説明

結晶性ITO膜およびその製造方法ならびに太陽電池

【課題】結晶性ITO膜を、加熱処理を行うことなく短時間で容易に製造することができる、結晶性ITO膜の製造方法を提供する。
【解決手段】不活性ガスおよび酸素ガスを含む第1の混合ガスをチャンバ内に導入した状態で、基板上に種結晶を含むITO膜120をスパッタリング成膜した後に、不活性ガスおよび酸素ガスを含む第2の混合ガスをチャンバ内に導入した状態で、結晶性ITO膜130をスパッタリング成膜する。第1の混合ガスにおける不活性ガスと酸素ガスとの分圧比は、100:5〜7.5の範囲内である。また、第2の混合ガスにおける不活性ガスと酸素ガスとの分圧比は、100:0.5〜2.5の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性ITO膜およびその製造方法、ならびに結晶性ITO膜を含む太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウムスズオキシド(Indium Tin Oxide;以下「ITO」と略記する)膜は、導電性と可視光透過性とを併せ持ち、太陽電池や液晶ディスプレイ、タッチパネルなどの様々なデバイスにおいて透明導電膜として利用されている。ITO膜の形成方法としては、スパッタリング法や真空蒸着法、ゾルゲル法、クラスタービーム蒸着法、PLD法などが挙げられる。これらの中でもスパッタリング法は、大きな基板上に低温でITO膜を形成できるため、工業的に広く用いられている。
【0003】
ITO膜を有するデバイスのITO膜に、外部素子を接続することがある。ITO膜に外部素子を接続する場合に、接続部となるITO膜上に金属膜を形成して、接続部の強度を補強したり、接続部での抵抗を低減させたりすることがある。ITO膜上に形成する金属は、めっき金属膜であることがあり、特に無電解めっき金属膜であることが多い(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
このように、ITO膜上に無電解めっき金属膜を形成するには、ITO膜を無電解めっき液に曝す必要がある。無電解めっき液は酸性またはアルカリ性であり、硫酸金属塩などが溶解している。無電解めっき液のような酸性またはアルカリ性の溶液に曝されたITO膜は、一部溶解したり(エッチングされたり)、変性したりすることがあった。
【0005】
一方、ITO膜には、結晶性ITO膜とアモルファスITO膜とがある。一般的なスパッタリング法で形成したITO膜は、アモルファスITO膜である。スパッタリング成膜されたアモルファスITO膜を結晶性ITO膜に構造変換する方法として、スパッタリング成膜されたITO膜に加熱処理を施して、ITOを結晶化させる方法が提案されている(例えば、特許文献2,3を参照)。特許文献1には、スパッタリング成膜されたITO膜を酸素存在下において100〜250℃で加熱して、結晶性ITO膜に変換することが記載されている。また、特許文献2には、スパッタリング成膜されたITO膜にマイクロ波を照射してITO膜を加熱することで、結晶性ITO膜に変換することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−11702号公報
【特許文献2】特開平2−194943号公報
【特許文献3】特開2005−141981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、無電解めっき液のような酸性またはアルカリ性の溶液にITO膜を曝した場合に、そのITO膜の結晶性が高いほど、溶解や変性が抑制されることに着目した。
【0008】
上述のように、結晶性ITO膜は、スパッタリング成膜されたアモルファスITO膜を加熱処理することで得ることができる。しかしながら、このようにITO膜を加熱処理するには、設備コストが増大するとともに、製造プロセスが煩雑になるという問題がある。さらに、半導体デバイスのITO膜を加熱処理すると、半導体デバイスにダメージを与えてしまうという問題もある。たとえば、太陽電池の製造プロセスにおいて、結晶性ITO膜を製造するために加熱処理を行うと、太陽電池のデバイス特性が顕著に低下してしまうことがある。
【0009】
そこで本発明は、加熱処理を要することなく、短時間で容易に製造することができる結晶性ITO膜の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに本発明者は、無電解めっき液のような酸性またはアルカリ性の溶液に曝されたITO膜の溶解や変性を抑制するには、ITO膜の表面(上層)の結晶性が高いことが重要であることにも着目した。つまり、ITO膜の露出表面(上層)の結晶性が高ければ、膜内側(下層)の結晶性は必ずしも高くなくても、溶解や変性が抑制されうることに着目した。そして、ITO膜の上層と下層とで結晶性を違えることで、ITO膜が応力を吸収しやすくなり、耐屈曲性が向上することに着目した。
【0011】
そこで本発明は、耐酸性、耐アルカリ性および耐屈曲性のすべてに優れる結晶性ITO膜、ならびにこの結晶性ITO膜を有する太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ITOのスパッタリング成膜において、まず初めに「種結晶を含むITO層」を形成して、その後、通常の条件(アモルファスITO膜が形成される条件)でITOをスパッタリング成膜することで「結晶性ITO膜」が、短時間で容易に得られることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明の第1は、以下に示す結晶性ITO膜の製造方法に関する。
[1]チャンバと、前記チャンバ内に配置されたターゲットと、前記チャンバ内において前記ターゲットに対向する位置に配置された基板とを有するマグネトロンスパッタリング装置を準備する工程Aと;減圧された前記チャンバ内に、不活性ガスおよび酸素ガスを含む第1の混合ガスを導入した状態で、前記基板上に種結晶を含むITO膜をスパッタリング成膜する工程Bと;減圧された前記チャンバ内に、前記不活性ガスおよび前記酸素ガスを含み、かつ前記不活性ガスに対する前記酸素ガスの分圧比が前記第1の混合ガスよりも小さい第2の混合ガスを導入した状態で、前記種結晶を含むITO膜の上に結晶性ITO膜をスパッタリング成膜する工程Cと;を含む、結晶性ITO膜の製造方法。
[2]前記第1の混合ガスにおける前記不活性ガスに対する前記酸素ガスの分圧比は、5%〜7.5%の範囲内である、[1]に記載の結晶性ITO膜の製造方法。
[3]前記第2の混合ガスにおける前記不活性ガスに対する酸素ガスの分圧比は、0.5%〜2.5%の範囲内である、[2]に記載の結晶性ITO膜の製造方法。
[4]前記種結晶を含むITO膜の厚みは、10nm以上である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の結晶性ITO膜の製造方法。
【0014】
また、本発明の第2は、以下に示す結晶性ITO膜などに関する。
[5]基板上に配置された結晶性ITO膜であって、前記基板からより遠い上層における結晶化度は、前記基板により近い下層の結晶化度よりも高い、結晶性ITO膜。
[6]シリコン基板と、前記シリコン基板上に配置された[5]に記載の結晶性ITO膜と、前記ITO膜上に配置されためっき金属膜とを含む太陽電池セル。
[7]前記めっき金属膜は無電解めっき金属膜である、[6]に記載の太陽電池セル。
[8]前記結晶性ITO膜と前記めっき金属膜との間に配置された他の金属膜をさらに含む、[6]に記載の太陽電池セル。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐酸性、耐アルカリ性および耐屈曲性に優れる結晶性ITO膜を、加熱処理を行うことなく短時間で容易に形成することができる。例えば本発明によれば、加熱処理により基板などにダメージを与えることなく、かつめっき処理によりITO膜がエッチングされることなく、ITO膜を有する太陽電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】アルゴンガスと酸素ガスとの分圧比と、ITO膜の抵抗率との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の結晶性ITO膜の製造方法を説明するための断面模式図である。図2Aは第1層を形成した様子を示す模式図であり、図2Bは第2層を形成した様子を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る太陽電池の構成を示す断面模式図である。
【図4】図4Aは、実施例1のITO膜の表面および断面のSEM像であり、図4Bは、実施例1のITO膜の断面のSEM像である。
【図5】比較例2のITO膜の表面および断面のSEM像である。
【図6】図6Aは、実施例1のITO膜のX線回折パターンであり、図6Bは、比較例2のITO膜のX線回折パターンである。
【図7】図7Aおよび図7Bは、硫酸銅水溶液に浸漬する前の実施例1のITO膜の表面および断面のSEM像であり、図7Cおよび図7Dは、硫酸銅水溶液に浸漬した後の実施例1のITO膜の表面および断面のSEM像である。
【図8】図8Aは、硫酸銅水溶液に浸漬する前の比較例2のITO膜の表面および断面のSEM像であり、図8Bは、硫酸銅水溶液に浸漬した後の比較例2のITO膜の表面および断面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.結晶性ITO膜およびその製造方法
本発明の結晶性ITO膜の製造方法は、1)チャンバ内にターゲットおよび基板を配置したマグネトロンスパッタリング装置を準備する工程Aと、2)基板上に「種結晶を含むITO膜(第1層)」をスパッタリング成膜する工程Bと、3)種結晶を含むITO膜(第1層)の上に「結晶性ITO膜(第2層)」をスパッタリング成膜する工程Cとを有する。以下、各工程について説明する。
【0018】
1)工程A
工程Aでは、チャンバ内にターゲットおよび基板を配置したマグネトロンスパッタリング装置を準備する。ターゲットおよび基板は、互いに対向するようにチャンバ内に配置される。チャンバの内部は減圧可能であり、内部には所望のガスを供給することができる。
【0019】
チャンバ内に配置されるターゲットは、ITOターゲット(ITO焼結体)であってもよく、インジウムとスズの合金ターゲットであってもよいし、インジウムターゲットとスズターゲットの組み合わせであってもよい。後述の工程Bおよび工程Cにおけるスパッタリング手法(非反応性スパッタリングまたは反応性スパッタリング)に応じて、ターゲットを選択すればよい。ただし、非反応性スパッタリングによる方が、一般的に結晶性の高いITO膜が得られるので好ましい。
【0020】
チャンバ内に配置される基板は、ITO膜を成膜するべき基体であればよく、特に限定されない。基板には、シリコン基板などの半導体基板や、ガラス基板、樹脂基板などでありうる。つまり基板は、液晶表示セルなどの表示デバイスのガラス基板であってもよいし、太陽電池セルのシリコン基板などであってもよい。
【0021】
2)工程B
工程Bでは、マグネトロンスパッタ装置の減圧されたチャンバ内に、不活性ガスおよび酸素ガスを含む混合ガスを導入した導入し、ターゲットに電圧を印加して放電を起こし、基板表面にITO膜をスパッタリング成膜する。工程Bで成膜するITO膜を、以下「第1層」ともいう。
【0022】
工程Bにおいてスパッタリングを行う際には、チャンバ内の圧力を0.1Pa〜0.6Paの範囲に維持しながら、不活性ガスおよび酸素ガスを含む混合ガスを導入する。
【0023】
工程Bにおいてチャンバ内に導入する不活性ガスの種類は、特に限定されないが、通常はアルゴンガスである。不活性ガスのその他の例には、ヘリウムガスやネオンガス、キセノンガス、クリプトンガスなどが含まれる。
【0024】
工程Bにおいてチャンバ内に導入する混合ガスには、不活性ガスとともに、酸素ガスが含まれる。この混合ガスにおける酸素ガスの分圧比を調整することで、工程Bで得られるITO膜(第1層)の結晶性を制御する。より具体的には、従来のスパッタリング条件と比較して、混合ガスにおける酸素ガスの分圧比を高めることで、第1層中にITOの種結晶を形成する。
【0025】
混合ガスにおける酸素分圧を高めると、第1層内において酸素欠損が生じる割合が低減し、ダングリングボンドが酸素原子で終端された種結晶を形成しやすくなると考えられる。
【0026】
具体的に、工程Bにおいてチャンバ内に導入する混合ガスにおける不活性ガスに対する酸素ガスの分圧比は5〜7.5%の範囲にあることが好ましい。混合ガス中の不活性ガスに対する酸素ガスの比率をこの範囲内とすることで、第1層中に種結晶を効率よく形成することができる。
【0027】
図1は、本発明者により行われた予備実験の結果を示すグラフである。この予備実験では、スパッタリングの雰囲気ガスにおける不活性ガス(アルゴンガス)と酸素ガスとの分圧比と、ITO膜の結晶化度との関係を調べた。ITO膜の結晶化度は、ITO膜の表面抵抗率を指標として評価した。ITO膜の表面の結晶化度が高いほど、表面抵抗は低下する。
【0028】
予備実験では、混合ガスを導入した後のチャンバ内の気圧を0.6Paとし、ITOターゲットに2.7〜6kWの直流電流を印加して、基板の表面にITO膜を成膜した。図1のグラフにおいて、実線(丸印)は2.7kWの直流電流をターゲットに印加したときの結果を示し、破線(四角印)は4.0kWの直流電流をターゲットに印加したときの結果を示し、一点鎖線(三角印)は6.0kWの直流電流をターゲットに印加したときの結果を示す。
【0029】
図1のグラフに示されるように、不活性ガスに対する酸素ガスの分圧比が5〜7.5%の範囲内のときに表面抵抗率が低下しており、1.000×10−3Ω・cm以下となっている。この結果から、不活性ガスに対する酸素ガスの分圧比が5〜7.5%の範囲内のときに結晶性の高いITO膜ができていることがわかる。したがって、工程Bで成膜する第1層中に種結晶を効率的に形成させるためには、不活性ガスに対する酸素ガスの分圧比を5〜7.5%の範囲内とすることが好ましいことがわかる。
【0030】
工程Bで成膜する第1層の厚みは10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。第1層の厚みが10nm未満の場合、十分な数の種結晶を形成することができず、工程Cにおいて種結晶を起点としてITOの結晶を成長させることができないおそれがある。
【0031】
3)工程C
工程Cは、工程Bの後に行う工程である。工程Bに引き続き、減圧されたチャンバ内に不活性ガスおよび酸素ガスを含む混合ガスを導入するが、その組成を変更する。具体的には、混合ガスにおける酸素ガスの分圧比を低下させる。チャンバ内のガス組成が変更されたら、工程Bで成膜した第1層の上に、ITO膜をさらにスパッタリング成膜する。工程Cで成膜するITO膜を、以下「第2層」ともいう。
【0032】
工程Cにおいてスパッタリングを行う際には、工程Bと同様に、チャンバ内の圧力を0.1Pa〜0.6Paの範囲に維持しながら、不活性ガスおよび酸素ガスを含む混合ガスを導入する。
【0033】
工程Cで成膜する第2層は、工程Bで成膜した種結晶を含む第1層に積層されるので、種結晶の影響で第2層にITO結晶が成長しやすい。そのため、第1層がなければ結晶ITO膜が得られないスパッタリング条件で第2層を形成しても、第2層においてITOが結晶化することができる。例えば、工程Cで成膜する第2層中には、第1層の表面に露出している種結晶を起点として成長した柱状のITO結晶が存在する。
【0034】
そのため、工程Bにおける混合ガスの酸素分圧よりも、工程Cにおける混合ガスの酸素分圧を低くすることができる。前記の通り、混合ガスにおける不活性ガスと酸素ガスとの分圧比を100:5〜7.5の範囲とすると、ITOスパッタリング膜の結晶性は高まるものの、そのITO膜のスパッタリング成膜速度は低下する。工程Cで成膜する第2層は、工程Bで成膜する第1層の種結晶によって結晶化が促進されるので、工程Cにおける混合ガスの酸素分圧を低くしても構わない。その結果、工程Cにおける第2層の成膜速度を高めることができる。
【0035】
工程Cにおいてチャンバに供給する混合ガス中の不活性ガスに対する酸素ガスの分圧比を、工程Bにおける混合ガス中の不活性ガスに対する酸素ガスの分圧比よりも、約2.5%〜6%低下させることが好ましい。具体的には、工程Cにおいてチャンバに供給する混合ガス中の不活性ガスに対する酸素ガスの分圧比は0.5%〜2.5%の範囲内であることが好ましい。不活性ガスに対する酸素ガスの比率をこの範囲内とすることで、第1層の表面に露出している種結晶を利用して、結晶性ITO膜を高速で成膜することができる。
【0036】
第2層の厚みは、特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよいが、例えば200nmである。
【0037】
以上の手順(工程A〜C)により、加熱処理を行うことなく、基板上に結晶性ITO膜を成膜することができる。
【0038】
図2は、本発明の製造方法の工程の一例を示す断面模式図である。図2Aは、工程Bにおいて、基板110の上に第1層120を成膜した様子を示す模式図である。図2Bは、工程Cにおいて、第1層120の上に第2層130を成膜した様子を示す模式図である。
【0039】
図2Aに示されるように、酸素分圧の高い環境でスパッタリング成膜すると、アモルファス構造のITO122およびITOの種結晶124を含む第1層120が成膜される(工程B)。次いで、図2Bに示されるように、酸素分圧の低い環境でスパッタリング成膜すると、種結晶124から成長した柱状の結晶構造のITOを含む第2層130が成膜される(工程C)。第2層130には、少量のアモルファス構造のITO132が含まれていてもよい。
【0040】
このように、本発明の製造方法では、第1層においてITOの種結晶を形成し、この種結晶を起点として、第2層においてITOを結晶成長させることで結晶性ITO膜を成膜する。したがって、結晶化させるための加熱処理を行う必要がなく;従来のアモルファスITO膜を結晶化させて結晶性ITO膜を形成する手法と比較して、はるかに簡便である。
【0041】
また、本発明の製造方法は、ITOの種結晶を形成した後は酸素分圧の低い状態でスパッタリング成膜しているため、高速で結晶性ITO膜を成膜することができる。
【0042】
本発明の製造方法により成膜された結晶性ITO膜(本発明の結晶性ITO膜)では、工程Bで成膜した第1層中の結晶化度よりも、工程Cで成膜した第2層中の結晶化度の方が高い(図2B参照)。すなわち、基板からより遠い上層における結晶化度は、基板により近い下層の結晶化度よりも高くなる。
【0043】
このように本発明の結晶性ITO膜は、上層における結晶化度が高いため、耐酸性および耐アルカリ性に優れている。さらには、本発明の結晶性ITO膜は、下層においてアモルファス構造が残っているため結晶化度が低く、上層と下層とで結晶化度が異なる。そのため、本発明の結晶性ITO膜は応力吸収能を有し、耐屈曲性にも優れている。
【0044】
本発明の製造方法によれば、耐酸性、耐アルカリ性および耐屈曲性に優れる結晶性ITO膜を、加熱処理を行うことなく短時間で容易に形成することができる。本発明の製造方法は、例えば、太陽電池や液晶ディスプレイ、タッチパネルなどの半導体デバイスを製造する際に有用である。
【0045】
2.太陽電池
本発明の太陽電池は、半導体基板(シリコン基板など)を含み、受光面にある表面電極(n電極またはp電極)と受光面とは反対の面にある裏面電極(p電極またはn電極)とを有する両面電極型の太陽電池であってもよいし、受光面とは反対の面にn電極とp電極とを有する裏面電極型(バックコンタクト型)の太陽電池であってもよい。
【0046】
また、本発明の太陽電池の種類の例には、結晶シリコン型太陽電池、薄膜シリコン型太陽電池、ハイブリッド型(HIT型)太陽電池、多接合型(タンデム型)太陽電池などが含まれる。
【0047】
本発明の太陽電池の電極(n電極および/またはp電極)は、ITO膜と金属膜との積層体を含む。ITO膜はシリコン基板に接していてもよい。ITO膜上に金属膜を配置することで、金属膜を介してITO膜と他の電気素子との電機接続を行うことが好ましい。ITO膜と他の電気素子とを直接接続すると、ITO膜が破損したり、接続部での電気抵抗が大きくなったりするので、金属膜を介して接続を行う。
【0048】
ITO膜上に配置された金属膜は、めっき金属膜を含むことが好ましく;スパッタリング法でITO膜上に形成されたスパッタリング金属膜と、スパッタリング金属膜上に形成されためっき金属膜との積層体であってもよい。
【0049】
めっき金属膜は、無電解めっき金属膜であることがより好ましい。無電解めっき金属の例には、無電解めっき銅、無電解めっき銀、無電解めっきニッケル、無電解めっきコバルトなどが含まれる。
【0050】
一般的に無電解めっき金属膜は、金属塩と還元剤とを含む酸性めっき溶液に基板を浸漬して、基板表面に金属を析出させることで形成される。そのため、基板に形成されたITO膜も酸性めっき溶液に曝す必要がある。酸性めっき溶液に曝されたITO膜は、めっき溶液に溶解するなどして、エッチングされてしまうことがあった。ところが、本発明のITO膜の結晶性は高く、好ましくは表面側(基板から遠い側)の結晶性が高いので、酸性めっき溶液に曝されても、エッチングされにくい。よって、ITO膜にダメージを与えることなく、ITO膜上に無電解金属膜を形成することができる。
【0051】
本発明の太陽電池の一実施形態について、図3を参照して説明する。図3は、本発明の一実施形態に係る太陽電池の構成を示す断面模式図である。
【0052】
図3に示される太陽電池200は、n型シリコン基板210、p型シリコン層220、結晶性ITO膜230、金属膜240、めっき金属膜250および裏面電極260を有する。
【0053】
めっき金属膜250は、受光面側の電極である結晶性ITO膜と、他の電気素子との接続部として機能しうる。一方、金属膜240は、結晶性ITO膜230に対するめっき金属膜250の密着性を向上させ、スパッタリング金属膜でありうる。
【0054】
本実施の形態の太陽電池200は、例えば、以下の手順により製造される。
【0055】
n型シリコン基板210を用意する。n型シリコン基板210は、単結晶または多結晶シリコン基板、あるいはアモルファスシリコン層であることが好ましい。n型シリコン基板210の表面(受光面)にはテクスチャと称される凹凸形状が形成されていてもよい。
【0056】
n型シリコン基板210の表面に、p型シリコン層220を形成する。p型シリコン層220は非晶質シリコン膜であってもよく、非晶質シリコン膜は例えばスパッタリング成膜する。p型シリコン層220は、n型単結晶シリコン基板210の表層にp型ドーパントを注入してドープした層であってもよい。
【0057】
次いで、p型シリコン膜220の上に、結晶性ITO膜230を成膜する。結晶性ITO膜230は、前述の本発明の結晶性ITO膜の製造方法で成膜する。これにより、表層(上層)の結晶化度が高く、下層(p型非晶質シリコン膜220近傍の領域)の結晶化度が低い結晶性ITO膜が成膜される。前述の通り、本発明の結晶性ITO膜の製造方法では、加熱処理を行う必要が無いため、n型単結晶シリコン基板210およびp型非晶質シリコン膜220にダメージを与えることなく、耐酸性および耐アルカリ性に優れる結晶性ITO膜230を成膜することができる。
【0058】
次いで、結晶性ITO膜230の上の所定の領域に、金属膜240をスパッタリング成膜する。
【0059】
さらに金属膜240の上に、めっき金属膜250をめっき成膜する。たとえば、めっき金属膜250として銅薄膜を形成する場合、金属膜240を成膜したデバイスを硫酸銅水溶液(めっき液)に浸漬する。このとき、硫酸銅水溶液によりITO膜230が溶解したり、ITO膜230から金属膜240が剥離したりするおそれがある。しかしながら、本発明の結晶性ITO膜の製造方法で成膜された結晶性ITO膜は、耐酸性に優れているため、このような問題の発生が抑制される。
【0060】
別途、n型シリコン基板210の裏面には、反射電極である裏面電極(アルミニウムなど)を配置する。
【0061】
以上のように、本発明の太陽電池は、本発明の結晶性ITO膜を有するため、製造工程においてめっき処理などを施しても、ITO膜がエッチングされてその上に配置された金属膜が剥離することはない。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0063】
[実施例1]
実施例1では、本発明の製造方法により結晶性ITO膜を形成した例を示す。
【0064】
マグネトロン3層スパッタリング装置(磁束密度10T)のチャンバ内に、ITOターゲット(サイズ:600mm×730mm、SnO含有量:10質量%)およびシリコン基板(サイズ:470mm×370mm)をセットした(工程A)。
【0065】
チャンバ内を減圧した後、アルゴンガスおよび酸素ガスからなる混合ガスをチャンバ内に導入し、0.6Paとなるように調整した。アルゴンガスと酸素ガスとの分圧比は、100:5(200sccm:10sccm)とした。ITOターゲットに5kWの直流電流を印加し、シリコン基板の表面に約30nmの膜厚のITO膜を成膜した(工程B)。
【0066】
続いて、減圧状態を維持したまま、チャンバ内にアルゴンガスおよび酸素ガスからなる混合ガスをチャンバ内に導入した。アルゴンガスと酸素ガスとの分圧比は、100:1.5(200sccm:3sccm)とした。ITOターゲットに5kWの直流電流を印加し、前述のITO膜の上に約200nmの膜厚のITO膜を成膜した(工程C)。
【0067】
図4は、成膜されたITO膜のSEM像である。図4Aは、成膜されたITO膜の表面および断面のSEM像であり、図4Bは、成膜されたITO膜の断面のSEM像である。図4に示されるように、ITO膜中の特に表層側にITOの結晶粒が多数存在するのが確認された。ITO膜全体の膜厚は124.3nmであり、ITO結晶の粒径は20〜30nmであった。
【0068】
[比較例1]
比較例1では、従来の製造方法によりアモルファス構造のITO膜を形成した例を示す。
【0069】
実施例1と同じスパッタリング装置のチャンバ内に、実施例1と同じITOターゲットおよびシリコン基板をセットした。
【0070】
チャンバ内を1.0×10−3Paまで減圧した後、アルゴンガスおよび酸素ガスからなる混合ガスをチャンバ内に導入し、0.6Paとなるように調整した。アルゴンガスと酸素ガスとの分圧比は、100:1.5(200sccm:3sccm)とした。ITOターゲットに5kWの直流電流を印加し、シリコン基板の表面に約200nmの膜厚のアモルファス構造のITO膜を成膜した。
【0071】
[比較例2]
比較例2では、加熱処理を行うことでアモルファス構造のITO膜から結晶性ITO膜を形成した例を示す。
【0072】
比較例1でアモルファス構造のITO膜を成膜したシリコン基板を、熱風乾燥器を用いて200℃または230℃で10分間加熱して、ITOを結晶化させた。
【0073】
図5は、加熱処理されたITO膜のSEM像である。図5に示されるように、ITO膜の全体に亘って(表層から下層まで)ITOの結晶粒が多数存在するのが確認された。ITO膜全体の膜厚は、108nmであった。また、ITO結晶の粒径は、20〜25nmであった。
【0074】
[物性比較]
実施例1、比較例1および比較例2で成膜したITO膜の物性を評価するため、各種試験を行った。
【0075】
(1)結晶性の評価
ITO膜のX線回折を行い、結晶構造を有しているかどうかを調べた。図6Aは、実施例1で成膜したITO膜の回折パターンであり、図6Bは、比較例2で成膜したITO膜(230℃で加熱処理)の回折パターンである。図6Aおよび図6Bにおいて、矢印で示す直線状のピークは、インジウムオキサイド(In)の結晶の回折ピーク(既知のデータ)である。
【0076】
図6Aおよび図6Bに示されるように、実施例1および比較例2で成膜したITO膜の回折パターンには、インジウムオキサイドの結晶の回折ピークとほぼ同じ位置にシャープなピークが存在することから、これらのITO膜は結晶性のITO膜であることがわかる。その一方で、これらのITO膜の回折パターンには、ブロードなピークも存在することから、これらのITO膜がアモルファス構造を含んでいることもわかる。
【0077】
これに対し、比較例1で成膜したITO膜の回折パターンには、図6Aおよび図6Bに示されるようなシャープなピークが存在しなかった(図示せず)。このことから、比較例1で成膜したITO膜は、アモルファス構造のITO膜であることがわかる。
【0078】
(2)耐酸性の評価
ITO膜を成膜したシリコン基板を40℃の硫酸金属塩の水溶液に10分間浸漬して、ITO膜の膜厚の変化を測定した。
【0079】
図7は、実施例1で成膜した結晶性ITO膜の浸漬前後の様子を示すSEM像である。図7Aおよび図7Cは、ITO膜の表面および断面のSEM像であり、図7Bおよび図7Dは、ITO膜の断面のSEM像である。また、図7Aおよび図7Bは、浸漬前のITO膜のSEM像であり、図7Cおよび図7Dは、浸漬後のITO膜のSEM像である。図7Bおよび図7Dからわかるように、実施例1で成膜した結晶性ITO膜のエッチングレートは、1.2nm/分であった。
【0080】
図8は、比較例2で成膜した結晶性ITO膜(200℃で加熱処理)の浸漬前後の様子を示すSEM像である。図8Aは、浸漬前のITO膜のSEM像であり、図8Bは、浸漬後のITO膜のSEM像である。図8Aおよび図8Bからわかるように、比較例2で成膜した結晶性ITO膜のエッチングレートは、1.5nm/分であった。
【0081】
これに対し、比較例1で成膜したアモルファス構造のITO膜は、10分間で完全に硫酸銅水溶液に溶解してしまった。
【0082】
(3)屈折率および抵抗率の評価
各ITO膜の屈折率および抵抗率を測定した。結晶性および耐酸性の評価結果も含めた各ITOの物性を表1に示す。表1において、耐酸性は、硫酸銅水溶液中に10分間浸漬した後にITO膜が残存するか否かで評価した。
【0083】
【表1】

【0084】
表1から、本発明の結晶性ITO膜の製造方法は、加熱処理により形成された結晶性ITO膜と同等の特性を有する結晶性ITO膜を、加熱処理を行うことなく形成できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の製造方法によれば、耐酸性、耐アルカリ性および耐屈曲性に優れる結晶性ITO膜を、加熱処理を行うことなく短時間で容易に形成することができる。本発明の製造方法は、例えば、太陽電池や液晶ディスプレイ、タッチパネルなどの半導体デバイスを製造する際に有用である。
【符号の説明】
【0086】
110 基板
120 種結晶を含むITO膜
122 アモルファス構造のITO
124 ITOの種結晶
130 結晶性ITO膜
132 アモルファス構造のITO
134 結晶構造のITO
200 太陽電池
210 n型単結晶シリコン基板
220 p型非晶質シリコン膜
230 結晶性ITO膜
240 金属膜
250 めっき金属膜
260 裏面電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、前記チャンバ内に配置されたターゲットと、前記チャンバ内において前記ターゲットに対向する位置に配置された基板とを有するマグネトロンスパッタリング装置を準備する工程Aと、
減圧された前記チャンバ内に、不活性ガスおよび酸素ガスを含む第1の混合ガスを導入した状態で、前記基板上に種結晶を含むITO膜をスパッタリング成膜する工程Bと、
減圧された前記チャンバ内に、前記不活性ガスおよび前記酸素ガスを含み、かつ前記不活性ガスに対する前記酸素ガスの分圧比が前記第1の混合ガスよりも小さい第2の混合ガスを導入した状態で、前記種結晶を含むITO膜の上に結晶性ITO膜をスパッタリング成膜する工程Cと、
を含む、結晶性ITO膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1の混合ガスにおける前記不活性ガスに対する前記酸素ガスの分圧比は、5%〜7.5%の範囲内である、請求項1に記載の結晶性ITO膜の製造方法。
【請求項3】
前記第2の混合ガスにおける前記不活性ガスに対する前記酸素ガスの分圧比は、0.5%〜2.5%以上の範囲内である、請求項2に記載の結晶性ITO膜の製造方法。
【請求項4】
前記種結晶を含むITO膜の厚みは、10nm以上である、請求項1に記載の結晶性ITO膜の製造方法。
【請求項5】
基板上に配置された結晶性ITO膜であって、
前記基板からより遠い上層における結晶化度は、前記基板により近い下層の結晶化度よりも高い、結晶性ITO膜。
【請求項6】
半導体基板と前記半導体基板表面に形成された電極とを含む太陽電池セルであって、
前記電極は、前記半導体基板上に配置された請求項5に記載の結晶性ITO膜と、前記ITO膜上に配置されためっき金属膜とを含む、太陽電池セル。
【請求項7】
前記めっき金属膜は無電解めっき金属膜である、請求項6に記載の太陽電池セル。
【請求項8】
前記結晶性ITO膜と前記めっき金属膜との間に配置された他の金属膜をさらに含む、請求項6に記載の太陽電池セル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−219301(P2012−219301A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84445(P2011−84445)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】