JIS K6768に規定された濡れ指数標準液で測定した。即ち、表面張力が順を追って変化する一連の混合液を前記微孔性膜に順次滴下してゆき、前記微孔性膜を濡らすと判定される混合液の最高の表面張力を濡れ指数として評価した。その結果、前記微孔性膜の濡れ指数は、52dyn/cmであった。この濡れ指数は、紫外レーザー光を照射しないポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の値(31dyn/cm未満)に比べて著しく大きい。この結果から、親水化処理によりフッ素表面の濡れ性が大幅に改善されたことがわかった。
【0098】
(比較例1)
実施例1の片面加熱装置において、押付け用ベルトユニットを用いずに加熱した以外は、実施例1と同様にして、比較例1のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。このとき、ポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムとエンドレスベルト加熱装置との接圧力は、0.01MPa未満であった。前記接圧力は、圧力測定フィルム(富士フイルム製プレスケール)を用いて測定した。
【0099】
(比較例2)
実施例2の片面加熱装置において、押付け用ベルトユニットを用いずに加熱した以外は、実施例2と同様にして、比較例2のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。このとき、ポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムと加熱ロールとの接圧力は、0.01MPa未満であった。前記接圧力は、圧力測定フィルム(富士フイルム製プレスケール)を用いて測定した。
【0100】
(比較例3)
実施例5の片面加熱装置において、吸引を行わなかった以外は、実施例5と同様にして、比較例3のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0101】
(比較例4)
実施例6の片面加熱装置において、吸引を行わなかった以外は、実施例6と同様にして、比較例4のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0102】
次に、作製した実施例1〜7、及び比較例1〜4の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜について、該微孔性膜の非加熱面の平均孔径が加熱面の平均孔径よりも大きく、かつ非加熱面から加熱面に向かって平均孔径が連続的に変化しているか否かを確認するため、以下のようにして、フィルム厚み(平均膜厚)、及びP1/P2の測定を行った。結果を表1に示す。
【0103】
<フィルムの厚み(平均膜厚)>
実施例1〜7、及び比較例1〜4の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の厚み(平均膜厚)をダイヤル式厚みゲージ(アンリツ株式会社製、K402B)により測定した。任意の3箇所を測定し、その平均値を求めた。
【0104】
<P1/P2の測定>
実施例1〜7、及び比較例1〜4の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜について、該微孔性膜の膜厚みをXとし、非加熱面から、深さ方向X/10の厚み部分における平均孔径をP1とし、深さ方向9X/10の厚み部分の平均孔径をP2としたときのP1/P2を求めた。
ここで、前記ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の平均孔径は、走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型、いずれも日立製作所製)で膜表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜5,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んでポリテトラフルオロエチレン繊維のみからなる像を得、その像を演算処理することにより平均孔径を求めた。
【0105】
【表1】

表1の結果から、実施例1〜7の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜は、非加熱面の平均孔径が加熱面の平均孔径よりも大きく、かつ非加熱面から加熱面に向かって平均孔径が連続的に変化していることがわかった。
これに対し、比較例1〜4のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜も、非加熱面の平均孔径が加熱面の平均孔径よりも大きく、かつ非加熱面から加熱面に向かって平均孔径が連続的に変化しているが、片面加熱がわずかに不安定であるため、実施例1〜7よりもわずかに膜厚みが厚く、P1/P2も小さくなっていた。
【0106】
<濾過寿命テスト>
実施例1〜7、及び比較例1〜4の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜について、以下のようにして濾過寿命テストを行った。
濾過寿命の測定は、多分散粒径のラテックス分散液を用い、実質的に目詰まりするまでの濾過量(L/m)で評価した。本発明における「実質的に目詰まりする」とは、一定濾過圧において、初期流量の1/2まで流量が低下した時点と定義する。本測定で用いるラテックス分散液に用いるラテックスの種類は、膜の孔径によって適宜選択される。選択の条件としては、濾過後の液に含まれる粒子が1ppm以下であり、かつラテックスの平均粒径と膜の孔径の比が、1/5〜5である。分散媒としてはイソプロパノールを用い、濃度としては100ppmで行った。結果を表2に示す。
【0107】
【表2】

表2の結果から、実施例1〜7の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜は、比較例1〜4のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜よりも濾過寿命が優れていた。
【0108】
<流量テスト>
実施例1〜7、及び比較例1〜4の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜について、以下のようにして流量テストを行った。
流量測定は、JIS K3831に従い以下の条件で行った。試験方法の種類は「加圧濾過試験方法」を用い、サンプルは直径13mmの円形に切り出し、ステンレス製のホルダーにセットして測定を行った。試験液としてはイソプロパノールを用い、圧力100KPaにおいて100mLの試験液を濾過するのに要した時間を測り、流量(L/min・m)を計算した。結果を表3に示す。
【0109】
【表3】

表3の結果から、実施例1〜7の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜は、比較例1〜4のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜よりも流量が優れていた。
【0110】
<孔径分布測定>
実施例1〜7、及び比較例1〜4の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜について、面内孔径分布測定を行った。孔径は、バブルポイント測定値で以下の方法で評価した。25mm径のシリンジホルダーを用い、湿潤液としてIPAを用い、初期バブルポイント値(最大孔径に相当する)をもって測定値とした。前記各微孔性膜を一辺400mmの正方形に切り抜き、正方形内を一辺40mmの正方形で100等分し、各部分のバブルポイント測定を行い、平均値、及び変動率を求めた。結果を表4に示す。
前記変動率は、測定値の平均値に対するその標準偏差の比により表される。n個のデータ(X1、X2・・・・Xn)の平均値をXm、標準偏差をSxとすると、変動率Vxは次式により算出できる。
変動率[%];Vx=Sx/Xm×100
【0111】
【表4】

表4の結果から、実施例1〜7では、非対称加熱工程において、結晶性ポリマーフィルムの一方の面を固定したことにより、加熱が均一に行われ、延伸後の平均孔径の面内バラツキも小さく均一であり、本発明の効果が確認できた。
一方、比較例1〜4では、非対称加熱工程において、結晶性ポリマーフィルムを固定しなかったため、加熱ムラが生じ、延伸後の平均孔径の面内バラツキも大きかった。
【0112】
(実施例8)
−フィルターカートリッジ化−
実施例1のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微孔性膜を以下の構成のように積層し、ひだ幅12.5mmにプリーツ(プリーツ幅=220mm)し、その230山分のひだをとって円筒状に丸め、その合わせ目をインパルスシーラーで溶着した。次いで、円筒の両端15mmずつを切り落とし、その切断面をポリプロピレン性のエンドプレートに熱溶着してエレメント交換式のフィルターカートリッジ(実施例8)を作製した。
−構成−
1次側 ネット AET社製DELNET(RC−0707−20P)
厚み:0.13mm、坪量:31g/m、使用面積:約1.3m
1次側 不織布 三井化学社製シンテックス(PK−404N)
厚み:0.15mm、使用面積:約1.3m
ろ材 実施例1のPTFE微孔性膜
厚み:約0.05mm、使用面積:約1.3m
2次側 ネット AET社製DELNET(RC−0707−20P)
厚み:0.13mm、坪量:31g/m、使用面積:約1.3m
【0113】
(実施例9)
実施例8において、実施例1のPTFE微孔性膜を実施例2のPTFE微孔性膜に変更した以外は、実施例8と同様にして、実施例9のフィルターカートリッジを作製した。
【0114】
(実施例10)
実施例8において、実施例1のPTFE微孔性膜を実施例3のPTFE微孔性膜に変更した以外は、実施例8と同様にして、実施例10のフィルターカートリッジを作製した。
【0115】
(実施例11)
実施例8において、実施例1のPTFE微孔性膜を実施例4のPTFE微孔性膜に変更した以外は、実施例8と同様にして、実施例11のフィルターカートリッジを作製した。
【0116】
(実施例12)
実施例8において、実施例1のPTFE微孔性膜を実施例5のPTFE微孔性膜に変更した以外は、実施例8と同様にして、実施例12のフィルターカートリッジを作製した。
【0117】
(実施例13)
実施例8において、実施例1のPTFE微孔性膜を実施例6のPTFE微孔性膜に変更した以外は、実施例8と同様にして、実施例13のフィルターカートリッジを作製した。
【0118】
(実施例14)
実施例8において、実施例1のPTFE微孔性膜を実施例7のPTFE微孔性膜に変更した以外は、実施例8と同様にして、実施例14のフィルターカートリッジを作製した。
【0119】
(比較例5)
実施例8において、実施例1のPTFE微孔性膜を比較例1のPTFE微孔性膜に変更した以外は、実施例8と同様にして、比較例5のフィルターカートリッジを作製した。
【0120】
(比較例6)
実施例8において、実施例1のPTFE微孔性膜を比較例2のPTFE微孔性膜に変更した以外は、実施例8と同様にして、比較例6のフィルターカートリッジを作製した。
【0121】
(比較例7)
実施例8において、実施例1のPTFE微孔性膜を比較例3のPTFE微孔性膜に変更した以外は、実施例8と同様にして、比較例7のフィルターカートリッジを作製した。
【0122】
(比較例8)
実施例8において、実施例1のPTFE微孔性膜を比較例4のPTFE微孔性膜に変更した以外は、実施例8と同様にして、比較例8のフィルターカートリッジを作製した。
【0123】
本発明の実施例8〜14のフィルターカートリッジは、本発明の実施例1〜7のPTFE微孔性膜を用いているため、耐溶剤性に優れている。また、前記PTFE微孔性膜の孔部が非対称構造を有するため、大流量かつ目詰まりを起こしにくく長寿命であった。
【0124】
<粒子捕捉性テスト(大面積:カートリッジ加工後)>
実施例8〜14、及び比較例5〜8のフィルターカートリッジ100個について、ポリスチレン微粒子(平均粒子サイズ0.9μm)を0.01質量%含有する水溶液を、差圧0.1kgとして濾過を行い、粒子の漏れの有無を評価した。結果を表5に示す。
【0125】
【表5】

表5の結果から、実施例8〜14のフィルターカートリッジでは、高度に均一加熱が実現している実施例1〜7のPTFE微孔性膜を用いているため、粒子捕捉性のバラツキが小さく、粒子の漏れが全くなく、大面積を必要とするカートリッジ加工形態でも粒子捕捉性が優れるものであった。
これに対して、比較例5〜8のフィルターカートリッジでは、加熱ムラが生じた比較例1〜4のPTFE微孔性膜を用いているため、粒子捕捉性のバラツキが比較的大きく、大面積使用時に粒子の漏れが生じてしまい、粒子捕捉性が劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜、及びこれを用いた濾過用フィルタは、平均孔径の面内分布が均一であり、長期間にわたって効率よく微粒子を捕捉することができ、粒子捕捉能の耐擦過性が向上し、耐熱性、及び耐薬品性に優れているため、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過、反応性薬品の濾過等に幅広く用いることができる。
【符号の説明】
【0127】
1 一次側サポート
2 精密ろ過膜
3 二次側サポート
4 上部エンドプレート
5 下部エンドプレート
6 フィルターエレメントカバー
7 フィルターエレメントコア
8 Oリング
9 フィルターメディア
10 フィルターエレメント
11 ハウジングカバー
12 ハウジングベース
13 液入口ノズル
14 液出口ノズル
15 エアーベント
16 ドレン
17 溶着部
41 押付け用ベルトユニット
43 エンドレスベルト
45 エンドレスベルト用ロール
46 エンドレスベルト加熱装置
47 ヒーター
48 エンドレスベルト
49 非加熱ロール
51 加熱ロール
61 スチールロール
65 エンドレスベルト加熱装置
66 エンドレスベルト
67 加熱ロール
71 押付け用ロールシート
73 結晶性ポリマーからなるフィルム
81 サクションベルトユニット
82 加熱ロール
83 吸引孔
84 エンドレスベルト
85 真空ボックス
91 サクション加熱ロールユニット
92 吸引孔
93 ロール
101 外周カバー
102 膜サポート
103 精密ろ過膜
104 膜サポート
105 コアー
106a、106b エンドプレート
107 ガスケット
108 流体出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された、結晶性ポリマーからなるフィルムの一の表面を、加熱手段により、前記結晶性ポリマーの焼成体の融点以上の温度で加熱手段と接触の状態で加熱することにより、前記フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する非対称加熱工程と、
前記半焼成フィルムを延伸する延伸工程と、
を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項2】
結晶性ポリマーからなるフィルムの一の全表面が固定された請求項1に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項3】
結晶性ポリマーからなるフィルムの少なくとも一の表面が器材により固定され、該固定が、押圧、及び吸引の少なくともいずれかである請求項1から2のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項4】
押圧手段が、ベルト、ロール、及びシートのいずれかである請求項3に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項5】
押圧手段による押付け圧力が、0.01MPa〜5MPaである請求項4に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項6】
吸引手段が、表面に複数の孔部が形成され、表面から内部に吸引可能なベルト、及びロールのいずれかである請求項3から5のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項7】
吸引手段が、少なくとも表面が加熱可能なベルト、及びロールのいずれかである請求項6に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項8】
加熱手段が、少なくとも表面が加熱可能なベルト、及びロールのいずれかである請求項1から7のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項9】
結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1から8のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項10】
延伸工程が、半焼成フィルムを一軸方向に延伸する請求項1から9のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項11】
延伸工程が、半焼成フィルムを二軸方向に延伸する請求項1から10のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項12】
延伸されたフィルムを親水化処理する親水化工程を更に含む請求項1から11のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法により製造され、一方の面の平均孔径が、他方の面の平均孔径よりも大きく、かつ前記一方の面から前記他方の面に向かって平均孔径が連続的に変化していることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項14】
結晶性ポリマー微孔性膜の膜厚みをXとし、非加熱面から、深さ方向X/10の厚み部分における平均孔径をP1とし、深さ方向9X/10の厚み部分の平均孔径をP2としたときのP1/P2が、4.5以上である請求項13に記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項15】
平均孔径の面内バラツキが、変動率20%以下である請求項13から14のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項16】
面積が0.04mより大きい請求項13から15のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項17】
請求項13から16のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたことを特徴とする濾過用フィルタ。
【請求項18】
プリーツ状に加工成形してなる請求項17に記載の濾過用フィルタ。
【請求項19】
結晶性ポリマー微孔性膜の平均孔径の大きな面側をフィルタの濾過面に使用する請求項17から18のいずれかに記載の濾過用フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−172833(P2010−172833A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18832(P2009−18832)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】