説明

絶縁処理された電圧機器

【課題】電圧機器の導電部材の絶縁処理において地球環境保全に貢献すると共に、十分な耐久性(例えば、強度,耐劣化性等)や電気的特性等を付与する。
【解決手段】生物由来物質(生分解性樹脂等)を基材とする高分子材料に対し加水分解抑制剤,架橋剤等を加え混練して得られる高分子組成物を用い、その高分子組成物を微紛化して得られる絶縁性粉体を電圧機器の導電部材にパウダーコーティングすることにより、該導電部材の被絶縁処理部位に対して生物由来絶縁部材を被覆する。また、石油由来物質(生分解性樹脂等)を基材とする高分子材料から成る高分子組成物を用い、その高分子組成物を溶融し所望の形状(チューブ状等)に固形化した石油由来絶縁部材を、前記の生物由来絶縁部材の外周面を保護するように被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁処理された電圧機器に関するものであって、例えば筐体内に遮断器や断路器等の開閉機器を備えた電圧機器の絶縁処理に係るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば筐体内に遮断器や断路器等の開閉機器を備えた電圧機器(高電圧機器等の重電機器)においては、社会の高度化・集中化に伴って大容量化,小型化が進み、安全性,信頼性(例えば、機械的物性(絶縁破壊電界特性等),電気的物性)等の向上も強く要求されている。例えば、電圧機器の導電部材のうち一部の部位においては、該電圧機器の小型化,安全性等の観点から、絶縁処理(絶縁材料による導電部位の被覆(モールド))が適宜施される。この絶縁処理としては、所望の部位(以下、被絶縁処理部位と称する)に対し絶縁性高分子材料から成る熱収縮チューブ等の絶縁部材(チューブ状,シート状等の所望の形状に成形された絶縁体)で被覆する方法を適用、または被絶縁処理部位に対して被覆物を形成できる程度に微紛化された粉体(以下、絶縁性粉体と称する)をパウダーコーティングする方法を適用することが知られている。
【0003】
絶縁部材としては、例えば使用目的に応じて熱可塑性樹脂(ポリエチレン等)や熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂等)等の石油由来物質を基材(出発物質)とする高分子材料から成るもの(以下、石油由来絶縁部材と称する)が一般的に用いられてきたが、該石油由来絶縁部材を処分する場合には地球環境保全の観点で種々の問題を引き起こす恐れがある。例えば、石油由来絶縁部材を焼却処分する方法を適用すると種々の有害物質や二酸化炭素を大量に排出し、環境汚染,地球温暖化等の問題を引き起こす恐れがある点で懸念されている。一方、石油由来絶縁部材を単に埋立て処理する方法を適用することもできるが、その埋立て処理に係る最終処分場は年々減少している傾向である。また、石油由来絶縁部材を回収し再利用(リサイクル)する試みもあるが、多大な回収費用やエネルギー(再利用するための燃焼工程等のエネルギー)を要するため、十分には確立されておらず殆ど行われていない。例外的に、品質が比較的均一な石油由来絶縁部材(電圧機器に用いられているポリエチレンケーブル)のみを回収しサーマルエネルギーとして利用されているが、このサーマルエネルギーは燃焼処理工程を要するため、前記のように環境汚染,地球温暖化等の問題を招く恐れがある。
【0004】
近年においては、生物由来物質(生分解性樹脂等)を基材とする高分子材料から成る絶縁部材(以下、生物由来絶縁部材と称する)が注目され始めているが(例えば、特許文献1,2)、生分解性(例えば、比較的低温で溶融し易い物性)を有するものであることから、石油由来絶縁部材と比較して耐久性(例えば、強度,耐劣化性等の寿命)が低く、特に十分な電気的特性(例えば、十分な絶縁性等)を長期間維持する必要がある電圧機器等の製品には不向きであり、実際に工業材料として適用されることは無かった。例えば、所望の形状に固形化(シート状,ペレット状等に固形化)された生物由来絶縁部材であっても、被絶縁処理部位に装着する際に変形したり、被絶縁処理部位の部位との摩擦等により破損し易い。また、パウダーコーティング法を適用した場合には、生物由来絶縁部材の厚さが不十分になったり不均一になり易い恐れがあった。
【0005】
このため、前記の生物由来絶縁部材は、耐久性や電気的特性等を必要としない簡便な製品等(例えば、いわゆるワンウェイ容器等の回収が困難な生活用品)への適用に制限されていた。
【特許文献1】特開2002−53699号公報
【特許文献2】特開2002−358829号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上示したようなことから、電圧機器の導電部材の絶縁処理において、地球環境保全に貢献すると共に、十分な耐久性(例えば、強度,耐劣化性等)や電気的特性等を付与できるようにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題に基づいてなされたものであり、電圧機器の導電部材の絶縁処理において、前記のように生活用品等に適用されていた技術とは全く異なり、地球環境保全に貢献できると共に、十分な耐久性や電気的特性等を付与できるようにする絶縁処理された電圧機器を提供することにある。
【0008】
具体的に、請求項1記載の発明は、電圧機器の導電部材のうち被絶縁処理部位が絶縁処理されたものであって、生物由来物質を基材とする高分子材料と、分子中において−N=C=N−構造を有する加水分解抑制剤と、分子中において−O−O−構造を有する架橋剤と、を含む高分子組成物から成り、前記の被絶縁処理部位に対してパウダーコーティング法によって被覆された生物由来絶縁部材と、石油由来物質を基材とする高分子材料を含んだ高分子組成物から成り、チューブ状に成形されて前記の生物由来絶縁部材に被覆された石油由来絶縁部材と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記の生物由来物質を基材とする高分子材料は、アセチル化セルロース,ポリ乳酸,ポリブチレンサクシネート,ポリトリメチレンテレフタレート,エステル化澱粉,澱粉基ポリマー,キトサン基ポリマーのうち何れか一つ以上のバイオベースポリマーから成ることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記の石油由来物質を基材とする高分子材料は、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,シリコーン,変性シリコーン,ポリビニルアルコール,変性ポリビニルアルコール,エチレン‐プロピレンターポリマー,ニトリル‐ブタジエンゴムのうち何れか一つ以上のベースポリマーから成ることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3記載の発明において、前記の加水分解抑制剤は、カルボジイミド化合物から成ることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4記載の発明において、前記の架橋剤は、パーオキサイドから成ることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5記載の発明において、前記のチューブ状の石油由来絶縁部材の開口部側の縁部は、シール処理されたことを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記のシール処理において、水ガラスまたは半田から成る無機系接着剤、あるいはアクリル樹脂,エチレン‐酢酸ビニル樹脂,エポキシ樹脂,イソシアネート系樹脂,フェノール樹脂,ユリア樹脂,シリコーン樹脂および各樹脂の変性品のうち何れか一つ以上から成る有機系接着剤を用いたことを特徴とする。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7記載の発明において、前記の生物由来絶縁部材に用いた高分子組成物は、植物油ベースまたは石油ベースの可塑剤を含んだことを特徴とする。
【0016】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記の植物油ベースの可塑剤は、エポキシ化大豆油またはエポキシ化亜麻仁油から成ることを特徴とする。
【0017】
請求項1〜5記載の発明によれば、電気機器において所望の絶縁処理をするにあたり、単に石油由来絶縁部材のみ被覆する場合と比較して、石油由来材料の使用割合が減少する。また、単に生物由来絶縁部材のみを被覆する場合と比較して、十分な絶縁性(破壊電圧値,破壊電界値等),強度,耐劣化性等を付与することが容易となる。
【0018】
請求項6,7記載の発明によれば、生物由来絶縁部材と石油由来絶縁部材との間に対する空気,湿気等の侵入を防止し易くなる。
【0019】
請求項8,9記載の発明によれば、生物由来絶縁部材の弾性率が低減し、導電部材(被絶縁処理部位)と生物由来絶縁部材との間の線膨張率差が小さくなる。
【発明の効果】
【0020】
以上、請求項1〜9記載の発明によれば、単に石油由来絶縁部材のみ被覆する従来技術と比較して地球環境保全に貢献できると共に、単に生物由来絶縁部材のみを被覆する従来技術と比較して十分な耐久性(例えば、強度,耐劣化性等の寿命)や電気的特性等を付与でき、請求項6〜9記載の発明によれば耐久性がより良好となり、それぞれ実際の重電機器等の電圧機器に十分適用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態における絶縁処理された電圧機器を図面等に基づいて詳細に説明する。
【0022】
本実施形態は、例えば電圧機器の導電部材のうち被絶縁処理部位の絶縁処理に係るものであって、単に生物由来絶縁部材のみ、または石油由来絶縁部材のみ被覆する従来技術とは異なるものであり、それら技術を併用し2層の絶縁部材で被覆するものである。すなわち、前記の被絶縁処理部位に対し生物由来絶縁部材を被覆すると共に、その生物由来絶縁部材に対し石油由来絶縁部材を被覆することにより、単に石油由来絶縁部材のみ被覆する従来技術と比較して地球環境保全に貢献できると共に、単に生物由来絶縁部材のみを被覆する従来技術と比較して十分な耐久性(例えば、強度,耐劣化性等の寿命)や電気的特性等を付与できるようにしたものである。
【0023】
<生物由来絶縁部材>
本実施形態の生物由来絶縁部材においては、生物由来物質(生分解性樹脂等)を基材とする高分子材料に対し加水分解抑制剤,架橋剤等を加え混練して得られる高分子組成物を用い、その高分子組成物を微紛化して得られる絶縁性粉体をパウダーコーティングすることにより、被絶縁処理部位に対して被覆されるものである。
【0024】
[高分子材料]
生物由来絶縁部材の高分子組成物に適用される高分子材料としては、基材となる生物由来物質の種類,生成プロセス等によって種々のものを適用でき、例えば絶縁性,材質の均質性等の観点からアセチル化セルロース,ポリ乳酸,ポリブチレンサクシネート,ポリトリメチレンテレフタレート,エステル化澱粉,澱粉基ポリマー,キトサン基ポリマー等に区分されるバイオベースポリマーが挙げられ、これら各バイオベースポリマーを適宜単数または複数併用できる。これらのうち、ポリブチレンサクシネートから成るものにおいては比較的柔軟性を有する。
【0025】
なお、前記のポリブチレンサクシネートの各成分のうちコハク酸,ブタンジオールにおいては石油由来のものが一般的であったが、近年においては生物由来のものも出現し始めていることから、該ポリブチレンサクシネートをバイオベースポリマーとして適用できることは明らかである。
【0026】
これらバイオベースポリマーにおいては、カーボンニュートラルであることから、たとえ該バイオベースポリマーを用いた製品等を焼却処分しても新たな二酸化炭素が発生することは殆ど無いものと思われる。
【0027】
[加水分解抑制剤]
前記高分子組成物に適用される加水分解抑制剤としては、分子中において−N=C=N−構造(R1−N=C=N−R2構造(R1,R2はアルキル基))を有し、活性水素(加水分解によって生じるカルボン酸,水酸基の活性水素)との補足反応による加水分解抑制効果を奏するものを適用し、例えばカルボジイミド化合物が挙げられる。前記のR1,R2の種類によって加水分解抑制剤自体の物性や反応速度等は異なるものの、本質的機能(活性水素との補足反応等)は略同一である。
【0028】
[架橋剤]
前記高分子組成物に適用される架橋剤としては、分子中において−O−O−構造を有し、所定温度で架橋反応を起こすものを適用し、例えばパーオキサイドが挙げられる。このパーオキサイドにおいては、−O−O−構造部位が熱的影響を受けてラジカル分解する特性を有し、架橋剤として適用できるものであり、半減期温度の異なる種々のもの(例えば、日本油脂社製のパーヘキサV(10時間半減期温度105℃),パークミルD(10時間半減期温度116℃),パーヘキサ25B(10時間半減期温度118℃),パーブチルP(10時間半減期温度119℃),パーブチルC(10時間半減期温度120℃),パーヘキシルD(10時間半減期温度116℃),パーブチルD(10時間半減期温度124℃),パーヘキシン25B(10時間半減期温度128℃))が知られている。
【0029】
なお、前記のパーオキサイドを高分子材料等と共に混練する場合、その混練機,混練物中の高分子材料等の配合量,混練条件,冷却機構の有無等によって、混練物の温度上昇の程度が異なる。例えば、該高分子材料の溶融温度以上の雰囲気下に保持され、該高分子材料においては自己発熱(せん断熱が発生)することもあり、これら熱によってパーオキサイドが意に反してラジカル分解し架橋反応を起こすことがある。
【0030】
このため、パーオキサイドの種類,配合量等においては適宜選定(例えば、半減期温度が前記の溶融温度近隣以上のパーオキサイドを選定)することが好ましい。例えば、高分子材料の溶融温度が約110℃,せん断熱が約20℃の場合には、例えば、パーブチルD,パーヘキシン25B等を用いる。また、パーオキサイドにおいては、消防法上の観点で危険物として取り扱われている製品が存在するが、例えば不活性充填剤等を配合して成る非危険物グレードの製品も存在し、適宜選択することが好ましい。
【0031】
[絶縁性粉体]
前記の高分子組成物を微粉化して得られる絶縁性粉体としては、該絶縁性粉体を用いてパウダーコーティング法により目的とする導電部材(被絶縁処理部位)に生物由来絶縁部材を形成できる程度に、微紛化したものを適用する。例えば、平均粒径が30μm〜300μm程度、望ましくは50μm〜250μm程度に微紛化されたものが挙げられる。なお、例えば平均粒径が比較的大きいもの(例えば、500μm以上のもの)については、除外、あるいは再度微紛化(パウダーコーティング法により被絶縁処理部位に対して生物由来絶縁部材を形成できる程度に微紛化)を行ってから適用しても良い。また、微紛化によって得られる絶縁性粉体の粒径,粉体形状は、微紛化に用いる装置の種類(機種,型式等)や微紛化時間等によって変化するものの、前記のようにパウダーコーティング法により目的とする生物由来絶縁部材を形成できる程度の範囲であれば良い。
【0032】
前記の微紛化に用いる装置においては、種々のミル装置を適用することができ、例えば回転,衝撃,振動等による装置が挙げられる。なお、ミル装置による微紛化の際に少なからず熱が発生し、該熱によって目的とする絶縁性粉体自体が意図しない溶融(自己融着)や劣化する恐れがある。このような場合には、ミル装置全体や一部(微紛化に係る部分)を冷却することが好ましく、微紛化前の高分子組成物自体を予め冷却(冷蔵庫,冷凍庫,液体窒素等を用いて冷却)しても良い。また、高分子組成物が大きな塊状態である等の理由により、該高分子組成物をミル装置に投入できない場合、その投入ができる程度まで高分子組成物を粗粉砕しても良い。
【0033】
前記の絶縁性粉体における粉体同士の融着(自己融着)や接着を防止する方法としては、高分子材料の他にシリカや炭酸カルシウム等の無機粉体を配合した高分子組成物を微紛化する方法も考えられる。前記の無機粉体においては、目的とする絶縁性粉体の特性を損わない程度であれば適宜用いることができ、例えば平均粒径0.1μm〜20μm程度のものを0.1wt%〜10wt%添加する。
【0034】
[被覆方法]
前記のパウダーコーティング法においては、例えば流動浸漬法,静電塗装法が挙げられる。これら流動浸漬法,静電塗装法は、それぞれのプロセスは異なるものの、その目的(被覆),結果(被覆される程度)は同様である。
【0035】
前記の流動浸漬法の場合は、目的とする導電部材の被絶縁処理部位の表面を予め加熱(予熱)しておき、絶縁性粉体が充填された流動浸漬槽内に前記の導電部材(少なくとも、被絶縁処理部位)を浸漬することにより、前記の予熱によって絶縁性粉体を溶融し、被絶縁処理部位に対し該溶融物を付着させて生物由来絶縁部材を形成させる方法である。前記の流動浸漬槽においては、絶縁性粉体の大きさ(熱硬化性樹脂の場合はBステージ)と同等程度、または該絶縁性粉体の大きさ以下の形状の孔が側壁(底壁等)に複数個穿設された多孔性型の構造のものが適用され、例えば焼結,繊維クロス,機械加工によって得られるものが挙げられる。
【0036】
前記のように側壁に穿設された各孔から流動浸漬槽内に対し、空気,乾燥空気,窒素,乾燥窒素等の不活性気体を均等に噴出(大気圧下で噴出)することにより、該流動浸漬槽内の絶縁性粉体を流動させることができる。そして、前記のように流動する絶縁性粉体に対し、前記のように加熱された被絶縁処理部位を接触(流動浸漬槽内に浸漬して接触)させることにより、被絶縁処理部位に対し絶縁性粉体の溶融物が付着し被覆される。
【0037】
前記の不活性気体の流量においては、目的とする絶縁性粉体の粒径,分布,形状,密度等に応じて適宜設定する。例えば気体流量(cm3/分)を有効面積(流動浸漬槽のうち不活性気体が均一に噴出される領域の有効面積(cm2))で除した値の線速(cm/分)に基づいて設定することができる。例えば、0.5cm/分〜50cm/分(より好ましくは1cm/分〜20cm/分)程度に設定する。
【0038】
[導電部材(被絶縁処理部位)]
被覆対象である導電部材(被絶縁処理部位)は、前記の絶縁性粉体の溶融物が付着し被覆されるものであれば種々の材質(銅,鉄,アルミニウム等),形状(円柱状,角柱状,線状,平板状,編線状等)のものを適用でき、例えば銅ブスバー等が挙げられる。例えば被絶縁処理部位にエッジ部が存在していても大きな問題はないが、該エッジ部を面取り加工(C面加工,R面加工)した場合には、該エッジカバー率が改善され絶縁性粉体の溶融物による生物由来絶縁部材の厚さが十分となり、応力による該生物由来絶縁部材の亀裂等の危険性を低減することができるため好ましい。例えば、導電部材(例えば、ブスバー)が引抜き成型等により形成される場合には、前記のエッジ部をR面にしておくことが好ましい。なお、前記の危険性の低減度合いは、前記の面取り加工の程度によって異なるが、前記のようにたとえエッジ部が存在していても大きな問題は無いため、該面取り加工はコスト等を考慮して適宜行えば良い。
【0039】
導電部材のうち、例えば導電性を必要とする箇所(例えば電気的接続され得る箇所)や作業上の保持,位置決め等に係る箇所(位置決め用の孔等)は絶縁処理を必要としないため、適宜マスキングを行うことが好ましい。
【0040】
被絶縁処理部位表面の予熱温度は、該被絶縁処理部位を流動浸漬槽内に浸漬した際に絶縁性粉体の溶融物が付着し被覆される温度範囲とし、絶縁性粉体の加工温度(軟化温度,溶融点,ガラス転移温度等)、該被絶縁処理部位自体の熱容量(比熱,比重,形状等による熱容量),放熱(冷却)特性、目的とする生物由来絶縁部材厚さに応じて適宜設定できるものである。予熱温度が低過ぎる場合には絶縁性粉体(溶融物)が被絶縁処理部位に付着し難くなり、予熱温度が高過ぎる場合には被覆された生物由来絶縁部材において変色,発泡,膨張等が発生し易くなるため、例えば、絶縁性粉体の加工温度よりも20℃低い温度から、該絶縁性粉体が分解する温度までの範囲とする。好ましくは、絶縁性粉体の加工温度から、該加工温度よりも100℃高い温度までの範囲とする。本実施形態の絶縁性粉体を適用した場合の具体例としては、110℃〜240℃程度の温度範囲が挙げられる。
【0041】
流動浸漬槽に対する被絶縁処理部位の浸漬時間,浸漬位置(浸漬中の空間的位置,方向)は、前記の溶融物による生物由来絶縁部材厚さ,被絶縁処理部位の予熱温度,形状等に応じて設定することができ、該浸漬を複数回繰り返して行っても良い。
【0042】
なお、被絶縁処理部位の浸漬開始から一定の浸漬時間までの間において、生物由来絶縁部材厚さは時間経過と共に厚くなるものの、該一定の浸漬時間以降においては、該生物由来絶縁部材厚さは一定あるいは不均一(表面状態が粗)になり易くなる。例えば、被絶縁処理部位の形状によっては、溶融物が定着し難い場合(例えば、剥離する場合)や重力により垂れ下がる場合があり、厚さが不均一になり易くなる。このような傾向は、予熱温度が低過ぎたり高過ぎても起こり得るものと思われ、浸漬時間,浸漬回数,浸漬位置,被絶縁処理部位の予熱温度等を適宜調整することが好ましい。
【0043】
また、前記のように被覆された生物由来絶縁部材は、熱処理等を施すことにより架橋しても良い。例えば、前記のように被覆した後に施され得る熱処理(例えば、被覆物の肉厚のバラツキ,表面荒れ,内部応力の緩和等を図る目的の熱処理)によって架橋しても良い。
【0044】
<石油由来絶縁部材>
本実施形態の石油由来絶縁部材においては、石油由来物質(生分解性樹脂等)を基材とする高分子材料から成る高分子組成物を用い、その高分子組成物を溶融し所望の形状(例えば、被絶縁処理部位の形状,生物由来絶縁部材の厚さ等に応じた形状)に固形化してチューブ状,シート状等に成形されたものが適用される。具体的には熱収縮チューブ等が挙げられる。
【0045】
[高分子材料]
本実施形態の石油由来絶縁部材の高分子組成物に適用される高分子材料としては、石油由来物質の種類,生成プロセス等によって種々のものを適用でき、例えばポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,シリコーン,変性シリコーン,ポリビニルアルコール,変性ポリビニルアルコール,エチレン‐プロピレンターポリマー,ニトリル‐ブタジエンゴム等から成り絶縁性を有するベースポリマーが挙げられ、これら各ベースポリマーを適宜単数または複数併用できる。
【0046】
[被覆方法]
石油由来絶縁部材は、被絶縁処理部位に被覆された生物由来絶縁部材の外周面を保護するように被覆されるものであり、例えば熱収縮チューブの場合には、該チューブ内周面側で生物由来絶縁部材外周面を包み、所定条件で収縮処理(熱処理)することにより両者を密着させる。
【0047】
石油由来絶縁部材と生物由来絶縁部材とが十分密着(例えば、収縮処理等により密着)されている場合には、例えば両者の間に空気,湿気等が侵入する可能性は低いが、必要に応じて前記のように石油由来絶縁部材等の縁部(熱収縮チューブの場合にはチューブ両端部側(開口部側))をシール処理しても良い。
【0048】
前記のシール処理においては、カシメ等の物理的処理を施す方法や、接着剤等を用いる化学的処理を施す方法が挙げられる。接着剤としては、水ガラス,半田等の無機系接着剤や、アクリル樹脂,エチレン‐酢酸ビニル樹脂,エポキシ樹脂,イソシアネート系樹脂,フェノール樹脂,ユリア樹脂,シリコーン樹脂および各樹脂の変性品(例えば、変性シリコーン)等の有機系接着剤が挙げられる。
【0049】
<その他>
本実施形態の生物由来絶縁部材,石油由来絶縁部材においては、高分子材料等の他に、高分子材料成形技術の分野で一般的に用いられている各種添加剤、例えば熱安定剤,光安定剤(紫外線防止剤),酸化防止剤,老化防止剤,顔料,着色剤,無機充填剤(フィラー),微小無機充填材(ナノ粒子)、難燃剤、抗菌剤、防腐食剤等を、目的とする電圧機器用絶縁性粉体,絶縁処理方法,電圧機器の特性を損わない程度で適宜用いても良い。
【0050】
例えば、生物由来絶縁部材の場合、パウダーコーティング法での溶融物による被覆の安定化を目的とした過酸化物添加による架橋や、官能基の安定化を目的としたカップリング剤の添加等を適宜行っても良い。
【0051】
また、導電部材(被絶縁処理部位)と生物由来絶縁部材との間では、両者の線膨張率差により熱応力等が発生し得るため、必要に応じて、生物由来絶縁部材の高分子組成物においては可塑剤等が配合されたものを適用する。該可塑剤としては、該高分子組成物中に可溶なものであって、生物由来絶縁部材の弾性率を低減し熱応力を緩和させ得るものであれば、種々のものを適用できる。具体的には、植物油ベースの化成物としてエポキシ化大豆油,エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油や、石油ベースのものとして燐酸エステル,フタル酸エステル,脂肪族塩基酸エステル,二価アルコールエステル,オキシ酸エステル,樟脳,アビエチン酸メチル,ポリプロピレングリコール類の高分子系のものが挙げられ、これら各可塑剤を適宜単数または複数併用できる。
【実施例】
【0052】
次に、本実施形態における絶縁処理された電圧機器の実施例を説明する。下記の各実施例では、矩形平板状(長さ1200mm,幅40mm,厚さ5mm)の銅ブスバーの両端部側(それぞれの端部から長手方向に100mmの領域)をマスキングし、その銅ブスバーの中央部(マスキング領域以外)に対し絶縁性粉体を用いて流動浸漬法により種々の条件で絶縁処理して生物由来絶縁部材を被覆し、さらに該生物由来絶縁部材を石油由来絶縁部材で被覆することにより種々の試料を得、それら各試料の電気的特性,耐久性を調べた。
【0053】
[実施例1]
生物由来絶縁部材として、まず、ペレット状のポリブチレンサクシネート(三菱化学社製のGS Pla AZ−61T(MI=30))100phrに液状のパーオキサイド(日本油脂社製のパーブチルD)2phrを振り掛け、粉体状のカルボジイミド(日清紡績社製のカルボジライトLA−1)4phrと共に予備混合した。次に、前記の混合物を二軸混練押出機(ベルストルフ社製のZE40A)に投入して混練し、その混練物をストランド状に掃引(二軸押出し温度130℃で掃引)して、ペレタイザーによって長さ数mm程度の形状に切断することにより、ペレット状の高分子組成物を得た。そして、スパイラルミル(セイシン企業社製)を冷却(ミル装置全体や一部を冷却)しながら、そのミルに対し前記の高分子組成物(必要に応じて冷蔵庫または液体窒素等により冷却処理された高分子組成物)を投入し微紛化して平均粒径30〜300μmの絶縁性粉体を得た。
【0054】
その後、前記の絶縁性粉体を流動浸漬槽(仲田コーティング社製)に投入し、該浸漬槽内に不活性気体(窒素ガス)を噴出(流速0.5〜50cm/分で噴出)して絶縁性粉体を流動させ、前記のマスキングされた銅ブスバー表面を110〜240℃の温度範囲で予熱してから該絶縁性粉体中に1回または2回浸漬(各浸漬時間は1〜20秒間)し、該絶縁性粉体の溶融物を付着させることにより、生物由来絶縁部材(肉厚1.4mm)が被覆された試料P1を得た。
【0055】
また、前記の試料Pの生物由来絶縁部材に対し、石油由来絶縁部材として熱収縮チューブ(西日本電線社製のニシチューブNPR(40‐20‐1))を被覆し150℃の炉中にて30分放置して収縮処理することにより、試料(石油由来絶縁部材の肉厚1mmの試料)S1を得た。
【0056】
そして、前記の各試料P,S1において、交流電圧を印加(マスキングにより溶融物が被覆されなかった両端部に印加)した場合の絶縁破壊電圧値(BDV値),破壊電界値を測定することにより電気的特性を調べ、その結果を下記表1に示した。また、前記の各試料P,S1を恒温高湿槽内(95℃−95RH%,促進倍率;温度は10℃‐2倍速、湿度は絶対湿度に比例し温度‐湿度の相乗効果は無いものと仮定)に放置することにより、絶縁破壊電圧値が初期値の80%以下になるまで意図的に劣化処理し、その劣化処理に至るまでの日数を促進寿命日数として記録することにより耐久性を調べ、その結果を下記表1に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
前記表1に示す結果から、生物由来絶縁部材,石油由来絶縁部材を併用した試料S1は、単に生物由来絶縁部材のみを用いた試料Pと比較すると、特に絶縁破壊電圧値が高く促進寿命日数も長い(2倍以上長い)ことから、電気的特性,耐久性が共に良好であることを判明した。また、前記の劣化処理による促進寿命日数から、試料S1の耐久性は一般的な重電機器の保障期間(約30年)を十分満たす程度であることが読み取れる。さらに、例えば生物由来絶縁部材を厚くしなくとも、石油由来絶縁部材によって、十分な厚さの2層構造の絶縁部材が被覆されることが読み取れる。
【0059】
[実施例2]
本実施例2では、前記の試料S1において、生物由来絶縁部材に被覆された石油由来絶縁部材(熱収縮チューブ)の両端部側(開口部側)をエポキシ接着剤(Cotrnics社製の#4538)でシール処理することにより、試料S2を得た。また、前記のエポキシ接着剤の替わりに変性シリコーン接着剤(セメダイン社製のPM100)を適用してシール処理することにより、試料S3を得た。そして、実施例1と同様の方法により電気的特性,耐久性を調べ、その結果を下記表2に示した。
【0060】
【表2】

【0061】
前記表2に示す結果から、シール処理した試料S2,S3は、シール処理しない試料S1と比較すると、絶縁破壊電圧値,破壊電界値は同程度であり、促進寿命日数はさらに長く(1.2倍以上長く)なったことから、電気的特性,耐久性が共に良好であることを判明した。特に、シール処理によって、生物由来絶縁部材と石油由来絶縁部材との間に対する空気,湿気等の侵入が確実に防止されていることを読み取れる。
【0062】
[実施例3]
本実施例3では、生物由来絶縁部材において、試料S1と同じポリブチレンサクシネート100phr,パーオキサイド2phr,カルボジイミド4phrを用いると共に、可塑剤としてエポキシ化亜麻仁油(ダイセル化学社製のダイマックL500)5phrを用い、試料S1と同じ方法により銅ブスバーに対して生物由来絶縁部材,石油由来絶縁部材を順次形成した後、試料S2,S3と同じ方法によりシール処理を行って試料S4(エポキシ接着剤を用いたもの),S5(変性シリコーン接着剤を用いたもの)を得た。そして、実施例1と同様の方法により電気的特性,耐久性を調べた。また、電圧機器の実環境で想定される温度変化(ブスバーに掛かりうる高温領域から、冬場の北海道で機器停止時に掛かりうる低音領域までの変化)を想定して、前記の各試料S4,S5をそれぞれ高温雰囲気下(100℃)と低温雰囲気下(−40℃)とに放置する作業(1サイクル;100℃・8時間、−40℃・8時間、過渡時間各4時間)を30サイクル繰り返してヒートサイクルテストを行った後、それぞれの絶縁破壊電圧値(以下、ヒートサイクル後破壊電圧値と称する)を測定した。なお、試料P,S1〜S3においても、試料S4,S5と同じ方法によりヒートサイクル後破壊電圧値を測定した。
【0063】
【表3】

【0064】
前記表3に示すように、可塑剤を用いない試料P,S1〜S3においては、ヒートサイクルテストを終える前に生物由来絶縁部材の破損が観られたことから、該ヒートサイクルテストによってブスバーと生物由来絶縁部材との間で熱応力が発生したことが読み取れる。一方、可塑剤を用いた試料S4,S5は、試料S2,S3と比較すると、絶縁破壊電圧値,破壊電界値,促進寿命日数は同程度であり、ヒートサイクル後破壊電圧値は初期値と殆ど変わらないことから、電気的特性,耐久性が共に良好であることを判明した。特に、可塑剤を用いたことによって、温度変化に対する耐久性が高く、実際の電圧機器により適していることが読み取れる。
【0065】
なお、各S1〜S5の生物由来絶縁部材の形成において、予熱温度を100℃〜280℃に設定したところ、該予熱温度が100℃以下の場合には絶縁性粉体の溶融物による被覆が観られず、該予熱温度が260℃以上の場合には生物由来絶縁部材において変色,発泡,膨張等が生じ易いことを確認できた。また、該予熱温度が110℃〜240℃程度であれば、生物由来絶縁部材を十分形成することができ、前記の変色,発泡,膨張等が生じないことを確認できた。
【0066】
したがって、実施例1〜3のように、被絶縁処理部位に対し生物由来絶縁部材を被覆すると共に、その生物由来絶縁部材に対し石油由来絶縁部材を被覆し、必要に応じて、生物由来絶縁部材において可塑剤を適用したり、接着剤によるシール処理を行うことにより、電圧機器の導電部材の絶縁処理において、地球環境保全に貢献すると共に、十分な耐久性(例えば、強度,耐劣化性等)や電気的特性等を付与でき、実際の重電機器等の電圧機器に十分適用可能であることを確認できた。
【0067】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧機器の導電部材のうち被絶縁処理部位が絶縁処理されたものであって、
生物由来物質を基材とする高分子材料と、分子中において−N=C=N−構造を有する加水分解抑制剤と、分子中において−O−O−構造を有する架橋剤と、を含む高分子組成物から成り、前記の被絶縁処理部位に対してパウダーコーティング法によって被覆された生物由来絶縁部材と、
石油由来物質を基材とする高分子材料を含んだ高分子組成物から成り、チューブ状に成形されて前記の生物由来絶縁部材に被覆された石油由来絶縁部材と、
を備えたことを特徴とする絶縁処理された電圧機器。
【請求項2】
前記の生物由来物質を基材とする高分子材料は、アセチル化セルロース,ポリ乳酸,ポリブチレンサクシネート,ポリトリメチレンテレフタレート,エステル化澱粉,澱粉基ポリマー,キトサン基ポリマーのうち何れか一つ以上のバイオベースポリマーから成ることを特徴とする請求項1記載の絶縁処理された電圧機器。
【請求項3】
前記の石油由来物質を基材とする高分子材料は、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,シリコーン,変性シリコーン,ポリビニルアルコール,変性ポリビニルアルコール,エチレン‐プロピレンターポリマー,ニトリル‐ブタジエンゴムのうち何れか一つ以上のベースポリマーから成ることを特徴とする請求項1または2記載の絶縁処理された電圧機器。
【請求項4】
前記の加水分解抑制剤は、カルボジイミド化合物から成ることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の絶縁処理された電圧機器。
【請求項5】
前記の架橋剤は、パーオキサイドから成ることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の絶縁処理された電圧機器。
【請求項6】
前記のチューブ状の石油由来絶縁部材の開口部側の縁部は、シール処理されたことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の絶縁処理された電圧機器。
【請求項7】
前記のシール処理において、水ガラスまたは半田から成る無機系接着剤、あるいはアクリル樹脂,エチレン‐酢酸ビニル樹脂,エポキシ樹脂,イソシアネート系樹脂,フェノール樹脂,ユリア樹脂,シリコーン樹脂および各樹脂の変性品のうち何れか一つ以上から成る有機系接着剤を用いたことを特徴とする請求項6記載の絶縁処理された電圧機器。
【請求項8】
前記の生物由来絶縁部材に用いた高分子組成物は、植物油ベースまたは石油ベースの可塑剤を含んだことを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の絶縁処理された電圧機器。
【請求項9】
前記の植物油ベースの可塑剤は、エポキシ化大豆油またはエポキシ化亜麻仁油から成ることを特徴とする請求項8記載の絶縁処理された電圧機器。

【公開番号】特開2009−99332(P2009−99332A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268480(P2007−268480)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】