説明

絶縁材料及び積層構造体

【課題】熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を導電層に接着するために用いられ、硬化後の硬化物の耐電圧性、耐湿性及び放熱性が高い絶縁材料を提供する。
【解決手段】本発明に係る絶縁材料は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体2を導電層4に接着するために用いられる。本発明に係る絶縁材料は、重量平均分子量が10000以上であるポリマーと、分子量が10000未満であり、かつエポキシ基又はオキセタニル基を有する硬化性化合物と、硬化剤と、熱伝導率が10W/m・K以上である無機フィラーの表面が、酸化チタンにより処理されている無機フィラー成分とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を導電層に接着するために用いられる絶縁材料に関し、より詳細には、硬化後の硬化物の耐電圧性、耐湿性及び放熱性が高い絶縁材料、並びに該絶縁材料を用いた積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器及び通信機器では、絶縁層を有するプリント配線板が用いられている。該絶縁層は、ペースト状又はシート状の絶縁接着材料を用いて形成されている。
【0003】
上記絶縁接着材料の一例として、下記の特許文献1には、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂用硬化剤、硬化促進剤、エラストマー及び無機充填剤を含む接着剤組成物を、ガラスクロスに含浸させた絶縁接着シートが開示されている。
【0004】
ガラスクロスを含まない絶縁接着材料も知られている。例えば、下記の特許文献2の実施例には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノールノボラック、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及びアルミナを含む絶縁接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−342238号公報
【特許文献2】特開平8−332696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の絶縁接着シートでは、ハンドリング性を高めるために、ガラスクロスが用いられている。ガラスクロスを含む絶縁接着シートでは、薄膜化が困難であり、かつレーザー加工又はドリル穴開け加工等の各種加工が困難である。また、ガラスクロスを含む絶縁接着シートの硬化物の熱伝導率は比較的低いため、充分な放熱性が得られないことがある。さらに、ガラスクロスに接着剤組成物を含浸させるために、特殊な含浸設備を用意しなければならない。
【0007】
特許文献2に記載の絶縁接着剤では、ガラスクロスが用いられていないため、未硬化状態ではそれ自体が自立性を有するシートではない。このため、絶縁接着剤のハンドリング性が低い。
【0008】
また、近年、電気機器の小型化及び高性能化が進行している。このため、上記電子機器及び通信機器に用いられるプリント配線板では、多層化及び薄膜化が進行しており、かつ電子部品の実装密度が高くなっている。これに伴って、電子部品から大きな熱量が発生しやすくなっており、発生した熱を放散させる必要が高まっている。熱を放散させるために、プリント配線板の絶縁層は、高い熱伝導率を有する必要がある。また、絶縁層では、高い熱伝導率に加え、高い絶縁性能と長期的な信頼性とを両立する必要がある。
【0009】
高い熱伝導率を上記絶縁層に付与するためには、例えば、該絶縁層を形成するための絶縁接着材料に、熱伝導性が高い無機フィラーを配合する方法が一般的に採用されている。しかしながら、従来の無機フィラーを含む絶縁接着材料を用いて絶縁層を形成すると、フィラーの分散不良に起因して、絶縁層の耐電圧が低くなることがある。また、フィラーの種類によっては、絶縁層の耐湿性が低くなることがある。上記絶縁層の耐湿性が低いと、プリント配線板製造工程における導体層のエッチング時に絶縁層が劣化したり、高温高湿条件下で絶縁層が劣化したりするという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を導電層に接着するために用いられ、硬化後の硬化物の耐電圧性、耐湿性及び放熱性が高い絶縁材料、並びに該絶縁材料を用いた積層構造体を提供することである。
【0011】
本発明の限定的な目的は、硬化後の硬化物の耐電圧性、耐湿性及び放熱性が高いだけでなく、シート状の絶縁シートであって、未硬化状態での該絶縁シートのハンドリング性に優れている絶縁材料、並びに該絶縁材料を用いた積層構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の広い局面によれば、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を導電層に接着するために用いられる絶縁材料であって、重量平均分子量が10000以上であるポリマーと、分子量が10000未満であり、かつエポキシ基又はオキセタニル基を有する硬化性化合物と、硬化剤と、熱伝導率が10W/m・K以上である無機フィラーの表面が、酸化チタンにより処理されている無機フィラー成分とを含む、絶縁材料が提供される。
【0013】
本発明に係る絶縁材料のある特定の局面では、上記無機フィラーは、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛及び窒化アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種である。
【0014】
本発明に係る絶縁材料の他の特定の局面では、上記無機フィラー成分は、酸化チタン含有層を表面に有する。
【0015】
上記酸化チタン含有層の平均厚みは100nm以下であることが好ましい。上記無機フィラーの平均粒子径が500nm以上、30μm以下であり、上記酸化チタン含有層の平均厚み(nm)が、上記無機フィラーの平均粒子径(nm)の1/10以下であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る絶縁材料のさらに他の特定の局面では、上記無機フィラーの新モース硬度は7以下である。
【0017】
本発明に係る絶縁材料の別の特定の局面では、上記無機フィラーは略球状である。
【0018】
本発明に係る絶縁材料の他の特定の局面では、該絶縁材料は、シート状の絶縁シートである。
【0019】
本発明に係る積層構造体は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体と、該熱伝導体の少なくとも一方の表面に積層された絶縁層と、該絶縁層の上記熱伝導体が積層された表面とは反対側の表面に積層された導電層とを備えており、上記絶縁層が、本発明に従って構成された絶縁材料を硬化させることにより形成されている。上記熱伝導体は金属であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る絶縁材料は、重量平均分子量が10000以上であるポリマーと、分子量が10000未満でありかつエポキシ基又はオキセタニル基を有する硬化性化合物と、硬化剤と、熱伝導率が10W/m・K以上である無機フィラーの表面が、酸化チタンにより処理されている無機フィラー成分とを含むので、本発明に係る絶縁材料を硬化させることにより形成された硬化物の耐電圧性、耐湿性及び放熱性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層構造体を模式的に示す部分切欠正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0023】
本発明に係る絶縁材料は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を導電層に接着するために用いられる絶縁材料である。本発明に係る絶縁材料は、重量平均分子量が10000以上であるポリマー(A)と、分子量が10000未満であり、かつエポキシ基又はオキセタニル基を有する硬化性化合物(B)と、硬化剤(C)と、熱伝導率が10W/m・K以上である無機フィラーの表面が、酸化チタンにより処理されている無機フィラー成分(D)とを含む。
【0024】
上記組成の採用により、特に熱伝導率が10W/m・K以上である無機フィラーの表面が、分散性及び耐湿性に優れた酸化チタンにより処理されていることにより、絶縁材料の硬化物の耐電圧性及び耐湿性をかなり高めることができる。さらに、本発明に係る絶縁材料では、熱伝導率が比較的高い熱伝導率が10W/m・K以上である無機フィラーを用いているので、絶縁材料の硬化物の熱伝導性を高めることができる。この結果、硬化物の放熱性が高くなる。また、上記組成の採用により、硬化物の耐酸性も高めることができる。
【0025】
本発明に係る絶縁材料は、液状の絶縁組成物であってもよく、シート状の絶縁シートであってもよい。取り扱い性を高めるために、本発明に係る絶縁材料は、シート状の絶縁シートであることが好ましい。本発明に係る絶縁材料は上記組成を有するので、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性を高めることができる。
【0026】
以下、先ず、本発明に係る絶縁材料に含まれている各材料の詳細を説明する。
【0027】
(ポリマー(A))
本発明に係る絶縁材料に含まれているポリマー(A)は、重量平均分子量が10000以上であれば特に限定されない。硬化物の耐熱性をより一層高める観点からは、ポリマー(A)は、芳香族骨格を有することが好ましい。ポリマー(A)が芳香族骨格を有する場合には、ポリマー(A)は、芳香族骨格をポリマー全体のいずれかの部分に有していればよく、主鎖骨格内に有していてもよく、側鎖中に有していてもよい。ポリマー(A)は、芳香族骨格を主鎖骨格内に有することが好ましい。この場合には、絶縁材料の硬化物の耐熱性がさらに一層高くなる。ポリマー(A)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
上記芳香族骨格は特に限定されない。上記芳香族骨格の具体例としては、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格及びビスフェノールA型骨格等が挙げられる。なかでも、ビフェニル骨格又はフルオレン骨格が好ましい。この場合には、絶縁材料の硬化物の耐熱性がより一層高くなる。
【0029】
ポリマー(A)として、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂などの硬化性樹脂等を用いることができる。ポリマー(A)は硬化性樹脂であることが好ましい。
【0030】
上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、特に限定されない。上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン又はポリエーテルケトン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。また、上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂として、熱可塑性ポリイミド、熱硬化性ポリイミド、ベンゾオキサジン、及びポリベンゾオキサゾールとベンゾオキサジンとの反応物などのスーパーエンプラと呼ばれている耐熱性樹脂群等を使用できる。上記熱可塑性樹脂及び上記熱硬化性樹脂はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の内のいずれか一方が用いられてもよく、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とが併用されてもよい。
【0031】
ポリマー(A)は、エポキシ樹脂、スチレン系重合体、(メタ)アクリル系重合体又はフェノキシ樹脂であることが好ましく、エポキシ樹脂又はフェノキシ樹脂であることがより好ましく、フェノキシ樹脂であることが更に好ましい。この好ましいポリマーの使用により、絶縁材料の硬化物が酸化劣化し難くなり、かつ耐熱性がより一層高くなる。特に、エポキシ樹脂又はフェノキシ樹脂の使用により、硬化物の耐熱性がより一層高くなり、フェノキシ樹脂の使用により、硬化物の耐熱性が更に一層高くなる。
【0032】
上記エポキシ樹脂は、フェノキシ樹脂以外のエポキシ樹脂であることが好ましい。該エポキシ樹脂としては、スチレン骨格含有エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、アダマンタン骨格を有するエポキシ樹脂、トリシクロデカン骨格を有するエポキシ樹脂、及びトリアジン核を骨格に有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0033】
上記スチレン系重合体として、具体的には、スチレン系モノマーの単独重合体、又はスチレン系モノマーとアクリル系モノマーとの共重合体等を用いることができる。中でも、スチレン−メタクリル酸グリシジルの構造を有するスチレン系重合体が好ましい。
【0034】
上記スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン及び3,4−ジクロロスチレン等が挙げられる。
【0035】
上記アクリル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル及びメタクリル酸ジエチルアミノエチル等が挙げられる。
【0036】
上記フェノキシ樹脂は、具体的には、例えばエピハロヒドリンと2価フェノール化合物とを反応させて得られる樹脂、又は2価のエポキシ化合物と2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂である。
【0037】
上記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格及びジシクロペンタジエン骨格からなる群から選択された少なくとも1つの骨格を有することが好ましい。中でも、上記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格及びビフェニル骨格からなる群から選択された少なくとも1種の骨格を有することがより好ましく、フルオレン骨格及びビフェニル骨格の内の少なくとも1種の骨格を有することが更に好ましい。これらの好ましい骨格を有するフェノキシ樹脂の使用により、絶縁材料の硬化物の耐熱性がさらに一層高くなる。
【0038】
上記フェノキシ樹脂は、主鎖中に多環式芳香族骨格を有することが好ましい。また、上記フェノキシ樹脂は、下記式(11)〜(16)で表される骨格の内の少なくとも1つの骨格を主鎖中に有することがより好ましい。
【0039】
【化1】

【0040】
上記式(11)中、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、Xは単結合、炭素数1〜7の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−SO−、又は−CO−である。
【0041】
【化2】

【0042】
上記式(12)中、R1aは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、Rは、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、Rは、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、mは0〜5の整数である。
【0043】
【化3】

【0044】
上記式(13)中、R1bは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン原子であり、lは0〜4の整数である。
【0045】
【化4】

【0046】
【化5】

【0047】
上記式(15)中、R及びRは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン原子であり、Xは−SO−、−CH−、−C(CH−、又は−O−であり、kは0又は1である。
【0048】
【化6】

【0049】
ポリマー(A)として、例えば、下記式(17)又は下記式(18)で表されるフェノキシ樹脂が好適に用いられる。
【0050】
【化7】

【0051】
上記式(17)中、Aは上記式(11)〜(13)の内のいずれかで表される構造を有し、かつその構成は上記式(11)で表される構造が0〜60モル%、上記式(12)で表される構造が5〜95モル%、及び上記式(13)で表される構造が5〜95モル%であり、Aは水素原子、又は上記式(14)で表される基であり、nは平均値で25〜500の数である。上記式(17)中、上記式(11)で表される構造は含まれていなくてもよい。
【0052】
【化8】

【0053】
上記式(18)中、Aは上記式(15)又は上記式(16)で表される構造を有し、nは少なくとも21以上の値である。
【0054】
ポリマー(A)のガラス転移温度Tgは、好ましくは60℃以上、より好ましくは90℃以上、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。ポリマー(A)のTgが上記下限以上であると、樹脂が熱劣化し難い。ポリマー(A)のTgが上記上限以下であると、ポリマー(A)と他の樹脂との相溶性が高くなる。この結果、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性がより一層良好になり、かつ絶縁材料の硬化物の耐熱性がより一層高くなる。
【0055】
ポリマー(A)がフェノキシ樹脂である場合には、フェノキシ樹脂のガラス転移温度Tgは、好ましくは95℃以上、より好ましくは110℃以上、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。フェノキシ樹脂のTgが上記下限以上であると、樹脂の熱劣化をより一層抑制できる。フェノキシ樹脂のTgが上記上限以下であると、フェノキシ樹脂と他の樹脂との相溶性が高くなる。この結果、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性、並びに絶縁材料の硬化物の耐熱性がより一層高くなる。
【0056】
ポリマー(A)の重量平均分子量は、10000以上である。ポリマー(A)の重量平均分子量は、好ましくは30000以上、より好ましくは40000以上、好ましくは1000000以下、より好ましくは250000以下である。ポリマー(A)の重量平均分子量が上記下限以上であると、絶縁材料が熱劣化し難い。ポリマー(A)の重量平均分子量が上記上限以下であると、ポリマー(A)と他の樹脂との相溶性が高くなる。この結果、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性がより一層良好になり、並びに絶縁材料の硬化物の耐熱性がより一層高くなる。
【0057】
ポリマー(A)は、原材料として添加されていてもよく、また本発明の絶縁材料又は絶縁シートの作製時における攪拌、塗工及び乾燥などの各工程中における反応を利用して生成されたポリマーであってもよい。
【0058】
絶縁材料及び絶縁シートに含まれている全樹脂成分(以下、全樹脂成分Xと略記することがある)の合計100重量%中、ポリマー(A)の含有量は20重量%以上、60重量%以下であることが好ましい。全樹脂成分Xの合計100重量%中のポリマー(A)の含有量は、より好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以下である。ポリマー(A)の含有量が上記下限以上であると、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性がより一層良好になる。ポリマー(A)の含有量が上記上限以下であると、無機フィラー成分(D)の分散が容易になる。なお、全樹脂成分Xとは、ポリマー(A)、硬化性化合物(B)、硬化剤(C)及び必要に応じて添加される他の樹脂成分の総和をいう。全樹脂成分Xには、無機フィラー成分(D)は含まれない。
【0059】
(エポキシ基又はオキセタニル基を有する硬化性化合物(B))
本発明に係る絶縁材料に含まれている硬化性化合物(B)は、分子量が10000未満であり、かつエポキシ基又はオキセタニル基を有していれば特に限定されない。エポキシ基又はオキセタニル基を有する硬化性化合物(B)として、従来公知のエポキシ化合物又はオキセタン化合物を用いることができる。硬化性化合物(B)は、硬化剤(C)の作用により硬化する。硬化性化合物(B)は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0060】
硬化性化合物(B)は、エポキシ基を有するエポキシ化合物(B1)を含んでいてもよく、オキセタニル基を有するオキセタン化合物(B2)を含んでいてもよい。
【0061】
硬化物の耐熱性及び絶縁破壊特性をより一層高める観点からは、硬化性化合物(B)は、芳香族骨格を有することが好ましい。
【0062】
エポキシ基を有するエポキシ化合物(B1)の具体例としては、ビスフェノール骨格を有するエポキシモノマー、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシモノマー、ナフタレン骨格を有するエポキシモノマー、アダマンタン骨格を有するエポキシモノマー、フルオレン骨格を有するエポキシモノマー、ビフェニル骨格を有するエポキシモノマー、バイ(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシモノマー、キサンテン骨格を有するエポキシモノマー、アントラセン骨格を有するエポキシモノマー、及びピレン骨格を有するエポキシモノマー等が挙げられる。これらの水素添加物又は変性物を用いてもよい。エポキシ化合物(B1)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0063】
上記ビスフェノール骨格を有するエポキシモノマーとしては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型又はビスフェノールS型のビスフェノール骨格を有するエポキシモノマー等が挙げられる。
【0064】
上記ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシモノマーとしては、ジシクロペンタジエンジオキシド、及びジシクロペンタジエン骨格を有するフェノールノボラックエポキシモノマー等が挙げられる。
【0065】
上記ナフタレン骨格を有するエポキシモノマーとしては、1−グリシジルナフタレン、2−グリシジルナフタレン、1,2−ジグリシジルナフタレン、1,5−ジグリシジルナフタレン、1,6−ジグリシジルナフタレン、1,7−ジグリシジルナフタレン、2,7−ジグリシジルナフタレン、トリグリシジルナフタレン、及び1,2,5,6−テトラグリシジルナフタレン等が挙げられる。
【0066】
上記アダマンタン骨格を有するエポキシモノマーとしては、1,3−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)アダマンタン、及び2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)アダマンタン等が挙げられる。
【0067】
上記フルオレン骨格を有するエポキシモノマーとしては、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−ブロモフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−フルオロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メトキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジクロロフェニル)フルオレン、及び9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジブロモフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0068】
上記ビフェニル骨格を有するエポキシモノマーとしては、4,4’−ジグリシジルビフェニル、及び4,4’−ジグリシジル−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル等が挙げられる。
【0069】
上記バイ(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシモノマーとしては、1,1’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、及び1,2’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン等が挙げられる。
【0070】
上記キサンテン骨格を有するエポキシモノマーとしては、1,3,4,5,6,8−ヘキサメチル−2,7−ビス−オキシラニルメトキシ−9−フェニル−9H−キサンテン等が挙げられる。
【0071】
オキセタニル基を有するオキセタン化合物(B2)の具体例としては、例えば、4,4’−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4−ベンゼンジカルボン酸ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メチル]エステル、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン、及びオキセタン変性フェノールノボラック等が挙げられる。オキセタン化合物(B2)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0072】
硬化性化合物(B)の分子量は、10000未満である。硬化性化合物(B)の分子量は、好ましくは200以上、より好ましくは1200以下、更に好ましくは600以下、特に好ましくは550以下である。硬化性化合物(B)の分子量が上記下限以上であると、硬化性化合物(B)の揮発性が低くなり、絶縁材料の取扱い性がより一層高くなる。硬化性化合物(B)の分子量が上記上限以下であると、硬化物の接着性がより一層高くなる。さらに、絶縁材料が固くかつ脆くなり難く、硬化物の接着性がより一層高くなる。
【0073】
なお、本明細書において、硬化性化合物(B)における分子量とは、重合体ではない場合、及び構造式が特定できる場合は、当該構造式から算出できる分子量を意味し、重合体である場合は、重量平均分子量を意味する。
【0074】
上記全樹脂成分Xの合計100重量%中、硬化性化合物(B)の含有量は10重量%以上、60重量%以下であることが好ましい。全樹脂成分Xの合計100重量%中の硬化性化合物(B)の含有量は、より好ましくは20重量%以上、より好ましくは50重量%以下である。硬化性化合物(B)の含有量が上記下限以上であると、硬化物の接着性及び耐熱性がより一層高くなる。硬化性化合物(B)の含有量が上記上限以下であると、絶縁シートのハンドリング性がより一層高くなる。
【0075】
(硬化剤(C))
本発明に係る絶縁材料に含まれている硬化剤(C)は、絶縁材料を硬化させることが可能であれば特に限定されない。硬化剤(C)は、熱硬化剤であることが好ましい。硬化剤(C)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0076】
硬化物の耐熱性をより一層高める観点からは、硬化剤(C)は、芳香族骨格又は脂環式骨格を有することが好ましい。
【0077】
硬化剤(C)は、ジシアンジアミド、フェノール樹脂又は芳香族骨格もしくは脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物であることが好ましい。この硬化剤の使用により、耐熱性、耐湿性及び電気物性のバランスに優れた硬化物を得ることができる。これらの硬化剤は、熱硬化剤である。
【0078】
硬化物の弾性率をより一層低くする観点からは、硬化剤(C)は、酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物、又はジシアンジアミドであることが好ましい。
【0079】
上記フェノール樹脂は特に限定されない。上記フェノール樹脂の具体例としては、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、t−ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール、ポリパラビニルフェノール、ビスフェノールA型ノボラック、キシリレン変性ノボラック、デカリン変性ノボラック、ポリ(ジ−o−ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ−m−ヒドロキシフェニル)メタン、及びポリ(ジ−p−ヒドロキシフェニル)メタン等が挙げられる。なかでも、絶縁材料の柔軟性及び硬化物の難燃性をより一層高める観点からは、メラミン骨格を有するフェノール樹脂、トリアジン骨格を有するフェノール樹脂、又はアリル基を有するフェノール樹脂が好ましい。
【0080】
上記フェノール樹脂の市販品としては、MEH−8005、MEH−8010及びMEH−8015(以上いずれも明和化成社製)、YLH903(三菱化学社製)、LA−7052、LA−7054、LA−7751、LA−1356及びLA−3018−50P(以上いずれもDIC社製)、並びにPS6313及びPS6492(群栄化学社製)等が挙げられる。
【0081】
上記芳香族骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物は、特に限定されない。芳香族骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物としては、例えば、スチレン/無水マレイン酸コポリマー、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ピロメリット酸無水物、トリメリット酸無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、フェニルエチニルフタル酸無水物、グリセロールビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、及びトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。なかでも、メチルナジック酸無水物又はトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸が好ましい。メチルナジック酸無水物又はトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸の使用により、硬化物の耐水性が高くなる。
【0082】
上記芳香族骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物の市販品としては、SMAレジンEF30、SMAレジンEF40、SMAレジンEF60及びSMAレジンEF80(以上いずれもサートマー・ジャパン社製)、ODPA−M及びPEPA(以上いずれもマナック社製)、リカシッドMTA−10、リカシッドMTA−15、リカシッドTMTA、リカシッドTMEG−100、リカシッドTMEG−200、リカシッドTMEG−300、リカシッドTMEG−500、リカシッドTMEG−S、リカシッドTH、リカシッドHT−1A、リカシッドHH、リカシッドMH−700、リカシッドMT−500、リカシッドDSDA及びリカシッドTDA−100(以上いずれも新日本理化社製)、並びにEPICLON B4400、EPICLON B650、及びEPICLON B570(以上いずれもDIC社製)等が挙げられる。
【0083】
上記脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物は、
多脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物、又はテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られる脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物であることが好ましい。これらの硬化剤の使用により、硬化物の柔軟性、並びに硬化物の耐湿性及び接着性がより一層高くなる。
【0084】
上記脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物としては、メチルナジック酸無水物、ジシクロペンタジエン骨格を有する酸無水物又は該酸無水物の変性物等も挙げられる。
【0085】
上記脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物の市販品としては、リカシッドHNA及びリカシッドHNA−100(以上いずれも新日本理化社製)、並びにエピキュアYH306、エピキュアYH307、エピキュアYH308H及びエピキュアYH309(以上いずれも三菱化学社製)等が挙げられる。
【0086】
硬化剤(C)は、下記式(1)〜(4)の内のいずれかで表される酸無水物、又はジシアンジアミドであることがより好ましい。また、硬化剤(C)は、下記式(1)〜(4)の内のいずれかで表される酸無水物であることが好ましい。この好ましい硬化剤の使用により、硬化物の柔軟性、耐湿性及び接着性がより一層高くなる。
【0087】
【化9】

【0088】
【化10】

【0089】
【化11】

【0090】
【化12】

【0091】
上記式(4)中、R1及びR2はそれぞれ水素、炭素数1〜5のアルキル基又は水酸基を示す。
【0092】
硬化速度又は硬化物の物性などを調整するために、上記硬化剤と硬化促進剤とを併用してもよい。
【0093】
上記硬化促進剤は特に限定されない。硬化促進剤の具体例としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、イミダゾリン類、トリアジン類、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類及び有機酸塩等のジアザビシクロアルケン類等が挙げられる。また、上記硬化促進剤としては、有機金属化合物類、4級アンモニウム塩類及び金属ハロゲン化物等が挙げられる。上記有機金属化合物類としては、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫及びアルミニウムアセチルアセトン錯体等が挙げられる。
【0094】
上記硬化促進剤として、高融点のイミダゾール硬化促進剤、高融点の分散型潜在性硬化促進剤、マイクロカプセル型潜在性硬化促進剤、アミン塩型潜在性硬化促進剤、及び高温解離型かつ熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤等を使用できる。上記硬化促進剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0095】
上記高融点の分散型潜在性促進剤としては、ジシアンジアミド又はアミンがエポキシモノマー等に付加されたアミン付加型促進剤等が挙げられる。上記マイクロカプセル型潜在性促進剤としては、イミダゾール系、リン系又はホスフィン系の促進剤の表面がポリマーにより被覆されたマイクロカプセル型潜在性促進剤が挙げられる。上記高温解離型かつ熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤としては、ルイス酸塩及びブレンステッド酸塩等が挙げられる。
【0096】
上記硬化促進剤は、高融点のイミダゾール系硬化促進剤であることが好ましい。高融点のイミダゾール系硬化促進剤の使用により、反応系を容易に制御でき、かつ絶縁材料の硬化速度、及び硬化物の物性などをより一層容易に調整できる。融点100℃以上の高融点の硬化促進剤は、取扱性に優れている。従って、硬化促進剤の融点は100℃以上であることが好ましい。
【0097】
上記全樹脂成分Xの合計100重量%中、硬化剤(C)の含有量は10重量%以上、40重量%以下であることが好ましい。全樹脂成分Xの合計100重量%中、硬化剤(C)の含有量は、より好ましくは12重量%以上、より好ましくは25重量%以下である。硬化剤(C)の含有量が上記下限以上であると、絶縁材料を充分に硬化させることが容易である。硬化剤(C)の含有量が上記上限以下であると、硬化に関与しない余剰な硬化剤(C)が発生し難くなる。このため、硬化物の耐熱性及び接着性がより一層高くなる。
【0098】
(無機フィラー成分(D))
本発明に係る絶縁材料は、熱伝導率が10W/m・K以上である無機フィラーの表面が、酸化チタンにより処理されている無機フィラー成分(D)を含む。本明細書では、酸化チタンにより表面処理されていない無機フィラーを「無機フィラー」と呼び、酸化チタンにより表面処理された無機フィラーを「無機フィラー成分」と呼ぶ。無機フィラー成分(D)は、表面処理無機フィラーである。無機フィラー成分(D)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0099】
本発明に係る絶縁材料では、熱伝導率が10W/m・K以上である無機フィラーが用いられているため、無機フィラー成分(D)の熱伝導率は高い。従って、無機フィラー成分(D)の使用により、硬化物の放熱性を高めることができる。上記無機フィラーの熱伝導率が10W/m・Kよりも小さいと、硬化物の熱伝導性を充分に高めることは困難である。無機フィラーの熱伝導率は、好ましくは15W/m・K以上、より好ましくは20W/m・K以上である。無機フィラーの熱伝導率の上限は特に限定されない。熱伝導率300W/m・K程度の無機フィラーは広く知られており、また熱伝導率200W/m・K程度の無機フィラーは容易に入手できる。
【0100】
上記無機フィラーは、アルミナ、合成マグネサイト、結晶性シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。これらの好ましいフィラーの使用により、硬化物の放熱性をより一層高めることができる。上記炭酸マグネシウムは合成マグネサイトとは異なる。
【0101】
硬化物の熱伝導率をより一層高める観点からは、上記無機フィラーは、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛及び窒化アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛又は窒化アルミニウムを含む絶縁シートの硬化物の耐湿性は低くなりやすい。しかしながら、このような無機フィラーであっても、該無機フィラーの表面を酸化チタンにより処理することで、硬化物の耐湿性を十分に高くすることができる。
【0102】
上記無機フィラーは略球状のフィラーであってもよく、破砕されたフィラー(破砕フィラー)であってもよい。上記無機フィラーは、略球状であることが特に好ましい。上記無機フィラーが略球状である場合には、高密度で充填可能であるため、硬化物の放熱性をより一層高めることができる。さらに、略球状である無機フィラーの表面には、酸化チタン含有層を容易にかつ均一に形成することができるので、硬化物の耐湿性をより一層高めることができる。また、均一な酸化チタン含有層が形成されることで無機フィラー成分(D)の分散性が高くなり、硬化物の耐電圧性も高くなる。
【0103】
上記破砕フィラーとしては、破砕アルミナ等が挙げられる。破砕フィラーは、例えば、一軸破砕機、二軸破砕機、ハンマークラッシャー又はボールミル等を用いて、塊状の無機物質を破砕することにより得られる。破砕フィラーの使用により、絶縁シート中のフィラーが、橋掛け又は効率的に近接された構造となりやすい。従って、硬化物の熱伝導性をより一層高めることができる。また、破砕フィラーは、一般的に、通常のフィラーに比べて安価である。このため、破砕フィラーの使用により、絶縁シートのコストを低減できる。
【0104】
上記破砕フィラーの平均粒子径は、12μm以下であることが好ましい。平均粒子径が12μm以下であると、絶縁シート中に、破砕フィラーを高密度に分散させることが容易であり、硬化物の絶縁破壊特性がより一層高くなる。破砕フィラーの平均粒子径は、より好ましくは10μm以下、好ましくは1μm以上である。破砕フィラーの平均粒子径が上記下限以上であると、破砕フィラーを高密度に充填させることが容易である。
【0105】
破砕フィラーのアスペクト比は、特に限定されない。破砕フィラーのアスペクト比は、1.5以上、20以下であることが好ましい。アスペクト比が1.5未満のフィラーは、比較的高価である。従って、絶縁シートのコストが高くなる。上記アスペクト比が20以下であると、破砕フィラーの充填が容易である。
【0106】
破砕フィラーのアスペクト比は、例えば、デジタル画像解析方式粒度分布測定装置(商品名:FPA、日本ルフト社製)を用いて、フィラーの破砕面を測定することにより求めることができる。
【0107】
上記無機フィラーの平均粒子径は、好ましくは100nm以上、より好ましくは500nm以上、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下である。上記無機フィラーが略球状である場合に、上記無機フィラーの平均粒子径が上記下限以上及び上記上限以下であることが好ましい。平均粒子径が上記下限以上であると、無機フィラー成分(D)を高密度で容易に充填できる。平均粒子径が上記上限以下であると、硬化物の絶縁破壊特性がより一層高くなる。
【0108】
硬化物の耐湿性と放熱性を効果的に高める観点からは、上記無機フィラーの平均粒子径は、500nm以上、30μm以下であることが特に好ましい。
【0109】
上記「平均粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積平均での粒度分布測定結果から求められる平均粒子径である。
【0110】
上記無機フィラーの表面上に酸化チタンが配置されていることが好ましい。上記無機フィラーの表面に酸化チタンが付着していることが好ましい。硬化物の耐湿性をより一層効果的に高める観点からは、無機フィラー成分(D)は、酸化チタン含有層を表面に有することが好ましい。硬化物の耐湿性をさらに一層効果的に高める観点からは、上記無機フィラーの表面は、酸化チタン含有層により被覆されていることが好ましい。
【0111】
酸化チタン含有層の平均厚みは、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは100nm以下、好ましくは1nm以上、より好ましくは10nm以上である。酸化チタン含有層の平均厚みが上記上限以下であると、硬化物の放熱性がより一層高くなる。酸化チタン含有層の平均厚みが上記下限以上であると、無機フィラー成分(D)の分散性が向上することにより、硬化物の耐電圧性がより一層高くなる。また硬化物の耐湿性もより一層高くなる。
【0112】
硬化物の放熱性を効果的に高める観点からは、上記無機フィラーの平均粒子径は、100nm以下であることが特に好ましい。
【0113】
硬化物の耐湿性と放熱性とをバランス良く高める観点からは、酸化チタン含有層の平均厚み(nm)は、上記無機フィラーの平均粒子径(nm)の1/5以下であることが好ましく、1/10以下であることがより好ましい。酸化チタン含有層の平均厚み(nm)は、上記無機フィラーの平均粒子径(nm)の1/10000以上であることが好ましく、1/1000以上であることがより好ましい。
【0114】
上記無機フィラーの表面を、酸化チタンにより表面処理する方法としては、無機フィラーと酸化チタン粒子とを用いた機械的造粒方法、Ti元素を含む錯体水溶液中に無機フィラーを分散し、錯体と無機フィラー表面との化学反応により緻密な膜を形成する方法、並びにそれらの複合方法等が挙げられる。
【0115】
上記無機フィラーの新モース硬度は、好ましくは14以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは9以下、特に好ましくは7以下である。上記無機フィラーの新モース硬度が上記上限以下であると、絶縁シートの硬化物の熱伝導性と加工性とを高いレベルで両立できる。新モース硬度が9以下であるので、上記無機フィラーは、合成マグネサイト、結晶シリカ、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0116】
また、無機フィラー成分(D)における酸化チタンの脱離及び酸化チタン含有層の剥離を抑制して、硬化物の耐湿性をより一層確実に高くする観点からは、上記無機フィラーの新モース硬度は7以下であることが特に好ましい。新モース硬度が7以下であるので、上記無機フィラーは、合成マグネサイト、結晶シリカ、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましく、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種であることがより好ましい。
【0117】
絶縁シート100体積%中、無機フィラー成分(D)の含有量は20体積%以上、90体積%以下であることが好ましい。無機フィラー成分(D)の含有量が上記範囲内であると、硬化物の放熱性及び耐湿性がより一層高くなり、更に未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性がより一層良好になる。硬化物の放熱性をより一層高める観点からは、絶縁シート100体積%中の無機フィラー成分(D)の含有量は、30体積%以上であることが特に好ましい。絶縁シート100体積%中の無機フィラー成分(D)の含有量は、より好ましくは35体積%以上、より好ましくは85体積%以下、更に好ましくは80体積%以下、特に好ましくは70体積%以下、最も好ましくは60体積%以下である。無機フィラー成分(D)の含有量が上記下限以上であると、硬化物の放熱性及び耐湿性がより一層高くなる。無機フィラー成分(D)の含有量が上記上限以下であると、絶縁シートのハンドリング性がより一層高くなる。
【0118】
(他の成分)
本発明に係る絶縁材料は、ゴム粒子を含んでいてもよい。該ゴム粒子の使用により、絶縁材料の応力緩和性及び柔軟性を高めることができる。
【0119】
本発明に係る絶縁材料は、分散剤を含んでいてもよい。該分散剤の使用により、硬化物の熱伝導率及び絶縁破壊特性をより一層高めることができる。
【0120】
上記分散剤は、水素結合性を有する水素原子を含む官能基を有することが好ましい。上記分散剤が水素結合性を有する水素原子を含む官能基を有することで、硬化物の熱伝導率及び絶縁破壊特性をより一層高めることができる。上記水素結合性を有する水素原子を含む官能基としては、例えば、カルボキシル基(pKa=4)、リン酸基(pKa=7)、及びフェノール基(pKa=10)等が挙げられる。
【0121】
上記水素結合性を有する水素原子を含む官能基のpKaは、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、好ましくは10以下、より好ましくは9以下である。上記官能基のpKaが上記下限以上であると、上記分散剤の酸性度が高くなりすぎない。従って、絶縁材料の貯蔵安定性がより一層高くなる。上記官能基のpKaが上記上限以下であると、上記分散剤としての機能が充分に果たされ、硬化物の熱伝導性及び絶縁破壊特性がより一層高くなる。
【0122】
上記水素結合性を有する水素原子を含む官能基は、カルボキシル基又はリン酸基であることが好ましい。この場合には、硬化物の熱伝導性及び絶縁破壊特性がさらに一層高くなる。
【0123】
上記分散剤としては、具体的には、例えば、ポリエステル系カルボン酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリアクリル系カルボン酸、脂肪族系カルボン酸、ポリシロキサン系カルボン酸、ポリエステル系リン酸、ポリエーテル系リン酸、ポリアクリル系リン酸、脂肪族系リン酸、ポリシロキサン系リン酸、ポリエステル系フェノール、ポリエーテル系フェノール、ポリアクリル系フェノール、脂肪族系フェノール、及びポリシロキサン系フェノール等が挙げられる。上記分散剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0124】
上記全樹脂成分Xの合計100重量%中、上記分散剤の含有量は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。上記分散剤の含有量が上記下限以上及び上限以下であると、無機フィラー成分(D)の凝集を抑制でき、かつ硬化物の放熱性及び絶縁破壊特性をより一層高めることができる。
【0125】
ハンドリング性をより一層高めるために、上記絶縁シートは、ガラスクロス、ガラス不織布、アラミド不織布等の基材物質を含んでいてもよい。ただし、上記基材物質を含まなくても、上記組成を有するシート状の絶縁材料(絶縁シート)は室温(23℃)において自立性を有し、かつ優れたハンドリング性を有する。よって、絶縁シートは基材物質を含まないことが好ましく、特にガラスクロスを含まないことが好ましい。絶縁シートが上記基材物質を含まない場合には、絶縁シートの厚みを薄くすることができ、かつ硬化物の熱伝導性をより一層高めることができる。さらに、絶縁シートが上記基材物質を含まない場合には、必要に応じて絶縁シートにレーザー加工又はドリル穴開け加工等の各種加工を容易に行うこともできる。なお、自立性とは、PETフィルム又は銅箔といった支持体が存在しなくても、シートの形状を保持し、シートとして取り扱うことができることをいう。
【0126】
本発明に係る絶縁材料は、必要に応じて、粘着性付与剤、可塑剤、カップリング剤、チキソ性付与剤、難燃剤、光増感剤及び着色剤などを含んでいてもよい。
【0127】
(絶縁材料)
本発明に係る絶縁材料は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を導電層に接着するために用いられる。
【0128】
上記絶縁シートの製造方法は特に限定されない。絶縁シートは、例えば、上述した材料を混合した混合物を溶剤キャスト法又は押し出し成膜法等の方法でシート状に成形することにより得ることができる。シート状に成形する際に、脱泡することが好ましい。
【0129】
絶縁シートの厚みは特に限定されない。絶縁シートの厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、更に好ましくは70μm以上、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは120μm以下である。厚みが上記下限以上であると、絶縁シートの硬化物の絶縁性が高くなる。厚みが上記上限以下であると、金属体を導電層に接着したときに放熱性が高くなる。
【0130】
未硬化状態での絶縁材料のガラス転移温度Tgは、25℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が25℃以下であると、絶縁材料が室温において固く、かつ脆くなり難い。このため、未硬化状態での絶縁シートのハンドリング性が高くなる。
【0131】
絶縁材料の硬化物の熱伝導率は、好ましくは0.7W/m・K以上、より好ましくは1.0W/m・K以上、更に好ましくは1.5W/m・K以上である。熱伝導率が高いほど、絶縁材料の硬化物の放熱性が十分に高くなる。
【0132】
絶縁材料の硬化物の絶縁破壊電圧は、好ましくは40kV/mm以上、より好ましくは60kV/mm以上、更に好ましくは80kV/mm以上、特に好ましくは100kV/mm以上である。絶縁破壊電圧が高いほど、絶縁材料が例えば電力素子用のような大電流用途に用いられた場合に、絶縁性を十分に確保できる。
【0133】
(積層構造体)
本発明に係る絶縁材料は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体の少なくとも片面に、絶縁層を介して導電層が積層されている積層構造体の絶縁層を構成するために好適に用いられる。
【0134】
図1に、本発明の一実施形態に係る絶縁材料を用いた積層構造体の一例を示す。
【0135】
図1に示す積層構造体1は、熱伝導体2と、熱伝導体2の第1の表面2aに積層された絶縁層3と、絶縁層3の熱伝導体2が積層された表面とは反対側の表面に積層された導電層4とを備える。熱伝導体2の第1の表面2aとは反対の第2の表面2bには、絶縁層及び導電層は積層されていない。絶縁層3は、本発明に係る絶縁材料を硬化させることにより形成されている。熱伝導体2の熱伝導率は10W/m・K以上である。
【0136】
熱伝導体の少なくとも一方の面に、絶縁層と導電層とがこの順に積層されていればよく、熱伝導体の他方の面にも、絶縁層と導電層とがこの順に積層されていてもよい。
【0137】
積層構造体1では、絶縁層3が高い熱伝導率を有するので、導電層4側からの熱が絶縁層3を介して熱伝導体2に伝わりやすい。積層構造体1では、熱伝導体2によって熱を効率的に放散させることができる。
【0138】
例えば、両面に銅回路が設けられた積層板又は多層配線板、銅箔、銅板、半導体素子又は半導体パッケージ等の各導電層に、絶縁材料を介して金属体を接着した後、絶縁材料を硬化させることにより、積層構造体1を得ることができる。
【0139】
上記熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体は特に限定されない。上記熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体としては、例えば、アルミニウム、銅、アルミナ、ベリリア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及びグラファイトシート等が挙げられる。中でも、上記熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体は、銅又はアルミニウムであることが好ましい。銅又はアルミニウムは、放熱性に優れている。
【0140】
本発明に係る絶縁材料は、基板上に半導体素子が実装されている半導体装置の導電層に、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を接着するために好適に用いられる。
【0141】
本発明に係る絶縁材料は、半導体素子以外の電子部品素子が基板上に搭載されている電子部品装置の導電層に、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を接着するためにも好適に用いられる。
【0142】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0143】
以下の材料を用意した。
【0144】
[ポリマー(A)]
(1)ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(三菱化学社製、商品名:E1256、Mw=51000、Tg=98℃)
(2)エポキシ基含有スチレン樹脂(日油社製、商品名:マープルーフG−1010S、Mw=100000、Tg=93℃)
【0145】
[ポリマー(A)以外の他のポリマー]
(1)エポキシ基含有アクリル樹脂(日油社製、商品名:マープルーフG−0130S、Mw=9000、Tg=69℃)
【0146】
[エポキシ化合物(B1)]
(1)ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(三菱化学社製、商品名:エピコート828US、Mw=370)
(2)3官能グリシジルジアミン型液状エポキシ樹脂(三菱化学社製、商品名:エピコート630、Mw=300)
(4)フルオレン骨格エポキシ樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:オンコートEX1011、Mw=486)
(5)ナフタレン骨格液状エポキシ樹脂(DIC社製、商品名:EPICLON HP−4032D、Mw=304)
(6)ヘキサヒドロフタル酸骨格液状エポキシ樹脂(日本化薬社製、商品名:AK−601、Mw=284)
(7)ビスフェノールA型固体状エポキシ樹脂(三菱化学社製、商品名:1003、Mw=1300)
【0147】
[オキセタン化合物(B2)]
(1)ベンゼン骨格含有オキセタン樹脂(宇部興産社製、商品名:エタナコールOXTP、Mw=362.4)
【0148】
[硬化剤(C)]
(1)脂環式骨格酸無水物(新日本理化社製、商品名:MH−700)
(2)芳香族骨格酸無水物(サートマー・ジャパン社製、商品名:SMAレジンEF60)
(3)多脂環式骨格酸無水物(新日本理化社製、商品名:HNA−100)
(4)テルペン系骨格酸無水物(三菱化学社製、商品名:エピキュアYH−306)
(5)ビフェニル骨格フェノール樹脂(明和化成社製、商品名:MEH−7851−S)
(6)アリル基含有骨格フェノール樹脂(三菱化学社製、商品名:YLH−903)
(7)トリアジン骨格系フェノール樹脂(DIC社製、商品名:フェノライトKA−7052−L2)
(8)メラミン骨格系フェノール樹脂(群栄化学工業社製、商品名:PS−6492)
(9)ジシアンジアミド
(10)イソシアヌル変性固体分散型イミダゾール(イミダゾール系硬化促進剤、四国化成社製、商品名:2MZA−PW)
【0149】
[無機フィラー成分(D)]
(1)表面処理5μm破砕アルミナ:
(合成例1)
5μm破砕アルミナ(破砕フィラー、日本軽金属社製、商品名:LT300C、平均粒子径5μm、最大粒子径15μm、熱伝導率36W/m・K、新モース硬度12)を用意した。この5μm破砕アルミナ5kgを、0.1mol/Lチタンフッ化アンモニウム((NHTiF)と0.2mol/Lほう酸含有混合水溶液100Lに添加した。上記アルミナを添加した混合液を攪拌によって分散しながら、35℃で2時間を反応させた。反応後に、ろ過、洗浄工程を経て回収したアルミナを120℃で1時間真空乾燥した。このようにして、5μm破砕アルミナの表面を平均厚み80nmの酸化チタン含有層で被覆して、表面処理5μm破砕アルミナを得た。
【0150】
(2)表面処理2μm破砕アルミナ:
(合成例2)
5μm破砕アルミナを、2μm破砕アルミナ(破砕フィラー、日本軽金属社製、商品名:LS−242C、平均粒子径2μm、最大粒子径20μm、熱伝導率36W/m・K、新モース硬度12)に変更したこと以外は合成例1と同様にして、2μm破砕アルミナの表面を平均厚み50nmの酸化チタン含有層で被覆して、表面処理2μm破砕アルミナを得た。
【0151】
(3)表面処理球状アルミナ:
(合成例3)
5μm破砕アルミナを、球状アルミナ(デンカ社製、商品名:DAM−10、平均粒子径10μm、最大粒子径30μm、熱伝導率36W/m・K、新モース硬度12)に変更したこと以外は合成例1と同様にして、球状アルミナの表面を平均厚み100nmの酸化チタン含有層で被覆して、表面処理球状アルミナを得た。
【0152】
(4)表面処理合成マグネサイト:
(合成例4)
5μm破砕アルミナを、合成マグネサイト(神島化学社製、商品名:MSL、平均粒子径6μm、最大粒子径20μm、熱伝導率15W/m・K、新モース硬度3.5)に変更したこと以外は合成例1と同様にして、合成マグネサイトの表面を平均厚み150nmの酸化チタン含有層で被覆して、表面処理合成マグネサイトを得た。
【0153】
(5)表面処理窒化アルミニウム:
(合成例5)
5μm破砕アルミナを、窒化アルミニウム(東洋アルミ社製、商品名:TOYALNITE―FLX、平均粒子径14μm、最大粒子径30μm、熱伝導率200W/m・K新モース硬度11)に変更したこと以外は合成例1と同様にして、窒化アルミニウムの表面を平均厚み200nmの酸化チタン含有層で被覆して、表面処理窒化アルミニウムを得た。
【0154】
(6)表面処理酸化亜鉛:
(合成例6)
5μm破砕アルミナを、酸化亜鉛(堺化学工業社製、商品名:LPZINC−5、平均粒子径5μm、最大粒子径20μm、熱伝導率54W/m・K、新モース硬度5)に変更したこと以外は合成例1と同様にして、酸化亜鉛の表面を平均厚み120nmの酸化チタン含有層で被覆して、表面処理炭化ケイ素を得た。
【0155】
(7)表面処理酸化マグネシウム:
(合成例7)
5μm破砕アルミナを、酸化マグネシウム(堺化学工業社製、商品名:SMO Large Particle、平均粒子径1.1μm、最大粒子径7μm、熱伝導率35W/m・K、新モース硬度6)に変更したこと以外は合成例1と同様にして、酸化マグネシウムの表面を平均厚み30nmの酸化チタン含有層で被覆して、表面処理酸化マグネシウムを得た。
【0156】
[他の無機フィラー]
(1)5μm破砕アルミナ(破砕フィラー、日本軽金属社製、商品名:LT300C、平均粒子径5μm、最大粒子径15μm、熱伝導率36W/m・K、新モース硬度12)
(2)球状アルミナ(デンカ社製、商品名:DAM−10、平均粒子径10μm、最大粒子径30μm、熱伝導率36W/m・K、新モース硬度12)
(3)合成マグネサイト(神島化学社製、商品名:MSL、平均粒子径6μm、最大粒子径20μm、熱伝導率15W/m・K、新モース硬度3.5)
(4)窒化アルミニウム(東洋アルミ社製、商品名:TOYALNITE―FLX、平均粒子径14μm、最大粒子径30μm、熱伝導率200W/m・K、新モース硬度11)
(5)酸化亜鉛(堺化学工業社製、商品名:LPZINC−5、平均粒子径5μm、最大粒子径20μm、熱伝導率54W/m・K、新モース硬度5)
(6)酸化マグネシウム(堺化学工業社製、商品名:SMO Large Particle、平均粒子径1.1μm、最大粒子径7μm、熱伝導率35W/m・K、新モース硬度6)
【0157】
[添加剤]
(1)エポキシシランカップリング剤(信越化学工業社製、商品名:KBE403)
【0158】
[溶剤]
(1)メチルエチルケトン
【0159】
(実施例1〜21及び比較例1〜7)
ホモディスパー型撹拌機を用いて、下記の表1〜3に示す割合(配合単位は重量部)で各原料を配合し、混練し、絶縁材料を調製した。
【0160】
厚み50μmの離型PETシートに、上記絶縁材料を60μmの厚みになるように塗工し、90℃のオーブン内で30分乾燥して、PETシート上に絶縁シートを作製した。
【0161】
(評価)
(1)ハンドリング性
PETシートと、該PETシート上に形成された絶縁シートとを有する積層シートを460mm×610mmの大きさに切り出して、テストサンプルを得た。得られたテストサンプルを用いて、室温(23℃)でPETシートから熱硬化前の絶縁シートを剥離したときのハンドリング性を下記の基準で評価した。
【0162】
[ハンドリング性の判定基準]
〇:絶縁シートの変形がなく、容易に剥離可能
△:絶縁シートを剥離できるものの、シート伸び又は破断が発生する
×:絶縁シートを剥離できない
【0163】
(2)ガラス転移温度
示差走査熱量測定装置「DSC220C」(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、3℃/分の昇温速度で、未硬化状態での絶縁シートのガラス転移温度を測定した。
【0164】
(3)熱伝導率
京都電子工業社製熱伝導率計「迅速熱伝導率計QTM−500」を用いて、絶縁シートの熱伝導率を測定した。
【0165】
(4)耐酸性
絶縁シートを100mm×100mmの大きさに切り出して、120℃のオーブン内で1時間、更に200℃のオーブン内で1時間硬化させ硬化サンプルを得た。50℃に加熱されたpH2.0の塩酸溶液に、得られた硬化サンプルを3時間浸漬した。その後、硬化サンプルの耐電圧を測定し、耐酸性を以下の基準で判定した。
【0166】
[耐酸性の判定基準]
○:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が10%未満
△:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が10%以上、50%未満
×:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が50%以上
【0167】
(5)耐湿性
絶縁シートを厚み1mmのアルミ板と厚み35μmの電解銅箔間に挟み、真空プレス機で4MPaの圧力を保持しながら120℃で1時間、更に200℃で1時間絶縁シートをプレス硬化し、銅張り積層板を形成した。この銅張り積板を100mm×100mmの大きさに切り出した後、銅箔を剥離してテストサンプルを得た。テストサンプルを121℃、2気圧、相対湿度100%条件のオートクレーブ中で120時間保持し、その後の耐電圧を測定し下記の基準で判定した。
【0168】
[耐湿性の判定基準]
○:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が10%未満
△:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が10%以上、50%未満
×:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が50%以上
【0169】
(6)半田耐熱試験(耐熱性)
上記(5)耐湿性の評価で得られた銅張り積層板を用意した。この銅張り積層板を50mm×60mmの大きさに切り出し、テストサンプルを得た。得られたテストサンプルを288℃の半田浴に銅箔側を下に向けて浮かべ、銅箔の膨れ又は剥がれが発生するまでの時間を測定し、以下の基準で判定した。
【0170】
[半田耐熱試験の判定基準]
〇:3分経過しても膨れ及び剥離の発生無し
△:1分経過後、かつ3分経過する前に膨れ又は剥離が発生
×:1分経過する前に膨れ又は剥離が発生
【0171】
(7)絶縁破壊電圧(耐電圧性)
絶縁シートを100mm×100mmの大きさに切り出して、テストサンプルを得た。得られたテストサンプルを120℃のオーブン内で1時間、更に200℃のオーブン内で1時間硬化させ、絶縁シートの硬化物を得た。耐電圧試験器(MODEL7473、EXTECH Electronics社製)を用いて、絶縁シートの硬化物間に1kV/秒の速度で電圧が上昇するように、交流電圧を印加した。絶縁シートの硬化物が破壊した電圧を、絶縁破壊電圧とした。
【0172】
(8)加工性
上記(5)耐湿性の評価で得られた銅張り積層板を用意した。この銅張り積層板を直径2.0mmのドリル(ユニオンツール社製、RA series)を用いて、回転数30000及びテーブル送り速度0.5m/分の条件でルーター加工した。ばりが発生するまでの加工距離を測定し、加工性を以下の基準で評価した。
【0173】
[加工性の判定基準]
A:ばりが発生することなく20m以上加工可能
B:ばりが発生することなく10m以上、20m未満加工可能
C:ばりが発生することなく5m以上、10m未満加工可能
D:ばりが発生することなく1m以上、5m未満加工可能
E:1m未満の加工によりばりが発生
【0174】
結果を下記の表1〜3に示す。下記の表1〜3において、*1は全樹脂成分X100重量%中の含有量(重量%)を示す。*2は、絶縁シート100体積%中の含有量(体積%)を示す。
【0175】
【表1】

【0176】
【表2】

【0177】
【表3】

【符号の説明】
【0178】
1…積層構造体
2…熱伝導体
2a…第1の表面
2b…第2の表面
3…絶縁層
4…導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体を導電層に接着するために用いられる絶縁材料であって、
重量平均分子量が10000以上であるポリマーと、
分子量が10000未満であり、かつエポキシ基又はオキセタニル基を有する硬化性化合物と、
硬化剤と、
熱伝導率が10W/m・K以上である無機フィラーの表面が、酸化チタンにより処理されている無機フィラー成分とを含む、絶縁材料。
【請求項2】
前記無機フィラーが、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛及び窒化アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1に記載の絶縁材料。
【請求項3】
前記無機フィラー成分が、酸化チタン含有層を表面に有する、請求項1又は2に記載の絶縁材料。
【請求項4】
前記酸化チタン含有層の平均厚みが100nm以下である、請求項3に記載の絶縁材料。
【請求項5】
前記無機フィラーの平均粒子径が500nm以上、30μm以下であり、
前記酸化チタン含有層の平均厚み(nm)が、前記無機フィラーの平均粒子径(nm)の1/10以下である、請求項3又は4に記載の絶縁材料。
【請求項6】
前記無機フィラーの新モース硬度が7以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁材料。
【請求項7】
前記無機フィラーが略球状である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の絶縁材料。
【請求項8】
シート状の絶縁シートである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の絶縁材料。
【請求項9】
熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体と、
前記熱伝導体の少なくとも一方の表面に積層された絶縁層と、
前記絶縁層の前記熱伝導体が積層された表面とは反対側の表面に積層された導電層とを備え、
前記絶縁層が、請求項1〜8のいずれか1項に記載の絶縁材料を硬化させることにより形成されている、積層構造体。
【請求項10】
前記熱伝導体が金属である、請求項9に記載の積層構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−119180(P2012−119180A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268245(P2010−268245)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】